特許第6240109号(P6240109)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6240109-噛み合い式係合装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6240109
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】噛み合い式係合装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 25/06 20060101AFI20171120BHJP
   F16D 27/118 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   F16D25/06
   F16D27/118
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-40133(P2015-40133)
(22)【出願日】2015年3月2日
(65)【公開番号】特開2016-161039(P2016-161039A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2016年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】吉野 弘紹
(72)【発明者】
【氏名】田淵 元樹
(72)【発明者】
【氏名】川上 崇穂
(72)【発明者】
【氏名】桑原 清二
(72)【発明者】
【氏名】塩津 勇
【審査官】 渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−518291(JP,A)
【文献】 特開2008−215503(JP,A)
【文献】 特表平1−500923(JP,A)
【文献】 特開2015−14359(JP,A)
【文献】 米国特許第2428336(US,A)
【文献】 特開昭52−135954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00− 23/14
F16D 25/00− 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1ドグ歯が円周方向に一定の間隔を空けて形成されるとともに、回転不能にケースに係合された第1部材と、複数の第2ドグ歯が円周方向に一定の間隔を空けて形成されるとともに、所定の回転部材に連結された第2部材と、前記第1部材を前記第2部材側に押圧する押圧機構とを備え、前記押圧機構により前記第1部材が押圧されることにより、前記第1ドグ歯が前記第2ドグ歯の間に差し込まれて噛み合うように構成された噛み合い式係合装置において、
前記第1ドグ歯と前記第2ドグ歯とが噛み合うように前記第1部材を押圧する押圧力に対する反力を発生する反力機構を備え、
前記反力機構は、前記第1部材が移動を開始した後、各ドグ歯同士が噛み合い始めるまでの間の位置で、前記反力の増大傾向を前記反力が増大する方向に変化させるように構成され、
前記反力機構は、前記第1部材の位置に拘わらず前記第1部材に弾性力を作用させる第1弾性部材と、前記第1部材が前記反力の増大傾向が変化する位置まで移動した場合に、前記第1部材に接触して弾性力を作用させる第2弾性部材とにより構成され、
前記所定の回転部材の回転数を低下させるように前記所定の回転部材にトルクが伝達された場合に、前記所定の回転部材に、前記第1ドグ歯と前記第2ドグ歯とが離隔する方向の荷重が作用するように構成され、
前記第2ドグ歯が前記第1ドグ歯から離隔する方向に前記所定の回転部材が前記荷重により移動した場合に前記所定の回転部材が接触する位置決め部材を更に備えている
ことを特徴とする噛み合い式係合装置。
【請求項2】
請求項1に記載の噛み合い式係合装置において、
記第2部材は、
前記所定の回転部材に連結された保持部材と、
前記保持部材から離隔または接近することができるとともに前記保持部材と一体に回転し、かつ前記第2ドグ歯が形成されたピストンと、
前記第2ドグ歯を前記第1ドグ歯に接近させる方向に前記ピストンに弾性力を作用させる第3弾性部材と、
前記ピストンが前記第3弾性部材に押圧されて移動する量を制限する第1位置決め部材と
を有する
