特許第6239825号(P6239825)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239825
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】永久磁石および永久磁石製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20171120BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20171120BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20171120BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   H01F1/057 170
   H01F41/02 G
   B22F3/00 F
   B22F3/24 K
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-12595(P2013-12595)
(22)【出願日】2013年1月25日
(65)【公開番号】特開2014-146627(P2014-146627A)
(43)【公開日】2014年8月14日
【審査請求日】2016年1月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100872
【氏名又は名称】アイチエレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106725
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 敏行
(74)【代理人】
【識別番号】100105120
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 哲幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光彦
(72)【発明者】
【氏名】金子 清一
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−210876(JP,A)
【文献】 特開2009−170796(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/052862(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/078381(WO,A1)
【文献】 特開2012−125139(JP,A)
【文献】 特開2007−053351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057
B22F 3/00
B22F 3/24
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネオジウム(Nd)を含む希土類磁石体にジスプロシウム(Dy)およびテルビウム(Tb)の少なくとも一方を拡散させて形成された永久磁石であって、
両端が開口しているとともに、平行に、直線状に延びている複数の連通孔を有しており、
前記複数の連通孔は、前記複数の連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、連通孔の内周面が、永久磁石の外周面から永久磁石の内側に1.5mm以上離れ、また、永久磁石の外周面から永久磁石の内側に1.5mm離れた位置に引いた線により囲まれる領域が、各連通孔の内周面から永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域によって覆われる位置に形成されており、
ジスプロシウム(Dy)およびテルビウム(Tb)の少なくとも一方が、永久磁石の外周面および前記複数の連通孔の内周面から拡散されていることを特徴とする永久磁石。
【請求項2】
請求項1に記載の永久磁石であって、
永久磁石の外周面は、前記複数の連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、複数の部分外周面により形成されており、
前記複数の連通孔のうちの少なくとも一つの連通孔は、前記複数の連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、連通孔の内周面から永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域が、前記複数の部分外周面のうちの一つの部分外周面から永久磁石の内側に1.5mmの範囲内の領域と少なくとも一部で重複する位置に形成されていることを特徴とする永久磁石。
【請求項3】
請求項に記載の永久磁石であって、
前記少なくとも一つの連通孔には、連通孔の内周面から永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域が、前記一つの部分外周面に隣接する他の部分外周面から永久磁石の内側に1.5mmの範囲内の領域と少なくとも一部で重複する位置に形成されている連通孔が含まれていることを特徴とする永久磁石。
【請求項4】
請求項またはに記載の永久磁石であって、
前記少なくとも一つの連通孔は、各連通孔の内周面と前記一つの部分外周面との間の距離のうちの最も短い距離が等しくなる位置に形成されていることを特徴とする永久磁石。
【請求項5】
請求項のいずれか一項に記載の永久磁石であって、
前記少なくとも一つの連通孔は、前記一つの部分外周面が延びている方向に隣接する連通孔それぞれの内周面から永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域が少なくとも一部で重複する位置に形成されていることを特徴とする永久磁石。
【請求項6】
請求項1に記載の永久磁石であって、
永久磁石の外周面は、前記複数の連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、曲線状に形成されており、
前記複数の連通孔のうちの少なくとも一つの連通孔は、前記複数の連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、連通孔の内周面から永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域が、永久磁石の外周面から永久磁石の内側に1.5mmの範囲内の領域と少なくとも一部で重複する位置に形成されていることを特徴とする永久磁石。
【請求項7】
請求項に記載の永久磁石であって、
前記少なくとも一つの連通孔は、各連通孔の内周面と前記永久磁石の外周面との間の距離のうちの最も短い距離が等しくなる位置に形成されていることを特徴とする永久磁石。
【請求項8】
請求項またはに記載の永久磁石であって、
前記少なくとも一つの連通孔は、永久磁石の外周面が延びている方向に隣接する連通孔それぞれの内周面から永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域が少なくとも一部で重複する位置に形成されていることを特徴とする永久磁石。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか一項に記載の永久磁石であって、
前記複数の連通孔は、前記複数の連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、同じ形状の内周面を有しているとともに、同じ断面積を有していることを特徴とする永久磁石。
【請求項10】
請求項に記載の永久磁石であって、
前記複数の連通孔は、第1の方向に沿って延びる第1の線と、前記第1の方向と直交する第2の方向に沿って延びる第2の線が交差する位置に形成されていることを特徴とする永久磁石。
【請求項11】
請求項に記載の永久磁石であって、
前記複数の連通孔は、第1の方向に沿って延びる第1の線と、前記第1の方向と直交する第2の方向に沿って延びる第2の線が交差する位置であって、前記第1の方向および前記第2の方向に沿って一つ置きの位置に形成されていることを特徴とする永久磁石。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の永久磁石を製造する永久磁石製造方法であって、
ネオジウム(Nd)を含む希土類磁石体を製造する第1工程と、
前記希土類磁石体に、両端が開口しているとともに、平行に、直線状に延びている複数の連通孔を形成する第2工程と、
前記複数の連通孔が形成された前記希土類磁石体の外周面および前記複数の連通孔の内周面から、ジスプロシウム(Dy)およびテルビウム(Tb)の少なくとも一方を拡散させる第3工程を備え、
前記第2工程では、前記複数の連通孔を、前記複数の連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、各連通孔の内周面が、前記希土類磁石体の外周面から前記希土類磁石体の内側に1.5mm以上離れ、また、前記希土類磁石体の外周面から前記希土類磁石体の内側に1.5mm離れた位置に引いた線により囲まれる領域が、各連通孔の内周面から前記希土類磁石体の外周面側に1.5mmの範囲内の領域によって覆われる位置に形成することを特徴とする永久磁石製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の永久磁石製造方法であって、
前記ジスプロシウム(Dy)およびテルビウム(Tb)の少なくとも一方を拡散させた前記希土類磁石体を、前記複数の連通孔が延びている方向と交差する方向に切断する第4工程を備えることを特徴とする永久磁石製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石、特に、希土類磁石およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石モータ等の種々の装置に、磁束密度が高い高性能な希土類磁石が使用されている。希土類磁石としては、典型的には、ネオジウム(Nd)を含むネオジウム磁石、例えば、[ネオジウム−鉄−ホウ素(Ne−Fe−B)磁石]が知られている。このようなネオジウム磁石は、保持力が周囲温度の上昇とともに低下するため、保持力の向上が要求される。従来、このようなネオジウム磁石の保持力を高める技術として、特許文献1〜4に開示されている技術が知られている。特許文献1〜4に開示されている技術では、Ne−Fe−B磁石の外周面から、ジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)を、結晶と結晶の界面(結晶粒界)に沿って拡散させている。これにより、少量のジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)によって、ネオジウム磁石の保持力を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−263179号公報
【特許文献2】特開2009−289994号公報
【特許文献3】国際公開WO2008/075710号公報
【特許文献4】国際公開WO2007/088718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜4に開示されている、Ne−Fe−B磁石の外周面から、DyやTbを拡散させる技術では、磁石の外周面(拡散面)から1.5mm以上離れると拡散効果が急激に低下する。例えば、図15に示されている、高さH1mm、幅W1mm、厚さT1mmを有する希土類磁石体870の場合、厚さT1が3mmを超えると、希土類磁石体870の外周面から1.5mm以上離れている領域では、DyやTbがほとんど拡散されない。このため、従来の技術では、製造可能な永久磁石の寸法に限界がある。
なお、特許文献4には、3mm以上の厚さを有する場合でも、希土類磁石体の内部にDyやTbを拡散させることができる技術が開示されている。しかしながら、特許文献4に開示されている技術は、希土類磁石体の外周面から金属を拡散させる処理が必要である。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、簡単に、ネオジウムを含む希土類磁石体へのジスプロシウムやテルビウムの拡散領域を増大させることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一つの発明は、ネオジウム(Nd)を含む希土類磁石体にジスプロシウム(Dy)およびテルビウム(Tb)の少なくとも一方を拡散させて形成された永久磁石に関する。ネオジウムを含む希土類磁石体としては、少なくともネオジウムを含むネオジウム磁石、典型的には、Ne−Fe−B磁石が用いられる。
本発明の永久磁石は、両端が開口しているとともに、平行に、直線状に延びている複数の連通孔を有している。連通孔の形成位置は、適宜選択可能である。例えば、板状の永久磁石の場合には、厚さ方向に沿って形成してもよいし、厚さ方向と交差する方向(例えば、高さ方向、幅方向)に沿って形成してもよい。また、長尺(例えば、棒状)の永久磁石の場合には、長手方向に沿って形成してもよいし、長手方向と交差する方向に沿って形成してもよい。
複数の連通孔は、複数の連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、連通孔の内周面が、永久磁石の外周面から永久磁石の内側に1.5mm以上離れ、また、永久磁石の外周面から永久磁石の内側に1.5mm離れた位置に引いた線(「外周面拡散領域境界線」という)により囲まれる領域が、各連通孔の内周面から永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域(「連通孔の内周面拡散領域」という)によって覆われる位置に形成されている。そして、ジスプロシウム(Dy)およびテルビウム(Tb)の少なくとも一方が、永久磁石の外周面および複数の連通孔の内周面から拡散されている
本発明では、希土類磁石体に連通孔を形成するのみで、複数の連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、永久磁石の全領域にDyおよびTbの少なくとも一方を拡散させることができ、保持力の低下防止効果を高めることができる。
【0006】
永久磁石としては、連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、複数の部分外周面により形成される外周面を有する永久磁石を用いることができる。複数の部分外周面により形成される外周面は、典型的には、直線状の部分外周面により形成される多角形の外周面である。
この場合、以下の形態を採ることができる。
一つの形態では、複数の連通孔のうちの少なくとも一つの連通孔は、複数の連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、連通孔の内周面から永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域(「連通孔の内周面拡散領域」という)が、複数の部分外周面のうちの一つの部分外周面から永久磁石の内側に1.5mmの範囲内の領域(「部分外周面の外周面拡散領域」という)と少なくとも一部で重複する位置に形成されている。
本形態では、一つの部分外周面の外周面拡散領域を少なくとも一つの連通孔の内周面拡散領域と連続させることができる。
異なる形態では、前記少なくとも一つの連通孔には、連通孔の内周面拡散領域が、前記一つの部分外周面に隣接する他の部分外周面の外周面拡散領域と少なくとも一部で重複する位置に形成されている連通孔が含まれている。
本形態では、一つの部分外周面の外周面拡散領域を少なくとも一つの連通孔の内周面拡散領域に連続させることができるとともに、一つの部分外周面に隣接する他の部分内周面の外周面拡散領域を、少なくとも一つの連通孔のうちの少なくとも一つの内周面拡散領域に連続させることができる。
他の異なる形態では、前記少なくとも一つの連通孔は、各連通孔の内周面と前記一つの部分外周面との間の距離のうちの最も短い距離が等しくなる位置に形成されている。
本形態では、一つの部分外周面の外周面拡散領域に連続している内周面拡散領域を有する複数の連通孔を効率よく配置することができる。
他の異なる形態では、前記少なくとも一つの連通孔は、前記一つの部分外周面が延びている方向に隣接する連通孔それぞれの内周面拡散領域が少なくとも一部で重複する位置に形成されている。
本形態では、一つの部分外周面の外周面拡散領域を複数の連通孔の内周面拡散領域に連続させることができるとともに、一つの部分外周面が延びている方向に沿って隣接する内周面拡散領域を連続させることができる。
【0007】
永久磁石としては、連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、曲線形状に形成されている外周面を有する永久磁石を用いることができる。曲線形状に形成される外周面は、典型的には、円形や楕円形の外周面である。
この場合、以下の形態を採ることができる。
一つの形態では、複数の連通孔のうちの少なくとも一つの連通孔は、複数の連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、連通孔の内周面から永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域(「連通孔の内周面拡散領域」)が、永久磁石の外周面から永久磁石の内側に1.5mmの範囲内の領域(「永久磁石の外周面拡散領域」という)と少なくとも一部で重複する位置に形成されている。
本形態では、永久磁石の外周面拡散領域を少なくとも一つの連通孔の内周面拡散領域と連続させることができる。
異なる形態では、前記少なくとも一つの連通孔は、各連通孔の内周面と永久磁石の外周面との間の距離のうちの最も短い距離が等しくなる位置に形成されている。
本形態では、永久磁石の外周面拡散領域に連続している内周面拡散領域を有する複数の連通孔を効率よく配置することができる。
他の異なる形態では、前記少なくとも一つの連通孔は、永久磁石の外周面が延びている方向に隣接する連通孔それぞれの内周面拡散領域が少なくとも一部で重複する位置に形成されている。
本形態では、永久磁石の外周面拡散領域を複数の連通孔の内周面拡散領域に連続させることができるとともに、永久磁石の外周面が延びている方向に沿って隣接する内周面拡散領域を連続させることができる。
【0008】
さらに他の異なる形態では、複数の連通孔は、複数の連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、同じ形状の内周面を有しているとともに、同じ断面積を有している。
本形態では、連通孔を容易に形成することができ、また、連通孔の形成位置を容易に設定することができる。
さらに他の異なる形態では、複数の連通孔は、第1の方向に沿って延びる第1の線と、第1の方向と直交する第2の方向に沿って延びる第2の線が交差する位置に形成されている。あるいは、複数の連通孔は、第1の方向に沿って延びる第1の線と、第1の方向と直交する第2の方向に沿って延びる第2の線が交差する位置であって、第1の方向および第2の方向に沿って一つ置きの位置に形成されている。
第2の方向は、好適には、第1の方向と直交する方向に設定される。また、第1の線の間隔や第2の線の間隔は、永久磁石の断面形状や断面積、連通孔の内周面の断面形状や断面積等に応じて設定される。好適には、第1の線の間隔と第2の線の間隔が等しく設定される。
本形態では、連通孔の形成位置を容易に設定することができる。
【0009】
他の発明は、ネオジウム(Nd)を含む希土類磁石体にジスプロシウム(Dy)およびテルビウム(Tb)の少なくとも一方を拡散させた永久磁石を製造する永久磁石製造方法に関する。
本発明では、Ndを含む希土類磁石体を製造する第1工程と、希土類磁石体に、両端が開口しているとともに、平行に、直線状に延びている複数の連通孔を形成する第2工程と、複数の連通孔が形成された希土類磁石体の外周面および複数の連通孔の内周面からDyおよびTbの少なくとも一方を拡散させて永久磁石を形成する第3工程を備えている。
そして、第2工程では、複数の連通孔を、複数の連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、各連通孔の内周面が、希土類磁石体の外周面から希土類磁石体の内側に1.5mm以上離れ、また、希土類磁石体の外周面から希土類磁石体の内側に1.5mm離れた位置に引いた線により囲まれる領域が、各連通孔の内周面から希土類磁石体の外周面側に1.5mmの範囲内の領域によって覆われる位置に形成する。
本発明では、希土類磁石体に連通孔を形成するのみで、複数の連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、永久磁石の全領域にDyおよびTbの少なくとも一方を拡散させることができ、保持力の低下防止効果を高めることができる。
他の発明の異なる形態では、さらに、DyおよびテルビウムTbの少なくとも一方が拡散された永久磁石を、複数の連通孔が延びている方向と交差する方向に切断する第4工程を備えている。
複数の連通孔が延びている方向と交差する方向は、好適には、複数の連通孔が延びている方向と直交する方向(「略直交する方向」を含む)が設定される。
本形態では、複数の永久磁石に対して一度にDyやTbを拡散させることができるため、永久磁石を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の永久磁石および永久磁石製造方法を用いることにより、希土類磁石体に連通孔を形成するのみで、希土類磁石体へのジスプロシウムやテルビウムの拡散領域を容易に増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施の形態の永久磁石電動機の概略構成を示す図である。
図2】第1の実施の形態の永久磁石電動機の回転子の断面図である。
図3】永久磁石製造方法の一実施の形態を説明する図である。
図4】永久磁石製造方法の一実施の形態を説明する図である。
図5】永久磁石製造方法の一実施の形態を説明する図である。
図6】第1の実施の形態の永久磁石の斜視図である。
図7図5の矢印VII方向から見た図である。
図8】第2の実施の形態の永久磁石を示す図である。
図9】連通孔の内周面拡散領域が、永久磁石の外周面拡散領域境界線により囲まれる領域と少なくとも一部で重なる位置に連通孔が形成されている例を示す図である。
図10】第2の実施の形態の永久磁石電動機の回転子の断面図である。
図11】第3の実施の形態の永久磁石電動機の回転子の断面図である。
図12】第3の実施の形態の永久磁石を示す図である。
図13】第4の実施の形態の永久磁石を示す図である。
図14】拡散面からの深さと拡散効果との関係を示す図である。
図15】従来の永久磁石を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
なお、本明細書では、「軸方向」は、回転子が固定子に対して回転可能に支持されている状態において、回転子の中心点(回転中心点)Oを通る回転中心線の方向を示す。また、「周方向」は、回転子が固定子に対して回転可能に支持されている状態において、軸方向(回転中心線の方向)に直角な断面でみて、回転子の中心点Oを中心とする円周方向を示す。また、「径方向」は、回転子が固定子に対して回転可能に支持されている状態において、軸方向(回転中心線の方向)に直角な断面でみて、回転子の中心点Oを通る方向を示す。
また、「d軸」は、軸方向に直角な断面で見て、主磁極部の周方向に沿った中心(例えば、回転子の外周面のうち主磁極部に対応する部分の周方向に沿った中心点)と回転子の中心点Oを結ぶ線で表され、「q軸」は、主磁極部の間の補助磁極部の周方向に沿った中心(例えば、回転子の外周面のうち補助磁極部の外周面に対応する部分の周方向に沿った中心点)と回転子の中心点Oを結ぶ線で表される。
【0013】
本発明の永久磁石を使用する永久磁石電動機の第1の実施の形態100が、図1図2に示されている。
第1の実施の形態の永久磁石電動機100は、固定子110と、固定子110に対して回転可能に支持されている回転子150により構成されている。
固定子110は、電磁鋼板を積層して形成された固定子コア120と、固定子巻線130により構成されている。固定子コア120は、軸方向に直角な断面で見て、周方向に沿って延びているヨークと、ヨークから径方向に沿って回転子150の中心点方向に延びている複数のティースと、周方向に隣接するティースによって形成されるスロットを有している。固定子巻線130は、スロット内に挿入されている。
【0014】
回転子150は、電磁鋼板を積層して形成された回転子コア160と、永久磁石170と、回転軸180により構成されている。
回転子コア160は、軸方向に直角な断面で見て、主磁極部と補助磁極部が周方向に沿って交互に配置されている。主磁極部には、軸方向に沿って延びている磁石挿入孔161が形成され、磁石挿入孔161に永久磁石170挿入されている。
本実施の形態では、軸方向に直角な断面で見て、磁石挿入孔161は、主磁極部のd軸と交差する(直交する)方向に沿って直線状に形成されている。そして、磁石挿入孔161には、軸方向に直角な断面が四角形を有している、板状の永久磁石170が挿入されている。永久磁石170は、隣接する主磁極部が異極となるように磁化されている。例えば、図2に示しているように、外周側がN極、中心側がS極に磁化された永久磁石170と、外周側がS極、中心側がN極に磁化された永久磁石170が、隣接する主磁極部の磁石挿入孔に交互に挿入されている。
永久磁石170には、両端が開口している連通孔175が形成されている。本実施の形態では、連通孔175は、図2に示すように、軸方向に直角な断面で見て、永久磁石170が延びている方向(磁石挿入孔161が延びている方向)と直交する方向(「略直交する方向」を含む)に沿って形成されている。連通孔175については、後述する。
また、回転子コア160の中心側に形成されている回転軸挿入孔162に回転軸180が挿入されている。
【0015】
本実施の形態では、永久磁石170として、磁束密度が高い高性能のネオジウム(Nd)を含む希土類磁石体である[ネオジウム−鉄−ホウ素(Nd−Fe―B)磁石体]に、保持力の低下を防止するためのジスプロシウム(Dy)およびテルビウム(Tb)の少なくとも一方を拡散させて形成された永久磁石を用いている。
ここで、[Ne−Fe−B磁石体]の外周面からDyやTbを拡散させる場合における、拡散面からの深さと拡散効果との関係を図14に示す。なお、図14において、横軸は、[Ne−Fe−B磁石体]の外周面(拡散面)からの距離を示し、縦軸は、DyやTbの拡散効果を示している。
図14から、拡散面からの距離が1.5mmまでは拡散効果は高いが、拡散面からの距離が1.5mmを超えると拡散効果が急激に低下することが理解できる。
このことから、例えば、図15に示されている形状の[Ne−Fe−B磁石体]870の外周面からNdやTbを拡散させた場合には、磁石体870の外周面から磁石体870の内側に1.5mmの距離に引いた線により形成される領域では、DyやTbが十分に拡散されないことがわかる。すなわち、[Ne−Fe−B磁石体]の保持力を高めるためには、磁石体の外周面から磁石体の内側に1.5mmの距離に引いた線により形成される領域内におけるNdやTbの拡散効果を高める必要がある。
本発明者らは、磁石体の外周面から磁石体の内側に1.5mmの距離に引いた線により形成される領域内におけるNdやTbの拡散効果を高めるという課題を解決するための手法について種々検討した。その結果、磁石体に連通孔を形成し、磁石体の外周面だけでなく連通孔の内周面も拡散面として用いることにより、この課題を簡単に解決することができることを見出した。
【0016】
以下に、本実施の形態の永久磁石電動機100で使用する永久磁石170の製造方法を、図3図5を参照して説明する。なお、以下では、便宜上、x方向を高さ方向、y方向を幅方向、z方向を厚さ方向に設定している。また、DyあるいはTbを拡散させる方法は同じであるため、Dyを拡散させる場合について説明する。
先ず、図3に示されている高さH1、幅W1、厚さTを有する直方体の[Ne−Fe−B磁石体]10を製造する。[Ne−Fe−B磁石体](以下、単に「磁石体」という)を製造する方法としては、特許文献1〜4等に開示されている公知の種々の方法を用いることができる。例えば、粉末状の原料を混合して所定形状に圧縮成形し、その後焼結する方法を用いることができる。図3では、磁石体10は、厚さ方向(z方向)に沿った両端面がN極あるいはS極となるように磁化されている。
なお、磁石体10の形状や磁化方向は、製造する永久磁石170の形状等に応じて適宜設定される。
本工程が、本発明の永久磁石製造方法の「第1工程(磁石体製造工程)」に対応する。
【0017】
次に、図4に示されているように、磁石体10に、両端が開口している連通孔20を形成する。図4では、幅方向(z方向)に平行な、直線状の複数の連通孔20が形成されている。また、幅方向(z方向)に直角な断面(x−y平面)で見て、連通孔20は、円形の断面形状を有している。なお、連通孔20の形成箇所、数、断面形状等は、製造する永久磁石170の外周形状等に応じて適宜選択される。
本工程が、本発明の永久磁石製造方法の「第2工程(連通孔形成工程)」に対応する。
【0018】
次に、連通孔20が形成された磁石体10に、Dyを拡散させる。磁石体10にDyを拡散させる方法としては、特許文献1〜4等に開示されている公知の種々の方法を用いることができる。例えば、磁石体10の外周面および連通孔の内周面にDyを付着させることによって、原料の結晶粒界に沿ってDyを拡散させる方法を用いることができる。
本工程が、本発明の永久磁石製造方法の「第3工程(拡散工程)」に対応する。
【0019】
次に、図5に示されているように、磁石体10を切断して永久磁石170を得る。図5では、連通孔20が延びている方向(z方向)と直交する方向(x−y平面)に沿った方向)に延びている切断線30に沿って切断している。これにより、高さH1、幅W1、厚さT1を有する直方体の板状の永久磁石170が製造される。なお、切断線30は、連通孔20が延びている方向(z方向)と交差する方向であればよい。
本工程が、本発明の永久磁石製造方法の「第4工程(切断工程)」に対応する。
なお、永久磁石の用途によっては、Dyを拡散させた磁石体10を切断することなく使用することもできる。この場合には、第4工程は省略される。
また、連通孔20を形成する第2工程の前に磁石体10の外形形状を所定形状に研磨する第5工程(研磨工程)や、磁石体10を切断する第4工程の後に、永久磁石170の外形形状を所定形状に研磨する第6工程(研磨工程)を設けることもできる。
【0020】
本実施の形態の永久磁石170を、図6図7に示す。図6は、永久磁石170の斜視図であり、図7は、図6において矢印VII方向(z方向)から見た図である。なお、図6図7では、x〜z方向の向きが、図3図5のx〜z方向の向きと異なっている。
本実施の形態の永久磁石170は、高さH、幅W、厚さTを有する板状の直方体に形成されている。また、図7に示されている、厚さ方向(z方向)両側の外周面は、部分外周面171a、171b、171c、171dにより形成される四角形を有している。また、連通孔175は、厚さ方向(z方向)に沿って形成されている。なお、直方体(四角形)は、厳密に直方体(四角形)である必要はなく、角部に面取り等が形成されていてもよい。
部分外周面171a〜171dが、本発明の永久磁石の「部分外周面」に対応する。また、部分外周面171a〜171dによって、本発明の永久磁石の「連通孔が延びている方向と直角な外周面」が形成されている。
永久磁石170が磁石挿入孔161に挿入された状態では、高さ方向(x方向)が、軸方向(図1の上下方向、図2の前後方向)に沿って配置され、幅方向(y方向)が、磁石挿入孔161が延びている方向(d軸と直交する方向)に沿って配置され、厚さ方向(z方向)が、d軸に沿って配置される。
【0021】
磁石体にDyを拡散させる場合には、前述したように、Dyの拡散効果が高い領域は、拡散面から1.5mmの範囲内(以下、単に「拡散領域」という)である。したがって、連通孔175が形成されている磁石体10にDyを拡散させて形成された永久磁石170では、永久磁石170の部分外周面171a〜171dから永久磁石170の内側に1.5mmの範囲内の領域(以下、「永久磁石の外周面拡散領域」という)173と、連通孔175a〜175fそれぞれの内周面から永久磁石170の外周面側に1.5mmの範囲内の領域(以下、「連通孔の内周面拡散領域」という)177a〜177fが、Dyの拡散効果が高い領域(「拡散領域」)である。なお、永久磁石170の外周面拡散領域173は、永久磁石170の部分外周面171a〜171dと、部分外周面171a〜171dから永久磁石170の内側に1.5mm離れた位置に引いた線(以下、「外周面拡散領域境界線」という)172a〜172dとにより囲まれる領域である。また、連通孔175a〜175fの内周面拡散領域は、それぞれ連通孔175a〜175fの内周面と、連通孔175a〜175fの内周面から永久磁石170の外周面側に1.5mm離れた位置に引いた線(以下、「内周面拡散領域境界線」という)176a〜176fとによって囲まれる領域である。
本実施の形態では、永久磁石170の部分外周面171a〜171dからのDyの拡散効果が低い領域、すなわち、外周面拡散領域境界線172a〜172dにより囲まれる領域が、連通孔175a〜175fそれぞれの内周面拡散領域177a〜177fによって覆われる位置に連通孔175a〜175fが形成されている。これにより、連通孔175a〜175fが延びている方向と直角な断面で見て、永久磁石170の全面にDyが拡散されるため、保持力を効果的に高めることができる。
【0022】
また、図7に示されている第1の実施の形態の永久磁石170では、連通孔175a〜175fは、高さ方向(x方向)に沿って平行に延びている線181、182と、高さ方向(x方向)と直交する幅方向(y方向)に沿って平行に延びている線191〜193が交差する位置に形成されている。高さ方向(x方向)に沿って延びている線181、182と幅方向(y方向)に沿って延びている線191〜193のうちの一方が、本発明の永久磁石の「第1の方向に沿って延びている第1の線」に対応し、他方が、「第1の方向と直交する第2の方向に沿って延びている第2の線」に対応する。
高さ方向(x方向)に沿って延びている線181と182の間隔や幅方向(y方向)に沿って延びている線191〜193の間隔は、永久磁石170の断面形状や断面積、連通孔175a〜175fの内周面の断面形状や断面積等に応じて設定される。好適には、線181と182の間隔と線191〜193の間隔が等しく設定される。
このように、連通孔175a〜175fを、第1の方向に沿って延びている第1の線と、第1の方向と直交する(「略直交」を含む)方向に沿って延びている第2の線が交差する位置に形成することにより、連通孔の形成位置を容易に、効率よく設定することができる。
なお、連通孔の数や、第1の線および第2の線の数は、永久磁石170の断面形状等に応じて適宜設定される。
【0023】
第2の実施の形態の永久磁石270を、図8を参照して説明する。図8は、第2の実施の形態の永久磁石270を、連通孔が延びている方向と直交する方向から見た図である。
本実施の形態の永久磁石270は、第1の実施の形態の永久磁石170と同様の方法で製造することができる。
本実施の形態の永久磁石270は、幅方向(z方向)に沿って平行に連通孔275a〜275mが形成されている。連通孔275a〜275mは、永久磁石270の部分外周面271a〜271dからのDyの拡散効果が低い領域、すなわち、外周面拡散領域境界線272a〜272dにより囲まれる領域が、連通孔275a〜272mそれぞれの内周面拡散領域277a〜277mによって覆われる位置に形成されている。これにより、連通孔275a〜275mが延びている方向と直角な断面で見て、永久磁石270の全面にDyが拡散されるため、保持力を効果的に高めることができる。
【0024】
また、図8に示されている第2の実施の形態の永久磁石270では、連通孔275a〜275mは、高さ方向(x方向)に沿って平行に延びている線281〜283と、高さ方向(x方向)と直交する幅方向(y方向)に沿って平行に延びている線291〜299が交差する位置であって、高さ方向(x方向)および幅方向(y方向)に沿って一つ置きの位置に形成されている。高さ方向(x方向)に沿って延びている線281〜283と幅方向(y方向)に沿って延びている線291〜299のうちの一方が、本発明の永久磁石の「第1の方向に沿って延びている第1の線」に対応し、他方が、「第1の方向と直交する第2の方向に沿って延びている第2の線」に対応する。
高さ方向(x方向)に沿って延びている線281〜283の間隔や幅方向(y方向)に沿って延びている線291〜299の間隔は、永久磁石270の断面形状や断面積、連通孔275a〜275mの内周面の断面形状や断面積等に応じて設定される。好適には、線281〜283の間隔と線291〜299の間隔が等しく設定される。
このように、連通孔275a〜275mを、第1の方向に沿って延びている第1の線と、第1の方向と直交する(「略直交」を含む)方向に沿って延びている第2の線が交差する位置であって、第1の方向および第2の方向に沿って一つ置きの位置に形成することにより、連通孔の形成位置を容易に、効率よく設定することができる。
なお、連通孔の数や、第1の線および第2の線の数は、永久磁石270の断面形状等に応じて適宜設定される。
【0025】
第1および第2の実施の形態の永久磁石では、連通孔を、永久磁石の外周面拡散領域境界線により囲まれる領域が、各連通孔の内周面拡散領域によって覆われる位置に形成したが、連通孔は、連通孔の内周面拡散領域が、永久磁石の外周面拡散領域境界線により囲まれる領域と少なくとも一部で重なる位置に形成されていればよい。連通孔をこのような位置に形成することにより、連通孔が形成されていない従来の永久磁石に比べて、Dyの拡散領域を増大させることができ、保持力を高めることができる。
これを、図9を参照して説明する。
図9に示されている連通孔375aは、連通孔375aの内周面と、永久磁石370の部分外周面371bから1.5mm離れた位置に引いた外周面拡散領域境界線372bが重なる位置に形成されている。
図9に示されている連通孔375bは、連通孔375bの内周面から永久磁石370の外周面側に1.5mm離れた位置に引いた内周面拡散領域境界線376bと、永久磁石370の部分外周面371bから1.5mm離れた位置に引いた外周面拡散領域境界線372bが重なる位置に形成されている。
図9に示されている連通孔375cは、連通孔375cの内周面拡散領域377cが、永久磁石370の部分外周面371a〜371dから1.5mm離れた位置に引いた外周面拡散領域境界線372a〜372dによって囲まれている領域内に含まれる位置に形成されている。
連通孔375a〜375cのいずれも、各連通孔375a〜375cの内周面拡散領域377a〜377cが、外周面拡散領域境界線372a〜372dによって囲まれている領域と少なくとも一部で重なっている。これにより、この重なっている領域におけるDyの拡散効果が高められる。
なお、連通孔375a〜375cは、連通孔375a〜375cが延びている方向に直角な断面で見て、連通孔375a〜375cの中心を通る線に沿った、永久磁石370の外周面間の長さが3mm以上である位置に形成される。「連通孔の中心」は、連通孔の断面が多角形や円形である場合には、多角形や円形の中心点が対応する。図9では、連通孔375a〜375cの断面の中心点Pを通る線に沿った長さ(例えば、部分外周面371aに沿った長さ)が3mm以上である。
【0026】
本発明の永久磁石を使用する永久磁石電動機の第2の実施の形態を、図10を参照して説明する。図10は、第2の実施の形態の永久磁石電動機の回転子の、軸方向に直角な断面図である。
第2の実施の形態の永久磁石電動機では、回転子の回転子コア460の主磁極部に、磁石挿入孔がV字状に形成されている。すなわち、第1の磁石挿入孔461aと第2の磁石挿入孔461bが、ブリッジ部463を挟んで周方向に沿って両側に、d軸に対して傾斜した状態で直線状に形成されている。そして、第1の磁石挿入孔461aと第2の磁石挿入孔461bには、それぞれ、軸方向に直角な断面が四角形を有している、板状の永久磁石470aと470bが挿入されている。永久磁石470aと470bは、隣接する主磁極部が異極となるように磁化されている。
永久磁石470aと470bには、両端が開口している連通孔475が形成されている。本実施の形態では、連通孔475は、図10に示されているように、軸方向に直角な断面で見て、永久磁石470a、470bが延びている方向(磁石挿入孔461a、461bが延びている方向)と直交する方向(「略直交する方向」を含む)に沿って形成されている。
【0027】
本発明の永久磁石を使用する永久磁石電動機の第3の実施の形態を、図11を参照して説明する。図11は、第3の実施の形態の永久磁石電動機の回転子の、軸方向に直角な断面図である。
第3の実施の形態の永久磁石電動機では、回転子の回転子コア560の主磁極部に、磁石挿入孔が台形状に形成されている。すなわち、d軸と直交する方向に直線状に延びている中央部と、中央部の両端からそれぞれ周方向に沿って反対方向に、d軸に対して傾斜した状態で直線状に延びている端部を有する磁石挿入孔561が形成されている。そして、磁石挿入孔561の中央部と両側の端部それぞれに、軸方向に直角な断面が四角形を有している、板状の永久磁石570b、570aと570cが挿入されている。永久磁石570b、570aと570cは、隣接する主磁極部が異極となるように磁化されている。
永久磁石570b、570aと570cには、両端が開口している連通孔575が形成されている。本実施の形態では、連通孔575は、図11に示されているように、軸方向に直角な断面で見て、永久磁石570b、570aと570cが延びている方向(磁石挿入孔561の中央部と両端部が延びている方向)と直交する方向(「略直交する方向」を含む)に沿って形成されている。
【0028】
次に、第3の実施の形態の永久磁石670を、図12を参照して説明する。第3の実施の形態の永久磁石670は、長尺状(例えば、棒状、縦長の板状)に形成され、長手方向に沿って連通孔が形成されている。例えば、図6に示されている永久磁石170において、高さ方向(x方向)あるいは幅方向(y方向)に沿って連通孔が形成されている。
本実施の形態の永久磁石670は、第1の実施の形態の永久磁石170と同様の方法で製造することができる。
図12は、第3の実施の形態の永久磁石670を、長手方向に直角な方向から見た図である。
本実施の形態の永久磁石670は、長手方向に直角な断面で見て、部分外周面671bを上底、部分外周面671dを下底、部分外周面671aと671cを脚とする台形の外周面を有している。
長手方向に沿って延びている連通孔675a〜675fは、永久磁石670の部分外周面671a〜671dから永久磁石670の内側に1.5mm離れた位置に引いた外周面拡散領域境界線672a〜672dにより囲まれる領域が、連通孔675a〜675fそれぞれの内周面拡散領域677a〜677fによって覆われる位置に形成されている。図12では、連通孔675a〜675fの中心Pが、部分外周面671a〜671dと平行であり、部分外周面671a〜671dから永久磁石670の内側に等しい距離離れている線Nに沿った位置に形成されている。
連通孔の数、断面形状、形成位置等は適宜設定することができる。
【0029】
次に、第4の実施の形態の永久磁石770を、図13を参照して説明する。第4の実施の形態の永久磁石770は、第3の実施の形態の永久磁石670と同様に、長尺状に形成され、長手方向に沿って連通孔が形成されている。
本実施の形態の永久磁石770は、第1の実施の形態の永久磁石170と同様の方法で製造することができる。
図13は、第4の実施の形態の永久磁石770の、長手方向に直角な方向から見た図である。
本実施の形態の永久磁石770は、長手方向に直角な断面で見て、円形の外周面771を有している。
長手方向に沿って延びている連通孔775a〜775eは、永久磁石770の外周面771から永久磁石770の内側に1.5mm離れた位置に引いた外周面拡散領域境界線772(線M)により囲まれる領域が、連通孔775a〜775eそれぞれの内周面拡散領域777a〜777eによって覆われる位置に形成されている。図13では、連通孔775a〜775eの中心Pが、外周面771と平行であり、外周面771から永久磁石770の内側に等しい距離離れている線Nに沿った位置に形成されている。
連通孔の数、断面形状、形成位置等は適宜設定することができる。
【0030】
なお、永久磁石電動機の回転子の磁石挿入孔に挿入する永久磁石として、磁束密度が高い高性能の永久磁石を使用すると、回転子コアを形成している電磁鋼板の磁束密度が高くなって鉄損が増加する。ここで、第1および第2の実施の形態の永久磁石を回転子の磁石挿入孔に挿入した場合、軸方向に直角な断面で見て、磁石挿入孔が延びている方向に直交する方向に連通孔が配置される。これにより、第1および第2の永久磁石が高性能であっても、第1および第2の永久磁石に形成されている連通孔によって、第1および第2の永久磁石の表面積が小さくなり、第1および第2の永久磁石から出てくる磁束量が減少する。したがって、回転子コアを形成している電磁鋼板の磁束密度が高くなるのを抑制することができ、電磁鋼板の鉄損が増加するのを抑制することができる。
また、第3および第4の実施の形態の永久磁石を回転子コアの磁石挿入孔に挿入した場合、第3および第4の永久磁石の連通孔が軸方向に沿って配置される。これにより、第3および第4の永久磁石に形成されている連通孔を回転子コアの冷却用通路として用いることができ、永久磁石を冷却することができる。ネオジウム磁石は、高温状態で減磁し易いが、第3および第4の実施の形態のように構成することにより、連通孔による冷却効果によって冷却することができる。したがって、ネオジウム磁石を回転子の磁石挿入孔に挿入した永久磁石電動機を高温状態で運転した場合でも、ネオジウム磁石の減磁を抑制することができる。また、第1および第2の実施の形態の永久磁石と同様に、第3および第4の永久磁石から出てくる磁束量が小さくなる。したがって、回転子コアを形成している電磁鋼板の磁束密度が高くなるのを抑制することができ、電磁鋼板の鉄損が増加するのを抑制することができる。
第3および第4の実施の形態の長尺状の永久磁石は、中央に穴が形成されている筒状(例えば、ドーナツ状)であってもよい。このような永久磁石では、永久磁石の外周面と中心側の内周面との間の間隔が3mm以上である場合に、前述した連通孔を形成することによって保持力を高めることができる。
【0031】
本発明は、実施の形態で説明した構成に限定されず、種々の変更、追加、削除が可能である。
実施の形態で説明した各構成は、単独で用いることもできるし、適宜選択した構成を組み合わせて用いることもできる。
永久磁石の外形形状は、永久磁石の使用形態等に応じて適宜変更することができる。
永久磁石に形成する連通孔の数、断面形状、断面積、配置位置等は、永久磁石の断面形状や断面積等に応じて適宜変更することができる。
実施の形態では、本発明の永久磁石を永久磁石電動機に用いた場合について説明したが、本発明の永久磁石は、永久磁石電動機以外の種々の装置に用いることができる。
本発明は、永久磁石として構成することもできるし、永久磁石電動機として構成することもできる。
【0032】
本発明は、「(態様1)ネオジウム(Nd)を含む希土類磁石体にジスプロシウム(Dy)およびテルビウム(Tb)の少なくとも一方を拡散させて形成された永久磁石であって、直線状に延びているとともに、両端が開口している少なくとも一つの連通孔を有しており、前記連通孔は、前記連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、前記連通孔の中心を通る線に沿った、永久磁石の外周面間の長さが3mm以上である位置に形成されていることを特徴とする永久磁石。」として構成することができる。
また、本発明は、「(態様2)態様1に記載の永久磁石であって、永久磁石の外周面は、前記連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、複数の部分外周面により形成されており、前記少なくとも一つの連通孔には、前記連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、連通孔の内周面から永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域が、前記複数の部分外周面のうちの少なくとも一つの部分外周面から永久磁石の内側に1.5mmの範囲内の領域と少なくとも一部で重複する位置に形成されている連通孔が含まれていることを特徴とする永久磁石。」として構成することができる。
また、本発明は、「(態様3)態様2に記載の永久磁石であって、前記少なくとも一つの連通孔には、連通孔の内周面から永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域が、前記少なくとも一つの部分外周面から永久磁石の内側に1.5mmの範囲内の領域と少なくとも一部で重複する位置に形成されている連通孔が複数含まれていることを特徴とする永久磁石。」として構成することができる。
また、本発明は、「(態様4)態様3に記載の永久磁石であって、連通孔の内周面から永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域が、前記少なくとも一つの部分外周面から永久磁石の内側に1.5mmの範囲内の領域と少なくとも一部で重複する位置に形成されている複数の連通孔のうちの少なくとも一つは、当該少なくとも一つの連通孔の内周面から永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域が、前記少なくとも一つの部分外周面に隣接する他の部分外周面から永久磁石の内側に1.5mmの範囲内の領域と少なくとも一部で重複する位置に形成されていることを特徴とする永久磁石。」として構成することができる。
また、本発明は、「(態様5)態様3または4に記載の永久磁石であって、連通孔の内周面から永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域が、前記少なくとも一つの部分外周面から永久磁石の内側に1.5mmの範囲内の領域と少なくとも一部で重複する位置に形成されている複数の連通孔は、各連通孔の内周面と前記少なくとも一つの部分外周面との間の距離のうちの最も短い距離が等しくなる位置に形成されていることを特徴とする永久磁石。」として構成することができる。
また、本発明は、「(態様6)態様3〜5のいずれか一つに記載の永久磁石であって、連通孔の内周面から永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域が、前記少なくとも一つの部分外周面から永久磁石の内側に1.5mmの範囲内の領域と少なくとも一部で重複する位置に形成されている複数の連通孔は、前記少なくとも一つの部分外周面が延びている方向に隣接する連通孔それぞれの内周面から永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域が少なくとも一部で重複する位置に形成されていることを特徴とする永久磁石。」として構成することができる。
また、本発明は、「(態様7)態様1に記載の永久磁石であって、永久磁石の外周面は、前記連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、曲線状に形成されており、前記少なくとも一つの連通孔には、前記連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、連通孔の内周面から永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域が、永久磁石の外周面から永久磁石の内側に1.5mmの範囲内の領域と少なくとも一部で重複する位置に形成されている連通孔が含まれていることを特徴とする永久磁石。」として構成することができる。
また、本発明は、「(態様8)態様7に記載の永久磁石であって、前記少なくとも一つの連通孔には、連通孔の内周面から永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域が、永久磁石の外周面から永久磁石の内側に1.5mmの範囲内の領域と少なくとも一部で重複する位置に形成されている連通孔が複数含まれていることを特徴とする永久磁石。」として構成することができる。
また、本発明は、「(態様9)態様8に記載の永久磁石であって、連通孔の内周面から永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域が永久磁石の外周面から永久磁石の内側に1.5mmの範囲内の領域と少なくとも一部で重複する位置に形成されている複数の連通孔は、各連通孔の内周面と永久磁石の外周面との間の距離のうちの最も短い距離が等しくなる位置に形成されていることを特徴とする永久磁石。」として構成することができる。
また、本発明は、「(態様10)態様8または9に記載の永久磁石であって、連通孔の内周面から永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域が永久磁石の外周面から永久磁石の内側に1.5mmの範囲内の領域と少なくとも一部で重複する位置に形成されている複数の連通孔は、永久磁石の外周面が延びている方向に隣接する連通孔それぞれの内周面から永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域が少なくとも一部で重複する位置に形成されていることを特徴とする永久磁石。」として構成することができる。
また、本発明は、「(態様11)態様1〜10のいずれか一つに記載の永久磁石であって、前記各連通孔は、前記連通孔が延びている方向と直角な断面で見て、同じ形状の外周面を有しているとともに、同じ断面積を有していることを特徴とする永久磁石。」として構成することができる。
また、本発明は、「(態様12)態様1〜11のいずれか一つに記載の永久磁石であって、前記各連通孔は、第1の方向に沿って延びる第1の線と、前記第1の方向と直交する第2の方向に沿って延びる第2の線が交差する位置に形成されていることを特徴とする永久磁石。」として構成することができる。
また、本発明は、「(態様13)態様1〜11のいずれか一つに記載の永久磁石であって、前記各連通孔は、第1の方向に沿って延びる第1の線と、前記第1の方向と直交する第2の方向に沿って延びる第2の線が交差する位置であって、前記第1の方向および前記第2の方向に沿って一つ置きの位置に形成されていることを特徴とする永久磁石。」として構成することができる。
また、本発明は、「(態様14)態様1〜13のいずれか一つに記載の永久磁石であって、前記各連通孔は、永久磁石の外周面から内側に1.5mmの距離の位置に引いた線により形成される領域が、前記各連通孔の内周面から永久磁石の外周面側に1.5mmの範囲内の領域によって覆われる位置に形成されていることを特徴とする永久磁石。」として構成することができる。
また、本発明は、「(態様15)態様1〜14のいずれか一つに記載の永久磁石を製造する永久磁石製造方法であって、ネオジウム(Nd)を含む希土類磁石体を製造する第1工程と、前記希土類磁石体に、両端が開口している少なくとも一つの連通孔を形成する第2工程と、前記少なくとも一つの連通孔が形成された希土類磁石体にジスプロシウム(Dy)およびテルビウム(Tb)の少なくとも一方を拡散させる第3工程を備えることを特徴とする永久磁石製造方法。」として構成することができる。
また、本発明は、「(態様16)態様15に記載の永久磁石製造方法であって、前記ジスプロシウム(Dy)およびテルビウム(Tb)の少なくとも一方を拡散させた希土類磁石体を、前記連通孔が延びている方向と交差する方向に切断する第4工程を備えることを特徴とする永久磁石製造方法。」として構成することができる。
【符号の説明】
【0033】
10 磁石体
20 連通孔
30 切断線
100 永久磁石電動機
110 固定子
120 固定子コア
130 固定子巻線
150 回転子
160、460、560 回転子コア
161、461a、461b、561 磁石挿入孔
170、270、370、470a、470b、570a、570b、570c、670、770、870 永久磁石
171a〜171d、271a〜271d、371a〜371d、671a〜671d 部分外周面
172a〜172d、272a〜272d、372a〜372d、672a〜672d、772 外周面拡散領域境界線
173、273、373、673、773 永久磁石の外周面拡散領域
175、175a〜175f、275a〜275m、375a、375b、475、575、675a〜675f、775a〜775e 連通孔
176a〜176f、276a〜276m、376a、376b、676a〜676f、776a〜776e 内周面拡散領域境界線
177a〜177f、277a〜277m、377a、377b、677a〜677f、777a〜777e 連通孔の内周面拡散領域
180 回転軸
771 外周面
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