特許第6240195号(P6240195)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6240195
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】抗CD26抗体とその利用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20171120BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20171120BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20171120BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20171120BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20171120BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20171120BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20171120BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20171120BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20171120BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   C07K16/28ZNA
   C12N15/00 A
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C12P21/08
   A61K39/395 N
   A61P37/06
   A61P7/06
【請求項の数】30
【全頁数】64
(21)【出願番号】特願2015-529076(P2015-529076)
(86)(22)【出願日】2014年2月19日
(65)【公表番号】特表2015-529204(P2015-529204A)
(43)【公表日】2015年10月5日
(86)【国際出願番号】EP2014053243
(87)【国際公開番号】WO2014128168
(87)【国際公開日】20140828
【審査請求日】2015年3月3日
(31)【優先権主張番号】13425029.9
(32)【優先日】2013年2月19日
(33)【優先権主張国】EP
【微生物の受託番号】ABC  PD 12002
(73)【特許権者】
【識別番号】515007936
【氏名又は名称】アディエンネ ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】アントニオ フランチェスコ ディ ナロ
【審査官】 市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/014169(WO,A1)
【文献】 Mol. Immunol.,1998年,Vol.35,pp.13-21
【文献】 Transfusion,2012年 8月 6日,[online], Vol.53,pp.878-887
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
C12N 15/00−15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含む、ヒトCD26と特異的に結合する単離されたモノクローナル抗体であって、
a) 前記重鎖可変領域が、配列番号133の配列を含むVH CDR1,配列番号134の配列を含むVH CDR2、及び配列番号1の配列を含むVH CDR3を含み、
b) 前記軽鎖可変領域が、配列番号129の配列を含むVL CDR1、配列番号130の配列を含むVL CDR2、及び配列番号2の配列を含むVL CDR3を含むか、又は配列番号131の配列を含むVL CDR1、配列番号132の配列を含むVL CDR2、及び配列番号3の配列を含むVL CDR3を含む、前記抗体。
【請求項2】
前記軽鎖可変領域が、配列番号129の配列を含むVL CDR1、配列番号130の配列を含むVL CDR2、及び配列番号2の配列を含むVL CDR3を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記軽鎖可変領域が、配列番号4、5、6〜21のアミノ酸配列と、配列番号4のアミノ酸配列のバリアントと、配列番号5のアミノ酸配列のバリアントからなるグループから選択したアミノ酸配列を含み、配列番号4の前記バリアントは、配列番号4と少なくとも90%一致した配列を持ち、配列番号5の前記バリアントは、配列番号5と少なくとも90%一致した配列を持ち、但しCDRに対応するアミノ酸配列には置換、欠失又は付加がされない、請求項1又は2に記載の抗体。
【請求項4】
前記軽鎖可変領域が、配列番号4又は5のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項5】
前記重鎖可変領域が、配列番号22〜47とそのバリアントからなるグループから選択したアミノ酸配列を含み、前記バリアントは、配列番号22〜47からなるグループから選択したアミノ酸配列と少なくとも90%一致した配列を持ち、但しCDRに対応するアミノ酸配列には置換、欠失又は付加がされない、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項6】
前記重鎖可変領域が、配列番号26のアミノ酸配列を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項7】
前記軽鎖可変領域が、配列番号4のアミノ酸配列を含み、そして前記重鎖可変領域が配列番号26のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項8】
ジェノバ(イタリア国)のCBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体と同じ重鎖可変領域配列および同じ軽鎖可変領域配列を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項9】
軽鎖定常領域を含んでいて、その軽鎖定常領域は、配列番号48とそのバリアントからなるグループから選択したアミノ酸配列を含有し、前記バリアントは、配列番号48と少なくとも90%一致した配列を持つ、請求項1〜8のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項10】
IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA、IgD、IgEからなるグループから選択した抗体アイソタイプを持つ、請求項1〜9のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項11】
IgG 2Bクラスに属していて、配列番号49に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有し、そのバリアントは、配列番号49と少なくとも90%一致した配列を持つ、請求項1〜9のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項12】
組み換え抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、抗体フラグメント、二重特異性抗体、単一特異性抗体、一価抗体のいずれかである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項13】
ヒトCD26に特異的に結合する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項14】
ブタCD26には特異的に結合しない、請求項1〜13のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の少なくとも2種類の抗体を含む、単離された組成物。
【請求項16】
ジェノバ(イタリア国)のCBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株またはそのハイブリドーマ細胞株が産生するのと同じ抗体を産生する子孫細胞によって産生される抗体、及び担体若しくは希釈剤を含むか、からなる、単離された組成物。
【請求項17】
(a)請求項1〜14のいずれか1項に記載の抗体をコードするヌクレオチド配列;または
(b)(a)と相補的なヌクレオチド配列
を含む、単離された核酸分子。
【請求項18】
配列番号50〜128とそのバリアントからなるグループから選択したヌクレオチド配列を含有し、前記バリアントが、配列番号50〜128からなるグループから選択したヌクレオチド配列と少なくとも90%一致した配列を持ち、但しCDRに対応するヌクレオチド配列には置換、欠失又は付加がされない、単離された核酸分子。
【請求項19】
請求項17または18に記載の核酸分子を含む発現ベクターであって、前記核酸分子が発現制御配列と機能的に関連している発現ベクター。
【請求項20】
請求項17または18に記載の核酸分子、または請求項19に記載の発現ベクターを含む組み換え宿主細胞。
【請求項21】
ジェノバ(イタリア国)のCBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株、またはそのハイブリドーマ細胞が産生するのと同じ抗体を産生する子孫細胞から産生される抗体。
【請求項22】
請求項1〜14及び21のいずれか1項に記載の抗体を作製する方法であって、以下の工程:
(i) 請求項1〜14のいずれか一項に記載の抗体をコードする核酸を含む請求項20に記載の宿主細胞、又はジェノバ(イタリア国)のCBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株を提供し;
(ii) 培養培地で宿主細胞を培養し;そして
(iii) 培地から抗体を取得する
を含む、前記方法。
【請求項23】
以下の工程:
(iv) サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、濾過及び/又はナノ濾過により抗体を精製する
を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
請求項1〜14及び21のいずれか1項に記載の少なくとも1種類の抗体を含み、医薬として許容可能な少なくとも1種類の賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項25】
薬として使用するための、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
(a) 造血幹細胞移植後の生着を促進するか、または
(b) 造血幹細胞移植後の移植片対宿主病(GvHD)の予防または治療に使用するか、および/または
(c) 再生不良性貧血の予防または治療に使用するか、又はその両方であり;
(d)(a),(b),(c)の任意の組合せにおいて使用するための、請求項25に記載の医薬組成物。
【請求項27】
医薬として使用するための請求項15又は16に記載の組成物。
【請求項28】
(a)造血幹細胞移植後の生着を促進するか、または
(b)造血幹細胞移植後の移植片対宿主病(GvHD)の予防または治療に使用するか、および/または
(c)再生不良性貧血の予防または治療に使用するか、又はその両方であり、
(d)(a),(b),(c)の任意の組合せにおいて使用するための、または請求項15又は16に記載の組成物。
【請求項29】
請求項26に記載の使用のための医薬組成物であって、前記使用が造血幹細胞移植後の移植片対宿主病(GvHD)の予防または治療、又は再生不良性貧血の予防または治療に使用するための組成物。
【請求項30】
(i)請求項1〜14と21のいずれか1項に記載の少なくとも1種類の抗体と、
(ii)a)少なくとも1種類の免疫抑制薬、または
b)少なくとも1種類のコルチコステロイドと少なくとも1種類の抗ヒスタミン剤
を含む医療キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD26に結合できる新規な抗体と、薬としてのその抗体の利用に関する。さらに本発明は、移植片対宿主病(GvHD)と再生不良性貧血の少なくとも一方の治療および/または予防に使用するための抗体と、造血幹細胞移植後の生着促進に使用するための抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
CD26は、広く分布している110 kDaの細胞表面糖タンパク質であり、最初はT細胞活性化抗原であるとされた(Fox他(1984年)、J. Immunol.、第133巻、1250〜1256ページ;Fleischer(1987年)、J. Immunol.、第138巻、1346〜1350ページ;Morimoto他(1989年)、J. Immunol.、第143巻、3430〜3439ページ)。この分子はその細胞外ドメインにおいてジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV;EC3.4.14.5)活性を示すことと、組織に広く分布していることがわかっている(Hegen他(1990年)、J. Immunol.、第144巻、2908〜2914ページ;Ulmer他(1990年)、J. Immunol.、第31巻、429〜435ページ;WO 2007/014169 A2)。CD26はヒトT細胞の生理学において多彩な機能を有する。例えば、CD26はT細胞活性化のための同時刺激シグナルを供給できることを証拠が示唆している(Morimoto他(1994年)、Immunologist、第2巻:4〜7ページ;Fleischer(1994年)、Immunol. Today、第15巻:180〜184ページ)。さらに、CD26はADA結合タンパク質であることが特定されており、CD26/ADA複合体は、免疫系の機能調節において重要な役割を果たしている可能性がある(Dong他(1996年)、J. Immunol.、第156巻(4):1349〜1355ページ;Kameoka他(1993年)、Science、第261巻(5120):466〜469ページ;Morrison他(1993年)、J. Exp. Med.、第177巻(4):1135〜1143ページ)。CD26と細胞タンパク質トポイソメラーゼIIαが機能的に関連していることも報告されている(Aytac他(2003年)、British Journal of Cancer、第88巻:455〜462ページ)。抗CD26抗体は、例えばWO 2007/014169 A2から公知である。
【0003】
造血幹細胞移植(HSCT)は、血液悪性腫瘍と多くの上皮悪性腫瘍のほか、かなり多くの非悪性疾患に対する1つの重要な治療法である(Ferrara他、2009年、Lancet、第373巻:1550〜1561ページ;Sun他、2007年、Transl. Res.;第150巻:197〜214ページ)。移植片対宿主病(GvHD)は同種異系の造血幹細胞移植(HSCT)の主要な合併症であるため、これらの重要な治療法の利用には制約がある。
【0004】
造血幹細胞移植には大きく2通りある。すなわち自家移植と同種異系移植である。自家移植は、患者から造血幹細胞(HSC)を単離し、その幹細胞を保管し、その患者の体内に残っている幹細胞を破壊する医学的処置を施し、保管しておいたその患者自身の幹細胞をその患者の体内に戻す操作を含んでいる。自家移植は、移植片が拒絶されるリスクがより少なく、感染症や関連する他の疾患のリスクがより少ないという利点を有する。同種異系移植には2人の人間が関与する。一人は健康なドナーであり、もう一人は患者すなわちレシピエントである。同種異系HSCドナーはレシピエントと組織(HLA:ヒト白血球抗原)型が一致していなければならないことに加え、レシピエントに免疫抑制薬の投与が必要とされる。移植用の造血幹細胞には可能な3つの供給源がある。すなわち骨髄(BM)と、末梢血(PB)と、臍帯血(UCB)である。
【0005】
新規なさまざまな戦略が開発されたおかげで、過去数年の間に同種異系HSCTのための適応症が広がった(Sun他、2007年、上記文献)。感染症の予防、免疫抑制薬の投与、支持療法、DNAに基づく組織型決定における改善も、同種異系HSCTの後の帰結を改善するのに寄与している(Ferrara他、2009年、上記文献)。これらの理由により、同種異系造血細胞移植の件数は増え続けている。しかし移植片対宿主病(GvHD)が、相変わらず同種異系HSCTの主要な合併症である。
【0006】
GvHDが起こるのは、宿主の細胞表面にある遺伝的に決まったタンパク質が非自己であることをドナーのT細胞が明らかにしてそのタンパク質を破壊するために免疫応答を開始させるときである(Ferrara他、2009年、上記文献)。HSCT後のいつそれが起こるかに応じ、GvHDは急性または慢性になる。急性GvHD(aGvHD)は、死の15%〜40%の原因であって同種異系HCT後の死の主因であるのに対し、慢性GvHD(cGvHD)が起こるのは、HCTの後の3ヶ月間を生き延びる患者の50%までである(Sun他、2007年、Transl. Res.;第150巻:197〜214ページ)。
【0007】
急性の移植片対宿主病は、一般に、同種異系HSCTの後に、宿主の組織に対するドナーの免疫細胞の反応として発生する。急性GvHDの影響を受ける3つの主な組織は、皮膚、肝臓、胃腸管である。臨床的には、皮膚炎(皮膚の発疹)、皮膚の水疱、下痢を伴う激しい腹痛、下痢を伴わない激しい腹痛、持続性の吐き気、嘔吐、(ビリルビンおよび/または肝酵素の上昇を伴う)肝炎の兆候または症状のどれかまたはすべてをHSCTのレシピエントが示したとき、急性GvHDが疑われる。症状は、HSCT後の100日目までにドナーが生着するときに始まることが最も多いが、遅くなって起こることもありうる。急性GvHDは、組織学的証拠によって確認される臨床診断である。
【0008】
急性GvHDは、関与する器官の数と範囲によってステージに分類することができる。現在のステージ分類システムは、1974年のグルックスバーグの第1のaGvHD分類(Glucksberg他、1974年、Transplantation;第18巻:4、295〜304ページ)に由来する。最近のデータは、ステージ分類システムの利用を支持している。なぜならそのシステムでは、患者を合併症と死亡率に関してリスクのカテゴリーに分類できるからである。このシステムでは、患者は、3つの器官における関与の程度または段階に応じて4つのステージ(I〜IV)のうちの1つに分類される。皮膚は、関与する体表面積の割合でステージ分類され、肝臓は、ビリルビンの上昇の程度でステージ分類され、胃腸管は、下痢の回数でステージ分類される。これらの基準を用いて各患者にステージが1つだけ割り当てられる(Jacobsohn他、2007年、Orphanet J. of Rare Diseases;第2巻:35ページ)。
【0009】
GvHDのさまざまな臨床症状が知られている。最初期かつ最も一般的な症状は皮膚のGvHDである。これは、本質的に身体のどの場所ででも始まる可能性のある斑点状発疹だが、手のひらと足の裏から始まることがしばしばある。患者は冒された領域にかゆみまたはひりひりした感じを訴える可能性がある。重い場合には、水疱が発生する可能性がある。胃腸管での出現には下痢が含まれ、そのために出血、激痛、吐き気、嘔吐があったり、成長できなかったりする可能性がある。さらに、高ビリルビン血症からの黄疸が、肝臓GvHDであることの証拠である(Jacobsohn他、2007年、上記文献)。しかし急性ウイルス性肝炎のように肝酵素の上昇を伴うという肝臓GvHDの変形例が知られている(Akpek他、2002年、Blood;第100巻:3903〜3907ページ)。メチルプレドニゾロンは、この疾患に関して欧州諸国では登録されていないが、急性GvHDの最初の治療での現在の標準であると見なされている。
【0010】
急性GvHDの最も重要な治療法は、メチルプレドニゾロンを2mg/kg/日で用いるというものであり、患者の50%超で有効だが、持続的な応答はほんの1/3の患者でしか生じない。非応答者には次善の治療法が提供される。それは、この症状に関して登録されていない複数の免疫抑制剤の組み合わせに基づいている。次善の治療法は多くの場合に不十分であり、非常に大規模な臨床試験での1年後の生存率が30%である。これらの戦略のどれも、標準的な治療法に必要とされる成功率に達していない。移植が始まってから30年経った現在も、ステロイド抵抗性急性GvHD(aGvHD)は、たいてい治療不能な疾患に留まっている。ステロイド療法に抵抗性があるaGvHD患者は、治療の選択肢が非常に限られていること、そしてこの臨床状況に対して現在認められている治療法は存在しないことを強調しておかねばならない。この状況は、この患者の集団にとって、特に感染症に伴う死亡率が上昇していることが特に原因で、生命を脅かすものになっている。
【0011】
この患者集団における臨床的に重要な結果が何かあれば、大きな恩恵になると考えられる。なぜならその結果は、ステロイド抵抗性aGvHD患者に臨床的に大きな利益をもたらすと考えられるからである。
【0012】
さらに、造血幹細胞移植後の生着を容易にするアプローチが有用であろう。生着は、移植された幹細胞が、身体の大きな骨の中心にある骨髄空間への道筋を見いだすプロセスである。そうなって初めて、移植された幹細胞は新しい血液細胞を産生し始めることができる。専門家は、このプロセスがどのようにして起こるかを完全には理解していないが、それは長いプロセスであることが一般に認識されている。すなわちこのプロセスには、生着させるために骨髄が導入された後、約2〜4週間かかる。血液幹細胞が生着するまで、患者は感染症のリスクを抱えることになる。移植を受けた患者は通常は放射線および/または化学療法を受けてきているため、その結果としてその患者の体内の白血球細胞が破壊されていることがその理由である。生着を待つ間、移植を受けた患者は、(細菌、ウイルス、真菌によって起こる)感染症が原因となった深刻な合併症にかかる可能性がある。合併症は、骨髄移植(BMT)後の移植関連死の主因の1つである。したがって生着を改善できる薬剤が、現在必要とされている。そのような薬剤は、骨髄を移植された患者にとって大きな価値を持つであろう。ホーミングと生着を促進できるならば、特にUCB移植において、造血細胞株譜が回復するまでの時間を短縮し、その結果として生着の失敗を減らし、全生存率を向上させることができる(Broxmeyer, H.E.(2006年)、「臍帯血幹細胞:回収、処理、移植」。『血液銀行と輸血の医学:基本原理と実践』。C.D. Hilyer他、Churchill Livingston、エルゼヴィア社の出版物:823〜832ページ;Lewis、2002年、Intern. Med. J.、第32巻(12):601〜609ページ)。
【0013】
再生不良性貧血は貧血の一種であり、この貧血では、骨髄が、血液細胞を補充するのに十分な量の血液細胞を産生できない。特に、先天性と後天性の再生不良性貧血が存在する可能性がある。後天性再生不良性貧血(AA)は、骨髄の細胞充実度の低さと末梢血細胞のカウント数が少ないことを特徴とする稀な骨髄疾患である(Young N.S.、Maciejewski J.P.、「後天性再生不良性貧血の病理生理学」、N. Eng. J. Med.、1997年、第336巻:1365〜1372ページ)。自己免疫疾患を発症したことの証拠はたいていは間接的であり、疾患に特異的な細胞充実度の低さの裏にある免疫応答を特徴づけることは、技術的に困難であることを主な理由として不完全である。後天性再生不良性貧血は、免疫が関与する疾患であると考えられており、現在標準的な非移植療法は、抗胸腺細胞グロブリン(ATG)+シクロスポリンA(CsA)である。失敗には、最も重要な治療法に応答しない患者(30%)と、最初の応答の後に再発する患者(30%)が含まれるため、イベントがない生存者は30〜40%を超えない(Bacigalupo A.、Passweg J.、2009年、Hematol. Oncol. Clin. North Am.、第23巻:159〜170ページ)。
【0014】
再生不良性貧血を治療しないと死に至る可能性があり、ほんの数ヶ月という短期間で死亡する場合がある。再生不良性貧血の現在の治療法として、例えば、骨髄移植または免疫抑制薬療法がある。しかし免疫抑制薬療法はかなり多くの場合に失敗しており、骨髄移植は、適切なドナーがいないと可能にならない。そのため、再生不良性貧血を治療するための代わりの薬剤として、少なくとも1種類の他の治療法に応答しない患者の治療に好ましくは有効な薬剤を提供することも、現在必要とされている。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、疾患、異常、病気の治療および/または予防、その中でも特に免疫系に関連する疾患、異常、病気の治療および/または予防に使用できる薬剤を提供することに関する。発明者らは特に、移植片対宿主病(GvHD)と再生不良性貧血の少なくとも一方の治療および/または予防に使用できる薬剤、または造血幹細胞移植後の生着を促進するのに使用できる薬剤を提供することを目指した。この薬剤はさらに、患者に実質的によく許容されることが好ましい。発明者らは特に、患者において、その中でも特に、別の治療法、特に免疫抑制剤を用いた別の治療法(例えばステロイドを用いた治療)に応答しない患者、またはその治療法に対して不十分な応答を示す患者において、GvHDと再生不良性貧血の少なくとも一方を予防および/または治療する薬剤、または生着を促進する薬剤を提供することを目指した。
