特許第6239618号(P6239618)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6239618-新規なUHMWPE繊維及び製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239618
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】新規なUHMWPE繊維及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/70 20060101AFI20171120BHJP
   D06M 10/02 20060101ALI20171120BHJP
   D06M 15/564 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   D06M15/70
   D06M10/02 D
   D06M10/02 C
   D06M15/564
【請求項の数】3
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2015-524316(P2015-524316)
(86)(22)【出願日】2013年7月16日
(65)【公表番号】特表2015-528860(P2015-528860A)
(43)【公表日】2015年10月1日
(86)【国際出願番号】US2013050590
(87)【国際公開番号】WO2014058497
(87)【国際公開日】20140417
【審査請求日】2016年7月8日
(31)【優先権主張番号】61/676,409
(32)【優先日】2012年7月27日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】13/795,278
(32)【優先日】2013年3月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500575824
【氏名又は名称】ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】Honeywell International Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(74)【代理人】
【識別番号】100196597
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】クライン,ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】アーディフ,ヘンリー・ジェラルド
(72)【発明者】
【氏名】ヤング,ジョン・アームストロング
(72)【発明者】
【氏名】タム,トーマス
【審査官】 佐藤 玲奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−169521(JP,A)
【文献】 特開平02−006657(JP,A)
【文献】 特表2005−523179(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/133295(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0266710(US,A1)
【文献】 特開2007−239161(JP,A)
【文献】 特表2010−501740(JP,A)
【文献】 特表2010−529319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00 − 16/00
19/00 − 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)部分配向繊維のそれぞれが繊維表面仕上げ剤によって実質的に被覆されている表面を有する、1以上の部分配向繊維を与える工程;
(b)繊維表面から繊維表面仕上げ剤の少なくとも一部を除去して、下層の繊維表面を少なくとも部分的に露出させる工程;
(c)露出された繊維表面を、繊維表面の表面エネルギーを増大させるのに有効な条件下で処理する工程;
(d)処理された繊維表面の少なくとも一部の上に保護被覆を施して、それによって処理されて被覆された繊維を形成する工程;及び
(e)処理されて被覆された繊維を1以上の乾燥機に通して、処理されて被覆された繊維上の被覆を乾燥し、一方同時に、処理されて被覆された繊維を、それが1以上の乾燥機を通って移動する間に延伸して、それによって27g/デニールより高いテナシティーを有する高配向繊維を形成する工程
を含む方法。
【請求項2】
(a)部分配向繊維のそれぞれが繊維表面仕上げ剤を少なくとも部分的に含まない少なくとも幾つかの露出された表面領域を有する、1以上の部分配向繊維を与える工程;
(b)露出された繊維表面を、繊維表面の表面エネルギーを増大させるのに有効な条件下で処理する工程;
(c)処理された繊維表面の少なくとも一部の上に保護被覆を施して、それによって処理されて被覆された繊維を形成する工程;及び
(d)処理されて被覆された繊維を1以上の乾燥機に通して、処理されて被覆された繊維上の被覆を乾燥し、一方同時に、処理されて被覆された繊維を、それが1以上の乾燥機を通って移動する間に延伸して、それによって27g/デニールより高いテナシティーを有する高配向繊維を形成する工程
を含む方法。
【請求項3】
(a)部分配向繊維が少なくとも18g/デニールで27g/デニール以下のテナシティーを有し、処理された部分配向繊維の表面が繊維表面の表面エネルギーを増大させるのに有効な条件下で処理されている、1以上の処理された部分配向繊維を与える工程;
(b)処理された繊維表面の少なくとも一部の上に保護被覆を施して、それによって処理されて被覆された繊維を形成する工程であって、ここで保護被覆は繊維表面の表面エネルギーを増大させる処理の直後に処理された繊維表面の上に施す、前記工程;及び
(c)処理されて被覆された繊維を1以上の乾燥機に通して、処理されて被覆された繊維上の被覆を乾燥し、一方同時に、処理されて被覆された繊維を、それが1以上の乾燥機を通って移動する間に延伸して、それによって27g/デニールより高いテナシティーを有する高配向繊維を形成する工程
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2012年7月27日出願の同時係属中の米国仮出願61/676,409(その開示事項はその全部を参照として本明細書中に包含する)の利益を主張する。
本発明は、超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE)ヤーンの製造方法、並びにヤーン及びそれから製造される物品に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度合成繊維を含む複合材料から製造される耐弾性物品は周知である。多くのタイプの高強度繊維が公知であり、それぞれのタイプの繊維はその独自の固有の特徴及び特性を有する。この点に関し、繊維を良く表す1つの特徴は、樹脂被覆のような表面被覆と結合又は接着する繊維の能力である。例えば、超高分子量ポリエチレン繊維は性質的に不活性であり、一方アラミド繊維は極性官能基を含む高エネルギー表面を有する。したがって、樹脂は一般に、アラミド繊維に対して、不活性のUHMW−PE繊維と比べて強い親和性を示す。しかしながら、合成繊維は性質的に帯電しやすく、したがって通常は有用な複合材料への更なる加工を容易にするために繊維表面仕上げ剤を施すことが必要であることも一般的に知られている。繊維仕上げ剤は、帯電を減少させ、不撚及び非絡合繊維の場合には繊維の結合を維持し、繊維の絡みを阻止するために用いられる。仕上げ剤はまた、繊維の表面を潤滑し、繊維を装置から保護し、装置を繊維から保護する。
【0003】
当該技術において、種々の産業において用いるための多くのタイプの繊維表面仕上げ剤が教示されている。例えば、米国特許5,275,625、5,443,896、5,478,648、5,520,705、5,674,615、6,365,065、6,426,142、6,712,988、6,770,231、6,908,579、及び7,021,349(これらにおいては、紡糸繊維用の紡糸仕上げ組成物が教示されている)を参照。しかしながら、通常の繊維表面仕上げ剤は例外なく望ましい訳ではない。1つの注目すべき理由は、繊維表面仕上げ剤は、アラミド繊維表面などの繊維表面上におけるポリマーバインダー材料の界面接着又は結合を妨げる可能性があるからである。ポリマーバインダー材料の強固な接着は、耐弾性布帛、特にMorristown, NJのHoneywell International Inc.によって製造されている不織のSPECTRA SHIELD(登録商標)複合材料のような不織複合材料の製造において重要である。繊維表面上におけるポリマーバインダー材料の不十分な接着は、繊維−繊維結合強度及び繊維−バインダー結合強度を減少させ、それによって一体化した繊維の互いからの解離を引き起こし、及び/又はバインダーの繊維表面からの層間剥離を引き起こす可能性がある。保護ポリマー組成物を織布上に施すことを試みる場合においても、同様の接着性の問題が認識されている。これはかかる複合材料の耐弾特性(耐弾性能)に影響を与え、最悪の製品不具合を引き起こす可能性がある。
【0004】
繊維上における施された材料の結合強度は、それを繊維仕上げ剤の上に施すのではなく、繊維表面と直接結合させると向上することが、同時係属中の出願61/531,233;61/531,255;61/531,268;61/531,302;61/531,323;61/566,295、及び61/566,320(これらのそれぞれは参照として本明細書中に包含する)から公知である。かかる直接適用は、ポリマーバインダー材料のような材料を繊維の上に施す前、及び繊維を繊維層又は布帛として結合させる前に、先に存在している繊維表面仕上げ剤を繊維から少なくとも部分的に除去することによって可能である。
【0005】
また、繊維表面をプラズマ処理又はコロナ処理のような種々の表面処理によって処理して繊維表面における表面エネルギーを増大させ、それによって材料が繊維表面に結合する能力を増大させることができることも、上記の同時係属中の出願から公知である。表面処理は、繊維仕上げ剤の上ではなく、露出された繊維表面の上に直接行う場合に特に有効である。仕上げ剤の除去と表面処理との組み合わせによって、耐弾性複合材料内で用いる場合に、繊維が互いから層間剥離し、及び/又は繊維表面被覆から層間剥離する傾向が減少する。しかしながら、かかる表面処理の効果は保管寿命を有することが公知である。時間経過と共に、増加された表面エネルギーは減衰し、処理された表面は最終的にはその元々のダインレベルに戻る。この処理の減衰は、処理した繊維を直ちに複合材料に加工しないで将来の使用のために保存する場合に特に重大である。したがって、表面処理を保存し、それによって処理された繊維の保管寿命を増加させる方法に対する必要性が当該技術において存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許5,275,625
【特許文献2】米国特許5,443,896
【特許文献3】米国特許5,478,648
【特許文献4】米国特許5,520,705
【特許文献5】米国特許5,674,615
【特許文献6】米国特許6,365,065
【特許文献7】米国特許6,426,142
【特許文献8】米国特許6,712,988
【特許文献9】米国特許6,770,231
【特許文献10】米国特許6,908,579
【特許文献11】米国特許7,021,349
【特許文献12】米国特許出願61/531,233
【特許文献13】米国特許出願61/531,255
【特許文献14】米国特許出願61/531,268
【特許文献15】米国特許出願61/531,302
