【実施例】
【0031】
<液圧ブレーキシステムの構成>
(a)全体構成
請求可能発明の実施例である車両用液圧ブレーキシステムは、ハイブリッド車両に搭載され、ブレーキオイルを作動液とする液圧ブレーキシステムである。本液圧ブレーキシステムは、
図1に示すように、大まかには、(a) 4つの車輪10に設けられ、それぞれがブレーキ力を発生させる4つのブレーキ装置12と、(b) ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル14の操作が入力されるとともに、加圧された作動液を各ブレーキ装置12に供給するマスタシリンダ16と、(c) マスタシリンダ16と4つのブレーキ装置12の間に配置されたアンチロックユニット18〔ABS〕と、(d) 作動液を低圧源であるリザーバ20から汲み上げて加圧することにより、高圧の作動液を供給する高圧源装置22と、(e) 高圧源装置22から供給される作動液を調圧してマスタシリンダ16に供給するレギュレータ24と、(f) レギュレータ24に供給される作動液の圧力を調整するための電磁式の増圧リニア弁[SLA]26および減圧リニア弁[SLR]28と、(g) それらの装置,機器,弁を制御することで当該液圧ブレーキシステムの制御を司る制御装置としてのブレーキ電子制御ユニット[ECU]30とを含んで構成されている。なお、4つの車輪10は、左右前後を表わす必要のある場合に、右前輪10FR,左前輪10FL,右後輪10RR,左後輪10RLと表わすこととする。また、4つのブレーキ装置12等の構成要素も、左右前後を区別する必要がある場合に、車輪10と同様の符号を付して、12FR,12FL,12RR,12RL等と表わすこととする。ちなみに、[ ]の文字は、図面において表わす場合に用いる符号である。
【0032】
(b)ブレーキ装置およびABSユニット
各車輪10に対応して設けられたブレーキ装置12は、車輪10とともに回転するディスクロータ,キャリアに保持されたキャリパ,キャリパに保持されたホイールシリンダ,キャリパに保持されてそのホイールシリンダによって動かされることでディスクロータを挟み付けるブレーキパッド等を含んで構成されたディスクブレーキ装置である。また、ABSユニット18は、各車輪に対応して設けられて対をなす増圧用開閉弁および減圧用開閉弁,ポンプ装置等を含んで構成されたユニットであり、スリップ現象等によって車輪10がロックした場合に作動させられて、車輪のロックが持続することを防止するための装置である。
【0033】
(c)マスタシリンダ
i)マスタシリンダの構造
マスタシリンダ16は、ストロークシミュレータ一体型のマスタシリンダであり、概して言えば、ハウジング40の内部に、2つの加圧ピストンである第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44,入力ピストン46が配設されるとともに、ストロークシミュレータ機構48が組み込まれている。なお、マスタシリンダ16に関する以下の説明において、便宜的に、図における左方を前方,右方を後方と呼び、同様に、後に説明するピストン等の移動方向について、左方に動くことを前進,右方に動くことを後退と呼ぶこととする。
【0034】
ハウジング40は、第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44,入力ピストン46が配設される空間を有し、その空間は、前方側の端部が閉塞されるとともに、環状をなす区画部50によって前方室52と後方室54とに区画されている。第2加圧ピストン44は、前方に開口する有底円筒状をなしており、前方室52内において前方側に配設される。一方、第1加圧ピストン42は、有底円筒状をなすとともに後端に鍔56が形成された本体部58と、本体部58から後方に延びる突出部60とを有しており、本体部58が、前方室52内において第2加圧ピストン44の後方に配設されている。区画部50は、環状をなしていることから中央に開口62が形成されたものとされており、突出部60は、その開口62を貫通して後方室54に延び出している。入力ピストン46は、後方室54に、詳しく言えば、それの一部分が後方から後方室54の内部に臨み入るようにして、配設され、後方に配置されたブレーキペダル14が、リンクロッド64を介して、入力ピストン46に連結されている。
【0035】
第1加圧ピストン42と第2加圧ピストン44との間には、詳しく言えば、第1加圧ピストン42の本体部58の前方には、2つの後輪10RR,10RLに対応する2つのブレーキ装置12RR,12RLに供給される作動液が第1加圧ピストン42の前進によって加圧される第1加圧室R1が、第2加圧ピストン44の前方側には、2つの前輪10FR,10FLに対応する2つのブレーキ装置12FR,12FLに供給される作動液が第2加圧ピストン44の前進によって加圧される第2加圧室R2が、それぞれ形成されている。一方、第1加圧ピストン42と入力ピストン46との間には、ピストン間室R3が形成されている。詳しく言えば、区画部50に形成された開口62から後方に延び出す突出部60の後端と、入力ピストン46の前端とが向かい合うようにして、つまり、開口62を利用して第1加圧ピストン42と入力ピストン46とが向かい合うようにして、ピストン間室R3が形成されているのである。さらに、ハウジング40の前方室52内には、突出部60の外周において、区画部50の前端面と、第1加圧ピストン42の本体部58の後端面、つまり、鍔56の後端面とによって区画されるようにして、レギュレータ24から供給される作動液が導入される環状の入力室R4が形成されている。さらにまた、本体部58の外周において、鍔56の前方に、その鍔56を挟んで入力室R4と対向する環状の対向室R5が形成されている。
【0036】
第1加圧室R1,第2加圧室R2は、それぞれ、第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44が移動範囲における後端に位置する際に、大気圧ポートP1,P2を介してリザーバ20と連通可能とされており、また、それぞれ、出力ポートP3,P4を介するとともにABSユニット18を介して、ブレーキ装置12と連通させられている。ちなみに、第1加圧室R1は、後に説明するレギュレータ24をも介してブレーキ装置12RR,12RLと連通させられている。なお、入力室R4は、入力ポートP5を介して、後に説明するレギュレータ24の調整圧ポートと連通させられている。
【0037】
ピストン間室R3は、連通ポートP6と、対向室R5は、連通ポートP7と、それぞれ連通しており、それら連通ポートP6と連通ポートP7は、外部連通路である連通路70によって繋げられている。この連通路70の途中には、常閉型の電磁式開閉弁72、つまり、非励磁状態で閉弁状態となり、励磁状態で開弁状態となる開閉弁72が設けられており、開閉弁72が開弁状態とされた場合に、ピストン間室R3と対向室R5は連通させられる。それらピストン間室R3と対向室R5とが連通する状態では、それらによって、1つの液室、すなわち、反力室R6と呼ぶことのできる液室が形成されていると考えることができる。なお、開閉弁72は、ピストン間室R3と対向室R5との連通,非連通を切換える機能を有することから、以下、「連通切換弁72」と呼ぶこととする。
