(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
中空体で構成され、その中空部に連通し、血液が流入する血液流入口と、前記中空部に連通し、前記血液流入口から流入した血液が流出する血液流出口とを有するハウジングと、
前記中空部内に回転可能に収納され、その回転により血液に遠心力を付与する遠心力付与部材と、
前記遠心力付与部材を前記ハウジングに対し回転可能に支持する支持機構とを備え、
前記支持機構は、前記遠心力付与部材の回転中心に設置され、前記遠心力付与部材の回転軸として機能する軸部材と、
前記軸部材の一端部を回転可能に支持する第1の軸受けと、
前記軸部材の他端部を回転可能に支持する第2の軸受けとを有する遠心ポンプを製造する製造方法であって、
前記ハウジングは、前記第1の軸受けが設置される蓋部材と、前記第2の軸受けが設置される底部材とを前記回転軸方向に組立てた組立状態で接合されてなるものであり、
前記組立状態とする組立工程と、
前記組立状態で、前記蓋部材と前記底部材とが互いに接近する方向に加圧を行いつつ、前記蓋部材と前記底部材との接合を行う接合工程とを有し、
前記組立工程後であって前記接合工程前における前記第1の軸受と前記第2の軸受との離間距離を離間距離D0としたとき、
前記接合工程後の前記第1の軸受と前記第2の軸受との離間距離D1は、離間距離D0よりも小さく、
前記蓋部材と前記底部材との境界部には、前記加圧により前記蓋部材および前記底部材がそれぞれ変形する易変形部が設けられており、
前記接合工程では、前記易変形部を変形させることにより、前記離間距離D1を調節することを特徴とする遠心ポンプの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の遠心ポンプの製造方法を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0017】
<第1実施形態>
図1は、本発明の製造方法により製造される遠心ポンプの実施形態を示す断面側面図である。
図2は、
図1に示す遠心ポンプの断面平面図である。
図3は、本発明の遠心ポンプの製造方法を示す縦断面図であって、用意工程を示す図である。
図4は、本発明の遠心ポンプの製造方法を示す縦断面図であって、接合工程を示す図である。
図5は、本発明の遠心ポンプの製造方法を示す縦断面図であって、
図3に示すハウジングの部分拡大図である。
【0018】
なお、以下では、説明の都合上、
図1、
図3〜5の上側を「上」または「上方」、下側を「下」または「下方」と言う。
【0019】
図1に示す遠心ポンプ1は、中空体で構成されたハウジング2と、ハウジング2内に回転可能に収納された回転体(インペラ)3と、回転体3をハウジング2に対し回転可能に支持する支持機構4とを備えている。以下、各部の構成について説明する。
【0020】
ハウジング2は、ハウジング本体20と、血液Qが流入する血液流入ポート25と、血液Qが流出する血液流出ポート26とを有している。
【0021】
ハウジング本体20は、偏平な円筒状の部材で構成され、底部材21と、血液流入ポート25および血液流出ポート26が形成された蓋部材22とを有し、これらを組立てた組立状態で接合されてなるものである。
【0022】
底部材21は、円板状をなし、その上面の縁部から突出形成され、周方向に延在する側壁(第1の壁部)211を有している。また、側壁211は、その上端部に厚さが薄くなっている薄肉部212と、厚さが一定の厚さ一定部213とを有している。薄肉部212は、ハウジング本体20の周方向の全域にわたって設けられている。また、薄肉部212は、上側に向って厚さが薄くなっており、その内周面212aは傾斜している(
図5参照)。
【0023】
蓋部材22は、天板221と、天板221の下面の縁部から突出形成され、周方向に延在する側壁(第2の壁部)222とを有している。また、側壁222は、厚さ一定部224の下端部に設けられ、厚さが薄くなっている薄肉部223と、厚さが一定の厚さ一定部224とを有している。薄肉部223は、ハウジング本体20の周方向の全域にわたって設けられている。また、薄肉部223は、下側に向って厚さが薄くなっており、その外周面223aは傾斜している(
図5参照)。
【0024】
