特許第6239483号(P6239483)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239483
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】窒素ラジカル生成システム
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/24 20060101AFI20171120BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20171120BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   H05H1/24
   H05H1/46 M
   H01L21/31 C
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-219837(P2014-219837)
(22)【出願日】2014年10月29日
(65)【公開番号】特開2016-85935(P2016-85935A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2016年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 謙資
(72)【発明者】
【氏名】田畑 要一郎
(72)【発明者】
【氏名】西村 真一
(72)【発明者】
【氏名】生沼 学
(72)【発明者】
【氏名】稲永 康隆
【審査官】 南川 泰裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−006211(JP,A)
【文献】 特開2011−154973(JP,A)
【文献】 特開2014−154248(JP,A)
【文献】 特開平11−293469(JP,A)
【文献】 特開2000−045074(JP,A)
【文献】 特開2000−026975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H1/00−H05H1/54
H01L21/31
H01J37/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体バリア放電を利用して、窒素ガスから窒素ラジカルを生成する窒素ラジカル生成装置と、
交流電圧を印加する交流電圧源とを、備えており、
前記窒素ラジカル生成装置は、
前記窒素ガスが供給されるガス供給口と、
前記交流電圧源により交流電圧が印加され、前記誘電体バリア放電を生成する、放電ユニットと、
前記ガス供給口から供給された前記窒素ガスに対して、前記放電ユニットにおいて、前記誘電体バリア放電を印加させることにより生成された、前記窒素ラジカルを出力するガス放出部とを、有しており、
前記ガス放出部は、
前記放電ユニットの中央部に、一つ形成されており、
前記ガス放出部の出力側に配設された、前記窒素ラジカルを利用した処理が実施される処理チャンバーを、さらに備えており、
前記処理チャンバー内の圧力は、
前記放電ユニット内の圧力よりも低く、
前記放電ユニットは、
放電空間が形成されるように、相互に対面して配置された二つの電極を有しており、
前記ガス放出部は、
一方の前記電極に設けられており、
前記窒素ラジカル生成装置と前記処理チャンバーとの間に配設され、前記ガス放出部の出力側に接続される、オリフィス部を、さらに備えており、
前記オリフィス部の孔の径は、
前記ガス放出部の孔の径よりも小さい、
ことを特徴とする窒素ラジカル生成システム。
【請求項2】
前記放電ユニットにおける圧力は、
10kPa以上、30kPa以下であり、
前記交流電圧源は、
前記放電ユニットに対して、30kHz以上、50kHz以下である周波数の前記交流電圧を印加する、
ことを特徴とする請求項1に記載の窒素ラジカル生成システム。
【請求項3】
前記オリフィス部の前記孔は、
複数である、
ことを特徴とする請求項に記載の窒素ラジカル生成システム。
【請求項4】
前記オリフィス部の前記孔の出力部は各々、
異なる方向を向いている、
ことを特徴とする請求項に記載の窒素ラジカル生成システム。
【請求項5】
前記窒素ラジカル生成装置は、
複数である、
