(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239976
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】生物材料から物質を抽出する方法および抽出剤
(51)【国際特許分類】
B01D 11/02 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
B01D11/02 A
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-514130(P2013-514130)
(86)(22)【出願日】2011年6月7日
(65)【公表番号】特表2013-534466(P2013-534466A)
(43)【公表日】2013年9月5日
(86)【国際出願番号】NL2011050407
(87)【国際公開番号】WO2011155829
(87)【国際公開日】20111215
【審査請求日】2014年6月3日
(31)【優先権主張番号】2004835
(32)【優先日】2010年6月7日
(33)【優先権主張国】NL
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512316965
【氏名又は名称】ユニヴェルシテイト ライデン
(74)【代理人】
【識別番号】100084412
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 冬紀
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(72)【発明者】
【氏名】ファン・スプロンセン, ヤコブ
(72)【発明者】
【氏名】ウィットカムプ, ヘールト−ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ホルマン, フランク
(72)【発明者】
【氏名】チョイ, ヤング フェ
(72)【発明者】
【氏名】フェルポールト, ロベルト
【審査官】
森井 隆信
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−535483(JP,A)
【文献】
特開2005−289952(JP,A)
【文献】
特開2006−348031(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0241287(US,A1)
【文献】
特開2005−058065(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/120839(WO,A2)
【文献】
特表2005−515168(JP,A)
【文献】
Maan Hayyan et al,A novel technique for separating glycerine from palm oil-based biodiesel using ionic liquids,Fuel Processing Technology,2009年 9月26日,no.91,pp.116-120
【文献】
Fei Tang et al,Functional amino acid ionic liquids as solvent and selector in chiral extraction,Journal of Chromatography A,2010年 5月19日,no.1217,pp.4669-4674
【文献】
Guo-hong Tao et al,New genetation ionic liquid: cations derived from amino acids,Chemical Communications,2005年 6月 9日,pp.3562-3564
【文献】
Yukinobu Fukaya et al,Bio ionic liquid: room temperature ionic liquids composed wholly of biomaterials,Green Chemistry,2007年 7月16日,No.9,pp.1155-1157
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 11/02
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物材料から有機化合物を抽出する方法であって、
