【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者の知見によれば、
図5に示す可変ノズル機構における環状プレート12,14は、エンジンの運転に伴い高温の排気ガスに晒されるため、エンジンの起動、停止その他の負荷変動によって排気ガスの温度や流量が変化すると、環状プレート12,14の径方向の温度分布が過渡的に不均一になりやすい。例えば、環状プレート12の排気ガス通路24側の内周縁12a1付近では、環状プレート12の排気ガス通路24側の面12aと環状プレート12の内周面12cの二つの面が排気ガスに晒されるため、エンジンの起動時に環状プレート12の他の箇所と比較して温度が速く上昇し、
図6に示すように環状プレート12の径方向の温度分布が不均一になりやすい(径方向内側に向かうにつれて温度が高くなりやすい)。
【0007】
また、本発明者の知見によれば、このような温度分布の不均一に起因する熱応力(
図7参照)が繰り返し作用することにより、環状プレート12,14における排気ガス通路24側の内周縁付近に疲労損傷が発生しやすい。特に、ノズルベーン16を回動可能に支持するための支持穴12hが設けられている環状プレート12の内周縁12a1から支持穴12hにかけては、
図7に示すように応力が大きくなりやすく、疲労損傷が発生しやすかった(
図8参照)。
【0008】
この点、特許文献1には、上記環状プレートの排気ガス通路側の内周縁付近における疲労損傷の発生を抑制するための構成は何ら開示されておらず、該内周縁付近に疲労損傷が発生するという課題すら開示されていない。
【0009】
本発明は、上述したような従来の課題に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、可変ノズル機構における排気ガス通路を形成する環状プレートに関し、該環状プレートのうち排気ガス通路側の内周縁付近における疲労損傷の発生を抑制可能な可変ノズル機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る可変容量型ターボチャージャの可変ノズル機構は、環状の第1プレートと、前記第1プレートと対向して配置され、前記第1プレートとの間に排気ガス通路を形成する環状の第2プレートと、前記第1プレートおよび前記第2プレートの間に回動可能に支持された複数のノズルベーンと、前記第1プレートの内周側に挿入された環状部材と、を備え、前記第1プレートは、前記排気ガス通路に面する表面と、前記表面と反対側の裏面と、を有し、前記環状部材は、前記排気ガス通路に面する表面(おもてめん)と、前記表面と反対側の裏面と、を有し、前記第1プレートと前記環状部材との間には、前記第1プレートの表面の内周縁と、前記環状部材の表面の外周縁との間から、前記第1プレートの厚さ方向に沿って延在する隙間が設けられる。
【0011】
なお、本明細書における「第1プレート」及び「第2プレート」との文言は、特記しない限り、「発明を実施するための形態」に記載する「ノズルマウント」と「ノズルプレート」のうち一方及び他方にそれぞれ対応する。したがって、「第1プレート」が「ノズルマウント」に対応するとともに「第2プレート」がノズルプレート」に対応する形態と、「第1プレート」が「ノズルプレート」に対応するとともに「第2プレート」が「ノズルマウント」に対応する形態の両方が上記(1)に記載の可変ノズル機構に含まれる。以下においても、特記しない限りは上記二つの形態を含む意味で「第1プレート」及び「第2プレート」との文言を用いることとする。また、「表面」との文言は、特記しない限り「ひょうめん(surface)」ではなく「おもてめん(front surface)」を意味することとする。
【0012】
上記(1)に記載の可変ノズル機構によれば、エンジンの起動、停止その他の負荷変動によって排気ガスの温度や流量が変化し、第1プレート及び環状部材における径方向の温度分布が過渡的に不均一になっても、上記隙間が埋まるまでは第1プレート及び環状部材が両部材の表面側において互いに拘束せずに熱膨張するので、熱応力を効果的に低減することが可能となる。これにより、第1プレートの表面側の内周縁付近での疲労損傷の発生を抑制することができる。
【0013】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の可変ノズル機構において、前記環状部材は、前記隙間よりも前記環状部材の前記裏面側に、前記第1プレートに対して締まり嵌めされた締嵌部を有する。
【0014】
上記(2)に記載の可変ノズル機構によれば、第1プレートと環状部材との間に上記隙間を確保しつつ、第1プレートからの環状部材の脱落を簡易な構成で防止することができる。
【0015】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)に記載の可変ノズル機構において、前記第1プレートの内周面には、前記第1プレートの厚さ方向に前記環状部材が突き当たるように構成された段差部が設けられ、前記締嵌部は、前記段差部よりも前記環状部材の前記裏面側にて前記第1プレートに対して締り嵌めされる。
【0016】
上記(3)に記載の可変ノズル機構によれば、第1プレートからの環状部材の脱落を簡易な構成でより確実に防止することができる。
【0017】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の可変ノズル機構において、前記第1プレートの内周面には、前記第1プレートの厚さ方向に前記環状部材が突き当たるように構成された段差部が設けられ、前記可変ノズル機構は、前記環状部材を前記段差部に向けて付勢する付勢部材を更に有する。
【0018】
上記(4)に記載の可変ノズル機構によれば、第1プレートと環状部材との間に上記隙間を確保しつつ、第1プレートからの環状部材の脱落を防止することができる。
