(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239910
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】信号レベル検知装置および信号レベル検知方法
(51)【国際特許分類】
G01H 17/00 20060101AFI20171120BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20171120BHJP
B60G 17/018 20060101ALN20171120BHJP
【FI】
G01H17/00 Z
F16F15/02 B
!B60G17/018
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-192086(P2013-192086)
(22)【出願日】2013年9月17日
(65)【公開番号】特開2015-59761(P2015-59761A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年6月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 泉
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】窪田 友夫
(72)【発明者】
【氏名】奥村 昌利
【審査官】
田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−154801(JP,A)
【文献】
特開2011−225040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00−17/00
F16F 15/02
B60G 17/018
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号の大きさである信号レベルをリアルタイムに検知する信号レベル検知装置において、
入力されるオリジナル信号を利用して、ゲインが1で上記オリジナル信号と位相が異なる二つ以上のレベル算出信号を生成する信号生成部と、
上記オリジナル信号と二つ以上の上記レベル算出信号、或いは、三つ以上の上記レベル算出信号の最大値を求めて、前記最大値を上記信号レベルとする信号レベル演算部と
を備えた
ことを特徴とする信号レベル検知装置。
【請求項2】
上記信号レベル演算部は、上記オリジナル信号と二つ以上の上記レベル算出信号、或いは、三つの以上の上記レベル算出信号を絶対値処理し、絶対値処理して得た上記オリジナル信号と二つ以上の上記レベル算出信号の最大値、或いは、三つの以上の上記レベル算出信号の最大値を上記信号レベルとする
ことを特徴とする請求項1に記載の信号レベル検知装置。
【請求項3】
上記信号レベル演算部が求めた上記信号レベルを濾波するローパスフィルタを備えた
ことを特徴とする請求項1または2に記載の信号レベル検知装置。
【請求項4】
上記信号生成部は、複数の位相変更フィルタを備え、上記位相変更フィルタで上記オリジナル信号を処理して上記オリジナル信号に対してゲインが1で位相の異なる上記レベル算出信号を生成することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の信号レベル検知装置。
【請求項5】
上記複数の位相変更フィルタは、並列されてそれぞれ上記オリジナル信号を処理して上記レベル算出信号を生成する
ことを特徴とする請求項4に記載の信号レベル検知装置。
【請求項6】
上記複数の位相変更フィルタは、直列されて上記レベル算出信号を生成する
ことを特徴とする請求項4に記載の信号レベル検知装置。
【請求項7】
上記位相変更フィルタの伝達関数G(s)は、ラプラス演算子をsとし、周波数をωとすると、下記(数1)式、或いは、下記(数2)で設定され、生成する上記レベル算出信号毎に上記周波数ωの値を変更して、上記オリジナル信号から上記レベル算出信号を生成することを特徴とする請求項4から6のいずれか一項に記載の信号レベル検知装置。
【数1】
【数2】
【請求項8】
上記各レベル算出信号のうち上記信号レベルの検知に寄与する二つ以上のレベル算出信号は、上記オリジナル信号と上記二つ以上のレベル算出信号が180度の位相範囲内で等間隔の位相差を持つように生成される
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の信号レベル検知装置。
【請求項9】
上記各レベル算出信号のうち上記信号レベルの検知に寄与する三つ以上のレベル算出信号は、180度の位相範囲内で等間隔の位相差を持って生成される
