【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、総務省「移動通信システムにおける三次元稠密セル構成及び階層化セル構成技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下図面を参照して、ドップラースペクトルを用いた端末の速度推定方法について説明する。しかしながら、本発明が、図面又は以下に記載される実施形態に限定されるものではないことを理解されたい。
【0018】
図1にドップラースペクトルの例を示す。この例は、無線伝搬環境が全周散乱モデルとみなせる理想的な場合を表している。図において、横軸は周波数を表し、縦軸は相対電力を表す。ただし、
図1ではベースバンド帯域に変換した後の処理結果を示しているため、実際には横軸の周波数0 Hzがキャリア周波数に対応することに注意が必要である。以降のドップラースペクトルの図においても横軸の周波数の定義は
図1と同様である。この例において、最大ドップラー周波数は、100 Hzであり、ドップラースペクトルの周波数100 Hz及び-100 Hzにおいて、高い電力の成分が生じている。このように、受信信号の伝搬路変動を用いて算出されたドップラースペクトルから、電力の高い成分の周波数を検出することで、最大ドップラー周波数を推定することができる。
【0019】
図2は、ドップラースペクトルから最大ドップラー周波数を算出する方法を簡単に説明した図である。周波数の負側において、最大電力が得られる周波数をf(1)とし、正側において、最大電力が得られる周波数をf(2)とする。理想的なフェージング環境下においては、f(1)とf(2)の間でU字型のスペクトルを示し、f(1)とf(2)は、同じ周波数絶対値を示す。この周波数絶対値が最大ドップラー周波数f
Dとなる。即ち、f(1)=-f
Dであり、f(2)=f
Dとなる。そして、f(1)とf(2)の間の周波数がドップラースペクトル幅となる。
【0020】
最大ドップラー周波数f
Dが得られると、端末の移動速度νは、f
D×λで算出することができる。ここで、λは、キャリア周波数の波長である。
【0021】
ドップラースペクトルから最大ドップラー周波数を検出する方法が幾つか考えられる。以下に、ドップラースペクトルに対して固定のしきい値を設定し、しきい値以上となる有効成分について、そのうちの最大周波数の成分と最小周波数の成分から最大ドップラー周波数を算出する方法を説明する。
【0022】
図3は、ドップラースペクトルにおけるしきい値の設定の一例を示した図である。ここでは、雑音電力N
0 [dBm]を算出し、更に、ΔN [dB]を加算した値をしきい値とする。
図3に示されるように、N
0+ΔN [dBm]をしきい値とすることで、ドップラースペクトルの外側の雑音成分を除外することができる。そして、しきい値以上となる有効成分は、直接波成分などの幾つかの電力が高い成分を含む。これらの有効成分の中から、最大の周波数を持つ成分(即ち、
図3の「A」で示される100 Hzの成分)と最小周波数を持つ成分(即ち、
図3の「B」で示される-100 Hzの成分)を選択することで、最大ドップラー周波数を決定することができる。
【0023】
図4は、最大ドップラー周波数算出の方法を示すフローチャートである。S10において、無線接続している基地局または端末から参照信号を受信する。ここで、参照信号としたが、システムにより、パイロット信号やビーコンなどとも呼ばれ、伝搬路推定に使用される既知の信号である。S11において、受信した参照信号をベースバンド信号に変換し、復調した後、受信電力を測定することにより、受信信号の伝搬路の時間変動データを作成する。伝搬路の時間変動データは、一定区間毎にバッファに格納される。
【0024】
