特許第6239787号(P6239787)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6239787可変ノズル機構および可変容量型ターボチャージャ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239787
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】可変ノズル機構および可変容量型ターボチャージャ
(51)【国際特許分類】
   F02B 37/24 20060101AFI20171120BHJP
   F02B 39/00 20060101ALI20171120BHJP
   F01D 17/16 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   F02B37/24
   F02B39/00 D
   F02B39/00 U
   F01D17/16 A
   F01D17/16 C
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-559773(P2016-559773)
(86)(22)【出願日】2014年11月21日
(86)【国際出願番号】JP2014080944
(87)【国際公開番号】WO2016079872
(87)【国際公開日】20160526
【審査請求日】2016年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 永護
(72)【発明者】
【氏名】坂本 慶吾
(72)【発明者】
【氏名】林 慎之
(72)【発明者】
【氏名】有水 大之
(72)【発明者】
【氏名】清家 斉顕
【審査官】 齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−187015(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/074039(WO,A1)
【文献】 特許第5010631(JP,B2)
【文献】 特開2012−62808(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/133320(WO,A1)
【文献】 実開昭59−32130(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 37/24
F01D 17/16
F02B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変容量型ターボチャージャの可変ノズル機構であって、
環状の第1プレートと、
前記第1プレートと対向して配置され、前記第1プレートとの間に排気ガス通路を形成する環状の第2プレートと、
前記第1プレートおよび前記第2プレートの間に回動可能に支持された複数のノズルベーンと、
前記第1プレートの内周側に挿入された環状部材と、
を備え、
前記第1プレートは、前記排気ガス通路に面する表面と、前記表面と反対側の裏面と、を有し、
前記環状部材は、前記排気ガス通路に面する表面と、前記表面と反対側の裏面と、を有し、
前記第1プレートと前記環状部材との間には、前記第1プレートの表面の内周縁と、前記環状部材の表面の外周縁との間から、前記第1プレートの厚さ方向に沿って延在する隙間が設けられ、
前記環状部材は、前記隙間よりも前記環状部材の前記裏面側に、前記第1プレートに対して締まり嵌めされた締嵌部を有する、可変ノズル機構。
【請求項3】
前記第1プレートの内周面には、前記第1プレートの厚さ方向に前記環状部材が突き当たるように構成された段差部が設けられ、
前記締嵌部は、前記段差部よりも前記環状部材の前記裏面側にて前記第1プレートに対して締り嵌めされた請求項1に記載の可変ノズル機構。
【請求項4】
可変容量型ターボチャージャの可変ノズル機構であって、
環状の第1プレートと、
前記第1プレートと対向して配置され、前記第1プレートとの間に排気ガス通路を形成する環状の第2プレートと、
前記第1プレートおよび前記第2プレートの間に回動可能に支持された複数のノズルベーンと、
前記第1プレートの内周側に挿入された環状部材と、
を備え、
前記第1プレートは、前記排気ガス通路に面する表面と、前記表面と反対側の裏面と、を有し、
前記環状部材は、前記排気ガス通路に面する表面と、前記表面と反対側の裏面と、を有し、
前記第1プレートと前記環状部材との間には、前記第1プレートの表面の内周縁と、前記環状部材の表面の外周縁との間から、前記第1プレートの厚さ方向に沿って延在する隙間が設けられ、
前記第1プレートの内周面には、前記第1プレートの厚さ方向に前記環状部材が突き当たるように構成された段差部が設けられ、
