特許第6239733号(P6239733)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6239733光電気化学セル、光電気化学セルの製造方法、および光電気化学反応装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239733
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】光電気化学セル、光電気化学セルの製造方法、および光電気化学反応装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/00 20060101AFI20171120BHJP
   C25B 11/02 20060101ALI20171120BHJP
   C25B 11/04 20060101ALI20171120BHJP
   C25B 11/06 20060101ALI20171120BHJP
   C25B 1/10 20060101ALI20171120BHJP
   C25B 1/00 20060101ALI20171120BHJP
   C25B 3/04 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   C25B9/00 Z
   C25B11/02
   C25B11/04 Z
   C25B11/06 A
   C25B1/10
   C25B1/00 Z
   C25B3/04
   C25B9/00 A
   C25B9/00 G
【請求項の数】15
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2016-509971(P2016-509971)
(86)(22)【出願日】2015年3月6日
(86)【国際出願番号】JP2015001215
(87)【国際公開番号】WO2015146012
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2016年8月25日
(31)【優先権主張番号】特願2014-59594(P2014-59594)
(32)【優先日】2014年3月24日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-103188(P2014-103188)
(32)【優先日】2014年5月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北川 良太
(72)【発明者】
【氏名】菅野 義経
(72)【発明者】
【氏名】黄 静君
(72)【発明者】
【氏名】堤 栄史
(72)【発明者】
【氏名】田村 淳
(72)【発明者】
【氏名】小野 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】工藤 由紀
(72)【発明者】
【氏名】御子柴 智
【審査官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−288955(JP,A)
【文献】 特開2000−058885(JP,A)
【文献】 特表2005−532472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00−15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面と第2の面とを有する光電変換層と、
前記光電変換層の前記第1の面上に設けられた第1の電極と、
前記第1の電極上に配置された複数の触媒部と、前記複数の触媒部間の間隙に配置された透明誘電体部とを備える第1の触媒層と、
前記光電変換層の前記第2の面上に設けられた第2の電極と、
前記第2の電極と電気的に接続された第2の触媒層と
を具備する光電気化学セル。
【請求項2】
前記第1の触媒層は、さらに前記第1の電極上に配置された導電部を備え、前記触媒部は前記導電部上に設けられている、請求項1に記載の光電気化学セル。
【請求項3】
前記導電部はテーパー形状を有し、前記触媒部は前記テーパー形状の導電部の表面に沿って設けられている、請求項2に記載の光電気化学セル。
【請求項4】
前記導電部は、金属、前記金属を含む合金、および前記金属を含む導電性化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つを含有し、
前記触媒部は、前記導電部上に設けられており、
前記透明誘電体部は、前記金属を含む絶縁性化合物を含有する、請求項2に記載の光電気化学セル。
【請求項5】
前記導電部は、前記金属または前記金属の窒化物からなり、
前記透明誘電体部は、前記金属の酸化物からなる、請求項4に記載の光電気化学セル。
【請求項6】
前記透明誘電体部は、10nm以上1mm以下の厚さを有する、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の光電気化学セル。
【請求項7】
前記触媒部は、金属および金属酸化物の少なくとも一方を含む、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の光電気化学セル。
【請求項8】
前記第1の電極は、透光性を有する導電膜を備える、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の光電気化学セル。
【請求項9】
前記触媒部は、ドット状または線状の平面形状を有する、請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の光電気化学セル。
【請求項10】
前記複数の触媒部は、前記間隙が10nm以上2mm以下となるように配置されている、請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の光電気化学セル。
【請求項11】
前記第1および第2の触媒層の一方で酸化反応が生起され、前記第1および第2の触媒層の他方で還元反応が生起される、請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の光電気化学セル。
【請求項12】
請求項1に記載の光電気化学セルの製造方法であって、
前記光電変換層の前記第1の面上に設けられた前記第1の電極上に複数の前記触媒部を配置すると共に、前記複数の触媒部間の間隙に透明誘電体部を配置することにより、前記触媒部と前記透明誘電体部とを備える前記第1の触媒層を形成する工程と、
前記光電変換層の前記第2の面上に設けられた前記第2の電極と電気的に接続された第2の触媒層を形成する工程と
を具備する光電気化学セルの製造方法。
【請求項13】
前記第1の触媒層の形成工程は、
金属、前記金属を含む合金、および前記金属を含む導電性化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つを含有する導電膜を形成する工程と、
前記導電膜上に複数の触媒部を配置する工程と、
前記導電膜の前記複数の触媒部間に露出する部分を選択的に酸化することにより、前記透明誘電体部を形成する工程と
を具備する、請求項12に記載の光電気化学セルの製造方法。
【請求項14】
電解液が収容された電解槽と、
前記電解槽内に配置され、前記電解液中に浸漬された、請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載の光電気化学セルと
を具備する光電気化学反応装置。
【請求項15】
前記電解槽は、前記光電気化学セルにより二室に分離されており、かつイオン交換膜を含むイオン移動経路を備える、請求項14に記載の光電気化学反応装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、光電気化学セルとその製造方法、およびそれを用いた光電気化学反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー問題や環境問題の観点から、植物の光合成を模倣して人工的に太陽エネルギーから貯蔵可能な化学エネルギー源を作り出す人工光合成技術が注目されている。人工光合成技術においては、半導体を使用した光電変換層と酸化触媒層と還元触媒層とを有する光電気化学セルを用いることが検討されている。光電気化学セルによれば、光吸収および電荷分離に優れた半導体層を用いることにより高い効率が得られている。光電変換層の両側に酸化触媒層と還元触媒とを配置したモノリシック構造の光電気化学セルは、配線が不要の構造を有するために、配線抵抗による効率低下がなく、大型化が容易であると共に、製造コストが安いといった特徴を有している。
【0003】
半導体を用いた光電変換層を備える光電気化学セルは、電解液中に浸漬されて使用されるため、電解液により半導体層が腐食するおそれがある。例えば、光電変換層の受光面側に形成する触媒層は、光透過性を考慮して島状または薄膜状に形成される。島状の触媒層を有する光電気化学セルでは、光電変換層への入射光量が高いものの、露出面が存在するために耐久性が低下する。薄膜状の触媒層を有する光電気化学セルでは、露出面が存在しないために耐久性が高くなる反面、触媒層で光損失が生じるために効率が低下する。従来のセル構造においては、効率と耐久性がトレードオフの関係にある。
【0004】
従来の光電気化学セルでは、耐久性(耐腐食性)の向上策として、光電変換層上に耐食性を有する透明導電膜を形成したり、あるいは酸化チタンや酸化タングステン等からなる光触媒層を形成することによって、半導体層が直接電解液と接触することを防止することが検討されている。しかしながら、前者の耐久性の向上策では、触媒層がセルの側面部に設けられるため、光電変換層で発生した電子および正孔が透明導電膜の抵抗損を受けることになる。このため、セルサイズが大きくなるにつれて、効率の低下を招いてしまう。後者の耐久性の向上策では、光電変換層と光触媒層とが直列で接続された等価回路となるため、得られる効率は光触媒の性能に制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4510015号公報
