(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239887
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】燃料集合体
(51)【国際特許分類】
G21C 3/30 20060101AFI20171120BHJP
G21C 3/324 20060101ALI20171120BHJP
G21C 3/33 20060101ALI20171120BHJP
G21C 3/326 20060101ALI20171120BHJP
G21C 9/016 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
G21C3/30 A
G21C3/30 H
G21C3/30 K
G21C3/30 J
G21C3/30 Z
G21C3/32 E
G21C9/00 H
G21C3/30 R
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-154068(P2013-154068)
(22)【出願日】2013年7月25日
(65)【公開番号】特開2015-25690(P2015-25690A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年7月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229461
【氏名又は名称】株式会社グローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100129779
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 俊久
(74)【代理人】
【識別番号】100113974
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 拓人
(72)【発明者】
【氏名】岩本 優二
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大輔
【審査官】
鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−070138(JP,A)
【文献】
特表2000−513095(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0283790(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 3/30−3/326
G21C 3/32
G21C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料棒と、下部タイプレートと、チャンネルボックスとを備えた燃料集合体であって、
前記下部タイプレートの表面および前記チャンネルボックスの表面が、前記燃料棒の被覆管よりも高い融点を有する材料で構成されていること、
前記下部タイプレートと前記チャンネルボックスとが結合されていること、および、
前記下部タイプレートの表面と前記チャンネルボックスの表面とが、同じ材料で構成されていること、
を特徴とする、燃料集合体。
【請求項2】
上部タイプレートと、結合棒と、をさらに備え、
前記上部タイプレートと前記下部タイプレートとが、前記チャンネルボックスおよび前記結合棒のうちの少なくとも1つの部材によって結合されており、
前記少なくとも1つの部材の表面が、前記燃料棒の被覆管よりも高い融点を有する材料で構成されていること、
を特徴とする、請求項1に記載の燃料集合体。
【請求項3】
前記少なくとも1つの部材の表面が、前記下部タイプレートの表面または前記チャンネルボックスの表面と同一の材料で構成されていることを特徴とする、請求項2に記載の燃料集合体。
【請求項4】
前記結合棒がウォータロッドであることを特徴とする、請求項2に記載の燃料集合体。
【請求項5】
燃料棒の被覆管よりも高い融点を有する前記材料が、セラミックスマトリックス複合材料、セラミックス、金属合金、またはこれらの組み合わせであることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の燃料集合体。
【請求項6】
燃料棒の被覆管よりも高い融点を有する前記材料が、SiC/SiC複合材料、ジルコニア、およびタングステンからなる一群から選択された材料であることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の燃料集合体。