【0016】
これらの問題に対する1つの解決法として、発明者らは、特に、抗体、医薬組成物、単離された核酸分子、ベクター、抗体混合物を含む組成物、組み換え宿主細胞、複数部分からなるキット、抗体を製造するための方法を提供する。
【0017】
第1の特徴によれば、抗体として、CD26(特にヒトCD26)に特異的に結合できる抗体が提供される。この抗体は重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むことができ、その重鎖可変領域は、配列WTVVGPGYFDV(配列番号1)を含むことができ、および/またはその軽鎖可変領域は、配列QQRSSYPNT(配列番号2)および/または配列GQGYSYPYT(配列番号3)を含むことができる。さらに、本発明の抗体は軽鎖可変領域を含むことができ、その軽鎖可変領域は、配列番号4、5、6〜21のアミノ酸配列と、配列番号4のアミノ酸配列のバリアントと、配列番号5のアミノ酸配列のバリアントからなるグループから選択したアミノ酸配列を含んでいる。さらに、本発明の抗体は、CD26に特異的に結合するとともに、重鎖可変領域を含むことができる。その重鎖可変領域は、配列番号22〜47とそのバリアントからなるグループから選択したアミノ酸配列を含んでいる。特別な一実施態様では、本発明の抗体は、CD26に特異的に結合するとともに、配列番号26のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号4または配列番号5のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を持つことができる。
【0018】
別の特徴により、発明者らは、(a)本発明の抗体をコードしているヌクレオチド配列を含むか、(b)(a)と相補的なヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子を提供する。さらに別の特徴により、配列番号50〜128とそのバリアントからなるグループから選択されたヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子が提供される。なおそのバリアントは、配列番号50〜128からなるグループから選択されたヌクレオチド配列と少なくとも90%一致する配列を有する。さらに別の特徴により、発明者らは、本発明の核酸分子を含む発現ベクターを提供する。その核酸分子は、発現制御配列と機能的に関連している。さらに別の特徴により、本発明の核酸分子を含む組み換え宿主細胞が提供される。
【0019】
さらに別の特徴によれば、ブダペスト条約のもとで2012年9月11日にジェノバの先進バイオテクノロジー・センター(CBA)の研究所内細胞株コレクション(ICLC)(ラルゴ R.ベンツィ10、ジェノバ、イタリア国)にPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株から、またはそのハイブリドーマ細胞株の誘導体から産生される抗体が提供される。寄託されたこのハイブリドーマ細胞株材料は、この明細書では短くPD 12002ハイブリドーマ寄託物とも呼ぶ。この寄託物の利用可能性に関するあらゆる制約は、本出願が初めて公開されたとき、本出願の優先権を主張する別の出願がなされたときになくなる。さらに別の特徴により、発明者らは、ジェノバ(イタリア国)のCBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体によって結合したエピトープに結合する抗体を提供する。
【0020】
さらに別の特徴によれば、本発明の抗体を製造する方法が提供される。
【0021】
さらに別の特徴により、発明者らは、本発明の少なくとも1種類の抗体を含み、場合によっては医薬として許容可能な少なくとも1種類の賦形剤を含む医薬組成物を提供する。さらにさらに別の特徴により、薬として使用するための本発明の医薬組成物が提供される。さらにさらに別の特徴により、発明者らは、造血幹細胞移植後の生着を促進するのに使用するための医薬組成物、および/または特に造血幹細胞移植後の移植片対宿主病(GvHD)の予防および/または治療に使用するための医薬組成物、および/または再生不良性貧血の予防および/または治療に使用するための医薬組成物を提供する。
【0022】
さらに別の特徴によれば、薬として使用するための、本発明の抗体または抗体混合物が、特に本発明の抗体混合物を含む組成物が提供される。さらに別の特徴により、発明者らは、造血幹細胞移植後の生着を促進するのに使用するための、および/または移植片対宿主病(GvHD)、好ましくは造血幹細胞移植後のGvHDの予防および/または治療に使用するための、および/または再生不良性貧血、好ましくは重い再生不良性貧血の予防および/または治療に使用するための、本発明の抗体または抗体混合物を、特に抗体混合物を含む組成物を提供する。さらに別の特徴によれば、複数の部品からなるキットが提供される。このキットは、特に、(i)本発明の抗体混合物を含む組成物に加え、(ii)a)少なくとも1種類の免疫抑制薬、またはb)少なくとも1種類のコルチコステロイドおよび/または少なくとも1種類の抗ヒスタミン剤を含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1a】ヒトCD26配列の全体を示す。
図1b】ブタCD26配列の全体を示す。
図1c】ヒトCD26配列の全体とブタCD26配列の全体のアラインメントを示す。
図2a】本発明の抗体中に存在できるCDR3配列を示している。
図2b】CD26特異的抗体のVH CDR1、VH CDR2、VH CDR3、VL CDR1、VL CDR2、VL CDR3の配列のリストを示している。
図2c】CD26特異的抗体のVH ABR1、VH ABR2、VH ABR3、VL ABR1、VL ABR2、VL ABR3の配列のリストを示している。
図3-1】本発明の抗体中に存在できるさまざまなVH領域とVL領域に見られる配列類似性を示している。VHグループ1の中のVH配列と、VLグループ1の中のVL配列は、同じCDRを含んでいる。
図3-2】本発明の抗体中に存在できるさまざまなVH領域とVL領域に見られる配列類似性を示している。VHグループ1の中のVH配列と、VLグループ1の中のVL配列は、同じCDRを含んでいる。
図4a】CDina26の投与に関する研究に参加した患者の皮膚GvHDのステージを示すグラフである。
図4b】CDina26の投与に関する研究に参加した患者の肝臓GvHDのステージを示すグラフである。
図4c】CDina26の投与に関する研究に参加した患者の消化管GvHDのステージを示すグラフである。
図5】CD4のカウント数の絶対値を示すグラフである。
図6】ステージIII〜IVの急性GvHD である13人の対照患者をステロイドとシクロスポリンとこれら以外の免疫抑制薬で治療した場合の移植関連死の推定累積件数を、ステロイドとシクロスポリンとCDina26で治療した9人の患者と比較して示したグラフである。
図7】ステージIII〜IVの急性GvHD である13人の対照患者をステロイドとシクロスポリンとこれら以外の免疫抑制薬で治療した場合の推定生存率を、ステロイドとシクロスポリンとCDina26で治療した9人の患者と比較して示したグラフである。
図8】本発明の好ましい抗体の構造を示している。この図は、本発明の抗体を形成できる軽鎖の2つの異なるグループを示している(VLグループ1とVLグループ3)。
図9】細胞表面に発現しているCD26へのCDina26の結合能力を求めるのに利用されるフローサイトメトリー分析を示している。
図10】配列番号のまとめ。VLアミノ酸配列のそれぞれは、本発明の抗体中のVHアミノ酸配列のうちの1つとの組み合わせで存在すること、場合によってはさらに、配列番号48を持つCLアミノ酸配列と、配列番号49を持つCH1-CH2-CH3配列との組み合わせで存在することができる。図10には、配列番号4〜49を持つアミノ酸配列に対応する、配列番号50〜128を持つヌクレオチド配列も示されている。
図11】捕獲されたCDina26の表面へのヒト抗原(Ag)(左)とブタ抗原(Ag)(右)の結合を、Biacore(登録商標)共鳴単位(RU)で測定した値を示す。
図12】CD26の中で同定された以下の不連続な7つの結合領域:DYDESSGRWNCLVAR(配列番号146);DVTWATQERISLQWL(配列番号147);TTGWVGRFRPSEPHF(配列番号153);TFITKGTWEVIG(配列番号155);DYLYYISNE(配列番号156);SCELNPERCQYY(配列番号157);SGPGLP(配列番号158)へのCDina26の結合を比較した棒グラフを示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に至る多くの実験を通じ、発明者らは、驚くべきことに、特に移植片対宿主病(GvHD)と再生不良性貧血の少なくとも一方の治療および/または予防のための薬として使用すると、また造血幹細胞移植後の生着を促進する薬として使用すると、大いに恩恵があって有望な結果をもたらす可能性のある抗体を見いだした。本発明の抗体は、CD26に、特にヒトCD26に、さらに特定するならば、幹細胞の表面に存在するか、活性化されたTリンパ球の表面に発現しているヒトCD26に、特異的に結合することができる。活性化されたTリンパ球(特に、CD16+CD3+Tという部分集合と、CD56+CD3+Tという部分集合)の表面に発現しているヒトCD26への本発明の抗体の結合は、以下に説明するように、本発明の抗体の特に有利な特性である。ステロイド抵抗性aGvHDを治療するためCD26に対するマウス・モノクローナル抗体を使用する理由は、主に、その抗体がCD26の活性阻止能力を有することによって裏付けられる。発明者らが実施した実験から、刺激を受けたT細胞ではCD26が過剰発現しており、刺激を受けたナチュラル・キラー細胞ではそれよりも少ない量でCD26が過剰発現していることがわかる。逆に、この分子は、他の細胞での発現が少ない。B細胞、単球、樹状細胞は決してCD26を発現せず、間葉幹細胞、内皮細胞、線維芽細胞もCD26を発現しない。本発明の抗CD26は、活性化された調節T細胞に特異的に結合してそれら細胞の増殖を妨げるとともに、免疫応答の調節で役割を果たす。いかなる理論にも囚われることを望んでいないとはいえ、現在のところ、活性化されたリンパ球が抗CD26の標的であること、そして活性化されたリンパ球が部分的に欠乏すると、GvHD(特にaGvHD、さらに特定するならばステロイド抵抗性aGvHD)、再生不良性貧血、造血幹細胞移植の前および/または最中および/または後に存在する疾患および/または異常および/または病気のうちの少なくとも1つが臨床的に大きく変化するとともに、造血幹細胞移植後の生着を促進させる可能性があると考えられる。いかなる理論にも囚われることを望んでいないとはいえ、現在のところ、ドナーのTリンパ球は腫瘍細胞に対する直接的な反応を引き起こすことができると考えられる。
【0025】
造血幹細胞移植(HCT)は、血液の疾患と悪性腫瘍の標準的な治療法である。
【0026】
いかなる理論にも囚われることを望んでいないとはいえ、現在のところ、本発明の1つ以上の抗体(特にCDina26)を投与することによってドナー細胞の表面でCD26を抑制するか欠乏させると、生着(特に短期間の生着)を促進させるとともに、再集団化(特に競合的再集団化)、二次移植、治療した被験対象(例えばヒトとマウス)の生存を促進させることができると考えられる。さらに、いかなる理論にも囚われることを望んでいないとはいえ、現在のところ、特に本発明の1つ以上の抗体(特にCDina26)を投与することによってホーミングと生着が促進される場合には、造血細胞株譜の回復時間を短縮することができ、その結果として特にhUCB(ヒト臍帯血細胞)移植における生着の失敗がより少なくなるとともに、全生存率が向上すると考えられる。
【0027】
薬として使用するための本発明の抗体、またはこの抗体を治療した治療法により、造血細胞移植後に成功する最高の機会を多くの患者に提供することができる。さらに、CD26抗原に対する本発明の1つ以上の抗体(特にCDina26)は、造血幹細胞移植を受けた患者に、ステロイド抵抗性の急性GvHDの治療と、全生存率と直接に相関する生着向上のうちの少なくとも一方に関して臨床上の大きな恩恵を与えることができる。
【0028】
いかなる理論にも囚われることを望んでいないとはいえ、現在のところ、本発明の1つ以上の抗体(特にCDina26)の投与により、シグナル伝達経路となる膜の糖タンパク質としてのCD26への結合を通じて有利な活性を提供し、造血幹細胞移植後の生着を促進すること、および/または移植片対宿主病と再生不良性貧血の少なくとも一方の予防および/または治療を行なうことができると考えられる。
【0029】
驚くべきことに、発明者らは、上記の問題を解決する1つ以上の抗体、特にCDina26を提供する。
【0030】
1つの特徴によれば、本発明により、CD26糖タンパク質と特異的に結合する抗体が提供される。特に、この抗体は、ヒトCD26、特に幹細胞(特にヒト幹細胞)の表面に存在するヒトCD26および/またはTリンパ球(特にCD16+CD3+TとCD56+CD3+T)に、特に活性化されたTリンパ球(特にCD16+CD3+TとCD56+CD3+T)の表面に発現しているヒトCD26に、特異的に結合することができる。特に断わらない限り、CD26という用語とCD26糖タンパク質という用語は、この明細書では同じ意味で用いる。
【0031】
この抗体は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むことができる。この抗体の重鎖可変領域は、配列番号1に示した配列を含むことができる。この抗体の軽鎖可変領域は、配列番号2に示した配列、または配列番号3に示した配列、または配列番号2に示した配列と配列番号3に示した配列の両方を含むことができる。重鎖可変領域は、配列番号1に示した配列を含有するCDR3を含むことができる。軽鎖可変領域は、配列番号3に示した配列、または配列番号2に示した配列、または配列番号2に示した配列と配列番号3に示した配列の両方を含有するCDR3を含むことができる。配列番号1に示した配列を含む重鎖可変領域、特に配列番号1に示した配列を含有するCDR3を含む重鎖可変領域は、CDR1とCDR2をさらに含むことができる。ただし重鎖可変領域のCDR1と重鎖可変領域のCDR2のアミノ酸配列は、ジェノバ(イタリア国)のCBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列であり、CBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体のこの重鎖可変領域は、配列番号1、特に配列番号1を含有するCDR3を含んでいる。配列番号2に示した配列を含む軽鎖可変領域、特に配列番号2に示した配列を含有するCDR3を含む軽鎖可変領域は、CDR1とCDR2をさらに含むことができる。ただし軽鎖可変領域のCDR1と軽鎖可変領域のCDR2のアミノ酸配列は、CBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列であり、CBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体のこの軽鎖可変領域は、配列番号2、特に配列番号2を含有するCDR3を含んでいる。配列番号3に示した配列を含む軽鎖可変領域、特に配列番号3に示した配列を含有するCDR3を含む軽鎖可変領域は、CDR1とCDR2をさらに含むことができる。ただし軽鎖可変領域のCDR1と軽鎖可変領域のCDR2のアミノ酸配列は、CBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列であり、CBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体のこの軽鎖可変領域は、配列番号3、特に配列番号3を含有するCDR3を含んでいる。特に、軽鎖可変領域のCDR1とCDR2として、CBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の軽鎖可変領域のCDR1とCDR2が可能であり、重鎖可変領域のCDR1とCDR2として、CBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の重鎖可変領域のCDR1とCDR2が可能である。
【0032】
それに加え、またはその代わりに、CD26に特異的に結合できる抗体は、CDR3を含有する重鎖可変領域(配列番号1)とCDR3を含有する軽鎖可変領域(配列番号2および/または3)を含むことができる。ただし重鎖可変領域のCDR3のアミノ酸配列は、ジェノバ(イタリア国)のCBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列であり、軽鎖可変領域のCDR3のアミノ酸配列は、PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列である。特に、CD26に特異的に結合できる抗体は、この重鎖可変領域を含有する重鎖と、この軽鎖可変領域を含有する軽鎖を含むことができる。上記のCDR3配列を図2aに掲載する。
【0033】
それに加え、またはその代わりに、CD26に特異的に結合できる抗体は、CDR1、CDR2、CDR3を含有する重鎖可変領域と、CDR1、CDR2、CDR3を含有する軽鎖可変領域を含むことができる。ただし重鎖可変領域のCDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、ジェノバ(イタリア国)のCBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列であり、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列である。特に、CD26に特異的に結合できるこの抗体は、この重鎖可変領域を含有する重鎖と、この軽鎖可変領域を含有する軽鎖を含むことができる。上記のCDR1、CDR2、CDR3の配列を図2bに掲載する。
【0034】
それに加え、またはその代わりに、CD26に特異的に結合できる抗体は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むことができる。ただし重鎖可変領域のアミノ酸配列は、ジェノバ(イタリア国)のCBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列であり、軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列である。特に、CD26に特異的に結合できる抗体は、この重鎖可変領域を含有する重鎖と、この軽鎖可変領域を含有する軽鎖を含むことができる。特に、重鎖のアミノ酸配列として、PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の重鎖のアミノ酸配列、および/またはPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の軽鎖のアミノ酸配列が可能である。特に、CD26に特異的に結合できる抗体は、PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体と同じ重鎖配列および同じ軽鎖配列を含むことができる。
【0035】
それに加え、またはその代わりに、CD26に特異的に結合できる抗体は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むことができる。ただし重鎖可変領域のアミノ酸配列は、ジェノバ(イタリア国)のCBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列であり、軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列である。特別な一実施態様では、本発明の抗体は、配列番号26を含有する重鎖可変領域と、配列番号4および/または配列番号5を含有する軽鎖可変領域を含むことができる。特に、CD26に特異的に結合できる抗体は、この重鎖可変領域を含有する重鎖と、この軽鎖可変領域を含有する軽鎖を含むことができる。特に、重鎖のアミノ酸配列は、PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の重鎖のアミノ酸配列、および/またはPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の軽鎖のアミノ酸配列である。
【0036】
好ましい一実施態様によれば、公開されているヒトCD26配列を参照すると、本発明の抗体は、ヒトCD26配列のアミノ酸位置290〜550の領域に結合することができる。
【0037】
別の一実施態様によれば、本発明の抗体は、ブタCD26には特異的に結合しない。一実施態様によれば、本発明の抗ヒトCD26抗体のエピトープは、ヒトCD26とブタCD26の間の違いに起因する358個のアミノ酸残基のうちの少なくとも1個(例えば1個、2個、3個、4個、5個、またはそれ以上)を含んでいる。したがって本発明のこの実施態様によれば、抗体は、ヒトCD26とブタCD26の間のこのような異なる領域を認識する。
【0038】
本発明の一実施態様によれば、本発明の抗体混合物は、ヒトCD26に特異的に結合しない抗体を含んでいない。
【0039】
それに加え、またはその代わりに、CD26に特異的に結合できる抗体は、ABR1、ABR2、ABR3を含有する重鎖可変領域と、ABR1、ABR2、ABR3を含有する軽鎖可変領域を含むことができる。ただし重鎖可変領域のABR1、ABR2、ABR3のアミノ酸配列は、ジェノバ(イタリア国)のCBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列であり、軽鎖可変領域のABR1、ABR2、ABR3のアミノ酸配列は、PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列である。ABR1、ABR2、ABR3の配列を図2cに掲載する。
【0040】
本発明の一実施態様によれば、以下の抗原結合領域(ABR)が、本発明の抗体に存在している:
アミノ酸配列:SSVSYMN(配列番号135)を含むABR1(軽鎖)、
アミノ酸配列:LWIYSTSNLAS(配列番号136)を含むABR2(軽鎖)、
アミノ酸配列:QQRSSYPN(配列番号137)を含むABR3(軽鎖)、
(ただしABR3は配列番号2に含まれることが好ましい)
または、
アミノ酸配列:ENVVTYVS(ABR1*)(配列番号138)を含むABR1(軽鎖)、
アミノ酸配列:LLIYGASNRYT(ABR2*)(配列番号139)を含むABR2(軽鎖)、
アミノ酸配列:GQGYSYPY(ABR3*)(配列番号140)を含むABR3(軽鎖)、
(ただしABR3は配列番号3に含まれることが好ましい)。
【0041】
本発明のさらに別の一実施態様によれば、配列ABR1〜ABR3または配列ABR1*〜ABR3*は、本発明の抗体の中に以下の抗原結合領域(ABR)とともに存在している:
アミノ酸配列:YTFRSYDIN(ABR1h)(配列番号141)を含むABR1(重鎖)、
アミノ酸配列:WIGWIFPGDGSTKY(ABR2h)(配列番号142)を含むABR2(重鎖)、
アミノ酸配列:RWTVVGPGYFDV(ABR3h)(配列番号143)を含むABR3(重鎖)、
(ただしABR3(重鎖)は配列番号1に含まれることが好ましい)。
【0042】
一実施態様によれば、ABRは、Kunik V.、Peters B.、Ofran Y.(2012年)「抗体間の構造コンセンサスが抗原結合部位を決定する」、PLos Comput. Biol.、第8巻(2):e1002388.doi:10.1371/journal.pcbi.1002388;編者:Brian Baker、ノートルダム大学、アメリカ合衆国;2012年2月23日公開;に発表された“パラトーム・ツール”に従って決定される;http://ofranserivices.biu.ac.il/site/seruvices/paratome/index.htmlも参照のこと。上記のVH/VL ABR配列を図2bに掲載する。
【0043】
本出願の文脈で用いる“抗体”という用語には、抗体分子全体、完全長の免疫グロブリン分子(特に天然の完全長の免疫グロブリン分子、または免疫グロブリン遺伝子フラグメント組み換えプロセスによって形成された完全長の免疫グロブリン分子)のほか、抗体フラグメントを含めることができる。抗体フラグメントとして、特に、少なくとも1種類の抗体-抗原結合部位を含む抗体フラグメントが可能である。特に、抗体フラグメントは、例えば幹細胞(特にヒト幹細胞)の表面に存在する可能性がある、および/またはTリンパ球(特にCD16+CD3+Tという部分集合と、CD56+CD3+Tという部分集合)の表面(特に活性化されたTリンパ球の表面)に発現している可能性があるCD26(特にヒトCD26)に特異的に結合することができる。さらに、本出願の文脈で用いる“抗体”という用語には、特に、幹細胞の表面に存在する可能性がある、および/またはTリンパ球の表面(特に活性化されたTリンパ球の表面)に発現している可能性があるCD26(特にヒトCD26)に特異的に結合する融合タンパク質を含めることができる。抗体-抗原結合部位として、特に、少なくとも1つのCDR配列を含む抗体の抗原結合部位が可能である。
