(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6240067
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】光感受性キメラGPCRタンパク質
(51)【国際特許分類】
A61K 38/16 20060101AFI20171120BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20171120BHJP
A01K 67/027 20060101ALI20171120BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20171120BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20171120BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20171120BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20171120BHJP
【FI】
A61K38/16
C12N15/00 AZNA
A01K67/027
C07K14/705
A61P27/02
A61K48/00
A61K35/12
【請求項の数】25
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-516148(P2014-516148)
(86)(22)【出願日】2012年6月22日
(65)【公表番号】特表2014-524903(P2014-524903A)
(43)【公表日】2014年9月25日
(86)【国際出願番号】CH2012000138
(87)【国際公開番号】WO2012174674
(87)【国際公開日】20121227
【審査請求日】2015年6月15日
(31)【優先権主張番号】61/500,863
(32)【優先日】2011年6月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513323678
【氏名又は名称】ハーク−シュトライト・メドテック・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】HAAG−STREIT MEDTECH AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バン・ワイク,ミチール
(72)【発明者】
【氏名】クレインロジェル,ソンジャ
【審査官】
山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/011404(WO,A1)
【文献】
特表2009−536219(JP,A)
【文献】
特表平10−507934(JP,A)
【文献】
特表2010−501501(JP,A)
【文献】
特表2012−508581(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/059081(WO,A1)
【文献】
J.Biochem.,2001年,130,149−155
【文献】
J Neurosci.,2009年,Vol.29,No.39,p.12332-12342
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/16
A01K 67/027
A61K 35/12
A61K 48/00
A61P 27/02
C07K 14/705
C12N 15/09
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Gタンパク質共役受容体(GPCR)タンパク質ファミリーの2つのメンバーから誘導されるドメインを備える内網膜ON双極細胞中のmGluR6のシグナル伝達系に光信号を結合するのに好適な、視力を向上させる医薬療法のためのキメラGPCRタンパク質を備える医薬組成物であって、
2つのメンバーのうち第1のものは、双安定光感受性GPCRであり、ここにおいて前記双安定光感受性GPCRは、オプシンであり、光活性化を媒介するための7つの膜貫通ドメインに寄与し、発色団を共有結合するシッフ塩基を形成するアミノ酸残基を備え、
2つのGPCRファミリーメンバーのうち第2のものは、mGluR6のシグナル伝達系のGalpha(o)タンパク質を結合することができる少なくとも細胞内ドメインに寄与するmGluR6であることを特徴とする、医薬組成物。
【請求項2】
キメラGPCRタンパク質は、mGluR6の細胞内ループ2(IL2)および3(IL3)ならびにC末端(CT)を備える、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
第1のGPCRメンバーは、生理学的対応物の中に発色団結合ポケットを形成するドメインのすべてに寄与する、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
第1のGPCRメンバーはメラノプシンである、請求項1から3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
メラノプシンはヒトメラノプシンである、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
発色団結合ポケットはTM3〜TM7によって形成される、請求項3および4または請求項3および5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
メラノプシンは、Y149〜K321までのアミノ酸配列を含む膜貫通ドメインTM3〜TM7に寄与する、請求項4または5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
メラノプシンはTM3〜TM7に寄与しかつ細胞外ループ1〜3(EL1、EL2、EL3)および細胞外N末端に寄与し、mGluR6は、細胞内ループ、すなわち細胞内ループ(IL1)、細胞内ループ2(IL2)、細胞内ループ3(IL3)、およびC末端の少なくとも1つに寄与する、請求項4から7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
第1のGPCRメンバーは、膜貫通ドメインTM1〜TM7および細胞外ループ1〜3(EL1、EL2、EL3)および細胞外N末端に寄与する、請求項1から8の1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
第1のGPCRメンバーは、細胞内ドメイン、細胞内ループ1(IL1)、細胞内ループ2(IL2)、細胞内ループ3(IL3)、およびC末端のすべてではないが少なくとも1つに付加的に寄与する、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
配列番号2、4、6、8、および10を有するアミノ酸配列のいずれか1つを有するキメラGPCRタンパク質を備える医薬組成物。
【請求項12】
アミノ酸配列は保存アミノ酸置換を備え、mGluR6のシグナル伝達系のGalpha(o)タンパク質の光活性化のためのキメラGPCRタンパク質として好適である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に規定されるようなキメラGPCRタンパク質をコードする遺伝情報を有する核酸分子を備える、医薬組成物。
