(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
有機フッ素界面活性剤はその熱安定性等の特徴から工業分野等で広く使用されている。しかしながら、特にパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やパーフルオロオクタン酸(PFOA)は、その化学的な安定性等のため、生態系や環境への影響が問題となり、2000年以降その使用が規制されてきた。米国EPAのPFOAの飲料水質基準(推奨値)は、0.4ppb以下とされている。
【0003】
これまで、一般的に有機フッ素界面活性剤含有排水中の有機フッ素界面活性剤を処理する方法として、微生物による分解(例えば、特許文献1参照)やマイクロバブルによる分解(例えば、特許文献2参照)、活性炭による吸着(例えば、特許文献3参照)等が提案されているが、いずれも設備が大規模であったり、ランニングコストが膨大であったりする問題があり、安価に効率よく処理できる方法が求められている。
【0004】
活性炭による吸着処理は界面活性剤を除去することは可能であるが、活性炭は有機フッ素界面活性剤に対する吸着容量が小さい。さらに原水中の他の有機物も吸着除去してしまうため、ますます吸着容量が小さくなって、頻繁に活性炭を交換する必要があり、コスト的に不利となる問題がある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本発明の実施形態に係る排水処理装置の一例の概略を
図1に示し、その構成について説明する。排水処理装置1は、接触手段としての接触装置10と、活性炭処理手段としての活性炭処理装置12と、を備える。
【0015】
図1の排水処理装置1において、接触装置10の入口に原水配管14が接続され、接触装置10の出口と活性炭処理装置12の入口とが接触処理水配管16により接続され、活性炭処理装置12の出口に処理水配管18が接続されている。
【0016】
本実施形態に係る有機フッ素界面活性剤含有排水の処理方法および排水処理装置1の動作について説明する。
【0017】
原水である有機フッ素界面活性剤含有排水は、原水配管14を通して、リン酸のカルシウム塩が充填されたD充填塔等の接触装置10に通液され、リン酸のカルシウム塩と接触される(接触工程)。
【0018】
接触工程においてリン酸のカルシウム塩と接触された接触処理水は、接触装置10の出口から接触処理水配管16を通して、活性炭が充填された活性炭充填塔等の活性炭処理装置12に通液され、活性炭で処理される(活性炭処理工程)。
【0019】
活性炭処理工程において活性炭処理された処理水は、活性炭処理装置12の出口から処理水配管18を通して、系外に排出される。
【0020】
本発明者らは、有機フッ素界面活性剤含有排水を、リン酸のカルシウム塩と接触させて前処理し、その後、活性炭で処理することによって、活性炭の寿命が非常に長くなることを見出した。本方法によれば、何ら特殊な装置を用いなくても、有機フッ素界面活性剤含有排水から有機フッ素界面活性剤を効率よく除去することが可能となり、低コストで有機フッ素界面活性剤含有排水の処理が可能となる。
【0021】
有機フッ素界面活性剤が効率よく除去されるメカニズムは必ずしも明確ではないが、前処理で接触させたリン酸のカルシウム塩から溶出するリン酸やミネラル等が影響して、活性炭が生物活性炭となり、活性炭に吸着した「原水に共存する有機物や界面活性剤」が微生物により分解され、吸着容量が大きくなって、活性炭の寿命が伸びたものと推測される。
【0022】
これらの微生物としては、Zoogloea sp.やBacillus sp. Pseudomonas sp.等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
処理対象となる原水である有機フッ素界面活性剤含有排水に含まれる有機フッ素界面活性剤としては、例えば、炭素数2以上12以下のパーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸およびその塩類等が挙げられる。本実施形態に係る有機フッ素界面活性剤含有排水の処理方法および処理装置は、活性炭への吸着を特に効果的に行うことができる等の点から、特に、炭素数6〜8のパーフルオロヘキサンスルホン酸、パーフルオロヘキサン酸、パーフルオロヘプタンスルホン酸、パーフルオロヘプタン酸、パーフルオロオクタンスルホン酸、パーフルオロオクタン酸、ω−ヒドロ−パーフルオロヘプタン酸およびその塩類のうち少なくとも1つを含む有機フッ素界面活性剤含有排水の処理に好適に適用される。