生物材料を深共融溶剤からなる抽出剤を用いて処理して前記深共融溶剤に溶解した生物抽出物を生成し、その際に前記深共融溶剤は、少なくとも1種類の有機酸と、少なくとも1種類の単糖もしくは二糖、糖アルコール、アミノ酸、ジ−もしくはトリアルカノールと、場合によってさらに水との組み合わせのみに基づくものであるか、あるいはフラクトース、グルコースおよびスクロース、および場合によってさらに水の組合せのみに基づくものであるか、またはラクトースおよびグルコース、および場合によってさらに水の組合のみに基づくものであるか、またはモル比5/4:1:8のCaCl2、グルコースおよび水の組合のみに基づくものであり、前記深共融溶剤において、前記有機酸は非合成の天然物である有機酸であり、前記単糖もしくは二糖、糖アルコール、アミノ酸、ジ−もしくはトリアルカノールは非合成の天然物である単糖もしくは二糖、糖アルコール、アミノ酸、ジ−もしくはトリアルカノールであることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、
前記生物抽出物は非重合性化合物であり、食品用途、医薬品用途、化粧品用途、化学品用途または農薬用途における中間体または製品として使用可能なものである方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法であって、
前記生物抽出物は、重合性化合物であり、RNA、DNA、タンパク、トキシン、ワクチン、および多糖類から成る群より選択される方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項記載の方法であって、
前記単糖もしくは二糖または前記糖アルコールは、スクロース、グルコース、フラクトース、ラクトース、マルトース、セロビオース、アラビノース、リボース、リブロース、ガラクトース、ラムノース、ラフィノース、キシロース、マンノース、トレハロース、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、キシリトール、リビトール、ガラクチトール、エリスリトール、およびアドニトール、並びにそれらのリン酸塩から選択される方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項記載の方法であって、
前記有機酸は、リンゴ酸、マレイン酸、クエン酸、乳酸、ピルビン酸、フマール酸、コハク酸、酢酸、アコニチン酸、酒石酸、マロン酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、蓚酸、ノイラミン酸、およびシアール酸から選択される方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法であって、
前記抽出剤中にさらに水が存在する方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項記載の方法であって、
前記深共融溶剤は融点が25℃未満である方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項記載の方法であって、
前記生物抽出物は、前記深共融溶剤から回収される方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項記載の方法であって、
前記生物材料は植物、昆虫、動物または微生物に基づくものである方法。
【請求項10】
請求項9記載の方法であって、
前記抽出物は、フラボノイド(例えば、ルチンおよびケルセチン)、アントシアニン、色素、アルカロイド、テルペノイド、フェニルプロパノイド、グリコシド、フェノール化合物、ギンコライド、カルタミン、アントラキノン、パクリタクセル、タキソイド、リグナン、クマリン、アザジラクチン、アルテミシニン、ホップ苦味酸、カンナビノイド、バニリン、ポリケチド、香味料、香料、染料、殺生物剤、あるいはこれらの化合物の任意の混合物である方法。
【請求項11】
請求項10記載の方法であって、
前記抽出物は、桂皮酸である方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項記載の方法であって、
前記深共融溶剤は、モル比1:1:1:11のフラクトース、グルコース、スクロース、および水、モル比5:1:2のラクトース、グルコースおよび水、モル比1:1:3のリンゴ酸、アラニンおよび水、またはモル比1:1:3のリンゴ酸、プロリンおよび水に基づくものである方法。
【請求項13】
深共融溶剤からなり、前記深共融溶剤中に溶解された、有機化合物の生物抽出物を製造するのに用いる抽出剤であって、
前記深共融溶剤は、少なくとも1種類の有機酸と、少なくとも1種類の単糖もしくは二糖、糖アルコール、アミノ酸、ジ−もしくはトリアルカノールと、場合によってさらに水との組み合わせのみに基づくものであるか、あるいはフラクトース、グルコースおよびスクロース、および場合によってさらに水の組合せのみに基づくものであるか、またはラクトースおよびグルコース、および場合によってさらに水の組合せのみに基づくものであるか、またはモル比5/4:1:8のCaCl2、グルコースおよび水の組合のみに基づくものであり、前記深共融溶剤において、前記有機酸は非合成の天然物である有機酸であり、前記単糖もしくは二糖、糖アルコール、アミノ酸、ジ−もしくはトリアルカノールは非合成の天然物である単糖もしくは二糖、糖アルコール、アミノ酸、ジ−もしくはトリアルカノールである抽出剤。