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の信号レベル検知装置。
【請求項10】
上記位相差は、60度以下である
ことを特徴とする請求項8または9に記載の信号レベル検知装置。
【請求項11】
上記信号は、変位、速度、加速度、回転角、角速度、角加速度のうちから任意に選択される一つまたは複数の信号である
ことを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の信号レベル検知装置。
【請求項12】
信号の大きさである信号レベルをリアルタイムに検知する信号レベル検知方法において、
オリジナル信号から、ゲインが1で位相が異なる二つ以上のレベル算出信号を生成する信号生成ステップと、
上記オリジナル信号と二つ以上の上記レベル算出信号、或いは、三つ以上の上記レベル算出信号の最大値を上記信号レベルとして求めるレベル演算ステップと、
を備えた
ことを特徴とする信号レベル検知方法。
【請求項13】
上記レベル演算ステップは、上記オリジナル信号と二つ以上の上記レベル算出信号、或いは、三つ以上の上記レベル算出信号を絶対値処理し、上記絶対値処理して得た上記オリジナル信号と二つ以上の上記レベル算出信号の最大値、或いは、三つ以上の上記レベル算出信号の最大値を上記信号レベルとする
ことを特徴とする請求項12に記載の信号レベル検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号レベル検知装置および信号レベル検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のばね上部材とばね下部材との間に介装されるダンパの減衰力或いはアクチュエータの推力を制御する場合、たとえば、スカイフック制御理論に基づく制御手法があるが、スカイフック制御にあたり、ばね上速度にスカイフックゲイン(スカイフック減衰係数)を乗じて、ダンパやアクチュエータに出力させるべき減衰力や推力を求め、ダンパ或いはアクチュエータにこの求めた減衰力或いは推力を発生させるよう制御するのが一般的である(特許文献1参照)。
【0003】
また、車両のばね上部材の振動だけでなく、ばね下部材の振動を抑制する制御を行う場合には、ばね下加速度を検知して、このばね下速度を演算し、ばね下速度にスカイフックゲインを乗じてばね下部材の振動を抑制するための推力を求め、この推力に別途上記したスカイフック制御と同様にして求めたばね上部材の振動を抑制する推力に加算してアクチュエータに出力させるべき推力を求めて、当該アクチュエータにばね上振動とばね下振動を抑制する推力を発揮させるものもある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−247117号公報
【特許文献2】特開2011−84164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したような制御に当たっては、ばね上部材の振動を抑制するについても、ばね下部材の振動を抑制するについても、ばね上部材の速度或いはばね下部材の速度に依存した制御を行っているが、速度のみに着目した制御を行っているので、振動の大きさに対して何ら考慮が無いために、振動抑制を効果的に行うことができない場合がある。
【0006】
これに対して、特開2011−225040号公報には、ばね下速度と、ばね下速度に対してフィルタ処理して90度位相が異なる信号を求め、これらばね下速度と信号とをそれぞれ二乗したうえで加算して得た値の平方根を逐次包絡波形として求め、包絡波形に基づいてダンパの減衰力を制御する技術が開示されており、このようにして信号を処理して得られる包絡波形は信号の大きさである信号レベルに相当する。このように信号を処理することで得られた信号レベルは、上記したように、ダンパの減衰力の制御にあっては、ばね上部材の振動の大きさに相当するため、振動抑制に有効な情報として有用である。しかしながら、予め決められた周波数の信号に対しては、包絡波形を求めることで信号レベルを求めることができるものの、信号のソースがばね上部材の振動であるため、振動周波数が変化すると信号の周波数も変化する。このように、周波数が変化する信号の入力に対しては、精度良く信号レベルを得ることができないことから、制御周波数帯域がある程度広い制御に利用するのは難がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記した問題を解決すべく創案されたものであって、その目的とするところは、周波数帯域が広い制御に向く信号レベル検知を行うことができる信号レベル検知装置および信号レベル検知方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の課題解決手段における信号レベル検知装置は、信号の大きさである信号レベルを
