【文献】
紙パルプ技術協会,紙パルプ製造技術シリーズ9 紙パルプの試験方法,1995年,pp.136-137,166-167,(p.166-p.167(2.3.17 a.))
【文献】
INTERNATIONAL STANDARD ISO535 Paper and board-Determination of water absorptiveness-Cobb method, sec,1991年,1-4,Table 1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被印刷物に捺染紙を密着させたままで染料の固着処理を行うペーパー捺染法に用いる捺染用紙であって、原紙と、原紙表面に糊層とを有し、該原紙の膨潤率が130質量%以上180質量%以下であり、前記糊層が水溶性合成系バインダーと天然系糊剤とを少なくとも含有し、前記水溶性合成系バインダーの少なくとも1種がガラス転移温度51℃以上の水溶性ポリエステル系バインダーであることを特徴とする捺染用紙。
【背景技術】
【0002】
繊維材料または皮革材料等に、染料によって図柄を堅牢・精細に描く方法として、捺染印刷法がある。捺染印刷法は、製版を使用する製版印刷方式と製版を使用しない無製版印刷方式に大別される。
【0003】
製版印刷方式による捺染印刷法は、スクリーン捺染、ローラー捺染、ロータリースクリーン捺染、グラビア印刷、またはこれらの印刷技法を用いた方法等が知られており、工業的に既に行われている。しかし、製版印刷方式の捺染印刷では、版を製作するために色数に制約がある。中でも、三原色色分解型の製版による印刷は、多色感を表現できるものの、下記に代表される問題点を有する。(a)三原色組成の色相・濃度を整えることが困難である。(b)多重層を形成するために印刷加工の再現性に乏しい。(c)小ロット生産では製版作製費用負担が高額となる。(d)印刷加工時、色糊を加工に必要な量より、余剰に調製する必要がある。
【0004】
上記の問題点を解決する捺染印刷法として、無製版印刷方式による捺染印刷法がある。無製版印刷方式は、コンピュータなどで画像処理・画像形成技術を使用し、例えば、水性の染料インクを用いたインクジェット印刷方式で被印刷物に図柄を印刷する方法である。無製版印刷方式の捺染印刷法は、被印刷物に直接印刷するダイレクト印刷方式と、捺染用紙または転写紙と呼ばれる紙に一旦図柄を印刷してから被印刷物へ図柄を転写する転写印刷方式がある。
【0005】
捺染紙に高価な離型剤・離型層を必要としない、捺染紙の剥離性が良好であり、捺染後の水洗処理工程における水の汚染が少ない、繊細性・堅牢性・発色性に優れた、新しい転写印刷方式の捺染印刷法(以下、「ペーパー捺染法」という。)が公知である(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載されるが如くのペーパー捺染法は、水溶性合成系バインダー、天然系糊剤および助剤からなる混合糊を、原紙に付与し、乾燥して得られる捺染用紙上に、染料インクをプリントして捺染紙を得る工程、捺染紙を被印刷物に密着し、加圧・加熱して貼り付けする工程、および捺染紙を被印刷物に貼り付けた状態で染料の固着処理を行い、その後、捺染紙を除去する工程を有することを特徴としている。
【0006】
特許文献1に記載されるが如くのペーパー捺染法に用いられる捺染用紙は、水溶性合成系バインダー、天然系糊剤および助剤からなる混合糊を、原紙に付与し、乾燥して得られるものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明において、「捺染用紙」とは、ペーパー捺染法に用いられ、転写する画像が印刷される前の白紙状態にある紙をいう。「捺染紙」とは、捺染用紙に対して転写する画像が印刷された状態にある紙をいう。以下、ペーパー捺染法に用いる捺染用紙を「捺染用紙」と記載する。
【0014】
