特許第6239510号(P6239510)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239510
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】金属ベースプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/05 20060101AFI20171120BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20171120BHJP
   H05K 3/44 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   H05K1/05 A
   H05K1/03 610R
   H05K3/44 A
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-528222(P2014-528222)
(86)(22)【出願日】2013年8月1日
(86)【国際出願番号】JP2013070897
(87)【国際公開番号】WO2014021427
(87)【国際公開日】20140206
【審査請求日】2016年6月2日
(31)【優先権主張番号】特願2012-171890(P2012-171890)
(32)【優先日】2012年8月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】大木 義路
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 雄一
(72)【発明者】
【氏名】和田 玄太
(72)【発明者】
【氏名】田中 祀捷
(72)【発明者】
【氏名】岡本 健次
【審査官】 齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−153969(JP,A)
【文献】 特開2007−48856(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/040416(WO,A1)
【文献】 特開2012−76421(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/065159(WO,A1)
【文献】 特開平2−286768(JP,A)
【文献】 特開平6−44824(JP,A)
【文献】 特開平5−239321(JP,A)
【文献】 特開2005−306718(JP,A)
【文献】 特開2002−322372(JP,A)
【文献】 特開2003−292734(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/029657(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/061433(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/061434(WO,A1)
【文献】 特開2011−12193(JP,A)
【文献】 特開平7−50460(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/037190(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/013831(WO,A1)
【文献】 特開2009−274929(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/065758(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/065759(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/040415(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/037625(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/117023(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/004841(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/036939(WO,A1)
【文献】 米国特許第5670250(US,A)
【文献】 特開2011−208007(JP,A)
【文献】 特開2007−96185(JP,A)
【文献】 特開2001−223450(JP,A)
【文献】 特開2008−213426(JP,A)
