【実施例】
【0054】
次に、本発明の具体的な実施例とその評価結果について述べる。
【0055】
(実施例1)
実施例1では、三接合型光電変換層の光入射面側に複数の触媒部9とそれらの間隙に配置された透明誘電体部10とで構成された第1の触媒層5を配置した光電気化学セル1を作製し、その特性を評価した。
図11は三接合型光電気化学セルの構造を示している。
【0056】
まず、pin型アモルファスシリコン(a−Si)201、および2種類のpin型アモルファスシリコンゲルマニウム(a−SiGe)202、203を有する三接合型の光電変換層200(厚さ500nm)、第1の電極としてITO層300(厚さ100nm)、第2の電極としてZnO層400(厚さ300nm)、Ag反射層410(厚さ200nm)、および支持基板としてステンレス基板600(厚さ1.5mm)を有する構造体を準備した。この構造体のステンレス基板上の各層は、光閉じ込め効果を得る目的で、サブミクロンオーダーのテクスチャー構造を有する。
【0057】
三接合型の光電変換層200は、第1の光電変換層201、第2の光電変換層202、および第3の光電変換層203で構成される。第1の光電変換層201、第2の光電変換層202、および第3の光電変換層203は、それぞれpin接合からなる光電変換層であり、それぞれ光の吸収波長が異なる。これら光電変換層201、202、203を平面状に積層することによって、太陽光の幅広い波長の光を吸収することができ、太陽光のエネルギーをより効率よく利用することが可能となる。その結果、光電変換層200で高い開放電圧を得ることができる。
【0058】
具体的には、第1の光電変換層201は光入射面から順に積層された、p型の微結晶シリコン(μc−Si)層211/真性(intrinsic)のアモルファスシリコン(a−Si)層212/n型のa−Si層213の積層体で構成されている。a−Si層212は、400nm程度の短波長領域の光を吸収する層である。第1光電変換層201においては、短波長領域の光エネルギーにより電荷分離が生じる。
【0059】
第2の光電変換層202は、光入射面から順に積層された、p型のμc−Si層221/真性のa−SiGe層222/n型のa−Si層223の積層体で構成されている。a−SiGe層222は、600nm程度の中間波長領域の光を吸収する層である。第2光電変換層202においては、中間波長領域の光エネルギーにより電荷分離が生じる。
【0060】
第3の光電変換層203は、光入射面から順に積層された、p型のμc−Si層231/真性のa−SiGe層232/n型のa−Si層233の積層体で構成されている。a−SiGe層232は、第2の光電変換層202で使用されたa−SiGe層222とは組成比が異なり、700nm程度の長波長領域の光を吸収する層である。第3の光電変換層203においては、長波長領域の光エネルギーにより電荷分離が生じる。実施例1で用いた構造体について、ソーラーシミュレータ(AM1.5、1000W/m
2)を用いて光照射を行った場合の開放電圧を測定した結果、開放電圧は2.1Vであった。
【0061】
次に、ITO層300上に触媒部501と透明誘電体部502の複合構造を形成した。まず、ITO層300上にスピンコート法により厚さ5μm程度のネガ型の感光性エポキシレジスト(SU−8 3005(商品名、日本化薬社製))を塗布した後、ホットプレート上でプリベーク処理を行った。感光性エポキシレジストは、永久レジストとして使用され、透明誘電体部502となる。
【0062】
次いで、マスクを用いたi線露光装置による露光および現像処理を行うことによって、ITO層300上のエポキシ樹脂層に開口部を設けた。エポキシ樹脂層を熱硬化させるためにオーブン中でキュアし、さらに触媒の電着時に均一に触媒層を形成するために、親水化の目的でアッシングを行った。この後、電着法により水の酸化触媒としてNi(OH)
2触媒をITO層300の露出部に形成した。触媒層の膜厚は100nmとした。
【0063】
