特許第6239766号(P6239766)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6239766アンチモンフリーガラス、アンチモンフリーフリット、およびそのフリットで気密封止されるガラスパッケージ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239766
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】アンチモンフリーガラス、アンチモンフリーフリット、およびそのフリットで気密封止されるガラスパッケージ
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/21 20060101AFI20171120BHJP
   C03C 8/08 20060101ALI20171120BHJP
   C03C 8/24 20060101ALI20171120BHJP
   C03C 27/06 20060101ALI20171120BHJP
   H05B 33/04 20060101ALI20171120BHJP
   H01L 23/02 20060101ALI20171120BHJP
   H01L 51/50 20060101ALN20171120BHJP
【FI】
   C03C3/21
   C03C8/08
   C03C8/24
   C03C27/06 101A
   H05B33/04
   H01L23/02 D
   !H05B33/14 A
【請求項の数】12
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-538986(P2016-538986)
(86)(22)【出願日】2014年8月22日
(65)【公表番号】特表2016-534972(P2016-534972A)
(43)【公表日】2016年11月10日
(86)【国際出願番号】US2014052259
(87)【国際公開番号】WO2015031187
(87)【国際公開日】20150305
【審査請求日】2017年8月21日
(31)【優先権主張番号】61/870,419
(32)【優先日】2013年8月27日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】ドレイク,メリンダ アン
(72)【発明者】
【氏名】モレーナ,ロバート マイケル
【審査官】 山田 頼通
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−505827(JP,A)
【文献】 特開2010−184852(JP,A)
【文献】 特開2013−133343(JP,A)
【文献】 特開2013−157161(JP,A)
【文献】 特開2008−117767(JP,A)
【文献】 特表2006−524419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/00−3/32
C03C 8/00−8/24
C03C 27/00−27/12
H01L 23/02
H05B 33/04
H01L 51/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
≧40モル%および≦52.5モル%のV
≧15モル%および<25モル%のP
≧0モル%および≦10モル%のZnO;
>0モル%および<25モル%のFe
>0モル%および<25モル%のTiO;および
>0モル%および≦20モル%のB
を含み、
TiO+Feが15モル%〜30モル%の範囲内であり、T≦365℃を有する、
ことを特徴とするアンチモンフリーガラス。
【請求項2】
≧40モル%および≦52.5モル%のV
≧20モル%および<25モル%のP
≧0モル%および≦5モル%のZnO;
≧10モル%および<20モル%のFe
>2モル%および<20モル%のTiO;および
≧1モル%および≦20モル%のB
を含み、
TiO+Feが15モル%〜30モル%の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のアンチモンフリーガラス。
【請求項3】
≧40モル%および≦50モル%のV
≧20モル%および<25モル%のP
≧2モル%および<5モル%のZnO;
>0モル%および<20モル%のFe
>0モル%および<20モル%のTiO;および
≧3モル%および≦20モル%のB
を含み、
TiO+Feが15モル%〜30モル%の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のアンチモンフリーガラス。
【請求項4】
≧40モル%および≦50モル%のV
≧20モル%および<25モル%のP
≧2モル%および<5モル%のZnO;
>0モル%および<25モル%のFe
>0モル%および<25モル%のTiO;および
>5モル%および≦20モル%のB
を含み、
TiO+Feが15モル%〜30モル%の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のアンチモンフリーガラス。
【請求項5】
前記アンチモンフリーガラスのTgが≦350℃であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載のアンチモンフリーガラス。
【請求項6】
前記アンチモンフリーガラスがフリットを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のアンチモンフリーガラス。
【請求項7】
前記フリットがさらにCTE低下充填剤を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のアンチモンフリーガラス。
【請求項8】
TiO+Fe+Bが25モル%〜35モル%の範囲内であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載のアンチモンフリーガラス。
【請求項9】
≧40モル%および≦52.5モル%のV
