(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記スライド部の振幅範囲は、設計外力内であれば所定の大きさ以上の圧縮力が前記斜材に作用しない長さに設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の建物の制振構造。
前記斜材は、第1の隅角部から対角線上にある第2の隅角部に向けて延伸されるものであって、前記斜材の両端に緩衝装置及び連結部がそれぞれ設けられることを特徴とする請求項1に記載の建物の制振構造。
前記斜材の一方の端部の緩衝装置のスライド部は截頭円錐状に成形されるとともに、他方の端部の緩衝装置のスライド部は螺旋状のばねによって形成されることを特徴とする請求項6に記載の建物の制振構造。
前記斜材の一方の端部の連結部は前記隅角部にエンドプレートを介して繋がれ、他方の端部の連結部は前記隅角部に直接に繋がれることを特徴とする請求項2,6又は7のいずれか一項に記載の建物の制振構造。
上下に略平行に配置される一対の前記梁材と、それらの梁材に接合される一対の前記柱材とによって形成される長方形の開口部に、2本の前記斜材を対角線状に交差させて配置したことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の建物の制振構造。
前記建物の骨組みは、前記梁材とその端部に接合される柱材とが剛接合となるラーメン構造体であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の建物の制振構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1−3に開示された制振構造では、ブレースの移動が引張方向だけでなく圧縮方向でも拘束される構造となっているため、ブレースに引張力と圧縮力の両方が作用することになる。
【0009】
しかしながら、ブレースには引張力に対してのみ耐力が高い鋼棒などの軸力材を使用する場合が多く、圧縮力に対しても抵抗させようとすれば、その分の補強がブレース及びブレースと骨組みとの連結部に必要になる。すなわち、軸力材は座屈を防止するための断面積を確保する必要があるうえに、ブレースにねじれが発生しないように連結部の周囲の剛性を高める必要がある。
【0010】
そこで、本発明は、主に引張力に対してのみ斜材で抵抗させることが可能な建物の制振構造、及びそれを構成する緩衝装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の建物の制振構造は、梁材と柱材とによって骨組みが形成される建物の制振構造であって、前記梁材と前記柱材とが交差する隅角部に向けて延伸される斜材と、前記隅角部と前記斜材との間に介在される緩衝装置と、前記緩衝装置と前記隅角部とを繋ぐ連結部とを備え、前記緩衝装置は、前記連結部から離隔する方向に向けて先細る内空が形成された外殻部と、前記外殻部の内周面に対して摺動可能なスライド部とを有し、前記斜材は前記スライド部に接合されるとともに、前記スライド部は前記外殻部から前記斜材側に脱落することのない形状に成形されていることを特徴とする。
【0012】
ここで、前記外殻部の内空及びスライド部は、截頭円錐状に成形することができる。また、前記スライド部の移動距離は、設計外力内であれば所定の大きさ以上の圧縮力が前記斜材に作用しない長さに設定されている。
【0013】
さらに、前記スライド部は制振ゴムによって形成することができる。また、前記スライド部は螺旋状のばねによって形成されていてもよい。そして、前記連結部ではピン接合を介して前記緩衝装置と前記隅角部とを繋ぐのが好ましい。
【0014】
また、前記斜材は、第1の隅角部から対角線上にある第2の隅角部に向けて延伸されるものであって、前記斜材の両端に緩衝装置及び連結部がそれぞれ設けられる構成にすることができる。
【0015】
ここで、前記斜材の一方の端部の緩衝装置のスライド部は截頭円錐状に成形されるとともに、他方の端部の緩衝装置のスライド部は螺旋状のばねによって形成される構成とすることができる。また、前記斜材の一方の端部の連結部は前記隅角部にエンドプレートを介して繋がれ、他方の端部の連結部は前記隅角部に直接に繋がれる構成とすることができる。
【0016】
さらに、上下に略平行に配置される一対の前記梁材と、それらの梁材に接合される一対の前記柱材とによって形成される長方形の開口部に、2本の前記斜材を対角線状に交差させて配置することもできる。また、前記建物の骨組みは、前記梁材とその端部に接合される柱材とが剛接合となるラーメン構造体にすることができる。
【0017】
