(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(A1)工程におけるセルロースナノファイバー複合体が揮発性溶媒を含んだ凝集体であるか、又は(B1)工程におけるセルロースナノファイバーが揮発性溶媒を含んだ凝集体であり、
(A3)工程又は(B3)工程の前に前記揮発性溶媒を除去する工程を更に有する請求項4に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の樹脂組成物は、その構成成分の一つとしてセルロースナノファイバーを含んでいる。セルロースナノファイバーは、平均繊維径が好ましくは200nm以下のものである。セルロースナノファイバーの平均繊維径は、好ましくは1nm以上、そして、好ましくは200nm以下、更に好ましくは100nm以下、特に好ましくは50nm以下である。より具体的には、好ましくは1nm以上200nm以下、更に好ましくは1nm以上100nm以下、特に好ましくは1nm以上50nm以下である。平均繊維径は下記測定方法により測定される。
【0013】
<平均繊維径の測定方法>
固形分濃度0.0001質量%のセルロースナノファイバー水分散液を調製し、該分散液を、マイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料とし、原子間力顕微鏡(NanoNaVi II, SPA400,エスアイアイナノテクノロジー(株)製、プローブは同社製のSI−DF40Alを使用)を用いて、該観察試料中のセルロースナノファイバーの繊維高さを測定する。そして、セルロースナノファイバーが確認できる顕微鏡画像において、セルロースナノファイバーを5本以上抽出し、それらの繊維高さから平均繊維径を算出する。一般に高等植物から調製されるセルロースナノファイバーの最小単位は6本×6本の分子鎖がほぼ正方形の形でパッキングされていることから、原子間力顕微鏡による画像で分析できる高さを繊維の幅と見なすことができる。
【0014】
セルロースナノファイバーは、微細であること(平均繊維径が好ましくは200nm以下であること)に加え、セルロースのカルボキシル基含有量が所定の範囲にあることが好ましい。具体的には、セルロースナノファイバーを構成するセルロースのカルボキシル基含有量は、好ましくは0.1mmol/g以上、更に好ましくは0.4mmol/g以上、特に好ましくは0.6mmol/g以上であり、そして、好ましくは3mmol/g以下、更に好ましくは2mmol/g以下、特に好ましくは1.8mmol/g以下である。より具体的には、好ましくは0.1mmol/g以上3mmol/g以下、更に好ましくは0.4mmol/g以上2mmol/g以下、特に好ましくは0.6mmol/g以上1.8mmol/g以下である。
【0015】
セルロースナノファイバーを構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1mmol/g以上3mmol/g以下であることは、好ましくは平均繊維径200nm以下の微小な平均繊維径をもつセルロースナノファイバーを安定的に得る上で重要な要素である。すなわち、天然セルロースの生合成の過程においては、通常、ミクロフィブリルと呼ばれるセルロースナノファイバーがまず形成され、これらが多束化して高次な固体構造を構築しているところ、セルロースナノファイバーは、これを原理的に利用して得られるものであり、天然由来のセルロース固体原料においてミクロフィブリル間の強い凝集力の原動となっている表面間の水素結合を弱めるために、その一部を酸化し、カルボキシル基に変換することによって得られる。したがって、セルロースに存在するカルボキシル基の量の総和(カルボキシル基含有量)が多いほうが、より微小な繊維径として安定に存在することができ、また水中においては、電気的な反発力が生じることにより、ミクロフィブリルが凝集を維持せずにばらばらになろうとする傾向が高まり、セルロースナノファイバーの分散安定性がより増大する。セルロースナノファイバーのカルボキシル基含有量は下記測定方法により測定される。
【0016】
<カルボキシル基含有量の測定方法>
乾燥質量0.5gのセルロースナノファイバーを100mlビーカーにとり、イオン交換水を加えて全体で55mlとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mlを加えて分散液を調製し、セルロースナノファイバーが十分に分散するまで該分散液を攪拌する。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5〜3に調整し、自動滴定装置(AUT−50、東亜ディーケーケー(株)製)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定する。pH11になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、セルロースナノファイバーのカルボキシル基含有量を算出する。
カルボキシル基含有量(mmol/g)=水酸化ナトリウム滴定量×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)/セルロースナノファイバーの質量(0.5g)
【0017】
セルロースナノファイバーは、例えば天然セルロース繊維を酸化して反応物繊維を得る酸化反応工程、及び該反応物繊維を微細化処理する微細化工程を含む製造方法によって得ることができる。以下に各工程について詳細に説明する。
【0018】
前記酸化反応工程では、まず、水中に天然セルロース繊維を分散させたスラリーを調製する。スラリーは、原料となる天然セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して約10倍量以上約1000倍量以下(質量基準)の水を加え、ミキサー等で処理することにより得られる。天然セルロース繊維としては、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ;バクテリアセルロース等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。天然セルロース繊維は、叩解等の表面積を高める処理が施されていてもよい。
【0019】