また、組立状態では、薄肉部212は、薄肉部223の外側に位置している。薄肉部212と薄肉部223との境界部は、当該境界部付近にレーザ光を照射することにより、融着された融着部100となっている。この融着部100は、ハウジング本体20の全周にわたって形成されている。このことについては、後に詳述する。
【0025】
そして、底部材21と蓋部材22とで囲まれた偏平な空間(中空部)がポンプ室24となる。
【0026】
また、血液流入ポート25と血液流出ポート26とは、それぞれ、ポンプ室24に連通している。そして、血液流入ポート25から流入した血液Qは、ポンプ室24を介して、血液流出ポート26から流出することができる。
【0027】
図1に示すように、血液流入ポート25は、天板221(一端部)の中心部に管状(円筒状)に突出形成されている。血液流入ポート25は、その長手方向の途中が屈曲しており、当該屈曲部251を境界部として天板221側の根元部252と、それと反対側の接続部253とに分けることができる。接続部253は、回転体3の回転軸に対して傾斜して設けられている。この接続部253には、例えば血液回路を構成するチューブを接続することができる。
【0028】
図2に示すように、血液流出ポート26は、側壁222の外周面(外周部)に管状に突出形成されている。この血液流出ポート26は、側壁222の外周面の接線方向に向かって突出している。
【0029】
ハウジング本体20のポンプ室24内には、円盤状をなす回転体3が同心的に配置されている。この回転体3は、回転することにより、血液Qに遠心力を付与する遠心力付与部材である。
【0030】
図2に示すように、回転体3は、血液Qが通過する複数本(図示の構成では6本)の血液流路31を有している。これらの血液流路31は、回転体3の中心から放射状に形成されている。また、各血液流路31の回転体3の中心側の部分同士は、互いに合流(交差)しており、回転体3の上面32に開口している。一方、血液流路31の回転体3の中心側と反対側の部分は、それぞれ、回転体3の外周面33に開口している。また、回転体3の外周面33とハウジング2の側壁222の内周面との間には、間隙241が形成されている。
【0031】
そして、このような回転体3が、ハウジング2を上から見たような
図2のように軸部材5を中心に時計回りに回転すると、血液流入ポート25から流入した血液Qは、各血液流路31にその回転体3の中心側の部分から入り込み、遠心力を受けて、血液流路31を流下する。この流下した血液Qは、間隙241内に流出する。その後、血液Qは、間隙241内で
図2中の時計回りの回転力を受けて、血液流出ポート26に至ると、当該血液流出ポート26から確実に排出されることとなる。
【0032】
図1に示すように、回転体3には、血液流路31の下側の部分に、磁石が設置されている。なお、
図1に示す構成では、複数(例えば6つ)の永久磁石34を用いている。遠心ポンプ1を駆動するに際しては、後述する軸部材5が鉛直方向と平行となるようにハウジング2の底部材21を下側にして、当該遠心ポンプ1を外部駆動手段(図示せず)に装着する。この装着状態で遠心ポンプ1が使用される。外部駆動手段は、例えば、モータと、モータに連結された永久磁石とを有し、この永久磁石が遠心ポンプ1に内蔵された永久磁石34と磁力により引き付け合う。そして、この状態でモータが回転すると、その回転力が前記引き付け合う磁石同士を介して伝達されて、回転体3も回転することができる。
【0033】
なお、回転体3の直径は、特に限定されないが、例えば、20〜200mmであるのが好ましく、30〜100mmであるのがより好ましい。回転体3の厚さは、特に限定されないが、例えば、3〜40mmであるのが好ましく、5〜30mmであるのがより好ましい。回転体3の最大回転数は、特に限定されないが、例えば、2000〜6000rpmであるのが好ましく、2500〜5000rpmであるのがより好ましい。
【0034】
また、回転体3およびハウジング2の構成材料としては、特に限定されず、例えば、硬質ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のようなポリエステル、ポリサルフォン、ポリアリレート等の各種硬質樹脂が挙げられる。また、これらの構成材料のうちでも、特に、血液Qとの適合性に優れ、また、透明性、成形加工性に優れるという点で、ポリカーボネート、アクリル樹脂が好ましい。なお、ハウジング2の構成材料は、上記の樹脂材料のうち、光透過性を有するものとされる。
