【文献】
Diamonds-characterized by FT-IR spectroscopy,Application Note AN #81,2010年,Page.1-3
【文献】
A new defect center in type Ib diamond inducing one phonon infrared absorption: The Y center,DIAMOND AND RELATED MATERIALS, ELSEVIER SCIENCE PUBLISHERS, AMSTERDAM, NL,2011年,Vol.21,Page.120-126
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所与の吸収特性に対する前記非線形最小二乗フィッティングステップは、そこにフィットすべき吸収特性が存在することが期待される、開始波数と終了波数との間で、サンプルスペクトルの領域を選択するステップを含む、請求項7又は8に記載の方法。
前記選択されたガウシアンを含まないエリアは、開始波数から選択されたガウシアンのピーク位置マイナス幅の第1の所定倍数まで、及びピーク位置プラス幅の第2の所定倍数から終了波数まで、延びているとして、決定される、請求項11に記載の方法。
水による吸収に対応する特性を差し引くステップは、所定のスペクトル範囲にわたるスペクトルを、水による吸収に特有の特性を含む参照水スペクトルにフィットさせるステップ、及びサンプルスペクトルからフィットさせた水スペクトルを差し引くステップを包含する;及び/又は
ダイヤモンド格子による固有吸収に対応する特性を差し引くステップは、所定スペクトル範囲にわたるスペクトルを、IIa型ダイヤモンドによる吸収に特有の特性を含む参照IIa型スペクトルにフィットさせるステップ、及びサンプルスペクトルからフィットさせたIIa型スペクトルを差し引くステップを包含する;及び
前記水スペクトル及び/もしくはIIa型スペクトルにフィットさせるステップは、任意には線形非負最小二乗フィットを使用して実施される、
請求項1乃至16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
天然起源のダイヤモンドの1乃至2%は、窒素不純物を名目上含まない。これらはII型ダイヤモンドと呼ばれ、DiamondSure参照(referrals)の重要なカテゴリを形成する。DiamondViewを使用して天然起源であることが確認された後、このような原石が、その色を改善するために人為的に処理されたかどうかをチェックする必要がある。DiamondPLusを使用できる。さらにより詳細な試験を必要とするII型ダイヤモンドの数を顕著に減らす高速フォトルミネセンス測定を行うのに使用できる。
【0005】
この機器の方法論の使用は、合成物及び処理ダイヤモンドが、未処理天然ダイヤモンドとして認識されるのを予防するのに効果的であるけれども、特定の場合、例えばDiamondPLusにパスしないII型ダイヤモンドの場合、及び高いDiamondSure参照レートを有するファンシーカラーダイヤモンドの場合(例えば黄色もしくは黄褐色原石)、さらなる分析が必要とされる。多くの場合、このようなさらなる分析は、それらが含有する重要な赤外活性欠陥に従ってダイヤモンドを分類するため、赤外(IR)吸収スペクトルの測定と解釈とを包含する。現在、このことは、実験室ベースの分光計を使用して手動で原石を測定すること、自分でデータを分析すること、及びそれに従って原石を分配することにより達成される。これは煩雑且つ時間がかかり、熟練した科学者及び専門家の綿密な知識(これは容易に伝達可能な情報ではない)を必要とする。
【0006】
従って、赤外吸収スペクトルの分析を自動化するシステムを提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
要約:
本発明の一態様に従い、宝石原石の赤外吸収サンプルスペクトルからダイヤモンド宝石原石の分類を自動化する方法が提供される。水蒸気による吸収及びダイヤモンド格子による固有の吸収に対応する特性(features)は、吸収スペクトルから差し引かれる。ダイヤモンド内の格子欠陥に対応する所定の吸収特性を同定するよう、サンプルスペクトルは分析される。宝石原石は、所定の吸収特性の強度に従い分類される。分類の結果は、データベースに保存される。宝石原石はまた、それに従って分配されてもよい。
【0008】
従って、スペクトルは、不必要な特性(測定アーチファクトもしくは固有吸収)を除去するように加工され、興味対象の特性が自動的に識別且つ比較されるようにする。
【0009】