【文献】 特開2011−77270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K1/00−3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂絶縁層と、銅箔層とを順次積層したベース金属板を備え、
前記樹脂絶縁層が、樹脂と、無機粒子とを含み、前記無機粒子が、平均粒子径(D50)が1nm〜300nmであり、かつ、粒子径が0.1nm〜600nmの無機粒子からなる第1の無機フィラーと、平均粒子径(D50)が500nm〜20μmであり、かつ、粒子径が100nm〜100μmの無機粒子からなる第2の無機フィラーとからなり、
前記第1の無機フィラーと前記第2の無機フィラーが、前記樹脂絶縁層中で均一に分散している金属ベースプリント配線板。
【請求項2】
前記樹脂絶縁層に用いられる前記樹脂が、エポキシ樹脂である請求項1に記載の金属ベースプリント配線板。
【請求項3】
前記樹脂絶縁層中の前記第1の無機フィラーの含有量が、1質量%〜10質量%である請求項1または2に記載の金属ベースプリント配線板。
【請求項4】
前記樹脂絶縁層中の前記第2の無機フィラーの含有量が、1質量%〜95質量%である請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属ベースプリント配線板。
【請求項5】
前記第1の無機フィラーが、SiO、TiO、MgO、Al、BN、AlNのいずれかまたはこれらの組み合わせからなる無機粒子であり、前記第2の無機フィラーが、Al、BN、AlN、SiOのいずれかまたはこれらの組み合わせからなる無機粒子である請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属ベースプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロケミカルマイグレーションの発生を防止することができる金属ベースプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板は、電子機器、電機機器の構成部品として必須である。プリント配線板の構造としては、片面プリント配線板、両面プリント配線板、多層プリント配線板等の各種のものがあり、抵抗、コンデンサ、リアクトル、トランス等のデバイスをはんだ付けにより実装することで構成されている。
【0003】
また、近年パワー半導体やLED素子を動作させた場合に発生する熱を放熱させるため、銅箔層と樹脂絶縁層およびベース金属板とを備えた、金属ベースプリント配線板の使用が増えてきている。省エネルギー化の推進にともない、電力のコントロールを行うパワー半導体や、電球に比べ電力量が少なく発光できるLEDの採用が進んでいる。
【0004】
金属ベースプリント配線板は、一例を挙げると、厚さ約1mm〜約2mmのベース金属板に、厚さ約100μm〜約300μmの樹脂絶縁層と、厚みが約35μm〜約140μmの銅箔層が、順次積層するという構造により構成されている。
【0005】
樹脂絶縁層は、SiO、Alなどの無機フィラーをエポキシ樹脂に添加したものを、銅箔層もしくはPET性フィルムなどに塗工して、厚み50μm程度のプリプレグとする。これをベース金属板上に1枚から数枚重ね合わせて、さらにその上に銅箔層を積層し、これらを加熱プレスによって貼り合わせている。この銅箔層を任意の配線パターンにエッチング加工することによって、金属ベースプリント配線板を得ている。このような金属ベースプリント配線板としては、例えば特許文献1に記載のプリント配線板が知られている。
【0006】
金属ベースプリント配線板にパワー半導体などを実装する場合に、ポイントとなるのが、その動作時に適切に放熱(冷却)してくれることである。パワー半導体としては、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)や、MOS−FET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)などが用いられるが、発生する電力は数W〜数十Wに達する。この熱を効率よく放熱するため、樹脂絶縁層にはできるだけ高い熱伝導率が求められる。
【0007】
これまでの一般的な金属ベースプリント配線板の樹脂絶縁層の場合、その熱伝導率は1W/m・K〜3W/m・K程度である。近年では、より熱伝導率の高いものが求められており、5W/m・K〜6W/m・K程度まで高めたものも開発され、用いられてきている。
【0008】
1W/m・K〜3W/m・K程度の金属ベースプリント配線板の場合では、SiO、Alなどの無機フィラーを概略80質量%程度充填する。熱伝導率を5W/m・K〜6W/m・K程度まで高める場合は,Alなどをさらに80質量%〜95質量%程度まで充填する。もしくは,高熱伝導率のBNやAlNなどを充填する。