実施例1で形成した触媒/透明誘電体の複合構造は、直径20μmの触媒部を三角格子状に配列した形状を有する。触媒部の中心と隣り合う触媒部の中心を結んだ距離の平均値は34.5μmであった。触媒層の面積率(光入射面側から見た光照射面における触媒部の占める割合)は30%であった。同様の方法でガラス基板上に作製した触媒/透明誘電体の複合構造の太陽光に対する透過率を評価したところ、75%程度であった。太陽光の透過率は、分光光度計により波長(λ)が300〜1000nmまでの光透過率t(λ)を測定した後、既知の太陽光スペクトルI(λ)を用いた計算(太陽光透過率T=Σt(λ)×I(λ)/ΣI(λ))により算出した。
【0064】
続いて、ステンレス基板600の裏面に還元触媒として、水素発生触媒のPt膜(厚さ1000nm)を真空スパッタ法により成膜した。この後、セルを正方形状に切り出し、エッジ部分を熱硬化性エポキシ樹脂で封止することによって、光照射面の露出部分の面積が1cm
2になるようにした。
【0065】
(比較例1−1)
セルのITO層全面に薄膜状のNi(OH)
2触媒のみを形成する以外は、実施例1と同一の構造を有するセルを準備した。Ni(OH)
2触媒の厚さは15nmであった。
【0066】
(比較例1−2)
Ni(OH)
2触媒層の厚さを30nmにする以外は、比較例1−1と同一の構造を有するセルを準備した。
【0067】
(比較例1−3)
Ni(OH)
2触媒層の厚さを45nmにする以外は、比較例1−1と同一の構造を有するセルを準備した。
【0068】
上述した実施例1および比較例1のセルによる光電気化学反応の効率を測定した。光電気化学反応の効率は、以下のようにして測定した。まず、1M−NaOHの強アルカリ溶液を電解液として含む閉鎖系の電解液槽中にセルを浸漬させた。この際、セル周辺部に陽イオン交換膜(ナフィオン(商品名、デュポン社製))を、エポキシ樹脂を用いて
図8のように貼り付けることによって、酸化側と還元側に溶液を二分した。
【0069】
次に、酸化触媒層面にソーラーシミュレータ(AM1.5、1000W/m
2)を用いて光を照射した。一定時間毎に電解液槽中のガスの定量分析をガスクロマトグラフィー分析(GC)にて行った。分析の結果、同定されたガス種は酸化側では酸素、還元側では水素であった。評価は、光照射開始から水素の発生が確認されなくなるまでの時間を耐久時間、光照射開始から耐久時間までの水素発生量の単位時間当たりの平均値を生成効率とした。耐久時間に生成効率を乗じたものを生成量とした。比較例1−1のセルでの耐久時間および生成効率を1として、各セルの耐久時間と生成効率を比較例1−1に対する相対値として算出した。それら結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
表1から明らかなように、比較例1−1、1−2、1−3のように受光面全面に薄膜状の触媒を形成した光電気化学セルでは、触媒層の膜厚が厚くなるに伴って耐久時間が向上する。比較例1−1は、触媒層の膜厚が薄すぎ、ITO面が均一に触媒層で被覆されていないため、耐久時間が短かった。ただし、効率は触媒層が厚くなるにしたがって光損失が生じるために低下し、耐久時間と効率はトレードオフの関係となる。
【0072】
実施例1では、比較例1−1〜3よりも十分に厚い触媒層と耐食性に優れる透明誘電体層の複合構造を用いているため、電解液による腐食を抑制することができる。実施例1の耐久時間は、比較例1−1の6倍の向上が認められた。実施例1では、触媒層をパターニングして光の受光面を確保できるため、効率も比較的1−2や比較的1−3と比べて高かった。結果として、生成量で比較した場合、実施例1のセルは比較例1−1と比べて5倍程度の水素の生成が可能であることが確認された。
【0073】
(実施例2)
実施例2では、触媒/透明誘電体の複合構造における触媒部の面積率が異なる8種類の光電気化学セルを作製して評価した。セルの作製方法は、実施例1と同様とした。この際、感光性エポキシ樹脂の露光時に用いるマスクパターンを任意に変えることによって、実施例2−1〜2−8のセルで径の異なる開口部パターンを有する透明誘電体部を形成した。その後、開口部に500nmのNi(OH)
2触媒層を形成した。触媒/透明誘電体の複合構造は、三角格子状とした。触媒部間の平均距離は、100μmであった。触媒部の径を変えることにより面積率を制御した。還元触媒は、実施例1と同様とした。
【0074】