【特許文献2】米国特許第6887728号
【特許文献3】特開2012−107278号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、半導体を用いた光電変換層の耐久性を向上させつつ、効率を高めることを可能にした光電気化学セルとその製造方法、さらにそれを用いた光電気化学反応装置を提供することにある。
【0007】
実施形態の光電気化学セルは、第1の面と第2の面とを有する光電変換層と、光電変換層の第1の面上に設けられた第1の電極と、第1の電極上に配置された複数の触媒部と、複数の触媒部間の間隙に配置された透明誘電体部とを有する第1の触媒層と、光電変換層の第2の面上に設けられた第2の電極と、第2の電極と電気的に接続された第2の触媒層とを具備する。
【0008】
実施形態の光電気化学反応装置は、電解液が収容された電解槽と、電解槽内に配置され、電解液中に浸漬された、実施形態の光電気化学セルとを具備する
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】実施形態による光電気化学セルの第1の例を示す平面図である。
図1B】実施形態による光電気化学セルの第1の例を示す断面図である。
図2図1に示す光電気化学セルにおける触媒部の他の配置例を示す平面図である。
図3】実施形態による光電気化学セルの第2の例を示す断面図である。
図4図3に示す光電気化学セルの一部を拡大して示す断面図である。
図5図3に示す光電気化学セルの変形例の一部を拡大して示す断面図である。
図6】実施形態による光電気化学セルの第3の例を示す断面図である。
図7A図6に示す光電気化学セルの製造工程を示す断面図である。
図7B図6に示す光電気化学セルの製造工程を示す断面図である。
図7C図6に示す光電気化学セルの製造工程を示す断面図である。
図8】実施形態の光電気化学セルを用いた光電気化学反応装置の第1の例を示す図である。
図9】実施形態の光電気化学セルを用いた光電気化学反応装置の第2の例を示す図である。
図10】実施形態の光電気化学セルを用いた光電気化学反応装置の第3の例を示す図である。
図11】実施形態による光電気化学セルの具体的な構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の光電気化学セルとそれを用いた光電気化学反応装置について、図面を参照して説明する。
【0011】
(光電気化学セル)
図1Aおよび図1Bは実施形態による光電気化学セルの第1の例を示す図である。図1Aは光電気化学セルの平面図、図1B図1AのX−X線に沿った断面図である。図1Aおよび図1Bに示す光電気化学セル1は、光電変換層2と、光電変換層2の第1の面上に設けられた第1の電極3と、光電変換層2の第2の面上に設けられた第2の電極4とを具備している。第1の電極3上には、第1の触媒層5が設けられている。第2の電極4上には、導電性支持体6を介して第2の触媒層7が設けられている。光電気化学セル1の側面は、光電変換層2のリーク電流および電解液による浸食を防ぐために、絶縁層8で覆われている。第1および第2の電極3、4は、光電変換層2に対してオーミック接触を形成しており、第1の電極3から第2の電極4まで直列に接続されている。ここでは、光電変換層2の第1の面(第1の電極3の形成面)が受光面である場合について説明する。
【0012】
光電変換層2は、光が照射されると層内部で電荷分離が生じるものであり、これにより起電力が発生する。光電変換層2としては、pin接合型半導体やpn接合型半導体を使用した太陽電池が例示される。これら以外の太陽電池を光電変換層2として適用してもよい。光電変換層2を構成する半導体層には、Si、Ge、Si−Ge等の半導体、GaAs、GaInP、AlGaInP、CdTe、CuInGaSe等の化合物半導体を適用することができる。半導体層は、単結晶、多結晶、アモルファス等の種々の形態の半導体により形成される。光電変換層2は、高い開放電圧を得るために、2つ以上の光電変換層(太陽電池)を積層した多接合型の光電変換層であることが好ましい。
【0013】
光電変換層2の受光面(第1の面)に形成される第1の電極3には、透光性を有する導電膜を適用することが好ましい。そのような導電膜としては、Ag、Au、Al、Cu、Ti、W、Cr、Ni等の金属、それら金属を少なくとも1つ含む合金、ITO(酸化インジウムスズ)、酸化亜鉛(ZnO)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、ATO(アンチモンドープ酸化スズ)等の透明導電性酸化物が挙げられる。第1の電極3は、例えば金属と透明導電性酸化物とが積層された構造、金属とその他の導電性材料とが複合された構造、透明導電性酸化物とその他の導電性材料とが複合された構造等を有していてもよい。例えば、第1の電極3にグラフェンや銀ナノワイヤーのような導電性材料と樹脂のような透明性非導電材料とを組み合わせた複合構造を適用してもよい。
【0014】
光電変換層2の受光面とは反対側の面(第2の面)に形成される第2の電極4は、Ag、Au、Al、Cu、Ti、W、Cr、Ni等の金属、それら金属を少なくとも1つ含む合金、ITO(酸化インジウムスズ)、酸化亜鉛(ZnO)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、ATO(アンチモンドープ酸化スズ)等の透明導電性酸化物により形成される。第2の電極4は、必要に応じて導電性支持体6上に形成される。光電気化学セル1は、例えば第2の電極4または導電性支持体6を基材とし、その上に光電変換層2、第1の電極3、第1の触媒層5等を形成することにより構成される。このような構造を適用することで、光電気化学セル1の機械的強度を保つことができる。第2の電極4は、支持基材の機能を兼ね備えていてもよく、そのような場合には金属板、合金板、半導体基板等が使用される。第1および第2の電極3、4は、光電変換層2を構成するn型半導体またはp型半導体とオーミック接触が可能な材料で形成することが好ましい。
【0015】
光電変換層2と第2の電極4との間には、光電変換層2で吸収されなかった光を再び光電変換層2に戻す反射層を設けてもよい。反射層を用いて光電変換層2で吸収されなかった光を再利用することによって、光電気化学反応の効率を高めることができる。光反射層は、光電変換層2の第2の面と第2の触媒層7との間のいずれかの層間に配置される。光反射層としては、例えば光反射率が高い金属層、屈折率の異なる複数の誘電体を周期的に積層したブラッグ反射型の反射層等を用いることができる。
【0016】
第1および第2の触媒層5、7は、化学反応の活性化エネルギーを減少させ、酸化還元反応を促進させるために設けられる。第1および第2の触媒層5、7による酸化還元反応の促進効果を利用することによって、酸化還元反応の過電圧を低減することができる。従って、光電変換層2で発生した起電力をより有効に利用することができる。光電気化学セル1では、全反応として酸化還元反応が生じるため、第1の触媒層5が酸化触媒である場合には、第2の触媒層7は還元触媒である。第1の触媒層5が還元触媒である場合には、第2の触媒層7は酸化触媒である。酸化触媒は正孔を受け取り、還元触媒は電子を受け取る。このため、酸化触媒は光電変換層2のp型半導体層側に配置され、還元触媒は光電変換層2のn型半導体層側に配置される。
【0017】
酸化触媒は、水(HO)の酸化反応に活性を示し、HOを酸化するための活性化エネルギーを減少させる材料で構成される。すなわち、酸化触媒はHOを酸化してOとHを生成する際の過電圧を低下させる材料で構成される。そのような材料としては、Ir、Ru、Co、Mn、Ni、Fe等の金属、それら金属の酸化物、金属錯体が挙げられる。金属酸化物は、酸化マンガン(Mn−O)や酸化イリジウム(Ir−O)のような二元系金属酸化物に限らず、Ni−Co−OやNi−Fe−Oのような三元系金属酸化物、Pb−Ru−Ir−OやLa−Sr−Co−O等の四元系金属酸化物であってもよい。カーボンブラック、活性炭、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン、ケッチェンブラック、ダイヤモンド等の炭素材料を酸化触媒として使用してもよい。
【0018】
還元触媒は、二酸化炭素(CO)や水(HO)の還元反応に活性を示し、COやHOを還元するための活性化エネルギーを減少させる材料で構成される。すなわち、COやHOを還元して炭素化合物や水素等を生成する際の過電圧を低下させる材料で構成される。COの還元触媒としては、例えば、Au、Ag、Cu、Zn、In、Sn、Cd、Pb、Re等の金属、それら金属を少なくとも1つ含む合金、金属錯体等が挙げられる。HOの還元触媒としては、例えば、Pt、Ru、Mo、Pd、Ni、Fe等の金属、それら金属を少なくとも1つ含む合金、金属錯体等が挙げられる。カーボンブラック、活性炭、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン、ケッチェンブラック、ダイヤモンド等の炭素材料を還元触媒として用いてもよい。触媒層の形態は膜状に限らず、粒子状であったり、炭素材料や導電性粒子に担持させたものや複合化させたものであってもよい。
【0019】
光電変換層2の受光面側に形成される第1の触媒層5は、透光性を有する導電膜からなる第1の電極3上に配置された複数の触媒部9と、複数の触媒部9間の間隙に配置された透明誘電体部10とを有している。複数の触媒部9は、上述した酸化触媒または還元触媒からなる。透明誘電体部10は、光の透過性を有し、かつ電解液に対して耐食性を有する材料で形成される。このような材料としては、例えばエポキシ樹脂、フッ素樹脂、シクロオレフィン樹脂のような樹脂材料、Ti、Zr、Al、Si、Hfのような金属を含む金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物等の無機化合物材料、シリカ、ホウ酸、リン酸等を主成分とするガラス材料が挙げられる。
【0020】
