(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239753
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】トリクロロシランの製造
(51)【国際特許分類】
C01B 33/107 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
C01B33/107 Z
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-530430(P2016-530430)
(86)(22)【出願日】2014年7月22日
(65)【公表番号】特表2016-525497(P2016-525497A)
(43)【公表日】2016年8月25日
(86)【国際出願番号】EP2014065716
(87)【国際公開番号】WO2015014670
(87)【国際公開日】20150205
【審査請求日】2016年3月24日
(31)【優先権主張番号】102013215011.3
(32)【優先日】2013年7月31日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソボタ,マレク
(72)【発明者】
【氏名】アルバー,アンネ
【審査官】
小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−234776(JP,A)
【文献】
特開2006−100255(JP,A)
【文献】
LOBREYER, T., et al.,SILICON FOR TRICHLOROSILANE PRODUCTION BASIC RESEARCH AND DEVELOPMENT,SILICON FOR THE CHEMICAL INDUSTRY III,ノルウェー,NORWEGIAN UNIVERSITY OF SCIENCE AND TECHNOLOGY,1996年 6月18日,p.147-155
【文献】
前田正史,高純度シリコンのマーケットとその製造技術,生産研究,1986年 9月,第38巻,第9号,第425−433頁,特に第431頁、表9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00−33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属シリコン(mg−Si)とHClとの反応によってトリクロロシラン(TCS)を製造する方法であって、0.08wt%以上0.12wt%以下のチタン含有量を有するmg−Siを利用することを含む、方法。
【請求項2】
前記mg−Siが、30ppmw以上のリン含有量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記mg−Siが、凝固中に最大平均厚さ30mmまたは最大平均直径15mmを示す、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記mg−Siが、水砕によって製造されたものである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記mg−Siが、98wt%超のSi含有量を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記反応が、280から400℃の温度下で行われる、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記反応が、320から380℃の温度下で行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記反応が、0.1から30バールの圧力下で行われる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記反応が、1から4バールの圧力下で行われる、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリクロロシラン(TCS)を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリクロロシランは、典型的には、流動床法において金属シリコンおよび塩化水素から製造される。その後、高純度のトリクロロシランを製造するために蒸留が行われる。
【0003】
US4092446Aは、シリコン粒子からなるシリコン床に塩化水素流が流れ込む、反応器を開示している。塩化水素は、シリコン粒子と反応し、四塩化ケイ素(STC)、TCSおよび水素を形成する。
【0004】
STCを水素化してTCSを形成することも知られている。これは、STCを水素と反応させて、TCSおよび塩化水素を形成することによって行われる。
【0005】
ほとんどのSTCは、多結晶シリコンの析出中に生じる。多結晶シリコンは、例えば、シーメンス法によって生産される。シーメンス法は、反応器における加熱された細いロッド上にシリコンを析出させることを含む。シリコン含有成分として使用されるプロセスガスは、水素存在下のハロシラン、例えばTCSである。結果として、析出において副生するSTCからTCSを生成すること、および元素シリコンを製造するためにそのTCSを析出プロセスに戻すことが可能である。
