(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239804
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】樹脂パネル及びそれを備えた空気調和機
(51)【国際特許分類】
F24F 13/20 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
F24F1/00 401B
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-167983(P2017-167983)
(22)【出願日】2017年8月31日
(62)【分割の表示】特願2017-40323(P2017-40323)の分割
【原出願日】2012年4月10日
(65)【公開番号】特開2017-207277(P2017-207277A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2017年8月31日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】小川 雅之
【審査官】
金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−1597(JP,A)
【文献】
特開平01−146714(JP,A)
【文献】
特開2000−117778(JP,A)
【文献】
特開平3−84338(JP,A)
【文献】
特開2009−285893(JP,A)
【文献】
特開平7−63367(JP,A)
【文献】
特開平3−129220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 1/00
F24F 13/20
B29C 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形時のゲート跡を有する樹脂パネルにおいて、
前記樹脂パネルは、回動可能に取り付けられ、
前記樹脂パネルは、パネル本体と、前記パネル本体の端部に形成された側壁とを含み、
前記樹脂パネルの回動支点側に形成された前記側壁の先端において、前記側壁の長さ方向の一部に前記側壁から高さ方向に延設された延設部を有し、前記延設部は、前記樹脂パネルの一部として成形後も前記側壁に接続した状態で残され、前記延設部の高さ方向の先端に前記ゲート跡が位置することを特徴とする樹脂パネル。
【請求項2】
前記側壁と前記延設部との接続部分は、前記側壁と前記延設部とを結ぶ曲線形状になっていることを特徴とする請求項1に記載の樹脂パネル。
【請求項3】
前記延設部は、前記側壁と同じ厚みに形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂パネル。
【請求項4】
前記延設部は、前記側壁の先端において、前記側壁の長さ方向に間隔をおいて複数形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の樹脂パネル。
【請求項5】
前記延設部は、平面視した形状が方形状又は台形状をなすことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の樹脂パネル。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の樹脂パネルを前面パネルとしてキャビネットに装着したことを特徴とする空気調和機。
【請求項7】
前面樹脂パネルが前記キャビネットに装着された状態で、前記延設部を有する前記側壁が前記樹脂パネルの上端部に位置することを特徴とする請求項6に記載の空気調和機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型に樹脂を注入して成形される合成樹脂製のパネルに関し、具体的には、空気調和機のキャビネットに装着される前面パネルやカバーパネル、家電製品の表示板、計器盤及び時計文字板等として使用される樹脂パネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂パネルを形成する方法として、樹脂パネルの形状に形成されたキャビティを有する金型内に樹脂を注入し、冷却後に金型から樹脂パネルを取り出す方法が多用されている。例えば、略矩形の樹脂パネルを成形する場合、キャビティ内に樹脂を注入するには、キャビティ内に樹脂を効率よく充填するために、キャビティにおいて、樹脂パネルの短手方向両端部の一端部に相当する位置にゲートを設け、そこから他端部に向けて樹脂を注入するのが望ましい。
【0003】
ところで、従来、樹脂パネルとしては、パネルの強度を向上させるために、板状のパネル本体の端部に側壁が形成された構成が用いられている。例えば、樹脂パネルとして、特許文献1の
図2には、空気調和機における左右横長に形成された前面パネルであって、上端部及び下端部、すなわち、短手方向両端部に側壁を形成した断面コ字状のものが記載されている。
【0004】
上記構成の前面パネルを成形するには、前面パネルの短手方向両端部である上端部及び下端部のうち、いずれか一端部に形成された側壁の先端部位置にゲートを設け、他端部に向けて樹脂を注入する方法を採用することができる。具体的には、樹脂パネルとして空気調和機の前面パネル11を成形する場合、
図9に示すように、前面パネルの上端部に形成された上側壁14aの先端部位置にゲートを設け、下端部に向けて樹脂を注入することが可能である。
