特許第6240212号(P6240212)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6240212導電性シート、その製造方法、カーボン複合ペーストの製造方法、カーボン複合フィラーの製造方法、導電性樹脂材料の製造方法、および導電性ゴム材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6240212
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】導電性シート、その製造方法、カーボン複合ペーストの製造方法、カーボン複合フィラーの製造方法、導電性樹脂材料の製造方法、および導電性ゴム材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/24 20060101AFI20171120BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20171120BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20171120BHJP
   H01B 1/04 20060101ALI20171120BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20171120BHJP
   C01B 32/15 20170101ALI20171120BHJP
【FI】
   H01B1/24 B
   H01B1/00 H
   H01B1/00 K
   H01B13/00 Z
   H01B1/24 A
   H01B1/24 Z
   H01B1/04
   C08J5/18CER
   C08J5/18CEZ
   C01B32/15
【請求項の数】20
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-545303(P2015-545303)
(86)(22)【出願日】2014年10月30日
(86)【国際出願番号】JP2014078948
(87)【国際公開番号】WO2015064708
(87)【国際公開日】20150507
【審査請求日】2016年8月29日
(31)【優先権主張番号】特願2013-228041(P2013-228041)
(32)【優先日】2013年11月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000195029
【氏名又は名称】星和電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 進一
(72)【発明者】
【氏名】松野 研二
(72)【発明者】
【氏名】樋尻 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】堀口 剛
【審査官】 青鹿 喜芳
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/146262(WO,A1)
【文献】 特開2012−056789(JP,A)
【文献】 特開2013−080590(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/026498(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/00−1/24
C01B 32/15
H01B 5/00−5/16
H01B 13/00
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性材料としてのカーボンナノチューブおよびカーボンブラックが樹脂材料に分散された導電性シートであって、
前記カーボンナノチューブを10〜30重量%、および前記カーボンブラックを90〜70重量%の比率で含むカーボン複合フィラーが、前記樹脂材料に均一に分散され、
前記カーボン複合フィラーを10〜50重量%、および前記樹脂材料を90〜50重量%の比率で含み、
表面抵抗値が1〜10Ω/sqであることを特徴とする導電性シート。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性シートであって、
厚みが1mm以下であることを特徴とする導電性シート。
【請求項3】
請求項1または2に記載の導電性シートであって、
前記カーボンナノチューブが、130〜170のアスペクト比を有する多層カーボンナノチューブであり、
前記カーボンブラックが、アセチレンブラックであり、
記樹脂材料が、シリコーン樹脂であることを特徴とする導電性シート。
【請求項4】
請求項1または2に記載の導電性シートであって、
前記カーボンナノチューブが、130〜170のアスペクト比を有する多層カーボンナノチューブであり、
前記カーボンブラックが、アセチレンブラックであり、
記樹脂材料が、油性ウレタン樹脂または水溶性ウレタン樹脂であることを特徴とする導電性シート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の導電性シートであって、
KEC法における周波数100MHzでの電磁波シールド性が、35dB以上であることを特徴とする導電性シート。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の導電性シートであって、
同軸管法における周波数帯域が1〜3GHzでの電磁波シールド性が、少なくとも20dBであることを特徴とする導電性シート。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の導電性シートであって、
デュロメータ硬さが、A40〜A75であることを特徴とする導電性シート。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の導電性シートであって、
白金化合物、酸化鉄、酸化チタン、酸化セリウム、酸化カルシウム、燐酸、水酸化セリウム、水酸化カルシウム、および酸化ケイ素のうち少なくとも1つが、難燃剤として添加されており、
UL94においてV−1以上の難燃性を有することを特徴とする導電性シート。
【請求項9】
導電性材料としてのカーボンナノチューブおよびカーボンブラックを樹脂材料に分散させた導電性シートの製造方法であって、
前記カーボンナノチューブを分散剤に分散させた分散液と、前記カーボンブラックを溶剤に分散させた分散液とを混合した混合液を作製する混合工程と、
前記混合液から前記分散剤を分離してカーボン複合ペーストを作製する分離工程と、
前記カーボン複合ペーストを乾燥してカーボン複合フィラーを作製する乾燥工程と、
前記カーボン複合フィラーと前記樹脂材料とを混練した後、加熱成型を行って導電性シートを作製する成型工程とを含むことを特徴とする導電性シートの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の導電性シートの製造方法であって、
前記混合工程では、前記カーボンナノチューブを10〜30重量%、および前記カーボンブラックを90〜70重量%の比率で含む混合液を作製することを特徴とする導電性シートの製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の導電性シートの製造方法であって、
前記カーボンナノチューブが、130〜170のアスペクト比を有する多層カーボンナノチューブであり、
前記カーボンブラックが、アセチレンブラックであり、
前記分散剤が、水溶性キシラン水溶液であり、
前記溶剤が、アセトンであり、
前記樹脂材料が、シリコーン樹脂であることを特徴とする導電性シートの製造方法。
【請求項12】
請求項10に記載の導電性シートの製造方法であって、
前記カーボンナノチューブが、130〜170のアスペクト比を有する多層カーボンナノチューブであり、
前記カーボンブラックが、アセチレンブラックであり、
前記分散剤が、水溶性キシラン水溶液であり、
前記溶剤が、アセトンであり、
前記樹脂材料が、油性ウレタン樹脂または水溶性ウレタン樹脂であることを特徴とする導電性シートの製造方法。
【請求項13】
請求項11または12に記載の導電性シートの製造方法であって、