【0009】
通常、樹脂絶縁層は80μm〜200μmのものを用いる。銅箔層とベース金属板には電圧が印加されることになる。印加電圧は機器の目的によって様々であるが、例えば1200VのIGBT素子を用いている場合は、約1000V程度の電圧が樹脂絶縁層に加わることになり、長期に渡って絶縁信頼性が必要となる。
【0010】
特に、銅箔層の配線パターン間で生じる絶縁劣化現象のひとつであるエレクトロケミカルマイグレーションの発生を防止する必要がある。この現象は、機器を使用する際、吸湿又は結露が生じて、銅箔層の配線パターン間の絶縁抵抗が低下し、銅箔から銅イオンが溶出して対極で還元析出することで導電路が形成され、短絡に至る現象である。
【0011】
このようなエレクトロケミカルマイグレーションは、金属ベースプリント配線板の樹脂絶縁層でも生じることがある。したがって、エレクトロケミカルマイグレーションの防止が必要となる。特に、電界強度が高い銅箔層端部やその端部の近傍では、銅イオンが溶出しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平6−318770号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
エレクトロケミカルマイグレーションを防ぐためには、いくつかの要因を抑制しなければならない。特に樹脂絶縁層中に銅箔層から、銅イオンが溶出しないことが重要である。そのためには、通常、樹脂絶縁層中のイオン性成分の低減を行い、銅イオン自身が銅箔層などから溶出しないようにする。または、樹脂絶縁層を形成する樹脂の架橋密度を高め銅イオンの移動を抑制するといった方法が試みられている。
【0014】
しかしながら、これらの方法では、材料自身の検討を繰り返し、改良を行わなければならず、容易に行えるわけではなかった。
【0015】
本発明は以上のような事情に鑑み、耐エレクトロケミカルマイグレーション性に優れたプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、ナノサイズの無機フィラーを樹脂に添加したものを樹脂絶縁層とすることにより、樹脂絶縁層中への銅イオン自身の移動、すなわち銅イオンの溶出を抑制することができるという知見に到達し、本発明を想到した。
【0017】
前記目的を達成するため、本発明に係る形態は、樹脂絶縁層と、銅箔層とを順次積層したベース金属板を備え、前記樹脂絶縁層が、平均粒子径(D50)が1nm〜300nmであり、かつ、粒子径が0.1nm〜600nmの無機粒子からなる第1の無機フィラーと、平均粒子径(D50)が500nm〜20μmであり、かつ、粒子径が100nm〜100μmの無機粒子からなる第2の無機フィラーと、を含み、前記第1の無機フィラーと前記第2の無機フィラーが、前記樹脂絶縁層中で均一に分散している金属ベースプリント配線板である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、銅イオンが銅箔層から樹脂絶縁層へ溶出することを抑制することができ、その結果として、エレクトロケミカルマイグレーションの発生を防止することができる金属ベースプリント配線板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明にかかる金属ベースプリント配線板の一実施の形態について、その構造を説明する断面図である。
図2】本発明にかかる金属ベースプリント配線板の空間電荷分布の測定結果を示すグラフである。
図3】実施例1の金属ベースプリント配線板について、電界印加開始から10時間経過後の断面図である。
図4】実施例2の金属ベースプリント配線板について、電界印加開始から10時間経過後の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態について、その一態様を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0021】
本発明の金属ベースプリント配線板は、樹脂絶縁層と、銅箔層と、ベース金属板を基本構成とする。前記樹脂絶縁層と前記銅箔層は、前記ベース金属板に順次積層している。金属ベースプリント配線板としては、それぞれの厚みは、前記ベース金属板が100μm〜2mm、前記樹脂絶縁層が100μm〜300μm、前記銅箔層が9μm〜140μmであることが一般的である。前記ベース金属板は、アルミニウム製、銅製、鉄製等のものを使用することができる。
【0022】
