(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記判定手段は、最も高い値を示す前記翼検知信号からのずれ量が大きい程、前記翼検知信号に対してより小さな重み付けを行う請求項1記載の回転機械の状態監視装置。
前記所定のサンプリング周期は、1枚毎の前記翼が前記検知手段に対向する位置を通過する時間間隔に基づき決定される請求項1又は請求項2記載の回転機械の状態監視装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の状態監視装置は、回転体が高速で回転し、例えば数μ秒のように非常に短時間間隔で翼がセンサを通過するため、高速サンプリングによってセンサの出力信号のデジタル化を行う必要がある。
この高速サンプリングを実現するためには、周波数特性が高い高速サンプリングを可能とするアナログ・デジタル変換機が必要となり、装置全体のコストの増加を招いている。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、高速サンプリングを行うことなく回転機械の状態を監視できる、回転機械の状態監視装置、回転機械、及び回転機械の状態監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の回転機械の状態監視装置、回転機械、及び回転機械の状態監視方法は以下の手段を採用する。
【0009】
本発明の第一態様に係る回転機械の状態監視装置は、回転機械の羽根車との間に半径方向に間隔をおいて設けられ、前記羽根車との距離を検知する検知手段と、所定のサンプリング周期で前記検知手段による検知信号をデジタル化する変換手段と、前記変換手段によってデジタル化された検知信号を、前記羽根車の翼を検知したとみなせる翼検知信号及び前記翼を検知したとみなせない非翼検知信号に選別する選別手段と、前記翼検知信号を他の前記翼に対応する前記翼検知信号及び前記非翼検知信号で比較することで、前記翼の頂点とみなせる前記翼検知信号を抽出し、抽出した前記翼検知信号に基づいて前記羽根車の状態を判定する判定手段と、を備える。
【0010】
本構成によれば、回転機械の羽根車との間に半径方向に間隔をおいて検知手段が設けられ、検知手段による検知信号は、変換手段によって所定のサンプリング周期でデジタル化される。
【0011】
ここで、例えばターボ機械等の羽根車は、一例として3000rpmといった高速で回転している。このため、精度良く羽根車との距離を検知するためには、変換手段が高速サンプリングで検知信号をデジタル化することが好ましい。ここでいう高速サンプリングとは、1枚の翼に対して、例えば3回以上サンプリングすることで、翼の頂点を明確に判定可能とするサンプリング周期である。しかし、高速サンプリングを行うためには、高性能な変換手段を要する等のコスト増を伴う。
一方、高速でないサンプリング周期として、例えば、1枚の翼を1回又は2回のみ検知できる程度のサンプリング周期で検知信号をデジタル化することで、高性能な変換手段を不要とする。
【0012】
このため、本構成は、変換手段によってデジタル化された検知信号を、羽根車の翼を検知したとみなせる翼検知信号及び翼を検知したとみなせない非翼検知信号に選別手段が選別する。選別方法の一例として、所定の閾値を用いて検知信号を選別する方法が用いられる。
【0013】
しかしながら、1枚の翼に対して1回又は2回程度のサンプリング周期で検知信号をデジタル化すると、デジタル化された翼検知信号が必ず翼の頂点を示すとは限らず、頂点からずれた翼位置を示す検知信号がデジタル化される可能性がある。このように、高速でないサンプリング周期でデジタル化された翼検知信号は、翼の頂点の検知結果や頂点からずれた翼位置の検知結果が混在する。
【0014】
そこで、判定手段によって、翼検知信号が他の翼に対応する翼検知信号及び非翼検知信号で比較され、翼の頂点とみなせる翼検知信号が抽出される。比較方法としては、例えば、各翼検知信号及び非翼検知信号の差から翼の高さを算出し、各翼検知信号が示す翼の高さに基づいて、翼の頂点とみなせる翼検知信号を抽出する。
そして、抽出した翼の頂点とみなせる翼検知信号に基づいて、判定手段によって羽根車の状態が判定される。
【0015】
このように、本構成は、複数の翼の翼検知信号及び非翼検知信号を相対的に比較することで、翼の頂点とみなせる翼検知信号を抽出して羽根車の状態を判定する。このため、翼までの距離を示す検知信号が、翼毎に最低1回でもサンプリングされればよいので、本構成は、高速サンプリングを行うことなく回転機械の状態を監視できる。
【0016】