リアルタイムに検知する信号レベル検知装置
であって、入力されるオリジナル信号を利用して、
ゲインが1で上記オリジナル信号と位相が異なる二つ以上のレベル算出信号を生成する信号生成部と、上記オリジナル信号と二つ以上の上記レベル算出信号、或いは、三つ以上の上記レベル算出信号
の最大値を求めて、前記最大値を上記信号レベルとする信号レベル演算部とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の課題解決手段における信号レベル検知方法は、信号の大きさである信号レベルを
リアルタイムに検知する信号レベル検知方法であって、オリジナル信号から、
ゲインが1で位相が異なる二つ以上のレベル算出信号を生成する信号生成ステップと、上記オリジナル信号と
二つ以上の上記各レベル算出信号、或いは、
三つ以上の上記各レベル算出信号
の最大値を上記信号レベル
として求めるレベル演算ステップとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、周波数帯域が広い制御に向く信号レベル検知を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施の形態における信号レベル検知装置の構成図である。
【
図4】レベル算出信号の周波数位相特性を示した図である。
【
図5】レベル算出信号の絶対値の波形を示した図である。
【
図6】周波数の異なるオリジナル信号の入力に対するレベル算出信号の絶対値の波形を示した図である。
【
図7】一実施の形態の一変形例における信号レベル検知装置の構成図である。
【
図8】0.1Hz〜20Hzのオリジナル信号に対して良好な信号レベルを得るためのレベル算出信号の周波数位相特性の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。
図1に示すように、信号レベル検知装置1は、物体Mの振動の大きさを示す信号の信号レベルを検知する装置に適用されており、この実施の形態の場合、物体Mの振動情報としての速度を得るセンサ部2が出力したオリジナル信号Oを利用して、位相が異なる二つ以上の、これ例では5個のレベル算出信号L1〜L5を生成する信号生成部3と、オリジナル信号Oおよび各レベル算出信号L1〜L5に基づいて信号レベルrを求める信号レベル演算部4とを備えている。
【0013】
本実施の形態では、
図2に示したように、ベースTに鉛直に取り付けたばねSによって図中下方から弾性支持した物体Mの振動情報をセンシングしてセンサ部2が出力する信号から信号レベルを信号レベル検知装置1で検知する場合について説明する。
【0014】
そのため、センサ部2は、この場合、物体Mに取り付けられて物体Mの上下方向の速度を検出するようになっている。物体Mの左右方向の振動情報を信号として信号レベルを検知したい場合には、センサ部2にて物体Mの左右方向の速度を検出するようにすればよい。センサ部2は、物体Mの振動に対して、同じ方向の速度を検出することができればよく、たとえば、物体Mの上下方向の振動と左右方向の振動をセンシングして得られた信号の信号レベルを検知したい場合には、センサ部2で物体Mの上下方向、左右方向および
図2中紙面を貫く方向を除いた方向の速度を検出して、上下方向と左右方向の二方向の速度を求めるようにしてもよい。
【0015】
なお、この信号レベル検知装置1は、センサ部2から得られる信号を処理して信号レベルを検知するものであるので、物体Mの振動をセンシングして得られた信号から信号レベルを得るだけではなく、容器内の圧力変動、気圧の変化、電波等をセンシングして得られた信号を処理して信号レベルを得ることも当然可能である。
【0016】
センサ部2は、物体Mに取り付けられて物体Mの上下方向加速度を検出する加速度検出器5と、加速度検出器5で検出した上下方向加速度を積分して物体Mの上下方向速度を得る積分器6とを備えて構成されている。そして、センサ部2は、検出した物体Mの上下方向速度をオリジナル信号Oとして出力する。
【0017】
次に、信号生成部3は、オリジナル信号Oと振幅は同じであるが、互いに位相の異なる5個のレベル算出信号L1〜L5を求める。具体的には、信号生成部3は、オリジナル信号Oからレベル算出信号Ln(n=1,2,3,4,5)を得るために、オリジナル信号Oに対して振幅は変えずに位相のみを変更する位相変更フィルタF1〜F5を備え、これら位相変更フィルタF1〜F5を並列させて、オリジナル信号Oを位相変更フィルタF1〜F5でフィルタ処理するようになっている。位相変更フィルタは、レベル算出信号L1〜L5の数に対応して設ければよく、この場合、5つ設ければよい。