【0035】
特に、ハウジング2(底部材21および蓋部材22)の構成材料の融点は、特に限定されないが、200〜400℃程度のものが好ましく、250〜350℃程度のものがより好ましい。このような材料を用いることにより、融着後の固定が早くなり、融着部100の融着性、融着の均一性がより向上する。
【0036】
図1に示すように、回転体3は、支持機構4を介してハウジング2に対し回転可能に支持されている。支持機構4は、軸部材5と、軸部材5の上端部(一端部)を回転可能に支持する第1の軸受け6と、軸部材5の下端部(他端部)を回転可能に支持する第2の軸受け7とを有している。
【0037】
軸部材5は、回転体3の回転中心に設置されている。軸部材5は、両端部が丸みを帯びた棒状の部材で構成されている。軸部材5の構成材料としてセラミックを用いる場合、軸部材5の両端部は、研磨を施すことで軸部材5が回転する際の両端部の摺動性が向上する。また、軸部材5の構成材料として金属材料を用いる場合、軸部材5の両端部には、研磨を施した上で、例えば、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)やチタン等のコーティングが施されていてもよい。これにより、軸部材5が回転する際の両端部の摺動性や耐久性が向上する。
【0038】
第1の軸受け6は、血液流入ポート25の接続部253の内周部に凹没して形成された第1の軸受け設置部254に設置、固定されている。この第1の軸受け6は、ブロック状をなし、下面61には、軸部材5の上端面51の湾曲形状に沿って窪んだ湾曲凹面62が形成されている。
【0039】
第2の軸受け7は、ハウジング2の底部材21の中心部に凹没して形成された第2の軸受け設置部225に設置、固定されている。第2の軸受け7は、ブロック状をなし、上面71には、軸部材5の下端面52の湾曲形状に沿って窪んだ湾曲凹面72が形成されている。
【0040】
なお、第1の軸受け6、第2の軸受け7のハウジング2に対する固定方法としては、特に限定されないが、例えば、嵌合による方法、接着(接着剤や溶媒による接着)による方法、融着(熱融着、高周波融着、超音波融着等)による方法、インサート成形による方法等が挙げられる。
【0041】
次に、遠心ポンプ1の製造方法について説明する。
遠心ポンプ1の製造方法は、[1]用意工程と、[2]光吸収材供給工程と、[3]組立工程と、[4]接合工程とを備えている。
【0042】
[1]用意工程
図3および
図4に示すように、まず、底部材21、蓋部材22、回転体3、支持機構4および治具8を用意する。
【0043】
治具8は、底部材21を保持する保持具81と、底部材21および蓋部材22に加圧を行う加圧具82とを有している。
【0044】
保持具81は、円板状(ブロック状)をなし、その上面には、底部材21の下端部を挿入し固定する凹部811が形成されている。また、保持具81は、図示しないターンテーブルに固定されており、回転体3の回転中心回りに回転可能になっている。
【0045】
加圧具82は、横断面形状が円形の有底筒状をなし、その内側に血液流入ポート25を挿入可能な内部空間821を有している。この内部空間821は、ハウジング本体20を加圧する際、血液流入ポート25の逃げ部として機能する。また、加圧具82の下端面822は、蓋部材22の天板221の形状に沿って傾斜している。
【0046】
[2]光吸収材供給工程
次に、
図3に示すように、レーザ光を吸収する光吸収材200を蓋部材22の薄肉部223の表面に塗布(供給)する。光吸収材200としては、例えば、カーボンブラック等の粉末、該粉末や後述する染料を含む液状(ペースト状)のもの、または該粉末や該染料を含むシート状(層状)のものが挙げられる。
【0047】
本実施形態では、液状(ペースト状)の光吸収材200を用い、この光吸収材200を薄肉部223の端面223bと、薄肉部223の外周面223aと、厚さ一定部224の端面224aとに塗布する。これら端面223b、外周面223aおよび端面224aは、連続しており、かつ、それらの境界は丸みを帯びている。これにより、光吸収材200を塗布する際、光吸収材気泡が混在したりするのを防止または抑制することができる。
【0048】
