(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記先行技術が有する課題は、冷却水を暖房に利用する場合において、エネルギー効率に改善の余地があることである。ここでいうエネルギー効率とは、暖房による温風に含まれる熱エネルギーの増分を、冷却水を加熱するために投入されたエネルギーで割って得られる値のことである。この他、装置の小型化や、低コスト化、省資源化、製造の容易化、使い勝手の向上等が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、先述した課題の少なくとも一部を解決するためのものであり、以下の形態として実現できる。
【0006】
(1)本発明の一形態によれば、温度制御装置が提供される。この温度制御装置は、燃料電池の温度を制御する冷却部と;空調のために熱媒体を循環させる空調部と;前記燃料電池を運転するために動作する少なくとも2つの補機を含む補機類と;前記冷却部を循環する熱媒体の少なくとも一部が前記空調部を循環する場合に、前記冷却部を循環する熱媒体への加熱量を、前記補機の一部または全部を用いて増大させる加熱部とを備え;前記加熱部は、前記加熱量の増大を前記補機の一部を用いて実行する場合、前記補機の中でエネルギー効率がより高いものを用いて前記加熱量の増大を実行する。この形態によれば、冷却部を循環する熱媒体(冷却水)を空調に利用する場合において、エネルギー効率が改善される。補機の一部を用いて加熱量を増大させる場合、エネルギー効率が良い補機を用いるからである。
【0007】
(2)上記形態において、前記補機類は、前記熱媒体を循環させるために前記冷却部に設けられた熱媒体用ポンプを含み;前記加熱部は、前記補機の中から1つを用いる場合、前記加熱量の増大を、前記熱媒体用ポンプによって前記熱媒体の流量を増大させることによって実行する。この形態によれば、エネルギー効率が改善される。熱媒体用ポンプは、熱媒体に接触するため、熱媒体を効率よく加熱できる。よって、熱媒体用ポンプは、他の補機よりもエネルギー効率が高いと考えられるので、最も優先的に使用する補機として選択されることによって、上記効果を得ることができる。
【0008】
(3)上記形態において、前記補機類は、前記燃料電池から排出された燃料ガスを、再び前記燃料電池に供給するための燃料ガス用ポンプを含み;前記加熱部は、前記熱媒体の流量が所定値以上であることを必要条件として、前記燃料ガス用ポンプの回転数を増大させることによって前記加熱量を増大させる。この形態によれば、エネルギー効率が改善される。熱媒体の流量が所定値に達するまでは、よりエネルギー効率がより低い補機である燃料ガス用ポンプによらずに加熱量の増大を実行するからである。燃料ガス用ポンプは、熱媒体を直接的に加熱することはできないので、熱媒体用ポンプよりもエネルギー効率が低いと考えられる。
【0009】
(4)上記形態において、前記補機類は、前記燃料電池に空気を供給するためのコンプレッサを含み;前記加熱部は、前記燃料ガス用ポンプの回転数が所定値以上であることを必要条件として、前記コンプレッサの回転数を増大させることによって前記加熱量を増大させる。この形態によれば、エネルギー効率が改善される。熱媒体用ポンプの回転数が所定値に達するまでは、よりエネルギー効率が低い補機であるコンプレッサによらずに加熱量の増大を実行するからである。コンプレッサによって加熱された空気は、燃料電池に供給された後、大気に排出されることが多い。排出された空気に含まれる熱エネルギーは、大気に捨てられてしまう。よって、コンプレッサは、燃料ガス用ポンプよりもエネルギー効率が低いと考えられる。
【0010】
(5)上記形態において、前記加熱部は、前記コンプレッサの回転数が所定値以上であることを必要条件として、前記燃料電池の間欠運転閾値を変更することによって前記加熱量を増大させる。この形態によれば、コンプレッサの回転数が所定値に達するまでは、間欠運転閾値の変更によらずに加熱量の増大を実行するからである。間欠運転閾値の変更によるエネルギー効率は、コンプレッサの回転数の増大によるエネルギー効率よりも低い傾向にある。
【0011】