【0038】
また、マスタシリンダ16には、さらに2つの大気圧ポートP8,P9が設けられており、それらは、内部通路にて連通している。一方の大気圧ポートP8はリザーバ20に繋げられており、他方の大気圧ポートP9は、外部連通路である低圧路74を介して、連通切換弁72と対向室R5との間において連通路70に繋げられている。低圧路74には、常開型の電磁式開閉弁76、つまり、非励磁状態で開弁状態となり、励磁状態で閉弁状態となる開閉弁76が設けられている。この開閉弁76は、対向室R5をリザーバ20との連通を遮断する機能を有することから、以下、「低圧源遮断弁76」と呼ぶこととする。
【0039】
ハウジング40は、第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44,入力ピストン46が配設されている空間とは別の空間を有しており、ストロークシミュレータ機構48は、その空間と、その空間内に配設された反力ピストン80と、反力ピストン80を付勢する2つの反力スプリング82,84(いずれも圧縮コイルスプリングである)とを含んで構成されている。反力ピストン80の後方側には、バッファ室R7が形成されている(図では、殆ど潰れた空間として表わされている)。ブレーキペダル14の操作によって入力ピストン46が前進する際、バッファ室R7には、内部通路を介して、対向室R5の作動液、すなわち、反力室R6の作動液が導入され、その導入される作動液の量、すなわち、入力ピストン46の前進量に応じた反力スプリング82,84の弾性反力が反力室R6に作用することで、ブレーキペダル14に操作反力が付与される。また、本システムでは、連通路70に、反力室R6の作動液の圧力(以下、「反力圧P
RCT」という場合がある。)を検出するもの、つまり、ブレーキペダル14に対する反力(ブレーキペダル12に加えられた操作力と考えることもできる。)を検出するための反力圧センサ[P
RCT]86が設けられている。
【0040】
ii)マスタシリンダの機能
通常の状態では、上記連通切換弁72は、開弁状態、上記低圧源遮断弁76は、閉弁状態にあり、ピストン間室R3と対向室R5とによって、上記反力室R6が形成されている。本マスタシリンダ16では、第1加圧ピストン42を前方に移動させるべくピストン間室R3の作動液の圧力が作用する第1加圧ピストン42の受圧面積(対ピストン間室受圧面積)、すなわち、第1加圧ピストン42の突出部60の後端面の面積と、第1加圧ピストン42を後方に移動させるべく対向室R5の作動液の圧力が作用する第1加圧ピストン42の受圧面積(対対向室受圧面積)、すなわち、第1加圧ピストン42の鍔56の前端面の面積とが、等しくされている。したがって、ブレーキペダル14を操作して入力ピストン46を前進させても、操作力、すなわち、反力室R6の圧力によっては、第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44は前進せず、マスタシリンダ16によって加圧された作動液がブレーキ装置12に供給されることはない。その一方で、入力室R4に高圧源装置22からの作動液の圧力が導入されると、その作動液の圧力に依存して第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44は前進し、入力室R4の作動液の圧力に応じた圧力に加圧された作動液が、ブレーキ装置12に供給される。つまり、本マスタシリンダ16によれば、通常状態(通常時)において、ブレーキペダル14に加えられた操作力に依存せずに高圧源装置22からマスタシリンダ16に供給される作動液の圧力、つまり、レギュレータ24からマスタシリンダ16に供給される作動液の圧力に依存した大きさのブレーキ力を、ブレーキ装置12が発生させるのである。
【0041】
本システムが搭載されている車両は、上述したようにハイブリッド車両であり、当該車 両においては、回生ブレーキ力が利用できる。そのため、ブレーキ操作に基づいて決定されるブレーキ力から回生ブレーキ力を減じた分のブレーキ力を、ブレーキ装置12によって発生させればよい。本システムは、上記高圧源圧依存制動力発生状態が実現されることから、ブレーキ操作力に依存しないブレーキ力をブレーキ装置12が発生させることができる。そのような作用から、本システムは、ハイブリッド車両に好適な液圧ブレーキシステムなのである。
【0042】
一方、電気的失陥時や、後に詳しく説明するラピッドスタート時等には、上記連通切換え弁72および低圧源遮断弁76は励磁されず、連通切換弁72は、閉弁状態、上記低圧源遮断弁76は、開弁状態とされ、ピストン間室R3は密閉されるとともに対向室R5は大気圧に開放される。その状態では、ブレーキペダル14に加えられた操作力は、ピストン間室R3の作動液を介して第1加圧ピストン42に伝達され、第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44は前進する。つまり、ブレーキペダル14に加えられた操作力に依存した大きさのブレーキ力をブレーキ装置12が発生させるのである。なお、入力室R4に、マスタ圧P
MSTによって調圧された作動液がレギュレータ24から導入されれば、第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44は、レギュレータ24からマスタシリンダ16に供給される作動液の圧力と操作力との両方によって前進させられ、それら両方に依存した大きさのブレーキ力、つまり、レギュレータ24からマスタシリンダ16に供給される作動液の圧力に依存した大きさのブレーキ力と操作力に依存した大きさのブレーキ力とが足し合わされたブレーキ力をブレーキ装置12が発生させることになる。
【0043】
(d)高圧源装置
高圧源装置22は、リザーバ20から作動液を汲み上げるポンプ90と、そのポンプ90を駆動するポンプモータ92と、ポンプ90から吐出された作動液を加圧された状態で蓄えるアキュムレータ[ACC]94とを含んで構成される。ポンプモータ92は、アキュムレータ94に蓄えられている作動液の圧力(以下、「高圧源圧P
ACC」という場合がある。いわゆる「アキュムレータ圧」である。)が、高圧源圧センサ[P
ACC]96の検出値に基づいて、予め定められた範囲内にあるように制御される。
【0044】
(e)レギュレータ
i)レギュレータの構造
レギュレータ24は、自身に供給される作動液の液圧(パイロット圧)に応じて機械的に作動するパイロット式の圧力制御弁であり、そのパイロット圧に応じて高圧源装置22の液圧を調圧し、その調圧した作動液をマスタシリンダ16の入力室R4に供給するものである。
【0045】
レギュレータ24の構造について、