また、液状(ペースト状)の光吸収材200を用いることにより、光吸収材200が、その形状が自由に変えられるため、本実施形態のように塗布する面が、湾曲または屈曲した異形の場合に適している。
【0049】
液状(ペースト状)の光吸収材200の塗布方法としては、特に限定されず、スプレーコート(スプレー塗装)、刷毛塗り、ディッピング、滴下等、いずれの塗布方法を用いてもよい。
【0050】
なお、例えば、シート状の光吸収材200を用いる場合、薄肉部223の形状と同形状(円環状)に打ち抜かれた(切り取られた)シート状の光吸収材200を用意し、これを後述の[2]組立工程の際に、薄肉部212と薄肉部223との間に介在させる。シート状の光吸収材200を用いることにより、予め円環状のものを用意(製造)しておき、それを目的部位に装着すればよいので、ペースト状の光吸収材200を用いる場合に比べ、介在させる操作が簡単であるという利点がある。
【0051】
また、光吸収材200を構成する光吸収物質(レーザ光吸収物質)として、次に挙げるような、融着部100の透明度をできるだけ低下させないものを用いることができる。このような光吸収物質としては、可視光領域(0.4μm以上0.7μm未満)の吸収が少なく、0.7〜2.5μmのレーザ光波長領域において狭い吸収帯で高いモル吸光度係数を示すものが好ましく、例えば、シアニン染料、スクウォリリウム染料、クロコニウム染料等の染料が挙げられる。
【0052】
具体例を挙げて説明すると、例えば、シアニン染料としては、下記化学式1で示される化合物、スクウォリリウム染料としては、下記化学式2で示される化合物、クロコニウム染料としては、下記化学式3で示される化合物を用いることができる。
【0056】
光吸収材200として上記のようなレーザ光吸収物質を用いることにより、融着部100の透明度の低下を極力抑えることができるので、透明な材料で構成される底部材21および蓋部材22に対し、融着部100が着色されて目立ってしまい、外観上の統一感を損なうということも防止される。
【0057】
また、別途用意された光吸収材200を用いることにより、レーザ光を吸収させるために底部材21や蓋部材22そのものを着色する必要がなく、底部材21や蓋部材22を実質的に透明なものとすることができるので、内部の視認性を十分に確保することができる。
【0058】
また、光吸収材200をハウジング2と同種の素材、例えばポリカーボネートに練り込まれたものを使用し、薄肉部223へ2色成形などの成形方法を用いて供給しても良い。
【0059】
[3]組立工程
図4に示すように、回転体3および支持機構4を内側に収納するように、底部材21および蓋部材22を組立てる。このとき、蓋部材22の外周面223aは、底部材21の内周面212aによって案内されるため、底部材21に対して容易に位置決めされる。これにより、容易に組立状態とすることができる。
【0060】
そして、組立状態の遠心ポンプ1(以下、この組立状態の遠心ポンプ1を「遠心ポンプ1’」とも言う)を保持具81の凹部811内に固定し、加圧具82の下端面822を天板221の上面に配置する。
【0061】
[4]接合工程
次に、
図4に示すように、レーザ光LLを光吸収材200に向って照射する。レーザ光LLは、底部材21の薄肉部212を透過して、光吸収材200に照射される。光吸収材200に照射されたレーザ光LLは、効率良く光吸収材200に吸収され、熱に変わるので、低出力で効率的に融着を行うことができる。
【0062】
また、レーザ光LLの光源を固定し、保持具81を遠心ポンプ1’ごと回転させて光吸収材200の全周にわたってレーザ光LLを照射する。これにより、底部材21および蓋部材22を全周にわたって融着することができる、すなわち、ハウジング2の全周にわたって融着部100を形成することができる。よって、融着強度(接合強度)の向上を図ることができる。
【0063】
また、
図4に示すように、底部材21の薄肉部212と、蓋部材22の薄肉部223とがハウジング2の径方向に重なっている重なり部300の
図4中上下方向の全長にわたってレーザ光LLを照射する。これにより、レーザ光LLを照射しつつ遠心ポンプ1’を1回転させるという簡単な方法で融着部100を形成することができる。
【0064】
また、薄肉部212と薄肉部223とを接合することにより、できるだけ接合面積(融着面積)をできるだけ大きくすることができる。よって、底部材21と蓋部材22とをより高い接合強度で接合することができる。さらに、薄肉部212は、厚さが薄くなっているので、レーザ光LLが透過する際、減衰を抑制することができる。