ことを特徴とする噛み合い式係合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ドグ歯を噛み合わせることにより二つの部材をトルク伝達可能に連結する噛み合い式係合装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、回転軸に連結されたクラッチハブと、出力軸にトルク伝達可能に連結されたクラッチリングとに、円筒状のスリーブを噛み合わせることにより、クラッチハブとクラッチリングとを連結するように構成された噛み合い式係合装置が記載されている。この噛み合い式係合装置は、アクチュエータでスリーブを軸線方向に移動させることにより、係合と解放とを切り替えるように構成されており、噛み合い式係合装置を係合させる際には、スリーブとクラッチリングとが噛み合う直前の位置まで、スリーブを移動させてから一時的にそのスリーブを停止させ、さらにその後、スリーブを移動させてクラッチリングに噛み合わせるように構成されている。これらスリーブとクラッチリングとには、半球状の突起部が形成されている。この突起部は、スリーブとクラッチリングとが噛み合い始める直前の位置までスリーブを移動させ、かつスリーブとクラッチリングとが相対回転した場合に接触する位置に形成されている。したがって、スリーブがクラッチリングに噛み合い始める直前の位置まで移動したか否かは、突起部同士が接触してスリーブが押し戻されたことをストロークセンサで検出することにより判断している。
【0003】
なお、特許文献2には、動力伝達経路における上流側に摩擦式係合装置を設け、その下流に噛み合い式係合装置を設けた変速機が記載されている。この変速機は、摩擦式係合装置を解放した後に、噛み合い式係合装置を係合させ、更にその後に摩擦式係合装置を係合することにより所定の変速段を設定するように構成されている。この摩擦式係合装置は、ピストンにより摩擦板が押圧されて係合する。上記のように摩擦式係合装置を一旦解放する際には、摩擦式係合装置がいわゆる半係合状態となるピストンの位置と、摩擦式係合装置が完全に解放した状態となるピストンの位置との間の位置に、ピストンを移動させるように構成されており、そのピストンの位置は、ストロークセンサにより検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−98459号公報
【特許文献2】特開2007−285448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
噛み合い係合機構では、解放状態で各噛み合い歯同士が大きく離隔している。これは、振動や組み付け誤差などによって噛み合い歯同士が接触することを回避するためである。したがって、係合する場合には、その離隔距離を詰めた後、噛み合い歯同士が噛み合い始める。その離隔距離を詰めるための移動はいわゆる空走であり、その空走時間が係合の遅れの要因になる。特許文献1に記載された装置では、ストロークセンサにより各歯同士が噛み合い始める直前の位置を検出できるが、その係合直前の位置までの移動(空走)を高速化し、あるいはその移動時間を短縮化することはできず、噛み合い式係合機構の係合応答性を向上させるためには改善の余地があった。
【0006】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、噛み合い歯同士が噛み合い始めるまでの動作時間を短縮して係合応答性を向上させることのできる噛み合い式係合装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明は、複数の第1ドグ歯が円周方向に一定の間隔を空けて形成されるとともに、回転不能にケースに係合された第1部材と、複数の第2ドグ歯が円周方向に一定の間隔を空けて形成されるとともに、所定の回転部材に連結された第2部材と、前記第1部材を前記第2部材側に押圧する押圧機構とを備え、前記押圧機構により前記第1部材が押圧されることにより、前記第1ドグ歯が前記第2ドグ歯の間に差し込まれて噛み合うように構成された噛み合い式係合装置において、前記第1ドグ歯と前記第2ドグ歯とが噛み合うように前記第1部材を押圧する押圧力に対する反力を発生する反力機構を備え、前記反力機構は、前記第1部材が移動を開始した後、各ドグ歯同士が噛み合い始めるまでの間の位置で、前記反力の増大傾向を前記反力が増大する方向に変化させるように構成され、前記反力機構は、前記第1部材の位置に拘わらず前記第1部材に弾性力を作用させる第1弾性部材と、前記第1部材が前記反力の増大傾向が変化する位置まで移動した場合に、前記第1部材に接触して弾性力を作用させる第2弾性部材とにより構成され、前記所定の回転部材の回転数を低下させるように前記所定の回転部材にトルクが伝達された場合に、前記所定の回転部材に、前記第1ドグ歯と前記第2ドグ歯とが離隔する方向の荷重が作用するように構成され、前記第2ドグ歯が前記第1ドグ歯から離隔する方向に前記所定の回転部材が前記荷重により移動した場合に前記所定の回転部材が接触する位置決め部材を更に備えていることを特徴とするものである。