【請求項14】
請求項13記載の抽出剤であって、
前記深共融溶剤は、モル比1:1:1:11のフラクトース、グルコース、スクロース、および水、モル比5:1:2のラクトース、グルコースおよび水、モル比1:1:3のリンゴ酸、アラニンおよび水、またはモル比1:1:3のリンゴ酸、プロリンおよび水に基づくものである抽出剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物材料から物質を抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品、香味料、香料、農薬、染料等は、合成品および天然物のいずれも水溶性が乏しい。従って、抽出、精製、管理はより極性の低い溶剤、例えばアルコール、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム等を使用して行なう必要がある。そのような溶剤はいくつかの問題例えば、製造者/患者/消費者に対する毒性、環境問題、爆発等を生じる。
【0003】
イオン液体(ionic liquids)は、種々の化学プロセスにおいて使用されている従来の揮発性有機溶剤にとって代わる、環境に優しくかつ安全な代替物であるといえる。イオン液体が環境に優しい(green)溶剤であると考えられる理由は、蒸気圧が無視し得るからである。しかしながら、イオン液体には隠れた環境コストがかかっていることが考えられる。というのはイオン液体は石油化学資源から合成されるからである。多数の合成ルートには、ハロゲンが関与している。イオン液体中にハロゲン材料が存在するのは望ましくないが、その理由としては、加水分解に対する安全性が低いこと、毒性が高いこと、生分解性が低いこと、および廃棄する際のコストが高いことが挙げられる。例えば、PF
6−およびBF
4−のようなフッ化物アニオンは水に反応しやすく、腐食性かつ毒性のあるフッ化水素を放出することがある。さらに、多くのイオン液体の合成に用いられるアルキルハライド(alkyl halides)は温室効果ガスおよびオゾン層破壊物質である。
【0004】
イオン液体も安全な溶剤であると考えられる理由は、イオン液体が揮発性でないため身体との直接接触または吸入による以外の暴露の可能性が大いに減少するからである。しかしながら、もっとも一般的なイオン液体は、普通の有機溶剤と比べて刺激性を有し、毒性を有する。生物試験から明らかになったのは、イオン液体の毒性は主にカチオンの種類によって決まり、かつカチオンに短鎖アルキル置換基を有するイオン液体は通常毒性が低いということである。
【0005】
上述の課題に対する解決策は、ハロゲンを含まないイオン液体、例えばアルキルサルフェート(alkyl sulfates)、アルキルカーボネート(alkyl carbonates)、スルホネート(sulfonates)のアニオンを有するイオン液体を開発することである。アルキル側鎖にエステル基を有するイオン液体のうちのあるものが生分解性であることが発見された。しかしながら、これらのイオン液体は依然として石油化学資源を用いて合成されている。
【0006】
国際出願第WO2006/116126号公報明細書には、バイオマスからイオン液体を用いてバイオポリマーを抽出する方法が記載されている。一般に、上述の国際出願に記載されているイオン液体は石油化学製品である。抽出されるバイオポリマーはキチン(chitin)、キトサン(chitosan)、コラーゲン(collagen)およびケラチン(keratin)である。ポリヒドロキシアルカノエート(polyhydroxyalkanoates)は遺伝子組み換え植物から抽出される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、天然資源から有機化合物を抽出する改良された方法であって、有機溶剤または他の合成物質を使用する必要のないものが必要とされている。
【0008】
さらに、真に「環境に優しい」(‘green’)と考えられる、すなわち天然化合物のみを用いた方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ある特定の自然界の物質が生物資源から物質を抽出するのに好適に使用することができるという予想外の事実に基づいている。これらの物質は天然起源の深共融(deep eutectic)溶剤(もしくは混合物)または天然起源のイオン液体である。
【0010】
深共融溶剤は共融混合物を形成する2つの化合物のそれぞれの融点よりも
