特許第6239585号(P6239585)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6239585液体形態で適用することができる多官能性コーティングフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239585
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】液体形態で適用することができる多官能性コーティングフィルム
(51)【国際特許分類】
   C09D 101/08 20060101AFI20171120BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20171120BHJP
   C09D 103/00 20060101ALI20171120BHJP
   A01N 35/02 20060101ALI20171120BHJP
   A01N 37/40 20060101ALI20171120BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20171120BHJP
   E04F 13/07 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   C09D101/08
   C09D7/12
   C09D103/00
   A01N35/02
   A01N37/40
   A01P3/00
   E04F13/07
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-502140(P2015-502140)
(86)(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公表番号】特表2015-518499(P2015-518499A)
(43)【公表日】2015年7月2日
(86)【国際出願番号】EP2013000930
(87)【国際公開番号】WO2013143696
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2015年12月9日
(31)【優先権主張番号】102012006171.4
(32)【優先日】2012年3月28日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】502451568
【氏名又は名称】テューリンギッシェス・インスティトゥート・フューア・テクスティル−ウント・クンストストッフ−フォルシュング・エー・ファウ
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】イェンス、シャラー
(72)【発明者】
【氏名】クヌート、シュテンゲル
(72)【発明者】
【氏名】フランク、マイスター
(72)【発明者】
【氏名】ザビーネ、リーデ
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−137847(JP,A)
【文献】 特表平10−512010(JP,A)
【文献】 特開2006−188697(JP,A)
【文献】 特開2006−199956(JP,A)
【文献】 特表平06−507924(JP,A)
【文献】 特表平06−502676(JP,A)
【文献】 特表平07−509514(JP,A)
【文献】 特表2002−516372(JP,A)
【文献】 特開平05−123550(JP,A)
【文献】 特開平05−228205(JP,A)
【文献】 米国特許第05939192(US,A)
【文献】 米国特許第06020422(US,A)
【文献】 特表2011−524923(JP,A)
【文献】 特開平08−231918(JP,A)
【文献】 特開2003−171402(JP,A)
【文献】 特開2007−009165(JP,A)
【文献】 特表2010−521554(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/095975(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0055110(US,A1)
【文献】 英国特許出願公開第00698948(GB,A)
【文献】 米国特許第02329741(US,A)
【文献】 米国特許第02988455(US,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01698224(EP,A1)
【文献】 特開平08−151402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 101/08
