特許第6239994号(P6239994)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユシロ化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239994
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】難燃性作動液組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 173/02 20060101AFI20171120BHJP
   C10M 107/34 20060101ALN20171120BHJP
   C10M 105/18 20060101ALN20171120BHJP
   C10M 105/14 20060101ALN20171120BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20171120BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20171120BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20171120BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20171120BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20171120BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20171120BHJP
【FI】
   C10M173/02
   !C10M107/34
   !C10M105/18
   !C10M105/14
   C10N20:00 A
   C10N30:00 Z
   C10N30:06
   C10N30:08
   C10N40:04
   C10N40:08
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-22773(P2014-22773)
(22)【出願日】2014年2月7日
(65)【公開番号】特開2015-147904(P2015-147904A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2016年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000115083
【氏名又は名称】ユシロ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】細川 真幸
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−145791(JP,A)
【文献】 特表2012−501371(JP,A)
【文献】 特開2001−072991(JP,A)
【文献】 特公昭60−053079(JP,B2)
【文献】 特開平02−189393(JP,A)
【文献】 特開平02−120398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00−177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1質量%水溶液における曇点が20℃以下のポリオキシアルキレングリコール、
(B)水、
(C)前記(A)及び前記(B)に対する両親媒性グリコールである炭素数が2−70のグリコール(但し、前記(A)を除く)、を含むことを特徴とする難燃性作動液組成物。
【請求項2】
前記(A)は、これを構成するオキシアルキレン単位の全量を100質量%とした場合に、90質量%を超えるオキシプロピレンを含む請求項1記載の難燃性作動液組成物。
【請求項3】
前記(A)、前記(B)及び前記(C)の合計を100質量%とした場合に、前記(B)の含有割合が10〜35質量%である請求項1又は2に記載の難燃性作動液組成物。
【請求項4】
前記(A)、前記(B)及び前記(C)の合計を100質量%とした場合に、前記(A)の含有割合が20〜65質量%である請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の難燃性作動液組成物。
【請求項5】
前記(A)、前記(B)及び前記(C)の合計を100質量%とした場合に、前記(C)の含有割合が25〜60質量%である請求項1乃至4のうちのいずれかに記載の難燃性作動液組成物。
【請求項6】
前記(A)は、これを構成するオキシアルキレン単位の全量を100質量%とした場合に、オキシエチレンの割合が10質量%未満である請求項1乃至5のうちのいずれかに記載の難燃性作動液組成物。
【請求項7】
