【実施例】
【0019】
図1は本発明の対象となる原子炉圧力容器の全体構成とフランジ部の拡大図を示している。
図1左の原子炉圧力容器の全体構成によれば、円筒形上の原子炉圧力容器本体1の上部に原子炉圧力容器上蓋2が設置されている。
【0020】
なお
図1において、原子炉格納容器の上部には原子炉ウェル26を形成しこの部分に水を蓄えることで放射線を遮蔽している。このため、原子炉圧力容器1とその外側に設けられた原子炉格納容器(図示せず。具体的にはトップスラブ25の内側面)との間の環状空間をウェルシール装置27により閉鎖して、原子炉ウェル26の底部としている。バルクヘッド7はウェルシール装置27の一部であり、原子炉圧力容器1の周囲に設けられた環状のプラットフォームである。バルクヘッド7の高さ位置は圧力容器本体1と圧力容器上蓋2の当接部分の近傍であって、圧力容器本体1の周囲に配置されている。
【0021】
図1右の原子炉圧力容器のフランジ部Aは、圧力容器本体1と圧力容器上蓋2が接する周囲面に形成されており、圧力容器本体1側の胴板フランジ3と圧力容器上蓋2側の上蓋フランジ4で一部当接している。つまり、胴板フランジ3と上蓋フランジ4が対抗する面のうち内周側21aは接触しているが、対抗面の外周側21bは非接触とされている。これにより、対抗面を外部から見ると、隙間部Gが形成されている。
【0022】
また、圧力容器周囲の上下フランジの複数個所に高さ方向に貫通孔20が形成されており、貫通孔20の位置は胴板フランジ3の接触面より外周側21bとされている。そして貫通孔20内にはスタッドボルト5がねじ止め設置される。つまり、胴板フランジ3の接触面より外周側21bに形成された貫通孔20にはスタッドボルト5植込み用の雌ネジが切られており、貫通孔20に挿入固定されるスタッドボルト5にはスタッドボルト5植込み用の雄ネジが切られている。なおネジは少なくともスタッドボルト5の底部5bに形成される必要がある。
【0023】
以上の構成により、原子炉圧力容器の組み立て工程では、円筒形上の圧力容器本体1側の胴板フランジ3の周囲各所に形成された貫通孔20にスタッドボルト5を挿入してねじ止め固定しておき、胴板フランジ3のスタッドボルト5位置に合わせて圧力容器上蓋2を吊り下げて圧力容器上蓋側2の貫通孔20内に挿入する。吊り下げ設置後、最終的に圧力容器上蓋2の貫通孔20から突出したスタッドボルト5の頂部5aをナット6で締め付けることによって、原子炉圧力容器として機能する構造となっている。なお、組立完了の状態では、胴板フランジ3と上蓋フランジ4の接触面より外周側のすき間部Gには、スタッドボルト5の一部が露出することになる。
【0024】
また以上のように組み立てられた原子炉圧力容器の分解工程は基本的に、上記組み立ての逆に実行すればよいが、地震や津波などのシビアアクシデントを経験した原子炉圧力容器の場合、シビアアクシデント時の温度履歴や圧力履歴を受けて、スタッドボルト5とナット6が固着を起こし、ナット6を緩めて取り外すことが出来ない可能性がある。
【0025】
また、ナット6を緩めて取り外すことが可能であっても、原子炉圧力容器本体1と上蓋2が変形しており、ナット6がない状態でも上蓋2が取り外せない、或いは、スタッドボルト5を原子炉圧力容器本体1から取り外せない可能性も考えられる。
【0026】
従って本発明では、このすき間部Gに切断機器を挿入し、スタッドボルト5を切断する工法および装置を提供するものである。本発明では、フランジ部の隙間部Gに切断機器を導いて設置位置に固定し、当該位置でのスタッドボルト5切断を可能とするとともに、その完了後に他の隙間部Gに移動して作業を継続することができる工法および装置を提供する。このためには、切断機器を所定位置に固定し、作業を可能とする固定手段が不可欠になる。以下具体的な固定手段を含む切断装置の構成例を説明する。
【0027】
図2は、切断装置の設置事例としてバルクヘッド7を利用する。なおバルクヘッド7は、原子炉圧力容器1と、その外側に設けられた原子炉格納容器(図示せず。具体的にはトップスラブ25の内側面)との間の環状空間を閉鎖しているウェルシール装置の一部であり、原子炉圧力容器1上部に設けられた環状のプラットフォームである。