図2をも参照しつつ、詳しく説明する。レギュレータ24は、大まかには、ハウジング100と、そのハウジング100内に設けられたスプール弁機構102およびパイロットピストン104とを含んで構成されている。図において左右に延びる中心軸線が、レギュレータ24の軸線、詳しく言えば、ハウジング100の軸線であり、軸線方向における右側を一端側、左側を他端側と呼ぶこととする。また、パイロットピストン104等の移動方向について、一端側に向かって動くことを前進,他端側に向かって動くことを後退と呼ぶ場合がある。
【0046】
スプール弁機構102は、スプール110と、そのスプール110を摺動可能に保持するスプール保持筒112とを備えている。スプール保持筒112は、ハウジング100内に嵌入され、ハウジング100の一端側に固定されている。つまり、そのスプール保持筒112をも含んでハウジングが構成されていると考えることもできる。
【0047】
スプール110の一端側には、スプール保持筒112およびハウジング100によって、調整圧室R8が区画形成されている。スプール弁機構102は、スプール110が他端側の移動端にある場合に、リザーバ20と調整圧室R8とを連通するとともに、高圧源装置22と調整圧室R8との連通を遮断する。そして、スプール110の一端側への移動によって、リザーバ20と調整圧室R8との連通を遮断するとともに、高圧源装置22と調整圧室R8とを連通するようになっている。以下に、スプール弁機構102の構成について詳しく説明する。
【0048】
スプール110は、スプール保持筒112の他端側から延び出しており、それらスプール110とスプール保持筒112との間に配設された圧縮コイルスプリングである離間スプリング114によって、他端側に向かって付勢されている。また、スプール110の他端側には、パイロットピストン104が配設されており、そのパイロットピストン104も、離間スプリング116によって他端側に向かって付勢されている。スプール110は、ハウジング110の他端に当接したパイロットピストン104に当接した位置が、可動範囲における他端側の移動端である。スプール110がその位置に位置する場合には、調整圧室R8は、スプール保持筒112に形成された内部ポート118,ハウジング100に形成された内部通路120等を介して、リザーバ20にマスタシリンダ16を介して連通させられた大気圧ポートP10に連通している。
【0049】
ハウジング100には、大気圧ポートP10のほかに、高圧源装置22から作動液が供給される高圧ポートP11、および、調整圧室R8の調圧された作動液をマスタシリンダ16の入力室R4に供給するための調整圧ポートP12が設けられている。スプール保持筒112には、それらポートP11,P12に連通するための内部ポート122,124が形成されている。なお、調整圧ポートP12に連通するための内部ポート124は、調整圧室R8に、内部通路によって調整圧室R8に連通している。そして、スプール110が他端側の移動端にある場合には、調整圧ポートP12に連通するための内部ポート124がスプール110の外周面で塞がれており、調整圧室R8と高圧源装置22との連通は遮断されている。
【0050】
そして、スプール110が一端側に移動することによって、スプール110の外周面に形成された凹所により2つの内部ポート122,124が連通させられる。つまり、調整圧室R8と高圧源装置22とが連通させられるのである。なお、その場合には、大気圧ポートP10に連通するための内部ポート118は、スプール110の外周面で塞がれ、調整圧室R8とリザーバ20との連通が遮断される。
【0051】
上記パイロットピストン104の他端側には、ハウジング100とによって、第1パイロット圧室R9が区画形成されている。第1パイロット圧室R9は、ハウジング100に形成された第1パイロット圧ポートP13,P14に、内部通路によって連通しており、
図1からも解るように、それら第1パイロット圧ポートP13,P14のそれぞれを介して、マスタシリンダ16の第1加圧室R1,後輪のブレーキ装置12RL,12RRと連通している。したがって、第1パイロット圧室R9は、マスタシリンダ16からブレーキ装置12RL,12RRへの作動液の供給経路の一部となっている。つまり、第1パイロット圧室R9には、マスタシリンダ16から後輪側の車輪10RL,10RRに対応するブレーキ装置12RL,12RRに供給される作動液、つまり、マスタ圧P
MSTの作動液が、第1パイロット圧P
PLT1の作動液として導入される。したがって、パイロットピストン104は、第1パイロット圧室R9の作動液の圧力、すなわち、第1パイロット圧P
PLT1の作用によって、スプール110とともに前進する構成とされている。
【0052】
また、パイロットピストン104は、一端側に有底穴130が形成されている。一方、スプール保持筒112の他端側は、一端側に比較して、外径の小さな小外径部132とされている。その小外径部130の外径は、有底穴130の直径と同じほぼ同じ大きさとされており、その有底穴130の内側に、スプール保持筒112の小外径部132が入り込んだ状態となっている。そして、パイロットピストン104とスプール110との間、詳しくは、パイロットピストン104の有底穴130と、スプール110およびスプール保持筒112の他端側の面とによって、第2パイロット圧室R10が区画形成されている。その第2パイロット圧室R10は、ハウジング100に形成された第2パイロット圧ポートP15,P16に連通しており、それら第2パイロット圧ポートP15,P16のそれぞれを介して、増圧リニア弁26,減圧リニア弁28と連通している。したがって、第2パイロット圧室R10には、それら増圧リニア弁26,減圧リニア弁28によって圧力が調整された作動液が、第2パイロット圧P
PLT2の作動液として導入される。したがって、スプール110は、第2パイロット圧室R10の作動液の圧力、すなわち、第2パイロット圧P
PLT2の作用によって前進する構成とされている。
【0053】
なお、パイロットピストン104には、内部に緩衝ピストン140が軸線方向に摺動可能に保持されている。その緩衝ピストン140は、圧縮コイルスプリングである緩衝スプリング142によって弾性的に支持されている。その緩衝ピストン140の先端側(一端側)の空間は、第2パイロット圧室R10と連通しており、その第2パイロット圧P
PLT2に生じた圧力振動を抑える機能を有している。ちなみに、緩衝ピストン140が設けられたパイロットピストン104の内部空間は、大気圧ポートP10に連通しており、作動液の液圧は、常に大気圧とされている。
【0054】
スプール保持筒112の小外径部132の外周側には、パイロットピストン104およびハウジング100とによって、調整圧室R8と連通するもう1つの調整圧室R11が区画形成されている。つまり、パイロットピストン104は、その調整圧室R11の作動液の液圧によって、他端側へ向かう力が付与されるようになっている。以下の説明において、スプール110の一端側に設けられた調整圧室R8を、第1調整圧室R8と、パイロットピストン104の一端側に設けられた調整圧室R11を、第2調整圧室R11と呼ぶこととする。なお、それら調整圧室R8,R11と入力室R4とを連通させるべく、調整圧ポートP12と入力ポートP5とを繋ぐ液通路であるサーボ通路150には、レギュレータ24によって調圧されて入力室R4に供給される作動液の液圧であるサーボ圧P
