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特許6239895モータ制御装置及び電動パワーステアリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239895
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】モータ制御装置及び電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   G01L 25/00 20060101AFI20171120BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20171120BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20171120BHJP
   G01L 3/10 20060101ALI20171120BHJP
   H02P 6/12 20060101ALI20171120BHJP
   H02P 6/16 20160101ALI20171120BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20171120BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20171120BHJP
【FI】
   G01L25/00 A
   B62D6/00
   B62D5/04
   G01L3/10 317
   H02P6/12
   H02P6/16
   B62D101:00
   B62D119:00
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-165239(P2013-165239)
(22)【出願日】2013年8月8日
(65)【公開番号】特開2015-34737(P2015-34737A)
(43)【公開日】2015年2月19日
【審査請求日】2016年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山野 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】松田 祐子
(72)【発明者】
【氏名】三鴨 悟
(72)【発明者】
【氏名】山本 晃
(72)【発明者】
【氏名】株根 秀樹
【審査官】 岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−137457(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102011017223(DE,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0067078(US,A1)
【文献】 特開2001−004653(JP,A)
【文献】 再公表特許第98/015809(JP,A1)
【文献】 特開昭63−282600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L25/00
G01L 3/00− 3/26
B62D 5/00− 6/10
H02P 6/00− 6/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象の状態量を検出し、検出された状態量に応じた検出信号を出力するセンサ部を有するセンサ装置と、
前記センサ部から出力される前記検出信号に基づきモータの駆動を制御する制御部と、を備え、
前記センサ装置の前記センサ部は、外部機器から特定のトリガが入力されたとき、予め定められた波形からなり前記センサ部の出力異常を判定可能な異常診断信号を出力した後、前記検出信号を出力し、
前記制御部は、
前記センサ部へ前記トリガを周期的に伝送することで前記センサ部から前記異常診断信号及び前記検出信号を交互に出力させ、
前記異常診断信号に基づいて前記センサ部の出力異常を判定するとともに、
前記センサ部から前記検出信号が出力される毎に前記検出信号に基づき取得した状態量でホールド値を更新し、前記センサ部から前記異常診断信号が出力されている期間、前記ホールド値に基づき前記モータの駆動を制御することを特徴とするモータ制御装置
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記異常診断信号には、前記検出信号の下限値に対応した出力を所定時間継続する波形、及び前記検出信号の上限値に対応した出力を所定時間継続する波形の少なくとも一方が含まれることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のモータ制御装置において、
前記センサ部は、自己診断で異常を検出したときに異常検出信号を出力するものであり、
前記異常診断信号には、前記異常検出信号に対応した出力を所定時間継続する波形が含まれることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のモータ制御装置において、
前記センサ部は、自身への給電開始を前記トリガとすることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のモータ制御装置において、
前記センサ部は、特定の指令信号を受信することを前記トリガとすることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のモータ制御装置において、
前記制御部は、前記ホールド値を更新した直後に前記センサ部から出力される前記異常診断信号に基づいて前記センサ部の出力異常を検出した際に、前記ホールド値を更新前の値に戻すことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項に記載のモータ制御装置において、
前記制御部は、前記ホールド値に用いる状態量を取得した直後に前記センサ部から出力される信号が所定の閾値以下となる状態が所定時間継続することをもって、前記ホールド値を更新前の値に戻すことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項8】
請求項のいずれか一項に記載のモータ制御装置において、
前記制御部は、前記センサ部から前記検出信号が出力されたことを検出した時点から所定時間が経過するまでの間に前記センサ部の出力異常が検出されないことを条件に、前記ホールド値に用いる状態量の検出を行うことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項9】
車両の操舵機構にアシストトルクを付与するモータと、
前記モータの駆動を制御する請求項のいずれか一項に記載のモータ制御装置と、を備え、