複数の触媒部9の平面形状としては、図1Aに示すドットパターンや図2に示す線状パターンが例示される。複数の触媒部9の形状は、これらに限定されるものではなく、光透過部として触媒部9間に間隙(隙間)を有するパターンであればよい。複数の触媒部9間の間隙には、光の透過性を有し、かつ電解液に対して耐食性を有する誘電体からなる透明誘電体部10が配置されている。複数の触媒部9と透明誘電体部10とを有する第1の触媒層5によれば、光電変換層2への光照射量を十分に確保しつつ、電解液による光電変換層(半導体層等)2の腐食を防止することが可能になる。すなわち、光電変換層2に対して透明誘電体部10から光を十分に照射することができる。さらに、透明誘電体部10は耐食性を有するため、光電変換層2の腐食等を防止することができる。
【0021】
複数の触媒部9の個々の形状は、図1Aに示す円形状に限らず、楕円状、四角状、三角状等であってもよい。複数の触媒部9は、四角格子状、三角格子状、円形状等のように規則的に配置してもよいし、ランダムに配置してもよい。複数の触媒部9は、図2に示すように線状パターンを格子状に配置してもよい。線状パターンの配置は、櫛状、円状、螺旋状等であってもよい。複数の触媒部9の間隔が広すぎると、光電変換層2で発生したキャリア(電子や正孔)の移動距離が長くなるため、抵抗損により効率の低下を招くおそれがある。複数の触媒部9間の平均距離は、例えば2mm以下が好ましく、さらに100μm以下がより好ましい。複数の触媒部9間の平均距離の下限値は特に限定されるものではないが、安定して間隙が得られるように10nm以上であることが好ましい。
【0022】
光電気化学セル1に照射された光は、複数の触媒部9と透明誘電体部10とを有する複合面を通過して光電変換層2に到達する。第1の触媒層5の複合面は、照射光に対して光透過性を有する。複数の触媒部9と透明誘電体部10とを有する第1の触媒層5は、照射される光量の50%以上を透過させることが好ましく、70%以上を透過させることがより好ましい。第1の触媒層5における触媒部9と透明誘電体部10との存在比率は、第1の触媒層5による照射光の透過率が上記した範囲となるように設定することが好ましい。
【0023】
複数の触媒部9と透明誘電体部10の厚さは、同一であってもよいし、一方が厚くてもよい。図1Bに示すように、触媒部9が凸状で、透明誘電体部10が凹状であってもよいし、その逆であってもよい。複数の触媒部9は、その厚さが増えることにより反応面が増大して活性が向上する。一方、触媒部9の厚さが薄すぎると、下地層を十分に被覆できずに電解液の浸食が生じるおそれがある。このため、触媒部9の厚さは10nm以上100μm以下が好ましく、より好ましくは100nm以上10μm以下である。
【0024】
透明誘電体部10は、長期的に電解液に対して安定な厚さを有することが好ましい。透明誘電体部10の厚さは10nm以上1mm以下が好ましく、1μm以上100μm以下がより好ましい。透明誘電体部10の厚さが1μm以下のとき、その厚さを照射光の波長のm/(4n)倍(mは整数(1、2、3)、nは透明誘電体の屈折率)にすることで、反射防止効果が得られる。従って、光電変換層2に光を効率的に入射させることができる。太陽光等の波長分散性のある光を入射させる場合、例えば波長550nmの放射強度の最も高い波長域の光に対して反射防止効果が得られるように膜厚を設計してもよい。
【0025】
複数の触媒部9と透明誘電体部10とを有する第1の触媒層5の表面(複合面)は、電解液に対して濡れ性を有することが好ましい。第1の触媒層5の濡れ性は、接触角計による測定で触媒部5と透明誘電体部10とからなる複合面の電解液に対する静的接触角が90度未満であることが好ましく、さらに60度以下であることがより好ましい。第1の触媒層5の表面が電解液に対して濡れ性を有することで、第1の触媒層5で発生する生成物(特に気体)を効果的に離脱させることができ、高効率な光電気化学セル1が得られる。
【0026】
複数の触媒部9と透明誘電体部10とを有する第1の触媒層5の形成方法としては、例えば第1の電極3上に開口部を有するマスクパターンを形成し、開口部中に触媒層を形成し、マスクパターンを除去して複数の触媒部9を形成し、触媒部9が埋め込まれるように第1の電極3上に透明誘電体層を形成し、透明誘電体層をエッチングして所定の厚さの透明誘電体部10を形成する方法が挙げられる。第1の電極3上に開口部を有する透明誘電体層を形成し、開口部内に触媒材料を埋め込んで触媒部9を形成してもよい。マスクパターンの形成方法としては、一般的な光リソグラフィーや電子線リソグラフィーにより形成する方法、インプリントを用いた方法、インクジェットやスクリーン印刷による印刷法、ブロックコポリマーや粒子の自己組織化パターンを利用したマスク形成方法、アルミニウムを陽極酸化することにより得られるホールパターンを利用する方法等が挙げられる。
【0027】
実施形態による光電気化学セル1の第2の例について、図3ないし図5を参照して説明する。第1の触媒層5における複数の触媒部9は、図3に示すように、透明導電膜等からなる第1の電極3上に配置された複数の導電部11の表面に沿って形成してもよい。図3に示す第1の触媒層5は、導電部11と触媒部9との複合構造部12と、複合構造部12の間隙に配置された透明誘電体部10とを有している。光電気化学セル1において、触媒層の比表面積を大きくして触媒活性を高めるためには、触媒部9を凸状とすると共に、透明誘電体部10を凹状とすることが有効である。このため、導電部11と触媒部9との複合構造部12の高さは、透明誘電体部10より高いことが好ましい。
【0028】
図1Bに示した形状では、触媒部9の比表面積を大きくするために高さを高くすると、触媒部9の内部でキャリア移動の損失(抵抗損)が生じる。その結果、触媒部9をある高さ以上に高くしても、触媒部9の活性はあまり変わらなくなる。このような点に対して、導電部11の表面に沿って触媒部9を形成することによって、光電変換層2から流れる電子または正孔の損失(キャリア損失)が抑えられる。触媒部9の比表面積の増大による触媒活性の向上効果が高まるため、光電気化学セル1の効率をより有効に向上させることができる。さらに、触媒部9の下地として導電部11を設けることで、触媒部9からの電解液の浸食が抑制される。光電気化学セル1の耐久性も向上する。図3の構造のように、必ずしも触媒部9を凸状、透明誘電体部10を凹状にする必要はなく、触媒部9を凹状、透明誘電体部10を凸状にしても、耐久性を向上させることができる。
【0029】
導電部11の形成材料としては、例えばCu、Al、Ti、Ni、Ag、W、Co、Au等の金属、それら金属を少なくとも1つ含む合金、それら金属の積層膜、ITO、ZnO、FTO、AZO、ATO等の透明導電性酸化物、カーボンブラック、活性炭、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン、ケッチェンブラック、ダイヤモンド等の炭素材料が挙げられる。触媒部9および透明誘電体部10の形成材料は前述した通りである。
【0030】
導電部11と触媒部9との複合構造部12は、図1Aに示した触媒部9と同様に、円形状、楕円状、四角状、三角状等の平面形状を有する。複数の複合構造部12は、四角格子状、三角格子状、円形状等のように規則的に配置してもよいし、ランダムに配置してもよい。複数の複合構造部12は、図2に示したような格子状の線状パターンを有していてもよいし、櫛状、円状、螺旋状等の線状パターンを有していてもよい。複数の複合構造部12の間隔や第1の触媒層5の厚さ等は、前述した通りである。第1の触媒層5の厚さや複合構造部12と透明誘電体部10との比率等に基づく光透過性も同様である。
【0031】
導電部11は、図4に拡大して示す矩形状や図5に拡大して示すテーパー状のような断面形状を有する。図4に示す導電部11は、円柱、四角柱、多角柱等の全体形状を有する。図5に示す導電部11は、円錐、三角錐、四角錐、多角錐等の全体形状を有する。図5に示すように、導電部11と触媒部9との複合構造部12の側面をテーパー形状とすることによって、複合構造部12に入射した光をテーパー面で反射させて透明誘電体部10に導きやすくなる。光電変換層2に入射する光量が増加して光の利用効率が高くなるため、光電気化学セル1の効率を向上させることができる。この場合、触媒部9は光透過性を有することが好ましい。触媒部9の厚さは1nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0032】
実施形態による光電気化学セル1の第3の例について、図6を参照して説明する。第1の触媒層5は、図6に示すように、導電部13および透明誘電体部10を有する複合層14と、複合層14内の導電部13上に形成された触媒部9とを備えていてもよい。導電部13と透明誘電体部10は、平面内で共存している。図6に示す第1の触媒層5は、導電部13と触媒部9との積層部15と、積層部15間の間隙に配置された透明誘電体部10とを備えている。この場合、導電部13を第1の電極3として利用することもできる。すなわち、図6では導電部13を第1の電極3上に形成した構造を示したが、導電部13を光電変換層2上に第1の電極として形成してもよい。
【0033】
導電部13は、金属、合金、または金属を含む導電性化合物からなる。導電部13を構成する導電性化合物としては、金属の窒化物が例示される。導電部13は、金属、合金、または導電性化合物の単層膜であってもよいし、それらの積層膜であってもよい。触媒部9と第1の電極3との間に導電部13を設けることで、光電変換層2で生じたキャリアを効率よく集電して触媒部9に供給することができ、さらに触媒部9からの電解液の浸食を抑制することができる。触媒部9と光電変換層2との間に導電部13を設けた場合、光電変換層2で生じたキャリアを導電部13で集電して触媒部9に供給することができる。
【0034】