前記可変ノズル機構は、前記環状部材を前記段差部に向けて付勢する付勢部材を更に有する、可変ノズル機構。
【請求項5】
前記第1プレートと前記環状部材との間には、前記第1プレートの裏面の内周縁と、前記環状部材の裏面の外周縁との間から、前記第1プレートの厚さ方向に沿って、前記段差部まで延在する第2の隙間が設けられた請求項4に記載の可変ノズル機構。
【請求項6】
前記段差部は、前記第1プレートの内周面の全周に亘って設けられる請求項3乃至5の何れか1項に記載の可変ノズル機構。
【請求項7】
前記第1プレート及び前記環状部材はステンレス鋼で形成された請求項1乃至6の何れか1項に記載の可変ノズル機構。
【請求項8】
前記第1プレートは、前記排気ガス通路のハブ側壁を構成するノズルマウントであり、
前記第2プレートは、前記排気ガス通路のシュラウド側壁を構成するノズルプレートであり、
第1プレートには、前記複数のノズルベーンの軸部をそれぞれ回動可能に支持するための複数の支持穴が設けられている請求項1乃至7の何れか1項に記載の可変ノズル機構。
【請求項9】
前記環状部材を形成する材料の線膨張係数は、前記第1プレートを形成する材料の線膨張係数よりも小さい請求項8に記載の可変ノズル機構。
【請求項10】
前記環状部材はニッケル基合金で形成され、前記第1プレートはステンレス鋼で形成された請求項9に記載の可変ノズル機構。
【請求項11】
可変容量型ターボチャージャの可変ノズル機構であって、
環状の第1プレートと、
前記第1プレートと対向して配置され、前記第1プレートとの間に排気ガス通路を形成する環状の第2プレートと、
前記第1プレートおよび前記第2プレートの間に回動可能に支持された複数のノズルベーンと、
前記第1プレートの内周側に挿入された環状部材と、
を備え、
前記第1プレートは、前記排気ガス通路のハブ側壁を構成するノズルマウントであり、
前記第2プレートは、前記排気ガス通路のシュラウド側壁を構成するノズルプレートであり、
第1プレートには、前記複数のノズルベーンの軸部をそれぞれ回転可能に支持するための複数の支持穴が設けられており、
前記環状部材を形成する材料の線膨張係数は、前記第1プレートを形成する材料の線膨張係数よりも小さい可変ノズル機構。
【請求項12】
タービンロータと、
前記タービンロータを収容し、エンジンからの排気ガスが流入するスクロール流路を形成するタービンハウジングと、
請求項1乃至11の何れか1項に記載の可変ノズル機構と、
を備え、
前記スクロール流路を通過した排気ガスが前記可変ノズル機構を介して前記タービンロータに供給されるよう構成された可変容量型ターボチャージャ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、可変ノズル機構および可変容量型ターボチャージャに関する。
【背景技術】
【0002】
可変容量型ターボチャージャの可変ノズル機構は、タービンハウジング内の排気ガス通路面積を調節することで、タービンブレードへの排気ガスの流速や圧力を変化させて過給効果を高めるものである。
【0003】
図5に示すように、可変ノズル機構は、一般に、排気ガス通路24を形成するように互いに対向して配置された一対の環状のプレート12,14と、一対の環状プレート12,14の間に回動可能に支持された複数のノズルベーン16とを備えており、複数のノズルベーン16の翼角を変化させることにより排気ガス通路24の通路面積を調節するよう構成されている。
【0004】
かかる可変ノズル機構を備えたターボチャージャの一例としては、例えば、本出願人によって出願された特許第5010631号公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5010631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者の知見によれば、図5に示す可変ノズル機構における環状プレート12,14は、エンジンの運転に伴い高温の排気ガスに晒されるため、エンジンの起動、停止その他の負荷変動によって排気ガスの温度や流量が変化すると、環状プレート12,14の径方向の温度分布が過渡的に不均一になりやすい。例えば、環状プレート12の排気ガス通路24側の内周縁12a1付近では、環状プレート12の排気ガス通路24側の面12aと環状プレート12の内周面12cの二つの面が排気ガスに晒されるため、エンジンの起動時に環状プレート12の他の箇所と比較して温度が速く上昇し、図6に示すように環状プレート12の径方向の温度分布が不均一になりやすい(径方向内側に向かうにつれて温度が高くなりやすい)。
【0007】