前記(C)として、炭素数4−10である脂肪族グリコール及び/又は、炭素数が4−10であるポリオキシアルキレングリコールを含む請求項1乃至6のうちのいずれかに記載の難燃性作動液組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性作動液組成物に関する。更に詳しくは、本発明は、難燃性、潤滑性及び廃水処理性を並立させることができる難燃性作動液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
作動液は、産業機械を駆動するための油圧装置等において動力伝達媒体として広く利用されている。そして基油の成分によって大別され、主として、水グリコール系作動液、脂肪酸エステル系作動液、W/O型乳化系作動液等が知られている。
このうち、水グリコール系作動液は、水を含むことによって優れた難燃性を発揮できる。しかしながら、水とグリコール成分との簡便な分離がしにくく、廃水のCOD値が高くなる傾向にあり、環境負荷の観点からデメリットを有している。
また、脂肪酸エステル系作動液は、脂肪酸エステル自体が可燃性の液体であり、利用に際して消防法上の制約があり、管理及び取扱いの観点からデメリットを有している。
更に、W/O型乳化系作動液は、水を含むことにより難燃性であるものの、他の作動液に比べて潤滑性能が劣っており、潤滑性の観点からデメリットを有している。
このように何れの作動液もメリットとデメリットとを抱えており、ユーザーは使用環境に応じて、使い分ける必要があるのが現状である。このため、より広い範囲で適用できる作動液が求められている。
これらの作動液のなかでは、難燃性を優先する場合、水グリコール系作動液が比較的広く利用される傾向にある。水グリコール系作動液に関する技術としては、下記特許文献1及び特許文献2が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−271890号公報
【特許文献2】特開2004−107388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1には、グリコール・ポリアルキレングリコール・水の三成分系作動液に対してポリオキシエチレン脂肪酸エステルを添加して潤滑性を向上させる技術が開示されている。しかしながら、特許文献1では、廃水処理性の向上技術については何ら検討されておらず、ポリアルキレングリコールとしても水溶性ポリアルキレングリコールのみしか開示がない。
一方、上記特許文献2には、ポリオキシアルキレングリコールのリン酸エステル誘導体を含んで凝集処理可能な作動液が開示されている。高い難燃性、高い潤滑性及び凝集処理特性を有する優れた作動液である。しかしながら、上記リン酸エステル誘導体としては、オキシエチレン単位を多く含み水溶性を有した成分しか利用されていない。この観点から、更に効果的にCOD値の低減を図ることができるとともに、高い難燃性及び高い潤滑性をも並立させた新たな難燃性作動液組成物が求められている。
【0005】
本発明は、上述実情に鑑みてなされたものであり、高度な難燃性、高度な潤滑性を有しながら、主たる潤滑成分を水から容易に分離できるという優れた廃水処理性が並立された新規な難燃性作動液組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のとおりである。
〈1〉請求項1の難燃性作動液組成物は、(A)1質量%水溶液における曇点が20℃以下のポリオキシアルキレングリコール、(B)水、(C)前記(A)及び前記(B)に対する両親媒性グリコールである炭素数が2−70のグリコール(但し、前記(A)を除く)、を含むことを特徴とする。
〈2〉請求項2の難燃性作動液組成物は、請求項1の難燃性作動液組成物において、前記(A)が、これを構成するオキシアルキレン単位の全量を100質量%とした場合に、90質量%を超えるオキシプロピレンを含むことを要旨とする。
〈3〉請求項3の難燃性作動液組成物は、請求項1又は2の難燃性作動液組成物において、前記(A)、前記(B)及び前記(C)の合計を100質量%とした場合に、前記(B)の含有割合が10〜35質量%であることを要旨とする。
〈4〉請求項4の難燃性作動液組成物は、請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の難燃性作動液組成物において、前記(A)、前記(B)及び前記(C)の合計を100質量%とした場合に、前記(A)の含有割合が20〜65質量%であることを要旨とする。
〈5〉請求項5の難燃性作動液組成物は、請求項1乃至4のうちのいずれかに記載の難燃性作動液組成物において、前記(A)、前記(B)及び前記(C)の合計を100質量%とした場合に、前記(C)の含有割合が25〜60質量%であることを要旨とする。
〈6〉請求項6の難燃性作動液組成物は、請求項1乃至5のうちのいずれかに記載の難燃性作動液組成物において、前記(A)は、これを構成するオキシアルキレン単位の全量を100質量%とした場合に、オキシエチレンの割合が10質量%未満であることを要旨とする。