≧20モル%および<25モル%のP
≧0モル%および≦10モル%のZnO;
>0モル%および<25モル%のFe
>0モル%および<25モル%のTiO
>0モル%および≦20モル%のB
を含み、
TiO+Feが15モル%〜30モル%の範囲内であり、T≦365℃を有する、
ことを特徴とするガラスフリット。
【請求項10】
TiO+Fe+Bが25モル%〜35モル%の範囲内であることを特徴とする請求項9に記載のガラスフリット。
【請求項11】
ガラスパッケージにおいて、
第1のガラス板と;
第2のガラス板と;
前記第1のガラス板を前記第2のガラス板に結合させ、それらの間に気密シールを形成するフリットと;
を備え、
前記フリットが、
≧40モル%および≦52.5モル%のV
≧20モル%および<25モル%のP
≧0モル%および≦10モル%のZnO;
>0モル%および<25モル%のFe
>0モル%および<25モル%のTiO
>0モル%および≦20モル%のB
を含み、
TiO+Feが15モル%〜30モル%の範囲内であり、T≦365℃を有する、
アンチモンフリーガラスを含むことを特徴とするガラスパッケージ。
【請求項12】
前記第1のガラス板と前記第2のガラス板との間に配置される有機材料をさらに含むことを特徴とする請求項11に記載のガラスパッケージ。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、米国特許法第119条に基づき、2013年8月27日に出願された米国仮特許出願第61/870419号明細書の優先権の利益を主張し、その内容は、その全体が参照により本明細書に依拠され援用される。
【技術分野】
【0002】
本開示は、ガラスのガラス転移温度を効果的に低下させる量のホウ素を含有するアンチモンフリーガラスと、それより製造されたフリットと、周囲環境に敏感な電子デバイスの保護に好適なそのフリットで封止された気密封止ガラスパッケージとに関する。このようなデバイスの一部の例は、有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイ、センサ、光起電装置、およびその他の光学装置である。本明細書において開示される実施形態は、一例としてOLEDディスプレイを用いて実証される。
【背景技術】
【0003】
OLEDは、多種多様なエレクトロルミネッセンスデバイスにおけるそれらの使用および潜在的な使用のために、近年の多数の研究の主題となっており、現在は商業化に至っている。たとえば、単独のOLEDは個別の発光デバイス中に使用することができ、あるいはOLEDアレイは照明用途またはフラットパネルディスプレイ用途(たとえば、OLEDディスプレイ)に使用することができる。OLEDディスプレイは、非常に明るく、色のコントラストが良好であり、広い視野角を有することが知られている。しかし、OLEDディスプレイ、特にその中に配置される電極および有機層は、周囲環境からOLEDディスプレイ中に漏れ出す酸素および水分との相互作用に起因する劣化が起こりやすい。OLEDディスプレイ中の電極および有機層が周囲環境から気密封止されると、OLEDディスプレイの寿命を大幅に延長できることがよく知られている。残念ながら、これまでOLEDディスプレイを気密封止する封止方法の開発は非常に困難であった。OLEDディスプレイの適切な封止を困難にする要因の一部を以下に簡単に言及する:
・気密シールは、酸素(10−3cc/m/日)および水(10−6g/m/日)の障壁となるべきである。
・OLEDディスプレイのサイズに対する悪影響が生じないように、気密シールのサイズは最小限(たとえば、<2mm)となるべきである。
・封止プロセス中に生じる温度によって、OLEDディスプレイ中の材料(たとえば、電極および有機層)が損傷されるべきではない。たとえば、OLEDディスプレイ中のシールから約1〜2mmに位置するOLEDの第1のピクセルは、封止プロセス中に100℃を超えるまで加熱されるべきではない。
・封止プロセス中に放出される気体は、OLEDディスプレイ中の材料を汚染すべきではない。
・気密シールは、電気的接続(たとえば、薄膜クロム)のOLEDディスプレイへの挿入が可能となるべきである。
【0004】
OLEDディスプレイの封止方法の1つは、放射線照射などによって硬化させた後にシールを形成する様々な種類のエポキシ、無機材料、および/または有機材料を使用することである。たとえば、一部のシールでは、無機材料および有機材料の交互の層をOLEDディスプレイの封止に使用できる複合材料系の方法が使用される。これらの種類のシールでは通常は良好な機械的強度が得られるが、これらは非常に高価となる場合があり、OLEDディスプレイ中への酸素および水分の拡散防止に失敗している例が多い。OLEDディスプレイを封止するための別の一般的な方法の1つは、金属溶接またははんだ付けを使用することである。しかし、この結果得られるシールは、OLEDディスプレイ中のガラス板と金属との熱膨張係数(CTE)の間の実質的な差のために、広範囲の温度において耐久性とならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
より最近では、封入される装置に優れた気密性を提供するガラスパッケージ中のガラス基板プレートを封止するために、ガラス系フリットが使用されている。しかしこれらのフリットの多くは、アンチモンなどの毒性元素を含有し、それによって環境災害が発生する。したがって、電子デバイス(たとえばディスプレイ型の用途)などのガラスパッケージの気密封止に好適であり、アンチモンを含有せず低熱膨張係数(CTE)を有するガラス系フリットが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示には、アンチモンフリーガラス、アンチモンフリーガラスを含むフリット、ならびに気密封止されたOLEDディスプレイ、および気密封止されたOLEDディスプレイの製造方法が記載される。基本的には、気密封止されたOLEDディスプレイは、第1のガラス基板プレートおよび第2のガラス基板プレートを提供するステップと、フリットを第2のガラス基板プレート上に堆積するステップとによって製造される。