(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記有機シランカップリング剤がアルコキシシランカップリング剤を含み、前記アルコキシシランカップリング剤は、ビニルアルコキシシラン、エポキシアルコキシシラン、アミノアルコキシシラン、メルカプトアルコキシシラン、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項8に記載の熱可塑性組成物。
携帯電話、ラップトップコンピューター、小型ポータブルコンピューター、腕時計型機器、ペンダント型機器、ヘッドホン又はイヤホン機器、無線通信機能を有するメディアプレイヤー、携帯型コンピューター、リモートコントローラー、全地球測位システム機器、携帯型ゲーム機器、バッテリーカバー、スピーカー、カメラモジュール、又は集積回路である、請求項14に記載の成形部品を含む電子機器。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[0013]本明細書において用いる用語は特定の態様のみを記載する目的のためであり、本発明の範囲を限定することは意図しないことを理解すべきである。
【0013】
[0014]「アルキル」とは、1〜10個の炭素原子、幾つかの態様においては1〜6個の炭素原子を有する一価の飽和脂肪族ヒドロカルビル基を指す。「C
x〜yアルキル」とは、x〜y個の炭素原子を有するアルキル基を指す。この用語は、例として、メチル(CH
3)、エチル(CH
3CH
2)、n−プロピル(CH
3CH
2CH
2)、イソプロピル((CH
3)
2CH)、n−ブチル(CH
3CH
2CH
2CH
2)、イソブチル((CH
3
)
2CHCH
2)、sec−ブチル((CH
3)(CH
3CH
2)CH)、t−ブチル((CH
3)
3C)、n−ペンチル(CH
3CH
2CH
2CH
2CH
2)、及びネオペンチル((CH
3)
3CCH
2)のような線状及び分岐のヒドロカルビル基を包含する。
【0014】
[0015]「アルケニル」とは、2〜10個の炭素原子、幾つかの態様においては2〜6個の炭素原子又は2〜4個の炭素原子を有し、少なくとも1つのビニル不飽和(>C=C<)の部位を有する線状又は分岐のヒドロカルビル基を指す。例えば、(C
x〜C
y)アルケニルとは、x〜y個の炭素原子を有するアルケニル基を指し、例えば、エテニル、プロペニル、1,3−ブタジエニルなどを包含するように意図される。
【0015】
[0016]「アルキニル」とは、少なくとも1つの三重結合を含む線状又は分岐の一価炭化水素基を指す。「アルキニル」という用語は、また、二重結合及び三重結合のような他のタイプの結合を有するヒドロカルビル基を包含することができる。
【0016】
[0017]「アリール」とは、3〜14個の炭素原子を有し、環ヘテロ原子を有さず、単一の環(例えばフェニル)又は複数の縮合(融合)環(例えばナフチル又はアントリル)を有する芳香族基を指す。環ヘテロ原子を有しない芳香環及び非芳香環を有する縮合、橋架、及びスピロ環系などの多環系に関しては、「アリール」という用語は、結合位置が芳香族炭化水素である場合に適用される(例えば、5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−2−イルは、その結合位置が芳香族フェニル環の2位であるので、アリール基である)。
【0017】
[0018]「シクロアルキル」とは、3〜14個の炭素原子を有し、環ヘテロ原子を有さず、単一の環、或いは縮合、橋架、及びスピロ環系などの多環を有する飽和又は部分飽和の環式基を指す。環ヘテロ原子を有しない芳香環及び非芳香環を有する多環系に関しては、「シクロアルキル」という用語は、結合位置が非芳香族炭素原子である場合に適用される(例えば、5,6,7,8−テトラヒドロナフタレン−5−イル)。「シクロアルキル」という用語は、アダマンチル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロオクチル、及びシクロヘキセニルのようなシクロアルケニル基を包含する。「シクロアルケニル」という用語は、時には少なくとも1つの>C=C<環不飽和部位を有する部分飽和シクロアルキル環を指すように用いる。
【0018】
[0019]「ハロ」又は「ハロゲン」とは、フルオロ、クロロ、ブロモ、及びヨードを指す。
【0019】
[0020]「ハロアルキル」とは、1〜5個、又は幾つかの態様においては1〜3個のハロ基でアルキル基が置換されていることを指す。
【0020】
[0021]「ヘテロアリール」とは、1〜14個の炭素原子、並びに酸素、窒素、及びイオウから選択される1〜6個のヘテロ原子を有する芳香族基を指し、単環系(例えばイミダゾリル)、及び多環系(例えばベンズイミダゾル−2−イル及びベンズイミダゾル−6−イル)を包含する。芳香環及び非芳香環を有する縮合、橋架、及びスピロ環系などの多環系に関しては、「ヘテロアリール」という用語は、少なくとも1つの環ヘテロ原子が存在し、結合位置が芳香環の原子である場合に適用される(例えば、1,2,3,4−テトラヒドロキノリン−6−イル及び5,6,7,8−テトラヒドロキノリン−3−イル)。幾つかの態様においては、ヘテロアリール基の1つ又は複数の窒素及び/又はイオウ環原子は、場合によっては酸化されて、Nオキシド(N→O)、スルフィニル、又はスルホニル基を与えている。ヘテロアリール基の例としては、ピリジル、フラニル、チエニル、チアゾリル、イソチアゾリル、トリアゾリル、イミダゾリル、イミダゾリニル、イソオキサゾリル、ピロリル、ピラゾリル、ピリダジニル、ピリミジニル、プリニル、フタラジル、ナ
フチルピリジル、ベンゾフラニル、テトラヒドロベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、ベンゾチアゾリル、ベンゾイソチアゾリル、ベンゾトリアゾリル、インドリル、イソインドリル、インドリジニル、ジヒドロインドリル、インダゾリル、インドリニル、ベンゾオキサゾリル、キノリル、イソキノリル、キノリジル、キアナゾリル、キノキサリル、テトラヒドロキノリニル、イソキノリル、キナゾリノニル、ベンズイミダゾリル、ベンズイソオキサゾリル、ベンゾチエニル、ベンゾピリダジニル、プテリジニル、カルバゾリル、カルボリニル、フェナントリジニル、アクリジニル、フェナントロリニル、フェナジニル、フェノキサジニル、フェノチアジニル、及びフタルイミジルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
[0022]「複素環式」又は「複素環」又は「ヘテロシクロアルキル」又は「ヘテロシクリル」とは、1〜14個の炭素原子、及び窒素、イオウ、又は酸素から選択される1〜6個のヘテロ原子を有する飽和又は部分飽和環式基を指し、単環系、並びに縮合、橋架、及びスピロ環系などの多環系を包含する。芳香環及び/又は非芳香環を有する多環系に関しては、「複素環式」、「複素環」、「ヘテロシクロアルキル」、又は「ヘテロシクリル」という用語は、少なくとも1つの環ヘテロ原子が存在し、結合位置が非芳香環の原子である場合に適用される(例えばデカヒドロキノリン−6−イル)。幾つかの態様においては、複素環式基の1つ又は複数の窒素及び/又はイオウ原子は、場合によっては酸化されて、Nオキシド、スルフィニル、スルホニル基を与えている。ヘテロシクリル基の例としては、アゼチジニル、テトラヒドロピラニル、ピペリジニル、N−メチルピペリジン−3−イル、ピペラジニル、N−メチルピロリジン−3−イル、3−ピロリジニル、2−ピロリドン−1−イル、モルホリニル、チオモルホリニル、イミダゾリジニル、及びピロリジニルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
[0023]上述の定義は、非置換基、並びに当該技術において公知の1以上の他の官能基で置換されている基を包含することを理解すべきである。例えば、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、又はヘテロシクリル基は、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、アシル、アシルアミノ、アシルオキシ、アミノ、第4級アミノ、アミド、イミノ、アミジノ、アミノカルボニルアミノ、アミジノカルボニルアミノ、アミノチオカルボニル、アミノカルボニルアミノ、アミノチオカルボニルアミノ、アミノカルボニルオキシ、アミノスルホニル、アミノスルホニルオキシ、アミノスルホニルアミノ、アリール、アリールオキシ、アリールチオ、アジド、カルボキシル、カルボキシルエステル、(カルボキシルエステル)アミノ、(カルボキシルエステル)オキシ、シアノ、シクロアルキル、シクロアルキルオキシ、シクロアルキルチオ、グアニジノ、ハロ、ハロアルキル、ハロアルコキシ、ヒドロキシ、ヒドロキシアミノ、アルコキシアミノ、ヒドラジノ、ヘテロアリール、ヘテロアリールオキシ、ヘテロアリールチオ、ヘテロシクリル、ヘテロシクリルオキシ、ヘテロシクリルチオ、ニトロ、オキソ、オキシ、チオン、ホスフェート、ホスホネート、ホスフィネート、ホスホンアミデート、ホスホロジアミデート、ホスホロアミデートモノエステル、環式ホスホルアミデート、環式ホスホロジアミデート、ホスホルアミデートジエステル、スルフェート、スルホネート、スルホニル、置換スルホニル、スルホニルオキシ、チオアシル、チオシアネート、チオール、アルキルチオ等、並びにかかる置換基の組み合わせから選択される、1〜8個、幾つかの態様においては1〜5個、幾つかの態様においては1〜3個、及び幾つかの態様においては1〜2個の置換基で置換されていてよい。
【0023】
[0024]本議論は代表的な態様のみの説明であり、本発明のより広い形態を限定するようには意図しないことが当業者に理解される。
【0024】
[0025]一般的に言えば、本発明は、ポリアリーレンスルフィドを含む熱可塑性組成物用の成核系に関する。より詳しくは、本成核系は、無機結晶質化合物及び芳香族アミドオリ
ゴマーの組合せを含む。実際のメカニズムは完全には理解されていないが、本発明者らは、これらの異なるタイプの複数の成核剤の組合せによって、成核剤のいずれか1つを単独で用いる場合に達成される特性よりも更に良好な優れた結晶化特性(例えば結晶化速度)が得られることを見出した。向上した結晶化速度によって、本熱可塑性組成物は、より低い温度で成形して同等の結晶化度をなお達成することができる。成形操作のエネルギー必要量を最小にすることに加えて、より低い温度を用いることによって、高温成形操作に通常関連する「フラッシュ」の生成を減少させることもできる。例えば、成形操作中に生成するフラッシュ(バリとしても知られる)の長さを、約0.17ミリメートル以下、幾つかの態様においては約0.14ミリメートル以下、幾つかの態様においては約0.13ミリメートル以下にすることができる。
【0025】
[0026]本発明者らはまた、本成核系によって他の予期しなかった利益を与えることができることも見出した。例えば、本熱可塑性組成物は比較的低い溶融粘度を有することができ、これにより部品の製造中に金型キャビティ中に容易に流入させることができる。例えば、本組成物は、316℃の温度及び1200秒
−1の剪断速度において毛細管流量計によって測定して約20ポイズ以下、幾つかの態様においては約15ポイズ以下、幾つかの態様においては約0.1〜約10ポイズの溶融粘度を有することができる。とりわけ、これらの溶融特性により、組成物を、過量のフラッシュを生成させることなく非常に小さい寸法を有する部品に容易に射出成形することを可能にすることができる。
【0026】
[0027]ここで、本発明の種々の態様を下記により詳細に説明する。
【0027】
I.熱可塑性組成物:
A.ポリアリーレンスルフィド:
[0028]上述したように、本熱可塑性組成物は、一般に溶融することなく比較的高い温度に耐えることができる少なくとも1種類のポリアリーレンスルフィドを含む。実際の量は所望の用途によって変化する可能性があるが、1種類又は複数のポリアリーレンスルフィドは、通常は熱可塑性組成物の約30重量%〜約95重量%、幾つかの態様においては約35重量%〜約90重量%、幾つかの態様においては約40重量%〜約80重量%を構成する。1種類又は複数のポリアリーレンスルフィドは、一般に、式:
【0029】
(式中、
Ar
1、Ar
2、Ar
3、及びAr
4は、独立して、6〜18個の炭素原子のアリーレン単位であり;
W、X、Y、及びZは、独立して、−SO
2−、−S−、−SO−、−CO−、−O−、−C(O)O−、又は1〜6個の炭素原子のアルキレン若しくはアルキリデン基から選択される二価の連結基であり、連結基の少なくとも1つは−S−であり;そして
n、m、i、j、k、l、o、及びpは、独立して、0、1、2、3、若しくは4であり、但しこれらの合計は2以上である)
の繰り返し単位を有する。
【0030】
[0029]アリーレン単位のAr
1、Ar
2、Ar
3、及びAr
4は、選択的に置換又は非置換であってよい。有利なアリーレン単位は、フェニレン、ビフェニレン、ナフチレン、アントラセン、及びフェナントレンである。ポリアリーレンスルフィドは、通常は約30モル%より多く、約50モル%より多く、又は約70モル%より多いアリーレンスルフィド(−S−)単位を含む。例えば、ポリアリーレンスルフィドは、少なくとも約85モル
%の、2つの芳香環に直接結合しているスルフィド連結基を含んでいてよい。1つの特定の態様においては、ポリアリーレンスルフィドは、本発明においてその成分としてフェニレンスルフィド構造:−(C
6H
4−S)
n−(式中、nは1以上の整数である)を含むものとして定義されるポリフェニレンスルフィドである。
【0031】
[0030]ポリアリーレンスルフィドの製造において用いることができる合成技術は当該技術において一般的に知られている。一例として、ポリアリーレンスルフィドを製造する方法には、ヒドロスルフィドイオンを与える材料(例えばアルカリ金属硫化物)を有機アミド溶媒中でジハロ芳香族化合物と反応させることを含ませることができる。アルカリ金属硫化物は、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム、又はこれらの混合物であってよい。アルカリ金属硫化物が水和物又は水性混合物である場合には、アルカリ金属硫化物を、重合反応の前に脱水操作によって処理することができる。アルカリ金属硫化物はまた、その場で生成させることもできる。更に、少量のアルカリ金属水酸化物を反応中に含ませて、アルカリ金属硫化物と共に非常に少量で存在する可能性があるアルカリ金属ポリスルフィド又はアルカリ金属チオスルフェートのような不純物を除去するか又は(例えばかかる不純物を無害の材料に変化させるために)反応させることができる。
【0032】
[0031]ジハロ芳香族化合物は、限定なしに、o−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、p−ジハロベンゼン、ジハロトルエン、ジハロナフタレン、メトキシ−ジハロベンゼン、ジハロビフェニル、ジハロ安息香酸、ジハロジフェニルエーテル、ジハロジフェニルスルホン、ジハロジフェニルスルホキシド、又はジハロジフェニルケトンであってよい。ジハロ芳香族化合物は、単独か又はその任意の組合せのいずれかで用いることができる。具体的な代表的ジハロ芳香族化合物としては、限定なしに、p−ジクロロベンゼン;m−ジクロロベンゼン;o−ジクロロベンゼン;2,5−ジクロロトルエン;1,4−ジブロモベンゼン;1,4−ジクロロナフタレン;1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼン;4,4’−ジクロロビフェニル;3,5−ジクロロ安息香酸;4,4’−ジクロロジフェニルエーテル;4,4’−ジクロロジフェニルスルホン;4,4’−ジクロロジフェニルスルホキシド;及び4,4’−ジクロロジフェニルケトン;を挙げることができる。ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素であってよく、同じジハロ芳香族化合物中の2つのハロゲン原子は、同一か又は互いと異なっていてよい。一態様においては、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、又はこれらの2以上の化合物の混合物をジハロ芳香族化合物として用いる。当該技術において公知なように、ポリアリーレンスルフィドの末端基を形成するか、或いは重合反応及び/又はポリアリーレンスルフィドの分子量を調節するために、モノハロ化合物(必ずしも芳香族化合物ではない)をジハロ芳香族化合物と組み合わせて用いることもできる。
【0033】
[0032]1種類又は複数のポリアリーレンスルフィドはホモポリマー又はコポリマーであってよい。例えば、ジハロ芳香族化合物の選択的組み合わせによって、2以上の異なる単位を含むポリアリーレンスルフィドコポリマーを形成することができる。例えば、p−ジクロロベンゼンをm−ジクロロベンゼン又は4,4’−ジクロロジフェニルスルホンと組み合わせて用いる場合には、式:
【0039】
の構造を有するセグメントを含むポリアリーレンスルフィドコポリマーを形成することができる。
【0040】
[0033]他の態様においては、1000〜20,000g/モルの数平均モル質量Mnを有する第1のセグメントを含むポリアリーレンスルフィドコポリマーを形成することができる。第1のセグメントには、式:
【0042】
(式中、基R
1及びR
2は、互いに独立して、水素、フッ素、塩素、又は臭素原子、或いは1〜6個の炭素原子を有する分岐若しくは非分岐のアルキル又はアルコキシ基である)の構造から誘導される第1の単位;及び/又は式:
【0044】
の構造から誘導される第2の単位を含ませることができる。
【0045】
[0034]第1の単位はp−ヒドロキシ安息香酸又はその誘導体の1つであってよく、第2の単位は2−ヒドロキシナフタレン−6−カルボン酸から構成することができる。第2のセグメントは、式:
【0047】
(式中、Arは芳香族基、或いは1つより多い縮合芳香族基であり、qは2〜100、特に5〜20の数である)
のポリアリーレンスルフィド構造から誘導することができる。基Arはフェニレン又はナフチレン基であってよい。一態様においては、第2のセグメントは、ポリ(m−チオフェニレン)、ポリ(o−チオフェニレン)、又はポリ(p−チオフェニレン)から誘導することができる。
【0048】
[0035]1種類又は複数のポリアリーレンスルフィドは、線状、半線状、分岐、又は架橋型であってよい。線状ポリアリーレンスルフィドは、通常は80モル%以上の繰り返し単位:−(Ar−S)−を含む。かかる線状ポリマーはまた少量の分岐単位又は架橋単位を含んでいてもよいが、分岐又は架橋単位の量は、通常はポリアリーレンスルフィドの全モノマー単位の約1モル%未満である。線状ポリアリーレンスルフィドポリマーは、上記に記載の繰り返し単位を含むランダムコポリマー又はブロックコポリマーであってよい。半線状ポリアリーレンスルフィドは、更に、3つ以上の反応性官能基を有する少量の1種類以上のモノマーがポリマー中に導入されている架橋構造又は分岐構造を有していてよい。一例として、半線状ポリアリーレンスルフィドの形成において用いるモノマー成分に、分岐ポリマーの製造において用いることができる分子あたり2以上のハロゲン置換基を有する一定量のポリハロ芳香族化合物を含ませることができる。かかるモノマーは、式:R’X
n(式中、それぞれのXは、塩素、臭素、及びヨウ素から選択され、nは3〜6の整数であり、R’は、約4個以下のメチル置換基を有していてよい価数nの多価芳香族基であり、R’中の炭素原子の総数は6〜約16の範囲内である)によって表すことができる。半線状ポリアリーレンスルフィドを形成する際に用いることができる分子あたり2個より多いハロゲンで置換されている幾つかのポリハロ芳香族化合物の例としては、1,2,3−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,3−ジクロロ−5−ブロモベンゼン、1,2,4−トリヨードベンゼン、1,2,3,5−テトラブロモベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロ−2,4,6−トリメチルベンゼン、2,2’,4,4’−テトラクロロビフェニル、2,2’,5,5’−テトラヨードビフェニル、2,2’,6,6’−テトラブロモ−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル、1,2,3,4−テトラクロロナフタレン、1,2,4−トリブロモ−6−メチルナフタレン等、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0049】
[0036]特定の構造に関係なく、ポリアリーレンスルフィドの数平均分子量は、通常は約15,000g/モル以上、幾つかの態様においては約30,000g/モル以上である。幾つかの場合においては、ポリアリーレンスルフィドの形成中に少量の塩素を用いることができる。しかしながら、ポリアリーレンスルフィドはなお、約1000ppm以下、幾つかの態様においては約900ppm以下、幾つかの態様においては約1〜約800ppm、幾つかの態様においては約2〜約700ppmのような低い塩素含量を有する。しかしながら、幾つかの態様においては、ポリアリーレンスルフィドは塩素又は他のハロゲンを概して含まない。
【0050】
B.成核系:
[0037]本発明の成核系は、通常は、熱可塑性組成物の約0.05重量%〜約10重量%、幾つかの態様においては約0.1重量%〜約5重量%、幾つかの態様においては約0.2重量%〜約3重量%を構成する。これらの全体的な濃度の範囲内において、芳香族アミドオリゴマーと無機結晶質化合物の相対量は、一般に所望の特性を達成するために種々の異なる量の範囲内で制御することができる。しかしながら、本発明者らは、無機結晶質化
合物に対する芳香族アミドオリゴマーの重量比が約0.8〜約20、幾つかの態様においては約1〜約10、幾つかの態様においては約1.5〜約5である場合に特に良好な特性を達成することができることを見出した。例えば、芳香族アミドオリゴマーは、成核系の約40重量%〜約95重量%、幾つかの態様においては約50重量%〜約90重量%、幾つかの態様においては約60重量%〜約80重量%、並びに熱可塑性組成物の約0.1重量%〜約8重量%、幾つかの態様においては約0.2重量%〜約4重量%、幾つかの態様においては約0.5重量%〜約2.5重量%を構成させることができる。また、無機結晶質化合物は、成核系の約5重量%〜約60重量%、幾つかの態様においては約10重量%〜約50重量%、幾つかの態様においては約20重量%〜約40重量%、並びに熱可塑性組成物の約0.01重量%〜約6重量%、幾つかの態様においては約0.05重量%〜約3重量%、幾つかの態様においては約0.1重量%〜約2重量%を構成させることができる。
【0051】
i.芳香族アミドオリゴマー:
[0038]芳香族アミドオリゴマーは、一般に比較的低い分子量を有しており、したがってポリアリーレンスルフィドの高剪断粘度を減少させ、また結晶化特性も向上させるのに役立たせることができる。例えば、オリゴマーは、通常は約3,000g/モル以下、幾つかの態様においては約50〜約2,000g/モル、幾つかの態様においては約100〜約1,500g/モル、幾つかの態様においては約200〜約1,200g/モルの分子量を有する。
【0052】
