特許第6239506号(P6239506)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239506
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】生体適合性ワイヤ電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/04 20060101AFI20171120BHJP
   H01M 6/06 20060101ALI20171120BHJP
   H01M 10/28 20060101ALI20171120BHJP
   H01M 4/24 20060101ALI20171120BHJP
   H01M 4/34 20060101ALI20171120BHJP
   H01M 4/50 20100101ALI20171120BHJP
   H01M 4/75 20060101ALI20171120BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20171120BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   H01M10/04 Z
   H01M6/06 Z
   H01M10/28 Z
   H01M4/24 H
   H01M4/34
   H01M4/50
   H01M4/75 Z
   H01M4/66 A
   H01M4/62 Z
【請求項の数】15
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-523974(P2014-523974)
(86)(22)【出願日】2012年7月26日
(65)【公表番号】特表2014-524643(P2014-524643A)
(43)【公表日】2014年9月22日
(86)【国際出願番号】US2012048229
(87)【国際公開番号】WO2013019525
(87)【国際公開日】20130207
【審査請求日】2015年5月12日
(31)【優先権主張番号】13/196,210
(32)【優先日】2011年8月2日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510294139
【氏名又は名称】ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Johnson & Johnson Vision Care, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】オッツ・ダニエル・ビー
(72)【発明者】
【氏名】ハーディ・キャサリン・ローワン
(72)【発明者】
【氏名】ピュー・ランドール・ブラクストン
(72)【発明者】
【氏名】カーニック・エドワード・アール
【審査官】 松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−088019(JP,A)
【文献】 特表2007−533098(JP,A)
【文献】 特開昭57−088668(JP,A)
【文献】 特開平07−065817(JP,A)
【文献】 特開2001−110445(JP,A)
【文献】 特開2010−073533(JP,A)
【文献】 特開昭57−136774(JP,A)
【文献】 特開平08−264203(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0261071(US,A1)
【文献】 特開平09−007629(JP,A)
【文献】 特開昭55−091567(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/007548(WO,A1)
【文献】 特開2000−228213(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/058574(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/04−32
H01M 4/24
H01M 4/34
H01M 4/50
H01M 4/66
H01M 4/75
H01M 6/02−18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ対直径比が10対1以上であり、環境に開放された端を有するワイヤ形状電気化学電池セルにおいて、
所定の断面形状を有するワイヤとして構成されたアノード電流コレクタと、
前記アノード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたアノード層と、
前記アノード層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたセパレータ層と、
前記セパレータ層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたカソード層であって、前記セパレータ層は、前記アノード層と前記カソード層との間の電気的接触を防止するよう構成される、カソード層と、
前記カソード層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたカソード電流コレクタと、
前記アノード層と前記カソード層との間にイオン伝導性を確立する電解質と、を含み、
前記アノード層が、ポリマーマトリックス内に分散された亜鉛粒子を含む、電気化学電池セル。
【請求項2】
前記カソード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置された絶縁層を更に含む、請求項1に記載の電気化学電池セル。
【請求項3】
前記アノード電流コレクタが、導電性材料で少なくとも部分的に覆われた非導電性材料を含む、請求項1に記載の電気化学電池セル。
【請求項4】
前記アノード電流コレクタが、金属材料を含む、請求項1に記載の電気化学電池セル。
【請求項5】
前記アノード電流コレクタが、炭素系材料を含む、請求項1に記載の電気化学電池セル。
【請求項6】
前記セパレータ層が、電解質透過性の、非導電性ポリマー材料を含む、請求項1に記載の電気化学電池セル。
【請求項7】
前記カソード層が、イオン透過性ポリマー結合剤中に、グラファイトと共に、AgO及びMnOのうち少なくとも1つを含む、請求項1に記載の電気化学電池セル。
【請求項8】
前記カソード電流コレクタが、グラファイト充填ポリマー、銀充填ポリマー、及びニッケル充填ポリマーのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の電気化学電池セル。
【請求項9】
前記ポリマーが、導電性シリコーン又はフルオロポリマーを含む、請求項8に記載の電気化学電池セル。
【請求項10】
長さ対直径比が10対1以上であり、環境に開放された端を有するワイヤ形状電気化学電池セルにおいて、
所定の断面形状を有するワイヤとして構成された少なくとも1つのアノード電流コレクタと、
所定の断面形状を有するワイヤとして構成された少なくとも1つのカソード電流コレクタであって、前記少なくとも1つのカソード電流コレクタは、前記少なくとも1つのアノード電流コレクタに近接しかつ所定の距離を分離するよう配置されており、前記少なくとも1つのアノード電流コレクタ及び前記少なくとも1つのカソード電流コレクタのそれぞれは対として構成される、少なくとも1つのカソード電流コレクタと、
前記少なくとも1つのアノード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたアノード層と、
前記少なくとも1つのカソード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたカソード層と、
前記アノード層と前記カソード層の両方の一部分の周りに形成されかつ配置されたセパレータ層であって、前記セパレータ層は前記アノード層と前記カソード層との間の電気的接触を防止するよう構成される、セパレータ層と、
前記アノード層と前記カソード層との間にイオン伝導性を確立する電解質と、を含み、
前記アノード層が、ポリマーマトリックス内に分散された亜鉛粒子を含む、電気化学電池セル。
【請求項11】
前記セパレータ層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置された絶縁層を更に含む、請求項10に記載の電気化学電池セル。
【請求項12】
長さ対直径比が10対1以上であり、環境に開放された端を有するワイヤ形状電気化学電池セルにおいて、
所定の断面形状を有するワイヤとして構成されたカソード電流コレクタと、
前記カソード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたカソード層と、
前記カソード層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたセパレータ層と、
前記セパレータ層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたアノード層であって、前記セパレータ層は、前記カソード層と前記アノード層との間の電気的接触を防止するように構成される、アノード層と、
前記アノード層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたアノード電流コレクタと、
前記カソード層と前記アノード層との間にイオン伝導性を確立する電解質と、を含み、
前記アノード層が、ポリマーマトリックス内に分散された亜鉛粒子を含む、電気化学電池セル。
【請求項13】
前記アノード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置された絶縁層を更に含む、請求項12に記載の電気化学電池セル。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の電気化学電池セルを組み込んだ装置において、