OLEDの製造中に使用されるものなどの有機材料を第1の基板プレート上に堆積することができる。次に照射源(たとえば、レーザー、赤外光)を使用してフリットを加熱することで、フリットが溶融して気密シールを形成し、それによって第1のガラス基板プレートが第2のガラス基板プレートに結合し、OLEDの保護も行われる。このフリットは、バナジウムと、場合によりCTE低下充填剤とを含むアンチモンフリーガラスであり、それによって、照射源がフリットに照射されると、フリットが加熱され、軟化して、基板プレート間に結合を形成しながら、OLEDに対する熱損傷は回避される。たとえばリン酸バナジウムフリット、特にアンチモン含有リン酸バナジウムフリットは、すぐ上に記載した種類のガラスパッケージの封止に特に好適であることが分かっている。このようなフリットは、安定であり、高い吸光度を示し、優れた機械的耐久性および耐水性を有する。残念ながら、アンチモンは毒性元素であり、フリットの他の有益な性質に悪影響を与えないアンチモンの代替物の発見に労力が向けられている。
【0007】
そのため、Sbを使用することなく、酸化アンチモンの代わりにFe+TiOの組合せを使用し、それとともに、流動性能を維持するためのZnOと、ガラスのガラス転移温度を低下させるためのBとを少量加えることによって、Sb−バナジウムリン酸塩フリットの優れた耐水性能が維持された。Feの存在は、耐久性の改善に最大の効果が得られることが分かった。しかし、これによってTが上昇し、そのため封止中のフリットの流動性が低下した。さらに、Fe量が多い(約25モル%以上)フリットは、酸化に対して不安定となる傾向があり、同じ計画(N中425℃)でサンプルを繰り返し焼成すると、異なる色(褐色または黒色)を示し、流動の程度に差が生じた。TiO単独では実際には耐水性がある程度低下したが、Fe+TiO+Bの組合せは、高耐水性および高T(≦365℃)の両方を有するレーザー封止可能なフリットを得る観点からは理想的な組合せであることが判明した。
【0008】
90℃の脱イオン水に曝露する実験台での試験と、レーザー封止したサンプルの85℃/85%相対湿度(RH)環境室試験との両方は、V−P−Fe−TiO−ZnO−B系を主成分とするフリットが、優れた封止特性を示す低Tgフリットを形成可能であることを示している。
【0009】
本発明のアンチモンフリーガラスは、≧40モル%から≦52.5モル%の範囲内の任意の量のVを含有することができ、好適な範囲の上限および下限はその範囲内にあり、たとえば≧40モル%から≦50モル%、≧40モル%から≦48モル%、≧42モル%から≦50モル%、≧42モル%から≦52.5モル%、または≧42モル%から≦48モル%である。
【0010】
本発明のアンチモンフリーガラスは、≧20モル%から<25モル%、≧20モル%から<24モル%、≧20モル%から<23モル%、または≧20モル%から<22.5モル%の量のPを含有することができる。
【0011】
本発明のアンチモンフリーガラスは、>0モル%から<25モル%、≧10モル%から≦20モル%、≧10モル%から≦18モル%、≧10モル%から≦16モル%、≧10モル%から≦15モル%、または≧10モル%から≦14モル%の量のFeを含有することができる。
【0012】
本発明のアンチモンフリーガラスは、>0モル%から<25モル%、≧5モル%から≦20モル%、≧5モル%から≦18モル%、≧5モル%から≦15モル%、または≧10モル%から≦18モル%の量のTiOを含有することができる。
【0013】
本発明のアンチモンフリーガラスは、≧0モル%から≦10モル%、≧2モル%から≦5モル%、≧0モル%から≦4モル%、または≧2.5モル%から≦5モル%の量のZnOを含有することができる。
【0014】
本発明のアンチモンフリーガラスは、>0モル%から≦20モル%、>0モル%から≦15モル%、>0モル%から≦10モル%、>0モル%から≦7.5モル%、≧1モル%から≦20モル%、≧3モル%から≦20モル%、または≧5モル%から≦15モル%の量のBを含有することができる。
【0015】
TiO+Feは15モル%〜30モル%の範囲内であってよく、一方、TiO+Fe+Bは25モル%〜35モル%の範囲内であってよく、ある実施形態においてはTiO+Fe+Bは27.5モル%〜35モル%の範囲内であってよい。
【0016】
したがって、本明細書に開示されるように:
≧40モル%および≦52.5モル%のV
≧20モル%および<25モル%のP
≧0モル%および≦10モル%のZnO;
>0モル%および<25モル%のFe
>0モル%および<25モル%のTiO
>0モル%および≦20モル%のB
を含み、TiO+Feが15モル%〜30モル%の範囲内であるアンチモンフリーガラスが記載される。
【0017】
本発明のアンチモンフリーガラスは、たとえば、
≧40モル%および≦52.5モル%のV
≧20モル%および<25モル%のP
≧0モル%および≦5モル%のZnO;
≧10モル%および<20モル%のFe
>2モル%および<20モル%のTiO
≧1モル%および≦20モル%のB
を含むことができ;
TiO+Feは15モル%〜30モル%の範囲内である。
【0018】
ある例においては、本発明のアンチモンフリーガラスは、
≧40モル%および≦50モル%のV
≧20モル%および<25モル%のP
≧2モル%および<5モル%のZnO;
>0モル%および<20モル%のFe
>0モル%および<20モル%のTiO
≧3モル%および≦20モル%のB
を含むことができ、
TiO+Feは15モル%〜30モル%の範囲内である。
【0019】
別の例においては、本発明のアンチモンフリーガラスは、
≧40モル%および≦50モル%のV
≧20モル%および<25モル%のP
≧2モル%および<5モル%のZnO;
>0モル%および<25モル%のFe
>0モル%および<25モル%のTiO
>5モル%および≦20モル%のB
を含むことができ、
TiO+Feは15モル%〜30モル%の範囲内である。
【0020】
本発明のアンチモンフリーガラスは、たとえば、
40モル%のV
20モル%のP
5モル%のZnO;
>7.5モル%および<15モル%のFe
