(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下の例示的な複数の実施形態や変形例には、同様の構成要素が含まれている。よって、以下では、同様の構成要素には共通の符号が付されるとともに、重複する説明が部分的に省略される。以下に示される実施形態および変形例の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用、結果、および効果は、一例である。また、図面に示されるように、本実施形態では、X軸、Y軸およびZ軸が定義される。X軸とY軸とZ軸とは、互いに直交する。本実施形態では、X軸方向は、支持装置2,502の幅方向、Y軸方向は、支持装置2,502の奥行き(長さ)方向、Z軸方向は、支持装置2,502の高さ方向(上下方向)である。
【0008】
(第1の実施形態)
図1に示されるように、本実施形態の溶接装置1(レーザ溶接装置)は、対象物100にレーザ光Lを照射するとともに対象物100のレーザ光Lの照射位置Pに向けて不活性ガスを噴射する。これにより、レーザ光Lの照射位置Pが不活性ガスで覆われた状態でレーザ光Lによる溶接がなされる。溶接装置1による溶接は、大気圧下または減圧環境下で行われる。
【0009】
図1,2に示されるように、対象物100は、例えば、略直方体状の外観を呈している容器である。対象物100は、二つの部材100a,100bを有する。部材100aは、上端部に開口部が設けられ略直方体状の外観を呈している。部材100bは、板状に構成され、部材100aの開口部を閉じる。
図2,3に示されるように、部材100bは、二つの長辺部100c,100dと、二つの短辺部100e,100fと、を有する。本実施形態では、溶接装置1は、部材100aの上端部に部材100bが重ねられた状態で、部材100aの上方から部材100aの縁部(例えば長辺部100c,100d)にレーザ光Lを照射することにより、部材100aと部材100bとを溶接する。なお、対象物100は、容器に限るものではない。
【0010】
図1,2に示されるように、溶接装置1は、支持装置2と、照射装置3(
図1)と、ガス噴射装置4と、ガス吸引装置5と、を備える。支持装置2は、対象物100を支持する。照射装置3は、支持装置2によって支持された対象物100にレーザ光Lを照射する。ガス噴射装置4は、レーザ光Lの照射位置Pに不活性ガスを供給する。ガス吸引装置5は、レーザ光Lの照射位置Pや当該照射位置Pの周囲を通過した不活性ガスを吸引する。
【0011】
支持装置2は、二つの支持部材11を有する。支持部材11は、略直方体状の外観を呈している。二つの支持部材11は、支持装置2の幅方向(X軸方向)に並べられている。二つの支持部材11のうち少なくとも一方は、X軸方向の位置を変更可能に設けられている。これにより、二つの支持部材11の間の距離が変更可能となっている。互いにX軸方向に離間して位置された二つの支持部材11の間に、対象物100が位置される。二つの支持部材11は、互いの間に位置された対象物100を挟む(支持する)。
【0012】
照射装置3は、支持装置2の上方に位置されている。照射装置3は、レーザ光Lを走査しながら対象物100に照射する。照射装置3は、一度に一つのレーザ光Lを照射する。照射装置3は、発振素子を有しレーザ光Lを出射する光源、レーザ光Lの照射位置Pを移動させる部品等の種々の部品を有する。照射装置3は、対象物100の外面(上面)に沿ってレーザ光Lを走査する(移動させる)ことができる。照射装置3は、対象物100の上方からレーザ光Lを照射する。対象物100の長辺部100c,100dに対するレーザ光Lの走査方向D1(
図2)は、短辺部100eから短辺部100fに向かう方向であり、Y軸方向に沿っている。レーザ光Lは、連続レーザ(CWレーザ光)またはパルスレーザである。
【0013】
図3に示されるように、ガス噴射装置4は、一つのガス供給源21(供給部)と、複数のノズル装置22と、を有する。
【0014】
ガス供給源21は、不活性ガスを管23を介してノズル装置22に供給する。ガス供給源21は、複数のノズル装置22に選択的に不活性ガスを供給することができる。不活性ガスは、例えば、窒素ガスやアルゴンガス、ヘリウムガスであってもよいし、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスのうち二つ以上を含む混合ガスであってもよい。また、その他、溶接部の酸化を抑制する効果があるガスであれば何でも使うことができる。
【0015】