(6)上記形態において、前記空調部は、前記熱媒体を加熱する電気ヒータを備えると共に、前記電気ヒータによる発熱量をデューティの調整によって制御し;前記加熱部は、前記デューティが基準値以上であることを必要条件として、前記補機の一部または全部を用いた加熱量の増大を実行する。この形態によれば、エネルギー効率が改善される。電気ヒータは、補機類に比べてエネルギー効率が高い。よって、デューティが基準値に達するまでは、補機類によらず、電気ヒータによって加熱量の増大を実現することによって、上記効果を得ることができる。
【0012】
(7)上記形態において、前記補機類は、第1及び第2の補機を含み;前記第1の補機は、前記第2の補機よりもエネルギー効率が高く;前記加熱部は、要求加熱量が所定値未満の場合は、前記第1の補機を用いて加熱量を増大させ、要求加熱量が前記所定値以上の場合は、前記第1及び第2の補機を用いて加熱量を増大させる。
【0013】
(8)上記形態において、前記補機類は、第1及び第2の補機を含み;前記第1の補機は、前記第2の補機よりもエネルギー効率が高く;前記加熱部は、前記第1の補機を用いて加熱量を増大させている場合に、要求加熱量が増大したとき、前記第1及び第2の補機を用いて加熱量を増大させる。
【0014】
本発明は、上記以外の種々の形態でも実現できる。例えば、温度制御方法、この方法を実現するためのプログラム、このプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等の形態で実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、温度制御システム1の構成図である。温度制御システム1は、燃料電池自動車に搭載されている。
図1に示すように、温度制御システム1は、冷却部10と、空調部20と、燃料電池用ECU(Electronic Control Unit)31と、空調用ECU32と、水素供給排出系50と、空気供給排出系60と、燃料電池スタック100と、第1の連結流路216と、第2の連結流路218とを備える。
【0017】
燃料電池スタック100は、固体高分子形燃料電池によって構成される。燃料電池スタック100が発電した電力は、自動車の駆動用モータ(図示しない)、二次電池(図示しない)、補機類などに供給される。補機類は、後述する冷却水ポンプWP1、温水ポンプWP2、水素ポンプ56、エアコンプレッサ61、ファン112、ブロア220、電気ヒータ202などである。この中で、燃料電池を運転するための補機は、冷却水ポンプWP1、水素ポンプ56、エアコンプレッサ61、ファン112である。一方、温水ポンプWP2、ブロア220及び電気ヒータ202は、空調のための補機である。
【0018】
水素供給排出系50は、水素タンク51と、減圧弁52と、水素ガス供給路53と、圧力調整弁54と、アノード排ガス路55と、水素ポンプ56と、アノード排ガス排出路57と、開閉弁58とを備える。水素タンク51は、水素を貯蔵する。貯蔵された水素は、減圧弁52によって減圧した後に水素ガス供給路53に供給される。水素ガス供給路53に放出された水素は、水素ガス供給路53に設けられた圧力調整弁54によって所定の圧力に調整された後、燃料電池スタック100のアノードに供給される。
【0019】
開閉弁58は、アノード排ガス路55と、アノード排ガス排出路57との間の流路を開閉する。開閉弁58が開いている場合、アノード排ガスの一部は、外部に排出される。水素ポンプ56は、アノード排ガス路55に排出されるアノード排ガスを、再び水素ガス供給路53に供給する。
【0020】
空気供給排出系60は、エアコンプレッサ61と、空気供給路62と、カソード排ガス路63とを備える。エアコンプレッサ61は、大気から取り込んだ空気を圧縮し、空気供給路62を介して燃料電池スタック100のカソードに供給する。カソード排ガスは、カソード排ガス路63から大気に排出される。
【0021】
冷却部10は、冷却流路120と、冷却水ポンプWP1と、温度センサ130と、燃料電池スタック100と、温度センサ132と、ラジエータ110と、ファン112と、3方弁V1と、バイパス128とを備える。
【0022】
冷却流路120は、冷却水を循環させるための流路である。冷却水ポンプWP1は、冷却水を循環させる。冷却水は、冷却水ポンプWP1から流出した後、燃料電池スタック100を通過する。温度センサ130は、燃料電池スタック100に流入する冷却水の温度を測定する。温度センサ132は、燃料電池スタック100から流出した冷却水の温度(以下「FC出口温度」という)を測定する。