ことを特徴とする請求項に記載の窒素ラジカル生成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素ラジカルの生成を行うことができる窒素ラジカル生成システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒素ガスに対して誘電体バリア放電が印加されることにより、窒素ラジカルが生成される。そして、当該窒素ラジカルは、基板に対する窒化処理のために使用される。一般的に、従来の窒化処理では、NH等のアンモニア系ガスを用いたプラズマ処理が行われている。上記窒素ラジカルの生成および上記窒化処理が開示されている先行文献として、たとえば特許文献1が存在している。
【0003】
当該特許文献1に係る技術では、窒化処理が行われる基板に対するプラズマダメージを抑制するために、リモート式のプラズマ生成処理装置が提案されている。
【0004】
また、特許文献1に係る技術では、誘電体バリア放電部が、複数の貫通孔を有する仕切り板を介して、処理チャンバーへと接続されている。当該特許文献1に係る技術では、上記貫通孔で圧力区分を生成することで、処理チャンバーを放電部よりも低圧に維持している。さらに、放電部を大気圧近傍とすることで、荷電粒子が処理チャンバー内に設置されたウェハに到達することを抑制している。さらに、ラジカルガスが低圧な処理チャンバーへと流入することで、ラジカルの減衰が抑制されている。
【0005】
なお、ラジカルガスの生成に関する従来技術として、上記のほかに、特許文献2−4も存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−154973号公報
【特許文献2】特開平7−45539号公報
【特許文献3】特開2004−207595号公報
【特許文献4】特開2009−14116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高濃度の窒素ラジカルを生成することは、窒素処理の観点からも重要である。ここで、特許文献1に係る技術では、放電場(窒素ラジカル生成場)を形成する一対の電極の一方の電極側に、ガス放出口が複数個形成されている。原料ガスは、放電場を通過することによりラジカル化し、ラジカル含有ガスは、複数のガス放出口を介して、基板へと供給される。ここで、放電場におけるガス通過時間は、ラジカル含有量の大小を決定する因子の一つである。
【0008】
原料ガスは、一対の電極の外縁部から放電場へと供給される。このため、例えば、放電場の外周部近傍に設けられたガス放出口と、放電場中央部近傍に設けられたガス放出口とでは、原料ガスの放電場滞在時間が異なる。つまり、ガス放出口毎に、放出されるガスのラジカル含有量も異なってしまう。
【0009】
上記問題を解決する方法として、たとえば、電極の外縁部から、当該外縁部に最も近いガス放出口までの距離、十分に長く取る方法がある。しかしながら、このような方法を採用した場合には、電極が大型化してしまい、製造上の不具合が生じおよび小型化の要請に反する。
【0010】
そこで、本発明は、放電場(窒素ラジカル生成場)における窒素ラジカルガスの減衰を抑制しつつ、均一な濃度の窒素ラジカルガスを、当該放電電場から出力することができる窒素ラジカル生成システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明に係る窒素ラジカル生成システムは、誘電体バリア放電を利用して、窒素ガスから窒素ラジカルを生成する窒素ラジカル生成装置と、交流電圧を印加する交流電圧源とを、備えており、前記窒素ラジカル生成装置は、前記窒素ガスが供給されるガス供給口と、前記交流電圧源により交流電圧が印加され、前記誘電体バリア放電を生成する、放電ユニットと、前記ガス供給口から供給された前記窒素ガスに対して、前記放電ユニットにおいて、前記誘電体バリア放電を印加させることにより生成された、前記窒素ラジカルを出力するガス放出部とを、有しており、前記ガス放出部は、前記放電ユニットの中央部に、一つ形成されており、前記ガス放出部の出力側に配設された、前記窒素ラジカルを利用した処理が実施される処理チャンバーを、さらに備えており、前記処理チャンバー内の圧力は、前記放電ユニット内の圧力よりも低く、前記放電ユニットは、放電空間が形成されるように、相互に対面して配置された二つの電極を有しており、前記ガス放出部は、一方の前記電極に設けられており、前記窒素ラジカル生成装置と前記処理チャンバーとの間に配設され、前記ガス放出部の出力側に接続される、オリフィス部を、さらに備えており、前記オリフィス部の孔の径は、前記ガス放出部の孔の径よりも小さい