また、本発明者の知見によれば、このような温度分布の不均一に起因する熱応力(図7参照)が繰り返し作用することにより、環状プレート12,14における排気ガス通路24側の内周縁付近に疲労損傷が発生しやすい。特に、ノズルベーン16を回動可能に支持するための支持穴12hが設けられている環状プレート12の内周縁12a1から支持穴12hにかけては、図7に示すように応力が大きくなりやすく、疲労損傷が発生しやすかった(図8参照)。
【0008】
この点、特許文献1には、上記環状プレートの排気ガス通路側の内周縁付近における疲労損傷の発生を抑制するための構成は何ら開示されておらず、該内周縁付近に疲労損傷が発生するという課題すら開示されていない。
【0009】
本発明は、上述したような従来の課題に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、可変ノズル機構における排気ガス通路を形成する環状プレートに関し、該環状プレートのうち排気ガス通路側の内周縁付近における疲労損傷の発生を抑制可能な可変ノズル機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る可変容量型ターボチャージャの可変ノズル機構は、環状の第1プレートと、前記第1プレートと対向して配置され、前記第1プレートとの間に排気ガス通路を形成する環状の第2プレートと、前記第1プレートおよび前記第2プレートの間に回動可能に支持された複数のノズルベーンと、前記第1プレートの内周側に挿入された環状部材と、を備え、前記第1プレートは、前記排気ガス通路に面する表面と、前記表面と反対側の裏面と、を有し、前記環状部材は、前記排気ガス通路に面する表面(おもてめん)と、前記表面と反対側の裏面と、を有し、前記第1プレートと前記環状部材との間には、前記第1プレートの表面の内周縁と、前記環状部材の表面の外周縁との間から、前記第1プレートの厚さ方向に沿って延在する隙間が設けられる。
【0011】
なお、本明細書における「第1プレート」及び「第2プレート」との文言は、特記しない限り、「発明を実施するための形態」に記載する「ノズルマウント」と「ノズルプレート」のうち一方及び他方にそれぞれ対応する。したがって、「第1プレート」が「ノズルマウント」に対応するとともに「第2プレート」がノズルプレート」に対応する形態と、「第1プレート」が「ノズルプレート」に対応するとともに「第2プレート」が「ノズルマウント」に対応する形態の両方が上記(1)に記載の可変ノズル機構に含まれる。以下においても、特記しない限りは上記二つの形態を含む意味で「第1プレート」及び「第2プレート」との文言を用いることとする。また、「表面」との文言は、特記しない限り「ひょうめん(surface)」ではなく「おもてめん(front surface)」を意味することとする。
【0012】
上記(1)に記載の可変ノズル機構によれば、エンジンの起動、停止その他の負荷変動によって排気ガスの温度や流量が変化し、第1プレート及び環状部材における径方向の温度分布が過渡的に不均一になっても、上記隙間が埋まるまでは第1プレート及び環状部材が両部材の表面側において互いに拘束せずに熱膨張するので、熱応力を効果的に低減することが可能となる。これにより、第1プレートの表面側の内周縁付近での疲労損傷の発生を抑制することができる。
【0013】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の可変ノズル機構において、前記環状部材は、前記隙間よりも前記環状部材の前記裏面側に、前記第1プレートに対して締まり嵌めされた締嵌部を有する。
【0014】
上記(2)に記載の可変ノズル機構によれば、第1プレートと環状部材との間に上記隙間を確保しつつ、第1プレートからの環状部材の脱落を簡易な構成で防止することができる。
【0015】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)に記載の可変ノズル機構において、前記第1プレートの内周面には、前記第1プレートの厚さ方向に前記環状部材が突き当たるように構成された段差部が設けられ、前記締嵌部は、前記段差部よりも前記環状部材の前記裏面側にて前記第1プレートに対して締り嵌めされる。
【0016】
上記(3)に記載の可変ノズル機構によれば、第1プレートからの環状部材の脱落を簡易な構成でより確実に防止することができる。
【0017】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の可変ノズル機構において、前記第1プレートの内周面には、前記第1プレートの厚さ方向に前記環状部材が突き当たるように構成された段差部が設けられ、前記可変ノズル機構は、前記環状部材を前記段差部に向けて付勢する付勢部材を更に有する。
【0018】
上記(4)に記載の可変ノズル機構によれば、第1プレートと環状部材との間に上記隙間を確保しつつ、第1プレートからの環状部材の脱落を防止することができる。
