特許第6239716号(P6239716)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6239716リチウムイオン二次電池用正極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239716
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20171120BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20171120BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20171120BHJP
   H01M 4/1397 20100101ALI20171120BHJP
【FI】
   H01M4/139
   H01M4/62 Z
   H01M4/58
   H01M4/1397
【請求項の数】6
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-188252(P2016-188252)
(22)【出願日】2016年9月27日
(62)【分割の表示】特願2012-266590(P2012-266590)の分割
【原出願日】2012年12月5日
(65)【公開番号】特開2017-27951(P2017-27951A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2016年10月7日
(31)【優先権主張番号】特願2011-276235(P2011-276235)
(32)【優先日】2011年12月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】山梶 正樹
(72)【発明者】
【氏名】矢田部 莉加
(72)【発明者】
【氏名】等々力 弘篤
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−513904(JP,A)
【文献】 特表2013−533189(JP,A)
【文献】 特開2011−105569(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0121240(US,A1)
【文献】 特許第6016597(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒に酸化グラフェンを分散した後、正極活物質を添加して混練することで正極ペーストを作製し、
前記正極ペーストを正極集電体に塗布し、
該正極ペーストに含まれる前記分散媒を蒸発させた後、前記酸化グラフェンを還元させてグラフェンを含む正極活物質層を前記正極集電体上に形成するリチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
該正極ペーストに含まれる前記酸化グラフェンを還元雰囲気において還元するリチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【請求項3】
請求項1において
該正極ペーストに含まれる酸化グラフェンを減圧下において還元するリチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一において、
前記正極活物質及び前記酸化グラフェンの総量に対して、前記酸化グラフェンを2wt%以上3wt%以下添加する、リチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一において、
前記正極活物質及び前記酸化グラフェンの総量に対して、前記正極活物質を93wt%以上96wt%以下添加する、リチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一において、
前記正極活物質として、平均粒径100nm以上500nm以下のリン酸鉄リチウムを用いる、リチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極、およびその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型のパーソナルコンピュータ等の携帯型電子機器が急速に普及し
ており、これに伴いその駆動電源である電池の小型・大容量化の要求が高まっている。携
帯型電子機器に用いられる電池として、高いエネルギー密度、大容量といった利点を有す
るリチウムイオン二次電池が広く利用されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、コバルト酸リチウムなどの活物質を含む正極と、リチウムの
吸蔵・放出が可能な黒鉛等の炭素材料からなる負極と、エチレンカーボネートやジエチル
カーボネートなどの有機溶媒に、LiBFやLiPF等のリチウム塩からなる電解質
を溶解させた電解液と、が用いられている。このような電池では、リチウムイオンが正、
負極間を移動することにより充放電を行う。
【0004】
また、活物質同士、また活物質と集電体とを結着させるために、結着剤(バインダーとも
いう)が用いられている。結着剤は、高分子有機化合物であり、導電性が著しく悪いため
、活物質に対して使用量を多くすると、電極に占める活物質の比率が低下するため、容量
が低下してしまう。そこで、アセチレンブラックなどの導電助剤を混合することで導電性
を向上させている(特許文献1参照)。また、導電性が低い活物質を用いる場合、微粒子
化し、カーボンコートを施すことで、導電性を高める場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−110162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、導電助剤として用いられるアセチレンブラックは、平均粒径が数十nmか
ら数百nmであり、嵩高い粒子であるため、活物質との接触が点接触となりやすい。点接
触となることで、接触抵抗が増大し、電池の容量が低下するという問題が生じる。また、
接触点を増やすために導電助剤を増加すると、電極に占める活物質の比率が低下する。
【0007】
また、活物質は、粒子径が小さくなるほど、粒子間の凝集力が強くなるため、結着剤や導
電助剤と均等に混合することが困難となる。そのため、活物質粒子の密な部分(活物質粒
子が凝集した部分)と疎な部分が生じることで、導電助剤が存在しない部分では、容量に
寄与できない活物質が生じる。
【0008】
上記問題に鑑み、本発明の一態様では、正極活物質の充填量が高く、高密度化されたリチ
ウムイオン二次電池用正極を提供することを目的の一とする。また、該正極を用いること
により、容量が大きく、サイクル特性が向上したリチウムイオン二次電池を提供すること
を目的の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池用正極は、正極活物質層に含まれる導電助
剤として、グラフェンを用いることを特徴とする。
【0010】
グラフェンは、単層のグラフェン、または2層以上100層以下の多層グラフェンを含む
。単層のグラフェンとは、sp結合を有する1原子層の炭素分子のシートのことをいう
【0011】
グラフェンは、正極活物質層中で重なり合い、複数の正極活物質粒子と接するように分散
されている。または、正極活物質層中に、グラフェンによるネットワークが形成されてい
るともいえる。これにより、複数の正極活物質粒子の結合が維持された状態となる。
【0012】
また、グラフェンは、一辺の長さが数μmのシートである。このため、正極活物質とグラ
フェンとの接触が面接触となることで、正極活物質とグラフェンとの接触抵抗が低減する
。また、導電助剤同士(グラフェン同士)の接触も面接触となるため、接触抵抗が低減す
る。また、接触点を増やすために導電助剤を増加させなくてもよいため、正極活物質の比
率を増加させることができる。これにより、正極活物質層中の接触抵抗が低減し、導電助
剤の占める割合を低減することで、電極に占める正極活物質の割合を高めることができる
。よって、電池の容量を増加させることができる。
【0013】
本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池用正極は、以下に示す方法で製造される。
【0014】
本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池用正極は、分散媒に酸化グラフェンを分散
した後、正極活物質を添加して混練することで混合物を作製し、混合物に結着剤を添加し
て混練することで正極ペーストを作製し、正極ペーストを正極集電体に塗布し、正極ペー
ストに含まれる分散媒を蒸発させた後、酸化グラフェンを還元させてグラフェンを含む正
極活物質層を正極集電体上に形成することで製造される。
【0015】
上記製造方法において、正極ペーストに含まれる酸化グラフェンを、還元雰囲気にて還元
する。これにより、正極ペーストに含まれる残った分散媒を蒸発させ、正極ペーストに含
まれる酸化グラフェンを還元させることができる。または、上記製造方法において、減圧
下にて正極ペーストを還元させてもよい。これによっても、正極ペーストに含まれる分散
媒を蒸発させ、正極ペーストに含まれる酸化グラフェンを還元させることができる。
