(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、Rasシグナル伝達経路を攪乱することができる、水素結合代替(「HBS」)に由来するαヘリックスに関する。これらのHBSヘリックスは、Ras/Sos相互作用のインビボでの阻害剤として機能する可能性がある。
【0018】
本発明の第一の態様は、安定な、内部拘束型HBSα−ヘリックスを1つ以上有するペプチドに関し、前記ペプチドが、Rasタンパク質と相互作用可能なタンパク質の少なくとも一部分を模倣している。例えばペプチドは、Rasタンパク質と相互作用可能なタンパク質のα−ヘリックス部分を模倣する。
【0019】
用語「模倣する」とは、天然のタンパク質、例えばSosと同様の活性をもたらす、本発明の組成物の能力を指す。「模倣物」は、そのようなタンパク質の機能および構造の両方を模倣しているものを包含する。例えば模倣物とは、標的タンパク質の一定の割合の相同性(例えば60%、70%、80%、85%、90%、または95%の相同性)を共有しているタンパク質である。あるいは、模倣物は、やはり機能的に同じような方法で、例えば、同じ活性部位に相互作用することで、Rasと相互作用可能な、別の配列に由来する。
【0020】
本発明によるペプチドは、例えば、グアニン−ヌクレオチド−交換因子、例えばSosタンパク質の配列の一部分を模倣する。他のヌクレオチド交換因子としては、Cdc25、Sdc25およびRasGRFが挙げられる。Sosタンパク質は、2つのαヘリックス構造ドメインを含み、これらのドメインには、N末端ドメイン(アミノ酸568〜741、α−ヘリックスα1からα6を含む)とC末端ドメイン(アミノ酸752〜1044、α−ヘリックスαAからαKを含む)が含まれる。Sosタンパク質のC末端ドメインは主に、Rasとの相互作用に関わっている。具体的には、αHヘリックスがヌクレオチド交換機構において重要な役割を果たしている。
【0021】
いくつかの実施形態では、好適な本発明のペプチドは、少なくとも1つのα−ヘリックスを模倣し、それは、SosのαA、αB、αC、αD、αE、αF、αG、αH、αI、αJ、またはαKヘリックスである。例えばペプチドは、SosのαHまたはαIヘリックスを模倣する。いくつかの実施形態では、本発明のペプチドは、Sosタンパク質の929番目から944番目のアミノ酸を模倣する。
【0022】
これら人工のα−ヘリックスは、SosのヘリックスがRasと結合するのを競合的に干渉し、それによって、RasおよびSosの相互作用を調節すると予想される。
【0023】
一例として、本発明の人工のα−ヘリックスは、表1に示したSosタンパク質の少なくとも一部分を模倣することができる。
【0024】
(表1)Ras/Sosヘリックスの例
ペプチドおよびSos
929−944α−H配列を模倣するHBSヘリックスの設計。「^」は、K
*およびE
*残基の間にラクタム架橋を含むペプチド(例えばHBS15)を指す。「阻害%」は、RasによるSos介在性ヌクレオチド交換の阻害を表している。値は、Sos存在下および非存在下でのRasによるヌクレオチドの交換に対して正規化したものである。
【0025】
通常、本発明の好適なペプチドは、下記式
を含むペプチドを含み、式中、
は一重または二重の炭素間結合であり;
は一重結合であり、かつ、
が二重結合の場合にはシスまたはトランスであり;
nは1または2であり;
mは0または任意の正の整数であり;
R
1、R
2、R
3およびR
4は独立して水素、アミノ酸側鎖、アルキル基、またはアリール基である。
【0026】
変数mは、0または任意の正の整数、例えば1、2、3、4もしくは5であってよい。いくつかの実施形態においてmは0、1または2である。いくつかの実施形態ではmは0である。他の実施形態では、mは1または2である。
【0027】
変数nは1または2であってよい。他の実施形態ではnは1である。さらに他の実施形態では、nは2である。
【0028】
置換基R
1、R
2、R
3およびR
4は独立して水素、アミノ酸側鎖、アルキル基、またはアリール基である。例えば、R
1、R
2、R
3およびR
4はアミノ酸側鎖である。いくつかの実施形態では、R
1、R
2、R
3およびR
4は天然に存在するアミノ酸側鎖である。他の実施形態では、少なくとも1つのアミノ酸側鎖は天然に存在しない側鎖である。
【0029】
いくつかの実施形態では、R
3は、式FXGZZXZXZLXZEXXN
(SEQ ID NO: 1)の配列を含むペプチドであり、式中、Xは任意のアミノ酸残基であり、かつ、Zは疎水性残基である。別の実施形態では、本発明のペプチドは表1のアミノ酸配列を含み、かつ、表1のアミノ酸配列の1番目から4番目の残基にわたる内部拘束型α−ヘリックス領域を有する。
【0030】
当業者には明らかなように、本発明の方法を使用して、非常に安定した、内部拘束型α−ヘリックスを有するペプチドを調製してもよい。拘束は、N−末端だけでなく、ペプチド中のどこに配置されてもよい。例えば、本発明の方法に従って調製された化合物は、下記式
を有する場合がある。
【0031】
本発明の方法に従って生成されたペプチドは、例えば、40、30、25、20、または15個未満のアミノ酸であってよく、例えば、10個未満のアミノ酸残基を含む。
【0032】
本発明はまた、安定な、内部拘束型α−ヘリックスを1つ以上有するペプチドに関する。この1つ以上の安定な、内部拘束型二次構造は、下記のモチーフ
を含み、式中、
は一重結合または二重結合であり、
は一重結合であり、かつ、
が二重結合の場合にはシスまたはトランスであり;nは1または2であり;かつmは任意の数である。そのようなモチーフの例としては、
が挙げられる。
【0033】
本発明のHBS型α−ヘリックスは、
図2に示すように、N末端主鎖iとi+4水素結合を、閉環複分解反応を介して炭素間結合で置換することにより得られる(Aroraらに付与された米国特許第7,202,332号、Chapman & Arora,"Optimized Synthesis of Hydrogen−bond Surrogate Helices: Surprising Effects of Microwave Heating on the Activity of Grubbs Catalysts,"Org.Lett.8:5825−8 (2006)、Chapman et al,"A Highly Stable Short α−Helix Constrained by a Main−chain Hydrogen−bond Surrogate,"J.Am.Chem.Soc.126:12252−3(2004)、Dimartino et al.,"Solid−phase Synthesis of Hydrogen−bond Surrogate−derived α−Helices,"Org.Lett.7:2389−92(2005)、参照することによりそれらの全体が本明細書に組み込まれる)。水素結合代替物は、α−ターンを前もって組織化して、ペプチド配列をα−ヘリックス配座に安定させる。様々な短いペプチド配列から、HBS型α−ヘリックスが、安定なα−へリックス配座をとることが分かっている(Wang et al.,"Evaluation of Biologically Relevant Short α−Helices Stabilized by a Main−chain Hydrogen−bond Surrogate,"J.Am.Chem.Soc.128:9248−56(2006)、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。また、これらの人工α−ヘリックスが、それらの予想されるタンパク質受容体を、高い親和性で標的とし得ることも示されている(最初はAngew.Chem.117:6683−7(2005)で出版された、Wang et al.,"Enhanced Metabolic Stability and Protein−binding Properties of Artificial α Helices Derived from a Hydrogen−bond Surrogate: Application to Bcl−xL,"Angew.Chem.Int'l Ed.Engl.44:6525−9(2005)、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0034】
別の態様では、本発明の化合物の調製には、ペプチドの前駆化合物を提供する工程および、安定な、内部拘束型αヘリックスを得るために、炭素間結合の形成を促進する工程が含まれる。
【0035】
一実施形態において、この前駆物質は、下記式
を有する。
【0036】
上記式の化合物を、炭素間結合の形成を促進するのに有効な条件下で、反応させてもよい。そのような反応は例えば、複分解であり得る。非天然の炭素間拘束を容易に導入するためのオレフィン複分解触媒が、ペプチド模倣物の調製中に示すひときわ優れた官能基寛容性は、XおよびYが、模式