金属、合金、または金属を含む導電性化合物からなる導電部13を適用した場合、透明誘電体部10には導電部13を構成する金属、もしくは導電部13を構成する合金や導電性化合物に含まれる金属の酸化物のような絶縁性化合物を用いることが好ましい。後に詳述するように、第1の電極3上に一様に形成された金属層、合金層、または導電性化合物層からなる導電膜の一部を導電部13として利用すると共に、導電膜の導電部13として利用する以外の部分を例えば部分的に酸化することによって、複数の導電部13間に金属酸化物のような絶縁性化合物からなる透明誘電体部10を形成することができる。これによって、複数の導電部13と触媒部9との積層部15間の間隙に透明誘電体部10を配置した第1の触媒層5を簡便にかつ低コストで得ることができる。
【0035】
導電膜を部分的に酸化して透明誘電体部10を形成するにあたって、導電部13を構成する金属、合金、または導電性化合物は、例えば陽極酸化により比較的厚い酸化被膜(数nm以上)が形成されて不動態になりやすい金属元素(バルブメタル)を含むことが好ましい。そのような金属元素としては、Al、Nb、Ti、Zr、Hf、Si、Bi、W、V、Th、Be、Ca、Mn、Ca等が挙げられる。導電部13は、上記した金属元素の単体層、上記した金属元素を少なくとも1つ含む合金層、上記した金属元素の窒化物のような導電性化合物層、もくしはこれらの積層膜で形成することが好ましい。導電部13は、1×10−7Ω・cm以上1×10−1Ω・cm以下の抵抗率を有することが好ましい。導電部13を金属窒化物等で形成する場合、そのような抵抗率を有していれば、金属窒化物が不純物として酸素等を含んでいてもよい。
【0036】
図6に示す光電気化学セル1において、透明誘電体部10は金属酸化物層からなることが好ましい。金属酸化物は、一般的に透光性を有し、かつ導電率が小さい誘電体である。このため、金属酸化物層は光電変換層2への光の照射を維持しつつ、電解液による光電変換層2の腐食を防ぐ透明誘電体部10として好適である。透明誘電体部10は、上記した金属元素(バルブメタル)を少なくとも1つ含む金属酸化物からなることがより好ましい。上記した金属元素(バルブメタル)は、酸素原子とのイオン結合性が強い周期律表の1族から6族、13族から15族に多くが分類される。
【0037】
上述したような金属元素の酸化物層からなる透明誘電体部10は、長期的に電解液に対して安定な厚さを有することが好ましい。ただし、金属酸化物層の厚さが厚すぎるとクラック等が生じやすくなり、そこから電解液が浸食するおそれがある。このため、金属酸化物層(10)の厚さは10nm以上1μm以下が好ましく、さらに10nm以上500nm以下がより好ましい。導電膜を部分的に酸化することにより透明誘電体部10を形成した場合、透明誘電体部10の厚さは導電部13の厚さと実質的に同じである。ただし、導電膜を部分的に酸化する工程で、酸化被膜の一部が溶出する場合がある。そのため、透明誘電体部10の厚さは導電部13の厚さより薄い場合もある。
【0038】
導電部13と触媒部9との積層部15は、図1Aに示した触媒部9と同様に、円形状、楕円状、四角状、三角状等の平面形状を有する。複数の積層部15は、四角格子状、三角格子状、円形状等のように規則的に配置してもよいし、ランダムに配置してもよい。複数の積層部15は、図2に示したような格子状の線状パターンを有していてもよいし、櫛状、円状、螺旋状等の線状パターンを有していてもよい。複数の積層部15の間隔や触媒部9の厚さ等は、前述した通りである。第1の触媒層5の厚さや積層部15と透明誘電体部10との比率等に基づく光透過性も同様である。
【0039】
図6に示す第1の触媒層5は、例えば以下のようにして形成される。第1の触媒層5の形成工程について、図7を参照して説明する。図7Aに示すように、第1の電極3と光電変換層2と第2の電極4とを備える積層体16(もしくは光電変換層2と第2の電極4との積層体)を用意する。第1の電極3上(もしくは光電変換層2上)に、金属、合金、または金属窒化物のような導電性化合物からなる導電膜17を形成する。図7Bに示すように、導電膜17上に間隙を有するように複数の触媒部9を形成する。図7Cに示すように、複数の触媒部9をマスクとして、導電膜17の触媒部9間に露出する部分を選択的に酸化して透明誘電体部10を形成する。
【0040】
複数の触媒部9の形成方法としては、間隙を有するマスクを形成し、間隙に触媒部を埋め込み、マスクを除去する方法(リフトオフ法)、あるいは触媒層を形成し、マスクを用いて触媒層をエッチングして間隙を形成する方法が挙げられる。マスクの形成方法としては、一般的な光リソグラフィーや電子線リソグラフィーにより形成する方法、インプリントを用いた方法、インクジェットやスクリーン印刷による印刷法、ブロックコポリマーや粒子の自己組織化パターンを利用したマスク形成方法、アルミニウムを陽極酸化することにより得られるホールパターンを利用する方法等が挙げられる。マスクを用いた形成方法以外に、粒子状の触媒を基板上に分散させることによって、間隙を有する触媒部9を形成してもよい。図7Aないし図7Cに示す触媒層5の形成工程を適用することで、触媒部9と透明誘電体部10とを有する触媒層5を簡便かつ低コストに形成することができる。
【0041】
導電膜17の酸化方法には、熱酸化、陽極酸化、酸素プラズマを用いた酸化方法等を適用することができる。これら酸化方法のうち、陽極酸化は熱酸化よりも異方性が高い酸化被膜を形成することができる。陽極酸化を適用して導電膜17を部分的に酸化することによって、触媒部9と導電部13との積層部15の下方への酸化の進行を抑制することができる。従って、導電部13の機能を維持しつつ、導電膜17内に部分的に透明誘電体部10を形成することが可能となる。陽極酸化により酸化被膜(透明誘電体部10)を形成する場合、酸化被膜を溶解しにくい電解液を用いて、陽極酸化を実施することが好ましい。電解液のpHは4以上10以下が好ましい。このような電解液を用いて陽極酸化を実施することによって、緻密で厚い酸化被膜を形成することができる。
【0042】
(光電気化学反応装置)
次に、実施形態の光電気化学反応装置について、図8および図9を参照して説明する。図8は実施形態による光電気化学反応装置の第1の例を示す断面図である。図8に示す光電気化学反応装置21は、前述した実施形態の光電気化学セル1が配置された電解槽22を備えている。光電気化学反応装置21は、電解液23が収容された電解槽22と、電解槽22内に配置され、電解液23に浸漬された光電気化学セル1とを備えている。電解槽22は、光電気化学セル1により二室に分離されている。電解槽22は、第1の電解液23Aが充填され、第1の電解液23Aに第1の触媒層5を浸漬させる第1の液室22Aと、第2の電解液23Bが充填され、第2の電解液23Bに第2の触媒層7を浸漬させる第2の液室22Bとに分離されている。
【0043】
第1の液室22Aと第2の液室22Bとは、イオン移動経路として電解槽22内に設けられた電解液流路24により接続されている。電解液流路24内には、イオン交換膜25が充填されている。このようなイオン交換膜25を備える電解液流路24によって、特定のイオンのみを通過させつつ、第1の触媒層5で生成される生成物と第2の触媒層7で生成される生成物とを分離している。イオン交換膜25としては、例えばナフィオンやフレミオンのようなカチオン交換膜や、ネオセプタやセレミオンのようなアニオン交換膜が用いられる。電解液流路24内には、ガラスフィルタや寒天等を充填してもよい。イオン移動経路は、電解槽24内の壁面側に設けられた電解液流路24に限らない。イオン移動経路は、光電気化学セル1に設けられた複数の細孔(貫通孔)により構成してもよい。
【0044】
第1および第2の電解液23A、23Bのうちの一方としては、例えばHOを含む溶液が用いられ、他方としては例えばCOを含む溶液が用いられる。HOを含む溶液としては、任意の電解質を含む水溶液を用いることが好ましい。この溶液はHOの酸化反応を促進する水溶液であることが好ましい。電解質を含む水溶液としては、リン酸イオン(PO2−)、ホウ酸イオン(BO3−)、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、カルシウムイオン(Ca2+)、リチウムイオン(Li)、セシウムイオン(Cs)、マグネシウムイオン(Mg2+)、塩化物イオン(Cl)、炭酸水素イオン(HCO)等を含む水溶液が挙げられる。
【0045】
COを含む溶液は、COの吸収率が高い溶液であることが好ましく、HOを含む溶液としてLiHCO、NaHCO、KHCO、CsHCO等の水溶液が挙げられる。COを含む溶液には、メタノール、エタノール、アセトン等のアルコール類を用いてもよい。HOを含む溶液とCOを含む溶液とは、同じ溶液であってもよい。COを含む溶液は、COの吸収量が高いことが好ましいため、HOを含む溶液と別の溶液を用いてもよい。COを含む溶液は、COの還元電位を低下させ、イオン伝導性が高く、COを吸収するCO吸収剤を含む電解液であることが望ましい。
【0046】