前記樹脂絶縁層は、平均粒子径(D50)が1nm〜300nmであり、かつ、粒子径が0.1nm〜600nmの無機粒子からなる第1の無機フィラーと、平均粒子径(D50)が500nm〜20μmであり、かつ、粒子径が100nm〜100μmの無機粒子からなる第2の無機フィラーとを含む。そして、前記第1の無機フィラーと前記第2の無機フィラーは、前記樹脂絶縁層中で均一に分散している。このように粒子径の異なる2種類の無機フィラーを含み、かつ、これらの無機フィラーが均一に分散していることにより、銅箔層からの銅イオンの溶出を抑制することが可能となり、エレクトロケミカルマイグレーションの発生を防止することができるからである。
【0023】
ここで、平均粒子径(D50)とは、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定して得られた平均粒子径をいうものとする。また、粒子径の上限値と下限値は、同粒度分布測定装置の測定結果から導き出すことができる。
【0024】
金属ベースプリント配線板の樹脂絶縁層は、銅箔層の熱をベース金属板へ放熱することが要求されることから、樹脂絶縁層も耐熱性が求められる。このような樹脂絶縁層には、熱可塑性樹脂を用いることは難しく、熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アリル樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル系樹脂を用いることができる。
【0025】
前記樹脂絶縁層に用いられる樹脂は、エポキシ樹脂であることが好ましい。熱硬化性樹脂のなかでも、特にエポキシ樹脂が好ましいのは、コスト面のみならず、銅箔層やベース金属板といった金属への密着性が良好であり、また、無機フィラーの分散が容易な樹脂であるからである。
【0026】
エポキシ樹脂の主剤としては、液状エポキシ樹脂を用いることが好ましい。無機フィラーの分散が容易であるからである。ガラス転移温度(Tg)でいうと、100℃〜250℃のエポキシ樹脂が好適である。主剤としては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、アラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等を、単独でまたは複数組み合わせて用いることができる。
【0027】
このようなエポキシ樹脂に対し、硬化剤を用いる。硬化剤としては、特に限定されないが、例えば、アミン系硬化剤、グアニジン系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、トリアジン骨格含有フェノール系硬化剤、フェノール系硬化剤、トリアジン骨格含有ナフトール系硬化剤、ナフトール系硬化剤、酸無水物系硬化剤、活性エステル系硬化剤、ベンゾオキサジン系硬化剤、シアネートエステル樹脂等を、単独でまたは複数組み合わせて用いることができる。
【0028】
また、エポキシ樹脂の硬化反応を制御するために、必要に応じて硬化促進剤を含むこともできる。硬化促進剤としては、例えば、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、ベンジルジメチルアミン等の3級アミン類、トリフェニルフォスフィン等の芳香族フォスフィン類、三フッ化ホウ素モノエチルアミン等のルイス酸、ホウ酸エステル等を用いることができるが、これらには限定されない。
【0029】
硬化剤の配合割合は、エポキシ樹脂主剤のエポキシ当量及び硬化剤のアミン当量もしくは酸無水物当量から決定することができる。また、硬化促進剤を用いる場合には、硬化促進剤の配合割合は、エポキシ樹脂主剤の質量を100%としたときに、0.1質量%〜5質量%とすることが好ましい。
【0030】
前記樹脂絶縁層中の前記第1の無機フィラーの含有量は、1質量%〜10質量%であることが好ましい。1質量%よりも少ないと、銅イオンの溶出を抑制することが難しくなる。また、10質量%よりも多く含有しても、銅イオンの溶出防止の効果は向上しないだけでなく、フィラーの凝集による絶縁性の低下や熱伝導性の高い第2の無機フィラーを十分量含有させることが難しくなる。銅イオンの溶出防止効果および樹脂絶縁層の熱伝導率を考慮すると、前記第1の無機フィラーの含有量は、1質量%〜7質量%であることが、より好ましい。
【0031】
前記樹脂絶縁層中の前記第2の無機フィラーの含有量は、1質量%〜95質量%であることが好ましい。1質量%よりも少ないと、樹脂絶縁層としての放熱効果が十分に得られない。また、95質量%よりも多いと、前記第1の無機フィラーを十分量含有させることが難しくなり、銅イオンの溶出防止効果が低下する。また、樹脂の割合が減ることによる機械的強度の低下も起こる。銅イオンの溶出防止効果および樹脂絶縁層の熱伝導率を考慮すると、前記第2の無機フィラーの含有量は、30質量%〜80質量%であることが、より好ましい。
【0032】
