(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6240114
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】樹脂材料の射出成形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/28 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
B29C45/28
【請求項の数】9
【外国語出願】
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-49799(P2015-49799)
(22)【出願日】2015年3月12日
(65)【公開番号】特開2015-178273(P2015-178273A)
(43)【公開日】2015年10月8日
【審査請求日】2016年4月14日
(31)【優先権主張番号】TO2014A000216
(32)【優先日】2014年3月18日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】505296588
【氏名又は名称】イングラス ソシエタ ペル アチオニ
【氏名又は名称原語表記】INGLASS S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】マウリツィオ・バッツォ
(72)【発明者】
【氏名】エンツォ・デ・セタ
【審査官】
関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第05556582(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0046465(US,A1)
【文献】
特開昭60−212321(JP,A)
【文献】
特開2007−144662(JP,A)
【文献】
特開2008−221472(JP,A)
【文献】
特表2013−539425(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全閉位置と全開位置の間で移動可能なピンバルブ(7)を有する少なくとも1つの射出器(3、4)に接続された圧力流体樹脂材料の分配器(2)を備えた金型キャビティ内に樹脂材料を射出成形する方法であって、
前記ピンバルブ(7)を全閉位置から全開位置に移動させた後、前記金型キャビティ内に樹脂材料を充填する充填工程と、
前記充填工程後に実行され、前記ピンバルブ(7)を、前記全開位置に維持する間、前記金型キャビティ内の樹脂材料を加圧する封止工程と、
前記封止工程後に実行され、前記ピンバルブ(7)を、前記全開位置から単一の部分閉鎖位置に移動させて維持した後、前記部分閉鎖位置から全閉位置に移動させる追加工程と、
を備えることを特徴とする射出成形方法。
【請求項2】
全閉位置と全開位置の間で移動可能なピンバルブ(7)を有する少なくとも1つの射出器(3、4)に接続された圧力流体樹脂材料の分配器(2)を備えた金型キャビティ内に樹脂材料を射出成形する方法であって、
前記ピンバルブ(7)を全閉位置から全開位置に移動させた後、前記金型キャビティ内に樹脂材料を充填する充填工程と、
前記充填工程後に実行され、前記ピンバルブ(7)を、前記全開位置に維持する間、前記金型キャビティ内の樹脂材料を加圧する封止工程と、
前記封止工程中に実行され、前記ピンバルブ(7)を、前記全開位置から単一の部分閉鎖位置に移動させて維持した後、前記部分閉鎖位置から全閉位置に移動させる追加工程と、
を備えることを特徴とする射出成形方法。
【請求項3】
全閉位置と全開位置の間で移動可能なピンバルブ(7)を有する少なくとも1つの射出器(3、4)に接続された圧力流体樹脂材料の分配器(2)を備えた金型キャビティ内に樹脂材料を射出成形する方法であって、
前記ピンバルブ(7)を全閉位置から全開位置に移動させた後、前記金型キャビティ内に樹脂材料を充填する充填工程と、
前記充填工程後に実行され、前記ピンバルブ(7)を、前記全開位置に維持する間、前記金型キャビティ内の樹脂材料を加圧する封止工程と、
前記充填工程の終了までに実行され、前記ピンバルブ(7)を、前記全開位置から単一の部分閉鎖位置に移動させて維持した後、前記部分閉鎖位置から全閉位置に移動させる追加工程と、
を備えることを特徴とする射出成形方法。
【請求項4】
全閉位置と全開位置の間で移動可能なピンバルブ(7)を有する少なくとも1つの射出器(3、4)に接続された圧力流体樹脂材料の分配器(2)を備えた金型キャビティ内に樹脂材料を射出成形する方法であって、