SRVを検出するサーボ圧センサ[P
SRV]152が設けられている。
【0055】
また、ハウジング100には、内部通路によって高圧ポートP11と連通するもう1つの高圧ポートP17が設けられており、
図1から解るように、この高圧ポートP17は増圧リニア弁26およびリリーフ弁154に連通している。さらに、ハウジング100には、内部通路によって大気圧ポートP10と連通するもう1つの大気圧ポートP18が設けられており、
図1から解るように、この大気圧ポートP18は、リリーフ弁154に連通している。したがって、高圧源装置22からの高圧源圧P
ACCの作動液は、レギュレータ24を介して増圧リニア弁26に供給され、その高圧源圧P
ACCが設定以上の圧力となった場合に、高圧源装置22からの作動液は、レギュレータ24を介して、リザーバ20に流れるようにされている。
【0056】
ii)レギュレータの機能
本レギュレータ24では、増圧リニア弁26と減圧リニア弁28とによって第2パイロット圧室R10の作動液の圧力である第2パイロット圧P
PLT2が増加させられた場合に、スプール110が、その第2パイロット圧P
PLT2によって付勢されて他端側の移動端から一端側に移動する。この移動によって、スプール弁機構102が高圧源装置22と調整圧室R8,R11とを連通させることで、マスタシリンダ16の入力室R4に供給される作動液の圧力、すなわち、サーボ圧P
SRVが上昇させられる。その一方で、サーボ圧P
SRVの上昇で、調整圧室R8の作動液の圧力も上昇し、スプール110が、サーボ圧P
SRVによって付勢される。つまり、第2パイロット圧P
PLT2によってスプール110を前進させる力と、サーボ圧P
SRVによってスプール110を後退させる力とがバランスする状態が維持されて、マスタシリンダ16に供給される作動液の圧力であるサーボ圧P
SRVが第2パイロット圧P
PLT2に応じた大きさに調圧される(第2状態)。なお、スプール110の第2パイロット圧室R10の液圧(第2パイロット圧P
PLT2)を受ける受圧面積と、スプール110の第1調整圧室R8の液圧(サーボ圧P
SRV)を受ける受圧面積とは、ほぼ等しくされており、サーボ圧P
SRVは、第2パイロット圧P
PLT2とほぼ同じ大きさに調圧される(厳密にいえば、サーボ圧P
SRVは、第2パイロット圧P
PLT2より僅かに小さくなる)。
【0057】
ちなみに、第1パイロット圧室R9には、マスタ圧P
MSTの作動液が、第1パイロット圧P
PLT1の作動液として導入されるが、マスタシリンダ16の増圧比、すなわち、サーボ圧P
SRVに対するマスタ圧P
MSTの比は、ほぼ1とされている。そして、パイロットピストン104には、第1パイロット圧室R9の液圧(第1パイロット圧P
PLT1=マスタ圧P
MST)による前進させる向きの力,第2パイロット圧室R10の液圧(第2パイロット圧P
PLT2)による後退させる向きの力,第2調整圧室R11の液圧(サーボ圧P
SRV)による後退させる向きの力が作用する。本レギュレータ24では、後退させる向きの力が、前進させる力より大きくなるため、パイロットピストン104は前進せず、第2パイロット圧P
PLT2による調圧が行われている場合、第1パイロット圧P
PLT1に依拠した力を、スプール110には作用させないようになっている。
【0058】
一方、電気的失陥やラピッドスタート時等には、第1パイロット圧P
PLT1による調圧が行われる。また、この場合、第2パイロット圧室R10は、大気圧に開放されている。第1パイロット圧P
PLT1の作動液として導入された作動液の圧力であるマスタ圧P
MSTが増加した場合に、パイロットピストン104は、前進させられて、スプール110に当接した状態でそのスプール110とともに前進し、スプール110は他端側の移動端から一端側に移動する。この移動によって、スプール弁機構102が高圧源装置22と調整圧室R8,R11とを連通させることで、マスタシリンダ16の入力室R4に供給される作動液の圧力、すなわち、サーボ圧P
SRVが上昇させられる。その一方で、サーボ圧P
SRVの上昇で、第1調整圧室R8の作動液の圧力と、第2調整圧室R11の作動液の圧力も上昇し、パイロットピストン104およびスプール110が、サーボ圧P
SRVによって付勢される。つまり、第1パイロット圧P
PLT2によってパイロットピストン104およびスプール110を前進させる力と、サーボ圧P
SRVによってパイロットピストン104およびスプール110を後退させる力とがバランスする状態が維持されて、マスタシリンダ16に供給される作動液の圧力であるサーボ圧P
SRVが第1パイロット圧P
PLT1に応じた大きさに調圧される(第1状態)。
【0059】
スプール110は、スプール保持筒112に対するクリアランスを狭めることで、作動液の液漏れを抑えるため、その外径は、比較的小さなものとされている。それに対して、パイロットピストン104の外径は、そのスプール110の外径により大きくされている。つまり、パイロットピストン104の他端側において第1パイロット圧P
PLT1を受ける受圧面積A
P_rは、スプール110のサーボ圧P
SRVを受ける受圧面積A
SPより大きくされているのである。そのため、パイロットピストン104を作動させるためのマスタ圧が大きくなることはない。一方で、パイロットピストン104の他端側において第1パイロット圧P
PLT1を受ける受圧面積A
P_rは、スプール110の第1調整圧室R8の液圧(サーボ圧P
SRV)を受ける受圧面積A
SPとパイロットピストン104の一端側において第2調整圧室R11の液圧(サーボ圧P
SRV)を受ける受圧面積A
P_f1とを足し合わせた面積と、ほぼ等しくされており、サーボ圧P
SRVは、第1パイロット圧P
PLT2とほぼ同じ大きさに調圧されるのである(厳密にいえば、サーボ圧P
SRVは、第1パイロット圧P
PLT2より僅かに小さくなる)。
【0060】
f)増圧リニア弁および減圧リニア弁
増圧リニア弁26,減圧リニア弁28は、一般的な電磁式リニア弁であり、構造の図示については省略する。増圧リニア弁26は、高圧源装置22とレギュレータ24との間に配設された常閉型の電磁式リニア弁であり、コイルに通電される励磁電流が大きくなるほど、開度(例えば、閉弁状態から開弁状態への移行のし易さ)が高くなり、開弁圧が高くなる。なお、増圧リニア弁26は、前後の差圧が一定である場合には、供給電流を大きくすれば、流量が大きくなる。一方、減圧リニア弁28は、レギュレータ24と低圧源であるリザーバ20との間に配設された常開型の電磁式リニア弁であり、コイルに通電される励磁電流が大きくなるほど、開度(例えば、閉弁状態から開弁状態への移行のし易さ)が低くなり、開弁圧が高くなる。
【0061】
