特許第6239711号(P6239711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6239711
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】船舶のダクト装置
(51)【国際特許分類】
   B63B 1/32 20060101AFI20171120BHJP
   B63B 1/08 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   B63B1/32 Z
   B63B1/08 Z
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-180213(P2016-180213)
(22)【出願日】2016年9月15日
【審査請求日】2016年10月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】512141884
【氏名又は名称】サノヤス造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097755
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】新井 大介
(72)【発明者】
【氏名】秋山 悠
(72)【発明者】
【氏名】古池 健太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 龍
(72)【発明者】
【氏名】三鼓 翔太
【審査官】 米澤 篤
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−520474(JP,A)
【文献】 特許第5132140(JP,B2)
【文献】 国際公開第2010/073319(WO,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2011−0083998(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 1/08 − 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船尾部の後方に配されるプロペラの前方に配され、ダクト外殻とそのダクト外殻を前記船尾部に固定する支持部材とよりなるダクト装置であって、
前記ダクト外殻が、前記プロペラの回転軸線と平行な中心軸線を有し前端から後端に向かって進むに従いその中心軸線からの距離が次第に小さくなるような外形の円錐台形状筒を水平面で切断したときの上部部分のような外観形状で径方向に切断したときの断面形状が径方向内側に凸の翼状に構成され
前記支持部材が、前記ダクト外殻が前記プロペラの上半部分と相対するように前記ダクト外殻を前記プロペラの前方で、かつそのダクト外殻の下端が前記プロペラの回転面の中心を通る水平面上に位置するように配置させた状態で前記ダクト外殻を前記船尾部に固定するよう構成される船舶のダクト装置において、
前記ダクト外殻の前記中心軸線を前記プロペラの回転軸線よりも下方位置に設け、前記ダクト外殻の後端の半径を所定値に設定することで、前記ダクト外殻の後端の形状を前記プロペラの回転面上に投影したときに、前記プロペラの回転面の頂部よりも低い位置に前記ダクト外殻の後端が配され、かつ前記プロペラの回転面の頂点を基準にその回転面の円周に沿って左右に広がる方向に進むに従って前記ダクト外殻の後端と前記プロペラの回転面の中心との距離が次第に大きくなるようにしたことを特徴とする船舶のダクト装置。
【請求項2】
前記船尾部の下側から前記プロペラの回転面に向かって斜め上向きに流れる水が通過可能な開口部を前記船尾部と前記ダクト外殻との間に形成することを特徴とする請求項1に記載の船舶のダクト装置。
【請求項3】
前記支持部材は、前記ダクト外殻と前記船尾部とを接続するように左右方向に延びる形状であり、当該支持部材を前記ダクト外殻の前部もしくは後部位置に配設することにより、当該支持部材の後方もしくは前方で前記ダクト外殻と前記船尾部との間に、前記船尾部の下側から前記プロペラの回転面に向かって斜め上向きに流れる水が通過可能な開口部を形成することを特徴とする請求項1に記載の船舶のダクト装置。