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る窒素ラジカル生成システムは、誘電体バリア放電を利用して、窒素ガスから窒素ラジカルを生成する窒素ラジカル生成装置と、交流電圧を印加する交流電圧源とを、備えており、前記窒素ラジカル生成装置は、前記窒素ガスが供給されるガス供給口と、前記交流電圧源により交流電圧が印加され、前記誘電体バリア放電を生成する、放電ユニットと、前記ガス供給口から供給された前記窒素ガスに対して、前記放電ユニットにおいて、前記誘電体バリア放電を印加させることにより生成された、前記窒素ラジカルを出力するガス放出部とを、有しており、前記ガス放出部は、前記放電ユニットの中央部に、一つ形成されており、前記ガス放出部の出力側に配設された、前記窒素ラジカルを利用した処理が実施される処理チャンバーを、さらに備えており、前記処理チャンバー内の圧力は、前記放電ユニット内の圧力よりも低く、前記放電ユニットは、放電空間が形成されるように、相互に対面して配置された二つの電極を有しており、前記ガス放出部は、一方の前記電極に設けられており、前記窒素ラジカル生成装置と前記処理チャンバーとの間に配設され、前記ガス放出部の出力側に接続される、オリフィス部を、さらに備えており、前記オリフィス部の孔の径は、前記ガス放出部の孔の径よりも小さい

【0013】
したがって、放電場(窒素ラジカル生成場)における窒素ラジカルガスの減衰を抑制しつつ、均一な濃度の窒素ラジカルガスを、当該放電電場から出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態1に係る窒素ラジカル生成システム100の構成を示す図である。
図2】実施の形態2に係る窒素ラジカル生成システム200の構成を示す図である。
図3】実施の形態3に係る窒素ラジカル生成システム300の構成を示す図である。
図4】複数の細孔10が穿設されているオリフィス部9を示す平面図である。
図5】実施の形態4に係る窒素ラジカル生成システム400の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、誘電体バリア放電を利用して、窒素ガスから窒素ラジカルを生成する窒素ラジカル生成装置を有する窒素ラジカル生成システムに関するものである。以下、この発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
【0016】
<実施の形態1>
図1は、本実施の形態に係る窒素ラジカル生成システム100の概略構成を示す図である。当該窒素ラジカル生成システム100は、窒素ラジカル生成装置1、交流電圧源8および処理チャンバー12から構成されている。
【0017】
窒素ラジカル生成装置1は、誘電体バリア放電を利用して、窒素ガスから窒素ラジカルを生成する。
【0018】
窒素ラジカル生成装置1内の空間2には、誘電体バリア放電を生成する、放電ユニットが配設されている。ここで、放電ユニットは、第一電極3および第二電極4から構成される。
【0019】
第二電極4は、窒素ラジカル生成装置1の底面の中央部に設置されている。そして、当該第二電極4に対面して、第一電極3が配設されている。ここで、第一電極3と第二電極4とは、所定の間隔だけ離れて対面している。つまり、第一電極3と第二電極4の間には、放電空間5が形成されている。第一電極3と第二電極4との間の隙間は、たとえば、0.5mm〜1.5mm程度である。
【0020】
なお、図1には、図示は省略されているが、第一電極3と第二電極4との間に隙間(放電空間5)が形成されるように、当該第一電極3と第二電極4との間には、スペーサが挿入されている。また、放電空間5に面する第一電極3の主面および放電空間5に面する第二電極4の主面の少なくとも一方には、誘電体(図1において図示を省略している)が配設されている。
【0021】
放電ユニットにおいて、第一電極3と第二電極4との間の放電空間5において、誘電体バリア放電が発生する。
【0022】
窒素ラジカル生成装置1の上面中央部において、ガス供給口6が配設されている。当該ガス供給口6を介して、窒素ラジカル生成装置1外から、窒素ラジカル生成装置1内の空間2へと、原料ガスである窒素ガスが供給される。ここで、一例ではあるが、ガス供給口6から供給される窒素ガスの流量は、1〜20slm程度である。