前記第1の無機フィラーは、SiO、TiO、MgO、Al、BN、AlNのいずれかまたはこれらの組み合わせからなる無機粒子であることが好ましい。これらの無機フィラーは、銅イオンの溶出を効果的に防止できるだけでなく、樹脂絶縁層とした場合に熱伝導率を低下させることがないため、放熱効果を阻害しないからである。
【0033】
前記第2の無機フィラーは、Al、BN、AlN、SiOのいずれかまたはこれらの組み合わせからなる無機粒子であることが好ましい。これらの無機フィラーは、熱伝導率が高いことから、樹脂絶縁層とした場合の放熱効果を向上させることができるからである。
【0034】
次に、本発明の金属ベースプリント配線板について、製造方法の一態様を例示することにより、製造方法の観点から説明する。図1は、本発明にかかる金属ベースプリント配線板の一実施の形態について、その構造を説明する断面図である。金属ベースプリント配線板100は、樹脂絶縁層102と銅箔層101がベース金属板103に順次積層している構造となっている。
【0035】
樹脂絶縁層102は、エポキシ樹脂等に第1の無機フィラーおよび第2の無機フィラー等を分散させたもの(以下、樹脂絶縁層組成物とする場合がある)を、銅箔層101あるいはPET(ポリエチレンテレフタレート)性フィルム等に塗付してプリプレグとし、このプリプレグを1枚から数枚重ね合わせたものである。この樹脂絶縁層102をベース金属板103の上に載せ、さらに銅箔層101を積層した上で加熱プレスすることにより貼り合わせて金属ベースプリント配線板100とする。銅箔層101は、任意の配線パターンにエッチング加工することができる。
【0036】
なお、このような図1で例示される金属ベースプリント配線板だけではなく、本発明の趣旨に反しない形態のプリント配線板であれば、本発明の適用の対象となる。また、封止用樹脂も本発明の適用対象とすることができる。
【0037】
次に樹脂絶縁層組成物の製造方法の一態様について説明する。ただし、この一態様に限定されない。
【0038】
樹脂絶縁層組成物は、例えば上記したエポキシ樹脂の主剤に、まず、粒子径の小さい第1の無機フィラーを撹拌投入し、その後、粒子径の大きい第2の無機フィラーを撹拌投入する。目視にて粗粒が無いことを確認した後、市販の微粒化装置、粉体混合装置、もしくは超微粒子複合化装置を用いて分散することができる。例えば、シンキー社製の自転・公転ミキサー、ナノマイザー株式会社製のナノマイザー(高圧湿式メディアレス微粒化装置)、ホソカワミクロン株式会社製のノビルタやナノキュラ等を用いることができるが、これらには限定されない。ナノマイザーを用いる場合の処理条件としては、処理圧力を100MPa〜150MPaとし、5分〜10分の処理を2回〜5回繰り返すことで分散を行うことができる。また、自転・公転ミキサーを用いる場合の条件としては回転速度を1000rpm〜2000rpmとし、1分〜3分の処理を2回〜5回繰り返すことで分散を行うことができる。なお、処理圧力や処理時間は適宜変更することは可能である。
【0039】
エポキシ樹脂主剤に無機フィラーを分散させた後、この樹脂混合物に硬化剤や硬化促進剤を混合し、樹脂絶縁層組成物とする。樹脂絶縁層組成物は、無機フィラーの分散や分散の際に発生する泡の消泡、およびプリプレグとした場合の平滑性等を考慮して、分散剤や消泡剤、レベリング剤等を適宜配合することができる。
【0040】
プリプレグは、樹脂絶縁層組成物を銅箔層あるいはPET性フィルム等に熱風吹き付け等により加熱することによって、半硬化状態になるまで乾燥させる方法により製造することができる。吹き付け等を容易にするために、樹脂絶縁層組成物をメチルエチルケトン(MEK)等の溶剤で希釈することによってスラリー状ワニスに調製することもできる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例と比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【0042】
[1.樹脂絶縁層組成物の作製]
[製造例1]
ビスフェノールAエポキシ樹脂主剤(三菱化学 816B)20gに、シリカナノ粒子(AEROSIL A200)(平均粒子径7nm、粒子径1nm〜300nm)を0.8g撹拌投入し、続いて、アルミナマイクロフィラー(Admatechs AO−802)(平均粒子径0.7μm、粒子径0.1nm〜5μm)を40g撹拌投入した。目視にて粗粒が無いことを確認した後、自転・公転ミキサー(シンキー製)を用いて分散させた。回転速度は2000rpmとし、1回2分の分散処理を5回繰り返した。分散後、手動撹拌にて、この樹脂混合物にアミン系硬化剤である4,4’−メチレンビス(2−メチルシクロヘキサンアミン)(三菱化学 113)を6g混合した。
【0043】
[製造例2]
シリカナノ粒子に代えて、チタニアナノ粒子(富士チタン工業、TAF−500)(平均粒子径50nm、粒子径1nm〜100nm)を0.8g撹拌投入した他は、製造例1と同様に樹脂絶縁層組成物を作製した。