次に、水中においてN−オキシル化合物を酸化触媒として天然セルロース繊維を酸化処理して反応物繊維を得る。セルロースの酸化触媒として使用可能なN−オキシル化合物としては、例えば、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(以下、TEMPOとも表記する)、4−アセトアミド−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、4−フォスフォノオキシ−TEMPO等を用いることができる。これらN−オキシル化合物の添加は触媒量で十分であり、通常、原料として用いた天然セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して0.1質量%以上10質量%以下となる範囲である。
【0020】
前記天然セルロース繊維の酸化処理においては、酸化剤(例えば、次亜ハロゲン酸又はその塩、亜ハロゲン酸又はその塩、過ハロゲン酸又はその塩、過酸化水素、過有機酸等)と、共酸化剤(例えば、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属)とを併用する。酸化剤としては、特に、次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウム等のアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩が好ましい。酸化剤の使用量は、通常、原料として用いた天然セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して約1質量%以上約100質量%以下となる範囲である。また、共酸化剤の使用量は、通常、原料として用いた天然セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して約1質量%以上約30質量%以下となる範囲である。
【0021】
また、前記天然セルロース繊維の酸化処理においては、酸化反応を効率良く進行させる観点から、反応液(前記スラリー)のpHは9以上12以下の範囲で維持されることが望ましい。また、酸化処理の温度(前記スラリーの温度)は、1℃以上50℃以下において任意であるが、室温で反応可能であり、特に温度制御は必要としない。また、反応時間は1分間以上240分間以下が望ましい。
【0022】
前記酸化反応工程後、前記微細化工程前に精製工程を実施し、未反応の酸化剤や各種副生成物等の、前記スラリー中に含まれる反応物繊維及び水以外の不純物を除去することが好ましい。反応物繊維は通常、この段階ではセルロースナノファイバー単位までばらばらに分散していないため、精製工程では、例えば水洗とろ過を繰り返す精製法を行うことができ、その際に用いる精製装置は特に制限されない。こうして得られる精製処理された酸化セルロース繊維(若しくはカルボキシル基含有セルロース繊維と呼ぶ)は、通常、適量の水を含浸させた状態で次工程(微細化工程)に送られるが、必要に応じ、乾燥処理した繊維状や粉末状としてもよい。
【0023】
前記微細化工程では、前記精製工程を経た反応物繊維を水等の溶媒中に分散させ微細化処理を施す。この微細化工程を経ることにより、平均繊維径及びカルボキシル基含有量がそれぞれ前記範囲にあるセルロースナノファイバーが得られる。
【0024】
前記微細化処理において、分散媒としての溶媒は通常は水が好ましいが、水以外にも目的に応じて水に可溶な有機溶媒(アルコール類、エーテル類、ケトン類等)を使用してもよく、これらの混合物も好適に使用できる。また、微細化処理で使用する分散機としては、例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、二軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。また、微細化処理における酸化セルロース繊維の固形分濃度は50質量%以下が好ましい。固形分濃度を50質量%以下にすることで、分散に要するエネルギーが過度に高くならないので好ましい。
【0025】
このような天然セルロース繊維の酸化処理及び微細化処理により、セルロース構成単位のC6位の水酸基がアルデヒド基を経由してカルボキシル基へと選択的に酸化され、平均繊維径が好ましくは200nm以下にまで微細化された高結晶性セルロース繊維を得ることができる。この高結晶性セルロース繊維は、セルロースI型結晶構造を有している。これは、セルロースナノファイバーが、I型結晶構造を有する天然由来のセルロース固体原料が表面酸化され微細化された繊維であることを意味する。すなわち、天然セルロース繊維は、その生合成の過程において生産されるミクロフィブリルと呼ばれる微細な繊維が多束化して高次な固体構造を構築しており、そのミクロフィブリル間の強い凝集力(表面間の水素結合)を、前記酸化処理によるアルデヒド基あるいはカルボキシル基の導入によって弱め、更に前記微細化処理を経ることで、セルロースナノファイバーが得られる。そして、前記酸化処理の条件を調整することにより、前記カルボキシル基含有量を所定範囲内にて増減させ、極性を変化させたり、該カルボキシル基の静電反発や前記微細化処理により、セルロースナノファイバーの平均繊維径、平均繊維長、平均アスペクト比等を制御することができる。
【0026】
このようにして得られたセルロースナノファイバーの形態は、セルロースナノファイバーが分散液中に分散した状態である。必要に応じ、固形分濃度を調整した懸濁液状(目視的に無色透明又は不透明な液)、あるいは乾燥処理した粉末状(ただし、セルロースナノファイバーが凝集した粉末状であり、セルロース粒子を意味するものではない)とすることもできる。懸濁液状にする場合、分散媒として水のみを使用してもよく、水と他の有機溶媒(例えば、エタノール等のアルコール類)や界面活性剤、酸、塩基等との混合溶媒を使用してもよい。
【0027】
本発明の樹脂組成物においては、このようにして得られたセルロースナノファイバーを用いてもよく、あるいは該セルロースナノファイバーにおけるカルボキシル基を炭化水素基で修飾して疎水化したセルロースナノファイバー(以下、「セルロースナノファイバー複合体」とも言う。)を用いることもできる。以下、このセルロースナノファイバー複合体について説明する。
【0028】
セルロースナノファイバー複合体は、セルロース主鎖の側鎖として炭化水素基を有している。炭化水素基はアミド結合を介してセルロース主鎖に結合している。炭化水素基としては、例えば、炭素数1の炭化水素基、又は炭素数2〜30の飽和若しくは不飽和の直鎖状若しくは分岐状の炭化水素基が挙げられる。これらの炭化水素基は、後述するように、セルロースナノファイバー複合体の製造時に原料として用いられる第1級アミン又は第2級アミン由来のものである。具体例として以下の炭化水素基が挙げられる。
・炭素数1の炭化水素基:メチル基。
・炭素数2〜30の飽和の、直鎖状の炭化水素基:エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、ドコシル基、オクタコサニル基。
