特許第6240037号(P6240037)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6240037
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】カキの蓄養方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/00 20170101AFI20171120BHJP
   A01K 61/54 20170101ALI20171120BHJP
【FI】
   A01K61/00 302
   A01K61/54
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-142450(P2014-142450)
(22)【出願日】2014年7月10日
(65)【公開番号】特開2016-15947(P2016-15947A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2014年7月10日
【審判番号】不服2016-6795(P2016-6795/J1)
【審判請求日】2016年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】502110953
【氏名又は名称】株式会社ゼネラル・オイスター
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】鷲足 恭子
【合議体】
【審判長】 小野 忠悦
【審判官】 藤田 都志行
【審判官】 住田 秀弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−125670(JP,A)
【文献】 特開2009−38999(JP,A)
【文献】 大矢英紀,倉本早苗,尾西一,「カキ体内のノロウイルス浄化に関する調査研究」,石川県保健環境センター研究報告書,2008年11月,45号,50−52頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00−63/06
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋深層水を用いてカキを畜養する方法であって、水槽中のカキに対し、海水温11〜16℃で、24〜48時間、海洋深層水をかけ流して畜養を行うカキの畜養方法であって、海洋深層水のかけ流し量が、水槽の容積に相当する海洋深層水の量を一日あたり2.0〜3.0回転する量であり、水槽中に投入されたカキの占める割合が40〜80容量%である、カキの畜養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カキの畜養方法に関し、詳しくは、病原性ウイルスや細菌の汚染がない清浄性の海洋深層水をかけ流して蓄養することにより、安価に細菌やウイルスの感染リスクを減少させ、鮮度を保持したカキを提供することができる畜養方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カキを浄化するための畜養方法については、現状では、カキ個々の微生物の汚染状況の把握が不可能なことから、カキの中腸腺内から微生物を除去するために、表層水を濾過した清浄海水、または表層水を紫外線殺菌によって得られた清浄海水で一定時間蓄養する方法が行われている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−38999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これらの現状でなされている技術ではノロウイルスや細菌による汚染度の高いカキの浄化は不十分であり、その理由としては以下のことが挙げられる。
まず、表層水の清浄濾過海水を用いる場合には、担体(吸着や触媒活性を示し、他の物質を固定する土台となる物質で、砂濾過であれば、砂の事)粒子の大きさや吸着などの性質上、細菌や、特に超微小なウイルスの完全な除去は困難である。
また、表層水の紫外線殺菌海水を用いる場合には、超微小なウイルスを除去するためには、海水を高エネルギーのUV−Cで処理する必要があり、さらに、かけ流しに十分な大量の紫外線殺菌海水を得るには巨額な費用負担が伴う。加えて、このUV−C処理には、以下のような問題がある。
(1) 照射に際して、ガラススリーブの汚れ等に照射量が影響を受ける。
(2) 耐塩素性病原生物が感染性喪失後も生物としては生きており、処理水中に残存する。
