(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ガラスの少なくとも1つの表面にイオン交換圧縮層を有し、該圧縮層が、少なくとも350MPaの圧縮応力および少なくとも20μmの圧縮層の深さを有することを特徴とする、請求項1記載のガラス。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の説明において、図に示される幾つかの表示の全体にわたり、同じような参照文字は、同様または対応する部分を指定している。他に特に規定されなければ、「上部」、「底部」、「外側」、「内側」などの用語は便宜上用いられているのであって、当然ながら、限定的な用語と解釈されるべきではない。加えて、ある群が、元素またはそれらの組合せの群のうち少なくとも1つを含むと説明されている場合には、常に、その群は、列挙されたそれらの要素を幾つでも個別にまたは互いに組み合わせて、含みうる、実質的に構成されうる、または、構成されうると理解されたい。同様に、その群が、元素またはそれらの組合せの群のうち少なくとも1つで構成されると説明される場合は常に、その群は、列挙されたそれらの要素を幾つでも個別にまたは互いに組み合わせて、構成されうると理解されたい。他に特に規定されなければ、値の範囲が列挙されている場合には、値の範囲にはその範囲の上限または下限の両方が含まれる。
【0012】
図面全般に関し、当然ながら、図は特定の実施の形態を説明するためのものであって、本開示または添付の特許請求の範囲を限定することは意図されていない。図面は 必ずしも一定の縮尺である必要はなく、図面のある特定の特徴及びある特定の表示は、明快性および簡潔性の利益の目的で、縮尺または概略が誇張されている場合がある。
【0013】
アイソパイプにおいてジルコンが破壊してジルコニアとシリカを形成する温度(本明細書では「破壊温度」または「T
breakdown」とも称される)がアイソパイプにおいてみられる温度よりも高ければ、フュージョン・ドロー・ガラスにおけるジルコニア包有物(「溶融ライン・ジルコニア」とも称される)の問題は生じなかったであろう。この場合、アイソパイプ上でのガラス形成に使用する温度はジルコニアを生じるには低すぎ、ガラスにこのような欠陥は形成されないであろう。
【0014】
溶融は、実質的に等粘性(isoviscous)のプロセスであることから、ガラスにみられる最高温度は、ガラスの特定の粘度に対応する。当技術分野で周知のそれらの標準的フュージョン・ドロー操作では、この粘度は、約35,000ポアズ(「35キロポアズ」または「35kp」)である。ただし、最初、アイソパイプがガラスで湿っている短時間の間は、粘度は約16,000ポアズ程度でありうる。我々は、破壊温度と35,000ポアズの粘度に対応する温度との差異を破壊マージンT
marginとして定義し、ここで:
T
margin = T
breakdown−T
35kp …(1)
であり、T
35kpはガラスの粘度が35,000ポアズのときの温度である。
【0015】
破壊マージンT
marginがマイナスの場合、ジルコンは崩壊し、アイソパイプ上の一部にジルコニア性の欠陥を形成する。T
marginがゼロの場合にも、温度の逸脱はジルコンの崩壊を生じさせる可能性がある。したがって、破壊マージンを正の数にするだけでなく、最終的なガラス製品において維持されなければならない他の特性のすべてと調和させつつ、T
marginをできるだけ大きくすることが望ましい。
【0016】
破壊温度と35kpにおける温度との関係を理解するためには、ジルコンからジルコニアが形成される反応を考えることが役立つ。反応は、次のように表わすことができ:
ZrSiO
4(結晶)→ ZrO
2(結晶)+ SiO
2(液体) …(2)
ここで、ZrSiO
4(結晶)およびZrO
2(結晶)は、それぞれ、結晶ジルコンおよび結晶ジルコニアであり、SiO
2(液体)は、反応(2)によって生じた、ガラス内に溶解する液体シリカである。
【0017】
ジルコンの崩壊は、反応(2)を左に進めることによって防ぐことができる。そうするためには、ガラス中のZrO
2またはSiO
2のうちの少なくとも1つの活性(すなわち濃度)を増大させることが必要である。ZrO
2添加によってこれを達成するためには、ZrO