【0016】
また、上記製造方法において、混合物に結着剤を添加して混練する際に、さらに分散媒を
添加することで、正極ペーストの粘度を調整することができる。
【0017】
酸化グラフェンは、エポキシ基、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基等を有
する。酸化グラフェンは極性を有する溶液中においては、官能基中の酸素がマイナスに帯
電するため、異なる酸化グラフェン同士で凝集しにくい。このため、極性を有する液体に
おいては、均一に酸化グラフェンが分散しやすい。酸化グラフェンが分散された分散媒中
に、正極活物質を添加して混練することで、酸化グラフェン及び正極活物質の凝集をほど
きやすくすることができるため、酸化グラフェンと正極活物質とを均等に混合することが
できる。また、酸化グラフェンは、正極ペースト(正極活物質、導電助剤、及び結着剤の
総重量)に対して、少なくとも2wt%含まれていればよい。
【0018】
具体的に、正極活物質、結着剤、及び酸化グラフェンの総量に対して、酸化グラフェンを
2wt%以上3wt%以下添加し、正極活物質を93wt%以上96wt%以下添加し、
結着剤を1wt%以上5wt%以下添加することが好ましい。
【0019】
また、酸化グラフェンと正極活物質との混合物に、結着剤を添加することで、正極活物質
中に酸化グラフェンが均等に混合された状態を維持するように、正極活物質と酸化グラフ
ェンとを結着できるため、好ましい。
【0020】
正極ペーストを、還元雰囲気または減圧下で乾燥させることにより、酸化グラフェンに含
まれる酸素を脱離させることで、グラフェンを含む正極活物質層を形成することができる
。そして、以上の工程で、正極を作製することができる。なお、酸化グラフェンに含まれ
る酸素は全て脱離されず、一部の酸素はグラフェンに残存していてもよい。
【0021】
グラフェンに酸素が含まれる場合、酸素の割合は、全体の2%以上11%以下、好ましく
は3%以上10%以下である。酸素の割合が低い程、グラフェンの導電性を高めることが
できる。また、酸素の割合を高める程、グラフェンにおいて、イオンの通路となる間隙を
より多く形成することができる。
【0022】
上述のように製造された正極と、負極と、電解液と、セパレータと、を用いて、リチウム
イオン二次電池を製造することができる。
【0023】
本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池用正極は、導電助剤としてグラフェンが用
いられることにより、従来用いられてきた導電助剤の量を低減することができるため、電
極に占める正極活物質の充填量が高く、高密度化させることができる。また、該正極を用
いることにより、容量が大きく、サイクル特性が向上したリチウムイオン二次電池を製造
することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一態様により、正極活物質の充填量が高く、高密度化されたリチウムイオン二次
電池用正極を提供することができる。また、該正極を用いることにより、電極体積当たり
の容量が大きく、サイクル特性が向上したリチウムイオン二次電池を提供することができ
る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】正極の断面図。
図2】正極の作製方法を説明するフローチャート。
図3】リチウムイオン二次電池の一例を示す図。
図4】負極の作製方法を説明する図。
図5】リチウムイオン二次電池の一例を示す図。
図6】リチウムイオン二次電池の応用例を示す図。
図7】リチウムイオン二次電池の応用例を示す図。
図8】リチウムイオン二次電池の応用例を示す図。
図9】実施例で作製したリチウムイオン二次電池の特性を示す図。
図10】実施例で作製したリチウムイオン二次電池の特性を示す図。
図11】実施例で作製したリチウムイオン二次電池の特性を示す図。
図12】実施例で作製したリチウムイオン二次電池の特性を示す図。
図13】実施例で作製したリチウムイオン二次電池の特性を示す図。
図14】実施例で作製したリチウムイオン二次電池の特性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し、発明は以下に示す実施
の形態の記載内容に限定されず、本明細書などにおいて開示する発明の趣旨から逸脱する
ことなく形態および詳細を様々に変更し得ることは当業者にとって自明である。また、異
なる実施の形態に係る構成は、適宜組み合わせて実施することが可能である。なお、以下
に説明する発明の構成において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号
を用い、その繰り返しの説明は省略する。
【0027】
なお、図面などにおいて示す各構成の、位置、大きさ、範囲などは、理解の簡単のため、
実際の位置、大きさ、範囲などを表していない場合がある。このため、開示する発明は、
必ずしも、図面などに開示された位置、大きさ、範囲などに限定されない。
【0028】
なお、本明細書にて用いる第1、第2、第3といった序数を用いた用語は、構成要素を識
別するために便宜上付したものであり、その数を限定するものではない。
【0029】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池用正極及びその作製方
法について、図1及び図2を参照して説明する。図1に、正極の断面図を示し、図2に、
正極の作製方法を説明するためのフローチャートを示す。
【0030】
図1(A)は、正極100の断面図である。正極100は、正極ペーストを正極集電体1
01上に塗布し、還元雰囲気または減圧下で乾燥させることで、正極活物質層102を形
成することにより、作製される。
【0031】
正極集電体101には、ステンレス、金、白金、亜鉛、鉄、アルミニウム、チタン等の金
属、及びこれらの合金など、導電性の高い材料を用いることができる。また、シリコン、
チタン、ネオジム、スカンジウム、モリブデンなどの耐熱性を向上させる元素が添加され
たアルミニウム合金を用いることができる。また、シリコンと反応してシリサイドを形成
する金属元素で形成してもよい。シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素とし
ては、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モ
リブデン、タングステン、コバルト、ニッケル等がある。正極集電体101は、箔状、板
状(シート状)、網状、パンチングメタル状、エキスパンドメタル状等の形状を適宜用い
ることができる。正極集電体101は、厚みが10μm以上30μm以下のものを用いる
とよい。
【0032】
正極活物質層102に含まれる正極活物質としては、LiFeO、LiCoO、Li
NiO、LiMn、V、Cr、MnO等の化合物を材料として用
いることができる。
【0033】
または、オリビン型構造のリチウム含有複合酸化物(一般式LiMPO(Mは、Fe(
II)、Mn(II)、Co(II)、Ni(II)の一以上))を用いることができる
。一般式LiMPOの代表例としては、LiFePO、LiNiPO、LiCoP
、LiMnPO、LiFeNiPO、LiFeCoPO、LiFe
MnPO、LiNiCoPO、LiNiMnPO(a+bは1以下、0
<a<1、0<b<1)、LiFeNiCoPO、LiFeNiMnPO
、LiNiCoMnPO(c+d+eは1以下、0<c<1、0<d<1、0
<e<1)、LiFeNiCoMnPO(f+g+h+iは1以下、0<f<
1、0<g<1、0<h<1、0<i<1)等のリチウム化合物を材料として用いること
ができる。
【0034】
または、一般式Li(2−j)MSiO(Mは、Fe(II)、Mn(II)、Co(
II)、Ni(II)の一以上、0≦j≦2)等のリチウム含有複合酸化物を用いること
ができる。一般式Li(2−j)MSiOの代表例としては、Li(2−j)FeSi
、Li(2−j)NiSiO、Li(2−j)CoSiO、Li(2−j)Mn
SiO、Li(2−j)FeNiSiO、Li(2−j)FeCoSiO
、Li(2−j)FeMnSiO、Li(2−j)NiCoSiO、Li
2−j)NiMnSiO(k+lは1以下、0<k<1、0<l<1)、Li(2
−j)FeNiCoSiO、Li(2−j)FeNiMnSiO、Li
(2−j)NiCoMnSiO(m+n+qは1以下、0<m<1、0<n<1
、0<q<1)、Li(2−j)FeNiCoMnSiO(r+s+t+uは
1以下、0<r<1、0<s<1、0<t<1、0<u<1)等のリチウム化合物を材料
として用いることができる。
【0035】
なお、キャリアイオンが、リチウムイオン以外のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属
イオン、ベリリウムイオン、またはマグネシウムイオンの場合、正極活物質として、上記
リチウム化合物及びリチウム含有複合酸化物において、リチウムの代わりに、アルカリ金
属(例えば、ナトリウムやカリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、スト
ロンチウム、バリウム等)、ベリリウム、またはマグネシウムを用いてもよい。
【0036】