・炭素数2〜30の不飽和の、直鎖状の炭化水素基:オレイル基、ミリストレイル基、パルミトレイル基、リノレイル基、リノレニル基、エイコサニル基。
炭素数2〜30の飽和の、分岐状の炭化水素基:イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、t−ペンチル基、イソへキシル基、2−ヘキシル基、ジメチルブチル基、エチルブチル基。
【0029】
炭化水素基の炭素数は、熱硬化性樹脂との組み合わせによって任意に選択されるが、1以上、特に3以上、とりわけ10以上であることが好ましく、また30以下、特に20以下、とりわけ18以下であることが好ましい。例えば1以上30以下であることが好ましく、3以上20以下であることが好ましく、10以上18以下であることが一層好ましい。炭素数が上述の範囲にあることで、セルロースナノファイバー複合体と熱硬化性樹脂が均一な混合状態となり、低線熱膨張係数など樹脂組成物として良好な物性が得られる。
【0030】
また前記炭化水素基の他にも、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基など親水基を有する炭化水素基や、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのポリエーテル鎖や、ラクチド、カプロラクトンなどのポリエステル鎖を有する炭化水素基も、本発明で用いるセルロースナノファイバー複合体においてアミド結合を介して結合する炭化水素基として、好適に用いられる。
【0031】
また前記炭化水素基の他にも、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの脂環式炭化水素基や、ベンジル基、フェニル基などの芳香族炭化水素基も、本発明で用いるセルロースナノファイバー複合体においてアミド結合を介して結合する炭化水素基として、好適に用いられる。
【0032】
セルロースナノファイバー複合体中の炭化水素基の平均結合量(セルロースナノファイバー複合体の単位質量当たりの平均結合量)は、好ましくは0.1mmol/g以上、更に好ましくは0.5mmol/g以上、そして、好ましくは3mmol/g以下、更に好ましくは2mmol/g以下、特に好ましくは1mmol/g以下である。より具体的には、好ましくは0.1mmol/g以上3mmol/g以下、更に好ましくは0.1mmol/g以上2mmol/g以下、特に好ましくは0.5mmol/g以上1mmol/g以下である。炭化水素基の平均結合量は、次式により算出される。次式において、「炭化水素基導入前のセルロースナノファイバーのカルボキシル基含有量」は、前記<セルロースナノファイバーのカルボキシル基含有量の測定方法>により測定され、「炭化水素基導入後のセルロースナノファイバー複合体のカルボキシル基含有量」は、後述する<セルロースナノファイバー複合体のカルボキシル基含有量の測定方法>により測定される。
炭化水素基の結合量(mmol/g)=炭化水素基導入前のセルロースナノファイバーのカルボキシル基含有量(mmol/g)−炭化水素基導入後のセルロースナノファイバー複合体のカルボキシル基含有量(mmol/g)
【0033】
また、セルロースナノファイバー複合体中の炭化水素基の平均結合量から、次式により、原料であるセルロースナノファイバーへの炭化水素基の導入率を算出することができる。
炭化水素基の導入率(%)={セルロースナノファイバー複合体中の炭化水素基の平均結合量(mmol/g)/炭化水素基導入前のセルロースナノファイバーのカルボキシル基含有量(mmol/g)}×100
【0034】
セルロースナノファイバー複合体は、好ましくは、カルボキシル基を有するセルロースナノファイバーの該カルボキシル基をアミド化することで得られる。この場合、セルロースナノファイバー複合体中のカルボキシル基のすべてがアミド化されていてもよく、あるいはカルボキシル基がアミド化されずに残存していても構わないし、更にカルボキシル基が第1〜2級アミン塩化した状態で残存されていても構わない。本発明で用いるセルロースナノファイバー複合体のカルボキシル基含有量は、好ましくは0mmol/g以上、更に好ましくは0.2mmol/g以上、そして、好ましくは2.9mmol/g以下、更に好ましくは1mmol/g以下、特に好ましくは0.8mmol/g以下である。より具体的には、好ましくは0mmol/g以上2.9mmol/g以下、更に好ましくは0mmol/g以上1mmol/g以下、特に好ましくは0.2mmol/g以上0.8mmol/g以下である。セルロースナノファイバー複合体のカルボキシル基含有量は、次のようにして測定される。
【0035】
<セルロースナノファイバー複合体のカルボキシル基含有量の測定方法>
乾燥質量0.5gのセルロースナノファイバー複合体を100mLビーカーにとり、イオン交換水又はメタノール/水=2/1の混合溶媒を加えて全体で55mLとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて分散液を調製し、セルロースナノファイバー複合体が十分に分散するまで該分散液を攪拌する。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5〜3に調整し、自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、商品名「AUT−50」)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定し、pH11になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、セルロースナノファイバー複合体のカルボキシル基含有量を算出する。
セルロースナノファイバー複合体のカルボキシル基含有量(mmol/g)=水酸化ナトリウム滴定量(ml)×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)/微細セルロース繊維複合体の質量(0.5g)
【0036】
セルロースナノファイバー複合体は、好ましくは、セルロースナノファイバーに、炭化水素基を有する第1級アミン化合物又は第2級アミン化合物(以下、これらを総称して「アミン化合物」とも言う。)を、アミド結合を介して結合させることで得ることができる。
【0037】