A01N 35/02
A01N 37/40
A01P 3/00
C09D 7/12
C09D 103/00
E04F 13/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化及び防水処理するために、表面を覆ってさらに保護するための、液体形態で適用することができる多官能性コーティングフィルムであって、
ホモ−若しくはヘテログリカン水溶性多糖誘導体、ポリオールスペーサー及び少なくとも1個のカルボニル若しくはカルボキシル官能基を有する架橋剤を含む組成物を含んでなり、
前記ポリオールスペーサーが、脂肪族、環状又は芳香族ポリオールであり、
前記ポリオールスペーサーが、エチレングリコール、プロパントリオール、トリエチレングリコール、二没食子酸、没食子酸およびタンニン酸からなる群より選択され、
前記架橋剤が、ジアルデヒド、ケトン、ジケトン、ジ−、トリ−およびテトラカルボン酸からなる群より選択され、
前記ジアルデヒドには、グリオキサール、グルタルジアルデヒドまたはテレフタルジアルデヒドが含まれ、
前記組成物は、機能的添加剤の導入によりもたらされた付加的機能性を有しており、
前記水溶性多糖誘導体および前記ポリオールスペーサーと、前記架橋剤との反応の程度が、コーティング表面の官能基と架橋可能である遊離架橋剤官能基が未だ存在する程度である、多官能性コーティングフィルム。
【請求項2】
前記組成物が水不溶性のセルロース材料を含む、請求項1に記載の液体形態で適用することができる多官能性コーティングフィルム。
【請求項3】
前記架橋剤が、ケトン、好ましくは、アセトン又はアセチルアセトンである、請求項1に記載の液体形態で適用することができる多官能性コーティングフィルム。
【請求項4】
前記多糖材料が天然又は合成起源のものであり、粉砕された古紙の形態のリサイクルされたセルロースが好ましいことを特徴とする、請求項1に記載の液体形態で適用することができる多官能性コーティングフィルム。
【請求項5】
前記水溶性多糖誘導体が、セルロースエーテル、好ましくはヒドロキシ−アルキルセルロース、メチルセルロース及びカルボキシメチルセルロース、又はデンプン誘導体、好ましくはヒドロキシ−エチルデンプンである、請求項1に記載の液体形態で適用することができる多官能性コーティングフィルム。
【請求項6】
膨潤性であり、その膨潤性は、ポリオールスペーサーのタイプによる影響を受け、防水層の性質を失わずにヒドロゲルとして、架橋度に対応してそれらの乾燥物質に基づいて75重量%までの水と結合することができる、請求項1に記載の液体形態で適用することができる多官能性コーティングフィルム。
【請求項7】
80重量%の他の物質含有率までフィルムがそれらの機械的性質を保持する、請求項1に記載の液体形態で適用することができる、多官能性コーティングフィルム。
【請求項8】
多官能性コーティングフィルムであって、濃厚な分散液(粘度>2.0Pa)が少なくとも2年間性質の変化なしに貯蔵可能であり、建築材料等級B2に適合し、気密性は、1l/mの材料使用で0.7〜1.2/hの値に達し、フィルムの拡散に対する抵抗について0.7〜1.4mのsd値が測定され、及び表面から剥離されていない伸張性は、55N/mmまでの応力で30%と60%の間にある、請求項1に記載の液体形態で適用することができる多官能性コーティングフィルム。
【請求項9】
固体フィルムが上塗り性能又は面を装飾する性能を有し、木材、紙、ガラス、石膏及び金属に接着する、請求項1に記載の液体形態で適用することができる多官能性コーティングフィルム。
【請求項10】
表面、例えば、建築物外装材及び屋根領域における木造建築又は凝縮水形成の増大する部位などを強化及び防水処理し、覆って保護もするために、機能層として適用可能である、請求項1から9までに記載の液体形態で適用することができる多官能性のコーティングフィルム。
【請求項11】
除草剤、防カビ剤、殺虫剤及びダニ駆除剤の性質を有する、請求項1に記載の液体形態で適用することができる多官能性のコーティングフィルム。
【請求項12】
液体形態で適用することができる、請求項1から10までに記載の多官能性のコーティングフィルムであって、土壌を安定化及び土壌を被覆するために、並びに農業用及び園芸区域における望ましくない成長を抑制するために使用することができ、且つ土壌中における滞留時間が組成物/架橋度及び置換度に依存して調節可能である、コーティングフィルム。
【請求項13】
多糖材料を主成分とする液体形態で適用することができるコーティングフィルムを製造する方法であって、
水溶性の多糖誘導体と、分散性水不溶性の多糖材料と、ポリオールスペーサーと、1個若しくは複数のカルボニル及び/又はカルボキシル官能基を有する架橋剤とを混合し、ワンポット合成で、最初に貯蔵に安定な水性分散液を形成させる工程であって、