また、正極活物質層102に含まれる導電助剤として、グラフェンを用いる。グラフェン
は、酸化グラフェンに還元処理を行うことによって、形成される。
【0037】
また、酸化グラフェンは、Hummers法と呼ばれる酸化法を用いて作製することがで
きる。Hummers法は、単結晶グラファイト粉末に、過マンガン酸カリウムの硫酸溶
液、過酸化水素水等を加えて酸化反応させて酸化グラファイトを含む分散液を作製する。
酸化グラファイトは、グラファイトの炭素の酸化により、エポキシ基、カルボニル基、カ
ルボキシル基、ヒドロキシル基等の官能基を有する。このため、複数のグラフェンの層間
距離がグラファイトと比較して長くなる。次に、酸化グラファイトを含む混合液に、超音
波振動を加えることで、層間距離が長い酸化グラファイトを劈開し、酸化グラフェンを分
離すると共に、酸化グラフェンを含む分散液を作製することができる。なお、Humme
rs法以外の酸化グラフェンの作製方法を適宜用いてもよい。そして、酸化グラフェンを
含む分散液から溶媒を取り除くことで、酸化グラフェンを得ることができる。
【0038】
酸化グラフェンは、エポキシ基、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基等を有
する。酸化グラフェンは極性を有する溶液中においては、官能基中の酸素がマイナスに帯
電するため、異なる酸化グラフェン同士で凝集しにくい。このため、極性を有する液体に
おいては、均一に酸化グラフェンが分散しやすい。
【0039】
また、用いる酸化グラフェンの一辺の長さ(フレークサイズともいう。)は数μm〜数十
μmであると好ましい。
【0040】
なお、酸化グラフェンは、市販の酸化グラフェンを溶媒に分散させた溶液、または市販の
酸化グラフェン分散液を用いてもよい。
【0041】
また、正極活物質層102に含まれる結着剤(バインダー)として、ポリフッ化ビニリデ
ン(PVDF)などを用いる。
【0042】
次に、上述した正極活物質、導電助剤、結着剤、分散媒を用いて、正極ペーストを作製し
、該正極ペーストを正極集電体101上に塗布して、還元雰囲気または減圧下で乾燥させ
ることで、正極活物質層を含む正極100を製造する方法について、図2を参照して説明
する。
【0043】
まず、分散媒としてNMPを用意し(ステップS11)、NMP中に酸化グラフェンを分
散させる(ステップS12)。正極ペーストに対して、酸化グラフェンの量が0.1wt
%未満であると、正極活物質層102が形成された際に導電性が低下する。また、酸化グ
ラフェンの量が5wt%を超えると、正極活物質の粒径にもよるが、正極ペーストの粘度
が高くなる。また、正極ペーストを正極集電体101に塗布した後の乾燥工程の際に、加
熱により正極ペースト中で対流が生じ、軽くて薄い酸化グラフェンが移動・凝集すること
で、正極活物質層102がひび割れたり、正極活物質層102が正極集電体101から剥
がれたりするおそれがある。したがって、酸化グラフェンの量は、正極ペースト(正極活
物質、導電助剤、及び結着剤の総重量)に対して0.1wt%〜5wt%、好ましくは2
wt%〜3wt%とするとよい。
【0044】
次に、正極活物質として、リン酸鉄リチウムを添加する(ステップS13)。リン酸鉄リ
チウムの平均粒径は、100nm以上500nm以下のものを用いるとよい。添加するリ
ン酸鉄リチウムの量は、正極ペーストに対して、90wt%以上、好ましくは95wt%
以上とすればよく、例えば、93wt%以上96wt%以下とすればよい。
【0045】
次に、これらの混合物に固練り(高粘度による混練)を行うことで、酸化グラフェン及び
リン酸鉄リチウムの凝集をほどくことができる。また、酸化グラフェンは、官能基を有す
るため、極性溶媒中においては、官能基中の酸素がマイナスに帯電するため、異なる酸化
グラフェン同士で凝集しにくい。また、酸化グラフェンは、リン酸鉄リチウムとの相互作
用が強い。このため、リン酸鉄リチウム中に酸化グラフェンをより均一に分散させること
ができる。
【0046】
次に、これらの混合物に、結着剤としてPVDFを添加する(ステップS14)。PVD
Fの量は、酸化グラフェン及びリン酸鉄リチウムの量によって設定すればよく、正極ペー
ストに対して、1wt%以上10wt%以下添加すればよい。酸化グラフェンが、複数の
正極活物質粒子と接するように均一に分散されている状態で、結着剤を添加することによ
り、分散状態を維持したまま、正極活物質と酸化グラフェンとを結着することができる。
また、リン酸鉄リチウムと酸化グラフェンの割合によっては、結着剤を添加しなくてもよ
いが、結着剤を添加した方が正極の強度を向上させることができる。
【0047】
次に、これらの混合物に、所定の粘度になるまでNMPを添加し(ステップS15)、混
練することで正極ペーストを作製することができる(ステップS16)。以上の工程で、
正極ペーストを作製することによって、酸化グラフェン、正極活物質、及び結着剤の混練
状態が均一な正極ペーストを作製することができる。
【0048】
次に、正極集電体101上に、正極ペーストを塗布する(ステップS17)。
【0049】
次に、正極集電体101上に塗布された正極ペーストを乾燥させる(ステップS18)。
乾燥工程は、60℃〜170℃、1分〜10時間加熱することにより、NMPを蒸発させ
ることによって行う。なお、雰囲気は特に限定されない。
【0050】
次に、正極ペーストに対して還元雰囲気または減圧下にて乾燥を行う(ステップS19)
。還元雰囲気または減圧下とし、温度を130℃〜200℃、10時間〜30時間加熱す
ることにより、正極ペーストに残ったNMPや水を蒸発させ、酸化グラフェンに含まれる
酸素を脱離させる。これにより、酸化グラフェンをグラフェンとすることができる。なお
、酸化グラフェンに含まれる酸素は全て脱離されず、一部の酸素は、グラフェンに残存し
てもよい。
【0051】
以上の工程により、正極活物質にグラフェンが均一に分散された正極活物質層102を含
むリチウムイオン二次電池用正極を作製することができる。なお、乾燥工程の後、正極に
対して、加圧工程を行っても良い。
【0052】
図1(B)及び図1(C)に、上述の方法によって作製された正極活物質層102の断面
模式図を示す。
【0053】
図1(B)に、グラフェン104が、複数の正極活物質103を覆っている様子を示す。
グラフェン104は、炭素分子のシートであるため、図1(B)に示すように、複数の正
極活物質103と接するように、分散させることができる。また、正極活物質103とグ
ラフェン104との接触は面接触となることで、正極活物質103とグラフェン104の
接触抵抗を低減することができる。また、図1(B)に示すように、グラフェン104と
グラフェン104との接触も面接触となるため、グラフェン104とグラフェン104と
の接触抵抗を低減することができる。また、正極活物質103とグラフェン104との接
触点を増やすために、導電助剤を増加させなくてもよいため、正極活物質103の比率を
増加させることができる。これにより、電池の容量を増加させることができる。
【0054】
図1(C)に、図1(B)とは異なる断面の模式図を示す。グラフェン104の断面は、
線状で観察される。正極活物質層102中では、複数のグラフェン104が重なり合い、
複数の正極活物質103と接するように分散されている。または、正極活物質層102中
にグラフェン104によるネットワークが形成されているともいえる。これにより、正極
活物質103同士の結合が維持された状態となる。
【0055】
本実施の形態に示すように、正極ペーストの作製では、正極活物質、酸化グラフェン、結
着剤を添加する順序が重要となる。例えば、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを用いる
場合、リン酸鉄リチウムと結着剤とを混合した後に、酸化グラフェンを添加すると、リン
酸鉄リチウムと酸化グラフェンとの接触面積が低下する、また酸化グラフェンの分散が均
一に行われないおそれがある。このような正極ペーストを用いて正極を作製し、該正極を
二次電池として用いた場合、容量が低下する等、プラトーを示す電位が低下してしまう。
また、リン酸鉄リチウム、酸化グラフェン、結着剤を一度に混合して正極ペーストを作製
しても、リン酸鉄リチウムと結着剤が接触してしまうと、リン酸鉄リチウムと酸化グラフ
ェンとの接触を阻害するおそれがある。
【0056】
本実施の形態で説明したように、酸化グラフェンが分散された分散媒に、正極活物質を添
加し、混練することで、正極活物質中に酸化グラフェンを均一に分散することができる。
酸化グラフェンが、複数の正極活物質粒子と接するように分散された状態で、結着剤を添
加することで、酸化グラフェンと複数の正極活物質粒子との接触を阻害することなく、結
着剤を均一に分散させることができる。このようにして作製された正極ペーストを用いる
ことで、正極活物質の充填量が高く、高密度化された正極を作製することができる。また
、該正極を用いて、電池を作製することで、容量が大きく、プラトーを示す電位が高いリ
チウムイオン二次電池を作製することができる。さらに、結着剤によって、シート状のグ
ラフェンが、複数の正極活物質と接した状態を維持させることができるため、正極活物質
とグラフェンとの剥離を抑制することができる。そのため、サイクル特性が向上したリチ