【請求項14】
請求項11に記載のキメラGPCRタンパク質をエンコードする、または請求項12に記載のキメラGPCRタンパク質をエンコードする、配列番号1、3、5、7および9のいずれか1つを備える核酸分子を備える医薬組成物。
【請求項15】
核酸分子は、1つ以上のヌクレオチド置換なしに、核酸と同じアミノ酸配列をエンコードする1つ以上のヌクレオチド置換を備える、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
請求項1から12のいずれか1項に規定されるようなキメラGPCRタンパク質をエンコードする遺伝情報を有するベクターを備える、または請求項14から15に規定されるような核酸を備える、医薬組成物。
【請求項17】
ベクターはrAAVウイルスベクターまたは別のウイルスベクターである、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
ベクターは、請求項1から12のいずれか1項に記載のキメラGPCRタンパク質をエンコードする遺伝情報の発現を制御するON双極細胞において排他的に発現される網膜タンパク質のプロモータ/エンハンサ配列を備える、請求項16または17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
プロモータ/エンハンサ配列は、
Ggamma13
TRPM1
mGluR6
ニクタロピン
のうち1つから誘導される、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
向上した視力のために、請求項1から12の1項に規定されるようなキメラGPCRタンパク質を含有する、または、ON双極細胞の中に請求項1から12の1項に規定されるようなキメラGPCRタンパク質をコードする遺伝情報を有する、トランスジェニックノックインマウス。
【請求項21】
向上した視力のために、請求項1から12の1項に規定されるようなキメラタンパク質を含有する、または、ON双極細胞の中に請求項1から12のいずれか1項に記載のキメラタンパク質をコードする遺伝情報を有する、トランスジェニックゼブラフィッシュ。
【請求項22】
視力を向上させるために、請求項13から15のいずれか1項の中の核酸分子によって規定されるような遺伝情報を備える、または、請求項1から12のいずれか1項に規定されるようなキメラGPCRタンパク質を備える、トランスジェニック細胞株。
【請求項23】
細胞株の細胞は、
トランスジェニック神経細胞、
網膜細胞、
内網膜細胞、
双極細胞、または
ON双極細胞のうち1つである、請求項22に記載のトランスジェニック細胞株。
【請求項24】
請求項1から12のいずれか1項に記載のキメラGPCRタンパク質、または請求項13から15のいずれか1項に記載のキメラGPCRタンパク質をエンコードする核酸分子、および、視力を向上させるために、医薬療法のために前記タンパク質または核酸分子をそのまままたはベクターもしくは細胞内に備える組成物。
【請求項25】
部分的なまたは完全な失明の治療のため、色素性網膜炎(RP)、黄斑変性症の治療のため、および他の形態の視細胞変性のための、請求項24に記載のキメラGPCRタンパク質、または、キメラGPCRタンパク質をエンコードする核酸分子、および、視力を向上させるために、医薬療法のために前記タンパク質または核酸分子をそのまままたはベクターもしくは細胞内に備える組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
発明は、視力低下を患っているヒトまたは動物の患者の治療のための医学療法および医薬療法の分野に存在し、視力を向上させるための、特に網膜視細胞変性の結果として生じる視力低下を光感受性キメラGPCRタンパク質を用いて治療するための治療および薬剤の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
網膜視細胞変性の主な原因は、色素性網膜炎(RP)、加齢黄斑変性症(ARMD)、糖尿病性網膜症、および他の疾患を含む。世界中の約3万人に1人または3000万人の人が、視細胞変性および結果的に失明に繋がる遺伝子疾患である色素性網膜炎(RP)に罹患している。視細胞変性の進行度および深刻さは変わりやすく、変異自体に高く依存する。50を超える遺伝子が侵されることがある(Hartong et al. Lancet 368: 1795-1809; 2006)。これまで、RPの患者が利用可能な治療はほとんどない。自然機能遺伝子に対する後天性または遺伝性遺伝子欠損を治すことを目的とする神経保護薬(たとえば毛様体神経栄養因子)または(「非変異」遺伝子を導入する)遺伝子付加療法に焦点を当てた進行中の試みは、これまで、ほんのわずかな成功しか示していない。視細胞が失われた後は成人の網膜が新たな視細胞を生成できないことを考慮すると、視細胞の損失が小さい限りでしか遺伝子付加療法が有用でなく、初期症状を遅らせたり安定させたりするのが主である。
【0003】
最近の実験的研究で用いられる代替的な方策は、光感受性タンパク質のトランスジェニック発現を通して、残余の視細胞または生き残っている内網膜神経細胞を光感受性にすることである。
【0004】
US2009/0088399およびUS2010/0015095では、視細胞変性に罹患した患者の内網膜に光駆動型藻類イオンチャネルチャネルロドプシン−2(ChR2)を導入することが提案されている。これは、双極細胞またはアマクリン細胞などの自然光非感受性内網膜細胞を光感受性にし、かつ視覚的情報を検出できるようにする。なお、この視覚的情報は、視細胞からの入力を受けなくても後で脳に中継される。
【0005】
同様に、US2005/0208022およびUS2009/0208462では、(メラノプシンを含む)オプシンまたはシトクロムなどの光受容性タンパク質を、視細胞変性に罹患した患者の、アマクリン細胞、水平細胞、および双極細胞を含む内網膜神経細胞に導入することが提案されている。
【0006】
内網膜神経細胞中でChR2を発現させる方策はかなり期待でき、非ヒト霊長類(Fradot M et al. Human Gene Therapy 22(5), 587-593; 2011)および単離されたヒトの網膜(Ivanova E et al. Opthalmol Vis Sci 51(10), 5288-5296, 2010)で現在試験中であり、近い将来の臨床試験の期待が高まっている。
【0007】
近年、組換アデノアソシエーテッドウイルス(rAAV)を用いる網膜遺伝子置き換え療法が成功しており、最終臨床試験まで達している。特に、Bainbridgeおよび同僚らは、rAAVを用いて、欠陥網膜色素上皮特異性65−kDaタンパク質遺伝子(RPE65)を置き換えた。RPE65タンパク質中の欠損は、視細胞を光に応答できなくしてしまう。というのも、これは、発色団の再利用、すなわち、11シスレチナールへのオールトランスレチナールの変換、のために必要だからである(Bainbridge JWB et al., N Engl J Med 358(21), 2231-2239;2008)。したがって、遺伝子療法は、好適な遺伝子を網膜神経細胞に導入することによって視力の欠損を治す有望な療法的方策である。
【0008】