少なくとも1組の陽極及び陰極の電気的接触点を有する、電力で作動可能な構成要素と、
前記電力で作動可能な構成要素の中又は上に組み込まれたワイヤ形状電気化学電池セルとを含み、前記ワイヤ形状電気化学電池セルは、前記少なくとも1組の陽極及び陰極の電気的接触点に相互接続されたアノード電流コレクタ及びカソード電流コレクタを有し、これによって完全な回路を形成する、電気化学電池セルを組み込んだ装置。
【請求項15】
装置と共に使用するための、請求項1〜13のいずれか1項に記載の電気化学電池セルを形成する方法において、
ワイヤ形状電気化学電池セルの供給物から、ある長さのワイヤ形状電気化学電池セルを引き出すことであって、前記ワイヤ形状電気化学電池セルはアノード電流コレクタ及びカソード電流コレクタを含む、引き出すことと、
前記ワイヤ形状電気化学電池セルの供給物から、所定の長さのワイヤ形状電気化学電池セルを分離することと、
電力が供給される装置との電気的接触を行うために前記アノード電流コレクタ及び前記カソード電流コレクタの両方の一部分を提供することと、
前記電力が供給される装置との使用のために、そのワイヤ形状電気化学電池セルを所定の形状に形成することと、を含む、装置と共に使用するための電気化学電池セルを形成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電式電気化学電池を目的とし、より具体的には、生体組織に埋め込まれ又は近接して配置される装置、並びにその他の非従来型電池形態を必要とする装置に、電源を供給するための、ワイヤとして形成された、生体適合性の充電式電気化学電池を目的とする。
【背景技術】
【0002】
近年、埋め込み可能医療用装置の数が劇的に増加している。例えば、過去10年間にわたって、ステント、薬剤溶出ステント、ペースメーカー、除細動器、心室補助装置、グルコース輸液ポンプ、及び神経刺激器の使用は、数倍に増加している。上に列記した例、及び数多くの他の埋め込み可能及び/又は非埋め込み可能医療用装置のうち一部は、能動型装置であり、動作のために電源を必要とする。埋め込み可能又は非埋め込み可能医療用装置と共に利用される電源又は電池は、典型的に、物理的寸法と性能に対して、厳しい仕様が課されている。埋め込み可能医療用装置用に設計された旧世代の電池は、より大型の装置であり、比較的短い耐用年数であった。しかしながら、薬剤送達、グルコース検出及びモニタリング、並びに神経刺激などの多様な用途向けに超小型の埋め込み可能医療用装置の出現により、有用な電力を提供することができ、かつこれまでにない小占有容積の電池が必要とされている。埋め込まれる電池は、サイズが小型であることに加え、好ましくは、耐用年数、ごく小さな自己放電率、長期間にわたる高い信頼性、及び患者の体内化学環境との適合性(換言すれば、できる限り生体適合性であるべきである)を備えているべきである。このニーズに対応するため、生体適合性コーティング及び/又は封止材を利用することができる。
【0003】
特定の電池化学反応(例えば、リチウム化学反応)には、電池が気密封止されていることが必要である。しかしながら、気密封止パッケージングは達成が困難な非標準形態要素を生み出し得る。したがって、別の化学反応を利用して、気密封止の必要をなくすことができる。
【0004】
上記に簡単に述べた装置は、一部の従来の動力又は電力消費をする埋め込み可能医療用装置も含まれると見なされる。最近では、能動型構成要素(すなわち、エネルギーを必要とする構成要素)を、従来の受動型装置に組み込むことが可能であることが理論化されている。例えば、コンタクトレンズは、レンズの屈折性を取り入れることによって視力矯正機能を提供している。加えて、コンタクトレンズに色素変化性を組み入れることによって、美観の強化を提供することができ、並びに、試薬及び/又は薬剤をコンタクトレンズに組み入れることによって治療的機能を提供することができる。これらの機能は、受動的に、すなわちコンタクトレンズにエネルギーを供給することなく、達成される。受動モードで動作するもう1つの装置が、涙点プラグである。これは、涙点からの涙の流出を遅くすることにより、ドライアイの治療に利用するものである。しかしながら、上述のように、能動的構成要素を、従来の受動的装置(例えば、コンタクトレンズ及び/又は涙点プラグ)に組み込むことが可能であることが理論化されている。例えば、コンタクトレンズの能動的構成要素により、レンズの屈折率を変化させることが可能になり得る。加えて、涙点プラグに、治療薬を放出するためのマイクロサイズポンプを含めることができる。本明細書で使用するとき、用語「涙点プラグ」は、下涙点又は上涙点を介してそれぞれ眼の下涙小管内又は上涙小管内に挿入するのに適した寸法及び形状を有する装置を指す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、これらの装置の寸法及び形状要件、並びにこれらの新しい能動的構成要素のエネルギー要件に適合した、電池の電源供給のニーズが存在する。これらの超小型又はマイクロサイズ電池は、有用な電源出力を供給し、許容可能な速度で充電が可能であり、有用なサイクル寿命を有し、深放電状態で長期間にわたって動作可能であり、電解質漏れのリスクに対して実質的に安全であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の生体適合性の充電式電気化学電池は、埋め込み可能及び/又は非埋め込み可能な医療用装置並びに非医療用装置用に現在利用されている電池に伴う数多くの欠点を克服する。
【0007】
一態様により、本発明は、ある電気化学電池セルを目的とする。この電気化学電池セルは、所定の断面形状を有するワイヤとして構成されたアノード電流コレクタと、そのアノード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたアノード層と、そのアノード層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたセパレータ層と、そのセパレータ層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたカソード層と、そのセパレータ層は、そのアノード層とそのカソード層との間の電気的接触を防止するよう構成されており、そのカソード層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたカソード電流コレクタと、そのアノード層とそのカソード層との間にイオン伝導性を確立する電解質と、を含む。
【0008】
別の一態様により、本発明は、ある電気化学電池セルを目的とする。この電気化学電池セルは、所定の断面形状を有するワイヤとして構成された少なくとも1つのアノード電流コレクタと、所定の断面形状を有するワイヤとして構成された少なくとも1つのカソード電流コレクタと、その少なくとも1つのカソード電流コレクタは、その少なくとも1つのアノード電流コレクタに近接しかつ所定の距離を分離するよう配置されており、ここにおいてこの少なくとも1つのアノード電流コレクタ及び少なくとも1つのカソード電流コレクタのそれぞれは対として構成されており、その少なくとも1つのアノード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成かつ配置されたアノード層と、その少なくとも1つのカソード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成かつ配置されたカソード層と、そのアノード層とそのカソード層の両方の一部分の周りに形成かつ配置されたセパレータ層と、そのセパレータ層はそのアノード層とそのカソード層との間の電気的接触を防止するよう構成されており、並びに、そのアノード層とそのカソード層の間のイオン伝導性を確立する電解質と、を含む。
【0009】
別の一態様により、本発明は、ある電気化学電池セルを目的とする。この電気化学電池セルは、所定の断面形状を有するワイヤとして構成されたカソード電流コレクタと、そのカソード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたカソード層と、そのカソード層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたセパレータ層と、そのセパレータ層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたアノード層と、そのセパレータ層は、そのカソード層とそのアノード層との間の電気的接触を防止するよう構成されており、そのアノード層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたアノード電流コレクタと、そのカソード層とそのアノード層との間にイオン伝導性を確立する電解質と、を含む。
【0010】
別の一態様により、本発明は、ある電気化学電池セルを組み込んだ装置を目的とする。この装置は、少なくとも1組の陽極及び陰極の電気的接触点を有する、電力で作動可能な構成要素と、その電力で作動可能な構成要素の中又は上に組み込まれたワイヤ形状電気化学電池セルとを含み、このワイヤ形状電気化学電池セルは、その少なくとも1組の陽極及び陰極の電気的接触点に相互接続されたアノード電流コレクタ及びカソード電流コレクタを有し、これによって完全な回路を形成している。
【0011】
別の一態様により、本発明は、ある潜在的電気化学電池セルを目的とする。この潜在的電気化学電池セルは、所定の断面形状を有するワイヤとして構成された少なくとも1つのアノード電流コレクタと、そのアノード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成かつ配置されたアノード層と、そのアノード層は還元性材料に変換可能な前駆体還元性材料から形成されており、そのアノード層の少なくとも一部分の周りに形成かつ配置されたセパレータ層と、そのセパレータ層の少なくとも一部分の周りに形成かつ配置されたカソード層と、そのカソード層は酸化性材料に変換可能な前駆体酸化性材料から形成され、そのセパレータ層は、そのアノード層とそのカソード層との間の電気的接触を防止するように構成され、そのカソード層の少なくとも一部分の周りに形成かつ配置されたカソード電流コレクタと、並びに、そのアノード層とそのカソード層の間のイオン伝導性を確立する電解質と、を含む。
