【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、特許請求の範囲の主題によって解決される。本目的は、新規Hoveyda−Grubbs型触媒の提供によっておよびそれらの製造用の新規スチレンベースの配位子前駆体の提供によってとりわけ解決される。
【0015】
本触媒は、単一反応段階での公知のRu−ベンジリデンまたはRu−インデニリデン錯体との交差メタセシス反応によって配位子前駆体から出発して得られる。これは、高純度および高収率で生成物をもたらす費用効率が高い、そして時間節約的な製造ルートを確実にする。本発明のHoveyda−Grubbs型触媒は、低い触媒使用量および低いから並みの温度でさえも秀でた活性でオレフィンメタセシス反応を触媒するためにとりわけ好適である。
【0016】
本発明のルテニウムベースのメタセシス触媒の製造用のスチレンベースの前駆体は、式(I)
【化3】
(式中、
− a、b、cおよびdは、互いに独立して、水素、C
1〜C
10アルキルなどの直鎖もしくは分岐アルキル基、C
1〜C
10アルコキシ、C
1〜C
10アルキルチオ、C
1〜C
10シリルオキシ、C
1〜C
10アルキルアミノ、任意に置換されていてもよいC
6〜C
14アリール、任意に置換されていてもよいC
6〜C
14アリールオキシ、任意に置換されていてもよいC
6〜C
14ヘテロアリールまたは電子吸引性基(EWG)から選択され;
− R
1は、直鎖もしくは分岐C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルコキシ、C
1〜C
10アルキルカルボニル、C
5〜C
6シクロアルキルまたはC
6〜C
14アリール基から選択され;
− R
2は、水素、C
1〜C
10アルキルなどの直鎖もしくは分岐アルキル基、C
1〜C
10アルコキシ、C
1〜C
10アルキルチオ、C
1〜C
10シリルオキシ、C
1〜C
10アルキルアミノ、C
6〜C
14アリール、C
6〜C
14アリールオキシ、C
6〜C
14複素環または電子吸引性基(EWG)から選択され;
− R
3は、水素、直鎖もしくは分岐C
1〜C
10アルキル基から選択され;
そしてここで、R
1およびR
2は、環を任意選択的に形成してもよい)
で特徴づけられる。
【0017】
好ましくは、R
1は、直鎖もしくは分岐C
1〜C
10アルキル基である。さらに好ましいバージョンでは、R
1は、メチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチルまたはイソ−ブチルから選択される。別の好ましいバージョンでは、R
1は、メチル、エチルまたはイソ−プロピルから選択される。最も好ましい実施形態では、R
1はメチル基である。
【0018】
R
2は、アリール基での置換基である。アリール基でのR
2置換基の位置は、特に決定的に重要であるわけではない。好ましい実施形態では、R
2は水素である。代わりの実施形態では、R
1およびR
2は環を形成してもよい。
【0019】
EWGは、隣接原子から電子密度を吸引する原子または官能基である。好適な電子吸引性基は、ハロゲン原子、トリフルオロメチル(−CF
3)、ニトロ(−NO
2)、スルフィニル(−SO−)、スルホニル(−SO
2−)、ホルミル(−CHO)、C
1〜C
10カルボニル、C
1〜C
10カルボキシル、C
1〜C
10アルキルアミド、C
1〜C
10アミノカルボニル、ニトリル(−CN)またはC
1〜C
10スルホンアミド基から選択される。
【0020】
R
3は、水素または直鎖もしくは分岐C
1〜C
10アルキル基から選択される。好ましくは、R
3は、水素、メチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチルまたはイソ−ブチルである。最も好ましいバージョンでは、R
3は水素またはメチルである。
【0021】
好ましくは、a、b、cおよびdは、互いに独立して、水素、C
1〜C
10アルキルなどの直鎖もしくは分岐アルキル基、C
1〜C
10アルコキシまたは電子吸引性基(EWG)から選択される。好ましい実施形態では、a、b、cおよびdはそれぞれ水素である。
【0022】
さらに好ましい実施形態によれば、新規系統のルテニウムベースのカルベン触媒の製造用のスチレンベースの前駆体は、式(Ia):
【化4】
で特徴づけられる。
【0023】
代わりの実施態様によれば、この前駆体は、式(Ib):
【化5】
で特徴づけられる。
【0024】