ノズル装置22は、ガス供給源21から管23を介して供給された不活性ガスを、レーザ光Lの照射位置Pよりもレーザ光Lの走査方向D1の前方から照射位置Pに向けて噴射する。
図2,3に示されるように、本実施形態では、ノズル装置22として、二つ(複数)のノズル装置22A,22Bが設けられている。ノズル装置22Aは、二つの支持部材11のうち一方の支持部材11の上面に重ねられている。ノズル装置22Aは、対象物100の一方の長辺部100cにおけるレーザ光Lの照射位置Pに向けて不活性ガスを噴射する。ノズル装置22Bは、二つの支持部材11のうち他方の支持部材11の上面に重ねられている。ノズル装置22Bは、対象物100の他方の長辺部100dにおけるレーザ光Lの照射位置Pに向けて不活性ガスを噴射する。ガス噴射装置4は、ノズル装置22Aによる不活性ガスの噴射と、ノズル装置22Bによる不活性ガスの噴射と、を切り替えることができる。
【0016】
各ノズル装置22は、同様の構成を有する。よって、以下では、ノズル装置22Aの詳細が示された
図4〜6等を参照して、ノズル装置22を詳細に説明する。
【0017】
図1〜4に示されるように、ノズル装置22は、ノズル部24と、管25(
図4)と、を有する。管25は、ノズル部24に収容されているとともに、管23と接続されている。ノズル部24には、管23から管25を介して不活性ガスが供給される。
【0018】
ノズル部24は、略直方体状の外観を呈している。ノズル部24は、ボディ24a(本体部)と、整流部材24bと、を有する。ボディ24aは、対象物100に向けて(支持装置2の幅方向に)開口した略直方体状の外観を呈している。ボディ24aは、底壁24cや、側壁24d、二つの端壁24e、天壁24f等の複数の壁部(壁)を有している。側壁24dは、第二の部分の一例である。
【0019】
底壁24c(壁部)は、支持部材11の上面に面している。底壁24cは、四角形状(例えば長方形状)の板状に形成されている。また、底壁24cは、XY平面に沿って延びている。側壁24d(壁部)は、四角形状(例えば長方形状)の板状に形成されている。また、側壁24dは、底壁24cの短手方向(X軸方向)の両端部のうち対象物100から遠い方の一端部に接続され、底壁24cと交差する方向(本実施形態では一例として直交する方向、YZ平面)に沿って延びている。端壁24e(壁部)は、四角形状(例えば長方形状)の板状に形成され、底壁24cの長手方向(Y軸方向)の端部に接続されている。また、端壁24eは、底壁24cと交差する方向(本実施形態では一例として直交する方向、XZ平面)に沿って延びている。また、側壁24dは、端壁24eと接続されている。天壁24f(壁部)は、四角形状(例えば長方形状)の板状に形成されている。また、天壁24fは、側壁24dおよび端壁24eの上端部に接続され、側壁24dおよび端壁24eと交差する方向(本実施形態では一例として直交する方向、XY平面)に沿って延びている。底壁24cおよび天壁24fは、それらの内面(ボディ24aの内側の面)同士が面した(対向した)状態で並んで(本実施形態では、一例として平行に)配置されている。また、二つの端壁24eは、それらの内面同士が面した(対向した)状態で並んで(本実施形態では、一例として平行に)配置されている。このような構成のボディ24aの内部には、対象物100に向けて(支持装置2の幅方向に)開口した直方体状の凹部が形成される。
【0020】
整流部材24bは、略直方体状の外観を呈している。整流部材24bは、ボディ24aの凹部の開口部側の端部に嵌められている。整流部材24bは、底壁24c、端壁24e、および天壁24fの縁部に囲まれている。整流部材24bは、ノズル部24において側壁24dの反対側に設けられている。整流部材24bは、側壁24dと離間している。整流部材24bは、整流部および第一の部分の一例である。
【0021】
整流部材24bは、面24h,24iを有している。面24hは、ボディ24aの内部に面している。面24iは、側壁24dと離間している。面24iは、面24hの反対側に設けられ、ボディ24aの外部に面している。
【0022】
整流部材24bには、複数の通路24jが設けられている。通路24jには、不活性ガスが流れる。通路24jは、面24hから面24iに延びているとともに、面24hと24iとに開口している。各通路24jは、レーザ光Lの走査方向D1に対して傾斜している。詳細には、各通路24jは、面24hから面24iに向かうにつれてレーザ光Lの走査方向D1の後方(