【0008】
この発明では、前記第2部材は、前記所定の回転部材に連結された保持部材と、前記保持部材から離隔または接近することができるとともに前記保持部材と一体に回転し、かつ前記第2ドグ歯が形成されたピストンと、前記第2ドグ歯を前記第1ドグ歯に接近させる方向に前記ピストンに弾性力を作用させる第3弾性部材と、前記ピストンが前記第3弾性部材に押圧されて移動する量を制限する第1位置決め部材とを有していてもよい。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、押圧機構により第1部材を押圧して各ドグ歯を噛み合わせるように構成されている。また、その押圧機構による押圧力に対する反力を発生する反力機構を備えている。この反力機構は、第1部材が移動を開始した後、各ドグ歯同士が噛み合い始めるまでの間の位置で、反力の増大傾向を反力が増大する方向に変化させるように構成されている。したがって、反力の増大傾向が増大する方向に変化する位置に第1部材が移動するように押圧機構により第1部材を押圧すれば、その押圧力が増大する方向にばらついたとしても、第1部材が過剰に移動することを抑制することができる。すなわち、各ドグ歯が過剰に接近することを抑制することができる。そのため、比較的高い押圧力で第1部材を押圧することができるので、各ドグ歯が噛み合い始めるまでの間における第1部材の動作時間を短縮することができる。つまり、係合応答性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】この発明に係る噛み合い式係合装置の一例を説明するための断面図である。
図2】各リターンスプリングをスプリングシートに取り付ける位置を示す図である。
図3】第1ピストンの移動量と、第1ピストンを移動させるために要する押圧力の大きさとを示す線図である。
図4】この発明における変速機の一例を示すスケルトン図である。
図5】各変速段を設定するために係合させられる係合機構を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明に係る噛み合い式係合装置を備えた変速機の一例を図4に示している。この変速機1は、車両に搭載されたものであって、従来知られているダブルピニオン型の遊星歯車機構(以下、第1遊星歯車機構と記す)2と、ラビニョ型の遊星歯車機構(以下、第2遊星歯車機構と記す)3とを有している。この変速機1は、駆動力源であるエンジン4の出力軸5に、図示しないトルクコンバータを介して連結されている。また、この変速機1は、前進第1速段から前進第8速段までの変速段と、後進第1速段および後進第2速段の変速段とを設定することができるように構成され、エンジン4の目標回転数や、要求される駆動力などに応じていずれかの変速段を設定する。
【0012】
上記第1遊星歯車機構2は、ケース6に連結された第1サンギヤ7と、第1サンギヤ7に噛み合う第1インナーピニオンギヤ8と、第1インナーピニオンギヤ8に噛み合う第1アウターピニオンギヤ9と、第1アウターピニオンギヤ9に噛み合う第1リングギヤ10と、第1インナーピニオンギヤ8および第1アウターピニオンギヤ9を自転および公転可能に保持し、かつ入力軸11に連結された第1キャリヤ12とによって構成されている。すなわち、第1遊星歯車機構2は、エンジン4が駆動力を出力している場合に、第1キャリヤ12が入力要素として機能し、第1サンギヤ7が反力要素として機能し、第1リングギヤ10が出力要素として機能するように構成された三つの回転要素を有する差動機構である。また、上記のように第1サンギヤ7は、ケース6に連結されているので、第1遊星歯車機構2は、減速機として機能する。
【0013】