【請求項4】
前記支持部材は、前記ダクト外殻と前記船尾部とを接続するように左右方向に延びる形状であり、複数個の当該支持部材を前後方向に所定の隙間を設けて配設することにより、前後方向で互いに隣り合う当該支持部材の間に、前記船尾部の下側から前記プロペラの回転面に向かって斜め上向きに流れる水が通過可能な開口部を形成することを特徴とする請求項1に記載の船舶のダクト装置。
【請求項5】
前記支持部材は、前記ダクト外殻と前記船尾部とを接続するように上下方向に延びる形状であり、当該支持部材のみを前記ダクト外殻と前記船尾部との間に配設して前記船尾部の左右両側を開放することにより、前記船尾部の下側から前記プロペラの回転面に向かって斜め上向きに流れる水が通過可能な開口部を前記船尾部と前記ダクト外殻との間の全域に形成することを特徴とする請求項1に記載の船舶のダクト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロペラの前方の船尾部に配置される船舶のダクト装置に関し、特に、翼断面形状のダクト外殻によって推力を発生させるようにした船舶のダクト装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶の推進効率を向上させる技術として、翼断面形状のダクト外殻を備えてなるダクト装置をプロペラの前方の船尾部に配置するという手法が一般的に知られている。
【0003】
船尾部では、ビルジ渦を伴う複雑な流れとなっており、ダクト装置がその流れを軸方向に整流することにより、船体表面の剥離が抑制され、船体抵抗を軽減することができる。また、船尾部での流れは、船体に沿った流れとビルジ渦とで形成された斜流になっており、ダクト外殻の迎角および翼断面形状を適切に設定することにより、ダクト外殻によって推力を発生させることができる。また、ビルジ渦域の遅い流れをダクト装置でプロペラの回転面へ誘導することにより、より効果的に伴流利得を得ることができる。
【0004】
ダクト外殻が円環状である場合、この円環状のダクト外殻に流れ込む水流によって、プロペラの回転軸線より上の部分ではダクト外殻が推力を発生するのに対し、プロペラの回転軸線よりも下の部分では抵抗となる。この推力と抵抗との割合を比べると、推力分が大きいため、円環状のダクト外殻でも省エネルギー効果はあったが、抵抗分が差し引かれる状態となっていた。そこで、円環状のダクト外殻の下半分を切り捨てたような半円環状のダクト外殻を採用したダクト装置が例えば特許文献1にて提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許5132140号公報
【0006】
図12(a)に示されるように、特許文献1に係るダクト装置100は、ダクト外殻101と、このダクト外殻101がプロペラ102の上半部分と相対するようにダクト外殻101をプロペラ102の前方に配置させた状態でダクト外殻101を船尾部103に固定する支持部材104(図12(b)参照)とを備えて構成されている。
【0007】
ダクト外殻101は、プロペラ102の回転軸線105と平行な中心軸線106を有し前端101aから後端101bに向かって進むに従いその中心軸線106からの距離が次第に小さくなるような外形の円錐台形状筒を水平面で切断したときの上部部分のような外観形状に形成されている。また、ダクト外殻101を径方向に切断したときの断面形状は、径方向内側に凸の翼状とされている。
【0008】
ダクト装置100において、ダクト外殻101の中心軸線106は、プロペラ102の回転軸線105よりも上方位置に設けられている。また、図12(b)に示されるように、ダクト外殻101の後端101b(以下、「ダクト外殻後端101b」と称する。)の形状をプロペラ102の回転面107(以下、「プロペラ回転面107」と称する。)上に投影したときに、プロペラ回転面107の頂部107aよりも低い位置にダクト外殻後端101bが配されるように、ダクト外殻後端101bの半径が所定値に設定されている。
このダクト装置100では、ダクト外殻後端101bの半径が所定値に設定されたダクト外殻101の中心Oをプロペラ回転面107の中心Oよりも上方位置に設けるようにしているため、プロペラ回転面107の頂点107bを基準にそのプロペラ回転面107の円周に沿って左右に広がる方向に進むに従ってダクト外殻後端101bとプロペラ回転面107の中心Oとの距離Lが次第に小さくなることになる。