【0024】
有機フッ素界面活性剤含有排水中の有機フッ素界面活性剤の含有量は、例えば、10ppb〜1000ppbの範囲である。
【0025】
有機フッ素界面活性剤含有排水としては、例えば、フッ素化合物製造工場、フッ素製品加工工場、半導体工場の排水等が挙げられる。
【0026】
接触工程における、有機フッ素界面活性剤含有排水と、リン酸のカルシウム塩との接触方法としては、有機フッ素界面活性剤含有排水と、リン酸のカルシウム塩とを接触することができる方法であればよく、特に制限はないが、例えば、充填塔にリン酸のカルシウム塩を充填し、下降流等によって原水を通水する方法や、撹拌槽にリン酸のカルシウム塩を添加し、原水と混合して接触させる方法等が挙げられる。
【0027】
「リン酸のカルシウム塩」としては、特に制限はないが、例えば、リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)、無水リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸カルシウム等が挙げられる。これらのうち、フッ素が除去できる点と、水に対する溶解度等の点から、リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)がより好ましい。
【0028】
リン酸水素カルシウム二水和物は、例えば特開2010−179241号公報に記載されているように、通常、水中のフッ
素イオンを除去するために用いられるが、単独では有機フッ素界面活性剤を処理することはほとんどできない。
【0029】
リン酸のカルシウム塩としては、粒状等のものを用いることができる。
【0030】
リン酸のカルシウム塩としては、リン酸のカルシウム塩と粒子とを含み、リン酸のカルシウム塩が粒子に担持されている処理剤の形態として用いてもよい。リン酸のカルシウム塩が粒子に担持されている処理剤の形態として用いることによって、処理剤に有機フッ素界面活性剤含有排水を透水することで、長期にわたってリン酸のカルシウム塩が実質的に流出せず、長期にわたって透水性に優れ、処理することができる。ここで、担持とは、担体である粒子がリン酸のカルシウム塩を担ぐように支持することをいう。リン酸のカルシウム塩の体積平均粒径(レーザ回折錯乱法により測定)としては、例えば、30〜70μm程度である。
【0031】
上記粒子としては、例えば、一般的に水の浄化等に用いられるろ過砂、ろ過砂利等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記粒子のふるい分け試験(JIS Z8801)で求められる粒径としては、例えば、0.3〜3.0mm程度である。
【0032】
上記処理剤は、粒子100質量部に対して、リン酸のカルシウム塩が1〜100質量部の範囲で担持されているものであることが好ましい。上記範囲に設定することによって、リン酸のカルシウム塩が粒子に効率よく担持され、より透水性、処理性に優れる処理剤となる。より好ましくは、粒子100質量部に対して、リン酸のカルシウム塩が5〜50質量部の範囲であり、さらに好ましくは、7〜15質量部の範囲である。
【0033】
接触工程における温度は、例えば、0℃〜60℃の範囲である。
【0034】
活性炭処理工程における、活性炭による接触処理水の処理方法としては、接触処理水と活性炭とを接触することができる方法であればよく、特に制限はないが、例えば、充填塔に活性炭を充填し、下降流等によって接触処理水を通水する方法等が挙げられる。
【0035】
活性炭としては、球状活性炭、粒状活性炭、粉末活性炭等が挙げられ、特に制限はないが、ハンドリングしやすい、圧力損失が発生しにくい等の点から、球状活性炭が好ましい。ここで、一般に、球状活性炭とは、球状に成型したもので、例えば均等係数1.4以下のもの等がある。
【0036】
球状活性炭の市販品としては、オルビーズQ(オルガノ株式会社製)、球状活性炭BAC(株式会社クレハ製)等が挙げられる。粒状活性炭、粉末活性炭の市販品としては、カルゴンカーボンジャパン製ダイヤホープシリーズ等が挙げられる。
【0037】
活性炭処理工程における温度は、例えば、0℃〜60℃の範囲である。
【0038】
リン酸のカルシウム塩と接触させる接触工程の前段側で、原水中の懸濁物質等を除去するために砂ろ過工程等の懸濁物質除去工程を設けてもよい。
【0039】