【0028】
図2の実施例では、環状の台であるプラットフォーム7(バルクヘッド)にレール8をフランジ部外周に沿って敷設する。レール8には切断装置30が搭載されている。切断装置30は、切断機器9と、切断機器9の位置決めとして高さ位置を調整する上下位置決め軸調整部15と、切断機器9の位置決めとして前後方向位置を調整する前後加工軸調整部16で構成されており、高さ調整により隙間部Gに位置づけられた切断機器9を使用してスタッドボルト5の切断の進捗に合わせて切断機器9の挿入深さを調節する。このように、レール8に切断装置30が搭載されたことにより、切断機器9はレール8に沿って、フランジ部外周を一定の距離を確保して周回可能である。
図2では周回方向をWで表している。
【0029】
切断機器9は、例えば回転刃であり、回転刃は胴板フランジ3と上蓋フランジ4の接触面より外周側のすき間部Gに進入して、スタッドボルト5を切断する。このため切断機器9は、回転刃をすき間部G方向に進入させ、後退させるための横移動機構として前後加工軸調整部16を備える。
図2では横移動方向をYで表している。また高さ方向位置をXで表わしており、上下位置決め軸調整部15により位置決めしている。
【0030】
これにより、切断機器9は周回移動によりすき間部Gに近接固定され、横移動および回転刃の回転によりスタッドボルト5を切断する。
図2の実施例では、レール8に沿って移動するため、切断機器9の位置決め精度が確保しやすく、周方向に連続的な作業が可能である。なおスタッドボルト切断時の反力は、レール8が負荷する構造となる。
【0031】
図3は、切断装置の設置事例としてスタッドボルト5と上蓋フランジ4に取り付けるステー10を用いて切断装置を保持する手法について説明する。ここでステー10は上下の横方向部材10a、10bと高さ方向部材10cで形成されており、上部横方向部材10aは一方が圧力容器上蓋2のフランジ部分から立ち上がっているスタッドボルト5の頂部5aに固定され、他方が高さ方向部材10cに固定されている。そして高さ方向部材10cの中間部から圧力容器上蓋2の方向に下部横方向部材10bが延伸し、下部横方向部材10bの他端が圧力容器上蓋2に固定される。
【0032】
また高さ方向部材10cの下端内側(圧力容器上蓋2)には切断装置30が配置される。切断装置30は、
図2の場合と同様に、切断機器9と、切断機器9の位置決めとして高さ位置を調整する上下位置決め軸調整部15と、切断機器9の位置決めとして前後方向位置を調整する前後加工軸調整部16で構成されるのがよい。なお、
図3では1つのスタッドボルト5と1つのステー10の接続関係のみを図示しているが、ステー10は、全てのスタッドボルト5を対象として設置されるのがよく、この場合には各ステー10を周方向に連結固定するための図示せぬ周方向部材を配置するのがよい。
【0033】
この場合には、高さ方向部材10cの下端内側(圧力容器上蓋2)に、周方向に沿って移動可能な周方向移動機構12を設置しておき、切断装置30を周方向移動機構12に搭載することで切断装置30を任意の場所のフランジ部にも移動可能としている。なお周方向移動機構12は、
図2のレール8と同じ機能を果たしている。
【0034】
このように、ステー10がフランジ外側全周に渡る場合は、
図2のレール8を使用する場合と同様、周方向に連続的な作業が可能となるが、全周に配置されていない場合は、ステー10がカバーする領域の作業を終えた後、ステー10の設置位置を変更して作業を行うことで、全周でのスタッドボルト5の切断を可能とする。なおこの場合には、スタッドボルト切断時の反力は、ステー10が負荷する構造となる。
【0035】
図4に上蓋フランジ4に吸着して周方向に移動可能な吸着式の切断装置について説明する。吸着式の切断装置30は、吸着機構13と走行機構14と切断装置30とで構成されており、これらが一体に搭載された構造とされている。吸着式の切断装置は、吸着機構13により上蓋フランジ4の外周面に吸着し、走行機構14にて上蓋フランジ4の周方向に移動する。ここでの吸着方法としては、磁気を用いる方法や負圧を用いる方法が考えられる。