前記ピンバルブ(7)を全閉位置から全開位置に移動させた後、前記金型キャビティ内に樹脂材料を充填する充填工程と、
前記充填工程後に実行され、前記ピンバルブ(7)を、前記全開位置に維持する間、前記金型キャビティ内の樹脂材料を加圧する封止工程と、
前記充填工程と前記封止工程の間に実行され、前記ピンバルブ(7)を、前記全開位置から単一の部分閉鎖位置に移動させて維持した後、前記部分閉鎖位置から全閉位置に移動させる追加工程と、
を備えることを特徴とする射出成形方法。
【請求項5】
前記追加工程は、前記充填工程の初期から経過した時間の関数として実行することを特徴とする前記請求項のいずれか1項に記載の射出成形方法。
【請求項6】
前記追加工程は、前記充填工程の初期から射出される樹脂材料の体積の関数として実行することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の射出成形方法。
【請求項7】
前記ピンバルブ(7)の部分閉鎖位置と全閉位置の間の距離は0.1から5mmであることを特徴とする前記請求項のいずれか1項に記載の射出成形方法。
【請求項8】
金型キャビティの略中心領域と1以上の略周辺領域とにそれぞれ配置される多数の第1及び第2射出器(3、4)を備え、前記充填工程は、前記第1射出器(3)のピンバルブ(7)が全閉位置から第2射出器(4)のピンバルブ(7)の前の部分閉鎖位置に移動するように、第1及び第2射出器(3、4)を順次制御することにより実行し、前記金型キャビティは前記略中心領域から前記略周辺領域に向かって漸次充填される射出成形方法であって、
前記追加工程は、第2射出器のピンバルブが前記追加工程中に部分閉鎖位置に留まるように、第1射出器(3)のピンバルブ(7)のためにのみ実行されることを特徴とする請求項1に記載の射出成形方法。
【請求項9】
前記金型キャビティ内の圧力検出に基づいて制御することを特徴とする前記請求項のいずれか1項に記載の射出成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全閉位置と開放位置に配置可能なピンバルブを備えた少なくとも1つの射出器に接続され、圧縮流体樹脂材料の分配器を備えた金型装置によって、樹脂材料を金型のキャビティ内に射出成形する射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、このような射出成形方法は、キャビティ内に圧縮樹脂材料を充填する封止工程に続いて、開放位置に維持されているピンバルブの配置を全閉位置から開放位置とした後、金型キャビティに樹脂材料を充填する工程を備える。そしてピンバルブは、開放位置から全閉位置に移動され、待機時間の後、樹脂材料を凝固させ、成形品が金型から取り出される。
【0003】
高品質が要求される射出成形品のために、機械的な輪郭に関して、例えば、特に大きな車両要素の場合の美的観点から、成形装置は通常、金型の異なる領域で供給されるある数の射出器を使用する。これらの射出器が、一般に金型キャビティの中心領域に配置される、単一の分配装置から供給される場合、中央の射出器すなわち第1射出器に隣接するキャビティ領域と、周辺の射出器すなわち第2射出器に対応するキャビティ領域との間で、注入される樹脂材料の圧力及び密度には顕著な相違が発生し得る。このため、これらの場合、カスケードインジェクションが利用され、金型キャビティへの充填工程が、中央領域から周辺領域に向かって連続的に金型キャビティに充填されるように、異なる射出器のピンバルブの開放を順次命令することにより、もっと正確に言えば、第1射出器を開放した後、第2射出器を開放することにより行われる。この場合、第1射出器のピンバルブを、射出サイクルの全体に亘って開放状態に維持させるか、あるいは、閉鎖位置に位置決めして、順次第2射出器のピンバルブを開放させることができる。このように、金型キャビティの充填初期段階が改良され、キャビティの初期充填領域での樹脂材料によって発生する局部圧力が軽減される。
【0004】
特に、この種の連続的な注入の場合、充填工程に続く封止工程は、種々の射出器とキャビティの異なる領域との間で釣り合わなければならず、キャビティの幾つかはより多くの樹脂材料を充填され、他はより少なくなるかもしれない。一般に、不均衡と過剰充填により、成形品の歪の問題、機械特性の必然的な低下を伴う張力、厚さの局部的な増大、ときには成形工程中の繊維化と破損がもたらされる。
【0005】