【0065】
特に、
図4に示すように、薄肉部212の内周面212aと、薄肉部223の外周面223aとは、それぞれ回転体3の回転中心に対して傾斜して設けられている。これにより、遠心ポンプ1の使用中にハウジング2の内圧が上昇した場合、薄肉部223の外周面223aが、薄肉部212の内周面212aに押しつけられる方向に力が作用する。よって、底部材21および蓋部材22が互いに離脱する方向に力が加わったり、それに起因するクラックの発生や融着部100の破損を確実に防止することができる。
【0066】
照射するレーザ光LLの種類としては、特に限定されず、例えば、半導体レーザ、CO
2レーザ、YAGレーザ、エキシマレーザ等が挙げられるが、その中でも特に、半導体レーザがエネルギー効率が良く、寿命が長いという理由で好ましい。
【0067】
照射するレーザ光LLの波長は、概ね、前記レーザ光LLの種類に依存するが、半導体レーザの場合、波長は、800〜1000nm程度であるのが好ましい。
【0068】
レーザ光LLのビーム径は、特に限定されないが、重なり部300の
図4中の上下方向の長さと同じかまたは若干大きいのが好ましい。これにより、重なり部300にレーザ光LLを照射しつつ、底部材21および蓋部材22を回転させるという簡単な方法により、光吸収材200の
図4中上下方向の全長にわたってレーザ光LLを確実に照射することができる。よって、容易に融着を行うことができる。
以上の工程を経て遠心ポンプ1を得ることができる。
【0069】
ところで、遠心ポンプ1の使用中には、ハウジング2内の内圧が高まり、ハウジング2は、回転軸O方向に拡張する傾向を示す。このため、第1の軸受け6の下面61と第2の軸受け7の上面71との離間距離Dが大きくなり、軸部材5が上下方向にズレて、さらには、水平方向にも揺動する。その結果、軸部材5の上端面51と第1の軸受け6の湾曲凹面62との間、および、軸部材5の下端面52と第2の軸受け7の湾曲凹面72との間で、それぞれ溶血が生じるおそれがあるが、本発明では、このような不具合を未然に防止することができる。以下、このことについて説明する。
【0070】
図4に示すように、本発明では、接合工程において、加圧具82を用いて底部材21と蓋部材22とが互いに接近する方向に加圧力(抑え力)Pで加圧を行いつつ、上記のような融着を行う。
【0071】
図5(a)に示すように、加圧を行う以前の組立状態では、底部材21上に蓋部材22を配置した状態となっている。この状態では、薄肉部212の内周面212aと薄肉部223の外周面223aとにより、底部材21と蓋部材22との位置関係が一旦規制されている。また、このとき、厚さ一定部224の端面224aと、厚さ一定部213の端面212bとの距離Lは、距離L
0となっている。
【0072】
そして、
図5(b)に示すように、加圧を行うと、蓋部材22は、底部材21に向って押しつけられる、すなわち、締め付けられる。この締め付けにより、薄肉部212の内周面212aと、薄肉部223の外周面223aとは、摺動する。このとき、
図5(b)に示すように、薄肉部223は、内側に撓んで変形し、薄肉部212は、外側に撓んで変形する。その結果、接合工程後の距離Lは、距離L
0よりも小さい距離L
1となる。また、距離L
0が距離L
1となることにより、第1の軸受け6の下面61と第2の軸受け7の上面71との離間距離Dは、組立状態での離間距離D
0よりも小さい離間距離D
1になる。
【0073】
このように、遠心ポンプ1では、薄肉部212と薄肉部223とは、周辺よりも優先的に変形する易変形部になっているため、加圧により離間距離Dを調節することができる。
【0074】
また、離間距離D
1のまま底部材21と蓋部材22との接合を行うことにより、ハウジング2には、圧縮方向の予圧がかかった状態で接合することができる。このような方法によって得られた遠心ポンプ1は、使用中に内圧が高まり、ハウジング2が回転軸O方向に拡張して離間距離Dが増大しても、予め離間距離D
0から離間距離D
1に圧縮して接合している分、離間距離Dの増大により生じる軸部材5の回転軸O方向の移動を防止または抑制することができる。よって、軸部材5の移動に伴う溶血を防止または抑制することができる。さらに、加圧を行いつつ融着を行うことにより、融着強度をより高めることができる。