低い融点を有する液体である。一般に、それらは種々の第4アンモニウム塩(quaternary ammonium salts)とカルボン酸との間に形成される。深共融現象が2003年に最初に報告されたのは塩化コリン(choline chloride)と尿素(urea)の1:2モル比混合物についてであった。塩化コリンの他の深共融溶剤はフェノールおよびグリセロールを用いて形成される。深共融溶剤は多くの金属塩、例えば塩化リチウム(lithium chloride)および酸化銅(II)(copper oxide (II))を溶解することができる。また、安息香酸(benzoic acid)やセルロース(cellulose)のような有機化合物は深共融溶剤に対する溶解度が高い。通常の溶剤に比べると、共融溶剤は揮発性が非常に低く、かつ非引火性である。それらはイオン液体と多くの性質が共通しているが、それらはイオン性混合物であり、イオン性化合物ではない。
【0011】
これに対して、クエン酸コリン(choline citrate)は真のイオン液体である。この化合物は、クエン酸を水に溶解し、次いでメタノール中に2:1の比で溶解した水酸化コリン(choline hydroxide)を添加することにより形成された。溶剤(水およびメタノール)を蒸発させた。生成物のクエン酸コリンはやや黄色味を帯びた粘稠性液体であり、固体ではなかった。クエン酸コリンはおそらく最初に発見された天然に存在するイオン液体である。
【0012】
【化1】
【0013】
イオン類に加えて、糖
に基づく液体も深共融溶剤であり得る。
【0014】
本発明により提供されるのは、生物材料から物質を抽出する方法であって、天然に存在する生物材料を、天然起源の深共融溶剤または天然起源のイオン液体を用いて処理して、天然起源の生物抽出物が前記溶剤または前記イオン液体中に溶解された溶液を生成することを特徴とする方法である。
【0015】
意外にも、天然起源の深共融溶剤(本明細書中に定義されている)および天然のイオン液体は生物材料に対する好適な抽出剤であることが見出された。これらの抽出剤は非常に効率がよく、選択性に富み、また天然起源であるため、生物材料から成分を抽出するための非常に効率的でありかつ好適であり、効率的な方法となり、収率がよい。深共融混合物およびイオン液体の融点は好ましくは25℃未満である。材料は、従って、好ましくは環境温度において液体である。
【0016】
本発明において使用される好適な深共融溶剤、すなわち、天然起源の材料の混合物は少なくとも2種の混合物
に基づいており、実質的に化学結合またはイオン結合を持たない。上記溶剤の第1の成分は、好ましくは、少なくとも1種の天然に存在する有機酸、または塩のような無機化合物から選ばれる。
【0017】
第2の成分は、好ましくは、少なくとも1種の天然に存在する単糖もしくは二糖、糖アルコール、アミノ酸、ジ−もしくはトリアルカノール(di or tri alkanol)またはコリン誘導体、例えばコリンもしくはホスファチジルコリン(phosphatidyl choline)から選ばれる。
【0018】
前記糖または糖アルコールは、スクロース(sucrose)、グルコース(glucose)、フラクトース(fructose)、ラクトース(lactose)、マルトース(maltose)、セロビオース(cellobiose)、アラビノース(arabinose)、リボース(ribose)、リブロース(ribulose)、ガラクトース(galactose)、ラムノース(rhamnose)、ラフィノース(raffinose)、キシロース
(xylose)、マンノース(mannose)、トレハロース(trehalose)、マンニトール(mannitol)、ソルビトール(sorbitol)、イノシトール(inositol)、リビトール(ribitol)、ガラクチトール(galactitol)、エリスリトール(erythritol)、キシリトール(xyletol)およびアドニトール(adonitol)、並びにそれらのリン酸塩から選ばれてもよい。
【0019】
前記有機酸は、リンゴ酸(malic acid)、マレイン酸(maleic acid)、クエン酸(citric acid)、乳酸(lactic acid)、ピルビン酸(pyruvic acid)、フマール酸(fumaric acid)、コハク酸
(succinic acid)、酢酸(acetic acid)、アコニチン酸(aconitic acid)、酒石酸(tartaric acid)、マロン酸(malonic acid)、アスコルビン酸(ascorbic acid)、グルクロン酸(glucuronic acid)、蓚酸(oxalic acid)、ノイラミン酸(neuraminic acid)、およびシアール酸(sialic acid)から選ばれる。
【0020】
一般に、イオン液体または深共融溶剤は塩素/塩化物を含まないのが好ましい。
【0021】