しかしながら、遺伝子療法において用いて視細胞の損失を補償することができる現在利用可能な光活性化可能タンパク質には依然として多数の実質的な欠点がある。1)異種無脊椎動物のまたは藻類のタンパク質、たとえばChR2の人工的発現は、患者に予測不可能な免疫反応をトリガする可能性がある。2)ChR2は、カルシウムに対して比較的高い透過性を有するが、これは、長期にわたると毒性かもしれない。3)自然光の強度ではChR2応答は本来弱い、というのも、各々の捕捉された光子は単一のタンパク質しか活性化できないからである。4)メラノプシンは高スループット酵素反応の活性を駆動することによって光信号を増幅することができるが、内網膜神経細胞においてはこれらの酵素パートナーは十分に入手可能ではない。したがって、神経節細胞およびON双極細胞中でのメラノプシンの発現は、自然光強度での機能的な視力を回復するのに十分な光信号の増幅を引出さない。5)また、異種タンパク質を発現する際には、代謝回転および変調の変化を通してタンパク質の活性を自然に制御する調節機構が存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現発明の目的は、内網膜神経細胞で発現されるとこれらの欠損を克服する、光感受性キメラタンパク質を提供することである。すなわち、発明の目的は、特に網膜視細胞変性を有する患者の視力の向上および回復のための優れた光感受性タンパク質を提供することである。このキメラタンパク質は、現行技術で提案されているタンパク質で得ることができる光感受性と比較して、より高い程度まで光感受性を向上させるまたは回復させる。発明のさらなる目的は、キメラ光感受性タンパク質をエンコードする遺伝情報と、生体細胞および生物中でこのキメラタンパク質を発現させる方法とを含む。発明のまたさらなる目的は、療法治療のために、インビボで内網膜細胞にキメラ光感受性タンパク質をエンコードする遺伝情報の発現と、光感受性タンパク質またはキメラタンパク質をエンコードする遺伝情報を備える生物医薬品とを含む。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の概要
この技術的課題は、融合されて、代謝型グルタミン酸受容体6(mGluR6)のシグナル伝達系に光信号を結合することができる光感受性GPCRキメラを生じる、Gタンパク質共役受容体(GPCR)タンパク質スーパーファミリーの少なくとも2つのメンバーからのドメインを備える光感受性キメラタンパク質によって解決される。
【0011】
Gタンパク質共役受容体(GPCR)タンパク質スーパーファミリーメンバーは、細胞表面から細胞内エフェクタへ信号を伝達する膜貫通タンパク質受容体である。それらは、7つの膜貫通ドメイン(TM1〜TM7)、3つの細胞外ループ(EL1〜EL3)、3つの細胞内ループ(IL1〜IL3)、細胞外N末端ドメイン(NT)、および細胞内C末端(CT)ドメインを典型的に備える構造を有する。GPCRタンパク質スーパーファミリーは、オプシン、たとえばロドプシンおよびメラノプシン、などの光色素と呼ばれる光感受性受容体タンパク質を含む。GPCRスーパーファミリーは、たとえばmGluR6などのリガンド依存性代謝調節型受容体も含む。代謝型Gタンパク質共役受容体は、信号の増幅を達成する特異的Gタンパク質によって媒介されるシグナル伝達カスケードを介して膜中のイオンチャネルに間接的に連結される。すなわち、活性化されたGタンパク質は、細胞膜中の多数のイオンチャネルを活性化させ得る、たとえばcAMPなどの大量の産物を急速に発生する、たとえばアデニル酸シクラーゼなどの酵素の活性を調節する。そのような代謝型GPCRとは反対に、イオンチャネル型受容体は膜中のイオンチャネルに直接に連結される。したがって、チャネルロドプシンのようなイオンチャネル型受容体は、代謝型受容体のように信号を増幅することができない。
【0012】
発明の1つの局面は、少なくとも2つのGPCRファミリーメンバーから誘導されるドメインを備えるキメラGPCRタンパク質に関する。
【0013】
少なくとも2つのGPCRファミリーメンバーのうち第1のものは、キメラ光感受性GPCRタンパク質に対する光感受性を媒介するドメインに寄与する。この第1のメンバーは、光色素とも呼ばれる光感受性GPCRタンパク質のファミリーに属し、いくつかの実施形態では、この光感受性GPCRタンパク質は、メラノプシン、特にヒトメラノプシンである。
【0014】
少なくとも2つのGPCRファミリーメンバーのうち第2のもの、すなわちmGluR6は、mGluR6の細胞内シグナル伝達系に光信号を結合するためのドメインに寄与する。
【0015】
mGluR6は、内網膜中のON双極細胞の細胞膜の天然成分である。現発明の療法的局面のためには、これらのON双極細胞は、光感受性キメラGPCRタンパク質がその中で発現される標的細胞である。生理学的には、天然ON双極細胞mGluR6は、グルタミン酸が細胞外結合するとその細胞内信号系を活性化させる。このように、ON双極細胞は自然に、mGluR6シグナル伝達系を媒介する特異的細胞内成分を含有する。
【0016】
生理学的光信号伝達経路において、光活性化された健常な杆体視細胞および錐体視細胞は、シナプス末端から放出されるグルタミン酸のレベルの上昇に伴う光強度の低下に応答し、これは次にON双極細胞上のmGluR6に結合し、これは次にmGluR6の特異的Gタンパク質共役細胞内シグナル伝達系を通した光信号の増幅を引出す。この自然経路と類似して、失明した網膜のON双極細胞中で発現されるキメラ光感受性GPCRタンパク質は、光活性化されると、mGluR6受容体の依然として存在する(Krizaj D et al., Vision Res. 50:2460-65, 2010)細胞内信号系に光信号を伝達する。
【0017】
注目すべきことに、キメラ光感受性GPCRタンパク質で補完されると、ON双極細胞はキメラ光感受性GPCRタンパク質を介して光信号を直接に知覚し、視細胞の光刺激の後に続く間接的グルタミン酸信号をバイパスする。このように、キメラ光感受性GPCRタンパク質は、光活性化をmGluR6信号系に直接に結合することができる。換言すると、光活性化は、いずれの機能的な杆体視細胞または錐体視細胞からも独立している。さらに、1つの光子によって引出される信号の生理学的増幅は、mGluR6のシグナル伝達系を通して保持される。
【0018】
この特許出願の文脈での「ドメイン」という用語は、GPCRタンパク質ファミリーのメンバーの細胞内および細胞外ループ、NおよびC末端、ならびに膜貫通領域を指す。mGluR6から誘導されるドメインまたはオプシンから誘導されるドメインなどの「から誘導されるドメイン」という用語は、生理学的に関連のある対応の部分がGPCRファミリーメンバーの生理学的対応物中のそのようなドメインの配列と同一のアミノ酸配列または同様のアミノ酸配列を有する任意のドメインを含む。一般的に、同様のアミノ酸配列または同様のドメインは、少なくとも60%の相同、好ましくは少なくとも80%の相同、および最も好ましくは少なくとも90%の相同を呈する。同様のドメインは、残余の配列の一部が天然対応物からずれているもしくは欠けているか否か、または天然GPCRファミリーメンバー中に存在しない付加的な配列がキメラタンパク質中に存在するか否かとは独立して、関連の保存アミノ酸を備えるドメインも特に含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、キメラタンパク質は、たとえばロドプシンではなくメラノプシンなどの双安定光色素から誘導される光活性化可能細胞外ドメインを備える。双安定光色素の利点は、それらが、外部細胞酵素によるよりもむしろ、光による回復を通した脱色後に再利用されることである。回復速度は非常に速く、高い光強度ですら高い光感受性を持続させる。双安定光色素の場合、光脱色および脱色回復は、高い光強度で等しく増す一方で、双安定でないロドプシンは、より多くのロドプシンが脱色されるにつれて、照明の間にその光感受性を失う。ロドプシンなどの非双安定光色素における光脱色は、最悪の場合、短期的な失明に繋がる可能性がある。ロドプシンなどの非双安定光色素が異種細胞種類中で発現される場合は、回復速度がより遅くなることすらあり得る。なぜなら、回収酵素は必ずしも近くで入手可能でないからである。健常な網膜では、これらの酵素は網膜色素上皮の中に位置する。