【0036】
但し、
図4に示す吸着式の切断装置の場合には
図2のレール8や
図3のステー10を使用する場合と比較して、位置決め精度の確保が難しい。このため、胴板フランジ3と上蓋フランジ4のすき間部Gにガイドを挿入するなどの装備を追加するのがよい。また、スタッドボルト切断時の反力を走行機構14が負荷する構造となるため、切断機器9は切断時の反力よりも走行機構14の吸着力が上回るものを選択する必要がある。
【0037】
図5に放電加工(EDM)を使用した切断機器9の例を示す。この事例では、切断機器9に特徴を有しているので、位置決めに係る手法は
図2から
図4のいずれを採用することも可能である。但し、図示では
図2の位置決め手法を採用した事例で説明する。
【0038】
この前提において、
図5の実施例では胴板フランジ3と上蓋フランジ4のすき間部Gに放電加工用電極17を挿入するため、上下位置決め軸調整部15を使用して上下方向の位置決めを行う。前後加工軸調整部16を使用してスタッドボルト5の切断の進捗に合わせて放電加工用電極17の挿入深さを調節する。
【0039】
図6にアブレシブウォータージェットを使用した切断機器9の例を示す。この事例も切断機器9に特徴を有しているので、位置決めに係る手法は
図2から
図4のいずれを採用することも可能である。但し、図示では
図2の位置決め手法を採用した事例で説明する。
【0040】
この前提において、
図6の実施例では胴板フランジ3と上蓋フランジ4のすき間部にアブレシブウォータージェットを噴射するため、上下位置決め軸15を使用してアブレシブウォータージェットノズル18の上下方向の位置決めを行う。周方向移動機構12を使用してスタッドボルト5の切断の進捗に合わせてアブレシブウォータージェットノズル18の周方向位置を調節する。なおこの場合には、アブレシブウォータージェットノズル18の照射位置を調整可能であるの、で前後加工軸調整部16を備えなくともよい。
【0041】
図7に機械的切断を使用した切断機器9の例を示す。この事例では胴板フランジ3と上蓋フランジ4のすき間部にカッター19を挿入するため、上下位置決め軸15を使用して上下方向の位置決めを行う。また前後加工軸16を使用してスタッドボルト5の切断の進捗に合わせてカッター19の挿入深さを調節する。
【0042】
以上説明したように本発明は、原子炉圧力容器フランジ部の外面に沿って周方向に移動可能な台車に切断機器を搭載した、ボルト切断装置を用いてスタッドボルトを切断するものである。
【0043】
この場合の切断機器の選択としては、水素爆発の可能性がある場合にはアブレシブウォータージェットを使用し、水素爆発の危険がない場合は、EDMや機械的切断手段を使用することができる。なお水素爆発の可能性が低いと考えられる場合においても、あらかじめ原子炉圧力容器上蓋の頂部のベントノズル配管を切り離して水素を放出しておくのがよい。
【0044】
この結果本発明によれば、スタッドボルトとナットが固着を起こし、ナットの取り外しが不可能な場合においても、また、原子炉圧力容器本体と上蓋が変形しており、ナットがない状態でも上蓋が取り外せない、或いはスタッドボルトを原子炉圧力容器から取り外せない場合においても上蓋の取り外しが可能となる。
【0045】
本発明によれば、遠隔操作のボルト切断装置を用いて、原子炉圧力フランジを締め付けているスタッドボルトを切断することにより、スタッドボルトおよびナットが緩めることなく原子炉圧力容器上蓋を取り外すことが可能になる。また、切断されたスタッドボルト上部とナットを原子炉圧力容器上蓋と一体で取り外すため、作業工数と作業者の被曝低減を図ることが可能になる。
【0046】
以上の効果から、シビアアクシデントにより原子炉圧力容器上蓋を締め付けているスタッドボルトが固着してナットが緩められない場合、又は原子炉圧力容器本体と上蓋が変形し、ナットがない状態でも上蓋が取り外せない、或いは、スタッドボルトを原子炉圧力容器から取り外せない場合においても、スタッドボルトを切断して上蓋を取り外すことが可能になる。