【0019】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)に記載の可変ノズル機構において、前記第1プレートと前記環状部材との間には、前記第1プレートの裏面の内周縁と、前記環状部材の裏面の外周縁との間から、前記第1プレートの厚さ方向に沿って、前記段差部まで延在する第2の隙間が設けられる。
【0020】
上記(5)に記載の可変ノズル機構によれば、第1プレートと環状部材との嵌め合いが第1プレートの厚さ方向全域に亘って隙間を持った嵌め合いとなるので、第1プレートの内周面付近での熱応力を効果的に低減することができる。したがって、第1プレートの内周面付近での疲労損傷の発生を効果的に抑制することができる。
【0021】
(6)幾つかの実施形態では、上記(3)乃至(5)に記載の可変ノズル機構において、前記段差部は、前記第1プレートの内周面の全周に亘って設けられる。
【0022】
上記(6)に記載の可変ノズル機構によれば、第1プレートの内周面の全周に亘って段差部を設けることによって、第1プレートの内周面の一部にのみ段差部を設ける場合と比較して、段差部付近の熱応力が均一化され、第1プレートの段差部付近での疲労損傷の発生を抑制することができる。
【0023】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(6)に記載の可変ノズル機構において、前記第1プレート及び前記環状部材はステンレス鋼で形成される。
【0024】
上記(1)乃至(6)に記載の可変ノズル機構では、第1プレートの表面側の内周縁付近での疲労損傷の発生を抑制することができる。このため、上記(7)に記載のように、ニッケル基合金よりも材料強度の低く廉価なステンレス鋼を第1プレート及び環状部材に用いた場合でも、第1プレートの表面側の内周縁付近での疲労損傷の発生を抑制することができる。このため、第1プレートの表面側の内周縁付近での疲労損傷の発生を抑制するとともに、可変ノズル機構の製造コストの増大を抑制することができる。
【0025】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(7)に記載の可変ノズル機構において、前記第1プレートは、前記排気ガス通路のハブ側壁を構成するノズルマウントであり、前記第2プレートは、前記排気ガス通路のシュラウド側壁を構成するノズルプレートであり、第1プレートには、前記複数のノズルベーンの軸部をそれぞれ回動可能に支持するための複数の支持穴が設けられている。
【0026】
排気ガス通路のハブ側壁を構成するノズルマウントには、ノズルベーンを回動可能に支持するための支持穴が設けられており、このノズルマウントの内周縁から支持穴にかけては、図7に示すように応力が大きくなりやすく、疲労損傷が発生しやすかった。上記(8)に記載の可変ノズル機構によれば、上記隙間を設けたことにより、このような疲労損傷が発生しやすいノズルマウントにおいても該疲労損傷の発生を効果的に抑制することができる。
【0027】
(9)幾つかの実施形態では、上記(8)に記載の可変ノズル機構において、前記環状部材を形成する材料の線膨張係数は、前記第1プレートを形成する材料の線膨張係数よりも小さい。
【0028】
上記(9)に記載の可変ノズル機構によれば、エンジンの運転に伴って環状部材の温度がノズルマウントの温度より一時的に高くなっても、環状部材の熱変形量とノズルマウントの熱変形量の差の増大を抑制し、熱応力の増大を抑制することができる。したがって、ノズルマウントの内周縁付近での疲労損傷の発生を抑制することができる。
【0029】
(10)幾つかの実施形態では、上記(9)に記載の可変ノズル機構において、前記環状部材はニッケル基合金で形成され、前記第1プレートはステンレス鋼で形成される。
【0030】
上記(10)に記載の可変ノズル機構によれば、熱応力が比較的高くなりやすい環状部材を材料強度が高く高価なニッケル基合金で形成し、熱応力が比較的高くなりにくいノズルマウントを材料強度が低く廉価なステンレス鋼で形成することにより、可変ノズル機構の製造コストの増大を抑制しつつ、ノズルマウントの内周縁付近での疲労損傷の発生を効率的に抑制することができる。
【0031】
(11)本発明の少なくとも一実施形態に係る可変容量型ターボチャージャの可変ノズル機構は、環状の第1プレートと、前記第1プレートと対向して配置され、前記第1プレートとの間に排気ガス通路を形成する環状の第2プレートと、前記第1プレートおよび前記第2プレートの間に回動可能に支持された複数のノズルベーンと、前記第1プレートの内周側に挿入された環状部材と、を備え、前記第1プレートは、前記排気ガス通路のハブ側壁を構成するノズルマウントであり、前記第2プレートは、前記排気ガス通路のシュラウド側壁を構成するノズルプレートであり、第1プレートには、前記複数のノズルベーンの軸部をそれぞれ回転可能に支持するための複数の支持穴が設けられており、前記環状部材を形成する材料の線膨張係数は、前記第1プレートを形成する材料の線膨張係数よりも小さい。