スペクトルの分析を確実に自動化するため、シグナル対ノイズ比が、有意な結果を得るのに十分であると見込まれるかを決定するため、早期チェックはスペクトル飽和について試験してよい。これは、その中に吸収特性が存在しない所定のスペクトル領域にわたりノイズを測定することにより(例えば、スペクトルのフーリエ変換を積分することにより)、及びノイズが所定の閾値を超えるならば、「高飽和」結果を与えることにより達成される。
【0010】
水による吸収に対応する特性を差し引くアルゴリズムステップは、所定スペクトル範囲にわたる(例えば3500乃至4000cm
−1)サンプルスペクトルを、水による吸収に特有の特性を含む参照水スペクトルにフィットさせるステップ、及びサンプルスペクトルからフィットさせた水スペクトルを差し引くステップを包含してよい。同様に、ダイヤモンド格子による固有吸収に対応する特性を差し引くステップは、所定スペクトル範囲にわたるスペクトルを、IIa型ダイヤモンドによる吸収に特有の特性を含む参照IIa型スペクトルにフィットさせるステップ、及びサンプルスペクトルからフィットさせたIIa型スペクトルを差し引くステップを包含してよい。水及び/又はIIa型スペクトルにフィットさせるステップは、線形非負最小二乗フィッティングを使用して実施してよい。
【0011】
吸収スペクトルを、水による吸収の標準スペクトルに自動的にフィットさせるステップは、参照水スペクトルを、所定の範囲にわたる複数の異なる波数位置に、漸次的にシフトするステップ、及び前記水スペクトルを各位置における吸収スペクトルにフィットさせるステップ、及び各波数位置におけるフィットを比較するステップをも包含してよい。最善のフィットを有するシフトされたスペクトルは、吸収スペクトルから差し引かれたものであってよい。
【0012】
ベースラインは、サンプルスペクトルの特定された領域における複数の極小値を同定すること、及び2次多項式を前記極小値にフィットさせることにより、フォーマット化されたスペクトルから自動的に算出されてよい。その後、ベースラインは、サンプルスペクトルから差し引かれてよい。特定された領域は、スペクトルに記録された最低波数ポイント乃至50cm
−1まで高いポイントの領域(例えば400乃至450cm
−1)、1400乃至1650cm
−1、4500乃至4700cm
−1、及び記録された最高波数ポイントより200乃至100cm
−1少ない領域(例えば6800乃至6900cm
−1)を包含してよい。
【0013】
分析は、
1フォノン吸収に対応する領域内で、A,B,D,N
S0及びN
S+中心によるIR吸収に特有の特性を有する参照スペクトルの組み合わせを、フォーマット化されたスペクトルに自動的にフィットさせるステップ、及び
記参照スペクトルへのフィッティングに基づき、これら中心の一部もしくは全部の強度を決定するステップ
を包含してよい。次いで、前記決定された強度に基づき、原石を分類してよい。
【0014】
この分析は、
参照A,B及びDスペクトルを使用する、フォーマット化されたスペクトルの1フォノン領域への3成分フィットと、
参照A,B,D,N
S0及びN
S+スペクトルを使用する、5成分フィットと
を自動的に行うステップを包含してよい。次いで、例えばχ
2検定を使用して、前記3成分及び5成分フィットの品質を比較してよい。そして前記品質比較に基づき原石を分類してよい。例えば、所定の閾値よりも多い分だけ、5成分フィットが3成分フィットよりも良いならば、単一置換窒素の顕著な割合が原石内に存在すると結論できる。そのような場合は、原石は天然ダイヤモンドではないと思われる。このフィッティングを、線形非負最小二乗フィッティングを使用して実施してよい。
【0015】
吸収特性に関するローカルベースラインを自動的に算出してよく、各特性に関する前記ローカルベースラインは、2次多項式を、前記特性のピーク位置の両側(either side)、所定の波数インクリメントにおける複数のデータポイントにフィットさせることにより算出される。次いで、特性を取り囲む領域からローカルベースラインを差し引くステップの後で、前記特性の強度を識別するため、好適な関数を各吸収特性にフィットさせてよい。好適な関数をフィットさせるステップは、非線形最小二乗フィッティングを包含してよい。このアプローチを使用して分析されてよい吸収特性は、1450cm
−1,3123cm
−1,1344cm
−1及び/もしくは2802cm
−1にラインを有するものを包含する。及び/又はプレートレットに対応する吸収特性、例えば1350乃至1380cm
−1、及び特に1358乃至1378cm
−1のものを包含する。
【0016】
本発明はまた、上記の方法を実施するよう構成された装置を提供する。
【0017】
本発明はまた、それに従うならば、宝石原石についてなされる分類をもたらす、上述のステップを配列するアルゴリズムを提供する。
【0018】