セルの評価は、実施例1と同様の手法により行った。表2に評価結果を示す。各セルに形成した複合構造と同様の構造をガラス基板上に形成した際に測定した太陽光透過率を併せて示す。表2から明らかなように、触媒/透明誘電体の複合構造において触媒部の面積率を変化させた場合、耐久時間は触媒/透明誘電体の複合構造を適用することで一定の効果が得られており、ほとんど影響しない。一方、生成効率に関しては、触媒部の面積率が低いほど触媒/透明誘電体における光透過量が高くなり、得られる効率が向上することがわかる。しかしながら、触媒部の面積率が5%未満になると、触媒効果が得られる反応過電圧が増大するため、生成効率は急激に減少した。
【0075】
【表2】
【0076】
(実施例3)
実施例3では、触媒/透明誘電体の複合構造において触媒層の高さの異なる光電気化学セルを作製して評価した。実施例1と同様の構造体を準備し、実施例1と同様に、感光性エポキシ樹脂をITO層上に塗布し、露光・現像処理により感光性エポキシ樹脂層にライン状の開口部を設けた。感光性エポキシ樹脂の厚さは1μmとした。その後、開口部に電着法により水酸化触媒として酸化コバルト層を形成した。1μmより厚い触媒層を形成する場合は、感光性エポキシ樹脂層を形成する触媒層の厚さより十分に厚い膜厚に塗布した後、露光・現像処理による開口パターンの形成および電着による触媒層の形成を行った。最後に、酸素と四フッ化炭素(CF
4)の混合ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)により感光性エポキシ樹脂層のみを厚さ1μmになるまでエッチングした。
【0077】
実施例3で作製した触媒/透明誘電体の複合構造は、
図2のように触媒部が線幅20μmのラインパターンで、格子状に配置されたパターンとした。透明誘電体は102μm辺の正方形に触媒パターンで分割されていた。触媒部の面積率は30%であった。続いて、SUS基板の裏面に還元触媒層としてCO
2還元触媒のAu膜(厚さ1000nm)を真空スパッタ法により成膜した。次に、セルを正方形状に切り出して、エッジ部分を熱硬化性エポキシ樹脂で封止し、光照射面の露出部分の面積が1cm
2になるようにした。
【0078】
(比較例3−1)
セルのITO面上に薄膜状の酸化コバルト触媒のみを形成する以外は、実施例3と同一の構造を有するセルを準備した。酸化コバルト触媒の厚さは10nmであった。
【0079】
(比較例3−2)
酸化コバルト触媒層の厚さを50nmにする以外は、比較例3−1と同一の構造を有するセルを準備した。
【0080】
上述した実施例3および比較例3のセルによる光電気化学反応の効率を測定した。光電気化学反応の効率は、以下のようにして測定した。まず、CO
2ガスを60分間バブリングした0.1M−KHCO
3溶液を含む閉鎖系の電解液槽中にセルを浸漬させた。この際、実施例1と同様に、セル周辺部にエポキシ樹脂を用いて陽イオン交換膜を貼り付けることによって、酸化側と還元側に溶液を二分した。次に、酸化側触媒層面にソーラーシミュレータ(AM1.5、1000W/m
2)を用いて照射した。その後、電解液槽中のガスの定量分析を一定時間の毎にGCにて行った。分析の結果、同定されたガス種は酸素、水素、一酸化炭素であった。発生した一酸化炭素はCO
2還元に由来する。
【0081】
評価は、光照射開始からCOの発生が確認されなくなるまでの時間を耐久時間とした。光照射開始から耐久時間までのCO発生量の単位時間当たりの平均値を生成効率とした。耐久時間に生成効率を乗じたものを生成量とした。比較例3−1のセルでの耐久時間および生成効率を1として、各セルの耐久時間と生成効率を比較例3−1に対する相対値として算出した。それら結果を表3に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
表3から明らかなように、触媒/透明誘電体の複合構造における触媒層の厚さを変化させた場合、触媒層が厚くなるほど触媒活性が向上するため、得られる効率も高くなる。ただし、触媒層の厚さが十分に厚い場合、光電変換層から流れる電子または正孔の移動の損失(抵抗損)が生じるため、触媒部の活性は一定の高さを超えると大きくは変わらない。
【0084】
(実施例4)
