(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
カーボンコンポジット製のコア線と、前記コア線を被覆するアルミニウム被覆とを有するコアケーブルを複数本撚り合わせたコアと、前記コアの周囲に撚り合わされる、複数の円形もしくは扇形のアルミニウム製の導電線とを含み、
前記コアは、アルミニウム被覆コンポジット線を複数本撚り合わせた中に、AC(Aluminum-clad
steel wire)線を混ぜ合わせたことを特徴とする、架空送電線。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ACCCケーブルやACCRケーブルは、鋼心アルミニウム撚り線(Aluminum Conductor Steel Reinforced)ケーブル(以下、ACSRケーブルと称す)の鋼心アルミニウム撚り線に対して軽量・高強度なコンポジット材のコアを使用することで、鋼心の細径化と、導体アルミニウムの面積(断面積)の増大を図ったコンポジット電線である。
【0005】
ACCCケーブルは、FRP系コンポジット材のコアを採用しており、FRP系コンポジット材は、例えば、強化繊維としてカーボン繊維、マトリックスとしてエポキシ樹脂等を用いている。
【0006】
ACCRケーブルは、メタル系コンポジット材のコアを採用しており、メタル系コンポジット材は、例えば、強化繊維としてアルミナ繊維、マトリックスとしてアルミニウムを用いている。
【0007】
FRP系コンポジット材の繊維体積率は50〜70%程度であり、メタル系コンポジット材の繊維体積率は40〜60%程度である。
【0008】
FRP系コンポジット材は、密度が小さく、引張強さが高いという傾向の性質を有する。FRP系コンポジット材とメタル系コンポジット材の伸びは1%〜1.5%程度であり、例えば、ACSRケーブルに用いられている特強鋼線のような金属部材と比較すると、伸びが小さいという弱点がある。
【0009】
また、FRP系コンポジット材の密度は約1.6であり、引張強さは2160MPa程度であり、ACSRケーブルに用いられている特強鋼線のような金属部材と比較して、比強度が高い。また、メタル系コンポジット材の密度は3.29、引張強さは1380MPa程度であり、比強度は比較的低い。
【0010】
ACCCケーブルは、中心に1本のカーボンコンポジット材が配置され、その周囲には軟アルミニウム製の導体が撚られている。架線状態では、軟アルミニウム製の導体がクリープにより応力を分担しなくなることから、1本のカーボンコンポジット材が全張力を分担する。
【0011】
仮に架線後、カーボンコンポジット材の表面に亀裂が入った場合には、亀裂箇所に応力が集中する。特に、着雪時のギャロッピング及び台風時のバフェッティング等により異常な張力が発生した場合には、カーボンコンポジット材の表面の亀裂箇所から破断が発生し、最終的に撚り線が全破断して地上に落下するおそれがある。
【0012】
さらに、ACCCケーブルの中心に太径の1本のカーボンコンポジット材のコアが配置される場合には、金車通過時に太径のカーボンコンポジット材の表面で発生する伸びは大きくなる。カーボンコンポジット材のコアの表面で発生する伸びが大きい程、カーボン繊維(炭素繊維)に亀裂のような損傷が生じる確率は高くなる。
【0013】
また、ACCRケーブルは、中心にメタルコンポジット(アルミナ繊維+アルミニウムマトリックス)製の複数本の撚り線が配置されている。このような構造にすることで、ACCCケーブルのように1本の太径のカーボンコンポジット材のコアが全張力を分担するリスクを低減できる。
【0014】
しかしながら、メタル系コンポジット線の引張強さは1380MPa程度であり、カーボンコンポジット材の引張強さ(2160MPa)と比較して小さい。引張強さが小さいと、コンポジット材の細径化を図ることができず、コンポジット材の周囲に配置されるアルミニウム製の導体の面積(断面積)を十分に確保できない。
【0015】
また、メタル系コンポジット線の伸びは約1%であり、カーボンコンポジット線の伸び(約1.5%)に対して小さい。このため、金車通過時に過張力が加わると、メタル系コンポジット線は、カーボンコンポジット線よりも断線する確率が高くなる。
【0016】
さらに、ACCRケーブルのメタルコンポジット製の複数の撚り線は、テープでバインドされているのみであり、各々の撚り線の表面では繊維が露出しているため、繊維が損傷しやすい。
【0017】
また、上述のような問題を解決するにあたっては、新たな製造設備及び製造管理方法を用いることなく、既存の製造設備及び製造管理方法を用いることができることが望ましい。