【0075】
また、離間距離D
1は、離間距離D
0の97%以上99%以下であるのが好ましく、97.5%以上98.5%以下であるのがより好ましい。これにより、確実に溶血を防止することができる。離間距離D
1が、上記下限値を下回ると、第1の軸受け6、第2の軸受け7および軸部材5の構成材料にもよるが、第1の軸受け6および第2の軸受け7が破損する可能性がある。一方、離間距離D
1が上記上限値を上回った場合、本発明の効果が顕著に表れない可能性がある。
【0076】
また、ハウジング2の構成材料にもよるが、加圧力Pの大きさによっては、薄肉部212と薄肉部223とが折損することが考えられる。遠心ポンプ1では、
図5(c)に示すように、厚さ一定部224の端面224aと薄肉部212の端面212bとが当接し、厚さ一定部213の端面213aと薄肉部223の端面223bとが当接することにより、締め付け限界が規制される。これにより、薄肉部212と薄肉部223とが過剰に変形して、折損するのを確実に防止することができる。
【0077】
さらに、薄肉部212と薄肉部223とは、根元部分が端部よりも厚くなっている。すなわち、薄肉部212と薄肉部223とは、根元部分での剛性が高くなっている。これにより、上記折損をより確実に防止することができる。
【0078】
また、本実施形態では、融着を行う際、加圧具82により底部材21および蓋部材22をそれらが接近する方向に加圧力Pで加圧する。これにより、融着強度をより高めることができる。また、このとき、加圧具82は、下端面822で蓋部材22の天板221の縁部、すなわち、側壁222の付け根付近を押圧する。これにより、加圧具82の加圧力(抑え力)は、側壁222に効率よく伝達される。よって、押圧による底部材21と蓋部材22との周方向の位置ズレを防止することができるとともに、底部材21および蓋部材22の境界部をハウジング2の全周にわたってできるだけ均一に押圧することができる。
【0079】
このように、本発明によれば、組立状態で、底部材21と蓋部材22とが互いに接近する方向に加圧を行いつつ、底部材21と蓋部材22との接合を行う。すなわち、軸部材5を締め付けて予圧がかかった状態で底部材21と蓋部材22との接合を行う。これにより、遠心ポンプ1の使用中にハウジング2内の内圧が上昇して、ハウジング2が回転軸方向に拡張したとしても、予め締め付けている分、前記内圧の上昇を相殺することができる。よって、ハウジング2の拡張により生じる軸部材5の揺動を防止または抑制することができる。よって、軸部材5と第1の軸受け6および軸部材5と第2の軸受け7との各間での溶血を確実に防止または抑制することができる。
【0080】
なお、上記工程を経て得られた遠心ポンプ1は、加圧しつつ接合を行うため、常温(25℃程度)において、例えば1〜200MPa程度の残留応力を保持している。この残留応力は、例えばX線回析法等、公知の方法によって検出することができる。
【0081】
そして、特に、遠心ポンプ1では、上記のように残留応力を保持しているため、底部材21と蓋部材22との境界部、すなわち、接合部分においてクラック等の欠陥が生じやすくなる傾向を示すが、前述したように、本実施形態では、レーザ光LLの照射により融着を行う。これにより、融着強度(接合強度)を高めることができ、クラック等の欠陥が生じるのを防止または抑制することができる。また、接合ムラ(融着ムラ)が少なく、ピンホール、部分剥離、気泡の混入等の融着欠陥も生じ難い。また、超音波融着のように、融着の際にかすが生じることがないので、遠心ポンプ1の製造に際し、カスを取り除くために遠心ポンプ1を洗浄する工程(洗浄や洗浄後の乾燥等を含む)を行わずに済み、簡単かつ少ない工程で製造することができる。さらに、接着剤による接着や、溶剤による融着に比べ比較的短時間で、かつ、良好に接合を行うことができる。
【0082】
以上、本発明の遠心ポンプの製造方法を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、遠心ポンプを構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物(工程)が付加されていてもよい。
【0083】