第2遊星歯車機構3は、入力軸11と同心円上に配置された第2サンギヤ13および第3サンギヤ14と、第3サンギヤ14に噛み合う第2インナーピニオンギヤ15と、第2インナーピニオンギヤ15および第2サンギヤ13に噛み合う第2アウターピニオンギヤ16と、第2インナーピニオンギヤ15および第2アウターピニオンギヤ16を自転および公転可能に保持する第2キャリヤ17と、第2アウターピニオンギヤ16に噛み合う第2リングギヤ18とによって構成されている。すなわち、第2遊星歯車機構3は、シングルピニオン型の遊星歯車機構とダブルピニオン型の遊星歯車機構との二つの回転要素を共有して構成されており、第2サンギヤ13、第3サンギヤ14、第2キャリヤ17、第2リングギヤ18の四つの回転要素を有する差動機構である。
【0014】
なお、これらの各ギヤ7,8,9,10,13,14,15,16,18は、トルク伝達時に異音が生じることを抑制することができるはすば歯車であり、その捩れ角は、後述する前進第2速段から前進第1速段へ変速する際に第2キャリヤ17の回転数を低下させるようにトルクを伝達することにより、後述する各ドグ歯が離隔する方向に第2キャリヤ17のガタが詰まるように定められている。
【0015】
さらに、第1遊星歯車機構2における各回転要素と、第2遊星歯車機構3における各回転要素とを選択的に係合させる複数のクラッチや、いずれかの回転要素を停止させるブレーキが設けられている。具体的には、第1リングギヤ10と第3サンギヤ14とを連結する第1クラッチC1が設けられ、入力軸11または第1キャリヤ12と第2キャリヤ17とを連結する第2クラッチC2が設けられ、第1リングギヤ10と第2サンギヤ13とを連結する第3クラッチC3が設けられ、第1キャリヤ12と第2サンギヤ13とを連結する第4クラッチC4が設けられている。これら各クラッチC1,C2,C3,C4は、従来知られた摩擦クラッチと同様に構成されており、油圧アクチュエータの制御量に基づいて伝達トルク容量を変更することができる。
【0016】
また、ケース6に第2サンギヤ13を連結することにより、第2サンギヤ13を停止させる第1ブレーキB1が設けられ、同様にケース6に第2キャリヤ17を連結することにより、第2キャリヤ17を停止させる第2ブレーキB2が設けられている。この第1ブレーキB1は、従来知られた摩擦ブレーキと同様に構成され、伝達トルク容量を変化させることにより第2サンギヤ13に作用させる制動力を制御することができる。その伝達トルク容量は、図示しない油圧アクチュエータの油圧を制御することにより変化させられる。一方、第2ブレーキB2は、後述する各ドグ歯を噛み合わせることにより第2キャリヤ17とケース6とを連結して、第2キャリヤ17を停止させるように構成された噛み合い式係合装置である。なお、各クラッチC1,C2,C3,C4および第1ブレーキB1の伝達トルク容量は、電磁アクチュエータにより制御されてもよく、その手段は限定されない。
【0017】
そして、エンジン4や各係合装置などを制御するための電子制御装置(以下、ECUと記す)19が設けられている。このECU19は、従来知られたものと同様にマイクロコンピュータを主体として構成されている。また、このECU19は、図示しないセンサから信号が入力され、その入力された信号と、予め記憶されたマップや演算式などとに基づいてエンジン4や各係合装置に信号を出力するように構成されている。その一例としては、車速センサにより検出された車速と、アクセル開度センサにより検出されたアクセル開度との信号が、ECU19に入力される。そして、ECU19には、従来知られているように車速とアクセル開度とをパラメータとして予め用意された変速マップが記憶されており、上記入力された信号と変速マップとにより変速段を定める。ついで、その定められた変速段に応じた信号を、上記の各クラッチC1,C2,C3,C4や各ブレーキB1,B2に出力する。
【0018】
各変速段を設定するために係合させられる係合機構を、図5に示している。なお、図5において「○」は、クラッチまたはブレーキが係合している状態を示し、「−」は、クラッチまたはブレーキが解放している状態を示している。図5に示すように、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とを係合させることにより前進第1速段が設定される。第1クラッチC1と第1ブレーキB1とを係合させることにより前進第2速段が設定される。第1クラッチC1と第3クラッチC3とを係合させることにより前進第3速段が設定される。第1クラッチC1と第4クラッチC4とを係合させることにより前進第4速段が設定される。第1クラッチC1と第2クラッチC2とを係合させることにより前進第5速段が設定される。第2クラッチC2と第4クラッチC4とを係合させることにより前進第6速段が設定される。第2クラッチC2と第3クラッチC3とを係合させることにより前進第7速段が設定される。第2クラッチC2と第1ブレーキB1とを係合させることにより前進第8速段が設定される。また、第2ブレーキB2と第3クラッチC3とを係合させることにより後進第1速段が設定され、第2ブレーキB2と第4クラッチC4とを係合させることにより後進第2速段が設定される。