前記架橋剤が、ジアルデヒド、ケトン、ジケトン、ジ−、トリ−およびテトラカルボン酸からなる群より選択され、
前記ジアルデヒドには、グリオキサール、グルタルジアルデヒドまたはテレフタルジアルデヒドが含まれ、
前記ポリオールスペーサーが、エチレングリコール、プロパントリオール、トリエチレングリコール、二没食子酸、没食子酸およびタンニン酸からなる群より選択され、
前記水溶性多糖誘導体および前記ポリオールスペーサーと、前記架橋剤との反応の程度が、コーティング表面の官能基と架橋可能である遊離架橋剤官能基が未だ存在する程度である、工程と、
前記分散液を、液体コーティングフィルムとして、酸媒体中において、表面に適用し、アセタールまたはケタールにより定量的に架橋する工程とを含み、
全ての化学反応は溶媒の水で進行し、架橋反応は10℃からの温度で起こることを特徴とする方法。
【請求項14】
前記水溶性の多糖誘導体が、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシ−メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースからなる群より選択される、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面を強化及び防水処理し、覆って保護するために、例えば、土壌で望ましくない変化を防止するために、建築物の外装材及び屋根領域における木造建築又は、とりわけ、後方の通気面の領域において、又は体表を覆うための化粧品又は医学的分野において見出され得る凝縮水の形成が増大する部位に、液体形態で適用することができる、ホモ−及びヘテログリカン材料を主成分とする多官能性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
粗末な建築の湿気に曝された木材は、一般的に細菌により惹起された緩慢な腐敗及びカビの侵入にも曝されて、比較的長期間かかって分解される。水分含有率を約12%に下げることにより、及び同様に殺生物剤を用いる処理により、分解を遅延させることができる。しかしながら、後者の場合には、天然で分解した木材は、ある量の水を常に再吸収するので、どちらかと言えば親水性の材料が得られる。
【0003】
外部は乾燥しているが、未だある程度の芯の湿気を有し、且つ低い水蒸気透過率しか有しない表面コーティングで封じられた木材も、危険な状態にあると考えなければならない。そのような表面の耐久力のある処理として、分解する木材を保護するために知られた唯一の手段は、殺生物剤の製品又はコーティングを使用する手段であるが、しかしながら、それは、木材保護及び環境保護の問題の全ての要求を一般的にかなえるとは限らない。
【0004】
それ故、一般的に知られている表面コーティングの効力はあまりにも低いと記載されている。
【0005】
それに加えて、最新の技術では、ポリオレフィン、PET、PA及びPVCフィルムが、表面の強化及び防水処理及びさらに被覆するためのコーティングフィルムとして、並びに農業及び林業だけでなく園芸及び造園においても構造物中の湿気、蒸気及び熱に対するバリアとして、好ましく使用されることが知られている。この場合の不利な点は、保温用の覆いにおいて、複雑な表面形状又は特定の構造(サイロの覆い、早期収穫用フィルム、その他)の場合において、特に多大の労力が必要なことである。
【0006】
この先行技術の代替として、ドイツ特許出願公開DE102009049284には、建築物外装材の機能層及び木造建築のための蒸気バリアとしてスプレー又はコーティングすることにより、少なくともある範囲に適用することができるフィルムが記載されている。
【0007】
該特許出願においては、合成ポリマー、好ましくはアクリレート/メタクリレート、又はポリウレタンを主成分とするプラスチック分散液が使用される。使用可能なプラスチックとして、セルロースも挙げられているが、スプレー又はコーティングにより少なくともある範囲に適用することができるフィルム部分、及びそれらの可能な実施形態については、セルロース系フィルムに関して如何なる教示もない。
【0008】
適用された分散液のコーティングからのフィルム形成は、好ましくは、溶媒/分散媒の蒸発中におけるプラスチック粒子の物理的及び機械的接着に基づく。それ故、機械的性質は制限されて、非常に狭い限界内で調節され得るにすぎない。それに加えて、スプレーすること及びフィルムの性質を達成するために、例えば、消泡剤及び増粘剤などの種々の添加剤が絶対的に必要である。生分解性は調節できない。微生物及び食性害虫に対する機能的活性は記載されていない。
【0009】
