(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
合成ポリマーがカルボキシル化ポリアクリロニトリルブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレンおよび/またはポリウレタンからなる群からのポリマーの1つまたは混合物から選択される請求項1による組成物。
方法は、さらに、工程(v)または(vii)の後にエラストマーフィルムを40〜60℃の範囲の水中で1〜5分間をリーチングして、抽出可能な成分を除去する請求項8ないし17のいずれか1項による方法。
【発明の開示】
【0001】
分野
本発明は、合成手袋の製造に使用するエラストマーフィルムを製造するための組成物、ならびにエラストマーフィルムおよび手袋を形成する方法に関する。
【0002】
背景
一般に手袋のようなエラストマー物品は天然ゴムから製造されることが知られている。
通常の製造工程は、成形鋳型を天然ゴムラテックスを含んだタンクに浸漬することを伴う。しかしながら、ゴムラテックスは手袋を形成するための理想的な材料ではない。ゴムラテックスは、手袋から皮膚に浸出する少量のタンパク質による肌アレルギー反応を引き起こすからである。
【0003】
合成ポリマー材料を利用した天然ゴムの代替物が開発されている。合成ポリマー材料からのエラストマー物品の製造は一般に、合成ポリマーを含んだバスに鋳型を浸漬し、手袋の所望の厚さに対応して鋳型上に層を析出させる同様の方法を伴う。
【0004】
一回の浸漬工程では、弱いスポット、またはピンホールのような欠陥があるかまたは拡げる確率が高いエラストマーフィルムを生じることがある。これは、用途によっては、着用者を感染または化学浸透に曝すので、問題を起こすことがある。複数回の浸漬工程は複数の層をもつフィルムを生じ、これらのような欠陥のリスクを避けるかまたは制限し得るが、それらは一般に厚く、それゆえに感度が低い。着用者が小さな器具で例えば外科用途で仕事をしている場合、この低い感度は問題を引き起こすであろう。
【0005】
着用者が高い感度を持ち、着用者が小さな器具で快適に仕事ができるだけでなく、欠陥がない、または拡げないほどに十分強い合成手袋を製造するのに好適なエラストマーフィルムを開発する必要がある。
【0006】
また、合成ポリマー材料からのエラストマー物品の製造は、通常は促進剤の使用を伴い、これは潜在的に化学アレルギーを起こし得る。商業的に使用される促進剤は、カルバメート、チウラムまたはチアゾールから得られ、IV型アレルゲンに分類される。これらは、紅斑、小疱、丘疹、掻痒、水疱および/または痂皮を含む症状を伴うアレルギー性接触皮膚炎を起こし得る。エラストマー物品の製造においてこのようなアレルゲンの使用によって起こされる化学アレルギーの問題に対処する必要がある。
【0007】
概要
本発明は、エラストマーフィルムを製造するための組成物、これらのエラストマーフィルムからなる合成手袋、および前記手袋を製造する方法を提供する。
【0008】
第1の態様において、本発明は、
合成ポリマーと、
硫黄と、
金属酸化物架橋剤と
を含み、組成物中の総固形物濃度(TSC%)が組成物の5〜20重量%である、エラストマーフィルムを製造するための組成物を提供する。
【0009】
組成物は好適には、液体(普通は水)中の合成ポリマー(通常は直鎖ポリマー)の分散体である。金属酸化物架橋剤は、合成ポリマー中でイオン的に架橋する基によって働く。
例えば、合成ポリマーがカルボキシル化ポリアクリロニトリルブタジエンの場合、金属酸化物架橋剤たとえば酸化亜鉛は、カルボン酸基をイオン的に架橋することによって働く。
硫黄は不飽和ブタジエンを共有結合的に架橋するように作用する。
【0010】
一般に架橋の量は、エラストマーフィルム中のエラストマーの弾性を決定する。それゆえに、金属酸化物架橋剤および硫黄の量は、最終的なエラストマーフィルムの架橋および弾性の程度に寄与するであろう。これは、合成手袋は通常、手袋の伸張を容易にして着用者の手にフィットするように良好な伸び特性を要求されるので重要である。