ウムイオン二次電池を作製することができる。
【0057】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0058】
(実施の形態2)
本実施の形態では、リチウムイオン二次電池の構造及びその製造方法について、図3及び
図4を参照して説明する。
【0059】
図3(A)は、コイン型(単層偏平型)のリチウムイオン二次電池の外観図であり、図3
(B)は、その断面図である。
【0060】
コイン型の二次電池300は、正極端子を兼ねた正極缶301と負極端子を兼ねた負極缶
302とが、ポリプロピレン等で形成されたガスケット303で絶縁シールされている。
正極304は、正極集電体305と、これと接するように設けられた正極活物質層306
により形成される。また、負極307は、負極集電体308と、これに接するように設け
られた負極活物質層309により形成される。正極活物質層306と負極活物質層309
との間には、セパレータ310と、電解液(図示せず)とを有する。
【0061】
正極304は、実施の形態1に示す正極100を用いることができる。
【0062】
負極307は、負極集電体308上に、CVD法、スパッタリング法、または塗布法によ
り、負極活物質層309を形成することで、形成される。
【0063】
負極集電体308には、銅、ニッケル、チタン等の金属、及びアルミニウム−ニッケル合
金、アルミニウム−銅合金など、導電性の高い材料を用いることができる。負極集電体3
08は、箔状、板状(シート状)、網状、パンチングメタル状、エキスパンドメタル状等
の形状を適宜用いることができる。負極集電体308は、厚みが10μm以上30μm以
下のものを用いるとよい。
【0064】
負極活物質として、金属の溶解・析出、または金属イオンの挿入・脱離が可能な材料であ
れば、特に限定されない。負極活物質としては、例えば、リチウム金属、炭素系材料、シ
リコン、シリコン合金、スズなどを用いることができる。例えば、リチウムイオンの挿入
・脱離が可能な炭素系材料としては、粉末状もしくは繊維状の黒鉛などを用いることがで
きる。塗布法を用いて負極活物質層309を形成する場合は、負極活物質に、導電助剤や
結着剤を添加して、負極ペーストを作製し、負極集電体308上に塗布して乾燥させれば
よい。
【0065】
また、負極活物質として、シリコンを用いて負極活物質層309を形成する場合は、負極
活物質層309の表面に、グラフェンを形成することが好ましい。シリコンは、充放電サ
イクルにおけるキャリアイオンの吸蔵・放出に伴う体積の変化が大きいため、負極集電体
308と負極活物質層309との密着性が低下し、充放電により電池特性が劣化してしま
う。そこで、シリコンを含む負極活物質層309の表面にグラフェンを形成することによ
り、充放電サイクルにおいて、シリコンの体積が変化したとしても、負極集電体308と
負極活物質層309との密着性の低下を抑制することができ、電池特性の劣化が低減され
るため好ましい。
【0066】
負極活物質層309表面に形成するグラフェンは、正極の作製方法と同様に、酸化グラフ
ェンを還元することによって形成することができる。該酸化グラフェンは、実施の形態1
で説明した酸化グラフェンを用いることができる。
【0067】
負極活物質層309に、電気泳動法を用いて酸化グラフェンを形成する方法について、図
4(A)を参照して説明する。
【0068】
図4(A)は電気泳動法を説明するための断面図である。容器401には、実施の形態1
で説明した分散媒に酸化グラフェンを分散させた分散液(以下、酸化グラフェン分散液4
02という。)が入っている。また、酸化グラフェン分散液402中に被形成物403を
設けて、これを陽極とする。また、酸化グラフェン分散液402中に陰極となる導電体4
04を設ける。なお、被形成物403は、負極集電体308及びその上に形成された負極
活物質層309とする。また、導電体404は、導電性を有する材料、例えば、金属材料
又は合金材料とすればよい。
【0069】
陽極と陰極の間に適切な電圧を加えることで、被形成物403の表面、すなわち、負極活
物質層309の表面に酸化グラフェンの層が形成される。これは、酸化グラフェンは、上
記したように極性溶媒中においてマイナスに帯電するため、電圧を加えることで負に帯電
した酸化グラフェンは陽極に引き寄せられ、被形成物403に付着するからである。酸化
グラフェンの負の帯電は、酸化グラフェンが有するヒドロキシル基、カルボキシル基等の
置換基から水素イオンが離脱していることに由来し、物体と当該置換基とが結合すること
で中性化する。なお、加える電圧は一定でなくてもよい。また、陽極と陰極の間を流れる
電荷量を測定することで、物体に付着した酸化グラフェンの層の厚さを見積もることがで
きる。
【0070】
陽極と陰極の間に加える電圧は、0.5V乃至2.0Vの範囲とすると良い。より好まし
くは、0.8V乃至1.5Vである。例えば陽極と陰極の間に加える電圧を1Vとすると
、被形成物と酸化グラフェンの層との間に陽極酸化の原理により生じうる酸化膜が、形成
されにくい。
【0071】
必要な厚さの酸化グラフェンが得られたら、被形成物403を酸化グラフェン分散液40
2から引き上げ、乾燥させる。
【0072】
電気泳動法による酸化グラフェンの電着において、酸化グラフェンで既に覆われている部
分にさらに酸化グラフェンが積層することは少ない。これは、酸化グラフェンの導電率が
十分に低いためである。一方、まだ酸化グラフェンに覆われていない部分には、酸化グラ
フェンが優先的に積層される。このため、被形成物403の表面に形成される酸化グラフ
ェンの厚さは実質的に均一な厚さになる。
【0073】
電気泳動を行う時間(電圧を加える時間)は、被形成物403の表面が酸化グラフェンに
覆われるのにかかる時間より長時間行えばよく、例えば、0.5分以上30分以下、好ま
しくは5分以上20分以下とすればよい。
【0074】
電気泳動法を用いると、イオン化した酸化グラフェンを電気的に活物質まで移動させるこ
とができるため、負極活物質層309の表面に凹凸を有していても、酸化グラフェンを均
一に設けることが可能である。
【0075】
次に、還元処理を行い、形成された酸化グラフェンから酸素の一部を脱離させる。還元処
理としてはグラフェンを用いた実施の形態1で説明した、加熱による還元処理等を行って
も良いが、ここでは電気化学的な還元処理(以下、電気化学還元という。)について説明
する。
【0076】
酸化グラフェンの電気化学還元は、加熱処理による還元とは異なり、電気エネルギーを用
いた還元である。図4(B)に示すように負極活物質層309上に設けた酸化グラフェン
を有する陰極を導電体407として用いて閉回路を構成し、この導電体407に当該酸化
グラフェンの還元反応が生じる電位、又は当該酸化グラフェンが還元される電位を供給し
、当該酸化グラフェンをグラフェンに還元する。なお、本明細書では、酸化グラフェンの
還元反応が生じる電位、又は当該酸化グラフェンが還元される電位を還元電位という。
【0077】
図4(B)を用いて酸化グラフェンの還元方法を具体的に記述する。容器405に電解液
406を満たし、そこに酸化グラフェンを有する導電体407と、対極408とを挿入し
、浸漬させる。次に、酸化グラフェンを有する導電体407を作用極とし、他に少なくと
も対極408及び電解液406を用いて電気化学セル(開回路)を組み、当該導電体40
7(作用極)の電位に酸化グラフェンの還元電位を供給し、当該酸化グラフェンをグラフ
ェンに還元する。なお、供給する還元電位は、対極408を基準にした場合の還元電位、
又は電気化学セルに参照極を設けて、当該参照極を基準にした場合の還元電位とする。例
えば、対極408及び参照極をリチウム金属とする場合、供給する還元電位はリチウム金
属の酸化還元電位を基準とした還元電位(vs.Li/Li)となる。本工程によって
、電気化学セル(閉回路)には、酸化グラフェンが還元される際に還元電流が流れる。そ
のため、酸化グラフェンの還元を確認するには、当該還元電流を逐次確認すればよく、還
元電流が一定値を下回った状態(還元電流に対応するピークが消失した状態)を、酸化グ
ラフェンが還元された状態(還元反応が終了した状態)とすればよい。
【0078】
また、当該導電体407の電位を制御する際は、酸化グラフェンの還元電位に固定するだ
けではなく、酸化グラフェンの還元電位を含んで掃引してもよく、さらに当該掃引は、サ
イクリックボルタンメトリのように周期的に繰り返してもよい。また、当該導電体407
の電位の掃引速度に限定はないが、0.005mV/sec.以上1mV/sec.以下
が好ましい。なお、当該導電体407の電位の掃引を行う場合は、高電位側から低電位側
に掃引してもよいし、低電位側から高電位側に掃引してもよい。
【0079】
酸化グラフェンの還元電位は、その酸化グラフェンの構成(官能基の有無など)、及び電
位制御の仕方(掃引速度など)によって値が多少異なるが、約2.0V(vs.Li/L
)程度である。具体的には、1.6V以上2.4V以下(vs.Li/Li)の範
囲で上記導電体407の電位を制御すればよい。
【0080】
以上の工程により、導電体407上にグラフェンを形成することができる。電気化学的還
元処理を行った場合、加熱処理によって形成したグラフェンに比べてsp結合である二
重結合の炭素−炭素結合を有する割合が増大するため、導電性の高いグラフェンを負極活