ある溶剤は、水、フェノール類のようなさらなる成分を追加的に含んでいてもよい。これらの追加の化合物は一般に少量、例えば5重量%未満の量で存在する。
【0022】
無機化合物の好適な例は、リン酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩およびハロゲン化物(halogenides)、例えばNaH
2PO
4、Na
2HPO
4,NaHSO
3、Na
2SO
4,CaCl
2,MgCl
2,KCl、NaClおよびKIである。
【0023】
深共融溶剤の具体例は下記の表に示されているが、蜂蜜、メープルシロップ、ネクター(花蜜)も抽出溶剤(糖を主体とし、少量のフェノール化合物(phenolics)および少量のアミノ酸)として使用できる深共融溶剤の例である。
【0024】
【化2】
【0025】
【化3】
【0026】
好適なイオン液体は、
アニオンとしては、リンゴ酸(malic acid)、マレイン酸(maleic acid)、クエン酸(citric acid)、乳酸(lactic acid)、酒石酸(tartaric acid)、グルコサミン(glucosamine)、グルクロン酸(glucuronic acid)、ノイラミン酸(neuraminic acid)およびシアール酸(sialic acid)から成る群より選ばれる天然に存在するアニオン
に基づいている。
【0027】
上述のイオン液体は、さらに、
カチオンとしては、コリン(choline)、ベタイン(betaine)、ベタニン(betanine)、γ−アミノ酪酸(gamma−aminobutyric acid)、ベタライン(betalaine)、アセチルコリン(acetylcholine)、グルコサミン(glucosamine)、グルタミン(glutamine)、グルタメート(glutamate)、アスパラギン(asparagine)、アスパラギン酸(aspartic acid)、アラニン(alanine)、リジン(lysine)、アルギニン(arginine)、プロリン(proline)、スレオニン(threonine)、プトレシン(putrescine)、カダベリン(cadaverine)、およびコリン誘導体(choline derivatives)から成る群より選ばれる天然に存在するカチオン
に基づいている。
【0028】
さらに好適な実施形態において、上述のイオン液体はクエン酸コリンである。
【0029】
深共融溶剤およびイオン液体の成分比は上記溶剤または液体の2以上の構成成分の構造によって決まる。
【0030】
深共融溶剤については、前記の2つの成分が等モル比で存在する場合が多い。しかしながら、他のモル比も見られる。一般に、モル比は整数で表される。これらの比は1:1〜4:1である。
【0031】
イオン液体は、定義上、アニオンとカチオンの塩であり、従って、それらの比はイオンの価数によって決まる。
【0032】
下記表1および表2において、深共融溶剤(des)の組成と性質、並びに若干の溶解度データが示される。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
本発明は生物製品からの物質の抽出に関する。もっとも広い範囲においては、生物起源のすべての材料を使用することができる。好適な例は植物、昆虫、動物または微生物である。
【0037】
本発明の方法を用いて、これらの材料から非常に多くの種類の製品を単離することができる。特に、抽出されまたは溶解された物質は、フラボノイド(flavonoids)(例えば、ルチン(rutin)およびケルセチン(quercetin))、アントシアニン(anthocyanin)、色素(colorant)、アルカロイド(alkaloid)、テルペノイド(terpenoid)、フェニルプロパノイド(phenylpropanoid)、グリコシド(glycoside)、フェノール化合物、例えば桂皮酸(cinnamic acid)、ギンコライド(ginkgolide)、カルタミン(carthamin)、アントラキノン(anthraquinone)、パクリタクセル(paclitaxel)、タキソイド(taxoid)、リグナン(lignan)、クマリン(coumarin)、桂皮酸誘導体、アザジラクチン(azadirachtin)、アルテミシニン(artimisinin)、ホップ苦味酸(hop bitter acid)、カンナビノイド(cannabinoid)、バニリン(vanillin)、ポリケチド(polyketide)、色素(colorant)、香味料(flavor)、香料(fragrance)、染料(dye)、殺生物剤(biocide)、あるいはこれらの化合物の任意の混合物である。タンパク、トキシン(toxins)、ワクチン(vaccins)、DNA、RNAおよび多糖類(polysaccharides)を適切な資源から抽出することができる。
【0038】