>7.5モル%および<15モル%のTiO
>5モル%および≦20モル%のB
の組成を含むことができ、
TiO+Feは≧15および≦30モル%である。
【0021】
別の例において、本発明のアンチモンフリーガラスは、
47.5モル%のV
≧20モル%および<22.5モル%のP
2.5モル%のZnO;
>12.5モル%および<17モル%のFe
>2.5モル%および<9.5モル%のTiO
>1モル%および≦15モル%のB
の組成を含むことができ、
TiO+Feは≧15および≦26.5モル%である。
【0022】
本発明のアンチモンフリーガラスは、T≦365℃、たとえばTg≦350℃であってよい。
【0023】
ある実施形態においては、本発明のアンチモンフリーガラスは、たとえばガラスパッケージを形成するためのガラス板などのガラス物品を互いに封止するためのフリット中の成分であってよい。フリットは、β−ユークリプタイトまたはβ−石英などのCTE低下充填剤をさらに含むことができる。
【0024】
アンチモンフリーガラスのある実施形態においては、TiO+Fe+Bは25モル%〜35モル%の範囲内であってよい。
【0025】
アンチモンフリーガラスのある実施形態においては、TiO+Fe+Bは27.5モル%〜35モル%の範囲内であってよい。
【0026】
本明細書に開示される別の一実施形態においては、
≧40モル%および≦50モル%のV
≧20モル%および<25モル%のP
≧0モル%および≦10モル%のZnO;
>0モル%および<25モル%のFe
>0モル%および<25モル%のTiO
>0モル%および≦20モル%のB
を含み、
TiO+Feが15モル%〜30モル%の範囲内であるガラスフリットが開示される。
【0027】
ある例においては、TiO+Fe+Bは25モル%〜35モル%の範囲内であってよい。
【0028】
ある例においては、本発明のガラスフリットは、β−ユークリプタイトまたはβ−石英などのCTE低下充填剤をさらに含む。
【0029】
別の一態様においては、第1のガラス板と、第2のガラス板と、第1のガラス板を第2のガラス板に結合させ、それらの間に気密シールを形成するフリットとを含むガラスパッケージにおいて、フリットが、
≧40モル%および≦50モル%のV
≧20モル%および<25モル%のP
≧0モル%および≦10モル%のZnO;
>0モル%および<25モル%のFe
>0モル%および<25モル%のTiO
>0モル%および≦20モル%のB
を含み、
TiO+Feが15モル%〜30モル%の範囲内であるアンチモンフリーガラスを含む、ガラスパッケージが記載される。
【0030】
本発明のガラスパッケージのある実施形態においては、TiO+Fe+Bは25モル%〜35モル%の範囲内であってよい。
【0031】
本発明のガラスパッケージのある実施形態においては、TiO+Fe+Bは27.5モル%〜35モル%の範囲内であってよい。
【0032】
本発明のガラスパッケージは、第1および第2のガラス板の間に配置される有機材料をさらに含むことができる。たとえば、本発明のガラスパッケージは、有機発光ダイオードなどの有機発光デバイスを含むことができる。
【0033】
限定を意味するものでは決してなく添付の図面を参照して提供される以下の説明から、本発明がより容易に理解され、本発明の他の目的、特性、詳細、および利点がより明確に明らかとなるであろう。すべてのこのようなさらなるシステム、方法、特徴、および利点が、この説明中に含まれ、本発明の範囲内となり、添付の特許請求の範囲によって保護されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の実施形態によるフリットを用いた例示的なOLEDデバイスの封止の断面図である。
図2】本発明の実施形態によるSbフリーフリット中のモル%の単位でのTiOのFeによる置換の関数としての熱膨張係数(CTE)のプロットであり、Fe+TiOは20モル%〜35モル%の間である。
図3】加熱および冷却の両方の条件下での本発明の実施形態によるSbフリーフリットおよびSb含有フリットの温度の関数としてのCTEを比較するプロットである。
図4】アンチモン含有ガラスと比較したホウ素含有アンチモンフリーガラスの温度および湿度への曝露後の上澄みの写真である。
図5】B濃度の関数としてのアンチモン含有ガラスおよびアンチモンフリーガラスの両方のガラス転移温度のグラフである。
図6】本明細書に開示されるホウ素含有アンチモンフリーガラスの種々の組成物の温度および湿度への曝露後の上澄みの写真である。
図7】本明細書に開示されるホウ素含有アンチモンフリーガラスの種々の組成物の温度および湿度への曝露後の上澄みの写真である。
図8】本明細書に開示されるホウ素含有アンチモンフリーガラスを含むフリットを用いて形成したシールを示すガラスパッケージの一部のトップダウン図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下の詳細な説明において、限定ではなく説明を目的として、本開示の十分な理解を得るために、特定の詳細を開示する例示的実施形態が記載されている。しかし、本発明が、本明細書に開示される具体的な詳細から逸脱した別の実施形態において実施できることは、本開示の利益を有する当業者には明らかであろう。さらに、周知の装置、方法、および材料の説明は、本発明の説明が不明瞭とならないように省略される場合がある。最後に、適応可能な場合は常に、類似の参照番号は類似の要素を意味する。
【0036】
図1は、気密封止されたOLEDディスプレイ10の基本的な構成要素の封止を示す側断面図を示している。OLEDディスプレイ10は、第1のガラス基板プレート12、1つ以上のOLED14、フリット16、および第2のガラス基板プレート18の多層サンドイッチ構造を含む。OLEDディスプレイ10は、フリット16で形成された気密シール20を含み、それによって第1のガラス基板プレート12と第2のガラス基板プレート18との間に配置されたOLED14が保護される。気密シール20は、典型的にはOLEDディスプレイ10の周囲に沿って配置される。OLED14は、気密シール20の周囲の内側に配置される。フリット16の組成、特にフリット16のガラスの組成、およびフリット16から気密シール20を形成する方法をより詳細に以下に説明する。