【0018】
そこで、既存の製造設備及び製造管理方法で製造でき、強度および交流電気抵抗の大幅な改善を図った架空送電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の実施の形態の架空送電線は、カーボンコンポジット製のコア線と、前記コア線を被覆するアルミニウム被覆とを有するコアケーブルを複数本撚り合わせたコアと、前記コアの周囲に撚り合わされる、複数の円形もしくは扇形のアルミニウム製の導電線とを含
み、コアはアルミ被覆コンポジット線とAC(Aluminum-clad steel wire)線
を混ぜ合わせたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
既存の製造設備及び製造管理方法で製造でき、強度の大幅な改善を図った架空送電線を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の架空送電線を適用した実施の形態について説明する。
【0023】
<実施の形態>
図1は、実施の形態の架空送電線100を示す斜視図である。
図2は、実施の形態の架空送電線100を示す断面図である。
図2に示す導体120の形状は扇形であるが、円形もしくは円形と扇形の組み合わせでもよい。
図3は、
図2に示す架空送電線100のコア110の断面を拡大して示す図である。
【0024】
架空送電線100は、コア110と導体120を含む。
図1には、架空送電線100の構成を分かり易くするために、2層構造の導体120をコア110に対して段階的に除去した状態を示す。
【0025】
コア110は、7本、19本など複数本のコアケーブル111を撚り合わせた構成を有する。たとえば、7本のコアケーブル111は、中心に位置する1本のコアケーブル111の周りに、6本のコアケーブル111を撚り合わせることによって作製される。
【0026】
コアケーブル111は、コア線112と被覆部113とを有し(
図3参照)、コア線112の外周を長手方向に沿って被覆部113で覆った構成を有する。コア線112は、カーボンコンポジット製であり、被覆部113はアルミニウム製である。なお、コア線のカーボンコンポジットの一部は、鋼としてもよい。
【0027】
導体120は、コア110の外周を覆う導電線121と、導電線121の外周を覆う導電線122とを有する。導電線121は、コア110の外周に撚り合わされている。各導電線121は、螺旋状にコア110の外周に巻回されており、導電線121がコア110の外周を隙間なく覆っている。
【0028】
また、導電線122は、導電線121の外周に撚り合わされている。各導電線122は、導電線121とは逆の巻き方で螺旋状に導電線121の外周に巻回されている。導電線122は、導電線121の外周を隙間なく覆っている。
【0029】
導電線121及び122は、ともに硬アルミニウム製である。硬アルミニウムとは、金属材料としてのアルミニウムそのものであり、硬アルミニウムを焼き鈍した軟アルミニウムとは異なる。
【0030】
次に、
図4乃至
図14を用いて、実施の形態の第1実施例の架空送電線100について説明する。
【0031】
図4は、実施の形態の実施例1による架空送電線100A、100Bと、比較用の架空送電線10Aの断面構造を示す図である。
図5は、実施の形態の実施例1による架空送電線100A、100Bと、比較用の架空送電線10Aの設計諸元を示す図である。
【0032】
架空送電線100Aと100Bは、導電線122の断面形状が異なる以外は、互いに同様の構成を有する。架空送電線100A及び100Bの導体120の断面積は、ともに209sqである。
【0033】
なお、架空送電線100Aの導電線122の角部の曲率半径r1、r2は1.2mmであり、架空送電線100Bの導電線122の角部の曲率半径r3、r4は、1.8mm、0.3mmである。角部に適切な曲率半径rを有することで、低風圧化を達成することが
できる。
【0034】
比較用の架空送電線10Aは、ACSR/ACタイプの架空送電線であり、コア11Aと導体12Aを含む。ACSR(Aluminum Conductor Steel Reinforced)は、鋼心アルミニウム撚り線であることを意味し、導体12Aがアルミニウム製の撚線であることを表す。また、AC(Aluminum-clad steel wire)は、コア11Aの7本のコアケーブル1Aの各々が、鋼心をアルミニウムのクラッドで被覆したものであることを表す。コア11Aは、中央の1本のコアケーブル1Aの周りに6本のコアケーブル1Aを撚り合わせた構成を有する。