オルト−ビニル置換アルキルジフェニルアミンは、n−BuLiでの直接オルト金属化によって製造される。本新規スチレンベースの前駆体は、Wittig試薬との反応によって相当するベンズアルデヒド中間体から得られてもよい。この反応条件は、実施例セクションに例示的に提示される。前駆体の、特に相当するベンズアルデヒド中間体の製造のための条件は、製造有機化学の技術分野の当業者にはよく知られている。
【0025】
本発明のHoveyda−Grubbs型触媒は、2つのアリール基がキレート窒素原子に直接結合していることを特徴とする。これらの新規N−キレート型ジアリールアミノベースの触媒は、式(II):
【化6】
(式中、
− Lは、中性2電子供与体配位子であり、
− a、b、cおよびdは、互いに独立して、水素、C
1〜C
10アルキルなどの直鎖もしくは分岐アルキル基、C
1〜C
10アルコキシ、C
1〜C
10アルキルチオ、C
1〜C
10シリルオキシ、C
1〜C
10アルキルアミノ、任意に置換されていてもよいC
6〜C
14アリール、任意に置換されていてもよいC
6〜C
14アリールオキシ、任意に置換されていてもよいC
6〜C
14ヘテロアリールまたは電子吸引性基(EWG)から選択され;
− R
1は、直鎖もしくは分岐C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルコキシ、C
1〜C
10アルキルカルボニル、C
5〜C
6シクロアルキルまたはC
6〜C
14アリール基から選択され;
− R
2は、水素、C
1〜C
10アルキルなどの直鎖もしくは分岐アルキル基、C
1〜C
10アルコキシ、C
1〜C
10アルキルチオ、C
1〜C
10シリルオキシ、C
1〜C
10アルキルアミノ、C
6〜C
14アリール、C
6〜C
14アリールオキシ、C
6〜C
14複素環または電子吸引性基(EWG)から選択され;
− Xは、ハロゲンアニオン(すなわち、クロリド、ブロミドもしくはヨージド)、テトラフルオロボレート(BF
4−)またはアセテート(CH
3COO
−)の群から独立して選択されるアニオン性配位子であり;
− そしてここで、R
1およびR
2は、環を任意選択的に形成してもよい)
で表される。
【0026】
この式中、Lは、中性2電子供与体配位子を表している。一般に、中性2電子供与体配位子は、ホスフィン配位子の群およびN−複素環カルベン配位子(NHC配位子)の群から選択される。好ましくは、中性2電子供与体配位子は、N−複素環カルベン配位子(NHC配位子)の群から選択される。
【0027】
ホスフィン配位子は、トリ−イソ−プロピルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy
3)およびトリシクロペンチルホスフィンなどのアルキルホスフィンの群から選択されてもよい。さらに、ホスフィン配位子は、9−ホスファビシクロ−[3.3.1]ノナンまたは9−ホスファビシクロ−[4.2.1]ノナンなどのホスファ−ビシクロアルカン化合物(「ホバン」とも命名される)であってもよい。好ましくは、ホスファ−ビシクロアルカン化合物は、9−シクロヘキシル−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]−ノナン(「シクロヘキシルホバン」)、9−(2,2,4−トリメチルペンチル)−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]−ノナン(2,2,4−トリメチルペンチルホバン」)および9−イソブチル−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]−ノナン(「イソブチルホバン」)の群から選択される。
【0028】
好ましい実施形態では、Lは、N−複素環カルベン配位子(NHC配位子)である。本発明によれば、NHC配位子は、ルテニウムに対して優れた2電子供与体配位子として働く安定した一重項カルベンを含むN−含有複素環化合物である。NHC配位子は、少なくとも1個の窒素原子および炭素原子を環原子として含む。少なくとも1個の窒素環原子は、複素環構造の部分ではないさらなる部分に結合している。NHC配位子は、少なくとも2個の窒素原子を環原子として好ましくは含み、飽和であっても不飽和であってもよい。
【0029】
N−複素環カルベン配位子は、式(IV)または(V):
【化7】
から好ましくは選択される。
【0030】
式(IV)および(V)中、R
