(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の項では、歯科矯正装具、キット、及びそれを組み立てる方法を対象とする本発明の特定の実施形態を更に説明する。本開示の例示した実施形態は、例示的なもののみであって本発明を不当に制限すると解釈されるべきではない。例えば、当業者は、歯の顔面又は舌面のいずれかに、同一の歯列弓内の異なる歯に、かつ上又は下歯列弓のいずれかの歯に付着させる開示された装具、キット、及び方法を適応させることができる。本明細書に記載の装具、キット、及び方法は、治療中の個々の患者の注文に応じて作ることもでき得、そうでないこともでき得る。好適な実施形態は、審美性を向上するために半透明のセラミックから作製された装具構成要素を含む。それにもかかわらず、材料、寸法仕様書、及び意図する方法の使用は、請求する発明の範囲から逸脱することなく本明細書の開示から、より大幅に異なり得る。
【0016】
数字100と指定された一実施形態による歯科矯正装具は、組立形態で
図1及び2に示される。装具100は、基部102及び基部102から外向きに延在する本体104を有する。基部102の底面は、装具100が接合されるそれぞれの歯の輪郭に概ね適合する凹状の三次元表面輪郭を有する結合表面106を有する。結合表面106は、装具100と歯の表面の接着剤結合を容易にするために、任意に穴、溝、凹部、アンダーカット、部分的に埋め込まれた粒子、メッシュ、化学結合強化材料、マイクロエッチング表面、又は他のあらゆる材料、構造体、又はこれらの組み合わせを有し得る。
【0017】
略直線状の構成を有するアーチワイヤスロット108は、本体104の略顔面に面する表面にわたって略近心−遠心方向に延在する。アーチワイヤスロット108へのアクセスを制御するのは、扉110で、本体104に摺動可能に受容され、
図1〜2でその閉鎖位置が示されている。この特定の実施形態では、扉110は、それぞれが略咬合−歯肉方向に沿って扉110の近心及び遠心側に延在する一対のレール111を有する。レール111は、本体104中に配設された一対の対向する相補的溝113に沿って摺動する。扉110の摺動を容易にし、結合を防ぐためにレール111と溝113の間には適切な公差があり得る。扉110の一部はアーチワイヤスロット108の中心部分にわたって延在し、それによって、装具100のスロット108に対するアーチワイヤ(ここでは図示されない)の進入又は退出を防ぐ。任意に、かつ示されるように、扉110の前縁112は、扉110が閉じているときアーチワイヤスロット108の歯肉側壁114に当接する。
【0018】
図1〜2を再び参照して、扉110は、咬合及び歯肉の両方の方向に摺動して、アーチワイヤスロット108へのアクセスを可能にする開放位置とアーチワイヤスロット108へのアクセスを阻止する閉鎖位置との間でトグル留めすることができる。ほとんどの状況下では、アーチワイヤを装具100に結紮するのに扉110だけで十分である。しかしながら、所望するならば、治療専門家は本体104上に位置するアンダーカット116及びタイウィング118の助けを借りてアーチワイヤを手動で結紮することを選択し得る。結紮は、例えば、エラストマーOリング又は結紮糸ワイヤをアンダーカット116の下、スロット108に受容されるアーチワイヤの上、及びタイウィング118の下に固定することによって達成され得る。アンダーカット116及びタイウィング118はまた所望であればパワーチェーンを2つ以上の歯に固定するのに使用され得る。
【0019】
例示的実施形態では、一部又は全ての基部102、本体104、及び扉110は半透明のセラミック材料から作製される。特に好適なセラミック材料は、米国特許第6,648,638号(Castroら)に記載の微粒子多結晶アルミナ材料を含む。これらのセラミック材料は、高い強度と、光を透過し、下部歯表面の色と視覚的になじみ得るため金属性材料と比べて優れた審美性をも提供することが周知である。
【0020】
図1〜2はまた歯肉側から本体104の顔面側の咬合側に延在する垂直溝119を示している。溝119は、タイウィング118の間に延び、本体104を近心及び遠心半分2つに分ける。いくつかの実施形態では、垂直溝119は、溝119の底面と結合表面106の間に位置する脆弱ウェブを少なくとも部分的に画定し、脆弱ウェブを砕き、装具100の近心及び遠心半分を互いに向かって旋回軸の上に置くことにより装具が都合よく圧搾剥離されることを可能にする。更なる選択肢及び利点が米国特許第5,366,372号(Hansenら)に記載されている。
【0021】
様々な機構が、扉110を別々の位置の間、例えば、開放及び閉鎖位置の間、にトグルで留めるために実施され得る。扉110の局所均衡位置を提供する機構は、治療専門家がアーチワイヤをスロット108に配置するとき扉が自然に閉まること又は反対に一連の治療の間に自然に開くことを有利に防ぎ得る。
【0022】
図3、4A及び4Bは、扉110(明確さのために、
図3では図示されない)、本体104、及び基部102を含む全部の装具組立品に埋め込まれている凹部122に受容されるクリップ120を示す。凹部122は、アーチワイヤスロット108に隣接して位置し、対向する近心及び遠心側壁124、対向する咬合及び歯肉側壁126及び底壁128を伴い、平面図では略長方形の形を有する。全ての4つの側壁124、126に沿っていくらかの隙間が提供されるが、凹部122の内側壁は、クリップ120の外側表面に概ね一致し、クリップ120が底壁128に平行な外側方向に実質的に動くことを防ぐ。クリップ120は単に一例示的保持部材であり、異なる形状又は配向を有する代替的な保持部材がその機能を損なうことなくクリップ120の代わりに使われ得ることを理解されたい。
【0023】
クリップ120は、底区分130、一対の側区分132を伴い、溝状の形を有する。ステンレス鋼、ベータチタン、コバルト合金(例えば、エルジロイ特殊金属(Elgiloy Specialty Meta)、エルジン(Elgin)、IL)、又は更に特定のプラスチック材料、などの他の材料が使用され得るが、好適には、クリップ120は、ニッケルやチタンの合金を基にした形状記憶材料などの高弾性歪み限界を有する弾性材料から作製される。側区分132の内部表面は、一対の対向する内側に面する突起部134を含む。特に