【0009】
ところで、ダクト外殻後端101bにおいて、プロペラ回転面107に向かって流れる水の流速は、ダクト外殻101の内側よりも外側の方が相対的に速くなることが知られている。また、プロペラ推進効率を向上させるためには、プロペラ回転面107に向かって流れる水の平均流速が船速と比べてより遅い方が良いことが知られている。また、プロペラ回転面107の頂部107aでは、プロペラ回転面107の下部と比べて水圧が低いので、キャビテーションが発生し易い環境にあり、プロペラ回転面107の頂部107aの水流速は船速に近づけるようにできる限り速い方が、キャビテーション発生リスクが減少することが知られている。
【0010】
図12(b)において二点鎖線で示されるダクト外殻後端101b´のように、従来のダクト装置100におけるダクト外殻後端101bの半径を大きくすれば、ダクト外殻後端101b´における内側領域が拡大するので、プロペラ回転面107に向かって流れる水の平均流速が船速と比べてより遅い領域が拡大し、推進効率を高めることができるものと考えられる。しかしながら、この場合、プロペラの回転面107上に投影したダクト外殻後端101b´の内側領域にプロペラ回転面107の頂部107aが入ってしまうため、プロペラ回転面107上に投影したダクト外殻後端101bの外側領域にプロペラ回転面107の頂部107aがあるときと比べて、プロペラ回転面107の頂部107aの水流速が遅くなり、キャビテーション発生リスクが増大するという問題点がある。キャビテーション発生リスクを抑えようとすれば、ダクト外殻後端101bの半径をあまり大きくすることができず、従来のダクト装置100では、思うように推進効率を高めることができないという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前述のような問題点に鑑みてなされたもので、キャビテーション発生リスクを抑えつつ、プロペラ推進効率を向上させることができる船舶のダクト装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明による船舶のダクト装置は、
船尾部の後方に配されるプロペラの前方に配され、ダクト外殻とそのダクト外殻を前記船尾部に固定する支持部材とよりなるダクト装置であって、
前記ダクト外殻が、前記プロペラの回転軸線と平行な中心軸線を有し前端から後端に向かって進むに従いその中心軸線からの距離が次第に小さくなるような外形の円錐台形状筒を水平面で切断したときの上部部分のような外観形状で径方向に切断したときの断面形状が径方向内側に凸の翼状に構成され
前記支持部材が、前記ダクト外殻が前記プロペラの上半部分と相対するように前記ダクト外殻を前記プロペラの前方で、かつそのダクト外殻の下端が前記プロペラの回転面の中心を通る水平面上に位置するように配置させた状態で前記ダクト外殻を前記船尾部に固定するよう構成される船舶のダクト装置において、
前記ダクト外殻の前記中心軸線を前記プロペラの回転軸線よりも下方位置に設け、前記ダクト外殻の後端の半径を所定値に設定することで、前記ダクト外殻の後端の形状を前記プロペラの回転面上に投影したときに、前記プロペラの回転面の頂部よりも低い位置に前記ダクト外殻の後端が配され、かつ前記プロペラの回転面の頂点を基準にその回転面の円周に沿って左右に広がる方向に進むに従って前記ダクト外殻の後端と前記プロペラの回転面の中心との距離が次第に大きくなるようにしたことを特徴とするものである(第1発明)。
【0013】
本発明において、前記船尾部の下側から前記プロペラの回転面に向かって斜め上向きに流れる水が通過可能な開口部を前記船尾部と前記ダクト外殻との間に形成するのが好ましい(第2発明)。
【0014】
本発明において、前記支持部材は、前記ダクト外殻と前記船尾部とを接続するように左右方向に延びる形状であり、当該支持部材を前記ダクト外殻の前部もしくは後部位置に配設することにより、当該支持部材の後方もしくは前方で前記ダクト外殻と前記船尾部との間に、前記船尾部の下側から前記プロペラの回転面に向かって斜め上向きに流れる水が通過可能な開口部を形成するのが好ましい(第3発明)。
【0015】
