特許第6240104号(P6240104)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6240104
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】液圧ブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20171120BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20171120BHJP
   B60T 13/122 20060101ALI20171120BHJP
   B60T 15/36 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   B60T8/17 B
   B60T13/74 Z
   B60T13/122 Z
   B60T15/36 Z
【請求項の数】6
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-22206(P2015-22206)
(22)【出願日】2015年2月6日
(65)【公開番号】特開2016-144968(P2016-144968A)
(43)【公開日】2016年8月12日
【審査請求日】2016年11月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】特許業務法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中岡 宏司
(72)【発明者】
【氏名】内田 清之
(72)【発明者】
【氏名】丸山 将来
【審査官】 谷口 耕之助
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−141146(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/175016(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/17
B60T 13/122
B60T 13/74
B60T 15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者によって操作されるブレーキ操作部材と、
車輪に設けられ、自身に供給される作動液の圧力に応じた大きさの制動力を発生させるブレーキ装置と、
(A-1)内部を2つの液室に区画形成するとともに開口が形成された区画部を有するハウジングと、(A-2)そのハウジングの前記区画部の後方側に収容され、前記ブレーキ操作部材に連結されてそのブレーキ操作部材の操作によって前進させられる入力ピストンと、(A-3)前記ハウジングの前記区画部の前方側に収容されて後端に鍔が形成された本体部を有する加圧ピストンと、(A-4)前記入力ピストンと前記加圧ピストンとの間に、前記区画部の開口を利用して形成されたピストン間室と、(A-5)前記加圧ピストンの前方に形成され、前記ブレーキ装置に供給される作動液が前記加圧ピストンの前進によって加圧される加圧室と、(A-6)前記加圧ピストンの前記鍔と前記区画部との間に区画形成され、前記加圧ピストンに前進させる力を付与するための作動液が導入される入力室と、(A-7) 前記加圧ピストンの前記鍔の前方に設けられ、前記鍔を挟んで前記入力室と対向する対向室とを備え、前記ピストン間室の作動液の圧力が作用する前記加圧ピストンの受圧面積と、前記対向室の作動液の圧力が作用する前記加圧ピストンの受圧面積とが等しくされたマスタシリンダと、
前記ピストン間室と前記対向室とを接続するとともに、低圧源が接続された連通路と、
その連通路の低圧源が接続された箇所より前記ピストン間室側の部分に設けられ、前記ピストン間室と前記対向室との連通を許容する開状態と、その連通を遮断する閉状態とを切り換える連通切換弁と、
前記連通路と低圧源との間に設けられ、前記連通路を低圧源に連通させる開状態と、低圧源から遮断する閉状態とを切り換える低圧源遮断弁と、
前記連通路の低圧源が接続された箇所より前記対向室側の部分に設けられ、前記連通路に接続された液室を有してその液室の作動液を弾性的に加圧するストロークシミュレータと、
高圧の作動液を供給する高圧源と、
その高圧源からの高圧の作動液を調整圧に調圧し、その調圧された作動液を前記マスタシリンダの前記入力室に供給するレギュレータであって、(B-1)前記調整圧に調圧される作動液が収容される調整圧室と、 (B-2)当該レギュレータの軸線方向に移動可能とされて自身の一端側から前記調整圧室の液圧を受ける弁体を有し、その弁体が可動範囲において他端側に位置する場合に、低圧源と前記調整圧室との連通を許容するとともに、前記高圧源と前記調整圧室との連通を遮断し、その弁体が一端側へ前進することによって、低圧源と前記調整圧室との連通を遮断するとともに、前記高圧源と前記調整圧室との連通を許容する弁機構と、(B-3)前記弁体の後方に配設されたパイロットピストンと、(B-4) そのパイロットピストンの後方に形成され、前記マスタシリンダの前記加圧室から加圧された作動液が導入される第1パイロット圧室と、(B-5) 前記パイロットピストンと前記弁体との間に形成された第2パイロット圧室とを備えたレギュレータと、
作動液の液圧を制御によって任意の高さに調整して、その作動液を前記レギュレータの前記第2パイロット圧室に供給する液圧調整装置と、
前記連通切換弁および前記低圧源遮断弁を制御してそれぞれの開状態と閉状態とを切り換えるとともに、前記液圧調整装置を制御して前記第2パイロット圧室の液圧を調整することで前記調整圧を制御する制御装置と
を含んで構成された液圧ブレーキシステムであって、
前記制御装置が、
前記液圧調整装置を制御して前記第2パイロット圧を調整することで、前記レギュレータを、(I)前記第1パイロット圧室の液圧である第1パイロット圧によって前記パイロットピストンが前記弁体に当接してその弁体とともに移動することで、前記調整圧がその第1パイロット圧に応じた高さに調圧される第1調圧状態から、(II)前記第2パイロット圧室の液圧である第2パイロット圧によって前記パイロットピストンを前記弁体から離間させた状態でその弁体を移動させることで、前記調整圧がその第2パイロット圧に応じた高さに調圧される第2調圧状態に切り換えるように構成され、
前記マスタシリンダを、(I) 前記連通切換弁を閉状態として前記ピストン間室と前記対向室との連通を遮断するとともに、前記低圧源遮断弁を開状態として前記対向室を低圧源に連通することで、前記ピストン間室の液圧と前記入力室の液圧との両者に依拠して前記加圧ピストンを前進させる第1加圧状態と、(II) 前記連通切換弁を開状態として前記ピストン間室と前記対向室との連通を許容するとともに、前記低圧源遮断弁を閉状態として前記ピストン間室と前記対向室とを低圧源から遮断することで、前記入力室の液圧のみに依拠して前記加圧ピストンを前進させる第2加圧状態との間で、選択的に切り換えるように構成され、
前記ブレーキ操作部材の操作が開始された後に前記マスタシリンダを前記第1加圧状態から前記第2加圧状態に切り換える場合、前記第1加圧状態のまま前記液圧調整装置を制御して前記第2パイロット圧を増加させ、前記レギュレータが前記第1調圧状態から前記第2調圧状態に切り換わった後、前記低圧源遮断弁の開状態から閉状態への切換、および、前記連通切換弁の閉状態から開状態への切換をそれぞれ行う加圧状態切換制御を実行するように構成された液圧ブレーキシステム。
【請求項2】
前記制御装置が、
前記加圧状態切換制御において、前記レギュレータにおいて前記第1調圧状態から前記第2調圧状態に切り換わった後に、前記低圧源遮断弁の開状態から閉状態への切換を行い、その後、前記連通切換弁の閉状態から開状態への切換を行うように構成された請求項1に記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項3】
前記制御装置が、
前記加圧状態切換制御において、前記第2パイロット圧の増加によって前記パイロットピストンが前記弁体から離間した後、前記弁体に作用する力の関係によってその弁体が前記他端側に移動して前記調整圧が低下し、それに伴って前記入力室の液圧が低下する場合に、前記入力室の液圧の低下が治まったことを条件として、前記低圧源遮断弁を開状態から閉状態へ切り換えるように構成された請求項1または請求項2に記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項4】
前記制御装置が、
前記マスタシリンダが前記第2加圧状態となった場合に、前記第2パイロット圧を、前記入力室の実際の液圧と、前記ブレーキ操作部材になされた操作に応じて決定される前記入力室の目標液圧との偏差に基づいてフィードバック制御するものとされ、
前記加圧状態切換制御において、前記入力室の実際の液圧が前記目標液圧に達したことを条件として、前記連通切換弁を閉状態から開状態へ切り換えるように構成された請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項5】
前記制御装置が、
前記ブレーキ操作部材に制動力を低下させる操作がなされた状況下において、前記加圧状態切換制御を開始すべく、前記第1加圧状態のまま前記液圧調整装置の制御による前記第2パイロット圧の増加を開始するように構成された請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【請求項6】
前記レギュレータが、
前記弁体の後方側において前記第2パイロット圧を受ける受圧面積が、前記パイロットピストンの前方側において前記第2パイロット圧を受ける受圧面積より小さくされたものである請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスタシリンダとレギュレータとを含んで構成される車両用の液圧ブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、加圧した作動液をブレーキ装置に供給するマスタシリンダと、そのマスタシリンダに調圧された作動液を供給するレギュレータと、制御によって任意の圧力に調整した作動液をレギュレータに供給する作動液供給装置とを含んで構成される液圧ブレーキシステムが記載されている。マスタシリンダは、(A-1)内部を2つの液室に区画形成するとともに開口が形成された区画部を有するハウジングと、(A-2)そのハウジングの区画部の後方側に収容され、ブレーキ操作部材に連結されてそのブレーキ操作部材の操作によって前進させられる入力ピストンと、(A-3)ハウジングの区画部の前方側に収容されて後端に鍔が形成された本体部を有する加圧ピストンと、(A-4記入力ピストンと加圧ピストンとの間に、区画部の開口を利用して形成されたピストン間室と、(A-5)加圧ピストンの前方に形成され、ブレーキ装置に供給される作動液が加圧ピストンの前進によって加圧される加圧室と、(A-6)加圧ピストンの鍔と区画部との間に区画形成され、加圧ピストンに前進させる力を付与するための作動液が導入される入力室と、(A-7) 加圧ピストンの鍔の前方に設けられ、鍔を挟んで前記入力室と対向する対向室とを備えている。
そして、そのマスタシリンダは、(I) 連通切換弁を閉状態としてピストン間室と対向室との連通を遮断するとともに、低圧源遮断弁を開状態として対向室を低圧源に連通することで、ピストン間室の液圧と入力室の液圧との両者に依拠して加圧ピストンを前進させる第1加圧状態と、(II) 連通切換弁を開状態としてピストン間室と前記対向室との連通を許容するとともに、低圧源遮断弁を閉状態としてピストン間室と対向室とを低圧源から遮断することで、入力室の液圧のみに依拠して加圧ピストンを前進させる第2加圧状態との間で、選択的に切り換えられるように構成されている。