図4Bに示されるように、この場合において、クリップ120の中心に位置する一対の突起部134は、凹部122を、突起部134間の狭い領域を通って互いに連通する咬合及び歯肉領域138、140に分ける。
【0024】
図4Cで更に示すように、扉110の凸部136は、歯肉領域140に位置する。凸部136は、扉110の一体型部品又は個別部品のいずれか(
図3及び4Cで隠れた扉110の残りの部品)であり得、
図1〜2に示されるように、凹部122中の凸部136の位置が扉110の閉鎖位置に対応するように位置付けられ得る。側壁124、126は、凸部136を領域138、140内に留め、扉110が本体104から外れてしまうことを防ぐ。扉110が能動的に開閉されない限り、凸部136は、それぞれ、扉110の閉鎖及び開放位置に対応する領域138、140によって画定された2つの位置のうちの1つを概ね想定する。
【0025】
扉110は任意の多数の異なる方法で本体104に組み立てられ得る。これらの図は、例えば、凸部136を別個の構成要素として示す。この図では、凸部136は、扉110を通って略顔面−舌方向に延在する開口部137に受容され、保持され、扉110を初めに摺動可能に本体104に係合することを許し、次に凸部136は、クリップ120に係合するために扉110の顔面側から開口部を通って受容される。審美的理由で、扉110の顔面側上の開口部137は次に凸部136を隠すために適切な審美的プラグ139で密閉され得る。組立の代替的な方法では、クリップ120及び凸部136は、基部102中の拡大開口部を用いて舌側方向から扉110及び凹部122に一緒に挿入され得る(ここでは図示されない)。開口部はその後適切に構成されたプラグを用いて塞がれ得る。任意の上述の実施形態では、凸部136は、扉110に圧入、蝋づけ又は接着を含む任意の既知の方法を用いて扉110の主要部分に接合し得る。
【0026】
更に別の実施形態では、凸部136は扉110の一体型構成要素である。この場合、扉110は、例えば、凹部122の咬合−歯肉側壁126のうちの1つに作成された一時的な開口部を通って扉110/凸部136を摺動させることにより、摺動可能に本体104と係合され得る。凸部136が、領域138、140のうちの1つに受容された後、開口部は、次に適切に差し込まれ得、ないしは別の方法でクリップ120及び凸部136を凹部122に捕らえるため上述のように密閉され得る。
【0027】
凸部136は剛性部材である必要はない。いくつかの実施形態では、凸部自体がある程度柔軟である。例えば、凸部136は、記憶形状合金から作製され、かつクリップ120に対して摺動するときに弾性的に曲げるか、伸長させるか、又は圧縮することができる中空管などのばね状の部材であり得る。有利に、弾性クリップ120及び弾性凸部136の組み合わせは、扉110の力特性を最適化するために大いなる設計の自由を提供し得る。更に別の実施形態として、クリップ120は実質的に堅い一方、凸部136は弾性的である。
【0028】
図6〜8は別の実施形態に準じて装具200を示す。前述した装具100のように、装具200は基部202、本体204、本体204にわたって近心−遠心方向に延在するアーチワイヤスロット208、及びスロット208に隣接する略交差状の凹部222を有する。更に、扉210は、本体204に摺動可能に係合し、扉210がその閉鎖位置のとき、扉210は、凹部222中に延在する一対の凸部236a、236bを含む。しかしながら、溝状構成を伴うクリップを使用する代わりに、装具200は
図6に図示されるように、略「H」型構成を有する例示的な弾性の平面クリップ220を使用する。示されるように、クリップ220は、咬合−歯肉軸に略垂直であり、かつアーチワイヤスロット208の咬合及び歯肉壁に略平行の基準面に存在する。凹部222は、凹部222内にクリップ220を捕らえる一対の外側カットアウト223を有する。
【0029】
扉210の下面上の追加の特徴が
図7の装具200の分解図に示される。本明細書に示されるように、第1及び第2の凸部236a、236bは両方扉210の主要部分から外向きに略舌側方向に向かって延在し、扉210の移動方向に沿って互いに離間される。
【0030】
図8は、断面で、装具200が組み立てられるときの扉210とクリップ220の間の相互作用を示す。更なる詳細では、クリップ220は、中心区分250、中心区分250の近心及び遠心端部それぞれに接合し、略顔面方向に向かって延在する近心及び遠心区分252、254を有する。区分252、254の端部は対向し、内側に面する突起部234を含む。近心及び遠心脚区分256はまた中心区分250の近心及び遠心端末端部に接合し、凹部222中のクリップ220の安定した配向を提供するために凹部222の底壁に向かって延在し、接触する。
【0031】
分解状態から、扉210は本体204に摺動可能に受容され得、
図6に示されるように、内側に面する突起部234により表される凹部222内の狭い領域に第1の凸部236aが接触する結果となる。この時点では、第1の凸部236aは凹部222の第1の領域238に存在する。扉210に十分な力が適用されるとき(本明細書では、略歯肉方向)、次に区分252、254はバラバラに広がり、第2の凸部236bがそのとき第1の領域238に存在する一方、第1の凸部236aが通過し、凹部222の第2の領域240に進入することを許す。この構成では、扉210はその開放位置にある。
【0032】
同じ方向に向かって扉210に対して力がかけ続けられる場合、十分な力が、区分252、254を再びバラバラに広げることを引き起こし、第2の凸部236bが第2の領域240内で第1の凸部236aと接合できるようになるまで、次に第2の凸部236bが突起部234に対して付勢する。この相対配置において、扉210は、ここでその閉鎖位置にある。凸部236a、236bは従って、扉が開いているとき、第1及び第2の領域238、240(クリップ220の両側)に存在し、一方、扉が閉じているとき、凸部236a、236bは両方第2の領域240(クリップ220の同じ側)に存在する。
【0033】
図7Aは、第1及び第2の凸部236a、236bが全く同じである必要がないことを示している。例えば、第1の凸部236aが三角形断面を有することは有利であり得る。例えば、三角形の先の頂点が凹部222への入り口に向かうように第1の凸部236aを正しい位置に置くことは、扉210を本体204に組み立てるのに必要な力を減少し得る。追加の利点としては、一旦クリップ220が本体204に組み立てられると、三角形第1の凸部236aの側面は、扉210の偶発的分解を防ぐためにクリップ220の歯肉に面する表面に平らに係合し得る。第1の凸部236aはそれ故に、咬合方向ではなく歯肉方向にクリップ220を簡単に通り抜けられるような形状を有し得る。対照的に第2の凸部236bは、第2の凸部236bが歯肉及び咬合方向にクリップ220を可逆的に通りぬけられるように実質的に円形の断面を有する。