前記センサ装置は、前記操舵機構を前記検出対象として、前記操舵機構に付与される操舵トルクを検出するトルクセンサであることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出対象の状態量に応じた検出信号を出力するセンサ装置を用いたモータ制御装置、及びモータ制御装置を用いた電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の操舵機構にモータのアシストトルクを付与することにより運転者のステアリング操作を補助する電動パワーステアリング装置が知られている。この電動パワーステアリング装置は、運転者により操舵機構に付与される操舵トルクを検出するトルクセンサ、及びモータの駆動を制御するモータ制御装置を備えている。トルクセンサは、操舵トルクの変化を検出するセンサ部を備えており、センサ部を通じて検出された操舵トルクに応じた検出信号をモータ制御装置に出力する。モータ制御装置は、トルクセンサからの検出信号に基づいて操舵トルク値を取得し、取得したトルク値に基づきアシスト指令値を設定する。そしてモータ制御装置は、モータのアシストトルクをアシスト指令値に追従させるべくモータの駆動を制御する。
【0003】
一方、こうした電動パワーステアリング装置では、センサ部に何らかの異常が生じると、操舵トルクを検出することができなくなるため、モータの駆動制御を実行することができなくなる。そこで従来の電動パワーステアリング装置では、特許文献1に見られるように、トルクセンサにセンサ部を2つ設ける、いわゆる二重系化(冗長設計)が図られている。これにより、仮に2つのセンサ部のうちの一方に異常が生じた場合でも、モータ制御装置は、他方の正常なセンサ部を通じてモータの駆動制御を継続することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−300267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、トルクセンサのセンサ部が二重系化されている場合、モータ制御装置では、通常、2つのセンサ部からそれぞれ出力される検出信号を比較することで各センサ部の異常を検出する。しかしながら、このような異常検出方法では、2つのセンサ部のうちの一方に異常が生じて正常なセンサ部が一つのみになった場合、残ったセンサ部の異常を検出することができない。
【0006】
なお、このような課題は、電動パワーステアリング装置に用いられるトルクセンサに限らず、検出対象の状態量を検出する各種センサ装置に共通する課題である。
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、検出対象の状態量を検出可能なセンサ部が一つのみの場合でも、センサ部の出力異常を検出することのできるモータ制御装置、及び電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するモータ制御装置は、検出対象の状態量を検出し、検出された状態量に応じた検出信号を出力するセンサ部を有するセンサ装置と、前記センサ部から出力される前記検出信号に基づきモータの駆動を制御する制御部と、を備え、前記センサ装置の前記センサ部は、外部機器から特定のトリガが入力されたとき、予め定められた波形からなり前記センサ部の出力異常を判定可能な異常診断信号を出力した後、前記検出信号を出力し、前記制御部は、前記センサ部へ前記トリガを周期的に伝送することで前記センサ部から前記異常診断信号及び前記検出信号を交互に出力させ、前記異常診断信号に基づいて前記センサ部の出力異常を判定するとともに、前記センサ部から前記検出信号が出力される毎に前記検出信号に基づき取得した状態量でホールド値を更新し、前記センサ部から前記異常診断信号が出力されている期間、前記ホールド値に基づき前記モータの駆動を制御することとした。
【0008】
この構成によれば、外部機器からセンサ部に特定のトリガを入力すれば、センサ部から異常診断信号が出力される。このとき、センサ部から出力された異常診断信号が予め定められた波形であるか否かを確認すれば、センサ部の出力異常を検出することができる。そして、このような異常検出手法を採用すれば、検出対象の状態量を検出可能なセンサ部が一つのみの場合でも、センサ部の出力異常を検出することができる。
また、上記構成によれば、センサ部から異常診断信号が出力されている場合には、異常診断信号に基づいてセンサ部の出力異常を検出することができる。また、センサ部から異常診断信号が出力されている間、ホールド値に基づいてモータの駆動制御を継続することができる。すなわちモータの駆動制御を継続しつつ、センサ部の異常を検出することもできる。
【0009】
そして上記モータ制御装置について、前記異常診断信号には、前記検出信号の下限値に対応した出力を所定時間継続する波形、及び前記検出信号の上限値に対応した出力を所定時間継続する波形の少なくとも一方が含まれることが好ましい。
【0010】
この構成によれば、検出信号がオフセットするような異常や、検出信号のゲインが変化するような異常を容易に検出することができる。
また上記モータ制御装置について、前記センサ部は、自己診断で異常を検出したときに異常検出信号を出力するものであり、前記異常診断信号には、前記異常検出信号に対応した出力を所定時間継続する波形が含まれることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、センサ部の異常診断機能の異常を容易に検出することができる。
そして上記モータ制御装置について、前記センサ部は、自身への給電開始を前記トリガとすることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、外部機器からのトリガを取り込むための信号線などをセンサ部に新たに設けることなく、センサ部から異常診断信号を出力させることができる。これにより、異常診断信号を出力するセンサ部を容易に実現することができる。
【0013】
また上記モータ制御装置について、前記センサ部は、特定の指令信号を受信することを前記トリガとすることが好ましい。
この構成によれば、外部機器からセンサ部に特定の指令信号を伝送すれば、センサ部から異常診断信号を出力させることができる。このような構成でも、異常診断信号を出力するセンサ部を容易に実現することができる。
【0016】
ここで、制御部が異常診断信号に基づきセンサ部の出力異常を検出したとき、検出された出力異常が検出信号の異常である場合、異常が検出される以前にセンサ部の検出信号が異常値になっていた可能性がある。すなわち、ホールド値に用いる状態量を取得した時点でセンサ部の検出信号が検出対象の実際の状態量からかけ離れた異常値になっていた可能性があり、現在のホールド値が異常値のおそれがある。このような場合、ホールド値が更新されて以降、制御部が異常なホールド値を用いたままモータの駆動制御を継続して行うことになるため、好ましくない。
【0017】
そこで上記モータ制御装置について、前記制御部は、前記ホールド値を更新した直後に前記センサ部から出力される前記異常診断信号に基づいて前記センサ部の出力異常を検出した際に、前記ホールド値を更新前の値に戻すことが好ましい。
【0018】
この構成によれば、制御部は、センサ部の出力異常として検出信号の出力異常を検出した場合、ホールド値を更新前の値に戻すため、制御部が異常なホールド値を用いたままモータの駆動制御を継続することがなくなる。そのためモータが不適切な動作を継続するような状況を回避することができる。
【0019】
また、このようなモータ制御装置では、ホールド値に用いる状態量を検出する際にセンサ部に異常が発生した場合、ホールド値に用いる状態量が検出対象の実際の状態量からかけ離れた異常値になってしまう。このとき、センサ部に生じた異常が瞬断などの発生時間の短い異常である場合、異常の検出が困難になる。そしてセンサ部の異常を検出することができないと、制御部が異常なホールド値に基づきモータの駆動制御を継続するおそれがある。
【0020】