使用されるアミン化合物は、製造目的物であるセルロースナノファイバー複合体において、アミド結合又はイオン結合を介して結合する炭化水素基を構成するものである。第1級アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン等のモノアルキルアミンが挙げられる。第2級アミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジオクタデシルアミン等のジアルキルアミンが挙げられる。
【0038】
アミン化合物とセルロースナノファイバーとのアミド化反応を効率良く進行させる観点から、反応系に縮合剤を添加してもよい。縮合剤の添加は、セルロースナノファイバーの分散液中にアミン化合物を添加した後が好ましい。縮合剤としては、カルボジイミド系縮合剤、トリアジン系縮合剤、ホスホニウム型縮合剤、ベンゾトリアゾール型縮合剤、イミダゾール系縮合剤、極性基含有ハロゲン化カルボン酸等が使用できる。具体的には、例えば、DMT−MM(4−(4,4−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルフォリニウムクロライド)、EDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロライド)、BOP(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェイト)、ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェイト、HBTU(o−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N',N'−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェイト)、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン等が挙げられる。
【0039】
アミン化合物とセルロースナノファイバーとのアミド化反応において、反応系の温度(アミド化反応の反応温度)は、好ましくは20℃以上80℃以下であり、反応時間は好ましくは1時間以上24時間以下である。アミド化反応の終了後、常法に従って反応系を洗浄・ろ過して、未反応物や各種副生成物等の不純物を除去する。こうして、セルロースナノファイバーに炭化水素基がアミド結合を介して結合してなるセルロースナノファイバー複合体が得られる。セルロースナノファイバー複合体は、洗浄時に使用した溶媒(例えばアセトン)を含浸させた膨潤ゲルであってもよく、あるいは乾燥した繊維状や粉末状等であってもよい。
【0040】
本発明の樹脂組成物は、その構成成分として、上述したセルロースナノファイバー又はセルロースナノファイバー複合体に加えて熱硬化性樹脂を含有している。熱硬化性樹脂は、本発明の樹脂組成物において、セルロースナノファイバー又はセルロースナノファイバー複合体と均一に分散した状態で存在している。熱硬化性樹脂の種類に特に制限はない。熱硬化性樹脂の例としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は1種を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。これらの熱硬化性樹脂のうち、特にエポキシ樹脂を用いることが、セルロースナノファイバー又はセルロースナノファイバー複合体との均一な分散性が一層高くなる点から好ましい。
【0041】
本発明の樹脂組成物の構成成分として、セルロースナノファイバー複合体及び熱硬化性樹脂を用いる場合には、この2成分でもって両者が均一に分散した状態の組成物を得ることができる。一方、本発明の樹脂組成物の構成成分として、セルロースナノファイバー及び熱硬化性樹脂を用いる場合には、第3成分としてアルキルイミダゾリン系分散剤を併用することが、セルロースナノファイバーと熱硬化性樹脂との均一な分散が高まる点から有利である。以下の説明においては、セルロースナノファイバー複合体及び熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物のことを「樹脂組成物A」とも言う。また、セルロースナノファイバー、熱硬化性樹脂及びアルキルイミダゾリン系分散剤を含む樹脂組成物のことを「樹脂組成物B」とも言う。
【0042】
樹脂組成物Bに含まれる前記のアルキルイミダゾリン系分散剤としては、例えばイミダゾリン環における1位又は3位の窒素原子のうちの少なくとも1箇所の窒素原子にアルキル基が結合しているものを用いることができる。あるいは、イミダゾリン環における2位、4位又は5位の炭素原子のうちの少なくとも1箇所の炭素原子にアルキル基が結合しているものを用いることができる。アルキル基としては、例えば炭素数が2以上、特に6以上、とりわけ10以上であり、30以下、特に20以下、とりわけ18以下である飽和又は不飽和の基を用いることができる。具体的には、炭素数が2以上30以下、特に6以上20以下、とりわけ10以上18以下である飽和又は不飽和のアルキル基が好ましい。イミダゾリン環に2以上のアルキル基が結合している場合、各アルキル基の種類は同じであってもよく、又は異なっていてもよい。特に好ましいアルキルイミダゾリン系分散剤は、イミダゾリン環における1位及び3位の窒素原子に同一の又は異なる炭素原子が結合している化合物である。
【0043】
本発明の樹脂組成物においては、該樹脂組成物中にセルロースナノファイバー又はセルロースナノファイバー複合体が均一に分散した状態になっているので、該樹脂組成物に占めるセルロースナノファイバー又はセルロースナノファイバー複合体の割合を過度に高くしなくても、該樹脂組成物の特性の向上を図ることができる。例えば本発明の樹脂組成物が樹脂組成物Aである場合、樹脂組成物Aにおけるセルロースナノファイバー複合体の含有量は1質量%以上、特に1.2質量%以上、とりわけ1.5質量%以上であることが好ましく、また50質量%以下、特に20質量%以下、とりわけ10質量%以下であることが好ましい。例えばセルロースナノファイバー複合体の含有量は1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、1.2質量%以上20質量%以下であることが更に好ましく、1.5質量%以上10質量%以下であることが一層好ましい。
【0044】
一方、樹脂組成物Aにおける熱硬化性樹脂の含有量は50質量%以上、特に80質量%以上、とりわけ90質量%以上であることが好ましく、また99質量%以下、特に98.8質量%以下、とりわけ98.5質量%以下であることが好ましい。例えば熱硬化性樹脂の含有量は50質量%以上99質量%以下であることが好ましく、80質量%以上98.8質量%以下であることが更に好ましく、90質量%以上98.5質量%以下であることが一層好ましい。
