(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記緩衝機構(73)は、前記マスターアーム(70)の前記開口部(71)の周縁部であって、前記ストッパピン(66)を挟んだ位置に二か所設けられることを特徴とする請求項1に記載のパワーユニットの変速駆動装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来例では、変速機の変速操作はシフトモータにより電動で行われている。この変速操作は、操縦者のシフト操作に対する反応を早めるため、短時間で行われることが望ましい。変速操作が短時間で行われるためには、シフトモータを高い回転数で回し、シフトスピンドルを高速で回動させる必要がある。しかし、シフトスピンドルを高速で回動させると、シフトスピンドルと一体に回動されるマスターアームも高速で回動し、マスターアームの開口部の内周とストッパピンの外周とが高速で当接されることとなる。
マスターアームの開口部の内周とストッパピンの外周とが高速で当接すると、その当接音が大きくなるという問題が生ずる場合がある。また、高速での当接により発生した衝撃がストッパピンの取付け部へ伝達されるため、この衝撃に対する強度確保のため、ストッパピンの取付け部周辺のケースやボスの肉厚および重量が増す課題がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的とするところは、マスターアームが高速で回動し、マスターアームの開口部とストッパピンとが比較的高速で当接する場合であっても、その当接音を抑制するとともに、ストッパピンの取付け部の強度を確保し易くし、取付け部周辺の重量増を抑えることのできるパワーユニットの変速駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るパワーユニットの変速駆動装置は、シフトドラムの間欠的な回動により変速位置が確立される変速機に用いられ、該変速機の変速位置を操作するシフトスピンドルと、該シフトスピンドルに固定されて該シフトスピンドルと一体に回動され、開口部が形成されたマスターアームと、該マスターアームの前記開口部に挿通されて前記マスターアームの回動量を規制するストッパピンと、を備え、
前記マスターアームと前記ストッパピンの少なくともいずれか一方には、緩衝機構が設けられ、前記ストッパピンの軸方向視で、前記緩衝機構の少なくとも一部は、前記マスターアームの前記開口部の端縁のうち前記ストッパピンが前記開口部内を前記マスターアームに対して相対的に回動する軌跡の延長領域内にある端縁と、前記ストッパピンの外周面の少なくともいずれか一方から、前記ストッパピンの前記軌跡上に張出すように形成することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、マスターアームの回動がストッパピンにより規制されるときに、ストッパピンと緩衝機構とが最初に接触し、その後に緩衝機構が変形して、ストッパピンがマスターアームの回動を規制する際に生じる衝撃が緩和される。さらに、ストッパピンにかかる衝撃が緩和されることでストッパピンの取付け部の強度を確保し易くなるため、ストッパピンの取付け部周辺のケースやボスの肉厚増を抑えてこれらを軽量化することが可能となるとともに、マスターアームとストッパピンとの当接音を抑制することができる。
【0008】
前記構成において、前記マスターアームを、板状に形成するとともに該マスターアームの前記開口部の前記端縁と前記ストッパピンの前記外周面との当接により回動量を規制し、前記緩衝機構を、前記ストッパピンの軸方向における前記マスターアームの一方の面上に設けても良い。
【0009】
この構成によれば、マスターアームの回動がストッパピンにより規制されるときに、ストッパピンと緩衝機構とが最初に接触し、緩衝機構が変形した後にマスターアームの開口部とストッパピンとが当接することで、マスターアームとストッパピンとの当接時の衝撃が緩和される。さらに、ストッパピンの取付け部の強度が確保し易くなり、ストッパピンの取付け部周辺のケースやボスの肉厚増を抑えてこれらを軽量化できるとともに、マスターアームとストッパピンとの当接音を抑制することができる。また、マスターアームとストッパピンとが当接されることで緩衝機構の変形が止まるため、ストッパピンによる緩衝機構の緩衝時の変形量を一定量に管理することができ、併せて緩衝機構の耐久性をも確保することが可能となる。
【0010】
また、前記構成において、前記緩衝機構を、弾性体からなるダンパ本体部と、該ダンパ本体部を前記マスターアームに固定するピン部とで構成しても良い。
【0011】
この構成によれば、緩衝機構をダンパ本体部とピン部という簡単な構成で必要な個所のみに配置することができ、マスターアームへの緩衝機構の配置に伴うマスターアームの重量およびコストの増加を低減することが可能となる。
【0012】
さらに、前記構成において、前記緩衝機構を、前記マスターアームの前記開口部の周縁部であって、前記ストッパピンを挟んだ位置に二か所設けても良い。
【0013】
この構成によれば、変速機のシフトアップ方向とシフトダウン方向の二方向の必要箇所に限定して緩衝機構を配置することが可能となり、マスターアームへの緩衝機構の配置に伴うマスターアームの重量およびコストの増加をさらに低減することができる。
【0014】
さらにまた、前記構成において、前記シフトスピンドルに、前記マスターアームを回動前の位置に戻す方向に付勢するリターンスプリングを設け、該リターンスプリングを、前記緩衝機構が設けられた面とは反対側の面上に配置しても良い。
【0015】
この構成によれば、緩衝機構とリターンスプリングとを、両部品の機能を確保しつつマスターアームにコンパクトに配置することができる。
【0016】
また、本発明に係るパワーユニットの変速駆動装置において、前記緩衝機構を、前記ストッパピンの前記外周面に設け、前記緩衝機構は、前記ストッパピンの前記外周面に設けられる弾性部材を備え、前記マスターアームは、前記緩衝機構を介して前記ストッパピンにより回動量が規制されるようにしても良い。
【0017】
この構成によれば、マスターアームの回動がストッパピンにより規制されるときに、ストッパピンの外周面に設けられた弾性部材が変形して、ストッパピンがマスターアームの回動を規制する際に生じる衝撃が緩和される。さらに、ストッパピンの取付け部の強度が確保し易くなり、ストッパピンの取付け部周辺のケースやボスの肉厚増を抑えてこれらを軽量化できるとともに、マスターアームとストッパピンとの当接音を抑制することができる。また、弾性部材をストッパピンに簡素な構成で設けることができる。
【0018】
前記構成において、前記緩衝機構は、前記ストッパピンが挿通される円筒状のカラーを備え、前記弾性部材を、前記カラーの内周面と前記ストッパピンの外周面との間に介装し、前記カラーの前記内周面または該内周面に対向する前記ストッパピンの外周面のいずれか一方の面に、該一方の面から張出す張出部を設けても良い。