【特許文献16】米国特許出願61/531,323
【特許文献17】米国特許出願61/566,295
【特許文献18】米国特許出願61/566,320
【発明の概要】
【0007】
本発明は、
(a)部分配向繊維のそれぞれが繊維表面仕上げ剤によって実質的に被覆されている表面を有する、1以上の部分配向繊維を与える工程;
(b)繊維表面から繊維表面仕上げ剤の少なくとも一部を除去して、下層の繊維表面を少なくとも部分的に露出させる工程;
(c)露出された繊維表面を、繊維表面の表面エネルギーを増大させるのに有効な条件下で処理する工程;
(d)処理された繊維表面の少なくとも一部の上に保護被覆を施して、それによって処理されて被覆された繊維を形成する工程;及び
(e)処理されて被覆された繊維を1以上の乾燥機に通して、処理されて被覆された繊維上の被覆を乾燥し、一方同時に、処理されて被覆された繊維を、それが1以上の乾燥機を通って移動する間に延伸して、それによって27g/デニールより高いテナシティーを有する高配向繊維を形成する工程
を含む方法を提供する。
【0008】
本発明はまた、
(a)部分配向繊維のそれぞれが繊維表面仕上げ剤を少なくとも部分的に含まない少なくとも幾つかの露出された表面領域を有する、1以上の部分配向繊維を与える工程;
(b)露出された繊維表面を、繊維表面の表面エネルギーを増大させるのに有効な条件下で処理する工程;
(c)処理された繊維表面の少なくとも一部の上に保護被覆を施して、それによって処理されて被覆された繊維を形成する工程;及び
(d)処理されて被覆された繊維を1以上の乾燥機に通して、処理されて被覆された繊維上の被覆を乾燥し、一方同時に、処理されて被覆された繊維を、それが1以上の乾燥機を通って移動する間に延伸して、それによって27g/デニールより高いテナシティーを有する高配向繊維を形成する工程
を含む方法も提供する。
【0009】
本発明は更に、
(a)部分配向繊維が少なくとも約18g/デニールで約27g/デニール以下のテナシティーを有し、処理された部分配向繊維の表面が繊維表面の表面エネルギーを増大させるのに有効な条件下で処理されている、1以上の処理された部分配向繊維を与える工程;
(b)処理された繊維表面の少なくとも一部の上に保護被覆を施して、それによって処理されて被覆された繊維を形成する工程であって、ここで保護被覆は繊維表面の表面エネルギーを増大させる処理の直後に処理された繊維表面の上に施す、前記工程;及び
(c)処理されて被覆された繊維を1以上の乾燥機に通して、処理されて被覆された繊維上の被覆を乾燥し、一方同時に、処理されて被覆された繊維を、それが1以上の乾燥機を通って移動する間に延伸して、それによって27g/デニールより高いテナシティーを有する高配向繊維を形成する工程
を含む方法を提供する。
【0010】
かかる方法から製造される繊維複合材料も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、オーブンの外部に延伸ロールを有する一連の水平に配列されたオーブンを含ませた加熱装置を用いる後延伸プロセスの一例を示す。
図2図2は、内部延伸ロールを有する単一のオーブンを含ませた加熱装置を用いる後延伸プロセスの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
部分配向繊維を処理及び被覆し、次に延伸して高配向繊維を製造する方法が提供される。本明細書において用いる「部分配向」繊維(或いは部分配向ヤーンとも呼ぶ)は、少なくとも18g/デニールで約27g/デニール以下のテナシティーを有する繊維の形成をもたらす1以上の延伸工程にかけた繊維(又はヤーン)である。部分配向繊維から高配向繊維を製造するのに望ましい方法は、共に所有される米国特許出願公開2011/0266710及び2011/0269359(本発明と矛盾しない範囲で参照として本明細書中に包含する)に記載されている。かかる公報において記載されているように、「部分配向」繊維(或いは「部分配向ヤーン」)は、高配向繊維は部分配向繊維から製造され、部分配向繊維を後延伸操作にかけて、それによってその繊維テナシティーを増加させている点で「高配向」繊維(ヤーン)と区別される。本発明の関連において、高配向繊維(ヤーン)は、27g/デニールより高い繊維テナシティーを有する。本明細書において用いる「テナシティー」という用語は、応力をかけていない試料の単位線密度(デニール)あたりの力(グラム)として表される引張応力を指し、ASTM−D2256によって測定される。繊維の「初期弾性率」は、変形に対するその抵抗性を表す材料の特性である。「引張弾性率」という用語は、歪みの変化に対するデニールあたりの重量グラム(g/d)で表され、元の繊維長さの割合(インチ/インチ)として表されるテナシティーの変化の比を指す。
【0013】
本発明によれば、部分配向繊維をまず処理して繊維表面から繊維表面仕上げ剤の少なくとも一部を除去して下層の繊維表面を少なくとも部分的に露出させ、次に露出された繊維表面を、繊維表面の表面エネルギーを増大させるのに有効な条件下で処理し、次に処理された繊維を保護被覆で被覆する方法が提供される。保護被覆を施した後、処理されて被覆された繊維を後延伸操作にかけ、保護被覆の乾燥と同時に繊維を延伸して高配向繊維を形成する。
【0014】
本発明を更に規定するために、「繊維」は、その長さ寸法が幅及び厚さの横断方向寸法よりも遙かに大きい細長い物体である。本発明において用いるための繊維の断面は広く変化していてよく、これらは断面が円形、平坦、又は楕円形であってよい。而して、「繊維」という用語は、規則的又は不規則的な断面を有するフィラメント、リボン、ストリップなどを含むが、繊維は実質的に円形の断面を有することが好ましい。本明細書において用いる「ヤーン」という用語は、複数の繊維から構成される単一のストランドとして定義される。単繊維は、1本のみのフィラメント又は複数のフィラメントから形成することができる。1本のみのフィラメントから形成される繊維は、本発明においては「単一フィラメント」繊維又は「モノフィラメント」繊維のいずれかと呼び、複数のフィラメントから形成される繊維は、本発明においては「マルチフィラメント」繊維と呼ぶ。
【0015】
繊維表面仕上げ剤は、通常はそれらの加工性を促進させるために全ての繊維に施される。繊維表面の直接プラズマ又はコロナ処理を可能にするためには、存在している繊維表面仕上げ剤を、繊維表面から少なくとも部分的に除去し、好ましくは繊維複合材料を形成する構成成分の繊維の一部又は全部の繊維表面の全部又は一部から実質的に完全に除去することが必要である。この繊維仕上げ剤の除去はまた、繊維−繊維の摩擦を高め、樹脂又はポリマーバインダー材料が繊維表面に直接結合するのを可能にして、それによって繊維−被覆結合強度を増加させるようにも働く。
【0016】
繊維を洗浄するか又は他の形態で繊維仕上げ剤を除去する工程によって、下層の繊維表面の少なくとも一部が露出されるのに十分な繊維仕上げ剤が除去されるが、異なる量の仕上げ剤を除去するためには異なる除去条件を想定しなければならない。例えば、洗浄剤(例えば水)の組成、洗浄技術の力学的特性(例えば繊維に接触する水の力;洗浄浴の撹拌等)のようなファクターが、除去される仕上げ剤の量に影響を与える。本発明の目的のためには、繊維仕上げ剤の最小限の除去を達成する最小限の処理は、一般に繊維表面積の少なくとも10%を露出させるものである。好ましくは、繊維表面仕上げ剤は、繊維が繊維表面仕上げ剤を主として含まないように除去される。本明細書において用いる繊維表面仕上げ剤を「主として含まない」繊維とは、それらの仕上げ剤の少なくとも50重量%が除去され、より好ましくはそれらの仕上げ剤の少なくとも約75重量%が除去されている繊維である。繊維は繊維表面仕上げ剤を実質的に含まないことが更により好ましい。繊維仕上げ剤を「実質的に含まない」繊維とは、それらの仕上げ剤の少なくとも約90重量%が除去され、最も好ましくはそれらの仕上げ剤の少なくとも約95重量%が除去されていて、それにより従前は繊維表面仕上げ剤によって被覆されていた繊維表面積の少なくとも約90%又は少なくとも約95%を露出させた繊維である。最も好ましくは、残留仕上げ剤は、繊維の重量+仕上げ剤の重量を基準として約0.5重量%以下、好ましくは繊維の重量+仕上げ剤の重量を基準として約0.4重量%以下、より好ましくは約0.3重量%以下、より好ましくは約0.2重量%以下、最も好ましくは約0.1重量%以下の量で存在する。
【0017】
繊維仕上げ剤組成物の表面張力によって、仕上げ剤は、相当量の仕上げ剤が除去される場合であっても、それ自体を繊維表面上に分配させる傾向を示すことができる。而して、繊維表面仕上げ剤を主として含まない繊維は、その表面領域の一部が繊維仕上げ剤の非常に薄い被覆によってなお被覆されている可能性がある。しかしながら、この残留する繊維仕上げ剤は、通常は、連続被覆ではなく仕上げ剤のまだら状の残留物として存在する。したがって、繊維表面仕上げ剤を主として含まない表面を有する繊維は、好ましくは、その表面が少なくとも部分的に露出されて繊維仕上げ剤によって被覆されておらず、好ましくは繊維表面積の50%未満が繊維表面仕上げ剤によって被覆されている。繊維仕上げ剤の除去によって繊維表面積の50%未満が繊維表面仕上げ剤によって被覆されるようになる場合には、それにより保護被覆材料は繊維表面積の50%より多くと直接接触するようになる。
【0018】
繊維表面仕上げ剤を繊維から実質的に完全に除去して、繊維表面を実質的に完全に露出させることが最も好ましい。この点に関し、繊維表面仕上げ剤の実質的に完全な除去とは、繊維表面仕上げ剤の少なくとも約95%、より好ましくは少なくとも約97.5%、最も好ましくは少なくとも約99.0%の除去であり、これによって繊維表面は少なくとも約95%露出され、より好ましくは少なくとも約97.5%露出され、最も好ましくは少なくとも約99.0%露出される。理想的には、繊維表面仕上げ剤の100%を除去して、それによって繊維表面積の100%を露出させる。また、繊維表面仕上げ剤の除去の後、露出された繊維表面上にポリマーバインダー材料、樹脂、又は他の吸着物を施す前に除去された仕上げ剤粒子を取り除くことも好ましい。繊維仕上げ剤の最小限の除去を達成する繊維の処理によって、一般に繊維表面積の少なくとも約10%が露出するので、繊維仕上げ剤の少なくとも一部を除去するように同様に洗浄又は処理していない比較される繊維は、繊維表面積の10%未満が露出されるか、表面の露出は0%であるか、又は繊維表面の露出が実質的にない。
【0019】
機械的及び化学的技術手段の両方を包含する繊維表面仕上げ剤を除去するための任意の従来公知の方法が本発明において有用である。必要な方法は、一般に仕上げ剤の組成によって左右される。例えば、本発明の好ましい態様においては、水のみによって洗浄除去することができる仕上げ剤で繊維を被覆する。通常は、繊維仕上げ剤は、1種類以上の潤滑剤、1種類以上の非イオン性乳化剤(界面活性剤)、1種類以上の静電防止剤、1種類以上の湿潤及び凝集剤、並びに1種類以上の抗菌化合物の組み合わせを含む。本発明において好ましい仕上げ剤配合物は、水のみによって洗浄除去することができる。また、化学薬品と一緒に機械的手段を用いて化学的除去の効率を向上させることもできる。例えば、脱イオン水を用いる仕上げ剤除去の効率は、水適用プロセスの力、方向、速度等を操作することによって増大させることができる。
【0020】
最も好ましくは、繊維は水によって、好ましくは脱イオン水を用いて洗浄し及び/又はすすぎ、場合によっては洗浄後に繊維を乾燥し、他の化学薬品は用いない。仕上げ剤が水溶性でない他の態様においては、仕上げ剤は、例えば研磨洗浄剤、化学洗浄剤、又は酵素洗浄剤によって除去又は洗浄除去することができる。例えば、米国特許5,573,850及び5,601,775(参照として本明細書中に包含する)においては、非イオン性界面活性剤(Charlotte, N.C.のClariant Corporationから商業的に入手できるHOSTAPUR(登録商標)CX)、リン酸三ナトリウム、及び水酸化ナトリウムを含む浴にヤーンを通し、次に繊維をすすぐことが教示されている。他の有用な化学薬品としては、非排他的に、メタノール、エタノール、及び2−プロパノールのようなアルコール;シクロヘキサン及びトルエンのような脂肪族及び芳香族炭化水素;ジクロロメタン及びトリクロロメタンのような塩素化溶媒;が挙げられる。繊維を洗浄することによって他の表面汚染物質も除去され、繊維と樹脂又は他の被覆材料との間のより密な接触が可能になる。