増圧リニア弁26,減圧リニア弁28は、レギュレータ24を挟んで、詳しく言えば、レギュレータ24の第2パイロット圧室R10を挟んで、直列的に配置されており、増圧リニア弁26,減圧リニア弁28の各々に供給される励磁電流を制御することにより、第2パイロット圧室R10の作動液の圧力を制御することができるのである。このような増圧リニア弁26,減圧リニア弁28の機能によれば、本システムでは、それら増圧リニア弁26,減圧リニア弁28を含んで、作動液の液圧を制御によって任意の高さに調整して、その作動液を第2パイロット圧室R10に作動液を供給する液圧調整装置が構成されていると考えることができるのである。
【0062】
g)制御系
本システムの制御、つまり、ブレーキ制御は、ブレーキECU30によって行われる。ブレーキECU30は、大まかには、高圧源装置22(詳しくは、それが有するモータ92)の制御を行い、また、増圧リニア弁26および減圧リニア弁28の制御を行う。ブレーキECU30は、中心的な要素であるコンピュータと、高圧源装置22のモータ92,増圧リニア弁26,減圧リニア弁28等をそれぞれ駆動するための駆動回路(ドライバ)とを含んで構成されている。
【0063】
ブレーキECU30には、反力圧P
RCT,高圧源圧P
ACC,サーボ圧P
SRVを、制御に必要な情報として取得するため、上述の反力圧センサ86,高圧源圧センサ96,サーボ圧センサ152が接続されている。また、本システムには、ブレーキペダル14の操作量を検出するブレーキ操作量センサ[δ
PDL]160,ブレーキペダル14が踏み込まれているか否かを検出するためのブレーキスイッチ[SW
BR]162,運転席側のドアの開閉状態を検出するためのドア開閉スイッチ[SW
DR]164,イグニッションスイッチ[SW
IG]166,車両の走行速度Vを検出する車速センサ[V]168等が接続されている。ちなみに、ブレーキスイッチ162は、ブレーキペダル14の操作量が設定量より小さい場合にOFFとされ、設定量以上となった場合にONとされる。また、ドア開閉スイッチ164は、ドアが閉状態にある場合にOFFとされ、開状態にある場合にONとされる。さらに、イグニッションスイッチ166は、ドア開閉スイッチ164のONや、ブレーキスイッチ162のONによって、OFFからONへの切換が許容されるようになっている。そして、本システムにおけるECU30による制御は、ここで挙げた各種のセンサの検出値に基づいて行われる。
【0064】
<液圧ブレーキシステムの作動>
(A)通常時における作動および制御(第2加圧状態,第2調圧状態)
本液圧ブレーキシステムが搭載された車両では、通常、ブレーキ操作量センサ160の検出値に基づいて取得されたブレーキ操作量δ
PDLと、反力圧センサの検出値P
RCTに基づいて取得されたブレーキ操作力F
PDLとの両者に基づいて、必要とされるブレーキ力である必要ブレーキ力が算出される。その必要ブレーキ力から回生ブレーキシステムで発生させられる回生ブレーキ力を減算したものが、必要液圧ブレーキ力として決定される。本液圧ブレーキシステムは、この必要液圧ブレーキ力を発生させるべく作動する。
【0065】
まず、マスタシリンダ16の作動に関して言えば、通常の状態では、先に説明したように、ECU30は、連通切換弁72および低圧源遮断弁76を励磁し、連通切換弁72を開弁状態、低圧源遮断弁76を閉弁状態とする(第2加圧状態)。ちなみに、
図3に、本液圧ブレーキシステムの要部を模式的に示している。そして、入力室R4にレギュレータ24からの作動液の圧力を導入して、その作動液の圧力に依存して第1加圧ピストン42,第2加圧ピストン44を前進させ、入力室R4の作動液の圧力に応じた圧力に加圧された作動液(マスタ圧P
MSTの作動液)を、ブレーキ装置12に供給する。つまり、通常状態においては、ECU30は、前述の必要液圧ブレーキ力を発生させるべく、入力室R4の液圧、つまり、サーボ圧P
SRVを制御するのである。つまり、ECU30は、レギュレータ24の第2パイロット圧P
PLT2を制御して、調整圧室R8の液圧を第2パイロット圧P
PLT2に応じた大きさに調圧することで、サーボ圧P
SRVを制御する第2調圧状態を実現するのである。なお、以下の説明においては、第2加圧状態、かつ、第2調圧状態である状態を、第2状態と呼ぶ場合がある。
【0066】
また、この第2状態においては、ピストン間室R3(反力室R6)は、ストロークシミュレータ48に連通させられているため、ブレーキペダル14の操作フィーリングは、そのストロークシミュレータ48によって決まる。
【0067】
ECU30は、必要液圧ブレーキ力に基づいて目標サーボ圧P
SRV*を決定し、サーボ圧センサ152の検出値に基づいて取得される実サーボ圧P
SRVが目標サーボ圧となるように、それら目標サーボ圧P
SRV*と実サーボ圧P
SRVとの偏差ΔP
SRVに基づくフィードバック制御を行うようになっている。具体的には、偏差ΔP
SRVが、増圧閾値ΔP
+より大きい場合には増圧モードとされ、減圧閾値ΔP
−より小さい場合には減圧モードとされ、減圧閾値ΔP
−以上かつ増圧閾値ΔP
+以下である場合には保持モードとされる。
【0068】
増圧モードでは、減圧リニア弁28が閉弁され、増圧リニア弁26の制御によって、第2パイロット圧室R10に作動液を供給し、第2パイロット圧P
PLT2が増加させられる。その増圧リニア弁26への供給電流I
SLAが、前後の差圧に応じた開弁電流I
SLA-OPENと、上記の偏差ΔP
SRVとに基づいて、次式に従って決定される。
I
SLA=I
SLA-OPEN+K
SLA・ΔP
SRV K
SLA:制御ゲイン
なお、前後の差圧は、例えば、高圧源圧センサ96の検出値と第2パイロット圧室圧P
PLT2(実サーボ圧P
SRV)との差から求めることができ、開弁電流I
SLA-OPENは、その差圧と開弁電流I
SLA-OPENとの関係を示すマップデータから求めるようにすることができる。
【0069】
減圧モードでは、増圧リニア弁26が閉弁され、減圧リニア弁28の制御によって、第2パイロット圧P
PLT2が低下させられる。その減圧リニア弁28の供給電流I
SLRが、前後の差圧に応じた開弁電流I
SLR-OPENと、上記の偏差ΔP
SRVとに基づいて、次式に従って決定される。
I
SLR=I
SLR-OPEN−K
SLR・ΔP
SRV K
SLR:制御ゲイン
【0070】
また、保持モードでは、増圧リニア弁26,減圧リニア弁28が閉状態とされ、第2パイロット圧P
PLT2が維持される。なお、その際の増圧リニア弁26,減圧リニア弁28への供給電流は、第2パイロット圧が目標サーボ圧に応じた大きさに達した場合の差圧作用力が作用しても閉状態を保持し得る大きさとされる。ちなみに、増圧モードにおける減圧リニア弁28への供給電流、および、減圧モードにおける増圧リニア弁26への供給電流も同様である。
【0071】
(B)失陥時における作動