【0019】
この構成によれば、マスターアームの回動がストッパピンにより規制されるときに、カラーの外周面とマスターアームとが最初に接触し、その後に弾性部材が変形して、張出部を介してカラーとストッパピンとが当接するので、ストッパピンにかかる衝撃が緩和される。そのため、ストッパピンの取付け部の強度を確保し易くなり、ストッパピンの取付け部周辺のケースやボスの肉厚増を抑えて、これらを軽量化することが可能となる。さらに、マスターアームとストッパピンとの当接音を低減することができる。また、張出部を介してカラーとストッパピンとが当接されて弾性部材の変形が止まるため、カラーによる弾性部材の変形量を一定量に管理することができ、併せて弾性部材の耐久性をも確保することが可能となる。
【0020】
また、前記構成において、前記張出部を、前記ストッパピンの軸方向において、前記マスターアームの前記開口部の前記端縁と重なる位置に形成し、前記弾性部材を、前記ストッパピンの軸方向において、前記張出部を挟んで一対設けても良い。
【0021】
この構成によれば、マスターアームの回動がストッパピンにより規制されるときに、カラーは、マスターアームと接触した後、一対の弾性部材を同時に変形させながら、マスターアームの回動方向に移動することになり、緩衝機構の作動を円滑にすることができる。
【0022】
さらにまた、前記構成において、前記ストッパピンに、軸部と、該軸部よりも小径な縮径部とを形成し、該縮径部と前記軸部との間に、前記カラーの径方向への移動を案内するガイド段部を形成し、前記縮径部に、前記緩衝機構を環装し、前記縮径部の前記緩衝機構を挟んで前記ガイド段部の反対側に、前記カラーの径方向への移動を案内するガイドワッシャと該ガイドワッシャと前記カラーの軸方向への移動を規制する止め輪とを設けても良い。
【0023】
この構成によれば、マスターアームの回動がストッパピンにより規制されるときに、カラーは、ガイド段部とガイドワッシャとに案内されてマスターアームの回動方向にストッパピンと平行な方向の姿勢を保ったまま移動することになり、緩衝機構の作動を円滑にすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るパワーユニットの変速駆動装置によれば、マスターアームの回動がストッパピンによって規制されるときに、ストッパピンと緩衝機構とが最初に接触した後、緩衝機構を変形させることとなる。この緩衝機構の変形により、ストッパピンがマスターアームの回動を規制する際に生じる衝撃が緩和され、ストッパピンの取付け部の強度が確保し易くなるため、ストッパピンの取付け部周辺のケースやボスの肉厚増を抑えてこれらを軽量化することが可能となるとともに、マスターアームとストッパピンとの当接音を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係るパワーユニットPの変速駆動装置20の第一の実施の形態について
図1ないし
図10を参照して説明する。
【0027】
図1は、本発明の第一の実施の形態に用いられるパワーユニットPの一部を省略した正面図であり、
図2は、
図1のパワーユニットPの一部を省略した左側面図である。
パワーユニットPは、自動二輪車に搭載され、クランク軸7が車両の前後方向に沿う、いわゆる縦置きに搭載された水平対向6気筒の水冷式4ストロークサイクルの内燃機関1と、該内燃機関1に連結され、該内燃機関1の動力を所定の変速段に変速する変速機21とを備えている。
なお、本明細書中において、前後左右の向きは、自動二輪車における直進方向を前方とする通常の基準に従うものとする。また、図面中の前後左右上下の符号は、FR,RE,LT,RT,UP,DWを付す。
【0028】
図1に示されるように、内燃機関1は、自動二輪車の走行方向前方を向いた状態で左側に配置される左エンジンブロック半体2Lと、走行方向前方を向いた状態で右側に配置される右エンジンブロック半体2Rとからなるエンジンブロック2と、左エンジンブロック半体2Lおよび右エンジンブロック半体2Rの左右端にそれぞれ結合されるシリンダヘッド5と、各シリンダヘッド5に重ねられるヘッドカバー6とを備えている。
【0029】
左エンジンブロック半体2Lは、左シリンダブロック3Lと左シリンダブロック3Lに一体に形成される左クランクケース半体4Lとを備えている。右エンジンブロック半体2Rは、右シリンダブロック3Rと右シリンダブロック3Rに一体に形成された右クランクケース半体4Rとを備えている。左クランクケース半体4Lと右クランクケース半体4Rとによりクランクケース4が構成されている。
【0030】
図2も参照して、クランク軸7は、自動二輪車の前後方向にその回転軸線L1を指向させて、エンジンブロック2の上部に位置する左クランクケース半体4Lと右クランクケース半体4Rとの間に回転可能に支持されている。
エンジンブロック2内のピストン(不図示)は、コンロッド(不図示)を介してクランク軸7に連結されており、燃焼室(不図示)内の燃焼によるピストンの摺動に連動してクランク軸7が回転駆動されるようになっている。
【0031】
図1および
図2に示されるように、エンジンブロック2の上部前面には、クランク軸7を中心に、エンジンブロック2の上部前面を覆うフロントカバー8が取付けられている。また、エンジンブロック2の下部に、後述する変速機21が収納される変速機室14が左クランクケース半体4Lと右クランクケース半体4Rとにより画成されている。なお、変速機室14は、一点鎖線で図示されている。
【0032】
図2に示されるように、エンジンブロック2の後方には、リアカバー9が取付けられている。また、リアカバー9の下部中央後方には、クラッチカバー10が取付けられている。
【0033】
図1および
図2に示されるように、クランクケース4の下部前面には、変速機室14の前方を覆うようにミッションホルダ11が取付けられている。また、ミッションホルダ11の前面には、ミッションホルダ11の中央から下部にかけて変速機21の変速段を操作するチェンジ機構60を保持するためのチェンジ系ホルダ12が取付けられている。
【0034】
チェンジ系ホルダ12の左端部前面には、減速機カバー13が取付けられており、チェンジ系ホルダ12と減速機カバー13とに囲われる減速機室15内には後述する減速ギア機構51が配設されるようになっている。また、チェンジ系ホルダ12の左端部後面には、変速駆動装置20の動力源であるシフトモータ50が設けられている。
【0035】
図3は、
図1のパワーユニットPの下部のクランクケース4を、減速機カバー13を取外した状態で部分的に拡大して示した拡大正面図である。