本発明はまた、プロセッサにより操作される場合、前記プロセッサに上記の方法のいずれかを実施させるコンピュータ可読コードを有する、コンピュータプログラムを提供する。前記コンピュータプログラムはコンピュータ可読媒体に保存されてよい。
【発明を実施するための形態】
【0020】
詳細な説明:
窒素は、天然ダイヤモンド内でもっとも普通に見られる原子不純物であり、またわざわざそれを除外するステップが取られるならば別であるが、合成ダイヤモンドにおいても普通である。前記窒素は、多様な構造形態でダイヤモンド格子内に存在し、赤外スペクトルの1フォノンへの吸収を生成する。測定可能な割合の窒素を含有するダイヤモンドはI型と分類される一方、窒素を名目上含まないダイヤモンドはII型と分類される。
【0021】
I型ダイヤモンドは、結晶格子内の窒素の集合状態に依存して、さらに細分化される。個々の置換サイト(C中心、もしくはN
S0として知られる)において窒素が通常組み入れられるダイヤモンドは、Ib型として分類される。ほとんどの合成ダイヤモンドは、このタイプである。C中心内の窒素の濃度は、1130cm
−1におけるピークの吸収の強度から決定できる。このようなダイヤモンドの吸収スペクトルはまた、C中心における局在化振動モードにより引き起こされる1344cm
−1における鋭いピークを包含する。地質学的タイムスケールにおいて、欠陥のこのタイプは、ダイヤモンド格子中に拡散し、A中心として知られる置換窒素原子のペアへと凝集する。そしてこの構成において窒素が優勢であるダイヤモンドは、Ia型と称し、従って天然Ib型ダイヤモンドを見つけるのは珍しい。
【0022】
A中心はさらに凝集して、B中心として知られる空いた空間の周囲に配置される4個の隣接窒素原子のクラスターを形成してよい。もっぱらB中心を含有するダイヤモンドは、IaB型と分類されるが、天然ダイヤモンドの圧倒的多数はA中心とB中心との混合物を含有し、IaAB型と称する。
【0023】
図1は、ダイヤモンドのIR吸収スペクトルを説明しており、約1500乃至2700cm
−1の2フォノン領域内のダイヤモンド格子の固有吸収スペクトル101を示す。約1992cm
−1における特性内のわずかな低下が、ダイヤモンドの単位厚さ当たりの一定の吸収を有することを示した。
図1はまた、上述の窒素C中心(N
S0),A中心及びB中心の大きな集中を有するダイヤモンドの1フォノン領域内の典型的吸収スペクトル102,103,104を示す。
【0024】
B中心の形成の副産物は、必要とされる空きを創出するため、炭素原子の排斥(repulsion)である。これらの格子間炭素原子は凝集して、プレートレットを形成する。該プレートレットは、1400乃至1000cm
−1の領域内に2個の重要な吸収特性を生成できる。第1の重要な吸収特性はB´バンドである。B´バンドのピークは、1358乃至1378cm
−1の領域内に生じ、より高い波数へと延び得るテールを有する。このような特性201の例は
図2に示される。特性のピーク強度よりもこのピークの下の面積は、通常ダイヤモンド内のプレートレットの存在量の尺度として使用される。なぜなら、特性の強度が増加するにつれ、当該バンドは広く且つより非対称的になるからである。ピーク値対幅、もしくは幅対非対称性は、ダイヤモンドが高温処理に付されたかどうか指示するものとして使用できる。
【0025】
第2の重要な吸収特性はD成分として知られ、プレートレットの格子振動モードを表し、1340乃至1140cm
−1の範囲に発生する。これは、A中心とB中心との両方が数量化される1282cm
−1の領域と重なるので、窒素濃度の測定に対する効果を有し得る。
【0026】
1332cm
−1における吸収最大を有するIRスペクトル中にしばしば存在するさらなる成分は、X成分として知られ、プラスに帯電した単一置換窒素(N
s+)と結合された。
【0027】
水素は、ダイヤモンドにおけるもう一つの通常の不純物である。ダイヤモンドにおける2個の水素関連ピーク(優勢な3107cm
−1及び従属的な1405cm
−1)は、水素関連であるとして認識された。ダイヤモンド内に存在すると最も見込まれる水素のためのサイトは、内部表面にある、おそらく超顕微鏡的キャビティの表面にある、もしくは含有物(inclusion)/ダイヤモンドインターフェースにあると仮定されていた。水素欠陥は、化学蒸着(CVD)技術で製造される合成ダイヤモンドにおいて特に普通であり、多くのCVDダイヤモンドは、成長の際に混入される、窒素−空き−水素(NVH)欠陥の振動であると思われる3123cm
−1において吸収ピークを示す。
【0028】
