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特許6239535ルテニウムベースのメタセシス触媒およびそれらの製造用前駆体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239535
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】ルテニウムベースのメタセシス触媒およびそれらの製造用前駆体
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/22 20060101AFI20171120BHJP
   C07C 211/55 20060101ALI20171120BHJP
   C07C 67/30 20060101ALI20171120BHJP
   C07C 69/74 20060101ALI20171120BHJP
   C07D 233/02 20060101ALI20171120BHJP
   C07D 233/06 20060101ALI20171120BHJP
   C07F 15/00 20060101ALN20171120BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20171120BHJP
【FI】
   B01J31/22 Z
   C07C211/55
   C07C67/30
   C07C69/74 A
   C07D233/02
   C07D233/06
   !C07F15/00 A
   !C07B61/00 300
【請求項の数】20
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-561439(P2014-561439)
(86)(22)【出願日】2013年3月13日
(65)【公表番号】特表2015-516868(P2015-516868A)
(43)【公表日】2015年6月18日
(86)【国際出願番号】EP2013055160
(87)【国際公開番号】WO2013135776
(87)【国際公開日】20130919
【審査請求日】2016年2月29日
(31)【優先権主張番号】12159506.0
(32)【優先日】2012年3月14日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501399500
【氏名又は名称】ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ヘルベルト・プレニオ
(72)【発明者】
【氏名】ラルス・ペーク
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−530706(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/091980(WO,A1)
【文献】 特表2014−530932(JP,A)
【文献】 Mervyn K. COOPER et al.,Preparation and characterization of chelating monoolefin-aniline ligands and their platinum(II) complexes,Journal of Organometallic Chemistry,1981年12月 1日,Volume 221, Issue 2,pp. 231-247
【文献】 Karolina Zukowska et al.,Thermal Switchability of N-Chelating Hoveyda-type Catalyst Containing a Secondary Amine Ligand,Organometallics,American Chemical Society,2011年12月13日,VOl. 31, Issue 1,pp. 462-469
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
C07B 61/00
C07B 31/00−63/04
C07C 1/00−409/44
C07F 9/00−19/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I):
【化1】
[式中、
− a、b、cおよびdは、互いに独立して、水素、C〜C10アルキルを含む直鎖もしくは分岐アルキル基、C〜C10アルコキシ、C〜C10アルキルチオ、C〜C10シリルオキシ、C〜C10アルキルアミノ、任意に置換されていてもよいC〜C14アリール、任意に置換されていてもよいC〜C14アリールオキシ、任意に置換されていてもよいC〜C14ヘテロアリールまたは電子吸引性基(EWG)から選択され;
− Rは、直鎖もしくは分岐C〜C10アルキル、C〜C10アルコキシ、C〜C10アルキルカルボニル、C〜CシクロアルキルまたはC〜C14アリール基から選択され;
− Rは、水素、C〜C10アルキルを含む直鎖もしくは分岐アルキル基、C〜C10アルコキシ、C〜C10アルキルチオ、C〜C10シリルオキシ、C〜C10アルキルアミノ、C〜C14アリール、C〜C14アリールオキシ、C〜C14複素環または電子吸引性基(EWG)から選択され;
− Rは、水素、直鎖もしくは分岐C〜C10アルキル基から選択され;
− RとRとは任意選択的に環を形成してもよい]
の化合物からなるルテニウムベースの触媒の触媒前駆体
【請求項2】
前記電子吸引性基が、ハロゲン原子、トリフルオロメチル(−CF)、ニトロ(−NO)、スルフィニル(−SO−)、スルホニル(−SO−)、ホルミル(−CHO)、C〜C10カルボニル、C〜C10カルボキシル、C〜C10アルキルアミド、C〜C10アミノカルボニル、ニトリル(−CN)またはC〜C10スルホンアミドから選択される、請求項1に記載の触媒前駆体
【請求項3】
式(I):
【化2】
[式中、
− a、b、cおよびdがそれぞれ水素であり;
− Rがメチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチルまたはイソ−ブチルであり;
− Rが水素であり;
− Rが水素、メチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチルまたはイソ−ブチルである
化合物。
【請求項4】
式(Ia):
【化3】
を有する、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
式(Ib):
【化4】
を有する、請求項3に記載の化合物。
【請求項6】
式(II):
【化5】
[式中
− Lは、中性の2電子供与体配位子であり、
− a、b、cおよびdは、互いに独立して、水素、C〜C10アルキルを含む直鎖もしくは分岐アルキル基、C〜C10アルコキシ、C〜C10アルキルチオ、C〜C10シリルオキシ、C〜C10アルキルアミノ、任意に置換されていてもよいC〜C14アリール、任意に置換されていてもよいC〜C14アリールオキシ、任意に置換されていてもよいC〜C14ヘテロアリールまたは電子吸引性基(EWG)から選択され;
− Rは、直鎖もしくは分岐C〜C10アルキルであり
− Rは、水素、C〜C10アルキルを含む直鎖もしくは分岐アルキル基、C〜C10アルキルチオ、C〜C10シリルオキシ、C〜C10アルキルアミノ、C〜C14アリール、C〜C14アリールオキシ、C〜C14複素環または電子吸引性基(EWG)から選択され;
− Xは、ハロゲンアニオン(Cl、Br、I)、テトラフルオロボレート(BF)またはアセテート(CHCOO)の群から独立して選択されるアニオン性配位子であり;
− RとRとは任意選択的に環を形成してもよい]