【0044】
2.金属ベースプリント配線板の作製
製造例1により作製した樹脂絶縁層組成物を、銅箔(縦12cm、横12cm、厚さ約10〜35μm程度)の銅箔に膜厚100μmとなるように塗付し、恒温槽内で、70℃で3時間加熱して1次硬化させ、さらに120℃で3時間加熱して2次硬化させた。その後、銅箔を縦4cm、横4cmとなるように切断し、銅箔面の1箇所を直径1cmのセロハンテープでマスキングした後、エッチング処理によりマスキングした部分以外の銅箔を除去することにより、試料1を作成した。製造例2により作製した樹脂絶縁層組成物を用いた場合についても、同様に試料2を作製した。
【0045】
3.銅イオンの溶出防止性能の評価
銅イオンの溶出の有無について、試料1および試料2を用いて、PEA空間電荷測定装置(ファイブラボ株式会社製電荷分布測定器)を用い、試料の空間電荷を測定することにより評価した。PEA装置の原理は、試料を電極に挟み、パルス電圧を加えることによって内部の電荷を振動させ、その振動圧力波をセンサーで捉えるものである。試料の樹脂絶縁層面が、PEA空間電荷測定装置のアルミニウム陰極と接触し、かつ試料の銅箔面がPEA空間電荷測定装置の陽極と接触するように試料をPEA空間電荷測定装置へ設置し、温度85℃、湿度85%の条件下にて、5kV/mmの電界を10時間印加した。電界印加前、および電界を印加して2時間経過後、4時間経過後、6時間経過後、8時間経過後、10時間経過後に試料を恒温恒湿槽から取り出し、試料にかかる平均電界が5kV/mmとなる電圧を印加しながら空間電荷分布を測定した。この試験において、アルミニウム陰極はベース金属板に相当し、陽極と接触する銅箔が陽極となる。試料1を用いて実施した実験を実施例1、試料2を用いて実施した実験を実施例2とした。
【0046】
図2(a)は、実施例1の空間電荷分布の測定結果を示すグラフである。縦軸は電荷密度を示しており、横軸はサンプリングタイムを示している。グラフには、電荷密度が大きく変化した部分に2つの点線を付している。このような電荷密度の大きい変化は、層の境目や電荷の反射においてみられる現象である。左側の点線は、アルミニウム陰極と樹脂絶縁層との境目であり、右側の点線は、樹脂絶縁層と銅箔層との境目に相当する。なお、Aで示すピークは、銅箔層から反射した信号を示すものであり、層の境目においてみられる電荷密度の変化ではない。左側の点線から左の領域は、アルミニウム陰極板であり、右側の点線から右に10nsまでの斜線で示す領域は、銅箔層である。銅箔層の右側の領域が陽極板であり、点線で挟まれた領域が樹脂絶縁層となる。
【0047】
銅イオンが銅箔層から樹脂絶縁層へ溶出した場合、銅箔層と樹脂絶縁層との境目におけるBで示すピークが樹脂絶縁層側へシフトする現象がみられる。図2(a)では、試験前および電界の印加を開始してから2時間後〜10時間後のいずれにおいても、Bで示すピークが樹脂絶縁層側へシフトしなかった。すなわち、実施例1では、銅イオンの溶出はみとめられなかった。
【0048】
図2(b)は、実施例2の空間電荷分布の測定結果を示すグラフである。Cで示すピークは、銅箔層から反射した信号を示す。この測定結果においても、銅箔層と樹脂絶縁層との境目におけるDで示すピークが樹脂絶縁層側へシフトしなかった。すなわち、実施例2においても、銅イオンの溶出はみとめられなかった。
【0049】
図3は、上記実施例1にて電界を10時間印加した後の試料1の断面を示す図である。図3(a)は、SEMにより撮影した断面図であり、白く表された層が銅箔層であり、銅箔層の下の層が樹脂絶縁層である。また、図3(b)は、エネルギー分散型X線分析(EDS)により、銅元素の分布を測定したものである。白く表された層が銅箔層であり、銅箔層の下の層が樹脂絶縁層である。図3(a)、図3(b)のいずれにおいても、銅イオンの溶出はみとめられず、耐エレクトロケミカルマイグレーション性に優れた金属ベースプリント配線板であることが確認できた。
【0050】
図4は、上記実施例2にて電界を10時間印加した後の試料2の断面を示す図である。図3と同様に、図4(a)は、SEMにより撮影した断面図である。また、図4(b)は、エネルギー分散型X線分析(EDS)により、銅元素の分布を測定したものである。図4(a)、図4(b)のいずれにおいても、銅イオンの溶出はみとめられず、耐エレクトロケミカルマイグレーション性に優れた金属ベースプリント配線板であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、エレクトロケミカルマイグレーションの発生を防止することができる金属ベースプリント配線板を提供することができるため、産業上有用である。
【符号の説明】
【0052】
100 金属ベースプリント配線板
101 銅箔
102 樹脂絶縁層
103 ベース金属板
図1
図2
図3
図4