【0003】
また、レギュレータは、(I)マスタシリンダの加圧室から供給された作動液の液圧である第1パイロット圧によってパイロットピストンが弁体に当接してその弁体とともに移動することで、調整圧がその第1パイロット圧に応じた高さに調圧される第1調圧状態と、(II)液圧調整装置から供給された作動液の液圧である第2パイロット圧によってパイロットピストンを弁体から離間させた状態でその弁体を移動させることで、調整圧がその第2パイロット圧に応じた高さに調圧される第2調圧状態とのいずれかの状態で調圧された作動液をマスタシリンダの入力室に供給するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−208987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように構成された液圧ブレーキシステムにおいて、例えば、ブレーキ操作がなされたことを条件として本システムの制御装置が起動したような場合には、ブレーキ操作が開始された後、ブレーキ操作がなされた状態のままで第1加圧状態から第2加圧状態に切り換えることになる。その加圧状態の切換の際には、例えば、操作フィーリングの変化等により、運転者に違和感を与えるなどの問題がある。なお、上記特許文献1に記載のシステムは、その切換の際に、低圧源遮断弁を閉状態として、連通切換弁をデューティ制御することによって、ピストン間室の液圧変化を抑制するようことで、操作フィーリングの変化を抑制するように構成されている。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、上記特許文献1のシステムと同様に、ブレーキ操作がなされた状態のままで第1加圧状態から第2加圧状態に切り換える際の不具合を軽減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の液圧ブレーキシステムは、ブレーキ操作部材の操作が開始された後にマスタシリンダを第1加圧状態から第2加圧状態に切り換える場合、第1加圧状態のまま液圧調整装置を制御して第2パイロット圧を増加させ、レギュレータが第1調圧状態から第2調圧状態に切り換わった後、低圧源遮断弁の開状態から閉状態への切換、および、連通切換弁の閉状態から開状態への切換をそれぞれ行うように構成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の液圧ブレーキシステムは、低圧源遮断弁の開状態から閉状態への切換、および、連通切換弁の閉状態から開状態への切換を行うより前に、レギュレータにおける第2パイロット圧の制御を開始して入力室の液圧を高めつつ、低圧源遮断弁の切換、および、連通切換弁の切換を行うことで、操作フィーリングの変化を抑えることが可能である。例えば、入力室の液圧を高めて加圧ピストンを前進させることによって、ピストン間室と対向室とを連通させる前に、対向室の容積を減少させることで、ピストン間室と対向室とを連通させた時の入力室の液圧の減少を抑えることが可能である。したがって、本発明のブレーキシステムによれば、ブレーキ操作部材の操作が開始された後に第1加圧状態から第2加圧状態に切り換える際に、操作フィーリングの変化を抑え、運転者に与える違和感を軽減することが可能である。
【発明の態様】
【0008】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0009】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、請求項1に(2)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項2に、請求項1または請求項2に(3)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項3に、請求項1ないし請求項3のいずれか1つに(4)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項4に、請求項1ないし請求項4のいずれか1つに(5)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項5に、請求項1ないし請求項5のいずれか1つに(6)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項6に、それぞれ相当する。
【0010】
(1)運転者によって操作されるブレーキ操作部材と、
車輪に設けられ、自身に供給される作動液の圧力に応じた大きさの制動力を発生させるブレーキ装置と、
(A-1)内部を2つの液室に区画形成するとともに開口が形成された区画部を有するハウジングと、(A-2)そのハウジングの前記区画部の後方側に収容され、前記ブレーキ操作部材に連結されてそのブレーキ操作部材の操作によって前進させられる入力ピストンと、(A-3)前記ハウジングの前記区画部の前方側に収容されて後端に鍔が形成された本体部を有する加圧ピストンと、(A-4)前記入力ピストンと前記加圧ピストンとの間に、前記区画部の開口を利用して形成されたピストン間室と、(A-5)前記加圧ピストンの前方に形成され、前記ブレーキ装置に供給される作動液が前記加圧ピストンの前進によって加圧される加圧室と、(A-6)前記加圧ピストンの前記鍔と前記区画部との間に区画形成され、前記加圧ピストンに前進させる力を付与するための作動液が導入される入力室と、(A-7) 前記加圧ピストンの前記鍔の前方に設けられ、前記鍔を挟んで前記入力室と対向する対向室とを備え、前記ピストン間室の作動液の圧力が作用する前記加圧ピストンの受圧面積と、前記対向室の作動液の圧力が作用する前記加圧ピストンの受圧面積とが等しくされたマスタシリンダと、
前記ピストン間室と前記対向室とを接続するとともに、低圧源が接続された連通路と、
その連通路の低圧源が接続された箇所より前記ピストン間室側の部分に設けられ、前記ピストン間室と前記対向室との連通を許容する開状態と、その連通を遮断する閉状態とを切り換える連通切換弁と、
前記連通路と低圧源との間に設けられ、前記連通路を低圧源に連通させる開状態と、低圧源から遮断する閉状態とを切り換える低圧源遮断弁と、
前記連通路の低圧源が接続された箇所より前記対向室側の部分に設けられ、前記連通路に接続された液室を有してその液室の作動液を弾性的に加圧するストロークシミュレータと、
高圧の作動液を供給する高圧源と、
その高圧源からの高圧の作動液を調整圧に調圧し、その調圧された作動液を前記マスタシリンダの前記入力室に供給するレギュレータであって、(B-1)前記調整圧に調圧される作動液が収容される調整圧室と、 (B-2)当該レギュレータの軸線方向に移動可能とされて自身の一端側から前記調整圧室の液圧を受ける弁体を有し、その弁体が可動範囲において他端側に位置する場合に、低圧源と前記調整圧室との連通を許容するとともに、前記高圧源と前記調整圧室との連通を遮断し、その弁体が一端側へ前進することによって、低圧源と前記調整圧室との連通を遮断するとともに、前記高圧源と前記調整圧室との連通を許容する弁機構と、(B-3)前記弁体の後方に配設されたパイロットピストンと、(B-4) そのパイロットピストンの後方に形成され、前記マスタシリンダの前記加圧室から加圧された作動液が導入される第1パイロット圧室と、(B-5) 前記パイロットピストンと前記弁体との間に形成された第2パイロット圧室とを備えたレギュレータと、
作動液の液圧を制御によって任意の高さに調整して、その作動液を前記レギュレータの前記第2パイロット圧室に供給する液圧調整装置と、
前記連通切換弁および前記低圧源遮断弁を制御してそれぞれの開状態と閉状態とを切り換えるとともに、前記液圧調整装置を制御して前記第2パイロット圧室の液圧を調整することで前記調整圧を制御する制御装置と
を含んで構成された液圧ブレーキシステムであって、
前記制御装置が、
前記液圧調整装置を制御して前記第2パイロット圧を調整することで、前記レギュレータを、(I)前記第1パイロット圧室の液圧である第1パイロット圧によって前記パイロットピストンが前記弁体に当接してその弁体とともに移動することで、前記調整圧がその第1パイロット圧に応じた高さに調圧される第1調圧状態から、(II)前記第2パイロット圧室の液圧である第2パイロット圧によって前記パイロットピストンを前記弁体から離間させた状態でその弁体を移動させることで、前記調整圧がその第2パイロット圧に応じた高さに調圧される第2調圧状態に切り換えるように構成され、
前記マスタシリンダを、(I) 前記連通切換弁を閉状態として前記ピストン間室と前記対向室との連通を遮断するとともに、前記低圧源遮断弁を開状態として前記対向室を低圧源に連通することで、前記ピストン間室の液圧と前記入力室の液圧との両者に依拠して前記加圧ピストンを前進させる第1加圧状態と、(II) 前記連通切換弁を開状態として前記ピストン間室と前記対向室との連通を許容するとともに、前記低圧源遮断弁を閉状態として前記ピストン間室と前記対向室とを低圧源から遮断することで、前記入力室の液圧のみに依拠して前記加圧ピストンを前進させる第2加圧状態との間で、選択的に切り換えるように構成され、
前記ブレーキ操作部材の操作が開始された後に前記マスタシリンダを前記第1加圧状態から前記第2加圧状態に切り換える場合、前記第1加圧状態のまま前記液圧調整装置を制御して前記第2パイロット圧を増加させ、前記レギュレータが前記第1調圧状態から前記第2調圧状態に切り換わった後、前記低圧源遮断弁の開状態から閉状態への切換、および、前記連通切換弁の閉状態から開状態への切換をそれぞれ行う加圧状態切換制御を実行するように構成された液圧ブレーキシステム。
【0011】
本項に記載の液圧ブレーキシステムは、ピストン間室が対向室から遮断されるとともに、対向室が低圧源に連通されることでピストン間室の液圧と入力室の液圧との両者に依拠して加圧ピストンを前進させる第1加圧状態と、(II)ピストン間室が対向室に連通されるとともに、対向室が低圧源から遮断されることで、入力室の液圧のみに依拠して加圧ピストンを前進させる第2加圧状態とが選択的に実現されるマスタシリンダを備えたものを前提としている。第1加圧状態から第2加圧状態に切り換える際には、ブレーキ操作部材の操作フィーリングが変化する。その操作フィーリングは、第1加圧状態においては、加圧ピストンのリターンスプリング等により決まり、第2加圧状態においては、上記ストロークシミュレータにより決まるため、第1加圧状態から第2加圧状態に切り換える際に操作フィーリングが変化することになる。つまり、第1加圧状態から第2加圧状態に切り換える際に、操作フィーリングが変化し、ブレーキ操作部材の操作量が変化したり、ブレーキ操作部材への反力が急激に変化するのである。
【0012】
