特許第6239841号(P6239841)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6239841セラミックグリーンシート用スラリー組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239841
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】セラミックグリーンシート用スラリー組成物
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/12 20060101AFI20171120BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20171120BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20171120BHJP
   C08F 8/28 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   H01G4/12 358
   H01G4/30 301F
   C08J5/18CEX
   C08F8/28
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-67446(P2013-67446)
(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-189681(P2014-189681A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2015年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 英裕
(72)【発明者】
【氏名】梁 信烈
【審査官】 柳本 航佑
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−057737(JP,A)
【文献】 特開2006−022160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/12
H01G 4/30
C08J 5/18
C08F 8/00−8/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖中にα−オレフィン単位を有する変性ポリビニルアセタール樹脂であり、前記α−オレフィン単位の含有量が27.1〜48モル%であり、アセタール化度が22モル%以上であり、水酸基量が15〜35モル%である変性ポリビニルアセタール樹脂を含有することを特徴とするセラミックグリーンシート用スラリー組成物。
【請求項2】
変性ポリビニルアセタール樹脂は、α−オレフィン単位の含有量に対するアセタール化度の比(アセタール化度/α−オレフィン単位の含有量)が、0.35〜2.0であることを特徴とする請求項1記載のセラミックグリーンシート用スラリー組成物
【請求項3】
変性ポリビニルアセタール樹脂は、α−オレフィンがエチレンであることを特徴とする請求項1又は2記載のセラミックグリーンシート用スラリー組成物
【請求項4】
請求項1、2又は3記載のセラミックグリーンシート用スラリー組成物を用いてなることを特徴とするセラミックグリーンシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑剤を用いることなく、強靭で高い剥離性を有するセラミックグリーンシートを製造することが可能な変性ポリビニルアセタール樹脂に関する。また、本発明は、該変性ポリビニルアセタール樹脂を用いて製造されるセラミックグリーンシート用スラリー組成物及びセラミックグリーンシートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の電子機器に搭載される電子部品の小型化、積層化が進んでおり、多層回路基板、積層コイル、積層セラミックコンデンサ等の積層型電子部品が広く使用されている。
なかでも、積層セラミックコンデンサは、一般に次のような工程を経て製造されている。
まず、ポリビニルブチラール樹脂やポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂等のバインダー樹脂を有機溶剤に溶解した溶液に可塑剤、分散剤等を添加した後、セラミック原料粉末を加え、ビーズミル、ボールミル等の混合装置により均一に混合し、脱泡後に一定粘度を有するセラミックスラリー組成物を得る。このスラリー組成物をドクターブレード、リバースロールコーター等を用いて、離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム、またはSUSプレート等の支持体面に流延して、これを加熱等により、溶剤等の揮発分を溜去させた後、支持体から剥離してセラミックグリーンシートを得る。
次に、得られたセラミックグリーンシート上に、内部電極となる導電ペーストをスクリーン印刷により塗布したものを交互に複数枚積み重ね、加熱圧着して積層体を作製した後、積層体中に含まれるバインダー樹脂成分等を熱分解して除去する処理、いわゆる脱脂処理を行い、焼成して得られるセラミック焼結体の端面に外部電極を焼結する工程を経て積層セラミックコンデンサが得られる。
【0003】
セラミックグリーンシートを作製する工程では、柔軟性を持たせるため、炭素数6〜10のアルコールのフタル酸エステル、トリエチレングリコールジ−n−ヘプタノアート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスファート、 トリクレシルホスファート等の可塑剤をスラリー組成物に添加する方法が用いられている。
しかしながら、このような可塑剤を添加する方法では、可塑剤の選択や添加量の設定が難しく、これらが適切でないと、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤が相分離したり、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含む組成物が有機溶媒との接触で溶出し、組成物の性質が著しく低下したりするという問題があった。特に、可塑剤を多量に添加した場合は、得られるセラミックグリーンシートの物性の低下や、可塑剤のブリードアウトや他樹脂・基板への移行による物性低下を招いていた。
【0004】
これに対して、ポリビニルアセタール樹脂を樹脂の内部で可塑化させる試みがなされている。 例えば、特許文献1には、末端がエーテル化されたオキシエチレンアルデヒド・オキシアルカナル類で、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVAと略称することがある)をアセタール化することでポリビニルアセタール樹脂を得る方法が記載されている。この文献では、外部から可塑剤を添加せずに熱可塑的に加工できるため、金属及びガラスへの良好な接着性を実現できるとしている。
しかしながら、この方法で得られたポリビニルアセタール樹脂中には、フィルムやシートに加工した際に濁りが生じることから、セラミックグリーンシートの原料とした使用した場合、ムラを生じ、剥離性が低下してしまうという問題点があった。
【0005】
また、特許文献2には、 内部可塑化された変性ポリビニルアセタール樹脂として、ポリビニルアセタール樹脂中の水酸基に、炭素数2〜12のアルキレンオキサイドを付加した構造を有する変性ポリビニルアセタール樹脂が開示されている。
しかしながら、この方法で得られた変性ポリビニルアセタール樹脂は、エーテル結合やエステル結合が導入されることで、樹脂の親水性が高まり、各種無機物の分散性が悪化する。その結果、形成するセラミックグリーンシートの剥離性及び強度が低下してしまうという問題があった。
【0006】
特許文献3には、エチレン含有量が0.5〜40モル%、アセタール化度が30モル%以上であるポリビニルアセタール樹脂を用いて、太陽電池モジュール用封止材として使用されるシートを提供する技術が示されている。
しかしながら、特許文献3は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略することがある)のガラスとの接着性、可視光の透過性、水蒸気バリア性、絶縁性、低吸水率などを活かし、太陽電池モジュール用封止材に関する改良を行った技術であり、フィルム形成にトリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサネートという可塑剤を用いていることから、長時間使用時における可塑剤の移行によって、物性の低下が起きるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平02−300209号公報
【特許文献2】特開2009−1631号公報
【特許文献3】特開2007−224192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、セラミックグリーンシートの材料として使用した場合に、可塑剤を添加することなく、充分な強度と剥離性を付与することができ、かつ、ブリードアウトを抑制することが可能な変性ポリビニルアセタール樹脂、並びに、該変性ポリビニルアセタール樹脂を用いて製造されるセラミックグリーンシート用スラリー組成物及びセラミックグリーンシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、主鎖中にα−オレフィン単位を有する変性ポリビニルアセタール樹脂であり、前記α−オレフィン単位の含有量が27.1〜48モル%であり、アセタール化度が22モル%以上であり、水酸基量が15〜35モル%である変性ポリビニルアセタール樹脂を含有するセラミックグリーンシート用スラリー組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、α−オレフィン単位及びアセタール化度が所定の範囲内である変性ポリビニルアセタール樹脂は、セラミックグリーンシートの材料として使用した場合に、可塑剤を添加することなく、充分な強度と剥離性を付与することができ、かつ、ブリードアウトを抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、主鎖中にα−オレフィン単位を有する。
上記α−オレフィン単位は、例えば、酢酸ビニルモノマーとエチレンとの共重合により主鎖中に含まれる構造となる。この場合、α−オレフィン単位は主鎖中にランダムに導入され、水酸基の水素結合性を、強固な結晶を形成する程度までではないものの、分子鎖同士が適度に会合性を有する程度に低下させることができる。その結果、主鎖の柔軟性を向上させることが可能となる。
従って、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂をセラミックグリーンシートの材料として用いた場合は、可塑剤を用いることなく、高い強度と柔軟性を保ちうると考えられる。変性ポリビニルアセタール樹脂は、エタノール:トルエンの混合溶媒や、エチルメチルケトンといった、本技術領域において汎用の溶媒に高い溶解性を示す。
【0012】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、α−オレフィン単位の含有量の下限が25モル%、上限が48モル%である。
上記α−オレフィン単位の含有量が25モル%未満であると、得られる変性ポリビニルアセタール樹脂のガラス転移温度が高くなり、樹脂の内部可塑化効果が得られず、セラミックグリーンシートの強度が低下する。また、上記α−オレフィン単位の含有量が48モル%を超えると、樹脂の疎水性が強くなりすぎ、無機粉末の分散性が低下するため、得られるセラミックグリーンシートにひび割れなどの不具合が発生し、剥離性が低下する場合がある。なお、変性ポリビニルアセタール樹脂中のα−オレフィン単位の含有量は、変性ポリビニルアセタール樹脂の原料であるポリビニルアルコールに共重合させるα−オレフィンの量を制御することで調整することができる。上記α−オレフィン単位の含有量の好ましい下限は30モル%、好ましい上限は48モル%である。
【0013】
上記α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンチレン、へキシレン、シクロヘキシレン、シクロヘキシルエチレン、シクロヘキシルプロピレンが挙げられる。なかでも、エチレンが好ましい。
【0014】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、アセタール化度の下限が22モル%である。
上記アセタール化度が22モル%未満であると、得られる変性ポリビニルアセタール樹脂の溶剤溶解性が低下したり、ガラス転移温度が高くなり、充分な内部可塑効果が得られないため、セラミックグリーンシートの強度が低下する。また、内部電極となる導電ペースト等の被着体との接着性が低下するといった不具合が起こる。
上記アセタール化度の好ましい下限は25モル%、好ましい上限は55モル%である。
なお、ここでいうアセタール化度とは、変性ポリビニルアセタール樹脂を構成する全単量体単位に対する、アセタール化されたビニルアルコール単位の割合を表し、該変性ポリビニルアセタール樹脂のDMSO−d(ジメチルスルホキサイド)溶液を試料としてプロトンNMR測定を行い、得られたスペクトルから算出することができる。
【0015】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、α−オレフィン単位の含有量に対するアセタール化度の比(アセタール化度/α−オレフィン単位の含有量)が、0.35〜2.0であることが好ましい。上記アセタール化度/α−オレフィン単位の含有量を0.35以上とすることで、得られる変性ポリビニルアセタール樹脂は、柔軟性と離型性の両立が可能となる。また、上記アセタール化度/α−オレフィン単位の含有量を2.0以下とすることで、機械的強度と離型性の両立が可能となる。
上記アセタール化度/α−オレフィン単位の好ましい下限は0.45、好ましい上限は1.85である。
【0016】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基量が15〜35モル%であることが好ましく、17〜25モル%であることがより好ましい。上記水酸基量が15モル%未満であると、変性ポリビニルアセタール樹脂の強靱性が損なわれ、得られるセラミックグリーンシートの強度が不充分となることがある。また、上記水酸基量が35モル%を超えると、変性ポリビニルアセタール樹脂の極性が高くなりすぎ、添加する無機粉末の分散性が低下するため、得られるセラミックグリーンシートにひび割れ等の不具合が発生し、剥離性が低下する場合がある。
【0017】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、重合度が200〜3500であることが好ましい。上記重合度が200未満であると、セラミックグリーンシートとした際に、充分な強度を保てない場合がある。上記重合度が3500を超えると、セラミックグリーンシート用スラリー組成物の粘度が高くなり過ぎるために、セラミック粉末の分散性が悪く、均質なスラリーが得られない場合がある。より好ましくは500〜3000、更に好ましくは1500〜2400である。
【0018】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、α−オレフィン−ビニルアルコール共重合体を原料とし、主鎖中にα−オレフィン単位を特定の割合で有するα−オレフィン−ビニルアルコール共重合体をアセタール化することで製造することができる。
【0019】
上記α−オレフィン−ビニルアルコール共重合体は、ケン化度が80モル%以上のものを用いることが好ましく、90モル以上のものを用いることがより好ましい。
上記ケン化度が80モル%未満であると、アセタール化が充分に進行せず、内部可塑効果が低下するため、得られるセラミックグリーンシートの強度が低下することがある。
なお、本明細書において、α−オレフィン−ビニルアルコール共重合体のケン化度とは、エチレン単位を除く、酢酸ビニル単位のうち、ビニルアルコール単位に変換された割合を指す。
【0020】
上記アセタール化は、有機溶媒中で行うことが好ましい。
上記有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール系有機溶剤;キシレン、トルエン、エチルベンゼン、安息香酸メチル等の芳香族有機溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、酪酸エチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等の脂肪族エステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、ベンゾフェノン、アセトフェノン等のケトン系溶剤;ヘキサン、ペンタン、オクタン、シクロヘキサン、デカン等の低級パラフィン系溶剤;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル等のエーテル系溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルテセトアミド、N−メチルピロリドン、アセトアニリド等のアミド系溶剤、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、n−ブチルアミン、ジn−ブチルアミン、トリn−ブチルアミン、アニリン、N−メチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、ピリジン等のアミン系溶剤等が挙げられる。これらは、単体で用いることもできるし、2種以上の溶媒を混合で用いることもできる。これらのなかでも、樹脂に対する溶解性および、精製時の簡易性の観点から、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフランが特に好ましい。
【0021】
上記アセタール化は、酸触媒の存在下において行うことが好ましい。
上記酸触媒は特に限定されず、塩酸等のハロゲン化水素や、硝酸、硫酸等の鉱酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸や、メタンスルホン酸、 エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等のスルホン酸や、リン酸等が挙げられる。これらの酸触媒は、単独で用いられても よく、2種以上の化合物を併用してもよい。なかでも、塩酸、硝酸、硫酸が好ましく、塩酸が特に好ましい。
【0022】
上記アセタール化に用いられるアルデヒドとしては、炭素数1〜10の鎖状脂肪族基、環状脂肪族基又は芳香族基を有するアルデヒドが挙げられる。これらのアルデヒドとしては、従来公知のアルデヒドを使用できる。上記アセタール化反応に用いられるアルデヒドは、特に限定されるものではなく、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、n−ヘプチルアルデヒド、n−オクテルアルデヒド、n−ノニルアルデヒド、n−デシルアルデヒド、アミルアルデヒド、等の脂肪族アルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド等の芳香族アルデヒド等が挙げられる。これらのアルデヒドは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。アルデヒドとしては、なかでも、アセタール化反応性に優れ、生成する樹脂に十分な内部可塑効果をもたらし、結果として良好な柔軟性を付与することができるブチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、n−ノニルアルデヒドが好ましく、ブチルアルデヒドがより好ましい。
【0023】
上記アルデヒドの添加量としては、目的とする変性ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度にあわせて適宜設定すればよい。特に、α−オレフィン−ビニルアルコール共重合体100モル%に対して、30〜75モル%、好ましくは40〜65モル%とすると、アセタール化反応が効率よく行われ、未反応のアルデヒドも除去しやすいため好ましい。
【0024】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、ガラス転移温度が20〜40℃であることが好ましい。上記ガラス転移温度が上記範囲内であることで、変性ポリビニルアセタール樹脂の内部可塑効果が高まり、可塑剤がなくとも高い可塑性を持ったセラミックグリーンシートを得ることができる。
なお、上記ガラス転移温度は、例えば、ずり変形型レオメーターを用いて粘弾性挙動を測定し、tanδのピークトップの値を求めることにより測定することができる。
【0025】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、120℃での弾性率が40〜170kPaであることが好ましい。上記引張弾性率が上記範囲内であることで、高分子の時間−温度換算則の原理により、汎用の時間・温度における適当なシート強度を与える指標とすることができる。なお、上記120℃での弾性率は、120℃におけるずり変形型レオメーターの貯蔵弾性率G‘の値を評価することにより求めることができる。
【0026】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂に、有機溶剤、セラミック粉末等を添加することでセラミックグリーンシート用スラリー組成物が得られる。このようなセラミックグリーンシート用スラリー組成物もまた本発明の一つである。
【0027】
上記セラミック粉末としては、セラミックの製造に使用される金属または非金属の酸化物もしくは非酸化物の粉末が挙げられる。また、これらの粉末の組成は単一組成、化合物の状態のものを単独または混合して使用しても差し支えない。なお、金属の酸化物または非酸化物の構成元素はカチオンまたはアニオンともに単元素でも複数の元素から成り立っていてもよく、さらに酸化物または非酸化物の特性を改良するために加えられる添加物を含んでいてもよい。具体的には、Li、K、Mg、B、Al、Si、Cu、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Ga、In、Y、ランタノイド、アクチノイド、Ti、Zr、Hf、Bi、V、Nb、Ta、W、Mn、Fe、Co、Ni等の酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、硫化物等が挙げられる。
また、通常複酸化物と称される複数の金属元素を含む酸化物粉末の具体的なものを結晶構造から分類すると、ペロブスカイト型構造をとるものとしてNaNbO、SrZrO、PbZrO、SrTiO、BaZrO、PbTiO、BaTiO等が、スピネル型構造をとるものとしてMgAl、ZnAl、CoAl、NiAl、MgFe等が、イルメナイト型構造をとるものとしてはMgTiO、MnTiO、FeTiO等が、ガーネット型構造をとるものとしてはGdGa12、YFe12等が挙げられる。 この中でも、本願の変性ポリビニルアセタール樹脂は、BaTiOの粉末と混合したセラミックグリーンシートに対し、高い特性を示す。
【0028】
上記セラミック粉末の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、例えば、薄層セラミックグリーンシート(厚さ5μm以下)の作製用としては、0.5μm以下であることが好ましい。
【0029】
本発明のスラリー組成物では、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂以外のポリビニルアセタール樹脂や、アクリル樹脂、エチルセルロース等の他の樹脂を含有していてもよい。しかし、このような場合、全バインダー樹脂に対する本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂の含有量が50重量%以上である必要がある。
【0030】
本発明のスラリー組成物は、セラミック粉末及び無機分散用有機溶剤を含有する無機分散液と、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂及び樹脂溶液用有機溶剤を含有する樹脂溶液とを別々に作製した後、両者を混合する方法で作製することが好ましい。
【0031】
上記無機分散用有機溶剤及び樹脂溶液用有機溶剤としては特に限定されず、一般的にスラリー組成物に用いられる有機溶剤を使用することができるが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、ブタン酸メチル、ブタン酸エチル、ブタン酸ブチル、ペンタン酸メチル、ペンタン酸エチル、ペンタン酸ブチル、ヘキサン酸メチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸ブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酪酸2−エチルヘキシル等のエステル類、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、テルピネオールアセテート、ジヒドロテルピネオールアセテート等のテルピネオール及びその誘導体等が挙げられる。これらの有機溶剤は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0032】
上記無機分散用有機溶剤及び樹脂溶液用有機溶剤としては、特にエタノール及びトルエンからなる混合溶媒を用いることが好ましい。上記混合溶媒を用いることによって、スラリー組成物の分散性を大幅に向上させることができる。これは、エタノールがポリビニルアセタール樹脂の凝集防止に寄与するのに対して、トルエンが分散剤の無機粉末表面への付着に寄与し、これらの相乗効果によってスラリー組成物の分散性が向上するためであると考えられる。
【0033】
上記混合溶媒を用いる場合における上記エタノールとトルエンとの混合比については、5:5〜2:8とすることが好ましい。上記範囲内とすることで、スラリー組成物の分散性を向上させることが可能となる。
【0034】
上記無機分散液を作製する工程における上記無機分散用有機溶剤の添加量の好ましい下限は無機粉末100重量部に対して20重量部、好ましい上限は60重量部である。上記無機分散用有機溶剤の添加量が20重量部未満であると、分散液の粘度が高くなり、無機粉末の動きが制限され充分な分散性が得られないことがあり、60重量部を超えると、分散液の無機粉末濃度が低くなり、無機粉末同士の衝突回数が減るため充分な分散性が得られないことがある。
また、上記樹脂溶液を作製する工程における上記樹脂溶液用有機溶剤の添加量の好ましい下限は無機粉末100重量部に対して70重量部、好ましい上限は130重量部である。上記樹脂溶液用有機溶剤の添加量が70重量部未満であると、所望の粘度に調整することが困難となり、塗工性が低下することがあり、130重量部を超えると、無機粉末濃度が低くなり、乾燥後のグリーンシートが一様にならないことがある。
より好ましい下限は90重量部、より好ましい上限は110重量部である。
【0035】
本発明のセラミックグリーンシート用スラリー組成物を用いてなるセラミックグリーンシートもまた本発明の1つである。
本発明のセラミックグリーンシートの製造方法としては、例えば、本発明のセラミックグリーンシート用スラリー組成物を、離型処理したポリエステルフィルム上に、乾燥後の厚みが適当になるように塗工し常温で1時間風乾する。次いで、熱風乾燥機を用いて80℃で3時間乾燥させる。続いて120℃で2時間乾燥させる方法等が挙げられる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、セラミックグリーンシートの材料として使用した場合に、可塑剤を添加することなく、充分な強度と剥離性を付与することができ、かつ、ブリードアウトを抑制することが可能な変性ポリビニルアセタール樹脂、並びに、該変性ポリビニルアセタール樹脂を用いて製造されるセラミックグリーンシート用スラリー組成物及びセラミックグリーンシートを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
<変性ポリビニルアセタール樹脂の作製>
主鎖の構成単位としてエチレンを有し、重合度800、エチレン含有量48.0モル%、ケン化度99.0%のエチレン−ビニルアルコール共重合体50gをエタノール200mLに加え、60℃の温度に加熱した。これに濃度1.0mol/Lの塩酸水溶液20gとn−ブチルアルデヒド21.7gとを添加し、回転数200rpmで3時間攪拌させた。このとき、エチレン−ビニルアルコール共重合体は反応が進行するにしたがって次第に溶解し、やがて均一な溶液が得られる。その後、炭酸ナトリウム3.2gを水30gに溶解させたものを加え、中和を行った。
反応液を5℃に冷却した水1000mL撹拌下滴下し、析出物を生成させた。このまま温度を1時間かけて40℃まで上昇させ、40℃で2時間攪拌した。生成した樹脂を濾取し、流水で3時間洗浄し、余剰の塩や未反応のアルデヒドを取り除いた。析出物を50℃、50mmHg条件下で12時間真空乾燥を行い、変性ポリビニルアセタール樹脂1を得た。なお、得られた変性ポリビニルアセタール樹脂の水分量をケット水分測定器(研精工業社製、「MX−50」)により測定したところ、1.3重量%であった。
【0039】
<セラミックグリーンシートの作製>
(樹脂溶液の作製)
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂8重量部、トルエン45重量部とエタノール45重量部との混合溶剤に加え、60分攪拌溶解することにより、樹脂溶液を作製した。
【0040】
(無機分散液の作製)
ED−216(楠本化成株式会社製、分散剤)1重量部、トルエン20重量部とエタノール20重量部との混合溶剤に加え、攪拌溶解した。次いで、100重量部のチタン酸バリウムの粉末(堺化学社製、BT02)を得られた溶液に添加し、直径0.5mmのセラミックビーズを80ml加え、ビーズミル(アイメックス社製、「レディーミル」)を用い、回転数1500rpmで180分間撹拌することにより、無機分散液を作製した。
【0041】
(スラリー組成物の作製)
得られた無機分散液に樹脂溶液を添加しビーズミルにて回転数1900rpmで90分間攪拌することにより、スラリー組成物を得た。
【0042】
(セラミックグリーンシートの作製)
離型処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、得られたスラリー組成物を乾燥後の膜厚が20μmとなるように塗工、乾燥してセラミックグリーンシートを作製した。
【0043】
(実施例2〜8)
エチレン含有量、ケン化度、アルデヒドの種類、アセタール化度及び水酸基量を表1に示したように変更したこと以外は実施例1と同様にして、主鎖の構成単位としてエチレンを有する変性ポリビニルアセタール樹脂、スラリー組成物及びセラミックグリーンシートを製造した。
【0044】
(比較例1)
実施例1の(樹脂溶液の作製)において、得られた変性ポリビニルアセタール樹脂8重量部に代えて、ポリビニルアセタール樹脂(BM−2、積水化学工業社製)8重量部及び可塑剤(DOP)3重量部を添加した以外は、実施例1と同様にしてスラリー組成物及びセラミックグリーンシートを製造した。
【0045】
(比較例2)
実施例1の(樹脂溶液の作製)において、得られた変性ポリビニルアセタール樹脂8重量部に代えて、ポリビニルアセタール樹脂(BM−2、積水化学工業社製)8重量部を添加した以外は、実施例1と同様にしてスラリー組成物及びセラミックグリーンシートを製造した。
【0046】
(比較例3〜7)
エチレン含有量、ケン化度、アルデヒドの種類、アセタール化度及び水酸基量を表1に示したように変更したこと以外は実施例1と同様にして、主鎖の構成単位としてエチレンを有する変性ポリビニルアセタール樹脂、スラリー組成物及びセラミックグリーンシートを製造した。
【0047】
<評価>
実施例及び比較例で得られたポリビニルアセタール樹脂、変性ポリビニルアセタール樹脂、セラミックグリーンシートについて以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0048】
<ポリビニルアセタール樹脂の物性評価>
(1)アセタール化度、水酸基量
得られたポリビニルアセタール樹脂、変性ポリビニルアセタール樹脂をDMSO−dに10重量%の濃度で溶解し、13C−NMRを用いて、アセタール化度、水酸基量を測定した。
【0049】
(2)ガラス転移温度
得られたポリビニルアセタール樹脂、変性ポリビニルアセタール樹脂3.0gを80度、15MPaで15分間熱プレスし、厚み2mmの成型体を作成した。これをずり変形型レオメーター(ARES−G2、測定条件:frequency:6.28rad/s、ramp rate:5.0℃/min、strain:1.0% time per measure:5s)にて−20℃から150℃まで粘弾性挙動を測定し、tanδのピークトップの値よりガラス転移温度を評価した。
【0050】
(3)弾性率
高温での熱流動性の指標として120℃における弾性率G‘(kPa)をずり変形型レオメーター(ARES−G2、測定条件:frequency:6.28rad/s、ramp rate:5.0℃/min、strain:1.0% time per measure:5s、温度120℃)により測定した。
【0051】
(4)溶剤溶解性
有機溶媒への溶解性に関して検討するため、300mL三角フラスコに樹脂重量部20gに対して、溶剤(エタノール/トルエン=1/1(重量比)の混合液、及び、メチルエチルケトン(MEK))180gを加え、25℃にて3時間振とうし、溶解させた。得られた樹脂溶液を目視にて判定し、溶剤溶解性の評価を行った。
○ 変性ポリビニルアセタール樹脂が完全に溶解し、未溶解物が見られなかった。
△ 直径3mm程度の未溶解物がわずかに(200mL中に50個未満)観測された。
× 直径3mm程度の未溶解物が多量に(200mL中に50個以上)観測されたか、あるいは、全く溶解しなかった。
【0052】
<セラミックグリーンシートの評価>
(1)セラミックグリーンシートの強度評価
得られたセラミックグリーンシートを、20℃の環境下、引っ張り速度10mm/minで引っ張り、オートグラフ(島津製作所社製)を使用して破断点の伸度(%)及び破断点応力(MPa)を測定した。
【0053】
(2)セラミックグリーンシートの剥離性
セラミックグリーンシートを10cm角に切断し、PETフィルム上に10枚重ね、70℃、圧力1500N/cm、10分間の熱圧条件で積層したのち、セラミックグリーンシートをPETフィルムから剥離した際の剥離状態を目視を主体とする官能試験によって以下の3段階で評価した。
○ PETフィルムに付着したセラミックグリーンシートがなく、かつ、セラミックグリーンシートの切れやクラックが全くなかった。
△ PETフィルムに付着したセラミックグリーンシートが一部認められ、又は、セラミックグリーンシートの切れ、クラックが一部認められた。
× PETフィルムに付着したセラミックグリーンシートが多数認められ、又は、セラミックグリーンシートの切れ、クラックが多数認められた。

なお、良好な剥離性を得るためには、セラミック粉末がバインダー中に均一に分散すること、および、バインダーが高い柔軟性を有することの両立が必要である。
【0054】
(3)セラミックグリーンシートの可塑剤移行性
得られたセラミックグリーンシートの表面に、黒色の油性マジックで縦方向及び横方向にそれぞれ長さ10cmの二本づつ線を書き、マーキングした。マーキングされたセラミックグリーンシートを主面が鉛直方向と平行な平面内に位置するように置いた。これを20℃及び相対湿度50%の恒温恒湿条件で2ヶ月放置した。放置後のセラミックグリーンシートについて、以下の基準で評価した。
○ 油性マジックのにじみが、四本のいずれの線にも観測されない
× 四本の線の内の少なくとも一本の線で観測された
【0055】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、セラミックグリーンシートの材料として使用した場合に、可塑剤を添加することなく、充分な強度と剥離性を付与することができ、かつ、ブリードアウトを抑制することが可能な変性ポリビニルアセタール樹脂、並びに、該変性ポリビニルアセタール樹脂を用いて製造されるセラミックグリーンシート用スラリー組成物及びセラミックグリーンシートを提供できる。