【0020】
したがって、双安定光色素から誘導されるべきキメラGPCRの第1のメンバーのドメインの選択は、光脱色後のキメラGPCRの回収を、脱色回収酵素の利用可能性から独立させる。いくつかの実施形態では、双安定視細胞タンパク質の光活性化可能ドメインはオプシンファミリーから選択され、最も好ましくはこれはメラノプシンであり、ヒトの患者に用いられる場合は、免疫反応を回避するためにこれはヒトメラノプシンである。
【0021】
キメラGPCRタンパク質のいくつかの実施形態では、第1のGPCRメンバーは、少なくとも、メラノプシンについてはTM3中のチロシン
149(Y149)およびTM7中のリシン
321(K321)である(GPCRに発色団を共有結合する)シッフ塩基を形成するアミノ酸残基を含有するドメイン、または生理学的対応物中に発色団結合ポケットを形成するドメインから誘導されるすべてのドメインに寄与する。発色団結合ポケットは、たとえばメラノプシン中の11シスレチナールなどの光子を吸収する光色素のための結合部位を指す(Hermann et al., Neuroscience letters, Vol. 376 p76-80, 2004)。
【0022】
いくつかの他の実施形態では、キメラGPCRタンパク質は、N末端および3つの細胞外ループ(EL1、EL2、EL3)である、第1のGPCRメンバーの細胞外ドメインのすべてと、付加的に、第1のGPCRメンバーからの7つの膜貫通ドメイン(TM1〜TM7)のすべてとを備える。
【0023】
これらの実施形態のいずれかにおいて、キメラGPCRタンパク質の細胞内ドメインの少なくとも1つ、すなわち、細胞内ループIL1、IL2、IL3、および/またはC末端の少なくとも1つ、は、mGluR6である第2のGPCRから誘導される。いくつかの実施形態では、mGluR6から誘導される少なくとも1つの細胞内ドメインはIL3またはIL3であり、付加的に、たとえば、IL3およびIL2、またはIL3およびIL2ならびにC末端、または他の組合せなどの他の細胞内ドメインの少なくとも1つである。
【0024】
発明に従う機能的キメラGPCRタンパク質は光感受性であり、光活性化をmGluR6シグナル伝達系に結合することができる。どの光色素がキメラタンパク質のための第1のGPCRメンバーとして選ばれるかに依存して、この光色素のいくつかまたはすべての膜貫通ドメインおよび細胞外ドメインのいずれかを用いる。発色団ポケットを形成するのに必要なドメインは、キメラタンパク質を光活性化可能にするのに必要であり、これは、現在の知識に従うと、たとえば、メラノプシン中のTM3〜TM7およびチャネルロドプシン中のTM2〜TM7である。
【0025】
光活性化をmGluR6シグナル伝達系に結合するのに必要なドメインは、mGluR6経路に特異的なGタンパク質、すなわちGalpha(o)に結合することができなければならない。IL3は、GPCR信号系のGタンパク質に対する特異的結合のために特に関連があるように思われる。一般的に、他の細胞内ループおよびC末端は、IL1およびIL2ならびにC末端ドメインのいくつかまたはすべてがmGluR6から誘導されない実施形態に勝る、Gタンパク質結合の特異性を向上させる。
【0026】
いくつかの実施形態では、キメラGPCRタンパク質は、第1ではなくかつ第2のメンバーではない、別の双安定GPCRタンパク質(または双安定GPCRに基づくオプシンキメラ)から誘導されるドメインを備える。
【0027】
潜在的な免疫原反応を最小限にするため、およびヒトの医薬療法のために用いるべきいくつかの実施形態においてmGluR6への生理学的結合を最適化するため、光感受性ドメインは、ヒトメラノプシン、ヒトロドプシン、ヒト錐体オプシンだけでなく、キメラヒトオプシンなどのヒトGPCRから誘導される。
【0028】
光感受性キメラGPCRタンパク質は、当該技術分野で公知の技術に従って、GPCRメンバーのドメインをエンコードする遺伝情報を光感受性の所望の機能性と融合させ、mGluR6のシグナル伝達系に光活性化を結合することによって構築される。所望のドメインの同定ならびに任意の特定のドメインのN末端およびC末端での好適な切断および連結部位の判定は、主として、1)遺伝子配列/保存残基の整列と、2)当該技術分野で利用可能な標準的なソフトウェアを用いる、光感受性GPCRファミリーメンバーおよびmGluR6の二次および三次構造のコンピュータモデリングとに基づいている。この方策は、個別のドメインの長さの正確な定義における固有の変動性を有し、そのような変動性は、ドメインについて述べる場合にはこの発明の範囲内に含まれる。さらに、ドメイン間の個別の融合部位では、ドメインをともにスプライシングして機能性タンパク質を生じる多数の可能性が一般的に存在する。また明らかなことに、機能のために必要でないアミノ酸配列の部分の削除、たとえば、疎水性アミノ酸を疎水性アミノ酸で相互交換するまたは親水性アミノ酸を親水性アミノ酸で相互交換する保存アミノ酸置換、およびヌクレオチド置換、も発明の範囲内に入る。したがって、特にキメラGPCRタンパク質の隣接するドメイン間の融合部位の領域中のかなりの数の配列変異体は、それらが機能的キメラGPCRタンパク質を生じるならば、発明の範囲内に入る。膜貫通ドメインおよび細胞外ドメインのすべてが第1のGPCRメンバーから誘導され、細胞内ドメインの少なくとも1つまたはすべてがmGluR6から誘導される対応のドメインで置き換えられる実施形態では、IL1、IL2、IL3、およびC末端を交換するためのすべての可能性のある切断および連結部位は発明の範囲内に入る。
【0029】
発明のさらなる局面は、光活性化をmGluR6のシグナル伝達系に結合することができる光活性化可能キメラGPCRタンパク質の遺伝情報と、この遺伝情報を備えるrAAVなどのウイルスベクターを含むベクターと、この遺伝情報を備えるマウスおよびゼブラフィッシュなどのトランスジェニック動物と、特に神経細胞株、内網膜神経細胞株、および双極細胞株、特にON双極細胞を含む、そのような遺伝情報を備えるまたは光活性化をmGluR6のシグナル伝達系に結合することができる光活性化可能キメラGPCRタンパク質を発現する細胞培養細胞とに関する。
【0030】
発明のさらなる局面は、目、好ましくはON双極細胞に、光活性化をmGluR6のシグナル伝達系に結合することができる光活性化可能キメラGPCRタンパク質の発現のための遺伝情報を導入する方法に関する。発明のまたさらなる局面は、細胞培養細胞の中に、特に網膜細胞株、内網膜細胞株、および双極細胞株を含む神経細胞株の中に、光活性化をmGluR6のシグナル伝達系に結合することができる光活性化可能キメラGPCRタンパク質の発現のための遺伝情報を導入する方法に関する。
【0031】
発明のさらなる局面は、医薬療法において視力を向上させるために、光活性化をmGluR6のシグナル伝達系に結合することができる光感受性キメラGPCRタンパク質を、目の中、特に杆体視細胞および錐体視細胞の両方のON双極細胞を含む標的網膜細胞への硝子体腔または網膜下腔の中に導入する遺伝子治療法に関する。そのような遺伝子治療法は、電気穿孔法、ウィルス形質導入、および化学物質に基づく移入を含むが、それらに限定されない。そのような医薬療法は、たとえば、色素性網膜炎(RP)および黄斑変性症(ARMD)ならびに他の形態の視細胞変性の治療のための、部分的または完全な失明の治療を特に含む。