そして、本発明の緩衝装置は、梁材と柱材とによって骨組みが形成される建物の前記梁材と前記柱材とが交差する隅角部と、その隅角部に向けて延伸される斜材との間に介在させる緩衝装置であって、前記連結部から離隔する方向に向けて先細る内空が形成された外殻部と、前記外殻部の内周面に対して摺動可能なスライド部とを有し、前記斜材は前記スライド部に接合されるとともに、前記スライド部は前記外殻部から前記斜材側に脱落することのない形状に成形されていることを特徴とする。
【0018】
ここで、前記外殻部の内空及びスライド部は、截頭円錐状に成形することができる。また、前記スライド部は制振ゴムによって形成することができる。さらに、前記スライド部は螺旋状のばねによって形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0019】
このように構成された本発明の建物の制振構造は、隅角部と斜材との間に介在させる緩衝装置が、連結部から離隔する方向に向けて先細る内空が形成された外殻部と、その内周面に対して摺動可能なスライド部とを備えている。そして、スライド部は、外殻部から斜材側に脱落することのない形状に成形されている。
【0020】
このため、斜材には引張力が主に作用し、圧縮力が作用しそうになるとスライド部の外殻部による拘束が外れて伝達される力が大幅に低減される。このように大きな圧縮力が作用しない構造であれば、断面性能の比較的、小さな斜材を使用しても、座屈を起こすことがない。また、圧縮力による斜材の面外への変形も抑えることができるので、連結部を簡素な構成にすることができる。
【0021】
さらに、圧縮力の伝達が抑えられたねじれにくい面内でスライド部を摺動させて斜材を振幅させることができるので、地震などによって発生したエネルギーを効果的に吸収させることができる。
【0022】
また、外殻部の内空及びスライド部を截頭円錐状に成形することで、外殻部の内空での摺動をさせ易いうえに、先細り側への脱落も起きないスライド部を容易に形成することができる。さらに、スライド部の振幅範囲を調節することによって、斜材に圧縮力が作用するのを極力、抑えることができる。
【0023】
また、スライド部を制振ゴムによって形成するのであれば、振動吸収性能に優れた緩衝装置とすることができる。さらに、スライド部をばねによって形成するのであれば、斜材に過大な応力が発生するのを抑えることができる緩衝装置を容易に製作することができる。
【0024】
また、隅角部との連結部をピン接合にすることで、斜材に曲げモーメントが伝達されるのを防ぐことができ、引張力に主に抵抗させる軸力材によって斜材を構成することができる。
【0025】
そして、斜材の両端に緩衝装置を配置することで、より効果的に作用させることができる。また、対角線状に交差させた2本の斜材の両方に緩衝装置を配置することで、正負双方向に作用する水平外力に対して機能させることができる。さらに、ラーメン構造の建物に適用することで、ラーメン構造体のエネルギー吸収性能と併せた効果が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態の建物の制振構造の構成を説明する正面図であり、
図2はこの制振構造を設けた建物としてのユニット建物(図示省略)を構成する建物ユニット1の構成を説明する斜視図である。
【0028】
まず、ユニット建物の構成から説明すると、ユニット建物は、
図2に示すような直方体状(箱形)の建物ユニット1を、上下左右に複数、隣接設置して構築される戸建て住宅などの建物である。
【0029】
また、建物ユニット1は、
図2に示すように、柱材としての4本の柱11,・・・と、その柱11,・・・の上端間に差し渡される梁材としての天井梁12,12及び妻側梁12A,12Aと、柱11,・・・の下端間に差し渡される梁材としての床梁13,13及び妻側梁13A,13Aとによって、構造部材となる骨組構造体10が構成される。
【0030】
この骨組構造体10は、柱11と天井梁12及び妻側梁12Aとが溶接などによって剛接合されるとともに、柱11と床梁13及び妻側梁13Aとが剛接合されたラーメン構造体となっている。
【0031】
また、この天井梁12,12間には、複数の天井小梁121,・・・が差し渡されるとともに、ブレース122,122が平面視X字状に差し渡されている。なお、このブレース122,122は省略することもできる。
【0032】
さらに、床梁13,13間には、複数の床小梁131,・・・が差し渡されるとともに、その床小梁131に略直交するように複数の根太132,・・・が配置される。なお、床小梁131,・・・の上に直接、床板や床パネルを取り付ける場合は、根太132,・・・を省略することもできる。
【0033】
そして、この建物ユニット1の外壁を取り付ける側面の一方の柱11に近接して制振構造が設けられる。本実施の形態では、柱11と柱材としての中柱14との間に設けられる制振構造について説明する。
【0034】
この制振構造は、
図1に示すように、略平行に配置される天井梁12及び床梁13と、それらに略直交するように接合される略平行な柱11及び中柱14とによって、長方形に形成される開口部に設けられる。
【0035】
この開口部には、天井梁12と中柱14の上端が交差する隅角部15Aと、中柱14の下端と床梁13が交差する隅角部15Bと、床梁13と柱11の下端が交差する隅角部15Cと、柱11の上端と天井梁12が交差する隅角部15Dとがある。
【0036】
そして、制振構造を構成する斜材としてのブレース2Aは、上側の隅角部15Aから下側の隅角部15Cに向けて対角線状に斜めに延伸される。また、そのブレース2Aに交差する斜材としてのブレース2Bは、上側の隅角部15Dから下側の隅角部15Bに向けて対角線状に斜めに延伸される。すなわち、2本のブレース2A,2Bは、開口部にX字状に配置される。
【0037】
本実施の形態の制振構造は、これらのブレース2A,2Bと、各隅角部15A(15B,15C,15D)とブレース2A(2B)の端部との間に介在される緩衝装置3と、緩衝装置3と各隅角部15A(15B,15C,15D)とを繋ぐ連結部4Aとによって主に構成される。
【0038】
ブレース2A,2Bには、鋼棒、C形鋼やL形鋼などの形鋼、角形や丸形の鋼管などの軸力材が使用できる。そして、
図3,4に示すように、ブレース2A(2B)の端部21に緩衝装置3を取り付ける。
【0039】
この緩衝装置3は、連結部4Aから離隔する方向に向けて先細る截頭円錐状の内空31aが形成された外殻部31と、外殻部31の内周面31bに対して摺動可能なスライド部32とを主に備えている。
【0040】
この外殻部31は、截頭円錐状の両端が開口された筒状の部材である。例えば、外殻部31は鋼材によって製作される。そして、スライド部32は、外殻部31の内空31aに収容される。
【0041】
スライド部32は、例えば制振ゴムによって截頭円錐状に成形される。また、ゴム系、アスファルト系又はアクリル系等の高分子化合物などの粘弾性材料によって形成することもできる。さらに、鋼材によって截頭円錐状のスライド部32に成形することもできる。
【0042】
ここで、スライド部32を制振ゴムや粘弾性材料によって形成した場合は、外殻部31の内周面31bをスライド部32が摺動する際にエネルギーが消費されるのに加えて、スライド部32自体の変形によるエネルギーの吸収効果も期待することができる。
【0043】
また、スライド部32を鋼製にした場合は、スライド部32自体にはほとんど変形が発生しないため、例えば外殻部31の先細る側にブレース2Aの軸方向に延びるスリットを一つ又は複数本設けることで、外殻部31の方が変形するようにしておけばよい。このようにスリットを設けることで、スライド部32がブレース2A側に摺動すると外殻部31の先方が押し広げられる変形が起きて、エネルギーを吸収することができる。
【0044】
このスライド部32には、
図4に示すようにブレース2Aの端部21が挿通され、截頭円錐状のスライド部32の底面側(連結部4A側)には端部21の鍔状に拡幅されたフランジ部分が固定される。このような取付け構造にすることで、ブレース2Aに引張力が作用しても、スライド部32から端部21が抜けることがない。
【0045】
また、スライド部32は、截頭円錐の底面側が外殻部31の先細る側の開口よりも大きくなるように成形されている。これは、スライド部32が、制振ゴムや粘弾性材料によって成形されている場合に、引張力によって伸びて底面側の面積が減少した場合でも、外殻部31の先細る側の開口よりも大きい関係が保たれる形状にする。
【0046】
このような形状にスライド部32を成形しておくことで、
図4に示すようにスライド部32がブレース2A側に引っ張られて先端が外殻部31から突出したとしても、外殻部31から完全に抜け出して脱落するような事態が起きないようにすることができる。
【0047】
連結部4Aは、外殻部31と隅角部15A(15B,15C,15D)とを接続する。ここで、連結部4Aは、隅角部15Aの梁側、柱側のいずれに繋いでもよいが、本実施の形態では
図3に示すように天井梁12に繋ぐ場合について説明する。
【0048】
連結部4Aは、天井梁12に溶接によって接合されるエンドプレート42Aと、そのエンドプレート42Aに取り付けられるピン接合41とによって主に構成される。そして、ピン接合41の端部が、外殻部31の底面側の端面に接合される。
【0049】
次に、
図5を参照しながら、本実施の形態の建物の制振構造の動作について説明する。
【0050】
地震などによって建物が揺れる現象は、
図5(a)に示すように水平力Hが建物ユニット1の上部に作用している現象で表すことができる。なお、
図5は、現象を分かりやすくするために、実際よりも大きく変形した図にしている。
【0051】
このように水平力Hが天井梁12の端部に作用すると、天井梁12、中柱14、床梁13及び柱11によって囲まれた長方形の開口部は、ひし形状に変形する。
【0052】
このような変形が生じると、
図5(a)に示すように、対角線が伸びる側のブレース2Aには引張力Tが作用し、対角線が縮む側のブレース2Bには圧縮力Pが作用することになる。
【0053】
そして、引張力Tが作用する側では、
図5(b)に示すようにブレース2AがT1方向に移動して、スライド部32が外殻部31の内空31aで先細る側で移動することになる。
【0054】
スライド部32が外殻部31の先端に近づくと、スライド部32の外周面は外殻部31の内周面31bと接触して摺動が起きる。この摺動時の摩擦によって、振動エネルギーの一部は消費されることになる。
【0055】
また、スライド部32が制振ゴムや粘弾性材料で形成されている場合は、スライド部32自体が伸びて変形し、その変形によっても振動エネルギーの一部が消費されることになる。
【0056】
一方、スライド部32が鋼製で、外殻部31の先方にスリットが設けられている場合は、外殻部31の先端が広がる変形によって振動エネルギーの一部が消費されることになる。
【0057】
そして、スライド部32の底面側が外殻部31の内周面31bに拘束されて、それ以上には先細り側(ブレース2A側)に移動しなくなると、引張力Tが外殻部31とスライド部32とを介してブレース2Aに伝達されることになる。
【0058】
これに対して、圧縮力Pが作用する側では、
図5(c)に示すようにブレース2BがP1方向に移動するのに伴って、スライド部32も外殻部31の内空31aをピン接合41側に移動することになる。
【0059】
ここで、スライド部32が外殻部31の底面側(ピン接合41側)に近づくと、外殻部31の内空31aがスライド部32の外形よりも広くなるので、摺動による摩擦抵抗はほとんど発生しない。
【0060】
そして、設計外力として設定された水平力Hによってブレース2B側の対角線が縮む長さが、スライド部32の外殻部31の内空31aでの振幅可能な長さの2倍よりも短ければ、圧縮力Pはブレース2Bにはほとんど伝達されない。
【0061】
すなわち、ブレース2Bの両側に設けられた緩衝装置3,3のスライド部32,32は、外殻部31,31の拘束が外れるとその振幅範囲内で自由に動くことができる。よって、設計外力が作用したときの開口部の最も短い対角線上の連結部4A,4A間の距離よりもブレース2Bの長さが短ければ、例えばピン接合41にブレース2Bの端部21が衝突して圧縮力Pが伝達されてしまうような状況にはならない。
【0062】
このように構成された本実施の形態の建物の制振構造は、隅角部15A(15B,15C,15D)とブレース2A(2B)の端部21との間に介在させる緩衝装置3が、連結部4Aから離隔する方向に向けて先細る截頭円錐状の内空31aが形成された外殻部31と、その内周面31bに対して摺動可能なスライド部32とを備えている。そして、スライド部32は、外殻部31からブレース側に脱落することのない形状に成形されている。
【0063】
このため、ブレース2A,2Bには引張力Tが主に作用し、圧縮力Pが作用しそうになるとスライド部32の外殻部31による拘束が外れて伝達される力が大幅に低減される。
【0064】
このように大きな圧縮力Pが作用しない構造であれば、断面性能の比較的、小さなブレース2A,2Bを使用しても、座屈を起こすことがない。また、圧縮力Pによるブレース2A,2Bの面外への変形も抑えることができるので、連結部4Aを簡素な構成にすることができる。
【0065】
さらに、圧縮力Pの伝達が抑えられたねじれにくい面内でスライド部32を摺動させてブレース2A,2Bを振幅させることができるので、地震などによって発生したエネルギーを効果的に吸収させることができる。
【0066】
また、外殻部31の内空31aとスライド部32とを截頭円錐状に成形することで、スライド部32を外殻部31の内空31aで摺動させ易いうえに、外殻部31の先細り側からスライド部32の脱落が起きない組み合わせに容易にすることができる。
【0067】
さらに、外殻部31の内空31aにおけるスライド部32の振幅範囲を調節することによって、ブレース2A,2Bに圧縮力Pが作用するのを極力、抑えることができる。また、スライド部32を制振ゴムによって形成するのであれば、振動吸収性能に優れた緩衝装置3とすることができる。
【0068】
また、隅角部15A(15B,15C,15D)との連結部4Aをピン接合41にすることで、ブレース2A,2Bに曲げモーメントが伝達されるのを防ぐことができ、引張力Tに主に抵抗させる軸力材によってブレース2A,2Bを構成することができる。
【0069】
そして、ブレース2A(2B)の両端に緩衝装置3,3を配置することで、より効果的に作用させることができる。また、対角線状に交差させた2本のブレース2A,2Bの両方に緩衝装置3,・・・を配置することで、正負双方向に作用する水平力Hに対して機能させることができる。
【0070】
さらに、ラーメン構造体である骨組構造体10によって形成されたユニット建物に適用することで、ラーメン構造体のエネルギー吸収性能と併せた効果が期待できる。
【実施例1】
【0071】
以下、前記した実施の形態とは別の形態の実施例1について、
図6を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一符号又は同一用語を使って説明する。
【0072】
前記実施の形態で説明した緩衝装置3は截頭円錐状の塊のスライド部32が収容された構成であったが、実施例1で説明する緩衝装置5は螺旋状のばねによるスライド部52を備えた構成となっている。
【0073】
実施例1の外殻部51は、
図6(a)に示すように、前記実施の形態の外殻部31と同様の截頭円錐状の両端が開口された筒状の部材である。例えば、外殻部51は鋼材によって製作される。そして、スライド部52が外殻部51の内空51aに収容される点も、前記実施の形態と同じである。
【0074】
他方、スライド部52は、螺旋状のばねによって截頭円錐状に成形される。また、スライド部52の先細る側の端部は、ブレース2の端部21の鍔状に拡幅されたフランジ部分に固定される。
【0075】
このように構成された緩衝装置5に引張力Tが作用すると、
図6(b)に示すようにブレース2がT1方向に移動して、スライド部52が外殻部51の内空51aで先細る側で移動することになる。
【0076】
スライド部52が外殻部51の先端に近づくと、スライド部52の底面側の外周面は外殻部51の内周面51bと接触して摺動が起きる。この摺動時の摩擦によって、振動エネルギーの一部は消費されることになる。
【0077】
また、螺旋状のばねで形成されたスライド部52は、それ自体が伸びて変形し、その変形によっても振動エネルギーの一部は消費されることになる。そして、スライド部52の底面側が外殻部51の内周面51bに拘束されて、それ以上には先細り側(ブレース2側)に移動しなくなると、引張力Tが外殻部31と伸びたスライド部52とを介してブレース2に伝達されることになる。
【0078】
このようにスライド部52がばねによって形成された緩衝装置5であれば、ばねの伸縮によってブレース2に過大な応力が発生するのを抑えることができるうえに、製作も容易である。
【0079】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【実施例2】
【0080】
以下、前記した実施の形態とは別の形態の実施例2について、
図7−
図9を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一符号又は同一用語を使って説明する。
【0081】
前記実施の形態では隅角部15A−15Dの梁材側に接合される連結部4Aについて説明したが、これに限定されるものではないため、別の連結部4B,4C,4Dの形態について説明する。
【0082】
図7は、隅角部15の中柱14に接合される連結部4Bの構成を説明する部分拡大図である。この連結部4Bは、中柱14に溶接によって接合されるエンドプレート42Bと、そのエンドプレート42Bに取り付けられるピン接合41とによって主に構成される。そして、ピン接合41の端部が、截頭円錐状の緩衝装置3の底面側の端面に接合される。
【0083】
一方、
図8は、隅角部15の天井梁12に接合される連結部4Cの構成を説明する部分拡大図である。この連結部4Cは、ピン接合41が天井梁12の側面に直接、取り付けられ、ピン接合41と截頭円錐状の緩衝装置3の底面側の端面とが連結アーム43によって連結される。
【0084】
そして、
図9は、隅角部15の中柱14に接合される連結部4Dの構成を説明する部分拡大図である。この連結部4Dは、ピン接合41が中柱14の側面に直接、取り付けられ、ピン接合41と截頭円錐状の緩衝装置3の底面側の端面とが連結アーム44によって連結される。
【0085】
このように隅角部15のいずれの箇所にも連結部4B,4C,4Dを接合することができる。なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【実施例3】
【0086】
以下、前記した実施の形態とは別の形態の実施例3について、
図10を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一符号又は同一用語を使って説明する。
【0087】
前記実施の形態では、天井梁12、中柱14、床梁13及び柱11によって囲まれた長方形の開口部にX字状に2本のブレース2A,2Bを配置した制振構造について説明したが、この実施例3では開口部にK字状に斜材を配置する制振構造について説明する。
【0088】
実施例3では、
図10に示すように左側の柱11の略中央に開口部側に張り出されるように連結プレート61を接合する。そして、隅角部15Aと連結プレート61との間に第1の斜材であるブレース6Aが配置され、連結プレート61と隅角部15Bとの間に第2の斜材であるブレース6Bが配置される。
【0089】
このブレース6Aの上端は緩衝装置3を介して連結部4Aに接続され、連結部4Aは天井梁12に接合される。一方、ブレース6Aの下端は連結プレート61にピン接合62される。
【0090】
また、ブレース6Bの下端は緩衝装置3を介して連結部4Aに接続され、連結部4Aは床梁13に接合される。一方、ブレース6Bの上端は連結プレート61にピン接合62される。
【0091】
このようにブレース6A,6BがK形に配置される場合にも緩衝装置3,3を介在させることによって、ブレース6A,6Bに過大な圧縮力Pを作用させることなく、地震などによって発生するエネルギーを吸収させることができる。
【0092】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【実施例4】
【0093】
以下、前記した実施の形態又は他の実施例とは別の形態の実施例4について説明する。なお、前記実施の形態又は他の実施例で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一符号又は同一用語を使って説明する。
【0094】
実施例4では、例えば
図1に示したブレース2Aの両端で異なる形態の緩衝装置又は連結部が設けられる場合について説明する。
【0095】
まず第1例としては、ブレース2Aの一方の端部には
図3に示したような截頭円錐状のスライド部32を備えた緩衝装置3を設けるとともに、エンドプレート42Aを介して隅角部15Aの天井梁12に繋ぐ連結部4Aを設ける。
【0096】
そして、ブレース2Aの他方の端部には、
図6に示したようなバネスライド部52を備えた緩衝装置5を設けるとともに、エンドプレート42Aを介して隅角部15Cの床梁13に繋ぐ。このようにブレース2Aの端部ごとに異なる緩衝装置3,5を配置することができる。
【0097】
また、第2例としては、ブレース2Aの一方の端部には
図3に示したような截頭円錐状のスライド部32を備えた緩衝装置3を設けるとともに、エンドプレート42Aを介して隅角部15Aの天井梁12に繋ぐ連結部4Aを設ける。
【0098】
そして、ブレース2Aの他方の端部は、
図8に示したような連結アーム43を介して隅角部15Cの床梁13に緩衝装置3を直接に繋ぐ連結部4Cを設ける。このようにブレース2Aの端部ごとに異なる連結部4A,4Cにすることができる。
【0099】
さらに、第3例としては、
図6に示したようなバネスライド部52を備えた緩衝装置5を設けるとともに、エンドプレート42Aを介して隅角部15Aの天井梁12に繋ぐ連結部4Aを設ける。
【0100】
そして、ブレース2Aの他方の端部は、
図8に示したように連結アーム43を介して隅角部15Cの床梁13に緩衝装置3を直接に繋ぐ連結部4Cを設ける。このようにブレース2Aの端部ごとに異なる緩衝装置3,5及び連結部4A,4Cにすることができる。
【0101】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【0102】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態及び実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0103】
例えば、前記実施の形態では、ブレース2A(2B)の両端に緩衝装置3,3を配置したが、これに限定されるものではなく、一方の端部だけに緩衝装置3を配置することができる。他方、前記実施例3では、ブレース6A(6B)の一端にだけ緩衝装置3を配置したが、これに限定されるものではなく、両方の端部に緩衝装置3,3を配置することができる。
【0104】
また、前記実施の形態では、X字状にブレース2A,2Bを配置する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、いずれか一方のブレース2A(2B)を配置するだけでもよい。
【0105】
さらに、前記実施の形態及び実施例では、截頭円錐状の外殻部31,51とスライド部32,52について説明したが、これに限定されるものではなく、四角錐や五角錐などの截頭多角錐状に成形することもできる。