【0035】
導体12Aの断面形状は円形であり、内側の12本の導体12Aと、外側の18本の導体12Aとの二層構造になっている。内側の12本の導体12Aは、コア11Aの外周に撚り合わされている。外側の18本の導体12Aは、内側の12本の導体12Aの外周に撚り合わわれている。
【0036】
架空送電線100Aと100Bは、比較用の架空送電線10Aのコア11Aのコアケーブル1Aのコア線を鋼鉄製からカーボンコンポジット製に変更したものである。
【0037】
架空送電線100A及び100Bのコア110の線外径はφ7.8mm、コアケーブル111の外径はφ2.6mmである。コアケーブル111は、カーボンコンポジット製のコア線112(φ1.8mm)の周囲に、厚さ0.4mmのアルミニウム製の被覆部113を連続押し出しによって形成したものである。なお、アルミニウムの被覆厚さは、既存の製造設備において0.1mm〜0.6mmの範囲で調整できる。
【0038】
また、比較用の架空送電線10Aのコア11Aの線外径はφ7.8mmであり、コアケーブル1Aの外径はφ2.6mmである。コアケーブル1Aは導電率が20%(20AC)であり、直径φ2.26の鋼鉄製のコア線の周囲に、厚さ0.17mmのアルミニウム製の被覆部を連続押し出しによって形成したもものである。
【0039】
すなわち、架空送電線100Aと100Bのコア110のコアケーブル111の外径と、比較用の架空送電線10Aのコア11Aのコアケーブル1Aの外径とは等しい。
【0040】
なお、
図5におけるコアの面積比は、架空送電線100Aと100Bについては、架空送電線100Aと100Bの断面積(全面積A)に対するコア110の断面積(7本のコアケーブル111の合計の断面積As)の比である。また、比較用の架空送電線10Aについては、比較用の架空送電線10Aの断面積(全面積A)コア11Aの断面積(7本のコア11Aの合計の断面積As)の比である。
【0041】
全面積比ηは、比較用の架空送電線10Aについては、比較用の架空送電線10Aの断面積(全面積A)に対する、架空送電線100Aと100Bの断面積(全面積A)の比率である。
【0042】
また、架空送電線100Aと100Bは、比較用の架空送電線10Aの断面形状が円形の導体12Aを、断面形状が扇形の導体120に変更した構成を有する。
【0043】
このように、断面形状が円形の導体12Aから、断面形状が扇形の導体120に変更することにより、実施例1による架空送電線100A、100Bは、導体120の面積が拡大されている。
【0044】
上述したように、架空送電線100A及び100Bの導体120の断面積は、ともに209sqであり、これは、比較用の架空送電線10Aの導体12Aの断面積である160sqから約30%程度増大されている。
【0045】
このようにして、架空送電線100A及び100Bは、比較用の架空送電線10Aに対して、伝送する電力の低損失化を図っている。
【0046】
なお、コア面積As、コア弾性係数Es、コア線膨張係数αs、直流電気抵抗R、直流電気抵抗比%、直流抵抗減100−Rr(DC)、最小引張荷重UTS、コア最小引張荷重UTS(ST)、電線重量W、電線重量比Wr、コア外径Ds、電線外径D、電線外径比Dr、電線温度tf、Rdc×β1、交流電気抵抗比、交流抵抗減、電流容量I、弛度d、弛度比drについては
図5に示す通りである。
【0047】
また、全面積比ηは、架空送電線100A、100Bと架空送電線10Aの面積比であり、A(100A)/A(10A)、A(100B)/A(10A)で求まる。また、β1は表皮効果係数であり、交流電気抵抗比は、架空送電線100A、100BのRdc×β1と、比較用の架空送電線10AのRdc×β1との比である。
【0048】
比較用の架空送電線10Aの連続許容電流である484Aの電流を流したときの架空送電線100A及び100Bの交流抵抗減は27%であり、大幅な低ロス化が図られている。比較用の架空送電線10Aに連続許容電流である484Aの電流を流したときの電線温度は90℃であり、架空送電線100A及び100Bの電線温度は約80℃である。
【0049】
架空送電線100Aと比較用の架空送電線10Aを鉄塔間距離が400mの径間に架線して、連続許容電流484Aを流した場合には、架空送電線100Aの弛度は16.14mであり、比較用の架空送電線10Aの弛度は16.15mである。架空送電線100Aの弛度は、比較用の架空送電線10Aに対して同等以下となる。
【0050】
架空送電線100A及び100Bのコア110のコアケーブル111の密度は2.18であるのに対して、比較用の架空送電線10Aのコア11Aのコアケーブル1Aの密度は6.53である。