本発明において、前記支持部材は、前記ダクト外殻と前記船尾部とを接続するように左右方向に延びる形状であり、複数個の当該支持部材を前後方向に所定の隙間を設けて配設することにより、前後方向で互いに隣り合う当該支持部材の間に、前記船尾部の下側から前記プロペラの回転面に向かって斜め上向きに流れる水が通過可能な開口部を形成するのが好ましい(第4発明)。
【0016】
本発明において、前記支持部材は、前記ダクト外殻と前記船尾部とを接続するように上下方向に延びる形状であり、当該支持部材のみを前記ダクト外殻と前記船尾部との間に配設して前記船尾部の左右両側を開放することにより、前記船尾部の下側から前記プロペラの回転面に向かって斜め上向きに流れる水が通過可能な開口部を前記船尾部と前記ダクト外殻との間の全域に形成するのが好ましい(第5発明)。
【発明の効果】
【0017】
本発明の船舶のダクト装置においては、ダクト外殻の中心軸線をプロペラの回転軸線よりも下方位置に設け、ダクト外殻の後端の半径を所定値に設定することで、ダクト外殻の後端の形状をプロペラの回転面上に投影したときに、プロペラの回転面の頂部よりも低い位置にダクト外殻が配され、かつプロペラの回転面の頂点を基準にその回転面の円周に沿って左右に広がる方向に進むに従ってダクト外殻の後端とプロペラの回転面の中心との距離が次第に大きくなるようにされている。
【0018】
本発明の船舶のダクト装置によれば、ダクト外殻の後端の形状をプロペラの回転面上に投影したときに、プロペラの回転面の頂部よりも低い位置にダクト外殻が配される。プロペラの回転面上に投影されたダクト外殻の内側を流れる水の流速と比べてダクト外殻の外側の流速は相対的に速いため、適切な高さにダクトを配置することによってプロペラ回転面の頂部の水流速を速くすることができて、キャビテーション発生リスクを抑えることができる。
また、本発明の船舶のダクト装置によれば、プロペラの回転面の頂点を基準にその回転面の円周に沿って左右に広がる方向に進むに従ってプロペラの回転面上に投影されたダクト外殻の後端とプロペラの回転面の中心との距離が次第に大きくなるようにされているので、プロペラの回転面の頂点を基準にその回転面の円周に沿って左右に広がる方向に進むに従ってプロペラの回転面上に投影されたダクト外殻の後端とプロペラの回転面の中心との距離が次第に小さくなるようにされている従来のダクト装置100と比べて、プロペラの回転面上に投影されたダクト外殻の内側部分の領域を広げることができ、プロペラの回転面に向かって流れる水の平均流速が船速と比べてより遅い領域を従来のダクト装置100と比べて広く確保することができて、従来のダクト装置100よりもプロペラ推進効率を向上させることができる。
【0019】
ところで、プロペラの回転面の上部における水流速の変動が大きい場合、キャビテーション発生リスクの増加が懸念される他、プロペラに作用する応力の変動が大きくなることから強度を確保するためにプロペラ設計において展開面積や翼厚を増加させる必要があり、プロペラ推進性能の悪化やコストアップを招いてしまうという問題点がある。
【0020】
プロペラの回転面の上部において水流速の変動は、船尾部の下側からプロペラの回転面に向かって斜め上向きに流れる水の流れが、ダクト外殻を船尾部に固定するために設けられる支持部材によって妨げられたり乱されたりすることが原因で大きくなり(水流速の変動に悪影響を与える)、プロペラが回転する際に、通過する水流速の変動が大きくなると考えられる。そこで、船尾部の下側からプロペラの回転面に向かって斜め上向きに流れる水が通過可能な開口部を船尾部とダクト外殻との間に形成することにより(第2発明〜第5発明)、船尾部の下側からプロペラの回転面に向かって斜め上向きに流れる水の流れが妨げられたり乱されたりすることが抑えられるので、プロペラの回転面の上部における水流速の変動を抑えることができ、プロペラ推進性能の悪化やコストアップを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る船舶のダクト装置が装備された船舶の船尾周辺を示す図で、(a)は側面図、(b)は(a)のA矢視図である。
図2】同ダクト装置におけるダクト外殻後端の形状をプロペラ回転面上に投影した図である。
図3】同ダクト装置における支持部材の説明図である。
図4】同ダクト装置を用いたときのプロペラ回転面の水流速分布図である。