【0019】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)に記載の可変ノズル機構において、前記第1プレートと前記環状部材との間には、前記第1プレートの裏面の内周縁と、前記環状部材の裏面の外周縁との間から、前記第1プレートの厚さ方向に沿って、前記段差部まで延在する第2の隙間が設けられる。
【0020】
上記(5)に記載の可変ノズル機構によれば、第1プレートと環状部材との嵌め合いが第1プレートの厚さ方向全域に亘って隙間を持った嵌め合いとなるので、第1プレートの内周面付近での熱応力を効果的に低減することができる。したがって、第1プレートの内周面付近での疲労損傷の発生を効果的に抑制することができる。
【0021】
(6)幾つかの実施形態では、上記(3)乃至(5)に記載の可変ノズル機構において、前記段差部は、前記第1プレートの内周面の全周に亘って設けられる。
【0022】
上記(6)に記載の可変ノズル機構によれば、第1プレートの内周面の全周に亘って段差部を設けることによって、第1プレートの内周面の一部にのみ段差部を設ける場合と比較して、段差部付近の熱応力が均一化され、第1プレートの段差部付近での疲労損傷の発生を抑制することができる。
【0023】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(6)に記載の可変ノズル機構において、前記第1プレート及び前記環状部材はステンレス鋼で形成される。
【0024】
上記(1)乃至(6)に記載の可変ノズル機構では、第1プレートの表面側の内周縁付近での疲労損傷の発生を抑制することができる。このため、上記(7)に記載のように、ニッケル基合金よりも材料強度の低く廉価なステンレス鋼を第1プレート及び環状部材に用いた場合でも、第1プレートの表面側の内周縁付近での疲労損傷の発生を抑制することができる。このため、第1プレートの表面側の内周縁付近での疲労損傷の発生を抑制するとともに、可変ノズル機構の製造コストの増大を抑制することができる。
【0025】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(7)に記載の可変ノズル機構において、前記第1プレートは、前記排気ガス通路のハブ側壁を構成するノズルマウントであり、前記第2プレートは、前記排気ガス通路のシュラウド側壁を構成するノズルプレートであり、第1プレートには、前記複数のノズルベーンの軸部をそれぞれ回動可能に支持するための複数の支持穴が設けられている。
【0026】
排気ガス通路のハブ側壁を構成するノズルマウントには、ノズルベーンを回動可能に支持するための支持穴が設けられており、このノズルマウントの内周縁から支持穴にかけては、
図7に示すように応力が大きくなりやすく、疲労損傷が発生しやすかった。上記(8)に記載の可変ノズル機構によれば、上記隙間を設けたことにより、このような疲労損傷が発生しやすいノズルマウントにおいても該疲労損傷の発生を効果的に抑制することができる。
【0027】
(9)幾つかの実施形態では、上記(8)に記載の可変ノズル機構において、前記環状部材を形成する材料の線膨張係数は、前記第1プレートを形成する材料の線膨張係数よりも小さい。
【0028】
上記(9)に記載の可変ノズル機構によれば、エンジンの運転に伴って環状部材の温度がノズルマウントの温度より一時的に高くなっても、環状部材の熱変形量とノズルマウントの熱変形量の差の増大を抑制し、熱応力の増大を抑制することができる。したがって、ノズルマウントの内周縁付近での疲労損傷の発生を抑制することができる。
【0029】
(10)幾つかの実施形態では、上記(9)に記載の可変ノズル機構において、前記環状部材はニッケル基合金で形成され、前記第1プレートはステンレス鋼で形成される。
【0030】
上記(10)に記載の可変ノズル機構によれば、熱応力が比較的高くなりやすい環状部材を材料強度が高く高価なニッケル基合金で形成し、熱応力が比較的高くなりにくいノズルマウントを材料強度が低く廉価なステンレス鋼で形成することにより、可変ノズル機構の製造コストの増大を抑制しつつ、ノズルマウントの内周縁付近での疲労損傷の発生を効率的に抑制することができる。
【0031】
(11)本発明の少なくとも一実施形態に係る可変容量型ターボチャージャの可変ノズル機構は、環状の第1プレートと、前記第1プレートと対向して配置され、前記第1プレートとの間に排気ガス通路を形成する環状の第2プレートと、前記第1プレートおよび前記第2プレートの間に回動可能に支持された複数のノズルベーンと、前記第1プレートの内周側に挿入された環状部材と、を備え、前記第1プレートは、前記排気ガス通路のハブ側壁を構成するノズルマウントであり、前記第2プレートは、前記排気ガス通路のシュラウド側壁を構成するノズルプレートであり、第1プレートには、前記複数のノズルベーンの軸部をそれぞれ回転可能に支持するための複数の支持穴が設けられており、前記環状部材を形成する材料の線膨張係数は、前記第1プレートを形成する材料の線膨張係数よりも小さい。
【0032】
上記(11)に記載の可変ノズル機構によれば、ノズルマウントを形成する材料の線膨張係数よりも小さな線膨張係数を有する材料で環状部材を形成することにより、エンジンの運転に伴って環状部材の温度がノズルマウントの温度より一時的に高くなっても、環状部材の熱変形量とノズルマウントの熱変形量の差の増大を抑制し、熱応力の増大を抑制することができる。したがって、ノズルマウントの内周縁付近での疲労損傷の発生を抑制することができる。
【0033】
(12)本発明の少なくとも一実施形態に係る可変容量型ターボチャージャは、タービンロータと、前記タービンロータを収容し、エンジンからの排気ガスが流入するスクロール流路を形成するタービンハウジングと、請求項1乃至11の何れか1項に記載の可変ノズル機構と、を備え、前記スクロール流路を通過した排気ガスが前記可変ノズル機構を介して前記タービンロータに供給されるよう構成される。
【0034】
上記(12)に記載の可変容量型ターボチャージャによれば、第1プレートの表面側の内周縁付近での疲労損傷の発生が抑制されるため、第1プレートの補修や交換等のためのメンテナンスに要する労力や時間を削減することができる。