(3) 紫外線照射量を直接確認することが困難である。
(4) 海水流量と速度により、紫外線照射角度・量のコントロールが必要である。
以上のように、表層水から確実な微生物フリーの浄化海水が利用できないことから、満足する浄化効果が得られていない、という問題がある。
また、これに加えて、長期にわたる蓄養は、カキの品質が損なわれる、という問題もあった。
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、ウイルスや細菌汚染の心配がなく、安全性が高く、しかも鮮度がよく栄養価が高い高品質なカキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討し、深層海洋水を用いてカキの畜養を行うことにより、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、海洋深層水を水槽中のカキに対し、海水温8〜18℃で、12〜72時間、かけ流して畜養を行うカキの畜養方法であり、また、水槽中の海洋深層水のかけ流し量は、水槽の容積に相当する海洋深層水の量を一日あたり2.0〜5.0回転する量とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の海洋深層水を用いてカキを蓄養することにより、紫外線殺菌などで処理した無菌の表層水を用いて畜養、浄化した場合と同等以上の浄化ができ、具体的には、細菌とウイルス(例えば、ノロウイルス)のリスクが99.9%に低減されるような安全性が高く、しかも、鮮度が保持されるとともに栄養価が高く、食しておいしいカキを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】海洋深層水と紫外線殺菌処理した表層水とを用いて細菌により汚染されたカキを畜養した場合の、浄化によるカキ中の細菌数の減少を示すグラフである。
図2】海洋深層水と紫外線殺菌処理した表層水とを用いて畜養した際の、浄化によるカキ中の細菌減少率を示すグラフである。
図3】海洋深層水と紫外線殺菌処理した表層水とを用いてカキを畜養した際の、TF生成量、すなわち鮮度を示すグラフである。
図4】海洋深層水と紫外線殺菌処理した表層水とを用いてカキを畜養した際の、一般栄養成分の量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は海洋深層水を用いてカキを畜養するものである。
本発明で用いる海洋深層水は、200m〜700mの深度からくみ出された海水であって、シュウ酸態窒素、リン酸態リン、ケイ素などの無機栄養塩類を含み、人間の排水や化学物質などで汚染された河川の影響を受けないため、人体に危害を加える可能性のある病原性細菌やウイルスなどの微生物が存在せず、しかも化学的にも清浄であるという特徴を有している。これに加えて、深層海水中に生息する植物プランクトンは光合成もできないため、海水表層から深層へ沈んだ無機物質は消費されずに深層水中に蓄積されている。そのため、海洋深層水にはカキの餌となる植物プランクトンを増やす無機栄養塩が豊富に含まれており、その特性が海洋深層水の「無機富栄養性」と呼ばれている。
【0009】
このような海洋深層水としては、富山県入善町、沖縄県久米島町、高知県室戸市を始めとして全国には数多くの海洋深層水取水施設が知られており、いずれの施設で取水される海洋深層水も使用することができる。このような海洋深層水はいずれも前述のように清浄性・無機富栄養性に優れており、これらの海洋深層水のいずれかを蓄養施設など実際に畜養を行う場所などを考慮して、適宜選択して使用することができる。使用にあたっては、改めて殺菌、ろ過などの必要がなく、採取した海洋深層水をそのまま、利用することができる。
【0010】
本発明は、海洋深層水の利用ということに関して、海洋深層水のもつ無機富栄養性ということについては、これまで光合成を行う植物にとっての栄養価値のみであり、海洋深層水を利用した水産物の養殖、蓄養への活用がなされていなかったが、本発明で初めて、この無機富栄養性に富んだ海洋深層水を利用することで、畜養により直接カキに対してカキの栄養価値を高めることができるとともに、鮮度を保持することができた。
【0011】
本発明で畜養に用いるカキは、国産マガキ、国産岩カキ、海外産と種類を問わずに活用が可能であり、これらのカキを用いる畜養においては、カキが有する体内濾過という特性を十分に発揮させることができる。
【0012】