2の濃度を、ジルコンが液相線に達するまで増大させる必要がある。しかしながら、これは、新しい、望ましくない欠陥である二次的ジルコンを生じる危険にさらすことになる。残る選択肢は、ガラス中のSiO
2の活性/濃度を上昇させることである。しかしながら、SiO
2の濃度上昇のためには他のガラス成分を低下させなければならないことから、ガラス粘度も同様に上昇する。よって、破壊温度が上昇する速度と、35kpの温度T
35kpが上昇する速度とのバランスを保たなければならない。
【0018】
1つの態様では、35kpにおける温度T
35kpよりも高い破壊温度T
breakdownを有する、すなわち、T
breakdown>T
35kpのガラス組成物が提供される。破壊温度は、フュージョン・ドロー工程の通常動作の間に、たとえ一時的ではあっても、達する可能性があるどの粘度よりも高いことが好ましい。組成物は、1つの実施の形態では、従来の電気ブーストのジルコニアまたはアルミナ耐火タンクで溶融可能である;すなわち、ガラスの溶融温度T
350p(すなわち、約350ポアズの粘度に対応する温度)は約1650℃未満である。
【0019】
1つの実施の形態では、本明細書に記載のガラスは、ダウン・ドロー可能であり、かつ、フュージョン・ドロー工程に適合することに加え、ガラス表面に少なくとも20μmの深さの、少なくとも350MPaの最大圧縮応力を有する圧縮層を生じるような、イオン交換可能なガラスである。他の実施の形態では、ガラスは、ガラス内に少なくとも10MPaの中心張力を生じるような、イオン交換可能なガラスである。ガラスはSiO
2およびNa
2Oを含み、ここで、SiO
2+B
2O
3≧66モル%、およびNa
2O≧9モル%である。ガラスは、一部の実施の形態では、B
2O
3、K
2O、MgO、およびCaOのうち少なくとも1種類をさらに含む。特定の実施の形態では、ガラスは、61モル%≦SiO
2 ≦75モル%;7モル%≦Al
2O
3≦15モル%;0モル%≦B
2O
3≦12モル%;9モル%≦Na
2O≦21モル%;0モル%≦K
2O≦4モル%;0モル%≦ MgO≦7モル%;および0モル%≦ CaO≦3モル%を含む。一部の実施の形態では、ガラスは、限定はしないが、ハロゲンまたはAs
2O
3、Sb
2O
3、SnO
2、およびFe
2O
3などの多価清澄剤など、少なくとも1種類の清澄剤を含む。特定の実施の形態では、As
2O
3とSb
2O
3のいずれかまたは両方が存在する場合には、その総濃度は500重量ppm未満である。
【0020】
ガラスの破壊マージンT
marginは、式:
T
margin(℃)=610.6−41.0[Al
2O
3]+9.9[B
2O
3]−3.5[Na
2O]
−20.2[K
2O]−25.6[MgO]+34.2[CaO] …(3)
によって与えられ、ここで、濃度[Al
2O
3]、[B
2O
3]、[Na
2O]、[K
2O]、[MgO]、および[CaO]はモル%で表わされる。式(3)における係数は、さらに洗練されて、式:
T
margin(℃)=446.6−50.2[Al
2O
3]+22.6[B
2O
3]−4.4[Na
2O]
−3.9[K
2O]−1.2[MgO+CaO] …(3a)
を与える。
【0021】
SiO
2濃度は、実質的に、他の酸化物との差異によって計上されるため、この式には含まれていない。式(3)の条件を満たす場合、ジルコンの破壊温度はガラスの35kpにおける温度よりも高くなり(すなわち、T
breakdown>T
35kp)、したがって、ガラスが溶融工程のジルコンアイソパイプ上で成形される場合、溶融ラインのジルコニア欠陥を回避することができる。
【0022】
式(3)における回帰係数に見られるように、破壊マージンT
marginにプラスに寄与する唯一の酸化物はB
2O
3である。SiO
2が高い破壊温度に最も大きく貢献することから、SiO
2濃度が低い場合には、過度に低い破壊温度を回避するためには、高濃度のB
2O
3が必要とされる。B
2O
3とSiO
2の連関は、ガラス組成物におけるより大きい基本的な制約、すなわち、SiO
2+B
2O
3≧66モル%を生じる。
【0023】
Na
2Oは、例えば硝酸カリウム(KNO
3)などの溶融塩における従来のイオン交換の間にガラスから除去されて、例えばK
2Oなどのより大きい一価の陽イオンに置換されることから、イオン交換を促進する必須の酸化物成分である。最小限の有用な圧縮応力を得るためには、Na