図4の上方)に向かう。通路24jの出口(面24iの開口部)は、噴射口24kを構成している。複数の噴射口24kは、レーザ光Lの走査方向D1に沿って並べられている。噴射口24kとレーザ光Lの照射位置Pとの位置関係は、レーザ光Lの走査によって変わるが、複数の噴射口24kの少なくとも一つが、レーザ光Lの照射位置Pよりもレーザ光Lの走査方向D1の前方に位置されている。
【0023】
整流部材24bは、各噴射口24kから不活性ガスを噴射する。図中の方向C1は、噴射口24kからの不活性ガスの噴射方向を示している。このとき、複数の噴射口24kのうち対象物100のレーザ光Lの照射位置Pよりもレーザ光Lの走査方向D1の前方(
図3の下方)に位置された噴射口24kからは、レーザ光Lの走査方向D1の前方からレーザ光Lの照射位置Pに向けて不活性ガスが噴射される。詳細には、複数の噴射口24kのうち対象物100のレーザ光Lの照射位置Pよりもレーザ光Lの走査方向D1の前方(
図3の下方)に位置された噴射口24kからは、レーザ光Lの走査方向D1での斜め前方からレーザ光Lの照射位置Pに向けて不活性ガスが噴射される。
【0024】
また、
図6から分かるように、各通路24jの延び方向と交差する方向の通路24jの断面は、六角形状となっており、整流部材24bは、ハニカム構造に構成されている。また、整流部材24bは、通路24jを形成する(通路24jに面する)複数の壁24mを有する。なお、各通路24jの延び方向と交差する方向の断面は、六角形状に限定されるものではなく、六角以外の多角形状や円形等であってもよい。また、整流部材24bは、噴射部とも称される。
【0025】
また、
図3,4に示されるようにノズル部24には、バッファ室24nが設けられている。バッファ室24nは、底壁24c、側壁24d、端壁24e、天壁24f、および整流部材24bの面24hに囲まれている。すなわち、底壁24c、側壁24d、端壁24e、天壁24f、および整流部材24bは、バッファ室24nに面している。バッファ室24nは、ボディ24aの凹部に設けられている。
【0026】
図4,5に示されるように、管25は、バッファ室24nに収容されている。管25は、レーザ光Lの走査方向D1に沿って延びている。管25の一端部は、管23と連通され、管25の他端部は、閉じられている。管25には、複数の開口部25a(貫通孔)が設けられている。複数の開口部25aは、レーザ光Lの走査方向D1に互いに間隔を空けて略一直線状に並べられている。開口部25aは、管23の噴射口24k側とは異なる方向に開口している。具体的には、開口部25aは、側壁24d側に開口している。開口部25aは、第一の開口部の一例である。なお、開口部25aは、管23の噴射口24k側とは異なる方向として、例えば底壁24c側や天壁24f側等に開口していてもよい。また、開口部25aは、管23の噴射口24k側に開口していてもよい。
【0027】
上記構成のノズル装置22では、管23から管25内に入った不活性ガスは、開口部25aから側壁24dに向かって出て、バッファ室24nに入る。バッファ室24nに入った不活性ガスは、側壁24dや底壁24c、天壁24fによって流れ方向を変えられて、整流部材24bに向かう。そして、不活性ガスは、整流部材24bの通路24jに入る。
整流部材24bは、通路24jを流れる不活性ガスの流れを壁24mによって整流する。整流された不活性ガスは、噴射口24kから噴射される。このとき、複数の噴射口24kのうちレーザ光Lの照射位置Pよりもレーザ光Lの走査方向D1の前方(
図3の下方)に位置された噴射口24kからは、レーザ光Lの走査方向D1での斜め前方からレーザ光Lの照射位置Pに向けて不活性ガスが噴射される。当該不活性ガスにより、
図7に示されるように、レーザ光Lの照射によって照射位置Pから生じて照射位置Pから上昇するヒューム110は、レーザ光Lの走査方向D1でレーザ光Lの後方に流される。具体的には、ヒューム110は、レーザ光Lの走査方向D1の斜め後方に流される。ここで、レーザ光Lによって溶融および蒸発した対象物100の材料(例えばアルミニウム)の蒸気は、凝集して微細な粒子となる。この微細の粒子の集合によってヒューム110が構成される。
【0028】
図1に示されるように、ガス吸引装置5は、ガス吸引源31(吸引部)と、ダクト32と、を有する。ガス吸引源31とダクト32とは、管33を介して接続されている。ガス吸引源31は、気体を吸引する吸引力を発生する。ガス吸引装置5は、ガス吸引源31の吸引力によって、ノズル装置22から噴射された不活性ガスと照射位置P(加工点)から発生するヒューム110とを、ダクト32から吸引する。