そこで上記モータ制御装置について、前記制御部は、前記ホールド値に用いる状態量を取得した直後に前記センサ部から出力される信号が所定の閾値以下となる状態が所定時間継続することをもって、前記ホールド値を更新前の値に戻すことが好ましい。
【0021】
この構成によれば、ホールド値に用いる状態量を取得した直後にセンサ部に瞬断などの異常が発生してセンサ部から出力される信号が所定の閾値以下となる状態が所定時間継続すると、制御部はホールド値を更新前の値に戻す。これにより制御部が異常なホールド値を用いたままモータの駆動制御を継続することがなくなるため、モータが不適切な動作を継続するような状況を回避することができる。
【0022】
また上記モータ制御装置について、前記制御部は、前記センサ部から前記検出信号が出力されたことを検出した時点から所定時間が経過するまでの間に前記センサ部の出力異常が検出されないことを条件に、前記ホールド値に用いる状態量の検出を行うことが好ましい。
【0023】
この構成によれば、検出対象の実際の状態量に対応した適切な状態量をホールド値として用いることができるため、モータの適切な駆動を確保することができる。
また上記のようなモータ制御装置を電動パワーステアリング装置に適用する場合には、車両の操舵機構にアシストトルクを付与するモータを備え、前記センサ装置が、前記操舵機構を前記検出対象として、前記操舵機構に付与される操舵トルクを検出するトルクセンサであることが好ましい。
【0024】
この構成によれば、トルクセンサに発生する異常を検出することが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
これらモータ制御装置及び電動パワーステアリング装置によれば、検出対象の状態量を検出可能なセンサ部が一つのみの場合でも、センサ部の出力異常を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】電動パワーステアリング装置の概略構成を示すブロック図。
図2】モータ制御装置の第1実施形態についてその構成を示すブロック図。
図3】(a),(b)は、センサICへの供給電圧、及びセンサICの出力信号の推移を示すタイミングチャート。
図4】第1実施形態のモータ制御装置によるセンサICの異常検出、並びにモータ駆動制御の処理手順を示すフローチャート。
図5】第1実施形態のモータ制御装置による第1異常検出処理の手順を示すフローチャート。
図6】(a)〜(c)は、第1実施形態のモータ制御装置におけるセンサICへの供給電圧、センサICの出力信号、及びホールド値の推移を示すタイミングチャート。
図7】モータ制御装置の第2実施形態についてセンサICの異常検出、並びにモータ駆動制御の処理手順の一部を示すフローチャート。
図8】モータ制御装置の第2実施形態についてセンサICの異常検出、並びにモータ駆動制御の処理手順の一部を示すフローチャート。
図9】(a)〜(c)は、第2実施形態のモータ制御装置におけるセンサICへの供給電圧、センサICの出力信号、及びホールド値の推移を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<第1実施形態>
以下、センサ装置及びモータ制御装置を用いた電動パワーステアリング装置の第1実施形態について説明する。
【0028】
図1に示すように、この電動パワーステアリング装置は、運転者のステアリングホイール10の操作に基づき転舵輪3を転舵させる操舵機構1、及び運転者のステアリング操作を補助するアシスト機構2を備えている。
【0029】
操舵機構1は、ステアリングホイール10の回転軸となるステアリングシャフト11、及びその下端部にラックアンドピニオン機構12を介して連結されたラックシャフト13を備えている。操舵機構1では、運転者のステアリングホイール10の操作に伴いステアリングシャフト11が回転すると、その回転運動がラックアンドピニオン機構12を介してラックシャフト13の軸方向の往復直線運動に変換される。このラックシャフト13の往復直線運動がその両端に連結されたタイロッド14を介して転舵輪3に伝達されることにより転舵輪3の転舵角が変化し、車両の進行方向が変更される。
【0030】
アシスト機構2は、ステアリングシャフト11にアシストトルクを付与するモータ20を備えている。モータ20はブラシレスモータからなる。モータ20の回転が減速機21を介してステアリングシャフト11に伝達されることでステアリングシャフト11にモータトルクが付与され、ステアリング操作が補助される。
【0031】
この電動パワーステアリング装置には、ステアリングホイール10の操作量や車両の状態量を検出する各種センサが設けられている。例えばステアリングシャフト11にはトルクセンサ5が設けられている。トルクセンサ5は、運転者のステアリング操作に際してステアリングシャフト11に付与される操舵トルクを検出するセンサ部としての2つのセンサIC50,51を有している。すなわちトルクセンサ5では、センサICの二重系化が図られている。センサIC50,51は同一構造からなり、検出したトルク値に応じた電圧信号を検出信号Sτとして出力する。なお検出信号Sτの取り得る範囲は、「Vmin≦Sτ≦Vmax」に設定されている。下限値Vminはグランド電位に相当する0[V]よりも大きい値であり、本実施形態では0.5[V]に設定されている。上限値Vmaxは電源電圧以下であり、本実施形態では4[V]に設定されている。またセンサIC50,51は、自身への給電が開始された際、検出信号Sτに代えて、予め定められた波形からなる異常診断信号Sdを所定時間出力する。さらにセンサIC50,51は、自身に異常が生じているか否かを監視する自己診断機能を有している。自己診断機能は、例えば、複数の検出素子により二重系化されたセンサICにおいて、各検出素子の出力信号を比較し、出力信号間に所定以上の差が生じた場合に異常を検出する等の公知の手法が用いられる。本実施形態のセンサIC50,51は、自己診断により自身の異常を検出したとき、一定の電圧値Ve(例えば0.2[V])からなる異常検出信号Seを出力する。車両には車速センサ6が設けられている。車速センサ6は、車両の走行速度を検出し、検出した走行速度に応じた電圧信号を検出信号Ssとして出力する。モータ20には回転角センサ7が設けられている。回転角センサ7は、モータ20の回転角を検出し、検出したモータ回転角に応じた電圧信号を検出信号Sθとして出力する。各センサ5〜7から出力される信号はモータ制御装置4に取り込まれる。モータ制御装置4は、各センサ5〜7から出力される信号に基づきモータ20の駆動を制御する。
【0032】
図2に示すように、モータ制御装置4は、車載バッテリなどの電源から供給される直流電力を三相(U相,V相,W相)の交流電力に変換するインバータ回路40、及びインバータ回路40をPWM(パルス幅変調)駆動するマイコン41を備えている。本実施形態ではマイコン41が制御部に相当する。
【0033】
インバータ回路40は、マイコン41からの制御信号(PWM駆動信号)に基づき、電源から供給される直流電力を三相交流電力に変換する。この三相交流電力は各相の給電線WLを介してモータ20に供給される。各相の給電線WLには電流センサ42が設けられている。なお図2では、説明の便宜上、各相の給電線WL及び各相の電流センサ42をそれぞれ一つにまとめて図示している。電流センサ42は、給電線WLを流れる各相電流値を検出し、検出した各相電流値に応じた電圧信号を検出信号Siとして出力する。電流センサ42の検出信号Siはマイコン41に取り込まれる。
【0034】