図2で示すように、オレフィン複分解反応によって連結される2個の炭素原子である可能性を示唆している(Hoveyda et al.,"Ru Complexes Bearing Bidentate Carbenes: From Innocent Curiosity to Uniquely Effective Catalysts for Olefin Metathesis,"Org.Biomolec.Chem.2:8−23(2004)、Trnka et al.,"The Development of L2×2Tu = CHR Olefin Metathesis Catalysts: An Organometallic Success Story,"Accounts Chem.Res.34:18−29(2001)、参照することによりそれらの全体は本明細書に組み込まれる)。
【0037】
本発明のこの態様は例えば、閉環オレフィン複分解反応を含み得る。オレフィン複分解反応によって2つの二重結合がカップリングし(オレフィン)、2つの新しい二重結合が得られる(このうちの1つは通常、エチレンガスである)。閉環オレフィン複分解は、オレフィンの複分解反応を利用して大環状分子を形成する。この反応では、鎖中の2つの二重結合が連結される。この反応は複分解触媒、例えば、下記式
の触媒を使って実施してもよい。
【0038】
他の実施形態では、複分解触媒は、下記式
である。
【0039】
複分解反応は例えば、約25℃〜110℃の間の温度で行ってもよく、より好ましくは約50℃の温度で実施してもよい。
【0040】
複分解反応は、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、またはトルエンなどの有機溶媒と共に実施してもよい。
【0041】
本明細書で開示される反応は、例えば、固体支持体上で行ってもよい。好適な固体支持体としては、粒子、鎖、沈殿物、ゲル、シート、管、球体、容器、毛細管、パッド、スライス、フィルム、プレート、スライド、ディスク、膜などが挙げられる。これらの固体支持体は、ポリマー、プラスチック、セラミック、多糖、シリカもしくはシリカをベースとする材料、炭素、金属、無機ガラス、膜、またはそれらの複合材料を包含する多種多様な材料から作成することができる。基板は、平らであることが好ましいが、様々な他の表面形状をとることができる。例えば、基板は、盛り上がった領域またはへこんだ領域であって、その領域で合成が起きる、領域を含有してもよい。基板およびその表面は、強固な支持体であって、その上で本明細書に記載の反応を行う、支持体を形成することが好ましい。他の基板材料は、本開示を吟味することにより当業者に容易に明らかであろう。
【0042】
行われる複分解反応によって、新しく形成される炭素間結合は二重結合である、化合物を最初に生じ得る。この二重結合はその後、当該分野で既知の水素化法により、一重結合へと変換することができる。
【0043】
別の態様では、本発明は、細胞中のRasシグナル伝達を阻害する方法を提供し、この方法は、細胞を、安定な、内部拘束型αヘリックスを有するペプチドを含有する有効量の組成物と接触させる工程を含み、ここで、前記αヘリックスが、炭素間結合形成反応により形成される架橋によって拘束されており、かつさらに、前記ペプチドが、Rasタンパク質と相互作用可能なタンパク質の少なくとも一部分を模倣している。いくつかの実施形態では、細胞は生体内の細胞である。細胞は例えば、液体腫瘍細胞または固形腫瘍細胞などの癌細胞であり得る。本発明はさらに、それを必要とする対象における癌の治療方法を提供する。この方法は、安定な、内部拘束型αヘリックスを有するペプチドを前記対象に投与する工程を含み、ここで、前記αヘリックスが、炭素間結合形成反応により形成される架橋によって拘束されており、かつさらに、前記ペプチドが、Rasタンパク質と相互作用可能なタンパク質の少なくとも一部分を模倣している。
【0044】
当業者には明らかなように、投与は、一般的に知られている方法によって行うことができる。
【0045】
投与は、対象に全身投与することによっても、あるいは罹患している細胞に標的投与することのいずれによっても達成することができる。投与経路の例としては、これらに限定するものではないが、気管内接種、吸引、気道への点滴投与、エアロゾール投与、噴霧投与、鼻腔内への点滴投与、経口または経鼻胃への点滴投与、腹腔内注入、血管内注射、局所投与、経皮投与、非経口投与、皮下投与、静脈内注射、動脈内注射(例えば肺動脈を介した)、筋内注射、胸膜内注入、心室内投与、病巣内投与、粘膜(例えば、鼻、喉、気管支、性器、および/または肛門の粘膜)への投与、または持続放出媒体の移植が挙げられる。
【0046】
通常、本発明のペプチドは、医薬製剤として哺乳類に投与される。医薬製剤は治療薬および任意の薬学上許容可能な補助剤、担体、賦形剤、および/または安定剤を含み、また、錠剤、カプセル、粉末、溶液、懸濁液、または乳剤などの固体または液体の剤形であってよい。組成物は好ましくは約0.01〜約99重量パーセント、より好ましくは約2〜約60重量パーセントの治療薬を、補助剤、担体および/または賦形剤と共に含む。そのような治療に有効な組成物に含まれる活性化合物の量は、適切な投与単位が得られるようなものである。
【0047】
薬剤は、例えば、不活性な希釈剤または同化性の食用の担体と共に経口投与してもよく、あるいは硬カプセルもしくは軟カプセル中に封入して、または錠剤に圧縮して、または食事の食品に直接組み込んでもよい。経口治療投与用には、これらの活性化合物を賦形剤と混合し、錠剤、カプセル、エリキシール、懸濁液、シロップなどの剤形で使用することができる。このような組成物および調整物は、薬剤を少なくとも0.1%含有していなければならない。当然のことながら、これらの組成物に含まれる薬剤の割合は変わってもよく、単位の重量の約2%〜約60%の範囲が都合よいだろう。そのような治療に有効な組成物に含まれる薬剤の量は、適切な用量が得られるようなものである。
【0048】
錠剤やカプセルなどはさらに、結合剤(例えばトラガカントゴム、アカシアゴム、トウモロコシデンプン、またはゼラチン)、賦形剤(例えば二リン酸カルシウム)、崩壊剤(例えばトウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、またはアルギン酸)、滑沢剤(例えばステアリン酸マグネシウム)、および甘味料(例えばショ糖、乳糖、またはサッカリン)を含んでいてもよい。単位用量形態がカプセルの時には、上述した種類の材料に加えて、油脂などの液体担体が含まれ得る。
【0049】
多様な他の材料もコーティング剤として、または用量単位の物理的な形状を改造するために存在し得る。例えば、錠剤を、シェラック、糖、またはその両方でコーティングしてもよい。シロップは、活性成分(複数可)に加えて、甘味料としてのショ糖、防腐剤としてのメチルパラベンやプロピルパラベン、色素、ならびにさくらんぼ香料またはオレンジ香料のような矯味剤を含んでいてもよい。
【0050】
また、薬剤を非経口投与することもできる。薬剤の溶液または懸濁液を、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合した水の中で調製することができる。分散剤は、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、および油に溶解したそれらの混合物の中で調製することもできる。油の例としては、石油、動物、植物、または合成起源のもの、例えば、ピーナッツ油、ダイズ油、または鉱油が挙げられる。一般に、水、食塩水、水性デキストロースおよび関連する糖溶液、ならびにプロピレングリコールまたはポリエチレングリコールなどのグリコールが、特に注射用液剤にとって、好ましい液体担体である。通常の保存および使用条件下では、これらの調製物は、微生物の増殖を防ぐための保存剤を含有する。
【0051】
注射用使用に適している医薬形態は、無菌の水性の液剤または分散剤、および無菌の注射用液剤または分散剤をその場で調製するための無菌の散剤を包含する。すべての場合において、形態は、無菌でなければならず、容易な注射針通過性(syringability)が存在する程度まで流動性でなければならない。形態は、製造および保存条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用から守られていなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール)、それらの適当な混合物、および植物油を含有する溶媒または分散媒であってよい。
【0052】
本発明のこの態様による薬剤は、エアゾールの形態で気道に直接投与することもできる。エアゾール剤として使用するために、溶液または懸濁液に溶解している本発明の化合物を、適切な噴射剤、例えば、プロパン、ブタン、またはイソブタンのような炭化水素噴射剤、および標準的な補助剤と共に、加圧エアロゾル容器内に包装することができる。本発明の材料は、ネブライザーまたはアトマイザーなどの非加圧形態で投与することもできる。
【0053】
本発明の薬剤は、標的組織、例えば治療する条件に感受性のある組織に直接投与することができる。これに加えておよび/またはあるいは、薬剤を、標的組織、器官、または細胞への薬剤の移動(および/または標的組織、器官、または細胞による取り込み)を促進する、1種類以上の薬剤と共に非標的領域に投与してもよい。当業者には明らかなように、治療薬自体を修正し、望まれる組織、器官、または細胞への輸送(および、望まれる組織、器官、または細胞による取り込み)を容易にすることができる。