本発明のカキの畜養は、カキが入っている水槽に海洋深層水を導入し、海洋深層水をかけ流すことにより行うものである。ここでいう、かけ流しとは、一度水槽に導入した海洋深層水を循環させず水槽の排水口から排水するというものであるが、これに限らず、海洋深層水を、排水口から排水せずに、水槽から溢れ出させることもできる。
【0013】
カキの畜養は、水槽中のカキに対して、海水を水槽に導入するとともに、同量の水を排出することにより行われるが、海水の導入および排水は、連続的に行っても、あるいは間歇的に行っても差し支え無い。
なお、海水の導入量および排出量を一定に制御するには、通常のポンプなどの装置を使用することができ、また、オーバーフローなどの簡便な方法を採用してもよい。
また、導入する海洋深層水には、清浄性を十分に活用するため、基本的には海洋深層水に手を加える必要はなくそのまま利用することができる。
一方、かけ流した後のカキの糞などの有機物を含んだ排水は、ろ過などの処理をして再利用することもできるが、むしろ、ナマコの養殖や藻場再生などの二次利用に用いることの方が好ましい。
【0014】
水槽中のカキは、そのまま、あるいはカキを高圧洗浄した後、水槽に投入してもよく、また、カキを単独で水槽に沈めて、あるいは、水槽の底に溜まる有機物の汚染防止の為、カゴなどの容器に入れてから畜養してもよいが、取り扱いを考慮すると、カキに付着した細菌・微生物・ウイルスで水槽中の汚染を防止するため、高圧洗浄後、底上げをして水槽中に入れ、畜養することが好ましい。
【0015】
本発明のカキの畜養を行うにあたって、海洋深層水の温度は、8〜18℃であることが好ましく、11〜16℃であることがより好ましい。海水温度が、この範囲外となると、カキの代謝に負担がかかり、体力を消耗するような傾向がある。
【0016】
また、畜養の時間は、12時間〜72時間程度とすることが好ましく、24時間〜48時間とすることがより好ましい。この範囲を外れると、浄化が不十分となったり、または身やせによる品質低下が見られるような傾向がある。
【0017】
さらに、畜養では海洋深層水は、水槽に導入されるとともに、排出され、水槽の水量は一定に保たれている。本発明では、このようにして、1日に水槽に導入される海洋深層水の全量を、水槽の量で除した値を、転換率として回転数で表し、カキの畜養における必要な海洋深層水の量、すなわちかけ流し量として規定している。畜養においてかけ流す海洋深層水の量は、一般に用いる水槽の容積に相当する海洋深層水の量に対して、一日あたり2.0〜5.0倍の量、すなわち2.0〜5.0回転する量を用いることが好ましく、2.5〜3.0倍の量、すなわち2.5〜3.0回転する量であることがより好ましい。
海洋深層水の供給量が、この範囲であると、安定した量の海洋深層水が供給され、カキが排出したウイルスや細菌が再び他のカキに取り込まれるおそれも少なくなり、効率のよい浄化、畜養ができるとともに、カキに対するストレスが無く良い水環境を維持することができる。
【0018】
また、水槽中に投入されたカキが占める割合としては、40〜80容量%程度であることが好ましく、50〜60容量%程度であることがより好ましい。この範囲であると、カキに対して十分な量の海洋深層水を供給することができ、また、生産性や取り扱い性の点でも好ましいものとなる。
例えば、3tの水槽を用いる場合には、通常、2,000〜10,000個くらいのカキを投入して畜養を行うことが好ましく、3,000〜4,000個くらいのカキで行うことがより好ましい。水槽中に占めるカキの割合が少なければ少ないほど、カキは酸素を取り込み、カキから排出された汚染物から身を守ることができるが、生産性や操作性などを考慮すると、上記の範囲とすることが好ましい。一方、水槽において水量に比してカキの占める割合が多すぎる場合には、浄化の効率が低下する傾向があるとともに、それを回避するために、かけ流し量を多くする必要があり、水槽に対する転換率を調整する必要が生じることがある。
【0019】
このかけ流し量は、カキ自体が有する海水の取り込み量が、妨げられない量として、新鮮な海洋深層水を供給することが必要であるとともに、糞などの有機物、溶存酸素濃度を確保するためにも十分な量の海洋深層水の供給が必要と考えられる。
【0020】
海洋深層水を用いて畜養する場合、紫外線殺菌処理した表層水を用いた場合に比べて、ウイルスや細菌の浄化が効率良くできるとともに、鮮度の保持に有効であり、カキの栄養価を高めることができる。
【実施例1】
【0021】
次に、実験結果により本発明をより詳しく説明する。
まず、実験1として、病原性ウイルスや細菌を含まない清浄、かつ富栄養性に富んだ海洋深層水を使用して、カキの効果的な蓄養条件を検討する。