図3に示されるように、ミッションホルダ11の後面には、メイン軸22、カウンタ軸23、ギア変速機構24、シフトドラム40、および2本のシフトフォーク軸41が小組されてカセットユニットとして一体に構成されている。そのカセットユニットを、左クランクケース半体4Lと右クランクケース半体4Rとで構成された変速機室14に挿入し、ミッションホルダ11が、変速機室14の前方を塞ぐようにクランクケース4の前面に取付けられることで、クランクケース4とミッションホルダ11とが変速機ケース16の役割を果たすようになっている。また、このようなカセットユニットを用いることでクランクケース4へのメイン軸22、カウンタ軸23、ギア変速機構24、シフトドラム40、および2本のシフトフォーク軸41の組付けが容易になっている。なお、カセットユニットは、減速機カバー13とシフトモータ50までユニット化(サブアセンブリ)された状態でクランクケース4に取付けてもよい。
【0036】
変速機室14に挿入されたメイン軸22、カウンタ軸23、シフトドラム40、および2本のシフトフォーク軸41は、クランク軸7の回転軸線L1と平行になるように配設されている。また、
図1に示されるように、メイン軸22は、クランク軸7の下方に配置されている。カウンタ軸23は、メイン軸22の右方に配置されている。シフトドラム40は、変速機室14の下部中央に配置されている。シフトドラム40の左右方向であってメイン軸22とカウンタ軸23の下方には、2本のシフトフォーク軸41が配置されている。
【0037】
図4は、変速機21の
図1のIV−IV線断面図である。
図4に示されるように、変速機21は、メイン軸22と、カウンタ軸23と、ギア変速機構24と、クラッチ機構29とを備えている。クラッチ機構29は、油圧式の第一油圧クラッチ29aと第二油圧クラッチ29bとを有するいわゆるデュアルクラッチ(ツインクラッチ)として構成されている。
【0038】
メイン軸22の一方の端部は、ボールベアリング25を介してミッションホルダ11に回転可能に支持されている。また、メイン軸22の他方の端部はリアカバー9に取付けられたボールベアリング26を貫通するように配されている。メイン軸22の中央部はボールベアリング26を介してリアカバー9に回転可能に支持されている。
【0039】
カウンタ軸23の一方の端部は、ボールベアリング27を介してミッションホルダ11に回転可能に支持されている。また、カウンタ軸23の他方の端部はリアカバー9に取付けられたボールベアリング28を貫通するように配されている。カウンタ軸23の他方の端部寄りはボールベアリング28を介してリアカバー9に回転可能に支持されている。
【0040】
メイン軸22には、M1からM7の7個の駆動変速ギアMがメイン軸22の一方の端部から中央部に亘って設けられている。カウンタ軸23には、駆動変速ギアMに対応して、これらと常時噛合うC1からC7までの被動変速ギアCが設けられている。また、メイン軸22とカウンタ軸23には、相互に向い合う位置にリバース用スプロケットMS,CSが設けられている。リバース用スプロケットMS,CSには、チェーン24aが架設されている。これら駆動変速ギアMと、被動変速ギアCと、リバース用スプロケットMS,CSとにより、ギア変速機構24が構成されている。
【0041】
3速駆動変速ギアM3および6速駆動変速ギアM6は、メイン軸22上を軸方向に摺動可能なシフタギアであり、隣接する駆動変速ギアM2,M4,M5,M7またはリバース用スプロケットMSに選択的に係脱される。
また、4速被動変速ギアC4および5速被動変速ギアC3は、カウンタ軸23上を軸方向に摺動可能なシフタギアであり、隣接する被動変速ギアC1,C2,C5,C6に選択的に係脱される。
上記シフタギアのそれぞれには、フォーク係合溝24bが設けられており、このフォーク係合溝24bに係合するシフトフォーク42によって、シフタギアの軸方向への移動が可能となる。
【0042】
リアカバー9を貫通したメイン軸22の他方の端部寄りには、第一油圧クラッチ29aおよび第二油圧クラッチ29bで構成されるクラッチ機構29がスプライン嵌合されている。クラッチ機構29にはプライマリ従動ギア31が一体に取付けられている。そして、メイン軸22の他方の端部は、クラッチカバー10に回転自在に支承されている。
【0043】
リアカバー9を貫通したカウンタ軸23の他方の端部には、セカンダリ駆動ギア32がスプライン嵌合されている。
【0044】
クランク軸7の動力は、プライマリ駆動ギア30およびプライマリ従動ギア31を介して、クラッチ機構29へ伝達され、第一油圧クラッチ29aと第二油圧クラッチ29bが油圧回路により選択的に接続されることにより、クランク軸7からメイン軸22へと動力が伝達されるようになっている。そして、クランク軸7からメイン軸22へ伝達された動力は、ギア変速機構24により選択的に確立された変速段にてセカンダリ駆動ギア32に伝達され、セカンダリ従動ギア33、ドライブ軸34を介してパワーユニットPの外部へと出力されるようになっている。
【0045】
図5は、
図1のV−V線断面図である。
図5に示されるように、シフトフォーク42を支持するシフトフォーク軸41およびシフトドラム40は、ミッションホルダ11とリアカバー9に支持されて(リアカバー9側は不図示)、変速機室14の内部に配設されている。シフトドラム40の前端部40aからはシフトドラム軸40bが前方に突出して設けられている。シフトドラム軸40bの先端部40cは、チェンジ系ホルダ12を貫通して、チェンジ系ホルダ12の外方に突出し、シフトドラム40の変速位置を検出するシフトポジションセンサ44に接続されている。
シフトモータ50からの回転動力により、後述するチェンジ機構60を介してシフトドラム40が回動し、シフトドラム40の回動に伴って、各シフトフォーク42がシフトフォーク軸41上を摺動することにより変速機21の各シフタギアを移動させ、変速機21の変速段が選択的に確立されるようになっている。
【0046】
次に、シフトドラム40を回動させることで変速機21の各シフタギアを移動させ、変速機21に変速を行わせる変速駆動装置20について、以下説明する。
変速駆動装置20は、変速機21の変速段を選択的に確立させるチェンジ機構60と、チェンジ機構60へ回転動力を供給するシフトモータ50と、シフトモータ50から入力された回転動力を減速してチェンジ機構60へと出力する減速ギア機構51とを備えている。変速に必要な動力がシフトモータ50から減速ギア機構51を介してチェンジ機構60のシフトスピンドル61へ伝達され、シフトスピンドル61の回動に連動してチェンジ機構60のマスターアーム70が作用して間欠的にシフトドラム40を回動させ、シフトフォーク42が変速機21のシフタギアを移動させて変速段の切替が行われる。
【0047】
図1ないし
図3に示されるように、シフトモータ50は、その回転軸線L2をクランク軸7の回転軸線L1と平行になるように前後方向に指向させ、正面視で減速機カバー13にほぼ全面が覆われ、側面視で一部が変速機室14と重なるように配設され、