2O≧9モル%である。
【0024】
本明細書に記載のガラスは、既存の溶融工程に適合することが望ましいが、より硬質なガラスを溶融できるであろう別の溶融手段または別の代替材料もまた、これらガラスの調製に使用して差し支えない。溶融温度が高くなりすぎることを避けるために、融剤(例えば、B
2O
3、アルカリ酸化物、およびアルカリ土類酸化物)は、基本的なガラス形成材料Al
2O
3およびSiO
2に対して、比較的高濃度に保たれうる。このことは、35kpおよび350pの温度が互いの「挙動を追う」、すなわち、35kpの温度が高いと、350pの温度も高いということを暗に示すという事実から理解することができる。35kpの回帰方程式(5)(後述する段落に示す)から、高いAl
2O
3含量および、推論により、高SiO
2含量が、高い35kp温度をもたらし、したがって、高い溶融温度を生じる。高い溶融温度を回避するためには、B
2O
3+Na
2O+K
2O+MgO+CaO≧18モル%であることが望ましい。MgOを除き、上記成分のすべてが低い液相線温度にも寄与し、これが、フュージョン・ドロー法に適合するのに十分に大きい液相粘度を確実にする。
【0025】
1つの態様では、液相線温度は、高い液相粘度を確実にするために合理的に達成可能な程度に低いことが望ましい。液相線温度と組成の関係は非常に複雑であり、それを説明するために考案できる単純なアルゴリズムはない。しかしながら、アルミニウムに比べて過剰なアルカリ金属酸化物濃度(すなわち、Na
2O+K
2O−Al
2O
3)が上昇し、また、少なくとも上記範囲内で、ナトリウムがカリウムで置換されることから、液相線温度は一般に低下する。同様に、液相線温度は、B
2O
3の上昇に伴って、急勾配で低下する。したがって、B
2O
3+Na
2O+K
2O−Al
2O
3≧0であり、ガラスが適切な低い液相線温度を有することを確実にすることは有利である。
【0026】
本明細書に記載のガラスは、フュージョン・ドローされて、電話などの可動性の電子機器、ゲーム、音楽プレーヤーなどを含む娯楽機器;ラップトップ型コンピュータなどの情報端末(IT)機器;およびこれら機器に相似した固定機器のためのカバープレート、ウィンドウ、ケーシング、スクリーン、タッチパネルなどとして使用することができるシートを形成して差し支えない。
【0027】
ジルコン破壊温度は、幾つかの方法の1つによって実験的に決定することができる。勾配ストリップ試験として知られる1つの方法では、対象とするガラスサンプルを破砕してふるいにかけ、一般に20メッシュ未満のサイズ画分を得る。1390ジルコン耐火物(Cohart社製)のストリップを細長い白金ボートの底に置き、破砕したガラスをジルコン耐火物の上に置く。次に、耐火物とガラスを入れたボートを、加熱炉における各地点の温度がボートの長さに沿って特定の場所に位置づけられるように調整した、従来の勾配管状加熱炉に入れる。勾配は、加熱炉の低温端が約750℃から約800℃までの範囲の温度、高温端が約1225℃から約1300℃の範囲の温度になるように設定する。ボートは1週間、加熱炉内に置かれる。加熱炉内に1週間置いた後、ボートを取り出し、ガラス/耐火物のスラブを長さに沿って区分けし、検査した。ガラス中のジルコニア包有物は、偏光顕微鏡法を使用してジルコンと識別することができ、走査電子顕微鏡法でさらなる確認を得ることができる。加熱炉の温度はサンプルの長さに沿って分かることから、ジルコニアが最初に現れる位置は、特定の温度に対応する。温度の推定の不確実性は約±10℃である。
【0028】
勾配ストリップ試験法によって推定したガラスの組成が表1に示され、
図1に、予測破壊温度に対してプロットされている。表1に掲げられた組成はモル%で表わされている。
図1では、yエラーバーは10℃の測定の不確実性を示し、xエラーバーは回帰方程式の2σの標準誤差、すなわち15℃を示している。表1に記載の組成はモル%で表わされ、記載されるガラスの大部分は、公称組成である。表1に記載のガラスの大部分については、真の組成と公称組成の値は近いはずであるが、最も高いホウ素ガラスでは、溶融工程自体がガラスのB
2O
3含量を十分に低減した可能性がある。いくつかの事例では、破壊温度(「破壊T」)は、温度勾配加熱炉の高温端の温度よりも高い。これらの事例では、破壊温度T