実施例4では、触媒部間の距離が異なる触媒/透明誘電体の複合構造を有する光電気化学セルを作製して評価した。実施例1と同様の構造体を準備した。次に、ITO層上に触媒/透明誘電体の複合構造を形成した。ITO層上にレジスト層をスピンコートにより塗布した。次に、i線または電子線による露光処理を行い、続いて現像処理を行うことによって、レジスト層に開口パターンを形成した。続いて、レジスト層の開口部に電着により水酸化触媒として1μmの酸化コバルトを形成した。その後、レジスト層のみを有機溶剤を用いて剥離し、透明誘電体層としてフッ素樹脂(サイトップ(商品名、旭硝子社製))を触媒層上に塗布した。最後に、酸素とCF
4の混合ガスを用いたRIE処理を行うことによって、触媒層が露出するまで透明誘電体層を選択エッチングし、触媒/透明誘電体の複合構造をITO層上に形成した。
【0085】
実施例4で作製した触媒/透明誘電体の複合構造は、ドット状の触媒部が三角格子状に配列したパターンを有していた。触媒部の面積率は全て15%とし、触媒部の直径および触媒部間の距離を変化させた。続いて、SUS基板の裏面に還元触媒層としてCO
2還元触媒のAg膜(厚さ1000nm)を真空蒸着法により成膜した。次に、セルを正方形状に切り出して、エッジ部分を熱硬化性エポキシ樹脂で封止し、光照射面の露出部分の面積が9cm
2になるようにした。
【0086】
(比較例4−1)
セルのITO面上に薄膜状の酸化コバルト触媒のみを形成する以外は、実施例4と同一の構造を有するセルを準備した。酸化コバルト触媒の厚さは10nmであった。
【0087】
(比較例4−2)
酸化コバルト触媒層の厚さを50nmにする以外は、比較例4−1と同一の構造を有するセルを準備した。
【0088】
上述した実施例4および比較例4のセルによる光電気化学反応の効率を測定した。光電気化学反応の効率は、以下のようにして測定した。まず、CO
2ガスを60分間バブリングした0.1M−NaHCO
3溶液を含む閉鎖系の電解液槽中にセルを浸漬させた。この際、実施例1と同様に、セル周辺部にはエポキシ樹脂を用いて陽イオン交換膜を貼り付けることによって、酸化側と還元側に溶液を二分した。次に、酸化側触媒層面にソーラーシミュレータ(AM1.5、1000W/m
2)を用いて照射した。その後、電解液槽中のガスの定量分析を一定時間の毎にGCにて行った。分析の結果、同定されたガス種は酸素、水素、一酸化炭素であった。発生した一酸化炭素はCO
2還元に由来する。
【0089】
評価は、光照射開始からCOの発生が確認されなくなるまで時間を耐久時間とした。光照射開始から耐久時間までのCO発生量の単位時間当たりの平均値を生成効率とした。耐久時間に生成効率を乗じたものを生成量とした。比較例4−1のセルでの耐久時間および生成効率を1として、各セルの耐久時間と生成効率を比較例4−1に対する相対値として算出した。それら結果を表4に示す。
【0090】
【表4】
【0091】
表4から明らかなように、触媒/透明誘電体の複合構造を有する光電気化学セルにおいて、触媒部間の距離がより短いほど高い効率が得られることが分かる。これは触媒部間の距離が長いとITO層をキャリアが移動する距離が長くなるため、ITOによる抵抗損により効率の低下を招くためである。
【0092】
(実施例5)
実施例5では、光電気化学セルの光入射面に還元触媒層が配置されるセルを作製して評価した。まず、InGaP層、InGaAs層、およびGe層からなるpn接合型の三接合光電変換層、光電変換層の入射面上に形成されたITO透明導電膜、光電変換層の裏面上に形成されたAu電極を有する構造体を準備した。
【0093】
三接合光電変換層の詳細な構成は、光入射面側よりn−InGaAs(コンタクト層)/n−AlInP(窓層)/n−InGaP/p−InGaP/p−AlInP(Back Surface Field(BSF)層)/p−AlGaAs (トンネル層)/p−InGaP(トンネル層)/n−InGaP(窓層)/n−InGaAs/p−InGaP(BSF層)/p−GaAs(トンネル層)/n−GaAs(トンネル層)/n−InGaAs/p−Ge(基板)である。
【0094】
次に、ITO層上にインクジェット法により透明誘電体層として厚さ50μmのエポキシ樹脂を開口部を有するパターン状に塗布した。次いで、電解めっきにより開口部中にCO