[0039]比較的低い分子量を有することに加えて、オリゴマーはまた、一般に高いアミド官能性も有する。理論に限定されることは意図しないが、アミド官能基の活性水素原子はポリアリーレンスルフィドの骨格と水素結合を形成することができると考えられる。かかる水素結合によってポリアリーレンスルフィドマトリクスへのオリゴマーの結合が強化され、したがって化合、成形、及び/又は使用中に揮発するようになる可能性が最小になる。これにより、オフガスの発生、及びポリマー組成物から製造される部品の最終的な機械特性に影響を与えるブリスターの形成が最小になる。与えられた分子に関するアミド官能性の程度は、その「アミド当量」(1分子のアミド官能基を含む化合物の量を反映しており、化合物の分子量を分子中のアミド基の数で割ることによって計算することができる)によって特徴付けることができる。例えば、芳香族アミドオリゴマーは、分子あたり1〜15、幾つかの態様においては2〜10、幾つかの態様においては2〜8のアミド官能基を含んでいてよい。また、アミド当量は、約10〜約1,000g/モル又はそれ以下、幾つかの態様においては約50〜約500g/モル、幾つかの態様においては約100〜約300g/モルであってよい。
【0053】
[0040]芳香族アミドオリゴマーは、言及した利益を与えるが、一般に認められる程度まではポリアリーレンスルフィドのポリマー骨格と反応しないので、ポリマーの機械特性は悪影響を受けない。反応性をより良好に最小にするのを助けるために、オリゴマーは、通常は1以上の芳香環(ヘテロ芳香族を含む)から形成されるコアを含む。オリゴマーはまた、1以上の芳香環から形成される末端基を含んでいてもよい。かかる「芳香族」オリゴマーは、したがって、ベースポリマーとの反応性をあったとしても少ししか有しない。例えば、かかる芳香族アミドオリゴマーの一態様は、下式(I):
【0055】
(式中、
環Bは6員の芳香環であり、ここで1〜3個の環炭素原子は場合によっては窒素又は酸素によって置き換えられており、それぞれの窒素は場合によっては酸化されており、環Bは、場合によっては、5又は6員のアリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、又はヘテロシクリルに縮合又は結合していてよく;
R
5は、ハロ、ハロアルキル、アルキル、アルケニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、又はヘテロシクリルであり;
mは0〜4であり;
X
1及びX
2は、独立してC(O)HN又はNHC(O)であり;そして
R
1及びR
2は、独立して、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、及びヘテロシクリルから選択される)
で与えられる。
【0056】
[0041]幾つかの態様においては、環Bは次のもの:
【0058】
(式中、
mは、0、1、2、3、又は4であり、幾つかの態様においては、mは、0、1、又は2であり、幾つかの態様においては、mは0又は1であり、幾つかの態様においては、mは0であり;
R
5は、ハロ、ハロアルキル、アルキル、アルケニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、又はヘテロシクリルである)
から選択することができる。環Bはフェニルであってよい。
【0059】
[0042]幾つかの態様においては、オリゴマーは、環Bが2つのみのアミド基(例えば、C(O)HN又はNHC(O))に直接結合している二官能性化合物である。かかる態様においては、式(I)中のmは0であってよい。勿論、幾つかの態様においては、環Bはまた3以上のアミド基に直接結合していてもよい。例えば、かかる化合物の一態様は、一般式(II):
【0061】
(式中、
環B、R
5、X
1、X
2、R
1、及びR
2は上記に定義した通りであり;
mは0〜3であり;
X
3はC(O)HN又はNHC(O)であり;そして
R
3は、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、及びヘテロシクリルから選択される)
によって与えられる。
【0062】
[0043]かかる化合物の他の態様は、一般式(III):
【0064】
(式中、
環B、R
5、X
1、X
2、X
3、R
1、R
2、及びR
3は上記に定義した通りであり;
X
4はC(O)HN又はNHC(O)であり;そして
R
4は、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、及びヘテロシクリルから選択さ
れる)
によって与えられる。
【0065】
[0044]幾つかの態様においては、上述の構造中のR
1、R
2、R
3、及び/又はR
4は、次のもの:
【0067】
(式中、
nは、0、1、2、3、4、又は5であり、幾つかの態様においては、nは、0、1、又は2であり、幾つかの態様においては、nは0又は1であり;そして
R
6は、ハロ、ハロアルキル、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、又はヘテロシクリルである)
から選択することができる。
【0068】
[0045]一態様においては、芳香族アミドオリゴマーは次の一般式(IV):
【0070】
(式中、
X
1及びX
2は、独立してC(O)HN又はNHC(O)であり;
R
5、R
7、及びR
8は、独立してハロ、ハロアルキル、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、及びヘテロシクリルから選択され;
mは0〜4であり;そして
p及びqは、独立して0〜5である)
を有する。
【0071】
[0046]他の態様においては、芳香族アミドオリゴマーは次の一般式(V):
【0073】
(式中、
X
1、X
2、R
5、R
7、R
8、m、p、及びqは上記に定義した通りである)
を有する。
【0074】
[0047]例えば、幾つかの態様においては、式(IV)及び式(V)中のm、p、及びqは0に等しくて、コア及び末端芳香族基は非置換であってよい。他の態様においては、mは0であってよく、p及びqは1〜5であってよい。例えばかかる態様においては、R
7及び/又はR
8はハロ(例えばフッ素)であってよい。他の態様においては、R
7及び/又はR
8は、アリール(例えばフェニル)、又は構造:−C(O)R
12N−又は−NR
13C(O)−(式中、R
12及びR
13は、独立して水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、及びヘテロシクリルから選択される)を有するアミド基で置換されているアリールであってよい。例えば1つの特定の態様においては、R
6及び/又はR
7は−C(O)HN−又は−NHC(O)−で置換されているフェニルである。更に他の態様においては、R
7及び/又はR
8はヘテロアリール(例えばピリジニル)であってよい。
【0075】
[0048]更に他の態様においては、芳香族アミドオリゴマーは次の一般式(VI):
【0077】
(式中、
X
1、X
2、及びX
3は、独立してC(O)HN又はNHC(O)であり;
R
5、R
7、R
8、及びR
9は、独立して、ハロ、ハロアルキル、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、及びヘテロシクリルから
選択され;
mは0〜3であり;そして
p、q、及びrは、独立して0〜5である)
を有する。
【0078】
[0049]更に他の態様においては、芳香族アミドオリゴマーは次の一般式(VII):
【0080】
(式中、
X
1、X
2、X
3、R
5、R
7、R
8、R
9、m、p、q、及びrは上記に定義した通りである)
を有する。
【0081】
[0050]例えば、幾つかの態様においては、式(VI)中又は式(VII)中のm、p、q、及びrは、0に等しくて、コア及び末端芳香族基は非置換であってよい。他の態様においては、mは0であってよく、p、q、及びrは1〜5であってよい。例えばかかる態様においては、R
7、R
8、及び/又はR
9はハロ(例えばフッ素)であってよい。他の態様においては、R
7、R
8、及び/又はR
9は、アリール(例えばフェニル)、又は構造:−C(O)R
12N−又は−NR
13C(O)−(式中、R
12及びR
13は、独立して水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、及びヘテロシクリルから選択される)を有するアミド基で置換されているアリールであってよい。例えば1つの特定の態様においては、R
7、R
8、及び/又はR
9は−C(O)HN−又は−NHC(O)−で置換されているフェニルである。更に他の態様においては、R
7、R
8、及び/又はR
9はヘテロアリール(例えばピリジニル)であってよい。
【0082】
[0051]本発明の芳香族アミドオリゴマーの具体的な態様を下表にも示す。
【0087】
ii.無機結晶質化合物:
[0052]一般に、任意の種々の無機結晶質化合物を、芳香族アミドオリゴマーと組み合わせて成核剤として用いることができる。かかる化合物の例としては、例えば、ホウ素含有化合物(例えば、窒化ホウ素、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウム、四ホウ酸カルシウム等)、アルカリ土類金属炭酸塩(例えば、炭酸カルシウムマグネシウム)、酸化物(例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、三酸化アンチモン等)、ケイ酸塩(例えば、タルク、ケイ酸ナトリウム−アルミニウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム等)、アルカリ土類金属の塩(例えば、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム等)などを挙げることができる。窒化ホウ素(BN)は、本発明の熱可塑性組成物中において用いると特に有益であることが分かった。窒化ホウ素は、種々の異なる結晶形(例えば、h−BN−六方晶、c−BN−立方晶又は閃亜鉛鉱、及びw−BN−ウルツ鉱)で存在し、いずれも一般的に本発明において用いることができる。六方晶の結晶形がその安定性及び柔軟性のために特に好適である。
【0088】
C.他の添加剤:
[0053]成核剤及びポリアリーレンスルフィドに加えて、熱可塑性組成物にはその全体的な特性を向上させることを助ける種々の他の異なる成分を含ませることもできる。例えば
一態様においては、少なくとも1種類の耐衝撃性改良剤を組成物中において用いて、その機械特性を向上させることを助けることができる。好適な耐衝撃性改良剤の例としては、例えば、ポリエポキシド、ポリウレタン、ポリブタジエン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン、ポリシロキサン等、並びにこれらの混合物を挙げることができる。1つの特定の態様においては、分子あたり少なくとも2つのオキシラン環を含むポリエポキシド改良剤を用いる。ポリエポキシドは、末端エポキシ基、骨格オキシラン単位、及び/又は懸垂エポキシ基を含む線状又は分岐のホモポリマー又はコポリマー(例えば、ランダム、グラフト、ブロック等)であってよい。かかるポリエポキシドを形成するのに用いるモノマーは変化してよい。例えば、1つの特定の態様においては、ポリエポキシド改良剤は少なくとも1つのエポキシ官能性(メタ)アクリルモノマー成分を含む。「(メタ)アクリル」という用語は、アクリル及びメタクリルモノマー、並びにアクリレート及びメタクリレートモノマーのようなその塩又はエステルを包含する。好適なエポキシ官能性(メタ)アクリルモノマーとしては、グリシジルアクリレート及びグリシジルメタクリレートのような1,2−エポキシ基を含むものを挙げることができるが、これらに限定されない。他の好適なエポキシ官能性モノマーとしては、アリルグリシジルエーテル、グリシジルエタクリレート、及びグリシジルイタコネートが挙げられる。