【0029】
ダクト32は、筒部32aと、延出部32b(導入部)と、を有する。筒部32aは、矩形筒状に構成されている。筒部32aは、当該筒部32aの筒中心がZ軸方向に対して傾斜する姿勢で配置される。筒部32aの筒中心方向下側の一端部には、開口部32eが設けられている。筒部32aの筒中心方向上側の他端部は閉じられている。筒部32aの上端部に管33が接続されている。
【0030】
図1,2に示されるように、延出部32bは、筒部32aの一端部から延出している。延出部32bは、一つの基壁32cと、二つの端壁32dと、を有する。基壁32cは、筒部32aの一端部の下縁部から延出している。端壁32dは、筒部32aの筒中心方向と直交する方向の基壁32cの縁部に設けられている。延出部32bは、不活性ガスと照射位置P(加工点)から発生するヒューム110とを開口部32eに案内(導入)する。
【0031】
ガス吸引装置5のうち少なくともダクト32は、移動可能に移動装置(不図示)によって支持されている。本実施形態では、
図1,2に示されるように、ダクト32は、レーザ光Lが照射されるときに、対象物100のノズル装置22とは反対側に位置される。例えば、長辺部100cにレーザ光Lが照射されノズル装置22Aが不活性ガスを噴射するときには、ダクト32は、対象物100のノズル装置22Aとは反対側に位置される(
図1の実線のダクト32)。このとき、ダクト32は、ノズル装置22Aから噴射され対象物100上を通過した不活性ガスを開口部32eから吸引する。一方、長辺部100dにレーザ光Lが照射されノズル装置22Bが不活性ガスを噴射するときには、ダクト32は、対象物100のノズル装置22Bとは反対側に位置される(
図1の一点鎖線のダクト32)。このとき、ダクト32は、ノズル装置22Bから噴射され対象物100上を通過した不活性ガスを開口部32eから吸引する。
【0032】
また、
図1,2に示されるように、溶接装置1は、スプラッシュガード41や壁42を備える。スプラッシュガード41は、対象物100の上方に位置される。また、壁42は、例えば、ノズル装置22の上方に位置される。
【0033】
以上説明したように、本実施形態では、ノズル装置22は、対象物100のレーザ光Lの照射位置Pよりもレーザ光Lの走査方向D1の前方に位置された噴射口24kからレーザ光Lの照射位置Pに向けて不活性ガスを噴射する。これにより、レーザ光Lの照射によってレーザ光Lの照射位置P(溶接部)で発生したヒューム110が、レーザ光Lの走査方向D1でレーザ光Lの後方に流される(
図7)。よって、ヒューム110がレーザ光L中を通過するのを抑制することができるので、ヒューム110によるレーザ光Lの強度の低下を抑制することができる。これにより、酸化が抑制された良好な溶接品質を確保することができる。
【0034】
また、本実施形態では、整流部材24bには、不活性ガスが流れる複数の通路24jが設けられ、整流部材24bは、不活性ガスを整流する。よって、噴射口24k毎の不活性ガスの噴射量(流量)のばらつきを減らすことができる。
【0035】
また、本実施形態では、不活性ガスがバッファ室24nに入り、バッファ室24nから流出した不活性ガスを複数の噴射口24kが噴射する。よって、例えば、複数の噴射口が細い管に直接設けられているような構成に比べて、噴射口24k毎の不活性ガスの噴射量(流量)のばらつきを減らすことができる。
【0036】
また、本実施形態では、バッファ室24nには管25が収容されている。管25には、噴射口24k側とは異なる方向に開口し不活性ガスが出る開口部25a(第一の開口部)が設けられている。よって、バッファ室24nの場所による圧力のばらつきを減らすことができるので、噴射口24k毎の不活性ガスの噴射量(流量)のばらつきを減らすことができる。
【0037】
また、本実施形態では、整流部材24b(第一の部分)は、バッファ室24nに面し、整流部材24bには、噴射口24kが設けられている。また、側壁24dは、整流部材24bの反対側に設けられバッファ室24nに面している。そして、管25は、整流部材24bと側壁24dとの間に位置され、開口部25aは、側壁24d側に開口している。よって、バッファ室24nの場所による圧力のばらつきを減らすことができるので、噴射口24k毎の不活性ガスの噴射量(流量)のばらつきを減らすことができる。
【0038】
また、本実施形態では、ダクト32は、対象物100のノズル装置22(ノズル装置22Aまたはノズル装置22B)とは反対側に位置され、ノズル装置22から噴射された不活性ガスを吸引する。よって、不活性ガスの流れの下流側で不活性ガスを吸引することができる。