2還元触媒として厚さ1μmのAuを形成した。実施例5で形成した触媒/透明誘電体の複合構造は、触媒部がライン状で格子状に配置されたパターンを有していた。Au層の線幅は5.9μmで格子状に配置され、透明誘電体層が50μm辺の正方形に触媒層で分割されたパターンであり、その面積率は20%であった。
【0095】
次に、SUS基板を準備して、その上に水酸化触媒としての酸化ルテニウム膜をスパッタ法により成膜した。この酸化ルテニウム/SUS基板が対極として使用される。続いて、セルおよび対極を4cm
2の正方形に切り出した後。銅線を用いてSUS基板と光電変換層裏面のAu電極層を電気的に接続した。最後に、触媒/透明誘電体の複合構造面および酸化触媒面のみが電解液に露出するように、エポキシ樹脂により封止した。
【0096】
(比較例5−1)
セルのITO面上に薄膜状のAu触媒のみを形成する以外は、実施例5と同一の構造を有するセルを準備した。Au触媒の厚さは5nmであった。
【0097】
(比較例5−2)
Au触媒層の厚さを10nmにする以外は、比較例5−1と同一の構造を有するセルを準備した。
【0098】
次に、作製した光電気化学セルを、CO
2ガスを60分間バブリングした0.1M−KHCO
3溶液を含む閉鎖系の電解液槽中に浸漬した。この際、還元触媒部と酸化触媒部を陽イオン交換膜(ナフィオン)により隔てて二分した。次に、還元触媒層面にソーラーシミュレータ(AM1.5、1000W/m
2)を用いて光を照射した。その後、電解液槽中のガスの定量分析を一定時間毎にGCにて行った。分析の結果、還元触媒側で同定されたガス種は水素と一酸化炭素であった。
【0099】
測定の結果、実施例5では比較例5−1および5−2と比べて、効率、耐久時間、およびCOの生成量が高いことが確認された。実施例5で比較例5−1、5−2に対して高い効率が得られた理由は、比較例5では光入射面全面に金属触媒が形成されるために光損失の高くなるためである。比較例は、実施例の構造に比べて効率が低くなる。
【0100】
(実施例6−1)
光電変換層として実施例1と同様の構造体を準備した。次に、SUS基板の裏面にスパッタ法により厚さ1μmの水素発生触媒として白金膜を形成した。続いて、厚さ50μmの感光性エポキシ樹脂をITO層上に塗布し、露光・現像処理により感光性エポキシ樹脂層にドット状の開口部を設けた。その後、開口部に電解めっきにより導電層としてニッケルを50μmの厚さで形成した。続いて、O
2とCF
4の混合ガスを用いたRIE処理により感光性エポキシ樹脂層のみを厚さ5μmになるまでエッチングした。この際、ニッケル層は円柱状の形をしていた。
【0101】
続いて、電着法により露出するニッケル層表面に酸化触媒としての厚さ20nmの水酸化コバルト触媒を形成した。光入射面からみた触媒/透明誘電体のパターンは、触媒部がドット状で三角格子の配列パターンであった。この際の触媒部の面積率は10%であった。次に、セルを正方形状に切り出して、エッジ部分を熱硬化性エポキシ樹脂で封止し、光照射面の露出部分の面積が1cm
2になるようにした。
【0102】
(実施例6−2)
実施例6−2においては、ニッケル層を電解めっきで形成するまでは実施例6−1と同様とし、その後のO
2とCF
4の混合ガスを用いたRIE処理で感光性エポキシ樹脂層が5.5μmになるまでエッチングした。次いで、アルゴンプラズマのみを用いたRIE処理を行うことで、ニッケルピラー部を先鋭化してテーパー状にした。次いで、O
2とCF
4の混合ガスを用いたRIE処理を再度行い、感光性エポキシ樹脂層が厚さ5μmになるまでエッチングした。その後、ニッケル層表面に電着により厚さ20nmの水酸化コバルト触媒を形成し、実施例6−1と同様にして1cm
2のセルを作製した。
【0103】
(実施例6−3)
【0104】
実施例6−1と同様の構造体を準備し、SUS基板の裏面にスパッタ法により1μmのPt膜を形成した。続いて、ITO面上に厚さ5μmの感光性エポキシ樹脂を塗布し、露光・現像処理によりドット状の開口部を設けた。開口部中に電着により厚さ20nmの水酸化コバルト触媒を形成し、実施例6−1と同様にして1cm
2のセルを作製した。
【0105】