【0051】
従って、架空送電線100A及び100Bは、比較用の架空送電線10Aに対して電線重量増を伴わずに、外径を若干大きくすることで、アルミニウム導体の断面積を160sq(導体12A)から209sq(導体120)まで増大させることができた。
【0052】
なお、架空送電線100A及び100Bの外径はφ19mm、電線重量は0.6621kg/mである。一方、比較用の架空送電線10Aの外径はφ18.2mm、電線重量は0.6854kg/mである。
【0053】
図6は、実施の形態の実施例2による架空送電線100C、100Dと、比較用の架空送電線10Bの断面構造を示す図である。
図7は、実施の形態の実施例2による架空送電線100C、100Dと、比較用の架空送電線10Bの設計諸元を示す図である。
【0054】
架空送電線100Cと100Dは、導電線122の断面形状が異なる以外は、互いに同様の構成を有する。架空送電線100C及び100Dの導体120の断面積は、527sqと528sqである。
【0055】
なお、架空送電線100Cの導電線122の角部の曲率半径r5、r6は、1.9mmであり、架空送電線100Bの導電線122の角部の曲率半径r7、r8は、3.0mm、0.3mmである。角部に適切な曲率半径rを有することで、低風圧化を達成することができる。
【0056】
比較用の架空送電線10Bは、ACSR/ACタイプの架空送電線であり、コア11Bと導体12Bを含む。
【0057】
比較用の架空送電線10Bは、比較用の架空送電線10A(
図4(C)参照)とは、サイズが異なるだけで構成は同様である。比較用の架空送電線10Bの導体12Bの断面積は410sqである。
【0058】
架空送電線100Cと100Dは、比較用の架空送電線10Bのコア11Bのコアケーブル1Bのコア線を鋼鉄製からカーボンコンポジット製に変更したものである。
【0059】
架空送電線100C及び100Dのコア110の線外径はφ9.0mm、コアケーブル111の外径はφ3.0mmである。コアケーブル111は、カーボンコンポジット製のコア線112(φ2.2mm)の周囲に、厚さ0.4mmのアルミニウム製の被覆部113を連続押し出しによって形成したものである。
【0060】
また、比較用の架空送電線10Bのコア11Bの線外径はφ10.5mmであり、コアケーブル1Bの外径はφ3.5mmである。
【0061】
コアケーブル1Bは導電率が23%(23AC)であり、直径φ2.92の鋼鉄製のコア線の周囲に、厚さ0.29mmのアルミニウム製の被覆部を連続押し出しによって形成したものである。
【0062】
なお、
図7におけるコアの面積比は、架空送電線100Cと100Dについては、架空送電線100Cと100Dの断面積(全面積A)に対するコア110の断面積(7本のコアケーブル111の合計の断面積As)の比である。また、比較用の架空送電線10Bについては、比較用の架空送電線10Bの断面積(全面積A)コア11Bの断面積(7本のコア11Bの合計の断面積As)の比である。
【0063】
全面積比ηは、比較用の架空送電線10Bの断面積(全面積A)に対する、架空送電線100Cと100Dの断面積(全面積A)の比率である。
【0064】
また、架空送電線100Cと100Dは、比較用の架空送電線10Bの断面形状が円形の導体12Bを、断面形状が扇形の導体120に変更した構成を有する。
【0065】
このように、断面形状が円形の導体12Bから、断面形状が扇形の導体120に変更することにより、実施例2による架空送電線100C、100Dは、導体120の面積が拡大されており、導体120の断面積は527sqである。これは、比較用の架空送電線10Bの導体12Bの断面積である410sqから約30%程度増大されている。
【0066】
このようにして、架空送電線100C及び100Dは、比較用の架空送電線10Bに対して、伝送する電力の低損失化を図っている。比較用の架空送電線10Bの連続許容電流である871Aを流したときの、架空送電線100C及び100Dの交流抵抗減は20.8%であり、実施例1の架空送電線100A及び100Bと同様に大幅な低損失化が図られている。
【0067】
なお、コア面積As、コア弾性係数Es、コア線膨張係数αs、直流電気抵抗R、直流電気抵抗比%、直流抵抗減100−Rr(DC)、最小引張荷重UTS、コア最小引張荷重UTS(ST)、電線重量W、電線重量比Wr、コア外径Ds、電線外径D、電線外径比Dr、電線温度tf、Rdc×β1、交流電気抵抗比、交流抵抗減、電流容量I、弛度d、弛度比drについては
図7に示す通りである。
【0068】