また、第2加圧状態は、上述のように、入力室の液圧のみに依拠して加圧ピストンを前進させるため、ピストン間室の液圧と入力室の液圧との両者に依拠して加圧ピストンを前進させる第1加圧状態に比較して、ブレーキ操作部材の操作量が同じであっても、同じ制動力を発生させるための入力室の液圧は、高くなる。つまり、第1加圧状態から第2加圧状態に切り換える場合、入力室の液圧を、第1加圧状態での液圧から、さらに上昇させる必要がある。本項に記載のブレーキシステムにおいては、低圧源遮断弁の開状態から閉状態への切換、および、連通切換弁の閉状態から開状態への切換を行うより前に、レギュレータにおける第2パイロット圧の制御を開始して入力室の液圧を高めつつ、その入力室の液圧に応じて、低圧源遮断弁の開状態から閉状態への切換、および、連通切換弁の閉状態から開状態への切換を行うことで、操作フィーリングの変化を抑えることが可能である。例えば、入力室の液圧を高めて加圧ピストンを前進させることによって、ピストン間室と対向室とを連通させる前に、対向室の容積を減少させることで、ピストン間室と対向室とを連通させた時の入力室の液圧の減少を抑えることが可能である。したがって、本項に記載のブレーキシステムによれば、ブレーキ操作部材の操作が開始された後に第1加圧状態から第2加圧状態に切り換える際に、レギュレータにおける第2パイロット圧の制御開始,低圧源遮断弁の開状態から閉状態への切換,連通切換弁の閉状態から開状態への切換を同時に行った場合に比較して、運転者に与える違和感を軽減することができるのである。
【0013】
なお、本項に記載の態様においては、低圧源遮断弁の開状態から閉状態への切換、および、連通切換弁の閉状態から開状態への切換は、順次行ってもよく、同時に行ってもよい。
【0014】
(2)前記制御装置が、
前記加圧状態切換制御において、前記レギュレータにおいて前記第1調圧状態から前記第2調圧状態に切り換わった後に、前記低圧源遮断弁の開状態から閉状態への切換を行い、その後、前記連通切換弁の閉状態から開状態への切換を行うように構成された(1)項に記載の液圧ブレーキシステム。
【0015】
本項に記載の態様は、低圧源遮断弁の開状態から閉状態への切換、連通切換弁の閉状態から開状態への切換を行う順序が定められている。本項の態様においては、レギュレータが第2調圧状態とされた後に、低圧源遮断弁および連通切換弁の両者が閉状態とされる。つまり、対向室が密閉された状態となる。その状態において、調整圧の上昇に伴って入力室の液圧が上昇させられるため、対向室の液圧も上昇させられる。つまり、本項の態様においては、ピストン間室と対向室とを連通させる前に、それら2室の液圧差を小さくすることができるため、ピストン間室と対向室とを連通させた際のピストン間室の液圧の低下を抑えることができる。したがって、本項の態様によれば、ピストン間室の液圧の低下によるブレーキ操作部材の操作量の変化、あるいは、ブレーキ操作部材への反力の変化をより効果的に抑えることができ、運転者に与える違和感をより軽減することが可能である。
【0016】
(3)前記制御装置が、
前記加圧状態切換制御において、前記第2パイロット圧の増加によって前記パイロットピストンが前記弁体から離間した後、前記弁体に作用する力の関係によってその弁体が前記他端側に移動して前記調整圧が低下し、それに伴って前記入力室の液圧が低下する場合に、前記入力室の液圧の低下が治まったことを条件として、前記低圧源遮断弁を開状態から閉状態へ切り換えるように構成された(1)項または(2)項に記載の液圧ブレーキシステム。
【0017】
本項に記載の態様は、低圧源遮断弁によって対向室を低圧源から遮断する条件を定めた態様である。上記のように、入力室の液圧が低下するような場合には、加圧ピストンに作用する前進させる向きの力が低下し、加圧ピストンが後退することになる。例えば、液圧調整装置による第2パイロット圧室への作動液の供給開始と同時に、対向室を低圧源から遮断した場合には、加圧ピストンの後退によって、対向室の体積が増加し、対向室の液圧が低下することになる。そして、その状態で、連通切換弁を開状態としてピストン間室が対向室に連通されると、それら2つの液室の液圧差が大きくなり、操作フィーリングの変化も大きくなってしまう。本項に記載の態様によれば、入力室の液圧がほぼ低下しなくなった後、あるいは、完全に低下しなくなった後に、対向室を低圧源から遮断するため、対向室の液圧が低下するような事態を回避することが可能である。なお、本項に記載の「液圧の低下が治まったこと」とは、液圧の減少量が設定値より小さくなった場合、液圧の変化が0となった場合、液圧が増加し始めた場合を含む文言である。
【0018】
(4)前記制御装置が、
前記マスタシリンダが前記第2加圧状態となった場合に、前記第2パイロット圧を、前記入力室の実際の液圧と、前記ブレーキ操作部材になされた操作に応じて決定される前記入力室の目標液圧との偏差に基づいてフィードバック制御するものとされ、
前記加圧状態切換制御において、前記入力室の実際の液圧が前記目標液圧に達したことを条件として、前記連通切換弁を閉状態から開状態へ切り換えるように構成された(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0019】
本項に記載の態様は、ピストン間室と対向室とを連通させる条件を定めた態様である。本項の態様においては、ピストン間室と対向室とを連通する前に、入力室の液圧が第2加圧状態おいて実現するべき液圧まで高められる。つまり、対向室の容積が十分に小さくされるため、ピストン間室と対向室とを連通させた時の入力室の液圧の減少を、より効果的に抑えることが可能である。
【0020】
(5)前記制御装置が、
前記ブレーキ操作部材に制動力を低下させる操作がなされた状況下において、前記加圧状態切換制御を開始すべく、前記第1加圧状態のまま前記液圧調整装置の制御による前記第2パイロット圧の増加を開始するように構成された(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0021】
本項に記載の態様は、第1加圧状態から第2加圧状態への切換の開始条件を定めた態様であり、制動力を低下させて車両を走行し始めるタイミングで第1加圧状態から第2加圧状態への切換を行う態様である。本項の態様においては、例えば、ブレーキ操作部材の操作量を検出するセンサによって操作量が減少した場合に「ブレーキ操作部材に制動力を低下させる操作がなされた状況下」にあると判定する態様だけでなく、車速を検出するセンサによって設定値(例えば、0.5〜1.0km/h)以上の車速が検出されて車両が走行を始めた場合や、入力室の液圧を検出するセンサによってその入力室の液圧が低下し始めた場合に、「ブレーキ操作部材に制動力を低下させる操作がなされた状況下」にあると判定する態様とすることもできる。
【0022】
本項に記載の態様においては、運転者がブレーキ操作部材を中立位置に戻すタイミングで、第1加圧状態から第2加圧状態への切換を行うことによって、その第1加圧状態から第2加圧状態への切換による操作フィーリングの変化を、運転者に感じにくくすることが可能である。特に、入力室の液圧が低下して加圧ピストンが後退するような場合には、入力ピストンにも後退させる向きの力が加わることになるが、その入力ピストンに加わる力はブレーキ操作部材を中立位置に戻す方向の力であるため、その力によって運転者に与える違和感を軽減することできるのである。
【0023】
(6)前記レギュレータが、
前記弁体の後方側において前記第2パイロット圧を受ける受圧面積が、前記パイロットピストンの前方側において前記第2パイロット圧を受ける受圧面積より小さくされたものである(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0024】
本項に記載の態様は、レギュレータの構造が限定されている。本項に記載の態様においては、第2パイロット圧によって弁体を前進させる力より、パイロットピストンを後退させる力のほうが強くなる。そのため、第2パイロット圧によって弁体を前進させる力が、調整圧によって弁体を後退させる力より小さい状態で、パイロットピストンが弁体から離間してしまうことになり、調整圧が低下することになる。つまり、本項に記載の態様には、先に述べた、入力室の液圧の低下が治まったことを条件として低圧源遮断弁を開状態から閉状態へ切り換える態様が、特に有効である。
【0025】
(7)前記レギュレータが、
前記弁体の前方側において前記調整圧を受ける受圧面積が、前記パイロットピストンの後方側において前記第1パイロット圧を受ける受圧面積より小さくされたものである(1)項ないし(6)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0026】
本項に記載の態様は、レギュレータの構造が限定されており、弁体の調整圧が作用する受圧面積が比較的小さくされている。つまり、本項に記載の態様によれば、弁体の大きさを比較的小さなものとすることができる。例えば、弁機構がスプール弁機構の場合、弁体としてのスプールはそのスプールを保持するものに対してクリアランスを狭めることで作動液の漏れを抑えるようになっている。そのため、本項に記載の態様によれば、弁体の大きさを比較的小さなものとすることができるため、弁体が大きい場合に比較して、作動液の漏れを十分に抑えることが可能である。一方、第1パイロット圧を受けるパイロットピストンの受圧面積が比較的大きくされているため、第1状態において、弁体を前進させるために必要なパイロット圧を比較的小さくすることが可能とされている。
【0027】
(8)前記弁体の他端側に設けられた前記調整圧室を第1調整圧室と定義した場合に、
前記レギュレータが、
前記第1調圧室と連通し、前記パイロットピストンに後方へ向かう力を付与するための作動液が導入される第2調整圧室を備え、
前記第1状態において、前記パイロットピストンの前方側と前記弁体の後方側とが当接した状態で、前記パイロットピストンが後方側から受ける前記第1パイロット圧によって、前記第1調整圧室および前記第2調整圧室の作動液が調圧され、
前記第2状態おいて、前記パイロットピストンと前記弁体とが離間した状態で、前記弁体が後方側から受ける前記第2パイロット圧によって、前記第1調整圧室の作動液が調圧されるように構成された(7)項に記載の液圧ブレーキシステム。
【0028】
本項に記載の態様は、弁体の調整圧を受ける受圧面積が小さくされた態様において、レギュレータが、パイロットピストンにも調整圧が作用するように構成されている。つまり、本項に記載の態様においては、第1状態において一体的に動作するパイロットピストンおよび弁体が第1パイロット圧を受ける受圧面積と、調整圧を受ける受圧面積との差を小さくする、あるいは、ほぼなくすことが可能である。したがって、本項に記載の態様によれば、レギュレータが、弁体の調整圧を受ける受圧面積が、パイロットピストンの第1パイロット圧を受ける受圧面積より小さくされているものの、第1パイロット圧と調整圧との差を小さくすること、あるいは、ほぼ等しくすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】請求可能発明の実施例である液圧ブレーキシステムを搭載した車両の概略を示す図である。
図2図1に示すレギュレータの断面図である。
図3】実施例の液圧ブレーキシステムの要部を模式的に示す図である。
図4】実施例の液圧ブレーキシステムにおいて、第1状態と第2状態との切り換えが行われる場合について説明するための図であり、それら第1状態および第2状態と、ECUの通電状態,ブレーキスイッチの状態,イグニッションスイッチの状態との関係を示す図である。(a)に、運転者が車両に乗り込んでイグニッションスイッチがONとされた一般的な場合を、(b)に、ドアが閉状態から開状態に切り換えられた後に長時間イグニッションスイッチがONにされなかった場合を、(c)に、イグニッションスイッチがOFFにされた後に運転者が降車せずに再びONとされた場合を、それぞれ示している。
図5】第1加圧状態から第2加圧状態に切り換えるまでの、連通切換弁,低圧源遮断弁,増圧・減圧リニア弁への供給電流、および、サーボ圧の時間的な変化を示す図である。
