特許第6239964号(P6239964)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 6239964-組合せオイルコントロールリング 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239964
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】組合せオイルコントロールリング
(51)【国際特許分類】
   F16J 9/06 20060101AFI20171120BHJP
   F02F 5/00 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   F16J9/06 B
   F02F5/00 301D
   F02F5/00 F
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-260819(P2013-260819)
(22)【出願日】2013年12月18日
(65)【公開番号】特開2015-117753(P2015-117753A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年11月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(72)【発明者】
【氏名】藪根 博幸
(72)【発明者】
【氏名】藤田 正顕
(72)【発明者】
【氏名】杉原 弘幸
【審査官】 山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−130231(JP,A)
【文献】 米国特許第04585237(US,A)
【文献】 特開2013−155829(JP,A)
【文献】 特開2006−292021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 9/06
F02F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合口を有する一対の円環状のサイドレールと、それらの間に介在し内周部に前記サイドレールの内周面を押圧する耳部を有する軸方向波形形状のスペーサエキスパンダよりなる組合せオイルコントロールリングであって、前記スペーサエキスパンダの外周部に前記サイドレールを支持するための軸方向に突出する支持部を有し、前記サイドレールの厚さ(a1)が前記スペーサエキスパンダのエキスパンダ高さ(a9)の50〜90%であり、前記耳部と前記支持部の間の中手部の高さ(B)が前記エキスパンダ高さ(a9)の45%以下であることを特徴とする組合せオイルコントロールリング。
【請求項2】
合口を有する一対の円環状のサイドレールと、それらの間に介在し内周部に前記サイドレールの内周面を押圧する耳部を有する軸方向波形形状のスペーサエキスパンダよりなる組合せオイルコントロールリングであって、前記スペーサエキスパンダの外周部に前記サイドレールを支持するための軸方向に突出する支持部を有し、前記スペーサエキスパンダの前記耳部の耳高さ(a10)が前記スペーサエキスパンダのエキスパンダ高さ(a9)の23〜60%であり、前記耳部と前記支持部の間の中手部の高さ(B)が前記エキスパンダ高さ(a9)の45%以下であることを特徴とする組合せオイルコントロールリング。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組合せオイルコントロールリングにおいて、前記支持部の軸方向幅(A)が0.07 mm以上であることを特徴とする組合せオイルコントロールリング。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の組合せオイルコントロールリングにおいて、前記スペーサエキスパンダ及び/又は前記サイドレールにNiめっき皮膜が形成されていることを特徴とする組合せオイルコントロールリング。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の組合せオイルコントロールリングにおいて、前記耳部のサイドレール押圧面に窒化層が形成されていることを特徴とする組合せオイルコントロールリング。
【請求項6】