【0054】
送達装置の例としては、これらに限定されるものではないが、ネブライザー、アトマイザー、リポソーム、経皮パッチ、インプラント、埋め込み用または注射用タンパク質デポ組成物、および注射器が挙げられる。当業者に知られている他の送達系を使用して、治療薬をインビボの望まれる器官、組織、または細胞へと望ましく送達し、本発明のこの態様を達成することもできる。
【0055】
本発明のこの態様を実施するには、薬剤を送達するのに適したいかなる方法をも利用することができる。典型的には、薬剤(複数可)を標的細胞、組織、または器官に送達する媒体に溶解された状態で、薬剤は患者に投与される。
【0056】
細胞中に薬剤を送達するための方法の1つに、リポソームの使用がある。リポソームの使用には基本的に、送達するべき薬剤(複数可)を包含するリポソームを提供する工程、次いで、標的細胞、組織、または器官を、細胞、組織、または器官に薬剤を送達するのに効果的な条件下でリポソームと接触させる工程を含む。
【0057】
リポソームは、水相を被包する1つ以上の同心円状に並んだ脂質二重層からなる小胞である。それらは、通常は漏出性ではないが、穴または細孔が膜に生じる場合、膜が溶かされるか分解する場合、または膜温度が相転移温度まで増加する場合に漏出性になることがある。リポソームを介する現行の薬物送達法は、リポソーム担体が、最終的に透過性になり、被包された薬物を標的部位で放出することを必要とする。このことは、例えば、体内の様々な物質の作用によってリポソーム二重層が時間と共に分解する、受動的な様式で達成することができる。あらゆるリポソーム組成物は、循環中または体内の他の部位で特徴的な半減期を有するため、リポソーム組成物の半減期を制御することにより、二重層が分解する速度を幾分かは調節することができる。
【0058】
受動的な薬物放出とは対照的に、能動的な薬物放出には、リポソーム小胞の透過性の変化を誘導する薬剤の使用が含まれる。リポソーム膜は、リポソーム膜の近くの環境が酸性になる場合に、それらが不安定化するように構築することができる(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Wang and Huang,"pH−Sensitive Immunoliposomes Mediate Target−cell−specific Delivery and Controlled Expression of a Foreign Gene in Mouse,"Proc.Nat'l Acad.Sci.USA 84:7851−5(1987)を参照のこと)。例えば、リポソームが標的細胞によってエンドサイトーシスされる場合、リポソームは、リポソームを不安定化して薬物を放出させる酸性エンドソームに送られることがある。
【0059】
あるいは、リポソーム膜を、酵素が膜上にコーティングとして配置されるように化学修飾することができ、酵素は、リポソームをゆっくりと不安定化する。薬物放出の制御は、膜内に最初に配置された酵素の濃度に依存することから、薬物放出を調節するか変化させて、薬物を「要求に応じて」送達するための真に有効な方法はない。同じ問題は、リポソーム小胞が標的細胞と接触するとすぐに、リポソーム小胞が飲み込まれ、pHの低下が薬物放出につながるという点で、pH感受性リポソームについても存在する。
【0060】
このリポソーム送達系を作成し、能動的標的化を介して標的器官、組織、または細胞に蓄積することができる(例えば、リポソーム媒体の表面上に抗体またはホルモンを組み入れることにより)。このことは、既知の方法に従って達成することができる。
【0061】
様々な種類のリポソームを、Bangham et al.,"Diffusion of Univalent Ions Across the Lamellae of Swollen Phospholipids,"J.Mol.Biol.13:238−52(1965)、Hsuに付与された米国特許第5,653,996号、Leeらに付与された米国特許第5,643,599号、Hollandらに付与された米国特許第5,885,613号、DzauおよびKanedaに付与された米国特許第5,631,237号、およびLoughreyらに付与された米国特許第5,059,421号に従って調製することができ、これらはそれぞれ、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるものとする。
【0062】
これらのリポソームは、本発明の治療薬に加えて、それらが、抗炎症剤などの他の治療薬を含み、次いで、標的部位で放出するように製造することができる(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれている、Wolff et al.,"The Use of Monoclonal Anti−Thy1 IgG1 for the Targeting of Liposomes to AKR−A Cells in Vitro and in Vivo,"Biochim.Biophys.Acta 802:259−73(1984))。
【0063】
タンパク質またはポリペプチド製剤(例えば、本発明のペプチド)を送達するための別の方法には、所望のタンパク質またはポリペプチドをポリマーと抱合させる工程を含み、ここでポリマーは、抱合したタンパク質またはポリペプチドの酵素分解を避けるために安定化されている。この種の抱合型タンパク質または抱合型ポリペプチドは、その全体が参照により本明細書に組み込まれている、Ekwuribeに付与された米国特許第5,681,811号に記載されている。
【0064】
タンパク質またはポリペプチド製剤を送達するためのさらに別の手法には、Heartleinらに付与された米国特許第5,817,789号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)によるキメラタンパク質の調製がある。キメラタンパク質は、リガンドドメインとポリペプチド製剤(例えば、本発明の人工α−ヘリックス)を含むことができる。リガンドドメインは、標的細胞上に位置している受容体に特異的である。従って、キメラタンパク質が静脈内に送達されるか、あるいは血液またはリンパ内に導入される場合、キメラタンパク質は標的化細胞に吸着し、標的化細胞の内部に取り込まれるだろう。
【0065】
投与は、必要に応じた頻度で、有効な治療を提供するのに適した期間にわたって行うことができる。例えば、単一の持続放出用量製剤で投与することも、または複数の1日投与量で投与することもできる。
【0066】
言うまでもなく、投与量は治療計画に応じて変化する。通常、患者の状態の改善に有効な量(すなわち治療上有効量)になるように、薬剤を投与する。従って、癌の例では、治療上有効量とは、腫瘍の大きさを少なくとも部分的に縮小させる、体内の癌細胞の数を低下させる、または体内での癌細胞の増加を遅らせることができる量であり得る。有効量を達成するのに必要とされる用量は、薬剤、製剤、癌、および薬剤が投与される個体に応じて変わり得る。
【0067】
有効量の決定には、インビボで必要とされる濃度を計算するために、様々な投与量の薬剤を培養液中の細胞に投与し、癌細胞の成長を阻害するのに有効な薬剤の濃度を決定するインビトロアッセイもまた含まれ得る。有効量は、インビボ動物試験に基づくものであってもよい。治療上有効量は、当業者が経験的に決定してもよい。
治療方法
【0068】
いくつかの実施形態では、本発明の化合物を使用して、癌および腫瘍性の状態を治療、予防、および/または診断する。本明細書で使用する場合、用語「癌」、「過剰増殖性」および「腫瘍性」は、自律的増殖能を有する細胞、すなわち、早い速度で増殖している細胞成長によって特徴付けられる異常な段階または状態を指す。過剰増殖性および腫瘍性の病態は、病気である、すなわち病態を特徴付けているまたは構成していると分類されることも、あるいは、病気でない、すなわち正常からは逸脱しているが、病態とは関連がないと分類されることもある。この用語は、組織病理的な種類または浸潤度にかかわらず、全ての型の癌性増殖または発癌過程、転移性組織または悪性転換した細胞、組織、または器官、を含むものと意図される。転移性の腫瘍は多くの原発性腫瘍の型から現れる。原発性腫瘍には、これらには限定されないが、乳房、肺、肝臓、結腸および卵巣起源のものが含まれる。「病気の過剰増殖性」細胞は、悪性の腫瘍増殖によって特徴付けられる病態で生じる。病気ではない過剰増殖性細胞の例としては、創傷治癒に関連する細胞の増殖が挙げられる。細胞増殖および/または分化性障害の例としては、癌、例えば、癌腫、肉腫、または転移性障害が挙げられる、いくつかの実施形態において化合物は、乳癌、卵巣癌、結腸癌、肺癌、そのような癌の転移などを制御するための新規治療薬である。
【0069】