上記第一態様では、前記判定手段が、最も高い値を示す前記翼検知信号からのずれ量が大きい程、前記翼検知信号に対してより小さな重み付けを行ってもよい。
【0017】
本構成は、羽根車の状態の判定に対して、頂点からのずれ量の大きい翼検知信号の影響を小さくできる。
【0018】
上記第一態様では、前記所定のサンプリング周期が、1枚毎の前記翼が前記検知手段に対向する位置を通過する時間間隔に基づき決定されてもよい。
【0019】
本構成は、高速でないサンプリング周期として、適切なサンプリング周期を決定できる。
【0020】
本発明の第二態様に係る回転機械は、羽根車と、羽根車を収めるケーシングと、上記記載の状態監視装置と、を備える。
【0021】
本発明の第三態様に係る回転機械の状態監視方法は、回転機械の羽根車との間に半径方向に間隔をおいて設けられた検知手段によって、前記羽根車との距離を検知する第1工程と、所定のサンプリング周期で前記検知手段による検知信号をデジタル化する第2工程と、デジタル化された検知信号を、前記羽根車の翼を検知したとみなせる翼検知信号及び前記翼を検知したとみなせない非翼検知信号に選別する第3工程と、前記翼検知信号を他の前記翼に対応する前記翼検知信号及び前記非翼検知信号で比較することで、前記翼の頂点とみなせる前記翼検知信号を抽出し、抽出した前記翼検知信号に基づいて前記羽根車の状態を判定する第4工程と、を含む。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高速サンプリングを行うことなく回転機械の状態を監視できる、という優れた効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明に係る回転機械の状態監視装置、回転機械、及び回転機械の状態監視方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0025】
図1は、本実施形態に係る過給機1の構成図である。
図1に示すように、過給機1は、いわゆるターボチャージャーであって、エンジンの排気ガスEのエネルギを回転に変換するタービン2と、このタービン2によって駆動される圧縮機11を備える。
圧縮機11は、吸入した空気Wを圧縮して圧縮空気PWとし、圧縮空気PWをエンジンに強制的に送り込む。
【0026】
タービン2は、タービン本体3と、タービン本体3を外周側から覆うと共に排気ガスEの入口通路5及び出口通路6とを有するタービンケーシング4によって構成されている。
【0027】
タービン本体3は、タービンケーシング4に取り付けられた静翼7と、軸Pを中心に回転するディスク9に取り付けられた動翼8を有している。
【0028】
静翼7は、入口通路5と出口通路6との接続部分に、タービンケーシング4から軸Pの半径方向内側に突出して設けられ、軸Pの周方向に複数が間隔をおいて配置されている。
【0029】
動翼8は、ディスク9の外周面から半径方向外方に突出して設けられ、静翼7の下流側(
図1の紙面左側)で、この静翼7との間に所定の間隔をおいて配置されている。
【0030】
圧縮機11は、軸Pを中心に回転可能とされた回転体である圧縮機羽根車12と、圧縮機羽根車12を外周から覆う圧縮機ケーシング14とを有している。
【0031】
圧縮機羽根車12は、複数枚の翼13を有する遠心型のインペラである。翼13は、
図2に示されるように、軸Pの周方向に一定の間隔をあけて一例として11枚設けられている。
【0032】
圧縮機ケーシング14は、空気Wを取り込む空気流入口15と、圧縮機羽根車12によって圧縮された圧縮空気PWを吐出する出口スクロール16を備えている。
【0033】
そして、圧縮機羽根車12とディスク9とは軸Pを中心に回転するロータ17に嵌め込まれて軸Pを中心に一体となって回転するようにされている。またロータ17は、2つのラジアル軸受18と、1つのスラスト軸受19とによって、軸Pを中心に回転自在に支持されている。
【0034】
また、
図2にも示すように、圧縮機ケーシング14にはギャップセンサ21が備えられる。ギャップセンサ21は、圧縮機羽根車12の翼13に対向する位置で圧縮機ケーシング14に設けられ、翼13のシェラウド側先端との距離を測定する。
本実施形態に係るギャップセンサ21は、例えば渦電流効果を利用した非接触式の変位計であって、圧縮機ケーシング14に一例として1つのみが設けられており、ギャップセンサ21は、圧縮機ケーシング14の内周面と同じ位置に配置されている(
図6も参照)。
【0035】