breakdownが高温端の温度より高いことしか実証できず、T
breakdownの固有の温度は割り当てることができない。表1に記載の3つのサンプル(25、26、27)では、高い熱膨張率のガラスは、ガラス−耐火物接触面に、ガラスの酷い微小亀裂またはひび割れを生じた。その結果、これらのサンプルでは、ジルコニアは約1100℃までの温度で存在したことしか決定できず、ジルコンが安定になる温度(推定では低い)は決定できなかった。
【0029】
表1はまた、SnO
2以外のすべての主要元素酸化物(清澄剤およびSiO
2として低レベルで頻繁に存在)のモル分率に対する破壊温度の直線回帰によって得られた予測破壊温度も示している。SiO
2の濃度は他の酸化物との差によって実質的に計上されることから、SiO
2は回帰から外された。組成に対する破壊温度を示す回帰方程式は次のとおりである:
T
breakdown(予測)(℃)=2095.1−24.0[Al
2O
3]−8.5[B
2O
3]
−33.6[Na
2O]−46.2[K
2O]−24.7[MgO]−23.9[CaO] …(4)
ここで、カギカッコ内の濃度はモル%で表わされる。式(4)の係数はさらに洗練されて、式:
T
breakdown(予測)(℃)=2008.8−23.5[Al
2O
3]−1.6[B
2O
3]
−33.6[Na
2O]−45.5[K
2O]−10.5[MgO+CaO] …(4a)
を与える。
【0030】
式(4)および(4a)の標準誤差は約7.3℃である。よって、2σの不確実性は約15℃であり、測定値自体の推定不確実性に近い。
【0031】
ジルコン破壊温度はまた、等温保持技術によって実験的に決定することもできる。この方法では、ガラスサンプルはジルコン耐火物を含む小さい白金ボートに置かれ、固定温度で1週間の間、保持される。等温保持法はジルコン破壊の固有の温度を提供するわけではないが、スクリーニング手段としての役割をする。破壊温度が閾値よりも高いことが事前に知られている場合、ガラスサンプルおよびいくつかの他の組成物を同時に、単に閾値温度で保持して、それらのサンプルが閾値温度よりも高いまたは低い破壊温度を有すると識別することができる。
【0032】
ガラス組成物の等温保持試験の結果が表2に記載されている。表2に記載される組成はモル%で表わされている。記載されるサンプルの大半において、表2の組成は測定値ではなく公称値である。サンプルの破壊温度を、この技法で一意的に決定することはできない。しかしながら、ジルコニアが観察されない場合には、破壊温度は保持温度よりも高いはずである。同様に、ジルコニアが観察される場合には、破壊温度は等温保持温度よりも低いはずである。保持温度に対する破壊温度の「判断(sense)」(すなわち、表2の「破壊温度T」の欄に記載された保持温度よりも高いまたは低い)が表2に示されている。本明細書に先に記載したモデルを使用して計算した破壊温度も比較のために示されている。表2に記載の75サンプルでは、予測破壊温度は保持温度に対する正確な判断を有する;すなわち、予測温度が保持温度より高い場合、ジルコニアは見られない。同様に、予測温度が保持温度より低い場合には、さまざまな量のジルコニアが観察される。
【0033】
低い破壊温度を有する従来のガラスと本明細書に開示されるような高い破壊温度を有するガラスとの差異が、
図3および4に例証されている。
図3は低い破壊温度を有するガラス組成物(表1の組成5)の後方散乱した電子顕微鏡写真を示しており、
図4は高いジルコン破壊温度を有するガラス組成物(表1の組成11)の後方散乱した電子顕微鏡写真を示している。両方のガラスは、ジルコン粒子と混合され、Ptボートに充填され、1175℃で114時間、加熱炉内に置かれた。次に、サンプルは加熱炉から取り出され、空冷され、その後、検査用に切断および研磨された。
図3に見られるように、ガラス組成5を含み、1105℃の破壊温度を有するサンプルは、ジルコンの破壊から生じたジルコニア粒子をはっきりと示している。ジルコン粒子310(
図3の灰色の相)のそれぞれが、ガラス320(暗色相)のすぐ内側に多数の小さいジルコニア粒子330(白相)で縁どられていることからも明らかなように、ジルコンはガラスと反応している。対照的に、ガラス組成11を含む、1180℃の破壊温度を有するサンプルは、ジルコン破壊を受けなかった。
図4は、ジルコン粒子310とガラスは存在しているが、ジルコニア粒子は観察されなかったことを示している。