物質層309上に形成することができる。
【0081】
なお、導電体407上にグラフェンを形成した後、負極活物質層309にグラフェンを介
してリチウムをプレドープしてもよい。リチウムのプレドープ方法としては、スパッタリ
ング法により負極活物質層309表面にリチウム層を形成してもよい。または、負極活物
質層309の表面にリチウム箔を設けることで、負極活物質層309にリチウムをプレド
ープすることができる。
【0082】
セパレータ310は、セルロース(紙)、または空孔が設けられたポリプロピレン、ポリ
エチレン等の絶縁体を用いることができる。
【0083】
電解液は、電解質として、キャリアイオンを有する材料を用いる。電解質の代表例として
は、LiClO、LiAsF、LiBF、LiPF、Li(CSO
N等のリチウム塩がある。
【0084】
なお、キャリアイオンが、リチウムイオン以外のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属
イオン、ベリリウムイオン、またはマグネシウムイオンの場合、電解質として、上記リチ
ウム塩において、リチウムの代わりに、アルカリ金属(例えば、ナトリウムやカリウム等
)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等)、ベリリウ
ム、またはマグネシウムを用いてもよい。
【0085】
また、電解液の溶媒としては、キャリアイオンの移送が可能な材料を用いる。電解液の溶
媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ましい。非プロトン性有機溶媒の代表例としては
、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジ
エチルカーボネート(DEC)、γーブチロラクトン、アセトニトリル、ジメトキシエタ
ン、テトラヒドロフラン等があり、これらの一つまたは複数を用いることができる。また
、電解液の溶媒としてゲル化される高分子材料を用いることで、漏液性を含めた安全性が
高まる。また、リチウムイオン二次電池の薄型化及び軽量化が可能である。ゲル化される
高分子材料の代表例としては、シリコーンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、
ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、フッ素系ポリマー等がある。また
、電解液の溶媒として、難燃性及び難揮発性であるイオン液体(常温溶融塩)を一または
複数用いることで、二次電池の内部短絡や、過充電等によって内部温度が上昇しても、二
次電池の破裂や発火などを防ぐことができる。
【0086】
また、電解液の代わりに、硫化物系や酸化物系等の無機物材料を有する固体電解質や、P
EO(ポリエチレンオキシド)系等の高分子材料を有する固体電解質を用いることができ
る。固体電解質を用いる場合には、セパレータやスペーサの設置が不要となる。また、電
池全体を固体化できるため、漏液のおそれがなくなり安全性が飛躍的に向上する。
【0087】
正極缶301、負極缶302には、耐腐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の
金属、又はこれらの合金やこれらと他の金属との合金(ステンレス鋼など)を用いること
ができる。特に、二次電池の充放電によって生じる電解液による腐食を防ぐため、ニッケ
ル等を腐食性金属にめっきすることが好ましい。正極缶301は正極304と、負極缶3
02は負極307とそれぞれ電気的に接続する。
【0088】
これら負極307、正極304及びセパレータ310を電解質に含浸させ、図3(B)に
示すように、正極缶301を下にして正極304、セパレータ310、負極307、負極
缶302をこの順で積層し、正極缶301と負極缶302とをガスケット303を介して
圧着してコイン形の二次電池300を製造する。
【0089】
次に、ラミネート型の二次電池の一例について、図5を参照して説明する。
【0090】
図5に示すラミネート型の二次電池500は、正極集電体501および正極活物質層50
2を有する正極503と、負極集電体504および負極活物質層505を有する負極50
6と、セパレータ507と、電解液508と、筐体509と、を有する。筐体509内に
設けられた正極503と負極506との間にセパレータ507が設置されている。また、
筐体509内は、電解液508で満たされている。
【0091】
図5に示す二次電池500において、正極集電体501および負極集電体504は、外部
との電気的接触を得る端子の役割も兼ねている。そのため、正極集電体501および負極
集電体504の一部は、筐体509から外側に露出するように配置される。
【0092】
ラミネート型の二次電池500において、筐体509は、ラミネートフィルム、高分子フ
ィルム、金属フィルムなどを用いることが好ましい。
【0093】
本実施の形態で示す二次電池300及び二次電池500の正極には、本発明の一態様に係
る正極が用いられている。そのため、二次電池300及び二次電池500の容量を大きく
、サイクル特性を向上させることができる。
【0094】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0095】
(実施の形態3)
本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池は、電力により駆動する様々な電気機器の
電源として用いることができる。
【0096】
本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池を用いた電気機器の具体例として、テレビ
、モニタ等の表示装置、照明装置、デスクトップ型或いはノート型のパーソナルコンピュ
ータ、ワードプロセッサ、DVD(Digital Versatile Disc)な
どの記録媒体に記憶された静止画又は動画を再生する画像再生装置、ポータブルCDプレ
ーヤ、ラジオ、テープレコーダ、ヘッドホンステレオ、ステレオ、置き時計、壁掛け時計
、コードレス電話子機、トランシーバ、携帯無線機、携帯電話、自動車電話、携帯型ゲー
ム機、電卓、携帯情報端末、電子手帳、電子書籍、電子翻訳機、音声入力機器、ビデオカ
メラ、デジタルスチルカメラ、電気シェーバ、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯
器、電気洗濯機、電気掃除機、温水器、扇風機、毛髪乾燥機、エアコンディショナー、加
湿器、除湿器などの空調設備、食器洗い器、食器乾燥器、衣類乾燥器、布団乾燥器、電気
冷蔵庫、電気冷凍庫、電気冷凍冷蔵庫、DNA保存用冷凍庫、懐中電灯、チェーンソー等
の工具、煙感知器、透析装置等の医療機器などが挙げられる。さらに、誘導灯、信号機、
ベルトコンベア、エレベータ、エスカレータ、産業用ロボット、電力貯蔵システム、電力
の平準化やスマートグリッドのための蓄電装置等の産業機器が挙げられる。また、リチウ
ムイオン二次電池からの電力を用いて電動機により推進する移動体なども、電気機器の範
疇に含まれるものとする。上記移動体として、例えば、電気自動車(EV)、内燃機関と
電動機を併せ持ったハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)
、これらのタイヤ車輪を無限軌道に変えた装軌車両、電動アシスト自転車を含む原動機付
自転車、自動二輪車、電動車椅子、ゴルフ用カート、小型又は大型船舶、潜水艦、ヘリコ
プター、航空機、ロケット、人工衛星、宇宙探査機や惑星探査機、宇宙船などが挙げられ
る。
【0097】
なお、上記電気機器は、消費電力の殆ど全てを賄うための主電源として、本発明の一態様
に係るリチウムイオン二次電池を用いることができる。或いは、上記電気機器は、上記主
電源や商用電源からの電力の供給が停止した場合に、電気機器への電力の供給を行うこと
ができる無停電電源として、本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池を用いること
ができる。或いは、上記電気機器は、上記主電源や商用電源からの電気機器への電力の供
給と並行して、電気機器への電力の供給を行うための補助電源として、本発明の一態様に
係るリチウムイオン二次電池を用いることができる。
【0098】
図6に、上記電気機器の具体的な構成を示す。図6において、表示装置8000は、本発
明の一態様に係るリチウムイオン二次電池8004を用いた電気機器の一例である。具体
的に、表示装置8000は、TV放送受信用の表示装置に相当し、筐体8001、表示部
8002、スピーカー部8003、リチウムイオン二次電池8004等を有する。本発明
の一態様に係るリチウムイオン二次電池8004は、筐体8001の内部に設けられてい
る。表示装置8000は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、リチウムイ
オン二次電池8004に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより
商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係るリチウムイオン二
次電池8004を無停電電源として用いることで、表示装置8000の利用が可能となる