本発明において、ペーパー捺染法とは、特許文献1に記載されるが如くの転写印刷方式の捺染印刷法である。すなわち、水溶性合成系バインダー、天然系糊剤および助剤からなる糊層塗工液を原紙表面に塗工し、乾燥して捺染用紙を得る工程、得られる捺染用紙上に染料インクを用いて画像を印刷して捺染紙を得る工程、捺染紙を被印刷物に密着し、加熱・加圧して貼り付けする工程、および捺染紙を被印刷物に貼り付けた状態で染料の固着処理を行い、その後、捺染紙を除去する工程、を有する転写印刷方式の捺染印刷法である。
【0015】
本発明において、捺染用紙は、原紙と、原紙表面に糊層とを有し、原紙の膨潤率が130質量%以上180質量%以下である。捺染用紙は、本発明にかかる原紙の膨潤率と本発明にかかる糊層とを組み合わせた相乗効果によって、被印刷物に精細な画像を形成でき、剥離性を得ることができる。この理由は定かではないが、適度に膨潤する性質を原紙が有することによって膨潤圧が得られる。固着処理時において、スチーミングや加湿によって原紙が膨潤して適度な膨潤圧が得られることによって、被印刷物へ染料の転写が安定化して被印刷物に精細な画像を形成でき、また糊層と被印刷物との剥離が安定化するものと考えられる。
【0016】
水の浸透によって起こる紙の膨潤による紙内部構造の変化は、未だに不明であるところが多い。機械で抄造された紙の場合、紙の膨潤の比率は、縦方向:横方向:厚さ方向=1:2:50であるといわれている(Bristow,J.A., Svensk Papperstidn., 70[19],623[1967])。従って、水の浸透によって厚さ方向の膨潤が最も大きいと考えられている。
本発明の膨潤率とは以下の様に規定する。100mm角の原紙を、23℃・50%RHの条件下に24時間放置して調整した後に、イオン交換水中に60秒間浸漬し膨潤させる。測定は、原紙表面のイオン交換水を紙ウエスで軽く拭取ってから素早く行う。23℃・50%RHの条件下に24時間放置して調整した後の原紙質量とイオン交換水に浸漬した後の原紙質量との比を、原紙の膨潤率として求める。すなわち、膨潤率(%)=([イオン交換水に浸漬した後の質量]/[23℃・50%RHの条件下に24時間放置して調整した後の質量])×100である。
【0017】
捺染用紙から原紙の膨潤率を求める場合は、例えば、糊層を削り取るなど糊層を原紙から除去することによって原紙を露出させ、現れた原紙に対して膨潤率を測定する方法を挙げることができる。
【0018】
上記範囲になるよう原紙の調整法は、パルプの種類およびその叩解度を調整する方法、繊維配向度を調整する方法、パルプ繊維長を調整する方法、厚さや坪量を調整する方法、カレンダー処理する方法など製紙分野で従来公知の方法を用いて達成することができる。
【0019】
本発明において、原紙は、LBKP、NBKPなどの化学パルプ、GP、PGW、RMP、TMP、CTMP、CMP、CGPなどの機械パルプ、DIPなどの古紙パルプに、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリンなどの各種填料、さらに、サイズ剤、定着剤、歩留まり剤、カチオン性樹脂や多価陽イオン塩などのカチオン化剤、紙力剤などの各種添加剤を必要に応じて配合した紙料から、酸性、中性、アルカリ性などで抄造した紙である。
【0020】
本発明において、原紙の紙料中には、その他の添加剤として顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤などを本発明の所望の効果を損なわない範囲で、適宜配合することができる。
【0021】
本発明において、原紙の坪量は特に限定されないが、上記の膨潤率を得る点および捺染に対する取扱易さの点から、40g/m
2以上80g/m
2以下が好ましい。また、捺染用紙の厚さは特に限定されないが、上記の膨潤率を得る点および捺染に対する取扱易さの点から、0.05mm以上0.5mm以下が好ましい。
【0022】