癌または腫瘍性の状態の例としては、これらには限定されないが、繊維肉腫、筋肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、胃癌、食道癌、直腸癌、膵癌、卵巣癌、前立腺癌、子宮癌、頭頸部癌、皮膚癌、脳腫瘍、扁平上皮細胞癌、皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支原性癌、腎細胞癌、肝癌、胆管癌、絨毛癌、精上皮腫、胎児性癌腫、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、膀胱癌、上皮肉腫、神経膠腫、星細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、希突起神経膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、白血病、リンパ腫、またはカポジ肉腫が挙げられる。
【0070】
増殖性疾患の例には、造血器の腫瘍性疾患がある。本明細書で使用する場合、用語「造血器の腫瘍性疾患」には、造血器由来の、例えば骨髄、リンパまたは赤血球分化系列、またはその前駆細胞から生じた、過剰増殖性/腫瘍性細胞を含む疾患が含まれる。好ましくは疾患は、低分化急性白血病、例えば、赤芽球性白血病や急性巨核芽球性白血病から生じるものである。骨髄疾患のさらなる例としては、これらには限定されないが、急性前骨髄性白血病(APML)、急性骨髄性白血病(AML)および慢性骨髄性白血病(CML)(Vaickus(1991)Crit Rev.Oncol./Hemotol.11:267−97にまとめられている)が挙げられ、リンパ性悪性疾患には、これらには限定されないが、B細胞系列性ALLとT細胞系列性ALLを含む急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、前リンパ球性白血病(PLL)、有毛細胞白血病(HLL)およびヴァルデンストレームマクログロブリン血症(WM)が含まれる。さらに別の形態の悪性リンパ腫としては、これらには限定されないが、非ホジキンリンパ腫およびその変異体、末梢T細胞リンパ腫、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)、皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)、大型顆粒リンパ球白血病(LGF)、ホジキン病およびリード・スタンバーグ疾患が挙げられる。
【0071】
乳房の細胞増殖性疾患および/または分化性障害の例としては、これらには限定されないが、増殖性乳房疾患(例えば、上皮過形成、硬化性腺症、および小管乳頭腫など)、腫瘍(例えば、線維腺腫、葉状腫瘍、および肉腫などの間質性腫瘍、および大管乳頭腫などの上皮腫瘍)、乳房癌(非浸潤性乳管癌(パジェット病など)および非浸潤性小葉癌を含むインシトゥ(非浸潤性)癌、および浸潤性腺管癌、浸潤性小葉癌、髄様癌、膠様(粘液)癌、管状癌、および浸潤性乳頭癌を含むがこれらには限定されない侵襲性(浸潤性)癌、および種々の悪性新生物)が挙げられる。男性の乳房の障害には、これらには限定されないが、女性化乳房および癌腫がある。
【0072】
肺の細胞増殖性疾患および/または分化性障害の例としては、これらには限定されないが、気管支原性癌(例えば、腫瘍随伴症候群、細気管支肺胞癌、気管支カルチノイド、ならびに種々の腫瘍および転移性腫瘍などの神経内分泌腫瘍)、胸膜の病気(例えば、炎症性胸水貯留、非炎症性胸水貯留、気胸、ならびに孤立性線維性腫瘍(胸膜線維腫)および悪性中皮腫などの胸膜腫瘍)が挙げられる。
【0073】
結腸の細胞増殖性疾患および/または分化性障害の例としては、これらには限定されないが、非腫瘍性ポリープ、腺腫、家族性症候群、結腸直腸発癌、結腸直腸癌、およびカルチノイド腫瘍が挙げられる。
【0074】
肝臓の細胞増殖性疾患および/または分化性障害の例としては、これらには限定されないが、結節性過形成、腺腫、および悪性腫瘍(肝臓の原発癌および転移性腫瘍など)が挙げられる。
【0075】
卵巣の細胞増殖性疾患および/または分化性障害の例としては、これらには限定されないが、卵巣腫瘍(例えば体腔上皮の腫瘍、漿液性腫瘍、粘液性腫瘍、子宮内膜性腫瘍、明細胞腺癌、嚢胞性線維腺腫、ブレンナー腫瘍、表層上皮腫瘍)、胚細胞腫瘍(例えば成熟型(良性)奇形腫、単胚葉性奇形腫、未成熟型悪性奇形腫、未分化胚細胞種、内胚葉洞腫瘍、絨毛癌)、性索間質性腫瘍(例えば顆粒膜夾膜細胞腫、莢膜細胞腫線維腫、アンドロブラストーマ、ヒル(hill)細胞腫瘍、および性腺芽細胞腫)、並びに転移性腫瘍(クルーケンベルグ腫瘍)が挙げられる。
【0076】
いくつかの実施形態では、本発明のペプチドを使用して、変異したRasタンパク質が介在する癌を治療する。そのような突然変異をしばしば含む癌としては、これらには限定されないが、非小細胞肺癌(腺癌)、結腸直腸癌、膵癌、甲状腺癌(例えば、濾胞性、未分化乳頭または乳頭)、精上皮腫、黒色腫、膀胱癌、肝臓癌、腎臓癌、骨髄異形成症候群、および急性骨髄性白血病がある。
【0077】
乳癌
一態様において本発明は、本発明の化合物の投与による、乳癌の治療方法を提供する。乳癌には、侵襲性の乳癌、例えば浸潤性腺管癌、浸潤性小葉癌、管状癌、侵襲性篩状癌、髄様癌、粘液癌およびムチンを多く含む他の腫瘍、嚢胞腺癌、円柱細胞粘液癌、印環細胞癌、神経内分泌腫瘍(固形神経内分泌癌、異型カルチノイド腫瘍、小細胞/燕麦細胞癌、または大細胞神経内分泌癌を含む)、浸潤性乳頭癌、侵襲性微小乳頭癌、アポクリン腺癌、化生性癌、純上皮型化生性癌、上皮/間葉混合性化生性癌、脂質に富む癌、分泌性乳癌、膨大細胞癌腫、腺様嚢胞癌、細様細胞癌、グリコーゲンに富む明細胞癌、脂腺癌、炎症性癌または両側乳癌、間葉腫瘍、例えば血管腫、血管腫症、血管外皮腫、乳腺間質の過形成(pseudoangiomatous stromal hyperplasia)、筋組織新生物、線維腫症(浸潤性)、炎症性筋線維芽腫瘍、脂肪腫、血管脂肪腫、顆粒細胞腫瘍、神経線維腫、シュワン腫、血管肉腫、脂肪肉腫、横紋筋肉腫、骨肉腫、平滑筋腫、または平滑筋肉腫、筋上皮の病変、例えば筋上皮増殖(myoepitheliosis)、腺筋上皮腺症(adenomyoepithelial adenosis)、腺筋上皮腫、または悪性筋上皮腫、線維上皮腫瘍、例えば線維腺腫、葉状腫瘍、低級管周囲間質肉腫、または乳房過誤腫、および乳頭の腫瘍、例えば乳頭腺腫、乳頭・乳輪部の腺腫、または乳頭のパジェット病が含まれる。
【0078】
乳癌の治療は、その他のいかなる治療と、例えば標準治療の一環である治療と併せて行うこともできる。本発明の化合物を使った治療の前、本発明の化合物を使った治療を行っている間、または本発明の化合物を使った治療の後に、乳腺腫瘍摘出術または乳房切除術などの外科的手法を実施してもよい。あるいは、本発明の化合物と併せて、乳癌を治療するための放射線療法を使用することもできる。他の例では、本発明の化合物を、第二の治療薬と併用投与する。そのような薬剤は、個別の薬物または薬物や治療の併用などの化学療法薬であってもよい。例えば、化学療法薬は、CMF(シクロホスファミド、メトトレキサート、および5−フルオロウラシル)、FACまたはCAF(5−フルオロウラシル、ドキソルビシン、シクロホスファミド)、ACまたはCA(ドキソルビシンおよびシクロホスファミド)、AC−タキソール(ACと次いでパクリタキセル)、TAC(ドセタキセル、ドキソルビシン、およびシクロホスファミド)、FEC(5−フルオロウラシル、エピルビシンおよびシクロホスファミド)、FECD(FECと次いでドセタキセル)、TC(ドセタキセルおよびシクロホスファミド)などの補助化学療法の場合がある。化学療法に加えて、腫瘍の特徴(つまりHER2/neuの状態)および再発の危険性に応じて、トラスツズマブも投与計画に加えてもよい。化学療法の前、化学療法を行っている間、または化学療法後のホルモン治療が適している場合もある。例えば、タモキシフェン、またはアミノグルテチミド、アナストロゾール、エキセメスタン、ホルメスタン、レトロゾール、またはボロゾールを含むがこれらには限定されない、アロマターゼ阻害薬に分類される化合物を投与してもよい。他の実施形態では、乳癌を治療するための併用治療において、抗血管新生薬を使用してもよい。抗血管新生薬は抗VEGF薬であってよく、抗VEGF薬にはベバシズマブが含まれるがこれには限定されない。
【0079】
卵巣癌
別の態様では、本発明の化合物を使用して卵巣癌を治療することもできる。卵巣癌としては、卵巣腫瘍、例えば体腔上皮の腫瘍、漿液性腫瘍、粘液性腫瘍、子宮内膜性腫瘍、明細胞腺癌、嚢胞性線維腺腫、ブレンナー腫瘍、表層上皮腫瘍、胚細胞腫瘍、例えば成熟型(良性)奇形腫、単胚葉性奇形腫、未成熟型悪性奇形腫、未分化胚細胞種、内胚葉洞腫瘍、絨毛癌、性索間質性腫瘍、例えば顆粒膜夾膜細胞腫、莢膜細胞腫線維腫、アンドロブラストーマ、ヒル細胞腫瘍、および性腺芽細胞腫、および転移性腫瘍、例えばクルーケンベルグ腫瘍が挙げられる。
【0080】
本発明の化合物を、第二の治療、例えば標準治療の一環である治療と併せて投与してもよい。卵巣癌に適用可能な治療のいくつかには、手術、免疫療法、化学療法、ホルモン療法、放射線治療、またはその組み合わせがある。適用可能な外科的手法のいくつかとしては、減量手術、および片側または両側の卵巣摘出術および/または片側または両側の卵管摘出術がある。
【0081】
使用可能な抗癌剤としては、シクロホスファミド、エトポシド、アルトレタミン、およびイホスファミドがある。薬物であるタモキシフェンを使ったホルモン療法により、卵巣腫瘍を縮小させてもよい。放射線治療は、外照射療法および/または密封小線源治療であり得る。
【0082】
前立腺癌