【0099】
表示部8002には、液晶表示装置、有機EL素子などの発光素子を各画素に備えた発光
装置、電気泳動表示装置、DMD(Digital Micromirror Devi
ce)、PDP(Plasma Display Panel)、FED(Field
Emission Display)などの、半導体表示装置を用いることができる。
【0100】
なお、表示装置には、TV放送受信用の他、パーソナルコンピュータ用、広告表示用など
、全ての情報表示用表示装置が含まれる。
【0101】
図6において、据え付け型の照明装置8100は、本発明の一態様に係るリチウムイオン
二次電池8103を用いた電気機器の一例である。具体的に、照明装置8100は、筐体
8101、光源8102、リチウムイオン二次電池8103等を有する。図6では、リチ
ウムイオン二次電池8103が、筐体8101及び光源8102が据え付けられた天井8
104の内部に設けられている場合を例示しているが、リチウムイオン二次電池8103
は、筐体8101の内部に設けられていても良い。照明装置8100は、商用電源から電
力の供給を受けることもできるし、リチウムイオン二次電池8103に蓄積された電力を
用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時
でも、本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池8103を無停電電源として用いる
ことで、照明装置8100の利用が可能となる。
【0102】
なお、図6では天井8104に設けられた据え付け型の照明装置8100を例示している
が、本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池は、天井8104以外、例えば側壁8
105、床8106、窓8107等に設けられた据え付け型の照明装置に用いることもで
きるし、卓上型の照明装置などに用いることもできる。
【0103】
また、光源8102には、電力を利用して人工的に光を得る人工光源を用いることができ
る。具体的には、白熱電球、蛍光灯などの放電ランプ、LEDや有機EL素子などの発光
素子が、上記人工光源の一例として挙げられる。
【0104】
図6において、室内機8200及び室外機8204を有するエアコンディショナーは、本
発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池8203を用いた電気機器の一例である。具
体的に、室内機8200は、筐体8201、送風口8202、リチウムイオン二次電池8
203等を有する。図6では、リチウムイオン二次電池8203が、室内機8200に設
けられている場合を例示しているが、リチウムイオン二次電池8203は室外機8204
に設けられていても良い。或いは、室内機8200と室外機8204の両方に、リチウム
イオン二次電池8203が設けられていても良い。エアコンディショナーは、商用電源か
ら電力の供給を受けることもできるし、リチウムイオン二次電池8203に蓄積された電
力を用いることもできる。特に、室内機8200と室外機8204の両方にリチウムイオ
ン二次電池8203が設けられている場合、停電などにより商用電源から電力の供給が受
けられない時でも、本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池8203を無停電電源
として用いることで、エアコンディショナーの利用が可能となる。
【0105】
なお、図6では、室内機8200と室外機8204で構成されるセパレート型のエアコン
ディショナーを例示しているが、室内機の機能と室外機の機能とを1つの筐体に有する一
体型のエアコンディショナーに、本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池を用いる
こともできる。
【0106】
図6において、電気冷凍冷蔵庫8300は、本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電
池8304を用いた電気機器の一例である。具体的に、電気冷凍冷蔵庫8300は、筐体
8301、冷蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303、リチウムイオン二次電池8304
等を有する。図6では、リチウムイオン二次電池8304が、筐体8301の内部に設け
られている。電気冷凍冷蔵庫8300は、商用電源から電力の供給を受けることもできる
し、リチウムイオン二次電池8304に蓄積された電力を用いることもできる。よって、
停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係るリ
チウムイオン二次電池8304を無停電電源として用いることで、電気冷凍冷蔵庫830
0の利用が可能となる。
【0107】
なお、上述した電気機器のうち、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器などの電気
機器は、短時間で高い電力を必要とする。よって、商用電源では賄いきれない電力を補助
するための補助電源として、本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池を用いること
で、電気機器の使用時に商用電源のブレーカーが落ちるのを防ぐことができる。
【0108】
また、電気機器が使用されない時間帯、特に、商用電源の供給元が供給可能な総電力量の
うち、実際に使用される電力量の割合(電力使用率と呼ぶ)が低い時間帯において、リチ
ウムイオン二次電池に電力を蓄えておくことで、上記時間帯以外において電力使用率が高
まるのを抑えることができる。例えば、電気冷凍冷蔵庫8300の場合、気温が低く、冷
蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303の開閉が行われない夜間において、リチウムイオ
ン二次電池8304に電力を蓄える。そして、気温が高くなり、冷蔵室用扉8302、冷
凍室用扉8303の開閉が行われる昼間において、リチウムイオン二次電池8304を補
助電源として用いることで、昼間の電力使用率を低く抑えることができる。
【0109】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0110】
(実施の形態4)
次に、電気機器の一例である携帯情報端末について、図7を用いて説明する。
【0111】
図7(A)及び図7(B)は2つ折り可能なタブレット型端末である。図7(A)は、開
いた状態であり、タブレット型端末は、筐体9630、表示部9631a、表示部963
1b、表示モード切り替えスイッチ9034、電源スイッチ9035、省電力モード切り
替えスイッチ9036、留め具9033、操作スイッチ9038、を有する。
【0112】
表示部9631aは、一部をタッチパネルの領域9632aとすることができ、表示され
た操作キー9638にふれることでデータ入力をすることができる。なお、表示部963
1aにおいては、一例として半分の領域が表示のみの機能を有する構成、もう半分の領域
がタッチパネルの機能を有する構成を示しているが該構成に限定されない。表示部963
1aの全ての領域がタッチパネルの機能を有する構成としても良い。例えば、表示部96
31aの全面をキーボードボタン表示させてタッチパネルとし、表示部9631bを表示
画面として用いることができる。
【0113】
また、表示部9631bにおいても表示部9631aと同様に、表示部9631bの一部
をタッチパネルの領域9632bとすることができる。また、タッチパネルのキーボード
表示切り替えボタン9639が表示されている位置に指やスタイラスなどでふれることで
表示部9631bにキーボードボタン表示することができる。
【0114】
また、タッチパネルの領域9632aとタッチパネルの領域9632bに対して同時にタ
ッチ入力することもできる。
【0115】
また、表示モード切り替えスイッチ9034は、縦表示または横表示などの表示の向きを
切り替え、白黒表示やカラー表示の切り替えなどを選択できる。省電力モード切り替えス
イッチ9036は、タブレット型端末に内蔵している光センサで検出される使用時の外光
の光量に応じて表示の輝度を最適なものとすることができる。タブレット型端末は光セン
サだけでなく、ジャイロ、加速度センサ等の傾きを検出するセンサなどの他の検出装置を
内蔵させてもよい。
【0116】
また、図7(A)では表示部9631bと表示部9631aの表示面積が同じ例を示して
いるが特に限定されず、一方のサイズともう一方のサイズが異なっていてもよく、表示の
品質も異なっていてもよい。例えば一方が他方よりも高精細な表示を行える表示パネルと
してもよい。
【0117】
図7(B)は、閉じた状態であり、タブレット型端末は、筐体9630、太陽電池963
3、充放電制御回路9634、バッテリー9635、DCDCコンバータ9636を有す
る。なお、図7(B)では充放電制御回路9634の一例としてバッテリー9635、D
CDCコンバータ9636を有する構成について示しており、バッテリー9635は、上
記実施の形態で説明したリチウムイオン二次電池を有している。
【0118】
なお、タブレット型端末は2つ折り可能なため、未使用時に筐体9630を閉じた状態に