上で考察したように、吸収スペクトルから異なる不純物を識別すること及びそれらの濃度を推定することは、現在熟練者によって行われている難しい仕事である。しかしながら、このようなスペクトルを体系化された方法で加工するならば、自動的にIR吸収スペクトルから有用なデータを抽出することが可能である。従ってこれは、原石をIaAB,IaA,IaB,IIa及びIIb型に精確に分類することを可能にし、疑わしい原石の同定を可能にする。このことは、以下の多数の理由から従来達成されなかった。
【0029】
第1に、スペクトルのアーチファクト、例えば水蒸気を自動的に除去するのは重要である。以下の問題:
(i)スペクトル特性とアーチファクトとの重複;
(ii)サンプルと参照スペクトルとの誤ったキャリブレーション;
(iii)スペクトルの一領域におけるラインが、スペクトルのもう一つの領域におけるラインと適合しないかもしれない;
(iv)ラインが、参照スペクトル匹敵する位置にシフトされるかもしれない;及び
(v)シフトの程度が、スペクトルの様々な領域で異なるかもしれないこと、をはじめとする(ただしこれらに限定されない)のせいで、これは厄介である。
【0030】
第2に、スペクトル全体にわたり「大まかな」(rough)ベースラインを自動的に実施することは有用である。異なるダイヤモンドは非常に異なるスペクトルを有するという事実のせいで、これは厄介かもしれない。いずれのデータポイントが「サンプルスペクトル」であり、いずれが「ベースライン」であるのかを決定し、ベースラインが効果的且つ正確にフィットされるためにはインテリジェント基準を適用しなければならない。
【0031】
第3に、ベースラインを個々のスペクトル特性に高程度の精度及び信頼性までフィットさせることは重要である。ラインの形状並びに位置と強度とが、意思決定プロセスにとって臨界パラメータである場合、これは、特に特性にとって重要である。このような特性の例はプレートレットであり(
図9を参照)、その場合、ベースラインをフィットさせることが難しいことで、前記特性は悪名高い:
(i)特性が広い(通常、5cm
−1より大);
(ii)特性は、高非対称である;
(iii)その他のラインが近傍にあるかもしれない;
(iv)特性は、単一フォノン領域内の窒素関連吸収にすぐ隣接する。
スペクトル特性にフィットさせる前のベースラインをフィットさせる、完全に自動化されたフェイルセーフの方法が、信頼できるパラメータがそれから決定されるように、必須である。
【0032】
第4に、及び上記の点に関連して、フェイルセーフ方法で、合理的な計算時間と優れた信頼性で、非標準ライン形状(例えば、プレートレット特性)に自動的にフィットさせることが通常必要である。
【0033】
第5に、非常の強いベースラインの上に重ねられているかもしれない、非常にかすかな特性を自動的に検出することがしばしば必要である。この極めて難しい課題は、非常に高程度の精度までベースライン化すること、あるいは、ベースライン化ステップが伴う相違なしに、特性を検出する他の新規の方法を使用することに依存するかもしれない。これの一例は、ダイヤモンド内の中性単一窒素欠陥に対応する1344cm
−1特性である。前記中性単一窒素欠陥の存在は、合成ダイヤモンドもしくは高温で(>1900℃)処理されたダイヤモンドを指示している。自動化方法は、潜在的には強く変化するバックグラウンドの存在下、中性窒素濃度1ppm以上(わずか〜0.02cm
−1の吸収係数に対応する)を検出できなければならない。
【0034】
ダイヤモンドの赤外吸収スペクトルの取得は周知の技術であり、詳細をここに再現しない。いずれの好適なIR吸収もしくはFTIR分光計を使用できる。スペクトルは、いずれの好適な媒体を使用して格納され、それに含まれるデータは、プロセッサを使用して分析され得る。
【0035】
図3は、ダイヤモンドのIR吸収スペクトルを分析するステップに関わる
高レベルステップを説明するフローチャートである。
S301。 等距離データポイントを提供するため、IR吸収スペクトルがサンプル化される。即ち、例えば整数波数位置が単一整数波数分解能において得られるように、生のデータが挿入される。
S302。 スペクトル中のノイズを測定する。
S303。 スペクトル中のノイズが、スペクトルが飽和していることを示すならば、原石はそのように(S304)フラグアップされる。なぜなら有意なデータを自動的に抽出できないからである。
S305。 スペクトルが飽和していないならば、さらに分析を実施する。水によるIR吸収の参照スペクトルを、線形非負最小二乗フィッティングルーチンを使用して、3500乃至4000cm
−1のスペクトル領域にわたるスペクトルにフィットさせる。フィットされた参照スペクトルは、次いでサンプル化吸収スペクトルから差し引かれる。
S306。 高品質IIa型ダイヤモンドの参照スペクトルを、線形非負最小二乗フィッティングルーチンを使用して、3500乃至4000cm
−1のスペクトル領域にフィットさせる。あるいは、1992cm