【0032】
上記(11)に記載の可変ノズル機構によれば、ノズルマウントを形成する材料の線膨張係数よりも小さな線膨張係数を有する材料で環状部材を形成することにより、エンジンの運転に伴って環状部材の温度がノズルマウントの温度より一時的に高くなっても、環状部材の熱変形量とノズルマウントの熱変形量の差の増大を抑制し、熱応力の増大を抑制することができる。したがって、ノズルマウントの内周縁付近での疲労損傷の発生を抑制することができる。
【0033】
(12)本発明の少なくとも一実施形態に係る可変容量型ターボチャージャは、タービンロータと、前記タービンロータを収容し、エンジンからの排気ガスが流入するスクロール流路を形成するタービンハウジングと、請求項1乃至11の何れか1項に記載の可変ノズル機構と、を備え、前記スクロール流路を通過した排気ガスが前記可変ノズル機構を介して前記タービンロータに供給されるよう構成される。
【0034】
上記(12)に記載の可変容量型ターボチャージャによれば、第1プレートの表面側の内周縁付近での疲労損傷の発生が抑制されるため、第1プレートの補修や交換等のためのメンテナンスに要する労力や時間を削減することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、可変ノズル機構における排気ガス通路を形成する環状プレートに関し、該環状プレートのうち排気ガス通路側の内周縁付近における疲労損傷の発生を抑制可能な可変ノズル機構が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の一実施形態に係る可変容量型ターボチャージャの回転軸線に沿った一部断面を模式的に示す図である。
図2図1に示した可変ノズル機構の一構成例を模式的に示す部分拡大図である。
図3図1に示した可変ノズル機構の一構成例を模式的に示す部分拡大図である。
図4図1に示した可変ノズル機構の一構成例を模式的に示す部分拡大図である。
図5】従来の可変ノズル機構の構成例を模式的に示す部分拡大図である。
図6】環状プレートの半径座標と温度との関係の一例を示す図である。
図7】環状プレートの半径座標と応力の関係の一例を示す図である。
図8】環状プレートの排気通路側の内周縁付近に疲労損傷が発生した状態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0038】
図1は、本発明の一実施形態に係る可変容量型ターボチャージャ100の回転軸線に沿った一部断面を模式的に示す図である。
【0039】
可変容量型ターボチャージャ100は、不図示のコンプレッサと同軸に設けられたタービンロータ2と、タービンロータ2を収容するタービンケーシング4と、タービンロータ2を回転可能に支持する軸受ハウジング6と、タービンケーシング4と軸受ハウジング6との間に設けられた可変ノズル機構8とを備えている。
【0040】
タービンケーシング4には、スクロール流路10が形成されており、不図示のエンジンからの排気ガスは、スクロール流路10を通った後に可変ノズル機構8を介してタービンロータ2に供給される。
【0041】
可変ノズル機構8は、ノズルマウント12、ノズルプレート14、複数のノズルベーン16、複数のレバープレート18、ドライブリング19、複数のノズルサポート20、及び環状部材22を備えている。
【0042】
ノズルマウント12は、タービンロータ2の外周側に設けられる環状のプレートであり、複数のノズルベーン16を回動可能に支持するよう構成されている。ノズルマウント12には、複数のノズルベーン16の軸部16aをそれぞれ回動可能に支持するための複数の支持穴12h(貫通穴)が設けられている。
【0043】
ノズルプレート14は、ノズルマウント12と対向して配置される環状のプレートであり、ノズルマウント12との間に排気ガス通路24を形成するよう構成されている。ノズルプレート14には、ノズルマウント12と反対側においてタービンハウジングとの間にスプリングシール25が設けられている。
【0044】
ノズルマウント12は、排気ガス通路24のハブ側壁28を構成しており、ノズルプレート14は、排気ガス通路24のシュラウド側壁30を構成している。ノズルマウント12とノズルプレート14とはノズルサポート20によって連結されている。
【0045】
複数のノズルベーン16は、ノズルマウント12とノズルプレート14の間に配置されており、ノズルマウント12に回動可能に支持されている。可変ノズル機構8は、複数のノズルベーン16の翼角を変化させることにより排気ガス通路24の通路面積を調節するよう構成されている。
【0046】