【0011】
エラストマーフィルムは合成手袋の製造における使用に好適である。したがって、さらなる態様において、本発明は、
合成ポリマーと、
硫黄と、
金属酸化物架橋剤と
の硬化組成物を含む多層エラストマーフィルムからなる合成手袋であって、多層エラストマーフィルムの平均厚がおよそ0.01〜0.3mmである合成手袋を提供する。
【0012】
本発明の1つの実施形態において、エラストマーフィルムの平均厚はおよそ0.03〜0.08mmである。
【0013】
さらなる実施形態において、本発明は、エラストマーフィルムを製造する多重コーティング方法であって、
(i)合成ポリマーと、
金属酸化物架橋剤と
を含み、組成物中の総固形物濃度(TSC%)が組成物の5〜20重量%である組成物を提供する工程と、
(ii)組成物を鋳型に接触させて鋳型上に組成物の層を形成する工程と、
(iii)鋳型上の組成物の層をさらなる量の組成物に接触させてさらなる層を形成する工程と、
(iv)組成物を乾燥する工程と、
(v)組成物を硬化させる工程と
を含み、第1の層の平均厚が最終的なエラストマーフィルムの平均厚の10〜90%である方法を提供する。
【0014】
上で定義した多重コーティング方法は、硫黄および/または通常の反応促進剤(accelarant)、例えばカルバメート、チウラムまたはチアゾールのような市販の促進剤を持つ組成物を利用することができる。具体的な例は、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛である。任意の通常の反応促進剤を本発明のこの態様において利用することができる。
【0015】
1つ以上の層を第1の層に追加することが可能である。すなわち、工程(iii)を数回繰り返すことが可能である。最終的なエラストマーフィルムは1ないし15層、好ましくは1ないし10層、より好ましくは2ないし6層の組成物の層を含むことができる。各々の層はおよそ等しい厚さであるか、あるいは異なる厚さでもよい。例えば第1の層は50%、第2の層は30%、第3の層は15%などである。およそ等しい厚さは、各々の層の総固形物含有量、および層を析出させる際の温度を変化させることによって達成できる。たとえ%TSCを同じレベルに維持しても、異なる析出の機構が各々の層について生じることがあり、異なる厚さが析出することがある。したがって、%TSCを変動させることは、同じレベルの厚さを維持するために必要とされることもある。析出される層の厚さは、凝固剤溶液中のカルシウムイオン濃度によっても変動することがある。
【0016】
上述した多重コーティング方法は、ピンホールおよび/または弱いスポットのような欠陥の可能性の減少を助けるより強いフィルムをもたらす。エラストマーフィルムを製造する組成物中で用いられる普通と異なる低い固形物の濃度は、各々のコーティング層を薄く保つのを助ける。したがって、全体の厚さが最小に保たれ、これは各々の手袋を製造するために用いられる調合物の量の点でコストを低く保つ助けにもなる。
【0017】
さらなる態様において、本発明は、エラストマーフィルムを製造する多重コーティング方法であって、
(i)合成ポリマーと、
硫黄と、
金属酸化物架橋剤と
を含み、組成物中の総固形物濃度(TSC%)が組成物の5〜20重量%である組成物を提供する工程と、
(ii)組成物を鋳型に接触させて鋳型上に組成物の層を形成する工程と、
(iii)組成物を乾燥する工程と、
(iv)組成物を硬化させる工程と
含む方法を提供する。
【0018】
詳細な説明
本発明のエラストマーフィルムは、合成使い捨て手袋のような合成手袋の製造に好適である。従来から、合成使い捨て手袋は汚染を避けるため、すなわち食品の取り扱い、または感染現場との接触による感染が移るリスクのある病院において使用されている。合成使い捨て手袋は、身体検査を行うときに皮膚接触を介した患者と検査者との間の病気が移るのを避けるためにも使用される。
【0019】
使い捨て手袋は普通、使い捨てでない手袋よりも薄く、より薄い手袋の低い製造コストは、一回または数回の使用の後に手袋を廃棄することは費用対効果があることを意味する。