〈7〉請求項7の難燃性作動液組成物は、請求項1乃至6のうちのいずれかに記載の難燃性作動液組成物において、前記(C)として、炭素数4−10である脂肪族グリコール及び/又は、炭素数が4−10である脂肪族グリコール及び/又はポリオキシアルキレングリコールを含むことを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の難燃性作動液組成物によれば、高度な難燃性と、高度な潤滑性と、を有しながら、更に、主たる潤滑成分を水から容易に分離できるという優れた廃水処理性が並立された難燃性作動液組成物とすることができる。
(A)が、これを構成するオキシアルキレン単位の全量を100質量%とした場合に、90質量%を超えるオキシプロピレンを含む場合には、廃水処理性において特に優れた難燃性作動液組成物とすることができる。
(A)、(B)及び(C)の合計を100質量%とした場合に、(B)の含有割合が10〜35質量%である場合には、難燃性及び廃水処理性において特に優れた難燃性作動液組成物とすることができる。
(A)、(B)及び(C)の合計を100質量%とした場合に、(A)の含有割合が20〜65質量%である場合には、廃水処理性及び潤滑性において特に優れた難燃性作動液組成物とすることができる。
(A)、(B)及び(C)の合計を100質量%とした場合に、(C)の含有割合が25〜60質量%である場合には、濁り温度が高く、液安定性に優れた難燃性作動液組成物とすることができる。
(A)が、これを構成するオキシアルキレン単位の全量を100質量%とした場合に、オキシエチレンの割合が10質量%未満である場合には、とりわけ廃水処理性に優れた難燃性作動液組成物とすることができる。
(C)として、炭素数4−10である、脂肪族グリコール及び/又はポリオキシアルキレングリコールを含む場合には、高い濁り温度を維持しながらCOD値の低い難燃性作動液組成物とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明の難燃性作動液組成物は、
(A)成分として、1質量%水溶液における曇点が20℃以下のポリオキシアルキレングリコール、(B)成分として水、(C)成分として、(A)成分及び(B)成分に対する両親媒性グリコール、を含むことを特徴とする。
【0009】
上記「(A)」は、1質量%水溶液における曇点が20℃以下のポリオキシアルキレングリコール(以下、単に「(A)成分」ともいう)である。この曇点が20℃以下のポリオキシアルキレングリコール(以下、単に「POA」ともいう)を用いることで、20℃を超える温度域では本組成物内から凝集剤により(A)成分を凝集して除去できる。従って、本組成物を用いた廃液処理では、凝集処理によって(A)成分相当のCOD値を低下させることができる。
【0010】
曇点は、水(冷水)にPOAを溶解してPOAが1.0質量%の濃度で含まれた水溶液を調整する。そして、この1.0質量%POA水溶液の液温を徐々に昇温させて白濁する温度である。本発明で用いる(A)成分の曇点は20℃以下である。曇点が20℃以下であることにより、水に溶け難い性質が強くなり、凝集処理により容易に分離することができる一方、曇点が20℃を超えると、水に溶け易い性質が強く、凝集処理しても分離が困難であり好ましくない。この曇点は20℃以下であればよいが、19℃以下が好ましく、15℃以下がより好ましい。通常、この曇点は0℃以上である。
【0011】
(A)成分は、オキシアルキレン単位{−(R−O)−、但し、Rは、アルキレン基である}を主鎖とする重合体であり、その曇点は、(A)成分を構成するオキシアルキレン単位の種類や、2種以上のオキシアルキレン単位を有する共重合体では、その重合形態がランダム型であるか又はブロック型であるかにより調整される。更には、全オキシアルキレン単位中に占めるオキシエチレンの割合や、分子量等によって調整される。
【0012】
(A)成分を構成するオキシアルキレン単位としては、オキシエチレン、オキシプロピレン、オキシブチレン等を用いることができ、なかでもオキシエチレンの割合が少ないPOAが好ましい。オキシエチレンが少ないPOAからは、曇点が低いPOAを得ることができる。
具体的には、(A)成分を構成するオキシアルキレン単位の全量を100質量%とした場合に、オキシエチレン(オキシエチレン基)の割合は10質量%未満であることが好ましい。この割合は、0〜7質量%がより好ましく、0〜5質量%が更に好ましく、0〜3質量%が特に好ましい。オキシエチレンの割合が0質量%である(A)成分としては、ポリオキシプロピレングリコール(プロピレンオキシドの単独重合体)、ポリオキシブチレングリコール(ブチレンオキシドの単独重合体)等が挙げられる。