のルテニウムベースのオレフィンメタセシス反応用触媒。
【請求項7】
前記電子吸引性基が、ハロゲン原子、トリフルオロメチル(−CF)、ニトロ(−NO)、スルフィニル(−SO−)、スルホニル(−SO−)、ホルミル(−CHO)、C〜C10カルボニル、C〜C10カルボキシル、C〜C10アルキルアミド、C〜C10アミノカルボニル、ニトリル(−CN)またはC〜C10スルホンアミドから選択される、請求項6に記載のオレフィンメタセシス反応用触媒。
【請求項8】
Lが、N−複素環カルベン(NHC)配位子である、請求項6または7に記載のオレフィンメタセシス反応用触媒。
【請求項9】
Lが、式(IV)または(V):
【化6】
(式中、
は、2,4,6−トリメチルフェニル、2,6−ジ−イソプロピルフェニル、3,5−ジ−第三ブチルブチルフェニル、2−メチルフェニルおよびそれらの組み合わせの群から選択される)
を有するN−複素環カルベン配位子である、請求項6〜8のいずれか一項に記載のオレフィンメタセシス反応用触媒。
【請求項10】
− Lが、1,3−ビス−(2,4,6−トリメチルフェニル)−イミダゾリジン−2−イリデン(「SIMes」)、1,3−ビス−(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)−イミダゾリジン−2−イリデン(「SIPr」)または1,3−ビス−(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)−イミダゾリン−2−イリデン(「IPr」)の群から選択されるNHC配位子であり;
− XがClであり;
− a、b、cおよびdがそれぞれ水素であり;
− Rが、メチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチルまたはイソ−ブチルであり;
− Rが水素である、
請求項6〜9のいずれか一項に記載のオレフィンメタセシス反応用触媒。
【請求項11】
Lが、トリ−イソプロピルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy)、トリシクロペンチルホスフィン、ならびに、9−シクロヘキシル−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]−ノナン(「シクロヘキシルホバン」)、9−(2,2,4−トリメチルペンチル)−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]−ノナン(「2,2,4−トリメチルペンチルホバン」)および9−イソブチル−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]−ノナン(「イソブチルホバン」)の群から選択されるホスファ−ビシクロアルカン化合物の群から選択されるホスフィン配位子である、請求項6または7に記載のオレフィンメタセシス反応用触媒。
【請求項12】
式(IIa):
【化7】
を有する、請求項10に記載のオレフィンメタセシス反応用触媒。
【請求項13】
式(IIb):
【化8】
を有する、請求項10に記載のオレフィンメタセシス反応用触媒。
【請求項14】
式(IIc):
【化9】
を有する、請求項10に記載のオレフィンメタセシス反応用触媒。
【請求項15】
式(IId):
【化10】
を有する、請求項10に記載のオレフィンメタセシス反応用触媒。
【請求項16】
請求項1もしくは2に記載の触媒前駆体または請求項3〜5のいずれか一項に記載の化合物を、式(III):
【化11】
[式中、
− Lは、トリ−イソ−プロピルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy)、トリシクロペンチルホスフィン、シクロヘキシル−ホバン、2,2,4−トリメチルペンチルホバンもしくはイソブチルホバンの群から選択されるホスフィン配位子、または、1,3−ビス−(2,4,6−トリメチルフェニル)−イミダゾリジン−2−イリデン(「SIMes」)、1,3−ビス−(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)−イミダゾリジン−2−イリデン(「SIPr」)もしくは1,3−ビス−(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)−イミダゾリン−2−イリデン(「IPr」)の群から選択されるNHC配位子であり、そして
− L’は、トリ−イソ−プロピルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy)、トリシクロペンチルホスフィン、シクロヘキシル−ホバン、2,2,4−トリメチルペンチル−ホバン、イソブチル−ホバンまたは置換もしくは非置換ピリジンの群からの脱離配位子であり、
− Xは、ハロゲンアニオン(Cl、Br、I)の群から選択されるアニオン性配位子である]
を有するRu出発化合物と交差メタセシスで反応させる工程を含む、請求項6〜15のいずれか一項に記載のオレフィンメタセシス反応用触媒の製造方法。
【請求項17】
請求項1もしくは2に記載の触媒前駆体または請求項3〜5のいずれか一項に記載の化合物を、式(III):
【化12】
[式中
− Lは、1,3−ビス−(2,4,6−トリメチルフェニル)−イミダゾリジン−2−イリデン(「SIMes」)、1,3−ビス−(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)−イミダゾリジン−2−イリデン(「SIPr」)または1,3−ビス−(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)−イミダゾリン−2−イリデン(「IPr」)の群から選択されるNHC配位子であり、
− L’はピリジンであり、
− XはClである]
を有するRu出発化合物と交差メタセシス反応で反応させる工程を含む、請求項6〜10のいずれか一項に記載のオレフィンメタセシス反応用触媒の製造方法。
【請求項18】
閉環メタセシス(RCM)、交差メタセシス(CM)または開環メタセシス重合(ROMP)から選択されるオレフィンメタセシス反応における請求項6〜15のいずれか一項に記載のオレフィンメタセシス反応用触媒の使用。
【請求項19】
レフィンメタセシスが、0.1モル%未満の触媒使用量および55℃未満の温度で実施される、オレフィンメタセシス反応における請求項6〜15のいずれか一項に記載のオレフィンメタセシス反応用触媒の使用。
【請求項20】
応での触媒の活性(ターンオーバー頻度、TOF)が1×10−1超である、閉環メタセシス(RCM)における請求項6〜15のいずれか一項に記載のオレフィンメタセシス反応用触媒の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Hoveyda−Grubbs型のルテニウムベースのメタセシス触媒を指向する。本明細書に記載される新規N−キレート型ジアリールアミノベースのルテニウム触媒は、固体状態でおよび溶液で非常に安定であり、速い開始挙動を示す。さらなる態様では、本発明は、本発明のメタセシス触媒の製造用中間生成物である、新規スチレンベースの前駆体を指向する。これらのスチレンベースの前駆体は、本明細書に記載される新規メタセシス触媒の費用効率が高い、そして直接的な製造を可能にする。本発明はさらに、スチレンベースの前駆体から出発する新規触媒の製造方法を提供し、そしてまたオレフィンメタセシスのための新規触媒の使用にも関する。
【0002】
本触媒は、閉環メタセシス(RCM)、交差メタセシス(CM)および開環メタセシス重合(ROMP)を触媒するためにとりわけ好適である。本新規触媒系統は、速い触媒開始および高い安定性を、オレフィンメタセシス反応での並外れた活性と組み合わせる。低い触媒使用量が、メタセシス反応によって広範囲の基質を変換するのに十分である。それらは、低いから並の反応温度で短い反応時間内で広範囲の基質の優れた転化率を可能にする。