【0019】
なお、前進第1速段を設定している際の変速比が最も大きくなり、前進第8速段を設定している際の変速比が最も小さくなるように構成されており、また、前進第6速段を設定している際の変速比が「1」になるように構成されている。
【0020】
この変速機1における前進第2速段から前進第1速段への変速の制御例を簡単に説明する。上述したように前進第1速段と前進第2速段とは、第1クラッチC1が係合されている。したがって、前進第1速段への変速時には、第1クラッチC1を係合させたまま、第1ブレーキB1を解放して、第2ブレーキB2を係合する。その際には、第1ブレーキB1の伝達トルク容量とエンジン4の出力トルクとを協調制御して、第2キャリヤ17の回転数を「0」に近づけ、その後に、第2ブレーキB2を係合し、さらにその後に、第1ブレーキB1を完全に解放させる。
【0021】
そのように第2ブレーキB2を係合させる時間を短くするために、第2キャリヤ17の回転数を制御している過程で、第2ブレーキB2が係合する直前の状態になるように制御すること好ましい。この第2ブレーキB2が係合する直前の状態とは、部品のばらつきなどを考慮して、意図せずに第2ブレーキB2が係合しない状態である。一方、上述したように第2キャリヤ17の回転数を低下させるようにトルクを伝達することにより、後述する各ドグ歯が離隔する方向に第2キャリヤ17のガタが詰まるように構成されている。したがって、第2ブレーキB2が係合する直前の状態にする場合には、振動などにより第2キャリヤ17が軸線方向に移動することを考慮しなくてもよく、その状態での各ドグ歯の隙間は、第2ブレーキを完全に解放している状態よりも小さく定められている。
【0022】
そのように第2ブレーキB2が係合する直前の状態とすることができる構成の一例を図1に示している。この第2ブレーキB2は、ケース6に回転不能に連結された第1ピストン20と、第2キャリヤ17と一体に回転する回転部材21とを係合させることにより、第2キャリヤ17の回転を停止させるように構成されている。
【0023】
この第1ピストン20は、環状に形成されており、ケース6の側面から軸線方向に突出した第1円筒部22と、ケース6の側面の外周部を屈曲させて形成された第2円筒部23との間に、一方の端部(以下、嵌合部と記す)24が嵌合している。この嵌合部24から軸線方向に突出した部分25は、嵌合部24よりも外径が大きく形成されており、その外周面とケース6の内壁面とがスプライン係合している。すなわち、第1ピストン20は、軸線方向に移動することができるとともに、回転不能にケース6に係合している。
【0024】
その第1ピストン20がケース6の側面側に最も移動した場合に、嵌合部24の端面とケース6の側面とに隙間が空くように、ケース6の側面には、環状の溝26が形成されており、その溝26と図示しない油圧源とが油路を介して連通している。したがって、油圧源から溝26にオイルを供給することにより、その油圧に基づく荷重により第1ピストン20が側面から離隔する方向に押圧される。すなわち、ケース6と第1ピストン20とが油圧アクチュエータを構成しており、このように構成された油圧アクチュエータが、この発明の実施例における「押圧機構」に相当し、第1ピストン20が、この発明の実施例における「第1部材」に相当する。なお、以下の説明では、溝26を油圧室26と記す。この第1ピストン20の嵌合部24とは反対側の端部に軸線方向に突出した第1ドグ歯27が形成されている。この第1ドグ歯27は、円周方向に所定の間隔を空けて複数形成されている。
【0025】