【0020】
合成使い捨て手袋を含む手袋の物理特性は、普通、着用者による接触の感度を良くする薄いエラストマーフィルムのぴったりとしたタイトフィット(tight fit)を含む。同時に、比較的楽に、手袋を損傷することなく着用者の手が手袋へ挿入されるのを容易にするように引伸ばすことができる手袋を保証するために、十分な伸びが必要とされる。
【0021】
組成物
合成手袋の製造に使用されるエラストマーフィルムを製造する組成物は、合成ポリマーと、硫黄と、金属酸化物架橋剤とを含み、組成物の総固形物濃度が組成物の5〜20重量%である。総固形物含有量のパーセンテージ(TSC%)は変動し得る。固形物は、好ましくは水によって前記濃度まで希釈される。
【0022】
合成ポリマー
主要な合成ポリマーは単一のポリマー、または2つ以上のポリマーの組み合わせでもよい。好適なポリマーの例は、カルボキシル化ポリアクリロニトリルブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、および/またはポリウレタンである。先に述べたような、合成手袋の製造に好適な特性を持つものと思われるその他の弾性ポリマー/コポリマーをこの発明において利用することができる。
【0023】
合成ポリマーは、好ましくは自由イオン的に架橋可能な基、および共有結合的に架橋可能な基を含むポリマーである。イオン的に架橋可能な基の例はカルボン酸エステルであり、共有結合的に架橋可能な基の例はイソプレンまたはブタジエン中にあるような二重結合である。好ましくは、合成ポリマーはカルボキシル化ポリアクリロニトリルブタジエンである。これは通常、カルボキシル化ニトリルラテックスとニトリルブタジエンゴムとの混合物として提供される。
【0024】
存在する合成ポリマーの量は100phrと計算される。組成物の残りの成分の量は、存在する合成ポリマーの量と関連して計算される。
【0025】
金属酸化物架橋剤
金属酸化物架橋剤は単一の化合物または複数の化合物の組み合わせでもよい。金属酸化物架橋剤の1つの好適な種類は、2価金属酸化物架橋剤である。この2価の種類の金属酸化物架橋剤の好適な例は、酸化鉛、酸化マグネシウム、酸化バリウムおよび/または酸化亜鉛である。
【0026】
好ましい実施形態において、合成ポリマーはカルボキシル化ポリアクリロニトリルブタジエンであり、金属酸化物架橋剤は酸化亜鉛である。この実施形態において、カルボン酸基は酸化亜鉛架橋剤によってイオン的に架橋される。
【0027】
存在する金属酸化物架橋剤の量は、好ましくは0.2〜2.0phrの範囲であり、さらに好ましくは0.5〜1.5phrであり、なおさらに好ましくは0.8〜1.6phrであり、より好ましくは0.8〜1.2phrである。金属酸化物の量は、組成物中に他の促進剤が存在しない場合に特に重要である。量は変動してもよく、二次促進剤が存在する場合には上記の範囲からさらに減少させてもよい。二次促進剤を含む1つの例において、組成物中の金属酸化物架橋剤の量はおよそ0.5〜1.5phr、好ましくはおよそ0.5phrである。
【0028】
硫黄
硫黄は、合成ポリマー中の任意の不飽和基の共有結合性架橋剤として組成物中に存在する。先に述べたように、合成ポリマーがカルボキシル化ブタジエンニトリルである例において、硫黄は不飽和ブタジエンを共有結合的に架橋するように働く。
【0029】
硫黄は元素状硫黄の形状で存在し得る。硫黄は硫黄化合物、例えばTMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド)によっても提供することができる。しかしながら、このような硫黄ドナーは化学アレルギーの原因になりやすく、アレルギー性成分が問題となる場合には、手袋の製造においてこれらの使用を最少に抑えることが好ましい。
【0030】
組成物中に利用される硫黄の量は、好適には0.01〜0.5phrであり、好ましくは0.05〜0.3phrであり、さらに好ましくは0.1phrである。任意で、反応促進剤を加えてもよい。促進剤の存在のもと、組成物中に利用される好ましい硫黄の量は、好適には0.5〜1.0phrである。