前記分離工程では、ろ過によって前記水溶性キシラン水溶液および前記アセトンを前記混合液から分離することを特徴とする導電性シートの製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の導電性シートの製造方法であって、
前記ろ過の際、水と、エタノールまたはイソプロピルアルコールとによって、ろ材をリンスすることを特徴とする導電性シートの製造方法。
【請求項15】
請求項9〜14のいずれか1つに記載の導電性シートの製造方法であって、
前記乾燥工程では、前記カーボン複合ペーストを常温で12時間以上放置した後、130℃以上の温度で3時間以上乾燥させることを特徴とする導電性シートの製造方法。
【請求項16】
請求項9〜15のいずれか1つに記載の導電性シートの製造方法であって、
前記成型工程では、前記カーボン複合フィラーと前記樹脂材料との混練の際、硬化剤、耐熱剤、および難燃剤を添加することを特徴とする導電性シートの製造方法。
【請求項17】
導電性材料としてのカーボンナノチューブおよびカーボンブラックを含むカーボン複合ペーストの製造方法であって、
前記カーボン複合ペーストは、水溶性キシラン水溶液に分散させた前記カーボンナノチューブ、およびアセトンに分散させた前記カーボンブラックを混合して、前記カーボンナノチューブを10〜30重量%、および前記カーボンブラックを90〜70重量%の比率で含む混合液を作製し、ろ過により前記混合液から前記水溶性キシラン水溶液および前記アセトンを分離することによって作製されることを特徴とするカーボン複合ペーストの製造方法
【請求項18】
カーボン複合フィラーの製造方法であって、
請求項17に記載のカーボン複合ペーストの製造方法によって作製されたカーボン複合ペーストを、常温で12時間以上放置した後、130℃以上の温度で3時間以上乾燥させることによって作製されることを特徴とするカーボン複合フィラーの製造方法
【請求項19】
導電性樹脂材料の製造方法であって、
請求項17に記載のカーボン複合ペーストの製造方法によって作製されたカーボン複合ペーストを乾燥させたカーボン複合フィラーを10〜50重量%、および樹脂材料を90〜50重量%の比率で含むことを特徴とする導電性樹脂材料の製造方法
【請求項20】
導電性ゴム材料の製造方法であって、
請求項17に記載のカーボン複合ペーストの製造方法によって作製されたカーボン複合ペーストを乾燥させたカーボン複合フィラーを10〜50重量%、およびゴム材料を90〜50重量%の比率で含むことを特徴とする導電性ゴム材料の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性シート、その製造方法、カーボン複合ペースト、カーボン複合フィラー、導電性樹脂材料、および導電性ゴム材料に関し、詳細には、カーボンナノチューブの再凝集を抑制して導電性を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料に導電性を付与するために、金属粉末、金属繊維、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等の導電性材料を樹脂材料に分散させることが行われている。例えば、カーボンナノチューブ、カーボンブラック等を樹脂材料にそのまま投入し、混練、成型することによって、導電性シートなどの樹脂製品を製造することが行われている。
【0003】
しかし、カーボンナノチューブは自己凝集性が強く、バンドル(束)を解きほぐすことが困難であり、カーボンナノチューブを樹脂材料に均一に分散させることは困難であった。また、カーボンナノチューブを樹脂材料に混練する過程でカーボンナノチューブが再凝集することもあり、カーボンナノチューブの再凝集に起因して導電性が低下するという問題があった。
【0004】
一方、カーボンブラックの中でもアセチレンブラックに関しては、樹脂材料に均一に分散させることが可能であり、アセチレンブラックの濃度を大きくすることによって、導電性の向上を図ることが可能である。しかし、表面抵抗値を一定レベル(例えば50Ω/sq程度)までしか低減することができず、カーボンブラックの濃度を大きくしたとしても、更なる導電性の向上は得られないという問題があった。また、カーボンブラックの過剰添加に起因して樹脂製品の強度低下(例えば引っ張り強度の低下)を招くといった問題もあった。
【0005】
このように、従来では、導電性材料としてカーボンナノチューブを用いた場合には、カーボンナノチューブの再凝集に起因して導電性が低下するという問題があり、導電性材料としてカーボンブラックを用いた場合には、導電性を向上させる点で限界があるという問題があった。
【0006】
なお、カーボンナノチューブの再凝集を抑制することを図った技術として、例えば、特許文献1に示されるような技術が提案されている。この特許文献1には、正極活物質およびカーボンナノチューブが複合化されてなる複合正極活物質の製造方法が開示されており、カーボンナノチューブの再凝集を抑制し、正極活物質とカーボンナノチューブとの分散性を向上させて複合化することで、出力特性に優れた複合正極活物質を得ることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−146284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述したような実情を考慮してなされたもので、カーボンナノチューブの再凝集を抑制して導電性を向上させることが可能な導電性シート、その製造方法、カーボン複合ペースト、カーボン複合フィラー、導電性樹脂材料、および導電性ゴム材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題を解決するための手段を以下のように構成している。すなわち、本発明は、導電性材料としてのカーボンナノチューブおよびカーボンブラックが樹脂材料に分散された導電性シートであって、前記カーボンナノチューブを10〜30重量%、および前記カーボンブラックを90〜70重量%の比率で含むカーボン複合フィラーが、前記樹脂材料に均一に分散され、前記カーボン複合フィラーを10〜50重量%、および前記樹脂材料を90〜50重量%の比率で含み、表面抵抗値が1〜10Ω/sqであることを特徴としている。より具体的には、本発明の導電性シートは、厚みが1mm以下であることが好ましい。ここで、「均一に分散」とは、カーボンナノチューブのバンドル(束)のほとんど全て(90%以上)が解きほぐされた状態で、カーボンナノチューブが分散されていることを言う。
【0010】
この発明によれば、カーボンナノチューブおよびカーボンブラックが分散されたカーボン複合フィラーが、樹脂材料に均一に分散されているので、カーボンナノチューブの再凝集が抑制される。具体的には、樹脂材料に分散されたカーボンブラックの間にカーボンナノチューブが入り込むことで、カーボンナノチューブの再凝集が抑制される。そして、カーボンブラックの間に入り込んだカーボンナノチューブによって導電パスが形成される。これにより、導電性に優れた導電性シートを提供することができる。また、導電性材料としてカーボンブラックのみを用いた場合と比べて、カーボンブラックの濃度を同等あるいはそれ以下に抑えることができ、カーボンブラックの過剰添加に起因する導電性シートの強度低下を抑制することができる。
【0013】
本発明の導電性シートにおいて、前記カーボンナノチューブが、130〜170のアスペクト比を有する多層カーボンナノチューブであり、
前記カーボンブラックが、アセチレンブラックであり、
記樹脂材料が、シリコーン樹脂であることが好ましい。
【0014】
この発明によれば、カーボンナノチューブとして、130〜170のアスペクト比を有する多層カーボンナノチューブを用いているので、樹脂材料中でカーボンナノチューブによる導電パスを容易に形成することができ、導電性シートの導電性を向上させることができる。また、樹脂材料として、シリコーン樹脂を用いているので、耐候性や耐熱性に優れた導電性シートを提供することができる。なお、シリコーン樹脂の代わりに、樹脂材料として、油性ウレタン樹脂または水溶性ウレタン樹脂を用いてもよい。
【0015】