【0021】
水によって繊維を洗浄するために用いるのに好ましい手段は、繊維から繊維表面仕上げ剤を実質的に除去する能力の他には限定することは意図しない。好ましい方法においては、仕上げ剤の除去は、概して平行の繊維のウエブ又は連続アレイを加圧水ノズルに通して、繊維から仕上げ剤を洗浄(又はすすぎ)及び/又は物理的に除去することを含む方法によって達成される。繊維は、場合によっては、かかる加圧水ノズルに繊維を通す前に水浴中に予め浸漬するか、及び/又は加圧水ノズルに繊維を通した後に浸漬することができ、また場合によっては随意的な浸漬工程の後に繊維を更なる加圧水ノズルに通すことによってすすぐこともできる。洗浄/浸漬/すすぎを行った繊維は、また好ましくは洗浄/浸漬/すすぎが完了した後に乾燥する。繊維を洗浄するために用いる装置及び手段は、布帛ではなく、即ちそれらを織成するか又は不織繊維層若しくはプライに形成する前に、個々のマルチフィラメント繊維/マルチフィラメントヤーンを洗浄することができなければならない点を除いて限定することは意図しない。
【0022】
繊維表面仕上げ剤を所望程度まで除去(及び必要な場合には乾燥)した後、繊維を、繊維表面の表面エネルギーを増大させるのに有効な処理にかける。有用な処理としては、非排他的に、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、酸エッチング、紫外(UV)光処理、又は時間経過と共に経時変化又は減衰する可能性がある任意の他の処理が挙げられる。また、繊維表面仕上げ剤の除去の後に繊維上に保護層を施すことは、それらをその後に処理しない場合、或いは露出された繊維表面を繊維表面エネルギーを変化させない処理で処理する場合であっても、繊維に対して有益であることも認められた。これは、合成繊維は性質上帯電しやすく、繊維の結合を維持するためには幾つかの形態の潤滑が必要であることが一般的に知られているからである。保護層は繊維の表面に十分な潤滑を与えて、それによって繊維を装置から保護し、装置を繊維から保護する。これはまた帯電を減少させ、有用な複合材料への更なる加工を容易にする。したがって、保護被覆は数多くの利益を有しているので、繊維表面エネルギーを変化させず、処理の減衰のリスクを有しない繊維表面処理も本発明の範囲内である。
【0023】
しかしながら最も好ましくは、繊維は繊維表面の表面エネルギーを増大させるのに有効な処理で処理し、最も好ましい処理はプラズマ処理及びコロナ処理である。プラズマ処理及びコロナ処理は両方とも、繊維を繊維表面において変性し、それによって繊維表面上にその後に施される保護被覆の結合を増強させる。繊維仕上げ剤を除去することによって、これらの更なるプロセスを、繊維表面仕上げ剤の上又は表面汚染物質の上ではなく、繊維の表面上に直接作用させることが可能になる。プラズマ処理及びコロナ処理はそれぞれ、バルク繊維と繊維表面被覆との間の相互作用を最適にして、保護被覆及びその後に施されるポリマー/樹脂バインダー(ポリマー/樹脂マトリクス)被覆の繊維表面への固定を向上させるために特に望ましい。
【0024】
コロナ処理は、通常は繊維のウエブ又は連続アレイの形態の繊維をコロナ放電装置に通して、それによって繊維表面の表面エネルギーを増大させる一連の高電圧電気放電に繊維を通す方法である。繊維表面の表面エネルギーを増大させるのに加えて、コロナ処理によって、例えば繊維の表面中に小さい凹み又は孔を焼成することによって繊維表面を穿孔及び粗面化することもでき、また、繊維の表面を部分的に酸化することによって表面に極性官能基を導入することもできる。コロナ処理繊維が易酸化性である場合には、酸化の程度は、コロナ処理の出力、電圧、及び周波数のようなファクターによって左右される。コロナ放電場内での滞留時間も1つのファクターであり、これはコロナ処理装置の設計又はプロセスのライン速度によって操作することができる。好適なコロナ処理ユニットは、例えばEnercon Industries Corp., Menomonee Falls, Wis.、Sherman Treaters Ltd, Thame, Oxon,英国、又はHamburg,ドイツのSoftal Corona & Plasma GmbH & Coから入手できる。
【0025】
好ましい態様においては、繊維を約2W/ft/分〜約100W/ft/分、より好ましくは約5W/ft/分〜約50W/ft/分、最も好ましくは約20W/ft/分〜約50W/ft/分のコロナ処理にかける。約1W/ft/分〜約5W/ft/分のより低エネルギーのコロナ処理も有用であるが、効果がより低い可能性がある。
【0026】
プラズマ処理においては、酸素、アルゴン、ヘリウム、アンモニア、又は他の適当な不活性若しくは非不活性ガス(上記の複数のガスの組合せを含む)のような不活性若しくは非不活性ガスを充填したチャンバー内において、繊維をイオン化雰囲気に通して、それによって繊維を、中性分子、イオン、遊離基、並びに紫外光の組み合わせと接触させる。繊維表面において、表面が荷電粒子(イオン)と衝突することによって、運動エネルギーの移動及び電子の交換の両方などが引き起こされて、それによって繊維表面の表面エネルギーが増大する。表面と遊離基との間の衝突によって同様の化学転位が引き起こされる。繊維基材に対する化学変化はまた、励起原子によって発光される紫外光、及びより低いエネルギー状態に緩和する分子が繊維表面と衝突することによっても引き起こされる。これらの相互作用の結果として、プラズマ処理によって繊維の化学構造及び繊維表面の形態の両方を変化させることができる。例えば、コロナ処理と同様に、プラズマ処理によって、繊維表面に極性を付加し、及び/又は繊維表面基を酸化することもできる。プラズマ処理はまた、繊維の接触角を減少させ、繊維表面の架橋密度を増加させて、それによって硬度、融点、及びその後の被覆の物質固定を上昇させるように働かせることもでき、繊維表面に化学官能基を付加し、繊維表面を潜在的に除去することができる。これらの効果は、同様に繊維の化学的性質によって左右され、用いるプラズマのタイプによっても左右される。
【0027】
表面の化学構造は異なるプラズマガスを用いると異なって変性されるので、ガスの選択は所望の表面処理のために重要である。これは当業者によって決定される。例えば、アンモニアプラズマを用いてアミン官能基を繊維表面に導入することができ、一方、酸素プラズマを用いることによってカルボキシル及びヒドロキシル基を導入することができることが公知である。したがって、反応性雰囲気には、アルゴン、ヘリウム、酸素、窒素、アンモニア、及び/又は布帛のプラズマ処理のために好適であることが公知の他のガスの1以上を含ませることができる。反応性雰囲気には、原子、イオン、分子、又は遊離基形態のこれらのガスの1以上を含ませることができる。例えば、本発明の好ましい連続プロセスにおいては、繊維のウエブ又は連続アレイを、好ましくはアルゴン原子、酸素分子、アルゴンイオン、酸素イオン、酸素遊離基、並びに他の微量種を含む制御された反応性雰囲気に通す。好ましい態様においては、反応性雰囲気は、アルゴン及び酸素の両方を、約90%〜約95%のアルゴン及び約5%〜約10%の酸素の濃度で含み、アルゴン/酸素の90/10又は95/5の濃度が好ましい。他の好ましい態様においては、反応性雰囲気は、ヘリウム及び酸素の両方を、約90%〜約95%のヘリウム及び約5%〜約10%の酸素の濃度で含み、ヘリウム/酸素の90/10又は95/5の濃度が好ましい。他の有用な反応性雰囲気はゼロガス雰囲気、即ち約79%の窒素、約20%の酸素、及び少量の他のガスを含む室内空気であり、これはコロナ処理のためにもある程度は有用である。
【0028】
プラズマ処理は、主として、プラズマ処理がガスの制御された反応性雰囲気中で行われ、これに対してコロナ処理においては反応性雰囲気が空気である点でコロナ処理と異なる。プラズマ処理装置内の雰囲気は容易に制御及び維持して、コロナ処理よりもより制御可能で柔軟な方法で表面極性を達成することを可能にすることができる。放電は、気体を電子、イオン、遊離基、及び準安定生成物に解離する高周波(RF)エネルギーによる。プラズマ中で生成する電子及び遊離基が繊維表面と衝突し、共有結合を開裂させ、繊維表面上に遊離基を生成させる。バッチプロセスにおいては、所定の反応時間又は温度の後、プロセスガス及びRFエネルギーを停止して、残留ガス及び他の副生成物を除去する。本発明において好ましい連続プロセスにおいては、選択された反応性ガスの原子、分子、イオン、及び/又は遊離基、並びに他の微量種を含む制御された反応性雰囲気に繊維のウエブ又は連続アレイを通す。反応性雰囲気は絶えず生成及び補充して(これによって安定状態の組成に到達すると思われる)、プラズマ機を停止させるまでは停止又はクエンチしない。
【0029】
プラズマ処理は、Hamburg,ドイツのSoftal Corona & Plasma GmbH & Co.;Belmont, Californiaの4th State, Inc.;Elgin, IllinoisのPlasmatreat US LP;Milwaukee, WisconsinのEnercon Surface Treating Systems;から入手できるプラズマ処理機のような任意の有用な商業的に入手できるプラズマ処理機を用いて行うことができる。プラズマ処理は、真空下に維持されているチャンバー内か、又は大気条件に維持されているチャンバー内において行うことができる。大気システムを用いる場合には、完全に閉止されたチャンバーは必須ではない。非真空環境内、即ち完全真空又は不完全真空のいずれにも維持されていないチャンバー内で繊維をプラズマ処理又はコロナ処理することによって、繊維分解の可能性が増加する可能性がある。これは、反応性種の濃度が処理圧力に比例するからである。この増加する繊維分解の可能性は、処理チャンバー内での滞留時間を減少させることによって阻止することができる。真空下での繊維の処理は、長い処理滞留時間の必要性をもたらす。これにより通常は、約15%〜20%の繊維テナシティーのような繊維の強度特性の損失が望ましくなく引き起こされる。処理の攻撃性は、処理のエネルギーフラックスを減少させることによって低下させることができるが、これは繊維上における被覆の結合を向上させる点での処理の有効性を犠牲にする。しかしながら、繊維仕上げ剤を少なくとも部分的に除去した後に繊維処理を行うと、繊維テナシティーの損失は5%未満、通常は2%未満、又は1%未満であり、しばしば全く損失がなく、幾つかの場合においては、繊維の強度特性は実際には増加し、これは繊維表面の直接処理によってポリマー繊維の架橋密度が増加するためである。繊維仕上げ剤を少なくとも部分的に除去した後に繊維処理を行う場合には、処理は、遙かにより有効であり、被覆の結合の向上を犠牲にすることなく、種々のエネルギーフラックスのレベルにおいて攻撃性のより低い非真空環境において行うことができる。本発明の最も好ましい態様においては、高テナシティー繊維を、ほぼ大気圧又は大気圧より高い圧力に維持されているチャンバー内でプラズマ処理又はコロナ処理にかける。二次的な利益として、真空下での処理は1回に1つの繊維の処理に制限されるのに対して、大気圧下でのプラズマ処理は1回に1つより多い繊維を処理することが可能である。
【0030】