【0034】
各サンプルに見られるジルコニアの相対量も表2に記載されており、相対量(「高い」、「中程度」、「微量」および「なし」)で示されている。観察されるジルコニアの相対量もまた、破壊温度の挙動を追う。T
breakdownが保持温度よりもはるかに低いと予測される場合は、大量のジルコニアが観察される。予測T
breakdownが等温保持温度に近い場合には、微量のジルコニアのみが観察される。表2に記載の最後の10サンプルでは、破壊温度の予測判断は観察されるものと異なっているが、すべて予測破壊温度の2σの範囲内であり、したがって、予測の不確実性の範囲内である。
【0035】
2つの欠陥が、勾配ストリップ試験および等温保持試験に関係する。第一に、両方の試験に使用される高温における長時間の曝露は、ある特定のガラス成分、特に、ガラスの破壊温度に影響を与えるB
2O
3の揮発を生じうる。先に論じたように、SiO
2の上昇は破壊温度の上昇を生じさせる。SiO
2は典型的には本明細書に記載のガラス中に存在するすべての酸化物の60モル%を超えることから、ガラス中の絶対的なSiO
2濃度は、B
2O
3などの揮発成分を失う場合に最も増大する。さらには、Na
2OおよびB
2O
3の両方を含むガラスに由来する少なくとも1つの揮発成分はNa
2B
4O
7であり、ナトリウムおよびホウ素の両方が失われかねない。よって、高いB
2O
3濃度を有するガラスの破壊温度は、実際のT
breakdownの過大評価になる傾向にあり、試験の後にガラス組成を検証すべきである。第2に、ジルコンの破壊は非常にゆっくりである。その結果、両方の試験に用いられた1週間の保持時間は、一部の事例では、観測できる程度の破壊を示すには不十分かもしれない。一般に、これらの問題の両方は、予期したより高い破壊温度の観察につながる。
【0036】
粘度の測定は、幅広い組成範囲のイオン交換可能なガラスについて別々に行った。ガラス粘度が35,000ポアズの温度(T
35kp)に回帰するとき、温度は5.8℃の標準誤差を有し、したがって、11.6℃の伝播2σの不確実性で、組成物との線形相関が得られる:
T
35kp(℃)=1484.5+17.1[Al
2O
3]−18.4[B
2O
3]−30.1[Na
2O]
−26.0 [K
2O]+0.9[MgO]−58.1[CaO] …(5)
図2に、予測35kpの温度に対するT
35kpの測定値がプロットされ、式(5)における予測値と測定値の間の良好な相関関係を示している。式(5)の係数は、さらに洗練されて、式:
T
35kp(℃)=1562.2+26.7[Al
2O
3]−24.2[B
2O
3]−38[Na
2O]
−41.6 [K
2O]−9.3[MgO+CaO] …(5a)
を与える。
【0037】
破壊温度T
breakdownは35kpの温度T
35kpを上回ることから、式(1)、(4)、および(5)をまとめて式(3):
T
margin =610.6−41.0[Al
2O
3]+9.9[B
2O
3]−3.5[Na
2O]−20.2[K
2O]
−25.6[MgO]+34.2[CaO] …(3)
を得て、式(3)における係数がさらに洗練されて、式(3a):
T
margin(℃)=446.6−50.2[Al
2O
3]+22.6[B
2O
3]−4.4[Na
2O]
−3.9[K
2O]−1.2[MgO+CaO] …(3a)
を得る。式(3)を満たす典型的なガラスが表3に記載されている。表3に記載される組成はモル%で表わされている。
【0038】
一部の実施の形態では、ジルコン破壊温度は可能な限り高いことが望ましく、アイソパイプ上で経験したどの温度よりも高い温度が好ましい。2σの伝播不確実性は19℃である。破壊温度がアイソパイプにおける温度よりも高くなることを確実にするため、式(3)および(3a)の回帰係数から19℃を差し引き、不確実性を考慮に入れる:
T
margin =591.6−41.0[Al
2O
3]+9.9[B
2O
3]−3.5[Na
2O]−20.2[K
2O]
−25.6[MgO]+34.2[CaO] …(6)
T
margin(℃)=427.6−50.2[Al
2O
3]+22.6[B
2O
3]−4.4[Na
2O]
−3.9[K
2O]−1.2[MgO+CaO] …(6a)