受信信号は、端末の移動速度に比例して変動するため、受信信号の伝搬路変動をフーリエ変換することにより、ドップラースペクトルが得られる。S12において、一定区間毎に格納された伝搬路の時間変動データに高速フーリエ変換(FFT)を掛ける。ここで、一定区間は、FFTのポイント数に相当する。S13において、FFTの出力からドップラースペクトルが算出される。
【0025】
S14において、スペクトルのしきい値を設定し、しきい値以上となる有効成分を検出する。S15において、有効成分の中から最大周波数を持つ有効成分E
f_maxを選択し、その周波数f(E
f_max)を検出する。S16において、有効成分の中から最小周波数を持つ有効成分E
f_minを選択し、その周波数f(E
f_min)を検出する。
【0026】
S17において、検出された2つの周波数を用いて、最大ドップラー周波数を算出する。ここでは、2つの周波数f(E
f_max)と周波数f(E
f_min)からドップラースペクトル幅を算出し、その半値を最大ドップラー周波数f
Dとすることができる。即ち、f
D=(f(E
f_max)−f(E
f_min))/2とする。
【0027】
このように、しきい値を設定し、しきい値以上となる有効成分を抽出することで、雑音成分によるスペクトルを除外して、受信信号によるスペクトルのみを選択することができる。さらに、適切なしきい値を設けることで、雑音成分による誤検出を抑制し、より正確な最大ドップラー周波数を推定することができる。
【0028】
上記例において、しきい値を雑音電力N
0にΔNを加算した値に設定したが、これに限定されるものではない。例えば、測定されるSNRなどの無線伝搬状況に応じて、しきい値を可変とすることも可能である。
【0029】
また、周波数f(E
f_max)と周波数f(E
f_min)とのうち、絶対値の大きい方を最大ドップラー周波数f
Dとする方法もある。即ち、f
D=max(|f(E
f_max)|, |f(E
f_min)|)とする。
【0030】
次に、周辺移動散乱体によるドップラースペクトル算出への影響とその除外方法について説明する。端末搭載自動車が、一般道路や高速道路を走行する際、対向車や同方向車が存在する。このように端末搭載自動車周辺を移動する車両体(周辺移動散乱体)は、端末から出力される電波、または端末で受信される電波を散乱させる。
【0031】
周辺移動散乱体が存在すると、端末のドップラースペクトル算出において、端末単体によるドップラースペクトルとは別に、周辺移動散乱体によるドップラースペクトル成分が発生する。簡単な例を
図5に示す。端末単体によるドップラースペクトルは、端末の移動速度に応じた最大ドップラー周波数f
0と-f
0により示される。この端末単体によるドップラースペクトルより高い周波数位置(f
1)において、周辺移動散乱体によるドップラースペクトル成分が発生している。このドップラースペクトル成分の電力は、通常、端末単体によるドップラースペクトルの電力より小さくなる。
【0032】
しかし、周辺移動散乱体によるドップラースペクトル成分を端末のドップラースペクトルの有効成分として検出してしまうと、ドップラースペクトル幅は、-f
0〜f
1となり、本来のドップラースペクトル幅より広く検出される。
図4に示すフローチャートに従い、最大ドップラー周波数を算出すると、ドップラースペクトル幅の半値は(f
1+f
0)/2となり、実際の最大ドップラー周波数より大きくなる。また、最大周波数と最小周波数の絶対値の大きい方から最大ドップラー周波数を算出しても最大ドップラー周波数はf
1となる。
【0033】
図6に端末が搭載される自動車Aと対向車Bの関係を簡単に示す。対向車Bが周辺移動散乱体となる。自動車Aは速度v0で走行し、その最大ドップラー周波数はf0とする。一方、対向車Bは速度vで走行し、その最大ドップラー周波数はfとする。また、時刻tにおける自動車Aと対向車Bとがなす角度をθ(t)とすると、自動車Aと対向車Bの相対速度v1は、v1=v0+
2v×cosθ(t)となる。このため、対向車Bによるドップラースペクトル成分の周波数f1は、f1=f0+