好ましいプラズマ処理プロセスは、ほぼ大気圧、即ち1気圧(760mmHg(760トル))において、ほぼ室温(70°F〜72°F)のチャンバー温度を用いて行う。プラズマチャンバーの内部の温度は処理プロセスによって潜在的に変化する可能性があるが、温度は一般に処理中に独立して冷却又は加熱せず、繊維はプラズマ処理装置を迅速に通過するので繊維の処理には影響しないと考えられる。プラズマ電極と繊維ウエブとの間の温度は、通常は約100℃である。プラズマ処理プロセスは、好ましくは制御可能なRF出力設定値を有するプラズマ処理装置内で行う。有用なRF出力設定値は、一般にプラズマ処理装置の寸法によって左右され、それにしたがって変動する。プラズマ処理装置からの出力は、プラズマ処理区域の幅(又は電極の長さ)にわたって分配し、この出力はまた、繊維ウエブをプラズマ処理装置の反応性雰囲気に通すライン速度に反比例する速度で基材又は繊維ウエブの長さにわたって分配する。この単位面積あたり単位時間あたりのエネルギー(平方フィートあたり分あたりのワット数、又はW/ft/分)又はエネルギーフラックスは、処理レベルを比較するのに有用な手段である。エネルギーフラックスに関する有効値は、好ましくは約0.5W/ft/分〜約200W/ft/分、より好ましくは約1W/ft/分〜約100W/ft/分、更により好ましくは約1W/ft/分〜約80W/ft/分、更により好ましくは約2W/ft/分〜約40W/ft/分、最も好ましくは約2W/ft/分〜約20W/ft/分である。
【0031】
一例として、大気圧に設定された30インチ(76.2cm)の比較的狭い処理区域を有するプラズマ処理装置を用いる場合には、プラズマ処理プロセスは、好ましくは、約0.5kW〜約3.5kW、より好ましくは約1.0kW〜約3.05kWのRF出力設定値において行い、最も好ましくは2.0kWに設定したRF出力を用いて行う。この寸法のプラズマ処理装置に関する全気体流速は、好ましくは約16L/分であるが、これは厳密に限定することは意図しない。より大きなプラズマ処理ユニットは、10kW、12kW、又は更により大きなより高いRF出力設定値が可能であり、且つより小さいプラズマ処理装置と比べてより高い気体流速において運転することができる。
【0032】
全気体流速はプラズマ処理区域の幅にわたって分配されるので、プラズマ処理装置のプラズマ処理区域の長さ/幅が増加するのに伴って更なる気体流が必要な可能性がある。例えば、2倍の処理区域の幅を有するプラズマ処理装置は、1倍の処理区域の幅を有するプラズマ処理装置と比べて2倍多い気体流が必要な可能性がある。繊維のプラズマ処理時間(又は滞留時間)も、用いるプラズマ処理装置の寸法に対して相対的なものであり、厳密に限定することは意図していない。好ましい大気システムにおいては、約1/2秒間〜約3秒間の滞留時間で繊維をプラズマ処理に曝露し、平均滞留時間は約2秒間である。この曝露のより適切な指標は、単位面積あたり時間あたりに繊維に施されるRF出力(エネルギーフラックスとも呼ばれる)の観点でのプラズマ処理の量である。
【0033】
繊維表面の表面エネルギーを増大させる処理の後、処理された繊維表面の少なくとも一部の上に保護被覆を施して、それによって処理されて被覆された繊維を形成する。表面処理の直後に処理された繊維表面を被覆することは、繊維製造プロセスの中断が最も少なく、繊維を変性されて保護されていない状態に曝す時間が最も短いので最も好ましい。より重要なことには、表面エネルギーを増大させる処理は時間経過と共に減衰又は経時変化し、繊維は最終的にはそれらの未処理の元々の表面エネルギーレベルに戻ることが公知であるので、表面処理の後に処理された繊維の上にポリマー又は樹脂被覆を施すことは、繊維処理によって得られる増大したエネルギーレベルを保持するために有効であることが見出された。最も好ましくは、繊維表面の表面エネルギーを増大させる処理の直後に、処理された繊維表面の少なくとも一部の上に保護被覆を施して、繊維が処理されて未被覆の状態に曝される時間を最も短くして表面エネルギーの減衰を最小にする。
【0034】
保護被覆は、任意のモノマー、オリゴマー、ポリマー、又は樹脂、並びに任意の有機又は無機ポリマー及び樹脂などの任意の固体、液体、又は気体であってよい。保護被覆には、耐弾性複合材料の技術分野においてポリマーマトリクス又はポリマーバインダー材料として伝統的に用いられている任意のポリマー又は樹脂を含ませることができるが、保護被覆は布帛層又は繊維プライではなく個々の繊維に施し、少量、即ち繊維の重量+保護被覆の重量を基準として約5重量%未満の量施す。より好ましくは、保護被覆は、繊維の重量+保護被覆の重量を基準として約3重量%以下、更により好ましくは約2.5重量%以下、更により好ましくは約2.0重量%以下、更により好ましくは約1.5重量%以下を構成し、最も好ましくは、保護被覆は繊維の重量+保護被覆の重量を基準として約1.0重量%以下を構成する。
【0035】
好適な保護被覆ポリマーには、非排他的に低弾性率のエラストマー材料及び高弾性率の硬質材料の両方が含まれるが、最も好ましくは、保護被覆は、熱可塑性ポリマー、特に低弾性率のエラストマー材料を含む。本発明の目的のためには、低弾性率のエラストマー材料は、ASTM−D638試験手順にしたがって約6,000psi(41.4MPa)以下の測定引張弾性率を有する。低弾性率のエラストマー材料は、好ましくは、約4,000psi(27.6MPa)以下、より好ましくは約2400psi(16.5MPa)以下、更により好ましくは1200psi(8.23MPa)以下の引張弾性率を有し、最も好ましくは約500psi(3.45MPa)以下である。エラストマーのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは約0℃未満、より好ましくは約−40℃未満、最も好ましくは約−50℃未満である。低弾性率のエラストマー材料はまた、少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約100%の好ましい破断伸びも有し、最も好ましくは少なくとも約300%の破断伸びを有する。
【0036】
代表例としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ラバー、エチレン−プロピレンコポリマー、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー、ポリスルフィドポリマー、ポリウレタンエラストマー、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリクロロプレン、可塑化ポリ塩化ビニル、ブタジエンアクリロニトリルエラストマー、ポリ(イソブチレン−co−イソプレン)、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリエーテル、フルオロエラストマー、シリコーンエラストマー、エチレンのコポリマー、ポリアミド(一部の繊維のタイプに関して有用である)、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリカーボネート、及びこれらの組み合わせ、並びに繊維の融点より低い温度で硬化可能な他の低弾性率ポリマー及びコポリマーが挙げられる。異なるエラストマー材料のブレンド、又はエラストマー材料と1種類以上の熱可塑性材料とのブレンドもまた好ましい。
【0037】
共役ジエン及びビニル芳香族モノマーのブロックコポリマーが特に有用である。ブタジエン及びイソプレンが好ましい共役ジエンエラストマーである。スチレン、ビニルトルエン、及びt−ブチルスチレンが好ましい共役芳香族モノマーである。ポリイソプレンを導入したブロックコポリマーは、水素化して飽和炭化水素エラストマーセグメントを有する熱可塑性エラストマーを生成させることができる。ポリマーは、タイプA−B−Aの簡単なトリブロックコポリマー、タイプ(AB)(n=2〜10)のマルチブロックコポリマー、又はタイプR−(BA)(x=3〜150)の放射形状のコポリマー(ここで、Aはポリビニル芳香族モノマーからのブロックであり、Bは共役ジエンエラストマーからのブロックである)であってよい。これらのポリマーの多くは、Houston, TXのKraton Polymersによって商業的に製造されており、刊行物"Kraton Thermoplastic Rubber", SC-68-81に記載されている。PRINLIN(登録商標)の商標で販売されており、Dusseldorf,ドイツに本拠を置くHenkel Technologiesから商業的に入手できるスチレン−イソプレン−スチレン(SIS)ブロックコポリマーの樹脂分散液もまた有用である。特に好ましい低弾性率ポリマーバインダーのポリマーは、Kraton Polymersによって商業的に製造されており、KRATON(登録商標)の商標で販売されているスチレンブロックコポリマーを含む。特に好ましいポリマーバインダー材料は、KRATON(登録商標)の商標で販売されているポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンブロックコポリマーを含む。
【0038】
また、アクリルポリマー及びアクリルコポリマーも特に好ましい。アクリルポリマー及びコポリマーは、それらの直鎖炭素骨格によって加水分解安定性が与えられるので好ましい。アクリルポリマーはまた、商業的に製造される材料において得られる広範囲の物理特性のためにも好ましい。好ましいアクリルポリマーとしては、非排他的に、アクリル酸エステル、特にメチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、2−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−ブチルアクリレート及びtert−ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、及び2−エチルヘキシルアクリレートのようなモノマーから誘導されるアクリル酸エステルが挙げられる。好ましいアクリルポリマーとしてはまた、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、2−プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−ブチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、及び2−エチルヘキシルメタクリレートのようなモノマーから誘導されるメタクリル酸エステルも特に挙げられる。任意のこれらの構成モノマーから形成されるコポリマー及びターポリマー、並びにアクリルアミド、n−メチロールアクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸、及びマレイン酸無水物も含むものも好ましい。また、非アクリルモノマーで変性されている変性アクリルポリマーも好適である。例えば、(a)エチレン、プロピレン、及びイソブチレンなどのオレフィン;(b)スチレン、N−ビニルピロリドン、及びビニルピリジン;(c)ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、及びビニルn−ブチルエーテルなどのビニルエーテル;(d)酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ラウリン酸ビニル、及びデカン酸ビニルなどの脂肪族カルボン酸のビニルエステル;並びに(f)塩化ビニル、塩化ビニリデン、二塩化エチレン、及び塩化プロペニルなどのビニルハロゲン化物;のような好適なビニルモノマーを導入したアクリルコポリマー及びアクリルターポリマーである。同様に好適であるビニルモノマーは、特に、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジヘキシル、マレイン酸ジオクチル、フマル酸ジブチル、フマル酸ジヘキシル、及びフマル酸ジオクチルなどの2〜10個の炭素原子、好ましくは3〜8個の炭素原子を有する一価アルカノールのマレイン酸ジエステル及びフマル酸ジエステルである。