【0039】
(第1の変形例)
図8,9に示されるように、本変形例の溶接装置201は、ダクト32の延出部32bに案内部32fが設けられている点が、溶接装置1と主に異なる。
【0040】
案内部32fは、複数の壁32gを有する。複数の壁32gは、基壁32cの上面に設けられている。複数の壁32gは、筒部32aの筒中心方向と直交する方向に互いに間隔をあけて並べられている。壁32gは、基壁32cの下端部(先端部)から基壁32cの上端部(筒部32a側の端部)に向かうにつれ、レーザ光Lの走査方向D1の後側に向かう。案内部32fは、壁32gによって、レーザ光Lの走査方向D1でのレーザ光Lの照射位置の斜め後方へ不活性ガスを案内する。
図9中の方向C2は、案内部32fでの不活性ガスの流れ方向を示している。
【0041】
本変形例では、ノズル装置22は、レーザ光Lの走査方向D1での斜め前方からレーザ光Lの照射位置Pに向けて不活性ガスを噴射し、案内部32fは、レーザ光Lの走査方向D1での照射位置Pの斜め後方へ不活性ガスを案内する。よって、不活性ガスの流れの乱れを抑制しながら、不活性ガスをダクト32によって吸引することができる。
【0042】
(第2の変形例)
図10に示されるように、本変形例の溶接装置301は、ノズル装置22A,22Bの他に、対象物100の短辺部100e,100fの溶接用のノズル装置22C,22Dが設けられている点が、溶接装置1と主に異なる。本変形例では、長辺部100c、長辺部100d、短辺部100e、および短辺部100f毎にレーザ光Lの照射が行われる。本変形例では、対象物100の短辺部100e,100fに対するレーザ光Lの走査方向D2は、長辺部100dから長辺部100cに向かう方向であり、X軸方向に沿っている。
【0043】
ノズル装置22C,22Dの構成は、ノズル装置22A,22Bと同様である。ただし、ノズル装置22Cは、対象物100の短辺部100eに面し、ノズル装置22Dは、対象物100の短辺部100fに面している。ノズル装置22C,22Dは、対象物100のレーザ光Lの照射位置Pよりもレーザ光Lの走査方向の前方から照射位置Pに向けて噴射する。詳細には、ノズル装置22C,22Dの複数の噴射口24kのうち対象物100のレーザ光Lの照射位置Pよりもレーザ光Lの走査方向D1の前方に位置された噴射口24kからは、レーザ光Lの走査方向D1での斜め前方からレーザ光Lの照射位置Pに向けて不活性ガスが噴射される。
【0044】
(第3の変形例)
図11に示されるように、本変形例の溶接装置401は、ノズル装置422Aの構成がノズル装置22Aと異なるとともにノズル装置22Dが設けられていない点が、溶接装置301と主に異なる。本変形例では、長辺部100cの溶接および短辺部100fの溶接の際には、ノズル装置422Aが不活性ガスを噴射する。
【0045】
ノズル装置422Aは、ノズル装置22Aと同様に、ノズル部24と、管25と、を有する。ただし、ノズル装置422AのY軸方向の長さは、長辺部100cへの不活性ガスの噴射および短辺部100fへの不活性ガスの噴射が可能な長さに設定されている。また、ノズル装置422Aのボディ24aの内部は、仕切壁24pによって仕切られており、ボディ24aの内部には、二つのバッファ室24nA,24nBが設けられている。バッファ室24nA,24nBは、Y軸方向に並べられている。一方のパッファ室24nAは、他方のバッファ室24nBよりも短辺部100fに近い位置に設けられている。そして、各バッファ室24nA,24nBに、管25A,25Bが設けられている。各管25A,25Bには、管25と同様に、複数の開口部25aが設けられている。
【0046】
上記構成のノズル装置422Aには、長辺部100cにレーザ光Lが照射される場合、両方の管25A,25Bに不活性ガスが供給される。これにより、ノズル装置422Aの複数の噴射口24kのうち対象物100のレーザ光Lの照射位置Pよりもレーザ光Lの走査方向D1の前方に位置された噴射口24kからは、レーザ光Lの走査方向D1での斜め前方からレーザ光Lの照射位置Pに向けて不活性ガスが噴射される。一方、短辺部100fにレーザ光Lが照射される場合、ノズル装置422Aには、一方の管25Aに不活性ガスが供給される。これにより、バッファ室24nAと連通した複数の噴射口24kのうち少なくとも一部からは、レーザ光Lの走査方向D2での斜め前方からレーザ光Lの照射位置Pに向けて不活性ガスが噴射される。
【0047】
(第2の実施形態)