【0012】
別の一態様により、本発明は、ある潜在的電気化学電池セルを目的とする。この潜在的電気化学電池セルは、所定の断面形状を有するワイヤとして構成された少なくとも1つのカソード電流コレクタと、そのカソード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成かつ配置されたカソード層と、そのカソード層は酸化性材料に変換可能な前駆体酸化性材料から形成されており、そのカソード層の少なくとも一部分の周りに形成かつ配置されたセパレータ層と、そのセパレータ層の少なくとも一部分の周りに形成かつ配置されたアノード層と、そのアノード層は還元性材料に変換可能な前駆体還元性材料から形成されており、ここにおいてそのセパレータ層はそのカソード層とそのアノード層との間の電気的接触を防止するよう構成されており、そのアノード層の少なくとも一部分の周りに形成かつ配置されたカソード電流コレクタと、並びに、そのカソード層とそのアノード層の間のイオン伝導性を確立する電解質と、を含む。
【0013】
別の一態様により、本発明は、ある電気化学電池セルを目的とする。この電気化学電池セルは、所定の断面形状を有するワイヤとして構成された少なくとも1つのアノード電流コレクタと、所定の断面形状を有するワイヤとして構成された少なくとも1つのカソード電流コレクタと、その少なくとも1つのカソード電流コレクタは、その少なくとも1つのアノード電流コレクタに近接しかつ所定の距離を分離するよう配置されており、ここにおいてこの少なくとも1つのアノード電流コレクタ及び少なくとも1つのカソード電流コレクタのそれぞれは対として構成されており、その少なくとも1つのアノード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成かつ配置されたアノード層と、そのアノード層は還元性材料に変換可能な前駆体還元性材料から形成されており、その少なくとも1つのカソード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成かつ配置されたカソード層と、そのカソード層は酸化性材料に変換可能な前駆体酸化性材料から形成されており、そのアノード層とそのカソード層の両方の少なくとも一部分の周りに形成かつ配置されたセパレータ層と、そのセパレータ層はそのアノード層とそのカソード層との間の電気的接触を防止するよう構成されており、並びに、そのアノード層とそのカソード層の間のイオン伝導性を確立する電解質とを含む。
【0014】
別の一態様により、本発明は、ある装置と共に使用するためのある電気化学電池セルを形成する方法を目的とする。この、装置と共に使用するためのある電気化学電池セルを形成する方法は、ワイヤ形状電気化学電池セルの供給物から、ある長さのワイヤ形状電気化学電池セルを引き出すことと、そのワイヤ形状電気化学電池セルはアノード電流コレクタ及びカソード電流コレクタを含んでおり、そのワイヤ形状電気化学電池セルの供給物から、所定の長さのワイヤ形状電気化学電池セルを分離することと、電力が供給される装置との電気的接触を行うためにそのアノード電流コレクタ及びそのカソード電流コレクタの両方の一部分を提供することと、その電力が供給される装置との使用のために、そのワイヤ形状電気化学電池セルを所定の形状に形成することと、を含む。
【0015】
本発明の生体適合性の充電式電気化学電池は、ワイヤ形状である。このワイヤ電池は、生体の体内又は身体に近接して使用するよう設計され、小型で、利用しやすく、柔軟性で、かつ安価な、充電式電気化学電池であり、任意の数の身体用途のために、信頼性の高い安定した電力を供給する。本発明の生体適合性の充電式電気化学電池は、例えば、スマートクレジットカード又はアクティブRFIDタグなどの、非従来型形態の要素及びマイクロ規模サイズを必要とするような、任意の数のその他好適な用途に利用することもできる。この電池は、ワイヤが最終的にどのように構成されるか、及び利用時のワイヤの長さにかかわらず、同じ開回路電圧を提供しつつ、特定の用途用の寸法に切断することができる。更に、所与の切断長さの電池について、様々な断面寸法を指定することができ、ここにおいて、例えば、より高い容量を達成するためなど、所与の用途に対して、様々な性能属性に合わせることができる。
【0016】
従来型の電池は、低い長さ対直径比を有し、一般にこれはアスペクト比と呼ばれ(例えば、単三電池は約3.7のアスペクト比、及び単四電池は約4.7のアスペクト比を有する)、ここにおいて本発明のワイヤ形状電池は、10対1よりも顕著に大きな桁の、非常に大きな長さ対直径比を有することができる。アスペクト比は相対的なものであることを認識することが重要である。これは、形状因子が装置設計の拘束条件である場合に特に有利であり得る。例えば、本発明のワイヤ形状電池は、幅広い装置に対して電力を供給するのに使用することができ、これには、能動的構成要素を有するコンタクトレンズ、能動的構成要素を有する涙点プラグ、能動的構成要素を有する眼内レンズ、又は、治療薬導入若しくは治癒促進のための能動的構成要素を有するステントが挙げられる。これらの用途の特定のものにおいて、装置の寸法拘束条件により、このワイヤを短く切断しなければならないことがあり、したがって、そのアスペクト比は低減されることがある。
【0017】
従来型のアルカリ電池は、ワイヤ・シェル構成体(例えば、単三電池の「缶」)、あるいは、トップ・ボトム構成体(例えば、ボタン電池)を有する。他の「缶」の電池は、巻き付けたラミネートの「ゼリーロール」構成体を有し、これにより電気化学反応に利用できる材料の表面積を増大させている。本発明のワイヤ形状電池は、従来型構成体のいずれのものよりも大きな表面積(セパレータの)対容積(活性材料の)比を達成することができる。これにより、本質的に小さな寸法の電池であるにも関わらず、高性能の放電及び充電率性能が可能になる。従来型電池においては、容量は標準電池寸法によって指定されているが、ワイヤ電池の場合は、容量は線形エネルギー密度(すなわち、マイクロアンペア時/分)として指定される。
【0018】
従来型電池は、ある程度の排気を可能にするためのポリマー通気口を含んだ閉じた容器内に圧着された金属缶内にある。充電式アルカリ化学反応では、金属缶の破裂を防止するために、従来の電池には、特定の気体再結合触媒が必要となり得る。更に、一部の従来型及び充電式アルカリ電池は、高純度でかつ亜鉛と水との副反応(水素ガスが発生してこれにより漏れや破裂を起こすことがある)の速度を抑えることができる特殊な電池グレードの亜鉛合金が必要となる。最近の環境規制より以前は、電池グレードの亜鉛合金の代わりに水銀が利用されていた。本発明のワイヤ形状電池は、缶型のパッケージングを有しておらず、本質的に水分と気体の両方の透過性に関して環境に開放されている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明の前述の特徴及び利点、並びに他の特徴及び利点は、以下の付属の図面に示される本発明の好ましい実施態様のより詳細な説明から明らかとなるであろう。
図1】本発明による代表的な生体適合性単線式電池の部分的断面切り欠き図である。
図2】本発明による生体適合性単線式電池を利用した簡略化回路の概略図である。
図3】本発明による別の代表的な生体適合性2線式電池の部分的断面切り欠き図である。
図4】本発明による代表的な生体適合性2線式電池を並列構成で利用した簡略化回路の概略図である。
図5】本発明による代表的な生体適合性2線式電池を逆並列構成で利用した簡略化回路の概略図である。
図6】本発明による代表的な生体適合性複線式電池を、隣接するセルを直列に接続した並列構成で利用した、簡略化回路の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
電池、電池セル、又はセルは、その電池を構成している活性材料に含まれている化学的エネルギーが、電気化学的酸化還元反応により電気エネルギーに直接変換される装置である。これらの電池、電池セル、又はセルは、大きく分けて、1回限りの放電サイクル用に意図され最適化されており非充電可能な一次電池と、酸化還元反応の逆転により充電可能な二次電池とに分類することができる。一次電池は、良好な貯蔵寿命、低〜中程度の放電率で高エネルギー密度、低メンテナンス、及び使い易さを含む、数多くの利点を提供する。二次電池も、再充電能力に加え、高い電力密度、高い放電率、平坦な放電曲線、及び低温性能を含む、数多くの利点を提供する。二次電池は典型的に、充電保持性が一次電池よりも悪いが、この欠陥は、二次電池が再充電可能であるという事実によって相殺される。説明を簡単にするために、用語「電池」とは、本明細書において、1つの電気化学セル、又は、望ましい出力電圧及び容量に応じて並列若しくは直列に接続された複数の電気化学セルを含む装置を意味するために使用するものとする。
【0021】
第三の電池タイプは、予備電池である。このタイプの電池では、活性化されるまでは、電池のセグメントが他の構成要素から分離されている。活性化されるまでは化学反応がないため、このタイプの電池は長期間保管することができる。
【0022】