【0039】
約2,000psi(13.79MPa)〜約8,000psi(55.16MPa)の範囲の引張弾性率の軟質及び硬質材料の両方の範囲内の極性樹脂又は極性ポリマー、特にポリウレタンが、具体的には最も好ましい。好ましいポリウレタンは、最も好ましくは共溶媒を含まない水性ポリウレタン分散液として施す。これらとしては、水性のアニオン性ポリウレタン分散液、水性のカチオン性ポリウレタン分散液、及び水性の非イオン性ポリウレタン分散液が挙げられる。水性のアニオン性ポリウレタン分散液が特に好ましく、水性のアニオン性脂肪族ポリウレタン分散液が最も好ましい。これらとしては、水性のアニオン性ポリエステル系ポリウレタン分散液;水性の脂肪族ポリエステル系ポリウレタン分散液;及び水性のアニオン性脂肪族ポリエステル系ポリウレタン分散液;が挙げられ、これらは全て好ましくは共溶媒を含まない分散液である。これらとしてはまた、水性のアニオン性ポリエーテルポリウレタン分散液;水性の脂肪族ポリエーテル系ポリウレタン分散液;及び水性のアニオン性脂肪族ポリエーテル系ポリウレタン分散液;も挙げられ、これらは全て好ましくは共溶媒を含まない分散液である。水性のカチオン性及び水性の非イオン性分散液の全ての対応する変形体(ポリエステル系;脂肪族ポリエステル系;ポリエーテル系;脂肪族ポリエーテル系等)は同様に好ましい。約700psi以上(特に好ましい範囲は700psi〜約3000psiである)の100%伸びにおける弾性率を有する脂肪族ポリウレタン分散液が最も好ましい。約1000psi以上、更により好ましくは約1100psi以上の100%伸びにおける弾性率を有する脂肪族ポリウレタン分散液がより好ましい。1000psi以上、好ましくは1100psi以上の弾性率を有する脂肪族ポリエーテル系アニオン性ポリウレタン分散液が最も好ましい。
【0040】
保護被覆は、当業者によって容易に決定される任意の適当な方法を用いて、処理された繊維表面上に直接施し、「被覆」という用語は、それを繊維上に施す方法を限定することは意図しない。用いる方法は、それぞれの処理された繊維を保護被覆で少なくとも部分的に被覆し、好ましくはそれぞれの個々の繊維を実質的に被覆又は封入して、それによってフィラメント/繊維の表面領域の全部又は実質的に全部を保護被覆でカバーしなければならない。保護被覆は単一の繊維又は複数の繊維に同時か又は逐次的に施すことができ、ここで複数の繊維はアレイ状に並べて配列して、アレイとして保護被覆で被覆することができる。
【0041】
本発明において処理する繊維は、プラズマ/コロナ処理の前に少なくとも約18g/デニールで約27g/デニール以下のテナシティーを有する部分配向繊維である。上述したように、部分配向繊維/ヤーンは後延伸しておらず、したがって繊維/ヤーンのテナシティーを27g/デニールより高く増加させる後延伸した高配向繊維/ヤーンよりも低いテナシティーを有する。例えば、超高分子量ポリエチレンから製造されるゲル紡糸ヤーンを製造するために好ましい方法においては、UHMW−PE及び紡糸溶媒を含むスラリーを押出機に供給して液体混合物を生成させ、次に液体混合物を加熱容器に通してUHMW−PE及び紡糸溶媒を含む均一溶液を形成し;次にこの溶液を加熱容器から紡糸口金に供給して溶液ヤーンを形成し;次に紡糸口金から流出する溶液ヤーンを約1.1:1〜約30:1の延伸比で延伸して延伸溶液ヤーンを形成し;次に延伸溶液ヤーンをUHMW−PEポリマーのゲル化点より低い温度に冷却してゲルヤーンを形成し;次にゲルヤーンを1以上の段階で1回以上延伸し;次に紡糸溶媒をゲルヤーンから除去して乾燥ヤーンを形成し;次に乾燥ヤーンを少なくとも1段階で延伸して部分配向ヤーンを形成する。このプロセスは、共に所有されている米国特許出願公開2011/0266710及び2011/0269359においてより詳細に開示されている。
【0042】
繊維を形成するポリマーは、好ましくは耐弾性複合材料/布帛の製造に好適な高強度で高引張弾性率の繊維である。耐弾性複合材料及び物品を形成するために特に好適である特に好適な高強度で高引張弾性率の繊維材料としては、ポリオレフィン繊維、例えば高密度及び低密度ポリエチレンが挙げられる。高配向高分子量ポリエチレン繊維、特に超高分子量ポリエチレン繊維、及びポリプロピレン繊維、特に超高分子量ポリプロピレン繊維のような伸びきり鎖ポリオレフィン繊維が特に好ましい。アラミド繊維、特にパラアラミド繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、伸び切り鎖ポリビニルアルコール繊維、伸び切り鎖ポリアクリロニトリル繊維、ポリベンズオキサゾール(PBO)及びポリベンゾチアゾール(PBT)繊維のようなポリベンザゾール繊維、液晶コポリエステル繊維、及びM5(登録商標)繊維のような硬質ロッド繊維もまた好適である。これらの繊維のタイプのそれぞれは当該技術において従来公知である。また、上記の材料のコポリマー、ブロックポリマー、及びブレンドも、ポリマー繊維を製造するために好適である。
【0043】
耐弾性布帛のために最も好ましい繊維のタイプとしては、ポリエチレン、特に伸び切り鎖ポリエチレン繊維、アラミド繊維、ポリベンザゾール繊維、液晶コポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、特に高配向伸び切り鎖ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアクリロニトリル繊維、及び硬質ロッド繊維、特にM5(登録商標)繊維が挙げられる。具体的に最も好ましい繊維は、ポリオレフィン繊維、特にポリエチレン及びポリプロピレン繊維のタイプである。
【0044】
ポリエチレンの場合においては、好ましい繊維は、少なくとも500,000、好ましくは少なくとも1,000,000、より好ましくは2,000,000〜5,000,000の間の分子量を有する伸び切り鎖ポリエチレンである。かかる伸び切り鎖ポリエチレン(ECPE)繊維は、米国特許4,137,394又は4,356,138(参照として本明細書中に包含する)に記載されているような溶液紡糸プロセスにおいて成長させることができ、或いは米国特許4,551,296及び5,006,390(これも参照として本明細書中に包含する)に記載されているように溶液から紡糸してゲル構造を形成することができる。本発明において用いるのに特に好ましい繊維のタイプは、Honeywell International Inc.からSPECTRA(登録商標)の商標で販売されているポリエチレン繊維である。SPECTRA(登録商標)繊維は当該技術において周知であり、例えば米国特許4,413,110;4,440,711;4,535,027;4,457,985;4,623,547;4,650,710;及び4,748,064;並びに同時係属中の出願公開2011/0266710及び2011/0269359;(これらは全て本発明と矛盾しない範囲で参照として本明細書中に包含する)に記載されている。ポリエチレンに加えて、他の有用なポリオレフィン繊維のタイプは、Spartanburg, South CarolinaのMilliken & Companyから商業的に入手できるTEGRIS(登録商標)繊維のようなポリプロピレン(繊維又はテープ)である。
【0045】
また、アラミド(芳香族ポリアミド)又はパラアラミド繊維も特に好ましい。これらは商業的に入手することができ、例えば米国特許3,671,542に記載されている。例えば、有用なポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)フィラメントは、DuPontによってKEVLAR(登録商標)の商標で商業的に製造されている。また、DuPontによってNOMEX(登録商標)の商標で商業的に製造されているポリ(m−フェニレンイソフタルアミド)繊維、及びTeijinによってTWARON(登録商標)の商標で商業的に製造されている繊維;韓国のKolon Industries, Inc.によってHERACRON(登録商標)の商標で商業的に製造されているアラミド繊維;ロシアのKamensk Volokno JSCによって商業的に製造されているp−アラミド繊維のSVM(登録商標)及びRUSAR(登録商標)、及びロシアのJSC Chim Voloknoによって商業的に製造されているARMOS(登録商標)p−アラミド繊維も、本発明の実施において有用である。
【0046】
本発明を実施するために好適なポリベンザゾール繊維は商業的に入手することができ、例えば米国特許5,286,833、5,296,185、5,356,584、5,534,205、及び6,040,050(これらのそれぞれを参照として本明細書中に包含する)において開示されている。本発明を実施するために好適な液晶コポリエステル繊維は商業的に入手することができ、例えば米国特許3,975,487;4,118,372;及び4,161,470(これらのそれぞれを参照として本明細書中に包含する)において開示されている。好適なポリプロピレン繊維としては、米国特許4,413,110(参照として本明細書中に包含する)に記載されている高配向の伸び切り鎖ポリプロピレン(ECPP)繊維が挙げられる。好適なポリビニルアルコール(PV−OH)繊維は、例えば米国特許4,440,711及び4,599,267(参照として本明細書中に包含する)に記載されている。好適なポリアクリロニトリル(PAN)繊維は、例えば米国特許4,535,027(参照として本明細書中に包含する)において開示されている。これらの繊維のタイプのそれぞれは従来公知であり、広く商業的に入手することができる。
【0047】
M5(登録商標)繊維は、ピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)から形成され、Richmond, VirginiaのMagellan Systems Internationalによって製造されており、例えば米国特許5,674,969、5,939,553、5,945,537、及び6,040,478(これらのそれぞれを参照として本明細書中に包含する)に記載されている。全ての上記の材料の組み合わせ(これらは全て商業的に入手できる)もまた好適である。例えば、アラミド繊維、UHMWPE繊維(例えばSPECTRA(登録商標)繊維)、炭素繊維等、並びにガラス繊維及び他のより低い性能の材料の1以上の組み合わせから繊維層を形成することができる。しかしながら、本発明方法は主としてポリエチレン及びポリプロピレン繊維に適している。
【0048】
被覆したら、処理されて被覆された部分配向繊維/ヤーンを、次に1以上の乾燥機を含む後延伸装置に送って、ここでこれらを高配向繊維/ヤーンに最終転化させるために再び延伸/配向し、一方同時に被覆を繊維上で乾燥する。乾燥機は、好ましくは約125℃〜約160℃の温度に維持されている強制対流空気オーブンである。好ましくは、後延伸装置は、水平に並べて互いに対して隣接して配置されているか、或いは互いの上に垂直に配置されているか、或いはこれらの組み合わせで配置されている複数のオーブンを含む。当業者によって決定されるように、被覆を乾燥するための他の手段を用いることもできる。
【0049】
後延伸操作には、例えば米国特許6,969,553、米国特許7,370,395、又は米国公開出願2005/0093200(これらのそれぞれはその全部を参照として本明細書中に包含する)に記載されている条件を含ませることができる。後延伸プロセスの一例を図1に示す。示されている後延伸装置200は、加熱装置202、加熱装置202の外部であるロールの第1の組204、及び加熱装置202の外部であるロールの第2の組206を含む。部分配向繊維208を供給源から供給して、ロールの第1の組204の上に通すことができる。ロールの第1の組204は駆動ロールであり、これは所望の速度で回転させて部分配向繊維208を所望の供給速度で加熱装置202に供給するように運転することができる。ロールの第1の組204には複数の個々のロール210を含ませることができる。一例においては、最初の数個の個々のロール210は加熱せず、残りの個々のロール210は、部分配向繊維208のフィラメントが加熱装置202に導入される前にそれを予備加熱するために加熱する。図1に示すロールの第1の組204は合計で7個の個々のロール210を含んでいるが、個々のロール210の数は、所望の構造に応じてより多いか又はより少なくすることができる。