【0023】
燃料電池スタック100から流出した冷却水は、ラジエータ110又はバイパス128を通過して、冷却水ポンプWP1に戻る。何れを通過するかは、3方弁V1の開閉によって決定される。ファン112は、ラジエータ110に対して送風することによって、ラジエータ110を通過する冷却水からの放熱を促進する。
【0024】
燃料電池スタック100から流出した冷却水が、ラジエータ110又はバイパス128に到達するまでに、冷却流路120のみを循環する場合と、空調用流路210を通過する場合とがある。何れの場合になるかは、3方弁V2の開閉によって決定される(
図2,
図3と共に詳述)。第1の連結流路216及び第2の連結流路218は、燃料電池スタック100から流出した冷却水が、空調用流路210を通過する場合に、冷却流路120と空調用流路210とを連結する流路として機能する。
【0025】
燃料電池用ECU31は、3方弁V1の開閉と、ファン112の回転数とを、温度センサ130,132の測定値に基づき制御することによって、FC出口温度を制御する。
【0026】
空調部20は、空調用流路210と、温水ポンプWP2と、温度センサ230と、電気ヒータ202と、ヒータコア200と、ブロア220と、通風ダクト24と、温度センサ232と、3方弁V2とを備える。
【0027】
空調用流路210は、温水を循環させるための流路である。温水ポンプWP2は、温水を循環させる。温水ポンプWP2から流出した温水は、電気ヒータ202によって加熱される。加熱された温水は、ヒータコア200を通過する。温度センサ230は、ヒータコア200に流入する温水の温度(以下「ヒータコア入口温度」という)を測定する。温度センサ232は、200から流出した温水の温度を測定する。ブロア220は、通風ダクト24を介して、車室内に向けて送風する。送風される空気は、ヒータコア200を通過するので加熱される。
【0028】
ヒータコア200から流出した温水は、空調用流路210のみを循環して、又は冷却流路120の一部を通過して、温水ポンプWP2に戻る。何れの状態になるかは、3方弁V2の開閉によって決定される(
図2,
図3と共に詳述)。3方弁V2は、第1の連結流路216と、空調用流路210とを接続する。
【0029】
空調用ECU32は、目標車室温度、現在の車室温度、現在の外気温度等に応じて、電気ヒータ202のデューティ、ブロア220の回転数、3方弁V2の開閉、冷房用機器(冷媒用のコンプレッサ等。図示しない。)などを制御する。デューティとは、パルス幅変調制御における1周期において、電気ヒータ202に電流が流れる時間の割合のことである。この結果、ヒータコア200からの放熱量および吹き出し温度が制御される。ヒータコア200からの放熱は、暖房に加え、冷房や霜取り等の空調モードにおいても利用される。
【0030】
図2は、非連結状態における冷却水と温水との流れを示す。非連結状態は、3方弁V2が閉じることによって実現される。非連結状態においては、冷却水は冷却部10のみを循環し、温水は空調部20のみを循環する。よって、冷却部10と空調部20とのそれぞれにおいて、温度制御が実行される。
【0031】
図3は、連結状態における熱媒体の流れを示す。ここでいう熱媒体とは、冷却水と温水との総称のことである。冷却水および温水は、同じ物質であり、非連結状態においては用途の違いに基づき呼び分けられる。
【0032】
連結状態において、第1の連結流路216は、燃料電池スタック100から流出した熱媒体を、空調部20に引き込むための流路として機能する。連結状態において、第2の連結流路218は、ヒータコア200から流出した熱媒体を、ラジエータ110又はバイパス128に流入させるための流路として機能する。この結果、熱媒体は、冷却部10と空調部20とを循環する。連結状態において、燃料電池スタック100からの廃熱は、車室内の空調のために利用される。
【0033】
燃料電池用ECU31は、連結状態を許可するか否かを、FC出口温度、ラジエータ110からの放熱状況などに基づき決定し、空調用ECU32に通信によって伝達する。空調用ECU32は、連結状態が燃料電池用ECU31によって許可されていない場合、3方弁V2を閉じる。空調用ECU32は、連結状態が燃料電池用ECU31によって許可された場合、3方弁V2の開閉を決定する。この決定は、冷却水の温度制御の安定性や即応性、あるいは燃費などを考慮した通常の制御手法に基づき実行される。