なお、前記実施形態では、レーザ光を照射することにより、蓋部材と底部材とを融着しているが、本発明ではこれに限定されず、例えば、蓋部材と底部材との接合方法は、熱融着、高周波融着、溶剤による融着や、接着剤による接着等であってもよい。
【0084】
また、前記実施形態では、光吸収材供給工程を行った後に組立工程を行っているが、本発明ではこれに限定されず、組立工程を行った後に光吸収材供給工程を行ってもよい。この場合、底部材と蓋部材との境界部に毛管現象を利用して光吸収材を介在させることができる。
【0085】
また、前記実施形態では、光吸収工程において、蓋部材の薄肉部に光吸収材を供給しているが、本発明ではこれに限定されず、底部材の薄肉部に光吸収材を供給してもよく、底部材の薄肉部および蓋部材の薄肉部の双方に光吸収材を供給してもよい。
【0086】
また、前記実施形態では、底部材の薄肉部は、蓋部材の薄肉部の外側に位置しているが、本発明ではこれに限定されず、底部材の薄肉部は、蓋部材の薄肉部の内側に位置していてもよい。
【実施例】
【0087】
以下、本発明により製造される遠心ポンプの具体的な実施例について説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0088】
1.遠心ポンプの作製
(実施例1)
図1〜
図5に示すような遠心ポンプを作製した。この遠心ポンプでは、ハウジング(底部材および蓋部材)および遠心力付与部材は、ポリカーボネートで構成されている。底部材のバネ定数は、161N/mmであり、蓋部材のバネ定数は、308N/mmであった。
【0089】
第1の軸受けおよび第2の軸受けは超高分子ポリエチレンで構成されており、バネ定数は、273N/mmであった。また、第1の軸受けおよび第2の軸受けは、回転軸方向の高さが3.0mmであり、軸部材が挿入される凹部はの深さは1.5mmであり、曲率が2.0であった。
【0090】
軸部材は、アルミナで構成され、外径は3mmであり、両端部の曲率は1.5であった。
【0091】
また、接合工程において離間距離D
0と離間距離D
1との比D
1/D
0が表1に示す割合になるように加圧を行った。
【0092】
(実施例2)
接合工程において比D
1/D
0が表1に示す割合になるように加圧を行ったこと以外は、前記実施例1と同様にして、実施例2の遠心ポンプを得た。
【0093】
(実施例3)
接合工程において比D
1/D
0が表1に示す割合になるように加圧を行ったこと以外は、前記実施例1と同様にして、実施例3の遠心ポンプを得た。
【0094】
(実施例4)
接合工程において比D
1/D
0が表1に示す割合になるように加圧を行ったこと以外は、前記実施例1と同様にして、実施例4の遠心ポンプを得た。
【0095】
(比較例1)
接合工程において比D
1/D
0が表1に示す割合になるようにした、すなわち加圧を行わなかった以外は、前記実施例1と同様にして、比較例の遠心ポンプを得た。
【0096】
(比較例2)
接合工程において比D
1/D
0が表1に示す割合になるように加圧を行ったこと以外は、前記実施例1と同様にして、比較例2の遠心ポンプを得た。
【0097】
2.評価
模擬的使用状態で、実施例1〜4および比較例1、2の遠心ポンプについて、軸部材の回転数2600rpm、血液流量8L/minで溶血が生じたか否かを測定した。
【0098】
さらに、実施例1〜4および比較例1、2の遠心ポンプについて、以下に示す評価基準1に従って、各遠心ポンプが実際の使用に適しているか否かを総合的に評価した。
【0099】
・評価基準1
◎ :現存する遠心ポンプよりも非常に優れている。
○ :現存する遠心ポンプよりも優れている。
× :現存する遠心ポンプと同等か、または、それよりも劣る。
これらの評価結果1を表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
表1から明らかなように、実施例1〜4の中で実施例2、3の遠心ポンプが実際の使用に非常に適しており、次いで実施例1、4の遠心ポンプが実際の使用に適しているという結果となった。
【0102】
なお、本発明では、接合工程において加圧を行いさえすれば、現存する遠心ポンプよりも優れたのもが得られるということは確認されている。
【0103】
また、上記において、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。