【0023】
第二電極4の中央部には、窒素ラジカルガスが、窒素ラジカル生成装置1外へと出力する、ガス放出部7が一つ穿設されている。
【0024】
交流電圧源8は、放電ユニットに対して、高圧の交流電圧を印加する。交流電圧源8の一方端子は、第一電極3と電気的に接続される。また、交流電圧源8の他方端子は、窒素ラジカル生成装置1の筐体(接地)と電気的に接続されている。なお、上記から分かるように、窒素ラジカル生成装置1の底面には、第二電極4が配設されている。したがって、交流電圧源8の他方端子は、窒素ラジカル生成装置1を介して、第二電極4と電気的に接続される。
【0025】
つまり、交流電圧源8は、第一電極3と第二電極4との間に、高圧の交流電圧を印加する。そして、当該交流電圧の印加により、第一電極3と第二電極4との間の放電空間5において、誘電体バリア放電が発生する。
【0026】
ガス供給口6から供給された窒素ガスは、各電極3,4の外周部から放電空間5内に侵入する。そして、当該窒素ガスは、各電極3,4の外周部から内部へと伝搬する。当該伝搬中の窒素ガスは、放電空間5内に発生している誘電体バリア放電に印加され、窒素ラジカルガスが生成される。つまり、放電空間5を窒素ガスが通過する際に、誘電体バリア放電により窒素ガスが窒素原子に解離され、結果として窒素ラジカルガスが生成される。当該生成された窒素ラジカルガスは、ガス放出部7から、窒素ラジカル生成装置1外へと出力される。
【0027】
ここで、窒素ラジカル生成装置1内の空間2の圧力(換言すると、放電ユニットにおける圧力)は、10kPa〜30kPaに設定されている。なお、本明細書内における圧力表示は、全て絶対圧力表記である。また、交流電圧源8は、放電ユニットに対して、最大約5kV〜6kV程度の電圧を、30kHz〜50kH(30kHz以上、50kHz以下)の周波数で印加する。上記の通り、当該電圧の印加により、電極3,4間の放電空間5において誘電体バリア放電が発生する。
【0028】
また、図1に示すように、窒素ラジカル生成装置1の下側には、処理チャンバー12が配設されている。ここで、窒素ラジカル生成装置1の底面と処理チャンバー12の上面とが接している。
【0029】
また、窒素ラジカル生成装置1と処理チャンバー12との間には、オリフィス部9が配設されている。より具体的には、窒素ラジカル生成装置1の底面と処理チャンバー12の上面とを貫通するように、オリフィス部9が設けられている。当該オリフィス部9は、ガス放出部7と処理チャンバー12内の処理室11とを接続する。具体的に、オリフィス部9には細孔10が穿設されており、当該細孔10の一方端は、ガス放出部7の出力側に接続されており、当該細孔10の他方端は、処理室11に接続されている。
【0030】
ここで、本実施の形態では、図1の構成例に示すように、オリフィス部9の細孔10の径は、ガス放出部7の孔の径よりも小さい。より具体的に、オリフィス部9の細孔10の入り口の径は、ガス放出部7の孔の出口の径よりも小さい。つまり、オリフィス部9の細孔10により、後述するように、窒素ラジカル生成装置1内の空間2と処理室11との間における圧力区分が、形成される。
【0031】
処理チャンバー12内の処理室11では、窒素ラジカル生成装置1で生成され、当該窒素ラジカル生成装置1(具体的には、ガス放出部7)から出力される窒素ラジカルを利用した処理が実施される。
【0032】
図1に示すように、処理チャンバー12内の処理室11には、サセプタ14が配設されており、当該サセプタ14上には、ウェハ(基板)13が載置されている。また、処理チャンバー12の側面には、ガス排気部15が配設されている。当該ガス排気部15により、処理室11内の圧力は、たとえば1Torr〜100Torr程度の範囲で、一定に維持されている。また、ガス排気部15によるガス排気処理により、空間2および処理室11の圧力設定のみならず、窒素ラジカル生成装置1から処理チャンバー12への、窒素ガスおよび窒素ラジカルガスの流れも発生させている。
【0033】
処理チャンバー12内の処理室11は、窒素ラジカル生成装置1内の空間2の圧力(換言すると、放電ユニットにおける圧力)よりも、低い圧力設定されている。処理チャンバー12内の圧力は、たとえば100Pa程度である。ここで、窒素ラジカル生成装置1内の空間2と処理室11との間における圧力区分は、オリフィス部9(具体的には、オリフィス部9に設けられた細孔10)によって形成される。
