特許第6239706号(P6239706)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239706
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】膜エレメント
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/06 20060101AFI20171120BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   B01D63/06
   B01D71/02
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-166829(P2016-166829)
(22)【出願日】2016年8月29日
(62)【分割の表示】特願2012-96471(P2012-96471)の分割
【原出願日】2012年4月20日
(65)【公開番号】特開2017-18955(P2017-18955A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2016年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 桂史
(72)【発明者】
【氏名】西本 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】上中 哲也
(72)【発明者】
【氏名】江崎 聡
(72)【発明者】
【氏名】布 光昭
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−184893(JP,A)
【文献】 特開2013−031830(JP,A)
【文献】 特開平02−241525(JP,A)
【文献】 特開2004−290838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00−71/82
B01D 53/22
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の対向面間を貫通する断面円形の複数本の流体通流孔が形成された多孔質体を含み、被処理流体から分離対象物を分離する膜エレメントであって、
前記多孔質体は、前記流体通流孔の軸心方向と直交する断面で、各流体通流孔の中心を中心とし、当該流体通流孔の中心から隣接する流体通流孔の中心迄の距離を半径とする仮想円を描いたときに、当該仮想円と前記多孔質体の端部とが交差する位置関係となる流体通流孔の比率が、前記多孔質体に形成された全流体通流孔の75%より大に設定され、
前記断面の外周が複数の角部と各角部を結ぶ辺とで構成される形状に形成されるとともに、各角部の外周が当該角部の直近に位置する各流体通流孔の内周の形状に沿う形状に形成され、各流体通流孔と当該断面の外周との最短距離と各辺に沿って配列された流体通流孔同士の内面間の最短距離とが略等しく設定され、各流体通流孔の向きが揃うように所定間隔を隔てて配列された複数の多孔質体が、少なくとも一方の対向面側で、前記流体通流孔の軸心方向と交差する方向に配置された連結部を介して一体に形成されている膜エレメント。
【請求項2】
一対の対向面間を貫通する断面円形の複数本の流体通流孔が形成された多孔質体を含み、被処理流体から分離対象物を分離する膜エレメントであって、
前記多孔質体は、前記流体通流孔の軸心方向と直交する断面で、各流体通流孔の中心を中心とし、当該流体通流孔の中心から隣接する流体通流孔の中心迄の距離を半径とする仮想円を描いたときに、当該仮想円と前記多孔質体の端部とが交差する位置関係となる流体通流孔の比率が、前記多孔質体に形成された全流体通流孔の75%より大に設定され、
前記断面の外周が複数の角部と各角部を結ぶ辺とで構成される形状に形成されるとともに、各角部の外周が当該角部の直近に位置する各流体通流孔の内周の形状に沿う形状に形成され、各流体通流孔と当該断面の外周との最短距離と各辺に沿って配列された流体通流孔同士の内面間の最短距離とが略等しく設定され、
各流体通流孔の向きが揃うように所定間隔を隔てて配列された複数の多孔質体が、前記流体通流孔の軸心方向に沿った方向に配置された連結部を介して一体に形成されている膜エレメント。
【請求項3】
隣接する多孔質体同士で区画される空間が前記膜エレメントの外部空間に向けた直線状の流路となる請求項または記載の膜エレメント。
【請求項4】
各流体通流孔と当該断面の外周との最短距離と、各流体通流孔同士の内面間の最短距離とが略等しく設定されている請求項1から3の何れかに記載の膜エレメント。
【請求項5】
前記断面が矩形形状に形成されている請求項1から3の何れかに記載の膜エレメント。
【請求項6】
前記多孔質体は、全流体通流孔が前記仮想円と前記多孔質体の端部とが交差する位置関係となるように構成されている請求項1からの何れかに記載の膜エレメント。
【請求項7】
スプレードライ法を用いて所定の粒径に造粒したセラミックス粒状体をプレス成形することにより前記多孔質体及び連結部が一体に形成されている請求項4から6の何れかに記載の膜エレメントの製造方法。
【請求項8】
各多孔質体に形成された流体通流孔同士が連通するように、各流体通流孔に対応する部位が開口された薄板状の接合剤を介在させた焼成工程により、各多孔質体が前記流体通流孔の軸心方向に複数段接合されている請求項記載の膜エレメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の対向面間を貫通する複数本の流体通流孔が形成された多孔質体を含み、被処理流体から分離対象物を分離する膜エレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
水の浄化装置、排ガスの浄化装置、化学反応用触媒の担体等、各種の流体を処理する装置にセラミックス材料で構成される膜エレメントが用いられている。
【0003】
このような膜エレメントは、セラミックス材料で構成される多孔質体に流体通流孔を形成するとともに、流体通流孔の内周面に濾過膜層を形成して得られる。流体通流孔に供給された被処理流体は濾過膜層で濾過され、分離対象物が分離された濾過流体は多孔質体の細孔を透過して、多孔質体の外部表面から外部空間に排出される。
【0004】
このとき多孔質体の外部表面近傍に位置する流体通流孔では、被処理流体が濾過膜層で濾過された濾過流体が多孔質体の外部表面に到る経路が短いため、濾過流体に対する流動抵抗が比較的低く、多量の被処理流体が濾過されるようになる。
【0005】
しかし、多孔質体の外部表面から離隔した位置にある流体通流孔では、濾過流体が多孔質体の外部表面に到る経路が長いため、濾過流体に作用する流動抵抗が大きくなり濾過量が低下する。
【0006】