【0006】
化学反応の選択性は、化学量論を考慮した、所望の目的生成物に転化されたすべての転化された出発材料の割合を示す。
【0007】
金属シリコン(mg−Si)およびHClのTCS(HSiCl
3)への転化は、これと共に水素および副生成物を生じさせる。
Si+3HCl=HSiCl
3+H
2+副生成物 (1)
反応(1)において形成される副生成物の量、したがって、モル分率TCS/(TCS+副生成物)として示されるTCS選択性は、とりわけ、用いられたmg−Si中の不純物(混合した元素)の触媒活性を含む、様々な因子の影響を受ける。
【0008】
mg−Si中の不純物、またはmg−Siへの触媒の添加は、反応の選択性に影響を与えうることが知られている。不純物の中には、良い影響を与え、したがって、選択性を高めるものがある。反対に、悪影響を与える不純物もある。選択性に対する混合した個々の元素の影響が分かれば、最適なTCS選択性を実現するために、それらの元素の濃度を、使用されるmg−Siについて特定することができる。
【0009】
US20090060818A1は、シリコンとHClとの反応、またはシリコンおよび触媒の存在下でのSTCと水素との反応によってTCSを製造する方法を特許請求している。使用される触媒としては、例えば、Fe、Cu、Al、V、Sbおよびこれらの化合物がある。シリコンおよび触媒は、一緒に積層され、反応の前に粒径が低減される。シリコンと触媒との直接接触はとりわけ、副生成物の収率を明らかに低下させ、したがって、TCS選択性を高める。
【0010】
EP0489441B1は、STCの収率を上げる触媒を使用した、HClとシリコンとの反応によってシランを製造する方法を特許請求している。有用な触媒としては、Sn、Ni、As、Pd、Rh、Pt、Ir、Alおよびこれらの化合物がある。
【0011】
US2499009Aは、DCS約20%という高収率でクロロシランを製造する方法を開示している。第1のステップにおいて、シリコンをハロゲン化Cuと共に加熱し、ケイ化銅を得て、次いで、これをHClと反応させて、クロロシランを形成する。
【0012】
WO2005003030A1は、移動床反応器、撹拌床反応器または固定床反応器において、250から1100℃の温度および0.5−30atmの絶対圧下でのSiとHClガスとの反応によってTCSを製造する方法であって、反応器に供給されるSiが30から10000ppmのCrを含む、方法を開示している。
したがって、Crを多く含むmg−Siを使用することは、高いTCS選択性をもたらすはずである。
【0013】
WO2012021064A1は、移動床反応器、撹拌床反応器または固定床反応器において、250から1100℃の温度および0.5−30atmの絶対圧下でのSiとHClガスとの反応によってTCSを製造する方法であって、反応器に供給されるSiが、40から10000ppmのBa、および場合によって40から10000ppmのCuを含む、方法を特許請求している。
【0014】
したがって、Baを多く含むmg−Siを使用することは、高いTCS選択性をもたらす。TCS選択性は、Cuの添加によってさらに高まる。
【0015】
US5871705Aは、シリコンと塩化水素との反応によってTCSを製造する方法であって、シリコンと塩化水素との反応の間またはその前に、ジクロロシラン(DCS)、モノクロロシラン(MCS)およびモノシランからなる群から選択される少なくとも1種のシラン化合物をシリコンと接触させることを含む、方法を提示している。シリコン表面の酸化物層を除去するために、シリコンをシラン化合物とこのように接触させ、これによって、HClへの反応性が高まる。この文献は、アルカリ金属化合物、およびシリコンと塩化水素とからTCSを生成する触媒活性を有する触媒の存在下で、シリコンと塩化水素との反応を行うことも開示している。これは、STCを形成する反応を抑え、これによって、TCS選択性を高める。
【0016】
WO2006031120A1は、移動床反応器、撹拌床反応器または固定床反応器において、250から1100℃の温度および0.1−30atmの絶対圧下でのSiとHClガスとの反応によってTCSを製造する方法であって、反応器に供給されるSiが、100ppm未満のMnを含む、方法を説明している。100ppmより多いMnを含むmg−Siを使用すること、または反応器にMnを添加することは、より低い反応性およびTCS選択性をもたらす。
【0017】
Wakamatsuら、Silicon for the Chemical Industry IV、1998年、123−132頁は、選択された混合金属の触媒活性を調査した。比較的多い量の赤リン(200−2000ppm)をmg−Siに添加することは、TCS選択性に悪影響を与える。この影響は、FeCl
2の添加によってさらに強まる。
【0018】
WO2012152434A1は、その後のTCS合成にとって良い特性を有する球状のmg−Si粒子を製造する方法を説明している。溶融mg−Si(意図的な混合物を含みうる。)をアトマイズすることによって生成される粒子は、20−425μmの平均粒径を有する。以下の混合した元素の濃度は、特定される:Cu(0.01−2wt%)、Al(1wt%以下)、Ca(0.02wt%以下)、C(400ppm未満)、B(15ppm以下)およびP(15ppm以下)。