【0034】
またしても、扉210の開閉の工程は、クリップ220の弾性性質のため、可逆的にされ得る。治療専門家が扉210を開閉するために咬合及び歯肉力を加えるとき、近心及び遠心区分252、254は弾力的に互いから離れた方向に分かれ、その結果第2の凸部236bを第1及び第2の領域238、240にそれぞれ存在する間にトグルで留めることができる。
【0035】
図9は、その扉(明確にするため、
図9〜10では隠れている)を伴う別の装具300を示す。上述の装具のように、装具300は、下部の結合表面306を有する基部302、本体304、及び本体304の外側に面する側の凹部322を有する。しかしながら、凹部322に受容されるのは、略「U」型構成を有する弾性平面クリップ320である。凸部336はまた凹部322に受容され、扉と一体であり得るか、又は上述され、
図4Aの装具100に示されるように、扉に部分的に埋め込まれた別個の構成要素であり得る。
【0036】
図10は、凸部336とクリップ320の間の相互作用をより詳しく示している。示されるように、クリップ320は、中心区分350及び一対のアーム区分352、354を有する。アーム区分352、354は、クリップ320の区分350、352、354によって囲まれた空間を歯肉及び咬合領域338、340に分けるそれぞれの内側に面する突起部334を含む。
図9及び10では、凸部336は、扉の閉鎖位置に対応して、歯肉領域338内の均衡位置に存在する。略咬合方向に扉を押す十分な適用力があるとき、関連する凸部336は、アーム区分352、354をそれぞれ近心及び遠心方向に弾性的に歪めることを引き起こし、扉の開放位置に対応する咬合領域340内の別の均衡位置に完全に存在するまで凸部336が対向する突起部334を通り越して摺動することができる。弾性的であるアーム区分352、354は本来の弛緩した状態に戻り得、領域340の凸部336を保持し得る。
【0037】
図9を再び参照して、クリップ320の偏向は、クリップ320自体と略同一平面上にある基準面に沿って起こる。この基準面はまた、凹部322の底壁328及び基部302の下部結合表面306両方に平行である。有利に、係る構成が装具の顔面−舌の輪郭を減少するのを助け得るのは、凹部322及びクリップ320がその中で比較的薄く作製され得るためである。凸部336が領域338、340の間を摺動する容易さは区分350、352、354の断面寸法並びに内側に面する突起部334の大きさ及び形状に基づいて調節され得る。クリップ320が凸部336と係合及び遊離する機構は、本明細書のクリップ320がアーチワイヤではなく摺動式扉に係合することを除いて、米国特許第6,302,688号(Jordanら)及び第6,582,226号(Jordanら)に記載の機構と任意に似ている。
【0038】
装具300のその他多くの態様は、記載の装具100、200と同様の形態及び機能を有し得、これらは繰り返されないであろうことを理解されたい。
【0039】
任意に、任意の装具100、200、300は、凸部136、236a、236b、336に連続的力を加えるクリップ120、220、320を使用し得る。好適には、この力は圧縮力であり、クリップ120、220、320が部分的に緊張した(すなわち、弛緩していない)状態を保持することによるものである。これは大き過ぎる凸部の使用により起こり得る。例えば、凸部136、236a、236b、336の断面直径は、少なくともいくつかの領域138、140、238、240、338、340よりも意図的に大きく作成され得る。扉110、210と本体104、204、304がぴったり接合することを提供し得、扉110、210が本体104、204、304と係合する間ガタつくことを防ぐ。
【0040】
凸部に連続的な力を加えるクリップの使用は、扉と本体の間に大きな隙間がある装具を扱うときに特定の利益となり得る。前述のように、隙間は、扉の摺動を容易にさせ、連結を回避するために望ましい場合もある。更に、係る隙間はまた、治療の終わりに装具を歯から近心−遠心剥離させるために扉の近心及び遠心側に十分な空間を提供するのを助け得る。いくつかの実施形態では、組み立てた扉及び本体は、少なくとも約25マイクロメータ(1ミル)、少なくとも約38マイクロメータ(1.5ミル)、又少なくとも約51マイクロメータ(2ミル)の所定の累積近心−遠心隙間幅を有する。いくつかの実施形態では、隙間幅は最大約130マイクロメータ(5ミル)、最大約100マイクロメータ(4ミル)、又は最大約76マイクロメータ(3ミル)である。
【0041】
図11及び12は、別の実施形態に準じた装具400を示す分解図である。装具400は、基部402、基部402に接合する本体404、及び本体404にわたって延在するアーチワイヤスロット408を含む、既に記載されたものと共通の多くの特徴を有する。装具400は、本体404に摺動可能に受容され、一体型凸部436を有する扉410を更に含む。本体404は、クリップ420を受容するスロット408に隣接する凹部422を有する。
【0042】
図13Aに扉410とともに示されるように、近心又は遠心方向から見たとき、例示的クリップ420は非対称の構成を有する。クリップ420は平面で、装具400の近心−遠心軸に略垂直の基準面に存在する。更に、クリップ420は、中心区分460、アーチ状区分462、及び尾区分464を含む。中心区分460は大体直線で凹部422の底壁428に隣接及び平行して延在する。好適な実施形態では、中心区分460は底壁428に平らに係合し、扉410が正常動作している間は凹部422に対して大幅には動かない。
【0043】
クリップ420のアーチ状区分462は、中心区分460の歯肉端部に接合し、咬合方向に向かって延在し、それによってアーチ状区分462は、中心区分460に対して略「U」型構成を形成する。アーチ状区分462は、クリップ420の咬合及び歯肉端部の間の形状の中点の近くに位置するアーチ466を有する。例示的アーチ466は、アーチ状区分462の顔面表面上の凸面によって特徴付けられ、本体404の凹部422に受容されるとき、アーチ466は略顔面方向に面する。