【0037】
一実施形態においては、第1および第2の基板プレート12および18は透明ガラス板である。フリット16は第2のガラス基板プレート18の端部に沿って堆積される。たとえば、フリット16は、第2のガラス基板プレート18の自由縁から約1mm離して配置することができる。好ましい実施形態においては、フリット16は、フリットの吸光度を向上させるためにバナジウムを含有する低温アンチモンフリーガラスフリットである。フリット16は、フリットの熱膨張係数(CTE)を低下させるβユークリプタイトまたはβ石英などの充填材料を含むこともでき、それによって2つのガラス基板プレート12および18のCTEに一致または実質的に一致する。
【0038】
第2のガラス基板プレート18の上には、OLED14およびその他の回路が堆積される。典型的なOLED14は、アノード電極と、1つ以上の有機層と、カソード電極とを含む。しかし、環境に敏感な別の部品を第2のガラス基板プレート18の上に堆積できることは容易に理解できるであろう。
【0039】
場合により、ガラス基板12および18を互いに封止する前に、フリット16を第1のガラス基板プレート12に予備焼結させることができる。これを行うため、第1のガラス基板プレート12に結合するように、フリット16が上に堆積された第1のガラス基板プレート12を加熱炉またはオーブン中で加熱する。
【0040】
次に、第1および第2のガラス基板プレート12および18を、それらの間に配置されるフリット16および1つ以上のOLEDとともに接合し、フリット16に照射源22(たとえばレーザーまたは赤外ランプ)を照射すると、それによってフリット16が気密シール20を形成し、それによって第1のガラス基板プレート12が第2のガラス基板プレート18と連結し結合する。気密シール20は、周囲環境中の酸素および水分がOLEDディスプレイ10中に入ることを防止することによって、OLED14の保護も行う。
【0041】
照射波長が、個別のフリット16に強く吸収される帯域内となるべきことは容易に理解されよう。たとえば、個別のフリット16ならびにガラス基板プレート12および18の光学的性質により、イッテルビウム(900nm<λ<1200nm)、Nd:YAG(λ=1064nm)、Nd:YALO(λ=1.08μm)、およびエルビウム(λ≒1.5μm)のCWレーザーを使用することができる。
【0042】
PbOフリットは良好な流動性および接着特性を有するため、ほとんどの従来の低温封止用フリットはPbO系であることにも留意されたい。しかし、本明細書に開示されるアンチモンフリーフリットは、PbO系フリットよりも低いCTEを有するだけではなく、より良好な耐水性をも有し、接着性に関しては従来のPb系フリットと同等である。
【0043】
さらに、上首尾の封止用フリットにおけるPによる役割は、それによって安定化ガラスを形成できるので重要であるが、レーザー封止および封止後性能の観点から、SbおよびVの効果を無視すべきではない。従来の試験では、SbフリーのZn系バナジウム−リン酸塩フリットを用いて作製したシールは、60℃/40%相対湿度(RH)の比較的穏やかな環境でのみ維持することができ、一方、混合Sb−Znバナジウムリン酸塩フリットから作製したシールは、不合格となるまで60℃/85%RHで維持された。逆に、Sb−バナジウム−リン酸塩フリットから作製したシールのみが85℃/85%RH曝露に耐えた。しかし、Sbは耐水性を改善する役割を果たすにもかかわらず、潜在顧客からのフィードバックでは一貫して、その存在に関する懸念が生じている。さらに、Sbは、望ましい低ガラス転移温度(Tg)の実現を妨害すると考えられている。したがって最近では、アンチモンが毒性元素であることに留意して、環境により優しい封止用フリットに好適なガラスの開発が重視されている。
【0044】
Sbフリー組成物の研究は、最初に、3成分系(20モル%のSb−50モル%のV−30モル%のP)として基本的なOLEDデバイスの封止用フリット組成物を示し、その組成を2成分のSbフリー系(50モル%のV−30モル%のP、45モル%のV−30モル%のP、または40モル%のV−20モル%のPのいずれか)に単純化し、次に耐水性、流動性、ガラス転移温度(T)、およびレーザー封止性に対する影響の観点からの残りの成分を特定することで始めた。あらゆる候補のフリット組成物の耐水性、レーザー封止性、および流動性の両方が、Sb含有対照サンプルと同等となることが必要であり、一方、Tgの要求は、Tが400℃以下となることが必要という基準に緩和された(T>400℃のフリットでは、後の処理で取り扱い可能にするためのOLEDフリットの予備焼結ステップ中の流動性が十分となる可能性が低い)。以下の酸化物をアンチモン(Sb)の可能性のある代替物として調査した:WO、MoO、TeO、Bi、Fe、およびTiO。ZnOも調査したが、ZnO−V−Pフリットで得られる不十分な耐久性結果を考慮して、Tを低下させ流動性を維持するための少量成分(5〜10モル%)としてのみ検討した。選択される種々の酸化物は、Vを有する安定な二元ガラスを形成することに基づいて選択した。
【0045】
調査するすべての組成を溶融させ、ガラスパティとして注入し、次にボールミルで粉砕して微粒子のフリット(典型的にはd50=3〜5μm)を形成した。種々の組成物を選別するための重要なベンチテストの1つは、種々のフリットのフローボタンを作製して焼成し、次にそれらの耐水性を評価することであった。フローボタンはN中400℃〜450℃(Tおよび結晶化傾向によって左右される)で焼成した。焼成後、フローボタンを90℃の脱イオン水中に48時間浸漬して、それらの耐水性を評価した。OLEDフリットの対照サンプル(D1ベースガラスとして、またはベースガラスとβ−ユークリプタイト充填材料との重量比70:30での混合物としてのいずれか)も各評価に含めた。調査したSbの可能性のある代替品(上記参照)の中では、TiOおよびFeのみが有望であると思われた。
【0046】