一方、電気的失陥時には、ECU30による制御は行われない。つまり、連通切換弁72および低圧源遮断弁76は励磁されず、連通切換弁72が閉弁状態、低圧源遮断弁76が開弁状態とされる(第1加圧状態)。つまり、ブレーキペダル14に加えられた操作力を、ピストン間室R3の作動液を介して第1加圧ピストン42に伝達させ、ブレーキペダル14に加えられた操作力に依存した大きさのブレーキ力をブレーキ装置12が発生させるのである。なお、出力ポートP3からは、ブレーキ操作力に依存して加圧された作動液が供給される。その加圧された作動液が、レギュレータ24の第1パイロット圧室R9に導入されることにより、レギュレータ24では、第1パイロット圧P
PLT1(マスタ圧P
MST)による調圧が行われ(第1調圧状態)、アキュムレータ94に高圧の作動液が残存している限り、マスタ圧
MSTに応じたサーボ圧P
SRVの作動液がレギュレータ24からマスタシリンダ16の入力室R4に供給される。その供給により、ブレーキ操作力と高圧源装置22から供給されてレギュレータ24によって調圧された作動液の圧力との両方に依存した大きさのブレーキ力が、各車輪10のブレーキ装置12において発生させられることになる。なお、以下の説明においては、第1加圧状態、かつ、第1調圧状態である状態を、第1状態と呼ぶ場合がある。ちなみに、アキュムレータ94に高圧の作動液が残存しなくなった後は、ブレーキ操作力に依存して、各車輪10のブレーキ装置12は、ブレーキ力を発生させることになる。
【0072】
また、この第1状態において、ブレーキペダル14の操作フィーリングは、2つの加圧ピストン42,44の間に配設されたリターンスプリング180,第2加圧ピストン44とハウジング40との間に配設されたリターンスプリング182等によって決まる。
【0073】
(C)正常時における第1状態と第2状態との切換
また、本車両においては、本液圧ブレーキシステムが正常である場合には、イグニッションスイッチ166がOFFである場合には第1状態にあり、ONである場合に第2状態とされる。ただし、後に説明する条件を満たしてECU30に通電されると、プログラムの読み込みやイニシャルチェック等のECU30の実行のための準備が行われ、その準備が完了した後に、第1状態から第2状態へ切り換えるための切換指令が出される。そして、連通切換弁72を開状態に、低圧源遮断弁76を閉状態とすべく、それら連通切換弁72および低圧源遮断弁76に電流が供給されるとともに、入力室R4の液圧の制御が開始される。
【0074】
また、
図4(a)に示すように、イグニッションスイッチ166がOFFである状態において、ドア開閉スイッチ164がOFFからONに切り換えられたことを条件として、ECU30への通電が開始される。そして、上述したように、ECU30の実行のための準備が完了した後に、第1状態から第2状態に切り換えられる。なお、ECU30への通電から第2状態とされるまでには、通常、準備時間Tsを要する。運転者は、運転席側のドアを開けて乗車し、ブレーキペダル14を踏み込んでイグニッションスイッチ166をONとするのが通常である。そして、上記の準備時間Tsは、運転者がドアを開けてからブレーキペダル14を踏み込むまでの一般的な時間より短い。つまり、第2状態となった後に、ブレーキペダル14が踏み込まれることになり、その後、イグニッションスイッチ166がONとされる。
【0075】
それに対して、
図4(b)に示すように、運転席側のドアが閉状態から開状態に切り換えられて、ECU30への通電が開始されて第2状態に切り換えられたとしても、設定されたリセット時間Tfが経過するまでの間に、イグニッションスイッチ166がONにされなかった場合には、ECU30への通電が切られ、第1状態に戻されるようになっている。例えば、運転席側のドアを開けても運転者がすぐに乗車しなかった場合や、運転者が乗車してもイグニッションスイッチ166がすぐにONとされなかった場合などが該当する。そのような場合においては、ブレーキスイッチ162がOFFからONに切り換えられたことを条件として、ECU30への通電が開始され、第1状態から第2状態への切換指令が出されるのである(ラピッドスタート)。
【0076】
また、
図4(c)に示すように、イグニッションスイッチ166がONからOFFに切り換えられてからリセット時間Tfが経過すると、ECU30への通電が切られ、第1状態に戻される。その後、運転者が降車することなくリセット時間Tf以上が経過し、再び車両を起動させるような場合があるが、そのような場合にも、ブレーキスイッチ162がOFFからONに切り換えられたことを条件として、ECU30への通電が開始され、第1状態から第2状態への切換指令が出されるのである。
【0077】
図4(b),(c)に示すラピッドスタート時について、つまり、ブレーキペダル14が踏み込まれた状態で、第1状態から第2状態に切り換える場合を考える。まず、ECU30が非通電の状態、つまり、連通切換弁72が閉弁状態、低圧源遮断弁76が開弁状態で、ブレーキペダル14が踏み込まれたことで、ブレーキペダル14に加えられた操作力に依存した大きさのブレーキ力をブレーキ装置12が発生させる。また、ブレーキペダル14が踏み込まれたことを条件としてECU30への通電が開始されたため、高圧源装置22が作動してレギュレータ24に高圧の作動液が供給される。つまり、ブレーキ操作力に依存して加圧された作動液が、レギュレータ24の第1パイロット圧室R9に導入され、レギュレータ24では、第1パイロット圧P
PLT1(マスタ圧P
MST)による調圧が行われる。そして、マスタ圧
MSTに応じたサーボ圧P
SRVの作動液がレギュレータ24からマスタシリンダ16の入力室R4に供給される。その供給により、ブレーキ操作力とレギュレータ24によって調圧された作動液の圧力との両方に依存した大きさのブレーキ力が、各車輪10のブレーキ装置12において発生させられることになる。
【0078】
次いで、上記の第1状態から第2状態に切り換えるのであるが、すでに、ブレーキ操作力とレギュレータ24によって調圧された作動液の圧力との両方に依存した大きさのブレーキ力を発生させているため、レギュレータ24によって調圧された作動液の圧力のみに依存した大きさのブレーキ力を発生させる状態とする際に問題が生じる。
【0079】
まず、先にも説明したように、第1状態におけるブレーキペダル14の操作フィーリングは、リターンスプリング180,182等によって決まり、第2状態におけるブレーキペダル14の操作フィーリングは、ストロークシミュレータ48によって決まる。そのため、第1状態から第2状態への切換の際に、操作フィーリングが変化し、運転者に違和感を与えてしまうのである。
【0080】
また、第1状態においては、ピストン間室R3の液圧はブレーキペダル14に加えられた操作力に応じた大きさにあり、対向室R5の液圧はほぼ大気圧(リザーバ20の液圧)にある。そして、従来のように、すぐに連通切換弁72によってピストン間室R3と対向室R5とが連通させられると、ピストン間室R3の液圧が急激に低下し、ブレーキペダル14に加えられる反力が小さくなる。つまり、運転者が一定の力でブレーキペダル14を踏み込んでいれば、ブレーキペダル14の入り込みが生じるのである。