【0032】
発明のまたさらなる局面は、医薬療法の目的のために、特に視力を向上させるために、部分的または完全な失明の治療のために、色素性網膜炎(RP)および黄斑変性症(ARMD)ならびに他の形態の視細胞変性の治療のために、光活性化をmGluR6のシグナル伝達系に結合することができる光感受性キメラGPCRタンパク質、または当該キメラタンパク質をエンコードする遺伝情報、ならびに当該タンパク質または当該遺伝情報をそのまままたはベクターもしくは細胞内に備える組成物に関する。
【0033】
生理学的には、網膜の内顆粒層のON双極細胞の代謝型グルタミン酸受容体は、網膜視細胞活性に応答して神経伝達物質グルタミン酸によって活性化される。視細胞が光で刺激されると、ON双極細胞上に放出されるグルタミン酸の濃度が変化する。光感受性キメラGPCRタンパク質は、直接に光で活性化される天然mGluR6タンパク質の変異体である一方で、天然mGluR6タンパク質は、光の変化による視細胞の刺激の後にグルタミン酸を介して間接的に活性化される。したがって、それらのON双極細胞中のmGluR6のシグナル伝達系に光活性化を結合することができるmGluR6の細胞内ドメインを備えるキメラ光活性化可能タンパク質を発現することによって、視細胞変性に罹患した患者を治療することができる。
【0034】
光感受性キメラGPCRタンパク質のいくつかの実施形態では、メラノプシンまたは別の双安定光色素の細胞内成分の少なくとも1つまたはすべてがmGluR6の細胞内成分で置換され、その結果、メラノプシンの視細胞ドメインを備えるキメラタンパク質が生じ、これは、内網膜神経細胞、特にON双極細胞中の既存の細胞内mGluR6シグナル伝達系を駆動することができる。
【0035】
ON双極細胞中のキメラ光活性化可能mGluR6−メラノプシンタンパク質の人工的発現により、天然mGluR6によって調節される、生理学的な先に存在する高速酵素反応を操ることによって弱い光信号を増幅する。また、そのようなキメラタンパク質は、ヒトメラノプシンなどの天然視細胞タンパク質の細胞外ドメインを用いる場合は、免疫反応を免れる。なぜなら、免疫系にアクセス可能な部分のみが天然ヒトメラノプシンと同一であるからである。
【0036】
第1のGPCRメンバーとしてmGluR6を用いる利点は、mGluR6が網膜中のON双極細胞中にのみ発現されることである。したがって、トランスジェニックに発現されるキメラmGluR6−メラノプシンは、ON双極細胞においてのみmGluR6シグナル伝達系に効率的に結合する。さらに、キメラタンパク質(たとえばアレスチン結合)の劣化および変調は、先に存在するmGluR6経路を通して起こり、これはタンパク質活性の完全な自己制御を可能にする。
【0037】
視力の回復という、ON双極細胞中でのキメラ光感受性mGluR6−メラノプシンタンパク質発現のまた別の特定の効果が存在し、これは他の視力回復法とは異なり、視覚コントラストが実際に逆転する。暗さが明るく思われ、明るさが暗く思われる。すなわち、光強度の増大によって自然に活性化される神経回路が光強度の低下によって活性化され、その逆も然りである。これは、実際、以下に概略を述べるように、先行技術に勝る重要な利点を有するかもしれない。
【0038】
視細胞は、暗所で比較的高レベルの神経伝達物質(グルタミン酸)を放出し、明るさが増すにつれて伝達物質の放出がより少なくなる。ON双極細胞はmGluR6受容体を通してその入力を受け、これは(暗所で)活性化されると双極細胞を過分極し、その逆も然りである。視細胞が存在しない場合、グルタミン酸が存在せず、ON双極細胞は減極され、生き残っている内網膜は効果的に「極めて明るい光」順応モードにある。実際、ON双極細胞の非常にゆっくりとした変性は、この持続する減極によるものであり得る。色素性網膜炎の患者は自身の網膜の光順応に気付いていない。なぜなら、網膜の出力は光強度の空間的および時間的変化しかシグナリングしないからである。すなわち、強度の変化が検出されなければ、網膜は完全に光順応状態にあるものの、網膜は脳に信号を効果的に送らない。
【0039】
視細胞が部分的にまたはすべて失われた患者の視力を向上させるため、網膜が完全に光順応した状態にあることを考慮することが重要である。このことは、ON双極細胞が永続的に相対的に減極されることを暗示する。ON双極細胞で発現されるチャネルロドプシン−2は、これらの細胞をさらに減極するのみであり、したがって、光ONと光OFF状態との間の信号差は比較的小さい。これに対して、発明に従うキメラ光感受性mGluR6−GPCRタンパク質を発現するON双極細胞は光によって過分極される。明らかなことに、これは信号差を増大させ、こうして出力および応じて光感受性を高める。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】メラノプシンからのN末端(NT)、膜貫通ドメイン(TM1−TM7)、および細胞外ループ1−3(EL1−EL3)、ならびにmGluR6からの細胞内ループ1−3(IL1−IL3)およびC末端(CT)を有する、光感受性キメラGPCRタンパク質の実施形態の細胞膜にわたるドメインおよび向きを示す概略図である。
【
図2】マウスmGluR6−メラノプシンを移入されたHEK293(GIRK)細胞の全細胞電流応答(mGluR6からのIL2(DRIY)、IL3(I)、およびCT、Seq.No.7/8を有する例示的な実施形態D)−HEK293(GIRK)細胞で測定される最大電流の場合の現在好ましい配列の実施例1の図である。
【
図4】実施例2:rAAV2カプシド変異体ベクターを用いるマウスON双極細胞の成功したかつ特異的なmGluR6−メラノプシン形質導入の図である。
【
図5】rAAV2ベクターを用いて網膜ON双極細胞中にmGluR6−メラノプシンを導入した1ヶ月後の、8週齢のrd1マウスの網膜(視細胞のない網膜)中の網膜神経節細胞から記録される光応答の図である。
【
図6】ウサギ抗Rab1A抗体での免疫標識が、盲目のrd1マウスの暗順応網膜が光順応減極状態にあることを示す、図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
いくつかの実施形態の詳細な説明
所望のドメインの同定ならびに任意の特定のドメインのN末端およびC末端での好適な切断および連結部位の判定は、主として、1)遺伝子配列/保存残基の整列と、2)たとえば、CLC Protein Workbench, I-TASSER, MODELLER, QUARKまたはSWISS-Model(Kiefer F et al., Nucleic Acids Res 37, D387-D392, 2009)を用いた光感受性GPCRファミリーメンバーおよびmGluR6の二次および三次構造のコンピュータモデリングとに基づいている。
【0042】
光感受性キメラGPCRタンパク質のいくつかの実施形態では、第1のGPCRメンバーは、メラノプシン、特にヒトまたはマウスメラノプシンであり、第2のGPCRメンバーはヒトまたはマウスのmGluR6である。要約すると、キメラ光感受性GPCRタンパク質のこれらの実施形態はmGluR6−メラノプシンと呼ばれる。
【0043】