本発明において、捺染用紙は原紙表面に糊層を有する。糊層は、原紙へ糊層塗工液を塗工した後、乾燥することによって、原紙表面に設けられる。糊層は、原紙上に存在、原紙上および原紙の表面近傍内に存在、または原紙の表面近傍内に存在のいずれでもよく、塗工された成分によって形成された、例えば電子顕微鏡観察により区別できる明確な層を指す。本発明の糊層は、捺染用紙に印刷される染料インクを保持するインク受容層としての機能、捺染紙が被印刷物に密着され加熱・加圧されたときに捺染紙を被印刷物に強く接着する接着剤層としての機能、および染料の固着処理(例えば、スチーミング、加湿、または高温での乾燥加熱処理)により接着力が低下する離型層としての機能を有する層である。
【0023】
原紙表面へ糊層の塗工量は特に限定されない。塗工量は、捺染用紙の製造コストや被印刷物に対する密着性の点から、乾燥固形分量で5g/m
2以上70g/m
2以下が好ましく、15g/m
2以上30g/m
2以下がさらに好ましい。
【0024】
本発明において、原紙表面に糊層を設ける方法は特に限定されない。例えば、製紙分野で、従来公知の塗工装置を用いて塗工および従来公知の乾燥装置を用いて乾燥する方法である。塗工装置の例としては、コンマコーター、フィルムプレスコーター、エアーナイフコーター、ロッドブレードコーター、バーコーター、ブレードコーター、グラビアコーター、カーテンコーター、Eバーコーターなどを挙げることができる。さらに、糊層を設ける方法として、平版印刷方式、凸版印刷方式、フレキソ印刷方式、グラビア印刷方式、スクリーン印刷方式、ホットメルト印刷方式等の各種印刷方法を挙げることができる。乾燥装置の例としては、直線トンネル乾燥機、アーチドライヤー、エアーループドライヤー、サインカーブエアフロートドライヤー等の熱風乾燥機、赤外線加熱ドライヤー、マイクロ波等を利用した乾燥機等各種乾燥装置を挙げることができる。
【0025】
上記機能を有する糊層としては、水溶性合成系バインダーと天然系糊剤を含有することが好ましい。
【0026】
糊層が有する水溶性合成系バインダーは、水溶性であり、加熱により強い被膜形成性を有するものであり、加湿状態では接着力が弱くなるものである。本発明の水溶性合成系バインダーは、固着処理を阻害しないものであって、主として石油化学で合成されたものを挙げることができる。本発明において、「水溶性」とは、20℃の水に1質量%以上、溶解あるいは分散することができることを指す。
【0027】
この様な水溶性合成系バインダーの例としては、水溶性ポリビニルアルコール系バインダー、水溶性アクリル系バインダー、水溶性ウレタン系バインダー、水溶性ウレタン変性エーテル系バインダー、水溶性ポリエチレンオキサイド系バインダー、水溶性ポリアミド系バインダー、水溶性フェノール系バインダー、水溶性酢酸ビニル系バインダー、水溶性スチレンアクリル酸系バインダー、水溶性スチレンマレイン酸系バインダー、水溶性スチレンアクリルマレイン酸系バインダー、水溶性ポリエステル系バインダー、水溶性ポリビニルアセタール系バインダー、水溶性ポリエステルウレタン系バインダー、水溶性ポリエーテルウレタン系バインダー、水溶性ホットメルト接着剤等を挙げることができる。水溶性合成系バインダーは、これらから成る群から選ばれた1種または2種以上を併用して用いることができる。これらの中で水溶性合成系バインダーは、水溶性ポリビニルアルコール系バインダー、水溶性アクリル系バインダー、水溶性ポリエステル系バインダー、水溶性ポリエーテルウレタン系バインダーおよび水溶性ホットメルト接着剤から成る群から選ばれる少なくとも1種が、水溶性や一時的接着性(加熱により接着するが、加湿状態で接着力が低下する性質)に優れ且つ固着処理の阻害が小さい点で、好ましい。
【0028】
水溶性ホットメルト接着剤としては、マレイン酸交互共重合体のアルカリ水可溶型ホットメルト接着剤、感水性ホットメルト接着剤、ポリビニルアルコール系ホットメルト接着剤等を挙げることができる。
【0029】
水溶性合成系バインダーの少なくとも1種が、ガラス転移温度51℃以上の水溶性ポリエステル系バインダーであることが好ましい。ガラス転移温度は、51℃以上100℃以下がより好ましく、51℃以上80℃以下がさらに好ましい。この理由は、ガラス転移温度51℃以上の水溶性ポリエステル系バインダーであると、糊層を設けるときの塗工ムラが抑制されるからである。塗工ムラが抑制された結果、被印刷物について捺染された画像がより良好になる。