【背景技術】
【0003】
オレフィンメタセシス反応用のルテニウムベースの触媒は、先行技術から公知であり、過去10年にわたってますます重要性を獲得してきた。一般に、オレフィンメタセシス反応は、炭素−炭素二重結合の金属触媒転位を含み、複雑な天然産物およびポリマーの製造においてとりわけ重要である。しかし、かかる反応は、その開始速度によって制限される傾向がある。その結果として、速いオレフィンメタセシス変換は、高められた温度または迅速開始プレ触媒を必要とする。
【0004】
ルテニウム触媒は、かかる反応を触媒するために特に好適である。これは、様々な官能基に対するそれらの高い安定性および幅広い耐性のためである。それらの最初の導入以来、これらの触媒は、それぞれの配位子の様々な変更によってそれらの安定性および反応性が高められてきた。たとえば、Grubbs第3世代触媒(式aを参照されたい)は、開環メタセシス重合(ROMP)による低分散度ポリマーの製造のための広く用いられるツールである。しかし、これらの錯体は、他のメタセシス反応にはめったに用いられてこなかった。これは、高い反応条件下での触媒の並の安定性に起因する。
【化1】
【0005】
先行技術から公知の式(b)のHoveyda−Grubbs型触媒の開始速度は、式(a)のGrubbs第3世代触媒と比べて劇的により遅い。より最近の開発で、この開始速度は、水素を5−ニトロ基(式c)で置き換えることによってわずかに向上した。
【化2】
【0006】
エーテル酸素供与体の代わりにアミン配位子を持った類似のメタセシス触媒がSlugovcらによって報告されている。しかし、イミン官能性を持った報告触媒は、室温で非常に遅い開始速度で特徴づけられる。それらは、約110℃の高められた温度での開環メタセシス重合反応用の潜在性触媒として用いることができる(Slugovc,C.,Butscher,D.,Stelzer,F.,Mereiter,K.,Organometallics 2005,24,2255−2258を参照されたい)。
【0007】
酸素、窒素、硫黄、セレンおよびリンをキレート原子として提案する、様々なオレフィンメタセシス触媒がまた、Lemcoffらによって報告されている。キノキサリンベースの触媒およびN,N−ジエチル誘導体が、N−キレート型触媒として提示されている。しかし、これらの触媒の活性は評価されていない(Diesendruck,C.E.,Tzur,E.,Ben−Asuly,A.,Goldberg,I.,Straub,B.F.,Lemcoff,N.G.,Inorg.Chem.2009,48,10819−10825を参照されたい)。
【0008】
Grelaらは、キレート窒素原子を有するピリジンベースのルテニウム触媒を報告している。これらの触媒は、周囲条件で安定であり、閉環メタセシスおよび開環メタセシス重合を触媒するために使用されている。メタセシスは、80℃で十分な収率を得るために5モル%の触媒使用量で24〜48時間トルエン中で実施されている。より低い触媒使用量は、有意に低下した転化率をもたらした(Szadkowska,A.,Gstrein,X.,Burtscher,D.,Jarzembska,K.,Wozniak,K.,Slugovc,C.,Grela,K.,Organometallics 2010,29,117−124を参照されたい)。
【0009】
さらなるHoveyda−Grubbs型ルテニウム触媒が、Lemcoff、Tzurらによって製造されている。合成されたピロリジンベースの触媒は、閉環メタセシスおよび交差メタセシスに対して活性を示した。反応は、1モル%の触媒使用量で24時間トルエン中で実施された。24時間の反応時間が十分な収率を得るために必要であった。2〜6時間後に、最終生成物の収率は約24〜55%に専ら達した。より低い触媒使用量は、より長い反応時間を必要とした(Tzur,E.,Szadkowska,A.,Ben−Asuly,A.,Makal,A.,Goldberg,I.,Wozniak,K.,Grela,K.,Lemcoff,N.G.,Chem.Eur.J.2010,16,8726−8737を参照されたい)。
【0010】
アミンキレート配位子を含有するルテニウム触媒がまた、Grelaらによって報告されている(Zukowska,K.,Szadkowska,A.,Pazio,A.E.,Wozniak,K.,Grela,K.,Organometallics 2012,31,462−469)。これらの触媒は、水素原子を有するキレート窒素と、メチル、ベンジルまたは4−ニトロベンジルから選択されてもよい、付属基とを含む。1モル%または5モル%という高い触媒使用量が、閉環メタセシスによって基質を転化させるために使用される。80℃の反応温度が、6〜8時間の反応時間後に十分に高い収率を得るために必要である。これらの触媒は、周囲温度ではいかなる目立った活性も示さない。それらの潜在性のために、それらは「熱的に切替可能な」挙動を示し、熱開始工程を必要とする合成で用いられてもよい。
【0011】
したがって、先行技術から公知の触媒は一般に、遅い開始速度という欠点を有する。こうして、高められた反応温度が反応生成物の十分な収率を得るために必要である。さらに、数時間の反応時間ならびに並のから高い触媒使用量が、原則として、所望の転化率を確保するために必要である。このように、先行技術から公知の触媒は通常、低いから並の活性を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
先行技術から公知のメタセシス触媒の欠点を克服することが本発明の一目的である。こうして、安定した、迅速開始Hoveyda−Grubbs型メタセシス触媒が本発明によって提供される。さらに、本発明の触媒の合成に好適である、新規配位子前駆体が提示される。もっとさらに、本発明はまた、本明細書に報告される相当する前駆体から出発する新規触媒の製造方法を提供する。
【0013】
新規Hoveyda−Grubbs型触媒は、低い触媒使用量でさえも最終生成物の高収率でオレフィンメタセシス反応を触媒するために好適であるべきである。本触媒はまた、短い反応時間内で低いから並みの温度下にオレフィンメタセシス反応を触媒することができるべきである。このように、本触媒は、当該技術から公知の触媒の活性と比べて増加した触媒活性を有するべきである。本触媒は、広範囲の様々な基質の異なるタイプのオレフィンメタセシス反応を触媒するために好適であるべきである。最後に、本Hoveyda−Grubbs型触媒は、特別な予防措置を講じることなくSchlenk技法などの標準不活性技法下でメタセシス反応を可能にさせるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、特許請求の範囲の主題によって解決される。本目的は、新規Hoveyda−Grubbs型触媒の提供によっておよびそれらの製造用の新規スチレンベースの配位子前駆体の提供によってとりわけ解決される。
【0015】
本触媒は、単一反応段階での公知のRu−ベンジリデンまたはRu−インデニリデン錯体との交差メタセシス反応によって配位子前駆体から出発して得られる。これは、高純度および高収率で生成物をもたらす費用効率が高い、そして時間節約的な製造ルートを確実にする。本発明のHoveyda−Grubbs型触媒は、低い触媒使用量および低いから並みの温度でさえも秀でた活性でオレフィンメタセシス反応を触媒するためにとりわけ好適である。
【0016】
本発明のルテニウムベースのメタセシス触媒の製造用のスチレンベースの前駆体は、式(I)
【化3】
(式中、