上述した電解液としては、イミダゾリウムイオンやピリジニウムイオン等の陽イオンと、BFやPF等の陰イオンとの塩からなり、幅広い温度範囲で液体状態であるイオン液体もしくはその水溶液が挙げられる。他の電解液としては、エタノールアミン、イミダゾール、ピリジン等のアミン溶液もしくはその水溶液が挙げられる。アミンは、一級アミン、二級アミン、三級アミンのいずれでもかまわない。一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン等が挙げられる。アミンの炭化水素は、アルコールやハロゲン等が置換していてもよい。アミンの炭化水素が置換されたものとしては、メタノールアミン、エタノールアミン、クロロメチルアミン等が挙げられる。また、不飽和結合が存在していてもかまわない。これら炭化水素は、二級アミン、三級アミンも同様である。二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン等が挙げられる。置換した炭化水素は、異なってもかまわない。これは三級アミンでも同様である。例えば、炭化水素が異なるものとしては、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン等が挙げられる。三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリエキサノールアミン、メチルジエチルアミン、メチルジプロピルアミン等が挙げられる。イオン液体の陽イオンとしては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾールイオン、1−メチル−3−ペンチルイミダゾリウムイオン、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムイオン等が挙げられる。イミダゾリウムイオンの2位が置換されていてもよい。イミダゾリウムイオンの2位が置換されたものとしては、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−ペンチルイミダゾリウムイオン、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン等が挙げられる。ピリジニウムイオンとしては、メチルピリジニウム、エチルピリジニウム、プロピルピリジニウム、ブチルピリジニウム、ペンチルピリジニウム、ヘキシルピリジニウム等が挙げられる。イミダゾリウムイオンおよびピリジニウムイオンは共に、アルキル基が置換されてもよく、不飽和結合が存在してもよい。アニオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、BF、PF、CFCOO、CFSO、NO、SCN、(CFSO、ビス(トリフルオロメトキシスルホニル)イミド、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミド等が挙げられる。イオン液体のカチオンとアニオンとを炭化水素で連結した双生イオンでもよい。
【0047】
光電気化学反応装置21の動作および酸化還元反応について説明する。ここでは、光照射側の第1の触媒層5が酸化触媒で、反対側の第2の触媒層7が還元触媒であり、第2の電解液23BとしてCOを吸収する吸収液を用いた場合について説明する。光電気化学反応装置21の上方(第1の触媒層5側)から照射された光は、第1の触媒層5および第1の電極3を通過して光電変換層2に到達する。光電変換層2は、光を吸収すると電子およびそれと対になる正孔を生成し、それらを分離する。すなわち、光電変換層2においては、内蔵電位によりn型の半導体層側(第2の電極4側)に電子が移動し、p型の半導体層側(第1の電極3側)に電子の対として発生する正孔が移動する。このような電荷分離によって、光電変換層2に起電力が発生する。
【0048】
光電変換層2内で発生した正孔は第1の電極3に移動し、第1の電極3および第1の触媒層5付近で生起される酸化反応により生じた電子と結合する。光電変換層2内で発生した電子は第2の電極4に移動し、第2の電極4および第2の触媒層7付近で生起される還元反応に使用される。具体的には、第1の電解液23Aに接する第1の電極3および第1の触媒層5付近では、下記の(1)式の反応が生じる。第2の電解液23Bに接する第2の電極4および第2の触媒層7付近では、下記の(2)式の反応が生じる。
2HO → 4H+O+4e …(1)
2CO+4H+4e → 2CO+2HO …(2)
【0049】
第1の電極3および第1の触媒層5付近においては、(1)式に示すように、第1の電解液23Aに含まれるHOが酸化され(電子を失い)、OとHが生成される。第1の電極3側で生成されたHは、例えばイオン移動経路としての電解液流路24を介して第2の電極4側に移動する。第2の電極4および第2の触媒層7付近においては、(2)式に示すように、第2の電解液23B中のCOが還元される(電子を得る)。具体的には、第2の電解液23B中のCOとイオン移動経路を介して移動したHと第2の電極4に移動した電子とが反応し、例えばCOとHOが生成される。
【0050】
光電変換層2は、第1の電極3付近で生じる酸化反応の標準酸化還元電位と第2の電極4付近で生じる還元反応の標準酸化還元電位との電位差以上の開放電圧を有する必要がある。例えば、(1)式における酸化反応の標準酸化還元電位は1.23Vであり、(2)式における還元反応の標準酸化還元電位は−0.1Vである。このため、光電変換層2の開放電圧は1.33V以上が必要である。光電変換層2の開放電圧は、過電圧を含めた電位差以上であることが好ましい。具体的には、(1)式における酸化反応および(2)式における還元反応の過電圧がそれぞれ0.2Vである場合、光電変換層2の開放電圧は1.73V以上であることが望ましい。
【0051】
第2の電極4および第2の触媒層7付近においては、(2)式に示すCOからCOへの還元反応だけでなく、COからギ酸(HCOOH)、メタン(CH)、エチレン(C)、メタノール(CHOH)、エタノール(COH)等への還元反応を生じさせることができる。第2の電解液23B中のHOを還元し、Hを発生させることも可能である。第2の電解液23B中のHO量を変えることで、生成されるCOの還元物質を変えることができる。例えば、CO、HCOOH、CH、C、CHOH、COH、H等の生成割合を変えることができる。
【0052】
電解槽22の形状は、図9に示すように円筒形であってもよい。筒状の電解槽22内に光電気化学セル1を配置することにより光電気化学反応装置21が構成される。筒状の電解槽22によれば、光電気化学セル1を容易に長尺化することができる。光電気化学セル1を長尺化する場合、図10に示すように、複数の光電気化学セル1A、1B、1Cは直線状に配列される。複数の光電気化学セル1A、1B、1C間には、イオン交換膜25が配置される。光電気化学セル1A、1B、1Cは、それぞれ第1の触媒層5から第2の触媒層7まで直列に接続されている。光電気化学セル1A、1B、1Cは、直列に接続されている。直列接続された複数の光電気化学セル1A、1B、1Cを使用することによって、例えば雲による日の翳りが生じて、一部のセルに光が照射されなくても、他のセルで大きな効率の損失を生じさせることなく光電気化学反応を持続することが可能になる。
【0053】
実施形態の光電気化学反応装置21によれば、受光面側に配置される第1の触媒層5を、複数の触媒部9とそれらの間隙に配置された透明誘電体部10とで構成しているため、光電変換層2に入射する光量を確保しつつ、電解液による光電変換層2の腐食を防止することができる。さらに、キャリアの光電気化学セル1の面内方向への移動を防ぐことができるため、抵抗ロスの発生が抑制される。これらによって、太陽光等による光エネルギーから化学エネルギーへの変換効率が高く、かつ耐久性に優れる光電気化学反応装置21を提供することが可能になる。さらに、光電気化学セル1の効率を損ねることなく大面積化することができる。これらによって、高効率と高耐久性と大面積化とを実現した光電気化学セル2を備える光電気化学反応装置21を提供することが可能になる。
【実施例】
【0054】
次に、本発明の具体的な実施例とその評価結果について述べる。
【0055】
(実施例1)
実施例1では、三接合型光電変換層の光入射面側に複数の触媒部9とそれらの間隙に配置された透明誘電体部10とで構成された第1の触媒層5を配置した光電気化学セル1を作製し、その特性を評価した。図11は三接合型光電気化学セルの構造を示している。
【0056】
まず、pin型アモルファスシリコン(a−Si)201、および2種類のpin型アモルファスシリコンゲルマニウム(a−SiGe)202、203を有する三接合型の光電変換層200(厚さ500nm)、第1の電極としてITO層300(厚さ100nm)、第2の電極としてZnO層400(厚さ300nm)、Ag反射層410(厚さ200nm)、および支持基板としてステンレス基板600(厚さ1.5mm)を有する構造体を準備した。この構造体のステンレス基板上の各層は、光閉じ込め効果を得る目的で、サブミクロンオーダーのテクスチャー構造を有する。
【0057】
三接合型の光電変換層200は、第1の光電変換層201、第2の光電変換層202、および第3の光電変換層203で構成される。第1の光電変換層201、第2の光電変換層202、および第3の光電変換層203は、それぞれpin接合からなる光電変換層であり、それぞれ光の吸収波長が異なる。これら光電変換層201、202、203を平面状に積層することによって、太陽光の幅広い波長の光を吸収することができ、太陽光のエネルギーをより効率よく利用することが可能となる。その結果、光電変換層200で高い開放電圧を得ることができる。
【0058】
具体的には、第1の光電変換層201は光入射面から順に積層された、p型の微結晶シリコン(μc−Si)層211/真性(intrinsic)のアモルファスシリコン(a−Si)層212/n型のa−Si層213の積層体で構成されている。a−Si層212は、400nm程度の短波長領域の光を吸収する層である。第1光電変換層201においては、短波長領域の光エネルギーにより電荷分離が生じる。
【0059】
第2の光電変換層202は、光入射面から順に積層された、p型のμc−Si層221/真性のa−SiGe層222/n型のa−Si層223の積層体で構成されている。a−SiGe層222は、600nm程度の中間波長領域の光を吸収する層である。第2光電変換層202においては、中間波長領域の光エネルギーにより電荷分離が生じる。
【0060】
第3の光電変換層203は、光入射面から順に積層された、p型のμc−Si層231/真性のa−SiGe層232/n型のa−Si層233の積層体で構成されている。a−SiGe層232は、第2の光電変換層202で使用されたa−SiGe層222とは組成比が異なり、700nm程度の長波長領域の光を吸収する層である。第3の光電変換層203においては、長波長領域の光エネルギーにより電荷分離が生じる。実施例1で用いた構造体について、ソーラーシミュレータ(AM1.5、1000W/m)を用いて光照射を行った場合の開放電圧を測定した結果、開放電圧は2.1Vであった。
【0061】
次に、ITO層300上に触媒部501と透明誘電体部502の複合構造を形成した。まず、ITO層300上にスピンコート法により厚さ5μm程度のネガ型の感光性エポキシレジスト(SU−8 3005(商品名、日本化薬社製))を塗布した後、ホットプレート上でプリベーク処理を行った。感光性エポキシレジストは、永久レジストとして使用され、透明誘電体部502となる。