【0005】
上記方法で成形された前面パネル11は、ゲート部分で切断されてライナーから分離されるため、上側壁14aにおいてゲート形成位置にはゲート跡Gが残ることになる。ところで、上記成形方法においては、ゲート近傍では樹脂の流れが乱れやすく、特に、上側壁14aとパネル本体13との接続部分では、樹脂の流れる方向が急激に変化するため、より樹脂の流れが乱れやすくなり、冷却過程において残留応力が発生しやすい。
【0006】
したがって、樹脂パネルのパネル本体13の厚みと、ゲートが形成される上側壁14aの厚みとを同じ厚みに形成した場合は、上側壁14aの強度が不十分となり、前面パネル11の左右両端部を互いに近づけるように弓なりに曲げる方向に力がかかったときに、ゲート跡G近傍の上側壁14aにクラックが発生しやすいという問題があった。また、急激な樹脂の流速変化によって、ゲート跡G近傍の側壁部分からパネル本体13の正面側にかけて、ヒケ、ムラ、フローマーク等が生じる場合があり、これによって美観を損ねるという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−64343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記課題を解決する手段として、
図10及び
図11に示すように、ゲート跡Gを有する
上側壁14aの厚みを厚くすることにより、上側壁14aの強度を高めることが考えられる。しかしながら、この手段では、上側壁14aの強度は向上するものの、樹脂の流速変化がより急激になり、パネル本体の正面側においてヒケ、ムラ、フローマーク等の外観不良が増加するといった問題があった。
【0009】
そこで、本発明においては、上記に鑑み、樹脂パネルに対して弓なりに曲げる力が加わってもゲート跡近傍の側壁におけるクラックの発生を抑制可能で、しかもパネル本体の正面側における外観不良の発生を低減可能な樹脂パネル及びその樹脂パネルを用いた空気調和機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明では、成形時のゲート跡を有する樹脂パネルにおいて、前記樹脂パネルは、回動可能に取り付けられ、前記樹脂パネルは、パネル本体と、前記パネル本体の端部に形成された側壁とを含み、前記樹脂パネルの回動支点側に形成された前記側壁の先端において、前記側壁の長さ方向の一部に前記側壁から高さ方向に延設された延設部を有し、前記延設部は、前記樹脂パネルの一部として成形後も前記側壁に接続した状態で残され、前記延設部の高さ方向の先端に前記ゲート跡が位置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上のとおり、本発明の樹脂パネルは、パネル本体と、前記パネル本体の端部に形成された側壁とからなる断面コ字状に形成され、前記側壁の一部に前記側壁から高さ方向に延設された延設部を有し、前記延設部の高さ方向の先端に前記ゲート跡が位置するようにしたため、樹脂パネルが湾曲してもゲート跡近傍の側壁におけるクラックが発生しにくく、また、パネル本体の正面側における外観不良の発生を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態を示す空気調和機の室内機の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。本実施形態では、本発明に係る樹脂パネルとして空気調和機の前面パネルを作製し、この前面パネルを空気調和機に装着している。
図1は、本発明に係る空気調和機の室内機を上方から見た外観斜視図であり、
図2は
図1の室内機に用いられる前面パネルの外観斜視図を、
図3は
図2のA−A断面図を、
図4は
図3において円で囲まれた部分の拡大図を、それぞれ示す。
【0014】
図1及び
図2に示すように、本発明の樹脂パネルとしての前面パネル1は、室内機のキャビネット2の前面に回動可能に装着される。前面パネル1は、略矩形形状に形成され、前面パネル1の長手方向が室内機の左右方向Xと平行になるように、また、前面パネル1の短手方向が室内機の上下方向Yと平行になるようにしてキャビネット2の前面に装着される。
【0015】
前面パネル1は、パネル本体3と、パネル本体3の全周を囲むように形成された側壁4とを備えている。側壁4は、前面パネル1がキャビネット2に装着された状態で、前面パネル1の上端部、下端部、右端部及び左端部に、それぞれ上側壁4a、下側壁4b、右側壁4c及び左側壁4dが形成される。
【0016】
図2、
図3及び
図4に示すように、前面パネル1の上側壁4aの一部に、上側壁4aの先端から上側壁4aの高さ方向に延設部5が延設される。延設部5の先端には、前面パネル1成形時にキャビティ内に樹脂を注入するためのゲート跡Gが残される。延設部5は、厚みが上側壁4aと同じ厚みとされている。また、前記側壁に近い側の幅が広くなるように、言い換えれば、上側壁4aに近づくほど幅が徐々に広くなるように形成される。
【0017】
すなわち、延設部5は、
図5に示すように、前面パネル1の上方から平面視したときに台形状(以下、単に台形状と略する)になるように形成される。このような形状の延設部5をゲートと上側壁4aとの間に介在させることで、ゲート跡G付近の上側壁4aにおけるクラックの発生、及び、ヒケ、ムラ、フローマーク等の外観不良の発生を抑制するとともに、延設部と側壁との境界部分の割れをも抑制することができる。
【0018】