電池セル又はセルは、3つの主な構成要素を含む。これらは、アノード(陰極)、カソード(陽極)及び電解質(イオン性導電体)である。アノードはエネルギー供給電極であり、外部の回路又は負荷に電子を供給し、電気化学反応中に酸化される。アノード材料は好ましくは、還元剤として高効率であり、高いクーロン出力(Ah/g)、良好な導電性、良好な安定性を有し、取り扱いが簡単で、低コストである。電池が体内で使用される場合は、このアノード材料は好ましくは、製造できる限り生体適合性であり、あるいは身体と直接接触しないよう保護されている。カソードは酸化電極であり、外部の回路又は負荷から電子を受け取り、電気化学反応中に還元される。カソード材料は好ましくは、酸化剤として高効率であり、電解質と接触した状態で安定であり、有用な動作電圧を有する。電池が体内で使用される場合は、このカソード材料は好ましくは、アノード材料と同様に、製造できる限り生体適合性であり、あるいは身体と直接接触しないよう保護されている。電解質材料は、セル内においてアノードとカソードの間での電荷移動のための媒体をイオンとして提供する材料である。電解質材料は好ましくは、電子的伝導性を持たずに良好なイオン伝導性を有し、電気化学的に安定であり、電極材料に対して非反応性であり、温度変改に伴う変化がほとんどなく、安全に取り扱いができ、低コストである。典型的な電解質は水溶液又はポリマーゲルであるが、固体ポリマー電解質などの他の材料及び形態を含んでもよい。ここでも、電池が体内で使用される場合は、この電解質は、できる限り生体適合性であり、あるいは身体と直接接触しないよう保護されているべきである。
【0023】
セルは、最終用途に適合する任意の好適な寸法、形状、及び/又は構成で構築することができる。アノードとカソードは、短絡を防ぐためセル内で電気的に絶縁されているが、少なくとも部分的に電解質に浸っている。したがって、電解質透過性のセパレータを利用して、アノードがカソードから物理的に分離される。本質的に、セル構成要素は、特定のセル形状に適合するように設計及び構成される。セルは、漏れを防ぎ及び/又は制御するよう密封することができ、また、蓄積した気体を放出させるための通気口も含み得る。セルを完成させるには、一般に、端子接続のための好適な手段が必要である。
【0024】
セルの放電モード時の動作は、次のように進行する。セルが外部回路又は負荷に接続されると、酸化されるアノードからの電子が、外部回路又は負荷を通って、カソードへと流れ、これが電子を受け取って還元される。この電気回路は電解質中で完成し、この電解質中でアニオン(負に帯電したイオン)がカソードからアノードへと流れ、カチオン(正に帯電したイオン)がアノードからカソードへと流れる。セルの充電モード時の動作は、次のように進行する。電極間に、外部回路の代わりに電源が接続され、電子がアノードへと流れ、これが反応のカソードになる。本質的に、この反応は、アノードがカソードになり、カソードがアノードになった逆転であり、アニオンとカチオンの流れも逆転する。様々な充電スキーム(例えば、一定電圧、一定電流の後に一定電圧、パルス充電、及び同様の方法)が利用できることに留意することが重要である。放電モードと充電モードの両方における反応は、アノードとカソードを含む材料に依存した、標準の電気化学的酸化還元反応という単純な用語で表現することができる。詳しくは後述されるように、電極に異なる材料を利用することにより、様々な電圧及び容量を達成することができる。
【0025】
アノード及びカソード材料の選択によって、セルの理論的電圧及び容量が決まる。電気セルにより供給可能な最大エネルギーは、使用される活性材料のタイプ及び使用される活性材料の量によって決まる。実際上は、セルの理論的エネルギーの一部のみが実現され、数多くの要素(非反応性構成要素の重量及び体積を含む)により、セルは理論的電圧での放電は行わないという事実によって平均電圧が下がり、またセルが完全にゼロボルトまで放電されないという事実によって、提供されるアンペア時が低下する。加えて、実際的なセルにおいて、活性材料は化学量論的に均衡しておらず、活性材料の一方のみの過剰量が化学反応に利用されるために、エネルギーが低下する。
【0026】
代表的な一実施形態により、本発明は、非従来型の電池又はセルを目的とする。より具体的には、代表的な生体適合性ワイヤ電池が本明細書で開示される。代表的な生体適合性ワイヤ電池は、生体の体内又は身体に近接して使用するよう設計され、好ましくは小型で、利用しやすく、安価で、柔軟性の、充電式電気化学電池であり、任意の数の身体用途並びに非身体用途のために、信頼性の高い安定した電力を供給する。本発明の好ましい代表的な実施形態は、埋め込み可能装置に関して本明細書で記述されているが、このワイヤ電池は、任意の数の用途に利用することができる。加えて、ワイヤ形態であるこの電池は、ワイヤが最終的にどのように構成されるか、及び利用時のワイヤの長さにかかわらず、同じ出力特性を提供しつつ、特定の用途用の寸法に切断することができる。低アスペクト比(長さ対直径)を有する従来型の電池に比べ、ワイヤ形態電池は、例えば、10:1を大幅に上回る高いアスペクト比を有することができる。特定の用途において、ワイヤ電池は短く切断することが必要となり得る。換言すれば、所与の用途の幾何学的要件に適合させるため、アスペクト比を低くすることができる。これは、形状因子が望ましい設計属性である場合に特に有利であり得る。例えば、本発明のワイヤ形状電池は、スマートコンタクトレンズ、スマート涙点プラグ、及びスマート眼内レンズなどの、電力を必要とする任意の数の医療用装置と共に利用することができる。
【0027】
本発明の生体適合性ワイヤ電池は、たくさんの設計バリエーションを含み得る。例えば、代表的な一実施形態において、生体適合性ワイヤ電池は、アノードがカソードによって包み込まれている構成を含み得る。別の代表的な一実施形態において、生体適合性ワイヤ電池は、カソードがアノードによって包み込まれている構成を含み得る。他の代表的な実施形態には、上記の設計のバリエーションが含まれ得、詳しくは後述される。例えば、生体適合性ワイヤ電池は、1つ又は複数のアノード/カソード対を備えた構成を含み得る。加えて、この電池の構成要素の全てについて、様々な好適な材料を利用することができ、これについては本明細書で詳しく説明される。図1は、本発明によるある代表的な生体適合性ワイヤ電池100の部分的断面切り欠き図を示す。
【0028】
図1に示される代表的な実施形態において、ワイヤ電池のコアは、アノード電流コレクタ102を含む。アノード電流コレクタ102は、電池100の使用又は適用に応じて、任意の好適な形状、寸法及び材料を含み得る。このアノード電流コレクタ102は、任意の好適な導電性材料を含み得、又は、導電性材料でコーティングされた非導電性基材で製造することができる。アノード電流コレクタ102は、身体に接触する可能性があるため、好ましくは、実際的である限り生体適合性であるか、又は任意の好適な方法で身体に対して保護されている。図示されている代表的な一実施形態において、アノード電流コレクタ102は、実質的に円形の断面を備え、約75マイクロメートルの直径を有する銅線を含む。このアノード電流コレクタ102はまた、ニッケル、金及び/又はグラファイト系コーティングなどの、腐食又は化学的活性を制限する材料で、メッキ又はコーティングすることもできる。メッキが利用される場合、任意の数の好適な周知の技法を利用することができる。加えて、外形及び/又は寸法が重要な設計拘束条件であり、メッキ又はコーティングが利用される場合は、下になる基材の外形は、追加される層を受容するために低減することができる。
【0029】
別の代表的な一実施形態において、アノード電流コレクタ102は、単一の炭素繊維フィラメント又は複数のフィラメント炭素繊維撚糸を含み得る。本明細書で使用されるとき、「炭素」又は「炭素系材料」には、全ての元素形状の炭素が含まれるものとする。好ましくは、アノード電流コレクタ材料の量は、好適な処理と最終用途性能を提供するのに必要な最少量に抑えるべきである。換言すれば、アノード電流コレクタ102の寸法は、その最終用途に望ましい設計属性に適合するように選択される。
【0030】
本明細書に記述される寸法範囲の炭素繊維フィラメントは、市販されている。例えば、Zoltek Companies,Inc.から販売されているPanex(登録商標)35と呼ばれる市販の単フィラメント炭素繊維は、7マイクロメートルの直径を有する。一体化回路のワイヤ結合に利用される銅線及び金線は、直径25マイクロメートル以下のものが市販されている。本質的に、アノード電流コレクタ102の断面直径の唯一の制限は、電気的及び機械的性能属性が好適なプロセスを用いるのに適合し得るかどうかである。
【0031】
アノード電流コレクタ102の周りに同心的に配置されるのは、アノード層104である。用語「同心的」は、図1の代表的実施形態に関する仕様全体で使用されているが、本明細書に記述される様々な構成要素は、同心的に配置されている必要はない。前述のように、アノード層104は、還元剤として作用する任意の数の好適な材料を含み得る。アノード材料には、H、Li、Na、Mg、Al、Ca、Fe、Zn、Cd、Pb、リチウムの層間化合物(例えば、(Li)C)、及びメタルハイドライドが挙げられるが、ただし、アノード構成体には他の数多くの材料が利用でき、当該関連分野の業者により提示される。アノード層104は、任意の好適な構成を含み得るが、好ましくは、アノード電流コレクタ102の形状に従っており、これにより最小の外形が達成できる。アノード材料の選択は、電気化学的活性、及び、利用される環境との適合性を含む、数多くの要素に依存する。上述のように、アノード材料は好ましくはできる限り生体適合性であるか、又は身体に直接接触しないよう保護されている。アノード層104は、アノード材料からのみ形成された中実構造を含み得、あるいは、アノード材料を含む中実又は多孔質の複合物を含み得る。アノード層104は、スプレー、ワイヤ、及びディップコーティングプロセスを含む製造方法に応じて、任意の好適な方法によって、アノード電流コレクタ102の周囲に配置することができる。
【0032】