図6〜8に示されるように、装具400が組み立てられるとき、アーチ466及び凸部436は互いに対峙する。
【0044】
クリップ420の尾区分464は、中心区分460の咬合端部に接合し、弛緩しているとき、尾区分464が中心区分460に対して鋭角α(
図13Bに図示される)を形成するように略顔面−歯肉方向に延在する。いくつかの実施形態では、クリップ420が弛緩しているとき、尾区分464と中心区分460の間に形成される角度αは少なくとも約45度、少なくとも約50度、又は少なくとも約70度である。いくつかの実施形態では、クリップ420が弛緩しているとき、尾区分464と中心区分460の間に形成される角度は、最大約90度、最大約85度、又は最大約75度である。
【0045】
任意に、かつ示されるように、尾区分464はその長さに沿って違う断面寸法を有する。この実施形態では、尾区分464は、中心区分460からの距離の増加とともに単調に減少し、その末端部461で一番細くなる断面寸法を有する。このように細くなった尾区分464は、区分460、462に対する区分464の全体の柔軟性を大きくする。これは、以下の章で記載されるであろうクリップ420の特定の機能的利点を提供し得る。
【0046】
ここで
図13Bを参照して、末端部461、アーチ466、及び歯肉側壁426(凹部422の)は、咬合−歯肉軸に沿って互いに直線的に離間し、凸部436が存在し得る一定の領域を集合的に画定する。「A」とラベルされた位置に位置するとき、凸部436は末端部461、アーチ466、及び歯肉側壁426の末端部の咬合側上にある。この位置において、扉410は、依然として本体404から分解されたままであり、凹部422の咬合側壁上に位置する拡大開口部470に沿って咬合方向に自由に摺動することができる(
図11に示される)。開口部470は、近心−遠心方向に沿って凸部436より広いため、扉410は、扉410が本体404から取り外されるまで咬合方向に摺動し続け得る。
【0047】
十分な力が略歯肉方向に扉410に適用されたとき、凸部436は、末端部461に押され、それを下方向(すなわち、舌方向)に歪め、凸部436が「B」とラベルされた位置に「パチン」とはめ込まれる。この位置では、凸部436はこのとき末端部461の歯肉側並びにアーチ466及び歯肉側壁426の咬合側にある。ここで、凸部436は、末端部461とアーチ466の間の均衡位置に束縛され、全体的に咬合領域440を画定する。装具400は、このとき組立形態であり、扉410は、その開放位置にある。
【0048】
この構成から、扉410を閉めるために歯肉方向に扉410に追加の力が適用され得る。閾値の力に達すると、アーチ状区分462は、凸部436が
図13Bで「C」とラベルされたその第3の位置を通りぬけられるように弾性的に「平たく」なる。この位置では、凸部は末端部461及びアーチ466両方の歯肉側しかし歯肉側壁426の咬合側上に位置する。ここで、凸部436は、アーチ466と歯肉側壁426の間の第2の均衡位置に束縛され、全体的に歯肉領域441を画定する。凸部436が現在歯肉領域441にあるため、扉410は閉まっている。アーチ状区分462は、凸部436を保持し、扉410が自然に開くのを防ぐためその元の位置に向かってはね返る。剥離を容易にするために装具400を分ける歯肉側壁426上に開口部471がある一方、開口部471の近心−遠心幅は、凸部436のそれより小さく、従って扉410の更なる歯肉への動きを防ぐ。
【0049】
少なくともいくつかの実施形態では、尾区分464は、偶発的分解を防ぐ一方、扉410の本体404への組立てを容易にする歯止めのような働きをする。この利点は、例えば、
図13Aに示すように少し歯肉方向に傾いている尾区分464の配向によって可能になる。凸部436を尾区分464に押すとき、中心区分460に向かって弾性的に曲がり、凸部436が尾区分464を超えて凹部422内の領域「B」に通り抜けるように、尾区分464の歯肉側に十分な隙間がある。しかしながら、一旦凸部436が、領域「B」に入ると、尾区分464の歯肉傾斜のため次に、凹部422から簡単には逃れることができない。更に、凹部422の咬合側壁426’は、尾区分464が咬合方向に著しく歪むことを抑制する。これらの特徴の結果、扉410の本体404への組立ては実質的に非可逆的であり得る。
【0050】
図14〜19は、
図11〜13Bに示されているものといくつかの点で似ているが追加の選択肢及び利点を伴う別の実施形態に準じた装具500を図示する。
図14及び15に示されるように、装具500は基部502、基部502から延在する本体504、及び略近心−遠心方向に向かって本体504にわたって延在するアーチワイヤスロット508を有する。装具500は、本体504と摺動可能に係合し、スロット508がアクセス可能なスロット開放位置及びスロット508がアクセスできないスロット閉鎖位置の間にトグルで留められた扉510を更に含む。
【0051】
全体の装具500の全体の近心−遠心幅に実質的に適合する近心−遠心幅を有するため、扉510は、先に示されたものとは異なる「幅の広い扉」である。有利に、この特徴は、アーチワイヤが装置500の扉510と係合し得、治療的力を適用し得る距離が増加するため、歯科矯正治療の間、向上した回転制御を提供し得る(歯のその長軸についての回転運動に影響する)。ここで、扉510は、近心及び遠心方向に突き出し、略咬合−歯肉方向に扉510にわたって縦方向に延在する内側に面するレール511を有する。示されるように、レール511は、本体504の近心に面し、遠心に面する表面に位置する相補的溝513に受容される。共に、レール511及び溝513は、扉510の動作可能な摺動動作を導く。
【0052】
図16を参照して、本体504は、スロット508に隣接して位置し、一体型の弾性クリップ520を受容する細長い凹部522も有する。装具400のクリップ420と同様に、クリップ520はスロット508の近心−遠心長軸と実質的に垂直であり、かつ装具500を近心及び遠心半分に概ね二等分する基準面と同一平面上にある。ここで
図19の断面図を参照して、クリップ520は、咬合及び歯肉壁526、底壁528、及び扉510によって凹部522に捕らえられている。
【0053】
扉510が閉鎖位置にあるとき、スロット508は実質的に堅い壁によって囲まれている。任意に、