ここで、本発明の導電性シートは、KEC法における周波数100MHzでの電磁波シールド性が、35dB以上であることが好ましい。また、本発明の導電性シートは、同軸管法における周波数帯域が1〜3GHz(より好ましくは、1〜6GHz)での電磁波シールド性が、少なくとも20dBであることが好ましい。また、本発明の導電性シートは、デュロメータ硬さが、A40〜A75であることが好ましい。また、本発明の導電性シートは、白金化合物、酸化鉄、酸化チタン、酸化セリウム、酸化カルシウム、燐酸、水酸化セリウム、水酸化カルシウム、および酸化ケイ素のうち少なくとも1つが、難燃剤として添加されており、UL94においてV−1以上の難燃性を有することが好ましい。白金化合物としては公知のものを使用でき、具体的には、白金元素単体、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール化合物、アルデヒド化合物、エーテル化合物、各種オレフィン類とのコンプレックス等を利用できる。
【0016】
また、本発明は、導電性材料としてのカーボンナノチューブおよびカーボンブラックを樹脂材料に分散させた導電性シートの製造方法であって、
前記カーボンナノチューブを分散剤に分散させた分散液と、前記カーボンブラックを溶剤に分散させた分散液とを混合した混合液を作製する混合工程と、
前記混合液から前記分散剤を分離してカーボン複合ペーストを作製する分離工程と、
前記カーボン複合ペーストを乾燥してカーボン複合フィラーを作製する乾燥工程と、
前記カーボン複合フィラーと前記樹脂材料とを混練した後、加熱成型を行って導電性シートを作製する成型工程とを含むことを特徴としている。
【0017】
この発明によれば、予め作製したカーボンナノチューブの分散液とカーボンブラックの分散液とを混合して混合液を作製するので、カーボンナノチューブとカーボンブラックとが均一に分散された状態のカーボン複合ペースト、カーボン複合フィラー、導電性シートを作製することができる。これにより、樹脂材料に分散されたカーボンブラックの間にカーボンナノチューブが入り込むことで、カーボンナノチューブの再凝集を抑制することができる。そして、カーボンブラックの間に入り込んだカーボンナノチューブによって導電パスが形成される。したがって、この発明によれば、導電性に優れた導電性シートを提供することができる。
【0018】
本発明の導電性シートの製造方法において、前記混合工程では、前記カーボンナノチューブを10〜30重量%、および前記カーボンブラックを90〜70重量%の比率で含む混合液を作製することが好ましい。
【0019】
この発明によれば、導電性材料としてカーボンブラックのみを用いた場合と比べて、カーボンブラックの濃度を同等あるいはそれ以下に抑えることができ、カーボンブラックの過剰添加に起因する導電性シートの強度低下を抑制することができる。
【0020】
本発明の導電性シートの製造方法において、前記カーボンナノチューブが、130〜170のアスペクト比を有する多層カーボンナノチューブであり、
前記カーボンブラックが、アセチレンブラックであり、
前記分散剤が、水溶性キシラン水溶液であり、
前記溶剤が、アセトンであり、
前記樹脂材料が、シリコーン樹脂であることが好ましい。
【0021】
この発明によれば、カーボンナノチューブとして、130〜170のアスペクト比を有する多層カーボンナノチューブを用いているので、樹脂材料中でカーボンナノチューブによる導電パスを容易に形成することができ、導電性シートの導電性を向上させることができる。また、分散剤として、水溶性キシラン水溶液を用いているので、カーボンナノチューブの分散液を作製する際、カーボンナノチューブの自己凝集が効果的に抑制され、カーボンナノチューブを水溶性キシラン水溶液に均一に分散させることができる。また、樹脂材料として、シリコーン樹脂を用いているので、耐候性や耐熱性に優れた導電性シートを提供することができる。なお、シリコーン樹脂の代わりに、樹脂材料として、油性ウレタン樹脂または水溶性ウレタン樹脂を用いてもよい。
【0022】
本発明の導電性シートの製造方法において、前記分離工程では、ろ過によって前記水溶性キシラン水溶液および前記アセトンを前記混合液から分離することが好ましい。
【0023】
この発明によれば、導電性を阻害する可能性がある分散剤(水溶性キシラン水溶液)をろ過によって除去することで、導電性シートに分散剤が残存することを抑制することができ、導電性シートの導電性を向上させることができる。
【0024】
本発明の導電性シートの製造方法において、前記ろ過の際、水と、エタノールまたはイソプロピルアルコールとによって、前記ろ材をリンスすることが好ましい。
【0025】
この発明によれば、ろ過の際、ろ材をリンスすることで、分散剤(水溶性キシラン水溶液)および溶剤(アセトン等)の除去を効果的に行うことができる。これにより、導電性シートに分散剤が残存することを抑制することができ、導電性シートの導電性を向上させることができる。
【0026】
本発明の導電性シートの製造方法において、前記乾燥工程では、前記カーボン複合ペーストを常温で12時間以上放置した後、130℃以上の温度で3時間以上乾燥させることが好ましい。
【0027】
この発明によれば、130℃以上の温度で3時間以上の乾燥を行うことにより、カーボン複合ペーストから水分および溶剤(アセトン等)が除去され、成型工程で導電性シートを作製する際、樹脂材料の硬化阻害を抑制することができる。
【0028】
本発明の導電性シートの製造方法において、前記成型工程では、前記カーボン複合フィラーと前記樹脂材料との混練の際、硬化剤、耐熱剤、および難燃剤を添加することが好ましい。
【0029】
この発明によれば、導電性シートを作製する際、耐熱性、難燃性に優れた導電性シートを提供することができる。
【0030】
また、本発明は、導電性材料としてのカーボンナノチューブおよびカーボンブラックを含むカーボン複合ペーストの製造方法であって、前記カーボン複合ペーストは、水溶性キシラン水溶液に分散させた前記カーボンナノチューブ、およびアセトンに分散させた前記カーボンブラックを混合して、前記カーボンナノチューブを10〜30重量%、および前記カーボンブラックを90〜70重量%の比率で含む混合液を作製し、ろ過により前記混合液から前記水溶性キシラン水溶液および前記アセトンを分離することによって作製されることを特徴としている。
【0031】
この発明によれば、予め作製されたカーボンナノチューブの分散液とカーボンブラックの分散液とを混合して混合液が作製されるので、カーボンナノチューブとカーボンブラックとが均一に分散された状態のカーボン複合ペーストを容易に得ることができる。本発明のカーボン複合ペーストは、カーボンの飛散を抑制できるため、取り扱いが便利であり、実験材料等に好適に用いることができる。
【0032】
また、本発明のカーボン複合フィラーの製造方法は、本発明のカーボン複合ペーストの製造方法によって作製されたカーボン複合ペーストを乾燥させることにより得られるものである。カーボン複合フィラーは、例えば、カーボン複合ペーストを常温で12時間以上放置した後、130℃以上の温度で3時間以上乾燥させることによって作製することが可能である。
【0033】
この発明によれば、予め作製されたカーボンナノチューブの分散液とカーボンブラックの分散液とを混合して混合液が作製されるので、カーボンナノチューブとカーボンブラックとが均一に分散された状態のカーボン複合フィラーを容易に得ることができる。130℃以上の温度で3時間以上の乾燥を行うことにより、水分および溶剤(アセトン等)が除去され、導電性シート等の樹脂製品の際、樹脂材料の硬化阻害を抑制することができる。本発明のカーボン複合フィラーは、電池の電極材料、透明フィルム材料、導電性ゴム材料等に好適に用いることができる。
【0034】
また、本発明の導電性樹脂材料の製造方法は、本発明のカーボン複合ペーストの製造方法によって作製されたカーボン複合ペーストを乾燥させたカーボン複合フィラーを10〜50重量%、および樹脂材料を90〜50重量%の比率で含むことを特徴としている。また、本発明の導電性ゴム材料の製造方法は、本発明のカーボン複合ペーストの製造方法によって作製されたカーボン複合ペーストを乾燥させたカーボン複合フィラーを10〜50重量%、およびゴム材料を90〜50重量%の比率で含むことを特徴としている。
【0035】