【0034】
図4は、暖房アシスト処理を示すフローチャートである。この処理は、空調が実施されている間、燃料電池用ECU31によって繰り返し実行される。
図4に示される通り、ステップS310〜S360の判定ステップにおいて所定の判定結果が得られた場合に、発熱量増大処理を実行する(ステップS380)。以下、ステップS310〜S360の判定内容について説明し、ステップS310〜S360の技術的意義については発熱量増大処理の後に説明する。
【0035】
初めに、連結状態に設定されているかを判定する(ステップS310)。連結状態に設定されているかを示す情報は、空調用ECU32から通信によって取得する。連結状態に設定されている場合(ステップS310、YES)、電気ヒータ202のデューティが100%かを判定する(ステップS320)。
【0036】
電気ヒータ202のデューティが100%である場合(ステップS320、YES)、急速暖機の実行中かを判定する(ステップS330)。急速暖機とは、通常よりも発電効率を大幅に低下させた発電を実施することによって、FC出口温度を上昇させる手法のことである。発電効率が低下した分のエネルギーは、熱となり、熱媒体を加熱する。この温度上昇は、燃料電池の暖機、又は暖房に利用される。
【0037】
急速暖機を実行中でない場合(ステップS330、NO)、急速暖機が実行可能かを判定する(ステップS340)。急速暖機は、先述したように発電効率を低下させるので、所定以上の発電量が要求されている場合は実行されない。加えて、急速暖機は、先述したように燃料電池スタック100の発熱量を増大させるので、燃料電池スタック100が高温になるのを回避するために、燃料電池スタック100の温度が所定以上の場合は実行されない。燃料電池用ECU31は、これらの条件に基づき、急速暖機を実行するか否かを決定する。
【0038】
急速暖機を実行中の場合(ステップS330、YES)、又は急速暖機が実行可能でない場合(ステップS340、NO)、不足熱量が基準値以上かを判定する(ステップS350)。不足熱量とは、暖房要求熱量から加熱量を引いた値である。暖房要求熱量とは、所望の暖房性能を発揮するための放熱量として、空調用ECU32によって算出されるものである。この算出は、例えば、現在の車室温度、目標車室温度、ヒータコア入口温度などに基づき実行される。加熱量は、燃料電池スタック100の廃熱と、デューティが100%である場合の電気ヒータ202の発熱量との和である。燃料電池スタック100の廃熱は、発電に伴う発熱のことであり、各出力における発電効率から算出される。燃料電池スタック100の廃熱の算出は、FC出口温度からFC入口温度を引いた温度差と、燃料電池スタック100を通過する熱媒体の流量とに基づき実行されてもよい。
【0039】
不足熱量が基準値以上である場合(ステップS350、YES)、外気温が−10℃以下であるかを判定する(ステップS360)。外気温は、外気温センサ(図示しない)によって測定され、車内LANを介して取得される。外気温が−10℃以下である場合(ステップS360、YES)、発熱量増大処理を実行し(ステップS380)、ステップS310に戻る。
【0040】
一方、詳しくは後述するように、ステップS310,S320,S350,S360の何れかでNOと判定した場合、ステップS370を実行する。S340でYESと判定した場合もステップS370を実行する。ステップS370は、発熱量増大処理によって変更されたパラメータを元に戻すためのステップである。
【0041】
図5は、発熱量増大処理を示すフローチャートである。初めに、冷却水ポンプWP1によって循環する熱媒体の流量(以下「冷却水ポンプWP1による流量」という)を通常値よりも高い値に設定する(ステップS400)。この流量の増大は、冷却水ポンプWP1の回転数の上昇によって実現される。冷却水ポンプWP1の回転数が上昇すると、機械損失の増大などによって、冷却水ポンプWP1による発熱量が増大する。冷却水ポンプWP1によって発生した熱の一部は、熱媒体に伝達する。よって、冷却水ポンプWP1の回転数が上昇すると、熱媒体に対する加熱量が増大する。発熱量増大処理が実行されるのは、先述したように連結状態の場合であるから、増大した加熱量は暖房能力の増大に貢献する。