図17〜18に示されるように、スロット508は、本体504上に位置する一部の底壁570a及び扉510上に位置する一対の底壁570bによって集合的に画定された1つの底壁を有する。一部の底壁570bは、スロット508の近心及び遠心部分に沿って延在し、スロット508の中心部分に沿って延在する一部の底壁570aをまたぐ。同様に、スロット508は、本体504上にある一部の咬合壁572a及び一部の咬合壁572aをまたぐ扉510上にある一対の一部の咬合壁572bによって集合的に画定される咬合壁を含む。この特定の実施形態では、スロット508は、扉510によってのみ画定される顔面壁574及び本体504によってのみ画定される歯肉壁576を有する。
【0054】
上述した構成の1つの利益は、レール511と対応する溝513の間の伸長したインターフェイスである。より具体的には、この機構は、レール511及び溝513が効率的に装具500の歯肉半分だけでなく、スロット508の咬合−歯肉幅も通過するようにする。接合面が互いに係合する咬合−歯肉長さが延びることにより、扉が本体504に沿って摺動開閉するとき、この構成は、扉510の安定性を増し、ガタつきを減らした。これは、患者の快適さ及び本体504の空間が制限されるために装具500をできる限り小さく作製されなければならないときに特に有用である。
【0055】
中心区分560、アーチ状区分562、及び尾区分564を含むクリップ520は、装具400のクリップ420と同じ形態及び機能を実質的に有する。しかしながら、任意に、かつ
図18及び19に示すように、クリップ520は、中心区分560及び凹部522の底壁528に向かって舌方向に突き出た尾区分564の間に位置する伸長した角部分521を含む。本体504の底壁528は、クリップ520が凹部522に着座するとき、角部分521を正確に登録し、受容される空洞523も含む。
図19に示されるように、扉510に開放するための過度の力がかけられたときでさえ空洞523は有利にクリップ520を本体504に固定し、クリップ520が回転するのを防ぐ反力を作り出す。
【0056】
角部分521の存在は、操作者の誤用及び製造変異性両方の点から見てより頑丈な装具500を提供する。例えば、扉510が完全に開いた後でさえ、治療専門家が扉510を咬合方向に強制的に摺動させようとする場合、角部分521は、空洞523の歯肉(すなわち、咬合に面する)壁に接触する。空洞523の歯肉壁は、従って、クリップ520が凹部522の外に反時計回りに倒れないようにする有益な抑制装置として働く。クリップ520が回転を抑制されているため、尾区分564が扉510上の凸部536による更なる咬合運動を妨害するときに扉510の伸縮過度が防止される。角部分521と空洞523の間のこの独立した相互作用は、必須ではないが、扉510と本体504の間に存在し得る小さな隙間、クリップ520の形状における変異性、及びその他の小さな製造変則への耐性を増やすのを助ける。
【0057】
装具400、500の他の態様は、前述したものと類似しており、当業者に繰り返す必要はない。
【0058】
図20〜25は、非単一の保持部材(すなわち、少なくとも2つの分離した構成要素を含むもの)を使用する別の例示的実施形態を図示する。
図20は、基部602、本体604、及びアーチワイヤスロット608を有する装具600の一部を示している。本体604は、略咬合−歯肉方向に延在する中央チャネル680及び略近心−遠心方向に中央チャネル680にわたってそれぞれ延在する閉鎖終端外側チャネル682、684を含む複合凹部622を有する。装具600は、対応する外側チャネル682、684内に捕らわれた長方形ビーム620a及び円形ビーム620bを有するクリップ620を使用する。装具600は、
図21に示される一体型扉610も含む。扉610が本体604に組立てられるとき、扉610は、中央チャネル680と位置あわせされる凸部636を有する。扉610は、咬合及び歯肉方向に本体604に位置する実質的に適合する溝に沿って扉を摺動させるレールを有する。
【0059】
長方形ビーム620aは、凹部622への咬合入り口に隣接する。円形ビーム620bは、一方、凹部622への咬合入り口から離れていて、歯肉方向に向かってビーム620aから離間されている。
図23の断面図に更に示されるように、長方形ビーム620aの長い断面寸法(幅)は扉610の摺動方向に対して少し鋭角θで配置された軸に沿って延在する。いくつかの実施形態では、角度θは少なくとも約0.1度、少なくとも約0.5度、又は少なくとも約1度である。いくつかの実施形態では、角度θは最大約90度、最大約45度、又は最大約10度まで広がる。任意に及び
図23に示されるように、角度θは、ビーム620aが存在する外部チャネル682の底面に組込まれ得る。
【0060】
ビーム620a、620bの相対的な配置の長所により、本体604に摺動可能に組立てられたとき、凸部636は、初めに長方形ビーム620aを横切り、次に円形ビーム620bを横切る。扉610の組み立てにおいて、関連する扉610が歯肉方向にビーム620a、620bに対して押されるとき、凸部636が通り抜けられるように凹部622の底面に向かって弾性的に歪むことによって各ビーム620a、620bは留め金として独立して機能する。凸部636が均衡位置に向かってビーム620a、620bの反対側に摺動するとき、ビーム620a、620bはその元の形状に柔軟に戻り、それによって扉610がビーム620a、620bにわたって容易に摺動して戻るのを防ぐ。扉610は、
図24及び25に示されるように、凸部636が円形ビーム620bの咬合及び歯肉側上の領域の間を前後に摺動することにより可逆的に開閉され得る。
【0061】
任意に、1つ又は両方のビーム620a、620bはその長さの一部又は全体に沿って湾曲した構成を有し得る。例えば、
図22ではビーム620cはビーム620cの中間点に大体位置するくぼみ625を備えているのを示す。1つ又は両方のビーム620a、620bに備えられるくぼみ625は、凸部636がビーム620a、620bを通り越すのに必要な隙間を大きくし得、凸部636の高さ及び扉610と本体604の間の接合面における製造耐性を備え得る。
【0062】
長方形ビーム620aは、扉610を本体604へ組立てるのを容易にする形状及び配向を有し、一方治療専門家が普通に扉610を開閉するとき、扉610が本体604から自然に及び不注意に分離することも防ぐ。