【0030】
水溶性ポリエステル系バインダーとは、多価カルボン酸とポリオールとから重縮合反応して得られる樹脂であって、構成成分として多価カルボン酸とポリオールとが樹脂の60質量%以上を占めるものをいう。多価カルボン酸は、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、セバチン酸、ドデカン二酸などを挙げることができ、これらから成る群から1種以上を選択して用いることが好ましい。ポリオールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールなどを挙げることができ、これらから成る群から1種以上を選択して用いることが好ましい。また、水溶性ポリエステル系バインダーは、水溶性を高めるためにカルボキシル基やスルホン酸基等の親水性基を有する成分を共重合させることができる。水溶性ポリエステル系バインダーのガラス転移温度は、これら多価カルボン酸やポリオールを選択することによって調整できる。あるいは、ガラス転移温度を調整するためにその他成分を共重合させることができる。
【0031】
水溶性ポリエステル系バインダーは互応化学工業社、高松油脂社およびユニチカ社などから市販され、本発明に用いることができる。
【0032】
本発明において、ガラス転移温度は、示差走査熱量計、例えばEXSTAR 6000(セイコー電子社製)、DSC220C(セイコー電子工業社製)、DSC−7(パーキンエルマー社製)等で測定して求めることができ、ベースラインと吸熱ピークの傾きとの交点をガラス転移温度とする。
【0033】
糊層が有する天然系糊剤は、天然に産出する糊剤の原料をそのまま又は物理的又は化学的に加工して得られるものである。また、天然系糊剤は、接着力を示すが加熱しても接着力が上昇することはなく、固着処理や乾燥加熱により除去できる親水性のものである。また、染料インクとの相溶性が高く、染料インクを均一に吸収・保持する性質を有するものである。
【0034】
この様な天然系糊剤は、動物系糊料、植物系糊料および鉱物系糊料に分類することができる。動物系糊料としては、動物の皮膚や骨に含まれるコラーゲンから抽出されるゼラチン等を挙げることができる。植物系糊料としては、澱粉や、セルロースを出発原料として加工されたカルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。鉱物系糊料としては、粘土鉱物から採取されるクレー等を挙げることができる。より具体的には、例えば、天然ガム糊(エーテル化タマリンドガム、エーテル化ローカストビーンガム、エーテル化グアガム、アカシアアラビアガム等)、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、エーテル化カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)、澱粉誘導体(澱粉、グリコーゲン、デキストリン、アミロース、ヒアルロン酸、葛、こんにゃく、片栗粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉等)、海藻類(アルギン酸ソーダ、寒天等)、鉱物系糊料(ベントナイト、珪酸アルミニウムおよびその誘導体、シリカ等の酸化珪素、珪藻土、クレー、カオリン、酸性白土等)、動物系糊料(カゼイン、ゼラチン、卵蛋白等)を挙げることができる。これらから選ばれた1種または2種以上を併用して用いることができる。これらの中で天然系糊剤は、天然ガム糊、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、エーテル化澱粉等の澱粉誘導体、アルギン酸ソーダ等の海藻類、酸化珪素、珪酸アルミニウム、クレー等の鉱物系糊料、動物系糊料等が好ましい。
【0035】
本発明において、糊層中における水溶性合成系バインダーと天然系糊剤との含有質量比は、乾燥固形分量で(水溶性合成系バインダー:天然系糊剤)=95:5〜20:80の範囲が好ましい。水溶性合成系バインダーの含有質量比がこの範囲であることによって、固着処理後に捺染紙が被印刷物から一層良好に剥がれ易くなる、あるいは転写される染料の染着性が一層向上する、あるいは捺染ムラの発生が抑えられる。