図6図1に示す制御装置としてのECUにおいて実行されるマスタ状態切換プログラムのフローチャートを示す図である。
図7図1に示す制御装置としてのECUにおいて実行されるサーボ圧制御プログラムのフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、請求可能発明を実施するための形態として、請求可能発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。また、〔発明の態様〕の各項の説明に記載されている技術的事項を利用して、下記の実施例の変形例を構成することも可能である。
【実施例】
【0031】
<液圧ブレーキシステムの構成>
(a)全体構成
請求可能発明の実施例である車両用液圧ブレーキシステムは、ハイブリッド車両に搭載され、ブレーキオイルを作動液とする液圧ブレーキシステムである。本液圧ブレーキシステムは、図1に示すように、大まかには、(a) 4つの車輪10に設けられ、それぞれがブレーキ力を発生させる4つのブレーキ装置12と、(b) ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル14の操作が入力されるとともに、加圧された作動液を各ブレーキ装置12に供給するマスタシリンダ16と、(c) マスタシリンダ16と4つのブレーキ装置12の間に配置されたアンチロックユニット18〔ABS〕と、(d) 作動液を低圧源であるリザーバ20から汲み上げて加圧することにより、高圧の作動液を供給する高圧源装置22と、(e) 高圧源装置22から供給される作動液を調圧してマスタシリンダ16に供給するレギュレータ24と、(f) レギュレータ24に供給される作動液の圧力を調整するための電磁式の増圧リニア弁[SLA]26および減圧リニア弁[SLR]28と、(g) それらの装置,機器,弁を制御することで当該液圧ブレーキシステムの制御を司る制御装置としてのブレーキ電子制御ユニット[ECU]30とを含んで構成されている。なお、4つの車輪10は、左右前後を表わす必要のある場合に、右前輪10FR,左前輪10FL,右後輪10RR,左後輪10RLと表わすこととする。また、4つのブレーキ装置12等の構成要素も、左右前後を区別する必要がある場合に、車輪10と同様の符号を付して、12FR,12FL,12RR,12RL等と表わすこととする。ちなみに、[ ]の文字は、図面において表わす場合に用いる符号である。
【0032】
(b)ブレーキ装置およびABSユニット
各車輪10に対応して設けられたブレーキ装置12は、車輪10とともに回転するディスクロータ,キャリアに保持されたキャリパ,キャリパに保持されたホイールシリンダ,キャリパに保持されてそのホイールシリンダによって動かされることでディスクロータを挟み付けるブレーキパッド等を含んで構成されたディスクブレーキ装置である。また、ABSユニット18は、各車輪に対応して設けられて対をなす増圧用開閉弁および減圧用開閉弁,ポンプ装置等を含んで構成されたユニットであり、スリップ現象等によって車輪10がロックした場合に作動させられて、車輪のロックが持続することを防止するための装置である。
【0033】
(c)マスタシリンダ
i)マスタシリンダの構造
マスタシリンダ16は、ストロークシミュレータ一体型のマスタシリンダであり、概して言えば、ハウジング40の内部に、2つの加圧ピストンである第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44,入力ピストン46が配設されるとともに、ストロークシミュレータ機構48が組み込まれている。なお、マスタシリンダ16に関する以下の説明において、便宜的に、図における左方を前方,右方を後方と呼び、同様に、後に説明するピストン等の移動方向について、左方に動くことを前進,右方に動くことを後退と呼ぶこととする。
【0034】
ハウジング40は、第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44,入力ピストン46が配設される空間を有し、その空間は、前方側の端部が閉塞されるとともに、環状をなす区画部50によって前方室52と後方室54とに区画されている。第2加圧ピストン44は、前方に開口する有底円筒状をなしており、前方室52内において前方側に配設される。一方、第1加圧ピストン42は、有底円筒状をなすとともに後端に鍔56が形成された本体部58と、本体部58から後方に延びる突出部60とを有しており、本体部58が、前方室52内において第2加圧ピストン44の後方に配設されている。区画部50は、環状をなしていることから中央に開口62が形成されたものとされており、突出部60は、その開口62を貫通して後方室54に延び出している。入力ピストン46は、後方室54に、詳しく言えば、それの一部分が後方から後方室54の内部に臨み入るようにして、配設され、後方に配置されたブレーキペダル14が、リンクロッド64を介して、入力ピストン46に連結されている。
【0035】
第1加圧ピストン42と第2加圧ピストン44との間には、詳しく言えば、第1加圧ピストン42の本体部58の前方には、2つの後輪10RR,10RLに対応する2つのブレーキ装置12RR,12RLに供給される作動液が第1加圧ピストン42の前進によって加圧される第1加圧室R1が、第2加圧ピストン44の前方側には、2つの前輪10FR,10FLに対応する2つのブレーキ装置12FR,12FLに供給される作動液が第2加圧ピストン44の前進によって加圧される第2加圧室R2が、それぞれ形成されている。一方、第1加圧ピストン42と入力ピストン46との間には、ピストン間室R3が形成されている。詳しく言えば、区画部50に形成された開口62から後方に延び出す突出部60の後端と、入力ピストン46の前端とが向かい合うようにして、つまり、開口62を利用して第1加圧ピストン42と入力ピストン46とが向かい合うようにして、ピストン間室R3が形成されているのである。さらに、ハウジング40の前方室52内には、突出部60の外周において、区画部50の前端面と、第1加圧ピストン42の本体部58の後端面、つまり、鍔56の後端面とによって区画されるようにして、レギュレータ24から供給される作動液が導入される環状の入力室R4が形成されている。さらにまた、本体部58の外周において、鍔56の前方に、その鍔56を挟んで入力室R4と対向する環状の対向室R5が形成されている。
【0036】
第1加圧室R1,第2加圧室R2は、それぞれ、第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44が移動範囲における後端に位置する際に、大気圧ポートP1,P2を介してリザーバ20と連通可能とされており、また、それぞれ、出力ポートP3,P4を介するとともにABSユニット18を介して、ブレーキ装置12と連通させられている。ちなみに、第1加圧室R1は、後に説明するレギュレータ24をも介してブレーキ装置12RR,12RLと連通させられている。なお、入力室R4は、入力ポートP5を介して、後に説明するレギュレータ24の調整圧ポートと連通させられている。
【0037】
ピストン間室R3は、連通ポートP6と、対向室R5は、連通ポートP7と、それぞれ連通しており、それら連通ポートP6と連通ポートP7は、外部連通路である連通路70によって繋げられている。この連通路70の途中には、常閉型の電磁式開閉弁72、つまり、非励磁状態で閉弁状態となり、励磁状態で開弁状態となる開閉弁72が設けられており、開閉弁72が開弁状態とされた場合に、ピストン間室R3と対向室R5は連通させられる。それらピストン間室R3と対向室R5とが連通する状態では、それらによって、1つの液室、すなわち、反力室R6と呼ぶことのできる液室が形成されていると考えることができる。なお、開閉弁72は、ピストン間室R3と対向室R5との連通,非連通を切換える機能を有することから、以下、「連通切換弁72」と呼ぶこととする。
【0038】
また、マスタシリンダ16には、さらに2つの大気圧ポートP8,P9が設けられており、それらは、内部通路にて連通している。一方の大気圧ポートP8はリザーバ20に繋げられており、他方の大気圧ポートP9は、外部連通路である低圧路74を介して、連通切換弁72と対向室R5との間において連通路70に繋げられている。低圧路74には、常開型の電磁式開閉弁76、つまり、非励磁状態で開弁状態となり、励磁状態で閉弁状態となる開閉弁76が設けられている。この開閉弁76は、対向室R5をリザーバ20との連通を遮断する機能を有することから、以下、「低圧源遮断弁76」と呼ぶこととする。
【0039】
ハウジング40は、第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44,入力ピストン46が配設されている空間とは別の空間を有しており、ストロークシミュレータ機構48は、その空間と、その空間内に配設された反力ピストン80と、反力ピストン80を付勢する2つの反力スプリング82,84(いずれも圧縮コイルスプリングである)とを含んで構成されている。反力ピストン80の後方側には、バッファ室R7が形成されている(図では、殆ど潰れた空間として表わされている)。ブレーキペダル14の操作によって入力ピストン46が前進する際、バッファ室R7には、内部通路を介して、対向室R5の作動液、すなわち、反力室R6の作動液が導入され、その導入される作動液の量、すなわち、入力ピストン46の前進量に応じた反力スプリング82,84の弾性反力が反力室R6に作用することで、ブレーキペダル14に操作反力が付与される。また、本システムでは、連通路70に、反力室R6の作動液の圧力(以下、「反力圧PRCT」という場合がある。)を検出するもの、つまり、ブレーキペダル14に対する反力(ブレーキペダル12に加えられた操作力と考えることもできる。)を検出するための反力圧センサ[PRCT]86が設けられている。
【0040】
ii)マスタシリンダの機能
通常の状態では、上記連通切換弁72は、開弁状態、上記低圧源遮断弁76は、閉弁状態にあり、ピストン間室R3と対向室R5とによって、上記反力室R6が形成されている。本マスタシリンダ16では、第1加圧ピストン42を前方に移動させるべくピストン間室R3の作動液の圧力が作用する第1加圧ピストン42の受圧面積(対ピストン間室受圧面積)、すなわち、第1加圧ピストン42の突出部60の後端面の面積と、第1加圧ピストン42を後方に移動させるべく対向室R5の作動液の圧力が作用する第1加圧ピストン42の受圧面積(対対向室受圧面積)、すなわち、第1加圧ピストン42の鍔56の前端面の面積とが、等しくされている。したがって、ブレーキペダル14を操作して入力ピストン46を前進させても、操作力、すなわち、反力室R6の圧力によっては、第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44は前進せず、マスタシリンダ16によって加圧された作動液がブレーキ装置12に供給されることはない。その一方で、入力室R4に高圧源装置22からの作動液の圧力が導入されると、その作動液の圧力に依存して第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44は前進し、入力室R4の作動液の圧力に応じた圧力に加圧された作動液が、ブレーキ装置12に供給される。つまり、本マスタシリンダ16によれば、通常状態(通常時)において、ブレーキペダル14に加えられた操作力に依存せずに高圧源装置22からマスタシリンダ16に供給される作動液の圧力、つまり、レギュレータ24からマスタシリンダ16に供給される作動液の圧力に依存した大きさのブレーキ力を、ブレーキ装置12が発生させるのである。