特許DE69523127T2には、ラテックスコーティング材料で使用するための架橋セルロース添加剤の発明が紹介されている。添加剤の成分は、親水性アルケン基により置換されたセルロースエーテルである。この場合における架橋は、触媒により開始されたビラジカル性の酸素によってのみ可能である。この添加剤は、増粘剤及び流動性改変剤としてのみ役立ち、それはラテックス塗料の架橋を促進する。
【0010】
添加剤は、油系ラテックス組成物を置き換えるために、それ故高いVOC含有率を有する塗料を置き換えるために役立つ。ラテックスのマトリックス中のセルロースエーテル添加剤の含有率は、0.05から3.00重量%である。ラテックスのポリマーは、一般的に、アクリレート系の従来市販されている種々の合成高分子からなる。架橋性添加剤は、該特許においては、モノ不飽和ないしポリ不飽和の芳香族及び脂肪族グリシジルエーテル誘導体とセルロースエーテルとの反応により製造される。架橋反応は、この場合、MnSO4又はCoCl2の存在下で触媒的に環状エーテルの付加反応により起こる。
【0011】
特許DE10308236には、ポリヒドロキシポリエーテルに基づく生分解性農業用液体フィルムが記載されている。これらは、相当の複雑性をもって、例えば、ギ酸、過酸化水素、リン酸及び硫酸などの毒性化学物質を使用して、酸触媒化学反応により80〜120℃の温度で、コスト/利益比を費やして製造される。水/アセトン溶液又は懸濁液の微粒化後、順序として、フィルム形成自体は、土壌粒子の接着による純粋な機械的経路によってのみ起こる。適用分野は、それ故、土壌への適用に限定され、本質的な安定性を有するフィルムは形成されず、その結果、さらなる適用は可能でない。このことは、十分に制御し得ない生分解性によっても不利になる。さらに、適用は水/アセトン混合物の微粒化により進行するが、それは、例えば、室内区域における使用のためには許容されない。
【0012】
DE102005053587には、生分解性の天然オリゴポリオールが混合されたアルカリ金属のケイ酸塩溶液又は分散液に基づく農業用の一時的に分解性のフィルムの製造が記載されている。スプレー溶液は、複数のステップで製造され、化学的及び技術的態様(200℃までの温度、50%の強度の水酸化カリウム溶液、濾過プロセスの使用)により極端に複雑である。可塑化成分の使用にも拘わらず、機械的性質は、制限つきでのみ可能である。ケイ酸塩は、当然脆弱で堅い成型物を生ずる。
【0013】
最後に、米国特許第2,329,741号には、ヒドロキシアルキルセルロースからの二官能性アルデヒドを用いる架橋反応によるフィルムの製造が記載されている。例えば、木材パルプ、リサイクルされたセルロース又は鋸屑などのセルロース系の主な成分は、使用されない。セルロース誘導体のみが架橋され、その場合、完全に異なった架橋構造が生じ、それは、広い分野の適用を扱うことはできない。さらに、ヘテログリカン多糖誘導体の使用のみによるコストは、特にゲラン及びキサンタンの場合、著しく高い。架橋は、105℃の温度で起こり、そのため、湿式処理は事実上不可能になる。
【0014】
WO2008/112419A2は、酸化チタン、アクリル酸ビニルラテックス、アクリル系ラテックス及びPVCを含有する貯蔵に安定な水性ラテックス塗料に関する。アセチル又はケタール形成による架橋は、この系では起こらない。スプレーされたフィルム中に化学的に組み込まれて、それら自体すでに生物学的性質及び防火の性質を有し、その上、ポリオールのタイプに応じてコーティングの物理的性質に影響するスペーサー化合物は、上記の特許には殆ど言及されていない。同様に、化学的架橋が、ラテックス塗料によりコートされるべき表面で起こらなければならないことはないが、それが起これば、その場合にはアセチル化又はケタール化以外のかなり異なった様式で起こる。
【0015】
このコーティングの主成分は、水、ポリ塩化ビニル、アクリル系ラテックス、アクリル酸ビニルラテックス及びTiO2であり、セルロース誘導体は従属的成分にすぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】ドイツ特許出願公開DE102009049284
【特許文献2】特許DE69523127T2
【特許文献3】DE10308236
【特許文献4】DE102005053587
【特許文献5】米国特許第2,329,741号