【0034】
窒素原子を含んだ窒素ラジカルガスは、第二電極4に形成されたガス放出部7およびオリフィス部9の細孔10を経由して、処理室11へと供給される。そして、当該供給された窒素ラジカルガスは、サセプタ14上のウェハ13に、吹き付けられる。このように、ウェハ13が窒素ラジカルガスに晒されることにより、当該ウェハ13に対する窒化処理等が実施される。なお、処理チャンバー12に供給された窒素ラジカルガス等は、ガス排気部15によって、処理チャンバー12外へと排出される。
【0035】
なお、上記で説明したように、本発明では、窒素ラジカル生成装置1内の圧力は、大気圧でなく、10kPa〜30kPa程度と低く設定される。たとえば、オゾン発生器において誘電体バリア放電を発生させる場合には、交流電圧源8から出力される交流電圧の周波数は、10kHz程度である。しかしながら、本発明では、窒素ラジカル生成装置1内の圧力は低く設定されるので、交流電圧源8から出力される交流電圧の周波数は、10kHzより大きくする必要がある。
【0036】
つまり、窒素ラジカル生成装置1内が低圧であると、放電維持電圧が低下してしまう。このため、放電ユニットには、低い電圧しか印加することができない。電圧と電流の乗算値の1秒間における積分値が放電電力である。したがって、窒素ラジカル生成装置1内が低圧である場合には、放電電力を高くするためには、交流電圧の周波数を上げる必要がある。しかしながら、交流電圧の周波数を上げ過ぎると、絶縁処理の処置が過剰にする必要がある。
【0037】
そこで、発明者らは、窒素ラジカル生成装置1内の圧力が10kPa〜30kPa程度である場合には、交流電圧源8から出力される交流電圧の周波数は、30kHz〜50kHz程度が望ましい、ことを見出した。
【0038】
ところで、窒素ラジカル生成装置1内の圧力が大気圧よりも低いため、窒素ラジカル生成装置1内の空間2において、主に窒素原子から構成される窒素ラジカルの減衰は抑制される。窒素原子の消滅は、窒素原子同士および第三者の分子との三体衝突によって、発生する。つまり、窒素原子が2個だけでは、窒素分子への結合は生じず、窒素原子2個に加えて、励起エネルギーの受け取り相手である第三者、特にこの場合は気体分子が存在することにより、窒素原子の消滅は発生する。
【0039】
原料ガスとして、窒素のみを使用した場合には、上記第三者の分子は、基底状態の窒素分子が担うこととなる。したがって、窒素分子の密度を低下させることができれば、窒素原子同士の結合(窒素ラジカルガスの消滅)を抑制することが可能となる。つまり、窒素ラジカル生成装置1内の圧力を下げることは、空間2内の窒素分子の密度を低下させることになり、結果として、窒素ラジカル生成装置1内における、窒素ラジカルガスの消滅を抑制することができる。
【0040】
ここで、窒素ラジカル生成装置1内の圧力を下げ過ぎると、次のような問題が発生する。つまり、放電ユニットにおける放電の形態が、変化する。または、放電維持電圧の低下が著しく、放電電力が低くなる。
【0041】
そこで、発明者らは、上記各問題を防止しつつ、窒素ラジカルの消滅を抑制するためには、窒素ラジカル生成装置1内の圧力が10kPa〜30kPa程度であることが望ましい、ことを見出した。
【0042】
なお、発明者らは、窒素ラジカル生成装置1内の圧力を100kPaとし、交流電圧の周波数を14kHzとし、放電電力を70Wとして、当該窒素ラジカル生成装置1から取り出される窒素ラジカルガスの濃度を測定した(前者と称する)。また、発明者らは、窒素ラジカル生成装置1内の圧力を30kPaとし、交流電圧の周波数を30kHzとし、放電電力を70Wとして、当該窒素ラジカル生成装置1から取り出される窒素ラジカルガスの濃度を測定した(後者と称する)。
【0043】
結果、後者の窒素ラジカルガスの濃度は、前者の窒素ラジカルガスの濃度の3倍程度高くなることが確認された。
【0044】
また、上述したように、生成された窒素ラジカルガスは、細孔10を経由して、窒素ラジカル生成装置1内の圧力よりも低い圧力である処理室11へと進む。前述した窒素原子の減衰メカニズムにより、処理室11内では、より窒素ラジカルの減衰が抑制される。したがって、窒素ラジカル生成装置1から処理室11内へと、如何に素早く、窒素ラジカルガスを送り込むかが重要である。
【0045】