【0062】
次いで、マスクを用いたi線露光装置による露光および現像処理を行うことによって、ITO層300上のエポキシ樹脂層に開口部を設けた。エポキシ樹脂層を熱硬化させるためにオーブン中でキュアし、さらに触媒の電着時に均一に触媒層を形成するために、親水化の目的でアッシングを行った。この後、電着法により水の酸化触媒としてNi(OH)触媒をITO層300の露出部に形成した。触媒層の膜厚は100nmとした。
【0063】
実施例1で形成した触媒/透明誘電体の複合構造は、直径20μmの触媒部を三角格子状に配列した形状を有する。触媒部の中心と隣り合う触媒部の中心を結んだ距離の平均値は34.5μmであった。触媒層の面積率(光入射面側から見た光照射面における触媒部の占める割合)は30%であった。同様の方法でガラス基板上に作製した触媒/透明誘電体の複合構造の太陽光に対する透過率を評価したところ、75%程度であった。太陽光の透過率は、分光光度計により波長(λ)が300〜1000nmまでの光透過率t(λ)を測定した後、既知の太陽光スペクトルI(λ)を用いた計算(太陽光透過率T=Σt(λ)×I(λ)/ΣI(λ))により算出した。
【0064】
続いて、ステンレス基板600の裏面に還元触媒として、水素発生触媒のPt膜(厚さ1000nm)を真空スパッタ法により成膜した。この後、セルを正方形状に切り出し、エッジ部分を熱硬化性エポキシ樹脂で封止することによって、光照射面の露出部分の面積が1cmになるようにした。
【0065】
(比較例1−1)
セルのITO層全面に薄膜状のNi(OH)触媒のみを形成する以外は、実施例1と同一の構造を有するセルを準備した。Ni(OH)触媒の厚さは15nmであった。
【0066】
(比較例1−2)
Ni(OH)触媒層の厚さを30nmにする以外は、比較例1−1と同一の構造を有するセルを準備した。
【0067】
(比較例1−3)
Ni(OH)触媒層の厚さを45nmにする以外は、比較例1−1と同一の構造を有するセルを準備した。
【0068】
上述した実施例1および比較例1のセルによる光電気化学反応の効率を測定した。光電気化学反応の効率は、以下のようにして測定した。まず、1M−NaOHの強アルカリ溶液を電解液として含む閉鎖系の電解液槽中にセルを浸漬させた。この際、セル周辺部に陽イオン交換膜(ナフィオン(商品名、デュポン社製))を、エポキシ樹脂を用いて図8のように貼り付けることによって、酸化側と還元側に溶液を二分した。
【0069】
次に、酸化触媒層面にソーラーシミュレータ(AM1.5、1000W/m)を用いて光を照射した。一定時間毎に電解液槽中のガスの定量分析をガスクロマトグラフィー分析(GC)にて行った。分析の結果、同定されたガス種は酸化側では酸素、還元側では水素であった。評価は、光照射開始から水素の発生が確認されなくなるまでの時間を耐久時間、光照射開始から耐久時間までの水素発生量の単位時間当たりの平均値を生成効率とした。耐久時間に生成効率を乗じたものを生成量とした。比較例1−1のセルでの耐久時間および生成効率を1として、各セルの耐久時間と生成効率を比較例1−1に対する相対値として算出した。それら結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
表1から明らかなように、比較例1−1、1−2、1−3のように受光面全面に薄膜状の触媒を形成した光電気化学セルでは、触媒層の膜厚が厚くなるに伴って耐久時間が向上する。比較例1−1は、触媒層の膜厚が薄すぎ、ITO面が均一に触媒層で被覆されていないため、耐久時間が短かった。ただし、効率は触媒層が厚くなるにしたがって光損失が生じるために低下し、耐久時間と効率はトレードオフの関係となる。
【0072】
実施例1では、比較例1−1〜3よりも十分に厚い触媒層と耐食性に優れる透明誘電体層の複合構造を用いているため、電解液による腐食を抑制することができる。実施例1の耐久時間は、比較例1−1の6倍の向上が認められた。実施例1では、触媒層をパターニングして光の受光面を確保できるため、効率も比較的1−2や比較的1−3と比べて高かった。結果として、生成量で比較した場合、実施例1のセルは比較例1−1と比べて5倍程度の水素の生成が可能であることが確認された。
【0073】
(実施例2)
実施例2では、触媒/透明誘電体の複合構造における触媒部の面積率が異なる8種類の光電気化学セルを作製して評価した。セルの作製方法は、実施例1と同様とした。この際、感光性エポキシ樹脂の露光時に用いるマスクパターンを任意に変えることによって、実施例2−1〜2−8のセルで径の異なる開口部パターンを有する透明誘電体部を形成した。その後、開口部に500nmのNi(OH)触媒層を形成した。触媒/透明誘電体の複合構造は、三角格子状とした。触媒部間の平均距離は、100μmであった。触媒部の径を変えることにより面積率を制御した。還元触媒は、実施例1と同様とした。
【0074】
セルの評価は、実施例1と同様の手法により行った。表2に評価結果を示す。各セルに形成した複合構造と同様の構造をガラス基板上に形成した際に測定した太陽光透過率を併せて示す。表2から明らかなように、触媒/透明誘電体の複合構造において触媒部の面積率を変化させた場合、耐久時間は触媒/透明誘電体の複合構造を適用することで一定の効果が得られており、ほとんど影響しない。一方、生成効率に関しては、触媒部の面積率が低いほど触媒/透明誘電体における光透過量が高くなり、得られる効率が向上することがわかる。しかしながら、触媒部の面積率が5%未満になると、触媒効果が得られる反応過電圧が増大するため、生成効率は急激に減少した。
【0075】
【表2】
【0076】
(実施例3)
実施例3では、触媒/透明誘電体の複合構造において触媒層の高さの異なる光電気化学セルを作製して評価した。実施例1と同様の構造体を準備し、実施例1と同様に、感光性エポキシ樹脂をITO層上に塗布し、露光・現像処理により感光性エポキシ樹脂層にライン状の開口部を設けた。感光性エポキシ樹脂の厚さは1μmとした。その後、開口部に電着法により水酸化触媒として酸化コバルト層を形成した。1μmより厚い触媒層を形成する場合は、感光性エポキシ樹脂層を形成する触媒層の厚さより十分に厚い膜厚に塗布した後、露光・現像処理による開口パターンの形成および電着による触媒層の形成を行った。最後に、酸素と四フッ化炭素(CF)の混合ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)により感光性エポキシ樹脂層のみを厚さ1μmになるまでエッチングした。
【0077】
実施例3で作製した触媒/透明誘電体の複合構造は、図2のように触媒部が線幅20μmのラインパターンで、格子状に配置されたパターンとした。透明誘電体は102μm辺の正方形に触媒パターンで分割されていた。触媒部の面積率は30%であった。続いて、SUS基板の裏面に還元触媒層としてCO還元触媒のAu膜(厚さ1000nm)を真空スパッタ法により成膜した。次に、セルを正方形状に切り出して、エッジ部分を熱硬化性エポキシ樹脂で封止し、光照射面の露出部分の面積が1cmになるようにした。
【0078】
(比較例3−1)
セルのITO面上に薄膜状の酸化コバルト触媒のみを形成する以外は、実施例3と同一の構造を有するセルを準備した。酸化コバルト触媒の厚さは10nmであった。
【0079】
(比較例3−2)
酸化コバルト触媒層の厚さを50nmにする以外は、比較例3−1と同一の構造を有するセルを準備した。
【0080】
上述した実施例3および比較例3のセルによる光電気化学反応の効率を測定した。光電気化学反応の効率は、以下のようにして測定した。まず、COガスを60分間バブリングした0.1M−KHCO溶液を含む閉鎖系の電解液槽中にセルを浸漬させた。この際、実施例1と同様に、セル周辺部にエポキシ樹脂を用いて陽イオン交換膜を貼り付けることによって、酸化側と還元側に溶液を二分した。次に、酸化側触媒層面にソーラーシミュレータ(AM1.5、1000W/m)を用いて照射した。その後、電解液槽中のガスの定量分析を一定時間の毎にGCにて行った。分析の結果、同定されたガス種は酸素、水素、一酸化炭素であった。発生した一酸化炭素はCO還元に由来する。
【0081】
評価は、光照射開始からCOの発生が確認されなくなるまでの時間を耐久時間とした。光照射開始から耐久時間までのCO発生量の単位時間当たりの平均値を生成効率とした。耐久時間に生成効率を乗じたものを生成量とした。比較例3−1のセルでの耐久時間および生成効率を1として、各セルの耐久時間と生成効率を比較例3−1に対する相対値として算出した。それら結果を表3に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
表3から明らかなように、触媒/透明誘電体の複合構造における触媒層の厚さを変化させた場合、触媒層が厚くなるほど触媒活性が向上するため、得られる効率も高くなる。ただし、触媒層の厚さが十分に厚い場合、光電変換層から流れる電子または正孔の移動の損失(抵抗損)が生じるため、触媒部の活性は一定の高さを超えると大きくは変わらない。
【0084】
(実施例4)
実施例4では、触媒部間の距離が異なる触媒/透明誘電体の複合構造を有する光電気化学セルを作製して評価した。実施例1と同様の構造体を準備した。次に、ITO層上に触媒/透明誘電体の複合構造を形成した。ITO層上にレジスト層をスピンコートにより塗布した。次に、i線または電子線による露光処理を行い、続いて現像処理を行うことによって、レジスト層に開口パターンを形成した。続いて、レジスト層の開口部に電着により水酸化触媒として1μmの酸化コバルトを形成した。その後、レジスト層のみを有機溶剤を用いて剥離し、透明誘電体層としてフッ素樹脂(サイトップ(商品名、旭硝子社製))を触媒層上に塗布した。最後に、酸素とCFの混合ガスを用いたRIE処理を行うことによって、触媒層が露出するまで透明誘電体層を選択エッチングし、触媒/透明誘電体の複合構造をITO層上に形成した。
【0085】