−1における吸収はサンプルの厚さに比例しており、スペクトルを正規化するのに使用できる。フィットされた参照スペクトルは、正規化IRスペクトルから差し引かれる。
S307。 スペクトル中の個々の特性を識別するため、一連の試行がなされる。各潜在的特性に関して、ベースラインが、特性周囲及び新たなベースラインにマップされた前記特性(興味対象領域)を含有するスペクトルの一部に決定される。
S308。 各特性に関して、一度ベースラインが同定され、特性がマップされたら、参照スペクトルを、複合ガウス−ローレンツ非線形最小二乗フィッティングルーチンを使用して、興味対象領域にわたる特性にフィットさせる。各特性の強度は、各参照スペクトルをフィットさせるのに必要とされるファクターから推定することができる。
S309。 再度線形非負最小二乗フィッティングルーチンを使用して、A,B,N
S0,N
S+及びD特性由来の成分を合計することにより、定量分析(分類(typing))を実施する。1個の原石が、これらの特性の相対濃度に依存する特定のタイプに割り当てられる。
S310。 前のステップで割り当てられたタイプ、並びに追加の特性(例えば水素及びプレートレット)に依存して、各原石を分類する。濃度/相対濃度の閾値を、原石のタイプを決定する際使用してよい。
S311。 結果の(即ち、フィットされた)データ及び生のスペクトルデータを、将来の参照のためデータベースに保存する。
【0036】
どうのように試験を行うかについては、以下に詳述する。ステップS307乃至S309における定量分析は、原石が合成及び/もしくは処理されたダイヤモンドに特有の特性を示すかどうかを決定するための多数の異なる試験を有してよい。多くの場合、これらの試験は、特定の特性の強度が閾値より上かどうかを決定する。実施例は、以下のものを包含する(ただしこれらに限定されない):
・1450cm
−1におけるラインの検出。このラインが所定の閾値より上であるならば、ダイヤモンドは、照射を受けていそうであるとして分類される。
・3123cm
−1におけるラインの検出。このラインが所定の閾値よりウであるならば、ダイヤモンドは、CVD合成であり得るとして分類される。
・A中心,B中心及びD吸収特性を使用して、3成分線形最小二乗は1フォノン領域にフィットする(3Dフィット)。
・A,B,D,N
s0及びN
s+特性を使用して、1フォノン領域へのフィットを繰り返す(5Dフィット)。各フィット由来のχ
2値を、決断するのに使用する。
・1344cm
−1における特性の存在に関して、チェックをする。
【0037】
いかにこれらの試験を実際に実施してよいのかについての一例が、
図4に示される。
【0038】
飽和チェック:
ステップS303における飽和試験を実施する。なぜなら飽和は通常「高周波」ノイズをもたらすからである。シグナルのフーリエ変換と、ノイズを定量化するため特定の領域にわたる積分とにより、ノイズを検出できる。
図5は、1フォノン領域における顕著な飽和を表すIRスペクトルの高速フーリエ変換したデータ501のプロットである。ノイズ(シグナルを除く)は、7.2乃至8.1×10
−4cmの範囲502(1200乃至1400cm
−1に対応する)において検出可能である。従ってこの範囲内の積分は、高周波ノイズの強度を推定できるようにする。得られた値が特定の閾値より上ならば、スペクトルは「飽和している」として拒絶される。
【0039】
ベースライン化:
ステップS307のベースライン化は、スペクトル特性にうまくフィットできるようにするために重要である。以下の戦略を利用してよい:
・複数の「最低ポイント」がスペクトルの特定領域内に見つかり、これらのポイントに2次多項式をフィットさせ、スペクトルから差し引く。フィッティングに好適な範囲は、400乃至450cm
−1,1400乃至1650cm
−1,4500乃至4700cm
−1及び6800乃至6900cm
−1を包含する。使用されるプロセスは、フィットされるべき入力データとして、上に列挙したこれらの範囲全てにおけるデータポイントを使用して、スペクトル全体にわたり1個の2次多項式フィットを実施するためである。
図3に示すように、個々の特性のためのベースラインがまた算出される。サーチがなされるであろう特性(例えば、3123cm
−1における吸収ライン)が選択される。選択された特性のピーク位置から離れた予め定義されたインクリメントにおいて、ポイントが選択され(例えば3123−1cm
−1,3123+1cm
−1,3123+2cm
−1)、これらのポイントに2次多項式関数をフィットさせ、もっぱらこの特性のためのベースラインとして使用する。
・1344cm
−1における特性(N
S0)をフィットさせる前に、よりきれいなバックグラウンドシグナルを得るため、線形最小二乗1フォノンフィットを、スペクトルデータから差し引く。次いで、上記の方法を使用して、バックグラウンドシグナルをフィットさせてよい。