図5に示されるように、ボルト53によりチェンジ系ホルダ12に固定されている。
【0048】
図5に示されるように、シフトモータ50は、モータ本体50aとモータ本体50aから前方に突出するモータ軸50bとから構成されている。モータ軸50bは、チェンジ系ホルダ12を貫通し、モータ軸50bの先端部がチェンジ系ホルダ12と減速機カバー13とからなる減速機室15内に配設されている。そして、モータ軸50bの先端部には、減速ギア機構51の駆動ギア51aが一体的に形成されている。
【0049】
減速機室15に収納される減速ギア機構51は、シフトモータ50のモータ軸50bに一体に形成されている駆動ギア51aと、大小のギアからなる第一ギア51bと、大小のギアからなる第二ギア51cと、被動ギア51dとからなっており、その回転軸の方向がシフトモータ50のモータ軸50bと平行になるように配設されている。
【0050】
第一ギア51bと第二ギア51cは減速機室15を構成するチェンジ系ホルダ12と減速機カバー13とにボールベアリング52を介して回動自在に支承されている。駆動ギア51aと第一ギア51b、第一ギア51bと第二ギア51c、第二ギア51cと被動ギア51dが常時噛合うことで、シフトモータ50の回転動力が駆動ギア51aから被動ギア51dへと減速されて伝達される。
【0051】
次に、シフトドラム40を間欠的に回動させるチェンジ機構60について、以下説明する。
図5に示されるように、チェンジ機構60は、変速機室14の前方に位置し、減速ギア機構51と接続してシフトモータ50の回転動力により回動されるシフトスピンドル61と、シフトスピンドル61と一体に回動されるマスターアーム70と、マスターアーム70の回動量を規制するストッパピン66と、マスターアーム70の回動によりシフトドラム40を間欠的に回動させるポールラチェット機構74とを備えている。チェンジ機構60は、シフトモータ50から減速ギア機構51を介して伝達された回転動力によりシフトスピンドル61を回動させ、シフトスピンドル61の回動に連動してマスターアーム70を回動させ、マスターアーム70の回動に連動して作用するポールラチェット機構74により、ポールラチェット機構74に接続されたシフトドラム40を間欠的に回動させるようになっている。
【0052】
図5に示されるように、シフトスピンドル61は、シフトドラム40の左方に位置し、シフトドラム40と軸方向が平行になるように回動軸を前後方向に指向して配設されている。
【0053】
シフトスピンドル61は、一端61aがニードルベアリング62を介して変速機ケース16を構成するミッションホルダ11に回動自在に支承され、他端61bがボールベアリング63を介して減速機カバー13に回動自在に支承されている。また、シフトスピンドル61の中央部やや他端61b寄りは、オイルシール64を介してチェンジ系ホルダ12に回動自在に支承されている。
【0054】
シフトスピンドル61の他端61b側には、減速ギア機構51の被動ギア51dが相対回動不能に嵌合されている。シフトスピンドル61の一端61a側には、延長カラー部材65を介して後述するマスターアーム70が連結されている。
【0055】
図6は、
図3のVI−VI線断面図であり、
図7は、チェンジ機構60を一部簡略化して示した要部拡大図である。
図7に示されるように、マスターアーム70は、略三角形状の板状に形成されている。マスターアーム70の第一の角部には円孔70aが形成されている。マスターアーム70の第二の角部には角丸長方形の駆動孔70bが形成されている。マスターアーム70の第三の角部には略台形の開口部である規制孔71が形成されている。
図6に示されるように、マスターアーム70は、シフトスピンドル61の軸方向において、シフトスピンドル61の中央に位置するように配設されている。そして、
図7に示されるように、マスターアーム70は、正面視で、第一の角部を左方に、第二の角部を右方に、第三の角部を上方に向けて、シフトスピンドル61と、シフトスピンドル61の右方に配設されたポールラチェット機構74とを接続するように配置されている。
【0056】
図6および
図7に示されるように、マスターアーム70の円孔70aには延長カラー部材65が固定されている。延長カラー部材65には、シフトスピンドル61が挿着され、シフトスピンドル61とマスターアーム70とが延長カラー部材65を介して一体に回動されるようになっている。また、マスターアーム70の駆動孔70bには、ポールラチェット機構74の従動突起74aが摺動自在に嵌合されている。
【0057】
前述したように、マスターアーム70の規制孔71は、略台形形状に形成されている。
図7に示されるように、マスターアーム70の規制孔71の端縁72は、台形の上底にあたる短辺縁72a、台形の下底にあたる長辺縁72b、および台形の脚にあたる一対の規制端縁72c,72dからなり、短辺縁72aは円孔70a側に設けられている。
図6および
図7に示されるように、マスターアーム70の規制孔71の短辺縁72aには、マスターアーム70の前面70F側に屈曲し、後述するリターンスプリング67が係止される係止部72eが形成されている。
【0058】
マスターアーム70の規制孔71には、マスターアーム70の回動量を規制するストッパピン66が、シフトスピンドル61と軸方向が平行になるように前後方向に指向して挿通されている。
ストッパピン66は、規制孔71よりも小さな円柱形状に形成され、ミッションホルダ11の前面に設けられた取付け部11aに圧入固定されている。また、ストッパピン66は、シフトスピンドル61の軸方向視で、マスターアーム70の規制孔71の一対の規制端縁72c,72d間の中央に位置するように配設されている。このように、マスターアーム70の規制孔71内にストッパピン66が配設されることで、シフトスピンドル61の回動に連動してマスターアーム70が回動すると、ストッパピン66が規制孔71内をマスターアーム70に対して相対的に回動し、規制孔71の規制端縁72c,72dのいずれか一方とストッパピン66の外周面66aとが当接してマスターアーム70の回動量が規制されるようになっている。
【0059】
図7および
図8に示されるように、マスターアーム70の規制孔71の周縁部のうち、一対の規制端縁72c,72dの周縁部であってマスターアーム70の一方の面である後面70Rには、ストッパピン66を挟むようにして一対の緩衝機構73が設けられている。
【0060】
緩衝機構73は、規制孔71の規制端縁72c,72dとストッパピン66の外周面66aとの当接時の衝撃を緩和させ、当接音を抑制させるものであり、ダンパ本体部73aと、ダンパ本体部73aに挿通されるピン部73bとから構成されている。
【0061】
図8は、マスターアーム70に設けられた一対の緩衝機構73,73のうちの一方の緩衝機構73の
図7のVIII−VIII線断面図である。