実施例4で作製した触媒/透明誘電体の複合構造は、ドット状の触媒部が三角格子状に配列したパターンを有していた。触媒部の面積率は全て15%とし、触媒部の直径および触媒部間の距離を変化させた。続いて、SUS基板の裏面に還元触媒層としてCO還元触媒のAg膜(厚さ1000nm)を真空蒸着法により成膜した。次に、セルを正方形状に切り出して、エッジ部分を熱硬化性エポキシ樹脂で封止し、光照射面の露出部分の面積が9cmになるようにした。
【0086】
(比較例4−1)
セルのITO面上に薄膜状の酸化コバルト触媒のみを形成する以外は、実施例4と同一の構造を有するセルを準備した。酸化コバルト触媒の厚さは10nmであった。
【0087】
(比較例4−2)
酸化コバルト触媒層の厚さを50nmにする以外は、比較例4−1と同一の構造を有するセルを準備した。
【0088】
上述した実施例4および比較例4のセルによる光電気化学反応の効率を測定した。光電気化学反応の効率は、以下のようにして測定した。まず、COガスを60分間バブリングした0.1M−NaHCO溶液を含む閉鎖系の電解液槽中にセルを浸漬させた。この際、実施例1と同様に、セル周辺部にはエポキシ樹脂を用いて陽イオン交換膜を貼り付けることによって、酸化側と還元側に溶液を二分した。次に、酸化側触媒層面にソーラーシミュレータ(AM1.5、1000W/m)を用いて照射した。その後、電解液槽中のガスの定量分析を一定時間の毎にGCにて行った。分析の結果、同定されたガス種は酸素、水素、一酸化炭素であった。発生した一酸化炭素はCO還元に由来する。
【0089】
評価は、光照射開始からCOの発生が確認されなくなるまで時間を耐久時間とした。光照射開始から耐久時間までのCO発生量の単位時間当たりの平均値を生成効率とした。耐久時間に生成効率を乗じたものを生成量とした。比較例4−1のセルでの耐久時間および生成効率を1として、各セルの耐久時間と生成効率を比較例4−1に対する相対値として算出した。それら結果を表4に示す。
【0090】
【表4】
【0091】
表4から明らかなように、触媒/透明誘電体の複合構造を有する光電気化学セルにおいて、触媒部間の距離がより短いほど高い効率が得られることが分かる。これは触媒部間の距離が長いとITO層をキャリアが移動する距離が長くなるため、ITOによる抵抗損により効率の低下を招くためである。
【0092】
(実施例5)
実施例5では、光電気化学セルの光入射面に還元触媒層が配置されるセルを作製して評価した。まず、InGaP層、InGaAs層、およびGe層からなるpn接合型の三接合光電変換層、光電変換層の入射面上に形成されたITO透明導電膜、光電変換層の裏面上に形成されたAu電極を有する構造体を準備した。
【0093】
三接合光電変換層の詳細な構成は、光入射面側よりn−InGaAs(コンタクト層)/n−AlInP(窓層)/n−InGaP/p−InGaP/p−AlInP(Back Surface Field(BSF)層)/p−AlGaAs (トンネル層)/p−InGaP(トンネル層)/n−InGaP(窓層)/n−InGaAs/p−InGaP(BSF層)/p−GaAs(トンネル層)/n−GaAs(トンネル層)/n−InGaAs/p−Ge(基板)である。
【0094】
次に、ITO層上にインクジェット法により透明誘電体層として厚さ50μmのエポキシ樹脂を開口部を有するパターン状に塗布した。次いで、電解めっきにより開口部中にCO還元触媒として厚さ1μmのAuを形成した。実施例5で形成した触媒/透明誘電体の複合構造は、触媒部がライン状で格子状に配置されたパターンを有していた。Au層の線幅は5.9μmで格子状に配置され、透明誘電体層が50μm辺の正方形に触媒層で分割されたパターンであり、その面積率は20%であった。
【0095】
次に、SUS基板を準備して、その上に水酸化触媒としての酸化ルテニウム膜をスパッタ法により成膜した。この酸化ルテニウム/SUS基板が対極として使用される。続いて、セルおよび対極を4cmの正方形に切り出した後。銅線を用いてSUS基板と光電変換層裏面のAu電極層を電気的に接続した。最後に、触媒/透明誘電体の複合構造面および酸化触媒面のみが電解液に露出するように、エポキシ樹脂により封止した。
【0096】
(比較例5−1)
セルのITO面上に薄膜状のAu触媒のみを形成する以外は、実施例5と同一の構造を有するセルを準備した。Au触媒の厚さは5nmであった。
【0097】
(比較例5−2)
Au触媒層の厚さを10nmにする以外は、比較例5−1と同一の構造を有するセルを準備した。
【0098】
次に、作製した光電気化学セルを、COガスを60分間バブリングした0.1M−KHCO溶液を含む閉鎖系の電解液槽中に浸漬した。この際、還元触媒部と酸化触媒部を陽イオン交換膜(ナフィオン)により隔てて二分した。次に、還元触媒層面にソーラーシミュレータ(AM1.5、1000W/m)を用いて光を照射した。その後、電解液槽中のガスの定量分析を一定時間毎にGCにて行った。分析の結果、還元触媒側で同定されたガス種は水素と一酸化炭素であった。
【0099】
測定の結果、実施例5では比較例5−1および5−2と比べて、効率、耐久時間、およびCOの生成量が高いことが確認された。実施例5で比較例5−1、5−2に対して高い効率が得られた理由は、比較例5では光入射面全面に金属触媒が形成されるために光損失の高くなるためである。比較例は、実施例の構造に比べて効率が低くなる。
【0100】
(実施例6−1)
光電変換層として実施例1と同様の構造体を準備した。次に、SUS基板の裏面にスパッタ法により厚さ1μmの水素発生触媒として白金膜を形成した。続いて、厚さ50μmの感光性エポキシ樹脂をITO層上に塗布し、露光・現像処理により感光性エポキシ樹脂層にドット状の開口部を設けた。その後、開口部に電解めっきにより導電層としてニッケルを50μmの厚さで形成した。続いて、OとCFの混合ガスを用いたRIE処理により感光性エポキシ樹脂層のみを厚さ5μmになるまでエッチングした。この際、ニッケル層は円柱状の形をしていた。
【0101】
続いて、電着法により露出するニッケル層表面に酸化触媒としての厚さ20nmの水酸化コバルト触媒を形成した。光入射面からみた触媒/透明誘電体のパターンは、触媒部がドット状で三角格子の配列パターンであった。この際の触媒部の面積率は10%であった。次に、セルを正方形状に切り出して、エッジ部分を熱硬化性エポキシ樹脂で封止し、光照射面の露出部分の面積が1cmになるようにした。
【0102】
(実施例6−2)
実施例6−2においては、ニッケル層を電解めっきで形成するまでは実施例6−1と同様とし、その後のOとCFの混合ガスを用いたRIE処理で感光性エポキシ樹脂層が5.5μmになるまでエッチングした。次いで、アルゴンプラズマのみを用いたRIE処理を行うことで、ニッケルピラー部を先鋭化してテーパー状にした。次いで、OとCFの混合ガスを用いたRIE処理を再度行い、感光性エポキシ樹脂層が厚さ5μmになるまでエッチングした。その後、ニッケル層表面に電着により厚さ20nmの水酸化コバルト触媒を形成し、実施例6−1と同様にして1cmのセルを作製した。
【0103】
(実施例6−3)
【0104】
実施例6−1と同様の構造体を準備し、SUS基板の裏面にスパッタ法により1μmのPt膜を形成した。続いて、ITO面上に厚さ5μmの感光性エポキシ樹脂を塗布し、露光・現像処理によりドット状の開口部を設けた。開口部中に電着により厚さ20nmの水酸化コバルト触媒を形成し、実施例6−1と同様にして1cmのセルを作製した。
【0105】
光電気化学反応の効率は、以下のようにして測定した。まず、リン酸緩衝液(pH=6.7)を電解液として含む閉鎖系の電解液槽中にセルを浸漬させた。この際、セル周辺部にはエポキシ樹脂を用いて陽イオン交換膜を貼り付け、これにより酸化側と還元側に溶液を二分した。次に、実施例1と同様の評価を行った。この際、実施例6−3の耐久時間および生成効率を1としたときの各セルの相対値を算出した。結果を表5に示す。
【0106】
【表5】
【0107】
表5から明らかなように、導電層を有する実施例6−1、6−2は、実施例6−3よりも耐久時間が長くなる。これは、実施例6−3において触媒層から電解液の腐食が生じるのに対して、導電層を導入することでより耐久性の向上が得られるためである。さらに、実施例6−1、6−2は、実施例6−3よりも触媒層の高さが高いために効率が高くなる。特に、実施例6−2は最も効率が高い。これは、導電層をテーパー状にすることによって、光の利用効率が高くなるためである。
【0108】
(実施例7)
実施例7では、透明誘電体層として無機材料の陽極酸化アルミニウム膜を有する光電気化学セルを作製して評価した。まず、光電変換層として実施例1と同様のpin型のa−Si/a−SiGe/a−SiGeからなる三接合型の光電変換層(厚さ500nm)、光電変換層上の透明導電膜としてITO電極(厚さ100nm)、光電変換層下面の電極層としてZnO電極(厚さ300nm)を有し、電極層下面にAg反射層(厚さ200nm)および支持基板としてSUS基板(厚さ1.5μm)を有する構造体を準備した。
【0109】
次に、ITO層上にスパッタリング法により厚さ500μmのAl膜を形成した。次いで、0.3mol/Lのシュウ酸溶液(15℃)中にて40Vで1段階目の陽極酸化を行った。続けて2段階目の陽極酸化を同一の条件で行い、ITO基板上にドット状の開口部を有するポーラスなアルミナ層を形成した。次に、水酸化カリウムによるエッチングを行うことによって、開口部中に存在するアルミナ層を除去してITO層を露出させた。形成したポーラスアルミナの開口部は、三角格子状に配置され、平均直径は50nm、平均開口部間距離は100nmであった。
【0110】
その後、原子層堆積法(ALD)により酸化触媒としての酸化コバルト触媒をポーラスアルミナの開口部中に充填されるまで成膜した。その後、Arイオンミリングによりポーラスアルミナ層上に成膜された酸化コバルト触媒を除去した。この際の酸化コバルト触媒とアルミナ層の複合構造の厚さは300nmであった。続いて、SUS基板の裏面に還元触媒層としてCO還元触媒のAu膜(厚さ1000nm)を真空蒸着法により成膜した。次に、セルを正方形状に切り出して、エッジ部分を熱硬化性エポキシ樹脂で封止し、光照射面の露出部分の面積が1cmになるようにした。