【0050】
図1の態様においては、部分配向繊維208を、6個の隣接する水平のオーブン212、214、216、218、220、及び220を含む加熱装置202中に供給するが、任意の好適な数のオーブンを用いることができ、それぞれのオーブンはそれぞれ所望の繊維経路長を与えるのに好適な任意の長さを有していてよい。例えば、それぞれのオーブンは、長さ約10フィート〜約16フィート(3.05メートル〜4.88メートル)、より好ましくは長さ約11フィート〜約13フィート(3.35メートル〜3.96メートル)であってよい。加熱装置202を通る部分配向繊維208の温度及び速度は、所望に応じて変化させることができる。例えば、それぞれの区域が約125℃〜約160℃、より好ましくは約130℃〜約160℃、又は約150℃〜約160℃の温度を有する1以上の温度制御区域を加熱装置202内に存在させることができる。好ましくは、区域内の温度は、変動が±2℃未満(合計で4℃未満)、より好ましくは±1℃未満(合計で2℃未満)になるように制御する。
【0051】
加熱装置202内の部分配向繊維208の経路はほぼ直線状にすることができる。後延伸プロセス中の部分配向繊維208の張力プロファイルは、種々のロールの速度を調節するか、又は加熱装置202の温度プロファイルを調節することによって調節することができる。例えば、部分配向繊維208の張力は、連続する駆動ロールの速度の間の差を増加させるか、或いは加熱装置202における温度を低下させることによって増加させることができる。好ましくは、加熱装置202中における部分配向繊維208の張力は、ほぼ一定にするか、或いは加熱装置202を通して増加させる。
【0052】
加熱された繊維224が最後のオーブン222から排出され、これは次にロールの第2の組206の上を通して、それによって完成品の高配向繊維生成物226を形成することができる。ロールの第2の組206は、所望の速度で回転させて被覆された部分配向ヤーンに関する延伸比を設定し、加熱された繊維222を加熱装置202から取り出すように運転されている駆動ロールであってよい。ロールの第2の組206には複数の個々のロール228を含ませることができる。図1に示すロールの第2の組206は合計で7個の個々のロール228を含んでいるが、個々のロール228の数は、所望の構造に応じてより多いか又はより少なくすることができる。更に、ロールの第2の組206における個々のロール228の数は、ロールの第1の組204における個々のロール210の数と同じにするか又は相違させることができる。好ましくは、ロールの第2の組206を冷却して、完成品の高配向繊維生成物226を張力下で少なくとも約90℃より低い温度に冷却してその配向及び形態を保持することができる。
【0053】
加熱装置202の別の態様を図2に示す。図2に示すように、加熱装置202に、単一のオーブン300のような1以上のオーブンを含ませることができる。それぞれのオーブンは、好ましくは図1を参照して上記に記載したものと同じ条件を有する強制対流空気オーブンである。オーブン300は任意の好適な長さを有していてよく、一態様においては長さ約10フィート〜約20フィート(3.05〜6.10メートル)であってよい。オーブン300に1以上の中間ロール302を含ませることができ、加熱装置202内における部分配向繊維208の移動経路を増加させるために、オーブン300内においてこの上に部分配向繊維208を通してその方向を変化させることができる。1以上の中間ロール302のそれぞれは、所定の速度で回転する駆動ロール、或いは部分配向繊維208がその上を通過する際に自由回転することができるアイドラーロールであってよい。更には、1以上の中間ロール302のそれぞれは示されるようにオーブン300の内部に配置することができ、或いは1以上の中間ロール302はオーブン300の外部に配置することができる。1以上の中間ロール302を用いることによって加熱装置202の有効長さが増加する。所望の全繊維経路長を与えるように、任意の好適な数の中間ロールを用いることができる。加熱装置202からは、高配向繊維/ヤーン生成物226が排出される。
【0054】
好ましい後延伸操作においては、後延伸は、好ましくは約1.8:1〜約15:1、より好ましくは約2.5:1〜約10:1の延伸比、最も好ましくは約3.0:1〜約4.5:1の延伸比で行って、約27g/デニールより高いテナシティーを有する高配向ヤーン生成物を形成する。より好ましくは、得られる高配向の処理されて被覆された繊維は、少なくとも約30g/デニールのテナシティーを有し、更により好ましくは少なくとも約37g/デニールのテナシティーを有し、更により好ましくは少なくとも約45g/デニールのテナシティーを有し、更により好ましくは少なくとも約50g/デニールのテナシティーを有し、更により好ましくは少なくとも約55g/デニールのテナシティーを有し、最も好ましくは少なくとも約60g/デニールのテナシティーを有する。本発明において特定される全てのテナシティー測定値は、周囲室温において測定される。本明細書において用いる「デニール」という用語は線密度の単位を指し、繊維又はヤーン9000メートルあたりの質量(グラム)に等しい。本プロセスには、高配向繊維生成物を張力なしか又は張力下で冷却して生成される冷却された高配向繊維生成物を形成し、それによって生成した処理されて被覆されて冷却された高配向繊維生成物を、その後の使用のために保管するためにスプール又はパッケージに巻き取る最終工程を含ませることができる。このプロセスの主要な有益な特徴として、繊維に施す被覆によって、繊維を防弾複合材料への製造のような使用を待つ保管状態に保持している際に、繊維表面を処理されて表面エネルギーが増大した状態に維持することが可能になり、それによって繊維処理プロセスの商業的拡張性が向上する。
【0055】
別の態様においては、後延伸操作を遅延させて、処理されて被覆された部分配向繊維/ヤーン上の保護被覆を、直ちに更なる延伸を行うことなく乾燥するか又は乾燥させることができ、或いは後延伸を完全に省略することができる。これらの態様においては、処理されて被覆された部分配向繊維/ヤーンをスプール又はパッケージに巻き取る。この保管されている繊維/ヤーンは次に、その後に上記に記載したような後延伸操作によって高配向繊維/ヤーンに延伸するために保管するか、或いは27g/デニール以下のテナシティーを有する処理されて被覆された部分配向繊維/ヤーンとしてその後に用いるために保管することができる。しかしながら、これらの態様は好ましくはない。
【0056】
本発明方法にしたがって製造される処理された高配向繊維は、優れた弾丸貫通抵抗性を有する織成及び/又は不織繊維材料に加工することができる。本発明の目的のためには、優れた弾丸貫通抵抗性を有する物品とは、弾丸のような変形性の発射体、及び榴散弾のような破片の貫通に対する優れた特性を示すものを示す。「繊維」材料とは、繊維、フィラメント、及び/又はヤーンから製造される材料であり、「布帛」が繊維材料の1つのタイプである。
【0057】
不織布は、好ましくはランダムに配向した繊維(例えばフェルト又はマット)或いは一方向に整列した平行の繊維の1以上の繊維プライを積層し、次に積層体をコンソリデーションして繊維層を形成することによって形成される。本明細書において用いる「繊維層」には、不織繊維のシングルプライ又は複数の不織繊維プライを含ませることができる。繊維層にはまた、織布又は複数のコンソリデーションした織布を含ませることもできる。「層」とは、外側の頂面及び外側の底面の両方を有する概して平面状の配列を示す。一方向に配向した繊維の「シングルプライ」は、一方向の実質的に平行のアレイで整列している概して重畳していない繊維の配列を含み、これは当該技術において「ユニテープ」、「一方向テープ」、「UD」、又は「UDT」としても知られている。本明細書において用いる「アレイ」とは繊維又はヤーンの規則的な配列(織布を除く)を示し、「平行アレイ」とは繊維又はヤーンの規則的な平行の配列を示す。「配向繊維」との関連で用いられる「配向」という用語は、繊維の延伸に対して繊維の配列を指す。
【0058】
本明細書において用いる「コンソリデーション」とは、ポリマーバインダー材料を用いるか又は用いないで、複数の繊維層を単一の一体構造に結合させることを指す。コンソリデーションは、乾燥、冷却、加熱、加圧、又はこれらの組み合わせによって行うことができる。湿式積層プロセスの場合のように、繊維又は布帛層は接着剤で一緒に接着させることができるので、熱及び/又は圧力は必要でない可能性がある。「複合材料」という用語は、繊維と少なくとも1種類のポリマーバインダー材料との組み合わせを指す。
【0059】
本明細書において記載する「不織」布は、織成によって形成されていない全ての布帛構造体を包含する。例えば、不織布は、ポリマーバインダー材料で少なくとも部分的に被覆し、積層/重畳し、単一層の一体型部材にコンソリデーションした複数のユニテープ、並びに好ましくはポリマーバインダー組成物で被覆した非平行のランダムに配向した繊維を含むフェルト又はマットを含んでいてよい。
【0060】
最も通常的には、不織布から形成される耐弾性複合材料は、ポリマー又は樹脂バインダー材料(当該技術において「ポリマーマトリクス」材料としても一般的に知られている)を被覆又は含侵した繊維を含む。これらの用語は当該技術において従来公知であり、その生来の接着特性によるか、又は周知の加熱及び/又は加圧条件にかけた後のいずれかに繊維を一緒に結合する材料を示す。かかる「ポリマーマトリクス」又は「ポリマーバインダー」材料はまた、耐摩耗性及び有害な環境条件に対する抵抗性のような他の望ましい特性を有する布帛を与えることもできるので、織布を用いる場合のようにその結合特性が重要ではない場合であっても、繊維をかかるバインダー材料で被覆することが望ましい可能性がある。
【0061】
ポリマーバインダー材料は、繊維層の個々の繊維を部分的又は実質的に被覆し、好ましくはそれぞれの繊維層の個々の繊維/フィラメントのそれぞれを実質的に被覆又は封入する。好適なポリマーバインダー材料には、低弾性率材料及び高弾性率材料の両方が含まれる。低弾性率のポリマーマトリクスバインダー材料は、一般にASTM−D638試験手順にしたがって約6,000psi(41.4MPa)以下の引張弾性率を有し、通常は耐弾ベストのような柔軟で可撓性の防護具を製造するために用いられる。高弾性率材料は、一般に6,000psiより高い初期引張弾性率を有し、通常はヘルメットのような剛性の硬質防護具物品を製造するために用いられる。
【0062】
好ましい低弾性率材料としては、保護被覆のために有用なものとして上記に記載したものの全てが挙げられる。好ましい高弾性率のバインダー材料としては、ポリウレタン(エーテル系及びエステル系の両方)、エポキシ樹脂、ポリアクリレート、フェノール/ポリビニルブチラール(PVB)ポリマー、ビニルエステルポリマー、スチレン−ブタジエンブロックコポリマー、並びにビニルエステルとジアリルフタレート、又はフェノールホルムアルデヒドとポリビニルブチラールのような複数のポリマーの混合物が挙げられる。本発明において用いるのに特に好ましい硬質ポリマーバインダー材料は、好ましくはメチルエチルケトンのような炭素−炭素飽和溶媒中に可溶で、硬化した際にASTM−D638によって測定して少なくとも約1×10psi(6895MPa)の高い引張弾性率を有する熱硬化性ポリマーである。特に好ましい硬質ポリマーバインダー材料は、米国特許6,642,159(その開示事項を参照として本明細書中に包含する)に記載されているものである。本発明の複合材料から形成される物品の剛性、衝撃特性、及び防弾特性は、繊維を被覆するポリマーバインダーポリマーの引張弾性率の影響を受ける。ポリマーバインダーには、低弾性率材料であっても又は高弾性率材料であっても、カーボンブラック又はシリカのような充填剤を含ませることもでき、オイルで増量することができ、或いは当該技術において周知なように、イオウ、ペルオキシド、金属酸化物、又は放射線硬化系によって加硫することができる。