しかしながら、35kpより低いまたは高い粘度でガラスを送達するのに十分な柔軟性が溶融工程において存在する。したがって、式(3)は、できる限り高い破壊マージンT
marginを目的として、適合させることができよう。その後、必須の製品特性が19℃を超える予測破壊マージンT
marginを生じない場合に、ガラス送達温度を調整してもよい。
【0039】
表3に示すガラス組成物は、生産規模における溶融速度での気体および固形包有物の低減にとって望ましい、1650℃以下の、350ポアズの温度T
350(すなわち、ガラスが典型的に溶融する温度)を有する。加えて、組成物のすべては、当技術分野において幅広く知られる方法によってイオン交換可能である。イオン交換工程では、ガラス中の小さい金属イオンが、ガラスの外表面に近い層内の同一価数の大きい金属イオンに置換または「交換」される。小さいイオンを大きいイオンに交換することで層内に圧縮応力が生じる。1つの実施の形態では、金属イオンは一価のアルカリ金属イオン(例えば、Na
+、K
+、Rb
+など)であり、イオン交換は、ガラス中の小さい金属イオンと交換されるべき大きい金属イオンの少なくとも1種類の溶融塩を含む浴にガラスを浸漬することによって達成される。あるいは、Ag
+、Tl
+、Cu
+などの他の一価イオンが一価のイオンと交換されてもよい。ガラスを強化するのに用いられるイオン交換工程または複数のイオン交換工程には、限定はしないが、単一浴への浸漬、または、浸漬と次の浸漬の間に洗浄および/またはアニーリングの工程を有する、同様または異なる組成の複数の浴への浸漬が挙げられる。
【0040】
1つの実施の形態では、表3に記載のガラスは、410℃の温度で8時間の溶融KNO
3への曝露によってイオン交換されて、ガラス表面における少なくとも20μmの深さ(「層の深さ」とも称される)、および少なくとも350MPaの最大圧縮応力を有する圧縮応力層を生じる。別の実施の形態では、表3に記載のガラスはイオン交換されて、少なくとも10MPaの中心張力を達成する。
【0050】
これまで、典型的な実施の形態について例示の目的で説明してきたが、前述の説明は、本開示または添付の特許請求の範囲における限定とみなされるべきではない。したがって、当業者は、本開示または添付の特許請求の範囲の精神および範囲から逸脱することなしに、さまざまな変更、適合、および代替が想起するであろう。
【0051】
他の実施態様
1.SiO
2およびNa
2Oを含むガラスであって、
35キロポアズの粘度を有する温度T
35kpを有し、
ジルコンが崩壊してZrO
2およびSiO
2を形成する温度T
breakdownがT
35kpより高い、
ガラス。
2.SiO
2+B
2O
3≧66モル%およびNa
2O≧9モル%である、実施態様1記載のガラス。
3.イオン交換可能である、実施態様1または2記載のガラス。
4.イオン交換されて、ガラスの少なくとも1つの表面に圧縮層を形成している、実施態様3記載のガラス。
5.前記イオン交換されたガラスが、少なくとも350MPaの圧縮応力および少なくとも20μmの圧縮層の深さを有する、実施態様4記載のガラス。
6.前記イオン交換されたガラスが、少なくとも10MPaの中心張力を有する、実施態様4記載のガラス。
7.前記ガラスが、
61モル%≦SiO
2 ≦75モル%;
7モル%≦Al
2O
3≦15モル%;
0モル%≦B
2O
3≦12モル%;
9モル%≦Na
2O≦21モル%;
0モル%≦K
2O≦4モル%;
0モル%≦ MgO≦7モル%;および
0モル%≦CaO≦3モル%
を含む、実施態様1から6いずれか記載のガラス。
8.T
margin= T
breakdown−T
35kpであり、T
margin=610.6−41.0[Al
2O
3]+9.9[B
2O
3]−3.5[Na
2O]−20.2[K
2O]−25.6[MgO]+34.2[CaO]であり、ここで、濃度 [Al
2O
3]、[B
2O
3]、[Na
2O]、[K
2O]、[MgO]、および[CaO]はモル%で表わされており、T
margin≧0である、実施態様1から7いずれか記載のガラス。
9.T
margin= T
breakdown−T
35kpであり、T
margin(℃)=446.6−50.2[Al
2O
3]+22.6[B
2O
3]−4.4[Na
2O]−3.9[K
2O]−1.2[MgO+CaO]であり、濃度 [Al
2O
3]、[B
2O
3]、[Na