【0044】
“抗体”という用語には、例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、組み換え抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体を含めることができる。さらに、“抗体”という用語には、組み換え発現させた抗原結合タンパク質と、抗原に結合する合成ペプチドも含めることができる。特に、“抗体”という用語には、例えばミニ抗体、二重特異性抗体を含めることができる。そのどれもがCD26に特異的に結合できることが好ましい。さらに、この明細書では、“抗体”という用語に、生体内で産生された免疫グロブリンと、インビトロで(特にハイブリドーマによって)産生させた免疫グロブリンを含めることができる。さらに、“抗体混合物”または“少なくとも1種類の抗体”という用語には、抗体混合物を含めることができる。“抗体混合物”という用語には、特に、特に本発明の少なくとも1種類の抗体を含んでいてCD26(特にヒトCD26)に特異的に結合する2つ以上の抗体を含む混合物、またはそれら抗体からなる混合物が含まれる。混合物の中に存在するその2つ以上の抗体として、異なる2つ以上の抗体(例えばアミノ酸配列が同じでない2つ以上の抗体)が可能である。特に、互いに異なる抗体の一方の抗体として、他方の抗体のアミノ酸配列と比べて少なくとも1個のアミノ酸残基が欠失しているか、挿入されているか、異なるアミノ酸残基で置換されたアミノ酸配列を有する抗体が可能である。本発明の特に有用な抗体混合物は、PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体を含むか、その抗体からなる、あるいはPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体のうちの少なくとも1つを含む。
【0045】
本発明の抗体として、組み換えによって作製した抗体が可能である。本発明の抗体として、モノクローナル抗体および/またはマウス抗体(特にマウス・モノクローナル抗体)が可能である。上述のように、本発明の少なくとも1種類の抗体として、本発明の少なくとも1種類の抗体を含む抗体混合物、特にPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体CDina26を含むかその抗体からなる抗体混合物が可能である。
【0046】
“モノクローナル抗体”という用語は、高度に特異的な認識と、単一の抗原決定基すなわちエピトープの結合とに関与する実質的に均一な抗体集団を意味する。これは、異なる抗原決定基に向かう抗体を一般に含んでいるポリクローナル抗体とは対照的である。“モノクローナル抗体”という用語には、元のままで完全長のモノクローナル抗体と、抗体フラグメント(例えばFab、Fab’、F(ab’)2、Fv)、一本鎖(scFv)突然変異体、抗体の一部を含む融合タンパク質、抗原認識部位を含む他の任意の修飾された免疫グロブリン分子が含まれる。さらに、“モノクローナル抗体”は、ハイブリドーマ、ファージ選択、組み換え発現、トランスジェニック動物などの多数ある方法で作製された抗体を意味する。
【0047】
“ヒト化抗体”という用語は、非ヒト(例えばマウス)抗体のさまざまな形態を意味し、それは、特異的免疫グロブリン鎖、キメラ免疫グロブリン、またはこれらのフラグメントで、最小限の非ヒト(例えばマウス)配列を含んでいるものである。典型的には、ヒト化抗体は、相補性決定領域(CDR)からの残基が、非ヒト種(例えばマウス、ラット、ウサギ、ハムスター)のCDRに由来していて望む特異性、アフィニティ、能力を有する残基で置換されたヒト免疫グロブリンである(Jones他、1986年、Nature、第321巻:522〜525ページ;Riechmann他、1988年、Nature、第332巻:323〜327ページ;Verhoeyen他、1988年、Science、第239巻:1534〜1536ページ)。いくつかの場合には、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)の残基が、非ヒト種に由来していて望む特異性、アフィニティ、能力を有する抗体中の対応する残基で置換されている。ヒト化抗体は、Fvフレームワーク領域および/または置換された非ヒト残基の中の別の残基を置換してさらに修飾することにより、抗体の特異性および/またはアフィニティおよび/または能力を洗練させ、最適化することができる。一般に、ヒト化抗体は、非ヒト免疫グロブリンに対応するCDR領域のすべてまたは実質的にすべてを含む少なくとも1つの可変領域、典型的には2つまたは3つの可変領域の実質的にすべてを含むことになるのに対し、FR領域のすべてまたは実質的にすべては、ヒト免疫グロブリンのコンセンサス配列のFr領域である。ヒト化抗体には、免疫グロブリンの定常領域または定常ドメイン(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部も含めることができる。
【0048】
“キメラ抗体”という用語は、免疫グロブリン分子のアミノ酸配列が2つ以上の種に由来する抗体を意味する。典型的には、軽鎖と重鎖両方の可変領域は、60種類の哺乳動物(例えばマウス、ラット、ウサギなど)のうちの1つの種に由来していて望む特異性、アフィニティ、能力を有する抗体の可変領域に対応するのに対し、定常領域は、別の哺乳動物(通常はヒト)に由来する配列と一致していてこれらの種における免疫応答の誘発が回避される。典型的には、キメラ抗体は、主にヒト・ドメインを有する抗体を作製するために齧歯類の可変領域(VHとVL)とヒトの定常領域を利用している。このようなキメラ抗体の作製法は周知であり、標準的な手段によって実現できる。ヒトの定常領域の配列は、当業者にとって明らかであろう、および/または公開データベース(例えば国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)、アメリカ合衆国国立医学図書館)で入手できる。
【0049】
“抗体フラグメント”という用語は、フラグメント(例えばF(ab’)2、Fab、F(ab)2、Fab’、Fv、dAb、scFv、重鎖可変領域CDR1、重鎖可変領域CDR2、重鎖可変領域CDR3、軽鎖可変領域CDR1、軽鎖可変領域CDR2、軽鎖可変領域CDR3、一本鎖可変フラグメント(scFv)、VH、VLなど)を意味する。これらはすべて、CD26(特にヒトCD26)に特異的に結合できることが好ましい。“抗体フラグメント”は、抗体全体または完全長の抗体によって認識されるのと同じ抗原に特異的に結合することができる。“抗体フラグメント”として、特に、完全な抗体の一部が可能である。
【0050】
特定のエピトープを認識する抗体フラグメント、特にCD26に特異的に結合する抗体フラグメントは、当業者が公知の技術を適用して生成させることができる。抗体のフラグメント、特にCD26(特にヒトCD26)に特異的に結合できる抗体のフラグメント(例えばPD 12002ハイブリドーマ寄託物によって産生される1つ以上の抗CD26抗体CDina26のフラグメント)は、例えばその抗体を酵素で処理することによって抗体フラグメントを得ることで調製できる。さらに、抗体フラグメントは、そのフラグメントをコードしているDNAを宿主(例えば大腸菌、枯草菌、P.パストリス、K.ラクチス)の中で発現させることによって産生させることができる。抗体フラグメントは、例えば完全長抗体のタンパク質加水分解によって調製することができる。抗体フラグメントを得るための酵素、特にタンパク質分解酵素は当業者に知られており、例えばパパイン、ペプシン、プラスミンなどが挙げられるが、これらに限定されない。特に、抗体フラグメントは、当業者に知られている手続き(例えばアメリカ合衆国特許出願公開2010/0196266 A1に記載されている手続き)を適用して例えば完全長抗体をパパインまたはペプシンで消化させることによって調製できる。このような手続きは、例えばGoldenbergのアメリカ合衆国特許第4,036,945号および第4,331,647号と、その中で引用されている文献に記載されている。抗体フラグメントを調製する手続きは公知であり、例えばNisonoff他、Arch. Biochem. Biophys.、第89巻:230ページ(1960年);Porter、Biochem. J.、第73巻:119ページ(1959年);Edelman、『酵素学における方法』、第1巻、422ページ(Academin Press社、1967年);Coligan他、『免疫学における現在のプロトコル』、第1巻(John Wiley & Sons社、1991年)、2.8.1〜2.8.10ページと2.10〜2.10.4ページに記載されている。
【0051】
この明細書では、“重鎖”という用語に完全長の重鎖とそのフラグメントが含まれ、これらはCD26(特にヒトCD26)に特異的に結合できることが好ましい。完全長の重鎖は、重鎖可変領域VHと、3つの領域CH1、CH2、CH3を含むことができる。
【0052】
この明細書では、“軽鎖”という用語は、特に、完全長の軽鎖とそのフラグメントを意味し、これらはCD26(特にヒトCD26)に特異的に結合できることが好ましい。完全長の軽鎖は、軽鎖可変領域VLと、軽鎖定常領域CLを含むことができる。
【0053】
この明細書では、抗体の“可変領域”という用語は、抗体軽鎖の可変領域、または抗体重鎖の可変領域、またはこれら可変領域の組み合わせを意味することができる。軽鎖と重鎖の可変領域は、それぞれ、3つの相補性決定領域(CDR)によって接続された4つのフレームワーク領域(FR)を含むことができる。CDRの位置に関して2つの定義が現在用いられている。第1は、Kabatらの“配列可変性”という定義である(『免疫学的に興味深いタンパク質の配列』、第4版、ワシントンD.C.、公衆衛生局、N.I.H.。その内容が参考としてこの明細書に組み込まれている)。好ましい一実施態様によれば、Kabatらの定義を本出願で使用する。あるいはCDR領域は、ChothiaとLeskの構造可変性という定義を用いて定義することもできる(Chothia他、J. Mol. Biol.、1987年、第196巻(4):901〜917ページ。その内容が参考としてこの明細書に組み込まれている)。
【0054】
この明細書では、抗体の“定常領域”という用語は、抗体軽鎖の定常領域、または抗体重鎖の定常領域、またはこれら定常領域の組み合わせを意味する。
【0055】
抗体(特にヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体)とそのフラグメントを作製するには、例えばアメリカ合衆国特許出願公開2010/0196266 A1(その内容が参考としてこの明細書に組み込まれている)に開示されている任意の方法を利用できる。
【0056】
抗体フラグメントはいくつかの方法で作製することができる。例えばアメリカ合衆国特許出願公開2010/0196266 A1に記載されている以下の方法が挙げられるが、方法がそれに限定されることはない。
【0057】
F(ab’)2フラグメントは、抗体分子をペプシンで消化させることによって生成させることができる。Fab’フラグメントは、例えば、F(ab’)2フラグメントのジスルフィド結合を還元することによって得られる。あるいはFab’発現ライブラリを例えばHuseら(Science、1989年、第246巻:1274〜1281ページ)に記載されているようにして構成することができる。Fab’発現ライブラリにより、興味の対象としている特異性を有するモノクローナルFab’フラグメント(特にCD26に結合するフラグメント)を同定することができる。
【0058】
F(ab)2フラグメントは、抗体をパパインで消化させることによって作製することができる。Fabフラグメントは、ジスルフィドの還元によって得ることができる。“Fabフラグメント”は、特に、1つの軽鎖と、1つの重鎖のCH1および可変領域とからなるフラグメントである。Fab分子の重鎖は、ジスルフィド結合を通じて他の重鎖分子に結合することはできない。
【0059】
さらに、抗体フラグメントは、単一の可変領域であってもよいし、単一の相補性決定領域(CDR)からなるペプチド、または単一のCDRを含むペプチドであってもよい。
【0060】
さらに、本発明の抗体として二重特異性抗体が可能である。この明細書では、“二重特異性抗体”は、特に、2つの抗原結合部位を有する小さな抗体フラグメントを表わすことができる。このフラグメントは、同じポリペプチド鎖(VH-VL)の中に軽鎖可変領域(VL)に接続された重鎖可変領域(VH)を含んでいる。特に断わらない限り、可変ドメインと可変領域という用語は、この明細書では同じ意味で用いる。二重特異性抗体とその作製技術は、例えばEP 404 097;WO 93/11161;Hollinger他、1993年、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第90巻:6444〜6448ページに記載されている。
【0061】
さらに、本発明の抗体として、一本鎖Fv分子が可能である。一本鎖Fv分子(略号はscFv)はVLドメインとVHドメインを含んでおり、それらが合わさって、特にCD26のための1つの結合部位を形成することができる。これら2つのドメインは、ペプチド・リンカー(例えば1〜25個のアミノ酸残基を含むペプチド)によってさらに共有結合している。特に断わらない限り、VLドメインとVL領域という用語は、この明細書では同じ意味で用いる。さらに、特に断わらない限り、VHドメインとVH領域という用語は、この明細書では同じ意味で用いる。scFv分子を得る方法は、例えば、アメリカ合衆国特許第4,704,692号、第4,946,778号;R. RaagとM. Whitlow、「一本鎖Fvs」、FASEB、第9巻:73〜80ページ(1995年);R.E. BirdとB.W. Walker、「一本鎖抗体可変領域」、TIBTECH、第9巻:132〜137ページ(1991年)に記載されている。
【0062】
さらに、この明細書では、抗体という用語に、単一ドメインの抗体も含まれる。単一ドメインの抗体(DAB)を調製する方法は当業者に知られており、例えばCossins他(2006年、Prot. Express. Purif.、第51巻:253〜259ページ)に記載されている(その内容が参考としてこの明細書に組み込まれている)。
【0063】
一実施態様によれば、本発明の抗体またはそのフラグメントは、少なくとも1つの重鎖CDR3と、少なくとも1つの軽鎖CDR3を含むことができる。特に、本発明の抗体またはそのフラグメントは、配列番号1に示した配列を含むとともに、配列番号2と3に示した配列のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0064】
抗体フラグメントは、少なくとも4個のアミノ酸、少なくとも5個のアミノ酸、少なくとも7個のアミノ酸、少なくとも9個のアミノ酸、少なくとも15個のアミノ酸を含むこと、その中でも特に15個のアミノ酸を含むことができる。本発明の抗体フラグメントはサイズの上限が任意であり、例えばその抗体フラグメントを得る元になる完全長の抗体よりもアミノ酸が1個だけ少なくなるようにすることができる。
【0065】
本発明の抗体として、CD26(特にヒトCD26)に結合できる二重特異性抗体が可能である。二重特異性抗体は、いくつかの方法で作製することができる。例えばハイブリドーマの融合、またはFab’フラグメントの連結などの方法がある。このような方法は、例えばSongsivilai他、1990年、Clin. Exp. Immunol.、第79巻:315〜321ページ;Kostelny他、1992年、J. Immunol.、第148巻:1547〜1553ページに記載されている。
【0066】
一実施態様によれば、本発明の抗体としてモノクローナル抗体が可能である。標的抗原に対するモノクローナルを調製する方法は公知であり、例えばColigan他(編)、『免疫学における現在のプロトコル』、第1巻、2.5.1〜2.6.7ページ(John Wiley & Sons社、1991年);KohlerとMilstein、Nature、第256巻:495ページ(1975年);アメリカ合衆国特許出願公開2010/0196266 A1に記載されている。モノクローナル抗体は、例えば、当業者に知られている方法(例えばアメリカ合衆国特許出願公開2010/0196266 A1に開示されている方法)で得ることができる。モノクローナル抗体は、特に、以下のステップのうちの1つ以上、好ましくはすべてを含む方法で得られる:抗原を含む組成物を哺乳動物(例えばマウス)に注射するステップ、注射したその哺乳動物から脾臓を取り出してBリンパ球を得るステップ、このようにして得られたBリンパ球を骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを作製するステップ、ハイブリドーマをクローニングするステップ;抗原に対する抗体を産生する少なくとも1つの陽性クローンを選択するステップ、抗体を産生するその少なくとも1つのクローンを培養するステップ、ハイブリドーマ培養物から抗体を単離するステップ。
【0067】
MAb(モノクローナル抗体)は、ハイブリドーマ培地から、例えばアメリカ合衆国特許出願公開2010/0196266 A1に開示されている公知の手続きを利用して単離し、精製することができる。サイズ排除クロマトグラフィ、アフィニティ・クロマトグラフィ(特にプロテインAセファロースを用いる)、イオン交換クロマトグラフィからなるグループから選択した1種類以上の単離および/または精製の手続きを適用することができる。抗体のための単離技術および/または精製技術は、例えば『分子生物学における方法』、第10巻の中のBaines他、「免疫グロブリンG(IgG)の精製」、79〜104ページ(HumanaPress社、1992年)と、Coligan他、上記文献、2.7.1〜2.7.12ページと2.9.1〜2.9.3ページに開示されている。
【0068】
“モノクローナル抗体”という用語は、特に、実質的に一様な抗体の集団から得られた抗体を記述することができる。この集団の個々の抗体は、自然に起こる可能性があって少量が存在する可能性のある突然変異を除いて同じである。
【0069】
免疫原に対する抗体を最初に生成させた後(特にCD26に特異的に結合できる抗体を最初に生成させた後)、それら抗体の配列を求め、次いで組み換え技術を利用してそれら抗体を作製することができる。非ヒト哺乳動物(例えばマウス)の抗体のヒト化とキメラ化は、当業者には周知である。
【0070】
本発明の抗体として、ヒト化抗体、特にヒト化モノクローナル抗体が可能である。“ヒト化抗体”という用語には、特に、組み換えDNA技術によって作製した抗体を含めることができる。この技術では、ヒト免疫グロブリンの軽鎖または重鎖のアミノ酸のうちで抗原の結合に必要とされないいくつかまたはすべてのアミノ酸(例えば定常領域と可変ドメインのフレームワーク領域のアミノ酸のいくつかまたはすべて)を用い、非ヒト哺乳動物(例えばマウス)の抗体の軽鎖または重鎖からの対応するアミノ酸と置換する。ヒト化モノクローナル抗体の作製方法は公知であり、例えば以下の刊行物:Jones他、Nature、第321巻:522ページ(1988年)、Carter他、Proc. Nat’l. Acad. Sci. USA、第89巻:4285ページ(1992年)、Riechmann他、Nature、第332巻:323ページ(1988年)、Verhoeyen他、Science、第239巻:1534ページ(1988年)、Sandhu、Crit. Rev. Biotech.、第12巻:437ページ(1992年)、Singer他、J. Immun.、第150巻:2844ページ(1993年)に記載されている。抗体(例えばキメラ・モノクローナル抗体、または非ヒト哺乳動物(例えばマウス)モノクローナル抗体、特に本発明のキメラ・モノクローナル抗体、または非ヒト哺乳動物(例えばマウス)モノクローナル抗体)は、例えばアメリカ合衆国特許出願公開2010/0196266 A1に記載されているように、非ヒト哺乳動物の免疫グロブリン(例えばマウスの免疫グロブリン)の軽鎖可変領域と重鎖可変領域からの非ヒト哺乳動物(例えばマウス)のCDRをヒト抗体の対応する可変ドメインに移すことによってヒト化できる。キメラ・モノクローナル抗体の中の非ヒト哺乳動物のフレームワーク領域(FR)(例えばマウスのフレームワーク領域(FR))は、ヒトFR配列で置換することもできる。例えばCD26に対する非ヒト哺乳動物(例えばマウス)抗体のヒト化版である本発明の抗体は、重鎖と軽鎖の両方に、ヒト抗体の定常領域、および/またはヒト抗体の可変ドメインからのフレームワーク領域、および/または非ヒト哺乳動物(例えばマウス)抗体からのCDRを持つことができる。
【0071】
ヒト化抗体の抗体親和性を向上させるため(特にCD26への結合可能性を向上させるため)、例えばアメリカ合衆国特許出願公開2010/0196266 A1に記載されている追加の修飾ステップを実施することができる。特に、抗原に対するヒト化抗体の結合親和性の維持または向上を目的として、ヒトFR領域の中の1個以上のアミノ酸残基を、非ヒト(特にマウス)抗体の中の対応する位置に存在するアミノ酸残基で置換することができる。当業者が適用できる方法が、例えば、Tempest他、Biotechnology、第9巻:266ページ(1991年)とVerhoeyen他、Science、第239巻:1534ページ(1988年)に記載されている。例えばヒトFR(フレームワーク領域)のアミノ酸残基であって、非ヒト哺乳動物の対応部(例えばマウスの対応部)とは異なっていて、しかもCDRの1つ以上のアミノ酸残基の近傍に位置するか、そのアミノ酸残基に直接隣接しているアミノ酸残基が、置換の候補になりうる。
【0072】
本発明の抗体としてヒト抗体が可能である。“ヒト抗体”という用語には、特に、ヒトによって産生される抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を持つ抗体、および/またはヒト抗体の作製に関する公知の技術を用いて作製された抗体を含めることができる。特に、“ヒト抗体”という用語には、少なくとも1つのヒト重鎖ポリペプチド、または少なくとも1つのヒト軽鎖ポリペプチドを含む抗体を含めることができる。
【0073】
本発明の抗体として、特に、完全なヒト抗体が可能である。本出願の文脈では、“完全なヒト抗体”という用語は、特に、ヒト重鎖とヒト軽鎖のポリペプチドを含む抗体を意味する。例えばアメリカ合衆国特許出願公開2010/0196266 A1を見ればわかるように、例えばコンビナトリアル法を利用した、またはヒト免疫グロブリン遺伝子座を用いて形質転換したトランスジェニック動物を利用したヒト抗体、特に完全なヒト抗体の作製方法が、当業者に知られている。このような方法は、例えばConradとScheller、2005年、Comb. Chem. High Throughput Screen.、第8巻:117〜126ページ;Mancini他、2004年、New Microbiol.、第27巻:315〜328ページ;BrekkeとLoset、2003年、Curr. Opin. Pharmacol.、第3巻:544〜550ページに記載されている。完全なヒト抗体は、例えば遺伝子トランスフェクション法または染色体トランスフェクション法を利用して、またはファージ提示技術を利用して得ることもできる。遺伝子トランスフェクション法または染色体トランスフェクション法とファージ提示技術は公知であり、例えばMcCafferty他、1990年、Nature、348巻:552〜553ページに記載されている。特に、ヒト抗体は、内在性免疫グロブリン遺伝子が完全にまたは部分的に不活性化されたトランスジェニック動物(例えばマウス、ヤギ、ウシ)にヒト免疫グロブリン遺伝子座を導入することによっても得られる。このような手続きは、例えばアメリカ合衆国特許第5,545,806号、第5,633,425号、第5,661,016号に記載されている。別の手続きによれば、ヒト抗体は、標的抗原に向かう抗体(特にCD26に対する抗体)を産生するヒトBリンパ球を不死化することによって得られる。このような手続きは公知であり、例えばCole他、『モノクローナル抗体とがんの治療法』、Alan R. Liss、77ページ(1985年);Boerner他、1991年、J. Immunol.、第147巻(I):86〜95ページに記載されている。
【0074】
特に、ファージ提示技術を利用してヒト抗体を作製することができる。この技術は公知であり、例えばDantas-Barbosa他、2005年、Genet. Mol. Res.、第4巻:126〜140ページとアメリカ合衆国特許出願公開2010/0196266 A1に記載されている。ヒト抗体は、正常なヒトから、または特定の疾患状態にあるヒトから生成させることができる(Dantas-Barbosa他、2005年)。この技術により、疾患状態の個人からヒト抗体を構成することができる。
【0075】