【0040】
線形最小二乗フィッティング:
線形最小二乗フィッティングは、スペクトル特性の形状が変化しそうにない多成分フィットに(例えばガウシアンブロードニング特性用ではなく)最適である。従って、線形最小二乗フィッティングは、ステップS305及びS306における水及びIIa型スペクトルを差し引くのに、及び1フォノン領域において分類する(typing)のに(S309)好適である。これらのフィットに関して、非負ルーチンを使用すべきである: 標準最小二乗ルーチンは、何ら検出可能な物理的意味を有しない負のフィット値をもたらす。
【0041】
正規化及び水の減算:
3500乃至4000cm
−1のスペクトル領域を、「完全な」IIa型ダイヤモンドの参照スペクトルにフィットさせるのに(ダイヤモンド固有の吸収の正規化及び除去に)、及びまた水ピークの除去(この領域にいくつか強い水ピークが存在する)に使用する。
【0042】
同様に、標準水スペクトルを、フィットを得るため、3500乃至4000cm
−1のスペクトル領域にわたる参照として使用する。データスペクトルに関する水ピークの可能な動きを考慮するならば、水参照スペクトルを、予め決定した範囲(例えば+/−1cm
−1)にわたり少量ずつ(例えば0.25cm
−1)漸次位置をシフトさせ、各シフトされたスペクトルを、データスペクトルにフィットさせる。次いで、最善のフィットに対応する最低χ
2値を減算に使用してよい。
図6は、実際に実施されるこれの実施例の略図である。
図6に示すように、サンプルスペクトル601を、典型的水スペクトル602とIIa型スペクトル603とにフィットさせ、次いでダイヤモンド格子による固有の吸収と水による吸収に対応する特性を除去するため、フィットさせたスペクトル602,603両方を、範囲全体(0乃至4000cm
−1)にわたるサンプルスペクトルから差し引く。
【0043】
あるいは、1995cm
−1におけるIR吸収値を測定し、(11.95/測定吸収値)として正規化定数を算出することにより、IIa型スペクトルを除去できる。スペクトル中の各データポイントに、この正規化定数を掛けてよい。その後、参照IIa型スペクトルを差し引いてよい。
【0044】
図7は、フィットさせたIIa型及び標準水スペクトルの減算前及び後のIR吸収スペクトルを説明する。初期スペクトル701は固有ダイヤモンド吸収によって占められているが、IIa型及び水特性を差し引いた差分スペクトル702は、残りの特性のベースライン化をもっとまっすぐにする。
【0045】
水フィッティングへの別のアプローチは、上述の個々の特性のベースライン化アプローチに類似する。特性にフィットさせる場合、このアプローチは、個々の特性の周辺のエリアに関する水特性をもっぱら差し引く。このアプローチは、分光計の不調和によく対処する(例えば、水ラインは参照スペクトルのそれと同じ形状であってはいけないこと、
スペクトルの一領域のけるラインは、別の領域のラインと適合してはいけないこと、
ラインは、参照スペクトルに匹敵する位置にシフトされてよいこと、
シフトの程度は、スペクトルの異なる領域内で違っていなければならないこと)。このアプローチにおける水フィッティングは以下のように実施される:
1.サンプルスペクトルは、調査中のIR特性周辺約±15cm
−1について選択される。
2.サンプルが存在しないIR分光計を運転することにより、同一スペクトル領域にわたり水参照スペクトルを得る: 雰囲気水は、好適な水シグナルを提供する。
3.一連のシフトされた水スペクトルを生成するため、0.25cm
−1のインクリメントにわたるサンプルスペクトルに比例して、水参照スペクトルをシフトされる。
4.線形非負最小二乗フィッティングルーチンを使用して、小さなスペクトル範囲にわたり、シフトされた水スペクトルのそれぞれをサンプルスペクトルにフィットさせる。
5.最低χ
2を有するフィットが選択され、この領域にわたるサンプルスペクトルから差し引く。
【0046】
1フォノンフィッティング:
強度について様々な相対速度において、A,B,D,N
s0及びN
s+特性に関するスペクトルを、調査中のスペクトルにフィットさせることにより、ステップS309における「分類」手順が達成される。それぞれA,B,X,N
s0及びN
s+中心に対応する特性をそれぞれ含有する参照スペクトルが、テキストファイル内に格納される。IIa型及び水スペクトルと同様に、これらの参照スペクトルは、調査中のスペクトルにおけるサンプルデータポイントと同量によって分離されたデータポイントを有する(例えば1cm
−1)。
【0047】
最初に、もっぱらA,B及びD吸収特性を使用して、1フォノン領域への3成分フィットがなされる(本書では3Dフィットと記載される)。次いで、A,B,D,N