この代表的な実施形態において、アノード層104は、ポリマーマトリックス内に分散した亜鉛粒子を含む。アノード層104のポリマーマトリックスは、ポリアクリル酸又はカルボキシメチルセルロースなどのゲル形成ポリマーを含み得るが、これは機械的一体性を欠いているため、よって、好ましくは、結合ポリマー(例えば、ポリ(エチレンオキシド)又はポリ(ビニルアルコール))をも含めるか、あるいは、電池を構成する活性材料を支えて保持するのに何らかのパッケージが必要になることがある。ポリマーマトリックス中の亜鉛粒子の重量パーセントは、電池100の出力に必要なエネルギー量によって決定される。この亜鉛/ポリマーマトリックスに、他の材料も追加することができる。ポリマーマトリックスの物理化学的性質に対する付加的な制御は、架橋(例えば共有結合(化学的)架橋、又はクリスタライトによる鎖の物理的架橋)、イオン性クラスター、又は不溶性/不動化相分離ドメインによって達成することができる。アノード層104は、任意の好適な方法により架橋され得る。代表的な実施形態において、亜鉛粒径の実際的な上限は、約30〜50マイクロメートルの範囲で、平均粒径は約5〜10マイクロメートルである。より好ましくは、代表的なアノード層104は、平均粒径約3マイクロメートルの亜鉛ダストを含み、これは比較的低純度で約93パーセントであり、特定の合金ではない。ただし、有用な粒径分布を有する電池グレードの高純度亜鉛合金を利用することで、いくつかの利点があり得る。代表的な実施形態において、アノード層は厚さ約30マイクロメートルであるが、この厚さは変化し得る。
【0033】
アノード層104の実際的な最低厚さは、亜鉛粒子の粒径分布、並びに亜鉛層を構築するのに利用されるコーティングの数によって決まる。本明細書で使用されるとき、用語「厚さ」は、その層の局所的な偏差(例えば、塊、空隙、及び同様物)とは独立に、コーティング層の乾燥平均厚さを意味する。代表的な実施形態において、実際的なアノード層最低厚さは約10マイクロメートルである。アノード材料の更なる層をコーティングすることによって、合計のアノード層厚さは、最終形状においてより大きな直径を有するより大容量のセル(又は電池)を達成するように構築され得る。亜鉛と不活性ポリマーマトリックスとの比は、電解質の取込み、機械的一体性、及びエネルギー密度の好適なバランスを提供するように、改変又は改善することもできる。好ましい代表的な一実施形態において、アノード層104中の亜鉛粒子の乾燥重量は、約50〜98重量%であり得る。
【0034】
アノード層104はまた、導電性炭素繊維、ミルド導電性炭素繊維、カーボンナノワイヤ、及び/又はカーボンナノチューブを含み得る。これらの高アスペクト比導電性材料は、アノード層104全体にわたって強化された導通性を提供することができ、これはさもなければ、ポリマー結合剤と、そのポリマー結合剤が電解質又は環境中水分の吸収により膨潤を起こす可能性とによって中断され得たものである。本質的に、これらの材料は、より低い内部抵抗、活性材料のより高い利用度、並びに結合性及び取り扱い性などの機械的強化といった、特定の性能強化を提供することができる。これらの同じ材料は、詳しくは後述されるように、カソード層108にも利用することができる。
【0035】
アノード層104の周囲に同心的に配置されているのが、セパレータ層106である。前と同様に、セパレータ層は、それより上又は下の層と同心的である必要はない。セパレータ層106は、アノード層104とカソード層108との間に非導電性層を提供し、これについて詳しくは後述される。セパレータ層106は、ワイヤ電池100全体にわたって分散されている電解質に対して透過性である、任意の好適な非導電性材料を含み得、これについて詳しくは後述される。セパレータ層106は、任意の好適な構成を含み得るが、好ましくは、アノード層104の形状に従っており、これにより最小の外形が達成できる。代表的な実施形態において、セパレータ層106は、ディップコーティング、ワイヤコーティング、又はスプレーコーティングなどの任意の好適なプロセスを利用することによって、アノード層104の上にポリマーコーティングを構築することにより、その場で形成される。セパレータ層106は好ましくは、アノード層104とカソード層108との間の短絡を防ぐのに十分な厚さである。代表的な実施形態において、このセパレータ層106は、厚さ約20マイクロメートルであるが、この厚さは変化し得る。上述のように、セパレータ層106は好ましくはできる限り生体適合性であるか、又は身体に直接接触しないよう保護されている。
【0036】
好適なセパレータ層又はポリマー分離材料の例としては、ポリ(エチレンオキシド)及びポリ(アクリル酸)の混合物が挙げられるが、セパレータ構成体には多くの他の材料が利用でき、当該関連分野の当業者により提示される。セパレータは、任意の好適な方法によって架橋することができる。一般に、ポリマーセパレータは良好なフィルム形成特性を提供する構成成分と、例えばイオン透過性などの性能強化を提供する追加構成成分とを有するよう配合される。更に、ポリマーセパレータは、アノード104とカソード108とを互いに絶縁するのに役立つ充填材料をも含み得る。有用な充填材料の例としては、酸化アルミニウム、微結晶セルロース(例えば、コットンリンター)、ヒュームドシリカ、その他、好適な小粒径を備えかつ非導電性の任意の充填材料が挙げられる。このセパレータ層104は、電池の電解質収容を提供する付加的機能を有する。
【0037】
セパレータ層106の周囲に同心的に配置されているのが、カソード層108である。ここでも、この層は、それより上又は下の層と同心的である必要はない。前述のように、カソード層108は、酸化剤として作用する任意の数の好適な材料を含み得る。カソード材料には、O、Cl、SO、MnO、NiOOH、CuCl、FeS、AgO、Br、HgO、AgO、PbO及びIが挙げられるが、カソード構成体には他の数多くの材料が利用でき、当該関連分野の当業者により提示される。カソード層108は、任意の好適な構成を含み得るが、好ましくは、セパレータ層106の形状に従っており、これにより最小の外形が達成できる。代表的な実施形態において、カソード層108は、ディップコーティング、ワイヤコーティング、又はスプレーコーティングなどの任意の好適なプロセスを利用することによって、セパレータ層106の上に形成される。カソード材料の選択は、アノード材料と同様に、電気化学的活性、及び、利用される環境との適合性を含む、数多くの要素に依存する。代表的な実施形態において、カソード層108は、イオン透過性ポリマー結合剤中、又は水及びイオン透過性ポリマー結合剤中に、グラファイトと組み合わせて、AgO及び/又はMnOを含み、これによって、取り扱いに耐える機械的丈夫さと、電解質の取込みを提供する一方、良好な導電性と、カソード電流コレクタ110との良好な導通性を維持する。ここでも、カソード層108は好ましくはできる限り生体適合性であるか、又は身体に直接接触しないよう保護されている。アノード層104の場合と同様、カソード層108には、炭素繊維、カーボンナノワイヤ、及び/又はカーボンナノチューブ添加剤を利用することができる。カソード層108は、厚さ約40マイクロメートルであるが、この厚さは変化し得る。
【0038】
カソード層108は、活性材料(AgO及び/又はMnO)、導電性材料(グラファイト及び/又は炭素繊維、ナノワイヤ、及び/又はナノチューブ)、並びに添加剤(カーボンブラック、分散剤)を、完全な混合を確実に行うためボールミルにかけることによって形成される粉末混合物を含み得る。この粉末混合物をポリマー結合剤(ポリエチレンオキシド又はPEO/(ポリアクリル酸又はPAA配合物)の溶媒溶液中に分散させて、カソードコーティング混合物が形成される。カソードコーティング混合物を、その場で形成されたポリマーセパレータ層106の上に適用して、カソード層108が形成される。このカソード層は任意の既知の方法により架橋可能である。好ましくは、活性材料、導電性添加剤、及び結合剤ポリマーの量を調節して、機械的、電気的、及び処理性能のバランスをとる。
【0039】
カソード層108の周りに同心的に配置されるのは、カソード電流コレクタ110である。他の層の場合と同様、カソード電流コレクタ110は、同心的である必要はない。カソード電流コレクタ110は、電池100の使用又は適用に応じて、任意の好適な形状、寸法及び材料を含み得る。カソード電流コレクタ110は、カソード層108上に配置され得る任意の好適な導電性材料を含み得る。代表的な実施形態において、カソード電流コレクタ110は、グラファイト及び/又は銀充填ポリマー組成物を含む。カソード電流コレクタ110は厚さ約10マイクロメートルである。カソード電流コレクタ110は好ましくはできる限り生体適合性であるか、又は身体に直接接触しないよう保護されている。
【0040】
好ましくは、カソード電流コレクタ110組成物は、ワイヤ電池の他の層と同様、コーティングとして適用されるが、カソード電流コレクタ110の結合剤ポリマーは、測定可能な量の電解質又は水を吸収すべきではない。もし吸収が起こると、カソード電流コレクタ110の導電率が低下し、電池の性能も低下することがある。更に、電流コレクタ層100に特定の導電性構成成分があると、電解質と反応する可能性がある。しかしながら、カソード電流コレクタ110は水蒸気及びその他の気体に対して浸透性であるべきであり、これにより、電池の内部圧力が周囲環境と釣り合い、層の内部破裂の可能性を回避することができる。カソード電流コレクタ110に好適な材料は、グラファイト、銀及び/又はニッケル充填ポリマー(例えば、導電性シリコーン又はフルオロポリマー)である。他の導電性組成物も、その組成物が、カソード層108及び電解質との必要な化学的適合性と、望ましい機械的及び電気的性質とを提供するものである限り、制限なしに使用することができる。実際的な最低厚さは、カソード電流コレクタコーティング混合物のレオロジー特性、導電性充填剤の粒径、及びセルに必要な電気的特性(カソード電流コレクタの抵抗がこれを決める)によって規定される。カソード電流コレクタ110の典型的な厚さは、約10〜20マイクロメートルであり得る。
【0041】
これとは別に、「逆の」構成体又は設計の場合、例えば、アノード層が中央のカソード層を包み込んでいる場合、カソード電流コレクタ110は実際はアノード電流コレクタであり、中央ワイヤ102はカソード電流コレクタであることが認識され理解されよう。