カキを海洋深層水により畜養するための条件として、次の点についてノロウイルスに汚染されたカキが最も体内浄化を促される、畜養条件を検討する実験を行った。
(ア)微生物フリーの清浄海水である海洋深層水と紫外線殺菌処理した表層水との比較
(イ)浄化に使用する海水の流水量(換水率)の比較
(ウ)浄化に使用する海水の水温の比較
(エ)浄化時間の比較
【0022】
実験は次のようにして行った。
(1)浄化条件の設定
60Lの樽からなる水槽12個を、表層水と海洋深層水用として各々6個に分け、6個を流水量2.5回転/日(1日当たり150L入水と排水)、5.0回転/日(1日当たり300L入水と排水)の3個ずつに分けた。更に3個をそれぞれ水温11℃、16℃、23℃に設定し、合計12パターンの水槽を作成した(表1参照)。
【0023】
【表1】
【0024】
(2)ノロウイルス汚染カキの作成と浄化
(a)汚染方法
水温16℃の海洋深層水300Lが入った水槽に、ノロウイルス陽性患者の便浮遊液34ml(ノロウイルス量は34ml中に約2.1×108copyであり、約2億1千万個のウイルスが存在している)を入れて混合し、ノロウイルス汚染海水を作った。汚染海水内に含まれるノロウイルス量は、リアルタイムPCR法で測定した結果、300L中に1.7×107copy(1,700万個)と測定され、河川水やカキ養殖海域で検出されるウイルス量に比較し、高濃度の汚染海水である。その汚染海水に、海から水揚げして2日後の冷蔵保存されたカキを入れ、3時間放置しノロウイルスによるカキの汚染を行った。
【0025】
(b)浄化実験
表1に記載した12パターンの水槽にノロウイルス汚染カキを、12個体ずつカゴに入れ、水槽中(60L)に沈めた後、水槽中に海水を導入するとともに、同量の海水を排出することにより、所定の海水量でかけ流しを行い、浄化を開始して24時間、48時間、72時間後に12水槽から3個体ずつを取り出し、リアルタイムPCR法で個々体毎に検査を実施した。
なお、排水は貯水槽に留めて8時間毎に次亜塩素酸ナトリウムで殺菌後、中和剤にて処理して排水を行った。
また、上記ノロウイルスの検査は、厚生労働省認定食品登録検査機関である、一般財団法人 宮城県公衆衛生協会に依頼し、行ったものである。
【0026】
(3)実験成績
(a)カキからのノロウイルスの検出結果(実測値)を表2に示した。
【0027】
【表2】
【0028】
表2の結果から、次の事項が確認できた。
(ア)浄化条件を度外視し、浄化実験に供したカキ108個体のノロウイルス検出率は14件/108件で約13%であった。
(イ)24時間浄化後、1.0copy以上のノロウイルスが検出されたカキも認められたが、48時間以降は1.0copy未満であった。
(ウ)海洋深層水を使用した水槽1〜3のカキ27個体からは、ノロウイルスは検出されなかった。一方、同一条件の表層水(水槽7〜9)では4個体から検出された。
【0029】
(b)条件別ノロウイルス検出率
浄化流水量及び浄化温度の効果を知るために条件別に整理したときのノロウイルスの検出率を表3に示した。
【0030】
【表3】
【0031】
表3の結果から、次の事項が確認できた。
(ア)流水量による浄化効果は、2.5回転の換水率の水槽1〜3からノロウイルスは検出されず最も顕著であった。次いで同換水率の水槽7〜9では72時間後0%であった。
(イ)温度による浄化効果は、11℃設定の水槽の合計36個体中2個体(5.6%)から検出されたが、16℃と23℃水槽と比較し検出率は最も低かった。
(ウ)2.5回転のみの検出率を見ると、11℃と16℃の条件で5.6%と低い値であった。
【0032】
以上の結果より、海洋深層水を使用した換水率2.5回転/日、水温11℃がカキの体内浄化に最も適した畜養条件であることが判明した。
【0033】
(4)まとめ
(a)清浄性の高い海洋深層水により、換水率2.5回転/日で浄化され、しかもカキの品質や鮮度の低下は認められなかった。一方、海洋深層水の浄化でも換水率が5回転/日に増加した場合は浄化が不十分であった。これより、本実験によると、換水率2.5回転/日の条件が浄化に最適な流水量であることがわかる。
(b)浄化時間は、24時間浄化後に検出されたノロウイルス濃度(copy数)に比較し、48時間後に検出された濃度(copy数)は低下していたことから、浄化時間は24〜48時間が有効であることがわかる。
(c)浄化温度は、11℃で最も浄化効果が高く次いで16℃であった。これより11〜16℃が浄化効果を上げる条件であることがわかる。
【実施例2】
【0034】
次に、実験2として、実験1の浄化条件設定の実験結果を基にして、一般細菌でカキを汚染し、浄化実験を行った。
【0035】