【0018】
位相変更フィルタF1〜F5の伝達関数G(s)は、以下の式(3)によって設定されている。なお、式(3)中、O(s)は、オリジナル信号Oのラプラス変換量を示し、Ln(s)(n=1,2,3,4,5)は、レベル算出信号Ln(n=1,2,3,4,5)のラプラス変換量を示し、sは、ラプラス演算子を示しており、さらに、ωn(n=1,2,3,4,5)は、周波数を示しω1〜ω5までそれぞれ異なる周波数が設定される。
【0020】
したがって、信号生成部3は、レベル算出信号Ln(n=1,2,3,4,5)を求めるには、周波数をωn(n=1,2,3,4,5)として設定される伝達関数G(s)をもつ位相変更フィルタFn(n=1,2,3,4,5)を利用して、オリジナル信号Oから当該レベル算出信号Ln(n=1,2,3,4,5)を求める。たとえば、レベル算出信号L4を求めるには、信号生成部3は、周波数にω4を入力して設定される伝達関数G(s)をもつ位相変更フィルタF4でオリジナル信号Oをフィルタ処理し、オリジナル信号Oから当該レベル算出信号L4を求めることになる。
【0021】
このように信号生成部3で位相変更フィルタF1〜F5を用いてレベル算出信号L1〜L5を求めると、
図3に示すように、或る周波数αのオリジナル信号Oの入力に対して振幅は変わらないが互いに位相のみが異なる5個のレベル算出信号L1〜L5を簡単に求めることができる。なお、オリジナル信号Oとレベル算出信号L1の位相差およびレベル算出信号L1〜L4間での位相差が等間隔になっているが、レベル算出信号L4とレベル算出信号L5の位相差がオリジナル信号Oとレベル算出信号L1の位相差および他のレベル算出信号L1〜L5間での位相差と異なる。これは、レベル算出信号L1〜L4の周波数位相特性が、
図4に示すようになっており、上限の0度から下限の−180度の範囲で変化する特性となっており、0度と−180度で制限される。レベル算出信号L1〜L5の位相は、オリジナル信号の周波数が極低い周波数である場合、0度か0度近傍となり、オリジナル信号の周波数が極高い周波数である場合、−180度か−180度近傍となる。そのため、
図3に示すように、周波数αのオリジナル信号Oに対してフィルタ処理して得られたレベル算出信号L1〜L4では位相差が等間隔に配置されるが、レベル算出信号L5の位相が−180度の近くなって隣のレベル算出信号L4との位相差が小さくなるようになっている。
【0022】
なお、位相変更フィルタF1〜F5の伝達関数G(s)は、以下の式(4)によって設定されてもよい。式(4)中、O(s)は、オリジナル信号Oのラプラス変換量を示し、Ln(s)(n=1,2,3,4,5)は、レベル算出信号Ln(n=1,2,3,4,5)のラプラス変換量を示し、sは、ラプラス演算子を示しており、さらに、ωn(n=1,2,3,4,5)は、周波数を示しω1〜ω5までそれぞれ異なる周波数が設定される。
【0024】
さらに、位相変更フィルタF1〜F5は、二次のローパスフィルタとすることも可能である。具体的には、位相変更フィルタF1〜F5の伝達関数G(s)は、以下の式(5)によって設定されてもよい。式(5)中、O(s)は、オリジナル信号Oのラプラス変換量を示し、Ln(s)(n=1,2,3,4,5)は、レベル算出信号Ln(n=1,2,3,4,5)のラプラス変換量を示し、sは、ラプラス演算子を示しており、さらに、ζは減衰率、ωn(n=1,2,3,4,5)は、カットオフ周波数を示しω1〜ω5までそれぞれ異なるカットオフ周波数が設定される。
【0026】
位相変更フィルタF1〜F5にローパスフィルタを用いれば、オリジナル信号Oに対してレベル算出信号L1〜L5の位相を遅らせることができ、ハイパスフィルタを用いれば、オリジナル信号Oに対してレベル算出信号L1〜L5の位相を進ませることができるため、位相変更フィルタF1〜F5の一部にハイパスフィルタを用いて、位相変更フィルタF1〜F5の残りにローパスフィルタを用いるといったことも可能である。
【0027】
さらに、信号生成部3にあっては、オリジナル信号Oから位相の異なるレベル算出信号L1〜L5を得るものであるから、上記したフィルタ処理を用いずに、オリジナル信号Oに対して規定時間ずつ遅れた信号をレベル算出信号L1〜L5として生成するようにしてもよい。
【0028】
信号レベル演算部4は、オリジナル信号Oおよび各レベル算出信号L1〜L5を絶対値処理して得られた信号のうち最大値を求める。オリジナル信号Oおよび各レベル算出信号L1〜L5を絶対値処理すると、絶対値処理後のオリジナル信号Oおよびレベル算出信号L1〜L5の波形は、