また、回転部材21は、この発明の実施例における「第2部材」に相当するものであって、第2キャリヤ17に連結した有底円筒状の保持部材28と、その保持部材28の内側に軸線方向に移動可能に収容された環状の第2ピストン29と、第2ピストン29を保持部材28の底面から離隔する方向に弾性力を作用させる弾性部材30とにより構成されている。この保持部材28の底面のうちの外周部には、軸線方向に突出した回り止め部31が円周方向に所定の間隔を空けて形成されており、その回り止め部31と円周方向で係合する突起部32が、第2ピストン29の一方の端部に形成されている。したがって、第2キャリヤ17のトルクが回り止め部31を介して第2ピストン29に伝達される。また、第2ピストン29の他方側の側面には、軸線方向に突出した第2ドグ歯33が形成されている。この第2ドグ歯33は、円周方向に所定の間隔を空けて複数形成されており、隣り合う第2ドグ歯33の間に、第1ドグ歯27が差し込まれるように構成されている。
【0026】
上述したように油圧室26の油圧に応じた押圧力で、第1ピストン20が押圧されて各ドグ歯27,33が噛み合う。一方、各ドグ歯27,33が噛み合う際に各ドグ歯27,33の歯先同士が接触した場合には、上記弾性部材30が圧縮されて、第2ドグ歯33が第1ドグ歯27から離隔する方向に移動するように構成されている。すなわち、第1ドグ歯27の歯先に作用する反力を低下させて摩擦力を低下させることにより、第1ドグ歯27と第2ドグ歯33とが相対回転して各ドグ歯27,33が噛み合うことができるように構成されている。なお、図に示す例では、保持部材28の開口部から第2ピストン29が抜け出ることを防止するために、保持部材28の開口部の内側にスナップリング34が設けられている。また、保持部材28が軸線方向に移動することを制限するための環状の位置決め部材35が、保持部材28の底面に接触するようにケース6に連結されており、第2キャリヤ17の回転数を低下させるようにトルクが伝達されたときに、保持部材28が位置決め部材35に接触するようにガタが詰められるように構成されている。
【0027】
また、油圧室26の油圧を低下させることにより、各ドグ歯27,33が離隔するように、第1リターンスプリング36が設けられている。具体的には、ケース6に連結された環状のスプリングシート37と、第1ピストン20の側面とに圧縮されて第1リターンスプリング36が設けられており、その第1リターンスプリング36の一方の端部が、スプリングシート37に連結されている。したがって、第1リターンスプリング36は、油圧室26の油圧に基づいて第1ピストン20が押圧される荷重に対抗した弾性力(反力)を、常時、第1ピストン20に作用させるように構成されている。なお、第1リターンスプリング36は、図2に示すようにスプリングシート37の円周方向に所定の間隔を空けて複数配置してもよく、環状に形成された一つのバネであってもよい。
【0028】
さらに、各ドグ歯27,33が噛み合い始める直前の位置まで第1ピストン20が移動した場合に、第1ピストン20の側面に接触し、それ以上、各ドグ歯27,33が噛み合うように第1ピストン20が移動した場合に、第1リターンスプリング36とともに圧縮される第2リターンスプリング38が設けられている。この第2リターンスプリング38は、一方の端部がスプリングシート37に連結され、かつ上記第1リターンスプリング36よりも短いコイルバネである。また、この第2リターンスプリング38は、上述した第1リターンスプリング36と同様に円周方向に所定の間隔を空けて配置してもよく、環状に形成された一つのバネであってもよい。図2には、第1リターンスプリング36と第2リターンスプリング38とが円周方向に交互に配置された例を示し、図1には、第1リターンスプリング36よりもスプリングシート37の内周側に第2リターンスプリング38が設けられた例を示している。また、第1リターンスプリング36を円周方向に複数設ける場合には、それぞれの第1リターンスプリング36における中央部に第2リターンスプリング38を配置してもよい。すなわち、第1リターンスプリング36の中心軸線と、第2リターンスプリング38の中心軸線とが同一になるように各リターンスプリング36,38を配置してもよい。なお、第1リターンスプリング36と第2リターンスプリング38とが、この発明の実施例における「反力機構」に相当する。
【0029】
図3には、第1ピストン20をケース6の側面から離隔する方向に移動させるために要する押圧力の大きさを示している。なお、図3における横軸は、第1ピストン20の移動量を示し、縦軸が押圧力の大きさを示している。図3に示すように第1ピストン20がケース6の側面側に位置している場合には、第1リターンスプリング36の弾性力のみが第1ピストン20に作用する。したがって、第1ピストン20を単位距離、移動させるために要する押圧力の増加量は、第1リターンスプリング36の弾性係数に応じた大きさとなる。
【0030】