− a、b、cおよびdは、互いに独立して、水素、C〜C10アルキルなどの直鎖もしくは分岐アルキル基、C〜C10アルコキシ、C〜C10アルキルチオ、C〜C10シリルオキシ、C〜C10アルキルアミノ、任意に置換されていてもよいC〜C14アリール、任意に置換されていてもよいC〜C14アリールオキシ、任意に置換されていてもよいC〜C14ヘテロアリールまたは電子吸引性基(EWG)から選択され;
− Rは、直鎖もしくは分岐C〜C10アルキル、C〜C10アルコキシ、C〜C10アルキルカルボニル、C〜CシクロアルキルまたはC〜C14アリール基から選択され;
− Rは、水素、C〜C10アルキルなどの直鎖もしくは分岐アルキル基、C〜C10アルコキシ、C〜C10アルキルチオ、C〜C10シリルオキシ、C〜C10アルキルアミノ、C〜C14アリール、C〜C14アリールオキシ、C〜C14複素環または電子吸引性基(EWG)から選択され;
− Rは、水素、直鎖もしくは分岐C〜C10アルキル基から選択され;
そしてここで、RおよびRは、環を任意選択的に形成してもよい)
で特徴づけられる。
【0017】
好ましくは、Rは、直鎖もしくは分岐C〜C10アルキル基である。さらに好ましいバージョンでは、Rは、メチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチルまたはイソ−ブチルから選択される。別の好ましいバージョンでは、Rは、メチル、エチルまたはイソ−プロピルから選択される。最も好ましい実施形態では、Rはメチル基である。
【0018】
は、アリール基での置換基である。アリール基でのR置換基の位置は、特に決定的に重要であるわけではない。好ましい実施形態では、Rは水素である。代わりの実施形態では、RおよびRは環を形成してもよい。
【0019】
EWGは、隣接原子から電子密度を吸引する原子または官能基である。好適な電子吸引性基は、ハロゲン原子、トリフルオロメチル(−CF)、ニトロ(−NO)、スルフィニル(−SO−)、スルホニル(−SO−)、ホルミル(−CHO)、C〜C10カルボニル、C〜C10カルボキシル、C〜C10アルキルアミド、C〜C10アミノカルボニル、ニトリル(−CN)またはC〜C10スルホンアミド基から選択される。
【0020】
は、水素または直鎖もしくは分岐C〜C10アルキル基から選択される。好ましくは、Rは、水素、メチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチルまたはイソ−ブチルである。最も好ましいバージョンでは、Rは水素またはメチルである。
【0021】
好ましくは、a、b、cおよびdは、互いに独立して、水素、C〜C10アルキルなどの直鎖もしくは分岐アルキル基、C〜C10アルコキシまたは電子吸引性基(EWG)から選択される。好ましい実施形態では、a、b、cおよびdはそれぞれ水素である。
【0022】
さらに好ましい実施形態によれば、新規系統のルテニウムベースのカルベン触媒の製造用のスチレンベースの前駆体は、式(Ia):
【化4】
で特徴づけられる。
【0023】
代わりの実施態様によれば、この前駆体は、式(Ib):
【化5】
で特徴づけられる。
【0024】
オルト−ビニル置換アルキルジフェニルアミンは、n−BuLiでの直接オルト金属化によって製造される。本新規スチレンベースの前駆体は、Wittig試薬との反応によって相当するベンズアルデヒド中間体から得られてもよい。この反応条件は、実施例セクションに例示的に提示される。前駆体の、特に相当するベンズアルデヒド中間体の製造のための条件は、製造有機化学の技術分野の当業者にはよく知られている。
【0025】
本発明のHoveyda−Grubbs型触媒は、2つのアリール基がキレート窒素原子に直接結合していることを特徴とする。これらの新規N−キレート型ジアリールアミノベースの触媒は、式(II):
【化6】
(式中、
− Lは、中性2電子供与体配位子であり、
− a、b、cおよびdは、互いに独立して、水素、C〜C10アルキルなどの直鎖もしくは分岐アルキル基、C〜C10アルコキシ、C〜C10アルキルチオ、C〜C10シリルオキシ、C〜C10アルキルアミノ、任意に置換されていてもよいC〜C14アリール、任意に置換されていてもよいC〜C14アリールオキシ、任意に置換されていてもよいC〜C14ヘテロアリールまたは電子吸引性基(EWG)から選択され;
− Rは、直鎖もしくは分岐C〜C10アルキル、C〜C10アルコキシ、C〜C10アルキルカルボニル、C〜CシクロアルキルまたはC〜C14アリール基から選択され;
− Rは、水素、C〜C10アルキルなどの直鎖もしくは分岐アルキル基、C〜C10アルコキシ、C〜C10アルキルチオ、C〜C10シリルオキシ、C〜C10アルキルアミノ、C〜C14アリール、C〜C14アリールオキシ、C〜C14複素環または電子吸引性基(EWG)から選択され;
− Xは、ハロゲンアニオン(すなわち、クロリド、ブロミドもしくはヨージド)、テトラフルオロボレート(BF)またはアセテート(CHCOO)の群から独立して選択されるアニオン性配位子であり;
− そしてここで、RおよびRは、環を任意選択的に形成してもよい)
で表される。
【0026】
この式中、Lは、中性2電子供与体配位子を表している。一般に、中性2電子供与体配位子は、ホスフィン配位子の群およびN−複素環カルベン配位子(NHC配位子)の群から選択される。好ましくは、中性2電子供与体配位子は、N−複素環カルベン配位子(NHC配位子)の群から選択される。
【0027】
ホスフィン配位子は、トリ−イソ−プロピルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy)およびトリシクロペンチルホスフィンなどのアルキルホスフィンの群から選択されてもよい。さらに、ホスフィン配位子は、9−ホスファビシクロ−[3.3.1]ノナンまたは9−ホスファビシクロ−[4.2.1]ノナンなどのホスファ−ビシクロアルカン化合物(「ホバン」とも命名される)であってもよい。好ましくは、ホスファ−ビシクロアルカン化合物は、9−シクロヘキシル−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]−ノナン(「シクロヘキシルホバン」)、9−(2,2,4−トリメチルペンチル)−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]−ノナン(2,2,4−トリメチルペンチルホバン」)および9−イソブチル−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]−ノナン(「イソブチルホバン」)の群から選択される。
【0028】
好ましい実施形態では、Lは、N−複素環カルベン配位子(NHC配位子)である。本発明によれば、NHC配位子は、ルテニウムに対して優れた2電子供与体配位子として働く安定した一重項カルベンを含むN−含有複素環化合物である。NHC配位子は、少なくとも1個の窒素原子および炭素原子を環原子として含む。少なくとも1個の窒素環原子は、複素環構造の部分ではないさらなる部分に結合している。NHC配位子は、少なくとも2個の窒素原子を環原子として好ましくは含み、飽和であっても不飽和であってもよい。
【0029】
N−複素環カルベン配位子は、式(IV)または(V):
【化7】
から好ましくは選択される。
【0030】
式(IV)および(V)中、Rは、2,4,6−トリメチルフェニル(「メシチル」)、2,6−ジ−イソプロピルフェニル、3,5−ジ−第三ブチルフェニルおよび2−メチルフェニルならびにそれらの組み合わせから選択される置換アリール基である。
【0031】
好ましくは、NHC配位子は、1,3−ビス−(2,4,6−トリメチルフェニル)−イミダゾリジン−2−イリデン(「SIMes」)、1,3−ビス−(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)−イミダゾリジン−2−イリデン(「SIPr」)または1,3−ビス−(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)−イミダゾリン−2−イリデン(不飽和NHC、「IPr」)の群から選択される。