更には、(A)成分を構成するオキシアルキレン単位の全量を100質量%とした場合に、オキシプロピレン(オキシプロピレン基)の割合は90質量%を超えることが好ましい。この割合は、93〜100質量%がより好ましく、95〜100質量%が更に好ましく、97〜100質量%が特に好ましい。
【0013】
(A)成分の分子量は特に限定されないが、重量平均分子量(Mw)が1500以上であることが好ましく、1900以上がより好ましい。通常、重量平均分子量(Mw)は20000以下である。更には、重量平均分子量(Mw)が3000以上である(A)成分のみを用いることができ、特に重量平均分子量(Mw)が3500以上の(A)成分のみを用いることができる。
尚、上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションカラムクロマトグラフィー(GPC)によるポリエチレングリコール(PEG)換算による。
【0014】
本組成物内における(A)成分の割合は特に限定されないが、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計を100質量%とした場合に、(A)成分の含有割合は20〜65質量%であることが好ましい。この範囲では、特に廃水処理性及び潤滑性の両面において優れた難燃性作動液組成物とすることができる。(A)成分の含有量は、25〜55質量%がより好ましく、26〜50質量%が更に好ましく、28〜47質量%が特に好ましい。
【0015】
上記「(B)」は、水(以下、「(B)成分」ともいう)である。(B)成分にはどのような水を用いてもよい。この(B)成分の割合は特に限定されないが、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計を100質量%とした場合に、(B)成分の含有割合は10〜35質量%であることが好ましい。10質量%以上であることにより優れた難燃性を実現できる。この水分量は、13〜33質量%がより好ましく、15〜30質量%が更に好ましく、18〜28質量%が特に好ましい。
【0016】
上記「(C)」は、(A)成分と(B)成分との両方の成分に対して親和性を示す両親媒性グリコール(以下、「(C)成分」ともいう)である。即ち、(C)成分は、(A)成分と(B)成分とを互いに相溶化することができる成分である。
このような(C)成分としては、各種両親媒性グリコールを用いることができ、具体的には、炭素数2−70のグリコールが好ましく、なかでも、炭素数2−70の脂肪族グリコールがより好ましい。即ち、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、ヘキシレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジグリセリン、トリメチロールプロパン、ヘプタンジオール、オクタンジオール、トリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール(但し、(A)成分を除くPOA)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、n−型であってもよく、i−型であってもよい。
これらの(C)成分は、(A)成分と(B)成分と(C)成分とが混合されることで均質な液状となればよく、例えば、(C)成分は難水溶性の成分であってもよいが、水溶性であることが好ましい。即ち、水溶性のグリコールであることが好ましい。
【0017】
これらのなかでは、特に、炭素数が4−10である脂肪族グリコール、及び/又は、炭素数が4−10であるPOAが含まれていることが好ましい。これらを用いることで、濁り温度を60℃以上に維持することができる。具体的には、ヘキシレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジグリセリン、トリメチロールプロパン、オクタンジオール、トリプロピレングリコール及びPOAが好ましく、更には、ヘキシレングリコール、オクタンジオール、POAが好ましい。即ち、(C)成分として、少なくともヘキシレングリコール、オクタンジオール及びPOAのうちのいずれかが含まれていることが好ましく、更には、ヘキシレングリコールが含まれていることが特に好ましい。
これらのなかでも、更に、炭素数が5−9の脂肪族グリコール及び/又はPOAが含まれていることが好ましく、とりわけ、炭素数が5−7の脂肪族グリコール及び/又はPOAが含まれていることが好ましい。
【0018】
更に、上述のヘキシレングリコールは、どのような構造であってもよく、例えば、1.6−ヘキシレングリコール、1,2−ヘキシレングリコール、2,3−ヘキシレングリコール、2,5−ヘキシレングリコール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、2−メチル−2,4−ペンタンジオールが特に好ましい。
【0019】