【0036】
本発明において、捺染用紙の糊層は助剤を含有することができる。助剤は、糊層塗工液の各種物性を最適化、転写される染料の染着性を向上させるため等に加えられるものである。助剤としては、例えば、各種界面活性剤、増粘剤、保湿剤、湿潤剤、pH調整剤、アルカリ剤、濃染化剤、防腐剤、防バイ剤、消泡剤、脱気剤および還元防止剤等を挙げることができる。
【0037】
糊層中の助剤の含有量は、例えば、表面張力低下剤や浸透剤として加えられるアニオン系界面活性剤等の場合は糊層の乾燥固形分量に対して0.2質量%以上5質量%以下である。また、捺染紙と被印刷物との接着性や染着性を向上するために加えられるポリエチレングリコール、グリセリン、チオジグリコール、ジエチレングリコール等の多価アルコール類、尿素、チオ尿素またはジシアンジアミド等の保湿剤や湿潤剤の場合は糊層の乾燥固形分量に対して1質量%以上15質量%以下である。また、塗工を安定化するために加えられる増粘剤であるアクリル酸系合成増粘剤の場合は糊層の乾燥固形分量に対して3質量%以下である。また、防腐剤、防バイ剤、消泡剤、脱気剤、還元防止剤の場合は糊層の乾燥固形分量に対して0.1質量%以上5質量%以下である。反応染料を用いる場合に加えられるソーダ灰、重炭酸ソーダ、珪酸ソーダ、酢酸ソーダ等のアルカリ剤の場合は糊層の乾燥固形分量に対して1質量%以上25質量%以下である。分散染料や酸性染料を用いる場合に加えられる硫安や第一燐酸ソーダ等のpH調整剤の場合は糊層の乾燥固形分量に対して0.1質量%以上3質量%以下である。この範囲であると好ましい結果が得られる。
【0038】
本発明において、捺染用紙は、染料インクを備える従来公知の各種印刷方法を用いて捺染用紙の糊層を有する面側に画像を印刷することによって、捺染紙を形成することができる。画像は、捺染するべき図柄に基づいて制作される。捺染用紙が、原紙両表面に糊層を有する場合は、捺染用紙の表裏判別を気にすることなく使用することができ、より好ましい。
【0039】
本発明において、捺染用紙の糊層を有する面側に画像を印刷する各種印刷方法は、グラビア印刷方式、インクジェット印刷方式およびスクリーン印刷方式などを挙げることができる。中でも、画質の高精細化および装置の小型化の点でインクジェット印刷方式が好ましい。
【0040】
本発明において、染料インクは捺染印刷法において従来公知のものであって、例えば、反応染料、酸性染料、金属錯塩型染料、直接染料、分散染料、カチオン染料等を染料として用いる染料インクを挙げることができる。染料インクは、これらの染料と水などの染料溶解剤とに対し必要に応じて添加剤を加えて溶解または分散して調製される。
【0041】
ペーパー捺染法に用いるインクジェット印刷方式の染料インクは、染料を染料溶解剤または分散剤等により溶解または分散させたものである。染料溶解剤の例としては、水、チオジグリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、エチレングリコール、ε−カプロラクタムを挙げることができる。染料インクは、さらに、必要に応じて乾燥防止剤、表面張力調整剤、粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤、防バイ剤、金属イオン封鎖剤、消泡剤、脱気剤等を含有することができる。
【0042】
染料の種類は、被印刷物の種類に応じて、反応染料、直接染料、酸性染料、金属錯塩型染料、分散染料、カチオン染料等から選択すればよい。分散染料をインク化する場合は、0.1mm以上0.3mm以下のジルコニウムビーズを用いて粉砕機にかけ、分散染料の平均粒子径を0.1μm程度に微粒化することが好ましい。
【0043】