【0041】
本システムが搭載されている車両は、上述したようにハイブリッド車両であり、当該車 両においては、回生ブレーキ力が利用できる。そのため、ブレーキ操作に基づいて決定されるブレーキ力から回生ブレーキ力を減じた分のブレーキ力を、ブレーキ装置12によって発生させればよい。本システムは、上記高圧源圧依存制動力発生状態が実現されることから、ブレーキ操作力に依存しないブレーキ力をブレーキ装置12が発生させることができる。そのような作用から、本システムは、ハイブリッド車両に好適な液圧ブレーキシステムなのである。
【0042】
一方、電気的失陥時や、後に詳しく説明するラピッドスタート時等には、上記連通切換え弁72および低圧源遮断弁76は励磁されず、連通切換弁72は、閉弁状態、上記低圧源遮断弁76は、開弁状態とされ、ピストン間室R3は密閉されるとともに対向室R5は大気圧に開放される。その状態では、ブレーキペダル14に加えられた操作力は、ピストン間室R3の作動液を介して第1加圧ピストン42に伝達され、第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44は前進する。つまり、ブレーキペダル14に加えられた操作力に依存した大きさのブレーキ力をブレーキ装置12が発生させるのである。なお、入力室R4に、マスタ圧PMSTによって調圧された作動液がレギュレータ24から導入されれば、第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44は、レギュレータ24からマスタシリンダ16に供給される作動液の圧力と操作力との両方によって前進させられ、それら両方に依存した大きさのブレーキ力、つまり、レギュレータ24からマスタシリンダ16に供給される作動液の圧力に依存した大きさのブレーキ力と操作力に依存した大きさのブレーキ力とが足し合わされたブレーキ力をブレーキ装置12が発生させることになる。
【0043】
(d)高圧源装置
高圧源装置22は、リザーバ20から作動液を汲み上げるポンプ90と、そのポンプ90を駆動するポンプモータ92と、ポンプ90から吐出された作動液を加圧された状態で蓄えるアキュムレータ[ACC]94とを含んで構成される。ポンプモータ92は、アキュムレータ94に蓄えられている作動液の圧力(以下、「高圧源圧PACC」という場合がある。いわゆる「アキュムレータ圧」である。)が、高圧源圧センサ[PACC]96の検出値に基づいて、予め定められた範囲内にあるように制御される。
【0044】
(e)レギュレータ
i)レギュレータの構造
レギュレータ24は、自身に供給される作動液の液圧(パイロット圧)に応じて機械的に作動するパイロット式の圧力制御弁であり、そのパイロット圧に応じて高圧源装置22の液圧を調圧し、その調圧した作動液をマスタシリンダ16の入力室R4に供給するものである。
【0045】
レギュレータ24の構造について、図2をも参照しつつ、詳しく説明する。レギュレータ24は、大まかには、ハウジング100と、そのハウジング100内に設けられたスプール弁機構102およびパイロットピストン104とを含んで構成されている。図において左右に延びる中心軸線が、レギュレータ24の軸線、詳しく言えば、ハウジング100の軸線であり、軸線方向における右側を一端側、左側を他端側と呼ぶこととする。また、パイロットピストン104等の移動方向について、一端側に向かって動くことを前進,他端側に向かって動くことを後退と呼ぶ場合がある。
【0046】
スプール弁機構102は、スプール110と、そのスプール110を摺動可能に保持するスプール保持筒112とを備えている。スプール保持筒112は、ハウジング100内に嵌入され、ハウジング100の一端側に固定されている。つまり、そのスプール保持筒112をも含んでハウジングが構成されていると考えることもできる。
【0047】
スプール110の一端側には、スプール保持筒112およびハウジング100によって、調整圧室R8が区画形成されている。スプール弁機構102は、スプール110が他端側の移動端にある場合に、リザーバ20と調整圧室R8とを連通するとともに、高圧源装置22と調整圧室R8との連通を遮断する。そして、スプール110の一端側への移動によって、リザーバ20と調整圧室R8との連通を遮断するとともに、高圧源装置22と調整圧室R8とを連通するようになっている。以下に、スプール弁機構102の構成について詳しく説明する。
【0048】
スプール110は、スプール保持筒112の他端側から延び出しており、それらスプール110とスプール保持筒112との間に配設された圧縮コイルスプリングである離間スプリング114によって、他端側に向かって付勢されている。また、スプール110の他端側には、パイロットピストン104が配設されており、そのパイロットピストン104も、離間スプリング116によって他端側に向かって付勢されている。スプール110は、ハウジング110の他端に当接したパイロットピストン104に当接した位置が、可動範囲における他端側の移動端である。スプール110がその位置に位置する場合には、調整圧室R8は、スプール保持筒112に形成された内部ポート118,ハウジング100に形成された内部通路120等を介して、リザーバ20にマスタシリンダ16を介して連通させられた大気圧ポートP10に連通している。
【0049】
ハウジング100には、大気圧ポートP10のほかに、高圧源装置22から作動液が供給される高圧ポートP11、および、調整圧室R8の調圧された作動液をマスタシリンダ16の入力室R4に供給するための調整圧ポートP12が設けられている。スプール保持筒112には、それらポートP11,P12に連通するための内部ポート122,124が形成されている。なお、調整圧ポートP12に連通するための内部ポート124は、調整圧室R8に、内部通路によって調整圧室R8に連通している。そして、スプール110が他端側の移動端にある場合には、調整圧ポートP12に連通するための内部ポート124がスプール110の外周面で塞がれており、調整圧室R8と高圧源装置22との連通は遮断されている。
【0050】
そして、スプール110が一端側に移動することによって、スプール110の外周面に形成された凹所により2つの内部ポート122,124が連通させられる。つまり、調整圧室R8と高圧源装置22とが連通させられるのである。なお、その場合には、大気圧ポートP10に連通するための内部ポート118は、スプール110の外周面で塞がれ、調整圧室R8とリザーバ20との連通が遮断される。
【0051】
上記パイロットピストン104の他端側には、ハウジング100とによって、第1パイロット圧室R9が区画形成されている。第1パイロット圧室R9は、ハウジング100に形成された第1パイロット圧ポートP13,P14に、内部通路によって連通しており、図1からも解るように、それら第1パイロット圧ポートP13,P14のそれぞれを介して、マスタシリンダ16の第1加圧室R1,後輪のブレーキ装置12RL,12RRと連通している。したがって、第1パイロット圧室R9は、マスタシリンダ16からブレーキ装置12RL,12RRへの作動液の供給経路の一部となっている。つまり、第1パイロット圧室R9には、マスタシリンダ16から後輪側の車輪10RL,10RRに対応するブレーキ装置12RL,12RRに供給される作動液、つまり、マスタ圧PMSTの作動液が、第1パイロット圧PPLT1の作動液として導入される。したがって、パイロットピストン104は、第1パイロット圧室R9の作動液の圧力、すなわち、第1パイロット圧PPLT1の作用によって、スプール110とともに前進する構成とされている。
【0052】
また、パイロットピストン104は、一端側に有底穴130が形成されている。一方、スプール保持筒112の他端側は、一端側に比較して、外径の小さな小外径部132とされている。その小外径部130の外径は、有底穴130の直径と同じほぼ同じ大きさとされており、その有底穴130の内側に、スプール保持筒112の小外径部132が入り込んだ状態となっている。そして、パイロットピストン104とスプール110との間、詳しくは、パイロットピストン104の有底穴130と、スプール110およびスプール保持筒112の他端側の面とによって、第2パイロット圧室R10が区画形成されている。その第2パイロット圧室R10は、ハウジング100に形成された第2パイロット圧ポートP15,P16に連通しており、それら第2パイロット圧ポートP15,P16のそれぞれを介して、増圧リニア弁26,減圧リニア弁28と連通している。したがって、第2パイロット圧室R10には、それら増圧リニア弁26,減圧リニア弁28によって圧力が調整された作動液が、第2パイロット圧PPLT2の作動液として導入される。したがって、スプール110は、第2パイロット圧室R10の作動液の圧力、すなわち、第2パイロット圧PPLT2の作用によって前進する構成とされている。
【0053】
なお、パイロットピストン104には、内部に緩衝ピストン140が軸線方向に摺動可能に保持されている。その緩衝ピストン140は、圧縮コイルスプリングである緩衝スプリング142によって弾性的に支持されている。その緩衝ピストン140の先端側(一端側)の空間は、第2パイロット圧室R10と連通しており、その第2パイロット圧PPLT2に生じた圧力振動を抑える機能を有している。ちなみに、緩衝ピストン140が設けられたパイロットピストン104の内部空間は、大気圧ポートP10に連通しており、作動液の液圧は、常に大気圧とされている。
【0054】
スプール保持筒112の小外径部132の外周側には、パイロットピストン104およびハウジング100とによって、調整圧室R8と連通するもう1つの調整圧室R11が区画形成されている。つまり、パイロットピストン104は、その調整圧室R11の作動液の液圧によって、他端側へ向かう力が付与されるようになっている。以下の説明において、スプール110の一端側に設けられた調整圧室R8を、第1調整圧室R8と、パイロットピストン104の一端側に設けられた調整圧室R11を、第2調整圧室R11と呼ぶこととする。なお、それら調整圧室R8,R11と入力室R4とを連通させるべく、調整圧ポートP12と入力ポートP5とを繋ぐ液通路であるサーボ通路150には、レギュレータ24によって調圧されて入力室R4に供給される作動液の液圧であるサーボ圧PSRVを検出するサーボ圧センサ[PSRV]152が設けられている。
【0055】
また、ハウジング100には、内部通路によって高圧ポートP11と連通するもう1つの高圧ポートP17が設けられており、図1から解るように、この高圧ポートP17は増圧リニア弁26およびリリーフ弁154に連通している。さらに、ハウジング100には、内部通路によって大気圧ポートP10と連通するもう1つの大気圧ポートP18が設けられており、図1から解るように、この大気圧ポートP18は、リリーフ弁154に連通している。したがって、高圧源装置22からの高圧源圧PACCの作動液は、レギュレータ24を介して増圧リニア弁26に供給され、その高圧源圧PACCが設定以上の圧力となった場合に、高圧源装置22からの作動液は、レギュレータ24を介して、リザーバ20に流れるようにされている。
【0056】
ii)レギュレータの機能