更に、(C)成分が、水溶性を呈する場合、水溶性の程度は、100mL(100g)の水(20℃)に対する溶解量が5g以上であることが好ましい(溶解量の上限は特に限定されないが、例えば1000g)。この水溶性は、更に、同様の溶解量が10g以上500g以下であることがより好ましく、25g以上300g以下であることが特に好ましい。
また、特にヘキシレングリコールを用いる場合、(C)成分全体を100質量%とした場合に、ヘキシレングリコールは50〜100質量%含まれることが好ましく、特に55〜100質量%であることが好ましい。
【0020】
上述のように(C)成分としてPOAを用いる場合、(C)成分としてのPOAには、前述の(A)成分としてのPOAは含まれない。即ち、(C)成分としてのPOAは、1質量%水溶液における曇点が20℃を超えるPOAである。(C)成分としてPOAを用いる場合には、曇点が20℃以上(通常、100℃以下)のPOAが好ましく、曇点が25〜100℃のPOAがより好ましく、曇点が30〜100℃のPOAが特に好ましい。この(C)成分として用いられるPOAは、前述の(A)成分としてのPOAと同様にその曇点を調整することができる。
(C)成分を構成するオキシアルキレン単位としては、オキシエチレン、オキシプロピレン、オキシブチレン等を用いることができ、なかでも、オキシエチレン及び/又はオキシプロピレンを含むPOAが好ましい。
【0021】
この(C)成分の割合は特に限定されないが、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計を100質量%とした場合に、(C)成分の含有割合は25〜60質量%であることが好ましい。この割合は、27〜56質量%がより好ましく、30〜52質量%が更に好ましく、32〜48質量%が特に好ましい。
【0022】
本難燃性作動液組成物では、(A)成分、(B)成分及び(C)成分が各々含まれていればよいが、本難燃性作動液組成物全体を100質量%とした場合に、(A)成分、(B)成分及び(C)成分は合計で50〜100質量%含まれることが好ましい。この割合は、60〜100質量%がより好ましく、75〜100質量%が更に好ましく、90〜100質量%が特に好ましい。
即ち、本難燃性作動液組成物に(A)成分、(B)成分及び(C)成分以外の他の成分が含まれる場合は、50質量%未満であることが好ましく、0質量%を超えて40質量%未満がより好ましく、0質量%を超えて25質量%未満が更に好ましく、0質量%を超えて10質量%未満が特に好ましい。
【0023】
本難燃性作動液組成物に含有させることができる他成分としては、有機酸、アミン化合物、金属防食剤、アルカリ化剤、pH調整剤、キレート剤、安定化剤、消泡剤、色素及びその他任意の添加剤を必要に応じて配合できる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0024】
他成分のうち、有機酸としては、脂肪族カルボン酸化合物及び芳香族カルボン酸化合物が挙げられ、脂肪族カルボン酸化合物が好ましく、更には、炭素数が6〜22の脂肪族カルボン酸化合物が好ましい。また、脂肪族カルボン酸化合物の骨格は分枝されていてもよく分枝されていなくてもよい。また、不飽和結合を有してもよく有さなくてもよい。更には、モノカルボン酸であってもよく、ジカルボン酸であってもよく、それ以上のポリカルボン酸であってもよい。このような脂肪族カルボン酸化合物としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の不飽和脂肪酸等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
有機酸を用いる場合、その配合量は本難燃性作動液組成物全体100質量%に対して0.1〜5.0質量%であることが好ましく、0.5〜3.0質量%がより好ましい。
【0025】
アミン化合物としては、モルホリン、メチルモルホリン、エチルモルホリン、ジブチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N−メチルアミノエタノール、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルアミノエタノール、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルアミノエタノール、N,N−ジエチルアミノエタノール、N,N−ジブチルアミノエタノール、アミノメチルプロパノール、モノプロパノールアミン、ヒドロキシエチルピペラジン、2−メチルピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、2,6−ジメチルピペラジン等の有機アミン及びその誘導体があげられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
アミン化合物を用いる場合、その配合量は本難燃性作動液組成物全体100質量%に対して0.1〜5.0質量%であることが好ましく、0.5〜2.0質量%がより好ましい。