斯かる可変ノズル機構8では、不図示のアクチュエータから伝達される駆動力によってドライブリング19が回転駆動される。ドライブリング19が回動すると、ドライブリング19に係合しているレバープレート18がノズルベーン16の軸部16aを回動させ、その結果、ノズルベーン16が回動して該ノズルベーン16の翼角が変化する。
【0047】
環状部材22は、タービンロータ2の外周端との間に微小な隙間を有するように、ノズルマウント12の内周側に挿入されている。そして、ノズルマウント12とともに排気ガス通路24のハブ側壁28を構成している。
【0048】
図2は、図1に示した可変ノズル機構の一構成例を示す部分拡大図である。図3は、図1に示した可変ノズル機構の他の構成例を示す部分拡大図である。
【0049】
幾つかの実施形態では、図2及び図3に示すように、ノズルマウント12のうち、排気ガス通路24に面する面(ノズルプレート14に対向する面)を表面12a(本明細書においては、「表面」との記載は、特記しないかぎり「ひょうめん(surface)」ではなく「おもてめん(front surface)」を意味することとする)とし、表面12aと反対側の面を裏面12bとし、環状部材22のうち、排気ガス通路24に面する面(ノズルプレート14に対向する面)を表面22aとし、表面22aと反対側の面を裏面22bとすると、ノズルマウント12と環状部材22との間には、ノズルマウント12の表面12aの内周縁12a1と、環状部材22の表面22aの外周縁22a1との間から、ノズルマウント12の厚さ方向に沿って延在する隙間26が設けられている。
【0050】
図2及び図3に示す可変ノズル機構8によれば、不図示のエンジンの起動、停止その他の負荷変動によって排気ガスの温度や流量が変化し、排気ガス通路24のハブ側壁(ノズルマウント12及び環状部材22)28における径方向の温度分布が過渡的に不均一になっても、隙間26が埋まるまではノズルマウント12及び環状部材22が互いに拘束せずに熱膨張するので、熱応力を効果的に低減することが可能となる。これにより、例えばニッケル基合金((例えばインコネル(商品名))よりも材料強度の低く廉価なステンレス鋼をノズルマウント12及び環状部材22に用いた場合でも、ノズルマウント12の表面12a側の内周縁12a1付近での疲労損傷の発生を抑制することができる。このため、ノズルマウント12の表面12a側の内周縁12a1付近での疲労損傷の発生を抑制するとともに、可変ノズル機構8の製造コストの増大を抑制することができる。
【0051】
なお、コスト上の制約が問題なければ、ノズルマウント12及び環状部材22の両方をニッケル基合金で形成してもよいし、熱応力が比較的高くなりやすい環状部材22をニッケル基合金で形成し、熱応力が比較的高くなりにくいノズルマウント12をステンレス鋼で形成してもよい。
【0052】
幾つかの実施形態では、例えば図2及び図3に示すように、ノズルマウント12の内周面12cには、段差部12c1が全周に亘って設けられ、段差部12c1よりも表面12a側でのノズルマウント12の内径は、段差部12c1よりも裏面12b側でのノズルマウント12の内径よりも小さい。また、環状部材22の外周面22cには、段差部22c1が全周に亘って設けられ、段差部22c1よりも表面22a側での環状部材22の外径は、段差部22c1よりも裏面22b側での環状部材22の外径よりも小さい。そして、環状部材22の段差部22c1がノズルマウント12の段差部12c1に対してノズルマウント12の厚さ方向に突き当たることにより、ノズルマウント12の厚さ方向に環状部材22が位置決めされ、排気ガス通路24側への環状部材22の脱落が防止される。
【0053】
一実施形態では、例えば図2に示すように、環状部材22は、隙間26よりも環状部材22の裏面22b側に、ノズルマウント12に対して締まり嵌めされた締嵌部32を有する。これにより、ノズルマウント12と環状部材22との間に隙間26を確保しつつ、ノズルマウント12からの環状部材22の脱落を簡易な構成で防止することができる。
【0054】
一実施形態では、例えば図2に示すように、締嵌部32は、段差部12c1よりも環状部材22の裏面22b側にてノズルマウント12に対して締り嵌めされている。これにより、ノズルマウント12からの環状部材22の脱落を簡易な構成でより確実に防止することができる。
【0055】
一実施形態では、例えば図3に示すように、可変ノズル機構8は、環状部材22を段差部12c1に向けて付勢する付勢部材34を更に有する。これにより、ノズルマウント12と環状部材22との間に隙間26を確保しつつ、ノズルマウント12からの環状部材22の脱落を防止することができる。
【0056】