【0042】
冷却水ポンプWP1による流量の決定は、マップ制御によって実行される。この制御に用いられるマップは、要求暖房熱量に対して、冷却水ポンプWP1の回転数が決定されたものである。回転数の決定は、冷却水ポンプWP1による流量がどの程度であれば、上記の不足熱量を補填できるかに基づき予め実行されたものである。よって、要求暖房熱量が大きくなると、冷却水ポンプWP1の回転数も大きくなる。但し、冷却水ポンプWP1の騒音の増大や故障を回避するため、流量には上限値が定められている。
【0043】
続いて、冷却水ポンプWP1による流量が上限値に設定されたかを判定する(ステップS410)。冷却水ポンプWP1による流量が上限値に設定された場合(ステップS410、YES)、冷却水ポンプWP1による流量の増大を加味しても加熱量が不足しているかを判定する(ステップS420)。加熱量が不足している場合(ステップS420、YES)、水素ポンプ56の回転数を通常値よりも高い値に設定する(ステップS420)。水素ポンプ56の回転数は、冷却水ポンプWP1による流量の場合と同様、マップ制御によって決定され、上限値が定められている。
【0044】
上記のように、冷却水ポンプWP1による流量が上限値であることを必要条件として、水素ポンプ56の回転数を上昇させるのは、冷却水ポンプWP1の方がエネルギー効率が良いからである。ここでいうエネルギー効率は、ヒータコア200から放熱される熱エネルギーの増分を、冷却水ポンプWP1や水素ポンプ56に追加で投入されたエネルギーで割って得られる値のことである。冷却水ポンプWP1から発生した熱は、ほぼ直接的に熱媒体に伝達する。これに対して、水素ポンプ56による熱は、水素と燃料電池スタック100とを介して熱媒体に伝達するので、その一部は大気等に逃げる。水素ポンプ56による熱とは、水素ポンプ56の機械損失によって生じる熱と、水素に対する圧縮仕事が変換されて発生する熱とを含む。よって、冷却水ポンプWP1の回転数の増大の方が、水素ポンプ56の回転数の増大よりも、エネルギー効率が良い。
【0045】
次に、水素ポンプ56の回転数が上限値に設定されたかを判定する(ステップS440)。水素ポンプ56の回転数が上限値に設定された場合(ステップS440、YES)、水素ポンプ56の回転数の増大を加味しても、加熱量が不足しているかを判定する(ステップS450)。加熱量が不足している場合(ステップS450、YES)、エアコンプレッサ61の回転数を通常値よりも高い値に設定する(ステップS460)。エアコンプレッサ61の回転数は、水素ポンプ56の回転数の場合と同様、マップ制御によって決定され、上限値が定められている。
【0046】
上記のように、水素ポンプ56の回転数が上限値であることを必要条件として、エアコンプレッサ61の回転数を上昇させるのは、水素ポンプ56の方がエネルギー効率が良いからである。開閉弁58が閉じている場合、水素ポンプ56によって加熱された水素は、燃料電池スタック100に熱を伝達させた後、水素ポンプ56に戻ってくる。よって、燃料電池スタック100に伝達されなかった熱を再利用できる。一方、エアコンプレッサ61によって加熱された空気は、燃料電池スタック100を通過して、カソード排ガス路63から大気に排出されるので、燃料電池スタック100に伝達されなかった熱は大気に捨てられてしまう。よって、水素ポンプ56の方がエネルギー効率が良いと考えられる。
【0047】
次に、エアコンプレッサ61の回転数が上限値に設定されたかを判定する(ステップS470)。エアコンプレッサ61の回転数が上限値に設定された場合(ステップS470、YES)、エアコンプレッサ61の回転数の増大を加味しても加熱量が不足しているかを判定する(ステップS480)。加熱量が不足している場合(ステップS480、YES)、間欠運転閾値を通常よりも低い値に設定し(ステップS490)、発熱量増大処理を終了する。間欠運転閾値とは、通常運転と間欠運転との切替の基準となる値であり、出力要求値と比較される値である。間欠運転とは、燃料電池による発電を停止し、二次電池から負荷へ給電を行う手法のことである。間欠運転は、燃料電池スタック100に水素と空気とを間欠的に供給し、燃料電池の開放端電圧を所定範囲内に維持することによって実現する。出力要求値とは、駆動用モータや補機類などへの給電のために要求される電力値であり、燃料電池用ECU31によって算出される。