また、全面積比ηは、架空送電線100C、100Dと送電線10Bの面積比であり、A(100C)/A(10B)、A(100D)/A(10B)で求まる。また、β1は表皮効果係数であり、交流電気抵抗比は、架空送電線100A、100BのRdc×β1と、比較用の架空送電線10BのRdc×β1との比である。
【0069】
比較用の架空送電線10Bに連続許容電流である871Aの電流を流したときの電線温度は90℃であり、架空送電線100C及び100Dの電線温度は約83℃である。
【0070】
架空送電線100Cと比較用の架空送電線10Bを鉄塔間距離が400mの径間に架線して、連続許容電流871Aを流した場合には、架空送電線100Cの弛度は15.96mであり、比較用の架空送電線10Bの弛度は16.06mである。架空送電線100Cの弛度は、比較用の架空送電線10Bに対して同等以下となる。
【0071】
架空送電線100C及び100Dのコア110のコアケーブル111の密度は2.12であるのに対して、比較用の架空送電線10Bのコア11Bのコアケーブル1Bの密度は6.27である。
【0072】
従って、架空送電線100C及び100Dは、比較用の架空送電線10Bに対して電線重量増を伴わずに、外径を若干大きくすることで、アルミニウム導体の断面積を410sq(導体12B)から527sq(導体120)まで増大させることができた。
【0073】
なお、架空送電線100C及び100Dの外径はφ28.55mm、電線重量は1.566kg/mである。一方、比較用の架空送電線10Bの外径はφ28.5mm、電線重量は1.569kg/mである。
【0074】
図8は、実施例1の架空送電線100Aと100Bで使用されるカーボンコンポジット製のコア線112(φ1.8mm)の応力−伸び特性を示す図である。なお、実測値は、カーボンコンポジット製のコア線112(φ1.8mm)に歪みゲージを取り付けて測定した。
【0075】
図8に示すように、カーボンコンポジット製のコア線112(φ1.8mm)の引張強さ実測値は2500MPa以上であり、伸び実測値は約2%である。このように、応力−伸び特性が示す弾性係数は設計値と略一致している。
【0076】
図9は、実施例1の架空送電線100Aと100Bで使用されるカーボンコンポジット製のコア線112(φ1.8mm)の引張強さヒストグラム(
図9(A))とワイブルプロット(
図9(B))を示す図である。ワイブルプロットによれば、累積確率1%での引張強さは2663MPaである。従って、実施例1の架空送電線100Aと100Bで使用されるカーボンコンポジット製のコア線112(φ1.8mm)の最小引張強さは2500MPa以上である。
【0077】
図10は、実施例1の架空送電線100Aと100Bで使用される部材の曲げ特性を示す図である。
図10には、実施例1の架空送電線100Aと100Bで使用されるカーボンコンポジット製のコア線112(φ1.8mm)と、コア110(φ7.8mm)との曲げ特性を示す。また、
図10には、比較用に、1本のカーボンコンポジット(φ7.8mm)の曲げ特性を示す。
【0078】
1本のカーボンコンポジット(φ7.8mm)が曲げ破断に至る曲げ半径は200mmである。一方、コア線112(φ1.8mm)とコア110(φ7.8mm)が曲げ破断に至る半径はともに45mmである。コア110(φ7.8mm)は、7本撚り線にすることで、同一外径の1本のカーボンコンポジット(φ7.8mm)に比べて、許容曲げ半径を小さくすることができる。
【0079】
図11は、架空送電線100A(209sq)と架空送電線100C(527sq)の引張荷重チャートを示す図である。
図11(A)には架空送電線100A(209sq)の引張荷重チャートを示し、
図11(B)には架空送電線100C(527sq)の引張荷重チャートを示す。
【0080】
図11に示す引張荷重チャートでは、特異な変異点は認められず、引張荷重実測値は209sqの規格値71.6kN以上、527sqの規格値137kN以上を示している。その他、弾性係数、線膨張係数などの実測値は、すべて設計値どおりであった。
【0081】
図12は、架空送電線100A(209sq)と架空送電線100C(527sq)の弛度特性を示す図である。
図12(A)には架空送電線100A(209sq)の弛度特性を示し、
図12(B)には架空送電線100C(527sq)の弛度特性を示す。なお、弛度試験時の電線温度実測値は、3本の熱電対の平均温度で示す。
【0082】
図12(A)及び(B)に示すように、架空送電線100A(209sq)と架空送電線100C(527sq)の弛度実測値は遷移点を考慮した計算値以下であり、良好な特性を示している。