これらの発明によれば、予め作製されたカーボンナノチューブの分散液とカーボンブラックの分散液とを混合して混合液が作製されるので、カーボンナノチューブとカーボンブラックとが均一に分散された状態の導電性樹脂材料や、導電性ゴム材料を容易に得ることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の導電性シートによれば、カーボンナノチューブおよびカーボンブラックが分散されたカーボン複合フィラーが、樹脂材料に均一に分散されているので、カーボンナノチューブの再凝集が抑制される。具体的には、樹脂材料に分散されたカーボンブラックの間にカーボンナノチューブが入り込むことで、カーボンナノチューブの再凝集が抑制される。そして、カーボンブラックの間に入り込んだカーボンナノチューブによって導電パスが形成される。これにより、導電性に優れた導電性シートを提供することができる。また、導電性材料としてカーボンブラックのみを用いた場合と比べて、カーボンブラックの濃度を同等あるいはそれ以下に抑えることができ、カーボンブラックの過剰添加に起因する導電性シートの強度低下を抑制することができる。
【0037】
本発明の導電性シートの製造方法によれば、予め作製したカーボンナノチューブの分散液とカーボンブラックの分散液とを混合して混合液を作製するので、カーボンナノチューブとカーボンブラックとが均一に分散された状態のカーボン複合ペースト、カーボン複合フィラー、導電性シートを作製することができる。これにより、樹脂材料に分散されたカーボンブラックの間にカーボンナノチューブが入り込むことで、カーボンナノチューブの再凝集を抑制することができる。そして、カーボンブラックの間に入り込んだカーボンナノチューブによって導電パスが形成される。したがって、本発明の導電性シートの製造方法によれば、導電性に優れた導電性シートを提供することができる。
【0038】
本発明のカーボン複合ペーストの製造方法、およびカーボン複合フィラーの製造方法によれば、予め作製されたカーボンナノチューブの分散液とカーボンブラックの分散液とを混合して混合液が作製されるので、カーボンナノチューブとカーボンブラックとが均一に分散された状態のカーボン複合ペースト、およびカーボン複合フィラーを容易に得ることができる。
【0039】
本発明の導電性樹脂材料の製造方法、および導電性ゴム材料の製造方法によれば、予め作製されたカーボンナノチューブの分散液とカーボンブラックの分散液とを混合して混合液が作製されるので、カーボンナノチューブとカーボンブラックとが均一に分散された状態の導電性樹脂材料、および導電性ゴム材料を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明に係る導電性シートの製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2】カーボン複合ペーストにおけるカーボンナノチューブおよびカーボンブラックの分散状態の一例を示すSEM像写真である。
図3】導電性シートの表面抵抗値の測定結果の一例を示す表である。
図4】導電性シートのKEC法による電磁波シールド性の測定結果の一例を示すグラフである。
図5】導電性シートの同軸管法による電磁波シールド性の測定結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
〔導電性シートの製造方法〕
まず、本発明に係る導電性シートの製造方法について説明する。
【0042】
図1は、本発明に係る導電性シートの製造方法の一例を示すフローチャートである。図1に例示される導電性シートの製造方法においては、まず、カーボンナノチューブを分散剤に分散させた分散液と、カーボンブラックを溶剤に分散させた分散液とを混合した混合液を作製する(混合工程)。次に、混合工程で得られた混合液から分散剤を分離してカーボン複合ペーストを作製する(分離工程)。次に、分離工程で得られたカーボン複合ペーストを乾燥してカーボン複合フィラーを作製する(乾燥工程)。次に、乾燥工程で得られたカーボン複合フィラーと、樹脂材料とを混練した後、加熱成型を行って導電性シートを作製する(成型工程)。
【0043】
以下、本発明に係る導電性シートの製造方法の各工程について詳しく説明する。
【0044】
−混合工程−
まず、本発明における混合工程について説明する。本発明における混合工程は、カーボンナノチューブを分散剤に分散させたカーボンナノチューブ分散液と、カーボンブラックを溶剤に分散させたカーボンブラック分散液とを混合した混合液を作製する工程である。より詳細には、本発明における混合工程は、カーボンナノチューブを10〜30重量%、およびカーボンブラックを90〜70重量%の比率で含むような混合液を作製する工程となっている。
【0045】
本発明におけるカーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブを分散剤に分散させたものである。本発明におけるカーボンナノチューブ分散液の調製方法としては、例えば、130〜170のアスペクト比を有するマルチウォールカーボンナノチューブ(多層カーボンナノチューブ)を、0.2%の濃度の水溶性キシラン水溶液に対し、0.2重量%の比率で分散させることによって、カーボンナノチューブ分散液を調製することが挙げられる。この場合、マルチウォールカーボンナノチューブを水溶性キシラン水溶液に投入した後、例えば、超音波ホモジナイザーを用いてマルチウォールカーボンナノチューブを水溶性キシラン水溶液に撹拌、分散させることが可能である。なお、マルチウォールカーボンナノチューブの分散処理を、超音波ホモジナイザー以外のものを用いて行ってもよい。
【0046】
本発明におけるカーボンナノチューブとして、130〜170のアスペクト比を有するマルチウォールカーボンナノチューブを用いることが好ましい。
【0047】
ここで、本発明におけるカーボンナノチューブとしては、特に限定されるものではなく、シングルウォールカーボンナノチューブ、および、ダブルウォールカーボンナノチューブ等のマルチウォールカーボンナノチューブのいずれも用いることが可能である。カーボンナノチューブは、例えば、アーク放電法、レーザー蒸発法、化学気相成長法、炭化水素触媒分解法等により得ることが可能である。カーボンナノチューブのアスペクト比が大きいと、バンドル状態の絡み合ったカーボンナノチューブを解きほぐすことが難しいため、分散性が悪くなる。本発明におけるカーボンナノチューブのアスペクト比としては、特に限定されるものではないが、例えば、100〜50000の範囲内であることが好ましい。
【0048】
カーボンナノチューブの量は、上述した混合液中での重量比(10〜30重量%)を満たすように設定される。
【0049】
本発明における分散剤としては、カーボンナノチューブ分散液中でのカーボンナノチューブの分散状態(均一に分散された状態)を維持することが可能なものであれば、特に限定されない。このような分散剤として、水溶性キシラン水溶液を用いることが好ましい。「均一に分散」とは、カーボンナノチューブのバンドル(束)のほとんど全て(90%以上)が解きほぐされた状態で、カーボンナノチューブが分散剤に分散されていることを言う。
【0050】
水溶性キシラン水溶液は、水溶性キシランを水(蒸留水等)に所定の濃度(例えば0.2%)で溶解させたものである。水溶性キシラン水溶液の濃度は、カーボンナノチューブ分散液に含まれるカーボンナノチューブの濃度(比率)等に応じて、適宜選択されることが好ましい。
【0051】
ここで、水溶性キシランとは、β−1,4結合によって連結された6以上のキシロース残基を含む分子であって、20℃の水に6mg/mL以上溶解する分子を言う(例えば特開2007−215542号公報の段落0113〜0124を参照)。この水溶性キシランは、純粋なキシロースポリマーではなく、キシロースポリマー中の少なくとも一部の水酸基が他の置換基(例えば、アセチル基、グルクロン酸残基、アラビノース残基等)に置き換わっている分子である。キシロース残基のみからなるキシランの水酸基が他の置換基に置き換わることにより、キシロース残基のみからなるキシランよりも水溶性が高くなることがある。キシロース残基のみからなるキシランの水酸基が他の置換基に置き換わっている分子は、キシロースポリマーに置換基が結合した分子、または修飾されたキシロースポリマーということもできる。なお、「修飾された」とは、基準分子と比較して修飾されている分子をいい、人為的操作によって製造された分子だけでなく、天然に存在する分子をも包含する。キシロースポリマーに4−O−メチルグルクロン酸残基およびアセチル基が結合したものは、グルクロノキシランと呼ばれる。キシロースポリマーにアラビノース残基および4−O−メチルグルクロン酸が結合したものは、アラビノグルクロノキシランと呼ばれる。