【請求項7】
前記下部タイプレートの格子面に近接して配置され、融点の異なる材料で複数の開口部が形成された閉塞構造をさらに備え、
前記閉塞構造は、前記融点の異なる材料のうちの一方が融解することにより、前記開口部が部分的に閉塞するように構成されていること、
を特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の燃料集合体。
【請求項8】
前記閉塞構造が、デブリフィルタであることを特徴とする、請求項7に記載の燃料集合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰水型原子力発電プラントで使用される燃料集合体に関し、特に高耐熱素材の構成部材を有する燃料集合体に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料集合体は、燃料ペレットを格納した複数の燃料棒の両端を保持する上部および下部タイプレートや、複数の燃料棒の周囲を囲うチャンネルボックス、燃料棒とともに上部と下部タイプレートとの間に保持されるウォータロッドなどの部材で構成されている。従来これらの構成部品は、ジルコニウム合金やステンレス鋼などの比較的融点が低い部材で構成されることが一般的であった。
【0003】
ところで、原子炉が何らかの原因によりあらかじめ想定していた設計基準事象を大きく超えるシビアアクシデント事象が生じると、炉心の温度が非常に高温になって炉心溶融状態に至る。かかる事象下では、推定最高温度は2500℃から2800℃というジルコニウム合金やステンレス鋼などの融点よりも高い状態となるため、燃料棒の被覆管とともに下部タイプレートやチャンネルボックスが溶融して、燃料棒の内部に保持されていた燃料ペレットや、ジルコニウムの酸化物、溶融した構成部材などの溶融デブリが炉心外に拡散して、シビアアクシデント後の原子炉解体処理における燃料部材の取り出し作業が困難になるという問題があった。このため、シビアアクシデント時に溶融デブリの拡散を防止する技術が求められていた。
【0004】
このような技術的課題を解決する方法として、燃料棒の被覆管を融点の高い材料で構成することが考えられる。しかしながら、燃料棒には、耐熱性のみならず、高圧力に耐えられること、熱伝導率が高いこと、化学的安定性が高いこと、局所的な応力などの機械的な強度が高いこと、熱中性子の吸収断面積が小さいこと、など様々な性能が要求されるため、これらの要求性能を満たしたうえで、さらにシビアアクシデント事象時の高温にも耐えることが可能な素材を見つけることは容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−90489号公報
【発明の概要】
【0006】
燃料集合体の下部タイプレートおよびチャンネルボックスの表面を、燃料棒の被覆管よりも高い融点を有する材料で構成することによって、シビアアクシデント事象下においても溶融デブリが燃料集合体の外部へ拡散することを防止し、炉心外の部材の損傷を限定的なものとする。すなわち、下部タイプレートおよびチャンネルボックスの表面を、燃料棒の被覆管が融解するような高温状態にも耐えることができる高融点材料で構成することにより、下部タイプレートおよびチャンネルボックスで画成される容量内に溶融デブリを保持し、溶融デブリが燃料集合体の外部へ拡散することを防止する。これにより、シビアアクシデント後の処理における取り扱いの困難性を改善することができる。また、燃料集合体を構成する燃料棒には、従来から利用されてきたジルコニウム合金製の燃料棒をそのまま利用することができる。
【0007】
さらに、下部タイプレートとチャンネルボックスとは結合されていることが望ましい。すなわち、下部タイプレートとチャンネルボックスとが一体となって容器を形成することにより、容器内部に保持された溶融デブリの取り扱いが容易になる。ここで、下部タイプレートを構成する材料と、チャンネルボックスの表面を構成する材料とが、同一の材料であることが望ましい。
【0008】
また、燃料集合体の上部タイプレートと下部タイプレートとが、チャンネルボックスおよび結合棒のうちの少なくとも1つの結合部材によって結合され、且つかかる結合部材の表面も燃料棒の被覆管よりも高い融点を有する材料で構成されていることが望ましい。ここで、結合棒とは、チャンネルボックス内の上部タイプレートと下部タイプレートとの間に配置され、燃料棒よりも高い融点を有する棒状の構造物である。結合棒は、ウォータロッドであることが望ましいが、燃料棒の一部を高融点材料で表面をコーティングした棒状の構造物で置き換えたものでもよい。上部タイプレートと下部タイプレートとの間に配置された高融点の部材で両者を結合することにより、燃料集合体を一体として取り扱うことができ、シビアアクシデント後の処理における取り扱いの困難性を改善することができる。ここで、結合部材の材料は、下部タイプレートやチャンネルボックスを構成する材料とは、同一の材料であることが望ましい。