【0042】
カソード電流コレクタ110の周りに同心的に配置されるのは、絶縁層112である。絶縁層112は、任意の他の層の周りに同心的に配置されている必要はない。絶縁層112は、様々な用途のために十分な柔軟性を提供しながら、電池100の様々な構成要素をまとめて保持するのに十分な強度を有する、任意の好適な生体適合性材料を含み得る。ワイヤ電池において、外形と柔軟性は重要な要素である。好ましくは、絶縁層112が用いられる場合、これは、電気的に非導電性でありながら、水分と気体の両方の透過性に関して環境に対して開放された材料を含み、これによって従来の電池のような通気口の必要が排除される。
【0043】
好適な絶縁材料の例としては、非導電性シリコーン、ポリウレタン、フルオロポリマー(特にアモルファスフルオロポリマー及びコポリマー)、エポキシ、エナメル、埋込用樹脂、コンフォーマルコーティング等が挙げられる。絶縁層112の厚さは、所定領域の総合的な被覆を提供し、かつ好適な機械的及び電気的性能を提供するのに必要な限りの薄さであり得る。絶縁層112の公称厚さは5マイクロメートルであり得る。好ましい絶縁材料は、制御可能な厚さで真空蒸着コーティングされるパリレン類であるが、ワイヤ電池の特定の代表的な実施形態では、様々な設計上の制限により、パリレンの使用が除外されることがある。パリレン(例えば、パリレンC)は、コーティングされる表面の化学的性質により影響を受けることなく、急速かつ均一に(すなわちコンフォーマルに)不規則な基材をコーティングできる能力があるため、好ましい。
【0044】
別の代表的な一実施形態において、絶縁層112は、ひと続き又は一体型構造としてカソード電流コレクタ110の一部であり得る。例えば、カソード電流コレクタ110は、内側構造がカソード電流コレクタであるために必要な全ての層と、外側構造が絶縁体であるために必要な全ての層とを含む、単層又は多層構造を含み得る。あるいは、カソード電流コレクタ110は、保護性と導電性の両方を備えた材料から製造され得る。そのような材料の例は、導電性シリコーン及びフルオロポリマーである。
【0045】
最も厳密な意味では、絶縁層は、電池の電気的機能に関しては純粋に任意のものである。例えば、これはカソード電流コレクタの一部として形成することができる。あるいは、絶縁層は医療用装置の一部であり得る。換言すれば、医療用装置の一部が絶縁層として機能し得る。
【0046】
電解質は、上述のように、セル内においてアノードとカソードの間での電荷移動のための媒体をイオンとして提供する材料である。従来型の電池においては、水酸化ナトリウム(NaOH)及び水酸化カリウム(KOH)などの強塩基が利用されているが、本発明では、より生体適合性とするために、弱塩基及び/又はイオン液体(これはpHが中性、又は制御されたpHレベルに緩衝されていてよい)を使用することができる。にもかかわらず、本発明のワイヤ電池には、NaOH及びKOHなどの強塩基が利用可能な電解質構成成分として残っている。イオン液体は、液体状態にある塩である。室温近くで液体である塩は、室温イオン液体とも呼ばれ、電気化学電池での使用に特に有用である。
【0047】
上述のように、生体適合性の充電式電気化学ワイヤ電池の構造体には、様々な構成要素の再配置を含め、様々な設計及び材料改変を使用することができる。加えて、様々な構成要素をまとめて保持する助けとなるよう、様々な構成要素の間に結合剤を利用することができる。典型的に、これらの結合剤はワイヤ電池の様々な層に使用されるものと同じ材料であり、フィルム形成ポリマーにイオン透過性ポリマーを配合したものを含む。特定の場合において、結合剤は、具体的な用途に応じて、実質的に異なるか又は独自の配合物であってもよい。
【0048】
図2を参照し、所定の長さの生体適合性ワイヤ電池100を利用した簡略化回路の概略図が示されている。図に示すように、生体適合性ワイヤ電池100は、外部回路又は負荷200に接続されている。アノード電流コレクタ102は、負荷200の陰極端子に接続され、カソード電流コレクタ110は、負荷200の陽極端子に接続されている。負荷200の接続は、例えば、導電性エポキシ接続などの任意の好適な方法によって形成することができる。接続のタイプによって、アノード電流コレクタ102とカソード電流コレクタ110がどの程度露出しているかが決まる。電流コレクタを切断及び/又は他の方法で露出させるのにどのようなツールを使用する場合であっても、アノード層104又はアノード電流コレクタ102がカソード層108又はカソード電流コレクタ110と接触して短絡を生じるような状況は避けるべく、注意を払う必要があることに留意することが重要である。図2は、図示目的に限るものであり、実際の接続を表わしたものではないことに留意することが重要である。
【0049】
アノード及びカソード材料が、セルの電圧及び容量を決定する。本質的に、電圧は、利用される活性材料のタイプによって決まり、アンペア時容量は、利用される活性材料の量によって決まる。したがって、生体適合性ワイヤ電池100の開回路電圧は本質的に利用されるワイヤ電池の長さとは独立であるが、容量は独立ではない。しかしながら、任意の電池セル設計について、電池が短くされた場合に開回路電圧が顕著に低減し始める最小長さがあることに留意することが重要であり、これは、電池の内部抵抗がワイヤ電池長さに反比例し、内部抵抗値が高いほど、セルの開回路電圧が低くなるからである。電池の長さは具体的な用途によって変わり得るため、材料の選択及び材料の量を含む電池の設計は、その具体的な用途に適合するよう調節することができる。例えば、活性材料の濃度又は活性材料の密度は、外形に実質的な影響を与えることなく変えることができる。あるいは、活性層を厚くすることができる。更に別の代表的な一実施形態において、本明細書に記述されるように、追加材料を添加剤として利用することができる。
【0050】
別の代表的な一実施形態に従って、1本のワイヤがアノード電流コレクタであり、もう1本がカソード電流コレクタである、2本のワイヤ又は2線式電池が開示される。詳しくは後述されるように、このタイプの電池を複数個、より大きな容量のために並列に配置することができ、及び/又は、より高い電圧のために直列に配置することができる。この種の配置又は設計により、数多くの利点と欠点が生じ、これについて詳しくは後述される。
【0051】
図3を参照し、本発明による別の代表的な生体適合性ワイヤ電池300の部分的断面切り欠き図が示されている。この代表的な一実施形態において、ワイヤ電池のコアは、互いに実質的に平行に延びるアノード電流コレクタ302とカソード電流コレクタ310の両方を含む。前の代表的な実施形態で示したように、アノード電流コレクタとカソード電流コレクタ302及び310の両方とも、電池300の使用又は用途に応じて、任意の好適な形状、寸法及び材料を含み得る。好ましい代表的な一実施形態においては、電流コレクタ302、310の両方とも、実質的に円形の断面を備えた金属性ワイヤで形成されているが、別の断面外形も制限なしに使用することができ、例えば、正方形の断面も利用することができる。アノード電流コレクタ302の周囲に配置されているのはアノード層304であり、カソード電流コレクタ310の周囲に配置されているのはカソード層308である。前に述べた代表的実施形態と同様、これらの層304及び308は、同じプロセスの任意のものを利用して同じ好適な材料の任意のもので形成することができる。アノード層304とカソード層308の両方の周りに配置されているのは、その場で形成されたセパレータ層306である。ここでも、このセパレータ層306は、同じ製造プロセスの任意のものを利用して、前に述べた代表的実施形態で示されたものと同じ材料の任意のものを含み得る。セパレータ層306の周囲に配置されるのは絶縁層312であり、これも、同じ製造プロセスの任意のものを利用して、前に述べた代表的実施形態で示されたものと同じ材料及び構成体を含み得る。加えて、電解質も同じであり得る。
【0052】
この平行な2本の金属製ワイヤ設計で、数多くの利点が実現できる。アノードとカソード両方について純金属(例えば、アノード側に銅、カソード側にニッケル)の電流コレクタを有することによって、両方についてハンダ付け可能な相互接続を利用することができる。加えて、この2本の金属製ワイヤ設計は、明らかな理由から、単線設計よりも丈夫である。本発明の2線式電池は、二重螺旋に撚って、全体的な構造に付加的な機械的支持を提供することができる。単位長さ当たりの撚数は、2線式電池が機能する限り、制限なしに変えることができる。換言すれば、下部構造の一体性は無傷のままでなければならない。加工処理に関しては、電流コレクタのコーティング工程の必要がなく、コーティングの合計数が低減されることにより、その下にあるコーティングを変化及び/又は損傷させるリスクが最小限に抑えられる。2線式設計はまた、ワイヤの長さをトリミングする際にクリンピングによるアノードとカソードの短絡を起こす可能性が少なく、又はリスクを低減し、更に、アノードとカソードの間の危険な接触面が少なくなることにより、セパレータ層を介した内部短絡の危険性が低減される。この設計により、水分及び脱気のための拡散経路の制限も少なくなる。最後に、相互接続が、同じ側の端又は反対側の端で行うことができる。
【0053】