図12に示されるように、本実施形態の溶接装置501は、第1の実施形態の溶接装置1と同様に、対象物100にレーザ光Lを照射するとともに対象物100のレーザ光Lの照射位置Pに向けて不活性ガスを噴射する。これにより、レーザ光Lの照射位置Pが不活性ガスで覆われた状態でレーザ光Lによる溶接がなされる。ただし、本実施形態の溶接装置501は、複数(一例として四つ)の対象物100に同時に溶接を行う点が第1の実施形態の溶接装置1に対して主に異なる。溶接装置501による溶接は、溶接装置1と同様に、大気圧下または減圧環境下で行われる。
【0048】
図12〜14に示されるように、溶接装置501は、支持装置502と、照射装置503(
図12)と、ガス噴射装置504と、を備える。支持装置502は、複数の対象物100を支持する。照射装置503は、支持装置502によって支持された各対象物100にレーザ光Lを照射する。ガス噴射装置504は、レーザ光Lの各照射位置Pに不活性ガスを供給する。なお、溶接装置501は、不活性ガスを吸引するガス吸引装置を備えてもよい。
【0049】
支持装置502は、支持部材511を有する。支持部材511は、略直方体状の外観を呈している。支持部材511には、四つ(複数)の開口部511aが設けられている。開口部511aは、支持部材511をZ軸方向に貫通した貫通孔である。また、開口部511aは、Y軸方向の幅よりもX軸方向の幅の方向が長く形成された長孔である。四つの開口部511は、一例として、二行二列の行列状に配置されている。各開口部511aには、対象物のうち少なくとも部材100bが位置される。そして、支持部材511には、対象物100が結合部材(不図示)によって結合される。よって、対象物100は、二行二列の行列状に配置される。対象物100は、長辺部100c,100dがX軸方向に沿う姿勢で配置される。また、X軸方向で隣り合う二つの対象物100は、短辺部100f同士が支持部材511を介して向き合うように配置される。
【0050】
図12に示されるように、照射装置503は、支持装置502の上方に位置されている。照射装置503は、レーザ光Lを走査しながら対象物100に照射する。照射装置503は、各対象物100に対して同時にレーザ光Lを照射する方式と順次レーザ光Lを照射する方式とどちらでもよい。すなわち、照射装置503は、一度に四つ(複数)のレーザ光Lを出射する場合と、レーザ光Lを順次照射する場合とがある。照射装置503は、発振素子を有しレーザ光Lを出射する光源、レーザ光Lの照射位置Pを移動させる部品等の種々の部品を有する。照射装置503は、対象物100の外面(上面)に沿ってレーザ光Lを走査する(移動させる)ことができる。また、照射装置503は、対象物100の上方からレーザ光Lを照射する。対象物100の長辺部100c,100dに対するレーザ光Lの走査方向D1は、短辺部100eから短辺部100fに向かう方向であり、X軸方向に沿っている。レーザ光Lは、連続レーザ(CWレーザ光)またはパルスレーザである。
【0051】
図14に示されるように、ガス噴射装置504は、一つのガス供給源521(供給部)と、一つのノズル装置522と、を有する。
【0052】
ガス供給源521は、不活性ガスを管523を介してノズル装置522に供給する。不活性ガスは、例えば、窒素ガスやアルゴンガス、ヘリウムガスであってもよいし、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスのうち二つ以上を含む混合ガスであってもよい。また、その他、溶接部の酸化を抑制する効果があるガスであれば何でも使うことができる。
【0053】
ノズル装置522は、ガス供給源521から管523を介して供給された不活性ガスを、各対象物100毎に、レーザ光Lの照射位置Pよりもレーザ光Lの走査方向D1の前方から照射位置Pに向けて噴射する。
【0054】
ノズル装置522は、一つの容器526と、四つ(複数)のノズル部524と、を有する。容器526は、管523と接続されている。ノズル部524には、容器526を介して管523から不活性ガスが供給される。ノズル部524は、対象物100毎に設けられている。
【0055】
