【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構省エネルギー革新技術開発事業/挑戦研究(事前研究一体型)/メゾスコピック材料を用いた電力光無損失変換技術の研究開発,産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項4に記載の光源装置において、前記赤外光反射膜の前記第1および第2の誘電体層を構成する誘電体材料は、前記可視光反射防止膜を構成する誘電体材料と同じであることを特徴とする光源装置。
請求項2に記載の光源装置であって、前記可視光反射防止膜は、膜厚方向に表面に近づくにつれて、前記空孔の体積濃度が段階的または連続的に増加していることを特徴とする光源装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の光源用フィラメントの原理について図面を用いて説明する。
【0019】
本発明のフィラメントは、表面の反射率が、
図2に実線で示したように可視光領域で低く、赤外光領域で高くとなるように設計する。このような光反射特性を有するフィラメントは、電流供給等により加熱されることによって高効率に可視光を発する。その原理を、黒体放射におけるキルヒホッフの法則に基づいて、以下説明する。
【0020】
自然対流熱伝達の無い条件下(例えば真空中)における材料(ここではフィラメント)の入力エネルギーに対するエネルギー損失は平衡状態では以下の式(1)で与えられる。
(数1)
P(total)=P(conduction)+P(radiation) ・・・(1)
【0021】
ここで、P(total)は、全入力エネルギー、P(conduction)は、フィラメントに電流を供給するリード線を経て損失されるエネルギー、P(radiation)は、フィラメントが、加熱された温度で外部空間に光を放射して損失するエネルギーである。フィラメントは、その温度が2500K以上の高温になると、リード線を経て損失されるエネルギーはわずか5%程度になり、残りの95%以上のエネルギーは、光放射によって外部にエネルギー損失されるため、入力電力の殆ど全てのエネルギーを光に変えることができる。しかしながら、従来の一般的なフィラメントから放射される放射光の内、可視光成分の割合はわずか10%程度で、大部分が赤外放射光成分であるため、そのままでは効率の良い可視光源とはならない。
【0022】
上記式(1)におけるP(radiation)の項は一般的に、下記式(2)で記述することができる。
【数2】
式(2)においては、ε(λ)は、各波長における放射率、αλ
-5/(exp(β/λT)−1)の項は、プランクの放射則を示す。α=3.747×10
8 Wμm
4/m
2、β=1.4387×10
4 μmK、である。また、ε(λ)は、キルヒホッフの法則によって反射率R(λ)と式(3)の関係にある。
(数3)
ε(λ)=1−R(λ) ・・・(3)
【0023】
式(2)と式(3)を関連付けて議論すると、仮に反射率が全ての波長に亘って1である材料は、式(3)よりε(λ)=0となり、ひいては、式(2)における積分値が0となるため放射による損失が起こらなくなる。この物理的意味は、P(total)=P(conduction)となるため、少量の入力エネルギーでも光放射による損失が無く、フィラメントが非常に高い温度まで達することを意味している。一方、反射率が全ての波長に亘って0である材料は、完全黒体とよばれ、式(3)よりε(λ)=1となる。この結果、式(2)における積分値は最大となり、ひいては、放射による損失量が最大となる。通常の材料は、放射率ε(λ)が0< ε(λ)<1の間に存在し、かつ、その波長依存性は、劇的に変化することは無い(波長λ、温度Tに対する緩慢な依存性は存在する)。そのため、赤外から可視光領域における光放射は、
図2の2点鎖線で示すように略可視から赤外領域に亘って均一に起こる。なお、
図2の2点鎖線は、議論を簡略化するため全波長領域でε(λ)=1として黒体放射スペクトルをプロットしている。
【0024】
一方、
図2に一点鎖線で示すように赤外光領域で略0%の放射率を有し、700nm以下の可視光領域で、略100%の放射率を有する材料を、真空中で加熱した熱放射は、以下の式(4)で表現出来る。