図5に示すように、オリジナル信号Oおよびレベル算出信号L1〜L5の波形のうち負の値をもつ部分が時間軸を中心に正側へ折り返した格好となる。なお、オリジナル信号Oおよびレベル算出信号L1〜L5の絶対値は、互いに位相を異にしているので、オリジナル信号Oおよびレベル算出信号L1〜L5を絶対値処理しても当該処理後のオリジナル信号Oおよびレベル算出信号L1〜L5における各波形が時間的にずれを生じるようになっている。
【0029】
このように処理することで、
図5中、どの時間をとっても、絶対値処理後のオリジナル信号Oおよびレベル算出信号L1〜L5の最大値は、オリジナル信号Oの最大振幅と等しいか或いは最大振幅に近似した値となることが分かる。たとえば、時間aにおける絶対値処理後のオリジナル信号Oおよびレベル算出信号L1〜L5の最大値はレベル算出信号L2の最大値となり、時間bにおける絶対値処理後のオリジナル信号Oおよびレベル算出信号L1〜L5の最大値は、オリジナル信号Oの最大振幅の値に近似した値となる。
【0030】
レベル算出信号L1〜L5の最大振幅は、オリジナル信号Oの速度における最大振幅と等しく、オリジナル信号Oの最大振幅は、信号レベルに等しく、この実施の形態では、速度を尺度として見た物体Mの振動の大きさを示している。つまり、オリジナル信号Oが一周期した場合の最大値が信号レベルになるのであるが、一周期分をサンプリングするのではタイムリーに信号レベルを求めることができず、また、物体Mの振動の周波数が変化すると、オリジナル信号の周波数が変化してオリジナル信号が一周期に要する時間が変化するために最大振幅を得ることができないが、上記したように、オリジナル信号Oと振幅が同じで、互いに位相のみが異なるレベル算出信号L1〜L5を生成すると、信号レベルrを演算する時点において、絶対値処理後のオリジナル信号Oおよびレベル算出信号L1〜L5のうちいずれかが最大値か最大値に近い値となることが期待でき、絶対値処理後のオリジナル信号Oおよびレベル算出信号L1〜L5のうち最大値を求めて信号レベルrとすることで、信号レベルrをオリジナル信号Oの最大振幅の値そのものかこれに近似した値として得ることができる。
【0031】
そして、たとえば、
図6に示すように、周波数αよりも低い周波数βのオリジナル信号Oを入力しても、オリジナル信号Oとこのオリジナル信号Oに対して位相が異なるレベル算出信号L1〜L5のうち演算時点での最大値を得て信号レベルrとするので、信号レベルrは、オリジナル信号Oの最大振幅の値かこれに近似した値となる。つまり、オリジナル信号Oの周波数が変化しても、オリジナル信号Oの最大振幅の値に近似した値を信号レベルrとして得ることができる。
【0032】
なお、
図6に示したところでは、レベル算出信号L1〜L5間での位相差が等間隔になっているが、オリジナル信号Oとレベル算出信号L1の位相差が他のレベル算出信号L1〜L5間での位相差と異なる。
図4に示すように、オリジナル信号Oの位相は0度で一定であるものの、レベル算出信号L1の位相は、周波数が低くなると上限の0度で制限されるため、レベル算出信号L1の位相が0度の近くなってオリジナル信号Oとの位相差が小さくなるようになっている。さらに、周波数が低い領域では、レベル算出信号L1と隣のレベル算出信号L2との位相差も小さくなる。しかしながら、周波数が低くなっても、位相差が等間隔になるレベル算出信号L2〜L5によって、オリジナル信号Oの最大振幅の値に近似した値を信号レベルrとして得ることができる。このように信号レベル検知装置1にあっては、オリジナル信号Oの周波数が変化してもリアルタイム且つタイムリーに、オリジナル信号Oの最大振幅の値かこれに近似した値を信号レベルrとして求めることができ、幅広い周波数帯の信号に対して精度良く信号レベルrを求めることができる。
【0033】
以上より、本発明の信号レベル検知装置および信号レベル検知方法によれば、オリジナル信号Oの周波数が変化してもリアルタイム且つタイムリーに信号レベルを求めることができるので、周波数帯域が広い制御に向く信号レベル検知を行うことができる。
【0034】
また、この実施の形態で求めた信号レベルrは、オリジナル信号Oが物体Mの振動情報である速度であるため、このように信号レベルrを検知することで、物体Mの振動の大きさ(振動レベル)をタイムリーかつリアルタイムに検知することができ、このように求めた振動レベルは、物体Mの振動に対して時間的に遅れが少ないので、たとえば、車両の振動の抑制制御への使用にも十分に耐えうる。また、上記した実施の形態では、オリジナル信号Oとレベル算出信号L1〜L5を用いて信号レベルrを得ていたが、オリジナル信号Oから信号レベルrを得たい周波数帯域において位相の異なる三つ以上のレベル算出信号を生成すれば、信号レベルrを精度よく得ることができるので、信号レベル演算部4にて、オリジナル信号Oを使用せずレベル算出信号のみを用いて上記手順を実行することで信号レベルrを得るようにしてもよい。