【0089】
[0054]所望の場合には、所望の溶融粘度を達成するのを助けるために更なるモノマーをポリエポキシド中において用いることもできる。かかるモノマーは変化してよく、例えば、エステルモノマー、(メタ)アクリルモノマー、オレフィンモノマー、アミドモノマー等を挙げることができる。例えば、1つの特定の態様においては、ポリエポキシド改良剤に、2〜20個の炭素原子、好ましくは2〜8個の炭素原子を有するもののような少なくとも1種類の線状又は分岐のα−オレフィンモノマーを含ませる。具体例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン;3−メチル−1−ブテン;3,3−ジメチル−1−ブテン;1−ペンテン;1以上のメチル、エチル、又はプロピル置換基を有する1−ペンテン;1以上のメチル、エチル、又はプロピル置換基を有する1−ヘキセン;1以上のメチル、エチル、又はプロピル置換基を有する1−ヘプテン;1以上のメチル、エチル、又はプロピル置換基を有する1−オクテン;1以上のメチル、エチル、又はプロピル置換基を有する1−ノネン;エチル、メチル、又はジメチル置換1−デセン;1−ドデセン;及びスチレン;が挙げられる。特に望ましいα−オレフィンコモノマーはエチレン及びプロピレンである。本発明の1つの特に望ましい態様においては、ポリエポキシド改良剤は、エポキシ官能性(メタ)アクリルモノマー成分及びα−オレフィンモノマー成分から形成されるコポリマーである。例えば、ポリエポキシド改良剤はポリ(エチレン−co−グリシジルメタクリレート)であってよい。本発明において用いることができる好適なポリエポキシド改良剤の1つの具体例は、ArkemaからLotader(登録商標)AX8840の名称で商業的に
入手できる。Lotader(登録商標)AX8950は、5g/10分のメルトフローレートを有し
、8重量%のグリシジルメタクリレートモノマー含量を有する。
【0090】
[0055]熱可塑性組成物の機械特性を向上させるために用いることができる更に他の好適な添加剤は有機シランカップリング剤である。カップリング剤は、例えば、ビニルアルコキシシラン、エポキシアルコキシシラン、アミノアルコキシシラン、メルカプトアルコキシシラン、及びこれらの組み合わせのような当該技術において公知の任意のアルコキシシランカップリング剤であってよい。アミノアルコキシシラン化合物は、通常は、式:R
5−Si−(R
6)
3(式中、R
5は、NH
2のようなアミノ基;約1〜約10個の炭素原子、又は約2〜約5個の炭素原子のアミノアルキル、例えばアミノメチル、アミノエチル、アミノプロピル、アミノブチルなど;約2〜約10個の炭素原子、又は約2〜約5個の炭素原子のアルケン、例えばエチレン、プロピレン、ブチレンなど;及び約2〜約10個の炭素原子、又は約2〜約5個の炭素原子のアルキン、例えばエチン、プロピン、ブチンなどからなる群から選択され;R
6は、約1〜約10原子、又は約2〜約5個の炭素原子のアルコキシ基、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシなどである)を有する。一態様
においては、R
5は、アミノメチル、アミノエチル、アミノプロピル、エチレン、エチン、プロピレン、及びプロピンからなる群から選択され、R
6は、メトキシ基、エトキシ基、及びプロポキシ基からなる群から選択される。他の態様においては、R
5は、約2〜約10個の炭素原子のアルケン、例えばエチレン、プロピレン、ブチレンなど、並びに約2〜約10個の炭素原子のアルキン、例えばエチン、プロピン、ブチンなどからなる群から選択され、R
6は、約1〜約10原子のアルコキシ基、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などである。また、種々のアミノシランの組み合わせを混合物中に含ませることもできる。
【0091】
[0056]混合物中に含ませることができるアミノシランカップリング剤の幾つかの代表例としては、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノエチルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノエチルトリメトキシシラン、エチレントリメトキシシラン、エチレントリエトキシシラン、エチントリメトキシシラン、エチントリエトキシシラン、アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン又は3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−メチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(3−アミノプロピル)テトラメトキシシラン、ビス(3−アミノプロピル)テトラエトキシジシロキサン、及びこれらの組み合わせが挙げられる。アミノシランはまた、アミノアルコキシシラン、例えばγ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ジアリルアミノプロピルトリメトキシシラン、及びγ−ジアリルアミノプロピルトリメトキシシランであってもよい。1つの好適なアミノシランは、Degussa、Sigma Chemical Company、及びAldrich Chemical Companyから入手できる3−アミノプロピルトリエトキシシランである。
【0092】
[0057]また、所望の特性及び/又は色を達成するのを助けるために、熱可塑性組成物中において充填剤を用いることもできる。用いる場合には、かかる無機充填剤は、通常は、熱可塑性組成物の約5重量%〜約60重量%、幾つかの態様においては約10重量%〜約50重量%、幾つかの態様においては約15重量%〜約45重量%を構成する。クレイ鉱物は本発明において用いるのに特に好適な可能性がある。かかるクレイ鉱物の例としては、例えば、タルク(Mg
3Si
4O
10(OH)
2)、ハロイサイト(Al
2Si
2O
5(OH)
4)、カオリナイト(Al
2Si
2O
5(OH)
4)、イライト((K,H
3O)(Al,Mg,Fe)
2(Si,Al)
4O
10[(OH)
2,(H
2O)])、モンモリロナイト(Na,Ca)
0.33(Al,Mg)
2Si
4O
10(OH)
2・nH
2O)、バーミキュライト((MgFe,Al)
3(Al,Si)
4O
10(OH)
2・4H
2O)、パリゴルスカイト((Mg,Al)
2Si
4O
10(OH)・4(H
2O))、パイロフィライト(Al
2Si
4O
10(OH)
2)等、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。クレイ鉱物の代わりか又はそれに加えて、更に他の無機充填剤を用いることもできる。例えば、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、マイカ、珪藻土、珪灰石などのような他の好適なシリケート充填剤を用いることもできる。例えば、マイカは本発明において用いるのに特に好適な鉱物である可能性がある。地質学的存在状態における相当な相違を有する幾つかの化学的に異なるマイカ種が存在するが、全て実質的に同じ結晶構造を有する。本明細書において用いる「マイカ」という用語は、モスコバイト(KAl
2(AlSi
3)O
10(OH)
2)、バイオタイト(K(Mg,Fe)
3(AlSi
3)O
10(OH)
2)、フロゴパイト(KMg
3(AlSi
3)O
10(OH)
2)、レピドライト(K(Li,Al)
2〜3(AlSi
3)O
10(OH)
2)、グローコナイト(K,Na)(Al,Mg,Fe)
2(Si,Al)
4O
10(OH)
2)等、並びにこ
れらの組み合わせのような任意のこれらの種を総称的に包含すると意図される。
【0093】
[0058]また、熱可塑性組成物中において繊維充填剤を用いることもできる。用いる場合には、かかる繊維充填剤は、通常は、熱可塑性組成物の約5重量%〜約60重量%、幾つかの態様においては約10重量%〜約50重量%、幾つかの態様においては約15重量%〜約45重量%を構成する。繊維充填剤としては、限定なしにポリマー繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維など、又は複数の繊維タイプの組み合わせなどの1以上の繊維タイプを挙げることができる。一態様においては、繊維はガラス短繊維又はガラス繊維粗紡糸(トウ)であってよい。繊維の直径は、用いる特定の繊維によって変化してよく、短繊維形態又は連続形態のいずれかで入手できる。繊維は、例えば、約100μm未満、例えば約50μm未満の直径を有していてよい。例えば、繊維は短繊維又は連続繊維であってよく、約5μm〜約50μm、例えば約5μm〜約15μmの繊維径を有していてよい。
【0094】
[0059]また、実質的に分解することなくポリ(アリーレンスルフィド)の加工条件(通常は約290℃〜約320℃)に耐えることができる潤滑剤を、熱可塑性組成物中において用いることもできる。かかる潤滑剤の代表例としては、脂肪酸エステル、その塩、エステル、脂肪酸アミド、有機ホスフェートエステル、及びエンジニアリングプラスチック材料の加工において潤滑剤として通常的に用いられているタイプの炭化水素ワックスが挙げられ、これらの混合物が包含される。好適な脂肪酸は、通常は、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、モンタン酸、オクタデカン酸、パリナリン酸などのように、約12〜約60個の炭素原子の骨格炭素鎖を有する。好適なエステルとしては、脂肪酸エステル、脂肪アルコールエステル、ワックスエステル、グリセロールエステル、グリコールエステル、及びコンプレックスエステルが挙げられる。脂肪酸アミドとしては、脂肪酸第1級アミド、脂肪酸第2級アミド、メチレン及びエチレンビスアミド、並びにアルカノールアミド、例えば、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、N,N’−エチレンビスステアラミドなどが挙げられる。ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムなどのような脂肪酸の金属塩;パラフィンワックス、ポリオレフィン及び酸化ポリオレフィンワックス、並びに微結晶質ワックスなどの炭化水素ワックス;も好適である。特に好適な潤滑剤は、ステアリン酸の酸、塩、又はアミド、例えばペンタエリトリトールテトラステアレート、カルシウムステアレート、又はN,N’−エチレンビスステアラミドである。用いる場合には、1種類又は複数の潤滑剤は、通常は、熱可塑性組成物の約0.05重量%〜約1.5重量%、幾つかの態様においては約0.1重量%〜約0.5重量%を構成する。
【0095】
[0060]熱可塑性組成物中において用いることができる更に他の添加剤はジスルフィド化合物である。いかなる特定の理論にも縛られることは望まないが、ジスルフィド化合物は、溶融加工中にポリアリーレンスルフィドとのポリマー開裂反応を起こすことができ、これにより組成物の全体的な溶融粘度が更に低下する。用いる場合には、ジスルフィド化合物は、通常は組成物の約0.01重量%〜約3重量%、幾つかの態様においては約0.02重量%〜約1重量%、幾つかの態様においては約0.05〜約0.5重量%を構成する。また、ポリアリーレンスルフィドの量とジスルフィド化合物の量との比は、約1000:1〜約10:1、約500:1〜約20:1、又は約400:1〜約30:1であってよい。好適なジスルフィド化合物は、通常は、次式:
R
3−S−S−R
4
を有するものである。
【0096】
[0061]上式中、R
3及びR
4は、同一か又は異なっていてよく、独立して1〜約20個の炭素を含む炭化水素基である。例えば、R