図5】従来型のダクト装置を用いたときのプロペラ回転面の水流速分布図である。
図6】プロペラ回転面の水流速変化を示すグラフで、本発明のダクト装置と従来型のダクト装置とを比較した結果を示すグラフである。
図7】プロペラ回転面の水流速に対する支持部材の影響に関するシミュレーションで用いられる三角型ダクト装置の説明図である。
図8】支持部材の前後方向長さがフルの場合におけるプロペラ面への水の流れ状態を示す図で、(a)は側面図、(b)は斜視図である。
図9】支持部材の前後方向長さが半分の場合におけるプロペラ面への水の流れ状態を示す図で、(a)は側面図、(b)は斜視図である。
図10】支持部材がなしの場合におけるプロペラ面への水の流れ状態を示す図で、(a)は側面図、(b)は斜視図である。
図11】プロペラ回転面角度180°〜360°の範囲におけるプロペラ半径70%位置のプロペラ面への水の流入速度の変化を示すグラフで、(a)は支持部材の前後方向長さがフルの場合、(b)は支持部材の前後方向長さが半分の場合、(c)は支持部材がなしの場合である。
図12】従来の船舶のダクト装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明による船舶のダクト装置の具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0023】
<船舶の概略説明>
図1(a)に示されるように、本実施形態の船舶1は、例えば一軸船の船尾構造を有する肥大船型船舶であって、船体中央部から船幅が狭くなる船尾2に設けられる舵3と、舵3と対向する船尾部(船尾ボス部)4に支承され、後方から見て右まわりの回転方向で船尾部4の後方に配されるプロペラ5とを備えて構成されている。
【0024】
<ダクト装置の説明>
プロペラ5の前方の船尾部4には、ダクト装置10が配置されている。このダクト装置10は、ダクト外殻11と、このダクト外殻11がプロペラ5の上半部分と相対するようにダクト外殻11をプロペラ5の前方に配置させた状態でダクト外殻11を船尾部4に固定するために船尾部4の左右両側に配される支持部材12および船尾部4の上側に配される支持部材13(図1(b)参照)とを備えて構成されている。
【0025】
<ダクト外殻の説明>
ダクト外殻11は、プロペラ5の回転軸線15と平行な中心軸線16を有し前端11aから後端11bに向かって進むに従いその中心軸線16からの距離が次第に小さくなるような外形の円錐台形状筒を水平面で切断したときの上部部分のような外観形状に形成されている。このダクト外殻11の中心軸線16は、プロペラ5の回転軸線15よりもΔtだけ下方位置に設けられている。また、ダクト外殻11を径方向に切断したときの断面形状は、図1(b)に示されるように、周方向全域に亘って径方向内側に凸の翼状とされている。
【0026】
図2には、ダクト外殻11の後端11b(以下、「ダクト外殻後端11b」と称する。)の形状をプロペラ5の回転面20(以下、「プロペラ回転面20」と称する。)に投影した図が示されている。ここで、プロペラ5の回転軸線15とプロペラ回転面20との交点をO(以下、「プロペラ回転面中心O」と称する。)とするとともに、ダクト外殻11の中心軸線16とプロペラ回転面20との交点をO(以下、「ダクト外殻中心O」と称する。)とする。また、プロペラ回転面中心Oを原点としてプロペラ5の頂点位置を0°または360°とする。また、プロペラの半径をRとするとともに、ダクト外殻後端11bの半径をrとする。
【0027】
ダクト外殻中心Oは、プロペラ回転面中心OよりもΔtだけ下方位置に設けられている。プロペラ回転面角度0°(360°)位置において、プロペラ回転面20上に投影したダクト外殻後端11bとプロペラ回転面中心Oとの距離は、(r−Δt)であり、本実施形態では、以下の式(1)を満足するようにされている。
0.3R≦(r−Δt)≦0.7R ・・・(1)
【0028】
これにより、ダクト外殻後端11bの形状をプロペラ回転面20上に投影したときに、プロペラ回転面の頂部20aよりも低い位置にダクト外殻後端11bが配される。また、プロペラ回転面20の頂点20b(プロペラ回転面角度0°(360°)位置)を基準にそのプロペラ回転面20の円周に沿って左右に広がる方向、すなわちプロペラ回転面角度360°から270°へと向かう方向およびプロペラ回転面角度0°から90°へと向かう方向に進むに従ってダクト外殻後端11bとプロペラ回転面中心Oとの距離Lが(r−Δt)から次第に大きくなる。