【0031】
組成物の調製
組成物は、合成ポリマーと金属酸化物架橋剤、硫黄、およびその他通常の添加剤とを混合することによって調製できる。
【0032】
通常の添加剤は安定剤、抗酸化剤、加硫剤、着色剤などを含んでもよい。組成物の調製は当技術分野で周知の工程を含み、組成物は通常の方法で調製することができる。例えば、合成ポリマーを水酸化カリウムおよび/または水酸化ナトリウムのような安定剤溶液で希釈することができる。使用される安定剤の量は用いる合成ポリマー、組成物のpHおよびその他の要因に依存する。水、好ましくは濾過水で希釈される安定剤は、0.5ないし2phr、好ましくは1.0ないし1.5phrの範囲でよい。
【0033】
希釈された安定剤溶液を合成ポリマーに加える。混合物のpHを好ましくは8.5〜10.5、さらに好ましくは9.0〜10.0に調製する。次に金属酸化物架橋剤を混合物に加え、その後硫黄を加えてもよい。
【0034】
任意で、通常の反応促進剤、例えばジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、メルカプトベンゾチアゾール亜鉛(ZMBT)および/またはテトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)を加えてもよい。二次反応促進剤の好適な量は0.1〜1.5phr、好ましくは0.2〜1.0、さらに好ましくは0.2〜0.6phrである。例えばWingstal L(p−クレゾールおよびジシクロペンタジエンの生成物)のような抗酸化剤を0.2〜0.6phr、好ましくは0.3〜0.5phrの範囲で加えてもよい。最終的なフィルムの透明性を減らすために、顔料着色のために選択される二酸化チタンのような顔料を1.0〜2.5phr、好ましくは1.5〜2.0phrの量で加えてもよく、着色剤を所望の量で加えてもよい。次に混合物を水(好ましくは濾過水)の添加によって5〜20%の総固形物濃度まで希釈する。
【0035】
エラストマーフィルムの製造
エラストマーフィルムの製造には、通常の装置を使用する。必要とされる工程は通常、以下のように記述される。
【0036】
最初に、適当な鋳型、一般に手袋の形状の型を、カルシウムイオンを含んだ凝固剤タンクに浸漬してもよい。カルシウムイオンは硝酸カルシウム、または塩化カルシウムの形で提供される。金属ステアリン酸塩、すなわちステアリン酸亜鉛またはステアリン酸カルシウムのような湿潤剤および抗粘着剤も含まれ、これらも凝固剤に加えてもよい。カルシウムイオンの濃度は、好ましくは1.0〜10.0%、好ましくは5〜10%である。湿潤剤および抗粘着剤の量は、必要な湿潤および「粘着性」の減少の量に依存し、変動するであろう。
【0037】
一旦鋳型を浸漬して凝固剤でコーティングすると、これを乾燥するかまたは部分的に乾燥し、次に任意の通常の添加剤を含んだ本発明の組成物を含むタンクに浸漬する。鋳型が均一にコーティングされることを保証するが、必要以上に厚いコーティングを助長するほど長くない量の時間の間、鋳型をタンクに入れる。必要なコーティングの厚さに依存して、浸漬タンク中の鋳型の滞留時間は1.0〜10.0秒、好ましくは2.0〜5.0秒である。
【0038】
次に鋳型上のコーティングを乾燥し硬化させてもよい。最終的なエラストマーフィルムが多層からなる場合には、第1のコーティング層を実質的に乾燥し、鋳型上の実質的に乾燥した組成物を、第1のタンクにおけるものと異なる濃度であってもよい本発明の組成物を含む第2のタンクに浸漬する。第2のタンク中の鋳型の滞留時間は1〜10秒、好ましくは2〜5秒である。
【0039】
各々の層の平均厚は、最終的なエラストマーフィルムの6〜90%、好ましくは30〜70%、より好ましくは40〜65%である。各々の層の平均厚は最終的なエラストマーフィルムを形成する組成物の層の数に依存する。最終的なエラストマーフィルムは1〜15層、好ましくは1〜10層、より好ましくは2〜6層から成っていてもよい。
【0040】