【0083】
架空送電線100A(209sq)と架空送電線100C(527sq)は、比較用の架空送電線10A(160sq)及び10B(410sq)に対して低損失化を達成するために、外径が若干大きくなっている。
【0084】
架空送電線100A(209sq)の外径がφ19mmであるのに対して、比較用の架空送電線10A(160sq)の外径はφ18.2mmである。すなわち、架空送電線100A(209sq)の外径増加率は4.4%となる。
【0085】
また、架空送電線100C(527sq)の外径がφ28.55mmであるのに対して、比較用の架空送電線10B(410sq)の外径はφ28.5mmである。架空送電線100C(527sq)の外径増加率は0.2%となる。
【0086】
架空送電線の外径増加は風圧増加を伴うことから、架空送電線100A(209sq)と架空送電線100C(527sq)に低風圧化構造を採用した。
【0087】
なお、
図4に示す架空送電線100Aについては、架空送電線100Aの導電線122の角部の曲率半径rは1.2mmであり、
図6に示す架空送電線100Cでは、導電線122の角部の曲率半径rは1.9mmである。
【0088】
図13は、架空送電線100A(209sq)と架空送電線100C(527sq)の風圧測定結果を示す図である。風速40m/sにおける架空送電線100A(209sq)の抗力係数CDは0.85であるのに対して、比較用の架空送電線10A(160sq)の抗力係数CDは0.92である。
【0089】
架空送電線100A(209sq)の架空送電線10A(160sq)に対する抗力係数CDの低減率は7.6%である。架空送電線100A(209sq)の外径増加率は4.4%であることから、抗力係数CDの低減率は外径増加率を上回り、鉄塔設計に影響を及ぼさないことになる。
【0090】
また、風速40m/sにおける架空送電線100C(527sq)の抗力係数CDは0.73であり、比較用の架空送電線10B(410sq)の抗力係数CDは0.93である。架空送電線100C(527sq)の架空送電線10B(410sq)に対する抗力係数CDの低減率は22%である。
【0091】
架空送電線100C(527sq)の外径増加率は0.2%であることから、抗力係数CDの低減率は外径増加率を上回り、架空送電線100A(209sq)と同様に鉄塔設計に影響を及ぼさないことになる。
【0092】
また、
図13に示す架空送電線100A(209sq)及び架空送電線100C(527sq)相当の揚力係数CLは、風速に対する変動が小さく安定していることから、着雪なしで異常振動が発生する可能性はない。
【0093】
図14は、架空送電線100A(209sq)の10年間の二酸化炭素(CO
2)排出量を示す図である。二酸化炭素(CO
2)排出量の計算は、亘長(径間の水平距離)1km、電線6相分、送電線路の年平均負荷率40%、CO
2排出係数0.3kg/kWhとして行った。
【0094】
架空送電線100A(209sq)の10年間での二酸化炭素(CO
2)排出量は1260tonであり、比較用の架空送電線10A(160sq)の10年間での二酸化炭素(CO
2)排出量は1730tonである。また、比較用の架空送電線10A(160sq)のコア11Aの7本のコアケーブル1Aにアルミニウム被覆を行わないACSR型の架空送電線(160sq)の10年間での二酸化炭素(CO
2)排出量は1860tonである。
【0095】
以上より、架空送電線100A(209sq)は、10年間での二酸化炭素(CO
2)排出量について、コアケーブル1Aにアルミニウム被覆を行わない架空送電線(160sq)に対して600tonの削減が可能であり、比較用の架空送電線10A(160sq)に対して530tonの削減が可能となる。
【0096】
以上のように、実施の形態によれば、既存の製造設備及び製造管理方法で製造でき、強度の大幅な改善を図った架空送電線100A、100B、100C、100Dを提供することができる。
【0097】
なお、以上では、架空送電線100A、100B、100C、100Dの低風圧化構造として、溝122Aが形成される角部の形状を有する形態について説明したが、低風圧化構造はこのような構造に限定されるものではなく、架空送電線100A、100B、100C、100Dの表面に凹部及び/又は凸部を設けることによって風圧を低減できる構造であれば、他の如何なる構造であってもよい。
【0098】
以上、本発明の例示的な実施の形態の架空送電線について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。