【0019】
したがって、先行技術は、mg−Si中の不純物、またはmg−Siへの触媒の添加が、反応の選択性に影響を与えうることを開示し、そこでは、TCS選択性への良い影響は、Cr、Baおよびアルカリ金属化合物について報告され、その一方で、副生成物の形成が増加した故に、TCS選択性への悪影響は、とりわけ、Mn、Ni、Cuおよび赤リンで観察された。
【0020】
mg−Si中の不純物の濃度は、使用される原材料(ケイ砂、石炭、コークス、電極)の組成、ならびにmg−Siの生成プロセスおよびその後の精製の実行に依存する。
【0021】
mg−Si中の不純物の大部分は、液状mg−Siの凝固の間にシリコン粒の間の界面に析出する金属間相に存在する。シリコンの粒度、ならびに金属間相の形、大きさおよび分布は、凝固速度に依存し、速い冷却速度は、遅い冷却に比べて、より薄いおよびより均等に分布した金属間相を有する、より小さい初晶シリコン粒の形成をもたらす。
【0022】
シリコン微結晶間の不純物相の分布は、例えば、US5334738Aで規定されている構造パラメーターQFを参照することによって定量化することができる。この文献は、直接合成によってメチルクロロシランを製造する方法であって、個々のメチルクロロシランの生産率が、特定の構造(金属間相の形に関して。)を有するmg−Siを使用することによって制御される、方法を説明している。この目的のために、構造パラメーターQFは、シリコンのサンプルの断面上で縦長の形を有する金属間相すべての総面積と、円形を有する金属間相すべての総面積との商として規定されている。QF値は、シリコン融液の凝固速度に依存し、ゆっくり凝固したSiは、低いQF値を有するが、速く凝固したSiは、高いQF値を示す。適切な構造を有しているので、水砕した(water−granulated)シリコン(すなわち、一般に、構造パラメーターQFが18から60であるシリコン)が、その方法において使用される。
【0023】
mg−Si融液は、典型的には、10−40cm厚のインゴットに鋳造され(遅い冷却速度)、冷却されると、粉砕され、ふるいにかけられる。
【0024】
GB1213845Aは、溶融合金を層ごとに鋳型に入れること(多層鋳造(multilayer casting))を含む、合金鉄を鋳造する方法を開示している。まず、合金鉄の第1の層は、底部床(ground−level bed)の粒状材料に流し込まれる。これは、冷却後に層状の合金鉄を底部床から取り出すことを可能にする。
【0025】
より速い冷却速度は、例えば、薄層鋳造(thin layer casting)、水砕(water−granutation)またはガスアトマイズによって実現される。
【0026】
Bullonら(Infacon X、2004年、147−154頁)は、水冷した銅板上で、薄層(約1.5cm)でシリコン金属を鋳造する方法を開示している。凝固が速い(約30秒)ため、形成されたシリコン粒は、平均の大きさが、わずか約100μm(従来の鋳型が使用された場合、300μm)である。
【0027】
Brekkenら(Silicon for the Chemical Industry III、1996年、33−45頁)は、シリコン金属の水砕の方法を説明している。生成された粒状体の78%が、3−10mmの大きさであり、これは、得られた冷却速度によって、金属間相の好ましい分布をもたらす。
【0028】
US4986971Aは、280から300℃の温度下でのSi粉末とHClの反応によって、流動床反応器においてTCSを製造する方法であって、Si粉末が、溶融シリコンのガスアトマイズによって生成され、好ましくは、約1から約100μmの粒径を有する、方法を開示している。
【0029】
mg−SiのP混入は、2桁半ばのppmw範囲であっても、TCS選択性に悪影響を与えることが判明している。15ppmw超から30ppmw未満のP含有量を有するmg−Siの使用は、高いTCS選択性を実現させる。
【0030】
市販のmg−Siは、通常、20から50ppmwのリンを含む。P含有量が少ない(30ppmw未満の)シリコンは、例えば、mg−Siの製造においてリンの少ない原材料(ケイ砂、石炭、コークス、電極)を使用することによって得ることができる。炉に入れられるリンの一部は、オフガスによって炉を出る。Pが非常に少ないmg−Siを得るためには、オフガスによって炉を出るPの割合が、最大にされるべきである。これは、例えば、炉の連続出滓によって実現することができる。
【0031】
場合によって、リン含有量は、シリコンの単離後にさらに減少させることもできるが、これは、追加費用を伴う。先行技術は、シリコンのリン含有量をその後に減少させる様々な方法を開示している。
【0032】
例えば、US20120260850A1は、過飽和Al−Si融液からの再結晶化によるmg−Siの精製(向流カスケード方式)を説明している。
【0033】
US2007245854A1は、N
2および/またはAl
2O