【0045】
本発明の樹脂組成物が樹脂組成物Bである場合、樹脂組成物Bにおけるセルロースナノファイバーの含有量は1質量%以上、特に1.2質量%以上、とりわけ1.5質量%以上であることが好ましく、また50質量%以下、特に20質量%以下、とりわけ10質量%以下であることが好ましい。例えばセルロースナノファイバーの含有量は1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、1.2質量%以上20質量%以下であることが更に好ましく、1.5質量%以上10質量%以下であることが一層好ましい。
【0046】
一方、樹脂組成物Bにおける熱硬化性樹脂の含有量は50質量%以上、特に80質量%以上、とりわけ90質量%以上であることが好ましく、また99質量%以下、特に98.8質量%以下、とりわけ98.5質量%以下であることが好ましい。例えば熱硬化性樹脂の含有量は50質量%以上99質量%以下であることが好ましく、80質量%以上98.8質量%以下であることが更に好ましく、90質量%以上98.5質量%以下であることが一層好ましい。
【0047】
樹脂組成物Bにおけるアルキルイミダゾリン系分散剤の含有量は0・1質量%以上、特に0.5質量%以上、とりわけ1質量%以上であることが好ましく、また50質量%以下、特に20質量%以下、とりわけ5質量%以下であることが好ましい。例えばアルキルイミダゾリン系分散剤の含有量は0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上20質量%以下であることが更に好ましく、1質量%以上5質量%以下であることが一層好ましい。
【0048】
本発明の樹脂組成物は、セルロースナノファイバー又はセルロースナノファイバー複合体が熱硬化性樹脂中に均一に分散した状態になっているので、熱硬化性樹脂が本来有している特性と相まって、低線熱膨張係数を有するものとなる。しかも、この樹脂組成物に含まれる熱硬化性樹脂は汎用のものなので、経済的に有利である。したがって、この樹脂組成物は、ガラス代替の材料として、例えば光学レンズ、太陽電池の表面材、表示素子の基板などの原料として好適に用いられる。
【0049】
次に、本発明の樹脂組成物の好適な製造方法について説明する。製造すべき樹脂組成物が、上述の樹脂組成物Aである場合には、以下の(A1)、(A2)及び(A3)工程を含む方法Aによって樹脂組成物Aを製造することができる。一方、製造すべき樹脂組成物が、上述の樹脂組成物Bである場合には、以下の(B1)、(B2)及び(B3)工程を含む方法Bによって樹脂組成物Bを製造することができる。
【0050】
〔方法A〕
(A1)炭化水素基がアミド結合を介して結合してなるセルロースナノファイバー複合体と、熱硬化前の熱硬化性樹脂プレポリマーとを混合して混合物を得る工程。
(A2)前記混合物を所定の形状に成形して成形体を得る工程。
(A3)前記成形体中の前記プレポリマーを熱硬化させる工程。
【0051】
〔方法B〕
(B1)セルロースナノファイバーと、熱硬化前の熱硬化性樹脂プレポリマーと、アルキルイミダゾリン系分散剤とを混合して混合物を得る工程。
(B2)前記混合物を所定の形状に成形して成形体を得る工程。
(B3)前記成形体中の該前記プレポリマーを熱硬化させる工程。
【0052】
方法Aの(A1)工程及び方法Bの(B1)工程で用いられる熱硬化性樹脂プレポリマーとしては、熱硬化性樹脂の種類に応じて適切なものが選択される。例えば熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である場合、熱硬化性樹脂プレポリマーとしては、例えばビスフェノールA型、クレゾールノボラック型、ビスフェノールA型、フェノールノボラック型、グリシジルエーテル型、脂環型、グリシジルアミン型、グリシジルエステル型などのプレポリマーを用いることができる。
【0053】
硬化前の状態の熱硬化性樹脂プレポリマーは、一般に水には不要であるが有機溶剤には可溶である。したがって、炭化水素基の導入で疎水化されているセルロースナノファイバー複合体は、熱硬化性樹脂プレポリマーとの相溶性が良好である。それゆえ、セルロースナノファイバー複合体と熱硬化性樹脂プレポリマーとは、分散剤等の第3成分を用いなくても均一混合することが可能である。一方、炭化水素基の導入前の疎水化されていないセルロースナノファイバーは、熱硬化性樹脂プレポリマーとの相溶性が十分に高いとは言えない場合がある。そこで、セルロースナノファイバーと熱硬化性樹脂プレポリマーとを混合する場合には、上述したアルキルイミダゾリン系分散剤を併用することが有利である。これによって、セルロースナノファイバーと熱硬化性樹脂プレポリマーとを均一混合することが可能になる。
【0054】
方法Aの(A1)工程及び方法Bの(B1)工程において、熱硬化性樹脂プレポリマーと、セルロースナノファイバー又はセルロースナノファイバー複合体とを混合する場合には、セルロースナノファイバーを、揮発性溶媒を含んだ凝集体の状態で混合するか、又はセルロースナノファイバー複合体を、揮発性溶媒を含んだ凝集体の状態で混合することが好ましい。こうすることで、有機溶媒に可溶な性質を有する物質である熱硬化性樹脂プレポリマーと、セルロースナノファイバー又はセルロースナノファイバー複合体との一層均一な混合を達成することができる。
【0055】
セルロースナノファイバー又はセルロースナノファイバー複合体の凝集体は、例えば次の方法で調製することができる。まず、この凝集体を得るために用いられる揮発性溶媒としては、熱硬化性樹脂プレポリマーの溶解が可能な有機溶媒を用いることが好ましい。そのような有機溶媒の種類は、熱硬化性樹脂プレポリマーの種類に応じて様々であるが、一般的なものとしては例えばアセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどが挙げられる。これらの揮発性溶媒を用い、セルロースナノファイバー又はセルロースナノファイバー複合体の凝集体を形成する。この凝集体の形成は、例えば次のようにして行うことができる。セルロースナノファイバー又はセルロースナノファイバー複合体分散液(例えば、セルロースナノファイバー水分散液)に、セルロースナノファイバー又はセルロースナノファイバー複合体の貧分散媒となる前記揮発性溶媒(例えば、アセトン)を過剰量混合し、凝集体を形成させる。該凝集体をろ過や遠心分離等で溶媒を除去することで、揮発性溶媒を含んだ凝集体の状態で得ることができる。
【0056】