本発明において、ペーパー捺染法は、特許第4778124号公報に記載された方法であって、捺染紙と被印刷物とを密着させる。本発明の密着させる工程には加熱・加圧が含まれる。捺染紙と被印刷物が密着された後、密着された状態での染料の固着処理が行われる。密着させる工程における加熱・加圧の条件は、従来公知の転写印刷方式を用いる捺染印刷法の場合と同様の条件を適用することができる。例えば、加熱ドラムなどにより捺染紙を被印刷物に密着させ加熱・加圧する方法がある。
【0044】
本発明において、ペーパー捺染法は、捺染紙と被印刷物とが密着させた状態で染料の固着処理を行う。染料の固着処理としては、反応染料等を用いる捺染で通常行われているスチームによる加熱のほか、加湿や水分の付与等を行った状態で加熱する方法等を挙げることができる。また、被印刷物がポリエステル繊維や合成繊維の場合は、乾燥加熱する方法を採用しても構わない。このスチームによる加熱や、加湿や水分の付与等を行った状態で加熱する方法により、捺染紙の剥離が可能となる。被印刷物がポリエステル繊維や合成繊維の捺染の場合は、乾燥加熱する方法により捺染紙の剥離が可能となる場合もあるが、乾燥加熱後に水分を付与することによって、捺染紙を剥離することがより容易になるため、乾燥加熱後に水分を付与することが好ましい。
【0045】
本発明において、捺染紙を被印刷物に密着させて行われる染料の固着処理の条件は、従来公知の直接捺染法で採用されている染料のスチーミングによる固着条件と同様な条件をそのまま用いることができる。例えば、100〜220℃の蒸気によって捺染紙の非印刷面側からスチーミングという条件を適用することができる。また、染料が反応染料の場合、1相スチーム固着法による、100〜105℃、5〜20分間のスチーミングという条件を適用することができる。また、アルカリ剤を含まない糊層の場合、2相法(例えば、コールドフィックス法等)によるスチーミングと同様な条件を適用することができる。染料が酸性染料の場合、100〜105℃、10〜30分間のスチーミングという条件を適用することができる。被印刷物から捺染紙を剥がす際、スチーミング後の水分や湿気を付与された状態であると捺染紙の剥離は容易である。染料が分散染料の場合、160〜220℃、1〜15分間のHTスチーミングまたは乾燥加熱処理という条件を適用することができる。乾燥加熱処理により捺染紙の剥離は可能になる場合もあるが、乾燥加熱処理後に少量の湿気や水分を付与することによって捺染紙の剥離が容易になるため、乾燥加熱処理後に少量の湿気や水分を付与することが好ましい。
【0046】
本発明において、固着処理は、密着させる工程が有する加熱・加圧の後または加熱・加圧と同時のいずれであっても構わない。捺染紙と被印刷物とを密着させ、加熱・加圧および染料の固着処理によって、捺染用紙に印刷された染料インク中の染料が被印刷物に転写・染着される。また、染料の固着処理によって、被印刷物に染着された染料の固着が行われるとともに捺染紙と被印刷物との接着力が低下する。
【0047】
固着処理されて捺染紙が被印刷物から剥離された後、被印刷物は、水洗またはソーピングなど捺染分野で従来公知の洗浄処理を施すことができる。例えば、分散染料の場合は水洗/還元洗浄/水洗という手順であり、他の場合は水洗/ソーピング/水洗という手順である。水洗処理を施すことによって、風合いが良好で繊細、濃厚な画像を有する被印刷物を得ることができる。分散染料の場合または被印刷物がポリエステルなど合成繊維の場合は、洗浄を省略しても風合いが良好で繊細、濃厚な被印刷物を得ることができる。
【0048】
本発明において、被印刷物は、繊維材料または皮革材料であるが、これらに限定されない。繊維材料には天然繊維材料および合成繊維材料のいずれでも構わない。天然繊維材料の例としては、綿、麻、リヨセル、レーヨン、アセテート等のセルロース系繊維材料、絹、羊毛、獣毛等の蛋白質系繊維材料を挙げることができる。合成繊維材料の例としては、ポリアミド繊維(ナイロン)、ビニロン、ポリエスエル、ポリアクリル等を挙げることができる。皮革材料の例としては、牛、水牛、豚、馬、羊、山羊、カンガルー、鹿、豹、兎、狐、ラクダ等の天然皮革、さらに公知の製革/なめし工程を経て乾燥した加工皮革を挙げることができる。
【0049】