図23は、長方形及び円形ビーム620a、620bの間の凹部622の領域に位置する扉610を示す。この図では、扉610は、咬合(開口部)方向に力ベクトルに供される。ビーム620aの少しの傾斜により、ビーム620aの歯肉に面する表面は凸部636の咬合に面する表面に平らに係合する。ビーム620aの歯肉に面する表面は、その結果、凸部636が咬合方向にビーム620aを通り越すのを防ぐ有益な抑制装置として働く。更なる利益として、ビーム620aの傾斜は本体604への扉610の初期組立てを助ける傾斜面としても働く。
【0063】
いくつかの実施形態では、凸部636の形状はまた扉610を開閉するのに必要な力を調節するように適合され得る。
図21に示されるように、例えば、開閉する力は、略台形の輪郭(近心又は遠心方向から見られるように)を有し、適切な側壁角度βを有する凸部636を使用することにより概ね減少し得る。いくつかの実施形態では、側壁角度βは約45度未満、約35度未満、又は約30度未満である。逆に、開閉する力は、約45度を超える、約55度を超える、又は約60度を超える側壁角度βを使用することにより増大し得る。所望であれば、非対称の開閉する力は、実質的に異なる側壁角度(例えば、β
1及びβ
2)を伴う台形凸部636を使用することにより実現し得る。例えば、凸部636の前(又は歯肉に面する)縁は、40度の側壁角度を有し得、一方凸部636の後(又は咬合に面する)縁は、60度の側壁角度を有し得る。係る構成は、開き始めたときの力を意図的に増やし、扉610が咀しゃく時に偶然開くのを防ぐ。
【0064】
扉を開閉する力は、材料特性、凸部寸法及びビーム620a、620bの断面寸法によって決定される。好適には、ビーム620a、620bは、超弾性ニッケルチタン合金の短いワイヤ部分である。一例示的実施形態では、円形ビーム620bは0.20ミリ(0.008インチ)の直径を有し、一方長方形ビーム620aは、それぞれ0.15ミリ及び0.25ミリ(0.006インチ及び0.010インチ)の「A」及び「B」寸法を有する。この実施形態では、ビームは1.22ミリ(0.048インチ)の長さである。凸部636は、0.20ミリ(0.008インチ)の高さ及び0.356ミリ×0.25ミリ(0.014インチ×0.010インチ)の面積を有する。扉610と本体604の間の隙間は全表面上で約19マイクロメータ(0.00075インチ)である。
【0065】
更に別の実施形態が、
図26及び27に図示されるように、例示アーチワイヤ50’と係合する装具700によって提供される。装具700は、本質的にほとんどの点において装具600と同じであるが、本体704の凹部722に存在する単一クリップ720と、歯肉及び咬合凸部736a及び736bを伴う扉710を使用する。扉710が本体704に組立てられるとき、凸部736a、736bはクリップ720に係合する。ここで、凸部736bは、開閉した扉の構成に対応して、それぞれ、クリップ720の歯肉及び咬合側の領域の間にトグルで留められる。凸部736aは、平常操作で扉710が本体704から偶発的に分解されてしまうのを防ぐために非対称の台形構成で提供される。
【0066】
上で例示された装具扉は、好適には歯科矯正検査器具などの一般的な歯科矯正手用器具を使用して治療専門家が容易に扉を開閉できるようにする力特性を有する。任意に、専門手用器具は、扉の摺動動作を制限するように使用され得る。例えば、扁平なプローブは扉と本体の前縁の間の継目に挿入され得、次に扉を開けるためにねじ曲げられ得る。これは偶発的な剥離の危険を減少するのを助け得る。いくつかの実施形態では、扉を開けるのに使われる閾値力は、少なくとも約50重量グラム(0.49ニュートン)、少なくとも約200重量グラム(1.96ニュートン)、又は少なくとも約500重量グラム(4.90ニュートン)である。いくつかの実施形態では、扉を開けるのに使われる閾値力は、最大約5000重量グラム(49.03ニュートン)、最大約3000重量グラム(29.42ニュートン)、又は最大約1000重量グラム(9.807ニュートン)である。
【0067】
図28〜30は、更に別の実施形態における例示アーチワイヤ50’’と係合し、基部802、本体804、及び扉810を有する装具800を示す。前述した装具500のように、扉810は、本体804の近心に面する及び遠心に面する側のそれぞれに位置する一対の溝813に沿って摺動する一対の内側に突出するレール811を有する。
図30に示されるように、扉810は、クリップ720と同様の動作様式を有する弾性クリップ820を保持する略十字型の凹部822を通り越し、そこでは扉810を開閉位置の間にトグルで留めるとき、扉810から舌側方向に延在する凸部(可視的ではない)は、クリップ820を弾性的に歪め、扉810が開放位置にあるとき、扉810から舌側方向に延在する第2の凸部(可視的ではない)は、扉810が落下するのを防ぐ。
【0068】
任意に、扉810は、装具800の圧搾剥離を容易にするために本体804の近心−遠心幅より少し狭い全体近心−遠心幅を有する。圧搾剥離の工程において、手用器具によって提供される圧縮力は、装具が適切にへこむように扉810ではなく本体804に集中するであろう。扉810と本体804の間の近心−遠心寸法の違いは、例えば、約0.051ミリ(0.002インチ)〜約0.254ミリ(0.010インチ)の範囲であり得る。
【0069】
図30を再び参照して、装具800は、アーチワイヤ50’’’を収容するアーチワイヤスロット808を部分的に画定する一対の堅い一体型壁890を含むという点で前の装具とは異なる。一体型壁890は歯肉に位置し、凹部822に隣接し、アーチワイヤスロット808の歯肉壁の大部分を画定する。アーチワイヤスロット808の歯肉壁の残りの部分は、示されるように扉810の一対の歯肉に面する表面892によって提供される。歯肉に面する表面892は、装具800の近心及び遠心側に隣接して位置する。有利に、一体型壁890は、アーチワイヤ50’’’が、扉810を所望せずして開くことなく、装具800に実質的な回転力(すなわち、ねじ曲げ力)を加えることにより、より確実な結紮を提供し得る。
【0070】
いくつかの実施形態では、一体型壁890は、アーチワイヤスロット808の少なくとも約40パーセント、少なくとも約45パーセント、少なくとも約50パーセント、少なくとも約55パーセント、又は少なくとも約60パーセントに沿って延在した。いくつかの実施形態では、一体型壁890は、アーチワイヤスロット808の最大約90パーセント、最大約85パーセント、最大約80パーセント、最大約75パーセント、又は最大約70パーセントに沿って延在した。