s0及びN
s+特性を使用して、フィットを繰り返す(5Dフィットとして知られる)。各フィット由来のχ
2値を、決定をなすのに使用する。本質的に、5Dフィットが3Dフィットよりも良いならば、1フォノン領域内に単一置換窒素が存在すると結論でき、原石を参照しなければならない。
【0048】
1000乃至1350cm
−1のスペクトル範囲にわたる吸収スペクトル(「サンプル」)801を説明する
図8において、これが見られる。5Dフィット802における5個の特性全てを使用して、及び3Dフィット803においてもっぱらA,B,及びD−成分を使用して、このスペクトルをフィットさせた。5Dフィットは、3Dフィットよりも顕著に優れることが見て取れる。: 5Dフィットとサンプルとの間の残差804はゼロにおけるほぼフラットであり、一方3Dフィットに関する残差805は、顕著な乖離を含む。
【0049】
より詳細には、所定の閾値を使用する(既知のサンプルにおける値との比較により識別される)、意思決定プロセスは以下のようであってよい:
・不十分な1フォノンフィットを有するスペクトルを排除するため:
Ifχ
23D>閾値もしくはχ
25D>閾値ならば、「不十分なフィット」結果を与える。
・N
sはスペクトルの一部かどうかを見るため:
D=χ
23D−χ
25D
Dが負ならば、パスである。3Dフィットは5Dフィットよりも優れている。即ち、1フォノン領域内にN
sは検出されない。
Dが正ならば、チェックする:
D/χ
25D>閾値ならば、N
sはスペクトルの一部である。排除。
【0050】
分類を以下のように実施してよい(以下に考察される2802cm
−1特性の強度から推定される[B
0]と組み合わせて):
・[A]+[B]>タイプI/II
thresholdならば、タイプは「I」である。
[A]<A
thresholdならば、タイプは「IaB」である。
同様に、[B]<B
thresholdならば、タイプは「IaA」である。
・[A]+[B]<タイプI/II
thresholdならば、タイプは「II」である。
[B
0]>IIb
thresholdならば、タイプは「IIb」である。
さもなければ、タイプは「IIa」である。
【0051】
非線形最小二乗フィッティング:
幅、位置及び/又は形状が変化し得る場合、もしくは特性が数学的表現で(例えばガウシアン)スマートに近似できる場合、非線形フィッティングは、通常はピークに適用可能である。非線形フィッティングは、以下の少なくともIRピークにおいて実施される:
1450cm
−1(照射関連);
3123cm
−1(CVD関連);
1344cm
−1(N
s0);
2802cm
−1(置換ホウ素に対応する(B
0))。
【0052】
図9は、サンプルスペクトル901にプレートレットB´特性902を非線形フィットさせる例を説明する。ピークは広く、長いテールを有することが、
図2から分かる。これは、フィッティングにおける複数の課題をもたらすが、好適なアプローチが以下のように進行する:
1)プレートレットが存在するであろう領域が選択される。例えば1350(xstart)乃至1400cm
−1(xend)。
【0053】
2)この領域にわたって初期2次多項式フィットが行われ、サンプルスペクトルから差し引かれる。全領域<0は、ゼロに設定される。これは、バックグラウンドを大まかに除去する。
【0054】
3)これに対してフィットさせるため、「理論ガウシアン」のセットを生成する。この実施例において選択されるプレートレット領域(即ち1350乃至1400cm
−1)に関して、1350,1351,1352・・・cm
−1乃至1400cm
−1のピーク位置において生成した51個のガウシアンが存在してよい。各ガウシアンに関して幅は何であり得るについての近似を推定するのに、未処理の天然ダイヤモンドについてのリアルデータを使用できる。ただし、幅は一の関数として変化することとする。
【0055】
4)これらの全ては、非負最小二乗ルーチンを使用して、大まかにバックグラウンドを差し引いたスペクトルデータ(上のステップ2から)にフィットさせたガウシアンである。最低カイ二乗を有するガウシアンを、最善のフィットを有するものとして選択する。よって、プレートレット一、幅及び高さの近似が見つかった(このガウシアンフィットに対応するパラメータから)。
【0056】
5)xstartとxendとの間の元のサンプルデータ(ステップ1由来)から、2つの領域を選択する:
(xstart)乃至(ピーク位置−2×ピーク幅);及び
(ピーク位置+3×ピーク幅)乃至xend。
これら2つの領域は一緒に、その長いテールを含めたプレートレットピークを包含しない、xstartからxendまでサンプルデータの領域を効果的に選択する。