【0032】
Xは、好ましくは、クロリド、ブロミドもしくはヨージドなどのハロゲンアニオンの群からの、アニオン性配位子であり;最も好ましい実施形態では、XはClである。
【0033】
置換基R、Rならびに基a、b、cおよびdならびにEWG置換基は、式(I)のスチレンベースの前駆体について上に記載されたように定義される。好ましくは、Rは直鎖もしくは分岐C〜C10アルキル基である。さらに好ましいバージョンでは、Rは、メチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチルまたはイソ−ブチルから選択される。別の好ましいバージョンでは、Rは、メチル、エチルまたはイソ−プロピルから選択される。最も好ましい実施形態では、Rはメチル基である。Rは、アリール基での置換基である。アリール基でのR置換基の位置は、特に決定的に重要であるわけではない。好ましい実施形態では、Rは水素である。代わりの実施形態では、RおよびRは環を形成してもよい。
【0034】
は、水素または直鎖もしくは分岐C〜C10アルキル基から選択される。好ましくは、Rは、水素、メチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチルまたはイソ−ブチルである。最も好ましいバージョンでは、Rは水素またはメチルである。
【0035】
好ましくは、a、b、cおよびdは、互いに独立して、水素、C〜C10アルキルなどの直鎖もしくは分岐アルキル基、C〜C10アルコキシまたは電子吸引性基(EWG)から選択される。さらに好ましい実施形態では、a、b、cおよびdはそれぞれ水素である。
【0036】
特有の実施形態では、N−キレート型ジアリールアミノベースの触媒は、式(IIa):
【化8】
で特徴づけられる。
【0037】
さらに特有の実施形態では、N−キレート型ジアリールアミノベースの触媒は、式(IIb):
【化9】
で特徴づけられる。
【0038】
さらに特有の実施形態では、N−キレート型ジアリールアミノベースの触媒は、式(IIc)および式(IId):
【化10】
で特徴づけられる。
【0039】
上記のN−キレート型ジアリールアミノベースのRu触媒に加えて、本発明はまた、これらの新規触媒の製造方法にも関する。一般に、本触媒は、単一段階反応によって式(I)の新規前駆体から得られる。本発明による単一段階反応は、中間単離または中間精製工程を必要とすることなく進行する反応(ワンポット合成)である。
【0040】
一般式LRu=CR(式中、RおよびRは独立して、水素、アルキルまたはアリールであってもよく、そして式中、RおよびRは環を形成してもよい)の様々なRuベースの出発錯体を、本発明の触媒の製造用出発原料として用いることができる。好適なRuベースの出発錯体の例は、(ホスフィン配位子を含有する)Grubbs第1世代の周知のRu−ベンジリデン錯体または(NHC配位子を含有する)Grubbs第2世代Ru−錯体である。
【0041】
本発明の好ましい方法では、式(I)の前駆体は、式(II)の触媒を得るために交差メタセシス反応で式(III)のRu−フェニルインデニリデン錯体と反応させられる。
【化11】
スキーム1
【0042】
式(III)のRu−出発錯体において、Lは、トリ−イソプロピルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy)、トリシクロペンチルホスフィンならびに9−シクロヘキシル−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]−ノナン(「シクロヘキシルホバン」)、9−(2,2,4−トリメチルペンチル)−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]−ノナン(2,2,4−トリメチルペンチルホバン」)および9−イソブチル−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]−ノナン(「イソブチルホバン」)などのホスファ−ビシクロアルカン化合物の群から選択されるホスフィン配位子であってもよい。
【0043】
本方法の好ましいバージョンでは、Lは、1,3−ビス−(2,4,6−トリメチルフェニル)−イミダゾリジン−2−イリデン(「SIMes」)、1,3−ビス−(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)−イミダゾリジン−2−イリデン(「SIPr」)または1,3−ビス−(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)−イミダゾリン−2−イリデン(不飽和NHC、「IPr」)の群から選択されるNHC配位子である。
【0044】
さらに、上式(III)のRu−出発錯体において、L’は、トリ−イソプロピルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy)、トリシクロペンチルホスフィン、9−シクロヘキシル−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]−ノナン(「シクロヘキシルホバン」)、9−(2,2,4−トリメチルペンチル)−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]−ノナン(2,2,4−トリメチルペンチルホバン」)、9−イソブチル−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]−ノナン(「イソブチルホバン」)の群から選択されるホスフィン配位子または、置換されていても非置換であってもよい、ピリジン配位子を表す脱離配位子である。例は、ピリジンまたはブロモピリジンである。
【0045】
Xは、好ましくは、クロリド、ブロミドもしくはヨージドなどのハロゲンアニオンの群からの、アニオン性配位子であり;最も好ましい実施形態では、XはClである。
【0046】
使用されるRu−出発錯体に依存して、交差メタセシス反応のための反応条件は修正されてもよく;特に、Cu−塩(CuClまたはCuBrなどの)が、たとえば、(PCyClRu−フェニルインデニリデンなどのホスフィン含有Ru−出発錯体を使用するときにはホスフィン捕捉剤として添加されてもよい。しかし、脱離配位子L’がホスフィンでない場合には、Cu−塩の添加は必要でないことが指摘されるべきである。
【0047】
本方法のさらに好ましいバージョンでは、たとえば(SIMes)(py)RuCl(3−フェニルインデニリデ−1−ン)[Umicore M31]または(SiPr)(py)RuCl(3−フェニルインデニリデ−1−ン)[Umicore M32]などの、脱離配位子L’=ピリジン(py)のRu−出発錯体が用いられてもよい。所望の錯体の形成を容易にするために、ピリジン配位子は、(国際公開第2011/091980号パンフレットに記載されている方法に従って)プロトンイオン交換樹脂でのインサイチュープロトン化によって除去することができる。さらに向上した収率が得られる。
【0048】
交差メタセシス反応は、ジクロロメタン(DCM)、クロロホルムもしくは1,2−ジクロロエタン(DCE)などの塩素化炭化水素溶媒中でまたはテトラヒドロフラン(THF)もしくはジオキサンなどの環状エーテル中で行われてもよい。あるいは、ベンゼンもしくはトルエンなどの芳香族炭化水素溶媒ならびにエステルおよびリストされた溶媒の混合物が用いられてもよい。最も好ましくは、精製トルエンが反応溶媒として使用される。