5は、2,4,6−トリメチルフェニル(「メシチル」)、2,6−ジ−イソプロピルフェニル、3,5−ジ−第三ブチルフェニルおよび2−メチルフェニルならびにそれらの組み合わせから選択される置換アリール基である。
【0031】
好ましくは、NHC配位子は、1,3−ビス−(2,4,6−トリメチルフェニル)−イミダゾリジン−2−イリデン(「SIMes」)、1,3−ビス−(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)−イミダゾリジン−2−イリデン(「SIPr」)または1,3−ビス−(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)−イミダゾリン−2−イリデン(不飽和NHC、「IPr」)の群から選択される。
【0032】
Xは、好ましくは、クロリド、ブロミドもしくはヨージドなどのハロゲンアニオンの群からの、アニオン性配位子であり;最も好ましい実施形態では、XはCl
−である。
【0033】
置換基R
1、R
2ならびに基a、b、cおよびdならびにEWG置換基は、式(I)のスチレンベースの前駆体について上に記載されたように定義される。好ましくは、R
1は直鎖もしくは分岐C
1〜C
10アルキル基である。さらに好ましいバージョンでは、R
1は、メチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチルまたはイソ−ブチルから選択される。別の好ましいバージョンでは、R
1は、メチル、エチルまたはイソ−プロピルから選択される。最も好ましい実施形態では、R
1はメチル基である。R
2は、アリール基での置換基である。アリール基でのR
2置換基の位置は、特に決定的に重要であるわけではない。好ましい実施形態では、R
2は水素である。代わりの実施形態では、R
1およびR
2は環を形成してもよい。
【0034】
R
3は、水素または直鎖もしくは分岐C
1〜C
10アルキル基から選択される。好ましくは、R
3は、水素、メチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチルまたはイソ−ブチルである。最も好ましいバージョンでは、R
3は水素またはメチルである。
【0035】
好ましくは、a、b、cおよびdは、互いに独立して、水素、C
1〜C
10アルキルなどの直鎖もしくは分岐アルキル基、C
1〜C
10アルコキシまたは電子吸引性基(EWG)から選択される。さらに好ましい実施形態では、a、b、cおよびdはそれぞれ水素である。
【0036】
特有の実施形態では、N−キレート型ジアリールアミノベースの触媒は、式(IIa):
【化8】
で特徴づけられる。
【0037】
さらに特有の実施形態では、N−キレート型ジアリールアミノベースの触媒は、式(IIb):
【化9】
で特徴づけられる。
【0038】
さらに特有の実施形態では、N−キレート型ジアリールアミノベースの触媒は、式(IIc)および式(IId):
【化10】
で特徴づけられる。
【0039】
上記のN−キレート型ジアリールアミノベースのRu触媒に加えて、本発明はまた、これらの新規触媒の製造方法にも関する。一般に、本触媒は、単一段階反応によって式(I)の新規前駆体から得られる。本発明による単一段階反応は、中間単離または中間精製工程を必要とすることなく進行する反応(ワンポット合成)である。
【0040】
一般式L
2X
2Ru=CR
xR
y(式中、R
xおよびR
yは独立して、水素、アルキルまたはアリールであってもよく、そして式中、R
xおよびR
yは環を形成してもよい)の様々なRuベースの出発錯体を、本発明の触媒の製造用出発原料として用いることができる。好適なRuベースの出発錯体の例は、(ホスフィン配位子を含有する)Grubbs第1世代の周知のRu−ベンジリデン錯体または(NHC配位子を含有する)Grubbs第2世代Ru−錯体である。
【0041】
本発明の好ましい方法では、式(I)の前駆体は、式(II)の触媒を得るために交差メタセシス反応で式(III)のRu−フェニルインデニリデン錯体と反応させられる。
【化11】
スキーム1
【0042】
式(III)のRu−出発錯体において、Lは、トリ−イソプロピルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy
3)、トリシクロペンチルホスフィンならびに9−シクロヘキシル−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]−ノナン(「シクロヘキシルホバン」)、9−(2,2,4−トリメチルペンチル)−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]−ノナン(2,2,4−トリメチルペンチルホバン」)および9−イソブチル−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]−ノナン(「イソブチルホバン」)などのホスファ−ビシクロアルカン化合物の群から選択されるホスフィン配位子であってもよい。
【0043】
本方法の好ましいバージョンでは、Lは、1,3−ビス−(2,4,6−トリメチルフェニル)−イミダゾリジン−2−イリデン(「SIMes」)、1,3−ビス−(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)−イミダゾリジン−2−イリデン(「SIPr」)または1,3−ビス−(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)−イミダゾリン−2−イリデン(不飽和NHC、「IPr」)の群から選択されるNHC配位子である。
【0044】
さらに、上式(III)のRu−出発錯体において、L’は、トリ−イソプロピルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy
3)、トリシクロペンチルホスフィン、9−シクロヘキシル−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]−ノナン(「シクロヘキシルホバン」)、9−(2,2,4−トリメチルペンチル)−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]−ノナン(2,2,4−トリメチルペンチルホバン」)、9−イソブチル−9−ホスファ−ビシクロ−[3.3.1]−ノナン(「イソブチルホバン」)の群から選択されるホスフィン配位子または、置換されていても非置換であってもよい、ピリジン配位子を表す脱離配位子である。例は、ピリジンまたはブロモピリジンである。
【0045】
Xは、好ましくは、クロリド、ブロミドもしくはヨージドなどのハロゲンアニオンの群からの、アニオン性配位子であり;最も好ましい実施形態では、XはCl
−である。
【0046】
使用されるRu−出発錯体に依存して、交差メタセシス反応のための反応条件は修正されてもよく;特に、Cu−塩(CuClまたはCuBrなどの)が、たとえば、(PCy
3)
2Cl
2Ru−フェニルインデニリデンなどのホスフィン含有Ru−出発錯体を使用するときにはホスフィン捕捉剤として添加されてもよい。しかし、脱離配位子L’がホスフィンでない場合には、Cu−塩の添加は必要でないことが指摘されるべきである。
【0047】
本方法のさらに好ましいバージョンでは、たとえば(SIMes)(py)RuCl
2(3−フェニルインデニリデ−1−ン)[Umicore M31]または(SiPr)(py)RuCl
2(3−フェニルインデニリデ−1−ン)[Umicore M32]などの、脱離配位子L’=ピリジン(py)のRu−出発錯体が用いられてもよい。所望の錯体の形成を容易にするために、ピリジン配位子は、(国際公開第2011/091980号パンフレットに記載されている方法に従って)プロトンイオン交換樹脂でのインサイチュープロトン化によって除去することができる。さらに向上した収率が得られる。
【0048】
交差メタセシス反応は、ジクロロメタン(DCM)、クロロホルムもしくは1,2−ジクロロエタン(DCE)などの塩素化炭化水素溶媒中でまたはテトラヒドロフラン(THF)もしくはジオキサンなどの環状エーテル中で行われてもよい。あるいは、ベンゼンもしくはトルエンなどの芳香族炭化水素溶媒ならびにエステルおよびリストされた溶媒の混合物が用いられてもよい。最も好ましくは、精製トルエンが反応溶媒として使用される。
【0049】
好適な反応時間は、出発原料のタイプに依存する。典型的には、反応時間は、0.5〜4時間、好ましくは0.5〜2時間、最も好ましくは0.5〜1.5時間の範囲にある。反応温度は、原料に依存して変わってもよい。典型的には、50〜100℃の範囲の、好ましくは50〜80℃の範囲の反応温度が適切である。65〜80℃の範囲の温度が、ある場合には、触媒の相当するシス−ジクロロ異性体(トランス−異性体と比べてより低い触媒活性を有する)の形成が回避され得るので、特に好ましい。反応は、窒素もしくはアルゴンなどの不活性ガス下で好ましくは実施される。
【0050】