【0057】
6)この領域について2次多項式フィッティングを行ない、xstartとxendとの間のサンプルデータから差し引く。従って、これはバックグラウンドを効果的に除去し、プレートレットピークに関するベースラインを提供した。
【0058】
ピーク位置、幅及び高さ(上のステップ4由来)についての初期の推定を、適切にバックグラウンドを差し引いたプレートレットピークのフィッティングに関する初期の推定値として使用する。
【0059】
非対称二重シグモイド関数:
【数1】
(制約条件w
1>0及びw
2>0を有する)、を使用して、バックグラウンドを差し引いたプレートレットピークへのフィットを実施する。
【0060】
9)非線形最小二乗フィッティング方法を、カイ二乗の値を最小化するのに使用する。
【0061】
10)フィットから、ピーク位置(最大値),幅(ハーフハイト値由来FWHM),非対称(左のハーフハイトと右のハーフハイトとの比)及び面積(台形積分)が推定される。
【0062】
11)次いで、原石が処理されているかどうかを決定するため、位置/幅、幅/非対称等について既知の閾値を適用できる。
【0063】
実際に、ステップ7乃至10は、ほぼ同様に働くバックグラウンドを差し引いたスペクトルの簡易な位置、幅及びFWHM測定と交換可能である(ステップ9と同様の手順。ただしフィットというよりも実データに関する)。
【0064】
正確なフィットを得るために、特性の幅に関する初期表示を提供するのは有用である。存在するならば、2802cm
−1特性は他の特性及びこれについて考慮するのに必要とされる初期条件よりも顕著に広い。また、フィッティングのために賢明な(sensible)境界条件を設定することも重要である。
【0065】
スペクトルの平滑化反転二重微分、その後FWHM測定を使用することにより、たとえ顕著なバックグラウンドシグナルが存在する場合でも、1344cm
−1におけるきわめて小さい特性を分解することも可能である。これは、標準ピークフィッティングと比べて多くの利点(特に、ピークが小さく、バックグラウンドが大きいならば、難しいバックグラウンドをフィットさせる必要がないこと)を有する。これは、以下のようにして達成可能である:
【0066】
1.必要とされるスペクトル領域(1335乃至1350cm
−1)を選択する。
2.十分なデータポイント(例えば0.1の波数ステップサイズ)を得るように、データを挿入する。
3.データを微分する。
4.データを平滑化する(例えば8のデータスパンを有する単純移動平均すムーザを使用する)。
5.1342乃至1346cm
−1の領域を微分する。
6.0未満の何れの値(<0)をゼロに切り捨てる。
7.スペクトルを反転する。
8.前に使用した同一の平滑化フィルタを再度適用する。
9.スペクトルの最大y値及び対応するx値(ピーク値)を位置決めする。
10.台形積分法を使用して、スペクトルを積分する。
11.閾値を適用することにより、ピークが存在するか否かを推定するのに、ピーク位置及び台形積分の結果を使用する。
【0067】
ピーク位置と幅についての閾値を設定することにより、フィットデータパラメータから、間違ったフィットを除去することが望ましい。また、閾値より上で「ピークを検出した」結果を出力できる、十分な閾値を設定することも望ましい。照射されたダイヤモンド、CVD合成ダイヤモンド、N
s0含有ダイヤモンド及びIIb型ダイヤモンドを様々なIRスペクトルにフィットさせることにより、これら閾値を設定できる。
【0068】
データベース:
ステップS311において、フィットさせたデータと生のスペクトルデータの詳細が、全特性のパラメータと分析中に決定されたフィットと共に、分析の結果と共に、データベースに保存される。これは、個々の原石がトラックされることを可能にし、またさらにフィッティングアルゴリズムを改善するのに、もしくはダイヤモンドについての追加の分析を知らせるのに、データを使用可能である。
【0069】
図10は、記載した方法を実施するのに好適なシステム1001の略図である。システムは、例えばFTIR分光計により収集されたスペクトルがデータファイル1003の形態で保存されている記憶媒体1002を包含する。記憶媒体はメモリ、例えばRAM,ROM,EEPROM,フラッシュメモリ,ハードディスク、もしくは上記の組合せを包含してよい。記憶媒体に保存されたソフトウェア1005を動作させ、上述の方法を使用してデータファイル1003を分析し、スペクトルが得られた原石は未処理ダイヤモンド、処理済みダイヤモンド、あるいは合成ダイヤモンドでありそうなことをスペクトルが示すかどうかを認定するように、プロセッサ1004は構成される。その分析結果は、記憶媒体1002もしくは他の場所に保持されてよいデータベース1006内に保存されてよい。