凝集体を形成するときの揮発性溶媒と、セルロースナノファイバー又はセルロースナノファイバー複合体の含有量との関係は次のとおりとすることが好ましい。すなわち、前述したように前記凝集体は、揮発性溶媒を含む状態からろ過や遠心分離をして製造されるので、結果的に揮発性溶媒によって膨潤した状態で得られる。樹脂組成物としたときの物性の点から、揮発性溶媒は完全に除去しないことが好ましく、このときの揮発性溶媒の含有量は50%以上が好ましく、特に80%以上が好ましい。
【0057】
以上の操作によって、セルロースナノファイバー複合体と、熱硬化性樹脂プレポリマーとを含む混合物(以下、この混合物のことを混合物Aと言う。)、又はセルロースナノファイバーと、熱硬化性樹脂プレポリマーと、アルキルイミダゾリン系分散剤とを含む混合物(以下、この混合物のことを混合物Bと言う。)が得られる。
【0058】
混合物Aに含まれるセルロースナノファイバー複合体の割合は1質量%以上、特に1.2質量%以上、とりわけ1.5質量%以上であることが好ましく、50質量%以下、特に20質量%以下、とりわけ10質量%以下であることが好ましい。例えばセルロースナノファイバー複合体の割合は1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、1.2質量%以上20質量%以下であることが更に好ましく、1.5質量%以上10質量%以下であることが一層好ましい。一方、混合物Aに含まれる熱硬化性樹脂プレポリマーの割合は50質量%以上、特に80質量%以上、とりわけ90質量%以上であることが好ましく、99質量%以下、特に98.8質量%以下、とりわけ98.5質量%以下であることが好ましい。例えば熱硬化性樹脂プレポリマーの割合は50質量%以上99質量%以下であることが好ましく、80質量%以上98.8質量%以下であることが更に好ましく、90質量%以上98.8質量%以下であることが一層好ましい。
【0059】
混合物Bに含まれるセルロースナノファイバーの割合は1質量%以上、特に1.2質量%以上、とりわけ1.5質量%以上であることが好ましく、50質量%以下、特に20質量%以下、とりわけ10質量%以下であることが好ましい。例えばセルロースナノファイバーの割合は1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、1.2質量%以上20質量%以下であることが更に好ましく、1.5質量%以上10質量%以下であることが一層好ましい。一方、混合物Bに含まれる熱硬化性樹脂プレポリマーの割合は50質量%以上、特に80質量%以上、とりわけ90質量%以上であることが好ましく、99質量%以下、特に98.8質量%以下、とりわけ98.5質量%以下であることが好ましい。例えば熱硬化性樹脂プレポリマーの割合は50質量%以上99質量%以下であることが好ましく、80質量%以上98.8質量%以下であることが更に好ましく、90質量%以上98.5質量%以下であることが一層好ましい。また、混合物Bに含まれるアルキルイミダゾリン系分散剤の割合は0.1質量%以上、特に0.5質量%以上、とりわけ1質量%以上であることが好ましく、50質量%以下、特に20質量%以下、とりわけ5質量%以下であることが好ましい。例えばアルキルイミダゾリン系分散剤の割合は0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上20質量%以下であることが更に好ましく、1質量%以上5質量%以下であることが一層好ましい。
【0060】
次に、前記の混合物A又は混合物Bに対して、熱硬化性樹脂プレポリマーの硬化剤を添加する。硬化剤としては、熱硬化性樹脂の技術分野でこれまで用いられてきたものと同様のものを用いることができる。例えばトリエチレンテトラミンなどの直鎖ポリアミン等のポリアミンや、酸無水物などを用いることができる。硬化剤の添加量は、所望の物性に応じて適宜選択できるが、前記プレポリマーに対して0.1〜20質量%の範囲とすることができる。
【0061】
(A1)工程又は(B1)工程において、セルロースナノファイバー又はセルロースナノファイバー複合体を、凝集体の状態で混合した場合には、該凝集体の形成に用いた揮発性溶媒を除去することが好ましい。揮発性溶媒の除去は、少なくとも(A3)工程又は(B3)工程の前に行うことが好ましく、特に上述の硬化剤を混合物A又は混合物Bに添加する前に行うことが更に好ましい。揮発性溶媒の除去は、例えば混合物A又は混合物Bを減圧状態下に静置して揮発性溶媒を揮発させることで行うことができる。
【0062】
硬化剤の添加が終了したら、(A2)工程又は(B2)工程を行い、混合物A又は混合物Bを所定の形状に成形して成形体を得る。成形体の形状は、目的とする樹脂組成物の形状と同様にすることが好ましい。例えば板状の樹脂組成物を製造したい場合には、成形体の形状もそれに対応した板状とすればよい。混合物A又は混合物Bから成形体を成形するに際しては、混合物A又は混合物Bを予備加熱してこれらの混合物を半硬化させることが好ましい。このような半硬化処理を行うことで、成形体の保形性が高まるとともに、熱硬化性樹脂プレポリマーの硬化を首尾よく行うことができる。半硬化処理は、例えば所定の形状に成形した混合物A又は混合物Bを、熱プレスする等して行うことができる。熱プレスの温度や圧力は、熱硬化性樹脂プレポリマーの種類や、硬化剤の種類に応じ適切に設定すればよい。一例として、熱硬化性樹脂プレポリマーとしてビスフェノールA型プレポリマーを用い、硬化剤としてトリエチレンテトラミンを用いる場合には、熱プレスの温度を50℃以上300℃以下に設定することができる。圧力は0.01MPa以上1MPa以下に設定することができる。熱プレスの時間は、この温度及び圧力範囲であることを条件として、1分以上60分以下に設定することができる。
【0063】
このようにして成形体が得られたら、(A3)工程又は(B3)工程において、この成形体に含まれる熱硬化性樹脂プレポリマーの硬化を行う。硬化は一般に加熱によって行うことができる。加熱温度は、熱硬化性樹脂プレポリマーの種類や、硬化剤の種類に応じ適切に設定すればよい。一例として、熱硬化性樹脂プレポリマーとしてビスフェノールA型プレポリマーを用い、硬化剤としてトリエチレンテトラミンを用いる場合には、加熱温度を100℃以上300℃以下に設定することができる。加熱時間は、この温度範囲であることを条件として、1分以上600分以下に設定することができる。
【0064】
以上の工程によって、目的とする樹脂組成物が得られる。このようにして得られた樹脂組成物は、先に述べたとおり、線熱膨張係数が低いものとなる。
【0065】
前述した本発明の実施態様に関し、更に以下の付記を開示する。
<1>
セルロースナノファイバーと熱硬化性樹脂とを含有する樹脂組成物であって、
前記セルロースナノファイバーが、アミド結合を介して炭化水素基が結合してなるセルロースナノファイバー複合体である樹脂組成物。