一実施形態では、例えば図3に示すように、ノズルマウント12と環状部材22との間には、ノズルマウント12の裏面12bの内周縁12b1と、環状部材22の裏面22bの外周縁22b1との間から、ノズルマウント12の厚さ方向に沿って、段差部12c1まで延在する第2の隙間36が設けられる。これにより、ノズルマウント12と環状部材22との嵌め合いがノズルマウント12の厚さ方向全域に亘って隙間を持った嵌め合いとなるので、図3に示す実施形態よりもさらに熱応力を効果的に低減することができる。したがって、ノズルマウント12の内周面12及びその付近での疲労損傷の発生を効果的に抑制することができる。
【0057】
一実施形態では、例えば図3に示すように、環状部材22の内周面22dには、段差部22d1が設けられ、段差部22d1よりも表面22a側での環状部材22の内径は、段差部22d1よりも裏面22b側での環状部材22の内径よりも小さい。そして、付勢部材34は、一端側が軸受ハウジング6に支持され、他端側が段差部22d1に当接して環状部材22を付勢するよう構成されている。これにより、ノズルマウント12の内周側に環状部材22を安定して保持することができる。なお、付勢部材34としては、例えば環状のスプリングプレートを用いても良い。
【0058】
幾つかの実施形態では、例えば図2図4に示す可変ノズル機構8において、ノズルマウント12を形成する材料の線膨張係数よりも小さな線膨張係数を有する材料で環状部材22を形成しても良い。例えば、上述したようにノズルマウント12をステンレス鋼で形成し、環状部材22をニッケル基合金で形成する場合も、線膨張係数についての上記大小関係が成り立つ。
【0059】
これにより、不図示のエンジンの運転に伴って環状部材22の温度がノズルマウント12の温度より一時的に高くなっても、環状部材22の熱変形量とノズルマウント12の熱変形量の差の増大を抑制し、熱応力の増大を抑制することができる。したがって、ノズルマウント12の内周縁12a1付近での疲労損傷の発生を抑制することができる。
【0060】
なお、図4に示す可変ノズル機構8では、図2及び図3に示した上述の隙間26は設けられていない。このような場合であっても、ノズルマウント12を形成する材料の線膨張係数よりも小さな線膨張係数を有する材料で環状部材22を形成することにより、ノズルマウント12の内周縁12a1付近での疲労損傷の発生を抑制することができる。ただし、不図示のエンジンの運転に伴ってノズルマウント12と環状部材22との温度差が過度に大きくなる場合には、ノズルマウント12の線膨張係数よりも環状部材22の線膨張係数を小さくするのみでは、疲労損傷の発生を十分に抑制できないことがある。
【0061】
これに対し、図2及び図3に示す可変ノズル機構8では、ノズルマウント12の厚さ方向や半径方向における隙間26の大きさを適宜設定することにより、疲労損傷の発生を容易に抑制することができる。ノズルマウント12の厚さ方向における隙間26の大きさ(深さ)は、例えば、ノズルマウント12の厚さ(又はノズルマウントの厚さ方向における環状部材22の大きさ)の10分の1以上1未満、好ましくは2分の1以上4分の3未満としてもよい。また、ノズルマウント12の半径方向における隙間26の大きさは、例えば10μm以上としてもよく、好ましくは50μm以上としてもよい。
【0062】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
例えば、ノズルマウント12に限らずノズルプレート14も、不図示のエンジンの運転に伴い高温の排気ガスに晒されるため、エンジンの起動、停止その他の負荷変動によって排気ガスの温度や流量が変化すると、ノズルプレート14の径方向の温度分布が過渡的に不均一になる。このため、ノズルマウント12の場合と同様に、ノズルプレート14の内周側に環状部材22が挿入された形態によって、ノズルプレート14の内周縁付近での疲労損傷の発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0063】
2 タービンロータ
4 タービンケーシング
6 軸受ハウジング
8 可変ノズル機構
10 スクロール流路
12 ノズルマウント(環状プレート)
12a 表面
12a1 内周縁
12b 裏面
12b1 内周縁
12c 内周面
12c1 段差部
12h 支持穴
14 ノズルプレート(環状プレート)
16 ノズルベーン
16a 軸部
18 レバープレート
19 ドライブリング
20 ノズルサポート
22 環状部材
22a 表面
22a1 外周縁
22b 裏面
22b1 外周縁
22c 外周面
22c1 段差部
22d 内周面
22d1 段差部
24 排気ガス通路
25 スプリングシール
26 隙間
28 ハブ側壁
30 シュラウド側壁
32 締嵌部
34 付勢部材
36 第2の隙間
100 可変容量型ターボチャージャ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8