光電気化学反応の効率は、以下のようにして測定した。まず、リン酸緩衝液(pH=6.7)を電解液として含む閉鎖系の電解液槽中にセルを浸漬させた。この際、セル周辺部にはエポキシ樹脂を用いて陽イオン交換膜を貼り付け、これにより酸化側と還元側に溶液を二分した。次に、実施例1と同様の評価を行った。この際、実施例6−3の耐久時間および生成効率を1としたときの各セルの相対値を算出した。結果を表5に示す。
【0106】
【表5】
【0107】
表5から明らかなように、導電層を有する実施例6−1、6−2は、実施例6−3よりも耐久時間が長くなる。これは、実施例6−3において触媒層から電解液の腐食が生じるのに対して、導電層を導入することでより耐久性の向上が得られるためである。さらに、実施例6−1、6−2は、実施例6−3よりも触媒層の高さが高いために効率が高くなる。特に、実施例6−2は最も効率が高い。これは、導電層をテーパー状にすることによって、光の利用効率が高くなるためである。
【0108】
(実施例7)
実施例7では、透明誘電体層として無機材料の陽極酸化アルミニウム膜を有する光電気化学セルを作製して評価した。まず、光電変換層として実施例1と同様のpin型のa−Si/a−SiGe/a−SiGeからなる三接合型の光電変換層(厚さ500nm)、光電変換層上の透明導電膜としてITO電極(厚さ100nm)、光電変換層下面の電極層としてZnO電極(厚さ300nm)を有し、電極層下面にAg反射層(厚さ200nm)および支持基板としてSUS基板(厚さ1.5μm)を有する構造体を準備した。
【0109】
次に、ITO層上にスパッタリング法により厚さ500μmのAl膜を形成した。次いで、0.3mol/Lのシュウ酸溶液(15℃)中にて40Vで1段階目の陽極酸化を行った。続けて2段階目の陽極酸化を同一の条件で行い、ITO基板上にドット状の開口部を有するポーラスなアルミナ層を形成した。次に、水酸化カリウムによるエッチングを行うことによって、開口部中に存在するアルミナ層を除去してITO層を露出させた。形成したポーラスアルミナの開口部は、三角格子状に配置され、平均直径は50nm、平均開口部間距離は100nmであった。
【0110】
その後、原子層堆積法(ALD)により酸化触媒としての酸化コバルト触媒をポーラスアルミナの開口部中に充填されるまで成膜した。その後、Arイオンミリングによりポーラスアルミナ層上に成膜された酸化コバルト触媒を除去した。この際の酸化コバルト触媒とアルミナ層の複合構造の厚さは300nmであった。続いて、SUS基板の裏面に還元触媒層としてCO
2還元触媒のAu膜(厚さ1000nm)を真空蒸着法により成膜した。次に、セルを正方形状に切り出して、エッジ部分を熱硬化性エポキシ樹脂で封止し、光照射面の露出部分の面積が1cm
2になるようにした。
【0111】
(比較例7−1)
セルのITO層上に薄膜状の酸化コバルト触媒のみを形成する以外は、実施例7と同一の構造を有するセルを準備した。酸化コバルト触媒の厚さは10nmであった。
【0112】
(比較例7−2)
酸化コバルト触媒層の厚さを50nmにする以外は、比較例7−1と同一の構造を有するセルを準備した。
【0113】
作製した光電気化学セルの特性を実施例3と同様にして評価した。評価の結果、実施例7のセルは比較例7−1、7−2と比較して耐久時間が長く、また生成量も多かった。
【0114】
(実施例8)
実施例8では、導電部と触媒部との積層部間の間隙に透明誘電体部を配置した触媒層を有する光電気化学セルを作製して評価した。まず、実施例1と同様に、ITO電極(厚さ100nm)、pin型のa−Si/a−SiGe/a−SiGeからなる三接合型の光電変換層(厚さ500nm)、ZnO電極(厚さ300nm)、Ag反射層(厚さ200nm)、およびSUS基板(厚さ1.5μm)を有する構造体を準備した。
【0115】
次に、ITO層上に原子層堆積法により厚さ10nmのTiN膜を導電膜として形成した。TiN膜上に複数の触媒部を所定の間隙を持って配置した。複数の触媒部は以下のようにして形成した。TiN膜上にスピンコートにより厚さ5μm程度のポジ型レジストを塗布した後、ホットプレート上でプリベーク処理を行った。マスクを用いたi線露光装置による露光および現像処理を行うことによって、レジスト層に複数の開口部を設けた。触媒層の電着時における均一性を高めるために、親水化の目的でアッシングを行った。硝酸ニッケルを用いた電着法によって、水の酸化触媒としてNi(OH)