3もしくはAlが溶融mg−Siに添加され、mg−Siに存在するPおよびBを蓄積するスラグを形成する方法を説明している。次いで、精製された溶融Siは、スラグから分離される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0034】
【特許文献1】米国特許第4092446号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0060818号明細書
【特許文献3】欧州特許第0489441号明細書
【特許文献4】米国特許第2499009号明細書
【特許文献5】国際公開2005/003030号
【特許文献6】国際公開2012/021064号
【特許文献7】米国特許第5871705号明細書
【特許文献8】国際公開第2006/031120号
【特許文献9】国際公開第2012/152434号
【特許文献10】米国特許第5334738号明細書
【特許文献11】英国特許出願公開第1213845号明細書
【特許文献12】米国特許第4986971号明細書
【特許文献13】米国特許出願公開第2012/0260850号明細書
【特許文献14】米国特許出願公開第2007/245854号明細書
【非特許文献】
【0035】
【非特許文献1】Wakamatsuら、Silicon for the Chemical Industry IV、1998年、123−132頁
【非特許文献2】Bullonら(Infacon X、2004年、147−154頁)
【非特許文献3】Brekkenら(Silicon for the Chemical Industry III、1996年、33−45頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0036】
本発明の目的は、P含有量が比較的多い(30ppmw以上の)mg−Siを使用した場合でも、高いTCS選択性でmg−SiおよびHClからTCSを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0037】
この目的は、金属シリコン(mg−Si)とHClとの反応によって、トリクロロシラン(TCS)を製造する方法であって、0.06wt%超のチタン含有量を有するmg−Siを利用することを含む、方法によって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0038】
0.08wt%以上0.12wt%以下のチタン含有量を有するmg−Siを使用することが好ましい。
【0039】
30ppmw以上のリン含有量を有するmg−Siを使用することが特に好ましい。
【0040】
凝固中に最大平均厚さ30mmまたは最大平均直径15mmを示す、mg−Siを使用することが好ましい。
【0041】
速い冷却速度で凝固されたmg−Siを使用することが好ましい。速く凝固されたmg−Siとは、特に、薄層鋳造(TL)、多層鋳造、水砕(WG)およびガスアトマイズによって製造され、凝固中に最大平均厚さ30mm(薄層Si、多層鋳造Si)または最大平均直径15mm(水砕、ガスアトマイズ)を示すmg−Siを意味すると理解すべきである。
【0042】
水砕によって製造されたmg−Siを使用することが特に好ましい。
【0043】
mg−Siとは、95wt%から99.8wt%のシリコン含有量を有するシリコンを意味すると理解すべきである。
【0044】
使用されるmg−Siは、好ましくは、98wt%超、99.8wt%以下のSi含有量を有する。
【0045】
反応は、好ましくは、280から400℃の温度下で行われ、320から380℃の温度が特に好ましい。
【0046】
反応は、好ましくは、0.1から30バールの圧力下で行われ、1から4バールの圧力が特に好ましい。
【0047】
本発明者らは、mg−SiのP混入が、2桁半ばのppmw範囲(約30ppmwから)でも、TCS選択性に悪影響を与えることを示すことができた。最先端の技術に従って、リン含有量が低い(25ppmw未満の)mg−Siを製造することが可能である。しかし、これは、さらなる出費および不都合を伴う。
【0048】
驚くべきことに、TCS選択性に対するリンの悪影響は、0.06wt%超、好ましくは0.08wt%以上0.12%以下のチタン含有量を有するmg−Siを使用することによって軽減され、結果として、高いTCS選択性は、許容される原材料コスト(mg−Si)で実現されることが判明した。
【0049】
0.06wt%超のTi含有量を有するmg−Siは、Tiに富むケイ砂を使用することによって、またはTi含有化合物を炉に添加することによって製造することができる。
【0050】
TCS選択性は、用いられる、Tiに富むmg−Siが、速い冷却速度で凝固された場合にさらに高まる。
【0051】
HClと、0.06wt%超のチタン含有量を有するmg−Siとの反応によるTCSの製造は、好ましくは、流動床反応器、撹拌床反応器または固定床反応器において行われる。
【実施例】
【0052】
本発明の利点を、実施例および比較例を参照して、以下でより具体的に説明する。
【0053】
実施例および比較例
以下の例の実験を、ステンレス製の実験用流動床反応器において行った。
【0054】