【0063】
保護被覆と同様に、ポリマーバインダーは繊維ウエブ(例えば平行アレイ又はフェルト)として配列されている複数の繊維に同時か又は逐次的のいずれかで施して被覆ウエブを形成するか、織布に施して被覆織布を形成するか、或いは他の配置として構成して、それによって繊維層にバインダーを含侵させることができる。本明細書において用いる「含侵させる」という用語は、「埋封する」及び「被覆する」、或いは他の形態で被覆を施すことと類義であり、ここでバインダー材料は繊維層中に拡散して、単に繊維層の表面上に配される訳ではない。ポリマーバインダー材料は、個々の繊維の全表面領域の上か、又は繊維の部分的な表面領域の上のみに施すことができるが、最も好ましくは、ポリマーバインダー材料は、本発明の繊維層を形成するそれぞれの個々の繊維の実質的に全ての表面領域の上に施す。繊維層が複数のヤーンを含む場合には、好ましくはヤーンの単一のストランドを形成するそれぞれの繊維をポリマーバインダー材料で被覆する。
【0064】
ポリマー材料はまた、繊維ウエブの一部でない繊維の少なくとも1つのアレイの上に施して、次に繊維を織布に織成するか、又は次に不織布を作成することができる。織布を形成する技術は当該技術において周知であり、平織り、千鳥綾織り、斜子織り、サテン織り、綾織りなどのような任意の布帛織成法を用いることができる。平織りは最も通常的なものであり、繊維を直交の0°/90°の配向で織成する。また、縦糸及び横糸を水平方向及び垂直方向の両方で織成することによって多層織成構造を形成する3D織成法も有用である。
【0065】
不織布を形成する技術も当該技術において周知である。通常の方法においては、複数の繊維を少なくとも1つのアレイに配列し、通常は実質的に平行の一方向のアレイに整列した複数の繊維を含む繊維ウエブとして配列する。次に、繊維をバインダー材料で被覆し、被覆された繊維を不織繊維プライ、即ちユニテープに成形する。次に、これらの複数のユニテープを互いの上に重畳して、最も好ましくはそれぞれの単一のプライの平行な繊維がそれぞれのプライの縦の繊維方向に対してそれぞれの隣接する単一のプライの平行の繊維に直交して配置されているマルチプライの単一層一体部材にコンソリデーションする。直交の)/90の繊維配向が好ましいが、隣接するプライは他のプライの縦の繊維方向に対して約0°〜約90°の間の実質的に任意の角度で整列させることができる。例えば、5プライの不織構造体は、0°/45°/90°/45°/0°又は他の角度で配向している複数のプライを有していてよい。かかる回転一方向整列は、例えば米国特許4,457,985;4,748,064;4,916,000;4,403,012;4,623,574;及び4,737,402(これらは全て本発明と矛盾しない範囲で参照として本明細書中に包含する)に記載されている。
【0066】
次に、この重畳している不織繊維プライの積層体を、熱及び圧力下で、或いは個々の繊維プライの被覆を互いに対して接着することによってコンソリデーションして不織複合布帛を形成する。最も通常的には、不織繊維層又は布帛は1〜約6の接合した繊維プライを含むが、種々の用途に関して所望の場合には約10〜約20のような多くのプライを含ませることができる。プライの数がより多いと耐弾性がより大きいが、重量もより大きくなる。
【0067】
一般に、ポリマーバインダー被覆は、複数の不織繊維プライを効率的に融合させる、即ちコンソリデーションするために必要である。複数の積層された織布を複雑な複合材料にコンソリデーションすることが望ましい場合にはポリマーバインダー材料で織布を被覆することが好ましいが、織布の積層体は通常の接着剤層を用いるか又は縫製などによる他の手段によって結合させることができる。
【0068】
米国特許6,642,159に記載されている方法などによって繊維プライをコンソリデーションして繊維層及び複合材料を形成する方法は周知である。コンソリデーションは、乾燥、冷却、加熱、加圧、又はこれらの組み合わせによって行うことができる。湿式積層プロセスの場合と同様に、繊維又は布帛層は接着剤で一緒に接着させることができるので、熱及び/又は圧力は必要でない可能性がある。通常は、コンソリデーションは、プライを一体の布帛に結合させるのに十分な熱及び圧力の条件下で、個々の繊維プライを互いの上に配置することによって行う。コンソリデーションは、約50℃〜約175℃、好ましくは約105℃〜約175℃の範囲の温度、及び約5psig(0.034MPa)〜約2500psig(17MPa)の範囲の圧力において、約0.01秒間〜約24時間、好ましくは約0.02秒間〜約2時間の間行うことができる。加熱の際には、ポリマーバインダー被覆を完全に溶融させることなく粘着又は流動させることができる可能性がある。しかしながら一般には、ポリマーバインダー材料を溶融させる場合には、複合材料を形成するために比較的低い圧力しか必要ではなく、一方、バインダー材料を粘着点に加熱するだけである場合には、通常はより高い圧力が必要である。当該技術において従来公知なように、コンソリデーションは、カレンダーセット、フラットベッド積層機、プレス、又はオートクレーブ内で行うことができる。コンソリデーションは、真空下に配置されている成形型内で材料を真空成形することによって行うこともできる。真空成形技術は当該技術において周知である。最も通常的には、複数の直交している繊維ウエブをバインダーポリマーで一緒に「接着」し、フラットベッド積層機を通して送って、結合の均一性及び強度を向上させる。更に、コンソリデーション及びポリマーの適用/結合工程は、2つの別々の工程又は単一のコンソリデーション/積層工程で構成することができる。
【0069】
或いは、コンソリデーションは、好適な成形装置内において熱及び圧力下で成形することによって行うことができる。一般に、成形は、約50psi(344.7kPa)〜約5,000psi(34,470kPa)、より好ましくは約100psi(689.5kPa)〜約3,000psi(20,680kPa)、最も好ましくは約150psi(1,034kPa)〜約1,500psi(10,340kPa)の圧力で行う。或いは、成形は、約5,000psi(34,470kPa)〜約15,000psi(103,410kPa)、より好ましくは約750psi(5,171kPa)〜約5,000psi、より好ましくは約1,000psi〜約5,000psiのより高い圧力で行うことができる。成形工程は、約4秒間〜約45分間かかる可能性がある。好ましい成形温度は、約200°F(約93℃)〜約350°F(約177℃)、より好ましくは約200°F〜約300°Fの温度、最も好ましくは約200°F〜約280°Fの温度の範囲である。本発明の繊維層及び布帛複合材料を成形する圧力は、得られる成形生成物の剛軟性又は柔軟性に直接的な影響を与える。特に、成形する圧力がより高いと剛軟性がより高くなり、逆も成り立つ。成形圧力に加えて、繊維プライの量、厚さ、及び組成、並びにポリマーバインダー被覆のタイプも、複合材料から形成される物品の剛軟性に直接影響を与える。
【0070】
本明細書に記載する成形及びコンソリデーション技術のそれぞれは類似しているが、それぞれのプロセスは相違している。特に、成形はバッチプロセスであり、コンソリデーションは一般に連続プロセスである。更に、成形は通常は、形作られている成形型、或いは平面パネルを形成する場合にはマッチドダイ成形型のような成形型の使用を伴っており、必ずしも平面状の生成物を生成させる訳ではない。通常は、コンソリデーションは、柔軟(可撓性)の防護具布帛を製造するために、フラットベッド積層機、カレンダーニップセット内においてか、又は湿式積層として行う。成形は、通常は硬質防護具、例えば剛性板を製造するためのものである。いずれのプロセスにおいても、好適な温度、圧力、及び時間は、一般に、ポリマーバインダー被覆材料のタイプ、ポリマーバインダーの含量、用いるプロセス、及び繊維のタイプによって定まる。
【0071】
本発明の布帛/複合材料にはまた、場合によっては、その外側表面の一方又は両方に付着している1以上の熱可塑性ポリマー層を含ませることもできる。熱可塑性ポリマー層のために好適なポリマーとしては、非排他的に、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル(特にポリエチレンテレフタレート(PET)及びPETコポリマー)、ポリウレタン、ビニルポリマー、エチレンビニルアルコールコポリマー、エチレンオクタンコポリマー、アクリロニトリルコポリマー、アクリルポリマー、ビニルポリマー、ポリカーボネート、ポリスチレン、フルオロポリマーなど、並びにこれらのコポリマー及び混合物、例えばエチレンビニルアセテート(EVA)及びエチレンアクリル酸が挙げられる。天然及び合成ラバーポリマーもまた有用である。これらの中で、ポリオレフィン及びポリアミド層が好ましい。好ましいポリオレフィンはポリエチレンである。有用なポリエチレンの非限定的な例は、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、線状中密度ポリエチレン(LMDPE)、線状極低密度ポリエチレン(VLDPE)、線状超低密度ポリエチレン(ULDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、並びにこれらのコポリマー及び混合物である。Cuyahoga Falls, OhioのSpunfab, Ltd.から商業的に入手できるSPUNFAB(登録商標)ポリアミドウエブ(Keuchel Associates, Inc.に対して登録された商標)、及びCernay,フランスのProtechnic S.A.から商業的に入手できるTHERMOPLAST(登録商標)及びHELIOPLAST(登録商標)のウエブ、ネット、及びフィルムもまた有用である。かかる熱可塑性ポリマー層は、熱積層のような周知の技術を用いて布帛/複合材料の表面に結合させることができる。通常は、積層は、複数の層を一体構造に結合させるのに十分な熱及び圧力の条件下で個々の層を互いの上に配置することによって行う。積層は、約95℃〜約175℃、好ましくは約105℃〜約175℃の範囲の温度、約5psig(0.034MPa)〜約100psig(0.69MPa)の範囲の圧力において、約5秒間〜約36時間、好ましくは約30秒間〜約24時間行うことができる。かかる熱可塑性ポリマー層は、或いは当業者に理解されるように高温の接着剤又はホットメルト繊維を用いて外側表面に結合させることができる。
【0072】
布帛/複合材料の厚さは、個々の繊維/テープの厚さ、及び布帛/複合材料中に含ませる繊維/テープのプライ又は層の数に対応する。例えば、好ましい織布は、プライ/層あたり約25μm〜約600μm、より好ましくは約50μm〜約385μm、最も好ましくはプライ/層あたり約75μm〜約255μmの好ましい厚さを有する。好ましい2プライ不織布は、約12μm〜約600μm、より好ましくは約50μm〜約385μm、最も好ましくは約75μm〜約255μmの好ましい厚さを有する。いずれの熱可塑性ポリマー層も、好ましくは非常に薄く、約1μm〜約250μm、より好ましくは約5μm〜約25μm、最も好ましくは約5μm〜約9μmの好ましい層厚さを有する。SPUNFAB(登録商標)不織ウエブのような不連続ウエブは、好ましくは6g/平方メートル(gsm)の坪量で施す。かかる厚さが好ましいが、他の厚さを形成して特定の必要性を満足することができ、これもなお本発明の範囲内であることを理解すべきである。
【0073】