することができる。従って、表示部9631a、表示部9631bを保護できるため、耐
久性に優れ、長期使用の観点からも信頼性の優れたタブレット型端末を提供できる。
【0119】
また、この他にも図7(A)及び図7(B)に示したタブレット型端末は、様々な情報(
静止画、動画、テキスト画像など)を表示する機能、カレンダー、日付又は時刻などを表
示部に表示する機能、表示部に表示した情報をタッチ入力操作又は編集するタッチ入力機
能、様々なソフトウェア(プログラム)によって処理を制御する機能、等を有することが
できる。
【0120】
タブレット型端末の表面に装着された太陽電池9633によって、電力をタッチパネル、
表示部、または映像信号処理部等に供給することができる。なお、太陽電池9633は、
筐体9630の片面または両面に設けることができ、バッテリー9635の充電を効率的
に行うことができる。なおバッテリー9635としては、本発明の一態様に係るリチウム
イオン二次電池を用いると、小型化を図れる等の利点がある。
【0121】
また、図7(B)に示す充放電制御回路9634の構成、及び動作について図7(C)に
ブロック図を示し説明する。図7(C)には、太陽電池9633、バッテリー9635、
DCDCコンバータ9636、コンバータ9637、スイッチSW1乃至SW3、表示部
9631について示しており、バッテリー9635、DCDCコンバータ9636、コン
バータ9637、スイッチSW1乃至SW3が、図7(B)に示す充放電制御回路963
4に対応する箇所となる。
【0122】
まず、外光により太陽電池9633により発電がされる場合の動作の例について説明する
。太陽電池で発電した電力は、バッテリー9635を充電するための電圧となるようDC
DCコンバータ9636で昇圧または降圧がなされる。そして、表示部9631の動作に
太陽電池9633からの電力が用いられる際にはスイッチSW1をオンにし、コンバータ
9637で表示部9631に必要な電圧に昇圧または降圧をすることとなる。また、表示
部9631での表示を行わない際には、SW1をオフにし、SW2をオンにしてバッテリ
ー9635の充電を行う構成とすればよい。
【0123】
なお、太陽電池9633については、発電手段の一例として示したが、特に限定されず、
圧電素子(ピエゾ素子)や熱電変換素子(ペルティエ素子)などの他の発電手段によるバ
ッテリー9635の充電を行う構成であってもよい。例えば、無線(非接触)で電力を送
受信して充電する無接点電力伝送モジュールや、また他の充電手段を組み合わせて行う構
成としてもよい。
【0124】
また、上記実施の形態で説明したリチウムイオン二次電池を具備していれば、図7に示し
た電気機器に特に限定されないことは言うまでもない。
【0125】
(実施の形態5)
さらに、電気機器の一例である移動体の例について、図8を用いて説明する。
【0126】
先の実施の形態で説明したリチウムイオン二次電池を制御用のバッテリーに用いることが
できる。制御用のバッテリーは、プラグイン技術や非接触給電による外部からの電力供給
により充電をすることができる。なお、移動体が鉄道用電気車両の場合、架線や導電軌条
からの電力供給により充電をすることができる。
【0127】
図8(A)及び(B)は、電気自動車の一例を示している。電気自動車9700には、リ
チウムイオン二次電池9701が搭載されている。リチウムイオン二次電池9701の電
力は、制御回路9702により出力が調整されて、駆動装置9703に供給される。制御
回路9702は、図示しないROM、RAM、CPU等を有する処理装置9704によっ
て制御される。
【0128】
駆動装置9703は、直流電動機若しくは交流電動機単体、又は電動機と内燃機関と、を
組み合わせて構成される。処理装置9704は、電気自動車9700の運転者の操作情報
(加速、減速、停止など)や走行時の情報(上り坂や下り坂等の情報、駆動輪にかかる負
荷情報など)の入力情報に基づき、制御回路9702に制御信号を出力する。制御回路9
702は、処理装置9704の制御信号により、リチウムイオン二次電池9701から供
給される電気エネルギーを調整して駆動装置9703の出力を制御する。交流電動機を搭
載している場合は、図示していないが、直流を交流に変換するインバータも内蔵される。
【0129】
リチウムイオン二次電池9701は、プラグイン技術による外部からの電力供給により充
電することができる。例えば、商用電源から電源プラグを通じてリチウムイオン二次電池
9701に充電する。充電は、AC/DCコンバータ等の変換装置を介して、一定の電圧
値を有する直流定電圧に変換して行うことができる。リチウムイオン二次電池9701と
して、本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池を搭載することで、充電時間の短縮
化などに寄与することができ、利便性を向上させることができる。また、充放電速度の向
上により、電気自動車9700の加速力の向上に寄与することができ、電気自動車970
0の性能の向上に寄与することができる。また、リチウムイオン二次電池9701の特性
の向上により、リチウムイオン二次電池9701自体を小型軽量化できれば、車両の軽量
化に寄与するため、燃費を向上させることができる。
【0130】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【実施例1】
【0131】
本実施例では、実施の形態1で示した方法により、正極を作製した結果について説明する
【0132】
まず、本実施例で用いた試料について説明する。
【0133】
まず、試料1の作製方法について説明する。まず、分散媒としてNMP(東京化成工業株
式会社製)を、酸化グラフェン、リン酸鉄リチウム、及びPVDFの総量に対して、60
wt%用意し、NMPに、酸化グラフェン、リン酸鉄リチウム、及びPVDFの総量に対
して2wt%の酸化グラフェンを分散させた後、リン酸鉄リチウムを93wt%添加して
固練りを行った。酸化グラフェンとリン酸鉄リチウムの混合物に、結着剤としてPVDF
を5wt%添加した後、分散媒としてNMPをさらに添加して、混練することで正極ペー
ストを作製した。
【0134】
上述の方法で作製した正極ペーストを、集電体(膜厚20μmのアルミニウム)に塗布し
、大気雰囲気で、80℃で、40分乾燥させた後、減圧雰囲気で、170℃、10時間乾
燥させた。
【0135】
次に、比較試料2の作製方法について説明する。まず、結着剤としてPVDFを5wt%
用意し、リン酸鉄リチウムを93wt%添加して混合した後に、酸化グラフェン、リン酸
鉄リチウム、及びPVDFの総量に対して、2wt%の酸化グラフェンを加えて固練りを
行った。さらに、PVDF、リン酸鉄リチウム、及び酸化グラフェンの混合物に、PVD
F、リン酸鉄リチウム、及び酸化グラフェンの総量に対して50wt%のNMPを添加し
て固練りを行った。次に、粘度を調整するために、さらにNMPを添加し、混練すること
で正極ペーストを作製した。
【0136】
上述の方法で作製した正極ペーストを、集電体(膜厚20μmのアルミニウム)に塗布し
、大気雰囲気で、80℃で、40分乾燥させた後、減圧雰囲気で、170℃、10時間乾
燥させた。
【0137】
得られた試料1、比較試料2を集電体ごと円形に打ち抜き、これらを正極とし、金属リチ
ウムを負極、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合液
(体積比1:1)に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を溶解させたもの(濃度1m
ol/L)を電解液、ポリプロピレンセパレータを、セパレータとして用いて、それぞれ
電池3、電池4(比較例)を作製した。
【0138】
次に、電池3、電池4の放電特性を測定し、その後、充電特性を測定した。なお、放電レ
ートは、0.2C、充電レートは0.2Cとした。充電の終止条件は定電圧4.3V、0
.016C相当電流とした。
【0139】
図14に、電池3及び電池4の放電特性を示す。図14において、横軸は、活物質重量あ
たりの放電容量[mAh/g]であり、縦軸は電圧[V]である。また、図14において
、太い実線は、電池3の放電特性を示し、細い実線は、電池4の放電特性を示す。
【0140】
図14の結果から、電池3の放電特性は、比較例である電池4の放電特性と比較すると、
容量が大きく、プラトーを示す電位が高いことがわかった。
【0141】
電池3に用いた正極では、電池4に用いた正極と比較して、リン酸鉄リチウムとグラフェ
ンとの接触面積が大きいことが考えられる。また、グラフェンの分散が均一であることが
考えられる。
【0142】
以上の結果から、本発明の一態様に係る製造方法を適用することにより、放電容量が向上
し、プラトーを示す電位が高い電池が得られることが確認された。
【実施例2】
【0143】
本実施例では、実施の形態1で示した方法により、正極を作製した結果について説明する
【0144】
まず、本実施例で用いた試料について説明する。
【0145】
試料Aは、活物質(リン酸鉄リチウム)粒子、結着剤(ポリフッ化ビニリデン(PVDF
)、呉羽化学社製)、及び導電助剤(酸化グラフェン)を混合して、正極ペーストを作製
し、該正極ペーストを集電体(アルミニウム)に塗布し、乾燥及び還元させたものである