WO、MoO、WO+ZnO、Bi、およびTeOを第3の成分として有する50モル%のV−30モル%のPの組成物シリーズの結果を表1および2に示している。比較標準としての標準的なOLEDベースガラスD1のデータも示している。すべての組成物(モル%の単位で示される)について、注入成形によって形成されたガラスの品質、DSCによるガラス転移温度(T)、流動性、およびハンドプレスにより3μm粉末からペレット(「フローボタン」)を得てN中400℃で1時間焼成するときの焼結性、ならびに前述の耐水性ベンチテストにおける耐水性(焼成したフローボタンサンプルの上澄みの色によって評価され、その色が暗いほど、サンプルの耐水性が低い)を評価した。表1および2に列挙される可能性のあるSbの代替物はいずれも、Sb含有対照試料によって示される許容レベルのガラス品質、T、流動性、および耐水性(90℃の温度の脱イオンHOに48時間曝露した後の上澄みの外観によって評価される)が得られなかったことに留意されたい。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
Sbフリーリン酸バナジウムフリットのより良好な結果が、SbをFeおよび/またはTiOで置き換えた場合に得られた(表3および4参照)。すべての組成はモル%の単位で表される。Fe+TiOのいくつかの組合せでは、注入時に良好なガラスが得られた。D8などの高TiOガラス(すなわち、≧25モル%)は、許容できるTおよび流動特性を有していたが、不十分な耐水性も示した。D7およびD11などのFeがより多いガラス(すなわち、≧25または≧30モル%)は、実質的な表面失透により示されるように、注入時に不十分なガラスが得られる傾向にあった。これらのガラスの比較的低い安定性(注入時にパティ中に形成される表面失透の量が多いことで示される)によって、フリットとして不十分な流動性が生じた。これらは酸化状態に関して不安定となる傾向もあり、同じロットの粉末からの焼成フローボタンは、同じ焼成条件後に黒色(還元)または赤色(酸化)のいずれかで交互に現れる。表4にはD14も含まれ、これはFeおよびTiOの量の比較的多いガラスであるが、Feから予想されるTの上昇を低下させるために10モル%のZnOを有する。高Fe量に対応するための第2の方法は、V含有量を増加させることであることに留意されたい。しかしD9およびD10に見ることができるように、V含有量がより多いと耐水性が低下した。
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
が25モルパーセント以上である表3および4の試験サンプルは性能が不十分であったが、25モル%未満のP量は首尾よく使用できると予想されることにも留意すべきである。表5は、10%のZnOにおけるFeおよびTiOの溶融物の第2の組の結果をまとめている。すべての組成はモル%の単位で表される。最初のシリーズに関して、Feは優れた耐水性に寄与し(しかし高Tと400℃におけるフリット焼結性の低下とが犠牲となる)、TiOによってより低いTおよび改善された流動性が得られる(しかし耐水性が犠牲となる)ので、FeおよびTiOの一部の組合せが好ましい。
【0053】
【表5】
【0054】
より多い量の[Fe+TiO]においてZnOを5モル%に維持して溶融物のさらなるシリーズを作製した(以下の表6および7参照)。すべての組成はモル%の単位で表される。高Feガラスのより高いTに対応するために、前に使用した400℃ではなく425℃で流動性を評価したことに留意されたい。
【0055】
【表6】
【0056】
【表7】
【0057】
表1、2、および3、4で得られた前述の結果から分かるように、20モル%をあまり超えないFe量(たとえば約25モル%)では、高Tで、安定性が低く、400〜425℃の焼結中に許容できない流動性を有するフリットが得られた。同様に、20モル%をあまり超えないTiO(たとえば約25モル%)では、許容できるT、流動性、および安定性を有するが、許容できない耐水性を有するフリットが得られた。約10モル%〜25モル%未満までの範囲のFe量、および約15モル%〜25モル%未満までのTiO量を有するフリット(5〜10モル%のZnOにおいて)は、優れた耐水性と、許容できる流動性、T、およびガラス安定性とを併せ持つ。
【0058】
(Fe+TiO+ZnO)SbフリーV−Pフリットの耐水性は、Sb含有標準組成と同等またはそれよりわずかに良好であることが分かった。Sbフリーの研究の予期せぬ結果は、より多いFe量の(Fe+TiO+ZnO)フリットで熱膨張係数(CTE)が大幅に低下することである。組成が表3、4、および5に記載される焼結フリットのCTEデータを後述の図2に示している。表3、4の20モル%(Fe+TiO)シリーズ、(曲線120)、および曲線122で示される表5の35モル%(Fe+TiO)シリーズのすべての焼結可能なフリットのデータを示している。良好な焼結性および酸化安定性を有するフリットが得られる見掛けの上限である最大20モル%のFeの各シリーズにおけるFe量の関数として、焼結フリットバーのCTEデータがプロットされている。CTE値は、0モル%のFe/最大のTiO(それぞれ20および35モル%)において最高であり、Fe量が増加すると60〜65×10−7/℃で実質的に一定となり、次にFe>15モル%(それぞれ5モル%および20モル%のTiO)において実質的に減少し、17.5〜20モル%のFeにおいて約40×10−7/℃の値に到達することに留意されたい。比較すると、Sb含有ベースフリットのCTEは約70〜80×10−7/℃である。
【0059】
Sbを含有するフリットとSbフリーフリットとの間のCTEのより直接的な比較を図3に示しており、加熱および冷却の両方の条件下でのD1のCTE曲線がプロットされており(それぞれ曲線124および126)、加熱および冷却の両方の条件下でのD29(表7中のD24の再溶融物)のCTE曲線もプロットされている(それぞれ曲線128および130)。充填剤を有さないフリットでは約40×10−7/℃のCTE値となるが、β−ユークリプタイトまたはβ石英などの充填剤を加えることによって、このフリットのCTE値を溶融シリカの値の近くまで低下させることができる。