図7および
図8に示されるように、ダンパ本体部73aは、弾性部材であるゴム製で円環状に形成されている。ピン部73bは、金属製のリベットであり、断面視T字状に形成されている。ダンパ本体部73aの後方から挿通されたピン部73bを、ストッパピン66の軸方向視で、マスターアーム70の一方の面である後面70Rからその反対側の面である前面70Fへ貫通させる。そして、マスターアーム70の前面70Fに突出したピン部73bの先端を工具等で変形させることによって、緩衝機構73は、ピン部73bによりマスターアーム70の後面70R上に固定される。
なお、ピン部73bはリベットに限定されず、ダンパ本体部73aをマスターアーム70に固定できればボルト、ねじ等であっても良い。
【0062】
図7に示されるように、緩衝機構73のピン部73bは、シフトスピンドル61の軸方向視で、規制孔71の規制端縁72c,72dの周縁部であって、シフトスピンドル61の軸中心C11を中心としてストッパピン66の軸中心C12を通る円弧A1上に配設されている。
【0063】
図9は、
図7のストッパピン66を中心に一部拡大した要部拡大図である。
図9に示されるように、緩衝機構73のダンパ本体部73aは、ストッパピン66の軸方向視で、マスターアーム70の規制孔71の規制端縁72c,72dのうち、ストッパピン66が規制孔71内をマスターアーム70に対して相対的に回動する軌跡Loの延長領域内(
図9において破線網掛で図示)にある端縁としての領域端縁72f,72gから規制孔71内のストッパピン66の軌跡Lo(
図9において一点鎖線で図示)内に向けて、ダンパ本体部73aの一部が張出すように配置されている。このように、ダンパ本体部73aの一部が規制孔71内へ張出すことで、マスターアーム70の回動がストッパピン66により規制されるときに、ストッパピン66とダンパ本体部73aとが最初に接触するようになっている。
【0064】
なお、
図7も参照して、ストッパピン66の軸方向視で、ダンパ本体部73aの一部は、前述したストッパピン66の軌跡Lo内であって、シフトスピンドル61の軸中心C11を中心としてストッパピン66の軸中心C12を通る円弧A1上に張出しても良い。この場合、後述するマスターアーム70の回動の規制時に、ダンパ本体部73aがストッパピン66の軸中心C12に向って衝突し、ダンパ本体部73aを効率よく変形させることができる。
【0065】
図6および
図7に示されるように、シフトスピンドル61の軸方向において、マスターアーム70の前面70F上には、マスターアーム70が回動前の位置に戻る方向に付勢するリターンスプリング67が設けられている。リターンスプリング67は、コイル部67aと、コイル部67aから延出する二本の端部67b,67bとからなっている。
【0066】
リターンスプリング67のコイル部67aには、コイル部67aの内径よりも小径に形成されたシフトスピンドル61がコイル部67aを貫通して配置されている。リターンスプリング67の二本の端部67b,67bは、マスターアーム70の前面70Fに沿って規制孔71へと延出され、ストッパピン66とマスターアーム70の係止部72eを間に挟むようにマスターアーム70の外縁まで延ばされるとともに、その中央部がマスターアーム70の係止部72eに係止されている。
【0067】
図5および
図7に示されるように、ポールラチェット機構74は、マスターアーム70の駆動孔70bに摺動自在に嵌合される従動突起74aを備え、ミッションホルダ11の前方へ突出したシフトドラム40のシフトドラム軸40bの軸方向中央部に設けられている。ポールラチェット機構74は、マスターアーム70の一方向への回動により、マスターアーム70の駆動孔70b内を摺動する従動突起74aに案内されて間欠的に回動し、ポールラチェット機構74と一体に回動するシフトドラム40を間欠的に回動させるようになっている。
【0068】
図10は、
図7の状態からマスターアーム70が一方向(反時計回りの方向)へ回動した状態の要部拡大図である。
図7および
図10を参照して、ストッパピン66によりマスターアーム70の回動が規制されるときのストッパピン66、マスターアーム70、および緩衝機構73の関係について説明する。
【0069】
図7に示されるように、シフトスピンドル61の径方向において、シフトスピンドル61とマスターアーム70の係止部72eとストッパピン66とが同一線上にあるとき、マスターアーム70は回動前の中立位置にある。
【0070】
シフトモータ50からの駆動力の入力によりシフトスピンドル61が回動し、マスターアーム70がいずれかの方向(本説明では反時計回りの方向)へ回動すると、ストッパピン66は、シフトスピンドル61の軸中心C11を中心としてマスターアーム70に対して相対的に時計回り方向へ回動し、ストッパピン66の外周面66aと緩衝機構73のダンパ本体部73aとが接触する。さらにマスターアーム70が回動すると、ダンパ本体部73aがストッパピン66に押し付けられ、ストッパピン66がダンパ本体部73aを凹ませるように変形させる。そして、
図10に示されるように、ストッパピン66の外周面66aとマスターアーム70の規制孔71の領域端縁72gとが当接することでマスターアーム70の回動が停止する。このようにして、ストッパピン66によりマスターアーム70の回動量が規制されるとともに、ポールラチェット機構74によりシフトドラム40が間欠的に回動され、変速機21のシフトチェンジが行われる。
【0071】
このダンパ本体部73aの変形により、マスターアーム70の回動速度が低減されてマスターアーム70とストッパピン66との当接時の衝撃が緩和されるため、ストッパピン66の取付け部11aの強度の確保が容易になる。また、ストッパピン66の取付け部11a周辺の変速機ケース16や取付け部11aの肉厚および重量の増加が抑制されてこれらが軽量化されるとともに、マスターアーム70とストッパピン66との当接音が抑制されるようになっている。
【0072】
前述したように、緩衝機構73がマスターアーム70の後面70R上に設けられているため、変速操作時のダンパ本体部73aの変形は、
図10に示されるように、ストッパピン66の外周面66aとダンパ本体部73aとが当接してからストッパピン66の外周面66aとマスターアーム70の規制孔71の領域端縁72f,72gとが当接するまでの範囲に限定される。そのため、このダンパ本体部73aの変形量を一定量に調整することが可能となるとともに、ダンパ本体部73aの変形量を小さくしてダンパ本体部73aの耐久性を向上することができるようになっている。なお、ダンパ本体部73aをマスターアーム70に回転可能に固定することで、ダンパ本体部73aの変形部位を変えて、ダンパ本体部73aの全周を使用することも可能となる。
【0073】