(1)一般細菌による汚染カキの作成
カキの汚染に使用した細菌は、枯草菌を用い、具体的には、枯草菌芽胞液(菌濃度 107CFU/ml)を用いて行った。
【0036】
(2)汚染カキの調製
汚染海水の調整として、海洋深層水180Lに107CFU/mlの上記菌液4.5mlを加えた(40,000倍希釈)。
次いで、カキ80個を約180L(カキ1個あたり、2.25L)の上記の汚染海洋深層水に漬け込み、汚染開始から3時間後、24時間後、48時間後にカキ及び海水の一般細菌検査を実施し、汚染状態を確認した。これらのうち、汚染24時間後のカキ(40個)について以下の浄化試験を行った。
また、海洋深層水の替わりに紫外線殺菌処理した表層水を用いて、上記の手順を繰り返し、汚染カキを調製し、浄化試験を行った。
なお、カキ80個の内訳は、汚染確認用として汚染前のカキ、汚染3時間カキ、汚染24時間カキ、汚染48時間カキを各10個、浄化試験用として浄化畜養に供する汚染24時間カキを30個およびそれぞれの予備用として用いる10個である。また、汚染状態の試験には、それぞれ10個のカキを用いて行った。
【0037】
(3)浄化実験
浄化実験は、実験1と同様の水槽および海水導入・排水装置を用い、海洋深層水および紫外線殺菌処理した表層水中で汚染した汚染カキそれぞれ40個(浄化試験用各10個と予備用として用いる10個)を水槽に沈めて水槽中(60L)に入れ、海洋深層水と紫外線殺菌処理した表層水とを用い、実験1の結果から最適とされた、換水率2.5回転/日、および海水温16℃の条件で、かけ流しを行い畜養することにより、カキの浄化を行った。次いで、所定の時間経過後に、海洋深層水および表層水ごとに10個をそれぞれ取り出し、浄化0時間(汚染直後のカキ)とともに、浄化12時間後、24時間後、48時間後に一般細菌数の検査を実施した。
結果を表4および図1に示した。なお、表中、「<300」は検出限界以下を示す。
また、上記の細菌数の測定は、一般財団法人 宮城県公衆衛生協会に依頼し、行ったものである。
【0038】
【表4】
【0039】
表4および図1によると、海洋深層水と表層水による初期のカキの汚染度合いは異なるが、いずれにしても浄化時間が経過するとともに減少する傾向が明らかであった。
【0040】
次に、海洋深層水と表層水とでは、浄化前の細菌数が異なっていることから、浄化0時間(浄化開始前、汚染直後)の細菌数を100%とし、各浄化時間後の検査結果から細菌が減少した割合を算出し、浄化によるカキの細菌減少率を求め、結果を図2に示した。図2からもわかるように、海洋深層水と表層水とでは、浄化の効果に差が認められた。
【0041】
以上の結果から次のことがわかる。
(ア)浄化12時間後、海洋深層水では90%を超える細菌が浄化された。一方、表層水では75%の減少率で約15%の差が認められた。
(イ)浄化24時間後、海洋深層水が85%、表層水では最大の77%となったものの、8%の差があった。
(ウ)浄化48時間後では、海洋深層水で88%、表層水では69%と約20%の差が認められた。
【0042】
以上のことから、検査を行なった全ての浄化時間において、海洋深層水の細菌除去率は表層水のそれを上回り、浄化効果が優れていることがわかる。要するに、海洋深層水は、紫外線殺菌などの処理を施した表層水に比べても、同等以上の浄化性を有するものであることがわかる。
【実施例3】
【0043】
次に、実験3として、深層水による蓄養がもたらすカキの鮮度保持および栄養価の向上について検討を行った。
実験は、水槽中(60L)に40個(下記の検査用として各10個およびそれぞれの予備として用いる10個)を水槽の底に並べて入れ、紫外線殺菌処理した表層水(以下、SWと略する)と、海洋深層水(以下、DSWと略する)とをそれぞれ用いて、換水率2.5回転/日、海水温16℃の条件下で畜養した。
【0044】
(1)鮮度保持について
上記条件で48時間蓄養後と10日間蓄養後に冷蔵保管した場合のカキの性状検査(検査員5名での臭いの官能検査)を行うとともに、カキの鮮度を、カキが産生する酵素の量を測定(TF生成量試験)することで判定した。
検査検体としては、畜養後のカキを顧客に供給することを考慮し、次の場合を想定した。
(a)48H2Day:48時間蓄養後、冷蔵状態2日間保管した検体で、現状の納品状態に相当し、顧客への納品時の鮮度状態を確認するためのものである。
(b)240H0Day:10日間長期蓄養後、冷蔵庫保管なしの検体であり、10日間の畜養後の状態を確認するためのものである。
(c)240H4Day:10日間長期蓄養後、4日間の冷蔵保管した検体で、顧客に対する供給の後、生食用消費期限最終日の鮮度保持状態を確認するためのものである。