本発明において、繊維材料または皮革材料の構成は、織物、編物、不織布、皮革等の単独、混紡、混繊または交織などを挙げることができる。さらに複合化されていても構わない。また、必要に応じて、染料の染着に影響を及ぼす薬剤ないし染着促進に効果のある薬剤などで被印刷物を前処理しても構わない。例えば、反応染料を用いる場合は、被印刷物に、アルカリ剤として炭酸ソーダ、炭酸カリ、重炭酸ソーダ、珪酸ソーダ、酢酸ソーダ、セスキ炭酸ソーダ、トリクロル酢酸ソーダ等を3質量%以上15質量%以下、捺染時の黄変防止、捺染性向上、染着向上等の目的で尿素を3質量%以上25質量%以下、マイグレーション防止剤として親水性増粘物質、例えばアルギン酸ソーダを0.05質量%以上1質量%以下の濃度範囲で含有する前処理液で前処理して構わない。また、酸性染料を用いる場合は、染着向上剤として酸アンモニウム塩、例えば硫酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム等を0.5質量%以上5質量%以下、マイグレーション防止剤として耐酸性の天然ガム類を0.05質量%以上0.5質量%以下の濃度範囲で含有する前処理液で前処理して構わない。本発明において、通常、前処理は不要である。
【実施例】
【0050】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。ここで「部」および「%」は、膨潤率を除き、乾燥固形分量あるいは実質成分量の各々「質量部」および「質量%」を表す。また、糊層の塗工量は乾燥固形分量を表す。
【0051】
[実施例1]
<糊層塗工液の調製>
水溶性ポリエステル系バインダー(プラスコートRZ−142、ガラス転移温度34℃、互応化学工業社製)300部、ポリビニルアルコール(AP−17、日本酢ビ・ポバール社製)30部、エーテル化澱粉(ソルビトーゼC−5、AVEBE社製)120部、珪酸アルミニウム誘導体(エンバテックスD−23、共栄化学社製)60部、酸化珪素(ミズカシルP−78A、水澤化学工業社製)55部、ジシアンジアミド60部、ソーダ灰210部、尿素90部、チオ尿素60部、界面活性剤(MAC−100S、北広ケミカル社製)15部、水930部を、撹拌機でよく撹拌しながら混合し、糊層塗工液を調製した。
【0052】
<捺染用紙の調製>
原紙として、坪量77g/m
2、膨潤率150%の上質紙を用いた。この原紙の一方の表面へ上記糊層塗工液を、エアーナイフコーターを用いて塗工し乾燥し、捺染用紙を得た。このとき、糊層の塗工量は20g/m
2であった。
【0053】
<捺染紙の調製>
反応染料インク液(C.I.Reactive Blue 19 15%、ポリエチレングリコール5%、グリセリン5%、ε−カプロラクタム5%、イオン交換水70%)を用いて、捺染用紙の糊層を設けた側にインクジェットプリンター(ValueJet VJ−1324、武藤工業社製)によって評価画像を印刷し、捺染紙(ロール紙)を得た。
【0054】
<捺染>
被印刷物として綿布を用いた。得られた捺染紙と綿布とを密着させ、加熱・加圧(190℃、0.5MPa、2.5m/min、ローラー型)して綿布に捺染紙を貼り付けた。捺染紙を綿布に貼り付けたままの状態で、100℃で15分間スチーミングによる固着処理を行い、染料インクを綿布に転写することによって捺染した。その後、捺染紙を剥離した。
【0055】
捺染紙を剥離した後、綿布を常法により水洗、ソーピング、水洗、乾燥を行い、被印刷物を得た。
【0056】
[実施例2]
実施例1において、原紙に坪量77g/m
2、膨潤率130%の上質紙を用いる以外は実施例1と同様に行い、実施例2とした。
【0057】
[実施例3]
実施例1において、原紙に坪量77g/m
2、膨潤率180%の上質紙を用いる以外は実施例1と同様に行い、実施例3とした。
【0058】
[実施例4]
実施例1において、水溶性ポリエステル系バインダー(プラスコートRZ−142、ガラス転移温度34℃、互応化学工業社製)を水溶性ポリエステル系バインダー(ペスレジンA−615GE、ガラス転移温度47℃、高松油脂社製)に変更する以外は実施例1と同様に行い、実施例4とした。