【0026】
金属防食剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物及びメルカプトベンゾチアゾール系化合物等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。このうちベンゾトリアゾール系化合物としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、5−メチルベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
金属防食剤を用いる場合、その配合量は本難燃性作動液組成物全体100質量%に対して0.01〜5.0質量%であることが好ましく、0.05〜2.0質量%がより好ましい。
【0027】
アルカリ化剤としては、上述のアミン化合物に加えて、無機アルカリ化合物を用いることができる。即ち、例えば、アルカリ金属化合物が挙げられる。このアルカリ金属化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
また、安定化剤としては、ノニオン界面活性剤を用いることができ、なかでもHLBが10以下のノニオン界面活性剤が好ましい。
【0028】
本難燃性作動液組成物の諸性能は特に限定されないが、通常、引火点を示すことはない。また、その動粘度は30〜60mm/s(JIS K2283に準拠した温度40℃における動粘度)であることが好ましい。この動粘度は、更に、32〜58mm/sがより好ましく、34〜55mm/sが更に好ましい。この範囲では、難燃性作動液組成物としての潤滑性に適しており、また、配管等に対する抵抗値や電飾消費量の観点からも適している。
【0029】
また、濁り温度は、温度60℃を超えることが好ましい。即ち、60℃以下の範囲で組成物が安定しており、成分分離されないものであることが好ましい。濁り温度が60℃を超える組成物は40〜50℃以下の温度範囲での利用に適する。
本発明の難燃性作動液組成物は、曇点が20℃以下である(A)成分を利用するため、凝集処理によって(A)成分を除去することができる。この点において、環境負荷低減の観点から好ましい難燃性作動液組成物となっている。特に本組成物ではCOD値を30万mgO/Lに抑えることができる。
【0030】
更に、潤滑性は、後述する実施例の測定方法においてポンプ摩耗量が100mg以下であることが好ましい。このポンプ摩耗量は、更に、90mg以下とすることができ、特に80mg以下とすることができ、とりわけ70mg以下とすることができる。
また、pH(25℃における)はアルカリ性であることが好ましく、具体的には、7を超えて11以下であることが好ましく、8〜10がより好ましく、8.5〜9.5が特に好ましい。
【0031】
更に、COD値は、後述する実施例の方法と同様に測定した場合に、30万mgO/L以下とすることができる。また、COD値は、更に、20万〜30万mgO/Lとすることができ、特に20万〜29万mgO/Lとすることができる。
【0032】
本発明の難燃性作動液組成物は、凝集処理を介して、その廃液のCOD値を低減することができる。具体的には、難燃性作動液組成物を、含まれている(A)成分の曇点以上の温度に加熱したうえで、凝集処理剤を添加して、(A)成分を凝集させ、得られた凝集物を濾別することで、COD値を低減できる。
この凝集処理で用いる凝集処理剤の種類は特に限定されないが、無機凝集剤及び/又は有機高分子凝集剤を利用できる。このうち、無機凝集剤としては、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、硫酸第1鉄、塩化第2鉄、ポリ塩化アルミニウム等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、有機高分子凝集剤としては、
ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸塩、ポリエチレンイミン硫酸塩等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
尚、凝集処理に際して、沈降分離させてもよく、加圧浮上させてもよく、その他の方法を用いてもよい。
【0033】
以上のように、本発明の難燃性作動液組成物では、(A)成分を増粘剤として機能させて、この(A)成分として難水溶性のPOAを用いている。これにより、凝集処理を可能として廃液処理性を向上させている。即ち、本難燃性作動液組成物では、廃液処理性の向上によって、通常、廃液処理前に比べて廃液処理前後の化学的酸素要求量は1/2程度にまで低減することができる。