ここで、上記渦電流効果を利用した変位計の動作原理について説明する。この変位計は、高周波磁束を発生するコイルにより構成され、このコイルから発生した高周波磁束によって、測定対象である翼13の表面に発生する渦電流の変化をコイルのインピーダンスの変化として検知する。即ち、翼13の通過に伴う上記距離の変化をコイルのインピーダンスの変化として検知するもので、翼13が最も接近する際に最大の出力が得られる構成となっている。
【0036】
図3は、本実施形態に係る状態監視装置30の電気的構成を示すブロック図である。
【0037】
状態監視装置30は、上述したギャップセンサ21、変換部31、アナログ信号処理部32、及びデジタル信号処理部33を備える。そして、状態監視装置30は、ギャップセンサ21の検知信号に基づいて、圧縮機羽根車12の回転数、圧縮機羽根車12の振動、圧縮機羽根車12と圧縮機ケーシング14との間のクリアランスの3つの数値を取得し、圧縮機羽根車12の状態を判定する。
【0038】
ここで、
図4を参照して、ギャップセンサ21から出力される検知信号(アナログ信号)について説明する。
図4の横方向は時間を示し、縦方向は振幅を示す。なお、
図4の
図4に示すように、ギャップセンサ21は、各翼13と対向する際に、ギャップセンサ21と圧縮機羽根車12との間の距離が小さくなるほど大きな検知信号を出力する。すなわち、ギャップセンサ21から周期的に出力される検知信号は、各翼13とギャップセンサ21とが対向する際に大きな振幅となり、各翼13とギャップセンサ21とが離れた位置、具体的には隣接する翼13同士の中間地点においては小さな振幅となる波形(
図4の実線)である。
そして、圧縮機羽根車12が1回転する毎に、ギャップセンサ21からは翼13の枚数に応じた回数(本実施形態では11回、N1〜N11)のピークが出力される。
【0039】
図4の実線で示される検知信号は、ギャップセンサ21から変換部31に出力される。
変換部31は、例えばトランジスタ等を用いた増幅回路を備え、ギャップセンサ21からの微弱な検知信号を増幅して、アナログ信号処理部32及びデジタル信号処理部33へ出力する。
【0040】
アナログ信号処理部32は、分周部35及び回転数算出部36を備えている。
【0041】
分周部35は、変換部31で増幅されたギャップセンサ21の検知信号(アナログ信号)が入力され、この検知信号を所定回数(本実施形態では、翼13の枚数と同じ11回)で分周して、圧縮機羽根車12の回転数に同期した回転数信号を出力する。
回転数算出部36は、分周部35からの回転数信号の数をカウントすることで圧縮機羽根車12の回転数を演算する。
【0042】
デジタル信号処理部33は、アナログ・デジタル変換部(以下「ADC」という。)37、選別部38、及び判定部39を備える。
【0043】
ADC37は、ギャップセンサ21から出力される検知信号を所定のサンプリング周期によってアナログ信号からデジタル信号に変換する。例えば、
図4において破線がサンプリング間隔であり、アナログ波形上の黒点がADC37によってサンプリングされた検知信号である。
【0044】
選別部38は、ADC37によってデジタル化された検知信号を、翼13を検知したとみなせる翼検知信号及び翼13を検知したとみなせない非翼検知信号に選別する。なお、非翼検知信号は、翼13ではなくロータ17又は翼13の付け根を検知した検知信号である。
図4に示される閾値Aは、翼検知信号及び非翼検知信号を選別するためのものであり、選別部38によって、閾値A以上の検知信号が翼検知信号として選別され、閾値A未満の検知信号が非翼検知信号として選別される。
【0045】
判定部39は、翼検知信号を他の翼13に対する翼検知信号及び非翼検知信号で相対的に比較することで、翼13の頂点(以下「翼ピーク」という。)とみなせる翼検知信号を抽出し、抽出した翼検知信号に基づいて圧縮機羽根車12の状態を判定する。
【0046】
判定部39は、上記抽出を行う抽出部40と共に、軸振動判定部41及びチップクリアランス判定部42を備える。
軸振動判定部41は、圧縮機羽根車12の振動状態を判定する。
チップクリアランス判定部42は、圧縮機羽根車12の翼ピークの最大値と圧縮機ケーシング14の内周面との間のクリアランス(
図4も参照)の状態を判定する。
【0047】
なお、デジタル信号処理部33が備える選別部38及び判定部39は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等から構成されている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。なお、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等である。