光感受性mGluR6−メラノプシンを構築するためのいくつかの実施形態を以下により詳細に説明する。発明の範囲はこれらの特定の実施形態に限定されるものではない。いくつかの実施形態では、IL2、IL3、およびCTはmGluR6から誘導される一方で、キメラの残余はメラノプシンから誘導される。いくつかの他の実施形態では、すべての3つの細胞内ループIL1〜IL3およびCTがmGluR6から誘導され、すべての膜貫通ドメインおよび細胞外ドメインがメラノプシンから誘導される。
【0044】
図1は、メラノプシンからのN末端(NT)、膜貫通ドメイン(TM1−TM7)、および細胞外ループ1−3(EL1−EL3)、ならびにmGluR6からの細胞内ループ1−3(IL1−IL3)およびC末端(CT)を有する、実施形態の細胞膜にわたるドメインおよび向きを概略的に示す。文字a−gで7つのスプライシング部位を示す。原則的に、メラノプシンの細胞内ループをmGluR6の細胞内ループと交換するためのすべての可能性のある切断および連結部位が発明の範囲内に入る。
【0045】
表1は、配列整列および3Dモデリングに基づいて選ばれ、機能的に活性であると見出されたmGluR6−メラノプシン実施形態を構築するための特に成功した多数のスプライシング部位を開示する。機能的mGluR6−メラノプシンキメラの構築のために代替的なスプライシング選択肢のさまざまな組合せが存在し、発明の範囲内に入る。
【0046】
ヒトmGluR6−メラノプシンのための試験された機能的スプライシング−連結部位
【0048】
メラノプシンのIL2、IL3、およびC末端ドメインがmGluR6遺伝子の対応のドメインと交換されるキメラmGluR6−メラノプシンの実施形態については、
図1に従うc〜gで番号付与された部位の膜貫通ドメインと細胞内ループとの間のスプライシングおよび連結が必要である。表1に示すスプライシング部位d、e、f、gは、実施例1の方法に従って試験されるように、機能的なループ置き換えを生じる。スプライシング部位eについては、試験された2つのスプライシング形態が機能的であり、表中で形態IおよびIIとして列挙する。表1に従うスプライシング部位d、e、f、gが特に推奨される一方で、光活性化をmGluR6のシグナル伝達系に結合することができる光感受性mGluR6−メラノプシンを生じるいずれのスプライシング形態も発明の範囲内に入る。
【0049】
TM3とIL2との間の部位cでのスプライシングおよび連結については、メラノプシンとmGluR6とのアミノ酸配列を比較すると、利用可能ないくつかの選択肢がある。合理的なアミノ酸配列および3D構造的相同性を有するいずれのスプライシング形態も発明の範囲内に入る。GPCRタンパク質中の最も保存されたアミノ酸配列である、TM3とIL2との間のDRY部位を保持することが重要と思われる。注目すべきことに、DRY部位の付加的な機能的変異体は、DRIY、NRIY、またはNRYを含む。これらの変異体のすべては、実施例1に従う試験で、機能的mGluR6−メラノプシンキメラを生じた。
【0050】
メラノプシンのIL1が付加的にmGluR6のIL1と交換されるキメラmGluR6−メラノプシンの実施形態については、
図1に従ってaおよびbで番号付与された部位の膜貫通ドメインTM1およびTM2と細胞内ループIL1との間の付加的な遺伝子スプライシングおよび連結も必要である。保存アミノ酸の百分率に関する、および3D構造的予測に主に関するメラノプシンおよびmGluR6の配列間の相同性は、部位c〜gと比較して、スプライシングおよび連結部位aおよびbの領域でより低く、これは、最適なスプライシングおよび連結部位の選択を広げる。mGluR6から誘導されるIL1を備える実施形態についての予備試験は機能的キメラを生じ、IL1の最適な交換はキメラタンパク質の特異的Gタンパク質結合を増大させると予期される。保存アミノ酸配列の考慮の下でメラノプシンのIL1をmGluR6のIL1で交換するためのすべての可能性のある切断および連結部位が発明の範囲内に入る。
【0051】
mGluR6−メラノプシンキメラタンパク質の以下の例示的な実施形態A−Eについて、DNA遺伝子およびアミノ酸配列全体を列挙し、細胞内(IL)および細胞外(EL)ループ、NおよびC末端ドメイン(NT、CT)、ならびに膜貫通ドメイン(TM)などのさまざまなドメインに対応するコーディング配列を示す。
【0052】
A:mGluR6から誘導されるIL2(DRIY)、IL3スプライシング形態I、およびCTを有するヒトmGluR6−メラノプシンの実施形態
Seq.No.1:DNA配列
(ヒト遺伝子を用いる)キメラコーディングDNA配列。下線を付与した区域はmGluR6細胞内ドメイン(IL2、IL3(スプライシング形態I)およびCT)をコードする。
【0054】
Seq.No.2:アミノ酸配列
(ヒト遺伝子を用いる)キメラペプチド配列。下線を付与した区域はmGluR6細胞内ドメイン(IL2
【0056】
、IL3(スプライシング形態I)、およびCT)をコードする。太字形態のEL中のAAならびに枠で囲まれた残基YおよびKは発色団結合に係る。
【0058】
B:mGluR6から誘導されるIL2(DRIY)、IL3スプライシング形態II、およびCTを有するヒトmGluR6−メラノプシンの実施形態
Seq.No.3:DNA配列
(ヒト遺伝子を用いる)キメラコーディングDNA配列。下線を付与した区域はmGluR6細胞内ドメイン(IL2、IL3(スプライシング形態II)、およびCT)をコードする。
【0060】
Seq.No.4:アミノ酸配列
(ヒト遺伝子を用いる)キメラペプチド配列。下線を付与した区域はmGluR6細胞内ドメイン(IL2
【0062】
、IL3(スプライシング形態II)、およびCT)をコードする。太字形態EL中のAAならびに枠で囲まれたYおよびKは発色団結合に係る。
【0064】
C:mGluR6から誘導されるIL1、IL2(DRIY)、IL3スプライシング形態I、およびCTを有するヒトmGluR6−メラノプシンの実施形態
Seq.No.5:DNA配列
(ヒト遺伝子を用いる)キメラコーディングDNA配列。下線を付与した区域はmGluR6細胞内ドメイン(IL1、IL2、IL3(スプライシング形態I)、およびCT)をコードする。
【0066】
Seq.No.6:アミノ酸配列
(ヒト遺伝子を用いる)キメラペプチド配列。下線を付与した区域はmGluR6細胞内ドメイン(IL1、IL2
【0068】
、IL3(スプライシング形態I)、およびCT)をコードする。太字形態EL中のAAならびに枠で囲まれたYおびK残基は発色団結合に係る。
【0070】
D:mGluR6から誘導されるIL2(DRIY)、IL3スプライシング形態I、およびCTを有する(実施形態Aに従う)マウスmGluR6−メラノプシン
Seq.No.7:DNA配列
(マウス遺伝子を用いる)キメラコーディングDNA配列。下線を付与した区域はmGluR6細胞内ドメイン(IL2、IL3(スプライシング形態I)、およびCT)をコードする。
【0072】
Seq.No.8:アミノ酸配列
(マウス遺伝子を用いる)キメラペプチド配列。下線を付与した区域はmGluR6細胞内ドメイン(IL2
【0074】
、IL3(スプライシング形態I)、およびCT)をコードする。太字形態EL中のAAならびに枠で囲まれたYおよびK残基は発色団結合に係る。
【0076】
E:mGluR6から誘導されるIL1、IL2(DRIY)、IL3スプライシング形態I、およびCTを有する(実施形態Cに従う)マウスmGluR6−メラノプシン
Seq.No.9:DNA配列