【0049】
好適な反応時間は、出発原料のタイプに依存する。典型的には、反応時間は、0.5〜4時間、好ましくは0.5〜2時間、最も好ましくは0.5〜1.5時間の範囲にある。反応温度は、原料に依存して変わってもよい。典型的には、50〜100℃の範囲の、好ましくは50〜80℃の範囲の反応温度が適切である。65〜80℃の範囲の温度が、ある場合には、触媒の相当するシス−ジクロロ異性体(トランス−異性体と比べてより低い触媒活性を有する)の形成が回避され得るので、特に好ましい。反応は、窒素もしくはアルゴンなどの不活性ガス下で好ましくは実施される。
【0050】
反応混合物を一定時間攪拌した後、反応溶媒が好ましくは真空で除去される。残った反応混合物はさらに精製されてもよい。これは、カラムクロマトグラフィーによって好ましくは行われる。生じた生成物は、高純度のRu−触媒を得るために非極性炭化水素溶剤から再結晶されてもよい。この非極性炭化水素溶剤は、n−ペンタン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、n−ヘプタンまたはそれらの混合物から選択されてもよい。生じた触媒は、好ましくは濾過によって分離される。さらなる精製工程が行われてもよい。生成物は、たとえば、非極性炭化水素溶剤で洗浄されてもよい。一般に、本発明のRu−触媒は、高純度で良好な収率で得ることができる。
【0051】
N−キレート型ジアリールアミノルテニウム触媒は、広範囲の基質でのメタセシス反応を触媒するために使用されてもよい。既に記載されたように、これらの触媒は、閉環メタセシス(RCM)、交差メタセシス(CM)、開環メタセシス重合(ROMP)および他のメタセシス反応を触媒するために特に好適である。一般に、メタセシス反応は、均一相で行われる。あるいは、反応は、固定化または担持触媒を使って不均一なやり方で;たとえばカチオン交換樹脂の存在下で実施されてもよい。メタセシス反応のための反応条件は、当業者によく知られている。反応は、たとえば、ジクロロエテン、ヘキサフルオロベンゼンまたはトルエンであってもよい、好適な反応溶媒中で実施される。好ましくは反応溶媒はトルエンを含む。最も好ましくは有機溶媒はトルエンである。好ましくは、メタセシス反応は、窒素もしくはアルゴンなどの保護不活性ガス下で行われる。
【0052】
本発明のRu−触媒は、60℃よりも下の反応温度を可能にする。実施例セクションに示されるように、反応温度は、20〜30℃まで下げられてもよく;これらの温度は、完全な転化のために既に十分である。かかる低温は、温度感受性基質材料を用いるときには重要である。
【0053】
さらに、本発明のRu−触媒は、低い触媒使用量を可能にする。ある反応では、触媒使用量は、1000ppm、すなわち、0.1モル%を超えない。250ppmよりも低い、好ましくは100ppmよりも低い触媒使用量が、費用効率が高いメタセシス反応を確保しながら高転化率を得るために十分であると分かった。
【0054】
本発明のRu−触媒は、短い反応時間でのメタセシス反応を可能にする。典型的には、実施例セクションに示されるように、基質の65%超が15分後に転化される。これは、公知の方法によって、好ましくはガスクロマトグラフィー(GC)によって測定される。ほとんどの場合に70%以上の、好ましくは75%以上の転化率が、上述の条件下に少なくとも15分の反応時間後に本発明の触媒で得られる。様々なメタセシス反応で、転化率は、15分の反応時間後に93%または95%さえに達する。ある場合には、88%超、より好ましくは90%以上の単離最終生成物の収率を得ることができる。
【0055】
本発明の触媒は、速い開始速度を示し、こうして優れた触媒活性を持ちながら速い、かつ、効率的なオレフィンメタセシス反応につながる。好ましくは5×10超、好ましくは8×10超、最も好ましくは1×10超のTON(「ターンオーバー数」;すなわち、転化基質対触媒のモル比)が本発明の新規触媒系統で得られ得る。触媒活性についての尺度であるTOF(1時間当たりのTON;ターンオーバー頻度)は、最高で1×10−1超、好ましくは8×10−1超、最も好ましくは1×10−1超までに達する。
【0056】
キレート窒素原子に結合した置換基の立体効果と電子効果との間で適正なバランスを提供することが本発明の触媒の活性を調整するために必要であることが分かった。したがって、式(b)および(c)のルテニウムベースの触媒と比べて本触媒の優れた活性は、N−原子に結合したアリール部分によるキレート窒素原子の特有の塩基性に由来する可能性があると思われる。ベンジリデンアミン配位子におけるN−供与体原子の性質のこの修正は、Ru−N相互作用の弱化の一因となり、その結果として触媒の開始速度の著しい増加をもたらし得る。現在まで、かかるN−キレート型ジアリールアミノ−Ru触媒は文献に記載されていない。
【0057】
要約すれば、本発明の触媒は、速い触媒開始および高い安定性を、オレフィンメタセシス反応での並外れた活性と組み合わせる。低い触媒使用量が、短い反応時間内でそして低いから並の反応温度で最終生成物の優れた収率を得るために十分である。
【0058】
本新規触媒は、一段階反応で新規前駆体から高純度および高収率で得られるので、それらは、工業的規模で経済的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】0.1モル%(1000ppm)の式(IIa)、(b)および(c)の触媒を使用するトルエン中で0℃のRCM反応中のジアリル−N−トシルアミド(0.1モル/L)の転化率(%単位での)を示す。
図2】1000ppmの式(IIa)、(b)および(c)の触媒を使用するトルエン中で20℃でのDEDAM(0.1モル/L)の転化率(%単位での)を示す。
図3】錯体(IIa)の結晶構造のORTEPプロットを示す。重要な結合長さ(pm)および角度(°)は:Ru−N 234.7(4)、Ru−CHAr 182.6(5)、Ru−C(NHC) 201.4(5)、Ru−Cl 234.0(1)、235.0(1)、Cl−Ru−Cl 162.58(6)、N−Ru−C(NHC) 175.53(15)である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
本発明は、保護の範囲を制限するまたは狭くすることなく以下の実施例によってさらに説明される。
【0061】
概論
すべての化学薬品は、特に明記しない限り、商業供給業者から試薬グレードとして購入し、さらなる精製なしに使用した。ルテニウム錯体を含むすべての反応は、窒素の雰囲気下で行った。CHCl(99.5)およびペンタン(99)はGruessing GmbHから、トルエンはSigma−Aldrichから入手した(Lab.Reagentグレード、99.3%)。これらの溶媒は、カラム精製システムを用いることによって乾燥させ、脱気した。このシステムでは、溶媒を、アルゴン(0.1〜1バール)でスパージし、そして加圧し、これに、活性アルミナを充填したカラムおよび、担持銅触媒(トルエン、ペンタン)か再び活性アルミナ(CHCl)かを充填したどちらかの、第2カラムの逐次通過が続く。トルエンは、CaH上でさらに乾燥させ、モレキュラーシーブ(3Å)上へ蒸留した。テトラヒドロフランは、ナトリウム上で乾燥させ、モレキュラーシーブ(3Å)上へ蒸留した。Hおよび13C核磁気共鳴スペクトルは、Bruker DRX300分光計で記録した。化学シフトは、デルタスケール(δ)で百万当たりの部(ppm)単位で与えられ、テトラメチルシラン(H−、13C−NMR=0ppm)またはCHClの残存ピーク(H−NMR=7.26ppm,13C−NMR=77.16ppm)を基準とする。NMRデータについての省略形は:s=シングレット;d=ダブレット;t=トリプレット;q=カルテット;sep=セプテット;m=マルチプレット;bs=幅広いシグナル;Ar=芳香族プロトンである。