複数の2線式アノード・カソード対を一体化させかつ改変して、2本、3本、4本、又はそれ以上の別個のアノード/カソード対を有する複線式電池を形成することもできる。この配列を機能させるためには、各アノード/カソード対が、隣接するアノード/カソード対から、電気的かつイオン的に絶縁されていなければならない。換言すれば、複線式構成においては、各アノード/カソード対の周りに、電気的かつイオン的絶縁体が存在すべきである。これは、2つ以上の別個の2線式電池を、例えば上述のような好適な絶縁性材料で、任意の従来型の方法(例えば、ディップコーティング、ワイヤコーティング又はスプレーコーティング)によって融合又は被覆コーティングすることによって達成でき、複線式電池を形成することができる。複数の2線式電池を互いに平行に組み立てて、平らな「リボン」を形成することができ、あるいは、束又は他の任意の有用な構成(例えば編組)に組み立てることができる。単線式電池についても、隣接するそれぞれの単線セルが互いに電気的かつイオン的に絶縁されている限り、同じことが言える。そのような構造物は、更に機械的な利点と、ニーズに応じて個々のカソード/アノード対それぞれを相互接続し、様々な直列及び/又は並列配置にする柔軟性とをもたらす。複線式電池の場合、開回路電圧は、直列状態で隣接セルを相互接続することによって複数倍にすることができる。
【0054】
単線式設計の相互接続は、絶縁層が必要な場合には、絶縁層を安全に除去できるどの場所ででも行うことができる。絶縁層及び最も外側の電流コレクタが一体であり同じである場合、最も外側層の相互接続は、単線式設計又は構造物の外側で行うことができる。
【0055】
2線式又は複線式設計に伴う欠点は、利点よりも少なく、この欠点としては、活性物質の非活性物質に対する比が小さいこと、及び、イオン輸送のための距離が増加することにより放電率が低減し得ることが挙げられる。
【0056】
図4〜6は、2線式及び4線式又はストランド電池セル設計の代表的な回路構造体を示す。図4において、負荷200の陽極端子はカソード電流コレクタ110に接続され、負荷200の陰極端子はアノード電流コレクタ102に接続されている。この接続レイアウトは、負荷200に対して並列構成で接続された2線式電池を示す。図5において、負荷200の陽極端子が、電池の一方の側のカソード電流コレクタ110に接続され、負荷200の陰極端子が、電池のもう一方の側のアノード電流コレクタ102に接続され、これによって逆並列配列の回路を構成している。
【0057】
図6は、負荷200に接続された4線ストランド電池400を示す。この4線ストランド電池400は、2つの2線式セル401及び403がセル間相互コネクタ405(これは任意の好適な材料を含み得る)を介して直列に接続され、セル401のカソード電流コレクタ410を、セル403のアノード電流コレクタ402に接続している。4線ストランド電池400は更に、2つのセル401及び403を包み込むイオン的及び電気的絶縁体407を含む。直列相互接続により、電池400の公称電圧出力が倍になる。直列接続は電圧出力を変化させ、並列配列は容量を変化させる。負荷200の陽極電極が、セル403のカソード挿入コレクタ410に接続され、負荷200の陰極端子が、セル401のアノードに接続されて、回路を完結している。これは図示目的に限るものであり、他の様々な構成が可能であることに留意することが重要である。
【0058】
本発明のいくつかの代表的な実施形態において、ワイヤ電池を実質的に放電状態又は不活性状態で組み立て及び/又は保管し、後で充電するか又は活性化させてから、電源として使用することができるようにすることが望ましい場合がある。これを行う理由の1つは、使用される材料において望ましくない副反応又は形態的変化が生じるのを制限することである。例えば、亜鉛電極は水性電解質の存在下で水と遅い副反応を起こし、酸化亜鉛と水素ガスを発生させることが知られている。炭素材料の一部は、この副反応の触媒となることが知られている。更に、一部のイオン種が、電気化学セル内を移動し、セル性能及び/又は耐用寿命に影響を及ぼし得ることが知られている。
【0059】
アノード前駆体(例えば、酸化亜鉛粒子)及び好適なカソード前駆体(例えば、銀金属粒子)で電池を形成することにより、有害な副反応を起こす亜鉛金属をほとんど又は全く含まない、潜在的なワイヤ電池を作製することができる。そのような潜在的ワイヤ電池は、別個に保管することができ、あるいは任意の装置に組み込んで、装置を使用するまでのある程度の期間保管、保管することができる。使用の前に、最初の充電サイクル(形成)を開始して、それぞれの前駆体から電極(アノード及びカソード)が形成される。この方法の付加的な利点は、アノード前駆体材料とカソード前駆体材料の様々な形態が様々な純度で市販されているが、一方これは、対応するカソード材料及びアノード材料については容易には入手できないことがある点である。例えば、非常に高純度の材料又はナノ粒子、ナノワイヤ、又は高アスペクト比のフレークは、カソード及び/又はアノードの前駆体材料として入手可能であり得る。潜在的なワイヤ電池をこのような材料で形成することによって、本発明のワイヤ電池の加工性と製造可能性が、数多くの面でより好ましくなり得る。更に、電池の保管寿命及びその保管期間中の自己放電に関する懸念が、この方法を採用することによって実質的に排除され得る。
【0060】
本明細書に記述される代表的な実施形態により、ワイヤ電池は、任意の数の装置を利用して、長さを切断することができる。例えば、ワイヤ電池は、任意の数の剪断タイプの切断装置を使用して、特定の装置に適合する長さに切断することができるが、ただし、これはアノードとカソードとの間、又はアノード電流コレクタとカソード電流コレクタとの間に短絡を生じさせないように行わなければならない。一般に、ワイヤ電池の2つの側面を支え、ワイヤの中心軸に対して垂直に、(例えば、かみそり刃を使って)制御された剪断切断を行うことができる。いくつかの場合において、この剪断切断は、ワイヤ電池全体にわたって行うことができる。他の場合において、中心ワイヤ(1本又は複数)で剪断切断を止めることが望ましいことがある。例えば、中心軸に対して単線電池を回転させながら、同時に、ワイヤの中心軸に対して垂直に鋭い刃を下ろし、刃が金属ワイヤを横切ろうとするところで停止することにより、円周切り込みを行うことができる。短い間隔をあけて2箇所のそのような切り込みを行うことができ、この2つの円周切り込みの間の材料を任意の従来的方法(例えば、擦り落とし、摩耗、ウォータージェット、及び同様の方法)を使って除去し、これにより中心の金属ワイヤを露出させてから、切断及び/又は相互接続を行うことができる。ワイヤ電池の長さを切断する他の方法は、例えば、ニッパー又はダイアゴナルカッターを使用した、ニッパー切断プロセスである。ワイヤ電池を切断する上述の方法は、決して網羅的なものではなく、結果として得られた切断がセル(1つ又は複数)に短絡を生じない限り、任意の好適かつ利用可能な方法を利用することができる。
【0061】
ワイヤ電池は、別個の絶縁層の必要を除外するような方法で、装置に組み込むことができる。ワイヤ電池は、切断し望ましい形状に形成してから、好適な方法(例えば、UV硬化性接着剤を使用)を用い、次に電気的相互接続(例えば、ハンダ又は導電性エポキシ)を行うことによって、装置上又は装置内に配置することができる。あるいは、相互接続は、ワイヤ電池を望ましい位置に固定する前に行うことができる。そのような方法で絶縁体なしに単線電池又は複線ストランド電池を使用する場合、電解質が装置の隣接部分に曝され得ることが理解されよう。よって、装置の他の部分が、その具体的な電解質(腐食性又は反応性である可能性がある)に対して適合性であるように設計されていることを確認する必要があり得る。そのような場合、例えば、コンフォーマルコーティング又は埋込用樹脂を使用することによって、その場で絶縁層を形成することが望ましい場合がある。このようにして、絶縁材料は、上述の一体型絶縁層の望ましい属性(すなわち、水及び気体透過性の両方を備える)を依然として維持すべきである。好適なコンフォーマルコーティング及び/又は埋込用樹脂は、幅広い供給業者から市販されている。絶縁材料は、装置の使用目的及び要件に従って、制限なしに変えることができる。
【0062】
本発明による電池又は電池セルの製造において、幅広い範囲の材料及び製造プロセスを利用可能であることに留意することが重要である。一般に、選択された材料と利用するプロセスは、組み合わせて、安全、高信頼性かつ再現性のあるプロセスによって、良好な機械的取扱性及び良好な電気的性能を提供するような電池を製造すべきである。電池の各構成要素を形成する材料は、好ましくは、これらの設計基準に合致し、並びに、電力が供給される装置に必要な電気的出力要件に合致し、かつ、電力が供給される装置に対して機械的及び化学的に適合性であるように、選択される。したがって、いったん材料が選択されたら、その電池の構成要素が望み通りの性能であるかどうかを判定するための試験が必要である。よって、これらの新しい装置に適合するよう、試験装置及び方法論を開発しなければならない。加えて、本発明による電池の製造プロセスは、望ましい材料及び外形を選択し、試験を実施した後、そのプロセス技法を最適化することを含む。最後に、部分的にでも破壊せず、またいかなる意味でも変化をもたらさないような方法で、電池を相互接続することを、利用する装置内にこの電池を組み込む際に考慮する必要がある。
【0063】
本明細書に図示及び説明した実施形態は、最も実用的かつ好ましい実施形態であると考えられるが、当業者であれば、本明細書に説明及び図示した特定の設計及び方法からの改変はそれ自体当業者にとって自明であり、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく使用できることは明らかであろう。本発明は、説明及び図示される特定の構造に限定されるものではないが、付属の特許請求の範囲に含まれ得る全ての改変例と一貫性を有するものとして解釈されなければならない。
【0064】
〔実施の態様〕
(1) 所定の断面形状を有するワイヤとして構成されたアノード電流コレクタと、
前記アノード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたアノード層と、
前記アノード層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたセパレータ層と、
前記セパレータ層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたカソード層であって、前記セパレータ層は、前記アノード層と前記カソード層との間の電気的接触を防止するよう構成される、カソード層と、