別の態様では、本発明の化合物を使用して前立腺癌を治療することもできる。前立腺癌には、腺癌および転移した腺癌が含まれる。本発明の化合物を、第二の治療、例えば標準治療の一環である治療と併せて投与することもできる。前立腺癌の治療には、手術、放射線治療、高密度焦点式超音波療法(HIFU)、化学療法、凍結手術、ホルモン療法、またはその任意の組み合わせが含まれ得る。手術には、前立腺切除術、根治的会陰式前立腺摘除術、腹腔鏡下根治的前立腺摘除術、前立腺の経尿道的切除または睾丸摘出術が含まれ得る。放射線治療は、外照射療法および/または密封小線源治療を含む場合がある。ホルモン療法には、睾丸摘出術、抗男性ホルモン薬、例えばフルタミド、ビカルタミド、ニルタミド、または酢酸シプロテロン、DHEAなどの副腎アンドロゲンの生産を阻害する薬物、例えばケトコナゾールやアミノグルテチミドの投与、およびアバレリクス(Plenaxis(登録商標))、セトロレリクス(Cetrotide(登録商標))、ガニレリクス(Antagon(登録商標))、ロイプロリド、ゴセレリン、トリプトレリン、またはブセレリンなどのGnRHアンタゴニストまたはアゴニストの投与が含まれる場合がある。別の適用可能な治療としては、体内でのアンドロゲン活性を遮断する、抗男性ホルモン薬を使った治療がある。そのような薬剤としては、フルタミド、ビカルタミド、およびニルタミドが挙げられる。この治療は、通常、LHRH類似体の投与または睾丸摘出術と併せて行われ、後者は、完全アンドロゲン遮断(CAB)と呼ばれている。化学療法には、ドセタキセルを、コルチコステロイド、例えばプレドニゾンなどと併せて投与するものがあるが、これには限定されない。前立腺癌の成長を遅らせるため、症状を軽減するため、および生活の質を改善するために、ドキソルビシン、エストラムスチン、エトポシド、ミトキサントロン、ビンブラスチン、パクリタキセル、カルボプラチンなどの抗癌剤を投与することもできる。ビスホスホネート製剤などの別の化合物をさらに投与してもよい。
【0083】
腎臓癌
別の態様では、本発明の化合物を使って腎臓癌を治療してもよい。腎臓癌には、腎細胞癌、腎外原発新生物からの転移、腎臓リンパ腫、扁平上皮細胞癌、傍糸球体腫瘍(腎腫)、移行上皮癌、血管筋脂肪腫、膨大細胞腫およびウィルムス腫瘍が含まれるがこれらには限定されない。本発明の化合物を、第二の治療、例えば標準治療の一環である治療と併せて投与することもできる。腎臓癌の治療には、手術、経皮的治療、放射線治療、化学療法、ワクチン、または他の薬剤投与が含まれ得る。本発明の化合物との併用において腎臓癌の治療に有用な外科的手法としては腎摘出術があり、これには、副腎、後腹膜リンパ節、および腫瘍の侵襲によって罹患した、他の任意の周辺組織の切除が含まれ得る。経皮的治療には、例えば、画像誘導治療があり、これには、腫瘍を画像化し、次いでこれをラジオ波焼灼療法または凍結療法で標的破壊することが含まれ得る。いくつかの例では、腎臓癌の治療に有用な他の化学療法または他の薬剤投与は、α−インターフェロン、インターロイキン−2、ベバシズマブ、ソレフェニブ、スニチブ(sunitib)、テムシロリムスまたは他のキナーゼ阻害剤である場合がある。
【0084】
膵癌
他の態様において本発明は、本発明の化合物を投与することにより、膵癌の治療方法を提供する。この膵癌は、膵管組織の類上皮癌および膵管の腺癌から選択されるような膵癌である。最も一般的な型の膵癌は腺癌であり、これは膵管の管壁から生じる。膵癌に適用可能な治療としては、手術、免疫治療、放射線治療、および化学療法が挙げられる。手術の選択肢として可能性があるものには、膵体尾部切除術または膵全摘術および膵頭十二指腸切除術(ホイップル法)が含まれる。放射線治療、具体的には、体外にある装置を使って腫瘍に放射線を当てる外照射療法が、膵癌患者に対する選択肢となる場合もある。別の選択肢としては、術中に照射される、術中電子線照射がある。化学療法を膵癌患者に使用することもできる。好適な抗癌剤には、5−フルオロウラシル(5−FU)、マイトマイシン、イホスファミド、ドキソルビシン、ストレプトゾシン、クロロゾトシン、およびそれらの併用があるがこれらには限定されない。本発明で提供する方法は、本発明のポリペプチドを投与することによって、または化合物の投与と手術、放射線治療、または化学療法を併用することで、膵癌患者に有益な効果をもたらすことが可能である。
【0085】
結腸癌
一態様では、本発明の化合物を使用して結腸癌を治療してもよい。結腸癌には、非腫瘍性ポリープ、腺腫、家族性症候群、結腸直腸発癌、結腸直腸癌、およびカルチノイド腫瘍が含まれるがこれらには限定されない。本発明の化合物と併せて結腸癌に適用可能な治療としては、手術、化学療法、放射線治療または標的薬治療がある。
【0086】
放射線治療は、外照射療法および/または密封小線源治療を含む場合がある。化学療法を使用して、転移が広がる可能性を低下させる、腫瘍サイズを縮小させる、または腫瘍の成長を遅らせることもできる。化学療法は、手術の後に適用される(補助)、手術前に適用される(術前補助)、または手術が指示されない場合には一次療法(姑息的)として適用されることが多い。例えば、補助化学療法の投与計画の一例としては、5−フルオロウラシル、ロイコボリン、およびオキサリプラチンを併用して静注するFOLFOXがある。化学療法の第一選択の処方計画には、5−フルオロウラシル、ロイコボリン、およびオキサリプラチン(FOLFOX)の静注と、標的薬、例えばベバシズマブ、セツキシマブもしくはパニツムマブの併用、または5−フルオロウラシル、ロイコボリン、およびイリノテカン(FOLFIRI)の静注と、標的薬、例えばベバシズマブ、セツキシマブまたはパニツムマブの併用が含まれる場合がある。本発明の化合物と合わせて結腸癌の治療または予防に有用な可能性のある他の化学療法薬は、ボルテゾミブ(Velcade(登録商標))、オブリメルセン(Genasense(登録商標)、G3139)、ゲフィチニブおよびエルロチニブ(Tarceva(登録商標))およびトポテカン(Hycamtin(登録商標))である。
【0087】
肺癌
いくつかの実施形態では、本発明の化合物を使った、肺癌の治療方法を提供する。肺細胞の増殖性疾患および/または分化性障害の例としては、これらには限定されないが、気管支原性癌(腫瘍随伴症候群、細気管支肺胞癌、神経内分泌腫瘍、例えば気管支カルチノイド、雑多な腫瘍、および転移性腫瘍を含む);胸膜の病気(炎症性胸水、非炎症性胸水、気胸を含む)ならびに胸膜腫瘍(孤立性線維性腫瘍(胸膜線維腫)および悪性中皮腫を含む)が挙げられる。
【0088】
最もありふれた型の肺癌は、非小細胞肺癌(NSCLC)である。これは、肺がんのおよそ80〜85%を占め、扁平上皮細胞癌、腺癌、および大細胞未分化癌に分類される。小細胞肺癌、例えば小細胞肺細胞腫は肺癌の15〜20%を占める。肺癌の治療の選択肢には、手術、免疫治療、放射線治療、化学療法、光線力学的治療、またはそれらの併用がある。肺癌の治療に適用可能ないくつかの外科的な選択肢は、区域切除術または楔状切除術、肺葉切除術、または肺摘除術である。放射線治療は、外照射療法または密封小線源治療であり得る。本発明の化合物と併せて、肺癌を治療するための化学療法に使用することができる抗癌剤のいくつかとしては、シスプラチン、カルボプラチン、パクリタキセル、ドセタキセル、ゲムシタビン、ビノレルビン、イリノテカン、エトポシド、ビンブラスチン、ゲフィチニブ、イホスファミド、メトトレキサート、またはそれらの併用が挙げられる。光線力学的治療(PDT)を使用して、肺癌患者を治療してもよい。本明細書に記載の方法は、化合物を投与することによって、または化合物の投与と、手術、放射線治療、化学療法、光線力学的治療、またはそれらの併用を組み合わせることによって、肺癌患者に有益な効果をもたらすことが可能である。
【0089】
肝臓の細胞増殖性疾患および/または分化性障害の例としては、これらには限定されないが、結節性過形成、腺腫、および悪性腫瘍(肝臓の原発癌および転移性腫瘍を含む)が挙げられる。
【0090】
免疫増殖性疾患
免疫増殖性疾患(「免疫増殖性障害」または「免疫増殖性新生物」としても知られている)は、B細胞、T細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞を含む、免疫系の主要な細胞の異常な増殖、または免疫グロブリン(抗体としても知られている)の過剰生産によって特徴付けられる、免疫系の疾患である。このような疾患には、一般的な分類である、リンパ増殖性疾患、高ガンマグロブリン血症、およびパラプロテイン血症が含まれる。そのような疾患の例としては、これらには限定されないが、X連鎖リンパ増殖性疾患、常染色体のリンパ増殖性疾患、高IgM症候群、重鎖病、およびクリオグロブリン血症が挙げられる。他の免疫増殖性疾患は、移植片対宿主拒絶病(GVHD)、乾癬、移植拒絶反応に関連した免疫疾患、T細胞リンパ腫、T細胞急性リンパ芽球性白血病、精巣血管中心性T細胞リンパ腫、良性リンパ球性血管炎、および自己免疫疾患、例えばエリテマトーデス、橋本甲状腺炎、原発性粘液水腫、グレーブス病、悪性貧血、自己免疫性萎縮性胃炎、アジソン病、インスリン依存型糖尿病、グッドパスチャー症候群、重症筋無力症、天疱瘡、クローン病、交感性眼炎、自己免疫性ブドウ膜炎、多発性硬化症、自己免疫性溶血性貧血、特発性血小板減少症、原発性胆汁性肝硬変、慢性活動性肝炎、潰瘍性大腸炎、シェーグレン症候群、関節リウマチ、多発性筋炎、強皮症、および混合性結合組織病であり得る。