【0059】
[実施例5]
実施例1において、水溶性ポリエステル系バインダー(プラスコートRZ−142、ガラス転移温度34℃、互応化学工業社製)を水溶性ポリエステル系バインダー(ペスレジンA−613D、ガラス転移温度54℃、高松油脂社製)に変更する以外は実施例1と同様に行い、実施例5とした。
【0060】
[実施例6]
実施例1において、水溶性ポリエステル系バインダー(プラスコートRZ−142、ガラス転移温度34℃、互応化学工業社製)を水溶性ポリエステル系バインダー(エマルションエリーテルKA−5071S、ガラス転移温度67℃、ユニチカ社製)に変更する以外は実施例1と同様に行い、実施例6とした。
【0061】
[実施例7]
実施例1において、水溶性ポリエステル系バインダー(プラスコートRZ−142、ガラス転移温度34℃、互応化学工業社製)を水溶性ポリエステル系バインダー(エマルションエリーテルKZA−6034、ガラス転移温度72℃、ユニチカ社製)に変更する以外は実施例1と同様に行い、実施例7とした。
【0062】
[実施例8]
実施例1において、水溶性ポリエステル系バインダー(プラスコートRZ−142、ガラス転移温度34℃、互応化学工業社製)を水溶性ポリエステル系バインダー(エマルションエリーテルKZA−3556、ガラス転移温度80℃、ユニチカ社製)に変更する以外は実施例1と同様に行い、実施例8とした。
【0063】
[実施例9]
実施例1において、水溶性ポリエステル系バインダー(プラスコートRZ−142、ガラス転移温度34℃、互応化学工業社製)を水溶性ポリエステルウレタン系バインダー(ハイドランAP−20、ガラス転移温度27℃、DIC社製)に変更する以外は実施例1と同様に行い、実施例9とした。
【0064】
[比較例1]
実施例1において、原紙に坪量77g/m
2、膨潤率120%の上質紙を用いる以外は実施例1と同様に行い、比較例1とした。
【0065】
[比較例2]
実施例1において、原紙に坪量77g/m
2、膨潤率190%の上質紙を用いる以外は実施例1と同様に行い、比較例2とした。
【0066】
実施例1〜9および比較例1〜2において、下記の方法によって、被印刷物の画像の精細さ、剥離性および糊層の塗工ムラに対する評価を行った。その結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
<被印刷物の画像の精細さ評価>
得られた被印刷物について、境界部分の鮮鋭さの点から捺染された画像の精細さを目視にて下記の基準により官能評価した。本発明において、評価が2〜4であれば、画像の精細さに優れるものとする。
4:極めて良好。
3:上記4に劣るが、良好。
2:上記3より劣るが、実用上品質的に問題無いレベル。
1:劣る。
【0069】
<剥離性の評価>
固着処理後に捺染紙を被印刷物から剥離するときの被印刷物の状態を観察した。被印刷物の表面を目視にて下記の基準により官能評価した。本発明において、評価2であれば、剥離性に優れるものとする。
2:被印刷物より容易に剥離でき、被印刷物へ捺染紙の付着がほとんどない。
1:被印刷物より剥離し難く、被印刷物の表面に捺染紙が破れて一部付着している。
【0070】
<塗工ムラ抑制性の評価>
上記のように得られた捺染用紙において、斜光を当てながら糊層塗工液が塗工された表面を観察した。結果を下記の基準により官能評価した。本発明において、評価2または3であれば、塗工ムラが抑制されているものとする。
3:塗工ムラがほとんど認められない。
2:塗工ムラが若干認められる。
1:上記2の評価よりも明らかに塗工ムラが認められる。
【0071】
表1から明らかなように、原紙が特定の膨潤率を有することによって、画像の精細さおよび剥離性に優れ、捺染された画像が良好であることが分かる。本発明にかかる膨潤率を満足しない比較例では、この様な効果を得ることができない。
また、実施例1〜4および9と実施例5〜8との対比から、水溶性合成系バインダーの少なくとも1種が、ガラス転移温度51℃以上の水溶性ポリエステル系バインダーであると、塗工ムラが抑制されて、より好ましいと分かる。