前記カソード層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたカソード電流コレクタと、
前記アノード層と前記カソード層との間にイオン伝導性を確立する電解質と、を含む、電気化学電池セル。
(2) 前記カソード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置された絶縁層を更に含む、実施態様1に記載の電気化学電池セル。
(3) 前記アノード電流コレクタが、導電性材料で少なくとも部分的に覆われた非導電性材料を含む、実施態様1に記載の電気化学電池セル。
(4) 前記アノード電流コレクタが、金属材料を含む、実施態様1に記載の電気化学電池セル。
(5) 前記アノード電流コレクタが、炭素系材料を含む、実施態様1に記載の電気化学電池セル。
【0065】
(6) 前記アノード層が、ポリマーマトリックス内に分散された亜鉛粒子を含む、実施態様1に記載の電気化学電池セル。
(7) 前記セパレータ層が、電解質透過性の、非導電性ポリマー材料を含む、実施態様1に記載の電気化学電池セル。
(8) 前記カソード層が、イオン透過性ポリマー結合剤中に、グラファイトと共に、AgO及びMnOのうち少なくとも1つを含む、実施態様1に記載の電気化学電池セル。
(9) 前記カソード電流コレクタが、グラファイト、銀充填ポリマー、及びニッケル充填ポリマーのうちの少なくとも1つを含む、実施態様1に記載の電気化学電池セル。
(10) 前記ポリマーが、導電性シリコーン又はフルオロポリマーを含む、実施態様9に記載の電気化学電池セル。
【0066】
(11) 所定の断面形状を有するワイヤとして構成された少なくとも1つのアノード電流コレクタと、
所定の断面形状を有するワイヤとして構成された少なくとも1つのカソード電流コレクタであって、前記少なくとも1つのカソード電流コレクタは、前記少なくとも1つのアノード電流コレクタに近接しかつ所定の距離を分離するよう配置されており、前記少なくとも1つのアノード電流コレクタ及び前記少なくとも1つのカソード電流コレクタのそれぞれは対として構成される、少なくとも1つのカソード電流コレクタと、
前記少なくとも1つのアノード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたアノード層と、
前記少なくとも1つのカソード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたカソード層と、
前記アノード層と前記カソード層の両方の一部分の周りに形成されかつ配置されたセパレータ層であって、前記セパレータ層は前記アノード層と前記カソード層との間の電気的接触を防止するよう構成される、セパレータ層と、
前記アノード層と前記カソード層との間にイオン伝導性を確立する電解質と、を含む、電気化学電池セル。
(12) 前記セパレータ層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置された絶縁層を更に含む、実施態様11に記載の電気化学電池セル。
(13) 所定の断面形状を有するワイヤとして構成されたカソード電流コレクタと、
前記カソード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたカソード層と、
前記カソード層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたセパレータ層と、
前記セパレータ層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたアノード層であって、前記セパレータ層は、前記カソード層と前記アノード層との間の電気的接触を防止するように構成される、アノード層と、
前記アノード層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたアノード電流コレクタと、
前記カソード層と前記アノード層との間にイオン伝導性を確立する電解質と、を含む、電気化学電池セル。
(14) 前記アノード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置された絶縁層を更に含む、実施態様13に記載の電気化学電池セル。
(15) 少なくとも1組の陽極及び陰極の電気的接触点を有する、電力で作動可能な構成要素(powerable component)と、
前記電力で作動可能な構成要素の中又は上に組み込まれたワイヤ形状電気化学電池セルとを含み、前記ワイヤ形状電気化学電池セルは、前記少なくとも1組の陽極及び陰極の電気的接触点に相互接続されたアノード電流コレクタ及びカソード電流コレクタを有し、これによって完全な回路を形成する、電気化学電池セルを組み込んだ装置。
【0067】
(16) 所定の断面形状を有するワイヤとして構成されたアノード電流コレクタと、
前記アノード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたアノード層であって、還元性材料に変換可能な前駆体還元性材料から形成される、アノード層と、
前記アノード層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたセパレータ層と、
前記セパレータ層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたカソード層であって、酸化性材料に変換可能な前駆体酸化性材料から形成され、前記セパレータ層は、前記アノード層と前記カソード層との間の電気的接触を防止するように構成される、カソード層と、
前記カソード層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたカソード電流コレクタと、
前記アノード層と前記カソード層との間にイオン伝導性を確立する電解質と、を含む、潜在的電気化学電池セル。
(17) 前記カソード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置された絶縁層を更に含む、実施態様16に記載の電気化学電池セル。
(18) 所定の断面形状を有するワイヤとして構成されたカソード電流コレクタと、
前記カソード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたカソード層であって、酸化性材料に変換可能な前駆体酸化性材料から形成される、カソード層と、
前記カソード層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたセパレータ層と、
前記セパレータ層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたアノード層であって、還元性材料に変換可能な前駆体還元性材料から形成されており、前記セパレータ層は前記カソード層と該アノード層との間の電気的接触を防止するよう構成される、アノード層と、
前記外部層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたアノード電流コレクタと、
前記カソード層と前記アノード層との間にイオン伝導性を確立する電解質と、を含む、潜在的電気化学電池セル。
(19) 前記アノード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置された絶縁層を更に含む、実施態様18に記載の電気化学電池セル。
(20) 所定の断面形状を有するワイヤとして構成された少なくとも1つのアノード電流コレクタと、
所定の断面形状を有するワイヤとして構成された少なくとも1つのカソード電流コレクタであって、前記少なくとも1つのカソード電流コレクタは、前記少なくとも1つのアノード電流コレクタに近接しかつ所定の距離を分離するよう配置されており、前記少なくとも1つのアノード電流コレクタ及び前記少なくとも1つのカソード電流コレクタのそれぞれは対として構成される、少なくとも1つのカソード電流コレクタと、
前記少なくとも1つのアノード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたアノード層であって、還元性材料に変換可能な前駆体還元性材料から形成される、アノード層と、
前記少なくとも1つのカソード電流コレクタの少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたカソード層であって、酸化性材料に変換可能な前駆体酸化性材料から形成される、カソード層と、
前記アノード層と前記カソード層の両方の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置されたセパレータ層であって、前記アノード層と前記カソード層との間の電気的接触を防止するよう構成される、セパレータ層と、
該アノード層と該カソード層との間にイオン伝導性を確立する電解質と、を含む、電気化学電池セル。
【0068】
(21) 前記セパレータ層の少なくとも一部分の周りに形成されかつ配置された絶縁層を更に含む、実施態様20に記載の電気化学電池セル。
(22) ワイヤ形状電気化学電池セルの供給物から、ある長さのワイヤ形状電気化学電池セルを引き出すことであって、前記ワイヤ形状電気化学電池セルはアノード電流コレクタ及びカソード電流コレクタを含む、引き出すことと、
前記ワイヤ形状電気化学電池セルの供給物から、所定の長さのワイヤ形状電気化学電池セルを分離することと、
電力が供給される装置との電気的接触を行うために前記アノード電流コレクタ及び前記カソード電流コレクタの両方の一部分を提供することと、
前記電力が供給される装置との使用のために、そのワイヤ形状電気化学電池セルを所定の形状に形成することと、を含む、装置と共に使用するための電気化学セルを形成する方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6