3及びR
4は、アルキル、シクロアルキル、アリール、又は複素環式基であってよい。幾つかの態様においては、R
3及びR
4は、一般に、フェニル、ナフチル、エチル、メチル、プロピル等のような非反応性官能基である
。かかる化合物の例としては、ジフェニルジスルフィド、ナフチルジスルフィド、ジメチルジスルフィド、ジエチルジスルフィド、及びジプロピルジスルフィドが挙げられる。R
3及びR
4はまた、ジスルフィド化合物の1つ又は複数の末端における反応性官能基を含んでいてもよい。例えば、R
3及びR
4の少なくとも1つは、末端カルボキシル基、ヒドロキシル基、置換又は非置換アミノ基、ニトロ基などを含んでいてよい。化合物の例としては、限定なしに、2,2’−ジアミノジフェニルジスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルジスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルジスルフィド、ジベンジルジスルフィド、ジチオサリチル酸、ジチオグリコール酸、α,α’−ジチオジ乳酸、β,β’−ジチオジ乳酸、3,3’−ジチオジピリジン、4,4’−ジチオモルホリン、2,2’−ジチオビス(ベンゾチアゾール)、2,2’−ジチオビス(ベンズイミダゾール)、2,2’−ジチオビス(ベンゾオキサゾール)、及び2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールを挙げることができる。
【0097】
[0062]組成物中に含ませることができる更に他の添加剤としては、例えば、抗菌剤、顔料、酸化防止剤、安定剤、界面活性剤、ワックス、流動促進剤、固体溶媒、並びに特性及び加工性を向上させるために加える他の材料を挙げることができる。
【0098】
[0063]成核系、ポリアリーレンスルフィド、及び他の随意的な添加剤を混合する方法は、当該技術において公知なように変化させることができる。例えば、材料は、材料を分散してブレンドする溶融加工装置に同時か又は順々に供給することができる。バッチ及び/又は連続溶融加工技術を用いることができる。例えば、ミキサー/ニーダー、バンバリーミキサー、ファレル連続ミキサー、一軸押出機、二軸押出機、ロールミル等を用いて、材料をブレンド及び溶融加工することができる。1つの特に好適な溶融加工装置は、同時回転二軸押出機(例えば、Leistritz同時回転完全噛み合い二軸押出機)である。かかる押
出機には供給及び排出口を含ませることができ、高強度分配分散混合を与えることができる。例えば、ポリアリーレンスルフィド及び成核剤を、二軸押出機の同一か又は異なる供給口に供給し、溶融ブレンドして実質的に均一な溶融混合物を形成することができる。溶融ブレンドは、高剪断/加圧及び加熱下で行って十分な分散を確保することができる。例えば、溶融加工は、約50℃〜約500℃、幾つかの態様においては約100℃〜約250℃の温度で行うことができる。更に、溶融加工中のみかけ剪断速度は、約100秒
−1〜約10,000秒
−1、幾つかの態様においては約500秒
−1〜約1,500秒
−1の範囲にすることができる。勿論、所望の均一度を達成するために、溶融加工中の滞留時間(これは処理速度に逆比例する)のような他の変数を制御することもできる。
【0099】
[0064]溶融ブレンドに加えて、成核剤とポリアリーレンスルフィドを混合するために他の技術を用いることもできる。例えば、成核剤の1以上を、ポリアリーレンスルフィドの重合の1以上の段階中に供給することができる。例えば、芳香族アミドオリゴマーを重合装置に加えることもできる。それは任意の時点で導入することができるが、通常は重合を開始する前に、通常はポリアリーレンスルフィドに関する前駆体モノマーと共にオリゴマーを供給することが望ましい。反応混合物は、一般に重合反応容器内で昇温温度に加熱して反応物質の溶融重合を開始させる。
【0100】
[0065]それらを一緒に混合する方法に関係なく、結晶化度及び結晶化速度を、本発明の成核系によって大きく向上させることができる。例えば、熱可塑性組成物(成形前)の結晶化ポテンシャルは、約55%以上、幾つかの態様においては約65%以上、幾つかの態様においては約70%以上、幾つかの態様においては約75%〜約95%にすることができる。結晶化ポテンシャルは、融解潜熱(ΔH
f)から結晶化潜熱(ΔH
c)を減じ、この差を融解潜熱で割り、次に100をかけることによって求めることができる。融解潜熱(ΔH
f)及び結晶化潜熱(ΔH
c)は、当該技術において周知なように、ISO標準規格10350にしたがって示差走査熱量測定法(DSC)によって求めることができる。
結晶化潜熱は、例えば約15ジュール/グラム(J/g)以下、幾つかの態様においては約12J/g以下、幾つかの態様においては約8J/g以下、幾つかの態様においては約1〜約5J/gにすることができる。また、融解潜熱は、約15ジュール/グラム(J/g)以上、幾つかの態様においては約20J/g以上、幾つかの態様においては約22J/g以上、幾つかの態様においては約22〜約28J/gにすることができる。
【0101】
[0066]更に、本熱可塑性組成物はまた、本発明の成核系が存在しない場合に起こるであろう温度よりも低い温度で結晶化させることができる。例えば、本熱可塑性組成物の結晶化温度(成形前)は、約250℃以下、幾つかの態様においては約100℃〜約245℃、幾つかの態様においては約150℃〜約240℃にすることができる。また、本熱可塑性組成物の溶融温度は、約250℃〜320℃、幾つかの態様においては約265℃〜約300℃の範囲にすることができる。溶融温度及び結晶化温度は、当該技術において周知なようにISO試験No.11357にしたがって示差走査熱量測定法を用いて求めることができる。かかる溶融温度においても、溶融温度に対する荷重撓み温度(DTUL)(短時間耐熱性の指標)の比は、なお比較的高く維持することができる。例えば、この比は、約0.65〜約1.00、幾つかの態様においては約0.70〜約0.99、幾つかの態様においては約0.80〜約0.98の範囲にすることができる。具体的なDTUL値は、例えば、約230℃〜約300℃、幾つかの態様においては約240℃〜約290℃、幾つかの態様においては約250℃〜約280℃の範囲にすることができる。かかる高いDTUL値は、とりわけ、小さい寸法公差を有する部品の製造中にしばしば用いられる高速プロセスを使用することを可能にすることができる。
【0102】
[0067]本発明の熱可塑性組成物はまた、優れた機械特性を有することも分かった。例えば、本組成物は小さい部品を形成する場合に有用な高い衝撃強さを有することができる。本組成物は、例えば、ISO試験No.180(ASTM−D256方法Aと技術的に同等である)にしたがって23℃において測定して、約4kJ/m
2より高く、幾つかの態様においては約5〜約40kJ/m
2、幾つかの態様においては約6〜約30kJ/m
2のノッチ付きアイゾッド衝撃強さを有することができる。本組成物の引張及び曲げ機械特性もまた良好である。例えば、本熱可塑性組成物は、約20〜約500MPa、幾つかの態様においては約50〜約400MPa、幾つかの態様においては約100〜約350MPaの引張り強さ;約0.5%以上、幾つかの態様においては約0.6%〜約10%、幾つかの態様においては約0.8%〜約3.5%の引張破壊歪み;及び/又は約5,000MPa〜約25,000MPa、幾つかの態様においては約8,000MPa〜約22,000MPa、幾つかの態様においては約10,000MPa〜約20,000MPaの引張弾性率;を示すことができる。引張特性は、ISO試験No.527(ASTM−D638と技術的に同等である)にしたがって23℃において測定することができる。本熱可塑性組成物はまた、約20〜約500MPa、幾つかの態様においては約50〜約400MPa、幾つかの態様においては約100〜約350MPaの曲げ強さ;約0.5%以上、幾つかの態様においては約0.6%〜約10%、幾つかの態様においては約0.8%〜約3.5%の曲げ破壊歪み;及び/又は約5,000MPa〜約25,000MPa、幾つかの態様においては約8,000MPa〜約22,000MPa、幾つかの態様においては約10,000MPa〜約20,000MPaの曲げ弾性率;も示すことができる。曲げ特性は、ISO試験No.178(ASTM−D790と技術的に同等である)にしたがって23℃において測定することができる。
【0103】
II.成形部品:
[0068]本発明の熱可塑性組成物は、小さい寸法公差を有する射出成形部品において用いるのに特に良く適している。例えば、当該技術において公知なように、射出は2つの主要段階、即ち射出段階及び保持段階で行うことができる。射出段階中においては、金型キャビティを溶融した熱可塑性組成物で完全に満たす。保持段階は射出段階が完了した後に開
始し、保持圧を制御して更なる材料をキャビティ中に充填して、冷却中に起こる体積収縮を補う。ショットが形成されたら、それを次に冷却することができる。冷却が完了したら、成形サイクルを終了し、この時点で金型を開放し、例えば金型内の排出ピンを用いて部品を排出する。
【0104】
[0069]本発明においては、一般に任意の好適な射出成形装置を用いることができる。例えば
図1を参照すると、本発明において用いることができる射出成形装置又は用具10の一態様が示されている。この態様においては、装置10は、第1の金型基部12及び第2の金型基部14を含み、これらは一緒になって物品又は部品を画定する金型キャビティ16を画定する。成形装置10はまた、第1の金型半部分12の外側の外表面20からスプルー22を通って金型キャビティ16に伸長している樹脂流路も含む。樹脂流路にはランナー及びゲートも含ませることができ、これらは両方とも単純にする目的のために示していない。熱可塑性組成物は、種々の技術を用いて樹脂流路に供給することができる。例えば、熱可塑性組成物は、回転スクリュー(図示せず)を含む押出機バレルに取り付けられている供給ホッパーに(例えばペレットの形態で)供給することができる。スクリューが回転するにつれてペレットは前方へ移動して圧力及び摩擦を受けて、これによって熱が発生してペレットが溶融する。また、押出機バレルと連通している加熱媒体によって更なる熱を組成物に与えることもできる。また、装置10の閉止位置において金型キャビティ16を画定する第2の金型半部分14内に滑動可能に固定されている1以上の排出ピン24を用いることもできる。排出ピン24は周知の形態で操作して、成形装置10の開放位置においてキャビティ16から成形部品を取り出すことができる。
【0105】
[0070]また、冷却機構を与えて金型キャビティ内の樹脂を固化させることもできる。例えば
図1においては、金型基部12及び14はそれぞれ1以上の冷却ライン18を含んでおり、これを通して冷却媒体を流して、溶融した材料を固化させるために金型基部の表面に所望の金型温度を与える。本熱可塑性組成物の独特の結晶化特性のために、同等の結晶化度をなお達成しながら成形サイクル中の「冷却時間」を実質的に減少させることができる。冷却時間は、全冷却時間を成形部品の平均厚さで割ることによって求められる「標準化冷却比」によって表すことができる。本発明の結果として、例えば、標準化冷却比を約0.2〜約8秒/ミリメートル、幾つかの態様においては約0.5〜約6秒/ミリメートル、幾つかの態様においては約1〜約5秒/ミリメートルの範囲にすることができる。全冷却時間は、組成物を金型キャビティ中に射出する時点から、それを安全に取り出すことができる取り出し温度に達する時点までに定めることができる。代表的な冷却時間は、例えば約1〜約60秒間、幾つかの態様においては約5〜約40秒間、幾つかの態様においては約10〜約35秒間の範囲にすることができる。
【0106】