本レギュレータ24では、増圧リニア弁26と減圧リニア弁28とによって第2パイロット圧室R10の作動液の圧力である第2パイロット圧PPLT2が増加させられた場合に、スプール110が、その第2パイロット圧PPLT2によって付勢されて他端側の移動端から一端側に移動する。この移動によって、スプール弁機構102が高圧源装置22と調整圧室R8,R11とを連通させることで、マスタシリンダ16の入力室R4に供給される作動液の圧力、すなわち、サーボ圧PSRVが上昇させられる。その一方で、サーボ圧PSRVの上昇で、調整圧室R8の作動液の圧力も上昇し、スプール110が、サーボ圧PSRVによって付勢される。つまり、第2パイロット圧PPLT2によってスプール110を前進させる力と、サーボ圧PSRVによってスプール110を後退させる力とがバランスする状態が維持されて、マスタシリンダ16に供給される作動液の圧力であるサーボ圧PSRVが第2パイロット圧PPLT2に応じた大きさに調圧される(第2状態)。なお、スプール110の第2パイロット圧室R10の液圧(第2パイロット圧PPLT2)を受ける受圧面積と、スプール110の第1調整圧室R8の液圧(サーボ圧PSRV)を受ける受圧面積とは、ほぼ等しくされており、サーボ圧PSRVは、第2パイロット圧PPLT2とほぼ同じ大きさに調圧される(厳密にいえば、サーボ圧PSRVは、第2パイロット圧PPLT2より僅かに小さくなる)。
【0057】
ちなみに、第1パイロット圧室R9には、マスタ圧PMSTの作動液が、第1パイロット圧PPLT1の作動液として導入されるが、マスタシリンダ16の増圧比、すなわち、サーボ圧PSRVに対するマスタ圧PMSTの比は、ほぼ1とされている。そして、パイロットピストン104には、第1パイロット圧室R9の液圧(第1パイロット圧PPLT1=マスタ圧PMST)による前進させる向きの力,第2パイロット圧室R10の液圧(第2パイロット圧PPLT2)による後退させる向きの力,第2調整圧室R11の液圧(サーボ圧PSRV)による後退させる向きの力が作用する。本レギュレータ24では、後退させる向きの力が、前進させる力より大きくなるため、パイロットピストン104は前進せず、第2パイロット圧PPLT2による調圧が行われている場合、第1パイロット圧PPLT1に依拠した力を、スプール110には作用させないようになっている。
【0058】
一方、電気的失陥やラピッドスタート時等には、第1パイロット圧PPLT1による調圧が行われる。また、この場合、第2パイロット圧室R10は、大気圧に開放されている。第1パイロット圧PPLT1の作動液として導入された作動液の圧力であるマスタ圧PMSTが増加した場合に、パイロットピストン104は、前進させられて、スプール110に当接した状態でそのスプール110とともに前進し、スプール110は他端側の移動端から一端側に移動する。この移動によって、スプール弁機構102が高圧源装置22と調整圧室R8,R11とを連通させることで、マスタシリンダ16の入力室R4に供給される作動液の圧力、すなわち、サーボ圧PSRVが上昇させられる。その一方で、サーボ圧PSRVの上昇で、第1調整圧室R8の作動液の圧力と、第2調整圧室R11の作動液の圧力も上昇し、パイロットピストン104およびスプール110が、サーボ圧PSRVによって付勢される。つまり、第1パイロット圧PPLT2によってパイロットピストン104およびスプール110を前進させる力と、サーボ圧PSRVによってパイロットピストン104およびスプール110を後退させる力とがバランスする状態が維持されて、マスタシリンダ16に供給される作動液の圧力であるサーボ圧PSRVが第1パイロット圧PPLT1に応じた大きさに調圧される(第1状態)。
【0059】
スプール110は、スプール保持筒112に対するクリアランスを狭めることで、作動液の液漏れを抑えるため、その外径は、比較的小さなものとされている。それに対して、パイロットピストン104の外径は、そのスプール110の外径により大きくされている。つまり、パイロットピストン104の他端側において第1パイロット圧PPLT1を受ける受圧面積AP_rは、スプール110のサーボ圧PSRVを受ける受圧面積ASPより大きくされているのである。そのため、パイロットピストン104を作動させるためのマスタ圧が大きくなることはない。一方で、パイロットピストン104の他端側において第1パイロット圧PPLT1を受ける受圧面積AP_rは、スプール110の第1調整圧室R8の液圧(サーボ圧PSRV)を受ける受圧面積ASPとパイロットピストン104の一端側において第2調整圧室R11の液圧(サーボ圧PSRV)を受ける受圧面積AP_f1とを足し合わせた面積と、ほぼ等しくされており、サーボ圧PSRVは、第1パイロット圧PPLT2とほぼ同じ大きさに調圧されるのである(厳密にいえば、サーボ圧PSRVは、第1パイロット圧PPLT2より僅かに小さくなる)。
【0060】
f)増圧リニア弁および減圧リニア弁
増圧リニア弁26,減圧リニア弁28は、一般的な電磁式リニア弁であり、構造の図示については省略する。増圧リニア弁26は、高圧源装置22とレギュレータ24との間に配設された常閉型の電磁式リニア弁であり、コイルに通電される励磁電流が大きくなるほど、開度(例えば、閉弁状態から開弁状態への移行のし易さ)が高くなり、開弁圧が高くなる。なお、増圧リニア弁26は、前後の差圧が一定である場合には、供給電流を大きくすれば、流量が大きくなる。一方、減圧リニア弁28は、レギュレータ24と低圧源であるリザーバ20との間に配設された常開型の電磁式リニア弁であり、コイルに通電される励磁電流が大きくなるほど、開度(例えば、閉弁状態から開弁状態への移行のし易さ)が低くなり、開弁圧が高くなる。
【0061】
増圧リニア弁26,減圧リニア弁28は、レギュレータ24を挟んで、詳しく言えば、レギュレータ24の第2パイロット圧室R10を挟んで、直列的に配置されており、増圧リニア弁26,減圧リニア弁28の各々に供給される励磁電流を制御することにより、第2パイロット圧室R10の作動液の圧力を制御することができるのである。このような増圧リニア弁26,減圧リニア弁28の機能によれば、本システムでは、それら増圧リニア弁26,減圧リニア弁28を含んで、作動液の液圧を制御によって任意の高さに調整して、その作動液を第2パイロット圧室R10に作動液を供給する液圧調整装置が構成されていると考えることができるのである。
【0062】
g)制御系
本システムの制御、つまり、ブレーキ制御は、ブレーキECU30によって行われる。ブレーキECU30は、大まかには、高圧源装置22(詳しくは、それが有するモータ92)の制御を行い、また、増圧リニア弁26および減圧リニア弁28の制御を行う。ブレーキECU30は、中心的な要素であるコンピュータと、高圧源装置22のモータ92,増圧リニア弁26,減圧リニア弁28等をそれぞれ駆動するための駆動回路(ドライバ)とを含んで構成されている。
【0063】
ブレーキECU30には、反力圧PRCT,高圧源圧PACC,サーボ圧PSRVを、制御に必要な情報として取得するため、上述の反力圧センサ86,高圧源圧センサ96,サーボ圧センサ152が接続されている。また、本システムには、ブレーキペダル14の操作量を検出するブレーキ操作量センサ[δPDL]160,ブレーキペダル14が踏み込まれているか否かを検出するためのブレーキスイッチ[SWBR]162,運転席側のドアの開閉状態を検出するためのドア開閉スイッチ[SWDR]164,イグニッションスイッチ[SWIG]166,車両の走行速度Vを検出する車速センサ[V]168等が接続されている。ちなみに、ブレーキスイッチ162は、ブレーキペダル14の操作量が設定量より小さい場合にOFFとされ、設定量以上となった場合にONとされる。また、ドア開閉スイッチ164は、ドアが閉状態にある場合にOFFとされ、開状態にある場合にONとされる。さらに、イグニッションスイッチ166は、ドア開閉スイッチ164のONや、ブレーキスイッチ162のONによって、OFFからONへの切換が許容されるようになっている。そして、本システムにおけるECU30による制御は、ここで挙げた各種のセンサの検出値に基づいて行われる。
【0064】
<液圧ブレーキシステムの作動>
(A)通常時における作動および制御(第2加圧状態,第2調圧状態)
本液圧ブレーキシステムが搭載された車両では、通常、ブレーキ操作量センサ160の検出値に基づいて取得されたブレーキ操作量δPDLと、反力圧センサの検出値PRCTに基づいて取得されたブレーキ操作力FPDLとの両者に基づいて、必要とされるブレーキ力である必要ブレーキ力が算出される。その必要ブレーキ力から回生ブレーキシステムで発生させられる回生ブレーキ力を減算したものが、必要液圧ブレーキ力として決定される。本液圧ブレーキシステムは、この必要液圧ブレーキ力を発生させるべく作動する。
【0065】
まず、マスタシリンダ16の作動に関して言えば、通常の状態では、先に説明したように、ECU30は、連通切換弁72および低圧源遮断弁76を励磁し、連通切換弁72を開弁状態、低圧源遮断弁76を閉弁状態とする(第2加圧状態)。ちなみに、図3に、本液圧ブレーキシステムの要部を模式的に示している。そして、入力室R4にレギュレータ24からの作動液の圧力を導入して、その作動液の圧力に依存して第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44を前進させ、入力室R4の作動液の圧力に応じた圧力に加圧された作動液(マスタ圧PMSTの作動液)を、ブレーキ装置12に供給する。つまり、通常状態においては、ECU30は、前述の必要液圧ブレーキ力を発生させるべく、入力室R4の液圧、つまり、サーボ圧PSRVを制御するのである。つまり、ECU30は、レギュレータ24の第2パイロット圧PPLT2を制御して、調整圧室R8の液圧を第2パイロット圧PPLT2に応じた大きさに調圧することで、サーボ圧PSRVを制御する第2調圧状態を実現するのである。なお、以下の説明においては、第2加圧状態、かつ、第2調圧状態である状態を、第2状態と呼ぶ場合がある。
【0066】
また、この第2状態においては、ピストン間室R3(反力室R6)は、ストロークシミュレータ48に連通させられているため、ブレーキペダル14の操作フィーリングは、そのストロークシミュレータ48によって決まる。
【0067】
ECU30は、必要液圧ブレーキ力に基づいて目標サーボ圧PSRVを決定し、サーボ圧センサ152の検出値に基づいて取得される実サーボ圧PSRVが目標サーボ圧となるように、それら目標サーボ圧PSRVと実サーボ圧PSRVとの偏差ΔPSRVに基づくフィードバック制御を行うようになっている。具体的には、偏差ΔPSRVが、増圧閾値ΔPより大きい場合には増圧モードとされ、減圧閾値ΔPより小さい場合には減圧モードとされ、減圧閾値ΔP以上かつ増圧閾値ΔP以下である場合には保持モードとされる。
【0068】
増圧モードでは、減圧リニア弁28が閉弁され、増圧リニア弁26の制御によって、第2パイロット圧室R10に作動液を供給し、第2パイロット圧PPLT2が増加させられる。その増圧リニア弁26への供給電流ISLAが、前後の差圧に応じた開弁電流ISLA-OPENと、上記の偏差ΔPSRVとに基づいて、次式に従って決定される。
SLA=ISLA-OPEN+KSLA・ΔPSRVSLA:制御ゲイン
なお、前後の差圧は、例えば、高圧源圧センサ96の検出値と第2パイロット圧室圧PPLT2(実サーボ圧PSRV)との差から求めることができ、開弁電流ISLA-OPENは、その差圧と開弁電流ISLA-OPENとの関係を示すマップデータから求めるようにすることができる。
【0069】
減圧モードでは、増圧リニア弁26が閉弁され、減圧リニア弁28の制御によって、第2パイロット圧PPLT2が低下させられる。その減圧リニア弁28の供給電流ISLRが、前後の差圧に応じた開弁電流ISLR-OPENと、上記の偏差ΔPSRVとに基づいて、次式に従って決定される。