多層フィルムを製造しようとする場合、フィルム中の層が多いほど、各々の層を形成する組成物の%TSCは低くなる。このことは、多層フィルムの厚さを最小にする。単層フィルムを製造しようとする場合、普通、%TSCはより高いであろう。例えば、合成手袋中に6層の組成物がある場合、各々の層の%TSCは5ないし12%TSCの範囲である。合成手袋中に2〜3層の組成物がある場合、各々の層の%TSCは10〜20%TSC、好ましくは13〜16%TSCである。
【0041】
さらなる工程を実施して合成手袋の製造を微調整してもよい。析出したフィルムをリーチングして、抽出可能な成分を除去することができる(40〜60℃の範囲の熱水中で1〜5分間)。このリーチング工程の間、相当量の界面活性剤、イオン性成分およびその他の可溶性成分および抽出可能な成分を除くことができる。次にこの析出したフィルムをビーディング(beading)/折返し(cuffing)チャンバーを通過させる。
【0042】
次にフィルムを最低温度90℃、90〜150℃の範囲で最低15分、15〜40分の範囲で乾燥オーブン中において乾燥し硬化させる。さらなる乾燥および硬化の条件を実施例において記載する。次にフィルムを塩素化してから、中和し、洗浄し、乾燥オーブン中で90〜150℃で15〜40分間、乾燥し、硬化し加硫してもよい。
【0043】
最終的に、フィルムを鋳型から引き剥がし、合成手袋を提供する。
【0044】
エラストマーフィルム
最終的なフィルムは、製造法に依存して多層フィルムまたは単層フィルムでもよい。最終的なフィルムの平均厚は、好ましくは0.01〜0.3mm、好ましくは0.02〜0.2mm、さらに好ましくは0.03〜0.1mm、なおさらに好ましくは0.05〜0.10mm、さらに好ましくは0.03〜0.08mm、より好ましくは0.05〜0.08mmである。
【0045】
本発明のフィルムの特性はASTM D−412により測定できる。フィルムの平均厚が0.03〜0.10mmと測定される好ましい実施形態において、フィルムの好ましい物理特性は以下のとおりである。14.0MPaの最小抗張力、比較的低い3.0MPa未満の300%モジュラス、650%の最小伸び。
【0046】
フィルムの所望の耐久性は、合成手袋の最終用途によって決定される。例えば、非外科的用途の場合、着用時間は普通3時間を下回り、より実際的には2時間を下回る。フィルムの耐久性は硬化条件によって制御することができる。一般に、硬化温度が高いほど、エラストマーフィルムの耐久性が増す。
【0047】
手袋の厚さに関する用語「平均厚」は、エラストマーフィルムの層に沿った点で実施された3回の厚さ測定の平均を意味する。測定は袖口、掌および指先で実施される。手袋を測定する方法は多層手袋であってもよく、「平均厚」は手袋を形成する多層フィルムの平均厚に対する参照となる。
【0048】
用語「平均厚」は、多層手袋中の1つの層の厚さに関しても使用される。それは多層手袋の厚さの百分率として表現される。例えば、本発明の多層合成手袋の1つの層における平均厚は、袖口、掌および指先で測定された1つの層の平均厚測定であって、フィルム全体の厚さの百分率として表現される(全体の厚さも袖口、掌および指先で測定される)。
【0049】
例
ここで、以下の非限定的な例を参照して本発明を説明する。
【0050】
例1
本発明による組成物の調製において以下の成分を用いた。
【表1】
【0051】
1.1. カルボキシル化ポリアクリロニトリルブタジエンニトリルラテックスを混合容器に入れた。
【0052】
1.2 水酸化カリウムを1.0phr含む安定剤の溶液を調製し、濾過水で希釈した。次に安定剤溶液をカルボキシル化ポリアクリロニトリルブタジエンニトリルラテックスを含んだ混合容器に加えた。
【0053】
1.3 混合物のpHを8.5〜10.5のレベルに調整した。
【0054】
1.4 加硫剤、着色剤のような通常の添加剤を混合容器に加えた。これらの成分の量は相当変動してもよい。
【0055】
2. エラストマーフィルムの調製