【0091】
併用療法
一実施形態では、本発明の化合物を、アルキル化剤およびアルキル化様薬剤と合わせて、癌の治療に使用することもできる。そのような薬剤としては、例えば、ナイトロジェンマスタード、例えばクロラムブシル、クロルメチン、シクロホスファミド、イホスファミド、およびメルファラン、ニトロソ尿素、例えばカルムスチン、ホテムスチン、ロムスチン、およびストレプトゾシン、白金製剤、例えばカルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン、BBR3464、およびサトラプラチン、またはブスルファン、ダカルバジン、プロカルバジン、テモゾロミド、チオテパ、トレオスルファン、若しくはウラムスチンを含むがこれらには限定されない、他の薬剤が挙げられる。
【0092】
別の実施形態では、本発明の化合物を、代謝拮抗薬である抗腫瘍薬と併せて使用してもよい。例えば、そのような抗腫瘍薬は、葉酸、例えばアミノプテリン、メトトレキサート、ペメトレキセド、またはラルチトレキセドである場合がある。あるいは、抗腫瘍薬は、クラドリビン、クロファラビン、フルダラビン、メルカプトプリン、ペントスタチン、チオグアニンを含むがこれらには限定されない、プリンであってもよい。さらなる実施形態では、抗腫瘍薬は、カペシタビン、シタラビン、フルオロウラシル、フロクスウリジン、およびゲムシタビンなどのピリミジンであってもよい。
【0093】
さらに他の実施形態では、本発明の化合物を、紡錘体毒/有糸分裂阻害剤である抗腫瘍薬と併せて使用することもできる。この分類に含まれる薬剤としては、タキサン類、例えばドセタキセルおよびパクリタキセル、およびビンカアルカロイド、例えばビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、およびビノレルビンが挙げられる。さらに他の実施形態では、本発明の化合物を、細胞傷害性/抗腫瘍抗生物質である抗腫瘍薬と併せて使用してもよく、この場合、細胞傷害性/抗腫瘍抗生物質は、アントラサイクリンファミリー由来のもの、例えばダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、ピクサントロン、若しくはバルルビシン、ストレプトミセスファミリーに由来する抗生物質、例えばアクチノマイシン、ブレオマイシン、マイトマイシン、若しくはプリカマイシン、またはヒドロキシ尿素である。あるいは、併用療法に使用される薬剤は、カンプトテシン、トポテカン、イリノテカン、エトポシド、またはテニポシドを含むがこれらには限定されない、トポイソメラーゼ阻害剤であってもよい。
【0094】
あるいは、抗腫瘍薬は抗体または抗体に由来する薬剤であってもよい。例えば、受容体チロシンキナーゼ標的抗体、例えばセツキシマブ、パニツムマブ、またはトラスツズマブを使用してもよく、あるいは、抗体は抗CD20抗体、例えばリツキシマブまたはトシツモマブ、またはアレムツズマブ、ベバシズマブ、およびゲムツズマブを含むがこれらには限定されない、いかなる他の適切な抗体であってもよい。他の実施形態では、抗腫瘍薬は、腫瘍親和性感光色素、例えばアミノレブリン酸、アミノレブリン酸メチル、ポルフィマーナトリウム、またはベルテポルフィンである。さらに他の実施形態において抗腫瘍薬は、チロシンキナーゼ阻害剤、例えば、デジラニブ(dediranib)、ダサチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、ラパチニブ、ニロチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、またはバンデタニブである。本発明の使用に好適な他の腫瘍薬としては、例えば、アリトレチノイン、トレチノイン、アルトレタミン、アムサクリン、アナグレリド、亜ヒ酸、アスパラギナーゼ(ペグアルパルガーゼ)、ベキサロテン、ボルテゾミブ、デニロイキンジフチトクス、エストラムスチン、イクサベピロン、マソプロコール、またはミトタンが挙げられる。
【0095】
他の実施形態またはさらなる実施形態では、本明細書に記載の化合物を使用して、過剰な細胞死または生理的障害に起因する細胞死などによって特徴付けられる状態を治療、予防または診断する。早い時期に起こるまたは望まれていない細胞死、あるいは望まれていないまたは過剰な細胞増殖によって特徴付けられる状態のいくつかの例には、これらには限定されないが、低細胞性/低形成性、無細胞性/無形成性、または細胞過形成性/過剰増殖性の状態が含まれる。いくつかの例としては、ファンコニ貧血、再生不良性貧血、サラセミア、先天性好中球減少症、および骨髄形成異常症を含むがこれらには限定されない、血液障害が挙げられる。
【0096】
他の実施形態またはさらなる実施形態では、アポトーシスを低減させるように作用する本発明の化合物を、望ましくないレベルの細胞死に関連した障害の治療に使用する。従って、いくつかの実施形態では、抗アポトーシス性の本発明の化合物を使用して、ウイルス感染、例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染に関連がある感染を伴う細胞死を誘導するような障害を治療する。多くの神経学的疾患は、特定の組のニューロンが徐々に失われていくことを特徴とし、かつ、いくつかの実施形態では、これらの障害の治療において、抗アポトーシス性の本発明の化合物が使用される。そのような障害には、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、網膜色素変性、脊髄筋萎縮症、および多様な形態の小脳変性症が含まれる。これらの疾患における細胞の消失は炎症性反応を誘発せず、また、アポトーシスは細胞死の機序であるように見受けられる。加えて、多数の血液疾患は、血液細胞の生産の減少と関連している。これらの障害には、慢性疾患に関連する貧血、再生不良性貧血、慢性好中球減少症、および骨髄異形成症候群が含まれる。血液細胞生産の障害、例えば骨髄異形成症候群およびいくつかの形態の再生不良性貧血は、骨髄でのアポトーシス細胞死の増加と関連している。これらの障害は、アポトーシスを促進する遺伝子の活性化、間質細胞または造血生存因子の後天性欠乏症、または毒物および免疫応答調節因子の直接的な作用によって生じる可能性がある。細胞死に関係がある、一般的な2つの障害には、心筋梗塞と脳卒中がある。どちらの障害においても、血流の急激な減少事象によって生じる虚血中心部位の細胞が、壊死の結果、急速に死んでいくと考えられている。しかしながら、虚血中心部位の外側では、細胞は、より長い期間にわたって死に、形態学的にはアポトーシスによって死んでいるように見える。
【0097】
他の使用方法
他の実施形態またはさらなる実施形態では、抗アポトーシス性の本発明の化合物は、望ましくない細胞死に関係する、そのような全ての障害の治療に使用される。
【0098】
本明細書に記載の化合物で治療される免疫疾患のいくつかの例としては、これらには限定されないが、器官移植拒絶反応、関節炎、狼瘡、IBD、クローン病、喘息、多発性硬化症、糖尿病などが挙げられる。
【0099】
本明細書に記載の化合物で治療される神経障害のいくつかの例としては、これらには限定されないが、アルツハイマー病、ダウン症候群、遺伝性アミロイド性脳出血(オランダ型)、反応性アミロイドーシス、蕁麻疹および難聴を伴う家族性アミロイドニューロパチー、マックル・ウェルズ症候群、特発性骨髄腫、マクログロブリン血症関連骨髄腫、家族性アミロイドポリニューロパチー、家族性アミロイド心筋症、孤立性心アミロイドーシス、全身性老人性アミロイドーシス、成人発症型糖尿病、インスリノーマ、孤立性心房性アミロイド、甲状腺の髄様癌、家族性アミロイドーシス、アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血、家族性アミロイドポリニューロパチー、スクレイピー、クロイツフェルトヤコブ病、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー症候群、牛海綿状脳症、プリオン介在性疾患、およびハンチントン病が挙げられる。
【0100】
本明細書に記載の化合物で治療される内分泌疾患のいくつかの例としては、これらには限定されないが、糖尿病、甲状腺機能低下症、下垂体機能低下症、副甲状腺機能低下症、性腺機能低下症などが挙げられる。
【0101】
本発明の化合物で治療または予防される心血管障害(例えば、炎症性障害)の例としては、これらには限定されないが、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞、脳卒中、血栓症、動脈瘤、心不全、虚血性心疾患、狭心症、心臓突然死、高血圧性心疾患、非冠血管疾患、例えば細動脈硬化症、小血管疾患、ネフロパチー、高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、高脂血症、黄色腫症、喘息、高血圧、肺気腫および慢性肺疾患、または介入的治療(「手技上の血管の外傷」)、例えば、血管形成術後の再狭窄、シャント、ステント、人工の移植片もしくは天然の切除した移植片の配置、カテーテル、弁または他の植え込み型装置の留置に不随する心血管状態が挙げられる。好ましい心血管障害には、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞、動脈瘤、および脳卒中が含まれる。