[0071]成形サイクルのために必要な冷却時間を最小にすることに加えて、本発明の方法及び組成物によって、同等の結晶化度をなお達成しながら部品をより低い温度で成形することを可能にすることもできる。例えば、金型温度(例えば金型の表面の温度)を、約50℃〜約120℃、幾つかの態様においては約60℃〜約110℃、幾つかの態様においては約70℃〜約90℃にすることができる。成形操作のためのエネルギー必要量を最小にすることに加えて、かかる低い金型温度を、幾つかの従来の技術よりも低腐食性で安価である冷却媒体を用いて達成することができる。例えば、冷却媒体として液体水を用いることができる。
【0107】
[0072]用いる成形技術に関係なく、高い流動性及び良好な機械特性の独特の組合せを有する本発明の熱可塑性組成物は、小さい寸法公差を有する部品のために特に良く適していることが分かった。例えば、本熱可塑性組成物は電子部品において用いるための部品に成形することができる。この部品は、約100ミリメートル以下、幾つかの態様においては約50ミリメートル以下、幾つかの態様においては約100マイクロメートル〜約10ミリメートル、幾つかの態様においては約200マイクロメートル〜約1ミリメートルの厚さを有する平面状の基材の形態であってよい。或いは、この部品は単純に上述の厚さ範囲内の幾つかの部分(例えば壁部、突起部等)を有していてよい。かかる成形部品を用いることができる電子部品の例としては、例えば、携帯電話、ラップトップコンピューター、小型ポータブルコンピューター(例えば超軽量型コンピューター、ネットブックコンピューター、及びタブレットコンピューター)、腕時計型機器、ペンダント型機器、ヘッドホン又はイヤホン型機器、無線通信機能を有するメディアプレイヤー、携帯型コンピューター(時には携帯情報端末とも呼ばれる)、リモートコントローラー、全地球測位システム(GPS)機器、携帯ゲーム機器、バッテリーカバー、スピーカー、カメラモジュール、集積回路(例えばSIMカード)等が挙げられる。
【0108】
[0073]しかしながら、無線電子機器が特に好適である。好適な無線電子機器の例としては、デスクトップコンピューターまたは他のコンピューター装置、ラップトップコンピューター又は時には「超軽量型」と呼ばれるタイプの小型のポータブルコンピューターのようなポータブル電子機器を挙げることができる。1つの好適な配置においては、ポータブル電子機器は携帯型の電子機器であってよい。ポータブル携帯型電子機器の例としては、携帯電話、無線通信機能を有するメディアプレイヤー、携帯型コンピューター(時には携帯情報端末とも呼ばれる)、リモートコントローラー、全地球測位システム(GPS)機器、及び携帯ゲーム機器を挙げることができる。この機器はまた、複数の従来の機器の機能を合わせた複合型機器であってもよい。複合型機器の例としては、メディアプレイヤーの機能を含む携帯電話、無線通信機能を含むゲーム機器、ゲーム及びeメール機能を含む携帯電話、並びに、eメールを受信し、携帯電話の呼び出しをサポートし、音楽プレイヤーの機能を有し、ウエブ閲覧をサポートする携帯機器が挙げられる。
【0109】
[0074]
図2〜3を参照すると、電子機器100の1つの特定の態様をポータブルコンピューターとして示す。電子機器100は、液晶ダイオード(LCD)ディスプレイ、有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイ、プラズマディスプレイ、又は任意の他の好適なディスプレイのようなディスプレイ部材103を含む。示されている態様においては、機器はラップトップコンピューターの形態であり、したがってディスプレイ部材103は基部部材106に回転可能に接続されている。しかしながら、基部部材106は随意的であり、機器がタブレットポータブルコンピューターの形態である場合のような他の態様においては取り除くことができることを理解すべきである。しかしながら、
図2〜3に示される態様においては、ディスプレイ部材103及び基部部材106は、それぞれ電子機器100の1以上の部品を保護及び/又は支持するためのハウジング(それぞれ86及び88)を含む。ハウジング86は例えばディスプレイスクリーン120を支持することができ、基部部材106には、種々のユーザーインターフェース部品のための空洞部及びインターフェース(例えばキーボード、マウス、及び他の周辺機器への接続手段)を含ませることができる。本発明の熱可塑性組成物は一般に電子機器100の任意の部分を形成するために、例えば冷却ファンを形成するために用いることができるが、通常はハウジング86及び/又は88の全部又は一部を形成するために用いる。例えば、機器がタブレットポータブルコンピューターである場合には、ハウジング88は存在させなくてよく、本熱可塑性組成物はハウジング86の全部又は一部を形成するために用いることができる。しかしながら、本発明によって達成される独特の特性のために、1つ又は複数のハウジング或いは1つ又は複数のハウジングの部分は、上述の範囲内のような非常に小さい壁厚さを有するように成形することができる。
【0110】
[0075]明示してはいないが、機器100にはまた、記憶装置、処理回路、及び入力−出力コンポーネントのような当該技術において公知の回路を含ませることもできる。回路内の無線送受信機回路を用いて、高周波(RF)信号を送信及び受信することができる。同軸通信路及びマイクロストリップ通信路のような通信路を用いて、送受信機回路とアンテ
ナ構造体との間で高周波信号を伝達することができる。通信路を用いて、アンテナ構造体と回路との間で信号を伝達することができる。通信路は、例えばRF送受信機(時にはラジオと呼ばれる)と多周波帯アンテナとの間を接続する同軸ケーブルであってよい。
【0111】
[0076]本熱可塑性組成物によって、更に他の用途のための部品を形成することができる。例えば、本発明の成形部品を含ませることができる1つの部品は、液体ポンプ(例えば水ポンプ)である。液体ポンプは、ダイレクトリフトポンプ、容積式ポンプ(例えば、回転式、往復式、又はリニア式)、ターボ形ポンプ(例えば遠心式)、重力ポンプ等であってよい。ターボ形ポンプ(回転するインペラー、プロペラ、又はローターによってポンプ移送されている流体にエネルギーを連続的に与える)が特に好適である。例えば、遠心式ポンプにおいては、流体は、回転軸に沿ってか又はその近傍でポンプインペラーに導入して、インペラーによって加速して、ディフューザー又は渦形室中に放射状に外へ向かって流動させ、それから下流の配管中に排出する。このようなポンプは、自動車用途においてエンジンを通して冷却液を移動させるためにしばしば用いられる。自動車エンジンに付随する高い温度のために、本発明の熱可塑性組成物はこのような自動車冷却システムの遠心形ポンプにおいて用いるのに特によく適している。例えば、幾つかの態様においては、水インペラーの全部又は一部(例えばブレード)を、本発明の熱可塑性組成物から形成することができる。遠心式ポンプはまた、一般にポンプの幾つかの部品を収容して、それらを熱、腐食等から保護するハウジングも含む。幾つかの態様においては、ハウジングの一部又は全部を本発明の熱可塑性組成物から形成することができる。
【0112】
[0077]
図4を参照すると、本発明の熱可塑性組成物を用いることができる遠心式ポンプの1つの特定の例が示されている。示されている態様においては、ポンプは、ベアリング202を介してハウジング203上に支持されている回転シャフト201を含む。本発明の熱可塑性組成物を含ませることができるポンプインペラー204は、回転シャフト201の端部に堅く固定されている。プーリーハブ205も、回転シャフト201の基端部上に堅く固定されている。ベアリング202とポンプインペラー204との間に、ハウジング203の側部上に固定されている固定部材206a、及び回転シャフト201と固定して噛合している回転部材206bによって構成されているメカニカルシール206が形成されている。ポンプにはまた、本発明の熱可塑性組成物を含ませることができるハウジング207を含ませることもできる。ハウジング207は、渦形室208がその間に画定されるように、ポンプハウジング203に(例えば締め付けボルトによって)固定することができる。示してはいないが、吸引部分及び排出口をハウジング207内に与えることもできる。
【0113】
[0078]勿論、本熱可塑性組成物は水ポンプ又はその幾つかの部分の形成に限定されず、パイプ及びパイプの部分、フランジ、バルブ、バルブシート、シール材、センサーハウジング、サーモスタット、サーモスタットハウジング、誘導弁、ライニング、プロペラ、冷却ファンなどをはじめとする流体取扱いシステム中に含ませることができる全ての形態の部品の形成において用いることができる。
【0114】
[0079]本発明は以下の実施例を参照してより良好に理解することができる。
【実施例】
【0115】
試験法:
[0080]溶融粘度:溶融粘度は走査剪断速度粘度として求め、ISO試験No.11443(ASTM−D3835と技術的に同等である)にしたがって1200秒
−1の剪断速度及び約316℃の温度において、Dynisco 7001毛細管流量計を用いて測定した。流量計オリフィス(ダイ)は、1mmの直径、20mmの長さ、20.1のL/D比、及び180°の入口角を有していた。バレルの直径は9.55mm±0.005mmであり、ロッ
ドの長さは233.4mmであった。
【0116】
[0081]熱特性:熱特性は、ISO試験No.11357にしたがって示差走査熱量測定法(DSC)によって求めた。DSC手順においては、TA-Q100装置上で行うDSC測定
を用いて、ISO標準規格10350に示されているように試料を20℃/分で加熱及び冷却した。ペレット及び成形試料の両方に関して、加熱及び冷却プログラムは、チャンバーを25℃に平衡化することによって開始し、次に20℃/分の加熱速度での320℃の温度への第1の加熱段階を行い、次に試料を320℃において1分間平衡化し、次に20℃/分の冷却速度での50℃の温度への第1の冷却段階を行い、次に試料を50℃において1分間平衡化し、次に20℃/分の加熱速度での320℃への第2の加熱段階を行う2サイクル試験であった。結果はTAソフトウエアプログラムを用いて評価し、溶融温度、吸熱及び発熱ピーク、並びにDSCプロットにおけるピーク下の面積を同定及び定量した。DSCプロットにおけるピーク下の面積は、試料1gあたりのジュール(J/g)として求めた。例えば、樹脂又は成形試料の融解熱は、吸熱ピークの面積を積分することによって求められる。面積値は、コンピューターソフトウエアを用いてDSCプロット下の面積(例えば吸熱の面積)をジュール/グラム(J/g)の単位に変換することによって求められる。結晶化の発熱は、第1の冷却サイクル及び第2の加熱サイクル中において求める。また、結晶化ポテンシャル(%)は次式:
結晶化ポテンシャル(%)=100×(A−B)/A
(式中、
Aは吸熱ピークの面積(例えば第1の融解熱)の合計であり;そして
Bは発熱ピークの面積(例えば結晶化前の融解熱)である)
のようにして計算することができる。
【0117】
[0082]引張弾性率、引張応力、及び引張伸び:ISO試験No.527(ASTM−D638と技術的に同等である)にしたがって引張特性を試験した。80mmの長さ、10mmの厚さ、及び4mmの幅を有する同じ試験片試料について、弾性率及び強度の測定を行った。試験温度は23℃であり、試験速度は1又は5mm/分であった。
【0118】
[0083]曲げ弾性率、曲げ応力、及び曲げ歪み:ISO試験No.178(ASTM−D790と技術的に同等である)にしたがって曲げ特性を試験した。この試験は64mmの支持スパンに関して行った。試験は、未切断のISO−3167多目的棒材の中央部分について行った。試験温度は23℃であり、試験速度は2mm/分であった。
【0119】
[0084]ノッチ付きアイゾッド衝撃強さ:ISO試験No.180(ASTM−D256方法Aと技術的に同等である)にしたがってノッチ付きアイゾッド特性を試験した。この試験は、タイプAのノッチを用いて行った。試験片は、一枚歯フライス盤を用いて多目的棒材の中央部分から切り出した。試験温度は23℃であった。