請求項5に記載の組合せオイルコントロールリングにおいて、前記窒化層が形成された部分を除く前記スペーサエキスパンダの全面にNiめっき皮膜が形成されていることを特徴とする組合せオイルコントロールリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのピストンに装着され、オイルコントロールを行う一対の円環状のサイドレールとスペーサエキスパンダからなる組合せオイルコントロールリング(以下、「組合せオイルリング」ともいう。)に関し、特に、シリンダ壁面への追従性を向上し、オイル消費を低減した組合せオイルコントロールリングに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止の観点からCO2排出の削減が求められており、自動車エンジンでは、燃費の向上、燃焼効率の向上が図られ、特に燃費の向上を目指して、ピストン系摺動部のフリクション低減に着目した改良が進められている。ピストンリングの低張力化は特に重要で、中でもオイルコントロールリングの張力は、ピストンリングの全張力の50%以上を占めていることから、その張力を低減する対策が行われている。しかし、オイルコントロールリングの張力を低減することは、シリンダ壁面への追従性を低下させることにも繋がるため、オイル消費量を増加させてしまうという懸念が生じる。また、燃焼温度の上昇や直噴化による燃焼効率の向上は、エンジン潤滑油の変性により生じるオイルスラッジがサイドレールやスペーサエキスパンダを固着又は膠着する問題や、スペーサエキスパンダの耳部を摩耗するという問題も抱えている。
【0003】
オイル消費の問題については、サイドレールを薄幅化し、サイドレール外周に発生する面圧を高くする方法、オイルスラッジによる固着の問題については、オイルリングの表面にフッ素含有被膜等の撥油性被膜を形成する方法、スペーサエキスパンダの耳部の摩耗については、耳部に窒化処理を施す方法等、様々な方法が提案されている。
【0004】
例えば、ピストンリングの薄幅化については、特許文献1は、具体的寸法として圧力リングの幅寸法を1.0 mm以下、組合せオイルリングの幅寸法を2.0 mm以下とすることを開示している。また、オイルスラッジによる固着の問題については、特許文献2は、金属アルコキシドとアルコキシル基の一部がフルオロアルキル基で置換されたフルオロアルキル基置換金属アルコキシドからゾルゲル法により撥液膜を形成する方法を提案している。さらに、耳部の窒化については、古くは特許文献3に軟窒化処理することが開示され、特許文献4では、Cu-KαX線回折において2θ=40°及び2θ=46°にピークを持つ特殊なS相を含むガス窒化層を形成することを開示している。
【0005】
しかしながら、張力の低減を追求していけば、必ずオイル消費の問題に直面するため、オイル消費の低減に繋がる組合せオイルリングの改良は永遠の課題ともいえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−286898号公報
【特許文献2】特開2000−27995号公報
【特許文献3】特開昭56−66429号公報
【特許文献4】国際公開第2005/040645号
【特許文献5】特開2006−292021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、優れたオイル消費特性を示し、さらに耐摩耗性及び耐スラッジ性に優れた組合せオイルコントロールリングを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、組合せオイルコントロールリングのサイドレールとスペーサエキスパンダの構造について、安定性、追従性、耐スラッジ性等に注目して鋭意研究した結果、サイドレールの厚さとスペーサエキスパンダの耳部の耳高さを所定の範囲に調整することにより、安定性を確保した上で、組合せオイルリングの追従性を向上し、オイル消費を著しく低減できることに想到した。また、さらにサイドレール支持部の幅とスペーサエキスパンダの中手部の高さを調整することにより、耐スラッジ性を向上することができることにも想到した。
【0009】
すなわち、本発明の組合せオイルコントロールリングは、合口を有する一対の円環状のサイドレールと、それらの間に介在し内周部に前記サイドレールの内周面を押圧する耳部を有する軸方向波形形状のスペーサエキスパンダよりなる組合せオイルコントロールリングであって、前記スペーサエキスパンダの外周部に前記サイドレールを支持するための軸方向に突出する支持部を有し、前記サイドレールの厚さ(a1)が前記スペーサエキスパンダのエキスパンダ高さ(a9)の50〜90%であり、前記耳部と前記支持部の間の中手部の高さ(B)が前記エキスパンダ高さ(a9)の45%以下であることを特徴とする。また、本発明の組合せオイルコントロールリングは、合口を有する一対の円環状のサイドレールと、それらの間に介在し内周部に前記サイドレールの内周面を押圧する耳部を有する軸方向波形形状のスペーサエキスパンダよりなる組合せオイルコントロールリングであって、前記スペーサエキスパンダの外周部に前記サイドレールを支持するための軸方向に突出する支持部を有し、前記スペーサエキスパンダの前記耳部の耳高さ(a10)が前記スペーサエキスパンダのエキスパンダ高さ(a9)の23〜60%であり、前記耳部と前記支持部の間の中手部の高さ(B)が前記エキスパンダ高さ(a9)の45%以下であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の組合せオイルコントロールリングは前記支持部の軸方向幅(A)0.07 mm以上であることが好ましい