また、緩衝機構73がマスターアーム70の後面70R上に設けられることで、ストッパピン66によりマスターアーム70の回動が停止されたときに、マスターアーム70の規制孔71の領域端縁72f,72gとストッパピン66の外周面66aとの間に緩衝機構73が介在しない。そのため、マスターアーム70の回動量を規制孔71の形状により一定量に規制することができるようになっている。
【0074】
マスターアーム70の回動がストッパピン66により停止されたとき、リターンスプリング67の一方の端部67bがマスターアーム70の係止部72eに押えられ、他方の端部67bがストッパピン66によりリターンスプリング67のばね力に抗して押し開かれるので、マスターアーム70には、リターンスプリング67から回動前の中立位置に戻そうとする付勢力が与えられる。そして、シフトモータ50からの駆動力の入力を停止し、シフトスピンドル61を介してマスターアーム70に作用していた力が無くなると、マスターアーム70はリターンスプリング67によりシフトスピンドル61とともに回動前の中立位置に戻される。
【0075】
図6に示されるように、リターンスプリング67は、シフトスピンドル61の軸方向において、緩衝機構73が設けられたマスターアーム70の後面70Rとは反対側の面であるマスターアーム70の前面70F上に設けられている。そのため、これら(緩衝機構73およびリターンスプリング67)をマスターアーム70にコンパクトに設定でき、緩衝機構73とリターンスプリング67とは互いに干渉せず、それぞれの機能を発揮することができるようになっている。
【0076】
以上に説明した本発明の第一の実施の形態では、以下の効果を奏する。
マスターアーム70の規制孔71には、緩衝機構73が設けられている。ストッパピン66の軸方向視で、ダンパ本体部73aの一部は、マスターアーム70の規制孔71の規制端縁72c,72dのうち、ストッパピン66が規制孔71内をマスターアーム70に対して相対的に回動する軌跡Loの延長領域内にある領域端縁72f,72gから、ストッパピン66の軌跡Lo上に張出すように形成されている。
この構成によれば、ストッパピン66によりマスターアーム70の回動が規制されるときに、ストッパピン66は、規制孔71内に張出したダンパ本体部73aの一部を必ず変形させる。この緩衝機構73の変形により、ストッパピン66がマスターアーム70の回動を規制する際に生じる衝撃が緩和されてストッパピン66の取付け部11aの強度の確保が容易になる。また、ストッパピン66の取付け部11a周辺の変速機ケース16や取付け部11aの肉厚および重量の増加が抑制されてこれらが軽量化されるとともに、マスターアーム70とストッパピン66との当接音を抑制することができる。
なお、強度の確保が容易になることで軽量化が容易になる部材はストッパピン66の取付け部11aに限られず、マスターアーム70、シフトスピンドル61などのチェンジ機構60や減速ギア機構51を含む変速駆動装置20を構成する部材全てに言える。
【0077】
また、緩衝機構73は、シフトスピンドル61の軸方向において、マスターアーム70の後面70R上に設けられている。
この構成によれば、ストッパピン66とダンパ本体部73aとが最初に当接した後、ダンパ本体部73aが変形してマスターアーム70の規制孔71の領域端縁72f,72gとストッパピン66の外周面66aとが当接することとなる。このダンパ本体部73aの変形により、マスターアーム70とストッパピン66との当接時の衝撃が緩和されてストッパピン66の取付け部11aの強度の確保が容易となる。また、ストッパピン66の取付け部11a周辺の変速機ケース16や取付け部11aの肉厚および重量の増加が抑制されてこれらが軽量化されるとともに、マスターアーム70とストッパピン66との当接音を抑制することができる。
【0078】
さらにまた、緩衝機構73がマスターアーム70の後面70R上に設けられているため、変速操作時のダンパ本体部73aの変形は、ストッパピン66の外周面66aとダンパ本体部73aとが当接してからストッパピン66の外周面66aとマスターアーム70の規制孔71の領域端縁72f,72gとが当接するまでの範囲に限定される。そのため、このダンパ本体部73aの変形量を一定量に調整することができるとともに、ダンパ本体部73aの変形量を小さくしてダンパ本体部73aの耐久性を向上することができるようになっている。
【0079】
また、緩衝機構73は、ダンパ本体部73aと、ダンパ本体部73aをマスターアーム70に固定するピン部73bとから構成されている。そのため、緩衝機構73を簡単な構成で必要な個所のみに配置することができ、マスターアーム70への緩衝機構73の配置に伴う重量およびコストの増加を低減することが可能となる。
【0080】
また、緩衝機構73は、マスターアーム70の規制孔71の規制端縁72c,72dの周縁部で、ストッパピン66を挟んだ位置に二か所設けられている。そのため、緩衝機構73を変速機21のシフトアップ方向とシフトダウン方向の二方向の必要箇所に限定して配置することができ、マスターアーム70への緩衝機構73の配置に伴うマスターアーム70の重量およびコストの増加をさらに低減することができる。
【0081】
シフトスピンドル61には、マスターアーム70を回動前の位置に戻す方向に付勢するリターンスプリング67が設けられている。リターンスプリング67は、マスターアーム70の緩衝機構73が設けられた面とは反対側の前面70F上に配置されている。そのため、緩衝機構73とリターンスプリング67とを、両部品の機能を確保しつつマスターアーム70にコンパクトに配置することができる。
【0082】
次に、本発明に係るパワーユニットPの変速駆動装置20の第二の実施の形態について
図11ないし
図15を参照して説明する。
図11は、本発明の第二の実施の形態に用いられるストッパピン80周辺の部分拡大断面図であり、
図12は、
図11の変速駆動装置20が備えるチェンジ機構60を一部簡略化して示した要部拡大図である。第二の実施の形態では、前述した第一の実施の形態と同一の部材については同じ符号を付して説明を省略する。
【0083】
図11および
図12に示されるように、マスターアーム70の規制孔71には、ストッパピン80が、シフトスピンドル61と軸方向が平行になるように前後方向に指向して挿通されている。ストッパピン80は、第一の実施の形態と同様に、シフトスピンドル61の軸方向視で、マスターアーム70の規制孔71の一対の規制端縁72c,72d間の中央に配置されている。
【0084】
図13は、ストッパピン80と緩衝機構90とを分解した分解断面図である。なお、
図13において、ストッパピン80は片側断面図としている。
【0085】
図11および
図13に示されるように、ストッパピン80には、後端から前端に向って、雄ねじ部81、工具掛け部82、軸部83、および縮径部85が形成されている。雄ねじ部81は、ストッパピン80の後端側に形成され、ミッションホルダ11の前面に設けられた取付け部11aに螺合される。