【0048】
間欠運転は、発電効率が低い条件下での発電を抑制することによって、燃費を改善するための手法である。よって、間欠運転閾値は、発電量の確保をしつつ、発電効率ができるだけ高くなるように設定される。間欠運転閾値を通常値よりも低い値に設定すれば、通常よりも低効率の発電が実行され得る。低効率の発電は、燃料電池スタック100の発熱量を増大させる。この結果、熱媒体への加熱量が増大する。間欠運転閾値をどの程度、低くするかは、不足熱量に応じて決定される。但し、燃料電池を構成するセルの保護等を考慮し、下限値が設定されている。
【0049】
間欠運転閾値を変更することによるエネルギー効率は、関係するパラメータが多いので一概にいうことが難しいものの、エアコンプレッサ61の回転数の増大によるエネルギー効率よりも低い傾向にある。よって、先述したようにエアコンプレッサ61の回転数が上限値に達した場合に、間欠運転閾値の変更を実行する。
【0050】
一方、冷却水ポンプWP1による流量が上限値未満であること(ステップS410、NO)及び加熱量が不足していないこと(ステップS420、NO)の少なくとも何れかが満たされる場合は、これ以上の加熱量の増大は不要なので、水素ポンプ56とエアコンプレッサ61との回転数を通常値に設定し(ステップS435,ステップS465)、間欠運転閾値も通常値に設定して(ステップS495)、発熱量増大処理を終了する。
【0051】
水素ポンプ56の回転数が上限値未満であること(ステップS440、NO)及び加熱量が不足していないこと(ステップS450、NO)の少なくとも何れかが満たされる場合、エアコンプレッサ61の回転数を通常値に設定し(ステップS465)、間欠運転閾値を通常値に設定して(ステップS495)、発熱量増大処理を終了する。
【0052】
エアコンプレッサ61の回転数が上限値未満であること(ステップS470、NO)及び加熱量が不足していないこと(ステップS480、NO)の少なくとも何れかが満たされる場合、間欠運転閾値を通常値に設定して(ステップS495)、発熱量増大処理を終了する。
【0053】
ここで、暖房アシスト処理(
図4)に含まれる判定ステップについて説明する。非連結状態であること(ステップS310、NO)、電気ヒータ202のデューティが100%未満であること(ステップS320、NO)、不足熱量が基準値未満であること(ステップS350、NO)、及び外気温が−10℃よりも高いこと(ステップS360、NO)の少なくとも何れか1つが満たされる場合、冷却水ポンプWP1による流量と、水素ポンプ56及びエアコンプレッサ61の回転数と、間欠運転閾値とを通常値に設定し(ステップS370)、ステップS310に戻る。さらに、急速暖機を実行中でなく(ステップS330、NO)、且つ急速暖機が実行可能である場合も(ステップS340、YES)、ステップS370を実行し、ステップS310に戻る。
【0054】
上記の通り非連結状態において発熱量増大処理を実行しないのは、先述したように発熱量増大処理は、連結状態の場合に効果を発揮するからである。
【0055】
電気ヒータ202のデューティが100%未満の場合に発熱量増大処理を実行しないのは、電気ヒータ202の加熱能力に余剰がある場合は、発熱量増大処理の実行よりも、その余剰能力によって加熱量を増大するのが好ましいからである。その理由は、電気ヒータ202による加熱は、発熱量増大処理による加熱よりもエネルギー効率が良いことである。冷却水ポンプWP1等の回転数の増大のために追加分として投入されたエネルギーは、流体の運動エネルギーや、ポンプの振動、或いは騒音などにも変換されてしまう。これに対して、電気ヒータ202に追加分として投入されたエネルギーは、ほぼ100%熱に変換され、その熱の大部分は熱媒体に伝達される。
【0056】
急速暖機が実行できるにも関わらず急速暖機を実行していない場合に、発熱量増大処理を実行しないのは、電気ヒータ202の理由と同様、急速暖機の方が、発熱量増大処理の実行よりも、エネルギー効率が良いからである。急速暖機は、水素の化学エネルギーが直接、熱に変換されるので、エネルギー効率が良い。
【0057】