一方、第1ピストン20が、各ドグ歯27,33が噛み合う直前の位置まで移動すると、第1ピストン20の側面に第2リターンスプリング38の端面が接触する。そのため、それ以上、第1ピストン20を移動させるためには、各リターンスプリング36,38を圧縮することになるので、第1ピストン20を移動させるために要する押圧力が急激に増大する。すなわち、第1ピストン20を所定量以上移動させる場合には、第1ピストン20を単位距離、移動させるために要する押圧力の増加量は、各リターンスプリング36,38の弾性係数の和に応じた大きさになる。言い換えると、第1ピストン20を押圧した際における反力の増大傾向が、反力が増大する方向に変化する。したがって、押圧力の微小変化による第1ピストン20の移動量が小さくなる。
【0031】
上述したように第2ブレーキB2を構成することにより、各ドグ歯27,33が係合する直前の位置となるように第1ピストン20を押圧する場合には、第1ピストン20が第2リターンスプリング38に接触する位置まで移動させることになる。その際に要する押圧力は、第1リターンスプリング36を圧縮する量に基づいて求めることができる。したがって、第2ブレーキB2を係合させる場合には、まず、第1ピストン20が第2リターンスプリング38に接触する位置まで、上記のように求められた油圧を油圧室26に供給し、その後、第2キャリヤ17の回転数が第2ブレーキB2を係合することができる回転数まで低下してから、油圧を更に増大させて、各ドグ歯27,33を係合させる。
【0032】
一方、上述したように第2リターンスプリング38を圧縮する場合には、反力の増大傾向が、反力が増大する方向に変化するので、第2リターンスプリング38に第1ピストン20が接触するように第1ピストン20を押圧する押圧力が、増大する方向にばらついたとしても、各ドグ歯27,33が過剰に接近するように移動することを抑制することができる。言い換えると、第2リターンスプリン38に接触する位置で第1ピストン20を停止させることができる。したがって、第1ピストン20の慣性などに応じて第1ピストン20が過剰に移動することを抑制するために、第1ピストン20の位置に応じて油圧を低下させるなどの制御を行う必要がない。そのため、各ドグ歯27,33が噛み合う直前の位置まで第1ピストン20を移動させる場合には、比較的高い押圧力で第1ピストン20を押圧することができるので、第1ピストン20を移動させる時間を短縮することができ、その結果、係合応答性を向上させることができる。
【0033】
また、第1ピストン20の位置を検出するためのセンサを別途設ける必要がなく、そのようなセンサの信号に基づいて油圧を制御する必要がないので、各ドグ歯27,33が噛み合う直前の位置まで第1ピストン20を移動させる制御を簡素化することができる。
【0034】
なお、第1ピストン20が予め定められた所定距離、移動した際に、第1ピストン20を押圧する押圧量に対する反力の増大傾向が、増大する方向に変化するように構成されていればよく、例えば、第1ピストン20とケース6とがスプライン係合する部分の摺動摩擦抵抗が大きくなるように、スプライン歯の歯面を形成していてもよい。
【0035】
また、この発明における押圧機構は、油圧アクチュエータに限らず、電磁アクチュエータなどの他のものであってもよい。さらに、第1リターンスプリング36と第2リターンスプリング38との二つの弾性部材により、第1ピストン20に弾性力を作用させる構成に限らない。具体的には、第1ピストン20が移動し始めてから各ドグ歯27,33が噛み合う直前の位置までは、比較的小さい弾性力が作用し、それ以上、第1ピストン20が保持部材21側に移動する間は、比較的大きい弾性力が作用するように、線径や有効巻き数、あるいはコイル径などを変更して弾性係数が異なるように構成した一つの弾性体によって、第1ピストン20を押圧するように構成していてもよい。また、この発明における反力機構は、バネに限らず、ゴムや油圧シリンダを利用したものであってもよい。さらに、この発明に係る噛み合い式係合装置は、ブレーキとして機能するものに限らず、クラッチとして機能するものであってもよい。
【符号の説明】
【0036】
7,13,14…サンギヤ、 8,15…インナーピニオンギヤ、 9,16…アウターピニオンギヤ、 10,18…リングギヤ、 12,17…キャリヤ、 20,29…ピストン、 26…油圧室、 27,33…ドグ歯、 36,38…リターンスプリング。
図1
図2
図3
図4
図5