したがって、第二電極4に形成されたガス放出部7から細孔10までの距離を最短化することが重要であり、また細孔10の長さも1mm以下と短くすることが望ましい。
【0046】
ここで、細孔10は、円柱状もしくは処理室11側に向かって末広がりな円錐形状である。また、細孔10の入り口の径は、窒素ラジカル生成装置1内の圧力、ガス流量および処理室11内の圧力に依存して、決定される。たとえば、細孔10の径は約3mm以下である。
【0047】
様々な形状および様々な大きさの径の細孔10を持つオリフィス部9を各々、準備することで、オリフィス部9を置き換えるだけで、ガス流量や処理室11内の圧力を変えることができる。
【0048】
以上のように、本実施の形態に係る窒素ラジカル生成システム100では、放電ユニット(窒素ラジカル生成装置1)内の圧力は10kPa〜30kPaであり、交流電圧源8は、放電ユニットに対して、30kHz以上、50kHz以下である周波数の交流電圧を印加している。
【0049】
したがって、窒素ラジカル生成システム100は、絶縁処理の処置を過剰にする必要がなく、放電ユニットにおける放電の形態を変化させることなく、さらに放電電力が低くなることを防止しつつ、窒素ラジカル生成装置1内における窒素ラジカルガスの消滅(減衰)を抑制することができる。
【0050】
また、本実施の形態に係る窒素ラジカル生成システム100では、第二電極4に穿設されたガス放出部7の出力側に、窒素ラジカルガスを利用した処理が実施される処理チャンバー12が配設されている。
【0051】
したがって、リモート式の窒素ラジカル生成・処理システム(つまり、窒素ラジカルガスの生成場と窒素ラジカルガスを用いた処理場とが分けられシステム)を構成することができる。
【0052】
さらに、窒素ラジカル生成装置1から処理チャンバー12までの窒素ラジカルガスの減衰を最小限に抑制することもできる。
【0053】
また、本実施の形態に係る窒素ラジカル生成システム100では、窒素ラジカル生成装置1と処理チャンバー12との間に配設され、ガス放出部7の出力側に接続される、オリフィス部9を、さらに備えている。そして、オリフィス部9の細孔10の径は、ガス放出部9の孔の径よりも小さい。
【0054】
オリフィス部9において、窒素ラジカル生成装置1内の圧力と処理チャンバー12内の圧力との圧力区分を調整することができる。つまり、オリフィス部9により、放電ユニット(窒素ラジカル生成装置1)内の圧力は10kPa〜30kPaで保持することができるとともに、処理チャンバー12内の圧力を、放電ユニット内の圧力よりも小さい圧力で一定に保持することができる。
【0055】
<実施の形態2>
図2は、本実施の形態に係る窒素ラジカル生成システム200の概略構成を示す図である。当該窒素ラジカル生成システム200の構成は、実施の形態1に係る窒素ラジカル生成システム100の構成と、ほぼ同じである。そこで、以下では、実施の形態1に係る窒素ラジカル生成システム100の構成と異なる部分についてのみ、窒素ラジカル生成システム200の構成を説明する。
【0056】
図1図2との比較から分かるように、本実施の形態に係る窒素ラジカル生成システム200では、オリフィス部9が配設されていない。つまり、窒素ラジカル生成装置1の底面および処理チャンバー12の上面には、開口部20が形成されている。そして、当該開口部20の一方端は、ガス放出部7の出力側に接続されており、当該開口部20の他方端は、処理室11に接続されている。
【0057】
つまり、本実施の形態では、第二電極4に穿設されているガス放出部7は、実施の形態1で説明したオリフィス部9の細孔10としても機能している。
【0058】
図2に示すように、ガス放出部7の径は、開口部20の開口径よりも小さい。より具体的に、ガス放出部7の出口の径は、開口部20入口の径よりも小さい。つまり、ガス放出部7により、窒素ラジカル生成装置1内の空間2と処理室11との間における圧力区分が、形成される。
【0059】
以上のように、本実施の形態に係る窒素ラジカル生成システム200では、オリフィス部9を省略している。
【0060】
したがって、放電場(放電ユニット)から処理室11へと直接、窒素ラジカルガスを噴出させることが可能となる。よって、窒素ラジカルガスの減衰を最小限に抑えることが可能となる。
【0061】
なお、本実施の形態に係る窒素ラジカル生成システム200では、窒素ラジカルガスの流量を変更する場合には、第二電極4を変更する必要がある。つまり、ガス放出部7の径の異なる第二電極4を各々用意し、流量変更のために、第二電極4の置換を行う必要がある。