【0029】
<支持部材の説明>
図1(a)および(b)において示される船尾部4の左右両側に配される支持部材12は、ダクト外殻11と船尾部4とを接続するように左右方向に延びる四角形状の平板部材(断面翼状の板状部材も可であり、また水平面に対し適宜に角度を付すことも可)から構成されている。この支持部材12は、その板面を上下方向に臨ませた状態でダクト外殻11の前部位置に配設されている。これにより、図3(a)に示されるように、支持部材12の後方でダクト外殻11と船尾部4(図3(a)において図示省略)との間に、船尾部4の下側からプロペラ回転面20に向かって斜め上向きに流れる水が通過可能な開口部21が形成されている。
一方、船尾部4の上側に配される支持部材13は、ダクト外殻11と船尾部4とを接続するように上下方向に延びる四角形状の平板部材(断面翼状の板状部材も可であり、また鉛直面に対し適宜に角度を付すことも可)から構成されている。この支持部材13は、その板面を左右方向に臨ませた状態でダクト外殻11の前部から後部に亘る位置に配設されている。
【0030】
<作用効果の説明>
本実施形態のダクト装置10によれば、図2に示されるように、ダクト外殻後端11bの形状をプロペラ回転面20上に投影したときに、プロペラ回転面20の頂部20aよりも低い位置にダクト外殻後端11bが配される。プロペラ回転面20上に投影されたダクト外殻後端11bの内側を流れる水の流速と比べて相対的に速いため、適切な高さにダクトを配置することによってプロペラ回転面の頂部の水流速を速くすることができて、キャビテーション発生リスクを抑えることができる。
【0031】
また、本実施形態のダクト装置10によれば、図2に示されるように、プロペラ回転面20の頂点20bを基準にそのプロペラ回転面20の円周に沿って左右に広がる方向に進むに従ってプロペラ回転面20上に投影されたダクト外殻後端11bとプロペラ回転面中心Oとの距離Lが次第に大きくなるようにされているので、図12(b)に示されるように、プロペラ回転面107の頂点107bを基準にそのプロペラ回転面107の円周に沿って左右に広がる方向に進むに従ってプロペラ回転面107上に投影されたダクト外殻後端101bとプロペラ回転面中心Oとの距離Lが次第に小さくなるようにされている従来のダクト装置100と比べて、プロペラ回転面20上に投影されたダクト外殻後端11bの内側部分の領域を図2においてハッチングで示される部分だけ広げることができ、プロペラ回転面20に向かって流れる水の平均流速が船速と比べてより遅い領域を従来のダクト装置100と比べて広く確保することができて、従来のダクト装置100よりもプロペラ推進効率を向上させることができる。
【0032】
ところで、プロペラ回転面20の上部20cにおける水流速の変動が大きい場合、キャビテーション発生リスクの増加が懸念される他、プロペラ5に作用する応力の変動が大きくなることから強度を確保するためにプロペラ設計において展開面積や翼厚を増加させる必要があり、プロペラ推進性能の悪化やコストアップを招く恐れがある。
【0033】
プロペラ回転面20の上部20cにおいて、水流速の変動は、船尾部4の下側からプロペラ回転面20に向かって斜め上向きに流れる水の流れが支持部材12によって妨げられたり乱されたりすることが原因で大きくなり(水流速の変動に悪影響を与える)、プロペラが回転する際に、通過する水流速の変動が大きくなると考えられる。
【0034】
そこで、本実施形態のダクト装置10においては、船尾部4の左右両側に配される支持部材12をダクト外殻11の前部位置に配設することにより、支持部材11の後方でダクト外殻11と船尾部4との間に、船尾部4の下側からプロペラ回転面20に向かって斜め上向きに流れる水が通過可能な開口部21(図3(a)参照)が形成されている。これにより、船尾部4の下側からプロペラ回転面20に向かって斜め上向きに流れる水の流れが妨げられたり乱されたりすることが抑えられるので、プロペラ回転面20の上部20cにおける水流速の変動を抑えることができ、プロペラ推進性能の悪化やコストアップを回避することができる。
【0035】