【0111】
(比較例7−1)
セルのITO層上に薄膜状の酸化コバルト触媒のみを形成する以外は、実施例7と同一の構造を有するセルを準備した。酸化コバルト触媒の厚さは10nmであった。
【0112】
(比較例7−2)
酸化コバルト触媒層の厚さを50nmにする以外は、比較例7−1と同一の構造を有するセルを準備した。
【0113】
作製した光電気化学セルの特性を実施例3と同様にして評価した。評価の結果、実施例7のセルは比較例7−1、7−2と比較して耐久時間が長く、また生成量も多かった。
【0114】
(実施例8)
実施例8では、導電部と触媒部との積層部間の間隙に透明誘電体部を配置した触媒層を有する光電気化学セルを作製して評価した。まず、実施例1と同様に、ITO電極(厚さ100nm)、pin型のa−Si/a−SiGe/a−SiGeからなる三接合型の光電変換層(厚さ500nm)、ZnO電極(厚さ300nm)、Ag反射層(厚さ200nm)、およびSUS基板(厚さ1.5μm)を有する構造体を準備した。
【0115】
次に、ITO層上に原子層堆積法により厚さ10nmのTiN膜を導電膜として形成した。TiN膜上に複数の触媒部を所定の間隙を持って配置した。複数の触媒部は以下のようにして形成した。TiN膜上にスピンコートにより厚さ5μm程度のポジ型レジストを塗布した後、ホットプレート上でプリベーク処理を行った。マスクを用いたi線露光装置による露光および現像処理を行うことによって、レジスト層に複数の開口部を設けた。触媒層の電着時における均一性を高めるために、親水化の目的でアッシングを行った。硝酸ニッケルを用いた電着法によって、水の酸化触媒としてNi(OH)触媒をマスクの開口部(ITO層の露出部)に形成した。有機溶媒を用いてレジスト層を剥離することによって、間隙部を有する触媒部(触媒層)を形成した。
【0116】
触媒部(触媒層)の厚さは200nmとした。触媒部と導電部の積層部の形状は直径20μmとし、そのような積層部を三角格子状に配列した。積層部(触媒部)の中心と隣り合う積層部(触媒部)の中心を結んだ距離の平均値は34.5μmであった。積層部(触媒部)の面積率(光入射面側から見た光照射面における触媒部の占める割合)は30%であった。同様の方法で、ITO膜付きガラス基板上に作製した積層部(触媒部)の太陽光に対する透過率を評価したところ、72%程度であった。太陽光の透過率は、実施例1に示した方法により算出した。
【0117】
次いで、TiN膜の積層部(触媒部)間に露出する部分を酸化処理した。酸化処理は陽極酸化により実施した。1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液中に作用極として試料を、参照極としてHg/HgO(1M−NaOH)を、対極として白金ワイヤーを浸漬することにより陽極酸化を行った。電解液に浸漬させる際に、試料の光入射面のみが露出するようにカプトンテープで保護した。事前にサイクリックボルタメトリー法によりTiNの酸化が+0.75V(参照極比較)より高い電位で生じることを確認した。TiN膜の陽極酸化は+1.5V(参照極比較)で10分間行った。X線光電子分光法(XPS)による解析の結果、陽極酸化処理前のTiN膜中の酸素量は5原子%程度であったのに対して、処理後は酸素量が95原子%程度まで増加していることを確認した。
【0118】
続いて、SUS基板の裏面に還元触媒として水素発生触媒のPt膜(厚さ500nm)を真空スパッタ法により成膜した。この後、セルを正方形状に切り出し、エッジ部分を熱硬化性エポキシ樹脂で封止し、光照射面の露出部分の面積が1cmになるようにした。
【0119】
(比較例8−1)
TiN膜およびTiNの酸化被膜を形成することなく、セルのITO層全面に薄膜状のNi(OH)触媒のみを形成する以外は、実施例8と同一の構造を有するセルを準備した。Ni(OH)触媒の厚さは15nmであった。
【0120】
(比較例8−2)
Ni(OH)触媒層の厚さを30nmにする以外は、比較例8−1と同一の構造を有するセルを準備した。
【0121】
(比較例8−3)
Ni(OH)触媒層の厚さを45nmにする以外は、比較例8−1と同一の構造を有するセルを準備した。
【0122】
(比較例8−4)
TiN膜およびTiNの酸化被膜を形成することなく、セルのITO層上に実施例8と同様な間隙を有するNi(OH)触媒を形成する以外は、実施例8と同一の構造を有するセルを準備した。
【0123】
上述した実施例8および比較例8−1〜4のセルによる光電気化学反応の効率を測定した。光電気化学反応の効率は、以下のようにして測定した。まず、1M−NaOHの強アルカリ溶液を電解液として含む閉鎖系の電解液槽中にセルを浸漬させた。この際、セル周辺部に陽イオン交換膜(ナフィオン(商品名、デュポン社製))を、エポキシ樹脂を用いて貼り付けることによって、槽内の電解液を酸化側と還元側に二分した。
【0124】
次に、酸化触媒層面側(ITO面側)にソーラーシミュレータ(AM1.5、1000W/m)を用いて光照射した。一定時間毎に電解液槽中のガスの定量分析をガスクロマトグラフィー分析(GC)にて行った。分析の結果、同定されたガス種は酸化側では酸素、還元側では水素であった。評価は、光照射開始から水素の発生が確認されなくなるまでの時間を耐久時間、光照射開始から耐久時間までの水素発生量の単位時間当たりの平均値を生成効率とした。耐久時間に生成効率を乗じたものを生成量とした。比較例8−1のセルでの耐久時間および生成効率を1として、各セルの耐久時間と生成効率を比較例8−1に対する相対値として算出した。それら結果を表6に示す。
【0125】
【表6】
【0126】
表6から明らかなように、比較例8−1、8−2、8−3のように受光面全面に薄膜状の触媒を形成した光電気化学セルでは、触媒層の膜厚が厚くなるに伴って耐久時間が向上する。比較例8−1では触媒層の膜厚が薄すぎ、ITO面が均一に触媒層で被覆されていないため、耐久時間が短かった。効率は触媒層が厚くなるにしたがって光損失が生じるために低下する。比較例8−4のようにITO面上に触媒部のみを配列した光電気化学セルでは、効率が高い反面、露出するITO膜部分から腐食が生じるために耐久時間が短い。
【0127】
実施例8では、導電層と触媒層との積層膜と耐食性に優れる金属酸化被膜との複合構造を用いているため、電解液による腐食が抑制され、耐久時間は比較例8−1の4倍の向上が認められた。触媒層をパターニングして光の受光面を確保しているため、効率も比較的8−2、8−3と比べて高かった。結果として、生成量で比較した場合、実施例8のセルは比較例8−1と比べて3.2倍程度の水素の生成量が得られることが確認された。
【0128】
(実施例9)
実施例9では、光電気化学セルの光入射面にライン状の還元触媒層を配置したセルを作製して評価した。まず、InGaP層、InGaAs層、およびGe層からなるpn接合型の三接合光電変換層、光電変換層の入射面上に形成されたITO透明導電膜、光電変換層の裏面上に形成されたAu電極を有する構造体を準備した。三接合光電変換層の詳細な構成は、実施例5と同様とした。
【0129】
ITO層上に導電膜として厚さ500nmのAl膜を真空スパッタ法により形成した。実施例8と同様にリソグラフィー法により開口部を有するレジストパターンをAl膜上に形成した。次いで、開口部内にCO還元触媒としての厚さ1μmのAu膜を真空蒸着法により形成し、レジストを除去してリフトオフすることによって、Al膜上にライン状のAu触媒層を形成した。Au触媒層の線幅は5.5μmとし、これを格子状に配置した。Al膜を一辺が100μmの正方形にAu触媒層で分割した。ほう酸アンモニウム水溶液中で作用極として試料(セル)を、対極として白金ワイヤーを浸漬し、Au触媒層間に露出するAl膜が完全に酸化されるまで陽極酸化を行った。この際、カプトンテープを用いてセルの光入射面のみが露出するように保護した。
【0130】
次に、SUS基板を準備して、その上に水酸化触媒としての酸化ルテニウム膜をスパッタ法により成膜した。この酸化ルテニウム/SUS基板が対極として使用される。続いて、セルおよび対極を4cmの正方形に切り出した後。銅線を用いてSUS基板と光電変換層裏面のAu電極層を電気的に接続した。最後に、セルの光入射面および酸化触媒面のみが電解液に露出するように、エポキシ樹脂により封止した。
【0131】
(比較例9−1)
セルのITO面上に薄膜状のAu触媒層のみを形成する以外は、実施例9と同一の構造を有するセルを準備した。Au触媒層の厚さは5nmであった。
【0132】
(比較例9−2)
Au触媒層の厚さを10nmにする以外は、比較例9−1と同一の構造を有するセルを準備した。
【0133】
(比較例9−3)
Al膜を形成することなく、セルのITO層上に実施例9と同様な間隙を有するAu触媒層を形成する以外は、実施例9と同一の構造を有するセルを準備した。
【0134】
次に、作製した光電気化学セルを、COガスを60分間バブリングした0.1M−KHCO溶液を含む閉鎖系の電解液槽中に浸漬した。この際、還元触媒部と酸化触媒部を陽イオン交換膜(ナフィオン)により隔てて二分した。次に、還元触媒層面にソーラーシミュレータ(AM1.5、1000W/m)を用いて光を照射した。その後、電解液槽中のガスの定量分析を一定時間毎にGCにて行った。分析の結果、還元触媒側で同定されたガス種は水素と一酸化炭素であった。
【0135】
上述した測定の結果、実施例9では比較例9−1および9−2と比べて効率、耐久時間、およびCOの生成量が高いことが確認された。実施例9で比較例9−1、9−2に対して高い効率が得られた理由は、比較例では光入射面全面に金属触媒が形成されるために光損失が高くなるためである。実施例9のセルは、比較例9−3に対して効率が同程度であるものの、耐久時間が高かった。その結果として、CO生成量も高い結果が得られた。これは、実施例9においては触媒層直下の導電層および酸化被膜が電解液に対して耐食性を有するため、耐久時間が向上したためと考えられる。
【0136】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10
図11