【0009】
さらに、下部タイプレートやチャンネルボックス等の表面を構成する高融点材料は、セラミックスマトリックス複合材料、セラミックス、金属合金、またはこれらの組み合わせであることが望ましい。さらに具体的には、SiC/SiC複合材料、ジルコニア、およびタングステンからなる一群から選択された材料であることが望ましい。これらの材料は、高融点であるのみならず、燃料集合体に要求される様々な性能も備えた材料であるからである。
【0010】
さらに、融点の異なる材料で複数の開口部が形成された閉塞構造を下部タイプレートの格子面に近接して配置することが望ましい。すなわち、シビアアクシデント時に高温になると、開口部を構成する材料のうちの融点の低い材料が融解して開口部が部分的に閉塞されることにより、開口部を流れる冷却水の流路を確保しつつ、融解前の開口部の大きさよりも小さな溶融デブリの拡散を防止することが可能となる。
【0011】
上述した閉塞部材としては、下部タイプレート近傍に配置されるデブリフィルタを、融点の異なる材料で構成することにより、通常運転時のデブリフィルタとシビアアクシデント時の閉塞部材を同一部材で兼ねることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る一実施例である燃料集合体の概略構成図である。
【
図2】本発明に係る一実施例の下部タイプレート近傍の概略構成図である。
【
図3】本発明に係る一実施例の下部タイプレート近傍の斜視図である。
【
図4】本発明に係る別の実施例の下部タイプレート近傍の概略構成図である。
【
図5】本発明に係るさらに別の実施例の燃料集合体の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態について、
図1〜
図5を参照しながら説明する。
【0014】
図1は燃料集合体1全体を示す概略構成図、
図2は下部タイプレート6近傍の概略構成図である。燃料集合体1は、ウォータロッド4と、ウォータロッド4の周囲に格子状に配列され、それぞれが燃料ペレットを内部に保持する被覆管を備えた複数の燃料棒3と、燃料棒3およびウォータロッド4の上部端栓が挿入される格子面を備えた上部タイプレート5と、燃料棒3およびウォータロッド4の下部端栓が挿入される格子面を備え、格子面の下部に炉心内の下部支持金具等に着座する円錐部を有する下部タイプレート6と、燃料棒3の上端と下端との間の位置で複数の燃料棒3を束ねて支持する支持格子7と、複数の燃料棒3と支持格子7との周囲を覆う角筒状のチャンネルボックス2と、上部タイプレート5に結合されたハンドル部8とを備える。
【0015】
上部タイプレート5と下部タイプレート6は、結合棒やチャンネルボックス2を介して結合されている。本実施形態における結合棒は、ウォータロッド4である。かかる構成により、ハンドル部8を発電所の設備等でつかむことで、燃料集合体1を一体として炉心へ装荷および炉心からの取り出しが可能となっている。
【0016】
燃料棒3の被覆管はジルコニウム合金で構成されている。このため、シビアアクシデント時に高温状態になると、溶解して内部の燃料ペレットを保持できなくなる可能性がある。
【0017】
これに対して、チャンネルボックス2および下部タイプレート6の表面は、セラミックスマトリックス複合材料の一種であるSiC/SiC複合材料により構成されている。SiC/SiC複合材料の融点は約2700℃と非常に高く、シビアアクシデント事象が生じた際にも溶融せずに、チャネルボックス2を側面、下部タイプレート6を底面とするバケツ形状を維持することができる。このため、燃料棒3から落下する酸化ウランの溶融物や、ジルコニウムの酸化物、溶融した構成部材などの溶融デブリをバケツ形状の容器の内部に保持することができる。
【0018】
また、上部タイプレート5と下部タイプレート6とを結合する部材(ウォータロッド4など)や、上部タイプレート5の表面も、SiC/SiC複合材料で構成されている。したがって、シビアアクシデント事象が生じた際にも燃料集合体1は一体構成を維持することができる。
【0019】
ところで、
