【0011】
以下、本発明の電気防食用バックフィルについて説明する。
図1には、本発明のバックフィルを鉄筋コンクリート構造物の流電陽極方式による電気防食に使用した例として、本発明のバックフィルの一実施形態であるバックフィル12を備えた、コンクリート構造物の電気防食構造10が示されている。電気防食構造10は、
図1に示す通り、鉄筋コンクリート構造物20中の鋼材21(鉄筋)に防食電流を流す電気防食用電極11(陽極)と、電極11とコンクリート構造物20との間に介在配置されたバックフィル12と、電極11及び鋼材21それぞれから延びるリード線13を接続箱14内にて結線してなる電気的接続手段とを備えている。コンクリート構造物20中における鋼材21の近傍には参照電極17が設置され、参照電極17と接続されているリード線13が接続箱14まで引き込まれていることにより、鋼材21の電位を測定してモニタリング可能になされている。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、斯かる実施例に制限されない。
【0022】
〔実施例1〕
ベントナイトとセメントとをミキサーで混合して混合粉末Aを調製した。ベントナイトとして豊洋ベントナイト鉱業(株)製ベントナイト250メッシュを用い、セメントとして(株)トクヤマ製普通ポルトランドセメントを用いた。別途、塩化マグネシウム(6水和物)に水を加え撹拌して塩化マグネシウム水溶液Bを調製した。そして、混合粉末Aと塩化マグネシウム水溶液Bとをミキサーで混練して、目的とするバックフィルを調製した。こうして得られた実施例1のバックフィルにおける各成分の含有量は次の通り。ベントナイト43質量%、塩化マグネシウム(6水和物)23質量%、セメント11質量%、水23質量%。
【0023】
〔比較例1〕
従来使用されているベントナイト系バックフィルの混合粉末に水を加えて練り、比較例1のバックフィルを調製した。ベントナイトとして豊洋ベントナイト鉱業(株)製ベントナイト250メッシュを用いた。こうして得られた比較例1のバックフィルにおける各成分の含有量は次の通り。ベントナイト32質量%、塩化マグネシウム(6水和物)19質量%、石膏9質量%、水40質量%。
【0024】
<施工性(塗布時間及び塗布ムラ)の評価>
陽極板として500×1000mm、厚さ1mmの平面視矩形形状の6枚の亜鉛陽極板を用いた。この6枚の亜鉛陽極板それぞれの一面の全体に、評価対象のバックフィルを塗布後の厚みが10mmとなるように塗布し、バックフィル層を形成した。6枚の陽極板全ての一面にバックフィルを塗布するのに要した時間(塗布時間)を計測した。また、各バックフィル層の表面状態(塗布ムラの有無)を目視により評価した。
【0025】
バックフィルの塗布時間は、セメントを含む実施例1で約10分、セメントを含まない比較例1で約30分であり、実施例1は、塗布時の適度な流動性により、塗布時間を比較例1の1/3程度に短縮することができた。また、バックフィル層の表面の目視観察において、実施例1は塗布ムラなく良好であったが、比較例1は塗布ムラが多少発生し、且つ塗布ムラのコントラストが大きく目立ち、表面状態は好ましいものではなかった。
【0026】
<陽極の性能試験(陽極電位の測定及び発生電気量の算出)>
コンクリート構造物として、格子状に組んで配筋した直径φ13mmの鉄筋をかぶり厚さ37mm、ピッチ100mmの間隔で内部に有する、鉄筋コンクリート(100×200×300mm)を用い、この鉄筋コンクリートの表面に、評価対象のバックフィルからなる厚み10mmのバックフィル層を介して、アルミニウム陽極板(1×180×280mm)を固定し、
図1に示す如き構成のコンクリート構造物の電気防食構造を作製した。作製した電気防食構造を用い、その鉄筋コンクリート中の鉄筋を対極として10mA/m
2の定電流電解を行った。参照電極にはMMO電極を用いて鉄筋コンクリート中に埋設し、陽極電位を経時的に測定した。その結果を
図2に示す。また、通電の開始前及び終了後それぞれにおけるアルミニウム陽極板の質量を測定し、その質量の減少量から発生電気量を算出した。
【0027】
図2に示したように、実施例1のバックフィルを用いた場合の陽極電位は、比較例1のバックフィルよりも変化幅が小さく、長期間の使用においても安定した陽極性能を維持していた。このことから、バックフィルにセメントを含有させることは、バックフィルの施工性のみならず、電気的性能の向上、特に陽極電位の長期安定性にも有効であることがわかる。
【0028】
また、実施例1のバックフィルを用いた場合の発生電気量は762A・hr/kg、比較例1のバックフィルを用いた場合の発生電気量は389A・hr/kgであったことから、実施例1は、比較例1に比して発生電気量の値が大きく陽極性能が優れていることがわかる。
【0029】
<アノード分極試験>
図3には、アノード分極試験の装置構成が示されている。中空円筒状の試験槽50の中空部に、直径90mm、高さ130mmの中空円筒状のステンレス鋼からなる対極51を配置し、該対極51の中空部に評価対象の流動性を有するバックフィル52を流し込み、さらに該バックフィル52における試験槽50の中心部に、亜鉛99.995質量%以上の棒状の亜鉛陽極53を、その長手方向一端部がバックフィル52から突出するように埋め込んだ。棒状の亜鉛陽極53は、その長手方向他端部寄りの表面積20.1cm
2の側面視矩形形状部分のみが、亜鉛の露出部53Aとされ、該露出部53Aよりも長手方向他端部側がゴムキャップ54で被覆され、長手方向一端部側がビニルテープ55で被覆されている。また、バックフィル52中で亜鉛陽極53(露出部53A)の近傍に、銀・塩化銀電極からなる参照電極56を埋め込んだ。試験槽50の外部に電位掃引装置57、ポテンショスタット58、記録計59を配置し、これらと試験槽50内の各部とをリード線で接続した。
アノード分極試験は、対極51にバックフィル52を流し込んでから1時間経過後に掃引速度20mV/minの条件で行った。また、アノード分極試験は、評価対象のバックフィル52の外表面をラップ(非通気性の樹脂製フィルム)で覆うことにより水分の逸散を防いだものと、外表面をラップで覆わないで外部に開放したものとの2条件で行った。その結果を
図4に示す。
【0030】
図4に示したように、実施例1のバックフィルを用いた場合は、電気防食で通常使用される最大の電流密度である30mA/m
2(陽極面積当たり)を越えた電流値に対しても、陽極電位が比較例1のバックフィルを用いた場合と比較して低く且つ一定であり、陽極性能は良好であった。このことから、バックフィルにセメントを含有させることは、バックフィルの施工性のみならず、電気的性能の向上、特に電気防食に必要な起電力(陽極と鋼材との電位差)の増大にも有効であることがわかる。