Dantas-Barbosa他(2005年、上記文献)に開示されているように、そして例えばアメリカ合衆国特許出願公開2010/0196266 A1で議論されているように、例えば骨肉腫の患者からヒトFab抗体フラグメントのファージ提示ライブラリを構成することができる。特に、循環している血液のリンパ球から全RNAを得ることができる(同文献)。組み換えFabは、μ鎖、γ鎖、κ鎖抗体レパートリーからクローニングし、ファージ提示ライブラリに挿入することができる(同文献)。RNAをcDNAに変換し、そのcDNAから、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の配列に対する特異的プライマを用いてFab cDNAライブラリを得ることができる(Marks他、1991年、J. Mol. Biol.、第222巻:581〜597ページ)。次のステップにおいて、当業者に知られているようにしてライブラリを構成することができる。その方法は、例えばAndris-Widhopf他(2000年)、『ファージ提示の実験室マニュアル』、第1版、Cold Spring Harbor Laboratory Press社、9.1〜9.22ページに記載されている。最終的なFabフラグメントを制限エンドヌクレアーゼで消化させ、バクテリオファージのゲノムの中に挿入することで、ファージ提示ライブラリを作ることができる。最後に、標準的なファージ提示法を利用し、このようにして得られたライブラリをスクリーニングすることができる。この方法は公知であり、例えばPasqualiniとRuoslahti、1996年、Nature、第380巻:364〜366ページ;Pasqualini、1999年、The Quart. J. Nucl. Med.、第43巻:159〜162ページに記載されている。ファージ提示は、例えばJohnsonとChiswell、1993年、Current Opinion in Structural Biology、第3巻:5564〜5571ページからわかるように、いくつかの形態で実施することができる。
【0076】
さらに、ヒト抗体は、インビトロで活性化させたB細胞によって生成させることができる。この手続きは、例えばアメリカ合衆国特許第5,567,610号と第5,229,275号に記載されている(両方とも参考としてこの明細書に組み込まれている)。
【0077】
本発明の抗体としてキメラ抗体が可能である。特に、キメラ抗体として、ヒト抗体の可変領域が非ヒト哺乳動物抗体(例えばマウス抗体またはウサギ抗体)の可変領域(その中には、その非ヒト哺乳動物抗体(例えばマウス抗体またはウサギ抗体)の相補性決定領域(CDR)を含まれる)で置換された組み換えタンパク質が可能である。非ヒト哺乳動物の免疫グロブリンの可変ドメイン(特にマウスの免疫グロブリンの可変ドメイン)をクローニングする手続きは公知であり、例えばOrlandi他、Proc. Nat’l. Acad. Sci. USA、第86巻:3833ページ(1989年)とアメリカ合衆国特許出願公開2010/0196266 A1に記載されている。キメラ抗体を得る方法は当業者に知られており、例えばLeung他、Hybridoma、第13巻:469ページ(1994年)に見ることができる。ここにはLL2キメラの作製が記載されている。
【0078】
本発明の抗体はさらに、望む機能を発揮させるため1つ以上の追加部分を含むことができる。抗体は、特に、1つ以上の毒素部分(例えば破傷風毒素)または放射性核種を含むこと、および/または、単離および/または検出および/または標的化を容易にするための1つ以上の部分(例えばビオチン、蛍光性部分、放射性部分、ヒスチジン・タグ、それ以外のペプチド・タグ)を含むことができる。そのタグは、抗体の結合特異性を変化させないか、実質的に変化させないことが好ましい。
【0079】
“に対する特異性を有する”、“に対する特異的結合を示す”、“に特異的に結合できる”、“に特異的に結合する”という表現は、本出願では同じ意味で用いられ、特に、抗体が、エピトープまたはタンパク質と、別の物質(例えば関係のないタンパク質)より頻繁に、またはより迅速に、またはより長期間にわたって、またはより大きなアフィニティで、またはこれらの何らかの組み合わせで、反応または会合することを意味することができる。一実施態様によれば、“結合する”と“特異的に結合する”は、そして“に結合する抗体”と“に特異的に結合する抗体”は、本発明の文脈では同じ意味で用いることができる。
【0080】
いくつかの実施態様では、この明細書に開示されている抗CD26は、約1×10-3〜1×10-5/秒、好ましくは5×10-3〜5×10-4/秒、より好ましくは8×10-3〜3×10-4/秒、特に約1.32×10-4/秒という動的解離速度(Koff)でヒトCD26に結合する。
【0081】
いくつかの実施態様では、この明細書に開示されている抗CD26は、約5×10-8〜5×10-10 M、好ましくは2×10-9〜1×10-10 M、より好ましくは3×10-9〜7×10-9 M、特に約5.02×10-9 Mという動的解離定数(KD)でヒトCD26に結合する。
【0082】
いくつかの実施態様では、この明細書に開示されている抗CD26は、約5×103〜1×105 1/Ms、好ましくは1×104〜5×104 1/Ms、より好ましくは1.5×104〜3.5×104 1/Ms、特に約2.63×104 1/Msという動的会合定数(Kon)でヒトCD26に結合する。
【0083】
いくつかの実施態様では、この明細書に開示されている抗CD26は、約1nM以下、約3 nM以下、約6 nM以下、約12 nM以下、約30 nM以下、約60 nM以下、約200 nM以下という解離定数でヒトCD26に結合する。
【0084】
いくつかの実施態様では、この明細書に開示されている抗CD26は、約0.1nM〜約10nM、約0.1 nM〜約6 nM、約0.1 nM〜約3 nM、約0.1 nM〜約1nMという解離定数でヒトCD26に結合する。
【0085】
本発明の抗体は、当業者に知られている任意の方法で特異的結合を調べることができる。方法として、Biacore(登録商標)分析、FACS分析、免疫蛍光、イムノサイトケミストリー、ウエスタン・ブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA、“サンドイッチ”イムノアッセイ、免疫沈降アッセイ、沈降反応、免疫拡散アッセイ、凝集アッセイ、補体固定アッセイ、標識抗体測定アッセイ、蛍光イムノアッセイ、プロテインAイムノアッセイなどの技術を利用した競合アッセイ系と非競合アッセイ系が挙げられるが、これらに限定されない。このようなアッセイは、例えばAusubel他編、1994年、『分子生物学における現在のプロトコル』、第1巻、John Wiley & Sons社、ニューヨークと、アメリカ合衆国特許第7,982,013 B2号に記載されている(これらは、参考としてその全体がこの明細書に組み込まれている)。Biacore(登録商標)分析を実施できることが好ましい。
【0086】
ネイティブ抗体は、2つ以上のヘテロ二量体サブユニットで構成することができ、各サブユニットは、1本の重(H)鎖と1本の軽(L)鎖を含んでいる。個々のネイティブ抗体は、1種類のL鎖と1種類のH鎖を持つことができ、それらがジスルフィド結合によって結合されてヘテロ二量体サブユニットを形成する。
【0087】
“ペプチド”という用語は、特に、2個以上のアミノ酸を含む化合物を意味することができる。アミノ酸はペプチド結合によって互いに連結させることができる。ペプチドは、天然のアミノ酸および/または非天然のアミノ酸を含むことができる。特に、ペプチドは、L-アミノ酸および/またはD-アミノ酸を含むことができる。短いペプチド(例えばアミノ酸単位が10個未満のペプチド)は、“オリゴペプチド”と呼ばれることがある。より多く(例えば100個まで、またはそれ以上)のアミノ酸残基を含む他のペプチドは、“ポリペプチド”と呼ぶことができる。この明細書では、“ポリペプチド”という用語は、3個以上のアミノ酸を含むあらゆるペプチドを意味することができる。この明細書では、“ポリペプチド”に言及するとき、その中にオリゴペプチドも含まれ、“ペプチド”に言及するとき、その中にポリペプチド、オリゴペプチド、タンパク質が含まれる。
【0088】
本発明の抗体として任意のクラスの抗体が可能である。特に、本発明の抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA、IgD、IgEからなるグループから選択した抗体アイソタイプを持つことができる。特に、本発明の抗体として、IgG2クラス、特にIgG 2Bクラスが可能である。この明細書では、“アイソタイプ”という用語は、特に、重鎖定常領域遺伝子によってコードされている抗体クラス(例えばIgG)を意味することができる。ヒト免疫グロブリン定常領域の配列は、当業者には明らかであろう、および/または公開データベース(例えば国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)、アメリカ合衆国国立医学図書館)で入手できる。
【0089】
さらに、本発明の抗体はCD26に特異的に結合し、以下の軽鎖可変領域を持つことができる。その軽鎖可変領域とは、PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の軽鎖可変領域のVL CDR1、VL CDR2、VL CDR3いずれかのバリアントを含む軽鎖可変領域である。さらに、本発明の抗体はCD26に特異的に結合し、以下の重鎖可変領域を持つことができる。その重鎖可変領域とは、PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の重鎖可変領域のVH CDR1、VH CDR2、VH CDR3いずれかのバリアントを含む重鎖可変領域である。一実施態様では、バリアントVH CDRまたはVL CDRは、PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の対応するVH CDRまたはVL CDRと少なくとも90%、好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%一致した配列を持つことができる。あるいはバリアントVH CDRまたはVL CDRとして、PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体のVH CDRまたはVL CDRにおいて、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下のアミノ酸残基、より好ましくは1個のアミノ酸残基がそれぞれ欠失しているか、挿入されているか、異なるアミノ酸残基で置換されたものが可能である。一実施態様では、アミノ酸置換は保存的な変更である。一実施態様では、PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体のVH CDRまたはVL CDRを図2bに掲載する。
【0090】
さらに、本発明の抗体はCD26に特異的に結合し、以下の軽鎖可変領域を持つことができる。その軽鎖可変領域とは、配列番号4、5、6〜21のアミノ酸配列、配列番号4のアミノ酸配列のバリアント、配列番号5のアミノ酸配列のバリアントからなるグループから選択したアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域である。さらに、本発明の抗体はCD26に特異的に結合し、以下の軽鎖可変領域を持つことができる。その軽鎖可変領域とは、配列番号6〜21からなるグループから選択したアミノ酸配列のバリアントから選択したアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域である。配列番号4のバリアントは、配列番号4と少なくとも90%、好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%一致した配列を持つことができる。配列番号5のバリアントは、配列番号5と少なくとも90%、好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%一致した配列を持つことができる。配列番号6〜21からなるグループから選択したアミノ酸配列のバリアントは、配列番号6〜21からなるグループから選択したアミノ酸配列と少なくとも90%、好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%一致した配列を持つことができる。あるいは配列番号4、5、6〜21からなるグループから選択したアミノ酸配列のバリアントとして、配列番号4、5、6〜21からなるグループから選択したアミノ酸配列において、8個以下、好ましくは5個以下、より好ましくは1個のアミノ酸残基がそれぞれ欠失しているか、挿入されているか、異なるアミノ酸残基で置換されているアミノ酸配列が可能である。一実施態様では、アミノ酸置換は保存的な変更である。特に、本発明の抗CD26抗体として、軽鎖可変領域が、図3に示したように、配列番号4〜21からなるグループから選択したアミノ酸配列、またはそのバリアントを含むか、そのアミノ酸配列またはそのバリアントからなることが可能な抗体が可能である。さらに、本発明の抗体はCD26に特異的に結合し、以下の軽鎖可変領域を持つことができる。その軽鎖可変領域とは、配列番号4または5のアミノ酸残基8〜104を含む軽鎖可変領域である。
【0091】
“保存的なアミノ酸の変更”は、1個のアミノ酸残基が、似た側鎖を有する別のアミノ酸残基で置換される変更である。この用語は、“保存的アミノ酸置換”または“保存的アミノ酸バリエーション”と同じ意味で用いられる。似た側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは公知であり、例えばアメリカ合衆国特許第7,982,013 B2号の特に22列で議論されているように、塩基性側鎖、酸性側鎖、非帯電極性側鎖、非極性側鎖、β分岐側鎖、方向族側鎖などがある。例えばフェニルアラニンをチロシンで置換するのは保存的置換である。保存的置換の後に得られる抗体は、CD26(特にヒトCD26)に特異的に結合することが好ましい。抗原の結合を排除しないヌクレオチドとアミノ酸の保存的置換を同定する方法は公知である(例えばBrummell他、Biochem.、第32巻:1180〜1187ページ(1993年);Kobayashi他、Protein Eng.、第12巻(10):879〜884ページ(1999年);Burks他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第94巻:412〜417ページ(1997年)を参照のこと)。
【0092】
一実施態様によれば、1つ以上のCDR配列を含むアミノ酸配列のバリアントにおいて、すべてのCDR配列、または少なくともすべてのCDR3配列が、変化せずに残ることができる。特に、配列番号1、2、3に示した1つ以上のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列のバリアントにおいて、配列番号1、2、3に示したその1つ以上のアミノ酸配列が、変化せずに残ることができる。一実施態様によれば、1つ以上のCDR配列をコードしている区画を含むヌクレオチド配列のバリアントにおいて、CDR配列をコードしているすべての区画、または少なくともCDR3配列をコードしているヌクレオチド配列のすべての区画が、変化せずに残ることができる。特に、配列番号1、2、3に示した1つ以上の配列をコードしている1つ以上の配列を含むヌクレオチド配列のバリアントにおいて、少なくとも配列番号1、2、3の1つ以上をコードしているヌクレオチド配列の区画が、変化せずに残ることができる。一実施態様によれば、配列番号4〜21からなるグループから選択したアミノ酸配列のバリアントを含む抗体において、軽鎖可変領域は、配列番号4または5のアミノ酸残基8〜104を含むことができる、および/または配列番号22〜47からなるグループから選択したアミノ酸配列のバリアントを含む抗体において、重鎖可変領域は、配列番号26のアミノ酸残基7〜112を含むことができる。
【0093】
この明細書に示したポリペプチド配列に関する“アミノ酸配列一致率(%)”は、比較すべき興味の対象である候補配列とこの明細書に示した特定のポリペプチド配列(例えば配列リストの中の配列番号によって特徴づけられる特定のポリペプチド配列)のアラインメントを作り、必要な場合には配列一致率を最大にするためにギャップを導入した後、配列一致の一部としていかなる保存的置換も考慮しないときの、比較すべき興味の対象である候補配列に含まれていて、この明細書に示した特定のポリペプチド配列の中のアミノ酸残基と一致するアミノ酸残基の割合と定義される。アミノ酸配列一致率を求めるために実施する配列アラインメントは、例えば欧州特許第1 241 179 B1号(特に、その中で用いられている定義が記載された9ページ35行目〜10ページ40行目と、可能な保存的置換に関する表1を含め、その内容が、参考として本明細書に組み込まれている)に記載されている公知の手続きに従って実行することができる。例えば当業者は、公開されている入手可能なコンピュータ・ソフトウエアを使用することができる。配列一致を求めるためのコンピュータ・プログラム法として、BLAST、BLAST-2、ALIGN、Megalign(DNASTAR)というソフトウエアが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい一実施態様によれば、アラインメントに用いるソフトウエア・プログラムとしてBLASTが可能である。当業者であれば、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定できる。その中には、比較する配列の全長にわたって最大のアラインメントを実現するのに必要なあらゆるアルゴリズムが含まれる。好ましい一実施態様によれば、一致%の値は、例えば欧州特許第1 241 179 B1号に記載されているように、WU-BLAST-2コンピュータ・プログラムを用いて生成させることができる(Altschul他、1996年、Methods in Enzymology、第266巻:460〜480ページ。その内容が参考としてこの明細書に組み込まれている)。好ましい一実施態様によれば、WU-BLAST-2コンピュータ・プログラムを実行するときには以下のパラメータを使用する。WU-BLAST-2検索パラメータの大半はデフォルト値に設定した。調節可能なパラメータは以下の値に設定した:重複のスパン=1、重複の割合=0.125、単語の閾値(T)=11、スコアリング・マトリックス=BLOSUM62。BLAST-2で使用するダイナミックな値であるHSP SパラメータとHSP S2パラメータは、興味の対象となる配列の組成と、その配列を検索するデータベースの構成に応じ、プログラムそのものによって決める。しかし値を調節して感度を大きくすることができる。配列一致%の値は、(a)比較の対象となるこの明細書に示した特定のアミノ酸配列(例えば配列リストの中の配列番号によって特徴づけられる特定のポリペプチド配列)と、比較する興味の対象である候補アミノ酸配列との間で一致するアミノ酸残基の数(例えばWU-BLAST-2によって求まる一致するアミノ酸残基の数)を、(b)比較の対象となるこの明細書に示したポリペプチド配列(例えば配列リストの中の配列番号によって特徴づけられる特定のポリペプチド配列)のアミノ酸残基の総数で割って求めることができる。
【0094】
この明細書に示した核酸配列に関する“核酸配列一致率(%)”は、比較すべき興味の対象である候補配列とこの明細書に示した特定の核酸配列(例えば配列リストの中の配列番号によって特徴づけられる特定の核酸配列)のアラインメントを作り、必要な場合には配列一致率を最大にするためにギャップを導入した後の、比較すべき興味の対象である候補配列に含まれていて、この明細書に示した特定の核酸配列の中のヌクレオチドと一致するヌクレオチドの割合と定義される。核酸配列一致率を求めるためのアラインメントは、例えば欧州特許第1 241 179 B1号に記載されている公知の手続きに従って実行することができる。例えば当業者は、公開されている入手可能なコンピュータ・ソフトウエアを使用すること、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、Megalign(DNASTAR)というソフトウエアを使用することができる。当業者であれば、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定できる。その中には、比較する配列の全長にわたって最大のアラインメントを実現するのに必要なあらゆるアルゴリズムが含まれる。好ましい一実施態様によれば、一致%の値は、例えば欧州特許第1 241 179 B1号に記載されているように、WU-BLAST-2コンピュータ・プログラムを用いて生成させることができる。好ましい一実施態様によれば、以下のコンピュータ・プログラムとパラメータを使用する。この明細書で用いる一致値は、デフォルト・パラメータに設定されていて重複のスパンと重複の割合がそれぞれ1と0.125であるWU-BLAST-2のBLASTNモジュールによって生成される。核酸配列一致%の値は、(a)比較の対象となるこの明細書に示した特定の核酸配列(例えば配列リストの中の配列番号によって特徴づけられる特定の核酸配列)と、比較する興味の対象である候補核酸配列との間で一致するヌクレオチドの数(例えばWU-BLAST-2によって求まる一致するヌクレオチドの数)を、(b)比較の対象となるこの明細書に示した特定の核酸配列(例えば配列リストの中の配列番号によって特徴づけられる特定の核酸配列)のヌクレオチド残基の総数で割って求めることができる。
【0095】
特に、配列一致は、配列番号1〜49のうちの1つに示された個々のアミノ酸配列の全長について、または配列番号50〜128のうちの1つに示された個々のヌクレオチド配列の全長について求めることができる。
【0096】
上記のようにして実施する配列比較の文脈と欧州特許第1 241 179 B1号における“プラス”という用語には、比較する配列中の同じではないが(例えば保存的置換の結果として)似た特性を有する残基が含まれる。プラスの%値は、BLOSUM62マトリックス中のプラス値を与える残基の割合を、アラインメントした領域に含まれる残基の総数で割ることによって求まる。
【0097】
さらに、本発明の抗体はCD26に特異的に結合し、以下の重鎖可変領域を持つことができる。その重鎖可変領域とは、配列番号22〜47とそのバリアントからなるグループから選択したアミノ酸配列を含む重鎖可変領域である。配列番号22〜47からなるグループから選択したアミノ酸配列のバリアントは、配列番号22〜47からなるグループから選択したアミノ酸配列と少なくとも90%、好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%一致した配列を持つことができる。あるいは配列番号22〜47からなるグループから選択したアミノ酸配列のバリアントとして、8個以下、好ましくは5個以下、より好ましくは1個のアミノ酸残基がそれぞれ欠失しているか、挿入されているか、異なるアミノ酸残基で置換されているアミノ酸配列が可能である。一実施態様では、アミノ酸置換は保存的な変更である。特に、本発明の抗CD26抗体として、重鎖可変領域が、配列番号22〜47またはそのバリアントからなるグループから選択したアミノ酸配列を含むか、そのアミノ酸配列からなることが可能な抗体が可能である。さらに、本発明の抗体はCD26に特異的に結合し、配列番号26のアミノ酸残基7〜112を含む重鎖可変領域を持つことができる。一実施態様では、本発明の抗体として、ヒトの軽鎖定常領域と重鎖定常領域を含むキメラ抗体が可能である。
【0098】
さらに、本発明の抗体は、配列番号48とそのバリアントからなるグループから選択したアミノ酸配列を含有する軽鎖定常領域を含むことができる。配列番号48に示したアミノ酸配列のバリアントは、配列番号48と少なくとも90%、好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%一致した配列を持つことができる。あるいは配列番号48のバリアントとして、配列番号48のアミノ酸配列において8個以下、好ましくは5個以下、より好ましくは1個のアミノ酸残基がそれぞれ欠失しているか、挿入されているか、異なるアミノ酸残基で置換されているものが可能である。一実施態様では、アミノ酸置換は保存的な変更である。特に、本発明の抗CD26抗体として、軽鎖可変領域が、配列番号48またはそのバリアントのアミノ酸配列を含むか、そのアミノ酸配列からなることが可能な抗体が可能である。
【0099】
別の一実施態様では、本発明の抗体として、ヒト軽鎖定常領域を含むキメラ抗体が可能である。
【0100】
さらに、本発明の抗体は, 配列番号49に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含むことができる。配列番号49に示したアミノ酸配列のバリアントは、配列番号49と少なくとも90%、好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%一致した配列を持つことができる。あるいは配列番号49のバリアントとして、8個以下、好ましくは5個以下、より好ましくは1個のアミノ酸残基がそれぞれ欠失しているか、挿入されているか、異なるアミノ酸残基で置換されているアミノ酸配列が可能である。一実施態様では、アミノ酸置換は保存的な変更である。特に、本発明の抗CD26抗体として、CH1-CH2-CH3鎖が、配列番号49に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含むか、そのアミノ酸配列からなることが可能な抗体が可能である。