試験するmg−Siサンプルのチタンおよび/またはリン含有量を、蛍光X線分析(XRFA)によって決定した。
【0055】
この目的のために、mg−Siを、半自動ディスクミル(Herzog製のHPM100)において細かく粉砕した(1500回転で、粉砕時間60秒)。
【0056】
細かく粉砕したmg−Si7gとカルナウバ蝋(結合剤)1.4gとを混合し、150℃で3分間乾燥し、めのう乳鉢において約30秒間細かく砕き、35tの圧力を使用して、20秒間加圧してタブレットにした。
【0057】
加圧したタブレットを、XRF(蛍光X線)分析装置において分析した。
【0058】
使用したXRF分析装置は、出力4kW、Rh管、300μmのコリメーター、LiF(200)結晶(Ti分析用)およびGe(111)c結晶(P分析用)、ならびにフロー検出器を有する、PANalytical B.V.製のAxios
mAXであった。
【0059】
TiおよびP含有量を、それぞれ、40Kvおよび32Kvの電圧、ならびにそれぞれ、100mAおよび/または125mAの電流で、最強のKα線で測定した。
【0060】
XRFAの結果を、独立の参照法、すなわち、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)との比較によって較正した。XRFAの較正関数を、様々なTiおよびP含有量(それぞれ、0.02−0.12wt%および23−86ppm)を有する1組10個のSiサンプルを使用して確定した。
【0061】
ICP−OESを、市販の標準溶液を使用して較正した。XRFAに関連する、実験の不確実性(4σ)は、チタンについて30ppmwであり、リンについて3ppmwである。
【0062】
10gのmg−Si(市販の、冷却形態:砕片(FR)、薄層(TL)、水砕(WG)の、粉砕してふるいにかけて0−355μmにした、Si含量98.4−99.2wt%、Fe含有量0.34−0.75wt%、Al含有量0.19−0.36wt%、Ca含有量0.02−0.13wt%、Ti含有量0.02−0.10wt%のもの)を反応器に入れて、1.5バール(絶対圧)の圧力下で、そのmg−Siを100sccmのHClと反応させることによって、各実験を行った。
【0063】
反応器ハウジングを323℃に加熱し、反応部の温度は、反応の発熱性が高かったので、約360℃であった。
【0064】
反応生成物を、質量分析(オンラインガス流分析)およびガスクロマトグラフィー(オフライン凝縮物分析)によって分析した。
【0065】
平均のTCS選択性を、各実験について、13−38%のシリコン転化率で決定した。
【0066】
例1、サンプルA、本発明
速い冷却(TL)により製造し、高いチタン含有量(0.062wt%)および通常のP含有量(30ppmw)を有するmg−Siサンプルを、上記に従って、HClと反応させた。
【0067】
このサンプル(A)を使用して、95.6%のTCS選択性を実現した(表1を参照されたい。)。
【0068】
例2、サンプルB、本発明
速い冷却(WG)により製造し、高いチタン含有量(0.10wt%)および高いP含有量(40ppmw)を有するmg−Siサンプルを、上記に従って、HClと反応させた。
【0069】
このサンプル(B)を使用して、95.6%のTCS選択性を実現した(表1を参照されたい。)。
【0070】
例2、サンプルCおよびD、本発明
通常の冷却(FR)により製造した2mgのSiサンプルであって、高いチタン含有量(それぞれ、0.082wt%および0.10wt%)および高いP含有量(それぞれ、39ppmwおよび41ppmw)を有するSiサンプルを、上記に従って、HClと反応させた。
【0071】
これらのサンプル(CおよびD)を使用して、それぞれ、94.5%および94.0%のTCS選択性を実現した(表1を参照されたい。)。
【0072】
【表1】
【0073】
例3、比較例、本発明ではない(サンプルE、F、G、およびH)
通常の冷却(FR)により製造し、通常のTi含有量(0.023−0.032wt%)を有する4mgのSiサンプルを、上記に従って、HClと反応させた。第1に、これらのサンプルは、Ti含有量が通常である場合、P含有量の増加と共に、TCS選択性が低下することを示す(表2を参照されたい。)。
【0074】
第2に、サンプルGは、Tiに富むサンプルA(通常のP含有量および速い冷却速度)に対する比較例となり、サンプルHは、Tiに富むサンプルB(高いP含有量および速い冷却速度)、ならびにTiに富むサンプルCおよびD(高いP含有量および通常の冷却速度)に対する比較例となる。
【0075】
この比較(A対G、BからD対Hぞれぞれ)から、(P含有量が同様である場合)本発明による高いチタン含有量(0.06wt%超)を有するサンプルは、通常のTi含有量(0.04wt%未満)を有するサンプルよりも1.8−3.9%高いTCS選択性を示すことが分かる。
【0076】
最後に、高いTi含有量、同様の(高い)P含有量および異なる冷却速度を有するサンプルを互いに比較する(B対CおよびD)。
【0077】
これは、速く冷却されたサンプル(B)が、普通に冷却されたサンプル(CおよびD)よりも1.1−1.6%高いTCS選択性を示すことを示す。
【0078】
【表2】