マイコン41には、トルクセンサ5の各センサIC50,51から出力される信号Sτ,Sd,Se、車速センサ6の検出信号Ss、及び回転角センサ7の検出信号Sθも取り込まれる。マイコン41は、各センサ5〜7,42の検出信号Sτ,Ss,Sθ,Siに基づきトルク値、車速、モータ回転角、及び各相電流値を取得する。そしてマイコン41は、トルク値及び車速に基づき目標アシストトルクを設定する。またマイコン41は、モータ20からステアリングシャフト11に付与されるアシストトルクを目標アシストトルクに追従させるべく、モータ回転角及び各相電流値を用いて、モータ20を流れる電流をフィードバック制御することで制御信号を生成する。これによりモータ20の駆動が制御され、ステアリングシャフト11にアシストトルクを付与するアシスト制御が実行される。
【0035】
またモータ制御装置4は、トルクセンサ5のセンサIC50,51に動作電圧を供給する電源IC43,44を備えている。電源IC43,44は、車載バッテリの電源電圧をセンサIC50,51に適した動作電圧に調圧し、調圧された動作電圧をモータ制御装置4の電源端子45a,45bにそれぞれ印加する。またモータ制御装置4には、グランド電位に設定されたグランド端子46a,46bが設けられている。電源端子45a及びグランド端子46aに配線を介してセンサIC50が接続されることで、センサIC50の電源が確保されている。また電源端子45b及びグランド端子46bに配線を介してセンサIC51が接続されることで、センサIC51の電源が確保されている。電源IC43,44は、各センサIC50,51への給電を行うばかりでなく、マイコン41からの指令に基づいて各センサIC50,51への給電の遮断や給電の再開を行う。
【0036】
さらにモータ制御装置4は電圧センサ47a,47bを備えている。電圧センサ47a,47bは、センサIC50,51の電源電圧をそれぞれ検出し、検出した電源電圧に応じた電圧信号を検出信号Svとしてマイコン41にそれぞれ出力する。これによりマイコン41では、電圧センサ47a,47bのそれぞれの検出信号Svに基づいて各センサIC50,51の電源電圧を検出することが可能となっている。
【0037】
次に図3を参照して各センサIC50,51の動作について説明する。なお、各センサIC50,51の動作は同一であるため、以下では、便宜上、センサIC50の動作のみについて代表して説明する。
【0038】
図3(a)に示すように、センサIC50への給電が時刻t1で開始されたとすると、センサIC50の出力信号(出力電圧)Saは、図3(b)に示すように変化する。すなわちセンサIC50は、まず、予め定められた波形からなりセンサIC50の出力異常を判定可能な異常診断信号Sdを出力する。具体的には、センサIC50は、給電が開始された時刻t1以降、第1信号S1、第2信号S2、及び第3信号S3を順に出力する。第1信号S1は、検出信号Sτの下限値Vminに対応した出力を所定時間T1だけ継続する波形からなる。第2信号S2は、検出信号Sτの上限値Vmaxに対応した出力を所定時間T2だけ継続する波形からなる。第3信号S3は、異常検出信号Seに対応した出力を所定時間T3だけ継続する波形からなる。なお第3信号S3は、自己診断により異常が検出される出力をセンサIC50,51が自発的に行うことにより、センサIC50,51から意図的に出力される信号である。これら第1信号S1〜第3信号S3により異常診断信号Sdが構成される。またセンサIC50は、異常診断信号Sdの出力が完了した時刻t2以降、検出信号Sτを出力する。
【0039】
これにより、例えば検出信号Sτがオフセットするような異常がセンサIC50に発生した場合、センサIC50が出力する第1信号S1は、検出信号下限値Vminからずれた値になる。この場合、マイコン41では、センサIC50から第1信号S1が出力されている期間に検出信号下限値Vminを検出することができない。したがってマイコン41では、センサIC50から第1信号S1が出力されている期間に検出信号下限値Vminを検出できないことをもって、センサIC50の出力に異常が生じたと判定することができる。
【0040】
また検出信号Sτのゲインが変化するような異常がセンサIC50に発生した場合、センサIC50が出力する第2信号S2は、検出信号上限値Vmaxからずれた値になる。この場合、マイコン41では、センサIC50から第2信号S2が出力されている期間に検出信号上限値Vmaxを検出することができない。したがってマイコン41では、センサIC50から第2信号S2が出力されている期間に検出信号上限値Vmaxを検出できないことをもって、センサIC50の出力に異常が生じたと判定することができる。
【0041】
さらにマイコン41では、センサIC50の自己診断機能が異常である場合、センサIC50が自己診断により異常検出されるような出力を行っていてもセンサIC50からは異常検出信号Seが出力されない。そのためマイコン41は、センサIC50から第3信号S3が出力されている期間に異常検出信号Seを検出することができない場合には、センサIC50の自己診断機能が異常であると判定することができる。またマイコン41は、センサIC50から第3信号S3が出力されている期間に異常検出信号Seを検出することができた場合には、センサIC50の自己診断機能が正常であると判定することができる。
【0042】
そして、このような異常診断信号Sdに基づいてセンサIC50の出力異常を検出するという方法であれば、正常なセンサICがセンサIC50のみになった場合でも、センサIC50の出力異常を検出することが可能である。
【0043】
次に、マイコン41によるセンサIC50,51の異常検出方法について説明する。
マイコン41は、センサIC50,51が共に正常な場合、センサIC50,51のそれぞれの検出信号Sτのいずれか一方に基づいてモータ20の駆動制御を行う。またマイコン41は、モータ20の駆動制御を行いつつ、センサIC50,51のそれぞれの検出信号Sτを比較することで、各センサIC50,51が正常であるか否かを監視する。そしてマイコン41は、センサIC50,51のいずれかの異常を検出したとき、異常が検出されていない正常なセンサICの検出信号に基づいてモータの駆動制御を継続する。なお、以下では、便宜上、センサIC51に異常が検出され、正常なセンサICがセンサIC50のみになった場合について説明する。
【0044】
正常なセンサICがセンサIC50のみになった場合、マイコン41は、センサIC50,51のそれぞれの検出信号Sτの比較に基づく異常検出を行うことができなくなる。そこで、本実施形態のマイコン41では、正常なセンサICがセンサIC50のみになった場合、電源IC43を通じてセンサIC50への給電を一時的に遮断した後にセンサIC50への給電を再開するという処理を周期的に行う。これによりセンサIC50から異常診断信号Sd及び検出信号Sτを交互に出力させることができる。そしてマイコン41は、センサIC50から異常診断信号Sdが出力されている間に異常診断信号Sdに基づいてセンサIC50の異常を検出する。
【0045】
一方、センサIC50から異常診断信号Sd及び検出信号Sτを交互に出力させた場合、マイコン41は、センサIC50から異常診断信号Sdが出力されている間、トルク値τを取得することができない。したがって、センサIC50が異常診断信号Sdを出力している間にマイコン41がモータ20の駆動制御をどのように実行するかが問題となる。この点に関し、本実施形態のマイコン41は、センサIC50への給電を遮断する直前にセンサIC50の検出信号Sτに基づきトルク値τを検出し、検出したトルク値τをホールド値τhとしてメモリ41aに記憶する。そしてマイコン41は、メモリ41aに記憶されたホールド値τhに基づき目標アシストトルクを設定し、モータ20の駆動を制御する。これにより、センサIC50から異常診断信号Sdが出力されている期間もモータ20の駆動制御を継続して行うことが可能となる。