2.1 表1による組成物を3日間連続で攪拌した。この期間は1〜5日、好ましくは2〜4日で変動してもよい。攪拌速度は15rpmであった。攪拌速度は10〜20rpmで変動してもよい。
【0056】
2.2 組成物を5〜20%の総固形物含有量(total solids content)に達するのに必要な濃度に濾過水で希釈した。例は、13%TSCおよび16%TSCの特定の固形物含有量で調製した。
【0057】
組成物を浸漬タンクに移し、組成物を25〜45℃の温度に冷却または加熱した。第1のタンク内における温度は35〜45℃、好ましくは38〜42℃である。
【0058】
2.3 清浄な浸漬鋳型を、凝固剤として働くカルシウムイオンからなる凝固剤のタンク中に浸漬した(硝酸カルシウムまたは塩化カルシウムをカルシウムイオンを与えるために用いる)。
【0059】
カルシウムイオンの濃度は7〜9%である。濃度は1〜10%、好ましくは5〜10%の範囲内で変動してもよい。次に鋳型を150℃を上回る温度で乾燥させる。
【0060】
2.4 凝固剤でコーティングされ、乾燥された鋳型を次に、表1による組成物を含んだタンクに浸漬する。この第1の浸漬の滞留時間は3秒であった。
【0061】
2.5 第1の析出フィルムを150℃を超える温度で乾燥チャンバー中で乾燥した。
第1の層の平均厚は最終的な製品の63%であった。
【0062】
2.6 次に実質的に乾燥されたフィルムを第1のタンクのものと同じ13〜16%TSCの濃度の第2のラテックス浸漬タンクに浸漬した。滞留時間は3秒であった。第2の層の厚さは37%であった(袖口−43%、掌−40%、指先−27%)。
【0063】
2.7 次に、さらなる浸漬が必要な場合は工程2.5および工程2.6を繰り返す。
これはこれらの例については行われなかった。
【0064】
2.8 2層からなる析出フィルムを次に40〜60℃の熱水中で1.0分間リーチングした。
【0065】
2.9 次にリーチングしたフィルムをビーディング/折返しチャンバーを通過させることによって折り返した。
【0066】
2.10 折返しおよびビーディングしたフィルムを、乾燥オーブン中でオーブンの長さに沿って最低温度90℃、90〜150℃で変動する温度で最低15分間、乾燥および硬化してから塩素化チャンバーに入れた。
【0067】
2.11 次に、実質的に乾燥したフィルムを、オンラインで800〜1000ppmの遊離塩素(l)の塩素溶液を用いておよそ25秒間、塩素化チャンバー中で塩素化した。これは600〜1300ppmの遊離塩素(l)、および20〜60秒で変動してもよい。塩素化工程が長くなるほど、塩素化工程に要する塩素の濃度は低くなる。
【0068】
2.12 次に、塩素化し、実質的に乾燥したフィルムを中和し洗浄してから、他の乾燥オーブンチャンバーに送った。中和および洗浄の総時間計はおよそ35秒であった。この時間は20〜60秒で変動してもよい。
【0069】
2.13 次に、塩素化し、中和し、洗浄したフィルムを乾燥オーブンチャンバー中で乾燥し、硬化し加硫した。この例の硬化条件は以下の表2に与えられる。オーブンの温度は90〜150℃であった。
【0070】
2.14 乾燥、硬化および加硫の総時間は15〜40分であった。
【0071】
2.15 連続コンベアーチェーンシステムによる塩素化、中和、乾燥および硬化の全ての処理を完了した後、次にフィルムを鋳型から引き剥がした。
【0072】
次に表1の組成物を以下の条件で硬化させた。
【表2】
【0074】
上記のフィルムを平滑/模様無し表面の鋳型により生成した。用いた鋳型が粗い場合、平均厚の測定値は、先に与えられたものよりもおよそ10〜25%大きくなるであろう。
例えば、平滑/模様無しの鋳型の場合0.07mm平均厚のフィルムを与えるのに対し、粗面/模様有りの鋳型は0.08mm平均厚のフィルムを与えるであろう。
【0075】
上記の結果は、先の全てのフィルムがASTM−412の要求を満たすことを明確に示す。
【表4】
【0076】
上記の表から明確に示されるように、フィルムが比較的高い抗張力を持つとはいえ、良好な耐久性を獲得するためにはいまだ高い温度が必要とされる。低い温度で硬化された例のフィルム1−1、1−2および1−5は、低い耐久性を示す。