【0120】
[0085]荷重撓み温度(DTUL):ISO試験No.75−2(ASTM−D648−07と技術的に同等である)にしたがって荷重撓み温度を測定した。80mmの長さ、10mmの厚さ、及び4mmの幅を有する試験片試料を、規定荷重(最大外繊維応力)が1.8MPaである沿層方向3点曲げ試験にかけた。試験片をシリコーン油浴中に降下させ、0.25mm(ISO試験No.75−2に関しては0.32mm)歪むまで温度を2℃/分で上昇させた。
【0121】
[0086]フラッシュ:フラッシュを求めるために、試料をまず135℃において3〜4時間乾燥した。次に、以下の条件:321℃の溶融温度、1.5秒間の射出時間、30,000psiの射出圧力、1,000psiにおいて10秒間の保持時間及び圧力、並びに20秒間のスクリュー後退時間を用いて、試料を二重タブフラッシュ金型中に射出成形し
た。より詳しくは、試料は、0.5インチの1つのタブが1.5秒間で樹脂によって満たされ、0.75インチの他のタブが未充填のままであるように射出した。冷却した後、MediaCybernetics自動画像分析システムを用いて部品のフラッシュを測定した。
【0122】
N1,N4−ジフェニルテレフタルアミド:化合物Aの合成:
[0087]テレフタロイルクロリド及びアニリンからの化合物Aの合成は、次式:
【0123】
【化18】
【0124】
にしたがって行うことができる。
【0125】
[0088]実験装置は、塔頂メカニカルスターラーと接続したガラスロッドスターラーを取り付けた2Lのガラスビーカーで構成されていた。ジメチルアセトアミド(DMAc)(3L)をビーカーに加え、ビーカーを氷浴中に浸漬して系を10〜15℃に冷却した。次に、連続的に撹拌しながらアニリン(481.6g)を溶媒に加え、得られた混合物を10〜15℃に冷却した。テレフタロイルクロリド(300g)を冷却した撹拌混合物に徐々に加えて、反応の温度が30℃より低く維持されるようにした。酸塩化物を1〜2時間かけて加え、その後、混合物を10〜15℃において更に3時間、次に室温において一晩撹拌した。反応混合物は乳白色(溶媒中の生成物の微細懸濁液)であり、濾紙及びブフナー漏斗を用いて真空濾過した。粗生成物をアセトン(2L)で洗浄し、次に熱水(2L)で洗浄した。次に生成物を室温において一晩空気乾燥し、次に真空オーブン内において150℃で4〜6時間乾燥した。生成物(464.2g)は高結晶質の白色の固体であった。融点は、示差走査熱量測定法(DSC)によって測定して346〜348℃であった。
【0126】
N1,N4−ジフェニルイソテレフタルアミド:化合物Bの合成:
[0089]イソフタロイルクロリド及びアニリンからの化合物Bの合成は、次式:
【0127】
【化19】
【0128】
にしたがって行うことができる。
【0129】
[0090]実験装置は、塔頂メカニカルスターラーと接続したガラスロッドスターラーを取り付けた2Lのガラスビーカーで構成されていた。DMAc(1.5L)をビーカーに加え、ビーカーを氷浴中に浸漬して溶媒を10〜15℃に冷却した。次に、連続的に撹拌しながらアニリン(561.9g)を溶媒に加え、得られた混合物を10〜15℃に冷却した。イソフタロイルクロリド(350g、200gのDMAc中に溶解)を冷却した撹拌混合物に徐々に加えて、反応の温度が30℃より低く維持されるようにした。酸塩化物を1時間かけて加え、その後、混合物を10〜15℃において更に3時間、次に室温において一晩撹拌した。反応混合物は乳白色の外観であった。1.5Lの蒸留水を加えることによって沈殿させ、次に濾紙及びブフナー漏斗を用いて真空濾過することによって生成物を回収した。次に粗生成物をアセトン(2L)で洗浄し、次に熱水(2L)で再び洗浄した。次に生成物を室温において一晩空気乾燥し、次に真空オーブン内において150℃で4
〜6時間乾燥した。生成物(522g)は白色の固体であった。融点は、DSCによって測定して290℃であった。
【0130】
N1,N4−ビス(4−ベンズアミドフェニル)テレフタルアミド:化合物Eの合成:
[0091]4−アミノベンズアニリド及びテレフタロイルクロリドからの化合物Eの合成は、次式:
【0131】
【化20】
【0132】
にしたがって行うことができる。
【0133】
[0092]実験装置は、塔頂メカニカルスターラーと接続したガラスロッドスターラーを取り付けた1Lのガラスビーカーで構成されていた。4−アミノベンズアニリド(20.9g)を加温したDMAc(250mL)(或いはN−メチルピロリドンを用いることもできる)中に溶解した。テレフタロイルクロリド(10g)を40〜50℃に維持したジアミンの撹拌溶液に加え、酸塩化物を加えることによって反応温度は50℃〜80℃に上昇した。酸塩化物の添加が完了した後、反応混合物を70〜80℃に加温し、その温度に約3時間保持し、室温において一晩静置した。次に、水(500mL)を加え、次に真空濾過を行い、次に熱水(1L)で洗浄することによって生成物を単離した。次に、生成物を、真空オーブン内において150℃で約6〜8時間乾燥して、淡黄色の固体を与えた(収率約90%)。DSCによる融点は462℃であった。
【0134】
N1,N3,N5−トリフェニルベンゼン−1,3,5−トリカルボキサミド:化合物Jの合成:
[0093]化合物Jは、トリメソイルクロリド及びアニリンから次式:
【0135】
【化21】
【0136】
にしたがって合成することができる。
【0137】
[0094]実験装置は、塔頂メカニカルスターラーと接続したガラスロッドスターラーを取り付けた2Lのガラスビーカーで構成されていた。トリメソイルクロリド(200g)をジメチルアセトアミド(DMAc)(1L)中に溶解し、氷浴によって10〜20℃に冷
却した。アニリン(421g)を酸塩化物の撹拌溶液に1.5〜2時間かけて滴加した。アミンの添加が完了した後、反応混合物を更に45分間撹拌し、その後、温度を90℃に約1時間上昇させた。混合物を室温において一晩静置した。1.5Lの蒸留水を加えることによって沈殿させ、次に濾紙及びブフナー漏斗を用いて真空濾過することによって生成物を回収した。粗生成物をアセトン(2L)で洗浄し、次に熱水(2L)で再び洗浄した。次に生成物を室温において一晩空気乾燥し、次に真空オーブン内において150℃で4〜6時間乾燥した。生成物(250g)は白色の固体であり、DSCによって測定して319.6℃の融点を有していた。
【0138】
1,3−ベンゼンジカルボキサミド,N1,N3−ジシクロヘキシル:化合物O1の合成:
[0095]イソフタロイルクロリド及びシクロヘキシルアミンからの化合物O1の合成は、次式:
【0139】
【化22】
【0140】
にしたがって行うことができる。
【0141】
実験装置は、塔頂メカニカルスターラーと接続したガラスロッドスターラーを取り付けた1Lのガラスビーカーで構成されていた。シクロヘキシルアミン(306g)を、室温において、ジメチルアセトアミド(1L)(或いはN−メチルピロリドンを用いることもできる)及びトリエチルアミン(250g)中で混合した。次に、連続的に撹拌しながらイソフタロイルクロリド(250g)1.5〜2時間かけてアミン溶液にゆっくりと加えた。酸塩化物の添加速度は、反応温度が60℃未満に維持されるように保持した。ベンゾイルクロリドの添加が完了した後、反応混合物を85〜90℃に徐々に加温し、次に約45〜50℃に冷却した。混合物を室温において一晩(少なくとも3時間)静置した。1.5Lの蒸留水を加えることによって沈殿させ、次に濾紙及びブフナー漏斗を用いて真空濾過することによって生成物を回収した。次に、粗生成物をアセトン(250mL)で洗浄し、熱水(500mL)で再び洗浄した。次に、生成物(収率約90%)を室温において一晩空気乾燥し、次に真空オーブン内において150℃で4〜6時間乾燥した。生成物は白色の固体であった。プロトンNMR特性分析は次の通りであった:
1H-NMR (400MHz d
6-DMSO): 8.3 (s, 2H, CONH), 8.22 (s, 1H, Ar), 7.9 (d, 2H, Ar), 7.5 (s, 1H, Ar), 3.7 (ブロード s, 2H, シクロヘキシル), 1.95 -1.74 (ブロード s, 4H, シクロヘキシル) 及び1.34 -1.14 (m, 6H, シクロヘキシル)。
【0142】
実施例1:
[0096]18mmの直径を有するWerner Pfleiderer ZSK 25同時回転完全噛み合い二軸押出機内において、下表1に示す成分を混合した。
【0143】
【表1-5】
【0144】
[0097]試料1、2、及び4から形成されたペレットの熱特性を求め、その結果を下表2に示す。
【0145】
【表2】
【0146】
[0098]上記に示すように、芳香族アミドオリゴマーを加えると、結晶化ポテンシャルが増加し、結晶化温度(再結晶温度)が低下するという点で結晶化特性に影響を与えた。
【0147】
[0099]また、試料1、2、及び4を、Mannesmann Demag D100 NCIII射出成形機上で、
130℃の金型温度においてTバーに成形した。熱特性を試験し、その結果を下表3に示す。
【0148】
【表3】
【0149】
[00100]ペレット及び成形試料は両方とも、芳香族アミドオリゴマー成核剤を加えるこ
とによって増加した結晶化ポテンシャルを示した。また、機械特性も試験し、その結果を下表4に示す。
【0150】
【表4】
【0151】
実施例2:
[00101]18mmの直径を有するWerner Pfleiderer ZSK 25同時回転完全噛み合い二軸
押出機内において、下表5に示す成分を混合した。
【0152】
【表5】
【0153】
[00102]形成されたら、試料をMannesmann Demag D100 NCIII射出成形機上でTバーに成形した。機械特性を試験し、その結果を下表6に示す。
【0154】
【表6】
【0155】
実施例3:
[00103]18mmの直径を有するWerner Pfleiderer ZSK 25同時回転完全噛み合い二軸
押出機内において、下表7に示す成分を混合した。
【0156】
【表7】
【0157】
[00104]試料から形成されたペレットの熱特性を求め、その結果を下表8に示す。
【0158】
【表8】
【0159】
[00105]上記に示すように、芳香族アミドオリゴマーのみを加えると(試料9、11、
及び12)、成核剤を含まなかった対照1と比べて結晶化ポテンシャルが増加するという点で結晶化特性に影響を与えた。窒化ホウ素及び芳香族オリゴマーを含んでいた試料10も、対照1と比べて83.3%の特別に高い結晶化ポテンシャルを示した。驚くべきことに、これは、芳香族アミドオリゴマーのみを含む試料(試料9、11、及び12)、並びに窒化ホウ素のみを含む試料(対照2)よりも遙かに高かった。
【0160】
[00106]また、ペレットをMannesmann Demag D100 NCIII射出成形機上でTバーに成形した。熱特性を試験し、その結果を下表9に示す。
【0161】
【表9】
【0162】
[00107]示されるように、窒化ホウ素及び芳香族オリゴマーを含んでいた試料10は、
対照1(成核剤なし)、試料9、11、又は12(芳香族アミドオリゴマーのみ)、及び対照2(窒化ホウ素のみ)よりも低いフラッシュの量を示した。また、機械特性を試験し、その結果を下表10に示す。
【0163】
【表10】
【0164】
[00108]より良好な熱特性を有することに加えて、試料10(窒化ホウ素及び芳香族オ
リゴマー)はまた、対照1(成核剤なし)、試料9、11、又は12(芳香族アミドオリゴマーのみ)、及び対照2(窒化ホウ素のみ)よりも良好な引張り強さを示した。
【0165】
実施例4:
[00109]25mmの直径を有するWerner Pfleiderer ZSK 25同時回転完全噛み合い二軸
押出機内において、下表11に示す成分を混合した。
【0166】
【表11】
【0167】
[00110]試料から形成されたペレットの熱特性を求め、その結果を下表12に示す。
【0168】
【表12】
【0169】
[00111]上記に示すように、芳香族アミドオリゴマーを加えると組成物の結晶化ポテン
シャルが増加した。また、ペレットをMannesmann Demag D100 NCIII射出成形機上で、1
30℃及び80℃においてTバーに成形した。熱特性を試験し、その結果を下表13及び14に示す。
【0170】
【表13】
【0171】
【表14】
【0172】
[00112]示されるように、芳香族アミドオリゴマーを含む試料(試料13〜16)は対
照3及び対照4よりも高い結晶化ポテンシャル及び高い再結晶温度を示し、これはより速い結晶化プロセスを示した。80℃において成形した試料は130℃において成形した試料よりも低い量のフラッシュを示し、結晶化ポテンシャルは芳香族アミドオリゴマー及び窒化ホウ素の存在下において90%より高く保持された。また、機械特性も試験し、その結果を下表15及び16に示す。
【0173】
【表15】
【0174】
【表16】
【0175】
実施例5:
[00113]25mmの直径を有するWerner Pfleiderer ZSK 25同時回転完全噛み合い二軸
押出機内において、下表17に示す成分を混合した。
【0176】
【表17】
【0177】
[00114]試料から形成されたペレットの熱特性を求め、その結果を下表18に示す。
【0178】
【表18】
【0179】
[00115]上記に示すように、芳香族アミドオリゴマーを加えると組成物の結晶化ポテン
シャルが増加した。また、ペレットをMannesmann Demag D100 NCIII射出成形機上でTバ
ーに成形した。熱特性を試験し、その結果を下表19及び下表14に示す。
【0180】
【表19】
【0181】
[00116]示されるように、芳香族アミドオリゴマーを含む試料(試料17)は、対照4
よりも高い再結晶温度を示し、これはより速い結晶化プロセスを示した。より速い結晶化のために、試料17のフラッシュ性能も対照4より良好であった。また、機械特性も試験し、その結果を下表20に示す。
【0182】
【表20】
【0183】
実施例6:
[00117]25mmの直径を有するWerner Pfleiderer ZSK 25同時回転完全噛み合い二軸
押出機内において、下表21に示す成分を混合した。
【0184】
【表21】
【0185】
[00118]試料から形成されたペレットの熱特性を求め、その結果を下表22に示す。
【0186】
【表22】
【0187】
[00119]また、機械特性も試験し、その結果を下表23及び24に示す。
【0188】
【表23】
【0189】
【表24】
【0190】
[00120]本発明のこれら及び他の修正及び変更は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく当業者によって実施することができる。更に、種々の態様の幾つかの形態は全体的又は部分的に交換することができることを理解すべきである。更に、当業者であれば、上記の記載は例示のみの目的であり、特許請求の範囲において更に記載される発明を限定することは意図しないことを認識するであろう。
本発明の具体的態様は以下のとおりである。
[1]ポリアリーレンスルフィド;
無機結晶質化合物、及び次の一般式(I):
【化23】
(式中、
環Bは6員の芳香環であり、ここで1〜3個の環炭素原子は場合によっては窒素又は酸素によって置き換えられており、それぞれの窒素は場合によっては酸化されており、環Bは、場合によっては、5又は6員のアリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、又はヘテロシクリルに縮合又は結合していてよく;
R5は、ハロ、ハロアルキル、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、又はヘテロシクリルであり;
mは0〜4であり;
X1及びX2は、独立してC(O)HN又はNHC(O)であり;そして
R1及びR2は、独立して、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、及びヘテロシクリルから選択される)
を有する芳香族アミドオリゴマーを含む成核系;
を含む熱可塑性組成物。
[2]芳香族アミドオリゴマーが約3,000g/モル以下の分子量を有する、[1]に記載の熱可塑性組成物。
[3]環Bがフェニル又はナフチルである、[1]又は[2]に記載の熱可塑性組成物。
[4]芳香族アミドオリゴマーが次の一般式(IV):
【化24】
(式中、
X1及びX2は、独立してC(O)HN又はNHC(O)であり;
R5、R6、及びR7は、独立して、ハロ、ハロアルキル、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、又はヘテロシクリルから選択され;
mは0〜4であり;そして
n及びpは、独立して0〜5である)
を有するか、或いは芳香族アミドオリゴマーが次の一般式(V):
【化25】
(式中、
X1及びX2は、独立してC(O)HN又はNHC(O)であり;
R5、R7、及びR8は、独立して、ハロ、ハロアルキル、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、又はヘテロシクリルから選択され;
mは0〜4であり;そして
p及びqは、独立して0〜5である)
を有する、[1]〜[3]のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
[5]式(IV)のm、n、及びpが0であるか、或いは式(IV)のmが0であり、及び/又はR6及びR7が−C(O)HN−又は−NHC(O)−で置換されているフェニルである、[4]に記載の熱可塑性組成物。
[6]オリゴマーが、次の化合物及びそれらの組み合わせ:
【表25-1】
【表25-2】
【表25-3】
【表25-4】
からなる群から選択される、[1]〜[5]のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
[7]無機結晶質化合物が窒化ホウ素である、[1]〜[6]のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
[8]熱可塑性組成物が、次の特徴:
(a)成核系は組成物の約0.05重量%〜約10重量%を構成する;
(b)ポリアリーレンスルフィドは組成物の約30重量%〜約95重量%を構成する;
(c)組成物中の無機結晶質化合物に対する芳香族アミドオリゴマーの重量比は約0.8〜約20である;
(d)芳香族アミドオリゴマーは組成物の約0.1重量%〜約8重量%を構成する;
(e)無機結晶質化合物は組成物の約0.01重量%〜約6重量%を構成する;
の1以上を有する、[1]〜[7]のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
[9]耐衝撃性改良剤、無機充填剤、繊維充填剤、有機シランカップリング剤、潤滑剤、ジスルフィド、又はこれらの組み合わせを更に含む、[1]〜[8]のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
[10]組成物が、ISO−10350にしたがって示差走査熱量測定法によって測定して約55%以上、例えば約75%〜約95%の結晶化ポテンシャルを有する、[1]〜[9]のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
[11]組成物が次の特徴:
(a)ISO−10350にしたがって示差走査熱量測定法によって測定して、約15ジュール/グラム以下の結晶化潜熱、及び約15ジュール/グラム以上の融解潜熱;
(b)ISO−10350にしたがって示差走査熱量測定法によって測定して約250℃以下の結晶化温度;
(c)毛細管流量計によって1200秒−1の剪断速度及び316℃の温度で測定して約20ポイズ以下の溶融粘度;
の1以上を有する、[1]〜[10]のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
[12][1]〜[11]のいずれかに記載の熱可塑性組成物を含む成形部品。
[13]部品が約100ミリメートル以下の厚さを有するか、又は約100ミリメートル以下の厚さを有する部分を含む、[12]に記載の成形部品。
[14]携帯電話、ラップトップコンピューター、小型ポータブルコンピューター、腕時計型機器、ペンダント型機器、ヘッドホン又はイヤホン機器、無線通信機能を有するメディアプレイヤー、携帯型コンピューター、リモートコントローラー、全地球測位システム機器、携帯型ゲーム機器、バッテリーカバー、スピーカー、カメラモジュール、又は集積回路である、[22]に記載の成形部品を含む電子機器。
[15]例えば成形されたポンプがインペラーである、[22]に記載の成形部品を含む液体ポンプ。
[16]約5重量%〜約60重量%の窒化ホウ素、及び約40重量%〜約95重量%の次の一般式(I):
【化26】
(式中、
環Bは6員の芳香環であり、ここで1〜3個の環炭素原子は場合によっては窒素又は酸素によって置き換えられており、それぞれの窒素は場合によっては酸化されており、環Bは、場合によっては、5又は6員のアリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、又はヘテロシクリルに縮合又は結合していてよく;
R5は、ハロ、ハロアルキル、アルキル、アルケニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、又はヘテロシクリルであり;
mは0〜4であり;
X1及びX2は、独立してC(O)HN又はNHC(O)であり;そして
R1及びR2は、独立して、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、及びヘテロシクリルから選択される)
を有する少なくとも1種類の芳香族アミドオリゴマーを含む、ポリアリーレンスルフィド組成物用の成核系。
[17]環Bがフェニル又はナフチルである、[16]に記載の成核系。
[18]芳香族アミドオリゴマーが次の一般式(IV):
【化27】
(式中、
X1及びX2は、独立してC(O)HN又はNHC(O)であり;
R5、R6、及びR7は、独立して、ハロ、ハロアルキル、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、又はヘテロシクリルから選択され;
mは0〜4であり;そして
n及びpは、独立して0〜5である)
を有するか、或いは芳香族アミドオリゴマーが次の一般式(V):
【化28】
(式中、
X1及びX2は、独立してC(O)HN又はNHC(O)であり;
R5、R7、及びR8は、独立して、ハロ、ハロアルキル、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、又はヘテロシクリルから選択され;
mは0〜4であり;そして
p及びqは、独立して0〜5である)
を有する、[16]に記載の成核系。
[19]式(IV)のm、n、及びpが0であるか、或いは式(IV)のmが0であり、及び/又はR6及びR7が−C(O)HN−又は−NHC(O)−で置換されているフェニルである、[30]に記載の熱可塑性組成物。
[20]オリゴマーがN1,N4−ジフェニルテレフタルアミドである、[16]〜[19]のいずれかに記載の成核系。
[21]芳香族アミドオリゴマーが成核系の約60重量%〜約80重量%を構成し、窒化ホウ素が成核系の約20重量%〜約40重量%を構成する、[16]〜[20]のいずれかに記載の成核系。