低頻度ではあるが、同様な問題は、寸法が一連の手順を必要とすることが必須でないような射出成形品にも起こり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、この問題がそれ自身に現れる射出成形材料の流れや圧力を低減する過剰充填の問題を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、この問題は、請求項1の前段に記載したタイプの射出成形方法によって解決され、その独特の特徴は、部分閉鎖の少なくとも1つの中間位置で、前述の少なくとも1つの射出器のピンバルブの配置と位置の追加工程を含む。
【0008】
この部分閉鎖の追加工程は、充填工程の終わりに向かって、あるいは、封止工程中、あるいは、充填工程と封止工程の間でさえも行われる。
【0009】
特に、この解決方法により、連続射出成形の場合だけでなく、金型キャビティ内の樹脂材料の圧力及び分配を最適に保つことが可能である。
【0010】
ピンバルブの部分閉鎖は1箇所以上とすることでき、充填工程の初期から経過した時間の関数として、あるいは、充填工程の初期から充填された樹脂材料の量の関数として実行することができる。一般に、部分閉鎖位置と完全閉鎖位置の間でのピンバルブのストロークは、0.1から5mmとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る成形方法が基本的に図示された装置で実行される樹脂成形品の例を示す。
【
図3】成形方法の各連続工程中での
図2の詳細拡大図を示す。
【
図4】成形方法の各連続工程中での
図2の詳細拡大図を示す。
【
図5】成形方法の各連続工程中での
図2の詳細拡大図を示す。
【
図6】成形方法の各連続工程中での
図2の詳細拡大図を示す。
【
図7】
図1の成形品において、本発明に係る方法から得られた結果の例を示す。
【
図8】
図1の成形品において、本発明に係る方法から得られた結果の例を示す。
【
図9】
図1の成形品において、本発明に係る方法から得られた結果の例を示す。
【
図10】
図1の成形品において、本発明に係る方法から得られた結果の例を示す。
【
図11】
図1の成形品において、本発明に係る方法から得られた結果の例を示す。
【
図12】
図1の成形品において、本発明に係る方法から得られた結果の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、樹脂成形品を示し、本発明に係るその成形方法は次のような特有の効果を奏する。すなわち、それは自動車のバンパーPであり、優れた美的価値を得るために、厚さ(2〜3mm)に対して相対的に大きな寸法(1200〜1500mmの長さ)と、大きな平均重量(一般に1200〜1500g以上)と、車の視認可能な位置からの高い美的価値と、塗装等のその後の全ての工程に必要とされるものとを有しており、審美性の表面欠陥や成形中の変形によって起こる樹脂材料の化学的/物理的性状の局所的な欠陥のない高品質の樹脂支持部が要求される。本発明に係る方法が有効である他の製品は、例えば、自動車分野において、ポリカーボネートやポリアセチル・メタクリル樹脂等の工業的に粘性のある樹脂材料によって形成されたパネルで構成してもよく、その結果、射出圧は非常に高い値に到達する。
【0013】
図1を参照すると、一般に製品Pの製造に使用される射出成形装置が図示されている。可塑化ユニット1は樹脂材料を変化させ、複数の射出器3、4から単一のホットランナ分配システム2を介して図示しない金型キャビティ内に射出する。射出器3は、金型の略中心の射出路に配置される一方、射出器4は周辺の射出路に配置される。
【0014】
図2は、ホットチャンバ2に接続された射出器3(又は4)の1つを示す略図である。すなわちそれは、全体としては従来の手法でノズル5を備え、ノズル5の自由端にはノズル基端6が設けられ、ノズル基端6の開閉は、
図3及び
図6に示す全閉位置と、
図4に示す全開位置との間で、流体又は電動アクチュエータ8によってノズル5に沿って軸方向に移動可能なピンバルブ7で制御される。
【0015】
一般に、各射出器3、4によって作動する成形サイクルには、ピンバルブ7の全閉位置(
図3)から始まり、充填工程中、ホットチャンバ2から金型キャビティ内に樹脂材料を流動可能とするピンバルブ7の開放(
図4)が含まれる。
【0016】
その開放は、
図4に高さFOで示されるように完了、又は、高さSで示すように殆ど完了とすることができる。
【0017】
この工程では、射出成形樹脂材料の圧力は増大し、金型キャビティは、樹脂材料の速さ/流れを制御可能な状態で、95〜99%に充填される。