十分な耐弾特性を有する布帛物品を製造するためには、バインダー/マトリクス被覆の全重量は、好ましくは、繊維の重量+被覆の重量の約2重量%〜約50重量%、より好ましくは約5重量%〜約30重量%、より好ましくは約7重量%〜約20重量%、最も好ましくは約11重量%〜約16重量%を構成し、不織布に関しては16%が最も好ましい。織布に関してはより低いバインダー/マトリクス含量が適切であり、繊維の重量+被覆の重量の0より多いが10重量%未満のポリマーバインダーの含量が通常は最も好ましい。これは限定を意図してはいない。例えば、フェノール/PVB含侵織成アラミド布帛は、時には約20%〜約30%のより高い樹脂含量を用いて製造されるが、約12%の含量が通常は好ましい。
【0074】
本発明の布帛は、種々の用途において用い、周知の技術を用いて、可撓性の軟質防護具物品及び剛性の硬質防護具物品などの種々の異なる耐弾性物品を形成することができる。例えば、耐弾性物品を形成するために好適な技術は、例えば米国特許4,623,574、4,650,710、4,748,064、5,552,208、5,587,230、6,642,159、6,841,492、及び6,846,758(これらの全部を本発明と矛盾しない範囲で参照として本明細書中に包含する)に記載されている。本複合材料は、硬質防護具、並びに硬質防護具物品を製造するプロセスにおいて形成される成形又は未成形のサブアセンブリ中間物を形成するために特に有用である。「硬質」防護具とは、十分な機械的強度を有していて、相当量の応力に曝露した際に構造剛性を保持し、へたれることなく自立することができる、ヘルメット、軍用車両用パネル、又は保護シールドのような物品を意味する。かかる硬質物品は、好ましくは(しかしながら排他的ではないが)、高引張弾性率のバインダー材料を用いて形成される。
【0075】
これらの構造体は、物品に成形するために複数の別個のシートに切断して積層することができ、或いは前駆体に成形し、次にこれを用いて物品を形成することができる。かかる技術は当該技術において周知である。本発明の最も好ましい態様においては、それぞれがコンソリデーションした複数の繊維プライを含む複数の繊維層を与え、複数の繊維プライをコンソリデーションするコンソリデーション工程の前、工程中、又は工程後のいずれかにおいて、熱可塑性ポリマーフィルムをそれぞれの繊維層の少なくとも1つの外側表面に結合させ、その後、複数の繊維層を防護具物品又は防護具物品のサブアセンブリにコンソリデーションする他のコンソリデーション工程によって複数の繊維層を融合する。
【0076】
上記に示した同時係属中の出願61/531,233;61/531,255;61/531,268;61/531,302;及び61/531,323に記載されているように、耐弾性複合材料の背面衝撃痕と、発射体の衝撃の結果として耐弾性複合材料の構成繊維が互いから層間剥離及び/又は繊維表面被覆から層間剥離する傾向との間には直接的な相関関係がある。当該技術において「背面変形」、「外傷痕」、又は「鈍力外傷」としても知られている背面衝撃痕は、弾丸の衝撃による防護具の撓みの深さの指標である。弾丸が複合材料防護具によって停止される際に、潜在的に引き起こされる鈍的外傷性障害は、弾丸が防護具を貫通して体内に侵入したかのように人にとって致命的である可能性がある。これは、停止された弾丸によって引き起こされる一過的な突出が更に着用者の頭蓋骨の面と交差して衰弱性又は致命的な脳損傷を引き起こす可能性があるヘルメット防護具の関係において特に重大である。
【0077】
プラズマ又はコロナ処理のような処理によって、被覆が繊維表面に吸着、接着、又は結合する能力が向上し、それによって繊維表面被覆が層間剥離する傾向が減少する。したがってこの処理は、発射体の衝撃による複合材料の背面変形を減少させることが見出され、これは望ましいものである。本明細書において記載する保護被覆は表面処理を保護するので、処理したヤーンを直ちに複合材料に加工する必要はなく、むしろ将来の使用のために保管することができる。本発明方法にしたがって処理された繊維はまた、ヤーン仕上げ剤を除去しているにもかかわらず加工可能な状態で維持されており、処理後の繊維の物理特性が未処理の繊維と比べて保持される。
【実施例】
【0078】
以下の実施例は本発明を例示するように働く。
本発明の実施例1:
4本の3300デニール部分配向UHMW−PEヤーンを4つのスプールから6.7m/分の速度で解舒し、洗浄して先に存在している仕上げ剤をヤーンから除去した。ヤーンを洗浄するために、これらをまず脱イオン水を含む予備浸漬水浴を通して送り、浴中の大凡の滞留時間は約18秒間であった。予備浸漬水浴から排出した後、水ノズルを用い、約42psiの水圧で、1分あたりノズルあたり約0.5ガロンの水流速でヤーンをすすいだ。水温は28.9℃と測定された。次に、洗浄したヤーンを乾燥し、プラズマ処理した。プラズマ処理は、ヤーンを、90%のアルゴン及び10%の酸素を含む雰囲気を有する大気プラズマ処理装置(モデル:Enercon Plasma3 Station Model APT12DF-150/2;Enercon Industries Corp.から;幅29インチの電極を有する)に、約6m/分の速度で通過させることによって行った。プラズマ処理装置は2kWの出力に設定して、それによって54W/ft/分のエネルギーフラックスでヤーンを処理した。プラズマ処理装置内におけるヤーンの滞留時間は約2秒間であった。処理は標準大気圧下で行った。次に、プラズマ処理したヤーンを、水性のアニオン性脂肪族ポリエステル系ポリウレタン分散液で被覆した。ポリウレタン被覆重量は、被覆の重量+ヤーンの重量を基準として2%であった。次に、ヤーンを150℃のオーブン温度を有する加熱オーブン中に送ってこれを通過させ、被覆されたヤーンを4.4m/分の延伸比で延伸してそれらを高配向ヤーンに加工し、一方同時にヤーン上のポリウレタン被覆を乾燥した。次に、それぞれの乾燥した高配向ヤーンを29.5m/分の速度で新しいスプール上に再び巻き取った。次に、それぞれの高配向ヤーンの最終のデニール、引張弾性率、及びテナシティーを測定した。高配向ヤーンの平均最終デニールは754であった。それぞれの高配向ヤーンの平均最終引張弾性率は1551g/デニールであり、それぞれの高配向ヤーンの平均最終テナシティーは48.2g/デニールであった。
【0079】
比較例1:
本発明の実施例1と同様に、4本の3300デニール部分配向UHMW−PEヤーンを4つの繊維スプールから6.7m/分の速度で解舒した。しかしながら、これらのヤーンは、洗浄して先に存在している仕上げ剤を除去せず、プラズマ処理もしなかった。
【0080】
次に、ヤーンを150℃のオーブン温度を有する加熱オーブン中に送ってこれを通過させ、(未被覆の)ヤーンを4.4m/分の延伸比で延伸してそれらを高配向ヤーンに加工した。次に、それぞれの高配向ヤーンを29.5m/分の速度で新しいスプール上に再び巻き取った。次に、それぞれの高配向ヤーンの最終のデニール、引張弾性率、及びテナシティーを測定した。高配向ヤーンの平均最終デニールは737であった。それぞれの高配向ヤーンの平均最終引張弾性率は1551g/デニールであり、それぞれの高配向ヤーンの平均最終テナシティーは48.6g/デニールであった。
【0081】
結論:
これらの実施例によって示されるように、本発明方法にしたがって処理及び被覆したヤーンは、未処理のヤーンの特性とほぼ同等の最終の物理特性を有する。ヤーンの洗浄及びプラズマ処理、並びにプラズマ処理を時間経過に伴う減衰から保護する被覆の結果として、本発明方法にしたがって処理及び被覆した繊維は、将来の使用のために数週間貯蔵することができ、プラズマ処理の直後に耐弾性複合材料に加工した繊維と同じように機能すると予測することができると結論づけることができる。
【0082】
かかる利益は、当該技術において「背面変形」、「外傷痕」、又は「鈍力外傷」としても知られているそれから形成される複合材料の背面衝撃痕における向上も含むと予測される。処理のこれらの利益を保持するのに加えて、保護被覆はまた、繊維表面上の帯電を抑止又は減少させ、繊維束の結合を向上させ、良好な繊維の潤滑を与えることによって繊維の加工性も向上させる。
【0083】
好ましい態様を参照して本発明を特に示し且つ記載したが、発明の精神及び範囲から逸脱することなく種々の変更及び修正を行うことができることは当業者に容易に認められるであろう。特許請求の範囲は、開示されている態様、上記で議論したこれらの代替物、及びこれらに対する全ての均等物をカバーするように解釈されると意図される。
本発明の具体的態様は以下のとおりである。
[1](a)部分配向繊維のそれぞれが繊維表面仕上げ剤によって実質的に被覆されている表面を有する、1以上の部分配向繊維を与える工程;
(b)繊維表面から繊維表面仕上げ剤の少なくとも一部を除去して、下層の繊維表面を少なくとも部分的に露出させる工程;
(c)露出された繊維表面を、繊維表面の表面エネルギーを増大させるのに有効な条件下で処理する工程;
(d)処理された繊維表面の少なくとも一部の上に保護被覆を施して、それによって処理されて被覆された繊維を形成する工程;及び
(e)処理されて被覆された繊維を1以上の乾燥機に通して、処理されて被覆された繊維上の被覆を乾燥し、一方同時に、処理されて被覆された繊維を、それが1以上の乾燥機を通って移動する間に延伸して、それによって27g/デニールより高いテナシティーを有する高配向繊維を形成する工程
を含む方法。
[2]部分配向繊維が少なくとも約18g/デニールで約27g/デニール以下のテナシティーを有する、[1]に記載の方法。
[3]工程(c)の処理工程がコロナ処理又はプラズマ処理を含む、[1]に記載の方法。
[4]保護被覆が、繊維の重量+保護被覆の重量を基準として約5重量%未満を構成する、[1]に記載の方法。
[5]工程(e)において製造される複数の高配向繊維を与える工程、場合によっては繊維の少なくとも一部の上にポリマーバインダー材料を施す工程、及び複数の繊維から織布又は不織布を製造する工程を含む、[1]に記載の方法。
[6][5]に記載の方法によって製造される繊維複合材料。
[7](a)部分配向繊維のそれぞれが繊維表面仕上げ剤を少なくとも部分的に含まない少なくとも幾つかの露出された表面領域を有する、1以上の部分配向繊維を与える工程;
(b)露出された繊維表面を、繊維表面の表面エネルギーを増大させるのに有効な条件下で処理する工程;
(c)処理された繊維表面の少なくとも一部の上に保護被覆を施して、それによって処理されて被覆された繊維を形成する工程;及び
(d)処理されて被覆された繊維を1以上の乾燥機に通して、処理されて被覆された繊維上の被覆を乾燥し、一方同時に、処理されて被覆された繊維を、それが1以上の乾燥機を通って移動する間に延伸して、それによって27g/デニールより高いテナシティーを有する高配向繊維を形成する工程
を含む方法。
[8]部分配向繊維が少なくとも約18g/デニールで約27g/デニール以下のテナシティーを有する、[7]に記載の方法。
[9]工程(b)の処理工程がコロナ処理又はプラズマ処理を含む、[7]に記載の方法。
[10](a)部分配向繊維が少なくとも約18g/デニールで約27g/デニール以下のテナシティーを有し、処理された部分配向繊維の表面が繊維表面の表面エネルギーを増大させるのに有効な条件下で処理されている、1以上の処理された部分配向繊維を与える工程;
(b)処理された繊維表面の少なくとも一部の上に保護被覆を施して、それによって処理されて被覆された繊維を形成する工程であって、ここで保護被覆は繊維表面の表面エネルギーを増大させる処理の直後に処理された繊維表面の上に施す、前記工程;及び
(c)処理されて被覆された繊維を1以上の乾燥機に通して、処理されて被覆された繊維上の被覆を乾燥し、一方同時に、処理されて被覆された繊維を、それが1以上の乾燥機を通って移動する間に延伸して、それによって27g/デニールより高いテナシティーを有する高配向繊維を形成する工程
を含む方法。
図1
図2