2触媒をマスクの開口部(ITO層の露出部)に形成した。有機溶媒を用いてレジスト層を剥離することによって、間隙部を有する触媒部(触媒層)を形成した。
【0116】
触媒部(触媒層)の厚さは200nmとした。触媒部と導電部の積層部の形状は直径20μmとし、そのような積層部を三角格子状に配列した。積層部(触媒部)の中心と隣り合う積層部(触媒部)の中心を結んだ距離の平均値は34.5μmであった。積層部(触媒部)の面積率(光入射面側から見た光照射面における触媒部の占める割合)は30%であった。同様の方法で、ITO膜付きガラス基板上に作製した積層部(触媒部)の太陽光に対する透過率を評価したところ、72%程度であった。太陽光の透過率は、実施例1に示した方法により算出した。
【0117】
次いで、TiN膜の積層部(触媒部)間に露出する部分を酸化処理した。酸化処理は陽極酸化により実施した。1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液中に作用極として試料を、参照極としてHg/HgO(1M−NaOH)を、対極として白金ワイヤーを浸漬することにより陽極酸化を行った。電解液に浸漬させる際に、試料の光入射面のみが露出するようにカプトンテープで保護した。事前にサイクリックボルタメトリー法によりTiNの酸化が+0.75V(参照極比較)より高い電位で生じることを確認した。TiN膜の陽極酸化は+1.5V(参照極比較)で10分間行った。X線光電子分光法(XPS)による解析の結果、陽極酸化処理前のTiN膜中の酸素量は5原子%程度であったのに対して、処理後は酸素量が95原子%程度まで増加していることを確認した。
【0118】
続いて、SUS基板の裏面に還元触媒として水素発生触媒のPt膜(厚さ500nm)を真空スパッタ法により成膜した。この後、セルを正方形状に切り出し、エッジ部分を熱硬化性エポキシ樹脂で封止し、光照射面の露出部分の面積が1cm
2になるようにした。
【0119】
(比較例8−1)
TiN膜およびTiNの酸化被膜を形成することなく、セルのITO層全面に薄膜状のNi(OH)
2触媒のみを形成する以外は、実施例8と同一の構造を有するセルを準備した。Ni(OH)
2触媒の厚さは15nmであった。
【0120】
(比較例8−2)
Ni(OH)
2触媒層の厚さを30nmにする以外は、比較例8−1と同一の構造を有するセルを準備した。
【0121】
(比較例8−3)
Ni(OH)
2触媒層の厚さを45nmにする以外は、比較例8−1と同一の構造を有するセルを準備した。
【0122】
(比較例8−4)
TiN膜およびTiNの酸化被膜を形成することなく、セルのITO層上に実施例8と同様な間隙を有するNi(OH)
2触媒を形成する以外は、実施例8と同一の構造を有するセルを準備した。
【0123】
上述した実施例8および比較例8−1〜4のセルによる光電気化学反応の効率を測定した。光電気化学反応の効率は、以下のようにして測定した。まず、1M−NaOHの強アルカリ溶液を電解液として含む閉鎖系の電解液槽中にセルを浸漬させた。この際、セル周辺部に陽イオン交換膜(ナフィオン(商品名、デュポン社製))を、エポキシ樹脂を用いて貼り付けることによって、槽内の電解液を酸化側と還元側に二分した。
【0124】
次に、酸化触媒層面側(ITO面側)にソーラーシミュレータ(AM1.5、1000W/m
2)を用いて光照射した。一定時間毎に電解液槽中のガスの定量分析をガスクロマトグラフィー分析(GC)にて行った。分析の結果、同定されたガス種は酸化側では酸素、還元側では水素であった。評価は、光照射開始から水素の発生が確認されなくなるまでの時間を耐久時間、光照射開始から耐久時間までの水素発生量の単位時間当たりの平均値を生成効率とした。耐久時間に生成効率を乗じたものを生成量とした。比較例8−1のセルでの耐久時間および生成効率を1として、各セルの耐久時間と生成効率を比較例8−1に対する相対値として算出した。それら結果を表6に示す。
【0125】
【表6】
【0126】