【実施例1】
【0102】
ペプチド1〜17の合成
図12〜15に示すように、ペプチド1〜17を合成した。CEM Libertyマイクロ波ペプチド合成装置を使用し、RinkアミドまたはKnorr樹脂(負荷量=0.4mmole/g)上で、標準的なFmoc固相化学により、樹脂に結合した遊離アミンペプチドを合成した。標準的なFmocアミノ酸(および4−ペンテン酸)(5等量)を、HBTU(4.9等量)により、6%のDIPEA/NMP溶液中で15分間、活性化し、樹脂に結合した遊離アミンに添加した。得られた混合物を60分間撹拌した。カップリング効率は、ニンヒドリン試験で監視した。NMPに溶解した20%のピペリジンで処理することにより(2×20分)、Fmoc基を脱保護した。樹脂を含有しているビス−オレフィンペプチドを、DMFおよびDCMのそれぞれでしっかりと洗浄し、真空下で一晩乾燥した。
【0103】
樹脂に結合したビス−オレフィン上でのマイクロ波を使った閉環複分解反応は、Chapman and Arora,"Optimized Synthesis of Hydrogen−bond Surrogate Helices: Surprising Effects of Microwave Heating on the Activity of Grubbs Catalysts,"Org.Lett.8:5825−8(2006)(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように、ジクロロエタンに溶解したホベイダ−グラブス触媒(0.15等量)を使って行った。反応混合物に、最大出力250W、120℃、ランプ時間5分、および10分維持、の設定で照射した。樹脂に結合したペプチドを、切断用混合液(CF
3CO
2H:H
2O:トリイソプロピルシラン、95:2.5:2.5)で1.5時間処理することで樹脂から切断し、その後逆相HPLCで精製した。
【0104】
本発明のペプチドのいくつかを、液体クロマトグラフィー−質量分析法(「LCMS」)で試験した。LCMSのデータはAgilent 1100シリーズの装置を使って得た。LCMSの結果を表2に示す。
【0105】
(表2)ペプチド1〜12の質量分析の結果(LC/MSD(XCT)エレクトロスプレートラップ)
【0106】
表2において、
#はリシンおよびグルタミン酸残基間のラクタム架橋を表し、
*は、[M]
2+を、
**は[M]
3+を表す。
【0107】
以下に示す、蛍光標識した型の本発明の例示的なHBSペプチドも調製した。
【実施例2】
【0108】
円二色性分光法
図9に示すCDスペクトルは、温度調節器を備えたAVIV 202SF CD分光計で、1mm長のセルを使用し、5nm/分のスキャン速度で記録した。10回スキャンしたスペクトルを、試料に使用したのものと同様の条件から減算した基準値で平均した。試料を10%のトリフルオロエタノールを含有する0.1×リン酸緩衝食塩水(13.7mMのNaCl、1mMのリン酸塩、0.27mMのKCl、pH7.4)、この時のペプチドの最終濃度は50〜100μM、の中で調製した。折り畳まれていないペプチドの濃度は、6.0Mグアニジン塩酸塩水溶液中、276nmでのチロシン残基のUV吸収により決定した。各ペプチドのヘリックス含有量は、アミノ酸の数について補正された222nmにおける平均残基CD、[θ]
222(deg cm
2 dmol
−1)から決定した。らせん性パーセントは、比[θ]
222/[θ]
maxから計算した。式中、[θ]
maxは(−44000+250T)(1−k/n)、kは4.0、およびnは残基の数である。HBSヘリックスのθ
maxの計算に関する詳細については、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Wang et al.,"Evaluation of Biologically Relevant Short α−Helices Stabilized by a Main−chain Hydrogen−bond Surrogate,"J.Am.Chem.Soc.128:9248−56(2006)を参照されたい。
【実施例3】
【0109】
蛍光偏光法で決定した、Rasタンパク質に対するペプチドの親和性
N末端His
6タグ化Ras
1−166に対するペプチドの相対的な親和性を、フルオレセインで標識したSOSペプチドである、7
uncon−Flu、HBS7−FluおよびHBS7
mut−Fluを使って、蛍光偏光法に基づく結合アッセイによって決定した。偏光実験は、DTX880マルチモード検出器(Beckman)を使用し、25℃で、励起および放出波長をそれぞれ485および525nmとして行った。試料は全て、96ウェルプレート内で、0.1%プルロニックF−68(Sigma)中で調製した。濃度を徐々に高くした(0nm〜750μM)Ras
1−166タンパク質を、Ras
1−166透析緩衝液に溶解したフルオレセイン標識SOSペプチド(15nM)溶液に加えることにより、飽和結合曲線を得た。この結合曲線から得られたIC
50値を式(1)に当てはめ、Sos/Ras
1−166複合体の解離定数(K
D)を計算した。各ペプチドに関して報告した結合親和性(K
D)の値は、3回の独立した実験の平均値であり、実験データを、GraphPad Prism 4.0のS字型用量−反応非線形回帰モデルに当てはめることによって決定したものである。結果を
図10に示す。
K
D1=(R
T×(1−F
SB)+L
ST×F
SB2)/F
SB−L
ST (1)
式中、
R
TはRas
1−166タンパク質の総濃度であり、
L
STはSos蛍光ペプチドの総濃度であり、
F
SBは、結合したSos蛍光ペプチドの画分である。
【実施例4】
【0110】
本発明のペプチドによる、Sos介在性グアニンヌクレオチド交換活性の阻害に関するアッセイ
mantGDPを使ったヌクレオチド交換アッセイを、Ahmadian et al.,2002、およびMargarit et al.,2003に記載されているように行った。簡単に説明すると、精製したRas(ヒトHa−Rasの1番目から166番目の残基)を、モル等量のmantGDPと共に、4mMのEDTA存在下で、交換緩衝液(20mMのTris[pH7.4]、50mMのNaCl)中でインキュベートした。反応を14mMのMgCl
2で停止させた。1μMのRas・mantGDPを、25μMのペプチド、5μMのSos−Catおよび100μMの未標識GDPを添加した反応緩衝液(20mMのTris[pH7.4]、14mMのMgCl
2、および50mMのNaCl)中でインキュベートすることによって、ヌクレオチドの解離速度を測定した。データを、Prism(GraphPad Software Inc.)プログラムを使って、単一の指数関数的減衰関数に当てはめた。結果を
図4に示す。
【実施例5】
【0111】
本発明のペプチドによるRas/Sosの阻害に関するGSTアッセイ
GST−Ras融合タンパク質(1μM)、Hisタグ化Sosタンパク質(1μM)および表示した量のHBS7を1mlの結合緩衝液(20mMのTris(pH7.6)、50mMのNaCl、1mMのジチオスレイトール、5mMのEDTA、および1%のトリトンX−100)に加え、4℃で30分間インキュベートした。インキュベートした後、結合緩衝液にグルタチオン−セファロース4Bビーズを再懸濁した1:1スラリーを60μlずつ、各試料に加えた。試料をさらに20分間、4℃でインキュベートした。次いで、ビーズをペレット状にし、結合緩衝液で5回洗浄し、その後、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動用の試料緩衝液に再懸濁した。タンパク質をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、ニトロセルロースに移した。ウェスタンブロットを抗His抗体および抗GST抗体で探索し、SosおよびRasをそれぞれ検出した。結果を
図6に示す。
【実施例6】
【0112】
Ras活性化アッセイ