【0046】
次に、図4図6を参照して、マイコン41により実行されるセンサIC50の異常検出、並びにモータ駆動制御の処理手順を説明する。
図4及び図6(a)に示すように、マイコン41は、時刻t10でセンサIC50への給電を一時的に遮断した後、時刻t11でセンサIC50への給電を再開する(ステップS1)。これによりセンサIC50から異常診断信号Sdが出力される。すなわち、図6(b)に示すように、センサIC50は、給電が開始される時刻t11以降、第1信号S1、第2信号S2、及び第3信号S3を順に出力する。このときマイコン41は、異常診断信号Sdの出力時に対応した第1異常検出処理を実行する(ステップS2)。第1異常検出処理の手順は図5に示す通りである。
【0047】
すなわち、マイコン41は、センサIC50への給電を再開した時刻t11から所定時間T10が経過したか否かを判断する(ステップS20)。所定時間T10は、異常診断信号Sdにおける第1信号S1の出力時間T1よりも長い時間に設定されている。そしてマイコン41は、センサIC50への給電を再開した時刻t11から所定時間T10が経過していない場合(ステップS20:NO)、センサIC50が検出信号下限値Vminを出力したか否かを判断する(ステップS21)。具体的には、マイコン41は、センサIC50の出力誤差を「ΔV」として、センサIC50の出力信号Saが「Vmin−ΔV≦Sa≦Vmin+ΔV」なる関係を一定時間以上満たしたか否かを判断する。
【0048】
そしてマイコン41は、センサIC50による検出信号下限値Vminの出力を検出した場合(ステップS21:YES)、検出信号下限値Vminの検出時t12から所定時間T11が経過したか否かを判断する(ステップS22)。所定時間T11は、異常診断信号Sdにおける第2信号S2の出力時間T2よりも長く、第1信号S1及び第2信号S2の出力時間を加算した時間(T1+T2)よりも短い時間に設定されている。マイコン41は、検出信号下限値Vminの検出時t12から所定時間T11が経過していない場合(ステップS22:NO)、センサIC50が検出信号上限値Vmaxを出力したか否かを判断する(ステップS23)。具体的には、マイコン41は、センサIC50の出力信号Saが「Vmax−ΔV≦Sa≦Vmax+ΔV」なる関係を一定時間以上満たしたか否かを判断する。
【0049】
そしてマイコン41は、センサIC50による検出信号上限値Vmaxの出力を検出した場合(ステップS23:YES)、検出信号上限値Vmaxの検出時t13から所定時間T12が経過したか否かを判断する(ステップS24)。所定時間T12は、異常診断信号Sdにおける第3信号S3の出力時間T3よりも長く、第2信号S2及び第3信号S3の出力時間を加算した時間(T2+T3)よりも短い時間に設定されている。マイコン41は、検出信号上限値Vmaxの検出時t13から所定時間T12が経過していない場合(ステップS24:NO)、センサIC50が異常検出信号Seを出力したか否かを判断する(ステップS25)。具体的には、マイコン41は、センサIC50の出力信号Saが電圧値Veである状態が一定時間以上継続したか否かを判断する。
【0050】
そしてマイコン41は、センサIC50による異常検出信号Seの出力を検出した場合(ステップS25:YES)、異常検出信号Seの検出時t14から所定時間T13が経過したか否かを判断する(ステップS26)。所定時間T13は、異常診断信号Sdにおける第3信号S3の出力時間T3よりも長い時間に設定されている。マイコン41は、異常検出信号Seの検出時t14から所定時間T13が経過していない場合(ステップS26:NO)、センサIC50が検出信号Sτを出力したか否かを判断する(ステップS27)。具体的には、センサIC50は、異常診断信号Sdの出力が完了した時刻t15以降、検出信号Sτを出力する。そこで、マイコン41は、センサIC50の出力信号Saが「Vmin≦Sa≦Vmax」なる関係を満たした状態が一定時間以上継続したか否かに基づきセンサIC50による検出信号Sτの出力を判断する。
【0051】
そしてマイコン41は、センサIC50が検出信号Sτを出力したと時刻t16で判断した場合(ステップS27:YES)、センサIC50が正常であると判定する(ステップS28)。
【0052】
一方、マイコン41は、以下の(a1)〜(a4)に該当する場合、センサIC50に異常が生じていると判定する(ステップS29)。
(a1)センサIC50から検出信号下限値Vminが出力されないまま(ステップS21:NO)、センサIC50への給電を再開した時刻t11から所定時間T10が経過した場合(ステップS20:YES)。
【0053】
(a2)センサIC50から検出信号上限値Vmaxが出力されないまま(ステップS23:NO)、検出信号下限値Vminの検出時t12から所定時間T11が経過した場合(ステップS22:YES)。
【0054】
(a3)センサIC50から異常検出信号Seが出力されないまま(ステップS25:NO)、検出信号上限値Vmaxの検出時t13から所定時間T12が経過した場合(ステップS24:YES)。
【0055】
(a4)センサIC50から検出信号Sτが出力されないまま(ステップS27:NO)、異常検出信号Seの検出時t14から所定時間T13が経過した場合(ステップS26:YES)。
【0056】
そして、図4に示すように、マイコン41は、ステップS2で第1異常検出処理を実行した後、第1異常検出処理を通じてセンサIC50の出力異常を検出したか否かを判断する(ステップS3)。マイコン41は、第1異常検出処理を通じてセンサIC50の出力異常を検出できなかった場合(ステップS3:NO)、すなわちセンサIC50が正常な場合、センサIC50の検出信号Sτに基づきトルク値τを取得する処理を時刻t16から開始する(ステップS4)。またマイコン41は、センサIC50の検出信号Sτに基づきトルク値τを取得する処理を行っている間、検出信号Sτの出力時に対応した第2異常検出処理を行う(ステップS5)。第2異常検出処理は、例えば以下の(b1),(b2)の異常を検出する処理である。
【0057】
(b1)センサIC50からマイコン41に検出信号Sτ等を伝えるための信号線の天絡あるいは地絡異常。マイコン41は、センサIC50の出力信号Saが電源電圧に対応した値になり、その状態が継続することをもって、センサIC50の信号線に天絡異常が発生したと判定する。またマイコン41は、センサIC50の出力信号Saが「0[V]」になり、その状態が継続することをもって、センサIC50の信号線に地絡異常が発生したと判定する。
【0058】
(b2)センサIC50の電源電圧の異常。マイコン41は、電圧センサ47aにより検出されるセンサIC50の電源電圧が正常範囲から外れることをもって、センサIC50の電源電圧が異常であると判定する。
【0059】