更に、難燃性のPOAを可溶化するために両親媒性グリコールを用いている。このため、作動液の低粘度化を実現できる。即ち、難水溶性POAは、W/O型乳化系作動液で使用されている鉱油に比べて粘度が高く、潤滑膜を強固にすることができる。そして、その分低粘度化が容易であり、高圧ポンプ等への適用が可能となっている。即ち、W/O型乳化系作動液に比べて低粘度且つ潤滑性に優れた作動液とすることができる。また、本難燃性作動液組成物は水を含む。そのため、通常、引火点を示さず、消防法上の制約を受けずに利用できる。
このように、本発明の難燃性作動液組成物によれば、水グリコール系作動液、脂肪酸エステル系作動液、W/O型乳化系作動液のそれぞれ欠点を軽減し、利用環境からの影響を受け難い作動液とすることができる。そして、これらの各種の作動液を使用している条件下で設備改修等を要することなく、本難燃性作動液組成物を代替させて利用することができ、上述の従来の各々の作動液における懸念事項を軽減することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[1]難燃性作動液組成物の調製
(A)成分として下記表1に示すPOA−1〜POA5のPOA(ポリオキシアルキレングリコール)を用いた。また、(C)成分として下記表2に示す各種両親媒性グリコールを用いた。これらの(A)成分と、(B)成分としての水と、(C)成分とを表2及び表3に示す割合で混合して、実施例1〜12及び比較例1〜3の難燃性作動液組成物を調製した。
【0035】
【表1】
尚、表1内に記載のEOはオキシエチレン(基)を表し、POはオキシプロピレン(基)を、表す。
【0036】
【表2】
尚、表2内の記載の(C)成分としてのPOA−6の特性については、表1に記載の通りである。
【0037】
【表3】
【0038】
[2]性能評価
上記[1]で調製した難燃性作動液組成物の性能を、下記の項目について評価した。
(1)動粘度
JIS K2283に準拠して、温度40℃における動粘度(mm/s,40℃)を測定し、表2及び表3に示した。
【0039】
(2)濁り温度
得られた実施例1〜12及び比較例1〜3の各組成物を徐々に加温した際に外観が濁り始める温度(℃)を濁り温度として、表2及び表3に示した(尚、各組成物を徐々に冷却してゆき外観が透明になる温度として測定してもよい}。
【0040】
(3)引火点
JIS K2265−4に準拠して引火点を求め、表2及び表3に示した。
【0041】
(4)COD値
実施例1〜12及び比較例1〜5の各組成物を用いて、1質量%水溶液のCOD調整用試料を調製した。得られた各COD測定試料400mlに対して、10質量%濃度の硫酸バンドを40ml、0.1質量%の有機系高分子凝集剤を0.4ml、添加して10分間撹拌した。更に、この各試料に中和剤としてKOH水溶液を添加してpHを7.0−7.5に調整して30分間撹拌した。その後、この各試料を1時間以上静置した後、5A濾紙を用いて濾過した濾液を回収した。この間、処理液温は23−27℃の範囲に維持した。
これまでに得られた濾液を、JIS K0102の17.[100℃における過マンガン酸カリウムによる酸素消費量(COD Mn)]に準処して、COD値の測定を行った。即ち、各濾液に、硝酸銀溶液及び硫酸を加えた後、5mmol/Lの過マンガン酸カリウム溶液を加えて沸騰水中で30分間加熱し、消費された過マンガン酸カリウムの量を酸素当量として測定した。得られた結果を表2及び表3に示した。
【0042】
(5)摩耗量
実施例1〜12及び比較例1〜3の各難燃性作動液組成物を、ベーンポンプ(株式会社トキメック製、形式「V−104C」)の作動液として用い、このベーンポンプを回転数1500rpm、試験圧14MPa、液温45−50℃の各条件下で250時間作動させた。その後、ベーンポンプのベーン及びカムリング摩耗量を測定した。その結果を表2及び表3に示した。
また、比較例1〜3に加えて、比較例4として水グリコール系作動液(ユシロ化学工業株式会社製、品名「ユシロンルビックHFC43」)を用いて同様の測定を行い、更に、比較例5として脂肪酸エステル系作動液を用いて同様の測定を行い、各々の摩耗量を表3に示した。
【0043】
尚、本発明では、上述した実施例に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形または変更が可能である。
また、本発明には含まれないものの、本発明の難燃性作動液組成物では、本組成物に含まれる(A)成分の一部又は全部をポリオキシアルキレングリコールのアルキルエステル誘導体や、アルキルエーテル誘導体に置換することができる。しかしながら、例えば、アルキルエステル誘導体は、加水分解のおそれがあるため好ましくない。この点において、本発明の難燃性作動液組成物で用いる(A)成分は、その問題がないため好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の難燃性作動液組成物は、難燃性の作動液として広く利用される。具体的には、各種の、油圧装置、建設機械、射出成形機、工作機械等において好適に使用される。その他、ギヤ油等の工業用潤滑剤としても使用される。