【0011】
さらに、本発明の組合せオイルコントロールリングは、前記スペーサエキスパンダ及び/又は前記サイドレールにNiめっき皮膜が形成されていることが好ましく、また、前記スペーサエキスパンダの前記耳部のサイドレール押圧面には窒化層が形成されていることが好ましい。前記窒化層が形成された場合、前記窒化層が形成された部分を除く前記スペーサエキスパンダの全面にNiめっき皮膜が形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の組合せオイルリングは、スペーサエキスパンダのエキスパンダ高さ(a9)に対するサイドレールの厚さ(a1)の比率(a1/a9)が従来の組合せオイルリングの比率に対し小さくなっているため、組合せオイルリングとしての追従性が著しく向上し、低張力化してもオイル消費を増加することなく、むしろ、オイル消費を大きく低減することが可能となる。また、エキスパンダ高さ(a9)に対する耳部の耳高さ(a10)の比率(a10/a9)が従来の組合せオイルリングの比率に対し大きくなっているため、スペーサエキスパンダ自体の座りが良くなり、サイドレールの厚さが薄くなっても、組合せオイルリングとしてバランスが取られ、ピストンのリング溝への組み付け性を損なうような不具合を生じることもない。スペーサエキスパンダがサイドレール支持部を有する場合、支持部の軸方向幅(A)を比較的厚く(0.07 mm以上)とれば、組合せオイルリングの外周側や側面側から流入するエンジンオイルがオイルリング上で滞留しにくくなって、スラッジの堆積を抑え、スラッジによる固着を防止することが可能になる。中手部の高さ(B)も従来の組合せオイルリングの高さに比べ小さいため、オイルスラッジの堆積する面積が小さくなり(この中手部とサイドレールの間の空間にオイルスラッジが堆積しやすいという問題があったので)、オイルスラッジによる固着又は膠着の問題が生じる確率を低減することに貢献する。さらに、耳部に窒化層、耳部を除くスペーサエキスパンダ全面にNiめっきを施せば、張力バラツキの少ない、耐摩耗性と耐固着性に優れた組合せオイルリングとすることが可能となり、燃焼効率の向上による厳しい使用環境においても低燃費化に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の組合せオイルコントロールリングの一例を示す断面図である。
図2】従来の組合せオイルコントロールリングの一例を示す断面図である。
図3】従来の組合せオイルコントロールリングを構成するスペーサエキスパンダの一部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に本発明の一例を示す組合せオイルリングの断面図を示す。この組合せオイルリング(1)は、合口を有する一対の円環状サイドレール(2,2)と、サイドレール(2,2)を支持するスペーサエキスパンダ(3)とからなる。スペーサエキスパンダ(3)の内周部にはサイドレール(2,2)の内周面を押圧する耳部(4)が設けられ、外周部には必要に応じてサイドレール(2,2)を支持するための軸方向に突出する支持部(5)が設けられている。支持部(5)を設けた場合、耳部(4)と支持部(5)の連結部分を中手部(6)と呼んでいる。
【0015】
図2は従来の組合せオイルリング(10)の一例を示す断面図、図3は従来のオイルリングを構成するスペーサエキスパンダ(30)の一部を示す斜視図である。図1図2を比較すれば分かるように、本発明の組合せオイルリング(1)は従来の組合せオイルリング(10)とその基本構成を同じくする。しかし、本発明の組合せオイルリング(1)は、従来のオイルリング(10)に比べて、サイドレール(2,2)の厚さ(a1)が薄く(短く)、スペーサエキスパンダ(3)の耳部(4)の耳高さ(a10)が厚く(長く)構成されている。すなわち、サイドレールに注目すれば、前記サイドレール(2,2)の厚さ(a1)は前記スペーサエキスパンダ(3)のエキスパンダ高さ(a9)の50〜90%とする。前記サイドレール(2,2)の厚さ(a1)が前記エキスパンダ高さ(a9)の50%未満であると、ピストンのリング溝のクリアランスとの関係で、サイドレール(2,2)の座りが不安定になってリング溝の摩耗を増大するので好ましくなく、90%を超えると追従性に対するサイドレール(2,2)の厚さ(a1)の低減効果が少なくなる。