SLR=ISLR-OPEN−KSLR・ΔPSRVSLR:制御ゲイン
【0070】
また、保持モードでは、増圧リニア弁26,減圧リニア弁28が閉状態とされ、第2パイロット圧PPLT2が維持される。なお、その際の増圧リニア弁26,減圧リニア弁28への供給電流は、第2パイロット圧が目標サーボ圧に応じた大きさに達した場合の差圧作用力が作用しても閉状態を保持し得る大きさとされる。ちなみに、増圧モードにおける減圧リニア弁28への供給電流、および、減圧モードにおける増圧リニア弁26への供給電流も同様である。
【0071】
(B)失陥時における作動
一方、電気的失陥時には、ECU30による制御は行われない。つまり、連通切換弁72および低圧源遮断弁76は励磁されず、連通切換弁72が閉弁状態、低圧源遮断弁76が開弁状態とされる(第1加圧状態)。つまり、ブレーキペダル14に加えられた操作力を、ピストン間室R3の作動液を介して第1加圧ピストン42に伝達させ、ブレーキペダル14に加えられた操作力に依存した大きさのブレーキ力をブレーキ装置12が発生させるのである。なお、出力ポートP3からは、ブレーキ操作力に依存して加圧された作動液が供給される。その加圧された作動液が、レギュレータ24の第1パイロット圧室R9に導入されることにより、レギュレータ24では、第1パイロット圧PPLT1(マスタ圧PMST)による調圧が行われ(第1調圧状態)、アキュムレータ94に高圧の作動液が残存している限り、マスタ圧MSTに応じたサーボ圧PSRVの作動液がレギュレータ24からマスタシリンダ16の入力室R4に供給される。その供給により、ブレーキ操作力と高圧源装置22から供給されてレギュレータ24によって調圧された作動液の圧力との両方に依存した大きさのブレーキ力が、各車輪10のブレーキ装置12において発生させられることになる。なお、以下の説明においては、第1加圧状態、かつ、第1調圧状態である状態を、第1状態と呼ぶ場合がある。ちなみに、アキュムレータ94に高圧の作動液が残存しなくなった後は、ブレーキ操作力に依存して、各車輪10のブレーキ装置12は、ブレーキ力を発生させることになる。
【0072】
また、この第1状態において、ブレーキペダル14の操作フィーリングは、2つの加圧ピストン42,44の間に配設されたリターンスプリング180,第2加圧ピストン44とハウジング40との間に配設されたリターンスプリング182等によって決まる。
【0073】
(C)正常時における第1状態と第2状態との切換
また、本車両においては、本液圧ブレーキシステムが正常である場合には、イグニッションスイッチ166がOFFである場合には第1状態にあり、ONである場合に第2状態とされる。ただし、後に説明する条件を満たしてECU30に通電されると、プログラムの読み込みやイニシャルチェック等のECU30の実行のための準備が行われ、その準備が完了した後に、第1状態から第2状態へ切り換えるための切換指令が出される。そして、連通切換弁72を開状態に、低圧源遮断弁76を閉状態とすべく、それら連通切換弁72および低圧源遮断弁76に電流が供給されるとともに、入力室R4の液圧の制御が開始される。
【0074】
また、図4(a)に示すように、イグニッションスイッチ166がOFFである状態において、ドア開閉スイッチ164がOFFからONに切り換えられたことを条件として、ECU30への通電が開始される。そして、上述したように、ECU30の実行のための準備が完了した後に、第1状態から第2状態に切り換えられる。なお、ECU30への通電から第2状態とされるまでには、通常、準備時間Tsを要する。運転者は、運転席側のドアを開けて乗車し、ブレーキペダル14を踏み込んでイグニッションスイッチ166をONとするのが通常である。そして、上記の準備時間Tsは、運転者がドアを開けてからブレーキペダル14を踏み込むまでの一般的な時間より短い。つまり、第2状態となった後に、ブレーキペダル14が踏み込まれることになり、その後、イグニッションスイッチ166がONとされる。
【0075】
それに対して、図4(b)に示すように、運転席側のドアが閉状態から開状態に切り換えられて、ECU30への通電が開始されて第2状態に切り換えられたとしても、設定されたリセット時間Tfが経過するまでの間に、イグニッションスイッチ166がONにされなかった場合には、ECU30への通電が切られ、第1状態に戻されるようになっている。例えば、運転席側のドアを開けても運転者がすぐに乗車しなかった場合や、運転者が乗車してもイグニッションスイッチ166がすぐにONとされなかった場合などが該当する。そのような場合においては、ブレーキスイッチ162がOFFからONに切り換えられたことを条件として、ECU30への通電が開始され、第1状態から第2状態への切換指令が出されるのである(ラピッドスタート)。
【0076】
また、図4(c)に示すように、イグニッションスイッチ166がONからOFFに切り換えられてからリセット時間Tfが経過すると、ECU30への通電が切られ、第1状態に戻される。その後、運転者が降車することなくリセット時間Tf以上が経過し、再び車両を起動させるような場合があるが、そのような場合にも、ブレーキスイッチ162がOFFからONに切り換えられたことを条件として、ECU30への通電が開始され、第1状態から第2状態への切換指令が出されるのである。
【0077】
図4(b),(c)に示すラピッドスタート時について、つまり、ブレーキペダル14が踏み込まれた状態で、第1状態から第2状態に切り換える場合を考える。まず、ECU30が非通電の状態、つまり、連通切換弁72が閉弁状態、低圧源遮断弁76が開弁状態で、ブレーキペダル14が踏み込まれたことで、ブレーキペダル14に加えられた操作力に依存した大きさのブレーキ力をブレーキ装置12が発生させる。また、ブレーキペダル14が踏み込まれたことを条件としてECU30への通電が開始されたため、高圧源装置22が作動してレギュレータ24に高圧の作動液が供給される。つまり、ブレーキ操作力に依存して加圧された作動液が、レギュレータ24の第1パイロット圧室R9に導入され、レギュレータ24では、第1パイロット圧PPLT1(マスタ圧PMST)による調圧が行われる。そして、マスタ圧MSTに応じたサーボ圧PSRVの作動液がレギュレータ24からマスタシリンダ16の入力室R4に供給される。その供給により、ブレーキ操作力とレギュレータ24によって調圧された作動液の圧力との両方に依存した大きさのブレーキ力が、各車輪10のブレーキ装置12において発生させられることになる。
【0078】
次いで、上記の第1状態から第2状態に切り換えるのであるが、すでに、ブレーキ操作力とレギュレータ24によって調圧された作動液の圧力との両方に依存した大きさのブレーキ力を発生させているため、レギュレータ24によって調圧された作動液の圧力のみに依存した大きさのブレーキ力を発生させる状態とする際に問題が生じる。
【0079】
まず、先にも説明したように、第1状態におけるブレーキペダル14の操作フィーリングは、リターンスプリング180,182等によって決まり、第2状態におけるブレーキペダル14の操作フィーリングは、ストロークシミュレータ48によって決まる。そのため、第1状態から第2状態への切換の際に、操作フィーリングが変化し、運転者に違和感を与えてしまうのである。
【0080】
また、第1状態においては、ピストン間室R3の液圧はブレーキペダル14に加えられた操作力に応じた大きさにあり、対向室R5の液圧はほぼ大気圧(リザーバ20の液圧)にある。そして、従来のように、すぐに連通切換弁72によってピストン間室R3と対向室R5とが連通させられると、ピストン間室R3の液圧が急激に低下し、ブレーキペダル14に加えられる反力が小さくなる。つまり、運転者が一定の力でブレーキペダル14を踏み込んでいれば、ブレーキペダル14の入り込みが生じるのである。
【0081】
(D)加圧状態切換制御
そこで、本液圧ブレーキシステムでは、ブレーキペダル14が踏み込まれた状態で第1状態から第2状態に切り換える場合に、上述のような不具合を軽減するために、加圧状態切換制御が実行されるようになっている。その加圧状態切換制御は、第1加圧状態のまま液圧調整装置(増圧リニア弁26および減圧リニア弁28)を制御して第2パイロット圧PPLT2を増加させ、レギュレータ24が第1調圧状態から第2調圧状態に切り換わった後、第2パイロット圧PPLT2の増加に伴うサーボ圧PSRVの変化に基づいて、低圧源遮断弁76の開状態から閉状態への切換、および、連通切換弁72の閉状態から開状態への切換を、それぞれ行う制御である。
【0082】
i)第2パイロット圧増圧開始
後に詳しく説明する条件を満たし加圧状態切換制御が開始されると、まず、ECU30は、減圧リニア弁28を閉弁し、増圧リニア弁26を制御して、第2パイロット圧室R10に作動液を供給し、第2パイロット圧PPLT2を増加させる。その際の増圧リニア弁26への供給電流ISLAは、操作量センサ160によって検出されたブレーキペダル14の操作量δPDLに応じて決定され、操作量δPDLが大きくなるほど、大きな値とされる。そして、第2パイロット圧を増加させていくと、レギュレータ24においては、パイロットピストン104がスプール110から離間し、第1調圧状態から第2調圧状態に切り換わるのである。
【0083】
しかしながら、本レギュレータ24は、パイロットピストン104の一端側において第2パイロット圧PPLT2を受ける面積AP_f2が、スプール110の他端側において第2パイロット圧PPLT2を受ける受圧面積ASPより大きくされている。そのため、第2パイロット圧PPLT2を上昇させていくと、スプール110を前進させる向きの力が、サーボ圧PSRVによってスプール100を後退させる向きの力と釣り合う前に、パイロッピストン104を後退させる向きの力が、マスタ圧PMSTによってパイロットピストン104を前進させる向きの力を超え、パイロットピストン104が後退し始めることになる。それとともに、スプール110が後退することになるのである。つまり、本レギュレータ24においては、スプール110の後退によって、サーボ圧PSRVが低下してしまうのである。
【0084】
また、マスタシリンダ24においては、サーボ圧PSRVが低下すると、第1加圧ピストン42を前進させる力が低下するため、第1加圧ピストン42も後退することになる。つまり、ピストン間室R3の液圧が高くなって、ブレーキペダル14への反力が大きくなり、運転者に違和感を与えてしまう。そこで、本液圧ブレーキシステムは、ブレーキペダル14に制動力を低下させる操作がなされた状況下において、加圧状態切換制御を開始するようになっている。つまり、上述のサーボ圧の低下に伴うブレーキペダル14への反力の増大を、運転者に違和感として与えないように、加圧状態切換制御が、ブレーキペダル14を踏み込んだ状態から戻している過程で実行されるようになっているのである。
【0085】
なお、ブレーキペダル14に制動力を低下させる操作がなされた状況下にあるか否かは、本液圧ブレーキシステムでは、車速センサ168によって検出された車速Vが設定値V0(例えば、1.0km/h)を超えたか否かによって判定される。詳しくは、車速Vが設定値V0を超えた場合、あるいは、に、ブレーキペダル14に制動力を低下させる操作がなされた状況下にあるとして、加圧状態切換制御が開始されるようになっている。なお、ブレーキペダル14に制動力を低下させる操作がなされた状況下にあるか否かは、ブレーキペダル14の操作量が減少したか否かによって判定されてもよく、サーボ圧PSRVが低下したか否かによって判定されるようにしてもよい。