そしてマイコン41は、第2異常検出処理を通じてセンサIC50の異常を検出したか否かを判断し(ステップS6)、センサIC50の異常を検出できなかった場合(ステップS6:NO)、ステップS4でトルク値τの検出を開始した時刻t16から所定時間T14が経過したか否かを判断する(ステップS7)。マイコン41は、トルク値τの検出を開始した時刻t16から所定時間T14が経過していない場合(ステップS7:NO)、第2異常検出処理を繰り返し実行し(ステップS5)、センサIC50の異常を検出したか否かを判断する(ステップS6)。マイコン41は、第2異常検出処理を通じてセンサIC50の異常を検出することなく(ステップS6:NO)、トルク値τの検出を開始した時刻t16から所定時間T14が経過した場合(ステップS7:YES)、所定時間T14が経過した時刻t17において現在のホールド値τhを前回のホールド値τhbとしてメモリ41aに記憶する(ステップS8)。またマイコン41は、図6(c)に示すように、時刻t17におけるセンサIC50の検出信号Sτに基づきトルク値τ1を取得し(ステップS9)。取得したトルク値τ1を新たなホールド値τhとしてメモリ41aに記憶する(ステップS10)。続いてマイコン41は、センサIC50の検出信号Sτに基づきトルク値τを取得する処理を停止した後(ステップS11)、ステップS1の処理に戻る。すなわち、マイコン41は、図6(a)に示すように、時刻t18でセンサIC50への給電を一時的に遮断した後、時刻t19でセンサIC50への給電を再開するという処理を行うとともに、その後も同様の処理を周期的に行うことで、センサIC50から異常診断信号Sd及び検出信号Sτを交互に出力させる。そしてマイコン41は、センサIC50が異常診断信号Sdの出力を行う度に、異常診断信号Sdに基づきセンサIC50の出力異常を判定する。またマイコン41は、センサIC50が検出信号Sτの出力を行う度に、ホールド値τhを更新する。
【0060】
そしてマイコン41は、図6(c)に示すように更新されるホールド値τhに基づきモータ20の駆動を制御する。これによりマイコン41は、センサIC50から異常診断信号Sdが出力されている間もモータ20の駆動制御を継続することができる。
【0061】
一方、図4に示すように、マイコン41は、ステップS2の第1異常検出処理を通じてセンサIC50の出力異常を検出した場合には(ステップS3:YES)、センサIC50の出力異常が検出信号下限値Vminあるいは検出信号上限値Vmaxの出力異常であるか否かを判断する(ステップS12)。ここで、センサIC50の出力異常が検出信号下限値Vminあるいは検出信号上限値Vmaxの出力異常である場合(ステップS12:YES)、図6(c)に二点鎖線で示すように、ホールド値τhに用いるトルク値τを取得した時刻t17の時点で、センサIC50の検出信号Sτが、実際の操舵トルクに対応した値からかけ離れた異常値τeに設定されているおそれがある。そこで、本実施形態のマイコン41は、例えば時刻t30でセンサIC50の異常を検出した場合(ステップS12:YES)、現在のホールド値τhを前回のホールド値τhbに戻す(ステップS13)ことにより、異常なホールド値τhに基づきモータ20の駆動制御を行うことを防止する。続いてマイコン41は、センサIC50への給電を一時的に遮断した後、センサIC50への給電を行い(ステップS14)、第1異常検出処理を再度実行する(ステップS15)。またセンサIC50の出力異常が検出信号下限値Vmin及び検出信号上限値Vmaxの出力異常以外の異常である場合には(ステップS12:NO)、ステップS13の処理を実行することなく、ステップS14及びS15の処理を実行する。さらにマイコン41は、ステップS5の第2異常検出処理を通じてセンサIC50の異常を検出した場合にも(ステップS6:YES)、ステップS14及びS15の処理を実行する。そしてマイコン41は、ステップS15の第1異常検出処理を通じてセンサIC50の出力異常を検出したか否かを判断し(ステップS16)、センサIC50の出力異常を検出できなかった場合(ステップS16:NO)、すなわちセンサIC50が正常な場合には、ステップS4以降の処理を実行する。
【0062】
これに対し、マイコン41は、ステップS15の第1異常検出処理を通じてセンサIC50の異常を検出した場合には(ステップS16:YES)、モータ20の駆動を制限する(ステップS17)。なおモータの駆動を制限する処理としては、例えばモータ20からステアリングシャフト11に付与されるアシストトルクを漸減する処理や、モータ20の駆動を停止する処理などである。
【0063】
なお、マイコン41は、正常なセンサICがセンサIC51のみになった場合には、センサIC51に対して図4及び図5の処理を実行する。したがって、正常なセンサICがセンサIC51のみになった場合にも、上記のような効果を同様に得ることができる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態のセンサIC50,51、モータ制御装置4、及び電動パワーステアリング装置によれば以下の効果が得られる。
(1)センサIC50,51では、自身への給電が開始されたとき、予め定められた波形からなり出力異常を判定可能な異常診断信号Sdを出力した後、検出信号Sτを出力することとした。これにより、センサIC50,51のいずれか一方に異常が生じることにより、操舵トルクを検出可能なセンサICが一つのみになった場合でも、センサICの出力異常を検出することができる。
【0065】
(2)異常診断信号Sdには、検出信号下限値Vminに対応した出力を所定時間T1だけ継続する波形、及び検出信号上限値Vmaxに対応した出力を所定時間T2だけ継続する波形を含めることとした。これにより、センサIC50,51における検出信号Sτの出力異常、詳しくは検出信号Sτがオフセットするような異常や、検出信号Sτのゲインが変化するような異常を検出することができる。
【0066】
(3)異常診断信号Sdには、異常検出信号Seに対応した出力を所定時間T3だけ継続する波形を含めることとした。これによりセンサIC50,51の異常診断機能の異常を容易に検出することができる。
【0067】
(4)マイコン41では、センサIC50,51への給電の遮断及び給電の開始を周期的に行うことでセンサIC50,51から異常診断信号Sd及び検出信号Sτを交互に出力させることとした。またマイコン41では、異常診断信号Sdに基づいてセンサIC50,51の異常を検出することとした。さらにマイコン41では、センサIC50,51から検出信号Sτが出力される毎に検出信号Sτに基づき取得したトルク値τでホールド値τhを更新することとした。そしてマイコン41では、センサIC50,51から異常診断信号Sd及び検出信号Sτが出力されている期間、ホールド値τhに基づいて目標アシストトルクを設定し、モータ20の駆動を制御することとした。これによりモータ20の駆動制御を継続しつつ、センサIC50,51の出力異常を検出することができる。
【0068】
(5)マイコン41では、ホールド値τhを更新した直後にセンサIC50,51から出力される異常診断信号Sdに基づいてセンサIC50,51の出力異常を検出した際、詳しくは検出信号下限値Vminあるいは上限値Vmaxの出力異常を検出した際に、ホールド値τhを更新前の前回のホールド値τhbに戻すこととした。これによりマイコン41が異常なホールド値τhを用いたままモータ20の駆動制御を継続することがないため、モータ20が不適切な動作を継続するような状況を回避することができる。
【0069】