【0060】
Sbフリーフリットの実験室規模の耐水性結果を、レーザー封止したサンプルの85℃/85%RH曝露を含む大規模封止試験で確認した。表8は、標準的なOLEDフリット(表1のD1;低CTE充填剤β−ユークリプタイトとの重量比70:30の混合物として使用)と、Sbフリーフリット(D29、表7のD24の再溶融物;低CTE充填剤β−石英との重量比80:20の混合物として使用)との間の試験および比較の結果を示している。各フリット混合物からペーストを作製し、EAGLEXGディスプレイガラスの数枚のシート上に供給し、予備焼結させ(Sb含有標準の場合、空気中325℃で2時間加熱+N中400℃で1時間加熱;Sbフリーの場合、空気中325℃で2時間加熱+N中425℃で1時間加熱)、EAGLEXGのシートに封止し、85℃/85%相対湿度(RH)の環境室に入れ、次にシールの漏れおよびCa金属の破壊の形跡について定期的に調べた。全体で、Sb含有対照組成物の3枚のシート、およびアンチモンフリー組成物の7枚のシートがこの試験に含まれ、シート1枚当たりCa金属タブの9つの封止されたアレイを有した。表8に見ることができるように、Sb対照フリットおよびSbフリーフリットの両方で、封止直後または85℃/85%RH室中の配置が100時間以内のいずれかで、数個のアレイが破壊され;これらの破壊は、おそらくは、各フリットで不規則に存在する汚染物質などの全体的な欠陥と関連するものであった。しかし、96時間後、Sb対照フリットおよびSbフリーフリットのいずれのシールでも、さらなる破壊は観察されなかった。
【0061】
【表8】
【0062】
まとめると、Sb−バナジウムリン酸塩フリットの優れた耐水性能は、酸化アンチモンの代わりに、Fe+TiOの組合せを使用し、流動性およびガラス転移温度(T)を維持するための少量のZnOを加えることによって、Sbがなくても維持された。Feの存在は、耐久性の改善において最大の効果を有することが分かった。しかし、多量の場合は、Tが上昇し、それによって封止中のフリットの流動性が低下した。さらに、高Fe量(約25モル%以上)のフリットは、酸化に対して不安定となる傾向があり、同じ計画(N中425℃)で繰り返しサンプルを焼成すると、異なる色(褐色または黒色)を示し、流動の程度で顕著な差を示した。TiOは、単独で加えた場合には、実際には耐水性がある程度低下したが、(Fe+TiO)の組合せは、高耐水性および低T(≦400℃)の両方を有するレーザー封止可能なフリットを得る観点からは理想的な組合せであると思われた。
【0063】
90℃の蒸留水における実験室ベンチテストと、レーザー封止したサンプルの85℃/85%RH環境室試験との両方によって、Fe−TiO−ZnO−V−P系を主成分とするフリットから、長時間(≧1000時間)の多湿条件に耐える、レーザー封止後の気密シールの形成が可能であることが示されている。充填剤を有さないSbフリーフリットのCTEが、約半分(70〜80×10−7/℃から35〜45×10−7/℃)に減少し、Tがわずかに(355℃から370℃に)上昇するのみであったことは、Sbを(Fe+TiO)で置き換えることの予期せぬ結果であった。CTE値が約40×10−7/℃であるフリットは、β−ユークリプタイトまたはβ−石英などの充填剤を加えることによって、溶融シリカおよび他の低CTE基板、たとえばKovar(商標)を封止できる可能性を有する。
【0064】
しかし、前述のアンチモンフリーフリットの開発成功にもかかわらず、高T(380℃)であるために、D1などの同等のアンチモン含有フリットよりも予備焼結温度が高くなり(約425℃)、その予備焼結温度においてより長時間維持する必要があった。したがって、環境に優しいが、このようなアンチモンフリーフリットは、処理時間が長くなり、したがって処理コストが増加する傾向にある。さらに、前述のアンチモンフリーフリットは、予備焼結サイクル中に少なくともある程度結晶化し、それによってある程度接着特性が低下することが分かった。したがって、より低いTであるが依然としてSbフリーである変形体に対してさらなる研究を行った。このより新しいフリットD30のTは、D24よりも約30℃低く、Tおよび流動性がD1と実質的に同じであった。このD30のTの低下は、ZnOおよびTiOを犠牲にしてVを約7.5モル%多く混入することによって実現され、V−Pガラスの特定の性質の対する小さな組成変化の役割が示された。D24と修正した組成物D30との間の比較を表9に示している。すべての組成の値はモル%の単位である。
【0065】
【表9】
【0066】
D24およびD30の両方の重要成分の1つはFeであり、これはVのレドックス調節剤として機能しうる(D1におけるSbの機能と同様)。しかしFeはTを上昇させる機能も果たす。D24の別の成分、すなわちZnOおよびTiOは、Tを上昇させるFeの役割をある程度抑制する働きをするが、これらは水の攻撃に対する抵抗性を低下させる傾向をも有しうる。
【0067】
図4は、90℃の脱イオン水中に48時間浸漬した後の実験用ビーカー中のガラスフリットの製造に好適な選択されたガラス組成の焼結ガラスペレットの写真を示している。浸漬する前に、各フローボタンを空気中300℃に1時間、続いて窒素中400℃に1時間曝露することによって、ペレットの熱処理を行った。図4は、左から右の順で、(a)D1、(b)D24、および(c)D30を示している。
【0068】