【0071】
図30に更に示されるように、扉810がその閉鎖位置に摺動可能に移動するとき、扉810の前縁823は、アーチワイヤスロット808の歯肉壁の隣の相補的凹部825に係合する。凸状前縁823と適合する相補的凹部825の係合は、装具800が咬合−歯肉軸に対する回転、又はアーチワイヤ50’’’の口唇方向への口唇運動に供されたとき、扉810と本体804の間の隙間により生じ得る扉810の望ましくない動きを制限するのを助ける。
【0072】
図31〜33は、更に別の例示的実施形態に準じた装具900の分解及び組立図である。この実施形態は、アーチワイヤスロット908の歯肉側に沿って整列した一体型壁の概念を更に作り出し、結紮機構の操作を容易にする特徴を含む。装具900は、装具800と本質的に同一の特徴を有するが、装具本体と一体の壁990を含み、アーチワイヤスロット908の歯肉(又は咬合に面する)側を画定する。好適な実施形態では、壁990は、アーチワイヤスロット908の全近心−遠心長さに本質的に沿って延在する。有利に、アーチワイヤスロット908は、アーチワイヤスロット908の3つの面それぞれが、アーチワイヤスロットの近心−遠心長さに沿った装具900の本体によって実質的に画定されるため、非常に堅い。
【0073】
装具900は、装具800の扉と類似する扉910を含むが、
図32〜33に示されるように、扉910がその閉鎖位置にあるとき、扉910の歯肉に面する表面992は、壁990の対向する咬合に面する表面994に平らに接触する。
【0074】
アーチワイヤスロット908の近心−遠心長さに沿って延在する壁990を有することは、結紮アーチワイヤがかなりの咬合又は歯肉(すなわち、摺動)力を扉910に加えるのを防ぐため、非常に有利である。
図31〜33に示されるように、アーチワイヤスロット908は、その4つの面のうち3つの面を装具本体と隣接しており、3つの面はそれぞれアーチワイヤスロットの近心−遠心の全長に沿って本質的に延在する。第4の面上で、扉910の口唇に面する側のみアーチワイヤスロット908に捕らえられているアーチワイヤと接触し得る。その結果として、一連の治療の間扉910が予期せず開いてしまう可能性を避ける一方、アーチワイヤが実質的傾斜及び回転力を装具900に供給する大いなる自由がある。
【0075】
示されるように、壁990は、咬合及び歯肉方向に向く略平行な対向する壁を有する。しかしながら選択肢として、壁990は、強度を増すためにいくつかの領域に沿って細くなったり又は厚くなったりし得る。例えば、壁990の近心及び遠心端部は、壁990の中心に位置する領域に沿った厚さよりもより厚い咬合−歯肉厚さを有し得る。これらのいくつかの実施形態では、接合面992、994は、扉910が閉じるときにがたつくのを防ぐように結合構成において湾曲した形態に沿って延在し得る。
【0076】
追加の任意の特徴のように、装具900は、扉910の前縁、咬合端部と装具本体の間の継目に位置する長方形凹部996を含む。凹部996は、扉910を開けるのを助けるために適切な扁平先端手用器具を挿入できるようにする。一旦挿入すると、その器具は長軸周囲に90度回転し得、それによって扉910を摺動可能に開くためのカムとして作動する。示された実施形態では、扉910の咬合端部(凹部996に結合する)は、凹部996の底面に隣接する近心−遠心方向に沿って延在する既定義の係合表面911に向かって細くなる。係合表面911は、器具が扉910を開けるのに摺動する力を伝えられるように、扉910が回転及び/又はつかえることを生じさせ得るモーメントを伝えるのを防ぐように適切に位置づけされる。
【0077】
この概念に広く関連する選択肢及び利点は、例えば、米国特許第6,506,049号(Hanson)及び米国特許公開第2009/0004618号(Odaら)で公開する。
【0078】
図31を参照して、装具900は、装具700のビーム720のそれに関連する機能的特長を有するビーム920を更に含む。ビーム720と同様の方法で、扉を開放及び閉鎖位置の間にトグルで留めるためにビーム920は扉910の舌側に面する側に位置する一対の凸部(可視的ではない)と機械的に接し、一方扉920が偶発的に残りの装具900から離れるのも防ぐ。任意に、かつ示されるように、ビーム920は丸い角を伴う略長方形断面を有する。この実施形態では、丸い角は断面の4つの面のうち2つの面が本質的にそれらの全長にわたって湾曲されるような半径を有し、それによって扉920の開閉を容易にする。ビーム920はまたビーム620aに対して前述のように特性傾斜角で配置される。
【0079】
装具800、900の構成及び操作を考慮する更なる態様は、既に記述した装具(例えば、装具500、600、700)のそれらと略類似していて、本明細書で再考することはないであろう。
【0080】
記載の装具のキット及び組立体は本明細書でも熟考される。例えば、本明細書に記載の1つ以上の装具は、例えば、米国特許第4,978,007号(Jacobsら)、第5,015,180号(Randklev)、第5,429,229号(Chesterら)、及び第6,183,249号(Brennanら)、及び米国特許公開第2008/0286710号(Cinaderら)に記載のように、適切な歯科矯正接着剤で前もってコーティングされ得、1つの容器又は一連の容器に詰められ得る。別の選択肢のように、任意のこれらの装具はまた、米国特許第7,137,812号(Clearyら)に記載のように患者と間接接合を可能にする配置デバイスと併用し得る。
【0081】
更なる選択肢のように、任意の上記の装具は、米国特許仮出願シリアル番号第61/545,361号(Yickら)に記載されるように回転強度を上げるために先を細くした対向する側壁を有するアーチワイヤスロットを含み得る。
【0082】
本発明の追加の実施形態は、本明細書の以下に列挙される。
A.基部と、基部から外向きに延在する本体と、本体にわたって略近心−遠心方向に延在するアーチワイヤスロットと、アーチワイヤスロットに隣接する本体上に位置する凹部と、凹部に受容される保持部材と、凹部を少なくとも第1及び第2の領域に分ける保持部材と、本体に摺動可能に係合し、かつ凸部を有する扉であって、扉がアーチワイヤスロットへのアクセスを可能にするように開放しているときに凸部が第1の領域に延在し、扉がアーチワイヤスロットへのアクセスを阻止するように閉鎖しているときに第2の領域に延在する、扉と、を備える、歯科矯正装具。