図3に示すように、下部タイプレート6には、燃料棒3の下部端栓が挿入される燃料棒ピン孔11や冷却水を流すための冷却孔10が形成されている。このため、これらの孔よりも小さいデブリは、孔10、11を通過してしまう。このため、通過したデブリが燃料集合体外部へ拡散しないように、下部タイプレート6の格子面の下面に近接してデブリフィルタ9が配置されている。
【0020】
このデブリフィルタ9もシビアアクシデント時に溶融することがないように、SiC/SiC複合材料により構成されている。この際、デブリフィルタ9全体をSiC/SiC複合材料で構成してもよいが、本実施例では、溶融デブリの拡散防止効果をさらに向上するため、融点が異なる2つの材料(SiC/SiC複合材料とステンレス鋼)で構成する。
【0021】
すなわち、デブリフィルタ9を構成する格子板を、融点の高いSiC/SiC複合材料で構成された第1の格子板9aと、融点の低いステンレス鋼で構成された第2の格子板9bとを交互に配置して構成する。第1の格子板9aと第2の格子板9bとによって、冷却水が流れる多数の開口部12が画成される。シビアアクシデント時に燃料集合体1内部の温度が上昇すると、融点の低い第2の格子板9bが溶融するが、融点の高い第1の格子板9aは溶融せずに形状を維持する。このため、開口部12が溶融した第2の格子板9bにより部分的に閉塞されて、シビアアクシデント事象が生ずる前よりも開口面積が小さくなる。したがって、シビアアクシデント時にも冷却水の流路を確保しつつ、より小さな溶融デブリまで燃焼集合体1により保持することが可能となる。
【0022】
以上、燃料集合体1の構成について説明を行ったが、当業者であれば、燃料集合体1の構成や使用態様に応じて、適宜設計変更が可能であることは容易に想到できよう。例えば、チャンネルボックス2、ウォータロッド4、上部タイプレート5、および下部タイプレート6、閉塞部材9などの表面を構成する材料としては、上述したセラミックスマトリックス複合材料の他にも、ジルコニア(融点は約2700℃)などのセラミックスや、タングステン(融点は約3400℃)などの金属合金や、これらの組み合わせなど、燃料棒3の被覆管の融点よりも高い材料を適宜利用することができる。
【0023】
また、チャンネルボックス2および下部タイプレート6の表面のみならず、内部まで含めた部材全体を同一の材料で構成してもよい。さらに、チャンネルボックス2、ウォータロッド4、上部タイプレート5、および下部タイプレート6などの表面を構成する材料は同一の材料である必要はなく、それぞれの部材を異なる材料で構成してもよい。
【0024】
また、閉塞部材9は、デブリフィルタと兼用せずに、燃料集合体1の温度が上昇すると開口部が部分的に閉塞する機能を有する部材を、別途設けてもよい。さらに、閉塞部材9は、
図4に示すように下部タイプレート6の格子面の上面の近傍に配置してもよい。
【0025】
さらに、結合棒を、燃料棒3の表面を構成する材料よりも融点の高い材料で表面をコーティングした、燃料棒3と略同一の外形を有する棒状の構造物で構成し、燃料棒3の一部をかかる結合棒と置き換えてもよい。
図5は、外側から2本目の燃料棒をかかる結合棒13で置き換えた実施形態の概略構成図である。説明の重複を避けるために、
図1と同一の機能を有する部材は、同一の符号で示した。黒塗りつぶしで示された結合棒13は、燃料棒3と実質的に同一の外形を有するため、上部タイプレート5および下部タイプレート6の格子面を変更することなく、燃料棒3と置き換えることができる。結合棒13の表面はSiC/SiC複合材料で構成されているため、シビアアクシデント時に高温状態となって周囲の燃料棒3やウォータロッド4が溶融しても、結合棒13は溶融せずに上部タイプレート5および下部タイプレート6と結合した状態を保ち続け、燃料集合体1は一体構成を維持することができる。さらに、結合棒13の内部に燃料ペレットを充填することにより、燃料棒3としての機能を兼ねることも可能である。なお、結合棒13を構成する材料はSiC/SiC複合材料に限られるものではなく、上述したセラミックスマトリックス複合材料、セラミックス、金属合金や、これらの組み合わせで構成することができる。また結合棒13の配置(燃料棒3と置き換える位置)も適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 燃料集合体
2 チャンネルボックス
3 燃料棒(被覆管)
4 ウォータロッド
5 上部タイプレート
6 下部タイプレート
7 支持格子
8 ハンドル部
9 閉塞構造(デブリフィルタ)
9a 高融点部材で構成された格子板
9b 低融点部材で構成された格子板
10 冷却孔
11 燃料棒ピン孔
12 開口部
13 結合棒