2f×cosθ(t)と表せる。
【0034】
対向車Bが自動車Aに近づくと、角度θ(t)が90°に近づくため、対向車Bによるドップラースペクトル成分の周波数f
1は、f
0に近づく。即ち、
図7に示されるように、対向車Bによるドップラースペクトル成分は、自動車A単体によるドップラースペクトルより高い周波数位置に現れ、両者が接近するに従い、自動車A単体によるドップラースペクトルの中心に近づく。
【0035】
対向車Bが自動車Aの横を通り、離れると、対向車Bによるドップラースペクトル成分の周波数f1は、f1= -f0-
2f×cosθ(t)となり、自動車A単体によるドップラースペクトルより低い周波数位置に移動する。
【0036】
周辺移動散乱体が同方向車の場合も同様に考えることができる。同方向車の速度が自動車Aの速度より速く、自動車Aを追い抜いて行く場合、同方向車によるドップラースペクトル成分は、自動車A単体によるドップラースペクトルより高い周波数位置で発生し、追い抜いた後、低い周波数位置に移動する。
【0037】
更に、自動車Aの近傍に対向車や同方向車が複数存在する場合、自動車A単体によるドップラースペクトルの片外側または両外側に複数のドップラースペクトル成分が出現することも考えられる。以下に示す本発明による速度推定方法は、このように複数のドップラースペクトル成分が存在している場合においても正確に速度推定を行うことができる。
【0038】
上記のように周辺移動散乱体によるドップラースペクトル成分が存在すると、端末のドップラースペクトルの正確な検出を妨げることになる。周辺移動散乱体によるドップラースペクトル成分を検出し、端末のドップラースペクトルと区別して、除外することで、端末単体によるドップラースペクトルのみを算出し、正確な速度推定を行うことができる。
【0039】
本発明の1つの実施例における周辺移動散乱体によるドップラースペクトル成分の検出方法を説明する。
図4に示されるフローチャートのS10〜S13の処理により、ドップラースペクトルを算出する。算出したスペクトルの各周波数成分の電力を検査し、最大電力を示すスペクトルピークP
peakを求める。同時に、雑音電力N
0を算出する。
【0040】
スペクトルピークP
peakと雑音電力N
0との間に、M個のしきい値を等間隔で設定する。各しきい値の電力をΔN
m(m=1〜M)とする。しきい値の間隔は、T=(P
peak-N
0)/(M+1)となり、各しきい値の電力は、ΔN
m=N
0+T×mで表せる。
【0041】
各しきい値におけるスペクトル幅Δf
D(m)を求める。スペクトル幅Δf
D(m)は、しきい値ΔN
m以上となる周波数成分を抽出し、その中で、最も周波数が低い周波数成分と最も周波数が高い周波数成分との周波数の差分から算出する。
【0042】
各しきい値におけるスペクトル幅Δf
D(m)を比較する。周辺移動散乱体によるドップラースペクトル成分が1つ存在するとする。最も低いしきい値からしきい値を上げていくと、スペクトル幅が大きく減少するしきい値が出てくる。このとき、そのしきい値より下のしきい値では、周辺移動散乱体によるドップラースペクトル成分が存在して、スペクトル幅が広くなり、そのしきい値以上のしきい値では、周辺移動散乱体によるドップラースペクトル成分がなく、端末単体によるドップラースペクトルのみが存在することになる。
【0043】
図8にドップラースペクトルの算出方法の1例を示す。端末単体によるドップラースペクトルが周波数-f
0〜f
0で示され、周辺移動散乱体によるドップラースペクトル成分が周波数f
1で示されている。各周波数成分における電力を検査し、最大電力を示すスペクトルピークP
peakを求める。
図8の例では、端末単体によるドップラースペクトルの最大周波数及び最小周波数位置において、ピーク電力が生じている。また、雑音電力N
0を算出する。
【0044】
スペクトルピークP
peakと雑音電力N
0との間に、M個のしきい値を等間隔で設定する。各しきい値をΔN