50〜85%が好ましく、55〜81%がより好ましく、60〜76%がさらに好ましい。また、スペーサエキスパンダに注目すれば、前記スペーサエキスパンダ(3)の前記耳部(4)の耳高さ(a10)は前記エキスパンダ高さ(a9)の23〜60%とする。また、前記耳部(4)の耳高さ(a10)が、前記エキスパンダ高さ(a9)の23%未満であると追従性に対するサイドレール(2,2)の厚さ(a1)の低減効果が少なく、逆に60%を超えるとサイドレール(2,2)の厚さ(a1)が薄くなりすぎ、座りが不安定となってピストンのリング溝摩耗を増大するので好ましくない。30〜60%が好ましく、35〜58%がより好ましく、42〜55%がさらに好ましい。上記は、サイドレール(2,2)の厚さ(a1)とスペーサエキスパンダの耳高さ(a10)について別々に説明したが、サイドレール(2,2)の厚さ(a1)と耳高さ(a10)の関係は独立した関係にはなく、組合せオイルリングの寸法が決まり、且つサイドレール(2,2)の厚さ(a1)が決まれば、それに依存して耳高さ(a10)も決まる関係にある。
【0016】
サイドレール(2,2)は、サイドレール(2,2)を押圧する耳部(4)の角度θにより、シリンダ壁面に向かう半径方向及びリング溝上下面に向かう軸方向に分力をもって押圧されるため、シリンダ壁面及びリング溝上下面においてシール機能を発揮する。リング溝上下面におけるシール機能の観点で、サイドレール(2,2)の厚さ(a1)が薄くなった場合は、耳部(4)の角度θを調整することが好ましく、本発明の組合せオイルリングの場合、θは10〜30°が好ましく、15〜25°がさらに好ましい。
【0017】
オイルスラッジに関する問題については、トップリングの合口隙間を縮小することによってブローバイガスを少なくし、エンジンオイルの劣化を抑制することや、生成したスラッジがリングに付着しづらくするためにスペーサエキスパンダやサイドレール表面に皮膜処理を施すことの他に、オイルリングの外周側や側面側から流入するエンジンオイルがオイルリング上で滞留しにくい形状にすることが考えられる。オイルスラッジは、特にスペーサエキスパンダ(3)の耳部(4)とサイドレール支持部(5)の間の平坦な中手部(6)と、サイドレール(2,2)との間の空間に付着・堆積しやすい。本発明の組合せオイルリングは、エンジンオイルの滞留する面積を縮小し、且つ堆積しにくい構造とするため、支持部(5)の軸方向幅(A)は0.07 mm以上とすることが好ましく、中手部高さ(B)はエキスパンダ高さ(a9)の45%以下とする。Aは0.09 mm以上がより好ましく、0.11 mm以上がさらに好ましい。また、B/a9は40%以下がより好ましく、35%以下がさらに好ましい。
【0018】
上記のようにオイルスラッジはオイルリングの固着を招くが、ほかにサイドレールの内周面と摺動するスペーサエキスパンダの耳部の摩耗を激しくするという問題も有している。対策として耳部に硬質の窒化層を形成することが試みられたが、特に低張力化を指向する場合、窒化後の張力変動が大きく、低張力化した組合せオイルリングの張力公差の管理が困難であったという課題も有していた。特許文献5は、スペーサエキスパンダの線材にNiめっきを施し、熱処理によってNi皮膜の硬度を下げた後、スペーサエキスパンダを塑性加工により成形し、その際、局部的な剪断により耳部を成形する方法において、耳部のサイドレール押圧面にのみ母材が露出することを利用し、その露出した部分にのみ窒化処理を施して、上記の窒化による張力バラツキの問題を解決できることを開示している。本発明においても、特許文献5の知見を適用し、本発明の組合せオイルリングのスペーサエキスパンダの耳部に窒化層を形成することが好ましく、窒化層が形成された部分を除くスペーサエキスパンダの全面にNiめっき皮膜が形成することが好ましい。
【0019】
実施例1
スペーサエキスパンダは、2.50 mm×0.25 mmの圧延帯材(SUS304材)からギアを利用した成形方法を用い、またサイドレールは、1.60 mm×0.40 mmの圧延帯材(SUS440B)からコイルイングにより、以下の寸法になるように成形した。作製した組合せオイルリングの寸法は、
呼び径:82.5 mm
エキスパンダ幅(h9):2.43 mm
エキスパンダ高さ(a9):2.5 mm
耳高さ(a10):1.2 mm
支持部幅(A):0.12 mm
中手部高さ(B):0.8 mm
サイドレール厚さ(a1):1.6 mm
であった。なお、張力値は23Nを目標値としてスペーサエキスパンダの展開長さを調整している。
【0020】
比較例1
次のオイル消費量の測定1に用いるエンジン用の、いわゆる、従来の組合せオイルリングを、比較例1として測定した。その寸法は、