【0062】
UV−Vis分光光度データは、Analytik Jena SPECORD S 600 UV−Vis分光光度計で取得した。薄層クロマトグラフィー(TLC)は、アルミニウムプレート上のシリカゲル60F254(0.2mm)を使用して行った。分取クロマトグラフィー E.Merckシリカゲル60(0.063〜0.02メッシュ)。
【0063】
GC実験は、オートサンプラーおよびFID検出器のClarus500GCで行った。カラム:Varian CP−Sil8CB(l=15m、d=0.25mm、d=1.0lm)、N(流れ:17cms−1;スプリット 1:50);注入器温度:270℃、検出器温度:350℃。
【0064】
次の化合物は、文献手順に従って製造した:2−(N−フェニル)−アミノベンズアルデヒド、2,2−ジアリルマロン酸ジエチル、N,N−ジアリル−4−メチルベンゼンスルホンアミド。
【実施例】
【0065】
実施例1
前駆体(Ia)の製造
新規前駆体の製造は、式(Ia)の前駆体について例示的に説明する。
【0066】
a)2−(N−メチル−N−フェニル)−アミノベンズアルデヒド
100mLのSchlenkフラスコ中で、2−(N−フェニル)−アミノベンズアルデヒド(0.41g、2.08ミリモル)を乾燥した脱気DMF(20mL)に溶解させた。CsCO(2.71g、8.32ミリモル)を加え、懸濁液を室温で攪拌した。2時間後にヨウ化メチル(0.52mL、8.32ミリモル)を加え、反応混合物を一晩攪拌した。脱イオン水(20mL)を加え、混合物をジエチルエーテル(3×50mL)で抽出した。有機相をMgSO上で乾燥させ、真空で濃縮した。粗生成物を、カラムクロマトグラフィー(シクロヘキサン/酢酸エチル 20:1+1%NEt)によって精製した。収量:0.41g(93%)、黄色固体。Hおよび13C−NMRデータは、公表されたデータと一致した。
【0067】
b)2−(N−メチル−N−フェニル)−アミノスチレン
100mLのSchlenkフラスコ中で、MePPhI(3.14g、7.8ミリモル)およびKOtBu(0.88g、7.8ミリモル)を0℃で、乾燥した脱気THF(10ml)に懸濁させた。混合物を2時間攪拌し室温まで温まるに任せた。その後、混合物を−60℃に冷却し(iPrOH/N(液体))、乾燥した脱気THF(5mL)中の2−(N−メチル−N−フェニル)アミノベンズアルデヒド(0.41g、1.9ミリモル)の溶液を加えた。混合物を一晩攪拌し、その間にそれを周囲温度まで温まるに任せた。シリカ(15mL)を反応混合物に加え、溶媒を真空で除去した。カラムクロマトグラフィー(シクロヘキサン/酢酸エチル 20:1v/v+1%NEt)による精製は、所望の生成物を無色オイルとして与えた。収量:0.36g(91%)。この無色オイルを、H−NMR(500MHz,CDCl)および13C−NMR(126MHz,CDCl)ならびにHRMSによって分析した。
H−NMR(500MHz,CDCl):δ 7.72(d,J=7.0Hz,1H,o−ArH),7.49−7.07(m,5H,ArH),6.98−6.71(m,2H,ArH+ArCH=CH),6.65(d,J=7.9Hz,2H,o−ArH),5.79(d,J=17.7Hz,1H,ArCH=CHシスHトランス),5.27(d,J=11.0Hz,1H,ArCH=CHシスHトランス),3.25(s,3H,NCH)。
13C−NMR(126MHz,CDCl):δ 149.6,146.4,136.3,133.2,129.5,129.0,128.6,126.6,126.5,117.3,115.3,113.5,39.8。
HRMS:m/z C1515Nに対する計算値:209.1205;実測値:209.11775。
【0068】
実施例2
触媒(IIa)の製造
トルエン(2.5mL)中の2−(N−メチル−N−フェニル)アミノスチレン(70mg、0.32ミリモル)の溶液に、[(SIMes)(py)RuCl(3−フェニルインデニリデ−1−ン)](200mg、0.27ミリモル;Umicore M31,Umicore AG & Co KG,Hanau)を加え、混合物を75℃で120分間攪拌した。混合物を真空で濃縮し、カラムクロマトグラフィー(シクロヘキサン/アセトン 7:1v/v+0.5%NEt)によって精製した。得られた生成物をシクロヘキサンから再結晶し、所望の錯体を緑色微結晶固体として生成した。得られた生成物を、H−NMR(300MHz,CDCl)、13C−NMR(75MHz,CDCl)およびHRMSによって分析した。
(シクロヘキサン/アセトン 7:1v/v+0.5%NEt)=0.15。
H−NMR(300MHz,CDCl):δ 17.00(s,1H,RuCH),7.59(td,J=8.0,1.5Hz,1H),7.30(d,J=8.0Hz,1H,o−ArH),7.19(td,J=7.5,1.0Hz,1H,m−ArH),7.13−6.88(m,8H,ArH),6.80−6.70(m,2H,ArH),4.07(s,4H,NCHCHN),2.91(s,3H,NCH),2.79−1.70(m,18H,o−ArCH)。
13C−NMR(75MHz,CDCl):δ 299.2,210.3,208.5,155.8,151.4,146.5,139.2,138.9,138.6,129.5,129.4,129.3,127.9,127.4,126.9,123.5,122.0,121.1,53.8,51.7,21.3,19.5。
3539ClRuに対する分析データ:
計算値:C:62.40;H:5.84;N:6.24。
実測値:C:62.53;H:5.95;N:5.96。
【0069】
実施例3
触媒(IIb)の製造
[(SIMes)(py)RuCl(3−フェニルインデニリデ−1−ン)](150mg、0.2ミリモル;Umicore M31)を、Schlenkフラスコへ装入し、トルエン(2.5mL)をアルゴンの雰囲気下で加えた。この混合物を50℃に加熱し、2−(N−エチル−N−フェニル)アミノスチレン(42mg、0.18ミリモル)を加えた。この混合物を50℃で3時間攪拌した。この後、溶媒を真空で除去し、残りの固体をカラムクロマトグラフィー(短いカラム、酢酸エチル/シクロヘキサン、1:5、v/v)によって精製した。得られた生成物をペンタンで処理し、生じた懸濁液を−35℃に冷却した。生成物を濾過によって集め、冷ペンタンで洗浄し、真空で乾燥させた。得られた生成物を、H−NMR(300MHz,CDCl)、13C−NMR(75MHz,CDCl)によって分析した。
H−NMR(300MHz,CDCl):δ=16.93(s,1H,Ru=CH),7.53(t,J=7.4Hz,1H),7.33(d,J=7.9Hz,1H),7.17(t,J=7.3Hz,2H),7.12−7.01(m,5H),7.01−6.88(m,5H),4.05(s,4H,NCHCHN),3.69−3.49(m,1H,CHCH),2.95−2.75(m,1H,CHCH),2.68−2.09(m,18H,CH),0.55(t,J=6.8Hz,3H,CHCH)。
13C−NMR(75MHz,CDCl):δ=300.60,210.53,196.57,157.83,148.00,143.93,139.14(br.),138.68(br.),138.52,129.56,129.30,128.68,127.60,127.02,123.24,121.31,121.01,56.77,51.66,21.31,19.55(br.),11.24。
【0070】
実施例4
触媒(IIc)の製造