以上、本発明の船舶のダクト装置について、一実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【0036】
例えば、上記実施形態においては、図3(a)に示されるように、船尾部4の左右両側に配される支持部材12をダクト外殻11の前部位置に配設することで開口部21を形成するような態様例を示したが、これに限定されるものではなく、図3(a´)に示されるように、支持部材12をダクト外殻11の後部位置に配設することで開口部21を形成するような態様例もあり得る。また、図3(a)および(a´)に示されるような態様例に代えて、図3(b)〜(d)に示されるような態様例を採用することも可能である。なお、図3(b)〜(d)においても説明の都合上、船尾部4は図示省略されている。
【0037】
図3(b)において、船尾部4の左右両側に配される支持部材22は、ダクト外殻11と船尾部4とを接続するように左右方向に延びる丸棒状部材で構成されている。そして、複数個の支持部材22を前後方向に所定の隙間を設けて配設することにより、前後方向で互いに隣り合う支持部材22の間に、船尾部4の下側からプロペラ回転面20に向かって斜め上向きに流れる水が通過可能な開口部23が形成されている。
【0038】
図3(c)において、船尾部4の左右両側に配される支持部材24は、ダクト外殻11と船尾部4とを接続するように左右方向に延びる短冊形状の平板部材から構成されている。そして、複数個の支持部材24のそれぞれを後方に向かって上向きに傾斜させた状態でそれら支持部材24を前後方向に所定の隙間を設けて配設することにより、前後方向で互いに隣り合う支持部材24の間に、船尾部4の下側からプロペラ回転面20に向かって斜め上向きに流れる水が通過可能な開口部25が形成されている。
【0039】
図3(d)においては、船尾部4の上側に配される支持部材13のみよってダクト外殻11を固定するようにし、船尾部4の左右両側を開放することにより、船尾部4の下側からプロペラの回転面20に向かって斜め上向きに流れる水が通過可能な開口部26が船尾部4とダクト外殻21との間の全域に形成されている。
【実施例】
【0040】
次に、本発明による船舶のダクト装置のより具体的な実施例について、図面を参照しつつ説明する。
【0041】
図1(a)および(b)に示されるダクト装置10の模型を用いてプロペラ面流速分布のシミュレーションを実施したときの結果について説明する。図4には、本発明のダクト装置を用いたときのプロペラ回転面の水流速分布図が示され、図5には、従来型のダクト装置を用いたときのプロペラ回転面の水流速分布図が示されている。また、図6には、プロペラ回転面角度180°〜360°の範囲におけるプロペラ半径70%位置のプロペラ回転面の水流速変化を示すグラフで、本発明のダクト装置と従来型のダクト装置とを比較した結果を示すグラフが示されている。
【0042】
なお、プロペラ回転面角度0°〜180°の範囲におけるプロペラ回転面20への流入速度の変化を示すグラフと、プロペラ回転面角度180°〜360°の範囲におけるプロペラ回転面20への流入速度の変化を示すグラフとは、プロペラ回転面角度180°または360°における縦軸を基準に左右に対称に表れるため、図6では、説明の都合上、プロペラ回転面角度180°〜360°の範囲におけるプロペラ回転面20への流入速度の変化を示すグラフのみ表している。また、図6のグラフでは、プロペラ回転面20への流入速度に関し、船速を基準に相対的に遅い速度を正で表しているので、縦軸の数値が大きくなれば相対的にプロペラ回転面20への流入速度が遅くなり、縦軸の数値が小さくなれば相対的にプロペラ回転面20への流入速度が速くなる。縦軸の数値が1のとき流入速度は0m/sとなり、縦軸の数値が0のときプロペラ回転面20への流入速度が船速と等しくなる。
【0043】
図4および図5のプロペラ回転面20への流入速度分布図、並びに図6のグラフから明らかなように、プロペラ回転面20の上部20c、特にプロペラ回転面角度290°〜360°(0°〜70°)におけるプロペラ回転面20への流入速度は、図4に示される本発明のダクト装置10の方が図5に示される従来型のダクト装置50と比べて速くなっている。また、図6のグラフから明らかなように、プロペラ回転面20の上部20c、特にプロペラ回転面角度290°〜360°(0°〜70°)におけるプロペラ回転面20への流入速度の変動に関し、本発明のダクト装置10の方の変動幅ΔVが0.2未満であるのに対し、従来型のダクト装置50の方の変動幅ΔVが約0.3程度であり、本発明のダクト装置10の方が、変動幅が小さいことが分かる。