【0048】
ここで、圧縮機羽根車12は、例えば3000rpmといった高速で回転している。このため、精度良く圧縮機羽根車12と圧縮機ケーシング14との距離を検知するためには、ADCが高速サンプリングで検知信号をデジタル化することが好ましい。ここでいう高速サンプリングとは、1枚の翼13に対して、例えば3回以上サンプリングすることで、翼ピークを明確に判定可能とするサンプリング周期である。しかし、高速サンプリングを行うためには、高性能なADCを要する等のコスト増を伴う。
【0049】
そこで、本実施形態に係る状態監視装置30は、高速でないサンプリング周期として、例えば、1枚の翼13を1回又は2回のみサンプリングできる程度のサンプリング周期(以下「低速サンプリング」ともいう。)で検知信号をデジタル化することで、高性能なADCを不要とする。
【0050】
本実施形態に係るADC37によるサンプリング周期は、1枚毎の翼13がギャップセンサ21に対向する位置を通過する時間間隔に基づき決定される。
下記(1)〜(4)式は、本実施形態に係るADC37による低速サンプリング周期を決定する算出式の一例である。
【0051】
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【0052】
(1),(2)式は、翼13のチップ部の周速V(m/s)の算出式であり、Dはギャップセンサ21の設置位置に対応する圧縮機羽根車12の外周径(m)、ωは角速度(rad/s)、Nは圧縮機羽根車12の回転数(rpm)である。そして、ωは圧縮機羽根車12の回転数N(rpm)を用いて(2)式のように変換される。
また、(3)式は、1枚毎の翼13がギャップセンサ21を通過する周波数F(Hz、以下「翼間通過周波数」という。)の算出式であり、nは翼13の枚数である。
そして、Fsはサンプリング周波数(Hz)であり、本実施形態では、一例として(4)式に示すように翼間通過周波数Fの10倍とする。
【0053】
ここで、例えば、直径Dが35mm、翼13の枚数nが11枚、回転数ωが28000rpmの場合、チップ部の周速Vは51.3m/s、翼間通過周波数Fが5100Hzとなり、サンプリング周波数Fsは51kHzとなるので、ADC37のサンプリング周波数を50kHzとすることで、翼ピークをサンプリング可能となる。
【0054】
図5に低速サンプリングの一例を示す。
図5に示す波形上の黒点は、本実施形態に係るADC37によってサンプリングされた検知信号の一例である。
図5に示されるように、各翼13及びその周囲を示す波形に対して、低速サンプリングによって10個の検知信号(v1〜v10)をサンプリングできる。このうち、2個(v2,3)が閾値Aを超え、翼13を示す翼検知信号である。なお、検知信号v1,4〜9は、閾値A未満であるため非翼検知信号である。
【0055】
しかし、低速サンプリングで検知信号をデジタル化すると、デジタル化された翼検知信号が必ず翼ピークを示すとは限らず、翼ピークからずれた翼位置を示す検知信号がデジタル化される可能性がある。
すなわち、翼ピークを示す検知信号がサンプリングされることが望ましいが、低速サンプリングでは、
図6の破線で示される翼13に対する検知のように、翼13の中央(腹ともいう。)を検知した検知信号がサンプリングされる可能性がある。
このように、翼ピークとみなせない翼検知信号を含んで、圧縮機羽根車12の状態が判定されると、誤った判定が行われる可能性がある。
【0056】
そこで、判定部39が備える抽出部40によって、各翼検知信号が他の翼13に対応する翼検知信号及び非翼検知信号で比較され、翼ピークとみなせる翼検知信号(以下「翼ピーク検知信号」という。)が抽出される。
抽出部40による比較方法としては、例えば、翼検知信号毎に非翼検知信号との差を翼13の高さ(以下「翼高さ」という。)として算出し、各翼検知信号が示す翼高さに基づいて、翼ピーク検知信号を抽出する。且つ、非翼検知信号は検出頻度が増えるため、非翼検知信号は回数をカウントしない。非翼検知信号をカウントしないことで誤った判定は行われない。
翼高さの算出方法としては、例えば、非翼検知信号の最低値と各翼検知信号との差を各翼検知信号の翼高さとする方法、又は非翼検知信号の平均値と各翼検知信号との差を各翼検知信号の翼高さとする方法が用いられる。
【0057】
なお、本実施形態に係る抽出部40は、翼ピーク検知信号の抽出の際に、翼検知信号に対して重み付けを行う。具体的には、最も高い翼高さを示す翼検知信号からのずれ量が大きい程、翼検知信号に対してより小さな重み付けを行う。