【0101】
別の一実施態様では、本発明の抗体として、ヒト重鎖定常領域を含むキメラ抗体が可能である。
【0102】
特に、本発明の抗体としてIgG 2Bクラスが可能であり、この抗体は、上に定義した配列番号49に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含むことができる。
【0103】
添付の配列リストからわかるように、重鎖可変領域(VH)に関して一群の配列が同定され、軽鎖可変領域(VL)に関して2つの異なるグループの配列が同定されている。各グループの配列の類似性を示すアラインメントを図3に示す。本発明の抗体中に高頻度で見られるVL配列(配列番号4)が同定され、対応するCL配列(配列番号48)が認識された。高頻度で見られるVH配列(配列番号26)が同定され、対応するCH1-CH2-CH3配列(配列番号49)が認識された。
【0104】
本発明の抗体として、CD26に特異的に結合し、配列番号4に示したアミノ酸配列またはそのバリアント、および/または配列番号5に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有する軽鎖可変領域を含むとともに、配列番号48に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有する軽鎖定常領域を含む抗体が可能である。本発明の抗体として、CD26に特異的に結合し、配列番号26に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有する重鎖可変領域を含むとともに、配列番号49に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有するCH1-CH2-CH3鎖を含む抗体が可能である。さらに、本発明の抗体として、CD26に特異的に結合し、配列番号4に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有する軽鎖可変領域を含み、場合によってはさらに、配列番号48に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有する軽鎖可変領域を含み、場合によってはさらに、配列番号49に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有するCH1-CH2-CH3鎖を含み、場合によってはさらに、配列番号26に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有する重鎖可変領域を含む抗体が可能である。特に、本発明の抗体は、配列番号4に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有する軽鎖可変領域と、配列番号48に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有する軽鎖可変領域と、配列番号49に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有するCH1-CH2-CH3鎖と、配列番号26に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有する重鎖可変領域を含むことができる。あるいは本発明の抗体として、ヒトの軽鎖定常領域および/または重鎖定常領域を含むキメラ抗体が可能である。
【0105】
特に、本発明の抗体として、CD26に特異的に結合し、配列番号4のアミノ酸残基8〜104を含有する軽鎖可変領域と、配列番号48に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有する軽鎖定常領域と、配列番号49に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有するCH1-CH2-CH3鎖と、配列番号26のアミノ酸残基7〜112を含有する重鎖可変領域を含む抗体が可能である。あるいは本発明の抗体として、ヒトの軽鎖定常領域および/または重鎖定常領域を含むキメラ抗体が可能である。
【0106】
特に、本発明の抗体として、CD26に特異的に結合し、配列番号5に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有する軽鎖可変領域と、配列番号49に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有するCH1-CH2-CH3鎖と、配列番号22のアミノ酸残基7〜112を含有する重鎖可変領域を含む抗体が可能である。あるいは本発明の抗体として、ヒトの軽鎖定常領域および/または重鎖定常領域を含むキメラ抗体が可能である。
【0107】
本発明の抗体として、特に、CD26に特異的に結合し、配列ID 番号4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21またはそのバリアントからなるグループから選択したアミノ酸配列を含有する軽鎖可変領域と、配列番号48に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有する軽鎖定常領域と、配列番号49に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有するCH1-CH2-CH3鎖を含む抗体が可能である。この抗体は、場合によってはさらに、配列ID 番号22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47またはそのバリアントからなるグループから選択したアミノ酸配列を含有する重鎖可変領域を含んでいる。あるいは本発明の抗体として、ヒトの軽鎖定常領域および/または重鎖定常領域を含むキメラ抗体が可能である。
【0108】
本発明の抗体として、特に、CD26に特異的に結合し、配列ID 番号4に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有する軽鎖可変領域と、配列ID 番号48に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有する軽鎖定常領域と、配列番号49に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有するCH1-CH2-CH3鎖を含む抗体が可能である。この抗体は、場合によってはさらに、配列ID 番号22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47またはそのバリアントからなるグループから選択したアミノ酸配列を含有する重鎖可変領域を含んでいる。あるいは本発明の抗体として、ヒトの軽鎖定常領域および/または重鎖定常領域を含むキメラ抗体が可能である。
【0109】
本発明の抗体として、特に、CD26に特異的に結合し、配列ID 番号5に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有する軽鎖可変領域と、配列番号49に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有するCH1-CH2-CH3鎖を含む抗体が可能である。この抗体は、場合によってはさらに、配列ID 番号22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47またはそのバリアントからなるグループから選択したアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含むことができる。あるいは本発明の抗体として、ヒトの軽鎖定常領域および/または重鎖定常領域を含むキメラ抗体が可能である。
【0110】
本発明の抗体として、特に、CD26に特異的に結合し、配列ID 番号26に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有する重鎖可変領域と、配列ID 番号48に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有する軽鎖定常領域と、配列番号49に示したアミノ酸配列またはそのバリアントを含有するCH1-CH2-CH3鎖を含む抗体が可能である。この抗体は、場合によってはさらに、配列ID 番号4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21またはそのバリアントからなるグループから選択したアミノ酸配列を含有する軽鎖可変領域を含むことができる。あるいは本発明の抗体として、ヒトの軽鎖定常領域および/または重鎖定常領域を含むキメラ抗体が可能である。
【0111】
配列ID 番号1〜128のグループから選択した任意の1つの配列のバリアントは、このグループの配列から選択したその配列と少なくとも90%、好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%一致した配列を持つことができる。
【0112】
さらに、本発明の抗体はCD26に特異的に結合し、以下の重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含むことができる。その重鎖可変領域とは、アミノ酸配列が、ジェノバ(イタリア国)のCBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列である重鎖可変領域であり、その軽鎖可変領域とは、アミノ酸配列が、PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される1種類の抗体または前記抗体のアミノ酸配列である軽鎖可変領域である。特に、重鎖のアミノ酸配列として、PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の重鎖のアミノ酸配列が可能であり、および/または軽鎖のアミノ酸配列として、PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の1種類の抗体または前記抗体の軽鎖のアミノ酸配列が可能である。特に、CD26に特異的に結合する本発明の抗体は、PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体と同じ重鎖配列および同じ軽鎖配列を含むことができる。あるいは本発明の抗体として、ヒトの軽鎖定常領域および/または重鎖定常領域を含むキメラ抗体が可能である。
【0113】
本発明の抗CD26抗体(CD26に特異的に結合し、配列ID 番号1を含有する重鎖可変領域を含み、および/または配列ID 番号2および/または配列ID 番号3を含有する軽鎖可変領域を含む抗体)として、さらに、重鎖可変領域のアミノ酸配列が、ジェノバ(イタリア国)のCBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列であり、軽鎖可変領域のアミノ酸配列が、PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列であることが可能な抗体が可能である。場合によっては、その重鎖可変領域のCDR3のアミノ酸配列として、PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列が可能である。あるいは本発明の抗体として、ヒトの軽鎖定常領域および/または重鎖定常領域を含むキメラ抗体が可能である。
【0114】
“ハイブリドーマ細胞株”という用語には、そのハイブリドーマ細胞株の子孫も含まれる。子孫は、形態または遺伝子の構成が同じであってもなくてもよい。例えば突然変異および/または環境の影響が原因となって鎖の修飾が起こる可能性があるため、そのような子孫は親細胞株と同じにならない可能性がある。このハイブリドーマ細胞株の細胞の子孫は、CD26(特にヒトCD26)に結合できる抗体または抗体フラグメントを産生すること、特に本発明の抗体を産生することが好ましい。さらに、“ハイブリドーマ細胞株”という用語には、抗体混合物を産生するハイブリドーマ細胞株の混合物も含まれる。
【0115】
別の特徴によれば、本発明によって抗体混合物が提供される。本発明により、その抗体混合物を含む組成物、特に単離された組成物も提供される。この抗体混合物は、少なくとも2つの異なる抗体を含むことができる。その少なくとも2つの異なる抗体は、CD26(特にヒトCD26)に特異的に結合できることが好ましい。場合によっては、CDに結合しない少なくとも1種類の抗体がその抗体混合物の中に存在していてもよい。一実施態様によれば、組成物中の少なくとも2つの異なる抗体またはすべての抗体は、CD26(特にヒトCD26)に特異的に結合できる。特に、抗体混合物の中に存在する1つ以上の抗体またはすべての抗体として、本発明の抗体が可能であり、その抗体は、場合によっては、本発明の抗体に関して上に開示した特徴をさらに持つことができる。この抗体混合物は、配列ID 番号2に示した配列および/または配列ID 番号3(特に配列ID 番号3)に示した配列を含有する軽鎖可変領域を含む第1の抗体と、配列ID 番号2に示した配列を含有する軽鎖可変領域を含む第2の抗体とを含むことができる。第1の抗体および/または第2の抗体として本発明の抗体が可能であり、その抗体は、場合によっては、本発明の抗体に関して上に詳細に説明した特徴をさらに持つことができる。一実施態様では、抗体混合物は、配列ID 番号133のVH CDR1と、配列ID 番号134のVH CDR2と、配列ID 番号1のVH CDR3を含有する重鎖可変領域を含むか、その重鎖可変領域からなる。
【0116】
本発明の好ましい一実施態様によれば、抗体混合物は、以下の組み合わせの配列を有する少なくとも1種類の抗体を含むか、以下の組み合わせの配列を有する2種類の抗体を含むか、その2種類の抗体からなる(各抗体は、以下に示す軽鎖配列の一方と、以下に示す重鎖配列を含んでいる)。すなわち、
a)配列ID 番号4、または配列ID 番号4のバリアント(特に配列ID 番号6〜配列ID 番号21の任意のもの)を含む軽鎖可変領域と、配列ID 番号48を含む軽鎖定常領域;または
b)配列ID 番号5を含む軽鎖可変領域
を含有する異なる2つの軽鎖の一方と、
配列ID 番号26、または配列ID 番号26のバリアント(特に配列ID 番号22〜配列ID 番号25と、配列ID 番号27〜配列ID 番号47から選択した任意の配列)を含む重鎖可変領域と、配列ID 番号49を含む重鎖定常領域(CH1-CH2-CH3)
を含有する重鎖を含んでいる。
【0117】
一実施態様では、抗体混合物は、PD 12002ハイブリドーマ寄託物によって産生される抗体を含むか、その抗体からなる。一実施態様では、単離された組成物は、PD 12002ハイブリドーマ寄託物によって産生される抗体のうちの少なくとも1つを含んでおり、特にPD 12002ハイブリドーマ寄託物によって産生される全抗体を含んでいる。
【0118】
発明者らが実施した多数の実験を通じ、PD 12002ハイブリドーマ寄託物によって産生される抗体は、驚くべきことに、特に造血幹細胞移植後の生着の促進のための薬、および/または移植片対宿主病と再生不良性貧血の少なくとも一方の予防および/または治療のための薬として用いる上で有利な活性を有することがわかった。
【0119】
寄託されたPD 12002ハイブリドーマ細胞株は、保管中と培養中に安定であり、5年を超える期間にわたって培養したところ安定で同一であることが確認された。
【0120】
別の1つの特徴では、本発明により、競合結合アッセイ(例えばインビトロ競合結合アッセイ)において、CD26(特にヒトCD26)に対する特異的結合に関して本発明の抗体と競合する薬剤(特に、抗体またはそのフラグメント)が提供される。この薬剤は、特に、CD26(特にヒトCD26)に対する特異的結合に関し、
a)配列ID 番号1に示した配列を含有する重鎖可変領域、および/または配列ID 番号2に示した配列および/または配列ID 番号3に示した配列を含有する軽鎖可変領域;
b)ジェノバ(イタリア国)のCBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の重鎖可変領域と、ジェノバ(イタリア国)のCBA-ICLCにPD 12002として寄託されたそのハイブリドーマ細胞株によって産生されるその抗体の軽鎖可変領域
を含むことのできる抗体と競合できる。一実施態様によれば、抗体として、
a)配列ID 番号22〜47とそのバリアントからなるグループから選択したアミノ酸配列を含有する重鎖可変領域、および/または配列ID 番号4、5、6〜21とそのバリアントからなるグループから選択したアミノ酸配列を含有する軽鎖可変領域を含むことのできる抗体、または
b)ジェノバ(イタリア国)のCBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の重鎖と軽鎖を含むことのできる抗体が可能である。好ましい一実施態様によれば、本発明により、競合結合アッセイ(例えばインビトロ競合結合アッセイ)において、CD26(特にヒトCD26)に対する特異的結合に関し、配列ID 番号26の重鎖可変領域と、配列ID 番号4および/または配列ID 番号5の軽鎖可変領域を含む抗体と競合する薬剤(特に、抗体またはそのフラグメント)が提供される。競合結合アッセイを利用して同じエピトープまたは立体的に重複するエピトープを認識することにより、2つの抗体が同じエピトープに結合するかどうかを調べることができる(Dong他、1998年)。当業者に知られている競合結合アッセイを利用し、CD26に対する特異的結合に関して本発明の抗体と競合する薬剤を同定することができる。例えばCD26抗原がマルチ-ウエル・プレートに固定化されていて、標識されていない抗体が標識された抗体の結合を阻止する能力を測定するアッセイを利用することができる。このような競合アッセイのための一般的な標識は、放射性標識または酵素標識である。
【0121】
別の1つの特徴によれば、発明者らにより、(a)本発明の抗体をコードしているヌクレオチド配列を含むか、(b)(a)と相補的なヌクレオチド配列を含む、単離された核酸分子が提供される。
【0122】
本発明の文脈では、“核酸分子”という用語はこの分野で知られている意味で用いられ、特に、共有結合によって結合された2つ以上のヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体を意味する。“核酸分子”という用語には、一般に約50個以下のヌクレオチドが含まれるオリゴヌクレオチドと、本質的に任意の長さを持つことのできるポリヌクレオチドが含まれる。さらに、“核酸分子”という用語には、DNA(例えばcDNA)、遺伝子、RNAが含まれる。核酸分子を含むヌクレオチドは、例えば、天然のデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、ヌクレオチド類似体(例えば非天然の合成ヌクレオチド、または修飾された天然のヌクレオチド)を含むグループから選択することができる。ヌクレオチド類似体は公知であり、例えばLin他、1994年、Nucl. Acids Res.、第22巻:5220〜5234ページ;Jellinek他、1995年、Biochem.、第34巻:11363〜11372ページ;Pagratis他、1997年、Nature Biotechnol.、第15巻:68〜73ページに記載されている。
【0123】
“単離された”化合物または組成物(例えばポリペプチド、抗体、核酸分子、ベクター、細胞、これらの混合物)として、特に、自然には見られない形態で存在する化合物または組成物が可能である。単離された化合物(例えばポリペプチド、核酸分子、抗体、ベクター、細胞)または組成物には、もはや自然に見られる形態ではない程度まで精製されたものが含まれる。
【0124】
本発明により、配列ID 番号50〜128とそのバリアントからなるグループから選択したヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子も提供される。配列ID 番号50〜128からなるグループから選択したヌクレオチド配列のバリアントは、配列ID 番号50〜128からなるグループから選択したヌクレオチド配列と少なくとも90%、好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%一致した配列を持つことができる。配列ID 番号50〜77からなるグループから選択したヌクレオチド配列またはそのバリアントは、軽鎖可変領域(VL)またはその一部をコードすることができる。あるいは配列ID 番号50〜128からなるグループから選択したヌクレオチド配列のバリアントとして、配列ID 番号50〜128からなるグループから選択されて、12個以下、好ましくは5個以下、より好ましくは1個以下のヌクレオチド残基がそれぞれ欠失しているか、挿入されているか、異なるヌクレオチド残基で置換されているヌクレオチド配列が可能である。配列ID 番号78〜126からなるグループから選択したヌクレオチド配列またはそのバリアントは、重鎖可変領域(VH)またはその一部をコードすることができる。配列ID 番号127に示したヌクレオチド配列またはそのバリアントは、軽鎖定常領域(CL)またはその一部をコードすることができる。配列ID 番号128に示したヌクレオチド配列またはそのバリアントは、CH1-CH2-CH3鎖またはその一部をコードすることができる。一実施態様によれば、VL鎖をコードしているヌクレオチド配列として、プロダクティブIGK(IGκ遺伝子座)再編成配列(フレーム内結合部があり、停止コドンがない)が可能である。一実施態様によれば、VH鎖をコードしているヌクレオチド配列として、プロダクティブIGH(IG重鎖遺伝子)再編成配列(フレーム内結合部があり、停止コドンがない)が可能である。
【0125】
核酸分子の上記バリアントは、好ましくはCD26に対する結合の特異性を維持しつつ、抗体の特性のいくつか(例えばアフィニティ)を向上させるために実施する、例えば本発明のヌクレオチド配列の“わずかな突然変異誘発”(Shie, R.他、1996年、Gene、第169巻:147ページ)によって得ること、またはランダムな突然変異誘発や指向性突然変異誘発という他の方法によって得ることができる。
【0126】
本発明の核酸分子は、増幅に適した、さらには突然変異誘発または修飾または発現に適したベクターの中でクローニングすることができる。本発明により、本発明の抗体をコードするヌクレオチド配列を含むベクターも提供される。このベクターは、本発明の抗体を効果的に発現できることが好ましい。特に、核酸ベクターは第1の核酸分子を含むことができて、その第1の核酸分子は第2の核酸分子に共有結合していてその第2の核酸分子と機能的に関連しているため、このベクターを含む宿主は、第1の核酸分子によってコードされるポリペプチドを発現する。この第1の核酸分子は、本発明の核酸分子、特に配列ID 番号50〜128とそのバリアントからなるグループから選択した核酸配列を含む核酸分子である。これらのベクターは、適切な宿主の中での組み換え抗体またはキメラ・タンパク質の調製と、公知の以下の方法で使用できる。
【0127】
本発明の現在好ましい一実施態様では、組み換え抗体は、原核細胞または真核宿主細胞の中でクローニングし、発現させることが好ましい。特に好ましいのは大腸菌だが、他の原核細胞(例えば枯草菌、P.パストリス、K.ラクチス)、または植物か動物(特にマウス)に由来する真核細胞も使用できる。
【0128】
さらに別の1つの特徴によれば、発現制御配列と機能的に関連した本発明の核酸分子を含む発現ベクターが提供される。
【0129】
“ベクター”という用語は、特に、コード情報を宿主細胞に移すのに用いられる分子(例えば核酸分子、プラスミド、ウイルス)を意味する。特に、“ベクター”として、挿入された核酸分子を宿主細胞の中に移すこと、および/または宿主細胞相互間で移すことのできる核酸分子(自己複製する核酸分子が好ましい)が可能である。ベクターの例として、ウイルス・ベクターが挙げられるが、それに限定されない。このベクターでは、追加のDNA区画を、ウイルスのゲノム、裸のDNA発現ベクター、裸のRNA発現ベクター、リポソームの中に封止されたDNA発現ベクターまたはRNA発現ベクター、プラスミド(例えば追加のDNA区画を連結できる環状の二本鎖DNAループ)、コスミド・ベクター、ファージ・ベクター、導入した宿主細胞の中で自律的に複製することのできるベクター、カチオン性凝縮剤に付随するDNA発現ベクターまたはRNA発現ベクターのいずれかに連結することができる。特に、ベクターは、宿主細胞への導入時にその宿主細胞のゲノムに統合することができる。そうすることで、そのベクターを宿主のゲノムとともに複製することが可能になる。特に、“ベクター”という用語に発現ベクターが含まれる。この明細書では、“発現ベクター”という用語は、特に、その発現ベクターと機能的に関連している1つ以上の遺伝子の発現を指示することが可能なベクターを意味することができる。この明細書に記載したヌクレオチド配列を含む発現ベクターは、適切な調節領域、プロモータ、転写終結因子、転写活性化因子、複製起点を特に挿入することにより、宿主細胞の中での発現を最適化することができる。
【0130】