【特許文献6】WO2008/112419A2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、それ故、例えば、土壌、建築物外装材及び屋根領域における又はとりわけ、通気される外面の領域で起こる凝縮水の増大した形成部位における木造建築などの表面を強化及び防水処理するため、被覆するため、さらに保護するための、液体形態で適用することができる、多糖材料を主成分とする多官能性フィルムを見出すことであった。本発明のさらなる目的は、この場合には、先行技術において知られた技術的解決策の不利な点を回避して、安価で且つ典型的な適用温度下で使用可能であり、機械的に十分安定であり、且つ必要な気密性を有し、付加的機能性を備えるフィルムを開発することであった。農業用フィルムとして使用されて、土壌の微生物のパラメータが、悪影響を受けるべきではない。それに加えて、広い範囲内でそれぞれの適用分野に従って、組成物の選択により、湿分の結合、機械的パラメータ、生分解性、孔サイズ、その他に適合できることが必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0018】
多糖材料及び/又は水溶性多糖誘導体及びポリオールスペーサーと1個又は複数のカルボニル及び/又はカルボキシル官能基を有する架橋剤とを反応させることにより、他の材料を80%の比率まで追加してもそれらの機械的性質を保持する機械的に安定な及び多少とも柔軟性のフィルムを形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
多糖材料は、ホモグリカンだけでなく、ヘテログリカン材料、リサイクルされた水不溶性のセルロース、例えば粉砕された古紙、セルロース繊維又は鋸屑及び水溶性多糖誘導体も含む。水溶性多糖誘導体は、特に、セルロース誘導体であり、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、酸型のカルボキシ−メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースを含む。デンプン誘導体も、水溶性多糖誘導体に含まれ、好ましくはヒドロキシエチルデンプンである。ヘテログリカン材料は、好ましくはキサンタン、ゲラン及びヒアルロン酸である。特に適当な多糖誘導体として、アミノセルロース及びキトサンなどのアミノ基担持多糖類も挙げられる。他の物質は、非反応性の有機又は無機物質又は機能的添加剤であってもよい。
【0020】
安定なフィルム層は、10℃を超える温度における水の脱離を伴う成分のアセタール又はケタールによる連結後に、多官能性コーティングフィルムの遊離アルデヒド基又はケト基とコートされるべき表面の官能基との架橋(それは多官能性コーティングフィルムの追加の安定化の効果を有する)により形成される。多官能性層は水及びUV光に耐性である。スペーサーとして作用するポリオールは、好ましくは天然起源のものであり、それらの官能性又はそれらの立体配置により、フィルムの弾性及び膨潤性に影響する。タンニン酸がポリオールとして使用される場合、フィルムの燃焼性は事実上完全に抑制される。フィルムは、水蒸気に対して透過性であり、制御された様式で膨潤性であり、架橋度及び使用されるスペーサーに対応して、乾燥体に基づいて75%までの水を結合することができる。
【0021】
本発明により、分散性であるが水不溶性の固体、例えば、多糖材料及び/又は水溶性多糖誘導体などが、ポリオールスペーサー及び架橋剤と混合されてワンポット合成される。最初に依然水溶性及び反応性のままである貯蔵に安定な水性分散液が形成される。液体をコーティングフィルムとして表面に適用後、硬化は定量的なアセタール又はケタール架橋を通して進行する。酸媒体でCMC−Naを使用する場合、硬化は、酸型の形成を通して進行し、その結果として、驚いたことに、酸型の形成後に、フィルムの追加的非可逆的安定化が得られる。
【0022】
ポリオールスペーサーの目的は、生じたフィルムの弾性を確保すること及び水取り込み及び蒸気透過率に効果を及ぼすことである。適当なポリオールスペーサーとしては、脂肪族ポリオールとして、特にエチレングリコール、プロパントリオール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール及びソルビトール、環状ポリオールとして、特にグルコース、フルクトース及びガラクトース、及び芳香族ポリオールとして、特にシアニジン、コリラギン、二没食子酸、タンニン酸及び没食子酸が挙げられる。
【0023】
適当な水溶性多糖誘導体は、水溶性セルロースエーテル、特に好ましくはヒドロキシアルキルセルロース、例えば、2−HEC、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース及びヒドロキシエチルなど、デンプン、例えば、2−HESなどである。特に適当な多糖誘導体として、アミノセルロース及びキトサンなどのアミノ基担持多糖類も挙げられる。
【0024】