図12〜14に示されるように、容器526は、底壁526aと、天壁526bと、亘壁526cと、を有する。底壁526a(壁部)は、支持部材511の上方に位置されている。底壁526aは、四角形状(例えば長方形状)の板状に形成されている。また、底壁526aは、XY平面に沿って延びている。天壁526b(壁部)は、四角形状(例えば長方形状)の板状に形成されている。天壁526bのX軸方向の幅は、底壁526aのX軸方向の壁よりも長い。天壁526bは、底壁526aの上方に面している。亘壁526cは、底壁526aと天壁526bとに亘っている。亘壁526cは、段付き筒状に構成されている。亘壁526cには、二つの傾斜壁526dが設けられている。一方の傾斜壁526dは、亘壁526cのうち、底壁526aのX軸方向の一方の縁部(端部)と、天壁526bのX軸方向の一方の縁部(端部)とに亘る部分に設けられている。他方の傾斜壁526dは、亘壁526cのうち、底壁526aのX軸方向の他方の縁部(端部)と、天壁526bのX軸方向の他方の縁部(端部)とに亘る部分に設けられている。二つの傾斜壁526dは、底壁526aに対して傾斜している。二つの傾斜壁526dは、天壁526b側から底壁526a側に向かうにつれて、互いに近づく。
【0056】
また、容器526の内部には、バッファ室526eが設けられている。バッファ室526eは、底壁526aと、天壁526bと、亘壁526cとに囲まれている。
【0057】
また、各傾斜壁526dには、二つのノズル部524が結合されている。各傾斜壁526dには、ノズル部524毎に開口部526f(
図15)が設けられている。開口部526fは、傾斜壁526dを貫通した貫通孔であり、バッファ室526eとノズル部524の内部とを連通している。また、亘壁526bのうち、底壁526aのY軸方向の一方の縁部(端部)と天壁526bのY軸方向の一方の縁部(端部)とに亘る部分には、管523(
図14)が接続されている。管523からバッファ室526eに入った不活性ガスは、開口部526fを介して各ノズル部524に入る。
【0058】
図15,16に示されるように、ノズル部524は、ボディ524aと、抵抗部材524rと、整流部材524bと、を有する。ボディ524aは、円筒状に構成されている。ボディ524aは、傾斜壁526dから斜め下方に向けて延びている。
【0059】
抵抗部材524rは、ボディ524aの上端部(傾斜壁526d側の端部)に嵌められて、ボディ524a内に位置されている。
図15〜17に示されるように、抵抗部材524rは、円板状に構成されている。抵抗部材524rには、複数の開口部524sが設けられている。開口部524sは、ボディ524aの筒中心方向に抵抗部材524rを貫通した貫通孔である。抵抗部材524rは、抵抗要素の一例であり、開口部524sは、第二の開口部の一例である。
【0060】
図15に示されるように、整流部材524bは、ボディ524aの下端部(傾斜壁526dとは反対側の端部)に嵌められて、ボディ524a内に位置されている。整流部材524bは、抵抗部材524rと離間している。すなわち、整流部材524bと抵抗部材524rとの間には、空間が設けられている。
【0061】
整流部材524bは、面524h,524iを有している。面524hは、ボディ524aの内部に面している。面524iは、面524hの反対側に設けられ、ボディ524aの外部に面している。
【0062】
整流部材524bには、複数の通路524jが設けられている。通路524jには、不活性ガスが流れる。通路524jは、面524hから面524iに延びているとともに、面524hと面524iとに開口している。各通路524jは、レーザ光Lの走査方向D1に対して傾斜している。詳細には、各通路524jは、面524hから面524iに向かうにつれてレーザ光Lの走査方向D1の後方に向かう。通路524jの出口(面524iの開口部)は、噴射口524kを構成している。噴射口524kとバッファ室526eとの間に、抵抗部材524rが位置されている。複数の噴射口524kの少なくとも一つが、レーザ光Lの照射位置Pよりもレーザ光Lの走査方向D1の前方に位置されている。
【0063】
整流部材524bは、各噴射口524kから不活性ガスを噴射する。このとき、複数の噴射口524kのうち対象物100のレーザ光Lの照射位置Pよりもレーザ光Lの走査方向D1の前方に位置された噴射口524kからは、レーザ光Lの走査方向D1の前方からレーザ光Lの照射位置Pに向けて不活性ガスが噴射される。詳細には、複数の噴射口524kのうち対象物100のレーザ光Lの照射位置Pよりもレーザ光Lの走査方向D1の前方に位置された噴射口524kからは、レーザ光Lの走査方向D1での斜め前方且つ斜め上方からレーザ光Lの照射位置Pに向けて不活性ガスが噴射される。
【0064】