本出願の文脈では、“機能的に関連した”要素として、特に、それらの要素を意図したように機能させることが可能な関係にある要素が可能である。コード配列と機能的に関連した発現制御配列は、特に、そのコード配列の発現が、1つ以上の発現制御配列と両立する条件下で実現されるように連結される。“発現制御配列”という用語には、その発現制御配列と機能的に関連しているヌクレオチド配列の発現を調節する1つ以上のヌクレオチド配列が含まれるが、それに限定されない。機能的に関連した発現制御配列には、興味の対象である遺伝子と連続した発現制御配列と、興味の対象である遺伝子を制御するのにトランスで作用する、すなわち離れた距離で作用する発現制御配列が含まれるが、それに限定されない。
【0131】
一実施態様によれば、核酸配列と機能的に関連した発現制御配列は、転写の制御と調節をすることができ、適切な場合には、核酸配列を翻訳することができる。発現制御配列には、プロモータ配列、エンハンサ配列、転写終結因子、イントロンのスプライス・シグナル(イントロンが存在する場合)、(特にタンパク質コード遺伝子の前にある)開始コドン、mRNAの適切な翻訳を確実にする配列、停止コドンからなるグループから選択した1つ以上の配列が挙げられるが、これらに限定されない。一実施態様によれば、発現ベクターは、例えば複製起点とプロモータを含むことができ、場合によっては、形質転換された細胞の表現型の選択を可能にする1つ以上の遺伝子を含むことができる。
【0132】
さらに別の1つの特徴によれば、本発明により、本発明の核酸分子を含む組み換え宿主細胞が提供される。
【0133】
本出願の文脈では、“宿主細胞”という用語は、特に、核酸配列を用いて形質転換された細胞、または核酸配列を用いて形質転換できる細胞を意味することができる。宿主細胞は、形質転換された後、興味の対象である選択された遺伝子を発現することができる。“宿主細胞”という用語には、形質転換後に得られる細胞だけでなく、形質転換後に得られる細胞の子孫も含まれる。その子孫は、形態または遺伝子の構成が元の親細胞と同じであってもなくてもよい。例えば突然変異および/または環境の影響が原因となって鎖の修飾が起こる可能性があるため、そのような子孫は親細胞株と同じにならない可能性がある。子孫は、CD26(特にヒトCD26)と結合できる抗体または抗体フラグメントを産生することが好ましい。“宿主細胞”という用語には、宿主細胞の混合物も含めることができる。宿主細胞の混合物では、宿主細胞は、1種類の抗体またはそのフラグメント、または異なる2種類以上の抗体またはそのフラグメントを産生することができる。
【0134】
本発明の抗体として、ジェノバ(イタリア国)のCBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株またはそのハイブリドーマ細胞株の誘導体によって産生される抗体が可能である。特に、PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株の誘導体は、配列番号50〜128のうちの1つ以上のバリアントである配列を含有するポリヌクレオチドを含む細胞株である。本発明の抗体として、ジェノバ(イタリア国)のCBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体が結合したエピトープと結合する抗体が可能である。この明細書では、“エピトープ”という用語は、特に、特定の抗体が認識して特異的に結合することが可能な抗原の一部を意味することができる。通常は、エピトープは、特定の空間配置になった少なくとも3個、より一般には少なくとも4個、または8〜10個のアミノ酸を含むことができる。抗体は、三次構造になった抗原ペプチドまたは抗原ポリペプチドを認識できるため、エピトープを含むアミノ酸は連続している必要がなく、同じペプチド鎖上にある必要さえない場合もある。本発明では、本発明の抗体によって認識されるペプチド・エピトープまたはポリペプチド・エピトープは、CD26の少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも25個、または約5個〜約30個、約10個〜約30個、約15個〜約35個の連続したアミノ酸または連続していないアミノ酸からなる配列を含んでいる。
【0135】
一実施態様では、本発明の抗CD26モノクローナル抗体は、配列番号146〜159からなるグループから選択した1つ以上のアミノ酸配列を含むCD26エピトープに結合することができる。特別な実施態様では、エピトープとして、連続したエピトープ、または不連続なエピトープが可能である。一実施態様では、本発明の抗CD26モノクローナル抗体は、配列番号146〜148、152、154、158、159からなるグループから選択した1つ以上のアミノ酸配列を含むCD26エピトープと結合することができる。一実施態様では、本発明の抗CD26モノクローナル抗体は、配列番号146〜148、152、154、158、159からなるグループから選択した1つのアミノ酸配列を含むCD26エピトープと結合することができる。別の一実施態様では、本発明の抗CD26モノクローナル抗体は、配列番号146を含むCD26エピトープと結合することができる。さらに別の一実施態様では、本発明の抗CD26モノクローナル抗体は、配列番号146のアミノ酸配列と、配列番号147、148、152、154、159からなるグループから選択した1つ以上のアミノ酸配列を含むCD26エピトープと結合することができる。特別な一実施態様では、本発明の抗CD26モノクローナル抗体は、配列番号146と147と148を含むか、配列番号146と147と152を含むか、配列番号146と147を含むか、配列番号146と152を含むCD26エピトープと結合することができる。
【0136】
さらに別の一実施態様では、発明者らは、ジェノバ(イタリア国)のCBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株またはそのハイブリドーマ細胞株の誘導体によって産生される抗体を提供する。
【0137】
別の特徴によれば、ジェノバ(イタリア国)のCBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体が結合したエピトープと結合する抗体が提供される。
【0138】
さらに別の特徴によれば、本発明の抗体を作製する方法が提供される。この方法は、
(i)本発明の宿主細胞、特にジェノバ(イタリア国)のCBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株を用意するステップと;
(ii)本発明のその宿主細胞を培地の中で培養するステップと;
(iii)その培地から抗体を得るステップと;
(iv)必要に応じ、その抗体を例えば濾過および/またはナノ濾過によって精製するステップを含んでいる。
【0139】
一実施態様によれば、抗体(特にヒト抗体)を産生するように遺伝子操作されたトランスジェニック動物を使用し、本出願で言及した免疫源標的に対する抗体(特にCD26に対する抗体)を生成させることができる。トランスジェニック動物と、そのトランスジェニック動物によって産生される抗体は、公知の技術を用いて、特に、例えばアメリカ合衆国特許出願公開第」2010/0196266 A1に記載されている標準的な免疫化プロトコルを用いて得ることができる。トランスジェニック動物(特にトランスジェニック・マウス)からヒト抗体を得るための方法は、例えばGreen他、Nature Genet.、第7巻:13ページ(1994年);Lonberg、Nature、第368巻:856ページ(1994年)と、Taylor他、Int. Immun.、第6巻:579ページ(1994年)に記載されている。抗体(特にヒト抗体)を産生するトランスジェニック動物の非限定的な一例は、トランスジェニック・マウス(特に、例えばGreen他、1999年、J. Immunol. Methods、第231巻:11〜23ページに記載されているAbgenix社(フレモント、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)のXenoMouse(登録商標))である。XenoMouse(登録商標)などのトランスジェニック動物では、遺伝子操作される非ヒト哺乳動物の抗体遺伝子が不活性化され、機能するヒト抗体遺伝子で置換されている一方で、遺伝子操作されるその非ヒト哺乳動物の免疫系(例えばマウスの免疫系)の残部はそのままである。
【0140】
トランスジェニック動物によって産生されるヒト抗体は、正常なヒト抗体の薬理動態特性を維持しつつ、治療薬として使用できる可能性がある(Green他、1999年、上記文献;アメリカ合衆国特許出願公開2010/0196266 A1)。XenoMouse(登録商標)の使用は、本出願では、抗体の産生に関して例としてしか言及していない。この分野の一般的な知識に基づき、当業者は、本発明の抗体(特にヒト抗体)を産生させるのに別のトランスジェニック動物(特に例示するならば、トランスジェニック齧歯類、ヒツジ、ヤギ、ウシ)も使用することができる。
【0141】
特に断わらない限り、上記のすべての技術は技術の例示であり、抗体または抗体フラグメントを産生させる公知のあらゆる方法を利用できる。本発明を実施するには、特に断わらない限り、細胞生物学、有機化学、生化学、分子生物学、細胞培養、微生物学、タンパク質化学、組み換えDNA、免疫学に関する従来からの技術を利用できる。従来からのそのような技術は、例えば、『分子クローニング:実験室マニュアル』、第2版(Sambrook他、編)、1989年;『オリゴヌクレオチド合成』(M.J. Gait編)、1984年;アメリカ合衆国特許第4,683,195号(Mullis他);『核酸ハイブリダイゼーション』(B.D. Hames他)、1984年;『酵素学における方法』、第154巻と第155巻(Wu他)、Academic Press社、ニューヨーク;『転写と翻訳』(B.D. HamesとS.J. Higgins)、1984年;『動物細胞の培養』(R.I. Freshney編)、1987年;『固定化された細胞と酵素』、IRL Press社、1986年;『分子クローニングの実践的ガイド』(B. Perbal)、1984年;『哺乳動物の細胞のための遺伝子導入ベクター』(J.H. MillerとM.P. Calos編)、1987年;『細胞と分子生物学における免疫化学法』(MayerとWalker編)、1987年;『実験免疫学のハンドブック』、第I巻〜第IV巻(D.M. WeirとC.C. Blackwell編)、1986年;『マウス胚を操作する』、1986年に記載されている。
【0142】
文脈上必要とされない限り、単数形の用語には複数形が含まれ、複数形の用語には単数形が含まれるものとする。
【0143】
別の1つの特徴によれば、本発明の抗体は、薬として使用するための抗体である。特に、本発明の抗体は、移植片対宿主病(GvHD)(好ましくは造血幹細胞移植後のGvHD)の予防および/または治療に用いるための抗体である。さらに、本発明の抗体は、再生不良性貧血(好ましくは重い再生不良性貧血)の予防および/または治療に用いるための抗体である。さらに、本発明の抗体は、造血幹細胞移植後の生着を促進するのに用いる抗体になることができる。本発明の抗体は、移植片対宿主病(GvHD)(好ましくは造血幹細胞移植後のGvHD)の予防および/または治療に用いるためと、再生不良性貧血(好ましくは重い再生不良性貧血)の予防および/または治療に用いるためと、造血幹細胞移植後の生着を促進するのに用いるための抗体になることもできる。
【0144】
移植片対宿主病と、再生不良性貧血と、造血幹細胞の移植前および/または移植中および/または移植後の被験者の病気は、CD26を媒介とした疾患、異常、病気、すなわち薬剤(特にCD26(特にヒトCD26)に特異的に結合できる1つ以上の抗体)の投与によって治療および/または予防できる疾患、異常、病気であると考えられる。
【0145】
さらに、本発明により、薬として用いるための本発明の抗体混合物(特に、本発明の抗体混合物を含む組成物、さらに特定するならば、単離された組成物)も提供される。特に、この抗体混合物(特に、本発明の抗体混合物を含む単離された組成物)は、造血幹細胞移植後の生着を促進するのに用いること、および/または移植片対宿主病(GvHD)(好ましくは造血幹細胞移植後のGvHD)の予防および/または治療に用いること、および/または再生不良性貧血(好ましくは重い再生不良性貧血)の予防および/または治療に用いることができる。特に、この抗体混合物は、配列番号2に示した配列および/または配列番号3に示した配列(特に配列番号3に示した配列)を含有する軽鎖可変領域を含む本発明の第1の抗体と、配列番号2に示した配列を含有する軽鎖可変領域を含む本発明の第2の抗体を含むことができる。一実施態様では、この抗体混合物は、PD 12002ハイブリドーマ寄託物によって産生される抗体を含むか、その抗体からなる。さらに、この抗体混合物は、PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の6つのCDR配列をすべて含有する本発明の抗体(例えばヒト抗体またはヒト化抗体)を含むことができる。
【0146】
後天性再生不良性貧血(AA)は、骨髄の細胞充実度が低いことと、末梢血細胞のカウント数が少ないことを特徴とする稀な骨髄不全状態である(Young N.S.他、1997年、N. Eng. J. Med.、第336巻:1365〜1372ページ)。他の自己免疫疾患と同様、抗原特異的T細胞をAA患者の骨髄から増殖させることができよう。その抗原特異的T細胞は、器官特異的細胞毒性を造血幹細胞と子孫細胞に与えると考えられる(Nakao S.他、Blood、1997年、第89巻:3691〜3699ページ)。
【0147】
発現が異なる複数の遺伝子がBM浸潤T細胞でだけ見いだされ、これら遺伝子をいくつかの機能カテゴリーに分類した。発現が異なるこれら遺伝子には、免疫応答に関与する分子(PF-4、CD26、Ncf-1、CCR2など)と、他のケモカイン受容体およびケモカイン・リガンドが含まれていた。さらに、AAは、誘発源となる標的抗原を認識するT細胞によって造血幹細胞と造血源が自己攻撃性破壊されることの結果であることが支持されている(Young N.S.他、1997年、上記文献)。いくつかの研究グループが、クローン性T細胞の増殖(Zeng W.他、Blood、1999年、第93巻(9):3008〜3016ページ;Zeng W.他、J. Clin. Invest.、2001年、第108巻(5):765〜773ページ;Risitano A.M.他、Blood、2002年、第100巻(1):178〜183ページ)と、炎症促進性サイトカインの産生(Maciejewski J.P.他、Blood、1995年、第85巻:3183〜3190ページ)と、T細胞を媒介としたCD34+幹細胞に対する細胞毒性(Nakao S.他、1997年、上記文献;Maciejewski J.P.、Selleri C.、Sato T.他、Br. J. Haematol.、1995年、第91巻:245〜252ページ)を明らかにしており、抗原によって誘発されるT細胞の応答が支持される。483個の遺伝子の調節からも、骨髄不全は、ケモカイン、サイトカイン、増殖因子と、これら分子の受容体が関与するどちらかと言えば複雑な遺伝プログラムの結果であることが証明される。Franzkeとその同僚たちは、Th1免疫応答の調節においてカギとなる役割を果たすいくつかの分子が誘導されることを明らかにしている(Anke Franzke他、BMC Genomics、2006年、第7巻:263ページ)。それらの分子は、例えばCCR2とCX3CR1(Charo I.F.他、Microcirculation、2003年、第10巻(3〜4):259〜264ページ;Fraticelli P.他、J. Clin. Invest.、2001年、第107巻(9):1173〜1181ページ)や、Th1分化T細胞の表面で高レベルに発現する表面結合エクトペプチダーゼであるCD26(Dang N.H.他、Histol. Histopathol.、2002年、第17巻(4):1213〜1226ページ;Willheim M.他、J. Allergy Clin. Immunol.、1997年、第100巻:348〜355ページ)であり、CCR2とCX3CR1は、多発性硬化症などの他の自己免疫疾患でも重要である(Lock C.他、Nat. Med.、2002年、第8巻(5):500〜508ページ;Jee Y.他、J. Neuroimmunol.、2002年、第128巻(1〜2):49〜57ページ)。
【0148】
いかなる理論にも囚われることを望んでいないとはいえ、現在のところ、CD26に結合できる本発明の抗体、特にCD26(特にヒトCD26)に特異的に結合できる本発明の抗体が、AAという免疫病発生と、免疫抑制後の造血の回復において重要な役割を果たしていると考えられる。
【0149】
したがってCD26抗原に対するモノクローナル抗体を用いて再生不良性貧血(特に先天性または後天性の再生不良性貧血)、特に重い再生不良性貧血を治療することができる。
【0150】
本出願では、“治療”と“予防”という用語は、特に、ある疾患、異常、病気(特に移植片対宿主病(GvHD)と再生不良性貧血の少なくとも一方)を有するか、ある疾患、異常、病気が進行するリスクを抱えた患者に恩恵を与えるあらゆるタイプの治療または予防を意味することができる。さらに、“治療”と“予防”という用語は、造血幹細胞移植後の生着に関して人に恩恵を与えるあらゆるタイプの治療または予防を意味することができる。治療または予防によって与えられる恩恵として、患者の病気(例えば1つ以上の症状)を改善するという恩恵、および/または治療および/または予防すべき疾患、異常、病気の進行を遅延させるという恩恵、および/または1つ以上の症状の発症を遅延させるという恩恵、および/または治療および/または予防すべき疾患、異常、病気を緩和するという恩恵、および/または症状の進行をより遅くするという恩恵などが可能である。さらに、本出願では、“治療”と“予防”という用語は、症状の治癒または完全な消失を必ずしも意味しない。
【0151】
“移植片対宿主病”という用語には、急性および/または慢性の移植片対宿主病、特に造血幹細胞移植後の移植片対宿主病が含まれる。“再生不良性貧血”という用語には、後天性と先天性の再生不良性貧血のほか、重い再生不良性貧血が含まれる。
【0152】
本発明の抗体を用いると、ヒト(特に医療を目的とする)と動物(特に、獣医学と、薬のスクリーニングおよび開発を目的とする)での治療および/または予防が可能になる。対象となる適切な動物として、例えばウサギ、霊長類、ウシなどの哺乳動物が挙げられる。最も好ましいのはヒトである。ヒトには、新生児、幼児、青年、成人が含まれる。“患者”と“対象”という用語は、この明細書では同じ意味で用いる。この明細書では、“患者”という用語はヒトを意味することができるが、ヒトに限定されない。
【0153】
別の1つの特徴によれば、本発明により、本発明の少なくとも1種類の抗体(例えば本発明の1種類の抗体、または2種類以上の抗体、または3種類以上の抗体)を含む医薬組成物、または本発明の少なくとも1種類の抗体を含む抗体混合物、または本発明の少なくとも1種類の抗体を含み、場合によっては医薬として許容可能な少なくとも1種類の賦形剤を含む単離された組成物が提供される。一実施態様では、医薬組成物は、PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体の6つのCDR配列を含有する抗体(例えばヒト抗体またはヒト化抗体)を含むことができる。別の一実施態様では、医薬組成物は、PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体のVH領域とVL領域を含有する抗体(例えばキメラ抗体)を含むことができる。さらに別の一実施態様では、医薬組成物は、本発明の第1の抗体と本発明の第2の抗体を含有する抗体混合物を含むことができる。第1の抗体は、配列番号2に示した配列および/または配列番号3に示した配列、その中でも特に配列番号3に示した配列を含有する軽鎖可変領域を含み、第2の抗体は、配列番号2に示した配列を含有する軽鎖可変領域を含んでいる。第1の抗体と第2の抗体は異なっていてもよく、特に第2の抗体は、第1の抗体のアミノ酸配列と比べたとき、少なくとも1個のアミノ酸残基が欠失しているか、挿入されているか、異なるアミノ酸残基で置換されているアミノ酸配列を持つことができる。この医薬組成物は、本発明のその少なくとも1種類の抗体(例えば本発明の抗体、または抗体混合物、または本発明の単離された組成物)を有効性分として含むことができる。特に、医薬組成物は、本発明のその少なくとも1種類の抗体を、移植片対宿主病(GvHD)(好ましくは造血幹細胞移植後のGvHD)と再生不良性貧血(好ましくは重い再生不良性貧血)の少なくとも一方の治療および/または予防に有効な量で含むことができる。さらに、医薬組成物は、本発明のその少なくとも1種類の抗体を、造血幹細胞移植後の生着を促進するのに有効な量で含むことができる。
【0154】
本発明の少なくとも1種類の抗体を含む医薬組成物は、薬として用いるための医薬組成物である。特に、本発明の少なくとも1種類の抗体を含む医薬組成物は、造血幹細胞移植後の生着を促進するのに用いるための、および/または移植片対宿主病(GvHD)(好ましくは造血幹細胞移植後のGvHD)の予防および/または治療に用いるための、および/または再生不良性貧血(好ましくは重い再生不良性貧血)の治療および/または予防に用いるための医薬組成物である。
【0155】
本発明の医薬組成物は、場合によっては、1種類以上の賦形剤(医薬として許容可能な賦形剤が好ましい)、特に1種類以上の希釈剤(医薬として許容可能な希釈剤が好ましい)を含むことができる。適切な賦形剤、特に医薬として許容可能な賦形剤は、当業者が、この分野の一般的な知識と本出願に提示した教示内容に基づいて選択することができる。希釈剤として、例えば、医薬として許容可能な溶媒(例えば水)、または医薬として許容可能な溶媒混合物が可能である。適切な賦形剤(特に希釈剤)の例は周知であり、例えば、医薬として許容可能な緩衝系を含む流体、特に医薬として許容可能な緩衝系を含む溶液を含むグループから選択すること、例えばリン酸緩衝化生理食塩水、水、生理食塩水、エマルジョン(例えば油/水エマルジョン)、1種類以上の湿潤剤、殺菌溶液などから選択することができる。医薬組成物は、医薬として許容可能な1種類以上の基剤も含むことができる。
【0156】
一実施態様によれば、本発明の医薬組成物は、本発明の少なくとも1種類の抗体(例えば本発明の少なくとも1種類のモノクローナル抗CD26抗体、マウス抗CD26抗体、マウス・モノクローナル抗CD26抗体)と、水と、リン酸緩衝液(M’H2PO4とM”M”’HPO4を含む緩衝液が好ましい(ただしM’、M”、M”’は、独立に、NaとKからなるグループから選択することができる))を含むことができる。この医薬組成物は、場合によっては、NaClとKClのうちの1つ以上、またはNaClとKClを含有する混合物を含むことができる。本発明の少なくとも1種類の抗体は、PD 12002ハイブリドーマ寄託物によって産生される抗体群、またはそのうちの少なくとも1種類の抗体を含むこと、またはその抗体からなることが可能である。本発明の医薬組成物は、静脈内投与用(特に静脈内注射用または静脈内輸液用)にすることができる。特別な一実施態様では、本発明の医薬組成物は、PD 12002ハイブリドーマ寄託物によって産生される抗体とDPBSを含むこと、またはそれらからなることが可能である。
【0157】
一実施態様によれば、本発明の医薬組成物は、本発明の少なくとも1種類の抗体(例えば本発明の抗CD26モノクローナル抗体)、特にPD 12002ハイブリドーマ寄託物によって産生される抗体群、またはそのうちの少なくとも1種類の抗体を含むことができる。一実施態様では、医薬組成物は、本発明の少なくとも1種類の抗体(例えばPD 12002ハイブリドーマ寄託物によって産生される抗体群、またはそのうちの少なくとも1種類の抗体)と、1種類以上のコルチコステロイドと、1種類以上の抗ヒスタミン剤と、生理食塩水(特に約0.9%w/vのNaClを含む生理食塩水)を含むことができる。特に、これらの水性医薬組成物は、輸液(特にゆっくりした輸液)によって、特に静脈内投与することができる。
【0158】
一実施態様では、本発明の医薬組成物は、本発明の抗体を1mg/ml〜10mg/ml、または1mg/ml〜50mg/ml、または1mg/ml〜100mg/ml、または10mg/ml〜100mg/ml、または50mg/ml〜100mg/mlの範囲の濃度で含んでいる。特別な一実施態様では、本発明の医薬組成物は、少なくとも約1mg/ml、少なくとも約5mg/ml、または少なくとも約10mg/ml、または少なくとも約20mg/ml、または少なくとも約30mg/ml、または少なくとも約40mg/ml、または少なくとも約50mg/ml、または少なくとも約100mg/mlの本発明の抗体を含むことができる。
【0159】
一実施態様では、本発明の医薬組成物は、移植片対宿主病の治療および/または予防に用いるため、本発明の少なくとも1種類の抗体を、1日につき体表面積1m2当たり1mg〜4.5mgの量で含むこと、または再生不良性貧血の治療および/または予防に用いるため、本発明の少なくとも1種類の抗体を、1日につき体表面積1m2当たり1mg〜2mgの量で含むことができる。さらに、一実施態様によれば、医薬組成物は、この明細書で議論するように、本発明の少なくとも1種類の抗体を現在好ましいと考えられている量で、または範囲の量で含むことができる。
【0160】
この明細書では、“医薬として許容可能な”という表現は、特に、“医薬として許容可能な”化合物または“医薬として許容可能な”組成物が、ある疾患、異常、病気(特に移植片対宿主病と再生不良性貧血)の治療および/または予防を実現するため、または造血幹細胞移植後の生着の促進を実現するため、その疾患の重さと治療の必要性に照らして過度に深刻な副作用なしに対象に投与するのに適していることを意味することができる。