架橋剤は、1個又は複数のカルボニル及び/又はカルボキシル官能基を有し、好ましくはジアルデヒド成分、ジケト化合物又はジ−、トリ−又はテトラカルボン酸である化合物から選択される。使用される特に好ましいジアルデヒド成分は、グリオキサール、グルタルジアルデヒド又はテレフタルジアルデヒドである。特に適当なケト成分は、アセトン及びアセチルアセトンである。適当な架橋剤及び架橋度の選択により、コートされるべき表面への接着及び分解性を調節することができる。分解性は、フィルムの使用分野に依存し、例えば、建築構造物及び木材を保存及び被覆するためには、分解性は望ましくなくて、反対に、非常に長い耐用年数が望まれる。対照的に、農業における使用については、使用後のフィルムを畑にすき込むか、それらを堆肥にするか、又は他の方法でそれらを生物学的に処分することができるために、そのような分解性が望ましい。
【0025】
使用される芳香族ポリオールの着色により、本質的な安定性を有する水不溶性で、淡灰色から黒色のフィルムが形成される。
【0026】
多糖材料及び/又は多糖誘導体と、1個若しくは複数のカルボニル及び/又はカルボキシル官能基を有する架橋剤及びポリオールスペーサーとの反応により、多少とも柔軟性の透明なフィルムが形成され、それは、他の物質の含有率が80%になるまでそれらの有利な機械的性質を保持する。他の成分は、非反応性の有機若しくは無機物質及び/又は機能的添加剤であってよい。厳密に調節可能な耐用年数を有する安定なフィルム層が典型的な使用温度で形成される。
【0027】
特に優れた接着が、フィルム溶液のコンクリート、石膏などの多孔質表面、又はヒドロキシル基、カルボキシル基又はアミノ基を有する木材、ガラス、紙、プラスチックなどの表面への適用により得られる。優れた接着は金属表面に対しても得られる。
【0028】
多糖材料、多糖誘導体及びポリオールスペーサーと1個又は複数のカルボニル及び/又はカルボキシル官能基を有する81%未満の架橋剤、例えばジアルデヒド成分、モノ若しくはジケト化合物又はジ−、トリ−若しくはテトラカルボン酸との反応の程度で、架橋剤の遊離の官能基は、未だ存在し、それがコートされるべき表面の官能基と架橋する。ジアルデヒド成分としては、好ましくは、グリオキサール、グルタルジアルデヒド又はテレフタルジアルデヒドが使用され、ケト化合物としては、好ましくはアセトン又はアセチルアセトンが使用される。
【0029】
表面上の、例えば木材表面上の機械的に安定な湿気吸収剤及び制御可能に膨潤性のコーティングフィルムは、10℃未満の温度における水の脱離に伴う成分のアセタール又はケタール連結後に形成される。層は、水及びUV−光に対して安定である。コーティングフィルムの機能期間は調節することができる。
【0030】
フィルム形成のために使用される全ての物質は、好ましくは、生物学的起源のものである。フィルム層は、水蒸気に対して透過性であり、膨潤性であり、調節された架橋度及びスペーサーに対応して、乾燥物質に基づいて75%まで水を結合することができる。
【0031】
液体形態で適用することができる、セルロース又はデンプンを主成分とする多官能性フィルムは、適用後、コートされるべき表面と反応して、追加のアセタール又はケタール結合を形成することができ、それにより永続性の共有結合を形成する。生じた固体フィルムは、均一な構造を形成し、コートされるべき表面の全ての凹凸に入り込み、コートされた表面と同様な様式で相対湿度に従って膨潤及び収縮し、そのような様式でこの層は、従来の塗料又はプラスチックフィルムのように亀裂を形成し易くなくて、表面に又は構造に関して、幅が6mmまでの亀裂又は間隙にさえ橋かけすることができる。
【0032】
本発明による解決策には、表面を強化及び防水処理し、覆ってさらに保護するために、例えば、土壌、建築物外装材及び屋根領域における木造建築又は、とりわけ、後方の通気面の領域に見出されることがある凝縮水形成の増大する部位などに、液体形態で適用することができる多官能性フィルムが記載される。
【0033】
多官能性フィルムの組成物の適用に特異的な選択により、追加の他の物質の80%の含有率までそれらの機械的性質を保持する、機械的に安定な及び多少とも柔軟性のフィルムを形成することが可能である。
【0034】
本発明によるコーティングフィルムの他の物質は、非反応性の有機又は無機物質、例えば、土壌基質、ローム、岩石、岩粉、顔料、プラスチック粒子などであってもよい。
【0035】
本発明に従ってスペーサーとして作用するポリオールは、好ましくは天然起源のものである。架橋度、ヒドロゲルの性質、機械的強度及び表面接着は、使用される架橋剤の量、それらの官能基の数、使用されるポリオールスペーサーのタイプ及び量、他の物質及びコートされるべき表面の官能基のタイプ及び量により、広い範囲内で適合させることができる。
【0036】
農業用フィルムとして使用される場合、土壌中における滞留時間、即ち液体形態で適用することができる本発明によるコーティングフィルムが分解する期間は、架橋剤による多糖の材料及び/又は多糖誘導体とポリオールスペーサーとの化学的架橋の反応度及びタイプにより、制御された様式で調節することができる。フィルムの長期安定性は、最適架橋度(表1)でのみ達成される。