なお、前面パネル1は、金型に樹脂を充填した時点では、まだライナー6と接続された状態となっているため、金型から脱型するときに、ゲート部分においてライナー6が切断される。したがって、延設部5の先端の一部分にライナー6の切断面としてゲート跡Gが残される。
【0019】
図2に示すように、延設部5は、上側壁4aの先端において、上側壁4aの長さ方向に間隔をおいて3箇所形成されている。このように延設部5を複数形成することで、上側壁4aの強度をより高めることができる。
【0020】
さらに、ヒケ、ムラ、フローマーク等の外観不良が発生したとしても、外観不良を延設部5及び上側壁4a部分の領域に留めて、パネル本体部分に外観不良が及ぶのを抑制することができる。特に、本実施形態では、延設部5は、前面パネル1の上面に形成されるため、室内機に装着された状態では目に触れることがなく、たとえ延設部5に外観不良が生じた場合であっても、実質的には美観を損なうことがない。
【0021】
なお、室内機の上面には、前面パネル1と、キャビネット2とで空気の吸込口7が形成される。従って、前面パネル1の上側壁4aの高さが高くなるほど、吸込口6の開口面積が小さくなり、空気の吸い込み量、ひいては熱交換効率に影響を与える可能性が生じるところ、本発明においては、全体的に上側壁4aの高さを高くするのではなく、部分的に延設部5を設けているため、吸込口6の開口面積の減少を最小限に抑えることができる。
【0022】
図6は、延設部5の別の態様を示す図である。図示のごとく、延設部5は台形状のみならず、前面パネル1の上方から平面視したときに方形状(以下、単に方形状と略する)になるように形成することも可能である。ただ、本態様の場合は、前面パネル1に対して、白矢印で示すように前面パネル1の左右両端部を互いに近づけるように弓なりに曲げる力を加えると、黒矢印で示す方向、すなわち、上側壁4aと延設部5との接続部分(境界部分)に応力が集中しやすくなる。
【0023】
一方、延設部5を台形状に形成した場合には、
図5に示すように、上側壁4aと延設部5との接続部分が傾斜面となっているため、応力が分散して割れの発生を抑制することが可能となる。したがって、延設部5を方形状に形成した場合に比べるとより割れが入りにくくなる。
【0024】
なお、方形状の延設部において、側壁との境界部分での割れを抑制するために、側壁に近い側の幅が広くなるように、上側壁4aと延設部5との接続部分(境界部分)をなめらかに結ぶ形状とするようにしてもよい。例えば、
図7のようにななめ部8を設けたり、
図8のようにR部9を設けるようにする。
【0025】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。
<付記>
本発明では、成形時のゲート跡を有する樹脂パネルにおいて、前記樹脂パネルは、パネル本体と、前記パネル本体の端部に形成された側壁とからなる断面コ字状に形成され、前記側壁の一部に前記側壁から高さ方向に延設された延設部を有し、前記延設部の高さ方向の先端に前記ゲート跡が位置することを特徴とする。
【0026】
上記構成によれば、側壁の高さ方向に延設部を延設することで、側壁の強度を向上させることができる。すなわち、延設部の存在自体が側壁の剛性を高め、これによって側壁におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0027】
さらに、ヒケ、ムラ、フローマーク等の外観不良が発生した場合であっても、外観不良を延設部及び側壁部分の領域に留めて、パネル本体部分に外観不良が及ぶのを抑制することが可能となる。なお、樹脂パネルは、パネル本体の縦横(もしくは上下左右)二方向のうち、少なくとも一方向の両端部に側壁が形成され、パネル本体を挟んで対向する側壁のうちのいずれかに延設部が形成されていればよく、パネル本体の他方向の一端部又は両端部に側壁が形成されていてもよい。
【0028】
延設部は、側壁に近い側の幅が広くなるように形成してもよい。これにより、樹脂パネルに対して弓なりに曲げようとする力が加わったときに、延設部と側壁との接続部分(境界部分)に応力が集中するのを防ぎ、割れの発生を抑制することができる。すなわち、延設部を形成することで、前述のごとく、ゲート付近におけるクラックの発生を抑制するとともに、側壁に近づくほど幅広になるように形成することで、延設部と側壁との境界部分の割れをも抑制することが可能となる。また、延設部は、側壁と同じ厚みに形成してもよい。これにより、成形時にキャビティ内の延設部部分から側壁部分に樹脂が流入する際に、樹脂の流速変化を抑制して外観不良の発生を抑制することが可能となる。
【0029】
延設部は、側壁の先端において、側壁の長さ方向に間隔をおいて複数形成してもよい。これにより、細長い矩形形状の樹脂パネルであっても、樹脂パネルの強度を向上させることができるとともに、キャビティ内に効率よく樹脂を充填することが可能となる。
【0030】
上記樹脂パネルは、ヒケ、ムラ、フローマーク等の外観不良が発生しにくく、また、外観不良が発生したとしても、延設部及び側壁部分の領域に留まり、パネル本体部分に外観不良が及ぶのを抑制することができる。すなわち、実質的に外観不良を低減することができる。したがって、上記樹脂パネルを前面パネルとしてキャビネットに装着した空気調和機は、前面パネルのクラック及び外観不良の発生を抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0031】
1 前面パネル
2 キャビネット
3 パネル本体
4 側壁
4a 上側壁
5 延設部
6 ライナー
7 吸込口
G ゲート跡