2O]、[K
2O]、[MgO]、および[CaO]はモル%で表わされており、T
margin≧0である、実施態様1から7いずれか記載のガラス。
10.ダウン・ドロー可能である、実施態様1から9いずれか記載のガラス。
11.フュージョン・ドローによってガラスシートに成形される、実施態様1から10いずれか記載のガラス。
12.前記ガラスシートがガラスシート1ポンドあたり固体ZrO
2の包有物を1つ未満しか有さない、実施態様11記載のガラス。
13.B
2O
3+Na
2O+K
2O+MgO+CaO≧18モル%である、実施態様1から12いずれか記載のガラス。
14.B
2O
3+Na
2O+K
2O−Al
2O
3≧0モル%である、実施態様1から13いずれか記載のガラス。
15.約100キロポアズを超える液相粘度を有する、実施態様1から14いずれか記載のガラス。
16.1650℃以下の、350ポアズにおける温度T
350を有する、実施態様1から15いずれか記載のガラス。
17.電子機器のカバープレート、ウィンドウ、ケーシング、表示画面、およびタッチパネルのうちの1つに成形される、実施態様1から16いずれか記載のガラス。
18.SiO
2およびNa
2Oを含み、35キロポアズの粘度を有する温度T
35kpを有するガラスであって、SiO
2+B
2O
3≧66モル%およびNa
2O≧9モル%であり、ジルコンが崩壊してZrO
2およびSiO
2を形成する温度T
breakdownがT
35kpより高い、ガラス。
19.イオン交換可能である、実施態様17記載のガラス。
20.イオン交換されて、ガラスの少なくとも1つの表面に圧縮層を形成している、実施態様18記載のガラス。
21.前記イオン交換されたガラスが、少なくとも350MPaの圧縮応力および少なくとも20μmの圧縮層の深さを有する、実施態様20記載のガラス。
22.前記イオン交換されたガラスが、少なくとも10MPaの中心張力を有する、実施態様20記載のガラス。
23.前記ガラスが、
61モル%≦SiO
2 ≦75モル%;
7モル%≦Al
2O
3≦15モル%;
0モル%≦B
2O
3≦12モル%;
9モル%≦Na
2O≦21モル%;
0モル%≦K
2O≦4モル%;
0モル%≦ MgO≦7モル%;および
0モル%≦CaO≦3モル%
を含む、実施態様18から22いずれか記載のガラス。
24.T
margin= T
breakdown−T
35kpであり、T
margin=610.6−41.0[Al
2O
3]+9.9[B
2O
3]−3.5[Na
2O]−20.2[K
2O]−25.6[MgO]+34.2[CaO]であり、ここで、濃度 [Al
2O
3]、[B
2O
3]、[Na
2O]、[K
2O]、[MgO]、および[CaO]はモル%で表わされており、T
margin≧0である、実施態様18から23いずれか記載のガラス。
25.T
margin= T
breakdown−T
35kpであり、T
margin(℃)=446.6−50.2[Al
2O
3]+22.6[B
2O
3]−4.4[Na
2O]−3.9[K
2O]−1.2[MgO+CaO]であり、濃度 [Al
2O
3]、[B
2O
3]、[Na
2O]、[K
2O]、[MgO]、および[CaO]はモル%で表わされており、T
margin≧0である、実施態様18から23いずれか記載のガラス。
26.ダウン・ドロー可能である、実施態様18から25いずれか記載のガラス。
27.フュージョン・ドローによってガラスシートに成形される、実施態様18から26いずれか記載のガラス。
28.前記ガラスシートがガラスシート1ポンドあたり固体ZrO
2の包有物を1つ未満しか有さない、実施態様27記載のガラス。
29.B
2O
3+Na
2O+K
2O+MgO+CaO≧18モル%である、実施態様18から28いずれか記載のガラス。
30.B
2O
3+Na
2O+K
2O−Al
2O
3≧0モル%である、実施態様18から29いずれか記載のガラス。
31.約100キロポアズを超える液相粘度を有する、実施態様18から30いずれか記載のガラス。
32.1650℃以下の、350ポアズにおける温度T
350を有する、実施態様18から31いずれか記載のガラス。
33.電子機器のカバープレート、ウィンドウ、ケーシング、表示画面、およびタッチパネルのうちの1つに成形される、実施態様18から32いずれか記載のガラス。