(6)マイコン41では、センサIC50,51から出力される異常診断信号Sdに基づいてセンサIC50,51の出力異常を検出できなかった場合、センサIC50,51が検出信号Sτを出力したか否かを判断することとした。そしてマイコン41では、センサIC50,51が検出信号Sτを出力したことを検出した時点から所定時間T14が経過するまでの間にセンサIC50,51の出力異常が検出されないことを条件に、ホールド値τhに用いるトルク値τを検出することとした。これにより実際の操舵トルクに対応した適切なトルク値τをホールド値τhとして用いることができるため、モータ20の適切な動作を確保することができる。
【0070】
<第2実施形態>
次にセンサ装置及びモータ制御装置を用いた電動パワーステアリング装置の第2実施形態について説明する。なお第2実施形態でも、正常なセンサICがセンサIC50のみになった場合について説明する。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0071】
第1実施形態のモータ制御装置4のようにホールド値τhに基づいてモータ20の駆動制御を行う場合、ホールド値τhに用いるトルク値τを検出する際にセンサIC50に異常が発生すると、ホールド値τhが実際の操舵トルクからかけ離れた異常値になる。このような場合、センサIC50に発生した異常が、センサIC50の給電経路の瞬断やセンサIC50の出力線の瞬断など、発生時間の短い異常の場合、異常の検出が困難になる。そしてセンサIC50の異常を検出することができないと、マイコン41が異常なホールド値τhを用いたままモータ20の駆動制御を継続してしまうため、好ましくない。
【0072】
そこで本実施形態のマイコン41では、ホールド値τhに用いるトルク値τを検出した直後にセンサIC50の出力信号Saが所定の閾値Va以下となる状態が継続することをもって、ホールド値τhを更新前の値、すなわち前回のホールド値τhbに戻すようにしている。
【0073】
次に、図7及び図8を参照して、マイコン41により実行されるセンサIC50の異常検出、並びにモータ駆動制御の手順を説明する。なお図7において、図4に示した処理と同一の処理には同一の符号を付すことによりその説明を割愛する。
【0074】
図7に示すように、本実施形態のマイコン41は、ステップS11でトルク値τを取得する処理を停止した後、図8に示す処理を実行する。すなわちマイコン41は、ホールド値τhを更新した時点から所定時間T16が経過したか否かを判断する(ステップS18)。そしてマイコン41は、ホールド値τhを更新した時点から所定時間T16が経過していない場合(ステップS18:NO)、センサIC50の出力信号Saが予め定められた閾値Va以下である状態が所定時間T15以上継続しているか否かを判断する(ステップS19)。なお閾値Vaは、検出信号下限値Vminよりも若干大きい値に設定されている。マイコン41は、センサIC50の出力信号Saが予め定められた閾値Va以下である状態が所定時間T15以上継続した場合(ステップS19:YES)、ホールド値τhが異常値の可能性があると判定して、図7に示すステップS13以降の処理を実行する。すなわちマイコン41は、現在のホールド値τhを前回のホールド値τhbに戻す(ステップS13)。続いてマイコン41は、センサIC50への給電を一時的に遮断した後、センサIC50への給電を行い(ステップS14)、第1異常検出処理を実行する(ステップS15)。そしてマイコン41は、第1異常検出処理を通じてセンサIC50の異常を検出した場合には(ステップS16:YES)、モータ20の駆動を制限する(ステップS17)。
【0075】
一方、マイコン41は、図8に示した処理において、センサIC50の出力信号Saが予め定められた閾値Va以下である状態が所定時間T15以上継続することなく(ステップS19:NO)、ホールド値τhを更新した時点から所定時間T16が経過した場合(ステップS18:YES)、ホールド値τhが正常値であると判定して、図7に示すステップS1以降の処理を実行する。すなわちセンサIC50への給電を一時的に遮断した後、センサIC50への給電を行い(ステップS1)、第1異常検出処理を実行する(ステップS2)。
【0076】
次に図9を参照して本実施形態のモータ制御装置4の作用について説明する。
図9(a)に示すように、時刻t40でセンサIC50の給電経路に瞬断が発生した場合、図9(b)に示すように、センサIC50の出力信号Saは、瞬断が発生した時刻t40以降、正常値から0[V]へと急降下する。そして、図9(a)に示すように、時刻t42でセンサIC50への給電が復帰すると、図9(b)に示すように、センサIC50は、時刻t42から給電開始時と同様の動作、すなわち異常診断信号Sdの第1信号S1の出力を行う。このような状況では、センサIC50に瞬断が発生した時刻t40の直後の時刻t41でマイコン41がホールド値τhに用いるトルク値τ3を取得すると、図9(c)に示すように、ホールド値τhをトルク値τ3に更新する。そのため、ホールド値τhが、実際の操舵トルクからかけ離れた異常値になる。
【0077】
このような場合、マイコン41は、ホールド値τhを更新した時刻t41から所定時間T15が経過するまでの間に、センサIC50の出力信号Saが予め定められた閾値Va以下である状態が継続した場合、図9(c)に示すように、時刻t41から所定時間T15が経過した時刻t43の時点でホールド値τhを前回のホールド値τhbに戻す。これによりホールド値τhに異常値が用いられた状態が継続することがなくなるため、モータ20が不適切な動作を継続するような状況を回避することができる。またセンサIC50への給電が復帰する時刻t42から、閾値Vaよりも若干小さい検出信号下限値Vminに対応する第1信号S1が出力されるため、マイコン41は給電経路に瞬断が発生したことを確実に検出することができる。
【0078】
またセンサIC50とマイコン41との給電経路に瞬断が発生した場合には、センサIC50への給電が遮断されるため第1信号S1は出力されない。しかし、マイコン41は、所定時間T15をできる限り短く設定することによりこのような瞬断についても検出することが可能である。
【0079】
なお、マイコン41は、正常なセンサICがセンサIC51のみになった場合には、センサIC51に対して図7及び図8の処理を実行する。したがって、正常なセンサICがセンサIC51のみになった場合にも、上記のような効果を同様に得ることができる。
【0080】
以上説明したように、本実施形態のセンサIC50,51及びモータ制御装置4によれば、第1実施形態による(1)〜(6)の効果に加え、以下の効果が得られる。
(7)マイコン41では、ホールド値τhに用いるトルク値τを検出した直後にセンサIC50の検出信号Sτの異常を判定し、検出信号Sτが異常である場合、ホールド値τhを更新前の前回のホールド値τhbに戻すこととした。これにより、ホールド値τhに異常値が用いられることを回避することができるため、モータ20が不適切な動作を継続するような状況を回避することができる。
【0081】
<他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下の形態にて実施することもできる。