【表1】
【0037】
表は、生物学的フィルムの寿命は、反応度に依存して調節することができることを明らかにしている。この場合、寿命は、最大を通って、さらに高い反応度で再び減少する。寿命即ち分解の時点を調節するための他の基準は、使用される架橋剤及び多糖の材料のタイプである。
【0038】
特に屋根又は地下室領域で起こる温度の変動及びそれに関連する凝縮水の形成は、ヒドロゲル形成のための本発明によるコーティングフィルムの能力により防止される。
【0039】
さらに、本発明による液体形態で適用することができる蒸気及び熱バリアの使用により、屋根における絶縁の有効期間を最適化できるだけでなく、古い建築物の補修の場合に、他の方法ではかなり余分な出費を伴ってのみ達成できる部位に密閉層として液体フィルムを適用する可能性が生ずる。
【0040】
本発明に従って使用されるコーティングフィルムは、新しい建築物だけでなく古い建築物の補修にも使用することができる。
【0041】
本発明に従って使用されるポリオールは、市販の知られた可塑剤としてポリマーに添加されるのではなくで、スペーサーとして架橋反応に直接関わる。表面への結合能力は達成された架橋度に依存する。
【0042】
天然のUV光の効果でフィルム性質に変化が起こることはない。
【0043】
本発明によるコーティングフィルムは、非毒性であり、適切に適用された場合には、眼、皮膚及び粘膜に如何なる刺激も生じない。それに加えて、硬化されたフィルムは、それが構造材料の耐火等級B2、フィルムの機密性に適合し、1l/mの材料使用で、0.7〜1.2/hの値に達することができ、フィルムの拡散に対する抵抗について0.7〜1.4mのsd値が決定されることにおいて特徴づけられる。木材表面から剥離されていない55N/mmの応力におけるフィルムの伸張性は60%である。固体フィルムは、優れた上塗り性能及び面を装飾する性能を有する。
【0044】
本発明に従って液体形態で適用することができるフィルムは、木材、紙、ガラス、石膏、金属、及びプラスチック、例えば、プラスチックフィルムなどに非常によく接着する。ヒドロキシル基、カルボキシル基又はアミノ基を有する材料で作製された表面に対する接着は特に優れている。これら官能基により、液体形態で適用することができるフィルムでは、水の脱離を伴う不可逆的硬化反応が進行する。
【0045】
本発明に従って硬化されたフィルムの非常に優れた接着は、多孔質の、汚れた又はほこりだらけの表面でも達成される。硬化されたコーティングは、耐衝撃性且つ耐擦過性である。未だ液状又はペースト状のコーティングフィルムを処理するために、例えば、刷毛塗り、微粒化、スプレー塗装、こての適用などの当業者に知られた全ての技法が適当である。
【0046】
液体形態で適用することができるフィルムは、多官能性作用を示し、化学量論組成により、コーティングフィルムとしての使用に加えて、殺カビ剤、除草剤、殺虫剤及びダニ駆除剤として同様に適し、それらは防火性であり且つUVに安定であり、軽量構造壁及び泥構造を安定化する追加成分として作用し、それらの膨潤性のおかげで室内の湿気を放出又は吸収することができる。
【0047】
使用される材料のタイプ及び機能的性質を賦与する可能性により、医療技術におけるだけでなく、創傷治癒のため又は創傷被覆材として、及び化粧品産業において使用が可能である。
【0048】
この下の実施例は本発明の例示を意図する。実施例中のパーセンテージは、特に断りのない限り又は前後関係から自明でない限り、重量%を意味すると解されるべきである。
【0049】
実施例1
液体形態で適用することができるコーティングフィルムを合成するために、0.1から1モル濃度、好ましくは0.4から0.5モル濃度のセルロース誘導体の水溶液を作製し、同量のリサイクルされたセルロースと混合して、濃酢酸を使用して2から6、好ましくは4から5のpHに酸性化し、強度40%の溶液に基づいて0.05から0.5モル、好ましくは0.1から0.3モルのグリオキサールと混合し、20から50℃、好ましくは20から30℃の温度で10分間攪拌し、次に0.1から0.5モル、好ましくは0.2から0.4モルのポリオール成分を加えて、混合物を3時間20から50℃、好ましくは30から40℃で攪拌する。このようにして作製された反応混合物は、部分的に架橋されて、15から30℃の温度勾配で0.68と1.46Paの間の粘度を有する未だ水溶性の生成物である。水により比1:5で希釈した後、木造建築のための蒸気バリアとして適当な微粒化可能な溶液が得られる。濃縮された生成物は、少なくとも2年間性質が変化することなく安定である。
【0050】
実施例2