不足熱量が基準値未満である場合に発熱量増大処理を実行しないのは、燃費と暖房能力とのバランスを図るためである。できる限り暖房能力を優先するのであれば、不足熱量が少しでも存在する場合は、直ちに発熱量増大処理を実行するのが好ましい。一方で、できる限り燃費を優先するのであれば、不足熱量が大きくても、発熱量増大処理は実行しない方が好ましい。本実施形態ではこのバランスを取り、不足熱量が基準値未満、つまり不足熱量が比較的小さい場合には発熱量増大処理を実行せず、不足熱量が基準値以上の場合に発熱量増大処理を実行する手法を採用した。
【0058】
外気温が−10℃よりも高い場合に発熱量増大処理を実行しないのは、不足熱量の場合についての理由と同様、燃費と暖房能力とのバランスを図るためである。外気温が−10℃よりも高い場合は、不足熱量が基準値以上の場合であっても、電気ヒータ202の加熱によって比較的、短時間で車室温度や吹き出し温度を目標値に到達させることができる。そこで本実施形態では燃費を考慮して、外気温が−10℃よりも高い場合は、発熱量増大処理を実行しない手法を採用した。
【0059】
本実施形態によれば、発熱量増大処理によって、空調部20の暖房能力を増大させることができる。この暖房能力の増大は、加熱以外の目的で設けられた補機によって実現されるので、加熱用の補機を新たに搭載する必要がない。加えて、電気ヒータ202及び急速暖機による加熱量の増大が実行できる場合は、補機による加熱量の増大を回避すること、及び、補機による加熱量の増大を実行する場合は、これらの補機をエネルギー効率が良い順に利用することによって、燃費の悪化が抑制される。補機を用いてもなお加熱量が不足する場合は、間欠運転閾値の変更によって暖房能力を増大させることができる。
【0060】
本発明は、本明細書の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現できる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、先述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、先述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことができる。その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除できる。例えば、以下のものが例示される。
【0061】
水素ポンプの回転数の増大の必要条件は、冷却水ポンプによる流量が所定値(例えば上限値の90%)に達したことでもよい。
エアコンプレッサの回転数の増大の必要条件は、水素ポンプの回転数が所定値(例えば上限値の90%)に達したことでもよい。
間欠運転閾値の変更の必要条件は、エアコンプレッサの回転数が所定値(例えば上限値の90%)に達したことでもよい。
温水ポンプを用いて、加熱量を増大させても良い。
【0062】
電気ヒータのデューティや急速暖機の実施状況に関わらず、補機を用いた加熱量の増大を実行してもよい。
実施形態に示されたエネルギー効率の順序は、一例であり、これに限られない。理論的な算出または実測値に基づき、エネルギー効率の順序を、実施形態と異なるものとして決定してもよい。
エネルギー効率の良い補機の順に、暖房アシストに利用しなくてもよい。例えば、ランダムに選んだ補機から順に加熱量の増大に利用してもよいし、エネルギー効率以外の他のパラメータが良好なものから順に加熱量の増大に利用してもよい。他のパラメータとしては、応答性や静寂性が例示される。
【0063】
燃料電池用ECUの制御対象の少なくとも一部を、空調用ECU32の制御対象としてもよい。或いは、空調用ECUの制御対象の少なくとも一部を、燃料電池用ECUの制御対象としてもよい。例えば、実施形態で説明した制御を、1つのECUで実現してもよい。
連結状態と非連結状態との何れかを選択するための手段は、3方弁でなくてもよい。例えば、シャット弁を2つ用いて流路を開閉してもよい。
熱媒体は、水でなくても他の流体、例えば、シリコーンオイルでもよい。
温度制御システムは、自動車以外の他の輸送用機器、例えば、列車、船舶、航空機、宇宙船などに搭載されてもよい。
燃料電池の種類は、固体高分子形燃料電池でなくても、例えば、リン酸形燃料電池、溶融炭酸塩形燃料電池、固体酸化物形燃料電池でもよい。