特に、本発明は天然資源、すなわち遺伝子操作されていないものからの天然物質の抽出に関する。さらに好適な一実施形態において、上に列挙された非重合性化合物のような、有益な種々の物質が、このように抽出または溶解される。非重合性化合物は、アミノ酸や糖のような、同じ部分(モノマー)または同じ種類のモノマーの3個以上の反復ユニットを含まない化合物として定義される。
【0039】
これらの非重合性化合物は、例えば食品、医薬品、化粧品および農薬に好適な中間体または製品である。特に、植物から香味料(flavors)や香料(fragrance)を、バニラ(vanilla)からバニリン(vanillin)を、唐辛子(Capsicum)からカプサイシン(capsaicin)を、ホップからホップ苦味酸(hop bitter acids)を、大麻(cannabis)からカンナビノイド(cannabinoids)を、ニーム(neem)(インドセンダン)植物材料からアザジラクチン(azadirachtin)を、イチイ(Taxus)植物材料からパクタクセル(paclitaxel)を、よもぎ(Artemisia)植物材料からアルテミシニン(artimisinin)を、ニチニチソウ(Catharanthus)からアルカロイド(alkaloids)を、芥子(Papaver)植物材料からモルヒネ(morphine)およびコデイン(codeine)を、ナス科(Solanacea)植物材料からアトロピン(atropine)およびヒヨスチアミン(hyoscyamine))を、アマリリス科(Amaryllidaceae)植物からガランタミン(galanthamine)を、植物材料から抗酸化剤を、微生物から抗生物質を、植物および微生物から着色剤(colorant)を、植物材料からフラボノイド(flavonoids)を、花からアントシアニン(anthocyanins)およびカロチノイド(carotenoids)を、植物から精油をそれぞれ抽出するのが好ましい。
【0040】
別の実施形態において、特定の重合性化合物、例えばRNA、DNA、酵素、トキシン、ワクチンのようなタンパク材料(ただしケラチン(keratin)、エラスチン(elastin)およびコラーゲン(collagen)は除く)、または多糖類(polysaccharaides)(ただし、キチン(chitin)およびキトサン(chitosan)は除く)が抽出または溶解される。抽出または溶解するのに好ましい多糖類はレンチナン(lentinan)、ヘパリン(heparin)、ヒアルロナン(hyaluronan)、アルギネート(alginate)、寒天、デンプン、およびイヌリン(inuline)である。抽出された物質は、次いでイオン液体または深共融溶剤から単離することができる。溶液をそのままさらなる工程に使用することも可能である。その一例は、イオン液体または共融溶剤に溶解された抽出酵素を酵素反応に使用することである。これらの反応は次いで前記溶剤または液体中で行なわれる。一例として、ラッカーゼ(laccase)反応がある。
【0041】
以下の実施例に基づいて、本発明を説明する。
【実施例】
【0042】
まず、水不溶性の天然製品について選択された若干の深共融溶剤に対する溶解度を測定した。数種類のフラボノイドが天然の水不溶性の製品として選ばれたが、その理由はそれらが最も豊富に存在する水溶性の植物二次代謝産物であるからである。現在までに500種類を超えるフラボノイドが知られている。これらのフラボノイドの多くは植物中にグリコシド(glycoside)の形で(糖の分子に結合された形で)存在する。植物材料中の存在量が大きい代わりに、グリコシドおよびアグリコン(aglycon)(非糖)部分のいずれも水に不溶性である。従って、モデル研究として、水に対する溶解度が非常に低いケルセチン(quercetin)(アグリコン)、ケルシトリン(quercitrin)(ケルセチン−3−O−ラムノシド)(quercetin−3−O−rhamnoside)およびルチン(rutin)(ケルセチン−3−O−ラムノグルコシド)(quercetin−3−O−rhamnoglucoside)の溶解度を、天然に存在する深共融溶剤に対して測定した。これらのフラボノイドの構造は下記の通りである。
【0043】
【化4】
【0044】
下記の表に示すように、3種類のフラボノイドは天然の深共融溶剤によく溶解し、それらの溶解度は水に対する溶解度と比べると2〜4桁高いことが見出された。
【0045】
【表4】
【0046】
フラボノイドおよび関連するアントシアニンの溶解度を確認するために、赤いバラの花を天然に存在するイオン液体中で抽出した。赤色の代謝産物は表皮細胞に局在していることが観察された。
【0047】
深共融溶剤フラクトース/グルコース/リンゴ酸(1:1:1モル比)を用いて抽出を行なった結果、花から色が抜けて深共融溶剤相に移った。花の構造は無傷のまま残り、自然の構造が破壊されていなかった。