【0077】
例2
例1の方法を、促進剤ZDBC、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛を含む以下の調合物について繰り返した。
【表5】
【0078】
硬化条件は以下のとおりである。
【表6】
【0079】
エラストマーフィルムの物理特性を示す結果は以下に与える。
【表7】
【0080】
耐久性試験結果を以下の表9に示す。試験は22〜37℃の温度、37〜99%の湿度で実施した。
【表8】
【0081】
上記の結果は、手袋が着用されてから欠陥が現れ始める時点までの時間を示す。上記の表から我々は、より低い温度で硬化されたフィルムの耐久性は、より低い耐久性をもたらすと結論付けることができる。より高い温度で硬化された手袋は、より耐久性がある。
【0082】
1. 改良Draize−95’試験
目的
残留化学添加剤が、完成した合成ゴム手袋中に未感作の一般ユーザー母集団にIV型アレルギーを引き起こすかもしれないレベルで存在するか否かを評価することである。試験に用いた手袋は、例1の組成物からなる。この例の手袋の物理特性は以下のとおりである。
【表9】
【0083】
検討手順
検討を2段階で実施した。第1段階において、刺激または感作を引き起こす潜在性について製品を評価するために50人の被験者の母集団を試験した。第1段階で試験製品が皮膚刺激についての潜在性を表さず、感作能力を示さないということを証明した後に、第2段階をさらに150個体について開始した。
【0084】
導入段階−最小サイズ2cm×2cmの試験物品のサンプルを内面で、検討している各々の被験者の肌に接触させて付けた。試験パッチを上背部領域に貼付し、端を非反応性接着剤テープで連続固定したが、パッチを完全にふさぐことを保証するようにした。
【0085】
試験の導入段階は、試験物品の10個のパッチをそれぞれ月曜、水曜、金曜に付けることを含む。試験物品を除去し、新しいものを同じ箇所に48時間毎に交換した(総計10交換)。金曜に付けたパッチは月曜に除去した。
【0086】
休憩期間
三週間の導入期間の最後に試験物品を除去し、以降の三週間は、チャレンジパッチ(challenge patch)を導入するまで被験者に対してさらなる試験物品を付けなかった。
【0087】
チャレンジ段階
2cm×2cmサイズの、2つの同じ試験物品を未使用箇所にそれぞれ48時間連続で付けた。各々のパッチを除去した時点ならびに再び第2のパッチの除去後2ないし4日の時点の反応について試験箇所を評価した。
【0088】
被験者の選定/検討母集団
試験は最低200人の未感作の成人被験者について完了した。このサンプルサイズは、全ての陰性結果について、ユーザー母集団中の合成ゴム手袋(NBR)の化学感作の可能性が1.5%未満と見込まれることに、95%の信頼度を与える。
【0089】
結果
200人の被験者が2段階の検討を完了した。161人の被験者はアジア人(80.5%)、35人の被験者は白人(17.5%)、そして4人の被験者がアフロカリブ人(2%)であった。検討被験者の年齢範囲は18〜52歳であった(平均26.49±7.4歳)。116人の被験者は褐色の肌(肌タイプIV:58%)、45人の被験者は色白(fair coloured)の肌(肌タイプIII:22.5%)、35人の被験者は白色の肌(肌タイプI:17.5%)、そして4人の被験者は黒色の肌(肌タイプVI:2%)であった。102人の被験者が女性(51%)、98人の被験者が男性(49%)であった。
【0090】
これら200人の被験者全ては、導入段階およびチャレンジ段階の間で1.5以下の得点であった(以下の表2および表3を参照)。
【表10】
【0091】
得点基準
パッチ試験診断基準
【表11】
【0092】
結果の解釈
全て陰性を与えた未感作の成人被験者200人に完了したこの検討は、ここでユーザー母集団中の合成ゴム手袋(NBR)の化学感作の可能性は1.5%未満と見込まれることに、95%の信頼度を与える。
【0093】
結論