【0086】
ii)低圧源遮断弁の切換
次いで、ECU30は、低圧源遮断弁76の開状態から閉状態への切換を行う。詳しくは、ECU30は、サーボ圧センサ152によって検出されたサーボ圧PSRVを監視し、そのサーボ圧PSRVの低下が治まったことを条件として、低圧源遮断弁76に電流を供給して、開状態から閉状態へ切り換えるのである。なお、本システムでは、サーボ圧PSRVの低下が治まったか否かは、サーボ圧PSRVが増加し始めたか否かによって判定され、サーボ圧PSRVの増加量が設定値より大きくなった場合にサーボ圧PSRVの低下が治まったとして、低圧源遮断弁76が開状態から閉状態へ切り換えられる。なお、サーボ圧PSRVの低下が治まったか否かは、サーボ圧PSRVの低下勾配が設定値より小さくなったか否かによって判定されるようにしてもよい。
【0087】
例えば、サーボ圧PSRVが低下する前に低圧源遮断弁76を閉状態とした場合を考える。その場合、マスタシリンダにおいては、対向室R5が閉じられた状態となっており、サーボ圧の低下によって第1加圧ピストン42が後退すると、対向室R5の容積が増加することになる。つまり、第1加圧ピストン42の後退によって、対向室R5の液圧が低下し、ピストン間室R3と対向室R5との液圧差が大きくなってしまうのである。そして、その状態で、次の連通切換弁の閉状態から開状態への切換を行うと、ピストン間室R3の液圧の低下が大きく、ブレーキペダル14の入り込みも大きくなってしまうのである。
【0088】
それに対して、本液圧ブレーキシステムは、上述したように、サーボ圧の低下が治まった後に、低圧源遮断弁76を閉状態して対向室R5を閉じた状態とするため、対向室R5の液圧が低下しないようになっているのである。
【0089】
また、ECU30は、低圧源遮断弁76への通電とともに、先に説明した第2パイロット圧PPLT2のフィードバック制御を開始する。ただし、連通切換弁72は閉状態とされており、ピストン間室R3がストロークシミュレータ48に連通させられていないため、反力圧センサの検出値PRCTに基づいて取得されるブレーキ操作力FPDLを用いず、ブレーキ操作量センサ160の検出値に基づいて取得されたブレーキ操作量δPDLのみに基づいて、必要ブレーキ力が算出されるようになっている。
【0090】
iii)連通切換弁の切換(第2加圧状態への切換)
次いで、ECU30は、連通切換弁72の閉状態から開状態への切換を行う。詳しくは、サーボ圧センサ152によって検出された実サーボ圧PSRVが、上記必要ブレーキ力に基づいて決定された目標サーボ圧PSRVに達したことを条件として、連通切換弁72に電流を供給して、閉状態から開状態へ切り換えるのである。つまり、本液圧ブレーキシステムは、連通切換弁72と低圧源遮断弁76との両者を閉状態として、サーボ圧PSRVをフィードバック制御における目標サーボ圧PSRVまで上昇させるため、第1加圧ピストン42を前進させ、対向室R5の液圧を上昇させることができる。つまり、ピストン間室R3と対向室R5との液圧差を小さくした後に、連通切換弁72を開状態として、それらピストン間室R3と対向室R5とを連通させるため、ピストン間室R3の液圧低下を抑制することが可能である。したがって、本液圧ブレーキシステムによれば、ピストン間室R3と対向室R5とを連通させた時のブレーキペダル14の反力の変化を抑制することができ、運転者へ与える違和感を軽減することができるのである。
【0091】
(E)制御プログラム
本実施例の液圧ブレーキシステムの制御は、ECU30が、マスタシリンダ16の加圧状態の切換、詳しくは、連通切換弁72および低圧源遮断弁76の切換を、図6に示すマスタ状態切換プログラムを実行するとともに、サーボ圧PSRVの制御を、図7にフローチャートを示すサーボ圧制御プログラムを実行することによって行われる。なお、これらのプログラムは、短い時間ピッチ(例えば、数μsec〜数十μsec)で繰り返し実行される。
【0092】
これらのプログラムにおいては、レギュレータ24の制御状態を示すフラグである調圧状態フラグFLREGと、マスタシリンダ16の加圧状態を示すフラグである加圧状態フラグFLMSTとが用いられる。調圧状態フラグFLREGは、第2パイロット圧PPLT2が制御されていない間は、フラグ値が0とされており、第2パイロット圧PPLT2の増圧が開始されると、フラグ値が1とされ、フィードバック制御が開始されると、フラグ値が2とされるものである。また、加圧状態フラグFLMSTは、第1加圧状態にある間は、フラグ値が0とされており、低圧源遮断弁76が閉状態に切り換えられると、フラグ値が1とされ、さらに、連通切換弁72が開状態とされて第2加圧状態に切り換えられると、フラグ値が2とされるものである。
【0093】
マスタ状態切換プログラムでは、まず、ステップ1(以下、「ステップ」を「S」と省略する)において、第1状態から第2状態へ切り換えるための切換指令が出されているか否かが判定され、切換指令が出さるまでは、第1状態にあり、S3以下の処理がスキップされ、S2において、調圧状態フラグFLREGのフラグ値が0とされるとともに、加圧状態フラグFLMSTのフラグ値が0とされる。
【0094】
切換指令が出されている場合には、まず、S3において、第2加圧状態にあるか否かが、加圧状態フラグFLMSTのフラグ値が2か否かにより判定され、S4において、ブレーキ操作がなされているか否かが、ブレーキスイッチ162がONとなっているか否かにより判定される。加圧状態フラグFLMSTのフラグ値が2である場合は、すでに第2加圧状態とされており、S14において、連通切換弁72および低圧源遮断弁76への通電が継続される。なお、加圧状態フラグFLMSTのフラグ値が2でなくても、ブレーキスイッチ162がOFFである場合には、加圧状態切換制御の必要がないため、第2加圧状態に切り換えられる。つまり、S14において、連通切換弁72および低圧源遮断弁76への通電が開始され、S15において、加圧状態フラグFLMSTのフラグ値が2とされる。
【0095】
また、加圧状態フラFLMSTのフラグ値が2ではなく、かつ、ブレーキスイッチ162がONである場合には、S5において、車速センサ168によって検出された車速Vが設定値V0を超えたか否かによって、制動力を低下させるブレーキ操作がなされたか否かが判定される。車速Vが設定値V0以下である場合には、まだ加圧状態切換制御は開始されず、S6以下の処理はスキップされる。そして、車速Vが設定値V0を超えた場合に、S6以下において、加圧状態切換制御が実行される。
【0096】
S6以下における加圧状態切換制御では、まず、S6において、ブレーキ操作量センサ160によって検出されたブレーキ操作量δPDLに基づいて目標サーボ圧PSRVが決定され、S7において、サーボ圧センサ152の検出値から実サーボ圧PSRVが取得される。次いで、S8において、加圧状態フラグFLMSTのフラグ値が1であるか否かの判定が行われる。加圧状態フラグFLMSTのフラグ値が1でない、つまり、フラグ値が0である場合には、S9において、サーボ圧PSRVの低下が治まったか否かの判定が、サーボ圧PSRVの増加量(前回のプログラム実行時からの増加量)が設定値より大きくなったか否かによって判定される。サーボ圧PSRVの低下が治まっていない場合には、S10において、調圧状態フラグFLREGのフラグ値が1とされ、1回のマスタ状態切換プログラムの実行が終了する。
【0097】
S9において、サーボ圧PSRVの増加量が設定値より大きくなった場合には、S11において、低圧源遮断弁76への通電が開始され、低圧源遮断弁76が閉状態とされる。また、S12において、加圧状態フラグFLMSTのフラグ値が1とされ、1回のマスタ状態切換プログラムの実行が終了する。
【0098】
S8において、加圧状態フラグFLMSTのフラグ値が1である場合には、S13において、実サーボ圧PSRVが目標サーボ圧PSRV以上となったか否かが判定される。実サーボ圧PSRVが目標サーボ圧PSRVに達していない場合には、S11以下において、低圧源遮断弁76のみへの通電が継続して行われる。一方、実サーボ圧PSRVが目標サーボ圧PSRVに達した場合には、S14において、連通切換弁72への通電も開始され、第2加圧状態とされるのである。また、S15において、加圧状態フラグFLMSTのフラグ値が2とされ、1回のマスタ状態切換プログラムの実行が終了する。
【0099】
次に、サーボ圧制御プログラムでは、まず、S21において、調圧状態フラグFLREGのフラグ値が確認され、フラグ値が0である場合には、サーボ圧PSRVの制御、つまり、第2パイロット圧PPLT2の制御が開始されていないため、S22において、増圧リニア弁26の目標供給電流ISLAおよび減圧リニア弁28の目標供給電流ISLRが0とされる。
【0100】
S21において、調圧状態フラグFLREGのフラグ値が1である場合には、S23,S24において、加圧状態フラグFLMSTのフラグ値が確認される。加圧状態フラグFLMSTのフラグ値が0である場合には、S25において、増圧リニア弁26の目標供給電流ISLAが、ブレーキ操作量δPDLに応じて決定され、S26において、減圧リニア弁28の目標供給電流ISLRが、第2パイロット圧PPLT2が上昇しても開弁しないように設定された電流ISLR0とされる。
【0101】
また、加圧状態フラグFLMSTのフラグ値が1である場合には、S27において、操作量δPDLに基づいて必要ブレーキ力が決定され、加圧状態フラグFLMSTのフラグ値が2である場合には、S28において、操作量δPDLおよび操作力FPDLに基づいて必要ブレーキ力が決定される。次いで、S30において、それら必要ブレーキ力から回生ブレーキ力を減算して、必要液圧ブレーキ力が決定され、S31において、フィードバック制御によって、増圧リニア弁26の目標供給電流ISLAおよび減圧リニア弁28の目標供給電流ISLRが決定される。そして、S31において、増圧リニア弁26および減圧リニア弁28に、目標供給電流ISLA,目標供給電流ISLRが供給され、サーボ圧制御プログラムの実行が終了する。
【符号の説明】
【0102】
10:車輪 12:ブレーキ装置 14:ブレーキペダル〔ブレーキ操作部材 16:マスタシリンダ 18:アンチロックユニット[ABS] 20:リザーバ〔低圧源〕 22:高圧源装置〔高圧源〕 24:レギュレータ 26:増圧リニア弁[SLA] 28:減圧リニア弁[SLR] 30:ブレーキ電子制御ユニット〔制御装置〕[ECU] 40:ハウジング 42:第1加圧ピストン 44:第2加圧ピストン 46:入力ピストン 48:ストロークシミュレータ 50:区画部 56:鍔 58:本体部 60:突出部 70:連通路 72:連通切換弁 74:低圧路 76:低圧源遮断弁 86:反力圧センサ[PRCT] 96:高圧源圧センサ[PACC] 100:ハウジング 102:スプール弁機構〔弁機構〕 104:パイロットピストン 110:スプール〔弁体〕 112:スプール保持筒 152:サーボ圧センサ[PSVR] 160:ブレーキ操作量センサ[δPDL] 162:ブレーキスイッチ[SWBR] 164:ドア開閉スイッチ[SWDR] 166:イグニッションスイッチ[SWIG] 168:車速センサ[V] R1:第1加圧室 R2:第2加圧室 R3:ピストン間室 R4:入力室 R5:対向室 R6:反力室(ピストン間室&対向室) R7:バッファ室 R8:第1調整圧室 R9:第1パイロット圧室 R10:第2パイロット圧室 R11:第2調整圧室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7