【0052】
本発明におけるカーボンブラック分散液は、カーボンブラックを溶剤に分散させたものである。本発明におけるカーボンブラック分散液の調製方法としては、例えば、アセチレンブラックを、その10倍量のアセトンに混合、分散することによって、カーボンブラック分散液を調製することが挙げられる。カーボンブラックの分散処理としては、特に限定されるものではないが、例えばミキサー等によって行うことが可能である。
【0053】
カーボンブラックは、例えば、ファーネス法、チャンネル法、アセチレン法、サーマル法等により得ることが可能である。本発明におけるカーボンブラックとして、アセチレンの熱分解(アセチレン法)によって製造されるアセチレンブラックを用いることが好ましい。カーボンブラックとして、ケッチェンブラックを用いることも可能である。また、カーボンブラックの代わりに、カーボンナノホーン、グラフェン等も用いてもよい。カーボンブラックは、粉体、プレス品、および粒状品のうちいずれを用いてもよいが、取り扱いの観点から、プレス品を用いることが好適である。カーボンブラックのプレス品は、カーボンブラックの粉体をプレスして成型したものであり、カーボンブラックのプレス品を用いることによって、作業中にカーボンブラックの飛散を抑制することができる。
【0054】
カーボンブラックとして、1次粒径が20〜50nm、比表面積が30〜140m/g、かさ密度が0.04〜0.25g/mL、電気抵抗率が0.1〜30Ω・cmのものを用いることが好ましい。特に、平均粒径が43〜50nm、比表面積が34〜44m/g、かさ密度が0.1〜0.2g/mL、電気抵抗率が0.1〜0.19Ω・cmのアセチレンブラックを用いることが好適である。
【0055】
カーボンブラックの量は、上述した混合液中での重量比(70〜90重量%)を満たすように設定される。
【0056】
本発明における溶剤としては、50%以上の濃度のアセトンを用いることが好ましい。なお、アセトンの代わりに、他の有機溶剤(例えば、メチルエチルケトン、トルエン等)を溶剤として用いることも可能である。
【0057】
そして、本発明における混合工程では、上述のようにして調製されたカーボンナノチューブ分散液、およびカーボンブラック分散液を混合、分散して混合液を作製する。混合工程で作製される混合液には、カーボンナノチューブが10〜30重量%、およびカーボンブラックが90〜70重量%の比率で含まれる。混合液中でのカーボンナノチューブおよびカーボンブラックの分散処理としては、特に限定されるものではないが、例えばミキサー等によって行うことが可能である。ただし、この場合、超音波ホモジナイザーあるいはボールミルを用いて分散処理を行うと、カーボンブラックのストラクチャーが破壊され、導電性が低下する。
【0058】
なお、混合工程において、カーボンブラック分散液を調製するのは、カーボンナノチューブ分散液にカーボンブラックをそのまま投入すると、カーボンナノチューブ分散液の液面にカーボンブラックが浮遊して分散させることが困難になるからである。このため、カーボンブラックをアセトン等の有機溶剤に分散させたカーボンブラック分散液を調製し、カーボンナノチューブ分散液と混合するようにしている。
【0059】
−分離工程−
次に、本発明における分離工程について説明する。本発明における分離工程は、混合工程で作製された混合液から分散剤を分離してカーボン複合ペーストを作製する工程である。成型後の樹脂製品(導電性シート)に分散剤が残存していると、分散剤によって樹脂製品の導電性が阻害される可能性がある。このため、分離工程において、混合工程で作製された混合液から分散剤を分離、除去するようにしている。
【0060】
本発明における分散剤の分離方法としては、例えば、ろ過や、遠心分離等が挙げられる。ろ過の場合、フィルタによって分散剤を混合液から分離し、フィルタに残留したろ材からカーボン複合ペーストを作製する。この際、分散剤とともに溶剤も混合液から分離される。分散剤として、水溶性キシラン水溶液を用いた場合、例えば0.8μmの孔径のフィルタによって、ろ過を実施する。ろ過を実施する際、水(蒸留水等)とエタノールとによって、ろ材をリンスすることが好ましい。つまり、フィルタによるろ過を実施する際に、水とエタノールとによって、ろ材を洗浄する。詳細には、水とエタノールとで交互にろ材をリンスし、最後にエタノールでろ材をリンスする。なお、エタノールの代わりに、イソプロピルアルコール等の他の洗浄剤を用いてもよい。
【0061】
ろ過に用いるフィルタとしては、PTFEフィルタを好適に用いることが可能である。また、フィルタとして、紙フィルタ、ガラス繊維フィルタ、セルロースアセテートフィルタ、セルロースアセテートコートフィルタ等を用いてもよい。フィルタの孔径は、分散剤の種類に応じて、適宜選択されることが好ましい。
【0062】
カーボン複合ペーストは、混合液から分散剤および溶剤が除去されたペースト状の組成物である。カーボン複合ペーストには、カーボンナノチューブおよびカーボンブラックが分散されている。分離工程で得られるカーボン複合ペーストにおけるカーボンナノチューブおよびカーボンブラックの分散状態は、例えば図2のSEM像写真のようになっている。図2の例では、カーボン複合ペーストにおいて、カーボンブラック(CB)は、例えば数個から数十個のものがつながってストラクチャーを形成し、点在している。そして、カーボンブラックの間に、細い糸状のカーボンナノチューブ(CNT)が多数入り込んでいる。
【0063】
−乾燥工程−
続いて、本発明における乾燥工程について説明する。本発明における乾燥工程は、分離工程で作製されたカーボン複合ペーストを乾燥してカーボン複合フィラーを作製する工程である。カーボン複合フィラーは、成型工程での樹脂材料の硬化阻害を防止するため、カーボン複合ペーストから水分、エタノールあるいはイソプロピルアルコール等の洗浄剤を除去したものである。分離工程で得られたカーボン複合ペーストには水分および洗浄剤が含まれているため、乾燥工程において、カーボン複合ペーストから水分および洗浄剤を除去するようにしている。
【0064】
本発明における水分の除去方法としては、例えば、乾燥による水分除去が挙げられる。具体的には、カーボン複合ペーストを常温(室温)で12時間以上放置した後、130℃以上の温度で3時間以上乾燥させる。なお、カーボン複合ペーストを常温で保存(保管)等している場合で、その保存時間が12時間を経過している場合には、乾燥工程において、常温での放置を省略してもよい。あるいは、真空乾燥、凍結乾燥を利用してもよく、常温乾燥や恒温槽の乾燥に加えて、真空管層や凍結乾燥を併せて行ってもよい。
【0065】
ここで、乾燥工程の後、カーボン複合フィラーの粉砕処理を、例えばカッターミルやカウンタージェットミル等によって、カーボンブラックのストラクチャーを破壊しない程度の時間(例えば10秒以内)、行ってもよい。乾燥状態でのカーボン複合フィラーは指先でほぐれる程度の固さであり、カッター等の回転で生じる気流やカーボン同士の衝突を利用して粉砕処理を行ってもよい。金属、セラミックス、ガラス等と、カーボンブラックとの衝突を極力避け、短時間で処理することが望ましい。また、粉砕処理後のカーボン複合フィラーの分級処理を、例えばふるい等によって行ってもよい。このような粉砕処理や、分級処理は、成型工程におけるカーボン複合フィラーの樹脂材料への分散性をよくするために行うものである。
【0066】
−成型工程−
次に、本発明における成型工程について説明する。本発明における成型工程は、乾燥工程で得られたカーボン複合フィラーと、樹脂材料とを混練した後、加熱成型を行って導電性シートを作製する工程である。より詳細には、本発明における成型工程は、カーボン複合フィラーを10〜50重量%、および樹脂材料を90〜50重量%の比率で配合し、厚みが1mm以下の導電性シートを成型する工程となっている。なお、導電性シートの厚みは、導電性シートが下記の表面抵抗値の特性を有していれば特に限定されないが、0.1〜10mm(より好ましくは、0.1〜1mm)であることが好ましく、導電性シートの電磁波シールド性の観点から、0.5〜2mm(より好ましくは、0.5〜1mm)であることが好ましい。