【0058】
重み付けについて
図4を参照して説明する。
図4の紙面右側に示されるように、抽出部40は、複数回のサンプリングによる翼検知信号が示した値(翼高さ)及び非翼検知信号が示した値毎の回数を得る。抽出部40は、この回数に基づいて、翼検知信号の最高値が最も大きい重みとなり、翼検知信号の最低値が最も小さい重みとなるように重み係数を決定する。
【0059】
すなわち、圧縮機羽根車12は、微小な振動をしながら回転しているので、翼検知信号が翼ピークを検知しても、その大きさにはばらつきが生じる(
図4の一点鎖線で示される翼ピークの振幅)。従って、翼高さの値の小さな翼検知信号が、翼ピークの検知結果であるのか、又は翼13の腹の検知結果であるのかが判然としない場合がある。そこで、翼高さの値の回数(頻度)を求め、この回数に基づいて翼検知信号の値毎の重み係数を決定し、決定した重み係数を各翼検知信号の値に乗算する。
すなわち、最多回数の値及びそれよりも大きい値に対応する翼検知信号は、翼ピークを示していると考えられるものの、最多回数の値よりも小さな値の翼検知信号ほど、翼ピークを示していない可能性が高い。この関係性をより明確にするために、翼検知信号に重み付けを行い、翼ピーク検知信号の抽出を容易とする。
【0060】
なお、重み係数は、上述したように翼検知信号の最高値が最大となり、翼検知信号の最低値が最小となるように決定されるが、最多回数の値に対応する重みと最高値に対応する重みとの差は小さく、最多回数の値に対応する重みと最低値に対応する重みとの差は大きくなるように決定される。
【0061】
そして、抽出部40は、例えば、重み係数が乗算された値が所定の閾値以下の翼検知信号を翼ピーク検知信号とはみなさず、上記閾値を超えた翼検知信号を翼ピーク検知信号として抽出する。
図4の例では、N1の翼13に対する翼検知信号が翼ピークを検知していないとみなされる検知信号である。
【0062】
図7は、デジタル信号処理部33で実行される本実施形態に係る羽根車状態判定処理の流れを示すフローチャートである。
【0063】
まず、ステップ100では、ギャップセンサ21が出力した検知信号を、ADC37が低速サンプリングでアナログ信号からデジタル信号に変換する。
【0064】
次のステップ102では、圧縮機羽根車12の状態判定を行うために必要とする所定数の検知信号を低速サンプリングし、記憶手段に記憶する。ここでいう所定数とは、一例として、圧縮機羽根車12の1回転に相当する数であり、本実施形態では11である。
【0065】
次のステップ104では、所定数の検知信号をサンプリングしたか否かを判定し、肯定判定の場合はステップ106へ移行する。一方、否定判定の場合はステップ100へ戻り、所定数の検知信号をサンプリングするまでステップ100,102を繰り返す。
【0066】
ステップ106では、低速サンプリングした検知信号から翼検知信号v
nを選別部38が選別する。
【0067】
次のステップ108では、翼検知信号v
nが示す値(翼高さ)及び翼検知信号v
nが示す翼高さ毎の回数に基づいて、翼検知信号v
n毎の重み係数w
nを決定する。
【0068】
次のステップ110では、翼検知信号v
nに対応する重み係数w
nを乗算する。
【0069】
次のステップ112では、重み係数w
nが乗算された翼検知信号v
nから翼ピーク検知信号を抽出する。
なお、ステップ108〜112の処理は、抽出部40によって実行される。
【0070】
次のステップ114では、抽出した翼ピーク検知信号に基づいて、軸振動判定部41が軸振動判定処理を実行し、チップクリアランス判定部42がチップクリアランス判定処理を実行することによって、圧縮機羽根車12の状態を判定する。
そして、この判定終了後に処理はステップ100へ戻り、新たに低速サンプリングした検知信号に基づいて、羽根車状態判定処理が行われる。
【0071】
図8は、軸振動判定部41で実行される本実施形態に係る軸振動判定処理の流れを示すフローチャートである。
【0072】
まず、ステップ200では、翼ピーク検知信号の最大値v
max及び最小値v
minを導出する。
【0073】
次のステップ202では、翼ピーク検知信号の最大値v
maxと最小値v
minとの差分を振動成分A
nとして算出する。
【0074】
次のステップ204では、振動成分A
nと予め定められた基準振動成分AAとを比較し、振動成分A
nが基準振動成分AAを超えたか否かを判定し、肯定判定の場合はステップ206へ移行する。一方、振動成分A
nが基準振動成分AAを超えない場合は、軸振動判定処理を終了し、ステップ100へ戻る。