(マウス遺伝子を用いる)キメラコーディングDNA配列。下線を付与した区域はmGluR6細胞内ドメイン(IL1、IL2、IL3(スプライシング形態I)、およびCT)をコードする。
【0078】
Seq.No.10:アミノ酸配列
(マウス遺伝子を用いる)キメラペプチド配列。下線を付与した区域はmGluR6細胞内ドメイン(IL1、IL2
【0080】
、IL3(スプライシング形態I)、およびCT)をコードする。太字形態EL中のAAならびに枠で囲まれた残基YおよびKは発色団結合に係る。
【0082】
例示的なmGluR6キメラGPCRタンパク質による、特に例示的なmGluR6−メラノプシンキメラタンパク質による、mGluR6のシグナル伝達系に対する光活性化を文書で示す実施例:
これらの第1の実験では、安定してGIRKカリウムチャネルを発現する培養ヒト胎児腎臓細胞(HEK293細胞)中のmGluR6−メラノプシンキメラの機能的分析を行なう。
【0083】
この実験は、機能的に活性化されたmGluR6の公知の能力である、HEK293細胞中のGIRKチャネルへの、例示的な実施形態D(Seq.No.7/8)に従うキメラの光活性化の機能的な結合を試験し、安定してGIRKカリウムチャネルを発現する培養ヒト胎児腎臓細胞(HEK293細胞)(HEK293−GIRK細胞)中の光感受性mGluR6−メラノプシンの実施形態の発現を要件とする。
【0084】
HEK293−GIRK細胞において、mGluR6はGタンパク質を介して細胞内で異種Kir3.1/3.2カリウムチャネル(GIRKチャネル)に結合する。したがって、GIRKチャネルの活性化を介して、mGluR6−メラノプシンキメラの成功した光活性化を間接的に示すことができ、その結果、
図2および
図3に示すような電気生理学的実験で測定可能なK
+電流が生じる。
【0085】
図2は、例示的な実施形態D(Seq.No.7/8)に従ってキメラで移入されたHEK293−GIRK細胞から記録される−150〜+60mVの間の1−s電圧ランプに対する全細胞電流応答を示す。mGluR6−メラノプシンキメラが青色(473nm)光(濃い灰色の軌跡)によって活性化されると、GIRKチャネルが活性化される。電流は、光がない状態(mGluR6−メラノプシン活性化なし、薄い灰色の三角形)で、および光の存在下(mGluR6−メラノプシン活性化あり、濃い灰色の丸)で測定された。差分は黒い太線で示され、GIRKチャネルの電流−電圧関係を表わす。
【0086】
図3は、例示的な実施形態D(Seq.No.7/8)に従ってmGluR6−メラノプシンキメラの同じ実施形態で移入されたHEK293−GIRK細胞における全細胞パッチクランプ実験の結果を示す。GIRKチャネルを通る外向きのK
+電流は、473照射期間の間の過分極電流として見えるようになる。
【0087】
例示的な実施形態D(Seq.No.7/8)に従うmGluR6−メラノプシンキメラを用いて行った
図2および
図3に示す結果は以下を示す。
【0088】
−キメラの細胞外メラノプシン部分は青色光によって活性化され、青色光がスイッチオフされるとスイッチオフされる。
【0089】
−キメラの細胞内mGluR6部分は、Gタンパク質を介してGIRKカリウムチャネルに成功裏に結合し、これにより光刺激の間に外向きのK
+電流が測定され、このことはGIRKチャネルに典型的な動力学を示す。
【0090】
したがって、mGluR6−メラノプシンキメラは機能的であるといえる。
当該技術分野で公知のような遺伝子療法は、光活性化をmGluR6のシグナル伝達系に結合することができる光感受性GPCRキメラタンパク質の発現のために適用されてもよい。以下の2つの特定的な方法、すなわちrAAV形質導入および電気穿孔法を記載するが、発明はこれらの特定的な例示的な方法に限定されるものではない。
【0091】
rAAV形質導入は当該技術分野で公知の適用可能な方策の第1の例である。まず、皮下注射針を用いて強膜を注意深く穿刺し、次に(約10
10個のゲノムコピーに対応する)約1マイクロリットルのrAAVを、目の中に、網膜下(Pang JJ et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 49(10):4278-83, 2008)または硝子体内(より安全かつおそらくより効率的−Park et al. Gene Ther 16(7): 916-926, 2009)注射する。約4週間後、キメラが発現され、電気生理学的/形態学的実験を行なうことができる。
【0092】
遺伝子送達のためのrAAVシャトルは多数の遺伝子療法的利点を有する。
a) rAAV2は現在、遺伝子療法のための最も成功したベクターであり、それらが顕す免疫原性は最小限である(Buch PK et al. Gene Ther 15:849-857, 2008)。
【0093】
b) 異なる細胞特異性を有するいくつかの血清型が存在する。血清型8{rAAV2/8(Y733F)}および血清型2{rAAV2/2(Y252,272,444,500,704,730F)}のチロシン(F)変異のためのカプシドフェニルアラニン(F)は現在、内網膜細胞を形質導入する最も有望なrAAVシャトルである(Pang JJ et al. Gen Ther 19(2):234-242, 2011; Petrs-Silva H et al., Mol Ther 19(2):293-301, 2011)。
【0094】
c) rAAV送達は、(数年または永久的ですらある)長期のDNA発現という結果をもたらす−単一のrAAV治療で十分であり、再適用は必要でない。
【0095】
d) ON双極細胞に対するDNA局在化を、たとえば以下によって達成可能である。
I) rAAV血清型(rAAV2/8およびrAAV2/2は現在、内網膜細胞にとって最も有望である)、
II) 特異的ON双極細胞表面タンパク質のrAAV受容体標的付け(すなわち、ニクタロピン、mGluR6、TRPM12)、
III) ON双極細胞特異的プロモータまたはエンハンサ/プロモータ配列(mGluR6およびmGluR6/sv40プロモータを一般的に用いる、代替的にプロモータ/エンハンサ配列は、Ggamma13の配列、ニクタロピンの配列、またはTRPM12の配列から誘導される)、
IV) 排他的にON双極細胞中にあるmGluR6特異的Gタンパク質Galpha(o)の存在、したがってON双極細胞のみが効果的にmGluR6をそれらの酵素系に結合することができる。
【0096】
電気穿孔法は、当該技術分野で公知の適用可能な方策の第2の例である。ON双極細胞特異的プロモータの制御下でのキメラタンパク質のDNAコーディングは、滅菌食塩水に溶解され、網膜下注射される。注射の後、網膜の後方の1つの電極および網膜の前方の1つの電極を用いて、網膜貫通電圧パルスの印加を行なう。電圧ステップの極性は、神経節細胞側では正であり、視細胞側では負である。電圧パルスは細胞膜を一時的に透過可能にするように働く一方で、同時に、正極に向けておよび網膜細胞の中へ負に帯電したDNAを引き寄せる(Lagali PS et al. Nat Neurosci. 11(6):667-75, 2008, Matsuda T and Cepko CL, PNAS 101(l):16-22, 2004)。
【0097】
以下の実施例は、光活性化をシグナル伝達系に結合することができる例示的な光感受性GPCRキメラタンパク質を特異的にマウスON双極細胞中にエンコードするDNAのrAAV形質導入および発現、ならびに特に例示的なmGluR6−メラノプシンキメラタンパク質をエンコードするDNAの形質導入および発現を文書化する。
【0098】