図5に示すステップS27の処理では、センサIC50,51が検出信号Sτを出力したか否かを、センサIC50,51の出力信号Saが「Vmin≦Sa≦Vmax」なる関係を一定時間以上満たしているか否かに基づいて判定することとした。しかしながら、この判定方法を用いると、センサIC50,51が検出信号Sτの出力を開始した直後にセンサIC50,51の給電経路が瞬断した場合、実際にはセンサIC50,51が異常診断信号Sdを出力しているにも関わらず、センサIC50,51が検出信号Sτを出力していると誤判定するおそれがある。すなわちセンサIC50,51の給電経路が瞬断した場合、センサIC50,51は、自身への給電が復帰したときに、異常診断信号Sdとして第1信号S1及び第2信号S2を順に出力する。このとき、センサIC50,51から第1信号S1及び第2信号S2が出力されている期間は、センサIC50,51の出力信号Saが「Vmin≦Sa≦Vmax」なる関係を満たすため、マイコン41は、センサIC50,51が検出信号Sτを出力していると誤判定するおそれがある。そこでマイコン41では、センサIC50,51が検出信号Sτを出力しているか否かを監視する際に、センサIC50,51が検出信号下限値Vminを出力しているか否かを併せて監視する。そしてマイコン41では、センサIC50,51が検出信号下限値Vminを出力していることを検出した場合には、センサIC50,51が検出信号Sτを出力していないと判定してもよい。
【0082】
・上記各実施形態では、センサIC50,51が検出信号Sτを出力している間に、マイコン41が第2異常検出処理としてセンサIC50,51の電源電圧の異常を検出する処理を行ったが、同様の電源電圧異常検出処理を、センサIC50,51が異常診断信号Sdを出力している間に実行してもよい。ところで、センサIC50,51への給電が再開された直後はセンサIC50,51の電源電圧が不安定であるため、このような時期に電源電圧異常検出処理を行うと、異常を誤検出するおそれがある。そこでマイコン41では、センサIC50,51が検出信号下限値Vminを出力したことを検出した後に電源電圧異常検出処理を実行することが望ましい。これによりセンサIC50,51への給電が確実に行われた後に電圧異常検出処理が行われるため、異常の誤検出を回避することができる。なおマイコン41では、センサIC50,51から異常診断信号Sdが出力されている期間にセンサIC50,51の電源電圧の異常を検出した場合、図4及び図7のステップS14以降の処理を実行することが有効である。
【0083】
・上記各実施形態では、センサIC50,51が検出信号Sτの出力を停止する直前でホールド値τhに用いるトルク値τを検出したが、ホールド値τhに用いるトルク値を検出するタイミングは適宜変更可能である。またホールド値τhとして、センサIC50,51が検出信号Sτを出力している期間に検出される複数のトルク値τの平均値を用いてもよい。
【0084】
・上記各実施形態では、センサIC50,51から検出信号Sτが出力されたことを検出した時点から所定時間T14が経過するまでの間にセンサIC50,51の出力異常が検出されないことを条件に、ホールド値τhに用いるトルク値τを検出することとした。これに代えて、例えばセンサIC50,51から検出信号Sτが出力されたことを検出した時点、例えば図6に示す時刻t16,t23の各時点でホールド値τhに用いるトルク値τを検出してもよい。
【0085】
・上記各実施形態では、異常診断信号Sdに基づいてセンサIC50,51の出力異常を検出した際に、検出した出力異常が検出信号Sτの出力異常である場合、ホールド値τhを更新前の前回のホールド値τhbに戻すこととしたが、この処理を割愛してもよい。すなわち図4及び図7におけるステップS12,S13の処理を割愛してもよい。
【0086】
・上記各実施形態では、センサIC50,51から異常診断信号Sd及び検出信号Sτが出力されている期間、ホールド値τhに基づきモータ20の駆動を制御することとした。これに代えて、センサIC50,51から異常診断信号Sdが出力されている期間のみ、ホールド値τhに基づいてモータ20の駆動を制御し、センサIC50,51から検出信号Sτが出力されている期間は検出信号Sτに基づいてモータ20の駆動を制御してもよい。
【0087】
・上記各実施形態では、センサIC50,51が自身への給電開始に基づき異常診断信号Sdを出力するものであったが、センサIC50,51は、例えばマイコン41からの指令信号に基づいて異常診断信号Sdを出力するものであってもよい。すなわちセンサIC50,51から異常診断信号Sdを出力させるトリガとして、マイコン41からの指令信号を用いてもよい。要は、センサIC50,51は、外部機器から特定のトリガが入力されたときに異常診断信号Sd及び検出信号Sτを出力するものであればよい。
【0088】
・上記各実施形態では、センサIC50,51から出力される異常診断信号Sdの波形として、図3(b)の波形を例示したが、異常診断信号Sdの波形は適宜変更可能である。異常診断信号Sdの波形として、例えば第2信号S2、第1信号S1、及び異常検出信号Seの順に出力する波形を用いてもよい。また異常診断信号Sdの波形として、第1信号S1及び第2信号S2のいずれか一方、並びに異常検出信号Seを順に出力する波形を用いてもよい。さらにセンサIC50,51に自己診断機能が搭載されていない場合には、異常診断信号Sdから第3信号S3の波形を省略してもよい。また異常診断信号Sdから第1信号S1及び第2信号S2の波形を省略し、第3信号S3のみを異常診断信号Sdとして用いてもよい。なお、異常診断信号Sdには、予め定められた波形からなりセンサIC50,51の出力異常を判定可能な信号であれば、第1信号S1〜第3信号S3以外の適宜の信号を含めてもよい。
【0089】
・上記各実施形態では、センサIC50,51が共に正常な場合、センサIC50,51のそれぞれの検出信号Sτを比較することで、各センサIC50,51が正常であるか否かを監視することとした。ここで、センサIC50,51のそれぞれの検出信号Sτの比較に基づいてセンサIC50,51の異常を検出したとき、異常が発生したセンサICを特定する際に図5に例示した第1異常検出処理を利用してもよい。すなわち、センサIC50,51のいずれか一方の異常を検出したとき、各センサIC50,51への給電を一時的に遮断した後に各センサIC50,51への給電を再開する。そして各センサIC50,51に対して図5に示す処理を実行し、センサIC50,51のいずれが異常であるかを特定する。このような方法を採用すれば、センサIC50,51のいずれが異常であるかを容易に特定することができる。
【0090】
・上記各実施形態では、トルクセンサ5が2つのセンサIC50,51を有するものであったが、トルクセンサ5は一つのセンサICを有するものであってもよい。
・上記各実施形態では、検出信号及び異常診断信号を出力するセンサ部として、トルクセンサ5のセンサIC50,51を例示したが、検出信号及び異常診断信号を出力するセンサ部はこれに限定されない。例えば回転角センサ7のセンサICに対して上記各実施形態のセンサIC50,51に準じた構成を適用して、回転角センサ7のセンサICから検出信号及び異常診断信号を出力させてもよい。
【0091】
・上記実施形態のモータ制御装置4は、電動パワーステアリング装置のモータ制御装置に限らず、適宜のモータ制御装置に適用可能である。適用可能なモータ制御装置は、検出対象の状態量に応じた検出信号を出力するセンサを備え、センサの検出信号に基づきモータの駆動を制御するものであればよい。
【符号の説明】
【0092】
Sτ…検出信号、Sd…異常診断信号、1…操舵機構、4…モータ制御装置、5…トルクセンサ(センサ装置)、20…モータ、41…マイコン(制御部)、50,51…センサIC(センサ部)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9