反応混合物を一定時間攪拌した後、反応溶媒が好ましくは真空で除去される。残った反応混合物はさらに精製されてもよい。これは、カラムクロマトグラフィーによって好ましくは行われる。生じた生成物は、高純度のRu−触媒を得るために非極性炭化水素溶剤から再結晶されてもよい。この非極性炭化水素溶剤は、n−ペンタン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、n−ヘプタンまたはそれらの混合物から選択されてもよい。生じた触媒は、好ましくは濾過によって分離される。さらなる精製工程が行われてもよい。生成物は、たとえば、非極性炭化水素溶剤で洗浄されてもよい。一般に、本発明のRu−触媒は、高純度で良好な収率で得ることができる。
【0051】
N−キレート型ジアリールアミノルテニウム触媒は、広範囲の基質でのメタセシス反応を触媒するために使用されてもよい。既に記載されたように、これらの触媒は、閉環メタセシス(RCM)、交差メタセシス(CM)、開環メタセシス重合(ROMP)および他のメタセシス反応を触媒するために特に好適である。一般に、メタセシス反応は、均一相で行われる。あるいは、反応は、固定化または担持触媒を使って不均一なやり方で;たとえばカチオン交換樹脂の存在下で実施されてもよい。メタセシス反応のための反応条件は、当業者によく知られている。反応は、たとえば、ジクロロエテン、ヘキサフルオロベンゼンまたはトルエンであってもよい、好適な反応溶媒中で実施される。好ましくは反応溶媒はトルエンを含む。最も好ましくは有機溶媒はトルエンである。好ましくは、メタセシス反応は、窒素もしくはアルゴンなどの保護不活性ガス下で行われる。
【0052】
本発明のRu−触媒は、60℃よりも下の反応温度を可能にする。実施例セクションに示されるように、反応温度は、20〜30℃まで下げられてもよく;これらの温度は、完全な転化のために既に十分である。かかる低温は、温度感受性基質材料を用いるときには重要である。
【0053】
さらに、本発明のRu−触媒は、低い触媒使用量を可能にする。ある反応では、触媒使用量は、1000ppm、すなわち、0.1モル%を超えない。250ppmよりも低い、好ましくは100ppmよりも低い触媒使用量が、費用効率が高いメタセシス反応を確保しながら高転化率を得るために十分であると分かった。
【0054】
本発明のRu−触媒は、短い反応時間でのメタセシス反応を可能にする。典型的には、実施例セクションに示されるように、基質の65%超が15分後に転化される。これは、公知の方法によって、好ましくはガスクロマトグラフィー(GC)によって測定される。ほとんどの場合に70%以上の、好ましくは75%以上の転化率が、上述の条件下に少なくとも15分の反応時間後に本発明の触媒で得られる。様々なメタセシス反応で、転化率は、15分の反応時間後に93%または95%さえに達する。ある場合には、88%超、より好ましくは90%以上の単離最終生成物の収率を得ることができる。
【0055】
本発明の触媒は、速い開始速度を示し、こうして優れた触媒活性を持ちながら速い、かつ、効率的なオレフィンメタセシス反応につながる。好ましくは5×10
3超、好ましくは8×10
3超、最も好ましくは1×10
4超のTON(「ターンオーバー数」;すなわち、転化基質対触媒のモル比)が本発明の新規触媒系統で得られ得る。触媒活性についての尺度であるTOF(1時間当たりのTON;ターンオーバー頻度)は、最高で1×10
4h
−1超、好ましくは8×10
4h
−1超、最も好ましくは1×10
5h
−1超までに達する。
【0056】
キレート窒素原子に結合した置換基の立体効果と電子効果との間で適正なバランスを提供することが本発明の触媒の活性を調整するために必要であることが分かった。したがって、式(b)および(c)のルテニウムベースの触媒と比べて本触媒の優れた活性は、N−原子に結合したアリール部分によるキレート窒素原子の特有の塩基性に由来する可能性があると思われる。ベンジリデンアミン配位子におけるN−供与体原子の性質のこの修正は、Ru−N相互作用の弱化の一因となり、その結果として触媒の開始速度の著しい増加をもたらし得る。現在まで、かかるN−キレート型ジアリールアミノ−Ru触媒は文献に記載されていない。
【0057】
要約すれば、本発明の触媒は、速い触媒開始および高い安定性を、オレフィンメタセシス反応での並外れた活性と組み合わせる。低い触媒使用量が、短い反応時間内でそして低いから並の反応温度で最終生成物の優れた収率を得るために十分である。
【0058】
本新規触媒は、一段階反応で新規前駆体から高純度および高収率で得られるので、それらは、工業的規模で経済的に製造することができる。