m(m=1〜M)とする。
図8の例では、M=4である。そして、各しきい値におけるスペクトル幅Δf
D(1)〜Δf
D(M)を算出する。ここで、次を仮定する。
仮定:最も高いしきい値(m=M)において、スペクトル幅Δf
D(M)は、端末単体によるドップラースペクトル幅を示す。即ち、周辺移動散乱体によるドップラースペクトル成分の電力は、端末単体によるドップラースペクトルの電力より小さく、最も高いしきい値まで到達しない。
【0045】
高速フーリエ変換(FFT)を用いてドップラースペクトルを算出する際、有限なサンプル数による演算の影響により、算出されたスペクトルには歪が生じてしまう。そのため、各しきい値におけるスペクトル幅は、1つ上のしきい値のスペクトル幅と同じか、または広くなる。上記の仮定より、最も高いしきい値におけるスペクトル幅Δf
D(M)は、端末単体によるドップラースペクトル幅を表し、各しきい値の中で最も狭いスペクトル幅となる。簡単には、最も高いしきい値におけるスペクトル幅を端末のドップラースペクトル幅と設定することができる。以下に、より正確に端末のドップラースペクトル幅を算出する方法を説明する。
【0046】
周辺移動散乱体によるドップラースペクトル成分を検出して除外し、端末のドップラースペクトル幅を算出する方法の1つの実施例を説明する。
【0047】
上で仮定したように、スペクトル幅Δf
D(M)は、端末単体によるドップラースペクトル幅を示す。このため、しきい値ΔN
Mより低いしきい値におけるスペクトル幅がΔf
D(M)より所定値を超えて広くなる場合、端末単体によるドップラースペクトルの外側に別のドップラースペクトル成分が存在することが想定される。別のドップラースペクトル成分の存在が想定された場合、そのドップラースペクトル成分が検知されたしきい値のスペクトル幅をドップラースペクトル幅の算出の候補から除外する。
【0048】
まず、スペクトル幅Δf
D(M)と1つ下のしきい値のスペクトル幅Δf
D(M-1)を比較し、その差分が周波数差のしきい値f
threshを超えるか否かを判定する。差分が周波数差のしきい値を超えない場合、即ち、Δf
D(M-1)-Δf
D(M)<=f
threshの場合、しきい値ΔN
M-1において、周辺移動散乱体によるドップラースペクトル成分は存在せず、端末単体によるドップラースペクトルのみ存在すると判断する。
【0049】
一方、差分が周波数差のしきい値を超える場合、即ち、Δf
D(M-1)-Δf
D(M)>f
threshの場合、しきい値ΔN
M-1において、端末単体によるドップラースペクトルの外側に周辺移動散乱体によるドップラースペクトル成分が存在すると判断し、m=M-1のスペクトル幅Δf
D(M-1)をドップラースペクトル幅の算出の候補から除外する。この場合、m<M-1のスペクトル幅もΔf
D(M-1)以上となるため、候補から除外される。この結果、Δf
D(M)がドップラースペクトル幅として決定され、速度推定に使用される。
【0050】
高速フーリエ変換(FFT)を用いてドップラースペクトルを算出する際、算出されたスペクトルには歪が生じてしまう。このような歪はスペクトル幅の10%程度と考えられる。このため、ドップラースペクトルからスペクトル幅の10%より離れた周波数位置に別のドップラースペクトル成分が存在すると、検知することができるようになる。従って、周波数差のしきい値f
threshは、想定されるドップラースペクトル幅の10%程度に設定することができる。ただし、これに制限されるものではない。
【0051】
スペクトル幅Δf
D(M-1)とΔf
D(M) との差分が周波数差のしきい値を超えない場合、続いて、スペクトル幅Δf
D(M-2)とΔf
D(M) との比較を行う。差分が周波数差のしきい値を超える場合、即ち、Δf
D(M-2)-Δf
D(M)>f
threshの場合、m=M-2のスペクトル幅をドップラースペクトル幅の算出の候補から除外する。この場合、m=MとM-1のスペクトル幅Δf