。また、試料B(比較例)は、活物質(カーボーンコートされたリン酸鉄リチウム)粒子
、結着剤(ポリフッ化ビニリデン(PVDF)呉羽化学社製)、導電助剤(アセチレンブ
ラック、電気化学工業社製)を混合して塗布し、乾燥させたものである。
【0146】
試料Aの活物質として用いたリン酸鉄リチウムの作製方法について説明する。原料である
炭酸リチウム(LiCO)、シュウ酸鉄(FeC・2HO)、リン酸二水素
アンモニウム(NHPO)を1:2:2のモル比で秤量を行い、湿式ボールミル
(ボール径3mm、溶媒としてアセトンを使用)で400rpm、2時間、粉砕・混合を
行った。乾燥後、350℃、10時間、窒素雰囲気で仮焼成を行った。
【0147】
次に、湿式ボールミル(ボール径3mm)で400rpm、2時間、粉砕・混合を行った
。その後、600℃、10時間、窒素雰囲気で焼成した。
【0148】
試料Bの活物質として用いたカーボンコートされたリン酸鉄リチウムは、仮焼成の工程ま
で、試料Aの活物質として用いたリン酸鉄リチウムと同様に作製した。仮焼成後の固形物
に対して10wt%のグルコースを添加して、湿式ボールミル(ボール径3mm)で40
0rpm、2時間、粉砕・混合を行った。その後、600℃、10時間、窒素雰囲気で焼
成した。
【0149】
次に、作製した酸化グラフェンについて説明する。グラファイト(鱗片カーボン)と濃硫
酸を混合したものに、0℃で冷却しながら過マンガン酸カリウムを加えた後、室温に戻し
、合計2時間撹拌した。その後、35℃で30分加熱し、純水を加え、加熱して15分撹
拌し、さらに過酸化水素水を加えることで、酸化グラファイトを含む黄褐色の懸濁液を得
た。さらに、これを濾過し、塩酸を加えた後、純水で洗浄した。そして、超音波処理を1
時間行い、酸化グラファイトを酸化グラフェンとした。
【0150】
次に、試料Aの作製方法について詳細に説明する。まず、分散媒としてNMP(東京化成
工業株式会社製)を酸化グラフェン、リン酸鉄リチウム、及びPVDFの総量に対して、
60wt%用意し、NMPに酸化グラフェン、リン酸鉄リチウム、及びPVDFの総量の
酸化グラフェンを2wt%分散させた後、リン酸鉄リチウム(カーボンコートなし)を9
3wt%添加して固練りを行った。酸化グラフェンとリン酸鉄リチウムの混合物に、結着
剤としてPVDFを5wt%添加した後、分散媒としてNMPを添加して、混練すること
で正極ペーストを作製した。
【0151】
上述の方法で作製した正極ペーストを、集電体(膜厚20μmのアルミニウム)に塗布し
、大気雰囲気で、80℃で、40分乾燥させた後、減圧雰囲気で、170℃、10時間乾
燥させた。
【0152】
次に、試料Bの作製方法について詳細に説明する。まず、結着剤としてPVDFを5wt
%用意し、リン酸鉄リチウム(カーボンコートあり)を80wt%添加して混合した後に
、アセチレンブラック、リン酸鉄リチウム、及びPVDFの総量に対して、NMPを60
wt%加え、アセチレンブラック、リン酸鉄リチウム、及びPVDFの総量に対してアセ
チレンブラックを15wt%加えて固練りを行った。PVDFとリン酸鉄リチウムとアセ
チレンブラックの混合物に、さらにNMPを添加して、混練することで正極ペーストを作
製した。
【0153】
上述の方法で作製した正極ペーストを、集電体(膜厚20μmのアルミニウム)に塗布し
、減圧雰囲気で、135℃で、40分乾燥させた後、減圧雰囲気で、170℃、10時間
乾燥させた。
【0154】
得られた試料A、試料Bを集電体ごと円形に打ち抜き、これらを正極とし、金属リチウム
を負極、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合液(体
積比1:1)に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を溶解させたもの(濃度1mol
/L)を電解液、ポリプロピレンセパレータをセパレータとして用いて、それぞれ電池C
、電池D(比較例)を作製した。
【0155】
次に、電池C、電池Dの放電特性を測定し、その後、充電特性を測定した。なお、放電レ
ートは0.2C、充電レートは0.2Cとした。充電の終止条件は定電圧4.3V、0.
016C相当電流とした。
【0156】
図9に、電池Cの充放電特性を示す。横軸は、活物質重量当たりの容量[mAh/g]で
あり、縦軸は電圧[V]である。また、実線は、充電特性を示し、点線は放電特性を示し
ている。
【0157】
また、図10及び図11に、電池C及び電池Dの放電特性を示す。図10において、横軸
は、活物質重量当たりの放電容量[mAh/g]であり、縦軸は電圧[V]である。図1
1において、横軸は、電極体積当たりの放電容量[mAh/cm]であり、縦軸は、電
圧[V]である。また、図10及び図11において、菱形印は電池Cの放電特性を示し、
三角印は電池Dの放電特性を示す。
【0158】
図9の結果から、電池Cは、良好な充放電特性が得られることがわかった。また、図10
の結果から、活物質重量当たりでは、電池Cは、電池Dと比較して遜色ない放電容量が得
られることがわかった。また、図11の結果から、電極体積当たりでは、電池Cは、電池
Dよりも約20%放電容量が向上することがわかった。
【0159】
さらに、試料Aを集電体ごと円形に打ち抜くことで、正極を作製し、黒鉛を負極、エチレ
ンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合液(体積比1:1)に
六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を溶解させたもの(濃度1mol/L)を電解液
、ポリプロピレンセパレータをセパレータとして用いて、電池Eを作製した。
【0160】
次に、電池Eの充放電サイクル特性を評価した。サイクル特性は、充電及び放電を1サイ
クルとして、当該サイクルを543回行った。1回目の充電レート及び放電レートは、0
.2Cとし、2回目以降の充電レート及び放電レートは、1Cとした。また、1Cでのサ
イクルを200回行う毎に0.2Cで充放電を行った。
【0161】
図12に、電池Eの放電特性を示す。図12において、横軸は、活物質重量当たりの放電
容量[mAh/g]であり、縦軸は電圧[V]である。太い実線は、0.2Cのときの放
電特性を示し、細い実線は、1Cのときの放電特性を示す。
【0162】
図12の結果から、電池Eは、1Cにおける容量が、0.2Cにおける容量の80%以上
であり、良好なレート特性を示すことがわかった。
【0163】
図13に、電池Eのサイクル特性の結果を示す。図13において、横軸はサイクル数[回
]、縦軸は放電容量維持率[%]である。
【0164】
図13の結果から、電池Eは、500サイクルを超えても、ほぼ初期容量を維持できるこ
とが確認された。これにより、電池Eは、電池寿命が長くなることが判明した。
【0165】
電池の劣化の要因として、粒状の導電助剤が正極活物質から離れることで、抵抗が上昇す
ることが考えられる。しかし、本実施例のように、結着剤によって、シート状のグラフェ
ンが複数の正極活物質と接した状態を維持させることができたため、正極活物質とグラフ
ェンとの剥離を抑制できたと考えられる。これにより、抵抗の上昇を抑制し、電池の劣化
を抑制できたと考えられる。
【0166】
以上の結果から、本実施例に係る電池は、放電容量が向上し、サイクル特性が向上した電
池であることが確認された。
【符号の説明】
【0167】
100 正極
101 正極集電体
102 正極活物質層
103 正極活物質
104 グラフェン
300 二次電池
301 正極缶
302 負極缶
303 ガスケット
304 正極
305 正極集電体
306 正極活物質層
307 負極
308 負極集電体
309 負極活物質層
310 セパレータ
401 容器
402 酸化グラフェン分散液
403 被形成物
404 導電体
405 容器
406 電解液
407 導電体
408 対極
500 二次電池
501 正極集電体
502 正極活物質層
503 正極
504 負極集電体
505 負極活物質層
506 負極
507 セパレータ
508 電解液
509 筐体
8000 表示装置
8001 筐体
8002 表示部
8003 スピーカー部
8004 リチウムイオン二次電池
8100 照明装置
8101 筐体
8102 光源
8103 リチウムイオン二次電池
8104 天井
8105 側壁
8106 床
8107 窓
8200 室内機
8201 筐体
8202 送風口
8203 リチウムイオン二次電池
8204 室外機
8300 電気冷凍冷蔵庫
8301 筐体
8302 冷蔵室用扉
8303 冷凍室用扉
8304 リチウムイオン二次電池
9033 留め具
9034 スイッチ
9035 電源スイッチ
9036 スイッチ
9038 操作スイッチ
9630 筐体
9631 表示部
9631a 表示部
9631b 表示部
9632a 領域
9632b 領域
9633 太陽電池
9634 充放電制御回路
9635 バッテリー
9636 DCDCコンバータ
9637 コンバータ
9638 操作キー
9639 ボタン
9700 電気自動車
9701 リチウムイオン二次電池
9702 制御回路
9703 駆動装置
9704 処理装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14