【0067】
本発明における樹脂材料として、導電性シートの難燃性、耐熱性、および耐候性の観点からシリコーン樹脂を用いることが好適である。シリコーン樹脂としては、ミラブル型シリコーン樹脂を用いることが好ましいが、液状シリコーン樹脂を用いてもよい。なお、本発明における樹脂材料としては、特に限定されるものではなく、さまざまな樹脂を用いることが可能である。例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のオレフィン系樹脂や、油性ウレタン樹脂、水溶性ウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等を用いることが可能である。なお、樹脂材料の代わりに、天然ゴムあるいは合成ゴムを用いることも可能である。
【0068】
カーボン複合フィラーと樹脂材料との混練は、例えば、ミキサー、ロール、ニーダーによって行うことが可能である。この混練の際、硬化剤、耐熱剤、および難燃剤を添加することが好ましい。硬化剤としては、例えば、有機過酸化物加硫剤や付加型架橋剤等を用いることが可能である。耐熱剤、難燃剤としては、白金化合物、酸化鉄、酸化チタン、酸化セリウム、酸化カルシウム、燐酸、水酸化セリウム、水酸化カルシウム、酸化ケイ素等を用いることが可能である。白金化合物としては公知のものを使用でき、具体的には、白金元素単体、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール化合物、アルデヒド化合物、エーテル化合物、各種オレフィン類とのコンプレックス等を利用できる。
【0069】
本発明における導電性シートの成型方法としては、例えば、金型を用いた加熱プレス成型、押出し成型、射出成型等が挙げられる。
【0070】
−特性−
以上のような製造方法によって製造される導電性シートの特性について説明する。
【0071】
カーボン複合フィラーを25重量%、およびシリコーン樹脂を75重量%の比率で配合し、厚みが1mmの導電性シートを、多層カーボンナノチューブ(CNT)およびアセチレンブラック(CB)の比率(重量比)を変えて複数製造し、表面抵抗値(Ω/sq)を、抵抗率計(三菱化学アナリテック社製、ロレスタEP MCP−T360)を用いて測定したところ、図3に示すような測定結果が得られた。図3では、カーボンナノチューブを0〜50重量%の間で変化させ、およびカーボンブラックを100〜50重量%の間で変化させている。図3によれば、カーボンナノチューブを10〜30重量%、およびカーボンブラックを90〜70重量%の比率で含む導電性シートの場合、表面抵抗値が2.1〜10Ω/sqの間で変化することが分かる。
【0072】
また、カーボン複合フィラーを25重量%、およびシリコーン樹脂を75重量%の比率で配合し、厚みが1mmの導電性シートを、多層カーボンナノチューブ(CNT)およびアセチレンブラック(CB)の比率(重量比)を変えて複数製造し、KEC(一般社団法人KEC関西電子工業振興センター;京都府相楽郡精華町光台3丁目2−2)で開発されたKEC法による電磁波シールド性を、スペクトラムアナライザー(HEWLETT PACKARD社製、8591EM)、シグナルジェネレーター(ROHDE&SCHWARZ社製、SMY01)、アンプ(TSJ社製、MLA−1K01−B01−27)を用いて、周波数が10〜1000MHzの帯域で測定したところ、図4に示すような測定結果が得られた。図4では、実線は、カーボンナノチューブを25重量%、およびカーボンブラックを75重量%の比率で含む導電性シート(CNT25%製品)の測定結果を示す。破線は、カーボンナノチューブを10重量%、およびカーボンブラックを90重量%の比率で含む導電性シート(CNT10%製品)の測定結果を示す。一点鎖線は、カーボンナノチューブを0重量%、およびカーボンブラックを100重量%の比率で含む導電性シート(従来製品)の測定結果を示す。
【0073】
図4によれば、CNT25%製品の場合、周波数が100MHzでの電磁波シールド性が、45dB以上であることが分かる。また、CNT25%製品の場合、周波数が10〜1000MHzの帯域での電磁波シールド性が、少なくとも30dbであり、従来製品に比べて15dB程度向上していることが分かる。
【0074】
また、図4によれば、CNT10%製品の場合、周波数が100MHzでの電磁波シールド性が、35dB以上であることが分かる。また、CNT10%製品の場合、周波数が100〜1000MHzの帯域での電磁波シールド性が、少なくとも20dbであり、従来製品に比べて6dB程度向上していることが分かる。なお、導電性シートにおけるカーボンナノチューブの比率(重量比)が大きいほど、電磁波シールド性が従来製品に対して向上する。
【0075】
また、カーボン複合フィラーを25重量%、およびシリコーン樹脂を75重量%の比率で配合し、厚みが1mmの導電性シートを、多層カーボンナノチューブ(CNT)およびアセチレンブラック(CB)の比率(重量比)を変えて複数製造し、同軸管法による電磁波シールド性を周波数が1〜6GHzの帯域で測定したところ、図5に示すような測定結果が得られた。なお、同軸管法による電磁波シールド性の測定は、上記KECによって開発された改良同軸管法を用い、KEC内において行った。図5では、実線は、カーボンナノチューブを25重量%、およびカーボンブラックを75重量%の比率で含む導電性シート(CNT25%製品)の測定結果を示す。一点鎖線は、カーボンナノチューブを0重量%、およびカーボンブラックを100重量%の比率で含む導電性シート(従来製品)の測定結果を示す。
【0076】
図5によれば、CNT25%製品の場合、周波数帯域が1〜6GHzでの電磁波シールド性が、少なくとも20dBであることが分かる。また、CNT25%製品の場合、周波数が1〜6GHzの帯域での電磁波シールド性が、従来製品に比べて10dB程度向上していることが分かる。なお、導電性シートにおけるカーボンナノチューブの比率(重量比)が大きくなるほど、電磁波シールド性が従来製品に対して向上していく。逆に、導電性シートにおける多層カーボンナノチューブの比率(重量比)が小さくなるほど、電磁波シールド性が従来製品に近づいていくが、CNT10%製品の場合であっても、少なくとも20dBの電磁波シールド性が確保される。
【0077】
−効果−
本発明に係る導電性シートの製造方法によれば、次のような効果を奏する。
【0078】
すなわち、予め作製したカーボンナノチューブの分散液とカーボンブラックの分散液とを混合して混合液を作製するので、カーボンナノチューブとカーボンブラックとが均一に分散された状態のカーボン複合ペースト、カーボン複合フィラー、導電性シートを作製することができる。これにより、樹脂材料に分散されたカーボンブラックの間にカーボンナノチューブが入り込むことで、カーボンナノチューブの再凝集を抑制することができる。そして、カーボンブラックの間に入り込んだカーボンナノチューブによって導電パスが形成される。したがって、本発明に係る導電性シートの製造方法によれば、導電性に優れた導電性シートを提供することができる。
【0079】
また、混合工程において、カーボンナノチューブを10〜30重量%、およびカーボンブラックを90〜70重量%の比率で含む混合液を作製することで、導電性材料としてカーボンブラックのみを用いた場合と比べて、カーボンブラックの濃度を同等あるいはそれ以下に抑えることができ、カーボンブラックの過剰添加に起因する導電性シートの強度低下を抑制することができる。
【0080】
さらに、カーボンナノチューブとして、130〜170のアスペクト比を有する多層カーボンナノチューブを用いることによって、樹脂材料中でカーボンナノチューブによる導電パスを容易に形成することができ、導電性シートの導電性を向上させることができる。また、分散剤として、水溶性キシラン水溶液を用いることによって、カーボンナノチューブの分散液を作製する際、カーボンナノチューブの自己凝集が効果的に抑制され、カーボンナノチューブを水溶性キシラン水溶液に均一に分散させることができる。また、樹脂材料として、シリコーン樹脂を用いることによって、耐候性や耐熱性に優れた導電性シートを提供することができる。
【0081】