図12を参照して、工具掛け部82は、ストッパピン80の軸方向視で六角形状に形成されている。軸部83は、外径D1がマスターアーム70の規制孔71よりも小さい円柱形状に形成されている。縮径部85は、軸部83の外径D1より小径となるように縮径して形成されている。縮径部85の前端には、縮径部85の周方向に沿って細溝85bが形成されている。また、軸部83と縮径部85との間にはストッパピン80の軸方向に垂直な面を有するガイド段部84が形成されている。
【0086】
図11に示されるように、ストッパピン80の軸断面視におけるストッパピン80の軸方向において、縮径部85の中央やや軸部83寄りであってマスターアーム70の規制孔71の端縁72と重なる位置には、縮径部85の外周面85aから径方向外方へ向けて、縮径部85と同心円状に張出した張出部86が形成されている。
図13も参照して、ストッパピン80の軸方向において、張出部86の長さL1は、マスターアーム70の厚さT1とほぼ同じ長さに形成され、張出部86の軸方向の中央位置とマスターアーム70の厚さ方向の中央位置とが一致するようになっている。
【0087】
図11および
図13に示されるように、ストッパピン80の縮径部85には、緩衝機構90が環装されている。ストッパピン80の縮径部85の緩衝機構90を挟んでガイド段部84と反対側には、ガイドワッシャ93および止め輪94が設けられている。このように、縮径部85に緩衝機構90を環装することで、ストッパピン80から緩衝機構90を過剰に張出させることなく、ストッパピン80に緩衝機構90を設けることができるようになっている。
【0088】
緩衝機構90は、弾性部材であるゴム製のオーリング91と金属製のカラー92とから構成されている。オーリング91は、ストッパピン80の軸方向において、縮径部85における張出部86の前方および後方の二か所の外周面85aに、それぞれ外嵌されている。なお、オーリング91は、張出部86から等距離になるようにそれぞれ外嵌されると後述するカラー92の移動に好適である。
【0089】
図11に示されるように、カラー92は、円筒状に形成され、オーリング91を介してストッパピン80の縮径部85に隙間を存してストッパピン80と平行に環装されている。カラー92の後端は、ストッパピン80のガイド段部84に接している。
このようにして、オーリング91は、カラー92の内周面92bとストッパピン80の縮径部85の外周面85aとの間に介装されている。
【0090】
図11および
図13に示されるように、ストッパピン80の軸方向において、緩衝機構90のカラー92の長さL2は、ストッパピン80の縮径部85の長さL3よりも短く形成されている。また、カラー92の外径D3は、ストッパピン80の軸部83の外径D1よりも大きく、カラー92の内径D4は、張出部86の外径D2よりも大きく形成されている。カラー92の径方向の厚さT2は、張出部86の外周面86aから軸部83の外周面83aまでの距離、すなわち軸部83の外径D1から張出部86の外径D2を引いた値の1/2に等しく形成されている。
【0091】
ガイドワッシャ93は、円盤状に形成され、中央部にストッパピン80の縮径部85が挿通されて、カラー92の前端に接するようにして縮径部85に配置される。このガイドワッシャ93とストッパピン80のガイド段部84とにカラー92が挟まれることにより、カラー92の径方向への移動が円滑に案内されるようになっている。
【0092】
止め輪94は、C字状に形成され、縮径部85の前端に形成された細溝85bに嵌装されることで、緩衝機構90とガイドワッシャ93のスラスト方向(軸方向)への抜けを防ぐようになっている。
【0093】
このように緩衝機構90がストッパピン80の縮径部85の外周面85aに設けられることで、
図12に示されるように、緩衝機構90の一部(本実施の形態ではカラー92の一部)は、シフトスピンドル61の軸方向視で、ストッパピン80の軸部83の外周面83aよりも径方向で外方に張出し、ストッパピン80が規制孔71内をマスターアーム70に対して相対的に回動する軌跡Lo上に張出すようになっている。
【0094】
本発明の第二の実施の形態においては、
図11に示されるように、マスターアーム70の規制孔71の短辺縁72aには、マスターアーム70の後面70R側に屈曲してリターンスプリング67が係止される係止部72eが形成されている。
【0095】
また、シフトスピンドル61の軸方向において、マスターアーム70の後方には、マスターアーム70が回動前の位置に戻る方向に付勢するリターンスプリング67が設けられている。リターンスプリング67は、第一の実施の形態と同様にコイル部67aと、コイル部67aから延出する二本の端部67b,67bとからなっている。
【0096】
リターンスプリング67のコイル部67aには、延長カラー部材65が、コイル部67aを貫通して配置されている。リターンスプリング67の二本の端部67b,67bは、マスターアーム70の後面70Rに平行に規制孔71へと延出され、ストッパピン80の軸部83とマスターアーム70の係止部72eを間に挟むようにマスターアーム70の外縁まで延ばされるとともに、その中央部がマスターアーム70の係止部72eに係止されている。
【0097】
図14は、
図12のXIV-XIV線断面図である。また、
図15は、
図14の状態からマスターアーム70が一方向(反時計回りの方向)へ回動した状態の部分断面図である。
【0098】
図14に示されるように、緩衝機構90のカラー92は、マスターアーム70の回動前には、オーリング91に付勢されてストッパピン80の縮径部85の張出部86とは、周方向に均等な間隔を存して配置されている。シフトモータ50からの駆動力の入力によりシフトスピンドル61が回動し、マスターアーム70がいずれかの方向(本説明では反時計回りの方向)へ回動すると、ストッパピン80はマスターアーム70に対して相対的に時計回り方向へ回動し、マスターアーム70の規制孔71の領域端縁72gと緩衝機構90のカラー92の外周面92aとが接触する。さらにマスターアーム70が回動すると、マスターアーム70は、オーリング91の領域端縁72g側を潰すように変形させ、カラー92をマスターアーム70の回動方向へ移動させる。このオーリング91の変形により、マスターアーム70の移動速度が低減されてマスターアーム70とストッパピン80との当接時の衝撃が緩和されるとともに、マスターアーム70とストッパピン80との当接音が抑制されるようになっている。
【0099】
そして、