試験されたゴム手袋中において、未感作の一般ユーザー母集団中にIV型アレルギーを引き起こすかもしれないレベルの残留化学添加物が存在する臨床的証拠は無い。
【0094】
この医療デバイス、すなわち200人の未感作の被験者に試験されたゴム手袋の肌感作試験(「改良Draize−95」試験)は陰性であり、したがって要求についての必要条件を満たす。すなわち、この製品は、Guidance for Medical Gloves:A Workshop Manual(FDA 96−4257)に記載されたように、ユーザーが化学添加物に感作される可能性の低さを証明した。
【0095】
2.感作された個体へのパッチ試験
目的
最終的な合成ゴム手袋が、以下のチアゾール、チウラムおよびカルバメートの種類のうちの1つ以上について既にアレルギーがある個体に肌反応を引き起こすかもしれない残留化合物を含むか否かを決定するためである。試験に利用された手袋は、改良Draize試験において使用されたものと同じである。
【0096】
検討手順
最小2cm×2cmの試験物品サンプルを、NRを含んだ医療デバイス中の既知の化学感作物質の3つの種類(チウラム、カルバメートおよびチアゾール)の1つ以上に対してアレルギーがあると予め診断されている25人の被験者各々に適用した。ゴム手袋の内側を人の皮膚上で試験した。この手順において、すべての端を連続的に固定し、完全に塞ぐことを非反応性粘着テープで確実にして、パッチを48時間付けた。パッチを除去した時点および再び2ないし4日後の時点で試験箇所を評価した。
【0097】
被験者の選定/検討の母集団
北米接触皮膚炎調査グループ(NACDRG)(Am.J.Contact Dermatitis 2:122〜129,1991)の標準得点による最低グレード1.5の、予め診断されているアレルギーを持つ被験者(ゴム化合物、チウラム、カルバメートおよびチアゾールについて)をこの検討のために選定した。
【0098】
結果
チウラム、カルバメートおよびチアゾールのいずれかについて予め診断されているアレルギーを持つ25人の被験者がこの検討を完了した。
【0099】
これらの被験者は上記3つのゴム化合物のうち最低1つ、または全てについて既に感作されており、これらのゴム化合物についての感作レベルの範囲は1.5〜4.0であった。密閉パッチ試験の間、試験サンプルについて予め診断されているアレルギーのある各々の被験者の各々の来診(visit)の最終得点はゼロ、すなわち陰性の試験結果であった。
【表12】
【0101】
得点基準
パッチ試験診断基準
【表14】
【0102】
反応が、記載された皮膚反応を含む場合は、追加得点を基本得点に加えた。最終得点は基本得点と追加得点との合計値である。
【0103】
結果の解釈
試験は、合成手袋中の化学感作物質、チウラム、カルバメートおよびチアゾールのうちの1つ以上についてアレルギーがあると予め診断された25個体に対して完了した。このサンプルサイズは、全ての陰性結果について、試験された合成ゴム医療製品上の化合物、チウラム、カルバメートおよび/またはチアゾールが、感作された個体の11.3%未満しか反応を引き起こさないであろうと見込まれることに、95%の信頼度を与える。
【0104】
結論
試験された合成ゴム手袋が、ゴム化合物(チアゾール、チウラムおよびカルバメート)について既にアレルギーのある個体に皮膚反応を引き起こすかもしれない残留化合物を含んでいるという臨床的証拠は無い。この群中の25人の被験個体全てが陰性結果を示し(上述した得点基準をベースとした、1.0未満の得点)、したがって低い反応誘発可能性の要求についての必要条件を満たす。
【0105】
当業者は、本発明の趣旨から逸脱することなく多くの変形がなされるであろうことを理解するであろう。
【0106】
以下の請求項、および先行する発明の説明において、文脈が表現言語または必要な関連の他により要求するものを除き、語句「含む」、または「有する」のような変形は、包括的な意味すなわち規定された特徴を特定するものであるが、本発明の種々の実施形態におけるさらなる特徴の存在または追加を妨げるものではない。