また、分離工程において、ろ過によって水溶性キシラン水溶液を混合液から分離することによって、導電性を阻害する可能性がある分散剤(水溶性キシラン水溶液)が導電性シートに残存することを抑制することができ、導電性シートの導電性を向上させることができる。さらに、ろ過の際、水と、エタノールまたはイソプロピルアルコールとでろ材をリンスすることによって、分散剤(水溶性キシラン水溶液)および溶剤(アセトン等)の除去を効果的に行うことができる。これにより、導電性シートに分散剤や溶剤が残存することを抑制することができ、導電性シートの導電性を向上させることができる。さらに、溶剤を除去することによって、乾燥工程で人体に有害性の高い薬品の揮発を防止することができる。
【0082】
また、乾燥工程において、130℃以上の温度で3時間以上の乾燥を行うことにより、カーボン複合ペーストから水分および溶剤(アセトン等)が除去され、成型工程で導電性シートを作製する際、樹脂材料の硬化阻害を抑制することができる。
【0083】
さらに、成型工程において、カーボン複合フィラーと樹脂材料との混練の際、硬化剤、耐熱剤、および難燃剤を添加することによって、導電性シートを作製する際、耐熱性、難燃性に優れた導電性シートを提供することができる。
【0084】
ここで、上述した分離工程、乾燥工程以外の水分除去方法としては、フリーズドライが考えられる。しかし、フリーズドライを行った場合、カーボン複合フィラーに分散剤が残存することが懸念される。この場合、上述したように分散剤によって樹脂製品の導電性が阻害される可能性がある。また、分散剤の接着作用により、カーボン複合フィラーがシート状に接着し、樹脂材料中での分散が困難となる。また、300℃以上の高温処理を行うことで、分散剤を焼いてカーボン化する手法も考えられる。しかし、この手法では、高温処理後のカーボン複合フィラーが固い塊状となるので、樹脂材料に分散する際、乳鉢やボールミル等で、固い物質によって、かつ強い力を加えて破砕しなければならない。高温処理後のカーボン複合フィラーを破砕する際、カーボンブラックのストラクチャーが破壊されるため、これに伴って導電性シートの導電性が悪化する。
【0085】
ここで、カーボンブラックのストラクチャーの破壊に伴う導電性シートの導電性の悪化を確認するため、次のような実験を行った。すなわち、カーボンナノチューブを10重量%、およびカーボンブラックを90重量%の比率で含むカーボン複合フィラーを、乳鉢で30分程度破砕し、フィラー濃度25%(カーボン複合フィラーを25重量%、およびシリコーン樹脂を75重量%の比率で配合)で厚みが1mmに成型した導電性シートの表面抵抗値を測定した。このような実験(導電性シートの成型および表面抵抗値の測定)を数回行った結果、導電性シートの表面抵抗値は、900〜3100Ω/sqの範囲の値となり、導電性シートの導電性が悪化することが分かった。
【0086】
これに対し、本発明では、上述した分離工程、乾燥工程で、水分だけでなく、分散剤や、溶剤も効果的に除去することができる。また、乾燥工程では、カーボンブラックのストラクチャーをできるだけ破壊せず、保持することができ、乾燥状態のカーボン複合フィラーにおいて、カーボンナノチューブおよびカーボンブラックの分散状態を維持することができる。これにより、カーボンブラックのストラクチャーの破壊に伴う導電性シートの導電性の悪化を防止することができる。
【0087】
〔導電性シート〕
次に、本発明に係る導電性シートについて説明する。
【0088】
本発明に係る導電性シートは、導電性材料としてのカーボンナノチューブおよびカーボンブラックが樹脂材料に分散された導電性シートであって、カーボンナノチューブを10〜30重量%、およびカーボンブラックを90〜70重量%の比率で含むカーボン複合フィラーが、樹脂材料に均一に分散され、カーボン複合フィラーを10〜50重量%、および樹脂材料を90〜50重量%の比率で含み、表面抵抗値が1〜10Ω/sqであることを特徴とするものである。より具体的には、本発明に係る導電性シートは、厚みが1mm以下で、表面抵抗値が1〜10Ω/sqであることが好ましい。なお、導電性シートの厚みは、導電性シートの表面抵抗値が上記の範囲内(1〜10Ω/sq)であれば特に限定されないが、0.1〜10mm(より好ましくは、0.5〜2mm)であることが好ましい。
【0089】
本発明に係る導電性シートは、上述したような導電性シートの製造方法を実施することによって製造される。カーボンナノチューブ、カーボンブラック、および樹脂材料については、上述した導電性シートの製造方法の説明で述べた場合と同様である。
【0090】
本発明に係る導電性シートの特性として、例えば、次のような特性を挙げることができる。
【0091】
(1)KEC法における周波数100MHzでの電磁波シールド性が、35dB以上である。(2)同軸管法における周波数帯域が1〜3GHz(より好ましくは、1〜6GHz)での電磁波シールド性が、少なくとも20dBである。(3)デュロメータ硬さが、A40〜A75である。(4)難燃性が、UL94においてV−1以上である。(5)引っ張り強度が、6.5〜20MPaである。(6)伸長率が、120〜300%である。(7)引き裂き強度が、10〜40N/mmである。
【0092】
なお、以上では、カーボンナノチューブおよびカーボンブラックが樹脂材料に含まれる場合について説明したが、樹脂材料に含まれる導電性材料として、カーボン繊維や、グラフェン等を追加してもよい。
【0093】
−効果−
本発明に係る導電性シートによれば、次のような効果を奏する。
【0094】
すなわち、カーボンナノチューブおよびカーボンブラックが分散されたカーボン複合フィラーが、樹脂材料に均一に分散されているので、カーボンナノチューブの再凝集が抑制される。具体的には、樹脂材料に分散されたカーボンブラックの間にカーボンナノチューブが入り込むことで、カーボンナノチューブの再凝集が抑制される。そして、カーボンブラックの間に入り込んだカーボンナノチューブによって導電パスが形成される。これにより、厚みが1mm以下で、表面抵抗値が1〜10Ω/sqとされる、導電性に優れた導電性シートを提供することができる。また、導電性材料としてカーボンブラックのみを用いた場合と比べて、カーボンブラックの濃度を同等あるいはそれ以下に抑えることができ、カーボンブラックの過剰添加に起因する導電性シートの強度低下を抑制することができる。
【0095】
さらに、カーボン複合フィラーとして、カーボンナノチューブを分散剤に分散させた分散液と、カーボンブラックを溶剤に分散させた分散液とを混合した混合液を作製し、混合液から分散剤を分離することによって得られたカーボン複合ペーストを乾燥させることによって作製されたものを用いることで、乾燥状態のカーボン複合フィラーでは、水分および溶剤が除去されているので、導電性シートを作製する際、樹脂材料の硬化が樹脂材料中に水分や溶剤等が入り込むことにより阻害されることを抑制できる。
【0096】
さらに、カーボンナノチューブとして、130〜170のアスペクト比を有する多層カーボンナノチューブを用いることによって、樹脂材料中でカーボンナノチューブによる導電パスを容易に形成することができ、導電性シートの導電性を向上させることができる。また、分散剤として、水溶性キシラン水溶液を用いることによって、カーボンナノチューブの分散液を作製する際、カーボンナノチューブの自己凝集が効果的に抑制され、カーボンナノチューブを水溶性キシラン水溶液に均一に分散させることができる。また、樹脂材料として、シリコーン樹脂を用いることによって、耐候性や耐熱性に優れた導電性シートを提供することができる。
【0097】
また、KEC法における周波数100MHzでの電磁波シールド性が、35dB以上であり、電磁波シールド性に優れた導電性シートを提供することができる。例えば図4に示す例では、従来製品と比べて、周波数100MHzでの電磁波シールド性が6〜15dB程度向上している。また、同軸管法における周波数帯域が1〜3GHz(より好ましくは、1〜6GHz)での電磁波シールド性が、少なくとも20dBであり、電磁波シールド性に優れた導電性シートを提供することができる。例えば図5に示す例では、CNT25%製品の場合、周波数が1〜6GHzの帯域での電磁波シールド性が、従来製品に比べて10dB程度向上している。また、デュロメータ硬さが、A40〜A75であり、柔軟で容易に変形可能で、引っ張り強度および引き裂き強度に優れた導電性シートを提供することができる。難燃性が、UL94においてV−1以上であり、難燃性に優れた導電性シートを提供することができる。