[(SIPr)(py)RuCl(3−フェニルインデニリデ−1−ン)]錯体(150mg、0.18ミリモル;Umicore M32,Umicore AG & Co KG,Hanau)を含有するSchlenkチューブを3回排気し、アルゴンでバックフィルした。トルエン(1.66ml)、n−ヘキサン(0.83ml)およびトルエン(2.5mL)中の2−(N−メチル−N−フェニル)−アミノスチレン(=N−メチル−N−フェニル)−2−ビニルアニリン;41.4mg、0.198ミリモル)をアルゴンの雰囲気下で加えた。この混合物を70℃で120分間加熱した。揮発性物質を真空で除去し、残留物をカラムクロマトグラフィー(シクロヘキサン/EtOAc、4:1v/v)によって精製した。生成物をペンタン(3ml)で処理し、懸濁液を−35℃に冷却した。濾過および冷ペンタンでの洗浄後に、所望の錯体が微結晶緑色固体として得られた。この化合物は、H−および13C−NMR分光法によってキャラクタリゼーションした。
【0071】
実施例5
触媒(IId)の製造
[(IPr)(py)RuCl(3−フェニルインデニリデ−1−ン)]錯体(150mg、0.18ミリモル)を含有するSchlenkチューブを3回排気し、アルゴンでバックフィルした。トルエン(1.66ml)、n−ヘキサン(0.83ml)およびトルエン(2.5mL)中の(N−メチル−N−フェニル)−2−ビニルアニリン(41.4mg、0.198ミリモル)をアルゴンの雰囲気下で加えた。この混合物を70℃で120分間加熱した。揮発性物質を真空で除去し、残留物をカラムクロマトグラフィー(シクロヘキサン/EtOAc、5:1v/v)によって精製した。生成物をペンタン(3ml)で処理し、懸濁液を−35℃に冷却した。濾過および冷ペンタンでの洗浄後に、所望の錯体が微結晶緑色固体として得られた。この化合物は、H−および13C−NMR分光法によってキャラクタリゼーションした。
【0072】
触媒試験
新規触媒を、閉環メタセシス反応(RCM)で例示的に評価した。さらに、活性を、先行技術から公知のプレ触媒、すなわち、上に示された式(b)および(c)の触媒と比較した。
【0073】
閉環メタセシス(RCM)の結果
式(IIa)、(IIb)、(IIc)の触媒を、N−複素環化合物をもたらす多数の閉環メタセシス反応について系統的に試験した。先行技術触媒((b)および(c))との比較を行った。
【0074】
閉環反応は、15分の反応時間で50℃にてトルエン中で実施した。基質は、実施例番号2(ここでは、基質濃度は0.1モル/Lである)を除いて0.5モル/Lの量で存在した。反応は、50℃でアルゴンの雰囲気下で、密封した10mLのSchlenkチューブで実施した。10mLのSchlenkチューブ中で、基質をアルゴンの雰囲気下で乾燥トルエン(2mL)に溶解させた。この溶液を50℃に加熱し、触媒を、トルエン中の原液(たとえば式(IIa):[Ru]=3.0ミリモル/Lまたは0.75ミリモル/L)から添加した。基質転化率の測定のために、試料(50μL)を、アルゴンの流れ下で指定時間後に採取した。試料を、トルエン中25%(v/v)エチルビニルエーテル溶液の250μLを含有するガスクロマトグラフィーバイアルへ注入し、ガスクロマトグラフィーによって分析した。生成物は、ペンタン/ジエチルエーテルの混合物を溶離液として使用するカラムクロマトグラフィー(シリカ)によって単離した。転化度は、2つの実験の平均転化率である。結果を表1に提示する。
【0075】
試験された触媒は、25〜200ppmの触媒使用量を用いて、基質の優れた転化率(65%以上)を可能にする。それによって、式(IIa)および(IIc)の触媒は(IIb)よりも効率的であることが分かった。先行技術触媒(b)および(c)と比較して、本発明の触媒は、RCMおよび様々な他のメタセシス反応で向上した活性を示す。
【0076】
【表1】
【0077】
低い触媒使用量は別として、かかる反応のために必要とされる短い時間が最も注目に値する−研究された反応のすべてが15分未満内で完了する。
【0078】
TONおよびTOFを、基質番号1および25ppmの触媒使用量について計算した。したがって、触媒(IIa)を使用することによって、3.6×10のTONおよび1.3×10−1のTOFが観察された。これは、先行技術に対してかなりの改善である。
【0079】
先行技術触媒での比較試験
様々なオレフィン濃度(ジアリルマロン酸ジエチル;DEDAM)での式(IIa)の触媒ならびに当該技術から公知の式(b)および(c)触媒の開始速度を、Plenioらによって報告された方法(Vorfalt,T.,Wannowius,K.J.,Plenio,H.,Angew.Chem.,Int.Ed.2010,49,5533−5536)に従って測定した。開始プロセスを、UV/Visスペクトルを記録することによって監視して経時的にスペクトル変化を追跡した。
【0080】
0℃でのジアリル−N−トシルアミドのRCMで、式(IIa)のプレ触媒は、先行技術触媒(b)および(c)よりも著しく速い。低温で速い開始は、かなりより遅く開始する、当該技術から公知の触媒(b)および(c)と比べて優れた触媒活性につながる。図1は、RCM反応の結果を示す。
【0081】
RCM反応を迅速に触媒する式(IIa)の触媒の能力はまた、DEDAM反応についても明らかである。図2に、1000ppmの式(IIa)、(c)および(b)の触媒を使用するトルエン中のDEDAMのRCM反応の結果を提示する。式(IIa)の触媒では、完全な基質転化が約10分以内で達成されるが、式(c)の触媒はおおよそ10倍より長い時間を必要とし、式(b)の触媒は完全な転化に達するように見えない。これらの結果は、式(IIa)の触媒の主な利点がRCM変換のために必要とされる短い時間であることを実証している。
【0082】
さらに、触媒性能への温度の強い影響が注目される。0℃ではジアリル−N−トシルアミドのRCMで約84%収率を得るために、120分の反応時間で約1000ppmの式(IIa)の触媒が必要とされる。50℃では同じ収率は、たったの25ppmの式(IIa)の触媒を使用して15分以内で得られる(表1を参照されたい)。
【0083】
第二級アミン配位子を含有する先行技術触媒での比較試験
第二級アミンキレート配位子を含有するルテニウム触媒は、Grelaらによって報告されている(Zukowska,K.,Szadkowska,A.,Pazio,A.E.,Wozniak,K.,Grela,K.,Organometallics 2012,31,462−469)。本出願の序論セクションに概要を述べられているように、これらの触媒は、水素原子と、メチル、ベンジルまたは4−ニトロベンジルから選択されてもよい、結合アルキル基とを有するキレート第二級アミン基を含む。
【0084】
これらの先行技術触媒に対して本発明の触媒の向上した反応性を実証するために、基質2−メタリル−アリルマロン酸ジエチルの閉環メタセシス反応(RCM)を含む、さらなる比較試験を行った。
【0085】
触媒IIa(本発明による)は、c=0.5モル/Lの基質濃度でトルエン溶媒中100ppm(0.01モル%)の触媒使用量で用いた。50℃の反応温度で15分の反応時間後に、95%の基質転化率が得られた(GCによって測定された、2実験にわたっての平均)。
【0086】
同一の基質(メタリル−アリルマロン酸ジエチル)でのRCM反応について、Grelaらは、5モル%の触媒使用量およびc=0.1モル/Lの基質濃度でN−キレートHoveyda型触媒15c(ベンジル基とともに第二級アミンとSIMES配位子とを含有する)を使用して8時間の反応時間後に45%の転化率を報告した(Grelaら、セクション2.2、表2、エントリーV、ページ464−465(上に引用した論文)を参照されたい)。他の反応条件(溶媒、温度)は同一であるので、これらの結果は、本発明のN−キレート型ジアリールアミノベースのルテニウム触媒の高い反応性、特に速い開始挙動を明確に示している。低い触媒使用量が広範囲の基質を短い反応時間内でメタセシス反応において変換するのに十分である。
図1
図2
図3