D(M)とΔf
D(M-1)が候補となるが、より広い幅を有する可能性があるΔf
D(M-1) をドップラースペクトル幅として決定し、速度推定に使用する。
【0052】
上記処理を、スペクトル幅Δf
D(M) との差分が周波数差のしきい値を超えるまで、あるいは、m=1まで行う。m=1において、スペクトル幅の差分が周波数差のしきい値を超えない場合、全てのしきい値において周辺移動散乱体によるドップラースペクトル成分が存在しないと判断される。
【0053】
図8の例では、最も高いしきい値のスペクトル幅Δf
D(4)をドップラースペクトル幅算出の候補とする。次に、1つ下のしきい値のスペクトル幅と比較を行う。Δf
D(3)-Δf
D(4)<=f
threshであるため、m=3において、周辺移動散乱体によるドップラースペクトル成分が存在しないと判断し、Δf
D(3) をドップラースペクトル幅算出の新たな候補とする。更に、1つ下のしきい値のスペクトル幅と比較を行い、Δf
D(2)-Δf
D(4)>f
threshであるため、m=2において、周辺移動散乱体によるドップラースペクトル成分が存在すると判断する。この結果、Δf
D(3) をドップラースペクトル幅として決定し、速度推定に使用する。
【0054】
図9に上記処理のフローチャートを示す。これは、
図4に示されるフローチャートのS14〜S17に相当する。
【0055】
図9のS21において、雑音電力N
0とスペクトルピークP
peakを検出する。S22において、スペクトルピークと雑音電力との間にM個のしきい値を等間隔で設定する。しきい値をΔN
m(m=1〜M)とする。S23において、各しきい値におけるスペクトル幅Δf
D(m)(m=1〜M)を計算する。スペクトル幅は、各しきい値において検出される周波数成分のうち、最大周波数成分と最小周波数成分の周波数差に相当する。
【0056】
S24において、m=M-1と設定する。即ち、最も高いしきい値の1つ下のしきい値とする。S25において、スペクトル幅Δf
D(m)とΔf
D(M) との比較を行う。差分が周波数差のしきい値f
threshを超える場合、m以下のしきい値のスペクトル幅を候補から除外する。S28において、m+1のスペクトル幅Δf
D(m+1)がドップラースペクトル幅として決定される。
【0057】
S25において、スペクトル幅Δf
D(m)とΔf
D(M) との差分が周波数差のしきい値f
threshを超えない場合、S26において、mを1つ減じて、S25の処理を行う。差分が周波数差のしきい値を超えない場合、S25とS26の処理を繰り返す。
【0058】
最も低いしきい値(m=1)のスペクトル幅の比較において、周波数差のしきい値を超えない場合、S27において、m=0となり、S28において、m=1のスペクトル幅Δf
D(1)がドップラースペクトル幅として決定される。
【0059】
図9のS25において、スペクトル幅Δf
D(m)とΔf
D(M) との差分が周波数差のしきい値f
threshを超える場合、m以下のしきい値のスペクトル幅は、ドップラースペクトル幅算出の候補から除外される。そして、m+1のしきい値のスペクトル幅Δf
D(m+1)をドップラースペクトル幅として決定している。更に、m+1以上のしきい値のスペクトル幅を候補として、その平均値をドップラースペクトル幅として決定することもできる。
【0060】
図3で説明したドップラースペクトルの検出方法では、雑音電力にΔN [dB]を加算した値を固定しきい値としてドップラースペクトルの有効成分の検出を行う。しかし、端末における受信信号のSNRが悪い環境では、ドップラースペクトルの電力が低くなり、ドップラースペクトルのピーク電力が固定しきい値より低くなり、有効成分の検出が出来ないことが考えられる。
【0061】