【0035】
さらに、位相変更フィルタF1〜F5は、オリジナル信号Oを並列して処理してレベル算出信号L1〜L5を得るようになっているが、
図7に示すように、位相変更フィルタF1〜F5を直列配置することも可能である。たとえば、オリジナル信号Oを位相変更フィルタF1で処理してレベル算出信号L1を得て、レベル算出信号L1を位相変更フィルタF2で処理してレベル算出信号L2を得てというように、続く、位相変更フィルタF2〜F5で、直前の位相変更フィルタで処理されたレベル算出信号を直後の位相変更フィルタで処理してレベル算出信号を得ることも可能である。
【0036】
ここで、上記したように、レベル算出信号の周波数位相特性は、
図4に示すように、上限の0度から下限の−180度の範囲で変化し、周波数が低くなると0度に近づき、周波数が高くなると−180度に近づくようになっていて、高い周波数αに対しては位相変更フィルタF1〜F5で処理したオリジナル信号Oとレベル算出信号L1〜L4の間の位相が等間隔となり、オリジナル信号Oの最大振幅或いはこれに近似した値の信号レベルrを得ることができ、低い周波数βに対しては位相変更フィルタF1〜F5で処理したレベル算出信号L1〜L5の位相が等間隔となり、オリジナル信号Oの最大振幅或いはこれに近似した値の信号レベルrを得ることができる。
【0037】
つまり、本実施の形態の信号レベル検知装置1では、高周波数の周波数αから低周波数の周波数βまでのオリジナル信号Oに対して、精度良く信号レベルrを検知することができる。上記したところから、周波数αのオリジナル信号Oに対して信号レベルrの検知に寄与するのは、オリジナル信号Oと位相変更フィルタF1〜F4で生成したレベル算出信号L1〜L4となり、周波数βのオリジナル信号Oに対して信号レベルrの検知に寄与するのは、位相変更フィルタF1〜F5となり、オリジナル信号Oの周波数によって信号レベルrの検知に寄与する位相変更フィルタが変化することが理解できる。
【0038】
したがって、信号レベルrを精度よく検知することができる周波数帯域を広げたい場合、周波数帯域の下限から上限の範囲内では、オリジナル信号Oをレベル算出信号とともに用いる場合にはオリジナル信号Oと少なくとも二つ以上のレベル算出信号が180度の範囲内で等間隔の位相差で分散されるようにするとよく、レベル算出用信号のみを用いて信号レベルを求める場合には、少なくとも三つ以上のレベル算出信号が180度の範囲内で等間隔の位相差で分散されるようにするとよい。したがって、レベル算出信号を生成するフィルタの設置数は、レベル算出信号の生成数に応じて決定すればよい。
【0039】
たとえば、0.1Hzから20Hzの帯域のオリジナル信号の入力に対して信号レベルrを得たい場合、
図8に示すように、0.1Hzから20Hz帯域内のすべてで三つ以上のレベル算出信号或いはオリジナル信号と二つ以上のレベル算出信号が180度の範囲内で等間隔の位相差で分散されるようにすれば、0.1Hzから20Hz帯域のオリジナル信号の入力に対して精度良く、信号レベルrを検知することができる。
【0040】
よって、オリジナル信号Oの入力に対して信号生成部3がオリジナル信号Oと信号レベルrの検知に寄与するレベル算出信号L1〜L5とが180度の範囲内で60度以下の等間隔の位相差で分散されるようにこれらレベル算出信号L1〜L5をする生成するようにすれば、幅広い周波数帯の信号に対して信号レベルrを検知でき、精度も向上する。これは、信号を正弦波で表現すると、60度位相がずれた三つのレベル算出信号を生成して信号レベルrを求めると、信号レベルrは、少なくとも物体のオリジナル信号Oの波高の0.85倍を下回ることがないので、良好な信号レベルrを求めることができる。なお、オリジナル信号Oがレベル算出信号の生成のみに使用される場合には、信号生成部3が信号レベルrの検知に寄与するレベル算出信号L1〜L5を180度の範囲内で60度以下の等間隔の位相差で分散されるように生成するようにすれば、幅広い周波数帯の信号に対して信号レベルrを検知でき、精度も向上する。
【0041】
さらに、ある周波数のオリジナル信号Oの入力に対して、位相180度の範囲内で位相差が等間隔となるレベル算出信号の生成数が多く、レベル算出信号同士の位相差が小さい場合、レベル算出信号の絶対値のうち最大値を信号レベルrとする以外に、2番目や3番目に大きな値を信号レベルrとしたり、最大値と2番目に大きな値の平均値を信号レベルrとしても実用上問題はない。たとえば、信号を正弦波とする場合、12個のレベル算出信号を15度ずつの位相差で生成すると、レベル算出信号の絶対値のうち三番目に大きな値を信号レベルrとしても、信号レベルrは、少なくとも物体のオリジナル信号Oの波高の0.9倍を下回ることがないので、良好な信号レベルrを求めることができる。無論、レベル算出信号の絶対値のうち最大値が実際の信号レベルrに一番近い値を採るため、最大値を信号レベルrとして求めることが好ましい。