【0062】
<実施の形態3>
図3は、本実施の形態に係る窒素ラジカル生成システム300の概略構成を示す図である。当該窒素ラジカル生成システム300の構成は、実施の形態1に係る窒素ラジカル生成システム100の構成と、ほぼ同じである。そこで、以下では、実施の形態1に係る窒素ラジカル生成システム100の構成と異なる部分についてのみ、窒素ラジカル生成システム300の構成を説明する。
【0063】
図1図3との比較から分かるように、本実施の形態に係る窒素ラジカル生成システム200では、オリフィス部9において複数の細孔10が配設されている。ここで、図4は、本実施の形態に係るオリフィス部9を上面から見た様子を示す平面図である。
【0064】
図4に示すように、オリフィス部9には、環状に、点在して、複数の細孔10が穿設されている。なお、図4は、オリフィス部9に設けられた細孔10の一つの配列例を示すものであり、他の態様で複数の細孔10を、オリフィス部9に配設することもできる。たとえば、平面視において、オリフィス部9に、細孔10を行列状に配設させてもよく、また十字状に配設させても良い。
【0065】
また、図3から分かるように、オリフィス部9に設けられた細孔10の出力部は各々、異なる方向を向いている(図3に示した、細孔10から延びる矢印の方向は、各々異なる方向を向いている)。
【0066】
以上のように、本実施の形態に係る窒素ラジカル生成システム300では、オリフィス部9において複数の細孔10が配設されている。
【0067】
したがって、窒素ラジカルガスは、放電場(放電ユニット)から処理室11へと、拡散して噴出させる。よって、大面積のウェハ13に対しても、全体に一様な、窒素ラジカルガスを用いた窒素処理を行うことが可能となる。
【0068】
また、本実施の形態に係る窒素ラジカル生成システム300では、オリフィス部9に設けられた細孔10の出力部は各々、異なる方向を向いている。
【0069】
したがって、窒素ラジカルガスは、放電場(放電ユニット)から処理室11へと、より拡散して噴出させる。よって、大面積のウェハ13に対しても、全体により一様な、窒素ラジカルガスを用いた窒素処理を行うことが可能となる。
【0070】
<実施の形態4>
図5は、本実施の形態に係る窒素ラジカル生成システム400の概略構成を示す断面図である。
【0071】
当該窒素ラジカル生成システム400の構成は、実施の形態1に係る窒素ラジカル生成システム100の構成と、ほぼ同じである。そこで、以下では、実施の形態1に係る窒素ラジカル生成システム100の構成と異なる部分についてのみ、窒素ラジカル生成システム400の構成を説明する。
【0072】
図1図5との比較から分かるように、本実施の形態に係る窒素ラジカル生成システム400では、1つの処理チャンバー12に対して、複数個(図5の構成例では2個)の窒素ラジカル生成装置1が設置されている。
【0073】
なお、図5における処理チャンバー12の構成および図5における各窒素ラジカル生成装置1の構成は、図1に示した処理チャンバー12の構成および図1に示した窒素ラジカル生成装置1の構成と、同じである。
【0074】
また、図5の構成例では、窒素ラジカル生成装置1の数は2個であった、3個以上であっても良い。さらに、図1に示した窒素ラジカル生成装置1の代わりに、図2,3に示した窒素ラジカル生成装置1を複数個、1つの処理チャンバー12に対して配設することもできる。
【0075】
本実施の形態に係る窒素ラジカル生成システム400を用いて、複数台の窒素ラジカル生成装置1を同時に稼働させることにより、大面積のウェハ13全体を一度に窒化させることができる。
【0076】
設置される窒素ラジカル生成装置1の台数は、1台の窒素ラジカル生成装置1により均等に窒化することができる面積に応じて、決定される。また、1台の窒素ラジカル生成装置1が均等に窒化することができる面積は、ガス流量や放電電力に依存する。
【符号の説明】
【0077】
1 窒素ラジカル生成装置
2 空間
3 第一電極
4 第二電極
5 放電空間
6 ガス供給口
7 ガス放出部
8 交流電圧源
9 オリフィス部
10 細孔
11 処理室
12 処理チャンバー
13 ウェハ
14 サセプタ
15 ガス排気部
20 開口部
100,200,300,400 窒素ラジカル生成システム
図1
図2
図3
図4
図5