図15に示されるように、ストッパピン80の縮径部85の張出部86の外周面86aと緩衝機構90のカラー92の内周面92bとが当接することで、ストッパピン80によりマスターアーム70の回動量が規制されるとともに、ポールラチェット機構74の回動によりシフトドラム40が間欠的に回動され、変速機21のシフトチェンジが行われる。このように、マスターアーム70の回動が緩衝機構90を介してストッパピン80により規制されたときに、マスターアーム70の規制孔71の領域端縁72f,72gとストッパピン80の張出部86の外周面86aとの間にオーリング91や隙間が介在しないため、マスターアーム70の回動量が規制孔71の形状により一定量に規制することができるようになっている。
【0100】
なお、この状態において、ストッパピン80の中心軸線C13からカラー92の外周面92aとマスターアーム70の規制孔71の領域端縁72gとの当接部までの距離L4と、ストッパピン80の中心軸線C13からストッパピン80の軸部83の外周面83aとリターンスプリング67の端部67bとの当接部までの距離L5とが等しくなるようになっている。そのため、リターンスプリング67は、第一の実施の形態と同じ強さのものを使用することができる。また、ストッパピン80の軸方向視で、マスターアーム70の規制孔71に対するストッパピン80と緩衝機構90とが占める面積が増加しても、規制孔71の大きさを特に大きくする必要が無い。
【0101】
以上に説明した本発明の第二の実施の形態については、以下の効果を奏する。
ストッパピン80には、緩衝機構90が設けられ、ストッパピン80の軸方向視で、緩衝機構90の一部がストッパピン80が規制孔71内をマスターアーム70に対して相対的に移動する軌跡Lo上に張出すように配設されている。
この構成によれば、マスターアーム70が回動し、ストッパピン80によりマスターアーム70の回動量が規制されるときに、ストッパピン80の軌跡Lo上に張出した緩衝機構90のオーリング91の一部を必ず変形させることとなる。このオーリング91の変形により、ストッパピン80がマスターアーム70の回動を規制する際に生じる衝撃を緩和し、ストッパピン80の取付け部11aの強度の確保が容易になる。また、ストッパピン80の取付け部11a周辺の変速機ケース16や取付け部11aの肉厚および重量の増加が抑制されてこれらが軽量化されるとともに、マスターアーム70とストッパピン80との当接音を軽減することができる。
【0102】
緩衝機構90に備えられたオーリング91がストッパピン80の縮径部85の外周面85aに嵌装されることで、オーリング91を簡素な構成でストッパピン80に設けることができる。
【0103】
緩衝機構90には、オーリング91を介してストッパピン80に環装される円筒状のカラー92が備えられており、ストッパピン80の縮径部85の外周面85aには、該外周面85aから張出す張出部86が形成されている。そのため、マスターアーム70の回動がストッパピン80により規制されるときに、カラー92の外周面92aとマスターアーム70の領域端縁72f,72gとが最初に接触し、その後にオーリング91が変形して、張出部86を介してカラー92とストッパピン80とが当接されることとなる。このオーリング91の変形により、ストッパピン80がマスターアーム70の回動を規制する際に生じる衝撃が緩和されてストッパピン80の取付け部11aの強度の確保が容易になる。また、ストッパピン80の取付け部11a周辺の変速機ケース16や取付け部11aの肉厚および重量の増加が抑制されてこれらが軽量化されるとともに、マスターアーム70とストッパピン80との当接音を低減することができる。また、張出部86を介してカラー92とストッパピン80とが当接されることでオーリング91の変形が止まるため、カラー92によるオーリング91の変形量を一定量に管理することができ、併せてオーリング91の耐久性をも確保することが可能となる。
【0104】
張出部86は、ストッパピン80の軸断面における該ストッパピン80の軸方向位置において、マスターアーム70の規制孔71の端縁72と重なる位置に形成されている。また、ストッパピン80の軸方向において、オーリング91が張出部86を挟んで一対設けられている。そのため、マスターアーム70の回動がストッパピン80により規制されるときに、カラー92は、マスターアーム70と接触した後、一対のオーリング91を同時に変形させながら、マスターアーム70の回動方向に移動することになり、緩衝機構90の作動を円滑にすることができる。
【0105】
ストッパピン80には、軸部83と、該軸部83よりも小径な縮径部85とが形成され、縮径部85と軸部83との間には、ガイド段部84が形成されている。そして、縮径部85には、緩衝機構90が環装され、縮径部85の緩衝機構90を挟んでガイド段部84の反対側には、ガイドワッシャ93と止め輪94とが設けられている。そのため、マスターアーム70の回動がストッパピン80により規制されるときに、カラー92は、ガイド段部84とガイドワッシャ93とに案内されてマスターアーム70の回動方向に、ストッパピン80と平行な方向の姿勢を保って移動することになり、緩衝機構90の作動を円滑にすることができる。
【0106】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して説明したが、実施の形態は上記の説明の内容に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することができる。
【0107】
例えば、第一の実施の形態において、ダンパ本体部73aの形状は円環状に限定されず、その一部がストッパピン66の軌跡Lo上に張出していれば矩形状、扇状等の他の形状であっても良い。
また、第一の実施の形態において、緩衝機構73はストッパピン66にも設けられても良く、第二の実施の形態において、緩衝機構90はマスターアーム70にも設けられても良い。
【0108】
図16に示されるように、第二の実施の形態において、張出部86は、ストッパピン80の縮径部85ではなくカラー92の内周面92bに形成されて、マスターアーム70の回動がストッパピン80により規制されるときに、張出部86とストッパピン80の縮径部85の外周面85aとが当接されるようにしても良い。このとき、弾性部材としてのオーリング91は、カラー92の内周面92bに焼付けられてカラー92と一体になるようにしても良い。この場合、緩衝機構90を一部材とすることができ、ストッパピン80への緩衝機構90の取付けが容易になる。
また、第二の実施の形態において、マスターアーム70の回動の規制時に、オーリング91を変形させて張出部86の外周面86aとカラー92の内周面92bとが当接していれば良く、カラー92の厚みT2は、本実施の形態に限定されない。
さらに、第二の実施の形態において、カラー92とストッパピン80とが張出部86を介して当接していれば、張出部86は、カラー92の内周面92bとストッパピン80の縮径部85の外周面85aとの両側に相互に対向して形成されても良い。
また、シフトスピンドル61がシフトモータ50により電気的に駆動されるものではなく、フットペダルにより回動されるものであっても良い。