【0161】
この明細書では、“有効な量”は、特に、疾患、異常、病気(特に移植片対宿主病と再生不良性貧血の少なくとも一方)に苦しんでいる患者に望ましい効果を生じさせるのに十分な、または造血幹細胞移植後の生着に関して患者に望ましい効果を生じさせるのに十分な本発明の少なくとも1種類の抗体(例えば1種類の抗体または抗体混合物)の量を意味することができ、望ましい効果には、患者の病気(例えば1つ以上の症状)の改善、疾患の進行の遅延などが含まれる。この明細書に記載した抗体の有効な量として、特に、移植片対宿主病および/または再生不良性貧血の進行を改善する、および/または逆転させる、および/または安定化する、および/または緩慢にする、および/または遅延させるのに十分な量が可能である。公知のように、例えば本発明の抗体の有効な量は、特に、病歴、予防目的の投与か治療目的の投与か、標的とする適応症(移植片対宿主病、再生不良性貧血など)のほか、他の因子(抗体のタイプ(および/または用量))によって変わる可能性がある。
【0162】
本発明の医薬組成物は、固体形態でも液体形態でもよく、特に、1種類以上の粉末、1種類以上の錠剤、1種類以上の流体(特に1種類以上の溶液)、1種類以上のエーロゾルの形態にすることができる。本発明の医薬組成物は、1種類以上の生物活性剤(例えば移植片対宿主病と再生不良性貧血の少なくとも一方の治療および/または予防に用いるための活性剤、または造血幹細胞移植後の生着を促進するための活性剤)をさらに含むこともできる。本発明の医薬組成物の投与経路として、例えば、腹腔内投与、静脈内投与、非経口投与、腎臓内投与、皮下投与、局所投与、気管支内投与、肺内投与、鼻腔内投与からなるグループから選択した投与経路が可能であり、局所的な治療を望む場合には、病巣内投与が可能である。非経口投与として、例えば、腹膜内投与、皮内投与、筋肉内投与、皮下投与、静脈内投与、動脈内投与が可能である。本発明の組成物は、例えば標的部位(例えば疾患、異常、病気(特に移植片対宿主病)に冒された特定の器官)への微粒子銃送達によって標的部位に直接投与することもできる。
【0163】
特に、上記投与は、注射および/または輸液および/または送達(例えば静脈内注射、腹腔内注射、輸液)によって実現できる。医薬組成物は、注射可能な製剤、輸液による投与のための製剤として存在すること、特に、静脈内注射または腹腔内注射のための注射可能な製剤、または静脈内投与または腹腔内投与のための輸液製剤として存在することができる。
【0164】
医薬組成物、特に注射可能な製剤にされた医薬組成物は、医薬として許容可能な1種類以上の溶媒(例えば水)を含むこと、および/または流体の形態(例えば懸濁液、エマルジョン、溶液の形態)にすることができる。
【0165】
本発明の医薬組成物は、保存剤とそれ以外の添加剤(例えば保存剤と、抗菌剤、酸化防止剤、キレート化剤、移植片対宿主病と再生不良性貧血の少なくとも一方の治療および/または予防に用いるための活性剤、造血幹細胞移植後の生着を促進するための活性剤、不活性ガスなどからなるグループから選択した他の添加剤)および/またはタンパク質性基剤(例えば、特にヒト起源の血清アルブミンまたは免疫グロブリン)も含むことができる。
【0166】
本発明の医薬組成物は、適切な用量で対象に投与することができる。投与計画は、例えば関与している医師が決定することができる。この分野でよく知られているように、ある患者のための用量は、多くの因子に依存する可能性がある。因子として、例えば、患者の身長、体表面積、年齢、体重、予防目的の投与か治療目的の投与か、標的とする適応症(移植片対宿主病、再生不良性貧血など)、投与する具体的な化合物、全体的な健康状態、同時に投与される他の薬が挙げられる。一実施態様によれば、本発明の少なくとも1種類の抗体(例えば本発明の1種類の、または2種類の、または3種類の、またはそれ以上の抗体)、特に移植片対宿主病の治療および/または予防に用いるための抗体は、患者に、1日につき体表面積1m2当たり1mg〜4.5mgの量で、特に、1日につき体表面積1m2当たり2mg〜 4.5mgの量で投与することができる。特に、1日につき体表面積1m2当たりその少なくとも1種類の抗体を約2mgという量、または1日につき体表面積1m2当たりその少なくとも1種類の抗体を約3mgという量、または1日につき体表面積1m2当たりその少なくとも1種類の抗体を約4.5mgという量を患者に投与することができる。本発明のその少なくとも1種類の抗体は、医薬組成物の中に上記の量で存在することができる。この明細書では、“少なくとも1種類の抗体”という表現に、1種類の抗体、または2種類以上(例えば3種類以上)の抗体が含まれる。
【0167】
一実施態様によれば、本発明の医薬組成物として、PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体混合物を含み、場合によっては医薬として可能な少なくとも1種類の賦形剤を含む医薬組成物が可能である。
【0168】
医薬組成物は、一実施態様によれば、特に移植片対宿主病の治療および/または予防に用いることを目的として患者に投与するため、ハイブリドーマ細胞株寄託物PD 12002によって産生される抗体混合物を、1日につき体表面積1m2当たり1mg〜4.5mgの量で、特に1日につき体表面積1m2当たり2mg〜4.5mgの量で含むことができる。一実施態様によれば、1日につき体表面積1m2当たりその抗体混合物を約2mgという量、または1日につき体表面積1m2当たりその抗体混合物を約3mgという量、または1日につき体表面積1m2当たりその抗体混合物を約4.5mgという量を患者に投与することができる。ハイブリドーマ細胞株寄託物PD 12002によって産生される抗体混合物を1日につき体表面積1m2当たり2mg、または3mg、または4.5mgという量を用いると、臨床でうまくいく。さらに別の一実施態様では、患者に投与する医薬組成物は、その抗体を、1日につき体表面積1m2当たり0.1〜10mgの量で含んでいる。
【0169】
一実施態様によれば、本発明の医薬組成物の投与経路は、静脈内投与(例えば静脈内輸液または静脈内注射)である。場合によってはそれに加え、少なくとも1種類の免疫抑制薬(例えばコルチコステロイド、シクロスポリン(特にシクロスポリンA)からなるグループから選択した免疫抑制薬)を抗体とともに、または抗体とは別に投与することができる。
【0170】
体表面積(BSA)は、公知の方法で計算することができる。例えばある患者の体表面積(BSA)は、BSA(m2)のモステラーの公式=([身長(cm)×体重(kg)]/3600)1/2(Mosteller R.D.、N. Engl. J. Med.、1987年10月22日;第317巻(17):1098ページ;その内容が、参考としてこの明細書に組み込まれている)に従って計算すること、またはBSA(m2)のデュブワとデュブワの公式=0.20247×身長(m)0.725×体重(kg)0.425(DuBois D;DuBois E.F.、Arch. Int. Med.、1916年、第17巻:863〜871ページ;その内容が、参考としてこの明細書に組み込まれている)に従って計算することができる。好ましい一実施態様によれば、モステラーの公式を用いて患者の体表面積(BSA)を計算する。
【0171】
再生不良性貧血の治療に用いる医薬組成物は、本発明の少なくとも1種類の抗体を含み、場合によっては医薬として許容可能な少なくとも1種類の賦形剤を含むことができる。本発明のその少なくとも1種類の抗体(例えば1種類の抗体、または2種類以上の抗体)は、再生不良性貧血の治療に用いるため、1日につき体表面積1m2当たり1mg〜2mgの量で、特に、1日につき体表面積1m2当たり約2mgの量で患者に投与することができる。本発明のその少なくとも1種類の抗体は、医薬組成物の中に上記の量で、または上記の範囲の量で存在することができる。特に、医薬組成物は、静脈内投与(例えば静脈内輸液または静脈内注射)によって投与することができる。場合によっては、さらに少なくとも1種類の免疫抑制薬(特にシクロスポリンA)を抗体とともに、または抗体とは別に患者に投与することができる。一実施態様によれば、再生不良性貧血の治療に用いる医薬組成物は、ハイブリドーマ細胞株寄託物PD 12002によって産生される抗体混合物を含み、場合によっては医薬として許容可能な少なくとも1種類の賦形剤を含むことができる。
【0172】
一実施態様によれば、再生不良性貧血の治療に用いるため、ハイブリドーマ細胞株寄託物PD 12002によって産生される抗体混合物を、1日につき体表面積1m2当たり1mg〜2mgの量で、特に1日につき体表面積1m2当たり約2mgの量で投与することができる。
【0173】
さらに、本発明の抗体は、例えば移植片対宿主病(GvHD)と再生不良性貧血の少なくとも一方の治療および/または予防に使用するため、または造血幹細胞移植後の生着を促進するのに使用するため、特に上記の因子を考慮して、例示した上記の範囲よりも少ない容量または多い用量で投与することができる。本発明の医薬組成物は、短期間作用する製剤、迅速に放出される製剤、長期間作用する製剤、徐放製剤のいずれかにすることができる。
【0174】
さらに、本発明の医薬組成物は、想定する用途に応じ、生物活性剤をさらに含むことができる。
【0175】
本発明の医薬組成物は、少なくとも1種類の免疫抑制薬(特に、有効な量の少なくとも1種類の免疫抑制薬)をさらに含むことができる。免疫抑制薬として、例えば、コルチコステロイド(特に6-メチルプレドニゾロン)、シクロスポリン(特にシクロスポリンA)からなるグループから選択した少なくとも1種類の薬が可能である。さらに、医薬組成物は、第2の活性成分が抗CD26抗体として同じ組成物の中に含まれていない治療薬の組み合わせを含むことができる。
【0176】
一実施態様では、(例えば移植片対宿主病と再生不良性貧血の少なくとも一方の治療および/または予防に使用するために、または造血幹細胞移植後の生着を促進するのに使用するために)本発明の少なくとも1種類の抗体(特に本発明の抗体混合物)を含む本発明の医薬組成物は、1種類以上のコルチコステロイド、1種類以上の抗ヒスタミン剤、水、塩化ナトリウムを含むことができる。特に、医薬組成物は、1種類以上のコルチコステロイド、1種類以上の抗ヒスタミン剤、生理食塩水(特に約0.9%w/vのNaClを含む生理食塩水)を含むことができる。特に、これらの水性医薬組成物は、輸液(特にゆっくりとした輸液)によって、特に静脈内投与することができる。本発明のその少なくとも1種類の抗体(特にハイブリドーマ細胞株寄託物PD 12002によって産生される抗体)と、1種類以上のコルチコステロイドと、1種類以上の抗ヒスタミン剤は、それぞれ単独で、または組み合わせとして、治療に有効な量で存在していることが好ましい。特に、医薬組成物は、移植片対宿主病の治療および/または予防に使用するため、本発明の少なくとも1種類の抗体を、1日につき体表面積1m2当たり1mg〜4.5mgの量で含むこと、または再生不良性貧血の治療および/または予防に使用するため、本発明のその少なくとも1種類の抗体を、1日につき体表面積1m2当たり1mg〜2mgの量で含むことができる。さらに、医薬組成物は、本発明の少なくとも1種類の抗体(特に、この明細書で議論した抗体混合物)を、現在好ましいと考えられている範囲の量、または量で含むことができる。さらに、医薬組成物は、第2の活性成分が抗CD26抗体として同じ組成物の中に含まれていない治療薬の組み合わせを含むことができる。
【0177】
コルチコステロイドはこの分野では周知であり、特に、無機コルチコステロイドとグルココルチコステロイドを含むことができる。グルココルチコステロイドは抗炎症剤になることができる。この明細書では、コルチコステロイドという用語に、特に脊椎動物の副腎皮質で産生されるステロイドのほか、合成コルチコステロイド、または合成または天然のコルチコステロイド類似体(その中には、天然のステロイド・ホルモン(例えばコルチゾン、ヒドロコルチゾン)の活性を真似た化合物が含まれる)を含めることができる。コルチコステロイド類似体には、特に、副腎皮質で産生される天然のあらゆるステロイドと構造および/または機能が似た合成または天然の化合物を含めることができる。
【0178】
1種類以上のコルチコステロイドの選択は、ジプロピオン酸アルクロメタゾン、アムシノニド、アムシナフェル、アムシナフィド、ベクラメタゾン、ベータメタゾン、ジプロピオン酸ベータメタゾン、吉草酸ベータメタゾン、プロピオン酸クロベタゾン、クロロプレドニゾン、クロコルテロン、コルチゾール、コルチゾン、コルトドキソン、二酢酸ジフルオロゾン、デスシノロン、デソニド、デフルプレドネート、ジヒドロキシコルチゾン、デゾキシメタゾン、デキサメタゾン、デフラザコルト、ジフロラゾン、二酢酸ジフロラゾン、ジクロリゾン、ベータメタゾンのエステル、フルアザコルト、フルセトニド、フルクロロニド、フルドロチゾン、フルオロコルチゾン、フルメタゾン、フルニソリド、フルオシノニド、フルオシノロン、フルオシノロンアセトニド、フルコルトロン、フルペロロン、フルプレニゾロン、フルロアンドレノロンアセトニド、フルオシノロンアセトニド、フルランドレノリド、フルオラメトロン、プロピオン酸フルチカゾン、ヒドロコルチゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、吉草酸ヒドロコルチゾン、ヒドロコルタメート、ロテプレンドール、メドリゾン、メプレドニゾン、メチルプレドニゾン、メチルプレドニゾロン、6-メチルプレドニゾロン、フロ酸モメタゾン、パラメタゾン、酢酸パラメタゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、プレドニドン、プレドニカルベート、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロンヘキサカトニド、チキソコルトールプレドニゾロン、トリアムシノロンと、これら化合物の医薬として可能な塩、これら化合物の誘導体、これら化合物の混合物からなるグループから行なうことができる。
【0179】
抗ヒスタミン剤はこの分野で知られており、抗ヒスタミン剤として、特に、ヒスタミンの作用を減らすこと、またはヒスタミンの作用と拮抗することのできる医薬が可能である。
【0180】
1種類以上の抗ヒスタミン剤の選択は、特に、アステミゾール、アゼラスチン、ブクリジン、ブロムフェニラミン、クロルフェニラミン、セチリジン、クレマスチン、シクリジン、デスロラチジン、デクスブロムフェニラミン、ジフェンヒドラミン、ドキシルアミン、エバスチン、エメダスチン、エピナスチン、フェキソフェナジン、ヒドロキシジン、ケトチフェン、レボカバスチン、レボセチリジン、ロラチジン、メキタジン、ミゾラスチン、オロパタジン、オキサトミド、フェニンダミン、フェニラミン、ピリラミン、テルフェニジン、トリプロリジンと、これらの化合物の医薬として許容可能な塩、異性体、プロドラッグからなるグループから行なうことができる。
【0181】
別の1つの特徴によれば、本発明により、(i)本発明の少なくとも1種類の抗体(特に本発明の抗体混合物、または本発明の抗体混合物を含む組成物)に加え、(ii)a)少なくとも1種類の免疫抑制薬(例えばコルチコステロイドとシクロスポリン(特にシクロスポリンA)からなるグループから選択した免疫抑制薬)、またはb)少なくとも1種類のコルチコステロイドと少なくとも1種類の抗ヒスタミン剤を含むキットが提供される。少なくとも1種類の抗体は、ハイブリドーマ細胞株寄託物PD 12002によって産生される抗体を含むこと、またはその抗体からなることが可能である。特に、キットは、移植片対宿主病の治療および/または予防に使用するため、本発明のその少なくとも1種類の抗体を、1日につき体表面積1m2当たり1mg〜4.5mgの量で含むこと、または再生不良性貧血の治療および/または予防に使用するため、本発明のその少なくとも1種類の抗体を、1日につき体表面積1m2当たり1mg〜2mgの量で含むことができる。さらに、医薬組成物は、この明細書で議論した抗体混合物を、現在好ましいと考えられている範囲の量、または量で含むことができる。
【0182】
キットとして、薬として用いるためのキット、特に、移植片対宿主病(GvHD)(好ましくは造血幹細胞移植後のGvHD)の予防および/または治療に使用するためのキット、および/または再生不良性貧血(好ましくは重い再生不良性貧血)の治療に使用するためのキット、および/または幹細胞移植後の生着を促進するためのキットが可能である。複数部分からなるキットという用語と、キットという用語は、この明細書では同じ意味で用いる。
【0183】
非ヒト動物(特に非ヒト哺乳動物の遺伝子操作によって得られるトランスジェニック動物)において、当業者に知られている方法により、本発明に記載したヌクレオチド配列の少なくとも1つを用いて行なう生体内とインビトロでの本発明の抗体の産生も、本発明の範囲に含まれる。
【0184】
以下に、非限定的な実施例を参照して本発明を詳細に記述する。しかし本発明が以下の実施例に限定されはしないことを理解されたい。
【実施例】
【0185】
実施例1
ヌクレオチド配列の決定
【0186】
このプロセスは3段階にまとめることができる。
【0187】
段階I - 抗体鎖をコードしている遺伝子のクローニング
・CDina26を産生するハイブリドーマ細胞(PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株、上記参照)からの全RNAの抽出;
・逆転写;
・プライマとして特異的なオリゴヌクレオチドを用いた興味の対象である遺伝子の増幅;
・原核ベクターを用いた遺伝子のクローニング;
・細菌の形質転換;
・クローニング手続きの制御と、形質転換された適切なクローンの選択。
【0188】
段階II - 抗体可変鎖をコードしている遺伝子のシークエンシングとバイオインフォマティクス分析:
・VH鎖とVL鎖の両方に関する100個のコロニーの採取とシークエンシング;
・配列のバイオインフォマティクス分析;
・VH鎖とVL鎖に関するコンセンサス配列の生成(必要な場合)と、塩基が異なっているコンセンサス配列とその塩基の割合の指摘。
【0189】
段階III - 抗体定常鎖をコードしている遺伝子のシークエンシング:
・VL鎖について、対応するCL鎖のシークエンシング;
・VH鎖について、対応するCH1-CH2-CH3鎖のシークエンシング。
【0190】
結果から、mRNAサンプルに、VL鎖配列の3つのグループ(VLグループ1、VLグループ2、VLグループ3)とVH鎖配列の2つのグループ(VHグループ1、VHグループ2)が存在していることがわかる。
【0191】
アミノ酸配列の決定
【0192】
質量分析とN末端シークエンシングを利用してCDina26サンプルに存在するアミノ酸配列を確認した。CDina26サンプルでは、VLグループ1とそれに関連するCL配列と、VLグループ3鎖と、CH1-CH2-CH3鎖に関係するVHグループ1の存在が確認された。VL配列グループ2も、VH配列グループ2も、CDina26抗体サンプル中にアミノ酸配列としては検出されなかった。
【0193】
実施例2
ヒトCD26とブタCD26へのCDina26の結合
【0194】
Biacore(登録商標)アッセイとマルチパラメータ・フローサイトメトリーにより、ヒトCD26へのCDina26の結合を、ミニブタCD26へのCDina26の結合と比較した。CDina26は、ブタ抗原を、可溶性タンパク質としても、Tリンパ球の表面に発現する膜貫通タンパク質としても、認識することができない。
【0195】
1.フローサイトメトリー分析を利用し、細胞表面に発現しているCD26にCDina26が結合する能力を調べた。
【0196】
密度勾配遠心分離によってリンパ球をヒトとミニブタの末梢血サンプルから単離した。ヒトTリンパ球へのCDina26の結合をマルチパラメータ・フローサイトメトリーによって分析した。
【0197】
CD3マーカーを発現しているヒトTリンパ球の45%超がCDina26に結合する。逆に、CD3マーカーを発現しているブタTリンパ球のほんの2%しかCDina26に結合しない。この状況を図9に見ることができる。
【0198】
2.(Sigma社から購入したCAT# D4943とD7052の)ヒト抗原またはブタ抗原へのCDina26の結合をBiacore(登録商標)によって分析した。
【0199】
Biacore(登録商標)T100センサー・チップのフロー・セルに以前に固定化したおいたポリクローナル抗マウスIg抗体により、CDina26をマトリックスに捕獲した。溶液にしたヒト抗原またはブタ抗原を、固定化されたCDina26の上に注入した。
【0200】
固定化されたCDina26の上に2通りの濃度で注入したヒト抗原は、用量に依存した応答を示し、大きなアフィニティで結合した。それは、2.8×10-5/秒という動的解離速度によって示される。
【0201】
固定化されたCDina26の上に注入したブタ抗原は結合しなかった。
【0202】
図11は、捕獲されたCDina26の表面へのヒト抗原(左)とブタ抗原(右)の結合をBiacore(登録商標)共鳴単位(RU)で測定した値を示している。
【0203】
実施例3
抗体作製
【0204】
ジェノバ(イタリア国)のCBA-ICLCにPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によってCDina26を産生させる。このハイブリドーマは、無血清培地の中で培養することができる。CDina26は、マウス抗体の混合物を含んでいる。特に、CDina26は、IgG 2Bクラスに属していてヒトCD26に特異的に結合するマウス・モノクローナル抗体を含んでいる。
【0205】
CDina26を含む医薬組成物は、CDina26を含む無色透明な溶液の形態で存在している。この溶液は、静脈内輸液に用いることができる(例えば溶液1ml中にCDina26が1mg;この溶液はバイアルに収容できる)。
【0206】
実施例4
インビトロでの薬理動態の研究
【0207】
インビトロでの薬理動態の研究を実施し、CD26に対するマウス・モノクローナル抗体の特徴、特にPD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生される抗体(この明細書ではCDina26と呼ぶ)の特徴を明らかにした。
【0208】
この研究の目的は、免疫応答に関与する細胞集団、特に:
- Tリンパ球
- Bリンパ球
- NK(ナチュラル・キラー)細胞
- 単球
- 樹状細胞
の表面でのCD26の発現と、CD26への特異的結合を評価することであった。
【0209】
実施例4a
CDina26抗原の発現を、5人の健康なドナー(表1の“ESP.1”〜“ESP.5”に対応)から精製した休止状態のT細胞、B細胞、NK細胞(T0)で評価した後、同種異系刺激(リンパ球培養物(MLC))、分裂促進刺激(フィトヘマグルチニン(PHA))、抗原性刺激(カンジダ・アルビカンス)のいずれかを通じて活性化させた細胞で評価した。
【0210】
本出願では、この分野で知られている平均相対蛍光強度の略号としてMFIRを用いる。
【0211】
表1:PHAを用いた分裂促進刺激の前と後の健康なドナーにおけるリンパ球部分集合内のCDina26+細胞の割合とMFIR指数の評価
“%CD26”と“MFIR”の列では、それぞれ、第1の数値がT0に対応し、矢印の後の第2の数値が刺激を受けた細胞に対応する:
A:数値または発現率(MFIR)の増加
D:数値または発現率(MFIR)の減少
T0は、時刻0、すなわち時間軸上で細胞を刺激する前の時点の略号である。
【表1】
【0212】
表1からわかるように、活性化されたリンパ球の表面でのCD26の発現は、PHAを用いて刺激した後には、T0と比べ、実験番号1(“ESP.1”)におけるT CD3+/CD4+とT CD3+/CD8+を除き、CD26+細胞の割合の増加を示した。発現レベル(MFRI指数の値)は、T部分集合、B部分集合、NK部分集合が異なるとさまざまであり、5人の健康なボランティアの間でもさまざまであった。
【0213】
さらに、分裂促進刺激は、MFIRの値をわずかに上昇させるように見える(表1)。
【0214】
実施例4b
表2に示した結果の分析から、すべての健康なボランティアのT CD3+/CD4+部分集合を除く分析したすべての部分集合において、抗原性刺激の後にCDina26抗原を発現しているリンパ球の割合が増加することがわかった。
【0215】
1つの実験(“ESP.5”)を除く他のすべての実験において、MFIRの値が増加する。時刻0と比べたときのMFIR値の増加は、カンジダで刺激した培養物におけるほうが、PHAで刺激した培養物におけるよりも大きいことにも注意すべきであろう。カンジダ抗原刺激は、特にT CD3+/CD16+部分集合とT CD3+/CD56+部分集合において、細胞膜の表面におけるCD26分子の発現を顕著に増加させる。
【0216】
表2:カンジダ・アルビカンスを用いた抗原性刺激の前と後の健康なドナーにおけるリンパ球部分集合内のCDina26+細胞の割合とMFIR指数の評価
“%CD26”と“MFIR”の列では、それぞれ、第1の数値がT0に対応し、矢印の後の第2の数値が刺激を受けた細胞に対応する:
A:数値または発現率(MFIR)の増加
D:数値または発現率(MFIR)の減少
【表2】
【0217】
実施例4c
表3から、すべての実験において、CDina26抗原に関してプラスになるリンパ球の割合は、混合リンパ球培養物を用いた刺激の後に、T CD3+/CD4+部分集合を除くすべてのリンパ球部分集合において増加したことがわかる。