【0081】
(D)加圧状態切換制御
そこで、本液圧ブレーキシステムでは、ブレーキペダル14が踏み込まれた状態で第1状態から第2状態に切り換える場合に、上述のような不具合を軽減するために、加圧状態切換制御が実行されるようになっている。その加圧状態切換制御は、第1加圧状態のまま液圧調整装置(増圧リニア弁26および減圧リニア弁28)を制御して第2パイロット圧P
PLT2を増加させ、レギュレータ24が第1調圧状態から第2調圧状態に切り換わった後、第2パイロット圧P
PLT2の増加に伴うサーボ圧P
SRVの変化に基づいて、低圧源遮断弁76の開状態から閉状態への切換、および、連通切換弁72の閉状態から開状態への切換を、それぞれ行う制御である。
【0082】
i)第2パイロット圧増圧開始
後に詳しく説明する条件を満たし加圧状態切換制御が開始されると、まず、ECU30は、減圧リニア弁28を閉弁し、増圧リニア弁26を制御して、第2パイロット圧室R10に作動液を供給し、第2パイロット圧P
PLT2を増加させる。その際の増圧リニア弁26への供給電流I
SLAは、操作量センサ160によって検出されたブレーキペダル14の操作量δ
PDLに応じて決定され、操作量δ
PDLが大きくなるほど、大きな値とされる。そして、第2パイロット圧を増加させていくと、レギュレータ24においては、パイロットピストン104がスプール110から離間し、第1調圧状態から第2調圧状態に切り換わるのである。
【0083】
しかしながら、本レギュレータ24は、パイロットピストン104の一端側において第2パイロット圧P
PLT2を受ける面積A
P_f2が、スプール110の他端側において第2パイロット圧P
PLT2を受ける受圧面積A
SPより大きくされている。そのため、第2パイロット圧P
PLT2を上昇させていくと、スプール110を前進させる向きの力が、サーボ圧P
SRVによってスプール100を後退させる向きの力と釣り合う前に、パイロッピストン104を後退させる向きの力が、マスタ圧P
MSTによってパイロットピストン104を前進させる向きの力を超え、パイロットピストン104が後退し始めることになる。それとともに、スプール110が後退することになるのである。つまり、本レギュレータ24においては、スプール110の後退によって、サーボ圧P
SRVが低下してしまうのである。
【0084】
また、マスタシリンダ24においては、サーボ圧P
SRVが低下すると、第1加圧ピストン42を前進させる力が低下するため、第1加圧ピストン42も後退することになる。つまり、ピストン間室R3の液圧が高くなって、ブレーキペダル14への反力が大きくなり、運転者に違和感を与えてしまう。そこで、本液圧ブレーキシステムは、ブレーキペダル14に制動力を低下させる操作がなされた状況下において、加圧状態切換制御を開始するようになっている。つまり、上述のサーボ圧の低下に伴うブレーキペダル14への反力の増大を、運転者に違和感として与えないように、加圧状態切換制御が、ブレーキペダル14を踏み込んだ状態から戻している過程で実行されるようになっているのである。
【0085】
なお、ブレーキペダル14に制動力を低下させる操作がなされた状況下にあるか否かは、本液圧ブレーキシステムでは、車速センサ168によって検出された車速Vが設定値V
0(例えば、1.0km/h)を超えたか否かによって判定される。詳しくは、車速Vが設定値V
0を超えた場合、あるいは、に、ブレーキペダル14に制動力を低下させる操作がなされた状況下にあるとして、加圧状態切換制御が開始されるようになっている。なお、ブレーキペダル14に制動力を低下させる操作がなされた状況下にあるか否かは、ブレーキペダル14の操作量が減少したか否かによって判定されてもよく、サーボ圧P
SRVが低下したか否かによって判定されるようにしてもよい。
【0086】
ii)低圧源遮断弁の切換
次いで、ECU30は、低圧源遮断弁76の開状態から閉状態への切換を行う。詳しくは、ECU30は、サーボ圧センサ152によって検出されたサーボ圧P
SRVを監視し、そのサーボ圧P
SRVの低下が治まったことを条件として、低圧源遮断弁76に電流を供給して、開状態から閉状態へ切り換えるのである。なお、本システムでは、サーボ圧P
SRVの低下が治まったか否かは、サーボ圧P
SRVが増加し始めたか否かによって判定され、サーボ圧P
SRVの増加量が設定値より大きくなった場合にサーボ圧P
SRVの低下が治まったとして、低圧源遮断弁76が開状態から閉状態へ切り換えられる。なお、サーボ圧P
SRVの低下が治まったか否かは、サーボ圧P
SRVの低下勾配が設定値より小さくなったか否かによって判定されるようにしてもよい。
【0087】
例えば、サーボ圧P
SRVが低下する前に低圧源遮断弁76を閉状態とした場合を考える。その場合、マスタシリンダにおいては、対向室R5が閉じられた状態となっており、サーボ圧の低下によって第1加圧ピストン42が後退すると、対向室R5の容積が増加することになる。つまり、第1加圧ピストン42の後退によって、対向室R5の液圧が低下し、ピストン間室R3と対向室R5との液圧差が大きくなってしまうのである。そして、その状態で、次の連通切換弁の閉状態から開状態への切換を行うと、ピストン間室R3の液圧の低下が大きく、ブレーキペダル14の入り込みも大きくなってしまうのである。
【0088】
それに対して、本液圧ブレーキシステムは、上述したように、サーボ圧の低下が治まった後に、低圧源遮断弁76を閉状態して対向室R5を閉じた状態とするため、対向室R5の液圧が低下しないようになっているのである。
【0089】
また、ECU30は、低圧源遮断弁76への通電とともに、先に説明した第2パイロット圧P
PLT2のフィードバック制御を開始する。ただし、連通切換弁72は閉状態とされており、ピストン間室R3がストロークシミュレータ48に連通させられていないため、反力圧センサの検出値P
RCTに基づいて取得されるブレーキ操作力F
PDLを用いず、ブレーキ操作量センサ160の検出値に基づいて取得されたブレーキ操作量δ
PDLのみに基づいて、必要ブレーキ力が算出されるようになっている。
【0090】
iii)連通切換弁の切換(第2加圧状態への切換)
次いで、ECU30は、連通切換弁72の閉状態から開状態への切換を行う。詳しくは、サーボ圧センサ152によって検出された実サーボ圧P
SRVが、上記必要ブレーキ力に基づいて決定された目標サーボ圧P
SRV*に達したことを条件として、連通切換弁72に電流を供給して、閉状態から開状態へ切り換えるのである。つまり、本液圧ブレーキシステムは、連通切換弁72と低圧源遮断弁76との両者を閉状態として、サーボ圧P
SRVをフィードバック制御における目標サーボ圧P
SRV*まで上昇させるため、第1加圧ピストン42を前進させ、対向室R5の液圧を上昇させることができる。つまり、ピストン間室R3と対向室R5との液圧差を小さくした後に、連通切換弁72を開状態として、それらピストン間室R3と対向室R5とを連通させるため、ピストン間室R3の液圧低下を抑制することが可能である。したがって、本液圧ブレーキシステムによれば、ピストン間室R3と対向室R5とを連通させた時のブレーキペダル14の反力の変化を抑制することができ、運転者へ与える違和感を軽減することができるのである。