懸濁物質除去工程における処理方法としては、原水中の懸濁物質等を除去することができる方法であればよく、特に制限はないが、例えば、充填塔に砂を充填し、下降流等によって原水を通水する方法等が挙げられる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
<実施例1>
図2に示す排水処理装置を用いて、有機フッ素界面活性剤含有排水の処理を行った。
図2に示す排水処理装置は、接触装置10と、活性炭処理装置12と、を備え、接触装置10の前段側に懸濁物質除去手段として砂ろ過装置(砂ろ過塔)20を備える。
【0042】
[処理条件]
原水:フッ素化学製造工程排水(パーフルオロオクタン酸(PFOA)含有)
原水流量:2m
3/h
原水PFOA濃度:180〜310ppb
砂ろ過塔:φ1200mm
砂ろ過塔充填剤:砂440L、アンスラサイト570L
リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)充填塔:φ1600mm
DCPD充填塔充填剤:リン酸水素カルシウム二水和物(新田ゼラチン株式会社製)含有充填剤 4320L
活性炭塔:φ1200mm
活性炭:オルガノ株式会社製、オルビーズQ 1440L
温度:15〜25℃
【0043】
なお、リン酸水素カルシウム二水和物含有充填剤およびリン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)充填塔は、以下のようにして作製した。傾胴型重力式ミキサ(容量110L)に、急速ろ過用砂(トーケミ製、「日本水道協会規格 JWWA A103−1:2004規格品、有効径:0.6mm、均等係数:1.5以下、最大径2.8mm以下、最小径0.3mm以上」)およびリン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)の粉末(平均粒径:54μm)の合計100質量部当たり、急速ろ過用砂を90質量部、DCPDを10質量部の割合で投入し、3分間混合を行った。ガラス製カラム筐体に、上記混合により得られた急速ろ過用砂とDCPDとの混合物およびガラスウールを充填して、DCPD充填塔とした。
【0044】
処理結果を
図4に示す。また、通水1000時間後の、各塔出口の水質分析結果を表1に示す。なお、表1に示す水質分析のうち、有機フッ素界面活性剤の分析は、ABSCIEX(エービーサイエックス)社製LC−MS/MSシステムを用いて行った。その他の成分は、イオンクロマト等の一般的な方法で行った。
【0045】
【表1】
【0046】
<比較例1>
図3に示す排水処理装置を用いた以外は、実施例1と同様にして、有機フッ素界面活性剤含有排水の処理を行った。
図3に示す排水処理装置は、活性炭処理装置32を備え、活性炭処理装置32の前段側に懸濁物質除去手段として砂ろ過装置(砂ろ過塔)30を備える。処理結果を
図4に示す。
【0047】
<実施例2>
図2に示す排水処理装置を用いて、有機フッ素界面活性剤含有排水の処理を行った。
【0048】
[処理条件]
原水:フッ素化学製造工程排水(ω−ヒドロ−パーフルオロヘプタン酸含有)
原水流量:2m
3/h
原水パーフルオロヘプタン酸濃度:560〜800ppb
【0049】
その他の条件は実施例1と同様である。処理結果を
図5に示す。また、通水1000時間後の、各塔出口の水質分析結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
<比較例2>
図3に示す排水処理装置を用いた以外は、実施例2と同様にして、有機フッ素界面活性剤含有排水の処理を行った。処理結果を
図5に示す。
【0052】
<実施例3>
図2に示す排水処理装置を用いて、有機フッ素界面活性剤含有排水の処理を行った。
【0053】
[処理条件]
原水:フッ素化学製造工程排水(パーフルオロヘキサン酸含有)
原水流量:2m
3/h
原水パーフルオロヘキサン酸濃度:7〜15ppb
【0054】
その他の条件は実施例1と同様である。処理結果を
図6に示す。また、通水1000時間後の、各塔出口の水質分析結果を表3に示す。
【0055】
<比較例3>
図3に示す排水処理装置を用いた以外は、実施例3と同様にして、有機フッ素界面活性剤含有排水の処理を行った。処理結果を
図6に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
このように、有機フッ素界面活性剤含有排水を、リン酸のカルシウム塩と接触させた後に活性炭で処理することにより、有機フッ素界面活性剤含有排水から有機フッ素界面活性剤を効率よく除去することができた。