RBDプルダウンアッセイを、Boykevisch S, Zhao C, Sondermann H, Philippidou P, Halegoua S, Kuriyan J, Bar−Sagi D."Regulation of ras signaling dynamics by Sos−mediated positive feedback"Curr Biol.2006 Nov 7;16(21):2173−9に記載されているように、および本明細書に記載したように行った。GST−Raf−RBD融合タンパク質を、0.5mMのイソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトピラノシド(IPTG)で5時間誘導することによって大腸菌(E.coli)内で発現させた。細胞溶解物をグルタチオンアガロースビーズと共に1時間、4℃でインキュベートすることで、発現した融合タンパク質を単離した。HeLa細胞をコンフルエントに達するまで、血清飢餓状態で4時間成長させ、次いで75μMのペプチドと共にさらに12時間インキュベートした。SosCat−CAAX(HRasのCAAXボックスを含むSosCat)を使った実験用には、飢餓の24時間前に、HeLa細胞をHAタグ化SosCAAXで形質転換した。細胞を表示したペプチドで12時間処理し、その後刺激した。10ng/mlのEGFを使い、表示した間隔、37℃で刺激した後、細胞を、RBD溶解緩衝液(25mMのTris−HCl(pH7.4)、120mMのNaCl、10mMのMgCl2、1mMのEDTA、10%のグリセロール、10mg/mlのペプスタチン、50mMのNaF、1%のアプロチニン、10mg/mlのロイペプチン、1mMのNa3VO4、10mMのベンズアミジン、10mg/mlのダイズトリプシン阻害剤、1%のNP40、および0.25%のデオキシコール酸ナトリウム含有)中で溶解した。次いで溶解物を、アガロースビーズに固定した組換えGST−Raf−RBD(20μg)と、1.5時間、4℃でインキュベートした。複合体を遠心分離によって回収し、RBD溶解緩衝液で6回洗浄した。結合したタンパク質をSDS試料緩衝液で溶出し、SDS−12.5%PAGEで分離し、ニトロセルロース膜に移した。タンパク質をSosCatCAAXに対する抗HA(12CA5;1:10,000)一次抗体または抗Ras10(Millipore;1:10,000)一次抗体と、Alexa Fluor 680ヤギ抗マウス(Molecular Probes、1:10,000)二次抗体と共にブロッティングし、Odyssey Infrared Imaging System(LiCor)で可視化することによって検出した。結果を
図8に示す。
【実施例7】
【0113】
EGFRおよびErk活性化アッセイ
マイトゲン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)シグナル伝達経路は、広く分布している、真核細胞の制御機構である(
図6)。MAPKは、細胞代謝、運動生、生存、アポトーシス、および分化などの活性の制御に関わっている。SosによるRasの活性化はこのシグナル伝達経路の開始と強く結びついており、最終的に、IEG(最初期遺伝子、immediately early gene)プロモーター中の血清応答配列によって制御される遺伝子など、様々な遺伝子の発現を誘導する。Erkおよび/またはEGFRの活性化阻害能を決定するアッセイで、ペプチドを試験した。細胞を、上述したように、並びに、Boykevisch S, Zhao C, Sondermann H, Philippidou P, Halegoua S, Kuriyan J, Bar−Sagi D."Regulation of ras signaling dynamics by Sos−mediated positive feedback"Curr Biol.2006 Nov 7;16(21):2173−9およびXu L, Lubkov V, Taylor LJ, Bar−Sagi D."Feedback regulation of Ras signaling by Rabex−5−mediated ubiquitination"Curr Biol. 2010 Aug 10;20(15):1372−7(これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されているように、処理、および溶解した。ERK2およびリン酸化したERKの総レベルを、それぞれ、抗ERK2(Upstate Biotechnology、1:1,000)抗体およびホスホ−ERK1/2(Cell Signaling、1:1,000)抗体を使って検出した。ERKのリン酸化レベルをOdysseyソフトウェアで定量し、ERKの総発現に対して正規化した。EGFRおよびpEGFRのレベルは、抗EGFR(Santa Cruz Biotech)抗体およびpEGFR pY1068(Cell Signaling)抗体とブロッティングすることによって検出した。結果を
図8に示す。
【実施例8】
【0114】
細胞取り込みアッセイ
HeLa細胞をコンフルエントに近い(サブコンフルエントの)状態で、10%FBSを添加したDMEMを入れた、ガラス底の96ウェルプレートに播種した。翌日、培地を、表示したように1μMフルオレセイン(5−FAM)のみを添加した、またはフルオレセインタグ化ペプチドを添加した培地と交換した。12時間後、細胞を温PBSで2回洗浄し、Zeiss Axiovert 200M顕微鏡で直接観察した。
【実施例9】
【0115】
NMR実験
His6−Ras(1〜166)およびSos−Cat(564〜1049)の発現。His6タグ化HRas(残基1〜166)およびHis6タグ化SosCat(残基550〜1050)は、両方ともpProEx HTb発現ベクターに入っており、これらを、OD600=1.0に相当する細胞密度で、500μMのIPTGで誘導することにより、大腸菌(Escherichia coli、BL21)内で発現させた。ペレットを、緩衝液(20mMのTris、pH7.6、200mMのNaCl、2.5mMのMgCl2、2μMのフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、1%のアプロチニン、10μg/mlのロイペプチン、10mMのベンズアミジン、10μg/mlのダイズトリプシン阻害剤、および10μg/mlのぺプスタチン含有)に再懸濁し、Branson Cell Disrupter 200を使って超音波処理した。ポリヒスチジンタグ化タンパク質を含む清澄化した溶解物を、帯電したニッケル樹脂(Invitrogen)と共に4℃で1時間インキュベートした。樹脂を、50mMのイミダゾールを含む再懸濁緩衝液で5回洗浄した。タグ化タンパク質を、200mMのイミダゾールを含む20mMのTris(pH7.6)、200mMのNaClを含む緩衝液で溶出した。溶出したタンパク質を、Hisタグ化SosCatの場合には、20mMのTris(pH7.6)および200mMのNaClを含む緩衝液に対して、およびHisタグ化Rasの場合には20mMのTris(pH7.6)、200mMのNaClおよび1mMのMgCl2を含む緩衝液に対して透析した。溶出されたタンパク質を、5,000kD分子量で分画するAmicon超遠心カラム(Millipore)を使って濃縮した。精製したタンパク質を液体N2中で素早く凍結し、さらに使用するまで−80℃で保存した。
【0116】
1H−
15N HSQC NMR実験用には、His−Ras構築物を有するBL21細胞を、37℃で、窒素
15の唯一の供給源として
15NH
4Clを添加したM9培地中で生育させた。O.D.が1.0の時点で、500μMのIPTGを使用し、16℃で16時間、タンパク質の生産を誘導した。タンパク質の精製および濃縮は、実施例5と同様に行った。His6タグ化Rasを組換えHis6タグ化タバコEtchウイルス(TEV)プロテアーゼ(Invitrogen)と共に、製造業者によるプロトコールに従って、一晩、4℃でインキュベートすることによって、His
6タグを除去した。チャージ済みのNiNTAアガロースカラムに試料を負荷すると、タグが除去されたタンパク質はフロースルー画分に回収された。均一に
15Nで標識されたRasを、アミコン超遠心フィルター(Millipore)を使い、NMR緩衝液(20mMのNa2HPO4−NaH2PO4、pH5.5、150mMのNaCl、10mMのMgCl2)に対して緩衝液交換し、10%のD
2Oを添加した。凍結探針を備えた900MHzの、Bruker 4チャンネルNMRシステムを使用して30℃でデータを収集し、BioSpinソフトウェア(Bruker)で分析した。スイッチ領域および非スイッチ領域の残基に対応する様々な共鳴の
1Hおよび
15N核に関して観察された、平均化学シフトの差(ΔδNH)を算出した。NMR実験の結果を
図5に示す。
【実施例10】
【0117】
ペプチドの設計
野生型のSos
929−944α−H配列を起点として、Ras/Sosの阻害剤を設計した。HBSペプチドの溶解度を改善するために、さらに修飾を導入した。Ras結合に含まれない位置に、帯電している残基を導入した。Ras/Sos複合体の2つの個別の結晶構造(PDBコード:1NVWおよび1BKD)について、コンピューターを使ってアラニンスキャニングを行い、α−Hヘリックスに含まれていて、ペプチド模倣物に組み込むことができる、他の重要な結合残基を決定した。加えて、野生型のα−H配列に含まれる非必須β−分岐残基(トレオニンなど)を好適な残基と置き換え、ヘリックス含量のより高いペプチドを得た(表1)。これは、そのような修飾がα−らせん性を向上させるだろうと仮定されたためである。
【0118】
本発明の好ましい実施形態を本明細書に示し記載してきたが、そのような実施形態がほんの一例として提供されていることは当業者には明白であろう。当業者は本発明を逸脱することなく、多くの変形実施形態、変更実施形態、および置換実施形態を思いつくであろう。本発明を実施するにあたって、本明細書に記載されている本発明の実施形態の様々な代替策を用いることができることが理解されるべきである。下記の特許請求の範囲が本発明の範囲を定義し、これら特許請求項の範囲に含まれる方法および構造ならびに均等物は、特許請求の範囲によって保護されるものと解釈される。