【0098】
〔カーボン複合ペースト〕
続いて、本発明に係るカーボン複合ペーストについて説明する。
【0099】
本発明に係るカーボン複合ペーストは、導電性材料としてのカーボンナノチューブおよびカーボンブラックを含むカーボン複合ペーストであって、水溶性キシラン水溶液に分散させたカーボンナノチューブ、およびアセトンに分散させたカーボンブラックを混合して、カーボンナノチューブを10〜30重量%、およびカーボンブラックを90〜70重量%の比率で含む混合液を作製し、ろ過により混合液から水溶性キシラン水溶液およびアセトンを分離することによって作製されることを特徴とするものである。
【0100】
本発明に係るカーボン複合ペーストは、上述した導電性シートの製造方法の混合工程および分離工程を実施することによって製造される。カーボンナノチューブ、およびカーボンブラックについては、上述した導電性シートの製造方法の説明で述べた場合と同様である。
【0101】
カーボン複合ペーストは、上記分離工程で作製された後、そのまま使用することが可能である。また、上記分離工程で作製されたカーボン複合ペーストを常温(室温)で放置しておき、水分の一部を除去した後、使用することも可能である。
【0102】
−効果−
本発明に係るカーボン複合ペーストによれば、次のような効果を奏する。
【0103】
すなわち、予め作製されたカーボンナノチューブの分散液とカーボンブラックの分散液とを混合して混合液が作製されるので、カーボンナノチューブとカーボンブラックとが均一に分散された状態のカーボン複合ペーストを容易に得ることができる。本発明のカーボン複合ペーストは、カーボンの飛散を抑制できるため、取り扱いが便利であり、さまざまな用途に使用できる。例えば、実験材料等に好適に使用できる。また、本発明のカーボン複合ペーストに上述した導電性シートの製造方法の乾燥工程を実施することによって、カーボン複合フィラーを作製することができる。
【0104】
〔カーボン複合フィラー〕
次に、本発明に係るカーボン複合フィラーについて説明する。
【0105】
本発明に係るカーボン複合フィラーは、上述した本発明に係るカーボン複合ペーストを、乾燥することにより得られるものである。例えば、カーボン複合ペーストを常温で12時間以上放置した後、130℃以上の温度で3時間以上乾燥させることによって、カーボン複合フィラーを作製することができる。
【0106】
本発明に係るカーボン複合フィラーは、上述した導電性シートの製造方法の混合工程、分離工程、および乾燥工程を実施することによって製造される。カーボンナノチューブ、およびカーボンブラックについては、上述した導電性シートの製造方法の説明で述べた場合と同様である。
【0107】
−効果−
本発明に係るカーボン複合フィラーによれば、次のような効果を奏する。
【0108】
すなわち、予め作製されたカーボンナノチューブの分散液とカーボンブラックの分散液とを混合して混合液が作製されるので、カーボンナノチューブとカーボンブラックとが均一に分散された状態のカーボン複合フィラーを容易に得ることができる。130℃以上の温度で3時間以上の乾燥を行うことにより、水分および溶剤(アセトン等)が除去され、導電性シート等の樹脂製品の際、樹脂材料の硬化阻害を抑制することができる。本発明のカーボン複合フィラーは、取り扱いが便利であり、さまざまな用途に使用できる。例えば、電池の電極材料、透明フィルム材料、導電性ゴム材料等に好適に使用できる。また、本発明のカーボン複合フィラーに上述した導電性シートの製造方法の成型工程を実施することによって、導電性シートを作製することができる。本発明のカーボン複合フィラーから作製された導電性シートは、静電気除去シートや接点材料等として利用することができる。また、本発明のカーボン複合フィラーを樹脂材料に添加することによって、防水性および電磁波シールド性を両立させたパッキン類や、エンジンルーム内等の耐熱性および電磁波シールド性を両立させたパッキン類等を作製することができる。本発明のカーボン複合フィラーを合成ゴム中に添加することによって、導電性が付与されたタイヤ等を作製することができる。
【0109】
〔導電性樹脂材料および導電性ゴム材料〕
次に、本発明に係る導電性樹脂材料および導電性ゴム材料について説明する。
【0110】
本発明に係る導電性樹脂材料は、上述した本発明に係るカーボン複合ペーストを乾燥させたカーボン複合フィラーを10〜50重量%、および樹脂材料を90〜50重量%の比率で含むものである。上述したように、樹脂材料としては、難燃性、耐熱性、および耐候性の観点からシリコーン樹脂を用いることが好適である。シリコーン樹脂としては、ミラブル型シリコーン樹脂を用いることが好ましいが、液状シリコーン樹脂を用いてもよい。なお、シリコーン樹脂に限定されるものではなく、樹脂材料として、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のオレフィン系樹脂や、油性ウレタン樹脂、水溶性ウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等を用いてもよい。
【0111】
本発明に係る導電性樹脂材料は、上述した導電性シートの製造方法の混合工程、および分離工程を実施し、分離工程で作製されたカーボン複合ペーストを乾燥させたカーボン複合フィラーを、樹脂材料に混練することによって製造される。混練の際、上述したような硬化剤、耐熱剤、および難燃剤を添加してもよい。カーボン複合ペーストの乾燥は、上述したように、カーボン複合ペーストを常温(室温)で12時間以上放置した後、130℃以上の温度で3時間以上乾燥させてもよいし、それ以外の方法で乾燥させてもよい。なお、本発明に係る導電性樹脂材料に、上述したような成型方法(例えば、金型を用いた加熱プレス成型、押出し成型、射出成型等)を行うことによって、上述した本発明に係る導電性シートを得ることができる。
【0112】
本発明に係る導電性ゴム材料は、上述した本発明に係るカーボン複合ペーストを乾燥させたカーボン複合フィラーを10〜50重量%、およびゴム材料を90〜50重量%の比率で含むものである。ゴム材料としては、天然ゴムあるいは合成ゴムを用いることが可能である。
【0113】
本発明に係る導電性ゴム材料は、上述した導電性シートの製造方法の混合工程、および分離工程を実施し、分離工程で作製されたカーボン複合ペーストを乾燥させたカーボン複合フィラーを、ゴム材料に混練することによって製造される。混練の際、上述したような硬化剤、耐熱剤、および難燃剤を添加してもよい。カーボン複合ペーストの乾燥は、上述したように、カーボン複合ペーストを常温(室温)で12時間以上放置した後、130℃以上の温度で3時間以上乾燥させてもよいし、それ以外の方法で乾燥させてもよい。
【0114】
−効果−
本発明に係る導電性樹脂材料、および導電性ゴム材料によれば、予め作製されたカーボンナノチューブの分散液とカーボンブラックの分散液とを混合して混合液が作製されるので、カーボンナノチューブとカーボンブラックとが均一に分散された状態の導電性樹脂材料、および導電性ゴム材料を容易に得ることができる。本発明に係る導電性樹脂材料は、上述した導電性シートやパッキン類以外にも、例えばシールド用樹脂筐体、静電防止ボックス、導電性樹脂筐体、帯電防止繊維、導電性粘着材、シールドホース、導電性配線グランド材、シールド配線ダクト、導電性キャリアテープ等のさまざまな用途に使用できる。また、本発明に係る導電性ゴム材料は、上述したタイヤ以外にも、例えば電気接点、導電性ロール、搬送ベルト、床材、マット、履物、手袋、エプロン、ヒータ等のさまざまな用途に使用できる。
【0115】
また、この出願は、2013年11月1日に日本で出願された特願2013−228041号に基づく優先権を請求する。これに言及することにより、その全ての内容は本出願に組み込まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、導電性シート、その製造方法、カーボン複合ペースト、カーボン複合フィラー、導電性樹脂材料、および導電性ゴム材料に利用可能であり、カーボンナノチューブの再凝集を抑制して導電性を向上させる技術に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5