【数4】
【0025】
式(4)において、θ(λ−λ
0) は、長波長から可視光のある波長λ
0までは放射率が0であり、ある波長λ
0よりも短波長の領域では放射率が1である階段関数的振る舞いを示す関数である。得られる放射スペクトルは階段関数的な放射率と黒体放射スペクトルを畳み込んだ形状となり、計算の結果は、
図2の破線で示すスペクトルとなる。即ち、式(4)の物理的意味は、フィラメントへの入力エネルギーの小さい低温領域では輻射損失が抑えられており、式(4)のP(radiation)の項が0となるため、エネルギー損失がP(conduction)のみとなり、非常に効率良くフィラメント温度が上昇する。一方、フィラメント温度が高温になり、黒体放射スペクトルのピーク波長がλ
0より短くなるような温度領域になると、フィラメントに入力したエネルギーを
図2の破線で示した放射スペクトルのように可視光放射として損失するようになる。
【0026】
式(4)におけるθ(λ−λ
0)は、上述のように長波長から可視光のある波長λ
0までは放射率が0であり、ある波長λ
0よりも短波長の領域では放射率が1である材料である。このような材料は、式(3)のキルヒホッフの法則により、
図2に実線で示したように、波長λ
0以下で反射率が0で、波長λ
0よりも長波長領域で反射率が1となる。そこで本発明は、表面の反射率が、波長λ
0以下の可視光領域で小さく(0に近く)、波長λ
0よりも長波長領域(赤外光領域)で大きい(1に近い)フィラメントを提供する。
【0027】
白熱電球等の光源用フィラメントは、2000K〜3000Kの高温になることが知られている。よって、本発明では、2000K以上の高温で、フィラメントの表面が、上述の反射率の波長依存性を示す構造を提供する。以下、具体的な実施形態により本発明をさらに説明する。
【0028】
(第1の実施形態)
第1の実施形態のフィラメントは、
図3のように、金属材料により形成された基体10と、基体10の上に配置された可視光反射防止膜40とを有する。可視光反射防止膜40は、赤外光領域の光に透明で、かつ、金属微粒子および不純物の少なくとも一方を含む誘電体膜であって、基部の径が可視光波長よりも小さい凸部44を表面に複数備える。可視光反射防止膜40は、可視光反射を防止し、フィラメントの可視光領域の反射率をゼロに近づける。
【0029】
基体10と可視光反射防止膜40との間には、
図3のように、赤外光反射膜20が配置されていることが好ましい。赤外光反射膜20は、赤外光を反射し、赤外光領域の反射率を1に近づける。
【0030】
可視光反射防止膜40の凸部44は、基部の径が可視光波長よりも小さいため、可視光の散乱を生じさせない。これにより、可視光反射防止膜40の可視光反射率を低下させる。凸部44の基部の径は、具体的には、400nm以下であることが好ましい。また、凸部44の径は、誘電率の制御効果を得るために、0.3nm以上であることが好ましい。また、凸部44の高さは、50nm以上200nm以下であることが好ましい。
【0031】
また、凸部44は、
図3に示したように、先端に近づくにつれ、径が基部よりも小さくなっていることが好ましい。例えば、
図3のように凸部44の形状を円錐形にすることができる。ただし、円錐形に限られるわけではなく、
図4のように先端部が細められた柱状の凸部であってもよい。
【0032】
また、可視光反射防止膜40は、赤外光領域の光に透明で、かつ、金属微粒子および不純物の少なくとも一方を含むため、可視光吸収作用を有する。これにより、可視光反射防止膜40は、凸部44の作用により可視光を反射せず、金属微粒子および/または不純物の作用により可視光を吸収し、フィラメントの可視光波長域の反射率を低下させる。
【0033】
可視光反射防止膜40の金属微粒子は、局在光吸収の作用により可視光を吸収する。金属微粒子の粒子サイズが小さい場合は、短波長の光を吸収し、粒子サイズが大きくなるにつれて長波長の光を吸収する。よって、金属微粒子の粒子サイズを制御することにより、所望の波長範囲の可視光を吸収させることができる。具体的には、金属微粒子の粒径は、2nm以上5μm以下であることが望ましい。金属微粒子の添加量としては、0.0001%以上10%以下が好ましい。
【0034】
金属微粒子は、フィラメントを発光させる際の温度である2000K以上の融点を有することが望ましく、一例としては、W、Ta、Mo、Au、Ag、Cu、Al、Ti、Ni、Co、Cr、Si、V、Mn、Fe、Nb、Ru、Pt、Pd、Hf、Y、Zr、Re、Os、および、Ir、のいずれかの微粒子、もしくは、これらの金属を含有する合金金属の微粒子であることが望ましい。
【0035】
可視光反射防止膜40が不純物を含有する場合は、添加された不純物原子(イオン)が作り出すエネルギー準位を反映した可視光吸収が得られる。遷移金属を利用した光吸収、並びに希土類金属を利用した光吸収等の物理的作用により吸収効果が生じる。添加された元素は誘電体中で、原子的(イオン的)に分散していることが必要である。不純物元素として、Ce、Eu、Mn、Ti、Sn、Tb、Au、Ag、Cu、Al、Ni、W、Pb、As、Tm、Ho、Er、Dy、Pr等を用いることができる。不純物の添加濃度としては、0.0001%以上10%以下が好ましい。
【0036】
可視光反射防止膜40を構成する誘電体は、2000K以上の融点を有する金属の酸化物膜、窒化物膜、炭化物膜、および、ホウ化物膜のいずれかを用いる。具体的にはSiO
2、MgO、ZrO
2、Y
2O
3、6H−SiC(六方晶のSiC)、GaN、3C−SiC(立方晶のSiC)、HfO
2、Lu
2O
3、Yb
2O
3、グラファイト、ダイヤモンド、CrZrB
2、MoB、Mo
2BC、MoTiB
4、Mo
2TiB
2、Mo
2ZrB
2、MoZr
2B
4、NbB、Nb
3B
4、NbTiB
4、NdB
6、SiB
3、Ta
3B
4、TiWB
2、W
2B、WB、WB
2、YB
4およびZrB
12、のうちのいずれかの材料、もしくは、これらの材料を含有する材料を用いることができる。
【0037】
可視光反射防止膜40の成膜方法としては、まず、金属微粒子および/または不純物が添加された誘電体膜を形成する。金属微粒子を添加する場合、赤外光に透明な誘電体を蒸着等により成膜する際に金属微粒子材料を共蒸着する方法、あるいは、赤外光に透明な誘電体の膜をコーティングした後に金属微粒子材料をイオン注入する方法を用いることができる。前者の方法の場合、例えば、金属微粒子材料Taを誘電体材料SiC中に0.0001%以上10%以下の割合で混合し、その混合材料を蒸着源として、電子ビームで加熱して、基体上に同時に蒸着する。その後、焼成し、透明な誘電体中に金属微粒子の結晶を成長させる。後者の方法の場合、蒸着源としてSiCを用意し、SiC膜を形成した後、金属微粒子材料であるTa金属イオンを、イオン注入装置を利用して打ち込み、その後、焼成して透明な誘電体中に金属微粒子の結晶を成長させる方法を用いる。
【0038】
また、誘電体膜に不純物を添加する場合、誘電体を蒸着等により成膜する際に、不純物元素を共蒸着する方法、あるいは、誘電体膜を成膜した後で不純物元素をイオン注入する方法を用いることができる。
【0039】
誘電体膜を成膜したならば、表面に凸部44を形成する。例えば、表面にマスクとなるレジストパターン等を配置し、誘電体膜を化学的または物理的にエッチングする方法や、サンドブラスト等により機械的に表面を粗面にする方法等を用いることができる。なお、イオン注入装置で金属イオンを打ち込むことにより、金属微粒子材料や不純物を添加する場合には、凸部44を形成した後で、イオン注入を行うことも可能である。
【0040】
基体10は、融点2000K以上の金属材料で構成されていることが好ましい。例えば、HfC(融点4160K)、TaC(融点4150K)、ZrC(融点3810K)、C(融点3800K)、W(融点3680K)、Re(融点3453K)、Os(融点3327K)、Ta(融点3269K)、Mo(融点2890K)、Nb(融点2741K)、Ir(融点2683K)、Ru(融点2583K)、Rh(融点2239K)、V(融点2160K)、Cr(融点2130K)、およびZr(融点2125K)、のいずれか、または、これらのうちのいずれかを含有する合金を用いることができる。
【0041】
基体10の形状は、高温に加熱できる形状であればどのような形状でもよく、例えばリード線から電流の供給を受けて発熱することができる線状、棒状、薄板状にすることができる。また、電流供給以外の方法により直接加熱される構造であってもよい。
【0042】
基体10の表面は、赤外光領域の反射率を高めるために、鏡面研磨されていることが望ましい。具体的には、例えば、基体の表面は、表面粗さ(中心線平均粗さRa)が1μm以下、最大高さ(Rmax)が10μm以下、および、十点平均粗さ(Rz)が10μm以下、のうちの少なくも1つを満たすことが好ましい。
【0043】
赤外光反射膜20を配置する場合、例えば、
図5のように、少なくとも一方が内部に空孔41、42を含有する第1および第2の誘電体層21、22の組を1組以上積層配置した構成とする。
【0044】
第1の誘電体層21の空孔41の体積濃度は、第2の誘電体層22の空孔42の体積濃度と異なるようにする。これにより、第1および第2の誘電体層21,22は、同じ誘電体材料で構成されていても、第1の誘電体層21と第2の誘電体層22の屈折率を異ならせることができる。同じ誘電体材料で第1および第2の誘電体層22を形成することにより、膜剥がれを生じにくくすることができる。
【0045】
空孔41の径は、可視光の散乱を生じさせないために、可視光波長よりも小さいことが好ましい。具体的には、400nm以下であることが好ましい。また、誘電率の制御効果を得るために、空孔41、42の径は0.3nm以上であることが好ましい。
【0046】
空孔41、42を含有する誘電体膜の誘電率εは、空孔41、42が誘電体膜と等しい外部電場中に存在すると仮定すると、以下の式で表される。
【数5】
(ε
1:誘電体の誘電率、ε
2:空間内の雰囲気(ガスまたは真空)の誘電率、c:空孔や開口による空間の体積濃度)
【0047】
式(5)から明らかなように、第1および第2の誘電体層21,22の誘電率は、膜中の空孔41,42の体積濃度によって制御することができる。
【0048】
また、屈折率は、誘電率から以下の式(6)を用いて求めることができる。
(数6)
ε=n
2−k
2、ε’=2nk ・・・(6)
(ε:複素誘電率の実部、ε’:複素誘電率の虚部、n:屈折率、k:消衰係数)
【0049】
よって、第1の誘電体層21の屈折率をn
1、厚さをd
1、第2の誘電体層22の屈折率をn
2、厚さをd
2とすると、赤外光の所定の波長λに対して、式(7)を満たすように、空孔41,42の体積濃度を設計することにより、光の干渉を利用して、所定の波長λ
1を中心波長とする所定の波長範囲の赤外光の反射率を高めることができる。
(数7)
n
1・d
1=n
2・d
2=λ/4 ・・・(7)
【0050】
また、広い波長範囲の赤外光を反射するために、
図6のように、赤外光反射膜20は、2種類の誘電体層21、22の組を複数組積層した構成としてもよい。それぞれの組の反射の中心波長λを異ならせるように空孔41,42の体積濃度を設計することにより、積層された各組でそれぞれ少しずつ異なる波長の赤外光を反射させることができる。よって、赤外光反射膜20全体として広い波長範囲の赤外光を反射することができる。第1の誘電体層21と第2の誘電体層22の屈折率差が大きいほど、反射できる波長幅が大きくなるため、反射したい波長幅に応じて空孔41,42の体積濃度を設計する。なお、層21、22の組を複数組積層した場合、すべての組の中心波長を必ずしも異ならせる必要はなく、複数の組全体で所望の波長帯域の赤外光を反射できればよい。よって、複数の組のうちのいくつかの組の中心波長が同一であってもよく、例えば、2組づつ同一の中心波長を反射するように構成してもよい。
【0051】
第1および第2の誘電体層21,22を構成する誘電体材料は、可視光反射防止膜40を構成可能な誘電体材料としてすでに列挙した複数の誘電体材料のうちのいずれかを用いるとこができるが、可視光反射防止膜40を構成する誘電体材料と同じ材料を選択することにより、赤外光反射膜20と可視光反射防止膜40との界面の膜剥がれを防止することができる。
【0052】
第1および第2の誘電体層21,22の作製方法としては、例えば、SiO
2等のように後で溶液に溶解することが可能な粒子を、誘電体層21,22を成膜する際に誘電体に混合して形成する。例えば、誘電体層43を蒸着法やスパッタ法やCVD法等の気相成長法により成膜する場合には、SiO
2を同時に蒸発または飛散させて誘電体と同時堆積させる。誘電体層21,22を塗布により形成する場合には、塗布溶液にSiO
2粒子を予め混合しておき、混合溶液を塗布する。成膜後に、誘電体層21,22を、SiO
2粒子を溶解し、誘電体層21,22を溶解しない溶液(例えば、フッ化水素酸)に浸漬し、SiO
2を溶解して除去する。これにより、SiO
2が含まれていた位置に空孔41、42が形成された第1および第2の誘電体層21,22を形成することができる。なお、第1の誘電体層21の空孔41の体積濃度と、第2の誘電体層22の空孔42の堆積濃度とを異なるためには、成膜時にSiO
2粒子の含有量を異ならせる。
【0053】
上述してきたように、第1の実施形態のフィラメントは、可視光反射率を低下させる作用と可視光吸収作用とを兼ね備える可視光反射防止膜40を備えることにより、可視光域の反射率を低下させることができる。また、赤外光反射膜20を備えることにより、赤外光域の反射率を高めることができる。よって、赤外光の放射を抑制し、可視光の放射効率を高めることができる。
【0054】
また、本実施形態では、同一の誘電体材料で、可視光反射防止膜40と赤外光反射膜20とを形成することができるため、膜剥がれが生じにくく、耐久性に優れたフィラメントを提供できる。
【0055】
(第2の実施形態)
第2の実施形態のフィラメントは、
図7のように、基体10上に可視光反射防止膜40を備える。この可視光反射防止膜40は、赤外光領域の光に透明な誘電体膜であって、金属微粒子および不純物の少なくとも一方と、空孔43とを含む。
【0056】
基体10と可視光反射防止膜40との間には、第1の実施形態と同様に、赤外光反射膜20が配置されていることが好ましい。
【0057】
空孔43の径は、可視光の散乱を生じさせないために、可視光波長よりも小さいことが好ましい。
【0058】
空孔43が混合された誘電体膜の誘電率εおよび屈折率nは、式(5)で説明した通り、空孔41の体積濃度によって定まる。よって、基体10の表面(赤外光反射膜20が配置されている場合には、赤外光反射膜20)よりも空気の屈折率に近い屈折率を有する可視光反射防止膜40を配置することにより、可視光反射防止の作用を生じさせることができる。
【0059】
また、赤外光反射膜20を配置する場合、可視光反射防止膜40を構成する誘電体として、赤外光反射膜20を構成する誘電体と同じ材料を用いることができる。これにより、可視光反射防止膜40と赤外光反射膜20との界面で膜剥がれが生じるのを防止することができる。
【0060】
可視光反射防止膜40は、膜厚方向に表面に近づくにつれて、屈折率が、段階的または連続的に低減していることが望ましい。これにより、可視光反射防止の作用をより効果的に生じさせることができる。可視光反射防止膜40の屈折率の段階的または連続的な低減は、可視光反射防止膜40に含まれる空間の体積濃度を段階的または連続的に増加させることで実現することができる。例えば、
図8のように、可視光反射防止膜40を多層構造(
図8では3層40a,40b,40c)とし、最も基体10側の層40aが最も空孔43の体積濃度が最も少なく、表面に近い層ほど空孔43の体積濃度が増加し、表面に最も近い層40cは、空孔43の体積濃度が最も大きくなるように構成する。
【0061】
この可視光反射防止膜40には、金属微粒子および/または不純物が添加されているため、反射を防止した可視光を吸収し、より可視光反射率を低下させることができる。金属微粒子および/または不純物の説明は、第1の実施形態の可視光反射防止膜40と同様であるので説明を省略する。
【0062】
空孔43を含む可視光反射防止膜40の作製方法としては、第1の実施形態の第1および第2の誘電体層21,22と作製方法と同様の方法を用いることができる。
図8のように、空孔43の体積濃度が異なる多層構造の誘電体層40a〜40cを形成する場合には、SiO
2粒子の含有量の異なる誘電体層40a〜40cを積層し、その後、SiO
2を溶解することにより形成することができる。
【0063】
(第3の実施形態)
第3の実施形態のフィラメントは、
図9のように、金属材料により形成された基体10と、基体の上に配置された可視光反射防止膜40とを有する。可視光反射防止膜40は、金属膜であって、基部の径が可視光波長よりも小さい凸部44を表面に複数備える。
【0064】
本実施形態では、可視光反射防止膜40の凸部44は、基部の径が可視光波長よりも小さいため、可視光の散乱を生じさせず、可視光反射率を低下させる。第3の実施形態では、可視光反射防止膜40が金属膜であるため、誘電体と比較して高温にも耐えることができる。
【0065】
また、基体10を構成する金属材料と同じ材料により可視光反射防止膜40を構成することにより、基体10と可視光反射防止膜40との界面において、熱膨張係数の差がなく、膜剥がれを防止することができる。基体10の材質については、第1の実施形態と同様である。
【0066】
可視光反射防止膜40の凸部44は、金属膜の表面をレジストパターンを施してエッチングすることや、機械的研磨により形成することができる。
【0067】
(第4の実施形態)
第4の実施形態のフィラメントは、金属材料により形成された基体10と、基体の上に配置された可視光反射防止膜40とを有する。可視光反射防止膜40は、金属膜であって、内部に空孔が含有された金属膜である。可視光反射防止膜40を金属膜で形成する場合も、第2の実施形態の誘電体膜の可視光反射防止膜40と同様に、可視光反射防止膜40が基体10の表面よりも空気の屈折率に近い屈折率を有することにより、可視光反射防止の作用を生じる。空孔を含む金属膜の可視光反射防止膜40は、
図7と同様に1層であってもよいが、
図8のように複数層からなり、空孔の体積濃度が表面に近づくほど大きくなるように構成されていてもよい。
【0068】
第4の実施形態の可視光反射防止膜40は、金属膜であるため、誘電体と比較して高温にも耐えることができる。
【0069】
また、基体10を構成する金属材料と同じ材料により可視光反射防止膜40を構成することにより、基体10と可視光反射防止膜40との界面において、熱膨張係数の差がなく、膜剥がれを防止することができる。基体10の材質については、第1の実施形態と同様である。
【0070】
可視光反射防止膜40の空孔43は、第2の実施形態の可視光反射防止膜40の製造方法と同様に形成できる。例えば、金属膜(例えばタングステン)を蒸着法やスパッタ法やCVD法等の気相成長法により成膜する際に、SiO
2を同時に蒸発または飛散させて誘電体と同時堆積させる。成膜後に、SiO
2粒子を溶解し、金属膜を溶解しない溶液(例えば、フッ化水素酸)に浸漬し、SiO
2を溶解して除去する。これにより、SiO
2が含まれていた位置に空孔43が形成された可視光反射防止膜40を形成することができる。
【0071】
以下の具体的な実施形態1〜3について説明する。
<具体例1>
具体例1として、第1の実施形態の
図3の構造のフィラメントを設計し、反射率特性をシミュレーションにより求めた。
【0072】
フィラメントの基体10は、Taである。基体10は、焼結や線引き等の公知の工程により、線材、棒材、薄板等の所望の形状に作製された後、複数種類のダイヤモンド研磨粒により研磨し、中心線平均粗さRaを1μm以下、最大高さ(Rmax)が10μm以下、十点平均粗さ(Rz)が10μm以下の鏡面に加工されている。
【0073】
赤外光反射膜20は、第2の誘電体層22をHfO
2(空孔体積濃度:0vol.%)、第1の誘電体層21をHfO
2(空孔体積濃度:50vol.%)で形成し、第2の誘電体層22/第1の誘電体層21の組を2組ずつ、総積層組数13組(単層で合計52層)積層した構造とする。合計52層で波長700nm〜10μmの赤外光を反射するように各組の中心波長λを設計する。
【0074】
可視光反射防止膜40は、HfO
2膜であり、Taの金属微粒子(粒径10nm)を1%の濃度で添加したものを用いる。可視光反射防止膜40の膜厚は、凸部44を含めておよそ200nmである。可視光反射防止膜40には、高さ200nm、基部の大きさ200nmの略円錐形状の凸部44が、間隔200nmで形成されている。
【0075】
このような構造の
図3のフィラメントについてシミュレーションにより2500Kにおける反射率および放射スペクトルを求めた。その結果を
図10に示す。このフィラメントの可視光光束効率は、71.7 lm/Wであった。
【0076】
<具体例2>
具体例2として、第3の実施形態の
図9の構造のフィラメントを設計し、反射率特性をシミュレーションにより求めた。
【0077】
フィラメントの基体10は、タングステンである。可視光反射防止膜40は、タングステン膜であり、膜厚は、凸部を含めて96nmである。可視光反射防止膜40には、高さ96nm、基部の大きさ200nmの略円錐形状の凸部44が、間隔200nmで形成されている。
【0078】
このような構造の
図9のフィラメントについてシミュレーションにより2500Kにおける反射率および放射スペクトルを求めた。その結果を
図11に示す。このフィラメントの可視光光束効率は、18.8 lm/Wであり、通常のタングステンフィラメントと比較して約25%の効率が向上していた。
【0079】
<具体例3>
具体例3として、第4の実施形態の空孔を備えた金属膜を可視光反射防止膜40としたフィラメントを設計し、反射率特性をシミュレーションにより求めた。可視光反射防止膜40の層構成は、
図8に示した3層構造と同じである。
【0080】
フィラメントの基体10は、タングステンである。可視光反射防止膜40は、3層構造のタングステン膜であり、各層40a,40b、40cの膜厚は、それぞれ40nm、40nm、40nmである。空孔43の体積濃度は、基体10側から順に50vol.%、70vol.%、90vol.%である。
【0081】
このような構造の第4の実施形態のフィラメントについてシミュレーションにより2500Kにおける反射率および放射スペクトルを求めた。その結果を
図12に示す。このフィラメントの可視光光束効率は、18.5 lm/Wであり、通常のタングステンフィラメントと比較して約23%の効率が向上していた。
【0082】
<白熱電球の具体的な実施形態>
上記実施形態フィラメントを用いた白熱電球について説明する。
図13に、本実施形態のフィラメントを用いた白熱電球の切り欠き断面図を示す。白熱電球1は、透光性気密容器2と、透光性気密容器2の内部に配置されたフィラメント3と、フィラメント3の両端に電気的に接続されると共にフィラメント3を支持する一対のリード線4、5とを備えて構成される。透光性気密容器2は、例えばガラスバルブにより構成される。透光性気密容器2の内部は、10
−1〜10
−6Paの高真空状態となっている。なお、透光性気密容器2の内部に10
6〜10
−1PaのO
2、H
2、ハロゲンガス、不活性ガス、並びにこれらの混合ガスを導入することによって、従来のハロゲンランプと同様に、フィラメント上に成膜された可視光反射防止膜の昇華並びに劣化を抑制し、寿命の延伸効果が得られる。
【0083】
透光性気密容器2の封止部には、口金9が接合されている。口金9は、側面電極6と、中心電極7と、側面電極6と中心電極7とを絶縁する絶縁部8とを備える。リード線4の端部は、側面電極6に電気的に接続され、リード線5の端部は、中心電極7に電気的に接続されている。
【0084】
フィラメント3は、第1〜第4の実施形態のフィラメントのうちいずれかである。なお、ここでは、線材形状のフィラメントをらせん状に巻き回した形状のものを用いている。フィラメント3は、赤外波長領域の反射率が高く、可視光領域の反射率が低いため、高い可視光光束効率(光束効率)を実現でき、結果的に入力電力に対する可視光の可視光変換効率を高めることができる。これにより、安価で効率のよい省エネ型照明用電球を提供することができる。
【0085】
上述の実施形態では、本発明のフィラメントを白熱電球のフィラメントとして用いることを説明したが、白熱電球以外に用いることも可能である。例えば、可視光吸収膜30、可視光反射防止膜40の構成を、その膜厚、材料、不純物添加濃度を再設計して可視域から近赤外領域にシフトさせるようにすることによって、ヒーター用電線、溶接加工用電線、熱電子放出電子源(X線管や電子顕微鏡等)等として採用することができる。この場合も、赤外光放射の抑制作用(特に長波長赤外放射の抑制)により、少量の入力電力で、効率よく高温にフィラメントを加熱することができるため、エネルギー効率を向上させることができる。