これに対し、本発明による有効成分の検出では、ドップラースペクトルのピーク電力を見つけ、ピーク電力と雑音電力の間に複数のしきい値を設定している。このように、ピーク電力を検出し、ピーク電力を考慮したしきい値を設定することにより、受信SNRが低い環境においても、ドップラースペクトルの検出が可能となる。
【0062】
続いて、周辺移動散乱体によるドップラースペクトル成分を検出して除外し、端末のドップラースペクトル幅を算出する方法の別の実施例を説明する。ここでは、しきい値の低い側から処理を行う。
【0063】
まず、m=1として、最も低いしきい値のスペクトル幅Δf
D(1)とm+1である1つ上のしきい値のスペクトル幅Δf
D(2)の差分(Δf
D(1)-Δf
D(2))を計算する。差分が周波数差のしきい値f
threshを超える場合、即ち、Δf
D(1)-Δf
D(2)> f
threshの場合、m=1のしきい値とm=2のしきい値で、異なるスペクトル形状が検知されたことを意味する。この場合、m=1のしきい値において、端末単体のドップラースペクトルの外側に、異なるスペクトル成分が存在することになる。このとき、m=2のしきい値においては、端末単体のドップラースペクトルの外側に別のスペクトル成分が検出されなかったか、または、m=1のしきい値で検出された別のスペクトル成分の内側に更に別のスペクトル成分が存在することを示す。このため、m=1のしきい値において周辺移動散乱体によるドップラースペクトル成分があると判断し、スペクトル幅Δf
D(1)をドップラースペクトル幅の算出の候補から除外する。
【0064】
差分Δf
D(1)-Δf
D(2)が周波数差のしきい値f
threshを超えない場合、更に1つ上の段のしきい値のスペクトル幅Δf
D(3)との差分を計算し、周波数差のしきい値f
threshと比較する。ここで、周波数差がしきい値f
threshを超える場合、m=1のスペクトル幅Δf
D(1)をドップラースペクトル幅の算出候補から除外する。一方、周波数差のしきい値f
threshを超えない場合には、処理を繰り返し、最も高いしきい値のスペクトル幅Δf
D(M)との差分を計算し、周波数差のしきい値f
threshと比較する。ここで、周波数差のしきい値f
threshを超える場合、m=1のスペクトル幅Δf
D(1)をドップラースペクトル幅の算出候補から除外する。スペクトル幅Δf
D(M)との比較において、周波数差のしきい値f
threshを超えない場合、全てのしきい値において、端末単体のドップラースペクトルの外側のスペクトル成分が検出されなかったことになり、スペクトル幅Δf
D(1)〜Δf
D(M)の全てが端末単体のドップラースペクトルを表すことになる。このため、最も広いスペクトル幅となる可能性があるスペクトル幅Δf
D(1)を端末のドップラースペクトル幅と決定する。
【0065】
上記の処理において、m=1のスペクトル幅Δf
D(1)が除外された場合、m=1の処理を終了し、m=2として、同様の処理を行う。即ち、m=2のスペクトル幅Δf
D(2)とm+1のスペクトル幅Δf
D (3)の差分Δf
D(2)-Δf
D(3)を計算する。差分が周波数差のしきい値f
threshを超える場合、m=2のスペクトル幅Δf
D(2)をドップラースペクトル幅の算出候補から除外する。周波数差のしきい値f
threshを超えない場合、Δf
D(3)〜Δf
D(M)との比較を行う。同様の処理をm=3においても行う。
【0066】
図8の例では、差分Δf
D(1)-Δf
D(2)が周波数差のしきい値f
threshを超えないため、ΔN
1とΔN
2とにおいて、同じスペクトル幅を持つと判断する。続いて、Δf
D(1)とΔf
D(3)との差分を計算し、周波数差のしきい値f
threshと比較する。差分Δf
D(1)-Δf
D(3)が周波数差のしきい値f
threshを超えるため、ΔN
1とΔN
3とにおいて、異なるスペクトル幅を持つと判断する。即ち、ΔN
1(そして、ΔN
2)において、端末のドップラースペクトルの外側に別のスペクトル成分が発生していると判断する。このため、m=1のスペクトル幅Δf
