特許第6239823号(P6239823)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239823
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】穴形成工具
(51)【国際特許分類】
   B23D 77/02 20060101AFI20171120BHJP
   B23C 5/22 20060101ALI20171120BHJP
   B23B 51/00 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   B23D77/02
   B23C5/22
   B23B51/00 T
【請求項の数】9
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-7543(P2013-7543)
(22)【出願日】2013年1月18日
(65)【公開番号】特開2013-146855(P2013-146855A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2015年11月18日
(31)【優先権主張番号】1250035-1
(32)【優先日】2012年1月20日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100153084
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 康史
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100133008
【弁理士】
【氏名又は名称】谷光 正晴
(72)【発明者】
【氏名】ペル ハンソン
【審査官】 村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−152552(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0160431(US,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第1795288(EP,A1)
【文献】 特開2008−155318(JP,A)
【文献】 米国特許第05542795(US,A)
【文献】 特表平10−503435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23D 77/02
B23B 51/00
B23C 5/22
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穴形成工具であって、
一方において、接線方向支持面(19)と、軸方向支持面(20)と、工具の中心軸(C1)に最も近い径方向支持面(21)とによって区画形成されるインサート座(7)を有する基体(6)を備え、
他方において、上面(12)と、下面(13)と、複数の側方接触面(14)とを有する交換可能な切削インサート(2)を備え、
切削インサート(2)は締め付け部材(26)によってインサート座内に固定され、締め付け部材は切削インサートの下面(13)をインサート座の接線方向支持面(19)に押しつけた状態にし、2つの側方接触面(14)がインサート座の軸方向及び径方向支持面(20,21)に押しつけられた状態で切削インサートを保持する穴形成工具において、
インサート座の接線方向支持面(19)と切削インサートの下面(13)との間の界面が一対の雄状及び雌状固定手段を含み、雌状固定手段は、細長いガイド面(31)を含み、軸方向支持面(20)からの方向で切削インサート中心方向に向け、径方向支持面(21)に対して鋭角(β)に延び、かつ、径方向支持面(21)に近づき、雄状固定手段(33)はガイド面(31)から間隔をあけており、かつ、切削インサートが切削力によって軸方向及び径方向支持面(20,21)に押しつけられた状態にある限り、2つの固定手段の間に間隙(G)を形成することを特徴とする穴形成工具。
【請求項2】
雌状固定手段(30)が切削インサート(2)の下面(13)に形成され、他方、雄状固定手段(33)はインサート座(7)の接線方向支持面(19)に含まれることを特徴とする請求項1に記載の穴形成工具。
【請求項3】
雄状固定手段はインサート座(7)の接線方向支持面(19)から突出する細長い隆起部(33)であることを特徴とする請求項2に記載の穴形成工具。
【請求項4】
雄状固定手段は接線方向支持面(19)から突出する支柱(33)であることを特徴とする請求項2に記載の穴形成工具。
【請求項5】
雄状固定手段(33)は接線方向支持面(19)に開口しているさら穴(37)に装着される挿入部材であることを特徴とする請求項3又は4に記載の穴形成工具。
【請求項6】
切削インサートがインサート座の軸方向及び径方向支持面(20,21)に押しつけられているとき、固定手段(30,33)の間の間隙(G)は高々0.25mmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の穴形成工具。
【請求項7】
雌状固定手段のガイド面(31)とインサート座の径方向支持面(21)の間の角度(β)は少なくとも20°かつ高々70°であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の穴形成工具。
【請求項8】
切削インサート(2)の下面(13)とインサート座(7)の接線方向支持面(19)の間の界面が、協働可能な雌状及び雄状固定手段の第1の対(30,33)だけでなく、径方向支持面(21)と第1の対(30,33)の間にある第2の対(30,36)も含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の穴形成工具。
【請求項9】
基体は工具ヘッド(1)に着脱可能に装着されるカセット(6)であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の穴形成工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は穴形成工具に関し、詳しくは、一方で、接線方向支持面、軸方向支持面、及び工具の中心軸に最も近く位置する径方向支持面によって画定されるインサート座を有する基体を備え、他方で、上面と下面と複数の側方接触面とを含む刃先交換可能な切削インサートを備え、締め付け部材は切削インサートの下面をインサート座の接線方向支持面に、2つの側方接触面を軸方向支持面及び径方向支持面に押しつけて、切削インサートは締め付け部材によってインサート座に固定される。
【背景技術】
【0002】
孔の形成又は穿孔は、一般に、切削又は切り屑除去工具によって被削材の円筒状の孔を深めてゆくためのすべての方法を含む。浅い孔の穿孔と深い孔の穿孔の他に、現在の技術はまた、リーミング、座ぐり、及びいろいろな形の仕上げも含む。本発明が適用されるいろいろな穴形成工具に共通することは、回転運動が線状又は直線的な送りと組み合わされることである。例えば、ドリルは静止している被削材を加工するときに回転すると同時に直線的に移動する。工具と被削材の間の必要な相対運動は、別の仕方でも、例えば被削材を回転させると同時に工具を長手方向に送ることによっても実現できる。ある種の作業、例えば孔ぐりでは、工具は予め開けられた孔に通され、孔を通って戻すことは意図されない。別の作業では、工具を孔に持ち込むことも孔から引き出すことも意図される。しかし、最初の場合でも、加工された孔を通して工具を引き出すことが必要になるかもしれない。工具を孔から引き出すことが意図したものか意図しないものかに関わりなく、孔の周囲の表面が周縁に位置している切削インサートによって傷つけられる危険がある限り問題がある。ときには、工具を孔から引き出すのが困難であることがある。孔の表面への損傷は一般に望ましくない。最悪の場合、そのために高価な製品が不良品になってしまうこともある。
【0003】
特許文献1及び2(2010年12月26日出願、しかしまだ公開されていない)では、リーミング工具の2つの穴形成工具が開示されており、その基体と切削インサートには一対の協働する雄状及び雌状の固定手段が形成され、切削インサートが軸方向に働く切削力によって工具の基体の所属するインサート座に密着して押しつけられている限りそれらは互いに接触しないが、工具の軸方向の運動の逆転に伴って切削インサートと軸方向支持面との間に間隔が損するとそれらはすぐに作動する。もっと詳しく言うと、この固定手段は、切削インサートがインサート座にしっかりと固定されている限り0.1〜0.2mmの間隙又は遊びがそれらの間に保たれるように形成されている。もしも何か問題が起こって工具を加工された孔から引き出すことが必要になった場合。切削インサートが軸方向に0.1〜0.2mm動くきわめて短い時間に固定手段が作動し、固定手段は切削インサートをインサート座に固定するための締め付け部材、例えばねじ、を解除する。しかし、開示された工具の固定手段は切削インサートがインサート座から外れる軸方向変位に対抗することだけを意図したものであって、切削インサートが径方向に動いてインサート座から外れることを防ごうとしていない。固定手段が一般に切削インサートがインサート座にとどまることを保証していても、それは切削インサートが径方向に外向きに動くことを防ぐ又はそれに対抗するものではない。このため、形成された孔の表面にひっかき傷やその他の損傷が生ずる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】スウェーデン王国特許出願SE1051377―8号明細書
【特許文献2】スウェーデン王国特許出願SE1051378−6号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、穴形成工具であって、孔の表面を損傷することなく、また後退を困難にすることなく、工具を孔から逆進又は後退させる性能を向上させた穴形成工具を提供することを目的とする。したがって、本発明の第1の目的は、穴形成工具であって、周縁に装着されるひとつ以上の切削インサートを有し、それが工具の動きの方向の逆転に関連して切削インサートをインサート座から軸方向に引き出そうとする力、及び切削インサートをインサート座の径方向支持面から離そうとする力、に対して信頼できる仕方で抵抗する穴形成工具を提供することである。また、シンプルで安価に製造できる穴形成工具を提供することも本発明の目的である。ある特別な様態で、本発明は、切削インサートだけでなく所属するインサート座が損傷しても長い使用寿命を有する穴形成工具を提供することを目的とする。言い換えると、切削インサートのインサート座がこわれても工具の全体を廃棄する必要がなくなる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、少なくとも第1の目的はインサート座の接線方向支持面と切削インサートの下面との界面に一対の雄状及び雌状固定手段を形成し、その雌状のものが細長いガイド面を含み、それが径方向支持面に対して鋭角で延び、かつこれに軸方向支持面の方向から近づき、雄状固定手段はこのガイド面から間隔をあけて、切削インサートが切削力によって軸方向及び径方向支持面に押しつけられた状態にある限り2つの固定手段の間に遊びが形成されるようにすることで達成される。
【0007】
上述のような構成によって、工具の送り方向が逆転されることがあっても、切削インサートは径方向支持面から間隔があくようなことがなく、ひっかき傷をつけたり、その他の仕方で生成した孔の表面を損傷したりしないことが保証される。
【0008】
本明細書において、「雄状固定手段」及び「雌状固定手段」という表現は、雄-雌タイプの固定手段、言い換えると、突出した細部が、凹みや、孔や、などそれに適合するものと協働する固定手段に関する。一対の雄状-雌状固定手段は、個別雌部材と協働する個別雄部材を備えることもあるが、各雄状固定手段がいくつかの雄の細部を含みそれらがひとつ以上の雌の細部と協働することもあり得る。
【0009】
ある実施形態では、雌状の固定手段は切削インサートの下面に形成され、雄状の固定手段はインサート座の接線方向支持面に含まれる。この実施形態の利点は、切削インサートの製造、並びに切削インサートのためのインサート座の製造が容易になるということである。厳しい技術的理由により、切削インサートに雄状の隆起を形成するより雌状の皿穴を形成する方が切削インサートは強度が大きくなる。
【0010】
ある実施形態では、雄状の固定手段は細長い隆起部になる。こうすると、工具の送り方向が逆になったときの切削インサートに対する堅牢なストップ面が得られる。
【0011】
ある実施形態では、固定手段は接線方向支持面から突出し、ガイド面に面で接触するのでなく線で接触するする支柱である。こうすると、不十分な許容誤差によって固定手段の機能が妨げられる危険がなくなる。
【0012】
さらに、雄状固定手段が隆起部であるか支柱であるかに関わりなく、雄状固定手段を、接線方向支持面に開口する皿穴に取り付けることができる挿入部材(inset)という形で形成することも可能である。こうすると、基体のおけるインサート座の製造が容易になると同時に、雄状固定手段と基体で、それぞれ、異なる材料、特に異なる等級の鋼を使用することができる。例えば、雄状固定手段を基体の鋼よりも硬い鋼で製造することができる。
【0013】
本発明のある好ましい実施形態では、協働する固定手段は遊びを含むように形成され配置され、この遊びは、切削インサートがインサート座の軸方向及び径方向支持面に押しつけられるとき高々0.25mmになる。好適には、この遊びは0.03〜0.2mmの範囲にある。こうすると、工具の送りの逆転の結果として切削インサートの締め付け装置に厄介な曲げ荷重がかかった後きわめて速やかに固定手段の隠れた固定機能が作動する。
【0014】
別の実施形態では、雌状固定手段のガイド面とインサート座の径方向支持面の間の角度が少なくとも20°、高々70°のある値に選ばれる。こうすると、一方において、固定手段が作動した後に切削インサートが径方向支持面にかなりの力で押しつけられ、他方において、固定手段の作動が最適スピードで起こることが保証される。
【0015】
本発明のある実施形態では、切削インサートの下面とインサート座の接線方向支持面の間の界面に、雌状及び雄状固定手段の第1の対だけでなく、径方向支持面と第1の対の間に位置する第2の対も形成される。こうすると、切削インサートが径方向支持面に確実に押しつけられるだけでなく、軸方向支持面からの切削インサートの軸方向変位も効率的に防止できることが保証される。
【0016】
インサート座が形成される基体は工具ヘッドに着脱可能に装着される別のカセットであってよい。インサート座が切削インサートと共に損傷された場合でも、工具ヘッドの全体を取り替える必要はなく、カセットだけを交換すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ただひとつの外周切削インサートを有するリーマーの形の穴形成工具を示す斜視図である。
図2図1の工具を正面から見た端面図である。
図3】切削インサートのためのインサート座を有するカセットの形で工具に含まれる基体を示す分解斜視図であり、脱離した切削インサートを鳥瞰図だけでなく虫瞰図でも示している。
図4】付属するインサート座に装着された切削インサートを示す上からの平面図である。
図5】インサート座だけを示す立面図である。
図6】インサート座を鳥瞰図で、切削インサートを虫瞰図で示す拡大分解図である。
図7図5の面XII−XIIに位置する切削インサートとインサート座の界面を通る拡大断面図であり、固定手段が最初の位置で互いから離れているのが見られる。
図8図7に対応する断面図であり、固定手段が互いに接触しているのが見られる。
図9図6に対応する分解図であり、本発明の別の実施形態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1と2には、ヘッド1と刃先交換可能な切削インサート2を含むリーマーの形の穴形成工具が示されている。ヘッド1は前端と後端3,4を含み、その間に中心軸C1が延び、回転対称な包絡面5がそれと同心であり、必要ならばヘッドはその軸上で回転させることができる。ヘッド1にはカセット6が着脱可能に結合され、カセット内に切削インサートのためのインサート座7が形成されている。包絡面5に凹みとして設けられヘッドの前端に開いているポケット8に挿入部材6が取り付けられる。挿入部材はボルト9によってポケットに固定されて保持される。図1と2で、一対の支持及びガイドパッド10,11が単独の切削インサート2から接線方向(外周方向)に間隔をあけて位置し、切削インサートと共に(予めあけられた)孔のリーミングの際に工具の3点支持となることが見られる。これは、図2の円形の点鎖線によって示されている。図1で、F1とF2は、それぞれ、前方及び後方への工具の送り方向を示している。
【0019】
例示された実施形態では、カセット6が基体を形成し、そこに切削インサートのためのインサート座7が形成される。しかし、カセットを省略してインサート座を直接ヘッド1に形成し、ヘッドをインサート座のための基体とすることも可能である。
【0020】
次に、図3〜6を参照すると、そこでは実施例の切削インサート2が六角形の基本形を有し、上面12,下面13,及び6つの側面14,15を含み、そのうちの3つ、すなわち面14が接触表面を形成していることが見られる。切削インサートは、刃先交換可能であり、切れ刃を上面の周縁にのみ含むことによって片面仕様になっていることが見られる。もっと詳しく言うと、切削インサート2は、3つのかわるがわる使用できる切れ刃16を含み、それは上面と側面14との移行部分に形成される。作業時には、前記側面が逃げ面となる。それぞれの切れ刃の間に延びる17で表される縁の部分は切り屑除去のときには働かない。詳しく言うと、図4で17aと表される縁の部分は、そのときに作用している有効切れ刃16aによって生成される円筒状の孔表面から引っ込んでいる。作用している有効切れ刃16aと作用していない縁部分の間のコーナー18に、小さな第2の切れ刃又はワイパーエッジ(符号なし)を好適に形成して、形成された表面をそれでさらう(仕上げる)ことによって表面に最適な滑らかさを付与するという目的に役立たせることができる。完全を期して、上面と個々の逃げ面14との間の角度は鋭角(ほとんどの場合80〜83°の範囲内)であるから、切削インサートはポジティブの切削幾何形状を有するということを指摘しておきたい。
【0021】
切削インサートのインサート座6は(図6参照)、3つの支持面によって、すなわち、接線方向支持面19,軸方向支持面20及び径方向支持面21によって区画形成される。これらの名称に見られるように、支持面19は加工時に切削インサートに作用する接線方向の切削力を担持するという目的があり、支持面20は軸方向の切削力を、支持面21は径方向の切削力を担持するという目的がある。接線方向支持面19は平面であってインサート座の底面を形成するが、支持面20,21はインサート座の側面に含まれる。実施例では、各軸方向及び径方向支持面は2つの部分表面を含み、それらが凹み22,23によって隔てられている。接線方向支持面19には、雌ねじ溝25を有する孔24が開口している。
【0022】
インサート座に切削インサートを固定するために、ヘッド27と雄ネジ溝28を有するねじ26の形の締め付け装置が用いられる(図3参照)。このねじを切削インサートの孔29に通して孔24に締め付けることができる。ねじをスプリングで付勢することによって、ねじは、切削インサートの下面を接線方向支持面19に押しつけるだけでなく、2つの逃げ面14を軸方向及び径方向支持面20,21に押しつけることもできる。
【0023】
工具が矢印F1で表される方向に前方へ送られるとき(図1参照)、切削インサート2には切削力がかかり、それが切削インサートをインサート座7のすべての支持面19,20,21に固定する。この状態では、ねじ26の保持効果は無視できる程度である。実際、ねじは切削インサートをインサート座に保持することに限定される。
【0024】
しかし、工具を矢印F2の方向に孔から引っ込めることが必要になると、切削インサートが(例えば、摩擦又はひっつきによって)孔の壁に引っかかったりすると、切削インサートに力がかかり、それは一方において切削インサートをインサート座から軸方向に引き出そうとするが、他方においてねじ26の作用に抗してインサート座から径方向に引き出そうとする。この状態では、ねじだけが切削インサートをインサート座に固定するが、その曲げこわさは大きくないので、特に切削インサートとねじの寸法が小さいときには大きくないので、切削インサートがインサート座から外れることがある。ほんの少しの径方向の動きでも、切削インサートは生成された表面を引っかく、又はその他の仕方で傷つける可能性がある。
【0025】
本発明によれば、上述の問題を解決するために、切削インサートの下面とインサート座の接線方向支持面の間の界面に、一対の協働する固定手段が配置され、その一方は略雌状であり、他方は雄状である。これらの固定手段について以下でさらに詳しく説明する。
【0026】
図6に最もよく見られるように、切削インサートの下面13に、3つの溝30が形成され、それらは共通の孔29から切削インサートの周縁まで延びており、そこで個々の溝はそれぞれ逃げ面14に開く。このように、溝の数は使用できる切れ刃の数に対応する。各個別の溝30は所属する逃げ面14に直角に延びていることを注意しておきたい。個々の溝の断面形状は図7と8に最もよく見られる。すなわち、溝は2つの本質的に平面である側面31a、31bによって限られ、それらは互いに対して鈍角を成し、アーチ面32によって互いに移行する。切削インサートの割り出し位置によって、溝30のそれぞれがインサート座に形成され接線方向支持面19から突出し軸方向支持面20に直角に延びる隆起部33と協働することができる。上記隆起部33が、溝30のひとつの形の雌状固定手段と協働可能な雄状固定手段となる。隆起部33は2つの平行な側面34,35を含み、その後者が接線方向支持面19と90°の角度を成し、前者は、溝の側面31a、31bが切削インサートの下面13に対して傾斜するのとほぼ同じ角度で接線方向支持面19に対して傾斜する。隆起部の幅は溝の幅よりもかなり小さいことを注意しておきたい。
【0027】
図5で、軸方向支持面と径方向支持面20,21の間の角度は、この場合、切削インサートの使用できる切れ刃16の間の角度が正確に60°なので、この角度も60°になることが分かる。隆起部33が軸方向支持面20に対して直角に延びているので、これは径方向支持面21と30°の角βを成す。これに関連して、径方向支持面21は工具の中心軸C1と正確に平行には延びていないことを指摘しておきたい。すなわち、径方向支持面21は後方/内側方向に小さな角度(数分又は秒)を成し、インサートの周縁17と生成された孔の表面の間にクリアランスを作り出している。
【0028】
図5と6で、さらに前述の隆起部33の他にインサート座7が第2の隆起部36を含み、それが径方向支持面21に対して直角に延び、それが隆起部33のように切削インサートの3つの溝のひとつと協働することができることが見られる。
【0029】
工具を矢印F1の方向に送ることに関連して切削インサートがインサート座のすべての支持面に固定されて保持される限り、隆起部33も隆起部36も所属する溝30の側面と接触することはない。もっと詳しく言うと、隆起部の側面34は溝の側面31aから小さな間隙Gによって隔てられている。この間隙の大きさはいろいろであるが0.03〜0.2mmの範囲内になければならず、高々0.25mmである。言い換えると、個々の隆起部及び所属する溝は工具が前方に送られるときには互いに係合しない。
【0030】
切削インサートが、矢印F2の方向に工具が引き戻されることに関連して孔の壁に引っかかる場合、切削インサートは、軸方向支持面20並びに径方向支持面21から切削インサートを引き離そうとする力を受ける。これらの力は、最初はねじ26によって担持される。しかし、ねじが曲がってこれらの力に降伏すると、少なくとも第1の固定手段の対、すなわち隆起部33と溝30とが互いに作用する。すなわち、図8に示されるように、溝の側面31aが隆起部の側面34と接触するようになる。それによって、側面31aは隆起部に沿って動くことができるガイド面として働く。溝30が径方向支持面21に押しつけられる逃げ面14と30°の角βを成すことによって、面14と面21とが互いに接触するようになるとこの動きは止まる。言い換えると、図8に示された状態での面31aと34の相互作用は切削インサートを径方向支持面21に押し込むようになる。これはさらに、切削インサートを軸方向支持面20から引き離そうとする動きも止まるということを意味する。
【0031】
傾斜した隆起部33の他に、追加の予防手段として第2の隆起部36が配置されており、そのストッピング側面34は溝の側面31bと協働するように後方に向いている。しかし、第2の隆起部36のストップ面と溝の側面の間の間隙は、隆起部33とそれと協働する溝の間の間隙Gより少し大きい。こうして隆起部36のストップ機能が、隆起部33のストップ機能が働いた少し後に働くことが保証される。言い換えると、隆起部33が最初に切削インサートを径方向支持面に押し込み、その後で隆起部36が切削インサートの軸方向の動きに対して追加の安全を保証する。少なくとも最初に述べた固定手段によって締め付けねじ26は発生する曲げ荷重から解放され、それによりねじが切削インサートを接線方向支持面19に押しつけることができる限り、切削インサートはシートの中の固定位置に保持される。切削インサートが径方向支持面に押しつけられ続けることによって、切削インサートの周縁コーナー18が生成された孔の壁を引っかいたり、その他の仕方で傷つけたりする危険は排除される、又はそれに対抗できる。
【0032】
次に図9を参照すると、本発明の別の実施形態がそこに示されており、そこでは雄状の固定手段は隆起部ではなく支柱33である。この支柱は孔24のわきに、もっと詳しく言うと、孔24と軸方向支持面20との間のエリアに、位置している孔37にクランプされることによってインサート座の中で固定される。前述の実施形態と同様、切削インサート2は3つの溝30を含み、そのひとつの細長いガイド面31aを介して支柱33と協働する。
【0033】
図9による実施形態の利点は、インサート座7の形成が容易になり、さらにより効果的になるということである。前述の実施形態における2つの突出する隆起部33,36を残しながら接線方向支持面19をフライス加工する代わりに、単純な面フライス削りによってこの支持面が得られ、その後で孔37が簡便なドリル作業によって作られる。さらに別の挿入部材として作られる支柱33は基体6と別の材料から製造することができる。例えば、基体6と支柱33は、支柱に用いられる鋼が基体の鋼よりも硬い2つの異なる等級の鋼で製造できる。これに関連して、完全を期して、切削インサート2は基体の材料よりもかなり硬く、摩耗しにくい材料から製造されるということを指摘しておきたい。特に、切削インサートには超硬合金が、基体には鋼が好ましい。
【0034】
例示された実施形態では、切削インサートを径方向支持面に対して30°の角で保持するためにガイド面が雄部材と協働する溝に延びている。図5でβと表されているこの角度は、しかし、上方にも下方にも変わり得る。実際、βは少なくとも20°そして高々70°になる。切削インサートが3枚刃又は4枚刃なら、βはそれぞれ30°及び45°となるであろう。
(発明の可能な変更)
【0035】
本発明は、上で説明し図面で示された実施形態だけに限定されない。すなわち、本発明はリーマーだけでなく、他の穴形成工具にも適用できる、ただし工具は、工具の周縁に装着できる交換可能な切削インサートを含むものでなければならない。例えば、本発明は交換可能なインサートドリルの外周切削インサートにも適用できるであろう。また、切削インサートは多角形の基本形状を有する必要はなく、丸い切削インサートとそれが所属するインサート座に、上述した種類の協働する雌状及び雄状固定手段のひとつ以上の対をそれぞれ形成することができる。例示した工具では、雄状固定手段がインサート座に含まれ、雌状固定手段が切削インサートに含まれるが、逆の関係も可能である、すなわち雄状の固定手段が切削インサートの下面に形成され、傾斜したガイド面を含む雌状固定手段がインサート座の接線方向支持面に形成されてもよい。支柱以外の別の雄状固定手段が、インサート座の接線方向支持面の凹みに固着される別の挿入部材として形成されてもよい。言い換えると、図示された隆起部は基体と一体で作られる必要はない。完全を期して、工具のインサート座(単数又は複数)は工具ヘッドに直接形成し、後者が工具の基体にすることもできるということを指摘しておきたい。さらに、本発明は、切削インサートを保持するためにねじ以外の締め付け装置を含む工具にも適用できる。例えば、切削インサートはクランプなどを用いて固定することもできる。
【0036】
終わりに、以下の特許請求の範囲において、工具は組み立てられた状態で、すなわち切削インサートをインサート座に固定した状態で定義されていることを指摘しておきたい。
【符号の説明】
【0037】
1 ヘッド
2 切削インサート
3 前端
4 後端
5 包絡面
6 カセット(挿入部材)
7 インサート座
8 ポケット
10.11 ガイドパット
12 上面
13 下面
14,15 側面(逃げ面)
16 切れ刃
19 接線方向支持面
20 軸方向支持面
21 径方向支持面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9