【0218】
表3:MLC(混合リンパ球培養物)を用いた同種異系刺激の前と後の健康なドナーにおけるリンパ球部分集合内のCDina26+細胞の割合とMFIR指数の評価
“%CD26”と“MFIR”の列では、それぞれ、第1の数値がT0に対応し、矢印の後の第2の数値が刺激を受けた細胞に対応する:
A:数値または発現率(MFIR)の増加
D:数値または発現率(MFIR)の減少
【表3】
【0219】
実験番号2(“ESP.2”)と実験番号5(“ESP.5”)のT CD3+/CD4+部分集合を除くすべての部分集合とすべての実験において、MFIR指数は、刺激後に、時刻0と比べて増加した。
【0220】
カンジダを用いた刺激と同様、同種異系刺激により、大半のリンパ球の部分集合においてCDina26抗原の発現とMFIR指数が常に増加する。主に実験番号3(“ESP.3”)のT CD3+/CD16+部分集合とT CD3+/CD56+部分集合で顕著な増加が観察された。
【0221】
実施例4d
最後に、アロHSCT後の患者のリンパ球部分集合でCDina26抗原の発現を調べた。特に、移植後の免疫再構成をモニタするため初期試験の間に2人の患者を評価した。その一方で、急性GvHDが進行した4人の患者では、GvHDの発症中と治癒後の両方で評価を行なうことができた。対照と比べると、患者は、T部分集合、NK部分集合、B部分集合の分布が大きく異なっていた(表4)。これは、移植後の数ヶ月間に起こる造血再構成のプロセスに合致している。
【0222】
表4:HSCTを受けた6人の患者での免疫再構成時のリンパ球部分集合の分布(%で測定)と、5人の健康なドナーを評価することによって得られた範囲との比較
【表4】
【0223】
すべての患者でCD26の割合を分析すると(表5)、部分集合T CD3+/CD16+と部分集合T CD3+/CD56+と部分集合NKで、対照範囲と比べてこの分子の発現が増加していた。
【0224】
表5:HSCTを受けた6人の患者での免疫再構成時のリンパ球部分集合中のCDina26+細胞の分布(%で測定)と、5人の健康なドナーを評価することによって得られた範囲との比較
【表5】
【0225】
aGvHDが進行した患者では、いくつかの場合に、%の値が、この合併症のない2人の患者(CK、IP)よりも大きい。患者DFは、すべての部分集合でCD26の割合が顕著に大きくて細胞活性の指数が非常に大きかったため、分子CD26のMFIR指数を評価することができなかった。
【0226】
aGvHDが進行しなかった2人の患者では、MFIR指数が対照の範囲に入ったが、aGvHDが進行している3人の患者では、MFIR指数がほぼすべての部分集合で増加し、特に部分集合T CD3+/CD16+とT CD3+/CD56+で最も増加した(表6)。
【0227】
表6:HSCTを受けた6人の患者での免疫再構成時のリンパ球部分集合中のCDina26+細胞の分布MFIRとして測定)と、5人の健康なドナーを評価することによって得られた範囲との比較
【表6】
【0228】
実施例4e
CD26の発現を、間葉幹細胞、内皮細胞、線維芽細胞でも調べた。
【0229】
3人の健康な成人の骨髄に由来するインビトロで増殖させた間葉幹細胞(MSC)を用いて3つの実験を行なった。フローサイトメトリーによる分析から、MSCに特徴的なマーカーであるCD13とCD73でプラスになる細胞が、CD26(CDina26抗原)の発現に関してはマイナスであることがわかった。3人の健康な被験者の臍帯に由来する内皮細胞(DC)を用いて3つの実験を行なった。内皮細胞は、CD26(CDina26抗原)の発現に関してマイナスである。
【0230】
3人の健康な成人に由来する皮膚線維芽細胞を用いて3つの実験を行なった。フローサイトメトリーによる分析から、40%の線維芽細胞がCD26を発現し(範囲は32%〜45%)、MFIR指数は4〜13であることがわかった。
【0231】
インビトロで分化した樹状細胞を用いて3つの実験を行なった。フローサイトメトリー分析から、インビトロで分化したDCの特徴的なマーカーであるCD1aに関してプラスの細胞はCD26の発現に関してマイナスであることがわかった。
【0232】
フローサイトメトリーから、CD14に関してプラスの単球細胞は、CD26の発現に関してプラスであり(範囲は97%〜100%)、MFIR指数は1〜17の範囲であることがわかった。
【0233】
これらのデータは、T部分とNK部分集合において膜表面でのCDina26抗原の割合と発現(MFIR)の両方が増加することを示していた。
【0234】
aGvHDの患者では、健康なドナーと比べたとき、T CD3+/CD16+、T CD3+/CD56+、NKにおいてCD26の発現増加を観察することができる。
【0235】
これらのデータには、CDina26という抗CD26モノクローナル抗体が活性化された調節T細胞に特異的に結合する能力を持っていてそれら調節T細胞の増殖に干渉するとともに、aGvHDにおける免疫応答を変化させる役割を持つことがまとめて示されている。
【0236】
実施例5
臨床研究:移植片対宿主病(GvHD)の治療
aGvHD(急性移植片対宿主病)患者におけるCDina26の安全性と効果を確立するための臨床研究を実施した。
【0237】
まとめ
この研究に参加した患者は、2mg/日(1日当たり平均で1.11mg/m2に対応)という決められた用量を5日連続して投与された。患者に投与した組成物は、100mlの無菌生理食塩水に希釈した本発明の抗体を体表面積に応じて2〜10mgの範囲で含むとともに、コルチコステロイドと抗ヒスタミン剤を含んでいた。患者は、標準的なGvHD療法(6-メチルプレドニゾロンを腹腔内に1〜2mg/kg/日と、シクロスポリン)を継続して受けた。支持療法は、従来からの抗菌、抗真菌、抗ウイルス療法であった。本出願では、mg/m2とmg/(m2体表面積)という単位は、同じ意味で用いる。
【0238】
この研究の主な評価基準は、研究している療法に対して患者が“応答する”頻度であり、その療法を5日間実施してから10日目に評価した。
【0239】
応答性の定義は、以下の基準に基づいていた:
・完全な応答(CR)→ GvHDのあらゆる兆候の解消
・部分的応答(PR)→ GvHDのステージの改善
・安定性→ GvHDのステージの変化なし
・重篤化→ GvHDのステージの進行
【0240】
完全な応答と部分的応答の患者を応答性と見なした。
【0241】
表7:グルックスバーグの急性GvHDのステージ分類(Glucksberg他、1974年)
【表7】
【0242】
表8:グルックスバーグの急性GvHDのステージ分類(Glucksberg他、1974年)
【表8】
GI:胃腸管
イーステム協同腫瘍学グループ(ECOG)達成状態:
別の評価として、以下のものが含まれる:
・GvHDのステージ分類、器官ごと(この評価は、+10日目と+30日目に実施する);
・感染症、出血、輸血の必要性といった合併症の発生(この評価は、+30日目に入院が終わるまでに実施する);
・1年後の訪問時に以下のパラメータを記録する:生存状態、カモフスキー指数、慢性GvHD、移植を実施する原因となった血液疾患の再発可能性、新たな腫瘍の出現可能性。
【0243】
人口統計の特徴とそれ以外の基本的特徴
効果を評価するためのデータ・セットには11人の患者が含まれていた。7人の患者がステージIIIのaGvHDであり、1人の患者がステージIVのGvHDであり、1人の患者がステージIIのGvHDであった。
aGvHDが発症する時期の中央値は10日であった(4〜73日の範囲)。
内臓が関与しているため、患者全員がリスクの大きなaGvHDであった。
【0244】
効果の評価:5日間連続して腹腔内に毎日投与した2mgのCDina26に患者が“反応する”割合は、12人中11人である(90%):6人が完全に反応し、5人が部分的に反応し、1人は反応しない。
【0245】
グルックスバーグ急性GvHDステージ分類における4人の患者(患者01、03、12、14)でのデータを追跡する。以下の表では以下の略号を用いる:
CDina26前は、CDina26を用いた治療前の患者のGvHDを表わす;最良CDina26は、CDina26を用いた治療後の患者のGvHDのステージの最良の値を表わす;最終CDina26は、患者のGvHDの最も最近のステージの値を表わす。追跡の数値は、CDina26で治療した後の日数を表わす。
【0246】
表9:
【表9】
【0247】
図4aは、研究中の患者の1日目、10日目、30日目、最終日(図4aの中の“最終”)における皮膚GvHDのステージ分類を示している。図4bは、研究中の患者の1日目、10日目、30日目、最終日における肝臓GvHDのステージ分類を示している。図4cは、研究中の患者の1日目、10日目、30日目、最終日における消化管GvHDのステージ分類を示している。
【0248】
免疫回復
急性GvHDでは、特にステロイドを用いた長期にわたる治療の後に、免疫不全が一般に見られる。感染症は、重い複合免疫不全の帰結である。図5に、6人の患者でのCD4のカウント数の絶対値を示してある。CD4のカウント数は、CDina26を用いた治療後、抗体の細胞溶解活性が強い場合に予想されるように減少するのではなく、増加するか、実質的に安定した状態に留まる。“カウント数/μl”という単位は、患者の血液1マイクロリットル当たりのカウント数を表わす。
【0249】
有害事象の簡単なまとめ
有害事象の検討を通じてCDina26の安全性を調べた。血液系と呼吸器系が関与する深刻な毒性は、コンディショニング計画と移植プロセスの予想される帰結であると見なされた。全部で8件の深刻な有害事象と26件の深刻でない有害事象が、CDina26を用いた治療とは無関係であると報告された。最も多く報告された有害事象は、SOC(器官別大分類)の“感染と侵入”(n=5)、“腎臓と泌尿器の異常”(n=5)、“呼吸器、咽喉、隔膜の異常”(n=5)、“皮膚と皮下組織の異常”(n=4)に関係していた。
【0250】
感染症は、急性GvHDとステロイド療法で頻繁に見られる合併症である。したがって患者で多数の感染エピソードが見られるのは予想外ではなかった。
【0251】
8件の致命的な有害事象が、+100日後に発生した。そのうちのどれも、CDina26を用いた治療と関係があるとは見なされなかった。
【0252】
同種異系造血幹細胞移植後のステロイド抵抗性急性移植片対宿主病は大きな死亡率と結び付いているという事実があるため、移植関連死亡率(移植に関係した合併症が原因の死。そのうちの大半はaGvHDに関係している)を評価した。
【0253】
すべての患者をCDina26で治療したことを考慮すると、治療から6ヶ月後の移植関連死(TRM)の発生率は25%である(12人中の3人)。TRMのうちで2人の患者がGvHDで死亡した。そのうちのどれも、CDina26を用いた治療とは無関係であった。
【0254】
図6は、ステロイドとシクロスポリンとこれら以外の免疫抑制薬で治療したステージIII〜IVの急性GvHDの13人の対照患者の移植関連死の推定累積件数を、ステロイドとシクロスポリンとCDina26で治療した9人の患者と比較して示している。
【0255】
CDina26を投与された9人の患者での移植関連死の累積件数は12%であるのに対し、CDina26を投与されなかった対応する対照では62%である(p=0.02)。
【0256】
図7は、ステロイドとシクロスポリンとこれら以外の免疫抑制薬で治療したステージIII〜IVの急性GvHDの13人の対照患者の推定生存率を、ステロイドとシクロスポリンとCDina26で治療した9人の患者と比較して示している。p値は0.2である。
【0257】
結論として、CDina26患者は、非CDina26患者、すなわちCDina26で治療しなかった患者よりも死亡が少ない。
【0258】
結論
11人の患者でのステロイド抵抗性急性GvHDに関し、CD26に対するマウス・モノクローナル抗体療法の結果は、応答と生存の両方に関して非常に有望であった。現状では有効な治療手段がなく、過去30年間にわたって治療とその結果にまったく改善が見られない状況において、CDina26により、患者で大きな応答率と大きな生存率が得られた。移植とその合併症に直接起因する移植関連死(TRM)は、CD26に対するマウス・モノクローナル抗体を投与されなかったGvHD III〜IVの対照患者では62%であるのに対し、CDina26を投与された患者では25%であることを指摘しておくべきである。われわれは、これらの結果が医師にとって非常に有望であると考える。
【0259】
実施例6
本発明の少なくとも1種類の抗体(特にPD 12002ハイブリドーマ細胞株寄託物によって産生される抗体CDina26)を含む医薬組成物は、例えば以下の組成を持つ。
表10:
【表10】
【0260】
この医薬組成物は、特に静脈内注射によって投与することができる。
【0261】
実施例7
SAA(重い再生不良性貧血)の治療
1人の患者が、同種異種HSCTの後に再生不良性貧血を発症した後天性SAAになった。この患者は、混合CD3キメラ現象(37%自己由来)を有するため、自己攻撃性T細胞が持続して再生不良性貧血を起こしていることが示唆される。骨髄細胞に関するドナーのキメラ現象は、100%ドナーであった。
【0262】
この患者が、外来専用病院で外来患者として、抗CD26モノクローナル抗体CDina26を2mg/日の割合で腹腔内に(静脈内投与のための溶液の形態で提供される2mgのCDina26)5日間にわたって投与された。治療はうまくいき、副作用はなかった。
【0263】
治療後の患者の血液カウント数は以下の通りである。
【表11】
【0264】
抗CD26抗体を用いた5日間にわたる治療を実施した。
【表12】
【0265】
(血液のカウント数は、抗CD26抗体を用いた治療の87日後、すなわち治療の約3ヶ月後に得た)。以下の略号を使用した:Hb(ヘモグロビン)、WBC(白血球細胞)、Pt(血小板)。上記のデータは、CD26の抑制が、その免疫調節効果と幹細胞ホーミングにおける役割のために後天性SAAの患者にとって恩恵となる可能性を示している。
【0266】
実施例8
PD 12002エピトープのマッピング
PD 12002として寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生されるCDina26抗体によって認識されるエピトープを、CLIPS(登録商標)エピトープ・マッピング技術によって同定した。例えばアメリカ合衆国特許第7,863,239号と第7,972,993号を参照のこと(その開示内容の全体が、この明細書に参考として組み込まれている)。簡単に述べると、CLIPS(登録商標)技術では、構造的にペプチドを決められた三次元構造の中に固定する。その結果として、最も複雑な結合部位でさえ機能が類似する。CLIPS(登録商標)反応が、CLIPS(登録商標)で足場となるブロモ基と、システインのチオール側鎖の間で起こる。この反応は、穏やかな条件下で迅速かつ特異的である(Timmerman他、J. Mol. Recognit.、2007年;第20巻:283〜290ページ)。
【0267】
コンビナトリアル・マトリックス設計を利用してヒトCD26標的タンパク質を重複するペプチド・コンストラクトに変換することでCLIPS(登録商標)ライブラリのスクリーニングが始まる。固体担体上に直線状ペプチドのマトリックスを合成し、それをその後、空間的に限定されたCLIPS(登録商標)コンストラクトの形にする。正しいコンフォメーションになった不連続なエピトープのいくつかの部分を代表するコンストラクトは抗体と大きなアフィニティで結合するため、それを検出して定量化する。不完全なエピトープを代表するコンストラクトは、抗体と小さなアフィニティで結合するのに対し、エピトープを含まないコンストラクトはまったく結合しない。アフィニティ情報を反復スクリーニングで利用してエピトープの配列とコンフォメーションの詳細を明らかにする。
【0268】
最初に、ヒトCD26タンパク質配列のアデノシンデアミナーゼ結合ドメイン(配列番号144の356〜522)を詳細な分析のために選択した。CD26のこの領域を増殖させ、2つの重複したドメインに分割した。すなわち配列番号144の残基260〜400と残基380〜538である。競合結合アッセイにより、CDina26が、ヒトCD26の残基R358(配列番号144)の近くに局在しているエピトープを認識することが明らかになった。
【0269】
次に、CD26の重複するペプチドを合計で5833個合成し、CDina26による特異的結合を調べた。直線状ペプチドの分析から、CDina26によって特異的に認識される多数の領域が同定された。CD26の以下の4つの領域が、有意な結合を示した:
WWSPNGTFLAYAQ(配列番号144の残基215〜227に対応する配列番号148)、
QLRCSGPGLPLYTLH(配列番号144の残基466〜483に対応する配列番号149)、
LNETKFWYQMILP(配列番号144の残基519〜531に対応する配列番号150)、
MGFVDNKRIAIWGWSY(配列番号144の残基616〜631に対応する配列番号151)。
【0270】
CD26のこれら4つの領域は、公開されている結晶構造では離れているように見えるため、すべてがCDina26にとって単一の不連続なエピトープを形成するとは限らない可能性がある。さらに、公開されているCD26の結晶構造に基づくと、4つの領域のうちの3つが、ほぼ完全にCD26の中に埋もれているように見える。例外はWWSPNGTFLAYAQ(配列番号148)であり、これは、少なくともPNGTF(配列番号144の残基218〜222に対応する配列番号152)が露出している。
【0271】
第3に、CD26の3つの異なる表面領域を選択して不連続なエピトープを分析した。マトリックス1は、触媒領域と、その触媒領域の近傍にあるN末端領域をカバーする(配列番号144の残基260〜400に対応)。マトリックス2は、触媒領域と、その触媒領域の近傍にあってマトリックス1と一部が重複するC末端領域をカバーする(配列番号144の残基380〜538に対応)。最後に、マトリックス3は、CD26から突起していて免疫優性構造を形成する特殊なループをカバーする(配列番号144の残基226〜252に対応)。
【0272】
不連続なペプチドは、直線状ペプチドと比べると信号が相対的に少なかったが、その信号はより一貫性があった。3つのマトリックスすべてで得られた結果を合わせることで、CD26の多数のCDina26結合部位が同定された。
【0273】
配列番号144の残基226〜252に対応するCD26の突起ループに焦点を合わせたマトリックス3では、CDina26が顕著に結合する領域はまったく同定されなかった。
【0274】
マトリックス1(配列番号144の残基260〜400に対応する注目領域のN末端)は、以下の3つのCDina26結合領域を生み出した:
DYDESSGRWNCLVAR(配列番号144の残基329〜343に対応する配列番号146)、
DVTWATQERISLQWL(配列番号144の残基302〜316に対応する配列番号147)、
TTGWVGRFRPSEPHF(配列番号144の残基350〜364に対応する配列番号153)。
【0275】
最強の結合が、DYDESSGRWNCLVAR(配列番号146)で観察された。DYDESSGRWNCLVAR(配列番号146)を含むペプチドだけを考慮すると、最もよく結合するペプチドは、RFRPSEPHF(配列番号144の残基356〜364に対応する配列番号154)も含むペプチドであった。RFRPSEPHF(配列番号154)は、上記の特別なR358残基を含んでいる。結合に関するこの特異的な別の効果は、DYDESSGRWNCLVAR(配列番号146)とTTGWVGRFRPSEPHF(配列番号153)を含む不連続なエピトープをCDina26抗体が標的にすることと整合していた。別の一実施態様では、エピトープはDVTWATQERISLQWL(配列番号147)をさらに含んでいる。
【0276】
マトリックス2は、4つの結合領域を生み出した:
TFITKGTWEVIG(配列番号144の残基395〜406に対応する配列番号155)、
DYLYYISNE(配列番号144の残基413〜421に対応する配列番号156)、
SCELNPERCQYY(配列番号144の残基446〜457に対応する配列番号157)、
SGPGLP(配列番号144の残基473〜478に対応する配列番号158)。
【0277】
マトリックス2の諸領域へのCDina26の結合は、DYDESSGRWNCLVAR(配列番号146)への結合よりも弱かった。公開されているCD26の結晶構造に基づくと、領域DYLYYISNE(配列番号156)とSGPGLP(配列番号158)は、大半がタンパク質の内側に隠れているように見える。領域TFITKGTWEVIG(配列番号155)とSAELNPERCQYY(配列番号157)は表面に露出しているため、抗体が近づくことができる。
【0278】
CD26で同定された7つの不連続な結合領域に結合するCDina26を見て比較できるようにしたグラフを図12に示す。この図には、同定された結合配列のうちの1つを含む不連続なペプチドのすべてに対する結合の平均が示されている。ここでは、DYDESSGRWNCLVAR(配列番号146)が最強の結合領域であり、DVTWATQERISLQWL(配列番号147)は、TTGWVGRFRPSEPHF(配列番号153)よりもわずかに強かった。
【0279】
最強の結合領域であるDYDESSGRWNCLVAR(配列番号146)は、公開されているCD26の結晶構造に基づくと、大半が表面に露出している。領域TTGWVGRFRPSEPHF(配列番号153)は、ほぼ完全にタンパク質の内側に隠れている。領域DVTWATQERISLQWL(配列番号147)は、ATQER(配列番号144の残基306〜310に対応する配列番号159)の位置で一部が表面に露出しており、DYDESSGRWNCLVAR(配列番号146)に隣接した位置にある。
【0280】
エピトープのマッピング結果は、DYDESSGRWNCLVAR(配列番号146)を含むCD26の不連続なエピトープにCDina26が特異的に結合することと整合していた。一実施態様では、この不連続なエピトープはさらに、DVTWATQERISLQWL(配列番号147)とPNGTF(配列番号152)の一方または両方を含んでいる。PNGTF(配列番号152)はヒトとブタのCD26の間で保存されているが、このエピトープの他の成分(例えば、ヒトとブタの間で保存されていないDYDESSGRWNCLVAR(配列番号146))での配列の違いは、本来のブタCD26にCDina26を結合させなくするのに十分である。別の一実施態様では、このエピトープはさらに、WWSPNGTFLAYAQ(配列番号148)を含んでいる。
【0281】
実施例9
CD26へのCDina26の結合親和性
表面プラズモン共鳴システム(Biocore(登録商標))を用い、標準的なプロトコルに従ってヒトCD26へのCDina26の親和性を求めた。親和性の測定は、10,000 RUの抗IgG2b抗体(GE Healthcare社、22-0648-97 AC)をカルボキシメチルデキストランチップ(CM5)に固定化して25℃で実施した。CDina26は、最終濃度が50μg/mlのHBS-EP(0.01MのHEPES、pH 7.4、0.15MのNaCl、3mMのEDTA、0.005%の界面活性剤P20)ランニング緩衝液の中のストックとして調製し、それぞれの実験において180秒間に10μl/分の流速で注入することにより、2,000 RUを取り外し可能にチップに固定化した。
【0282】
濃度が5.8×10-6Mのストックの中に、精製された組み換えヒトCD26(rhジペプチジルペプチダーゼIV;Creative BioMart社;CAT# DPP4-116H)を調製した。濃度を30×10-9M、90×10-9M、270×10-9M、810×10-9Mと増加させながらCD26を注入した。CD26サンプルは10μl/分の流速で注入し、HBS-EP緩衝液をランニング緩衝液として用いた。典型的な記録には、CD26を3分間にわたって注入した後、8分間にわたって解離させる操作が含まれていた。生の結合データを標準的な方法に従って分析した。10mMのグリシン-HCl(pH 1.7)を20μl/分の流速で60秒間にわたって注入することにより、抗IgG2b抗体が固定化されたCM5チップを再生させた。
【0283】
CDina26に関する親和性測定の結果を以下に示す。出願人は、CDina26が、従来の抗体よりもより優れた結合特性を有するため、先行技術よりも有意な改善になると考えている。
【表13】
【0284】
当業者には、本発明の範囲と精神から逸脱することなく、本発明の組成物と方法のさまざまな改変とバリエーションが明らかであろう。本発明を具体的な実施態様について記述してきたが、請求項の本発明が必ずしもそのような具体的な実施態様に限定されはしないことを理解すべきである。実際、本発明を実施する上で、記載したやり方について関連分野の当業者にとって明らかなさまざまな改変は、以下の請求項の範囲に含まれることが想定されている。
【0285】
本明細書において、援用されていない程度に引用された全ての文献、例えば特許文献、特許出願、教科書、科学出版物は、そのすべてを本明細書中に援用する。さらに、以下の参考文献も、その参考文献内で引用された参考文献を含めてそのすべてを本明細書に援用する。
【0286】
【表14】
【表15】
【表16】
【表17】
図1a
図1b
図1c
図2a
図2b
図2c
図3-1】
図3-2】
図4a
図4b
図4c
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]