上記の性状検査(官能検査)およびTF生成量試験はいずれも、一般財団法人 宮城県公衆衛生協会に依頼して行った。なお、各試験における検体数は、それぞれ10個である。
【0045】
(1−1)TF生成量試験実施検体
TF生成量試験とは、鮮度の基準となるもので、トリフェニルテトラゾリウムホルマザン(TF)の生成量により、カキにある脱水素酵素の量を測定し、カキのエネルギー獲得手段として重要な生体酸化還元課程に関与する脱水素酵素の量により、カキの鮮度を測定するものである。具体的には、カキのエラを用いて、試料を作製し、TFの生成に基づく発色量を定量するもので、TFの生成量が多いほど鮮度が高いものとなる。結果を表5に示した。また、TFの生成量について、図3に示した。
【0046】
(1−2)性状試験
5人の検査員による視覚・嗅覚での官能検査であり、厚労省通達の具体的検査項目にしたがい検査が行われるものである。特に臭気に関しては、「固有のにおいであり、異臭がないこと」が基準とされる。結果を表5に示した。表中、性状における「正常」は、異臭がなく、外観および組織においても異常がないことを意味している。
【0047】
【表5】
【0048】
表5の結果から、海洋深層水と表層水で10日間蓄養後のカキは、性状試験において「正常」であり、大きな差は認められなかった。一方、TF生成量試験においては、冷蔵保存期間において、深層水蓄養後の鮮度保持状況は表層水のそれを上回り、鮮度保持効果が優れていることがわかる。また、48時間の畜養の場合でも、同様の結果であった。
【0049】
(2)一般栄養成分分析および塩濃度食塩相当量分析の実施
実験3と同様にして、水槽中(60L)に40個(下記の検査用として各10個およびそれぞれの予備用として用いる10個)のカキを入れ、紫外線殺菌処理を施した表層水(以下、SWと略する)と、海洋深層水(以下、DSWと略する)とをそれぞれ用いて、換水率2.5回転/日、海水温16℃の条件下で畜養した。なお、塩濃度食塩相当量については、海水温6℃の条件下でカキ30個(検査用として各10個および予備用として用いる10個)を用いて同様に畜養した。
10日間蓄養したカキについてそれぞれ一般栄養成分分析及び塩濃度食塩相当量の測定を実施した。検体数はいずれも10個である。
なお、一般栄養成分の測定は一般財団法人 日本食品分析センターに、および塩濃度食塩相当量の測定は、一般財団法人 宮城県公衆衛生協会にそれぞれ依頼して行った。結果を一般栄養成分について表6および図4に、塩濃度食塩相当量について表7にそれぞれ示した。
【0050】
【表6】
【0051】
【表7】
【0052】
表6、7および図4によると、水分以外の全ての項目において、海洋深層水蓄養後のカキの一般栄養成分が優れていることがわかる。海洋深層水は、比重でみると表層水に比べ塩分濃度が高く、これがカキの水分量に影響していると考えられた。さらに、塩濃度が高いことは味覚に反映され、より旨味が増すとされている。また、美味しい素材を旨くするために添加する塩濃度は『0.6%程度である。澄まし汁が美味しく感じられる塩の濃度は0.8%程度』であることも知られていることから、表7に示した海洋深層水により蓄養したカキの食塩相当量は0.6%〜0.7%台のものであり、最も旨味を感じる塩濃度と一致する結果であった。なお、実際に食した場合に、海洋深層水で畜養したものは、紫外線殺菌を施した表層水を用いて畜養したカキに比べて、「うまい」という評価を得ている。
【0053】
以上の今回の実験結果から、つぎのことがいえる。
海洋深層水を活用した浄化及び蓄養による実験を、紫外線殺菌処理した表層水を用いた場合と比較して実施した結果、海洋深層水は、紫外線殺菌処理した表層水と同等以上の効率をもってウイルスや細菌の浄化ができる。
海洋深層水による蓄養では、鮮度が保持されることが見出された。
海洋深層水の富栄養性がカキに一般栄養成分の優位性をもたらし、栄養価の高いカキが提供できることが見出された。
海洋深層水による畜養の結果、カキ中の塩濃度(食塩相当量)が、0.6%から0.7%台のものとなり、この塩濃度が人の味覚に影響し、食しておいしいカキが提供できることが見出された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、清浄性が高く、無機栄養物質豊富な海洋深層水を使用した蓄養により、極めて安全で栄養価値の高いカキに仕上げるものであるから、カキの畜養というカキ産業のみならず、他の水産養殖、蓄養への適用が可能であり、世界の水産業に海洋深層水の有効活用を促すものである。
図1
図2
図3
図4