【0066】
<2>
セルロースナノファイバーと熱硬化性樹脂とを含有する樹脂組成物であって、
更にアルキルイミダゾリン系分散剤を含む樹脂組成物。
【0067】
<3>
前記セルロースナノファイバー複合体の含有量が1質量%以上50質量%以下である<1>に記載の樹脂組成物。
<4>
前記セルロースナノファイバー複合体の含有量は1質量%以上、特に1.2質量%以上、とりわけ1.5質量%以上であることが好ましく、また50質量%以下、特に20質量%以下、とりわけ10質量%以下であることが好ましい。例えばセルロースナノファイバー複合体の含有量は1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、1.2質量%以上20質量%以下であることが更に好ましく、1.5質量%以上10質量%以下であることが一層好ましい<1>に記載の樹脂組成物。
<5>
前記炭化水素基は、炭素数1の炭化水素基であるか、又は炭素数2以上30以下の飽和若しくは不飽和の直鎖状若しくは分岐状の炭化水素基である<1>又は<3>に記載の樹脂組成物。
<6>
前記炭化水素基の炭素数は、1以上、特に3以上、とりわけ10以上であることが好ましく、また30以下、特に20以下、とりわけ18以下であることが好ましい。例えば1以上30以下であることが好ましく、3以上20以下であることが好ましく、10以上18以下であることが一層好ましい<5>に記載の樹脂組成物。
<7>
前記アルキルイミダゾリン系分散剤の含有量が、前記セルロースナノファイバーに対して10質量%以上500質量%以下である<2>に記載の樹脂組成物。
【0068】
<8>
前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である<1>ないし<7>のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
<9>
<1>に記載の樹脂組成物の製造方法であって、
(A1)炭化水素基がアミド結合を介して結合してなるセルロースナノファイバー複合体と、熱硬化前の熱硬化性樹脂プレポリマーとを混合して混合物を得、
(A2)前記混合物を所定の形状に成形して成形体を得、
(A3)前記成形体中の前記プレポリマーを熱硬化させる工程を有する樹脂組成物の製造方法。
<10>
<2>に記載の樹脂組成物の製造方法であって、
(B1)セルロースナノファイバーと、熱硬化前の熱硬化性樹脂プレポリマーと、アルキルイミダゾリン系分散剤とを混合して混合物を得、
(B2)前記混合物を所定の形状に成形して成形体を得、
(B3)前記成形体中の前記プレポリマーを熱硬化させる工程を有する樹脂組成物の製造方法。
<11>
(A1)工程におけるセルロースナノファイバー複合体が揮発性溶媒を含んだ凝集体であるか、又は(B1)工程におけるセルロースナノファイバーが揮発性溶媒を含んだ凝集体であり、
(A3)工程又は(B3)工程の前に前記揮発性溶媒を除去する工程を更に有する<9>又は<10>に記載の樹脂組成物の製造方法。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」及び「部」はそれぞれ「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0070】
〔実施例1〕
(1)セルロースナノファイバー複合体及び該複合体を含む凝集体の製造
針葉樹の漂白クラフトパルプ(製造会社:フレッチャー チャレンジ カナダ、商品名「Machenzie」、CSF650ml)を天然セルロース繊維として用いた。TEMPOとしては、市販品(製造会社:ALDRICH、Free radical、98%)を用いた。次亜塩素酸ナトリウムとしては、市販品(製造会社:和光純薬工業(株))を用いた。臭化ナトリウムとしては、市販品(製造会社:和光純薬工業(株))を用いた。まず、針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維100gを9900gのイオン交換水で十分に攪拌した後、パルプ質量100gに対し、TEMPO1.25%、臭化ナトリウム12.5%、次亜塩素酸ナトリウム28.4%をこの順で添加した。pHスタットを用い、0.5M水酸化ナトリウムを滴下してpHを10.5に保持し、酸化反応を行った。酸化を120分行った後に滴下を停止し、カルボキシル基含有セルロース繊維を得た。イオン交換水を用いてカルボキシル基含有セルロース繊維を十分に洗浄し、次いで脱水処理を行った。その後、得られたカルボキシル基含有セルロース繊維100gをイオン交換水9900gに分散させ、高圧ホモジナイザー(HJP−25005、(株)スギノマシン製)を用いて、吐出圧力245MPaの条件で2回処理を行った。その操作によって繊維の微細化処理を行い、セルロースナノファイバーの分散液を得た。分散液の固形分濃度は1.0%であった。このセルロースナノファイバーの平均繊維径は3.3nmであり、カルボキシル基含有量は1.2mmol/gであった。
【0071】
ビーカーに前記セルロースナノファイバーの分散液4085g(固形分濃度1.3%)とイオン交換水4085gとを加えて、固形分濃度0.5%のセルロースナノファイバー分散液とし、この分散液をメカニカルスターラーにて室温下、3時間攪拌した。続いて、このセルロースナノファイバー分散液に1M塩酸水溶液を245g仕込み、室温下で一晩反応させた。反応終了後、アセトンで再沈し、ろ過、その後、アセトン/イオン交換水にて洗浄を行い、塩酸及び塩を除去した。最後にアセトンを加えろ過し、セルロースナノファイバーがアセトンによって膨潤した状態のセルロースナノファイバー凝集体(固形分濃度5.0%)を得た。
【0072】
メカニカルスターラー、還流管を備えた4口丸底フラスコに、前記セルロースナノファイバー凝集体(固形分濃度を5.0%から4.4%に調整したもの)488.80gを仕込み、t−ブチルアルコール4800g加えて、固形分濃度0.5%のセルロースナノファイバー凝集体分散液とし、室温下、1時間攪拌した。続いて、オクタデシルアミン17.50g(セルロースナノファイバーのカルボキシル基1molに対してアミン基2molに相当)、DMT−MM17.97gを仕込み溶解を確認し、55℃、6時間反応を行った。反応終了後、ろ過し、その後、メタノール/イオン交換水にて洗浄を行い、未反応オクタデシルアミン、DMT−MMを除去した。最後にアセトンを加えろ過し、セルロースナノファイバーにオクタデシル基がアミド結合を介して結合した、セルロースナノファイバー複合体を調製した。このセルロースナノファイバー複合体は、ろ過に用いたアセトンによって膨潤し、凝集体となっていた。