0.1から0.5モル濃度、好ましくは0.3から0.4モル濃度の、ポリオール成分の水溶液を、酢酸を使用して3から6、好ましくは4から5のpHに調節し、40%強度の溶液に基づいて0.1から0.5モル、好ましくは0.3から0.4モルのグリオキサールと混合し、20分間20から50℃、好ましくは30から40℃の温度で攪拌し、同量のリサイクルされたセルロースと混合されたセルロース誘導体の0.1から1モル濃度、好ましくは0.4から0.5モル濃度の水溶液と混合して、混合物を4時間20から50℃、好ましくは30から40℃の温度で攪拌する。このようにして作製された反応混合物は、部分的に架橋された、15から30℃の温度勾配で0.72及び1.32Paの間の粘度を有する未だ水溶性の生成物である。水により比1:6で希釈した後、木造建築のための蒸気バリアとして適当な微粒化可能な溶液が得られる。濃縮され生成物は、性質が変化することなく2年まで貯蔵可能である。
【0051】
実施例3:
0.1から1モル濃度、好ましくは0.4から0.6モル濃度のセルロース誘導体の水溶液を、酢酸を使用して3から6、好ましくは4から5のpHに調節し、40%強度の溶液に基づいて0.5から1.5モル、好ましくは0.8から1.2モルのグリオキサールと混合し、混合物を10分間20から50℃、好ましくは30から40℃の温度で攪拌する。続いて、それに0.1から0.6モル、好ましくは0.3から0.5モルの芳香族ポリオール、好ましくはタンニン酸を加えて、混合物をさらに60分間20から50℃、好ましくは30から40℃の温度で攪拌する。この部分的に架橋した未だ水溶性の生成物は、フィルムを形成できる性質に加えて、さらに単子葉植物及び双子葉植物に対する除草剤の作用を有する。
【0052】
実施例4:
合成のために、0.1から1モル濃度、好ましくは0.4から0.5モル濃度のセルロース誘導体の水溶液を作製し、濃酢酸を使用して2から6、好ましくは4から5の pHに酸性化し、40%強度の溶液に基づいて0.1から0.5モル、好ましくは0.2から0.3モルのグリオキサール又はグルタルジアルデヒドと混合し、混合物を10分間20から50℃、好ましくは20から30℃の温度で攪拌し、次にこの溶液に、0.1から0.8モル、好ましくは0.3から0.6モルの芳香族ポリオール、好ましくはタンニン酸を加えて、混合物をさらに60分間、20から50℃、好ましくは30から40℃の温度で攪拌する。未だ水溶性の生成物は、フィルムを形成できる性質に加えて、セラトシスティスsp(Ceratocystis sp.)、マツノネクチタケ(Heterobasidium annosum)、Disculapinicola、不完全菌類(Fungi imperfecti)、及びカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)に対する防カビ作用をさらに有する。(表2)( DIN58940−84、発行日:2002−10 Medical microbiology−sensitivity testing of microbial pathogens to chemotherapeutics−part 84:Microdilution;special requirements for testing fungi against antimycoticsで指定された決定)
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【0053】
実施例5:
0.4から1.0モル濃度、好ましくは0.6から0.8モル濃度の多糖誘導体の水溶液を、濃酢酸を使用して2.5から6.5、好ましくは4から5 のpHに酸性化し、次にアセトンと水溶性多糖誘導体が沈殿析出するまで混合する。未だ透明な溶液を1時間、35から55℃、好ましくは50℃で攪拌し、その後0.4から0.9モル、好ましくは0.7モルの芳香族ポリオール、好ましくはタンニン酸の水溶液と混合して、さらに20から40分間、好ましくは30分間、この温度で攪拌する。未だ水溶性の生成物は、反応系から水が完全に除去された後水不溶性の柔軟なフィルムを形成する。
【0054】
実施例6:
0.2から1.2モル濃度、好ましくは0.8から1.0モル濃度の多糖の水溶液を、濃酢酸を使用して3から7、好ましくは4から6 のpHに調節し、次にアセチルアセトンと水溶性多糖が沈殿析出し始めるまで混合する。未だ透明な溶液を2から6時間、好ましくは4時間、40から80℃、好ましくは60℃の温度で攪拌し、その後0.8から1.2モル濃度、好ましくは1モル濃度の芳香族ポリオール、好ましくはタンニン酸の水溶液と混合して、さらに60から120分間、好ましくは80分間、この温度で攪拌する。未だ水溶性の生成物は、反応系から水が完全に除去された後水不溶性の柔軟なフィルムを形成する。