【0091】
(E)制御プログラム
本実施例の液圧ブレーキシステムの制御は、ECU30が、マスタシリンダ16の加圧状態の切換、詳しくは、連通切換弁72および低圧源遮断弁76の切換を、
図6に示すマスタ状態切換プログラムを実行するとともに、サーボ圧P
SRVの制御を、
図7にフローチャートを示すサーボ圧制御プログラムを実行することによって行われる。なお、これらのプログラムは、短い時間ピッチ(例えば、数μsec〜数十μsec)で繰り返し実行される。
【0092】
これらのプログラムにおいては、レギュレータ24の制御状態を示すフラグである調圧状態フラグFL
REGと、マスタシリンダ16の加圧状態を示すフラグである加圧状態フラグFL
MSTとが用いられる。調圧状態フラグFL
REGは、第2パイロット圧P
PLT2が制御されていない間は、フラグ値が0とされており、第2パイロット圧P
PLT2の増圧が開始されると、フラグ値が1とされ、フィードバック制御が開始されると、フラグ値が2とされるものである。また、加圧状態フラグFL
MSTは、第1加圧状態にある間は、フラグ値が0とされており、低圧源遮断弁76が閉状態に切り換えられると、フラグ値が1とされ、さらに、連通切換弁72が開状態とされて第2加圧状態に切り換えられると、フラグ値が2とされるものである。
【0093】
マスタ状態切換プログラムでは、まず、ステップ1(以下、「ステップ」を「S」と省略する)において、第1状態から第2状態へ切り換えるための切換指令が出されているか否かが判定され、切換指令が出さるまでは、第1状態にあり、S3以下の処理がスキップされ、S2において、調圧状態フラグFL
REGのフラグ値が0とされるとともに、加圧状態フラグFL
MSTのフラグ値が0とされる。
【0094】
切換指令が出されている場合には、まず、S3において、第2加圧状態にあるか否かが、加圧状態フラグFL
MSTのフラグ値が2か否かにより判定され、S4において、ブレーキ操作がなされているか否かが、ブレーキスイッチ162がONとなっているか否かにより判定される。加圧状態フラグFL
MSTのフラグ値が2である場合は、すでに第2加圧状態とされており、S14において、連通切換弁72および低圧源遮断弁76への通電が継続される。なお、加圧状態フラグFL
MSTのフラグ値が2でなくても、ブレーキスイッチ162がOFFである場合には、加圧状態切換制御の必要がないため、第2加圧状態に切り換えられる。つまり、S14において、連通切換弁72および低圧源遮断弁76への通電が開始され、S15において、加圧状態フラグFL
MSTのフラグ値が2とされる。
【0095】
また、加圧状態フラFL
MSTのフラグ値が2ではなく、かつ、ブレーキスイッチ162がONである場合には、S5において、車速センサ168によって検出された車速Vが設定値V
0を超えたか否かによって、制動力を低下させるブレーキ操作がなされたか否かが判定される。車速Vが設定値V
0以下である場合には、まだ加圧状態切換制御は開始されず、S6以下の処理はスキップされる。そして、車速Vが設定値V
0を超えた場合に、S6以下において、加圧状態切換制御が実行される。
【0096】
S6以下における加圧状態切換制御では、まず、S6において、ブレーキ操作量センサ160によって検出されたブレーキ操作量δ
PDLに基づいて目標サーボ圧P
SRV*が決定され、S7において、サーボ圧センサ152の検出値から実サーボ圧P
SRVが取得される。次いで、S8において、加圧状態フラグFL
MSTのフラグ値が1であるか否かの判定が行われる。加圧状態フラグFL
MSTのフラグ値が1でない、つまり、フラグ値が0である場合には、S9において、サーボ圧P
SRVの低下が治まったか否かの判定が、サーボ圧P
SRVの増加量(前回のプログラム実行時からの増加量)が設定値より大きくなったか否かによって判定される。サーボ圧P
SRVの低下が治まっていない場合には、S10において、調圧状態フラグFL
REGのフラグ値が1とされ、1回のマスタ状態切換プログラムの実行が終了する。
【0097】
S9において、サーボ圧P
SRVの増加量が設定値より大きくなった場合には、S11において、低圧源遮断弁76への通電が開始され、低圧源遮断弁76が閉状態とされる。また、S12において、加圧状態フラグFL
MSTのフラグ値が1とされ、1回のマスタ状態切換プログラムの実行が終了する。
【0098】
S8において、加圧状態フラグFL
MSTのフラグ値が1である場合には、S13において、実サーボ圧P
SRVが目標サーボ圧P
SRV*以上となったか否かが判定される。実サーボ圧P
SRVが目標サーボ圧P
SRV*に達していない場合には、S11以下において、低圧源遮断弁76のみへの通電が継続して行われる。一方、実サーボ圧P
SRVが目標サーボ圧P
SRV*に達した場合には、S14において、連通切換弁72への通電も開始され、第2加圧状態とされるのである。また、S15において、加圧状態フラグFL
MSTのフラグ値が2とされ、1回のマスタ状態切換プログラムの実行が終了する。
【0099】
次に、サーボ圧制御プログラムでは、まず、S21において、調圧状態フラグFL
REGのフラグ値が確認され、フラグ値が0である場合には、サーボ圧P
SRVの制御、つまり、第2パイロット圧P
PLT2の制御が開始されていないため、S22において、増圧リニア弁26の目標供給電流I
SLA*および減圧リニア弁28の目標供給電流I
SLR*が0とされる。
【0100】
S21において、調圧状態フラグFL
REGのフラグ値が1である場合には、S23,S24において、加圧状態フラグFL
MSTのフラグ値が確認される。加圧状態フラグFL
MSTのフラグ値が0である場合には、S25において、増圧リニア弁26の目標供給電流I
SLA*が、ブレーキ操作量δ
PDLに応じて決定され、S26において、減圧リニア弁28の目標供給電流I
SLR*が、第2パイロット圧P
PLT2が上昇しても開弁しないように設定された電流I
SLR0とされる。
【0101】
また、加圧状態フラグFL
MSTのフラグ値が1である場合には、S27において、操作量δ
PDLに基づいて必要ブレーキ力が決定され、加圧状態フラグFL
MSTのフラグ値が2である場合には、S28において、操作量δ
PDLおよび操作力F
PDLに基づいて必要ブレーキ力が決定される。次いで、S30において、それら必要ブレーキ力から回生ブレーキ力を減算して、必要液圧ブレーキ力が決定され、S31において、フィードバック制御によって、増圧リニア弁26の目標供給電流I
SLA*および減圧リニア弁28の目標供給電流I
SLR*が決定される。そして、S31において、増圧リニア弁26および減圧リニア弁28に、目標供給電流I
SLA*,目標供給電流I
SLR*が供給され、サーボ圧制御プログラムの実行が終了する。