表6から明らかなように、比較例8−1、8−2、8−3のように受光面全面に薄膜状の触媒を形成した光電気化学セルでは、触媒層の膜厚が厚くなるに伴って耐久時間が向上する。比較例8−1では触媒層の膜厚が薄すぎ、ITO面が均一に触媒層で被覆されていないため、耐久時間が短かった。効率は触媒層が厚くなるにしたがって光損失が生じるために低下する。比較例8−4のようにITO面上に触媒部のみを配列した光電気化学セルでは、効率が高い反面、露出するITO膜部分から腐食が生じるために耐久時間が短い。
【0127】
実施例8では、導電層と触媒層との積層膜と耐食性に優れる金属酸化被膜との複合構造を用いているため、電解液による腐食が抑制され、耐久時間は比較例8−1の4倍の向上が認められた。触媒層をパターニングして光の受光面を確保しているため、効率も比較的8−2、8−3と比べて高かった。結果として、生成量で比較した場合、実施例8のセルは比較例8−1と比べて3.2倍程度の水素の生成量が得られることが確認された。
【0128】
(実施例9)
実施例9では、光電気化学セルの光入射面にライン状の還元触媒層を配置したセルを作製して評価した。まず、InGaP層、InGaAs層、およびGe層からなるpn接合型の三接合光電変換層、光電変換層の入射面上に形成されたITO透明導電膜、光電変換層の裏面上に形成されたAu電極を有する構造体を準備した。三接合光電変換層の詳細な構成は、実施例5と同様とした。
【0129】
ITO層上に導電膜として厚さ500nmのAl膜を真空スパッタ法により形成した。実施例8と同様にリソグラフィー法により開口部を有するレジストパターンをAl膜上に形成した。次いで、開口部内にCO
2還元触媒としての厚さ1μmのAu膜を真空蒸着法により形成し、レジストを除去してリフトオフすることによって、Al膜上にライン状のAu触媒層を形成した。Au触媒層の線幅は5.5μmとし、これを格子状に配置した。Al膜を一辺が100μmの正方形にAu触媒層で分割した。ほう酸アンモニウム水溶液中で作用極として試料(セル)を、対極として白金ワイヤーを浸漬し、Au触媒層間に露出するAl膜が完全に酸化されるまで陽極酸化を行った。この際、カプトンテープを用いてセルの光入射面のみが露出するように保護した。
【0130】
次に、SUS基板を準備して、その上に水酸化触媒としての酸化ルテニウム膜をスパッタ法により成膜した。この酸化ルテニウム/SUS基板が対極として使用される。続いて、セルおよび対極を4cm
2の正方形に切り出した後。銅線を用いてSUS基板と光電変換層裏面のAu電極層を電気的に接続した。最後に、セルの光入射面および酸化触媒面のみが電解液に露出するように、エポキシ樹脂により封止した。
【0131】
(比較例9−1)
セルのITO面上に薄膜状のAu触媒層のみを形成する以外は、実施例9と同一の構造を有するセルを準備した。Au触媒層の厚さは5nmであった。
【0132】
(比較例9−2)
Au触媒層の厚さを10nmにする以外は、比較例9−1と同一の構造を有するセルを準備した。
【0133】
(比較例9−3)
Al膜を形成することなく、セルのITO層上に実施例9と同様な間隙を有するAu触媒層を形成する以外は、実施例9と同一の構造を有するセルを準備した。
【0134】
次に、作製した光電気化学セルを、CO
2ガスを60分間バブリングした0.1M−KHCO
3溶液を含む閉鎖系の電解液槽中に浸漬した。この際、還元触媒部と酸化触媒部を陽イオン交換膜(ナフィオン)により隔てて二分した。次に、還元触媒層面にソーラーシミュレータ(AM1.5、1000W/m
2)を用いて光を照射した。その後、電解液槽中のガスの定量分析を一定時間毎にGCにて行った。分析の結果、還元触媒側で同定されたガス種は水素と一酸化炭素であった。
【0135】
上述した測定の結果、実施例9では比較例9−1および9−2と比べて効率、耐久時間、およびCOの生成量が高いことが確認された。実施例9で比較例9−1、9−2に対して高い効率が得られた理由は、比較例では光入射面全面に金属触媒が形成されるために光損失が高くなるためである。実施例9のセルは、比較例9−3に対して効率が同程度であるものの、耐久時間が高かった。その結果として、CO生成量も高い結果が得られた。これは、実施例9においては触媒層直下の導電層および酸化被膜が電解液に対して耐食性を有するため、耐久時間が向上したためと考えられる。
【0136】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。