B.凹部が底壁並びに対向する第1及び第2の側壁を有する、実施形態Aの装具。
C.保持部材が第1のビームと、略咬合−歯肉方向に沿って第1のビームから離間する第2のビームとを含み、各ビームは略近心−遠心方向に沿って延在し、第1の領域が第1及び第2のビームの間に位置し、第2の領域が第1及び第2のビームの咬合又は歯肉側に位置する、実施形態A又はBの装具。
D.第1のビームは略長方形断面を有し、第2のビームは略円形断面を有する、実施形態Cの装具。
E.少なくとも1つビームがその長手方向に沿って略湾曲した構成を有する、実施形態A〜Dのいずれか1つの装具。
F.凸部が第1の凸部で、扉が扉の摺動方向に沿って第1の凸部から離間された第2の凸部を更に備え、それによって扉が開放しているときに第1及び第2の凸部が対応する第2及び第1の領域に存在し、扉が閉鎖しているときに第1及び第2の凸部両方が第2の領域に存在する、実施形態A又はBの装具。
G.アーチワイヤスロットが略直線構成で3つの側面に沿って境界され、各側面がアーチワイヤスロットの近心−遠心長さに沿って本体によって実質的に画定される、実施形態A〜Fのいずれか1つの装具。
H.基部と、基部から外向きに延在する本体と、本体にわたって略近心−遠心方向に延在するアーチワイヤスロットと、アーチワイヤスロットに隣接する本体上に位置する凹部と、底壁及び対向する第1及び第2の側壁を有する凹部と、凹部に受容される保持部材と、本体に摺動可能に係合され、凹部に延在する凸部を有する扉と、を備える歯科矯正装具であって、保持部材が、扉がアーチワイヤスロットへのアクセスを可能にするように開放した第1の位置と、扉がアーチワイヤスロットへのアクセスを阻止するように閉鎖した第2の位置との間に凸部をトグル留めするように弾性的に歪む、歯科矯正装具。
I.保持部材が、底壁に沿って延在し、かつ第1及び第2端部を有する中心区分と、第1端部で接合されるアーチ状区分と、第2端部で接合され、かつ中心区分に対して鋭角で延在する尾区分と、を更に備え、第1の位置が、第1の側壁とアーチ状区分との間に位置し、第2の位置が、アーチ状区分と第2の側壁との間に位置する、実施形態A、B、G、又はHの装具。
J.保持部材が底壁と略同一平面上にあり、扉が摺動する方向に横断した方向に弾性的に歪む、実施形態A、B、G、又はHの装具。
K.保持部材が略「U」字形構成を有する、実施形態Jの装具。
L.保持部材が一対の内側表面及び第1と第2の領域の間の側面上に配設された一対の対向する内側に面する突起部を更に備える、実施形態J又はKの装具。
M.基部と、基部から外向きに延在する本体と、本体にわたって略近心−遠心方向に延在するアーチワイヤスロットと、アーチワイヤスロットに隣接する本体上に位置する凹部と、底壁及び対向する第1及び第2の側壁を有する凹部と、凹部に受容される保持部材であって、底壁に沿って延在し、かつ第1及び第2端部を有する中心区分と、第1端部で接合され、かつ頂部を有するアーチ状区分と、第2端部で接合され、かつ中心区分に対して鋭角で延在する尾区分と、を備える保持部材と、本体に摺動可能に係合され、凹部内に延在する凸部を有する扉であって、扉がアーチワイヤスロットへのアクセスを可能にするように開放しているときに凸部が第1の側壁とアーチ状区分との間に存在し、扉がアーチワイヤスロットへのアクセスを阻止するように閉鎖しているときに凸部がアーチ状区分と第2の側壁との間にある、扉と、を備える、歯科矯正装具。
N.凹部は対向する第3及び第4の側壁を更に備え、第1、第2、第3及び第4の側壁が保持部材を保持し、底壁に略平行した方向に保持部材が摺動するのを制約する、実施形態B〜Mのいずれか1つの装具。
O.保持部材が、形状記憶合金を含む、実施形態A〜Nのいずれか1つの装具。
P.保持部材が、単一構成要素である、実施形態A〜Oのいずれか1つの装具。
Q.基部、本体、扉がそれぞれ、半透明のセラミック材料を含む、実施形態A〜Pのいずれか1つの装具。
R.扉及び凸部が、単一構成要素である、実施形態A〜Qのいずれか1つの装具。
S.凸部が、略平坦な前面及び背面を有し、前面及び背面が、凹部の底壁に対して異なる角度で配置される、実施形態A〜Rのいずれか1つの装具。
T.中心区分、アーチ状区分、及び尾区分が保持部材の単一構成要素である、実施形態I及びM〜Sのいずれか1つの装具。
U.尾区分が中心区分からの距離の増加とともに概ね減少する断面寸法を有する、実施形態I及びM〜Tのいずれか1つの装具。
V.本体が、凹部と装具の外部の両方と連通する開口部を有し、扉を本体に組み立てるときに、開口部を通って凹部に入る凸部の通路を可能にするのに十分な大きさに寸法決定される、実施形態A〜Uのいずれか1つの装具。
W.アーチ状区分と対向する側壁との間の間隔が、保持部材が圧縮応力の状態で維持されるように寸法決定される、実施形態I及びM〜Vいずれか1つの装具。
X.本体が、一対の対向する溝を更に備え、扉が、一対の溝に摺動可能に受容される一対のレールを備える、実施形態A〜Wのいずれか1つの装具。
Y.扉が、装具の全近心−遠心幅と実質的に適合する近心−遠心幅を有する、実施形態A〜Xの装具。
Z.セラミック本体と、凸部を有するセラミック扉と、保持部材を有する歯科矯正装具の組み立て方法であって、保持部材を本体内に位置する凹部に配置する工程と、凸部が保持部材の外面に接触するまで、扉を本体に配設された一対のレールに沿って摺動可能に係合する工程と、凸部が凹部と保持部材の内面との組み合わせによって少なくとも部分的に画定される凹部の領域内に受容されるまで扉を保持部材に対して付勢する工程と、を含む、方法。
AA.保持部材が、扉の本体への組み立てを可能にするように弾性的に歪み、その後に凹部の側壁と係合して自然な分解を阻止する歯止めを備える、実施形態Zの方法。
【0083】
上述の全ての特許及び特許出願は、本説明に明示的に組み込まれる。上記の発明は、明瞭さ及び理解を目的として図及び実施例によってある程度詳細に述べたものである。しかしながら、様々な代替例、改変例、及び均等物の使用が可能であり、上記の説明は発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。また、本発明の範囲は、特許請求の範囲及びその均等物によって定義されるものである。