呼び径:82.5 mm
エキスパンダ幅(h9):2.43 mm
エキスパンダ高さ(a9):2.5 mm
耳高さ(a10):0.5 mm
支持部幅(B):0.05 mm
中手部高さ(A):1.5 mm
サイドレール厚さ(a1):2.3 mm
であった。比較例1のスペーサエキスパンダの張力値も23Nであった。
【0021】
[1] オイル消費量の測定1
実施例1及び比較例1の組合せオイルコントロールリングについて、排気量が2400 cm3の4気筒ガソリンエンジンを用いて、オイル消費量を測定した。試験条件は、6,500 rpm、全負荷(WOT:Wide Open Throttle)の条件とした。オイル消費量は、所定時間行った試験の前後のオイル量から算出した。ここで、実施例1のトップリング及びセカンドリングも、当該エンジン用として使用されていたリングを使用した。試験の結果は、比較例1のオイル消費量を100とすると、実施例1のオイル消費量は36で、約1/3に低減されていた。
【0022】
実施例2〜4及び比較例2〜3
実施例1と同じスペーサエキスパンダ用圧延帯材及びサイドレール用圧延帯材を用いて、表1に示す寸法になるような成形ギアを準備し、張力値が22Nとなるように、組合せオイルリングを作製した。これらの組合せオイルリングについて、実施例1と同様の条件でエンジン試験を行い、オイル消費量を測定した。それらの結果を、実施例1及び比較例1の結果も含め、表1に示す。
【0023】
【表1】
ここで、支持部の軸方向幅(A)は、比較例1の0.05 mmを除いて、全て0.12 mmである。
【0024】
上記結果は、サイドレールの厚さが薄く(短く)なるほど、又はスペーサエキスパンダの耳高さが厚く(長く)なるほど、すなわち、a1/a9が小さくなるほど、又はa10/a9が大きくなるほど、オイル消費量が低減されていることを示している。これは、サイドレールの厚さを薄くすることによって、オイルリングとしての追従性が増加したことによる寄与が大きいと考えられる。特異的なことは、サイドレールの厚さが比較例2に示す厚さのレベルになると、追従性は向上しているはずであるが、オイル消費量が追従性に対応して低減されていないことであった。比較例2の組合せオイルリングとピストンのリング溝について詳細に調査した結果、リング溝が比較的荒らされていたことが分かった。
【0025】
[2] ピストンのリング溝摩耗の測定
実施例5〜7、比較例4
実施例5〜7及び比較例4では、それぞれ、実施例1、3、4及び比較例2の組合せオイルリングと同じ寸法、形状の組合せオイルリングを用いて、また、上記オイル消費量の測定に用いたのと同じエンジンを使って、耐久試験を行い、ピストンのリング溝摩耗の測定を行った。耐久試験は、4気筒の各気筒に、それぞれ、実施例5〜7及び比較例4の組合せオイルリングを装着し、試験条件を6,500 rpm、全負荷(WOT:Wide Open Throttle)の条件で行った。もちろん、トップリング及びセカンドリングは、当該エンジン用として使用されていたリングを使用した。リング溝の溝摩耗量は、所定時間行う試験の前後の各気筒のピストンのオイルリング溝端部の軸方向幅の増加量によって評価した。その結果を表2に示す。
【0026】
【表2】
【0027】
[3] オイルリングへのスラッジ堆積量の測定1
実施例8〜10、比較例5
実施例8では、実施例1の組合せオイルリングと同じ寸法、形状の組合せオイルリング、実施例9及び10では、支持部の軸方向幅(A)を、それぞれ0.10 mm及び0.08 mmとした以外は、実施例1の組合せオイルリングと同じ寸法、形状の組合せオイルリング、比較例5では、比較例1の組合せオイルリングと同じ寸法、形状の組合せオイルリングを用いて、また、上記オイル消費量の測定に用いたのと同じエンジンを使って、スラッジ堆積エンジン試験を行い、各組合せオイルリングへのスラッジ堆積量の測定を行った。もちろん、トップリング及びセカンドリングは、当該エンジン用として使用されていたリングを使用した。スラッジ堆積エンジン試験は、4気筒の各気筒に、それぞれ、実施例8〜10及び比較例5の組合せオイルリングを装着し、エンジンオイルには市場回収劣化オイルを用い、停止状態から最高出力回転数までの運転条件と、低温から高温までの油水温条件を連続的に繰り返すサイクリック運転を実施する条件で行った。スラッジ堆積量は、所定時間経過後のオイルリングに強固に付着しているスラッジのみとして、各オイルリングの試験前後の重量から算出した。ここで、強固に付着しているスラッジとは、ピストンから静かに取り出したオイルリングをアセトン中で一定時間超音波洗浄しても取れない(落ちない)スラッジとした。スラッジ堆積量の測定結果を、表3に、比較例5の結果を100とした相対値で示す。実施例8〜10の結果から、支持部の軸方向幅(A)が大きくなるほど、スラッジ堆積量が減少することが確認された。