D(1)をドップラースペクトル幅算出の候補から除外する。
【0067】
次に、m=2として、同様の処理を行う。差分Δf
D(2)-Δf
D(3)と周波数差のしきい値f
threshとの比較により、差分が周波数差のしきい値f
threshを超えるため、ΔN
2とΔN
3とにおいて、異なるスペクトル幅を持つと判断する。このため、m=2のスペクトル幅Δf
D(2)をドップラースペクトル幅算出の候補から除外する。
【0068】
スペクトル幅Δf
D(2)が除外された場合、m=2の処理を終了し、m=3として、同様の処理を行う。差分Δf
D(3)-Δf
D(4)は周波数差のしきい値f
threshを超えないため、ΔN
3とΔN
4とにおいて、同じスペクトル幅を持つと判断する。
【0069】
上記の処理において、m=1と2のスペクトル幅が除外されている。このため、m=3のスペクトル幅Δf
D(3)が、ドップラースペクトル幅として決定される。
【0070】
図10に上記の処理のフローチャートを示す。これは、
図4に示されるフローチャートのS14〜S17に相当する。
【0071】
図10のS31〜S33は、
図9のS21〜S23と同じである。S34において、まず、m=1と設定し、m=1のしきい値におけるスペクトル幅の検査を行う。S35において、m’=m+1として比較対象のしきい値を決定する。S36において、mのしきい値におけるスペクトル幅とm’のしきい値におけるスペクトル幅の差分が周波数差のしきい値f
threshより大きくなるかを判定する。差分が周波数差のしきい値より大きい場合、m=1において、端末単体のドップラースペクトルの外側にスペクトル成分が存在するとして、m=1のスペクトル幅を候補から除外する。S37において、m=M-1でないとして、m=1の処理を終了する。続いて、S38において、mを1増やして同様の処理を続ける。
【0072】
S36において、スペクトル幅の差分が周波数差のしきい値より小さい場合、S39において、m’がMに到達しているかを判断する。m’=Mでない場合、S40において、m’を1増やす。すなわち、比較するしきい値を1つ上として、S36において、スペクトル幅の差分が周波数差のしきい値より大きくなるかを判定する。
【0073】
m=1において、S36、S39、S40の処理により、m’=2〜Mのしきい値のスペクトル幅との比較を行い、全てのしきい値において差分が周波数差のしきい値を超えない場合、S39において、m’=Mとなり、m=1のスペクトル幅Δf
D(1)がドップラースペクトル幅に相当すると判断される。
【0074】
m=1のスペクトル幅がドップラースペクトル幅に相当すると判断されると、m=2〜Mのスペクトル幅も、m=1のスペクトル幅に対して周波数差のしきい値内にあり、ドップラースペクトル幅に相当すると判断される。スペクトル幅Δf
D(1)〜Δf
D(M)の中で、Δf
D(1)が最も広くなる可能性があるため、S41において、Δf
D(1)をドップラースペクトル幅と決定し、速度の推定に使用される。
【0075】
S36において、mのスペクトル幅が、m’のスペクトル幅より周波数差のしきい値f
threshを超えて大きいと判定されると、mの処理を終了する。S38において、mを1増やして同様の処理を続ける。
【0076】
S37において、m=M-1となった場合、m=1〜M-1のしきい値において、周辺移動散乱体によるドップラースペクトル成分があると判断し、S42において、Δf
D(M)をドップラースペクトル幅として決定する。
【0077】
上記実施例において、P
peakにおけるスペクトル幅の算出は考慮されない。
図8に示すドップラースペクトルのようにドップラースペクトルの両端にピーク電力がある場合、ピーク電力位置で、スペクトル幅を算出することができる。しかし、一般的には、不均等な到来電波方向や雑音などの影響により、ドップラースペクトルの一方だけ電力が高くなる、あるいは、スペクトル両端の間に雑音によるピーク電力が生じることがある。このような場合、P