【0044】
次に、船尾部4の左右両側に配される支持部材12がプロペラ回転面20への水流に与える影響についてシミュレーションを行った。このシミュレーションは、図7に示されるように、ダクト外殻後端11bの外形に類似させた断面への字状の外観視山形状のダクト外殻31を用いて、支持部材12の前後方向の長さがダクト外殻31の前後方向の長さと等しい場合、支持部材12の前後方向の長さがダクト外殻31の前後方向の長さの半分でダクト外殻31の前部位置に配設した場合および支持部材12を設けない場合の3つのケースについて行った。その結果が、図8図11に示されている。
【0045】
図8(a)および(b)に示されるように、支持部材12の前後方向の長さがダクト外殻31の前後方向の長さと等しい場合、つまり船尾部4の左右両側の支持部材12がダクト外殻31の前部から後部の全域を塞ぐように配される場合には、船尾部4の下側からプロペラ回転面20に向かって斜め上向きに流れる水の流れの一部が支持部材12によって遮られている。
図9(a)および(b)に示されるように、支持部材12の前後方向の長さがダクト外殻31の前後方向の長さの半分でダクト外殻31の前部位置に配設した場合には、船尾部4の下側からプロペラ回転面20に向かって斜め上向きに流れる水の流れの一部は支持部材12によって遮られるが、一部の水流は支持部材12によって遮られることなくプロペラ回転面20へとスムーズに流れる。
図10(a)および(b)に示されるように、支持部材12を設けない場合には、船尾部4の下側からプロペラ回転面20に向かって斜め上向きに流れる水の流れの殆ど全てが遮られることなくプロペラ回転面20へとスムーズに流れる。
【0046】
図8図10によって明らかなように、船尾部4の下側からプロペラ回転面20に向かって斜め上向きに流れる水が通過可能な開口部を船尾部4とダクト外殻31との間に設け、かかる開口部の開口面積を大きくすることでプロペラ回転面20に向かって斜め上向きに流れる水の流れを改善することができる。
このようにして得られる水流改善効果により、図11のグラフに示されるように、プロペラ回転面の280°〜320°(40°〜80°)の範囲において、プロペラ回転面20に対する流入速度を速くすることができ、特に、プロペラ回転面の280°〜300°(60°〜80°)の範囲においては、船尾部4の下側からプロペラ回転面20に向かって斜め上向きに流れる水が通過可能な開口部の開口面積が増えれば増えるほど、プロペラ回転面20に対する流入速度を顕著に速くすることができて、プロペラ回転面20の上部20cにおける水流速の変動を抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の船舶のダクト装置は、キャビテーション発生リスクを抑えつつ、プロペラ推進効率を向上させることができるという特性を有していることから、船舶の省エネルギー化の用途に好適に用いることができ、産業上の利用可能性が大である。
【符号の説明】
【0048】
1 船舶
4 船尾部
5 プロペラ
10 ダクト装置
11 ダクト外殻
12,13 支持部材
15 プロペラの回転軸線
16 ダクト外殻の中心軸線
21 開口部

【要約】
【課題】キャビテーション発生リスクを抑えつつ、プロペラ推進効率を向上させることができる船舶のダクト装置を提供する。
【解決手段】ダクト外殻11の中心軸線16をプロペラ5の回転軸線15よりも下方位置に設け、ダクト外殻後端11bの半径を所定値に設定することで、ダクト外殻後端11bの形状をプロペラ回転面20上に投影したときに、プロペラ回転面20の頂部20aよりも低い位置にダクト外殻後端11bが配され、かつプロペラ回転面20の頂点20bを基準にそのプロペラ回転面20の円周に沿って左右に広がる方向に進むに従ってダクト外殻後端11bとプロペラ回転面中心Oとの距離Lが次第に大きくなるようにする。
【選択図】図1
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