【0028】
【表3】
【0029】
実施例11及び12、比較例6及び7
実施例11及び12並びに比較例6及び7では、それぞれ、実施例1及び2並びに比較例1及び3の組合せオイルリングと同じ寸法、形状の組合せオイルリングを用いて、実施例8〜10及び比較例5で行ったのと同じスラッジ堆積エンジン試験を行い、各組合せオイルリングへのスラッジ堆積量の測定を行った。もちろん、トップリング及びセカンドリングは、当該エンジン用として使用されていたリングを使用した。スラッジ堆積量の測定結果を、表4に、比較例6の結果を100とした相対値で示す。ここで、支持部の軸方向幅(A)は、実施例11、12及び比較例7では0.12 mm、比較例6では0.05 mmである。
【0030】
【表4】
【0031】
実施例13
2.2 mm×0.275 mmのSUS304の圧延帯材に膜厚約6μmのNiめっきを施し、さらに、そのめっき帯材に500℃、1時間の熱処理を施した。この帯材からギアを利用した成形方法を用いてスペーサエキスパンダを成形し、またサイドレールは、1.50 mm×0.35 mmの圧延帯材(SWRH82A)からコイルイングにより、以下の寸法になるように成形した。作製した組合せオイルリングの寸法は、
呼び径:75.0 mm
エキスパンダ幅(h9):2.0 mm
エキスパンダ高さ(a9):2.2 mm
耳高さ(a10):1.1 mm
支持部幅(A):0.12 mm
中手部高さ(B):0.6 mm
サイドレール厚さ(a1):1.5 mm
であった。なお実施例15では、低張力化を目指し、張力値は9Nを目標値としてスペーサエキスパンダの展開長さを調整している。
【0032】
次に、得られたスペーサエキスパンダに、570℃で80分間のガス窒化処理を施し、ギア成形において剪断により母材が露出した耳部のサイドレール押圧面に窒化層を形成した。窒化層が形成された部分を除くスペーサエキスパンダ全面にはNiめっき皮膜が残っており、窒化防止膜として機能している。従って、窒化処理によるスペーサエキスパンダの展開長の伸びを抑え、所定の公差を満足する低張力スペーサエキスパンダを得ることが可能となる。570℃、80分間のガス窒化により、ビッカース硬度がHv 1300の窒化層が約30μm形成されていた。
【0033】
比較例8
次のオイル消費量の測定2に用いるエンジン用の、いわゆる従来の組合せオイルリングを、比較例8として測定した。その寸法は、
呼び径:75.0 mm
エキスパンダ幅(h9):2.0 mm
エキスパンダ高さ(a9):2.2 mm
耳高さ(a10):0.5 mm
支持部幅(A):0.05 mm
中手部高さ(B):1.2 mm
サイドレール厚さ(a1):2.0 mm
であった。なお、比較例8のスペーサエキスパンダも、Niめっき皮膜被覆帯材からギア成形で製造し、窒化処理を施したものであり、張力値は9Nに調整されたものである。
【0034】
[4] オイル消費量の測定2
実施例13及び比較例8の組合せオイルコントロールリングについて、排気量が1500 cm3の4気筒ガソリンエンジンを用いて、オイル消費量を測定した。試験条件は、6,000 rpm、全負荷(WOT:Wide Open Throttle)の条件とした。ここで、実施例13のトップリング及びセカンドリングも、当該エンジン用として使用されていたリングを使用した。試験の結果は、比較例8のオイル消費量を100とすると、実施例13のオイル消費量は46で、1/2以下に低減されていた。
【0035】
[5] オイルリングへのスラッジ堆積量の測定2
実施例14、比較例9
実施例14及び比較例9では、それぞれ、実施例13及び比較例8の組合せオイルリングと同じ寸法、形状の組合せオイルリングを用い、また、実施例13及び比較例8の組合せオイルリングのオイル消費量の測定に用いたのと同じエンジンを使って、スラッジ堆積エンジン試験を行い、組合せオイルリングへのスラッジ堆積量の測定を行った。スラッジ堆積エンジン試験の条件は、実施例8〜12、比較例5〜7で行ったスラッジ堆積エンジン試験の条件と同じとした。なお、トップリング及びセカンドリングは、当該エンジン用として使用されていたリングを使用した。スラッジ堆積量の測定結果は、比較例9の結果を100とすると、実施例14のスラッジ堆積量は35で、約1/3に低減されていた。
【符号の説明】
【0036】
1 組合せオイルコントロールリング
2 サイドレール
3 スペーサエキスパンダ
4 耳部
5 支持部
6 中手部
10 従来の組合せオイルコントロールリング
20 従来のサイドレール
30 従来のスペーサエキスパンダ
図1
図2
図3