このように、各流体通流孔に流入した被処理流体の濾過量は、多孔質体に形成された各流体通流孔の外表面との相対位置関係によって偏りが生じ、多孔質体に形成された濾過膜層の総面積の割に濾過量が少ないという問題があった。
【0007】
そこで、特許文献1には、瀘過面積が大きく、隔壁内での瀘液の流動抵抗を小さくでき、瀘過を効率的に行なうことができるセラミックフィルタとして、ハニカム構造体のセル(流体通流孔)からセル壁を介して離隔して成り、ハニカム構造体の外部に連通する連通空隙を有するモノリス型セラミックフィルタが提案されている。
【0008】
当該モノリス型セラミックフィルタでは、ハニカム構造体の外部に連通する連通空隙を設けることにより、ハニカム構造体の外部から離隔した位置の隔壁であっても瀘液の流動抵抗が小さくなる。尚、当該モノリス型セラミックフィルタの連通空隙は、押出成形時にハニカム構造体の外周面に形成される溝状の凹部で構成されている。
【0009】
また、特許文献2には、供給原料を変更する装置であって、該装置がその中に供給原料を通過させる構造物からなり、該構造物が、押出一体構造物および組込構造物からなる群より選択され、内側区域、外側区域、縦軸、および該縦軸に沿って延在する2組の開放端通路を定義する壁からなり、該2組の通路が、互いに異なる断面形状または寸法を有し、一方の組の各々の通路が、他方の組の少なくとも1つの通路か、または該構造物の外部に隣接し、該構造物が組込構造物である場合には、少なくともいくつかの通路が円弧形状の断面を有する装置が提案されている。
【0010】
当該装置は、主要チャンネル(流体通流孔)、出口導管及び孔が形成された構造物で、供給原料が主要チャンネルを通って供給されると、ある成分が構造物に保持され、残りの成分が構造物を通過し、隣接する出口導管または直接に外部まで流通する。出口導管に流入した成分は、孔を通って効果的に外部に流出するように構成され、これにより背圧が小さくなり、多孔の表面積が有効に利用されるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6−99039号公報
【特許文献2】特開平9−313831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1に記載のモノリス型セラミックフィルタは、外部表面から離隔した位置に形成されている大半のセルの近傍に連通空隙が形成されているものではないため、連通空隙近傍のセルと連通空隙から離隔したセルとでは濾過流体に対する流動抵抗が異なり、濾過流量の偏りが解消されることがなく、全体として効率的な濾過を行なうという観点で改良の余地があった。
【0013】
また、特許文献2記載の構造物は、外表面から離隔した位置の全ての主要チャンネルの近傍に出口導管が形成されているが、外表面に形成された僅かな数の孔を介して各出口導管が外部に連通するように構成されているに過ぎないため、出口導管から孔に向けて流れる濾過流体に作用する圧損が発生し、特許文献1と同様、全体として効率的な濾過を行なうという観点で改良の余地があった。
【0014】
また、流動抵抗に大きな不均衡が生じると、セルや主要チャンネルの壁面に対する目詰まりの状況も大きく異なり、流量の多いセルや主要チャンネルでの目詰まりが激しくなり、洗浄のためのメンテナンス間隔も短くなるという問題もある。さらに、流動抵抗の不均衡によって、逆洗時の洗浄水の作用が均一にならず、洗浄の効果が低くなる虞もある。
【0015】
尚、特許文献1に記載されたモノリス型セラミックフィルタは、押出成形法によって連通空隙が形成されるため、長いセルを形成するためには、成形から焼成までの各工程で形状精度が必要となる。特に成形後の保形性に難点がある。また、特許文献2に記載された構造物は、成形後に後加工で孔を形成する必要がある。
【0016】
本発明の目的は、流体通流孔毎の濾過流量の偏りが少なく、各流体通流孔で効率的な濾過を行なうことができる膜エレメントを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述の目的を達成するため、本発明による膜エレメントの第一の特徴構成は、特許請求の範囲の書類の請求項1に記載した通り、一対の対向面間を貫通する断面円形の複数本の流体通流孔が形成された多孔質体を含み、被処理流体から分離対象物を分離する膜エレメントであって、前記多孔質体は、前記流体通流孔の軸心方向と直交する断面で、各流体通流孔の中心を中心とし、当該流体通流孔の中心から隣接する流体通流孔の中心迄の距離を半径とする仮想円を描いたときに、当該仮想円と前記多孔質体の端部とが交差する位置関係となる流体通流孔の比率が、前記多孔質体に形成された全流体通流孔の75%より大に設定され、前記断面の外周が複数の角部と各角部を結ぶ辺とで構成される形状に形成されるとともに、各角部の外周が当該角部の直近に位置する各流体通流孔の内周の形状に沿う形状に形成され、各流体通流孔と当該断面の外周との最短距離と各辺に沿って配列された流体通流孔同士の内面間の最短距離とが略等しく設定され、各流体通流孔の向きが揃うように所定間隔を隔てて配列された複数の多孔質体が、少なくとも一方の対向面側で、前記流体通流孔の軸心方向と交差する方向に配置された連結部を介して一体に形成されている点にある。
【0018】
多孔質体に形成された75%より多くの流体通流孔の近傍には常に多孔質体の外表面が位置している。このような流体通流孔から多孔質体の外部に排出される濾過流体は、大きな流動抵抗を受けることなく、多孔質体の細孔を透過し近傍の外表面から速やかに排出される。このように75%より多い流体通流孔で良好な濾過を行うことができるので、膜エレメント全体として効率的な濾過を行なうことができるようになる。また、流体通流孔の軸心方向と直交する断面の外周が複数の角部と各角部を結ぶ辺とで構成される形状に形成され、角部の外周が当該角部の直近に位置する各流体通流孔の内周の形状に沿う形状に形成され、各流体通流孔と当該断面の外周との最短距離と各辺に沿って配列された流体通流孔同士の内面間の最短距離とが略等しく設定されているので、そのような流体通流孔では、被処理流体から分離対象物を分離して外表面に向けて濾過する際に発生する圧損が均等になり、膜エレメント全体としてコンパクトに構成しながらも効率的な濾過を行なうことができるようになる。
【0019】
そして、複数の多孔質体が所定間隔を隔てて配列され、少なくとも一方の対向面側で、流体通流孔の軸心方向と交差する方向に配置された連結部を介して一体に形成されているため、隣接する多孔質体間には連結部を除いて外部空間と連通する対向空間が形成されている。従って、流体通流孔に導入された被処理流体が濾過された濾過流体は、多孔質体の外表面から対向空間を介して外部空間に流出するので、濾過流体に掛かる流動抵抗は、主に流体通流孔が形成された多孔質体内部に制限され、隣接する多孔質体に依存することがない。つまり複数の多孔質体を連結しても流動抵抗の増加を招くことのない多数の流体通流孔を備えた膜エレメントを実現できる。
【0020】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、一対の対向面間を貫通する断面円形の複数本の流体通流孔が形成された多孔質体を含み、被処理流体から分離対象物を分離する膜エレメントであって、前記多孔質体は、前記流体通流孔の軸心方向と直交する断面で、各流体通流孔の中心を中心とし、当該流体通流孔の中心から隣接する流体通流孔の中心迄の距離を半径とする仮想円を描いたときに、当該仮想円と前記多孔質体の端部とが交差する位置関係となる流体通流孔の比率が、前記多孔質体に形成された全流体通流孔の75%より大に設定され、前記断面の外周が複数の角部と各角部を結ぶ辺とで構成される形状に形成されるとともに、各角部の外周が当該角部の直近に位置する各流体通流孔の内周の形状に沿う形状に形成され、各流体通流孔と当該断面の外周との最短距離と各辺に沿って配列された流体通流孔同士の内面間の最短距離とが略等しく設定され、各流体通流孔の向きが揃うように所定間隔を隔てて配列された複数の多孔質体が、前記流体通流孔の軸心方向に沿った方向に配置された連結部を介して一体に形成されている点にある。
【0021】
複数の多孔質体が所定間隔を隔てて配列され、流体通流孔の軸心方向に沿った方向に配置された連結部を介して一体に形成されていると、隣接する多孔質体間に形成される対向空間、つまり多孔質体同士で仕切られる空間のうち少なくとも連結部と離隔する方向が外部空間に開放されるようになる。従って、流体通流孔に導入された被処理流体が濾過された濾過流体は、多孔質体の外表面から対向空間を介して外部空間に流出するので、濾過流体に掛かる流動抵抗は、主に流体通流孔が形成された多孔質体内部に制限され、隣接する多孔質体に依存することがない。つまり複数の多孔質体を連結部を介して連結しても流動抵抗の増加を招くことのない多数の流体通流孔を備えた膜エレメントを実現できる。尚、連結部は例えば薄板状であれば隣接する多孔質体同士の一端側または中央部側の何れの位置に配置されていてもよい。
【0022】
同第の特徴構成は、同請求項に記載した通り、上述の第または第の特徴構成に加えて、隣接する多孔質体同士で区画される空間が前記膜エレメントの外部空間に向けた直線状の流路となる点にある。
【0023】
隣接する多孔質体同士で区画される空間は、当該空間に排出された濾過流体の排出流路となる。当該流路は膜エレメントの外部空間に向けた直線状の流路となっているので、曲がりくねった流路等に比べて余分な圧力損失がない。よって、隣接する多孔質体同士で区画される空間に排出された濾過流体は、外部空間へ速やかに排出される。外部空間に連通する対向空間が連結部によって区画されるので、流体通流孔の軸心方向で被処理流体にかかる流動抵抗のばらつきが少ない膜エレメントが得られる。
【0024】
同第四の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、各流体通流孔と当該断面の外周との最短距離と、各流体通流孔同士の内面間の最短距離とが略等しく設定されている点にある。
【0025】
被処理流体が流体通流孔で濾過されて膜エレメントの外周面から流出する際に発生する圧損が均等になり、膜エレメント全体として効率的な濾過を行なうことができるようになる。
【0026】
同第五の特徴構成は、同請求項5に記載した通り、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記断面が矩形形状に形成されている点にある。
【0027】
同第の特徴構成は、同請求項に記載した通り、上述の第一から第の何れかの特徴構成に加えて、前記多孔質体は、全流体通流孔が前記仮想円と前記多孔質体の端部とが交差する位置関係となるように構成されている点にある。
【0028】
全ての流体通流孔が、各多孔質体の外表面の近傍に形成されるようになり、さらに良好な濾過を行なうことができる膜エレメントが得られる。
例えば、多孔質体の流体通流孔に被処理流体の一例として被処理水を通流させて、被処理水に含まれる固形異物を除去するような濾過処理を行うような場合には、ある程度の期間濾過処理を行なうと、流体通流孔の内周面にファウリング物質が付着して濾過性能が低下する。このようなファウリング物質を取り除き濾過性能を回復させるため、濾過流体の通流方向と逆方向に洗浄用流体を強制的に通流して流体通流孔の内周面に付着したファウリング物質を除去する逆洗浄工程が実行される必要がある。
【0029】
仮に各流体通流孔から多孔質体の外表面迄の距離に大きな差があると、流体通流孔によって濾過流量が異なり、流体通流孔毎に内周面に付着するファウリング物質の量にも差が生じ、このような状態で逆洗浄工程を実行すると、流体通流孔毎の洗浄用流体量や各流体通流孔の内周面に作用する逆洗圧に差が生じる結果、流体通流孔毎の洗浄の程度にばらつきが生じ、長い洗浄時間や多くの洗浄用流体を要するという問題が生じる。
【0030】
しかし、上述の構成によれば、全ての流体通流孔での詰りの状態に大きな偏りが発生することが少なく、逆洗浄工程でも全ての流体通流孔に均一な逆圧力をかけることが可能となり、全ての流体通流孔で略均質に洗浄することができるようになる。
【0031】
本発明による膜エレメントの製造方法の第一の特徴構成は、同請求項に記載した通り、上述した第から第六の何れかの特徴構成を備えた膜エレメントが、スプレードライ法を用いて所定の粒径に造粒したセラミックス粒状体をプレス成形することにより前記多孔質体及び連結部が一体に形成されている点にある。
【0032】
スプレードライ法を用いて所定の粒径に造粒したセラミックス粒状体を用いたプレス成形法を採用すれば、好適に多孔質体及び連結部を一体に形成することができる。
【0033】
同第二の特徴構成は、同請求項に記載した通り、上述の第一の特徴構成に加えて、各多孔質体に形成された流体通流孔同士が連通するように、各流体通流孔に対応する部位が開口された薄板状の接合剤を介在させた焼成工程により、各多孔質体が前記流体通流孔の軸心方向に複数段接合されている点にある。
【0034】
少なくとも第一の特徴構成を備えた膜エレメントを用いて各多孔質体を流体通流孔同士が連通するように複数段接合すれば、各多孔質体に形成された流体通流孔毎の濾過流量の偏りが少なく、しかも複数連通された流体通流孔毎の軸心方向に沿った全領域での濾過流量の偏りも少ない大型の膜エレメントが実現できる。また、少なくとも第二の特徴構成を備えた膜エレメントを用いて各多孔質体を流体通流孔同士が連通するように複数段接合すれば、流動抵抗のばらつきが少ない状態で濾過流体が隣接する多孔質体間に形成された対向空間を介して外部空間に流出する各膜エレメントでの効率的な濾過状態が、連通された流体通流孔毎の軸心方向に沿った全領域で維持される大型の膜エレメントが実現できる。
【発明の効果】
【0035】
以上説明した通り、本発明によれば、流体通流孔毎の濾過流量の偏りが少なく、各流体通流孔で効率的な濾過を行うことができる膜エレメントを提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明による膜エレメントを備える膜モジュールの説明図
図2】膜エレメントの説明図
図3】膜エレメントブロックの説明図で、(a)は正面、平面及び右側面を表す図、(b)は背面、底面及び左側面を表す図
図4】多孔質体の説明図で(a)は正面、平面及び右側面を表す図、(b)はある断面での流体通流孔の位置関係の説明図
図5】(a)は濾過工程で動作する膜モジュールの説明図、(b)は逆洗浄工程で動作する膜モジュールの説明図
図6】接合工程を説明する斜視図
図7】別実施形態を示す多孔質体の断面図
図8】(a)は多孔質体の断面図、(b)は多孔質体の断面図、(c)は多孔質体の断面図、(d)は多孔質体の断面図
図9】濾過水量と透過流束の説明図
図10】(a)は多孔質体の断面図、(b)は多孔質体の断面図、(c)は多孔質体の断面図、(d)は多孔質体の断面図
図11】本発明による膜エレメントを備える膜モジュールの説明図
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に、本発明による膜エレメントを膜モジュールに用いた例について説明する。
図1には、上水用の水処理装置に用いられる膜モジュール1が示されている。水処理装置には、被処理流体の一例としての被処理水に含まれる微小な濁度成分等の固形異物を分離対象物として分離するために、処理量に応じて当該膜モジュール1が一から数千個組み込まれる。
【0038】
各膜モジュール1は、外形が略直方体の複数本のセラミックス構造体としての膜エレメント2と、膜エレメント2を収容する樹脂製あるいは金属製のケース7を備えている。
【0039】
ケース7には、膜エレメント2に被処理水を供給する流体供給部(以下、「給水部」と記す。)8と、流体排出部(以下、「排水部」と記す。)9と、膜エレメント2で濾過された濾過水を排出する濾過流体排出部(以下、「濾過水排出部」と記す。)10が設けられている。給水部8及び排水部9にはそれぞれ流路を開閉するバルブ8b,9bが設置されている。
【0040】
ケース7内部には、縦横に3本ずつ合計9本の膜エレメント2が並設されている。各膜エレメント2の一端部にヘッダ8aを介して給水部8が接続され、他端部にヘッダ9aを介して排水部9が接続されている。膜エレメント2の周面から滲みだし、ケース7に溜った濾過水が濾過水排出部10から外部に排出される。
【0041】
尚、ケース7内部に収容する膜エレメント2の本数の9本は例示である。例えば、図11に示すように、ケース7内部に1本の膜エレメント2を収容する構成であったり、2本以上の複数本の膜エレメント2を収容する構成であったりしてもよい。ケース7の形状は収容される膜エレメント2の本数や配置に応じた適当な大きさに設定される。ケース7内部に収容される膜エレメント2が複数本である場合の各膜エレメント2のケース7内での配列方法は任意である。
【0042】
図2に示すように、膜エレメント2は、セラミックス成形体である膜エレメントブロック20が複数段接合されて構成されている。膜エレメント2に供給された被処理水は、各膜エレメントブロック20で濾過されて濾過水が排出される。
【0043】
図3(a),(b)に基づいて膜エレメント2を構成する膜エレメントブロック20の構成を説明する。膜エレメントブロック20は、8個の多孔質体6が、各多孔質体6の一対の対向面6a,6b間に貫通形成された複数本の流体通流孔3の向きが揃うように所定間隔を隔てて配列され、流体通流孔3の軸心方向に沿った方向に配置された連結部60を介して一体に形成されている。
【0044】
膜エレメントブロック20は、例えば、スプレードライ法を用いて所定の粒径に造粒したムライト系のセラミックス粒状体をプレス成形により一体に形成することにより得られる。尚、多孔質体6を備えた膜エレメントブロック20は、一体成形された後に焼成されることによって多孔質体となるが、以下の説明では、説明の便宜上、焼成前の膜エレメントブロック20に対しても多孔質体との表記を用いる。
【0045】
連結部60は、各多孔質体6の側面の一端部に薄板状に配置された図3(a),(b)の態様に限るものではなく、流体通流孔3の軸心方向に沿った方向に形成されていればよく、例えば、隣接する多孔質体6の対向側面の中央部側に配置されていてもよい。隣接する多孔質体6間に形成される対向空間、つまり多孔質体6同士の対向側面で仕切られる空間のうち少なくとも連結部60と離隔する方向が外部空間に開放されていればよい。
【0046】
さらに、膜エレメントブロック20は、流体通流孔3の軸心方向と直交する方向に配置された薄板状の連結部61を備えている。当該連結部61も多孔質体6の下面6a側の端部に配置された図3(a),(b)の態様に限るものではなく、多孔質体6の上面6b側の端部、或いは対向面6a,6b間の中間位置に配置されてもよく、さらに流体通流孔3の軸心方向と交差する姿勢で配置されていてもよい。何れの態様であっても、多孔質体6同士の対向側面で仕切られる対向空間が少なくとも連結部61を除いて外部空間と連通するように形成されていればよい。
【0047】
つまり、連結部60,61及び隣接する多孔質体6同士の対向面で区画される空間が、膜エレメントブロック20の外部空間に向けた直線状の流路5となる。
【0048】
尚、膜エレメントブロック20を構成する複数の多孔質体6の間の全てに連結部60及び連結部61が形成される必要はない。例えば隣接する多孔質体6を連結部60のみで連結する構成であったり、連結部61のみで連結する構成であったりしてもよい。多孔質体6の成形時の保形性の観点からは、隣接する多孔質体6の間の全てに連結部60及び連結部61が形成されていることが好ましい。
【0049】
図4(a),(b)に示すように、各多孔質体6には、10本の流体通流孔3が縦に2列、横に5列となるように、多孔質体6の一対の対向面6a,6b間の高さ方向に沿って貫通形成されている。尚、多孔質体6は、縦が約10.2mm、横が約24mm、高さが約40mmに形成され、流体通流孔3の直径は約3.6mmに形成されている。
【0050】
各流体通流孔3の内周面には濾過膜層4が形成されている。濾過膜層4は、アルミナを主材としたスラリーをコーティングして焼成することで、約0.1μm程度の多数の細孔が形成され、その層厚が約20μm程度に形成されている。尚、濾過膜層4の孔径は例示であり、被処理流体や分離対象物の性状に応じて適当な値が設定される。濾過膜層4は、多孔質体6の細孔径よりも小さな濾過孔径に構成することで、被処理水に含まれる分離対象物の分離精度を向上させることができる。また、多孔質体6と濾過膜層4との間に孔径や層厚の異なる中間層を設けてもよい。
【0051】
図4(b)に示すように、多孔質体6は、流体通流孔3の軸心方向と直交する断面で、各流体通流孔3の中心から隣接する流体通流孔3の中心迄の距離rを半径とする仮想円Cを描いたときに、全流体通流孔3が、当該仮想円Cと多孔質体6の端部(外表面)とが交差する位置関係となるように構成されている。
【0052】
この条件を満たすように、多孔質体6の寸法、流体通流孔3の直径、形状、及び多孔質体6内での流体通流孔3の配置が決定される。流体通流孔3の内周面から多孔質体6の外表面までの最短距離は、多孔質体6の強度や成形性が保たれる適当な値に設定されるが、多孔質体6の細孔径が一定の場合、当該距離が短いほど、濾過水の流動抵抗は少なくなる。
【0053】
各流体通流孔3に供給された被処理水は濾過膜層4で濾過され、その濾過水は多孔質体6の細孔を通過して多孔質体6の外表面から外部空間に排出される。各流体通流孔3は、隣接する流体通流孔3と中心迄の距離以内に多孔質体6の端部が位置するように配置されているので、濾過水は主に流動抵抗が最も低い端部、つまり仮想円C内に位置する近傍の端部Eを含む外表面から外部空間へ排出される。
【0054】
尚、図4(b)では、多孔質体6の、流体通流孔3の軸心方向と直交する断面において、上段左と、下段中央に位置する流体通流孔3のみ仮想円Cを破線で示し、当該仮想円C内にある多孔質体6の端部Eを太線で示している。また、以上の説明では、流体通流孔3の軸心方向と直交する断面を例に説明したが、本発明は、流体通流孔3の軸心方向と交差する断面で、各流体通流孔3の中心から隣接する流体通流孔3の中心迄の距離rを半径とする仮想円Cを描いたときに、全流体通流孔3が、当該仮想円Cと多孔質体6の端部(外表面)とが交差する位置関係となっていればよい。
【0055】
図3(a),(b)に戻って、このような多孔質体6が、縦に4列、横に2列の合計8個配置され、各隣接する多孔質体6同士が連結部60,61で連結されて、縦が約50mm、横が約50mm、高さが約40mmの膜エレメントブロック20が構成される。
【0056】
膜エレメントブロック20の縦横の中央には、1本の流体通流孔3を備えた多孔質体6が配置され、隣接する各多孔質体6と連結部60,61で連結されている。前記中央の多孔質体6も前記半径rの仮想円Cと多孔質体6の端部Eとが交差する位置関係となっている。
【0057】
尚、各多孔質体6同士の間には、膜エレメントブロック20に形成された流体通流孔3を所定本数毎に区画するスリット5が形成される。つまり、膜エレメントブロック20は、中心部の流体通流孔3を除いて、中心から横方向に延びるように形成された2本のスリット5と、当該2本のスリット5と直交するように縦方向に延びるように形成された3本のスリット5によって、流体通流孔3が10本ずつの8個の多孔質体6に区画されて構成されていることになる。以下では説明の流れに応じて、流路5とスリット5を使い分けているが、同じものを示すものである。
【0058】
図2に戻り、膜エレメント2は、膜エレメントブロック20の各多孔質体6に形成された流体通流孔3同士が連通するように、9個の膜エレメントブロック20が接合されて構成されている。尚、9個という個数は例示であり、膜エレメント2は、単一の膜エレメントブロック20であっても、2以上の複数個の膜エレメントブロック20が接合された構成であってもよい。従って、膜エレメントブロック20と、膜エレメントブロック20が複数個接合された膜エレメント2を区別する必要がない場合は、その区別をすることなく単に膜エレメント2と記す。
【0059】
尚、図2に示す膜エレメント2は、最下段の膜エレメントブロック20の連結部61が形成された端面が反転するように、他の膜エレメントブロック20の配列姿勢と反対姿勢で配置しているが、全ての膜エレメントブロック20を連結部61が形成された端面が被処理水の流入口側を向くように同じ配列姿勢にしてもよい。
【0060】
膜エレメント2のうち少なくともヘッダ8a(図1参照)に接続される側の多孔質体6の端面は、スリット5が形成されていない平坦な対向面6aとなり、当該対向面6aにも濾過膜層が形成されていることが好ましい。対向面6aを流体が通過しないように表面処理してもよい。
【0061】
以上のように構成された膜モジュール1による被処理水の濾過について説明する。図5(a)に示すように、給水部8のバルブ8bを開放し、バルブ9bを閉塞した状態で、給水部8から被処理水を加圧供給すると、被処理水が各膜エレメントブロック20の流体通流孔3に案内され、その内周面の濾過膜層4で濾過される。
【0062】
各流体通流孔3の濾過膜層4を透過した濾過水は、多孔質体6の細孔を通過して多孔質体6の外表面から外部空間に排出される。よって、隣接する多孔質体6の間では、隣接する多孔質体6同士の対向面で区画される空間に、濾過水が排出される。当該空間は膜エレメントブロック20の外部空間に向けた直線状の流路5となっているので、曲がりくねった流路に比べて余分な圧力損失がなく、前記空間に排出された濾過水を外部空間へ速やかに排出することができる。
【0063】
各多孔質体6に形成された全ての流体通流孔3で被処理水にかかる流動抵抗が大きくばらつくようなことがないため、各流体通流孔3からの濾過水が多孔質体6の細孔を透過して効率的に近傍の端部から排出される。
【0064】
このような多孔質体6を、各流体通流孔3の向きが揃うように所定間隔を隔てて複数個配列し、流体通流孔3の軸心方向と交差する方向に形成された連結部60を介して一体に形成して膜エレメントブロック20を構成するため、得られた膜エレメントブロック20の濾過効率は良好なものとなる。
【0065】
ある程度の期間濾過処理を行なうと、流体通流孔3の内周面に形成された濾過膜層4にファウリング物質が付着し、このファウリング物質が濾過膜層4を閉塞して濾過性能が低下する。このようなファウリング物質を取り除き濾過性能を回復させるため、濾過流体の通流方向と逆方向に洗浄水を強制的に通流して濾過膜層4に付着したファウリング物質を除去する逆洗浄工程が実行される。
【0066】
図5(b)に示すように、逆洗浄工程では、給水部8のバルブ8bが閉塞され、排水部9のバルブ9bは開放された状態で濾過水排出部10から洗浄水が圧入され、濾過工程とは逆の経路に沿って濾過膜層4に到達した洗浄水が、濾過膜層4の表面に付着した固形分を剥離しながら流体通流孔3から排水部9を介して排水される。尚、洗浄水に代えて空気等の気体を洗浄用流体に用いてもよい。
【0067】
例えば、夫々の流体通流孔3から多孔質体6の外部空間までの距離の差が大きいと、濾過処理において流体通流孔3によって濾過流量が異なり、流体通流孔3毎に濾過膜層4に付着するファウリング物質の量にも差が生じる。さらに、夫々の流体通流孔3から多孔質体6の外部空間までの距離の差が大きいと、逆洗浄工程において、流体通流孔3毎で逆洗圧力及び逆洗流量にもばらつきが生じ、ファウリング物質が剥離しにくい箇所ではファウリング物質が残存してしまう。
【0068】
そして、ファウリング物質が残存している状態で、濾過処理を繰り返すと、さらに流体通流孔3毎の濾過流量に差が生じて、濾過性能の低下を招くという問題がある。
【0069】
しかし、全流体通流孔3で濾過水の通流抵抗の偏りが少ない場合には、濾過膜層4に付着するファウリング物質の量の偏りが少なくできるだけでなく、逆洗浄工程の際にも全流体通流孔3に概ね均一な逆洗圧力及び逆洗流量をかけることが可能となる。よって、ファウリング物質の部分的な排出残りの虞を低減することができ、全流体通流孔3を良好に洗浄できる。
【0070】
以下に、膜エレメント2の製造方法の一例を詳述する。
膜エレメント2は、造粒工程と、成形工程と、接合工程と、膜形成工程を経て製造される。
【0071】
造粒工程では、数μmから数十μmのムライト(3Al2O3・2SiO2)系セラミックスに水と有機バインダ等を添加してスラリーを生成し、当該スラリーをスプレーで噴霧しながら乾燥させるスプレードライ法を用いて、100μm前後の粒径のセラミックス粒状体に造粒する。
【0072】
成形工程では、スリット5、つまり、隣接する多孔質体6同士の対向面で区画される空間で構成される膜エレメントブロック20の外部空間に向けた直線状の流路5に対応した複数本の突起が形成された下パンチに、流体通流孔3を形成するためのコアピンを立設し、セラミックス造粒体をダイスに投入した後に上パンチを下パンチに向けて押圧して、図3(a),(b)に示した膜エレメントブロック20のベースを形成するプレス成形が実行される。尚、このとき得られたセラミックス成形体が焼成されることによって膜エレメントブロック20となる。
【0073】
これにより、端面6a,6b間を貫通する複数本の流体通流孔3が形成された複数の多孔質体6が、各流体通流孔3の向きが揃うように所定間隔を隔てて配列され、流体通流孔3の軸心方向と交差する方向に形成された連結部60,61を介して一体に形成された膜エレメントブロック20が得られる。
【0074】
多孔質体6及び連結部60,61を一体に形成することで、一度のプレス成形工程で複数の多孔質体6を連結して膜エレメントブロック20を形成することができる。
【0075】
多孔質体をプレス成形法で成形すると、シンプルな製造工程で、しかも成形精度がよいために高い歩留まりで製造することができるようになる。また、プレス成形法で成形された多孔質体6は、比較的含水率を低く抑えることができるため、押出成形法で成形され、含水率が数%と高い多孔質体6で保形性のために必要とされる仮焼成を行なわずに、直ちに接合工程を実行することができるため、製造工程を簡素化できるようになる。
【0076】
押出成形法によれば、少なくとも端面6a,6bあるいは側面6cで開口するようなスリット5を形成するためには、成形後に仮焼成した膜エレメントブロック20を機械加工する必要がある。プレス成形法によれば、スリット5を膜エレメントブロック20の成形時に同時に形成できるため、製造工程を一層簡素化することができる。
【0077】
図6に示すように、接合工程では、前記成形工程で得られた膜エレメントブロック20を、接合材11を介在させて、各多孔質体6に形成された流体通流孔3同士が連通するように複数段積層した後に、約1時間、約1000〜1300℃程度の温度で焼成処理する。当該焼成処理によって各多孔質体6の端面6a,6b同士が接合材11を介して焼結接合され、積層された膜エレメントブロック20が接合される。尚、焼成工程で流体通流孔3に接合材11が流れ込まないように、予め流体通流孔3に対応する部位が開口されている。
【0078】
多孔質体6の原材料としてムライト(3Al2O3・2SiO2)系セラミックスを採用した例を示したが、これに限るものではなく、アルミナ(Al2O3)やコージュライト等、多孔質体が形成可能なセラミックスであれば適宜用いることができる。
【0079】
接合材11としてシリカ(酸化ケイ素)が例示できるが、母材であるセラミックスと焼結可能な材料であれば適当な種類のものを用いることも可能である。但し、母材であるセラミックスの焼結温度以下で焼結する材料が望ましい。さらに母材であるセラミックスの熱膨張係数および収縮率に近い材料であればより望ましい。
【0080】
膜成形工程では、粒径0.1μm〜1μmの球状アルミナに水とバインダを添加したスラリーを、接合した多孔質体6の流体通流孔3に一端側から圧入する等して流体通流孔3の内周面に塗布し、その後、約1時間、約1000〜1300℃程度の温度で焼成処理して、濾過膜層4が形成される。
【0081】
尚、既述したが、少なくともヘッダ8aに接続される多孔質体6は、連結部61が形成されている端面6aにも濾過膜層4が形成されていることが好ましい。端面6aに濾過膜層が形成されない場合には、端面6aを流体が通過しないように処理することが好ましい。例えば、焼成工程前に端面6aに釉薬を塗布したり、焼成工程後に樹脂を塗布したり等の処理が可能である。端面6aの微小開口から濾過膜層4を介さずに流れ込んだ被処理水が濾過膜層4を通過した濾過水に混入することを回避するためである。
【0082】
以下に、本発明による膜エレメントブロック20の別実施形態について説明する。
図7に示すように、膜エレメントブロック20は、14本の流体通流孔3が、縦に2列、横に7列となるように、一対の対向面である端面6a,6b間の高さ方向に沿って貫通形成された多孔質体6を、縦に6列、横に2列の合計12個配置して、各隣接する多孔質体6同士を連結部60,61で連結するように一体形成してもよい。
【0083】
多孔質体6は、流体通流孔3の軸心方向と交差する断面で、各流体通流孔3の中心から隣接する流体通流孔3の中心迄の距離を半径rとする仮想円Cを描いたときに、全流体通流孔3が、当該仮想円Cと多孔質体6の端部とが交差する位置関係となっている。尚、図7では、一部の流体通流孔3のみ仮想円Cを破線で示し、当該仮想円内の端部Eを太線で示している。
【0084】
このように、多孔質体6が、流体通流孔3の軸心方向と交差する断面で、各流体通流孔3の中心から隣接する流体通流孔3の中心迄の距離を半径rとする仮想円Cを描いたときに、全流体通流孔3について、仮想円Cと多孔質体6の端部とが交差する位置関係を満たせば、多孔質体6を、縦に何列、横に何列配置して膜エレメントブロック20を構成するか、さらには、その多孔質体6の寸法、及び流体通流孔3の直径、膜エレメントブロック20の寸法は、任意の値であってよい。なお、流体通流孔3の断面形状は、円、楕円、若しくは三角、四角、六角等の多角形であってもよい。また、流体通流孔3の配置は千鳥配置でもよい。
【0085】
次に、膜エレメントを構成する多孔質体の形状と流体通流孔の関係について説明する。
【0086】
図8(a)には、縦に4列、横に4列の合計16本の流体通流孔3が形成された多孔質体70が示されている。各流体通流孔3は、直径3mm、長さ40mmである。流体通流孔3の内周面の濾過膜層の総面積は、約6029mmである。
【0087】
全16本の流体通流孔3のうち、周囲の流体通流孔3a,3b,3c,3d,3e,3h,3i,3l,3m,3n,3o,3pの12本の流体通流孔3は、夫々の中心から隣接する流体通流孔3の中心迄の距離を半径rとする仮想円Cを描いたときに、仮想円Cと多孔質体70の端部Eとが交差する位置関係となる。
【0088】
しかし、中心に位置する4本の流体通流孔3f,3g,3j,3kは、前記仮想円Cを描いたときに、当該仮想円Cと多孔質体70の端部Eとが交差する位置関係となっていない。尚、図8(a)では、流体通流孔3gについてのみ仮想円Cを破線で示している。当該流体通流孔3gを中心とする仮想円Cは多孔質体70の端部Eと交差しないことが判る。
【0089】
16本中の12本、つまり75%の流体通流孔3は、流体通流孔3の軸心方向と交差する断面で、各流体通流孔3の中心から隣接する流体通流孔3の中心迄の距離を半径rとする仮想円Cを描いたときに、当該仮想円Cと多孔質体6の端部とが交差する位置関係となるように設定されている。
【0090】
図8(b)には、図8(a)に示された流体通流孔3e,3h,3i,3lに対応する位置にスリット50が形成された多孔質体71が示されている。
【0091】
当該多孔質体71では、全流体通流孔3a,3b,3c,3d,3f,3g,3j,3k,3m,3n,3o,3pの12本は、夫々の中心から隣接する流体通流孔3の中心迄の距離を半径rとする仮想円Cを描いたときに、仮想円Cと多孔質体71の端部Eとが交差する位置関係となるように設定されている。流体通流孔3の内周面の濾過膜層の総表面積は、約4522mmである。
【0092】
尚、図8(b)では、流体通流孔3gについてのみ仮想円Cを破線で示し、当該仮想円C内の端部Eを太線で示している。当該仮想円Cは多孔質体71の端部Eと交差している。
【0093】
図8(c)には、図8(a)に示された流体通流孔3e,3f,3k,3lに対応する位置にスリット50が形成された多孔質体72が示されている。
【0094】
当該多孔質体72では、全流体通流孔3a,3b,3c,3d,3g,3h,3i,3j,3m,3n,3o,3pの12本は、夫々の中心から隣接する流体通流孔3の中心迄の距離を半径rとする仮想円Cを描いたときに、仮想円Cと多孔質体72の端部Eとが交差する位置関係となるように設定されている。流体通流孔3の内周面の濾過膜層の総表面積は、約4522mmである。
【0095】
尚、図8(c)では、流体通流孔3gについてのみ仮想円Cを破線で示し、当該仮想円C内の端部Eを太線で示している。当該仮想円Cは多孔質体72の端部Eと交差している。
【0096】
多孔質体71と多孔質体72は、夫々流体通流孔3が12本形成されているが、スリット50の位置が異なっており、多孔質体72のほうが、多孔質体71より外周長さが長くなっている。
【0097】
図8(d)には、図8(a)に示された流体通流孔3e,3f,3g,3i,3j,3kに対応する位置にスリット50が形成された多孔質体73が示されている。
【0098】
当該多孔質体73では、全流体通流孔3a,3b,3c,3d,3h,3l,3m,3n,3o,3pの10本は、夫々の中心から隣接する流体通流孔3の中心迄の距離を半径rとする仮想円Cを描いたときに、仮想円Cと多孔質体73の端部Eとが交差する位置関係となるように設定されている。流体通流孔3の内周面の濾過膜層の総表面積は、3768mmである。
【0099】
尚、図8(d)では、流体通流孔3dについてのみ仮想円Cを破線で示し、当該仮想円C内の端部Eを太線で示している。当該仮想円Cは多孔質体73の端部Eと交差している。
【0100】
以上の多孔質体70,71,72,73について、夫々の多孔質体70,71,72,73の流体通流孔3に被処理水を同じ圧力で供給したときに得られた濾過流量と、透過流束を測定した。尚、濾過流量は、流体通流孔3に圧入した被処理水のうち、多孔質体で濾過された水量を表す。透過流束は、1日あたりに多孔質体に形成された流体通流孔の単位面積あたりを透過する濾過流量を表し、透過流束が高いほど効率が濾過効率がよいと評価できる。
【0101】
図9に、各多孔質体70,71,72,73の濾過流量、透過流束の測定結果を示す。多孔質体70に形成されている流体通流孔3は16本であり、多孔質体71、72、73に形成されている流体通流孔3の本数に比べて多い。つまり濾過面積が最大となっている。しかし、多孔質体70〜73の中で、濾過流量が最低となっており、透過流束は最低となっている。
【0102】
多孔質体71は、多孔質体70と比べて濾過流量がわずかに増加している。多孔質体71は、多孔質体70より流体通流孔3の本数が少ない、つまり濾過面積が少ないにも関わらず濾過流量が増加しているため、結果として透過流束は増加している。
【0103】
多孔質体72は、多孔質体71と流体通流孔3の本数は同数の12本であるが、スリット50の形成位置が異なり、さらに、多孔質体71に比べて表面積も増加している。多孔質体70,71に比べて、濾過流量及び透過流束ともに増加している。
【0104】
多孔質体73は、多孔質体70,71と比べて、流体通流孔3の本数が少ないものの、濾過流量は増加している。多孔質体72と比べて濾過流量は少ないものの、多孔質体72と比べて流体通流孔3の本数が少ないため透過流束は増加している。
【0105】
以上から、膜エレメントを構成する多孔質体は流体通流孔3の軸心方向と交差する断面で、各流体通流孔3の中心から隣接する流体通流孔3の中心迄の距離rを半径とする仮想円Cを描いたときに、当該仮想円Cと多孔質体の端部とが交差する位置関係となる流体通流孔3の比率が、各多孔質体に形成された全流体通流孔3の75%より大きく設定すると、前記比率が75%のときと比べて、透過流束が増加し、濾過効率が向上することが判った。
【0106】
尚、仮想円Cと多孔質体の端部とが交差する位置関係となる流体通流孔3の比率が、各多孔質体に形成された全流体通流孔3の80%より大きければより好ましく、90%より大きければさらに好ましい。
【0107】
前記仮想円Cが前記多孔質体の端部Eと交差しない流体通流孔3は、つまり、前記仮想円C内に多孔質体の外部表面が位置しないような流体通流孔3は、前記端部Eがある流体通流孔3に比べて大きな流動抵抗がかかるため濾過がされにくい。しかし、その比率は、全流体通流孔3の25%以下であれば、75%より多い流体通流孔3では良好な濾過を行うことができるので、前記多孔質体全体として十分に濾過を行うことができる。
【0108】
このような多孔質体を、各流体通流孔3の向きが揃うように所定間隔を隔てて複数個配列し、前記流体通流孔3の軸心方向と交差する方向に形成された連結部を介して一体に形成して膜エレメントブロック20を構成すると、得られた膜エレメントブロック20の濾過効率は良好なものとなる。
【0109】
次に、膜エレメントを構成する多孔質体に形成される流体通流孔3の配列について説明する。
【0110】
図10(a)には、流体通流孔3が縦に2列配置された多孔質体80が示されている。流体通流孔3が縦に2列配置される場合は、流体通流孔3を横に何列配置しても、流体通流孔3の軸心方向と交差する断面で、各流体通流孔3の中心から隣接する流体通流孔3の中心迄の距離を半径rとする仮想円Cを描いたときに、全流体通流孔3について、仮想円Cと多孔質体80の端部とが交差する位置関係を満たすように構成できる。
【0111】
次に、多孔質体に形成される流体通流孔3が、縦に3列配列される場合に、横に1列または2列配置する場合は、全流体通流孔3は、前記仮想円Cと多孔質体の端部とが交差する位置関係を満たすように構成できる。
【0112】
しかし、図10(b)に示すように、多孔質体81に形成される流体通流孔3が、縦に3列配列し横に3列配置する場合は、全9本の流体通流孔3のうち、縦横の中心に位置する流体通流孔3の周囲の8本の流体通流孔3は、夫々の中心から隣接する流体通流孔3の中心迄の距離を半径rとする仮想円Cを描いたときに、仮想円Cと多孔質体6の端部Eとが交差する位置関係となり、当該流体通流孔3から排出される濾過水は、多孔質体81の細孔を透過して、濾過水の流速の大幅な低下を来たすことなく近傍の端部から効率的に排出される。
【0113】
しかし、中心に位置する流体通流孔3は、前記仮想円Cを描いたときに、当該仮想円Cと多孔質体81の端部Eとが交差する位置関係とならず、この流体通流孔3は、周囲8本の流体通流孔に比べて濾過流量は少ない。
【0114】
しかし、多孔質体81に形成された全流体通流孔のうち全9本のうち8本、つまり約89%の流体通流孔3は、半径rの距離以内にある多孔質体81の端部Eから良好な濾過を行うことができるので、このような多孔質体81で膜エレメントを形成しても全体として濾過効率はよい。
【0115】
次に、図10(c)に示すように、多孔質体82に形成される流体通流孔3が、縦に3列配列され、横への配列数を増加させ8列配置する場合、中段の8本のうち左右両端の流体通流孔3を除いた6本の流体通流孔3は前記仮想円Cを描いたときに、当該仮想円Cと多孔質体82の端部Eとが交差する位置関係とならない。
【0116】
つまり、多孔質体82に形成された全流体通流孔のうち全24本のうち18本、つまり75%の流体通流孔3は、半径rの距離以内にある多孔質体82の端部Eから良好な濾過を行うことができるが、25%の流体通流孔3は濾下流量が低下してしまう。
【0117】
このように多孔質体82に形成される流体通流孔3が、縦に3列配列される場合に、横に配列される流体通流孔の列を増加させていくと、横が3列から1列ずつ増加していくについてれ、前記仮想円Cを描いたときに、当該仮想円Cと多孔質体82の端部Eとが交差する位置関係とならなる流体通流孔3の比率が低下し、7列までのときは前記比率が75%より大きくなっているが、8列以上となったときに前記比率は75%以下となってしまう。このような場合は、前記比率が75%より大きくなるように多孔質体にスリットを形成することで濾過効率を向上させることができる。
【0118】
同様に、多孔質体に形成される流体通流孔は、縦に7列以内であり、横に3列のときは、前記比率は75%より大きく、横が3列であっても縦に8列以上となったときに、前記比率が75%以下となることがわかる。このような場合は、前記比率が75%より大きくなるように多孔質体にスリットを形成することで濾過効率を向上させることができる。
【0119】
図10(d)に、流体通流孔3を縦に4列配列し、横に3列配置する場合の多孔質体83を示している。この場合、縦に3列配列し、横に4列配置する構成と同じであり、前記比率は75%より大きくなっている。横に配置する流体通流孔3の列が4列以上になると、前記比率が75%以下となってしまう。このような場合は、前記比率が75%より大きくなるように多孔質体にスリットを形成することで濾過効率を向上させることができる。
【0120】
以上のように、多孔質体は、全流体通流孔3のうち75%より多い流体通流孔3で流体通流孔3の軸心方向と交差する断面で、各流体通流孔3の中心から隣接する流体通流孔3の中心迄の距離を半径rとする仮想円Cを描いたときに、当該仮想円Cと多孔質体と外部空間との境界である端部Eとが交差する位置関係となるように、多孔質体に流体通流孔3を配列して構成し、このような多孔質体を各流体通流孔の向きが揃うように所定間隔を隔てて複数配列し、前記流体通流孔の軸心方向と交差する方向に形成された連結部を介して一体に形成して膜エレメントを構成することで、流体通流孔毎の濾過流量の偏りを減少させ、各流体通流孔で効率的な濾過を行うことができる膜エレメントが得られる。
【0121】
上述した実施形態では、本発明による膜エレメントで処理される対象となる被処理流体が上水用の被処理水であり、被処理流体から分離する分離対象物が固形異物である場合を例に説明したが、本発明による膜エレメントは、上水以外の下水や産業廃水等の水を対象としてもよく、被処理流体として水以外の水溶液や油等の液体を対象としてもよい。また、排ガス等の任意の気体を対象としてもよい。さらに、分離対象物も固形異物に限らず、複数種類の混合液体に含まれる特定の液体や、複数種類の混合気体に含まれる特定種類の気体であってもよい。つまり、本発明による膜エレメントは、上水、下水、汚水当の液体や排ガス等の気体を浄化する処理や、食品等の製造過程で必要となる各種の固液分離処理、有用物の回収処理等の様々な分野で使用することができる。
【0122】
また、上述の何れの実施形態でも、流体通流孔の内周面に濾過膜層を形成する構成について説明したが、濾過膜層の孔径や層厚は、被処理流体に含まれる分離対象物の大きさに応じて適宜設定されるものである。また、流体通流孔の内周面に濾過膜層を形成せずに多孔質体を構成してもよい。濾過膜層4と多孔質体6との間に、濾過膜層4の孔径より大きく多孔質体6の孔径よりも小さな孔径となる多孔質体の中間層を設けてもよい。
【0123】
また、上述の何れの実施形態でも、膜エレメント及び膜エレメントを構成する多孔質体をスプレードライ法を用いて所定の粒径に造粒したセラミックス粒状体をプレス成形して得る構成について説明したが、膜エレメント及び膜エレメントを構成する多孔質体は、射出成形により形成することも可能である。但し、製造工程を簡素化できる点でプレス成形法を採用することが好ましい。
【0124】
また、膜エレメントのサイズや形状、及び膜モジュールを構成する膜エレメントの数等の具体的構成は上述した実施形態で説明した内容に限定されるものではなく、本発明による作用効果を奏する範囲において適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0125】
1:膜モジュール
2:膜エレメント
3:流体通流孔
4:濾過膜層
5:流路(スリット)
6:多孔質体
6a:端面
6b:端面
7:ケース
8:流体供給部(給水部)
9:流体排出部(排水部)
10:濾過流体排出部(濾過水排出部)
11:接合材
20:膜エレメントブロック
60:連結部
61:連結部
図1
図2
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