【0018】
充填工程は、維持又は封止工程へと続き、ピンバルブ7はその充填を安定させるために、全開又は殆ど全開位置に維持され、射出成形材料は、短時間(通常、5〜10秒)の間圧力を維持され、所定の圧力形状となる。この工程は、樹脂材料が流体状態から固体状態に自然収縮(0.5〜1%)することを補償し、成形品の各領域が溶融状態でさえ、コア内の十分な圧力下で冷却されることを確実にするように作用する。
【0019】
射出ポイントに近い領域での射出成形材料には、中心でより大きな圧力が作用するが、その圧力は射出ポイントから離れるに従って小さくなる。さらに、他の領域よりも開放時間が長くなる射出ポイントに近い領域や、ホットチャンバ2の中心により近い領域でも圧力が相違している。より圧力が大きい領域は「過剰封止」、又は、むしろより大きな局所密度を示し、体積の収縮がより少なく、その結果、成形品の変形が必然的に起こる。逆に、十分に封止されていない領域は低密度で、より大きく収縮し、その結果、成形品に接触しやすくなり、又この場合、成形品を変形させる。これら2つの状況は、
図7、8及び
図9、10にそれぞれ図示されている。すなわち、
図7及び
図9は、全ての射出器3、4の開放状態と、中心の射出器3の全閉状態のそれぞれで、射出成形材料の密度変化の定性表現として成形品の前面を示す。
【0020】
図8及び
図9は、点線で図示された理論上の形状に対して、変形を連続線で強調した成形品Pの平面図を示す。第1の場合(
図8)、成形品Pは、中央領域での樹脂材料の過剰封止により、中央部でより明瞭に湾曲し、封止不足により端部でより不明瞭に湾曲する。第2の場合(
図10)、成形品Pの中心領域では、不十分な封止により窪んですらいる。
【0021】
図11及び
図12は、
図7、8及び
図9、10と同様な図形で、本発明に係る成形方法の特徴に対応する状態を表示する。すなわち、充填工程の終盤に向かって、あるいは、充填工程と封止工程の間、あるいは、封止工程の途中でさえ、成形品Pの中心領域に対応する射出器3のピンバルブ7は、
図4の開放位置から
図5に示す部分閉鎖位置まで移動される。この工程では、射出器3のピンバルブ7は、部分閉鎖位置に維持され、周辺の射出器4のピンバルブ7は、金型キャビティ内の異なる領域での圧力を調整することにより、全開又は部分開放位置に留まる。
【0022】
この部分閉鎖中間位置は、ピンバルブ7が完全閉鎖位置へと徐々に接近する部分閉鎖位置に十分に移動可能であるという意味で、単一又は多数であり得るが、その位置では、ノズル端部6の上流側圧力は下流側圧力、すなわち金型キャビティの対応する領域内の圧力よりも大きい。この圧力の違いは、過剰封止を排除して金型キャビティのこれらの領域での射出樹脂材料のより低い局部密度を決定する。言い換えれば、その完全な再閉鎖に先立つ(
図6に示され、射出サイクルの終盤に対応する)ピンバルブの半閉鎖中間位置により、キャビティ内でのよりよい圧力バランスと材料の分配とが得られる結果、金型キャビティ内での樹脂材料の圧力及び密度はより均一になる。このように、前記工程の終盤で成形された成形品Pは、理論設計に本質的に対応する構造を有する(
図12)。
【0023】
なお、部分閉鎖中間位置でのピンバルブ7の移動及び維持の追加工程は、一般に、操作可能にアクチュエータを接続された、図示しない電子制御ユニットによって、充填工程の初期から経過した時間の関数として、あるいは、充填工程の初期から射出樹脂材料の容量の関数として実行される。
【0024】
例えば、
図5の部分閉鎖位置から
図6の全閉位置までのピンバルブ7の端部の距離は0.1から5mmであればよい。
【0025】
設定するパラメータとピンバルブの閉鎖ストロークを改良して円滑にするために、圧力センサ(それらは当業者の範囲であるので図示せず)が、射出ポイントに隣接するポイント及び離れたポイントで、適宜、金型キャビティ内に組み込まれ、圧力傾向を検出し、その結果、電子制御ユニットによって圧力が調整される。これに代えて、最適の成形条件が、理論形式から局所偏差を測定するように構成された測定テンプレートの助けにより識別可能である。
【0026】
なお、本発明は連続成形方法について記載されているが、非連続成形工程に採用することができ、改良された機械的特徴及び審美的品質を有する成形品を製造する全ての場合に有効である。
【符号の説明】
【0027】
1…可塑化ユニット
2…ホットチャンバ(ホットランナ分配システム)
3、4…射出器
5…ノズル
6…ノズル基端
7…ピンバルブ
8…電動アクチュエータ
P…成形品