基準振動成分AAは、回転機械の異常振動を検知するため閾値であり、振動成分A
nが基準振動成分AAに達すると、例えば、警報の報知や回転機械の自動停止が行われる。すなわち、基準振動成分AAは、警報設定値もしくは回転機械の自動停止設定値である。なお、基準振動成分AAは、異なる値が複数設定され、振動成分A
nが大きくなり複数の基準振動成分AAに達する毎に、警報の報知や回転機械の自動停止が段階的に行われてもよい。
【0075】
ステップ206では、軸振動が過大であるとして、警告を報知する。これにより、作業員は、過給機1を備える装置の停止、又は次回点検時における過給機1の修理等を行う。
【0076】
図9は、チップクリアランス判定部42で実行される本実施形態に係るチップクリアランス判定処理の流れを示すフローチャートである。
【0077】
まず、ステップ300では、翼ピーク検知信号の最大値v
maxを導出する。この最大値v
maxは、チップクリアランスに対応するクリアランスB
nとされる。
【0078】
次のステップ302では、クリアランスB
nと予め定められた基準クリアランスBBとを比較し、クリアランスB
nが基準クリアランスBBを超えたか否かを判定し、肯定判定の場合はステップ304へ移行する。一方、クリアランスB
nが基準クリアランスBBを超えない場合は、チップクリアランス判定処理を終了し、ステップ100へ戻る。
基準クリアランスBBは、翼13が圧縮機ケーシング14に接近したことを検知するため閾値であり、クリアランスB
nが基準クリアランスBBに達すると、例えば、警報の報知や回転機械の自動停止が行われる。すなわち、基準クリアランスBBは、警報設定値もしくは回転機械の自動停止設定値である。なお、基準クリアランスBBは、異なる値が複数設定され、クリアランスB
nが大きくなり複数の基準クリアランスBBに達する毎に、警報の報知や回転機械の自動停止が段階的に行われてもよい。
【0079】
ステップ304では、翼13が圧縮機ケーシング14に接触する可能性があるとして、警告を報知する。これにより、作業員は、過給機1を備える装置の停止、又は次回点検時における過給機1の修理等を行う。
【0080】
以上説明したように、本実施形態に係る状態監視装置30は、圧縮機羽根車12との距離を検知するギャップセンサ21を用いて、圧縮機羽根車12の回転数を監視する。
そして、状態監視装置30は、ADC37によって低速サンプリング周期でギャップセンサ21による検知信号をデジタル化し、選別部38によって、デジタル化された検知信号を、圧縮機羽根車12の翼13を検知したとみなせる翼検知信号及び翼13を検知したとみなせない非翼検知信号に選別する。さらに、判定部39によって、翼検知信号を他の翼13に対応する翼検知信号及び非翼検知信号で比較することで、翼ピークとみなせる翼ピーク検知信号を抽出し、抽出した翼ピーク検知信号に基づいて圧縮機羽根車12の状態として軸振動とチップクリアランスを判定する。
【0081】
このように、本実施形態に係る状態監視装置30は、複数の翼13の翼検知信号及び非翼検知信号を相対的に比較することで、翼ピークとみなせる翼ピーク検知信号を抽出して圧縮機羽根車12の状態を判定する。このため、翼13までの距離を示す検知信号が、翼13毎に最低1回でもサンプリングされればよいので、状態監視装置30は、高速サンプリングを行うことなく過給機1の状態を監視できる。
【0082】
以上、本発明を、上記実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更又は改良を加えることができ、該変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。また、上記実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0083】
例えば、上記実施形態では、圧縮機ケーシング14に1つのギャップセンサ21を備える形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、位相をずらした位置に複数のギャップセンサ21を備える形態としてもよい。
【0084】
例えば、上記実施形態では、本発明に係る回転機械を過給機1とする形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、羽根車を有する回転機械であれば、他の回転機械とする形態としてもよい。
【0085】
また、上記実施形態で説明した各処理の流れも一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりしてもよい。