【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、主鎖中にα−オレフィン単位を有する変性ポリビニルアセタール樹脂であり、前記α−オレフィン単位の含有量が27.1〜48モル%であり、アセタール化度が22モル%以上であり、水酸基量が15〜35モル%である変性ポリビニルアセタール樹脂
を含有するセラミックグリーンシート用スラリー組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、α−オレフィン単位及びアセタール化度が所定の範囲内である変性ポリビニルアセタール樹脂は、セラミックグリーンシートの材料として使用した場合に、可塑剤を添加することなく、充分な強度と剥離性を付与することができ、かつ、ブリードアウトを抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、主鎖中にα−オレフィン単位を有する。
上記α−オレフィン単位は、例えば、酢酸ビニルモノマーとエチレンとの共重合により主鎖中に含まれる構造となる。この場合、α−オレフィン単位は主鎖中にランダムに導入され、水酸基の水素結合性を、強固な結晶を形成する程度までではないものの、分子鎖同士が適度に会合性を有する程度に低下させることができる。その結果、主鎖の柔軟性を向上させることが可能となる。
従って、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂をセラミックグリーンシートの材料として用いた場合は、可塑剤を用いることなく、高い強度と柔軟性を保ちうると考えられる。変性ポリビニルアセタール樹脂は、エタノール:トルエンの混合溶媒や、エチルメチルケトンといった、本技術領域において汎用の溶媒に高い溶解性を示す。
【0012】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、α−オレフィン単位の含有量の下限が25モル%、上限が48モル%である。
上記α−オレフィン単位の含有量が25モル%未満であると、得られる変性ポリビニルアセタール樹脂のガラス転移温度が高くなり、樹脂の内部可塑化効果が得られず、セラミックグリーンシートの強度が低下する。また、上記α−オレフィン単位の含有量が48モル%を超えると、樹脂の疎水性が強くなりすぎ、無機粉末の分散性が低下するため、得られるセラミックグリーンシートにひび割れなどの不具合が発生し、剥離性が低下する場合がある。なお、変性ポリビニルアセタール樹脂中のα−オレフィン単位の含有量は、変性ポリビニルアセタール樹脂の原料であるポリビニルアルコールに共重合させるα−オレフィンの量を制御することで調整することができる。上記α−オレフィン単位の含有量の好ましい下限は30モル%、好ましい上限は48モル%である。
【0013】
上記α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンチレン、へキシレン、シクロヘキシレン、シクロヘキシルエチレン、シクロヘキシルプロピレンが挙げられる。なかでも、エチレンが好ましい。
【0014】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、アセタール化度の下限が22モル%である。
上記アセタール化度が22モル%未満であると、得られる変性ポリビニルアセタール樹脂の溶剤溶解性が低下したり、ガラス転移温度が高くなり、充分な内部可塑効果が得られないため、セラミックグリーンシートの強度が低下する。また、内部電極となる導電ペースト等の被着体との接着性が低下するといった不具合が起こる。
上記アセタール化度の好ましい下限は25モル%、好ましい上限は55モル%である。
なお、ここでいうアセタール化度とは、変性ポリビニルアセタール樹脂を構成する全単量体単位に対する、アセタール化されたビニルアルコール単位の割合を表し、該変性ポリビニルアセタール樹脂のDMSO−d
6(ジメチルスルホキサイド)溶液を試料としてプロトンNMR測定を行い、得られたスペクトルから算出することができる。
【0015】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、α−オレフィン単位の含有量に対するアセタール化度の比(アセタール化度/α−オレフィン単位の含有量)が、0.35〜2.0であることが好ましい。上記アセタール化度/α−オレフィン単位の含有量を0.35以上とすることで、得られる変性ポリビニルアセタール樹脂は、柔軟性と離型性の両立が可能となる。また、上記アセタール化度/α−オレフィン単位の含有量を2.0以下とすることで、機械的強度と離型性の両立が可能となる。
上記アセタール化度/α−オレフィン単位の好ましい下限は0.45、好ましい上限は1.85である。
【0016】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基量が15〜35モル%であることが好ましく、17〜25モル%であることがより好ましい。上記水酸基量が15モル%未満であると、変性ポリビニルアセタール樹脂の強靱性が損なわれ、得られるセラミックグリーンシートの強度が不充分となることがある。また、上記水酸基量が35モル%を超えると、変性ポリビニルアセタール樹脂の極性が高くなりすぎ、添加する無機粉末の分散性が低下するため、得られるセラミックグリーンシートにひび割れ等の不具合が発生し、剥離性が低下する場合がある。
【0017】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、重合度が200〜3500であることが好ましい。上記重合度が200未満であると、セラミックグリーンシートとした際に、充分な強度を保てない場合がある。上記重合度が3500を超えると、セラミックグリーンシート用スラリー組成物の粘度が高くなり過ぎるために、セラミック粉末の分散性が悪く、均質なスラリーが得られない場合がある。より好ましくは500〜3000、更に好ましくは1500〜2400である。
【0018】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、α−オレフィン−ビニルアルコール共重合体を原料とし、主鎖中にα−オレフィン単位を特定の割合で有するα−オレフィン−ビニルアルコール共重合体をアセタール化することで製造することができる。
【0019】
上記α−オレフィン−ビニルアルコール共重合体は、ケン化度が80モル%以上のものを用いることが好ましく、90モル以上のものを用いることがより好ましい。
上記ケン化度が80モル%未満であると、アセタール化が充分に進行せず、内部可塑効果が低下するため、得られるセラミックグリーンシートの強度が低下することがある。
なお、本明細書において、α−オレフィン−ビニルアルコール共重合体のケン化度とは、エチレン単位を除く、酢酸ビニル単位のうち、ビニルアルコール単位に変換された割合を指す。
【0020】
上記アセタール化は、有機溶媒中で行うことが好ましい。
上記有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール系有機溶剤;キシレン、トルエン、エチルベンゼン、安息香酸メチル等の芳香族有機溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、酪酸エチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等の脂肪族エステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、ベンゾフェノン、アセトフェノン等のケトン系溶剤;ヘキサン、ペンタン、オクタン、シクロヘキサン、デカン等の低級パラフィン系溶剤;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル等のエーテル系溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルテセトアミド、N−メチルピロリドン、アセトアニリド等のアミド系溶剤、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、n−ブチルアミン、ジn−ブチルアミン、トリn−ブチルアミン、アニリン、N−メチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、ピリジン等のアミン系溶剤等が挙げられる。これらは、単体で用いることもできるし、2種以上の溶媒を混合で用いることもできる。これらのなかでも、樹脂に対する溶解性および、精製時の簡易性の観点から、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフランが特に好ましい。
【0021】
上記アセタール化は、酸触媒の存在下において行うことが好ましい。
上記酸触媒は特に限定されず、塩酸等のハロゲン化水素や、硝酸、硫酸等の鉱酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸や、メタンスルホン酸、 エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等のスルホン酸や、リン酸等が挙げられる。これらの酸触媒は、単独で用いられても よく、2種以上の化合物を併用してもよい。なかでも、塩酸、硝酸、硫酸が好ましく、塩酸が特に好ましい。
【0022】
上記アセタール化に用いられるアルデヒドとしては、炭素数1〜10の鎖状脂肪族基、環状脂肪族基又は芳香族基を有するアルデヒドが挙げられる。これらのアルデヒドとしては、従来公知のアルデヒドを使用できる。上記アセタール化反応に用いられるアルデヒドは、特に限定されるものではなく、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、n−ヘプチルアルデヒド、n−オクテルアルデヒド、n−ノニルアルデヒド、n−デシルアルデヒド、アミルアルデヒド、等の脂肪族アルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド等の芳香族アルデヒド等が挙げられる。これらのアルデヒドは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。アルデヒドとしては、なかでも、アセタール化反応性に優れ、生成する樹脂に十分な内部可塑効果をもたらし、結果として良好な柔軟性を付与することができるブチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、n−ノニルアルデヒドが好ましく、ブチルアルデヒドがより好ましい。
【0023】
上記アルデヒドの添加量としては、目的とする変性ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度にあわせて適宜設定すればよい。特に、α−オレフィン−ビニルアルコール共重合体100モル%に対して、30〜75モル%、好ましくは40〜65モル%とすると、アセタール化反応が効率よく行われ、未反応のアルデヒドも除去しやすいため好ましい。
【0024】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、ガラス転移温度が20〜40℃であることが好ましい。上記ガラス転移温度が上記範囲内であることで、変性ポリビニルアセタール樹脂の内部可塑効果が高まり、可塑剤がなくとも高い可塑性を持ったセラミックグリーンシートを得ることができる。
なお、上記ガラス転移温度は、例えば、ずり変形型レオメーターを用いて粘弾性挙動を測定し、tanδのピークトップの値を求めることにより測定することができる。
【0025】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、120℃での弾性率が40〜170kPaであることが好ましい。上記引張弾性率が上記範囲内であることで、高分子の時間−温度換算則の原理により、汎用の時間・温度における適当なシート強度を与える指標とすることができる。なお、上記120℃での弾性率は、120℃におけるずり変形型レオメーターの貯蔵弾性率G‘の値を評価することにより求めることができる。
【0026】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂に、有機溶剤、セラミック粉末等を添加することでセラミックグリーンシート用スラリー組成物が得られる。このようなセラミックグリーンシート用スラリー組成物もまた本発明の一つである。
【0027】
上記セラミック粉末としては、セラミックの製造に使用される金属または非金属の酸化物もしくは非酸化物の粉末が挙げられる。また、これらの粉末の組成は単一組成、化合物の状態のものを単独または混合して使用しても差し支えない。なお、金属の酸化物または非酸化物の構成元素はカチオンまたはアニオンともに単元素でも複数の元素から成り立っていてもよく、さらに酸化物または非酸化物の特性を改良するために加えられる添加物を含んでいてもよい。具体的には、Li、K、Mg、B、Al、Si、Cu、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Ga、In、Y、ランタノイド、アクチノイド、Ti、Zr、Hf、Bi、V、Nb、Ta、W、Mn、Fe、Co、Ni等の酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、硫化物等が挙げられる。
また、通常複酸化物と称される複数の金属元素を含む酸化物粉末の具体的なものを結晶構造から分類すると、ペロブスカイト型構造をとるものとしてNaNbO
3、SrZrO
3、PbZrO
3、SrTiO
3、BaZrO
3、PbTiO
3、BaTiO
3等が、スピネル型構造をとるものとしてMgAl
2O
4、ZnAl
2O
4、CoAl
2O
4、NiAl
2O
4、MgFe
2O
4等が、イルメナイト型構造をとるものとしてはMgTiO
3、MnTiO
3、FeTiO
3等が、ガーネット型構造をとるものとしてはGdGa
5O
12、Y
6Fe
5O
12等が挙げられる。 この中でも、本願の変性ポリビニルアセタール樹脂は、BaTiO
3の粉末と混合したセラミックグリーンシートに対し、高い特性を示す。
【0028】
上記セラミック粉末の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、例えば、薄層セラミックグリーンシート(厚さ5μm以下)の作製用としては、0.5μm以下であることが好ましい。
【0029】
本発明のスラリー組成物では、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂以外のポリビニルアセタール樹脂や、アクリル樹脂、エチルセルロース等の他の樹脂を含有していてもよい。しかし、このような場合、全バインダー樹脂に対する本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂の含有量が50重量%以上である必要がある。
【0030】
本発明のスラリー組成物は、セラミック粉末及び無機分散用有機溶剤を含有する無機分散液と、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂及び樹脂溶液用有機溶剤を含有する樹脂溶液とを別々に作製した後、両者を混合する方法で作製することが好ましい。
【0031】
上記無機分散用有機溶剤及び樹脂溶液用有機溶剤としては特に限定されず、一般的にスラリー組成物に用いられる有機溶剤を使用することができるが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、ブタン酸メチル、ブタン酸エチル、ブタン酸ブチル、ペンタン酸メチル、ペンタン酸エチル、ペンタン酸ブチル、ヘキサン酸メチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸ブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酪酸2−エチルヘキシル等のエステル類、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、テルピネオールアセテート、ジヒドロテルピネオールアセテート等のテルピネオール及びその誘導体等が挙げられる。これらの有機溶剤は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0032】
上記無機分散用有機溶剤及び樹脂溶液用有機溶剤としては、特にエタノール及びトルエンからなる混合溶媒を用いることが好ましい。上記混合溶媒を用いることによって、スラリー組成物の分散性を大幅に向上させることができる。これは、エタノールがポリビニルアセタール樹脂の凝集防止に寄与するのに対して、トルエンが分散剤の無機粉末表面への付着に寄与し、これらの相乗効果によってスラリー組成物の分散性が向上するためであると考えられる。
【0033】
上記混合溶媒を用いる場合における上記エタノールとトルエンとの混合比については、5:5〜2:8とすることが好ましい。上記範囲内とすることで、スラリー組成物の分散性を向上させることが可能となる。
【0034】
上記無機分散液を作製する工程における上記無機分散用有機溶剤の添加量の好ましい下限は無機粉末100重量部に対して20重量部、好ましい上限は60重量部である。上記無機分散用有機溶剤の添加量が20重量部未満であると、分散液の粘度が高くなり、無機粉末の動きが制限され充分な分散性が得られないことがあり、60重量部を超えると、分散液の無機粉末濃度が低くなり、無機粉末同士の衝突回数が減るため充分な分散性が得られないことがある。
また、上記樹脂溶液を作製する工程における上記樹脂溶液用有機溶剤の添加量の好ましい下限は無機粉末100重量部に対して70重量部、好ましい上限は130重量部である。上記樹脂溶液用有機溶剤の添加量が70重量部未満であると、所望の粘度に調整することが困難となり、塗工性が低下することがあり、130重量部を超えると、無機粉末濃度が低くなり、乾燥後のグリーンシートが一様にならないことがある。
より好ましい下限は90重量部、より好ましい上限は110重量部である。
【0035】
本発明のセラミックグリーンシート用スラリー組成物を用いてなるセラミックグリーンシートもまた本発明の1つである。
本発明のセラミックグリーンシートの製造方法としては、例えば、本発明のセラミックグリーンシート用スラリー組成物を、離型処理したポリエステルフィルム上に、乾燥後の厚みが適当になるように塗工し常温で1時間風乾する。次いで、熱風乾燥機を用いて80℃で3時間乾燥させる。続いて120℃で2時間乾燥させる方法等が挙げられる。