第1の一連の実験では、例示的な実施形態D(Seq.No.8)に従うmGluR6−メラノプシンキメラ遺伝子がチロシン−カプシド変異組換アデノアソシエーテッドウイルスrAAV2/8(Y733F)およびrAAV2/2(Y252,272,444,500,704,730F)を用いてマウスの網膜のON双極細胞に送達されるかどうかを試験する。
【0099】
この実験は、mGluR6エンハンサsv40塩基性プロモータ要素(Kim DS et el., J Neurosci 28(31):7748-64, 2008)を用いてmGluR6−メラノプシン(キメラ実施形態D)の特異的ON双極細胞発現が達成されるかどうかも試験する。
【0100】
結果を
図4に示し、以下に詳細を述べるように、網膜下または硝子体内投与の6週間後のrAAV2/2カプシド変異ベクターを用いたマウス杆体ON双極細胞および錐体ON双極細胞の成功したかつ特異的mGluR6−メラノプシン形質導入を文書化する。
【0101】
チロシン(F)変異体のための6つのカプシドフェニルアラニン(F)を含有するrAAV2/2ベクターを用いてPRmGluR6/sv40-"mGluR6-メラノプシン"-IRES-TurboFP635で形質導入されたマウス網膜を通る断面(Y252,272,444,500,704,730F; Petrs-Silva H et al., Mol Ther 19(2): 293-301, 2011)。ウイルスは、解剖学的分析の6週間前に網膜下注射された。トランス遺伝子(mGluR6−メラノプシン)およびレポータ(TurboFP635)の発現は、mGluR6エンハンサsv40塩基性プロモータ要素(Kim DS et el., J Neurosci 28(31):7748-64, 2008)によって駆動された。第1のパネルでは、DAPIによる核染色は、網膜の外顆粒層(ONL)、内顆粒層(INL)、および神経節層(GCL)を示す。第2のパネルでは、PKCアルファ抗体を用いてすべての杆体ON双極細胞を標識付けた。最後のパネル(rAAV)はTurboFP635レポータ遺伝子を示し、したがって、PRmGluR6/sv40-"mGluR6-メラノプシン"-IRES-TurboFP635構造を用いた成功裏の形質導入を示す。
【0102】
5つの杆体ON双極細胞がレポータ標識付け(塗りつぶした矢印頭部)を示す一方で、INL内で標識付けされる4つの付加的な細胞は、同じように錐体ON双極細胞(開いた矢印頭部)を示す。これは、rAAVベクターを用いて光活性化可能タンパク質mGluR6−メラノプシンを標的細胞(ON双極細胞)に導入可能であり、かつその中で特異的に発現可能であることの原理証明であり、これは、ヒトの目の臨床遺伝子療法治療のために認められる(Jacobson S et al., Arch Ophthalmol 298vl-16, 2011)。目盛りは10μmを示す。
【0103】
当該技術分野で公知のような電気生理学的方法を適用して、盲目のrd1(Pde6b
rdl)FVB/Nマウスの網膜ON双極細胞で発現されるmGluR6−メラノプシンの適切な機能を試験してもよい。
【0104】
したがって、第2の一連の実験では、エクスビボでのマウス網膜中のmGluR6−メラノプシンキメラの機能的分析は、(視細胞を有しない)盲目のrd1マウスの網膜のON双極細胞の中に導入されるmGluR6−メラノプシンが網膜を光感受性にすることを示す。
【0105】
図5は、mGluR6−メラノプシン(キメラ実施形態D Seq.No.7)遺伝子を含有するrAAVで処置された盲目のrd1マウスの網膜全載における異なる種類の神経節細胞からの光応答の3つの例を示す。
【0106】
特に、光応答は、以下に詳細を述べるように、rAAVベクターを用いてmGluR6−メラノプシンを網膜ON双極細胞に導入した1ヶ月後に、9週齢のrd1マウスの網膜(視細胞を有しない網膜)における網膜神経節細胞から記録された。
【0107】
3つの細胞種類、すなわち過渡ON細胞(A)、過渡OFF細胞(B)、および持続ON細胞(C)、からの細胞外応答を示す。各々の軌跡(D−F)の隣のラスタープロットは、同じ光刺激に対する光応答が再現可能であったことを実証する。細胞外軌跡の下に灰色で示す持続時間についての網膜全載の上に、465nmの光を投射した。
【0108】
そして、持続した応答(B)は、視細胞入力が存在しない状態では有意により遅いスパイク開始(>2.5秒;Schmidt TM et al., Neurophysiol 100(l):371-84, 2008)を有することがわかっているメラノプシン神経節細胞の持続した応答ではないであろうことが注記される。
【0109】
このように、
図5に示す結果は、ON双極細胞で発現されるmGluR6−メラノプシンが盲目の網膜で光感受性を回復することができることを文書化する。
【0110】
要約すると、
図4および
図5は、
−ヒトの目の臨床遺伝子療法治療のために許されるrAAV(Jacobson S et al., Arch Ophthalmol 298vl-16, 2011)がmGluR6−メラノプシン遺伝子をON双極細胞に送達することができ、
−rAAV血清型、rAAVカプシド−変異体、および細胞特異的プロモータ/エンハンサ要素を用いて、mGluR6−メラノプシン発現のために特異的にON双極細胞を標的にすることができ、
−発現したmGluR6−メラノプシンが機能的であり、盲目の網膜を光感受性にする、ことを示す。
【0111】
したがって、mGluR6−メラノプシンは、その標的細胞である網膜の双極細胞において機能的であるといえる。
【0112】
ON双極細胞のための最適な光センサは、大きな差分光応答を与えるべきである。mGluR6−メラノプシンは、減極しているチャネルロドプシンとは反対に、光刺激の際にON双極細胞を過分極する。盲目のrd1マウス中のON双極細胞は既に光順応(減極)状態にあるので、mGluR6−メラノプシン光活性化の結果、大きな差分光応答が生じる。
【0113】
図6は、暗順応盲目rd1(Pde6b
rdl)FVB/Nマウスの網膜が光順応状態にあることを示す。
【0114】
パネルA−Dは、盲目rd1マウスの暗順応網膜が実際は野生型網膜の「光順応」状態に対応する「光順応」(減極)状態にあることを示すために、ウサギ抗Rab1A抗体で免疫標識付けされた盲目のマウスおよび野生型マウスのマウス網膜を通る断面を示す。抗Rab1A抗体は、内網膜のON双極細胞(内顆粒層(INL)、神経節層(GCL)中の末端)を標識付けし、その発現レベルは、健常な網膜では、周囲光の強度に依存する(Huang W et al., J Vis Neurosci 26(5-6):443-452, 2009)。予期されるように、抗Rab1A免疫標識付け(黒い構造)は、暗順応(A)ではなく光順応(B)の野生型(BL6)マウスの網膜でのみ見られた。しかしながら、抗Rab1A発現レベルは、暗順応(C)および光順応(D)rd1網膜において同一であり、視細胞を含有する外顆粒層(ONL)を欠いていたとともに、抗Rab1A発現レベルは光順応健常BL6網膜と同様であった。
【0115】
このように、盲目のマウスのrd1網膜は永久的に光順応(減極)状態にあるといえる。したがって、最適な光センサは、大きな差分光信号を保証するには、光刺激の際にON双極細胞を過分極すべきであり、mGluR6−メラノプシンはそのようにする。すべてのパネルの結像露光時間は同一であった。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]