Sbフリー組成物D30のTが350℃まで低下することは非常に望ましかったが、Tのさらなる低下が可能であるかどうかを調べるために、さらなる組成に関する努力を行った。したがって、低Tガラス形成剤Bを加えた。Bの添加において、この添加は、ガラス安定性、耐水性、および流動性を低下させないように行うべきである。実際には、以下の基準に従った:(a)PをBで置換すべきではないが、その理由は、前述のようにPはフリットの安定化において重要な役割を果たすからである。Pが中程度の量(約20モル%)で存在する場合、バナジン酸塩ガラスフリットは、最小限の結晶化を示す傾向にあり、結果として、そのフリットは、封止プロセス中に広い領域で粘稠流動性を示し、それによって接着性が改善される;(b)VをBで置換すべきではないが、その理由は、前述のようにこの成分は良好な流動性および低CTEに対して重要であるからである;(c)Feは出発のD24およびD30の組成物中に存在する量(17.5モル%)にできるだけ近づけて維持すべきであり、さもないと耐久性が低下しうる。しかし、Feの(約12.5モル%までの)わずかな減少は、許容できる耐水性の低下とともに許容されうる;そして、(d)ガラスの安定性を維持するために、ガラス形成剤の総量(たとえば、V+P+B)は少なくとも60モル%とすべきであり、ガラスの安定性のためには65〜70モル%がより好ましい。これらの規定を考慮して、Bは以下のように加えた:(ZnO+TiO+Fe)の代わりにBを加え、Feは≧12.5モル%に維持した。以下の議論はD1、D24、およびD30を中心としているが、これらのサンプルは一群の組成物を代表するものであることに留意されたい。たとえば、以下の表10に示されるように、サンプルD31〜D35のそれぞれは、種々の量でBをFeおよびTiOの代わりに使用したことを除けば、D24組成と実質的に同じガラス組成物である。ガラスがD30ガラスであり、その変形がD36〜D41である(D40はPを減少させた)ことを除けば、表11に関しても同じことが言える。
【0069】
基準のD24を含むB置換のシリーズを以下の表10に示している。Bは、前述の置換の概要に従って最大20モル%の量で加えた。Tは、D24の再溶融物で記録される376℃から、D34の低い温度の305℃まで約70℃低下した。結晶化開始はTで示される。すべての組成の値はモル%の単位である。
【0070】
【表10】
【0071】
さらに、前述の置換の概要を用いて、D30に対してもBの置換を行った。Bは最大15モル%の量で加えた。このシリーズのガラス転移温度Tは、351℃から299℃まで約50℃低下した。
【0072】
【表11】
【0073】
図5は、特定のフリットガラス中にホウ素(B)を含むことの影響を示すグラフである。たとえば、曲線200は、D24の一般組成中のBの種々の量の場合のTに対する影響を示しており、一方、曲線202は、D30の一般組成中のBの種々の量の場合のTに対する影響を示している。留意すべきこととして、これらのガラス中へのBの添加によって、Tが線形単調減少しており、これは、調査した組成範囲にわたってホウ素添加によるベースのリン酸バナジウムガラスの急激な構造変化は起こらないことを示している。同様に興味深いのは曲線204で示されるデータであり、これはアンチモン含有ガラスのD1のガラスにBを加えたものであった。曲線204は、Tの実質的変化がないことを示しており、これはホウ素の単純な添加自体によっては、Tに対する有意な変化が生じない場合があることを示唆している。
【0074】
図6は、90℃の脱イオン水に48時間浸漬した後の、種々の量のBが加えられたD24ガラスの場合の実験用ビーカー中の焼結ガラスフリットペレットの写真を示している。これらのペレットは、ガラス溶融物を形成し、固化したガラスを粉砕してガラスフリットを形成し、フリットをペレットに圧縮し、各ペレットを空気中300℃に1時間、続いて窒素中400℃に1時間曝露することによってペレットを焼結させることによって製造した。図6は、左から右の順で、(a)0モル%のB、(b)5モル%のB、(c)7.5モル%のB、(d)10モル%のB、(e)15モル%のB、および(f)20モル%のBを示している。耐水性は、上澄みの「暗さ」(不透明度)に基づいて判断することができ:上澄みが暗いほど、そのガラスの耐久性は低い。図6に示される結果は、最大約10モル%の量のBの場合に容認できる耐水性を示している。しかし、耐水性の容認性は、ガラスの最終用途に依存することを理解すべきである。
【0075】
図7は、90℃の脱イオン水に48時間浸漬した後の、種々の量のBが加えられたD30ガラスの場合の実験用ビーカー中の焼結ガラスペレットの写真を示している。これらのペレットは、前述のように、ガラス溶融物を形成し、固化したガラスを粉砕してガラスフリットを形成し、フリットをペレットに圧縮し、各ペレットを空気中300℃に1時間、続いて窒素中400℃に1時間曝露することによってペレットを焼結させることによって製造した。図7は、左から右の順で、(a)0モル%のB、(b)1モル%のB、(c)3モル%のB、(d)5モル%のB、(e)7.5モル%のB、(f)10モル%のB、および(g)15モル%のBを示している。図示されるように、図7のサンプルの耐水性は、約5モル%〜約7.5モル%の範囲にわたって、示される他の濃度よりも改善される。
【0076】
図8に、本開示において前述した方法を用いて5モル%のBOで改良したD30フリットとCTE低下ガラス−セラミック充填剤との混合物から作製したフリット16で封止した2つのLOTUSXTディスプレイガラス12、18のレーザー封止部分の断面の明視野像を示している。ガラス基板12からガラス基板18まで見下ろした図である。このフリットで結合させたガラス板は、封止部分206および未封止部分208を含む。留意すべきこととして、フリットの封止部分の幅210、すなわちガラス基材に実際に結合したフリットの部分は、全フリット幅212の約90%(968μm/1083μm=89.38%)であり、このことは本明細書に開示されるホウ素含有アンチモンフリーフリットの優れた流動性および封止挙動を示している。
【0077】
ホウ素(B)含有Sbフリーフリットについて、D1で示されるような現行のSb含有フリットと同等以下のTおよび同等から改善された耐水性が得られる、OLEDディスプレイなどの電子デバイスの封止の場合で記載している。これらの同じホウ素含有Sbフリーフリットは、ホウ素を含有しないがSbフリーであるフリットよりも低いTおよび同等の耐水性をも有する。
【0078】
本明細書に開示される実施形態を添付の図面に示し以上の詳細な説明に記載してきたが、これらの実施形態は、開示されるものに限定されないが、以下の特許請求の範囲に記載され定義される開示の意図から逸脱しない多数の再配列、修正、および代用が可能であることを理解されたい。
図1
図2
図3
図4(a)】
図4(b)】
図4(c)】
図5
図6
図7
図8