【0042】
また、
図1に示すように、最大値演算部4が出力する信号レベルrをローパスフィルタ7で処理するようにすれば、得られた信号レベルからリップルを取り除くことができ、信号レベルrの急変を抑制することができる。
【0043】
さらに、上記した例では、オリジナル信号Oおよびレベル算出信号L1〜L5を絶対値処理することにより、オリジナル信号Oの符号が負の場合でも、信号レベルrがオリジナル信号Oの最大振幅に近似した値になりやすくなり、より一層精度良く信号レベルを検知することができる。
【0044】
なお、信号レベル検知装置1は、この実施の形態の場合、ハードウェア資源としては、図示はしないが具体的にはたとえば、加速度検出器5が出力する信号を取り込むためのA/D変換器と、信号レベルrの検知に必要な処理に使用されるプログラムが格納されるROM(Read Only Memory)等の記憶装置と、上記プログラムに基づいた処理を実行するCPU(Central Processing Unit)などの演算装置と、上記CPUに記憶領域を提供するRAM(Random Access Memory)等の記憶装置とを備えて構成されればよく、CPUが上記プログラムを実行することで、信号生成部3と、各レベル算出信号L1〜L5のうち最大値を求め、当該最大値を上記信号レベルrとする最大値演算部4の動作を実現すればよい。
【0045】
また、上記したところでは、オリジナル信号Oとして物体Mの速度を信号レベル検知装置1に入力することで信号レベルrを求めるので、求めた信号レベルrは、物体Mの速度を尺度とした振動レベルとなるが、物体Mの振動情報を加速度とし、これをオリジナル信号として信号レベルrを求めれば、加速度を尺度とした振動レベルを求めることができる。さらに、物体Mの振動情報を変位とし、これをオリジナル信号として信号レベルrを求めれば、変位を尺度とした振動レベルを求めることができる。
【0046】
この信号レベル検知装置1を車両に適用して、信号レベルを車両におけるばね上部材の振動レベルとしてこれを検知する場合、車体には、1〜2Hzのばね上共振周波数の振動、10〜20Hzのばね下共振周波数の振動の他にも、操舵時に0.1Hz前後の振動が入力されることがあるが、0.1Hz〜20Hzまでの広範な周波数帯の振動がばね上部材に入力されても、周波数によらずばね上部材の振動レベルを精度良く検知することができる。さらに、上記したところでは、物体MがばねSで支持されたばねマス系における物体Mの振動情報を信号として信号レベル(振動レベル)を求めるようになっているが、物体Mの回転における振動情報を信号として物体Mの振動レベルを求めることもできる。したがって、振動情報を信号として、その場合の信号レベルである振動レベルを求める場合、車両のばね上部材およびばね下部材の振動レベル以外にも、搭乗者の操作状況によって回転方向における振動周波数が都度大きく異なるハンドルの振動レベルの検知にも向いており、その場合には、ハンドルの回転角、角速度、角加速度のいずれかをハンドルの振動情報を信号として検出し、回転角、角速度、角加速度のいずれかを尺度してハンドルの回転における振動レベルを求めることも可能である。よって、当該信号レベル検知装置1は、それ一つで、広範な周波数帯域の振動が作用する車両において振動する機器の振動レベルを求めることができ、車両に最適であることが分かる。また、信号として複数の振動情報を選択して、一つの信号レベル検知装置1で処理して各情報の振動レベルを求めることも可能である。
【0047】
また、この信号レベル検知装置及び信号レベル検知方法は、自動車以外の車両、たとえば、鉄道車両にも適し、さらには、建築物の振動レベルの検知に適用することも可能であるし、センサ等から出力される各種信号を処理して信号レベルを得ることも可能である。
【0048】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の信号レベル検知方法および信号レベル検知装置は、たとえば、車両、建築物の信号レベルの検知に利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 信号レベル検知装置
2 センサ部
3 信号生成部
4 信号レベル演算部
7 ローパスフィルタ
F1〜F6 位相変更フィルタ
L1〜L6 レベル算出信号
M 物体
O オリジナル信号