また、各通路524jの延び方向と交差する方向の通路524jの断面は、六角形状となっており、整流部材524bは、ハニカム構造に構成されている。また、整流部材524bは、通路524jを形成する(通路524jに面する)複数の壁524mを有する。なお、各通路524jの延び方向と交差する方向の断面は、六角形状に限定されるものではなく、六角以外の多角形状や円形等であってもよい。また、整流部材524bは、噴射部とも称される。
【0065】
上記構成のノズル装置522では、管523からバッファ室526eに不活性ガスが入る。バッファ室526eに入った不活性ガスは、四つのノズル部524に分配される。バッファ室526eからノズル部524に入った不活性ガスは、抵抗部材524rの開口部524sを通り、整流部材524bに向かう。そして、不活性ガスは、整流部材524bの通路524jに入る。整流部材524bは、通路524jを流れる不活性ガスの流れを壁524mによって整流する。そして、整流された不活性ガスは、噴射口524kから噴射される。このとき、複数の噴射口524kのうち対象物100のレーザ光Lの照射位置Pよりもレーザ光Lの走査方向D1の前方に位置された噴射口524kからは、レーザ光Lの走査方向D1での斜め前方からレーザ光Lの照射位置Pに向けて不活性ガスが噴射される。当該不活性ガスにより、レーザ光Lの照射によって照射位置Pから生じて照射位置Pから上昇するヒューム110は、レーザ光Lの走査方向D1でレーザ光Lの後方に流される。
【0066】
また、
図13に示されるように、溶接装置501は、パワーメータ550を有する。パワーメータ550は、レーザ光Lの強度を測定する。パワーメータ550は、支持部材511の下方に配置されている。また、容器526の天壁526bおよび底壁526aには、レーザ光Lの通過用の開口部526g(底壁526aの開口部526gは図示されず)が設けられている。これらの開口部526gは、レーザ光Lを透過させる透過部材によって閉塞されうる。また、支持部材511には、レーザ光Lの通過用の開口部(不図示)が設けられている。照射装置503は、レーザ光Lを、天壁526bおよび底壁526aのそれぞれの開口部526gと、支持部材511のレーザ光Lの通過用の開口部と、を介してパワーメータ550に照射することができる。パワーメータ550は、照射されたレーザ光Lの強度を測定する。
【0067】
以上説明したように、本実施形態では、ノズル装置522は、レーザ光Lの照射位置Pよりもレーザ光Lの走査方向D1の前方に位置された噴射口524kからレーザ光Lの照射位置Pに向けて不活性ガスを噴射する。これにより、レーザ光Lの照射によってレーザ光Lの照射位置P(溶接部)で発生したヒューム110が、レーザ光Lの走査方向D1でレーザ光Lの後方に流される。よって、ヒューム110がレーザ光L中を通過するのを抑制することができるので、ヒューム110によるレーザ光Lの強度の低下を抑制することができる。これにより、酸化が抑制された良好な溶接品質を確保することができる。
【0068】
また、本実施形態では、整流部材524bには、不活性ガスが流れる複数の通路524jが設けられ、整流部材524bは、不活性ガスを整流する。よって、噴射口524k毎の不活性ガスの噴射量(流量)のばらつきを減らすことができる。
【0069】
また、本実施形態では、容器526にバッファ室526eが設けられている。そして、複数の対象物100のそれぞれに対してノズル部524が設けられている。また、各ノズル部524は、バッファ室526eと連通している。よって、例えば、複数のノズル部が細い管に直接設けられているような構成に比べて、ノズル部524毎の不活性ガスの噴射量(流量)のばらつきを減らすことができる。
【0070】
また、本実施形態では、バッファ室526eと噴射口524kとの間に抵抗部材524rが設けられている。抵抗部材524rには、不活性ガスが通過する複数の開口部524s(第二の開口部)が設けられている。よって、バッファ室526e内で不活性ガスの流れが乱れるのを抑制することができる。また、バッファ室526eの場所による圧力のばらつきを減らすことができるので、ノズル部524毎の不活性ガスの噴射量(流量)のばらつきを減らすことができる。
【0071】
以上説明したとおり、上記各実施形態および変形例によれば、ヒューム110によるレーザ光Lの強度の低下を抑制することができる。
【0072】
本発明のいくつかの実施形態および変形例を説明したが、これらの実施形態および変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態や変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。