【0073】
(2)熱硬化性樹脂プレポリマーとの混合物の調製
(1)で得られたセルロースナノファイバー複合体の凝集体(固形分質量0.48g)と、ビスフェノールA型プレポリマー(DIC(株)の850−CRP)30gとを攪拌機(自転・公転真空ミキサー ARV−310、(株)シンキー製、回転数2000rpm、時間2分)を用いて混合して混合物を得た。この混合物を50mmHgの減圧下に1日間静置して、混合物からアセトンを揮発除去した。アセトンが除去された後、混合物中にプレポリマーの硬化剤であるトリエチレンテトラミンを添加し、再度攪拌機(自転・公転真空ミキサー ARV−310、(株)シンキー、回転数2000rpm、圧力0.3kPa、時間2分)を用いて混合した。添加量はプレポリマーに対して10%とした。
【0074】
(3)成形体の製造
(2)で得られた混合物を熱プレスによる予備加熱で半硬化処理した。厚み0.45mm、内径10cm角の金属製枠をステンレス製の金属板に挟み、該金属枠中に前記混合物を注入することで熱プレスを行った。熱プレスの条件は、温度70℃、圧力0.1MPa、時間30分とした。この熱プレスによってフィルム状の成形体を得た。
【0075】
(4)プレポリマーの硬化
(3)で得られたフィルム状の成形体を恒温槽中で130℃で5時間にわたり加熱して、プレポリマーの硬化を行った。これによって、厚さ0.45mmのフィルムからなる熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0076】
〔実施例2〕
本実施例においては、セルロースナノファイバー複合体として、オクチル基がアミド基を介して結合したものを製造した。すなわち、実施例1においてオクタデシルアミンをオクチルアミン8.4g(セルロースナノファイバーのカルボキシル基1molに対してアミン基2molに相当)に代えた。これ以外は実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0077】
〔実施例3〕
本実施例においては、実施例1における(2)の工程でのセルロースナノファイバー複合体の配合量を、以下の表1に示す値とした。これ以外は実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0078】
〔実施例4〕
実施例1におけるセルロースナノファイバー複合体を、イソプロパノールと混合し、固形分濃度0.5質量%のセルロースナノファイバー複合体分散液を得た。次いで前記セルロースナノファイバー複合体分散液200g(固形分1.0g)とエポキシ樹脂プレポリマー(PCE―750ペルノックス、(株)製)4.0gを混合した。該混合液をポリスチレン製シャーレに注ぎ、23℃、50%RH環境で5日間静置することで、イソプロパノールを揮発させ、セルロースナノファイバー複合体とプレポリマーの複合体を得た。該複合体を実施例1と同様に熱プレス、硬化を行うことで、熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0079】
〔実施例5〕
実施例2におけるセルロースナノファイバー複合体を、イオン交換水と混合し、固形分0.5質量%のセルロースナノファイバー複合体分散液を得た。次いでこのセルロースナノファイバー複合体分散液200g(固形分1.0g)とエポキシ樹脂プレポリマー(PCE―750、ペルノックス(株))4.0gを混合した。該混合液をポリスチレン製シャーレに注ぎ、23℃、50%RH環境で5日間静置することで、イオン交換水を揮発させ、セルロースナノファイバー複合体とプレポリマーの複合体を得た。該複合体を実施例2と同様に熱プレス、硬化を行うことで、熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0080】
〔実施例6及び7〕
本実施例においては、実施例1におけるセルロースナノファイバー複合体の凝集体を用いる代わりに、該セルロースナノファイバー複合体の凝集体を製造する過程で得られたセルロースナノファイバーの凝集体を用いた。このセルロースナノファイバーの凝集体の配合量は、表1に示すとおりとした。また、アルキルイミダゾリン系分散剤として、ホモゲノールL−95(花王(株)製)を、同表に示す配合量で用いた。これら以外は実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0081】
〔比較例1〕
本比較例は、実施例1において、セルロースナノファイバー複合体の凝集体を用いなかった例である。これ以外は実施例1と同様にして熱硬化性樹脂を得た。
【0082】
〔比較例2〕
本比較例は、実施例6において、アルキルイミダゾリン系分散剤を用いなかった例である。これ以外は実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0083】
〔比較例3〕
本比較例は実施例4において、セルロースナノファイバー複合体の凝集体を用いなかった例である。これ以外は実施例4と同様にして熱硬化性樹脂を得た。
【0084】
〔評価〕
各実施例及び各比較例で得られた樹脂組成物及び樹脂について、以下に述べる方法で線熱膨張係数を測定した。その結果を以下の表1に示す。また樹脂組成物について、各材料の配合量から、それに含まれるセルロースナノファイバー又はセルロースナノファイバー複合体又はセルロースナノファイバーの割合を導き、これらの結果を以下の表1に示す。
【0085】
〔線熱膨張係数の測定〕
線熱膨張係数は熱機械的分析装置TMA/SS6100(セイコーインスツルメンツ(株))の引張モードを用いて測定した。0℃から300℃まで昇温速度5℃/分、荷重7mN、窒素雰囲気下で昇温し、20℃から200℃までのサンプル伸びから線熱膨張係数を算出した。
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示す結果から明らかなとおり、セルロースナノファイバー複合体を含む実施例1〜3やセルロースナノファイバーとアルキルイミダゾリン系分散剤を含む実施例6、7は、セルロースナノファイバーを含まない比較例1やアルキルイミダゾリン系分散剤を含まない比較例2に比べて、低線熱膨張係数を示す。これはセルロースナノファイバー複合体又はアルキルイミダゾリン系分散剤を用いることで、熱硬化性樹脂中でのセルロースナノファイバーが均一に分散したためと考えられる。特に炭化水素基の炭素数が18である実施例1、3については線熱膨張係数が60ppm/K以下と顕著に低下した。また実施例4、5はセルロースナノファイバー複合体含有量が20%の樹脂組成物であるが、線熱膨張係数は50ppm/K以下と顕著に低下した。