peak位置において、スペクトル幅を算出することができない。このため、最も高いしきい値(m=M)におけるスペクトル幅までをドップラースペクトル幅算出の対象としている。
【0078】
しかし、端末近傍のSNR環境が良く、受信電波がほぼ全方向から到来するような場合、
図8に示すように、スペクトル両端に同電力のピーク電力が生じる。このような場合において、P
peak位置におけるスペクトル幅を比較対象とすることもできる。
【0079】
本発明のその他の実施例を以下に説明する。
図11に示すようなドップラースペクトルを想定する。即ち、ドップラースペクトル内の特定の周波数成分の電力が極端に高くなる。この極端に高い電力に対してピーク電力P
peakが設定される。設定されたP
peakに基づいて、しきい値ΔN
1〜ΔN
4を設定すると、最も高いしきい値m=4のスペクトル幅Δf
D(4)は、実際のドップラースペクトル幅より狭く算出される可能性がある。このとき、m=3のスペクトル幅Δf
D(3)は、Δf
D(4)より広くなるため、周辺移動散乱体によるドップラースペクトル成分を含むと判断される。この結果、Δf
D(4)がドップラースペクトル幅として決定され、端末の移動速度は、実際より遅く推定されてしまう。
【0080】
ドップラースペクトルのピーク電力を実際のピーク電力より低く設定することにより、極端に高いピーク電力の影響を抑えることができる。
図12に示すように、実際のピーク電力P
peakよりΔP
peak低い電力(P
peak-ΔP
peak)を新たなピーク電力に設定し、(P
peak-ΔP
peak)と雑音電力N
0の間にしきい値ΔN
1〜ΔN
4を設定する。最も高いしきい値m=4のスペクトル幅Δf
D(4)は、ドップラースペクトル幅に相当することになり、正確なドップラースペクトル幅を算出することを可能にする。ΔP
peakは、伝搬環境に応じて、適切に設定することができる。
【0081】
図13は、本発明の装置構成を簡単に説明するブロック図である。このような構成は、基地局側、端末側のどちらにも設置することができ、両局のどちらにおいても、最大ドップラー周波数の測定を可能にする。
【0082】
図13の(a)において、50は信号受信部、51は受信信号電力測定部、52はFFT、53はスペクトル幅決定部、54は最大ドップラー周波数算出部、55は端末速度推定部を表す。また、(b)はスペクトル幅決定部53を表し、56はしきい値設定部、57はスペクトル幅算出部、58はスペクトル幅比較部を表す。
【0083】
信号受信部50は、無線通信を行う送信側局からの信号を受信し、受信信号の中から参照信号を取り出す。参照信号の挿入方法は、システムにより規定される。受信信号電力測定部51は、受信した参照信号をベースバンド信号に変換し、復調した後、受信電力を測定して、受信信号の伝搬路の時間変動データを生成する。受信信号電力測定部51は、伝搬路推定の一部として実装することも可能である。FFT 52は、伝搬路の時間変動データにFFTを掛けて、ドップラースペクトルを算出する。スペクトル幅決定部53は、ドップラースペクトルに対して設定される複数のしきい値において算出されるスペクトル幅からドップラースペクトル幅を決定する。最大ドップラー周波数算出部54は、スペクトル幅決定部53で決定されたドップラースペクトル幅から、最大ドップラー周波数を算出する。端末速度推定部55は、検出された最大ドップラー周波数より、端末の移動速度を算出する。
【0084】
スペクトル幅決定部53において、しきい値設定部56は、ドップラースペクトルに対して複数のしきい値を設定する。スペクトル幅算出部57は、各しきい値におけるスペクトル幅を算出する。スペクトル幅比較部58は、各しきい値のスペクトル幅を比較し、周辺移動散乱体によるドップラースペクトル成分を含むスペクトル幅を検知して除外すると共に、適切なスペクトル幅を選択する。